【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、多重反射型飛行時間質量分光計(MR TOF MS)を提供し、該質量分光計は、
互いに間隔を置いて第1の次元(X次元)に配置され、それぞれ第1の次元と直交する第2の次元(Z次元)に伸長している2つのイオンミラー、および
第1と第2の次元に対し一定の角度で配置される軌道に沿って移動し、イオンが第2の次元(Z次元)の空間を通ってドリフトする間、第1の次元(X次元)でイオンがミラー間で繰り返して往復するようにミラーの間の前記空間にイオンパケットを導入するためのイオン導入機構、を含み、
イオンが第2の次元(Z次元)で前記空間を通ってドリフトする間、イオンが第1と第2の両次元と直交する第3の次元(Y次元)でも往復するようにミラーおよびイオン導入機構が配置および構成され、
分光計は、イオンが第1の次元(X次元)で複数回往復した後で、イオンを受け取るように配置されたイオン受容機構を含み、
少なくとも一部のイオン導入機構および/または少なくとも一部のイオン受容機構がミラーの間に配置される。
【0018】
本発明は、第3の次元(Y次元)でイオンを往復させるので、イオンは、イオンミラー間の第1の次元(X次元)で反射される場合、イオン導入機構および/またはイオン受容機構をバイパスすることができる。したがって、イオンが、イオン導入機構および/またはイオン受容機構に衝突することなく、イオンミラーの1つによるそれぞれの反射中に第2の次元(Z次元)を移動する距離は、前記少なくとも一部のイオン導入機構の長さおよび/または前記少なくとも一部のイオン受容機構の長さ(第2の次元で測定される長さ)より小さくすることができる。したがって、第2の次元(Z次元)の一定の長さを有する分析計に対し、イオンは第1の次元(X次元)で比較的大きな数の往復を行うことができ、したがって、比較的長いイオン飛行時間経路長および分析計の高解像度を得ることができる。
【0019】
また、イオンがイオンミラー間で第1の次元(X次元)の前後に反射されるので、イオンがイオン導入機構に衝突することなく、イオン導入機構は第2の次元(Z次元)で比較的長い長さを有することができる。これにより、この装置が向上したデューティサイクルおよび低減した空間電荷効果を有することが可能となる。
【0020】
比較的長いイオン導入機構の使用により、第2の次元(Z次元)に比較的長い長さを有するイオンパケットの導入が可能となる。したがって、第2の次元(Z次元)でのイオンパケットの拡散または発散は、イオンパケットの長さに比べて比較的小さい。したがって、分光計は、イオン導入機構からイオン受容機構までのイオン飛行経路中にイオン光学レンズ(例えば、イオンを第2の次元に集束させるレンズ)を設けなくてもよい。これにより、このようなレンズにより導入されるはずの収差が回避される。
【0021】
本発明はまた、イオンがイオンミラー間で第1の次元(X次元)の前後に反射されるので、イオンがイオン受容機構に衝突することなく、イオンイオン受容機構が第2の次元(Z次元)で比較的長い長さを有することを可能とする。これは、例えば、イオン受容機構が検出器である場合に有用であり得る。理由は、これにより検出器の寿命およびダイナミックレンジを向上させることが可能となるためである。
【0022】
イオンミラーは質量分析法の技術分野において良く知られた装置であるため、本明細書では詳細に説明しないことにする。しかし、本明細書で記載の実施形態では、イオンを反射するための電界を生成するように、電圧がイオンミラーの電極に印加されることは理解されよう。イオンは、電界の方向にほぼ平行な軌道に沿ってイオンミラー内に入り得、電界により減速されて、方向転換され、その後、イオンミラーの中から外へ電界にほぼ平行な方向に電界により加速される。
【0023】
特許文献11(Bruker)および特許文献12(Joel)はそれぞれ、飛行領域により分離されている2つの対向する電界セクターを含む装置を開示している。イオンは、対向する電界セクターにより、装置を通って8の字型のパターンで誘導される。しかし、これらの装置は、反射を行う2つのイオンミラーを有さないため、本発明のイオンミラー系より汎用性が少ない。当業者なら、電界セクターはイオンミラーではないことを理解するであろう。当業者は、BrukerまたはJoelの教示に基づいて、本出願で主張されるような上記のミラー系MR−TOF−MS装置に関連する問題を克服するように動機づけされないであろう。理由は、BrukerおよびJoelの特許は、ミラーによるMR−TOF−MS装置に関連しないためである。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、イオン導入機構は、制御装置、少なくとも1種の電圧源(すなわち、少なくとも1つのDCおよび/またはRF電圧源)、電子回路網および電極を含む。制御装置は、回路網を介して電極に電圧を印加する電圧源を制御し、第1と第2の次元に対し一定の角度の前記軌道に沿ってイオンをイオンミラーの1つにパルス出力するように配置および構成されたプロセッサーを含み得る。プロセッサーはまた、回路網を介して電極に電圧を印加する電圧源を制御し、第3の次元(Y次元)でイオンが往復するように、1つのイオンミラー中に、およびそのミラー軸に対して一定の角度または位置で、イオンをパルス出力するように配置および構成され得る。あるいは、または追加して、分光計はまた、制御装置、少なくとも1つの電圧源(すなわち、少なくとも1つのDCおよび/またはRF電圧源)、第3の次元(Y次元)でイオンを往復させるように電子回路網およびミラー電極に印加される電圧を回路網を介して制御するための電極を含む。
【0025】
イオンは、第3の次元(Y次元)で軸のまわりおよび最大振幅の位置間で往復し得、前記少なくとも一部のイオン導入機構および/または前記少なくとも一部のイオン受容機構は、最大振幅の位置間の空間の一部のみのまわりで伸長するように配置され得る。これにより、イオン導入機構および/またはイオン受容機構が存在しない空間を通ってイオンが移動し、それにより、少なくとも一部の第1の次元(X次元)中での往復中に、これら両構成要素の1つをバイパスするのが可能となる。
【0026】
前記少なくとも一部のイオン導入機構の位置および次元が本明細書で言及される場合、これらは、最大振幅の位置間に配置されたイオン導入機構の一部の位置および次元を指し得る。同様に、前記少なくとも一部のイオン受容機構の位置および次元が本明細書で言及される場合、これらは、最大振幅の位置間に配置されたイオン受容機構の一部の位置および次元を指し得る。
【0027】
イオンミラーおよびイオン導入機構は、第1の次元(X次元)のミラー間でのイオンのそれぞれの反射中にイオンを第2の次元(Z次元)に距離Z
R移動させるように構成され得る。この場合、距離Z
Rは、前記少なくとも一部のイオン導入機構の第2の次元(Z次元)の長さおよび/または前記少なくとも一部のイオン受容機構の第2の次元(Z次元)の長さより小さい。前記少なくとも一部のイオン導入機構の第2の次元(Z次元)の長さは、ミラー間に配置されたイオン導入機構の一部の長さ、または最大振幅の前記位置間に配置されたイオン導入機構の一部の長さであってよい。同様に、前記少なくとも一部のイオン受容機構の第2の次元(Z次元)の長さは、ミラー間に配置されたイオン受容機構の一部の長さ、または最大振幅の前記位置間に配置されたイオン受容機構の一部の長さであってよい。
【0028】
必要に応じて、前記少なくとも一部のイオン導入機構の第2の次元(Z次元)の長さおよび/または前記少なくとも一部のイオン受容機構の第2の次元(Z次元)の長さは、距離Z
Rの距離の4倍までである。
【0029】
イオンミラーおよびイオン導入機構は、イオンが第1と第2の次元(XおよびZ次元)で前記少なくとも一部のイオン導入機構と同じ位置を有する場合、イオンが第3の次元(Y次元)で異なる位置を有するように、イオンを第1の次元(X次元)および第3の次元(Y次元)で、種々速度で往復させるように構成し得、それにより、イオンが第1の次元(X次元)で往復する間、イオンの軌道が前記イオン導入機構を少なくとも1回バイパスする。
【0030】
あるいは、または追加して、イオンミラーおよびイオン導入機構は、イオンが第1と第2の次元(XおよびZ方向)で前記少なくとも一部のイオン受容機構と同じ位置を有する場合、イオンが第3の次元(Y次元)で異なる位置を有するように、イオンを第1の次元(X次元)および第3の次元(Y次元)で、種々速度で往復させるように構成し得、それにより、イオンが第1の次元(X次元)で往復する間、イオンの軌道が前記イオン受容機構を少なくとも1回バイパスする。
【0031】
ミラーおよびイオン導入機構は、≧0.5mm、≧1mm、≧1.5mm、≧2mm、≧2.5mm、≧3mm、≧3.5mm、≧4mm、≧4.5mm、≧5mm、≧6mm、≧7mm、≧8mm、≧9mm、≦10mm、≦9mm、≦8mm、≦7mm、≦6mm、≦5mm、≦4.5mm、≦4mm、≦3.5mm、≦3mm、≦2.5mm、および≦2mmからなる群より選択される振幅で第3の次元(Y次元)でイオンが往復するように構成されてよい。イオンは、上記範囲のいずれか1つの組み合わせにより規定される範囲の振幅で、第3の次元(Y次元)の方向に往復し得る。
【0032】
発明者らは、分析計収差は、第3の次元(Y次元)でのイオンの変位の振幅と共に急速に増大し得ることに気付いた。したがって、イオンパケットの第3の次元(Y次元)での適度の変位を維持することが望ましいであろう。
【0033】
第3の次元(Y次元)で適度の変位を達成するために、イオン導入機構またはイオン受容機構は第3の次元(Y次元)の方向で相対的に狭くし得る。例えば、これらの構成要素は、抵抗ボードを使って形成し得る。イオン導入機構は、またはイオン受容機構は、第3の次元(Y次元)で、≦10mm、≦9mm、≦8mm、≦7mm、≦6mm、≦5mm、≦4.5mm、≦4mm、≦3.5mm、≦3mm、≦2.5mm、および≦2mm、からなる群より選択される幅を有してよい。
【0034】
イオンは、第3の次元(Y次元)で軸のまわりを最大往復振幅で往復し、前記少なくとも一部のイオン導入機構および/または前記少なくとも一部のイオン受容機構は、第3の次元(Y次元)の軸から、最大往復振幅より小さい距離だけ離して配置され得る。
【0035】
必要に応じて、ミラーおよびイオン導入機構は、≧0.5mm、≧1mm、≧1.5mm、≧2mm、≧2.5mm、≧3mm、≧3.5mm、≧4mm、≧4.5mm、≧5mm、7.5mm、10mm、15mm、20mm、≦20mm、≦15mm、≦10mm、≦9mm、≦8mm、≦7mm、≦6mm、≦5mm、≦4.5mm、≦4mm、≦3.5mm、≦3mm、≦2.5mm、および≦2mm、からなる群より選択される振幅により第1の次元(X次元)でイオンが往復するように構成され得る。
【0036】
イオンは、第1の次元(X次元)で軸のまわりを最大往復振幅で往復し、前記少なくとも一部のイオン導入機構および/または前記少なくとも一部のイオン受容機構は、第1の次元(X次元)の軸から、最大往復振幅より小さい距離だけ離して配置され得る。
【0037】
イオンミラーおよびイオン導入機構は、使用時には、イオンが第2の次元(Z次元)のイオンミラー間の前記空間を通ってドリフとする間、第1の次元(X次元)および/または第3の次元(Y次元)でイオンが周期的に往復するように構成され得る。
【0038】
イオンミラーは、イオンが第1の次元(X次元)のイオンミラー間で4回の往復を行うのに要する時間に対応する時間でイオンパケットが、第3の次元(Y次元)で往復するように配置および構成され得る。
【0039】
イオンは、第1と第3の次元により画定される平面内で、組み合わされた周期的往復を有するように、第1の次元(X次元)および第3の次元(Y次元)で往復し得る。組み合わされた往復の時間は、第1の次元(X次元)での2〜4回のイオンミラー反射に要する時間に対応し得る。
【0040】
イオン導入機構を離れるイオンと、イオン受容機構で受け取られるイオンとの間の、第1の次元(X次元)および/または第3の次元(Y次元)でのイオンミラー反射の合計数は、2の倍数または4の倍数であってよい。例えば、反射の合計数は、≧2、≧4、≧6、≧8、≧10、≧12、≧14、または≧16であってよい。
【0041】
第3の次元(Y次元)での座標および角度線形エネルギー分散は、(i)2回のイオンミラー反射毎の後に、(ii)4回のイオンミラー反射毎の後に、または(iii)イオンがイオン受容機構に受け取られる時間までに除去され得る。
【0042】
空間の位相空間は、(i)2回のイオンミラー反射毎の後に、(ii)4回のイオンミラー反射毎の後に、または(iii)イオンがイオン受容機構に受け取られる時間までに、第1の次元(X次元)および第3の次元(Y次元)で画定される平面内で単線形変換を受け得る。
【0043】
イオンは、第3の次元(Y次元)の往復軸のまわりで往復し、分光計は、(i)前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構が第3の次元(Y次元)の軸から間隔を置いて配置される、または(ii)前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構の内の一方が、軸上に配置され、前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構のもう一方が第3の次元(Y次元)の軸から間隔を置いて配置される、または(iii)前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構の両方が、軸上に配置される、のいずれかであるように配置および構成され得る。
【0044】
前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構は、それらが第3の次元(Y次元)の同じ側に配置されるように、またはそれらが第3の次元(Y次元)の軸の異なる側上に配置されるように、軸から間隔を置いて配置され得る。
【0045】
前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構は、第2の次元(Z次元)で装置の反対端で間隔を置いて配置され得る。あるいは、前記少なくとも一部のイオン導入機構および前記少なくとも一部のイオン受容機構は、装置の第1の端に配置され得、イオンは、前記少なくとも一部のイオン受容機構に到達するように、装置の第1の端の方向にドリフトして戻るように反射される前に、最初は、第2の、装置の反対端の方向(第2の次元の方向)にドリフトし得る。
【0046】
少なくとも一部のイオン導入機構は、イオンが通過して出ていくまたは機構から放出されるイオン出口面を有し、前記少なくとも一部のイオン受容機構は、イオンが機構に入るまたは衝突するイオン入力面を有する。イオンは、第1の次元(X次元)の往復軸のまわりで往復し、必要に応じて、(i)イオン出口面およびイオン入力面の両方が軸上に配置される、または(ii)イオン出口面およびイオン入力面が第1の次元(X次元)で軸から間隔を置いて配置される、または(iii)イオン出口面およびイオン入力面の内の一方が軸上に配置され、イオン出口面およびイオン入力面のもう一方が第1の次元(X次元)で軸から間隔を置いて配置される。
【0047】
前記少なくとも一部のイオン受容機構は、イオンが第3の次元(Y次元)で1回または複数回往復した後で、ミラー間の空間からイオンを受け取るためにミラー間に配置され得る。
【0048】
前記少なくとも一部のイオン受容機構は、イオン検出器であってよい。イオン検出器はイオンミラー間に配置され得る。
【0049】
前記イオン検出器は、イオン−電子変換器、電子加速器および電子を電子検出器に誘導する磁石または電極を含み得る。この構成により、イオン検出器が第3の次元(Y次元)で、例えば、第3の次元(Y次元)でのイオンの往復の振幅に比べて小さいサイズの外周を有することが可能となる。これにより、イオンが検出器に衝突すること必要になるまで、前記イオン軌道との干渉を回避するように、イオン検出器(磁石を含む)が第3の次元(Y次元)に変位されるのが可能となる。イオンの検出器への衝突により生成される二次電子は、不均一な磁界または静電界により、検出器に集束され得る(高速検出器ではより小さいスポットのために)または検出器に対しデフォーカスされ得る(より長い検出器寿命のために)。
【0050】
あるいは、イオン受容機構は、イオンガイドを含んでよく、前記少なくとも一部のイオン受容機構はイオンガイドへの入口であってよい。
【0051】
分光計は、イオンミラー間の空間の外側に配置されたイオン検出器をさらに含み得る。また、イオンガイドがイオンミラー間の前記空間からイオン受け取り、イオン検出器にイオンを誘導するように配置および構成され得る。
【0052】
イオンガイドは、電気または磁気セクターであってもよい。
【0053】
セクターは、イオンミラー間の空間から検出器またはイオン分析計まで等時性イオン輸送するように配置および構成され得る。
【0054】
イオンガイドは、イオンが沿って移動する長手方向軸を有し得、長手方向軸は湾曲している。
【0055】
上述のように、前記少なくとも一部のイオン受容機構(例えば、イオンガイドへの入口)は、第3の次元(Y次元)でイオンがそのまわりを往復する軸から第3の次元(Y次元)の方向に変位しても、またはその軸の上に配置されてもよい。前記少なくとも一部のイオン受容機構の位置を特徴付ける場合、それは、言及される入口の中心軸であるのが好ましい。
【0056】
あるいは、イオン受容機構は、イオンをミラー間の空間から、必要に応じて、イオンミラー間の空間の外側に配置された検出器の方向に曲げるイオンデフレクターであってよい。
【0057】
イオン導入機構は、イオンをミラー間の空間に導入するステップを実施するように、ミラー間に配置され、イオンパケットを放出する、またはイオンパケットを生成して放出するように構成されたパルスイオン源であってよい。
【0058】
パルスイオン源は、直交加速器またはイオンビームをイオンパケットに変換するイオントラップパルス変換器を含む。
【0059】
直交加速器またはイオントラップは、連続イオンビームをパルスイオンパケットに変換するように構成し得る。
【0060】
イオントラップは線形イオントラップであってよく、これは、第2の次元(Z次元)に伸長され得る。
【0061】
直交加速器またはイオントラップは、第3の次元(Y次元)で最小限の数mradのイオンパケット発散を与える静電レンズを末端とするグリッドレス加速器を含み得る。
【0062】
イオン源は、第1と第2の次元に対し一定の角度で配置された前記軌道に沿って通すようにイオンを誘導するための、パルスまたは連続イオンステアリング装置の内の1つまたは複数を含み得る。1つまたは複数のステアリング装置は、ステアリング角により、第1と第3の次元(X−Y面)により画定される面内、および/または第1と第2の次元により画定される面内でイオンを曲げ得る。
【0063】
直交加速器またはイオントラップは、第2の次元(Z次元)に対し傾斜させた軸に沿ってイオンビームを受け取るように構成され得る。また、傾斜角およびステアリング角は、分光計の少なくとも一部の飛行時間収差の相互補償をするように配置される。
【0064】
あるいは、イオン導入機構は、イオンガイドを含んでよく、前記少なくとも一部のイオン導入機構はイオンガイドの出口であってよい。
【0065】
分光計は、イオンミラー間の空間の外側に配置されたイオン源をさらに含み得る。また、イオンガイドが、第1と第2の次元に対し一定の角度で配置された前記軌道に沿って通過するように、前記イオン源からイオンを受け取り、イオンを前記空間に誘導するように配置および構成され得る。
【0066】
イオンガイドは、電気または磁気セクターであってよい。
【0067】
セクターは、イオン源からイオンミラー間の空間まで等時性イオン輸送するように配置および構成され得る。
【0068】
イオンガイドは、イオンが沿って移動する長手方向軸を有し得、長手方向軸は湾曲している。
【0069】
上述のように、前記少なくとも一部のイオン導入機構(例えば、イオンガイドの出口)は、第3の次元(Y次元)でイオンがそのまわりを往復する軸から第3の次元(Y次元)の方向に変位しても、またはその軸の上に配置されてもよい。前記少なくとも一部のイオン導入機構の位置を特徴付ける場合、それは、言及される出口の中心軸であるのが好ましい。
【0070】
あるいは、前記少なくとも一部のイオン導入機構は、イオンの軌道を曲げるイオンデフレクターであってよい。
【0071】
イオンミラーは、相互に平行であってもよい。
【0072】
イオンミラーは、静電ミラーであってもよい。
【0073】
イオンミラーは、グリッドレスイオンミラーであってもよい。
【0074】
イオンは第3の次元(Y次元)で、往復軸のまわりで往復し、イオンミラーは、第1と第2の次元の軸を通って伸長する面(X−Z面)に対し対称であり得る、および/またはイオンミラーは、第2および第3の次元の軸を通って伸長する面(Y−Z面)に対し対称であり得る。
【0075】
イオンミラーは、平面型であってもよい。
【0076】
イオンミラーは、Z次元の平均イオン軌道がまっすぐである、または好ましさには幾分劣るが、湾曲しているように構成され得る。
【0077】
本明細書で記載のイオンミラーは、少なくとも4次のエネルギー当たりの時間集束に達するための別の電位を維持し得るフラットキャップ電極を含み得る。
【0078】
第3の次元(Y次元)でイオンが往復する最大振幅は、イオンミラー中のウインドウの第3の次元(Y次元)での高さHの1/8〜1/4であり得る。
【0079】
イオンミラー電界は、それぞれの4回の反射後に、イオンパケットの空間の位相空間の色収差補正単変換を可能とするように調整され、等倍率によるポイントツーポイントおよびパラレルツーパラレルイオンビーム変換を可能とし得る(
図5に示すように)。
【0080】
合計イオン飛行経路は、イオンミラーからの少なくとも16反射を含み得る。
【0081】
一般的イオン光学理論では、記載した性質は、空間拡散に対して低減した時間収差を与え、したがって、第3の次元(Y次元)で往復するイオンの等時性を改善する。
【0082】
分光計は、イオンミラー間およびイオン導入機構とイオン受容機構との間のイオン飛行経路に配置された1つまたは複数のビームストップをさらに含み得る。1つまたは複数のビームストップは、第2の次元(Z次元)で測定したそれぞれのイオンビームパケットの前端および/または後端に位置するイオンの通過を遮断するように配置および構成し得る。あるいは、または追加して、それぞれのイオンパケットは、イオン導入機構からイオン受容機構へ移動する間、第2の次元(Z次元)に発散し得る。また、1つまたは複数のビームストップは、所定の量を超えて平均イオン軌道から発散するイオンパケット中のイオンの通過を遮断するように配置および構成され得る。
【0083】
少なくとも1つのビームストップは、補助イオン検出器であってもよい。
【0084】
分光計は、第1の次元(X次元)において、イオンがミラー間で所望の数の往復を行った後に、イオンを検出するように配置および構成された主イオン検出器;前記補助イオン検出器であって、それぞれのイオンパケットの一部のイオンを検出し、それぞれのイオンパケット中のイオンの強度を決定するように配置および構成された補助イオン検出器;および補助検出器により検出された強度に基づいて、主イオン検出器ゲインを制御するための制御システム、を含み得る。
【0085】
分光計は、第1の次元(X次元)において、イオンがミラー間で所望の数の往復を行った後に、イオンを検出するように配置および構成された主イオン検出器;前記補助イオン検出器であって、それぞれのイオンパケットの一部のイオンを検出するように配置および構成された補助イオン検出器;および補助イオン検出器からのシグナル出力に基づいてイオンパケットの軌道を誘導するための、また、必要に応じて、イオン導入機構から主イオン検出器へのイオン伝送を最適化するための制御システムを含み得る。
【0086】
イオンを第2の次元(Z次元)に集束させるための1つまたは複数のイオンレンズを、ミラー間に備えても、または備えなくてもよい。第2の次元(Z次元)方向に伸長したイオンパケットの大きな球面収差を避けるように、このようなレンズの使用を回避することが望ましい場合がある。第2の次元(Z次元)でのイオンパケットの初期長さは、分析計を通過する間の第2の次元(Z次元)におけるイオンパケットの固有の拡散より長くなるように選択され得る。その代わりに、後述のように、ビームストップを使って、スペクトルのオーバーラップを避けてもよい。しかし、特許文献10に記載のように、準平面空間変調イオンミラーと組み合わせる場合には、周期的レンズを使い得ることが意図されている。
【0087】
また、本発明は、飛行時間質量分析方法を提供し、該方法は、
互いに間隔を置いて第1の次元(X次元)に配置され、それぞれ第1の次元と直交する第2の次元(Z次元)に伸長している2つのイオンミラーを用意すること、
イオンが、第1と第2の次元に対し一定の角度で配置される軌道に沿って移動し、イオンが第2の次元(Z次元)の空間を通ってドリフトする間、第1の次元(X次元)でイオンがミラー間で繰り返して往復するようにイオン導入機構を使ってミラーの間の前記空間にイオンパケットを導入すること、
イオンが第2の次元(Z次元)で前記空間を通ってドリフトする間、第1と第2の両次元と直交する第3の次元(Y次元)でイオンを往復させること、
イオンが第1の次元(X次元)で複数回往復した後で、イオン受容機構中にまたはその上でイオンを受け取ること、を含み、
少なくとも一部のイオン導入機構および/または少なくとも一部のイオン受容機構がミラーの間に配置される方法。
【0088】
この方法で使用される分光計は、本明細書で記載の任意の特徴のいずれかを有してよい。
【0089】
第2の次元(Z次元)でMR−TOF分析計の適度な長さを有すると同時に、高MR−TOF解像度を得るために、第1の次元(X次元)に対し約10〜20mradの角度でイオンを注入するのが望ましい。
【0090】
イオン軌道は、イオンミラー(単一または複数)による1つまたは複数の反射の後で、第1の次元(X次元)および第2の次元(Z次元)により画定される面内でオーバーラップをさせてもよい。これは、イオンが注入される角度の低減を可能とし、したがって、第2の次元(Z次元)における装置の全体長さを短縮可能とする。
【0091】
本明細書で記載の分光計は、下記を含み得る。
(a)(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコン上脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝突(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源、(xx)グロー放電(「GD」)イオン源、(xxi)インパクタイオン源、(xxii)リアルタイム直接分析(「DART」)イオン源、(xxiii)レーザースプレーイオン化(「LSI」)イオン源、(xxiv)ソニックスプレーイオン化(「SSI」)イオン源、(xxv)マトリックス支援入口イオン化(「MAII」)イオン源、(xxvi)溶媒支援入口イオン化(「SAII」)イオン源、(xxvii)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xxviii)レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化(「LAESI」)イオン源からなる群より選択されるイオン源、および/または、
(b)1つまたは複数の連続またはパルスイオン源、および/または
(c)1つまたは複数のイオンガイド、および/または
(d)1つまたは複数のイオン移動度分離装置および/または1つまたは複数の電界非対称イオン移動度分光計装置、および/または
(e)1つまたは複数のイオントラップまたは1つまたは複数のイオントラップ領域、および/または
(f)(i)衝突誘発解離(「CID」)フラグメンテーション装置、(ii)表面誘発解離(「SID」)フラグメンテーション装置、(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーション装置、(iv)電子捕獲解離(「ECD」)フラグメンテーション装置、(v)電子衝突または衝撃解離フラグメンテーション装置、(vi)光誘発解離(「PID」)フラグメンテーション装置、(vii)レーザー誘発解離フラグメンテーション装置、(viii)赤外線照射誘発解離装置、(ix)紫外線照射誘発解離装置、(x)ノズルスキマーインターフェースフラグメンテーション装置、(xi)インソースフラグメンテーション装置、(xii)インソース衝突誘発解離フラグメンテーション装置、(xiii)熱源または温度源フラグメンテーション装置、(xiv)電界誘発フラグメンテーション装置、(xv)磁界誘導フラグメンテーション装置、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション装置、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション装置、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション装置、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション装置、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション装置、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション装置、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション装置、(xxiii)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−イオン反応装置、(xxiv)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−分子反応装置、(xxv)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−原子反応装置、(xxvi)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−準安定イオン反応装置、(xxvii)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−準安定分子反応装置、(xxviii)付加またはプロダクトイオンを形成するようにイオンを反応させるためのイオン−準安定原子反応装置、および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーション装置からなる群から選択された1つまたは複数の衝突、フラグメンテーション、または反応セル、および/または
(h)1つまたは複数のエネルギー分析計または静電エネルギー分析計、および/または
(i)1つまたは複数のイオン検出器、および/または
(j)(i)四重極型マスフィルター、(ii)2Dまたは線形四重極型イオントラップ、(iii)ポールまたは3D四重極型イオントラップ、(iv)ペニングイオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁界型マスフィルター、(vii)飛行時間型マスフィルター、(viii)ウィーンフィルターからなる群から選択される1つまたは複数のマスフィルター、および/または
(k)イオンパルスを発生させるための装置またはイオンゲート、および/または
(l)実質的に連続的なイオンビームをパルスイオンビームに変換する装置。
【0092】
分光計は、静電イオントラップまたは誘導検出およびタイムドメインシグナルを質量電荷比ドメインシグナルまたはスペクトルに変換するタイムドメインシグナル処理を採用している質量分析計を含み得る。前記シグナル処理は、限定されないが、フーリエ変換、確率解析、フィルター対角化、フォワードフィッティングまたは最小二乗フィッティングを含み得る。
【0093】
分光計は、下記のいずれかを含み得る。
(i)四重極対数ポテンシャル分布を有する静電界を形成する外側の樽形電極と、同軸内側の紡錘形電極とを備えるCトラップおよび質量分析計であって、第1の操作モードのイオンがCトラップへ透過されて、次いで、質量分析計内へ注入され、第2の操作モードのイオンが、Cトラップへ透過された後に、衝突セルまたは電子移動解離装置へ送られ、少なくとも一部のイオンが、フラグメントイオンにフラグメント化され、フラグメントイオンが、その後、質量分析計内へ注入される前に、Cトラップへ透過される、Cトラップおよび質量分析計、および/または
(ii)使用中にイオンが透過される開口部を各々有する、複数の電極を備える積層リングイオンガイドであって、電極の間隔がイオン経路の長さに沿って増加し、イオンガイドの上流区画内の電極の開口部が、第1の直径を有し、イオンガイドの下流区画内の電極の開口部が、第1の直径よりも小さい第2の直径を有し、ACまたはRF電圧の逆位相が、使用中に、後行電極に印加される、積層リングイオンガイド。
【0094】
分光計は、ACまたはRF電圧を電極に供給するように配置および適合される装置を含み得る。ACまたはRF電圧は、(i)最大値−最小値:50V未満、(ii)最大値−最小値:50〜100V、(iii)最大値−最小値:100〜150V、(iv)最大値−最小値:150〜200V、(v)最大値−最小値:200〜250V、(vi)最大値−最小値:250〜300V、(vii)最大値−最小値:300〜350V、(viii)最大値−最小値:350〜400V、(ix)最大値−最小値:400〜450V、(x)最大値−最小値:450〜500V、および(xi)最大値−最小値:500V超からなる群から選択される振幅を有してよい。
【0095】
ACまたはRF電圧は、(i)100kHz未満、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)10.0MHz超からなる群から選択される周波数を有してよい。
【0096】
分光計はイオン源の上流に、クロマトグラフィーまたはその他の分離装置を備えてもよい。クロマトグラフィー分離装置は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー装置を含み得る。別の実施形態では、分離装置は、キャピラリー電気泳動法(「CE」)分離装置、(ii)キャピラリー電気クロマトグラフィー(「CEC」)分離装置、(iii)実質的に剛体のセラミック系多層マイクロ流体基板(「セラミックタイル」)分離装置、または(iv)超臨界流体クロマトグラフィー分離装置を含み得る。
【0097】
イオンガイドは、(i)0.0001mbar未満、(ii)0.0001〜0.001mbar、(iii)0.001〜0.01mbar、(iv)0.01〜0.1mbar、(v)0.1〜1mbar、(vi)1〜10mbar、(vii)10〜100mbar、(viii)100〜1000mbar、および(ix)1000mbar超から成る群より選択される圧力で維持し得る。
【0098】
分析物イオンは、電子移動解離フラグメンテーション装置で電子移動解離(「ETD」)フラグメント化に供し得る。分析物イオンをイオンガイドまたはフラグメンテーション装置内のETD試薬イオンと相互作用させ得る。
【0099】
以降で、付随する図を参照しながら種々の本発明の実施形態が例示のみの目的で説明される。