【文献】
小池卓二、神崎晶,耳科用探針を用いた耳小骨可動性計測装置の開発,Otology Japan,日本,日本耳科学会,2017年10月25日,Vol.27 No.4,384
【文献】
海老根崚、神崎晶、小池卓二,耳科用探針を用いた耳小骨可動性計測装置の開発と性能評価,第30回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,日本,一般社団法人日本機械学会,2017年12月13日,340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動性評価部は、前記力センサから出力された電圧の特定の周波数成分の大きさを求め、当該大きさに基づいて前記耳小骨の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する、請求項4に記載の中耳伝音特性評価システム。
前記振動伝達効率評価部は、前記増幅器から出力された電圧の特定の周波数成分の大きさを求め、当該大きさに基づいて前記耳小骨の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する、請求項4に記載の中耳伝音特性評価システム。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
(中耳伝音特性評価システム1の構成)
図1は、中耳伝音特性評価システム1の構成の一例を示すシステム図である。
【0031】
図1に示すように、中耳伝音特性評価システム1は、計測プローブ100、情報処理装置300、表示装置400(400a、400b)、増幅器500、電極600及びデータベース700を備えて構成される。なお、
図1において、情報処理装置300を1台のみ示しているが、情報処理装置300は複数台存在してもよい。また、
図1において、表示装置400を、表示装置400a、400bの2台示しているが、1台でもよくまた、3台以上存在してもよい。なお、以下においては、特に区別の必要がない場合に、表示装置を総称して、表示装置400と記載する。また、中耳伝音特性評価システム1において、表示装置400と後述する情報処理装置300の音声出力部340とを、耳小骨900の可動性の及び振動伝達効率の評価結果を出力(表示、音声出力等)するものとして総称して出力部800と記載する。
【0032】
計測プローブ100は、耳小骨900に接触し、振動を与える加振装置としての探針103と、探針103を振動させるアクチュエータ116(
図3)と、探針103を耳小骨900に接触させたときにアクチュエータ116にかかる反力に応じた電圧を出力する力センサ(圧電センサ117、チャージアンプ112)(
図3)とを備えて構成される。
【0033】
情報処理装置300は、計測プローブ100、表示装置400、増幅器500、データベース700、等と有線または無線により接続され、これらの周辺装置および周辺機器からの情報処理要求を受けて情報処理を行うコンピュータ機器である。情報処理装置300は、汎用のコンピュータ機器であっても、中耳伝音特性評価システム1専用のコンピュータ機器であってもよい。
【0034】
表示装置400は、情報処理装置300に接続され、情報処理装置300から出力された表示情報を画面表示させるディスプレイ装置であれば、どのような装置でもよい。表示装置400は、情報処理装置300が評価した耳小骨900の可動性の評価結果(分類された可動性評価レベルの値)及び耳小骨900の振動伝達効率の評価結果(分類された振動伝達効率評価レベルの値)を表示する。
【0035】
増幅器500は、電極600が計測した蝸牛マイクロホン電位を増幅する差動増幅器等のアンプ機器であればよい。
【0036】
電極600は、蝸牛窓または蝸牛窓近傍に設置でき、蝸牛マイクロホン電位(CM)を計測できる電極であればよい。
【0037】
データベース700は、情報処理装置300が評価した耳小骨900の可動性の評価結果(可動性評価レベルの値)及び耳小骨900の振動伝達効率の評価結果(振動伝達効率評価レベルの値)を評価データとして蓄積する。データベース700は、手術による処置前、処置中及び処置後の評価データを蓄積する。
【0038】
上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1は、計測プローブ100の探針103を振動させ、計測対象である耳小骨900に接触させたときに計測プローブ100にかかる反力を電圧として情報処理装置300に入力する。情報処理装置300は、入力された当該電圧に基づき、耳小骨900の可動性を評価する。より詳細には、情報処理装置300は、計測プローブ100から出力された電圧に基づいて、耳小骨900の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する。そして、情報処理装置300は、分類した可動性評価レベルの値を表示装置400bに表示させる。
【0039】
図1の例では、可動性評価レベルの値として「3」が表示装置400bに表示されている。可動性評価レベルが例えば「1」から「5」の5段階あり、「5」は可動性が最良という評価結果を示すものとすると、「4」、「3」、「2」、「1」と値が小さくなるほどより可動性が悪いという評価結果を示すことができる。この場合、「1」は、可動性が最悪(完全固着)という評価結果を示す。このように耳小骨900の可動性の評価結果を、可動性評価レベルの値で示すことにより、術者が術前および術中に、耳小骨900の可動性の程度を定量的に確認することができ、術式の決定等を効率良く行うことができる。また、このような構成によれば、耳小骨900の可動性の評価結果を、可動性評価レベルの値と共にグラフを画面表示し、必要に応じて音声により術者に通知することにより、術中でも容易に耳小骨900の可動性を診断することができる。
【0040】
また、上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1は、蝸牛窓901に電極600を設置した状態で、計測プローブ100を鼓膜、耳小骨900または耳小骨900の替わりに挿入した人工耳小骨等に接触させて振動を与え、当該振動を与えたときに電極600に生じる蝸牛マイクロホン電位を計測し、当該電位を増幅器500で増幅して情報処理装置300に入力する。情報処理装置300は、入力された当該電位に基づいて、耳小骨900の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する。そして、情報処理装置300は、分類した振動伝達効率評価レベルの値を表示装置400aに表示させる。
【0041】
図1の例では、振動伝達効率評価レベルの値として「2」が表示装置400aに表示されている。振動伝達効率評価レベルが例えば「1」から「5」の5段階あり、「5」は振動伝達効率が最良という評価結果を示すものとすると、「4」、「3」、「2」、「1」と値が小さくなるほどより振動伝達効率が悪いという評価結果を示すことができる。この場合、「1」は、振動伝達効率が最悪という評価結果を示す。このように耳小骨900の振動伝達効率の評価結果を、振動伝達効率評価レベルを表す数値で示すことにより、術中に中耳の伝音特性を定量的に評価することができる。したがって、術者は、術中に振動伝達効率評価レベルの値が所定値以上(例えば「4」以上)になったことを確認することで、聴力が回復したと判断して手術を終了することができる。これにより、再手術のリスクが軽減される。
【0042】
また、上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1は、情報処理装置300が評価した評価結果すなわち、耳小骨900の可動性の評価結果(可動性評価レベルの値)及び耳小骨900の振動伝達効率の評価結果(振動伝達効率評価レベルの値)を、評価データとしてデータベース700に蓄積する。治験数が増えるにつれて、データベース700には、多くの患者の評価データが蓄積されていく。このように、多くの患者の評価データがデータベース700に蓄積されることにより、術者は、最適術式等を決める上での判断材料となりうる有益な情報をデータベース700から収集することが可能となる。特に、手術中における耳小骨900の可動性及び振動伝達効率の評価データ(術中評価データ)を得ることが可能になったことで、術中評価データ及び術前・術中・術後の評価データからなるデータベース700を構築することが可能となる。医師は、術前・術中・術後にデータベース700を参照することで、診断・治療に関する支援を受けることが可能となる。また、データベース700をビッグデータ化し、そのデータ参照システムにAI(Artificial Intelligence)技術を取り入れたユーザインタフェースを採用することにより、医師は、診断・治療に関するより適切且つ高度な支援を受けることが可能となる。
【0043】
また、上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1によれば、治験数が増えるにつれて、耳小骨900の可動性の評価結果が数値すなわち可動性評価レベルの値としてデータベース700に大量に蓄積されていくので、データベース700に蓄積された大量のデータに基づいて統計処理を行うことで、可動性評価レベルの値を耳小骨900の可動性の評価指標として標準化することが可能となる。
【0044】
また、上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1によれば、治験数が増えるにつれて、耳小骨900の振動伝達効率の評価結果が数値すなわち振動伝達効率評価レベルの値としてデータベース700に大量に蓄積されていくので、データベース700に蓄積された大量のデータに基づいて統計処理を行うことで、振動伝達効率評価レベルの値を耳小骨900の振動伝達効率の評価指標として標準化することが可能となる。
【0045】
また、上記のように構成された中耳伝音特性評価システム1によれば、術前・術中・術後の評価データを、術式に関するデータと共にデータベース700に蓄積していくことができる。治験数が増えるにつれて、術前・術中・術後の評価データ及び術式に関するデータがデータベース700に大量に蓄積されていくので、データベース700に蓄積された大量のデータを用いて、機械学習システムに最適術式判断を学習させることができる。当該機械学習システムによる学習が実用可能なレベルに達したならば、中耳手術の術前又は術中に、学習結果に基づいて最適な術式を提示する中耳手術支援システムの実現が可能となる。なお、最適術式判断の学習に使用する機械学習システムは、中耳伝音特性評価システム1のための専用の機械学習システムであっても、汎用の機械学習API(Application Programming Interface)を用いた機械学習システムであってもよい。
【0046】
(情報処理装置300の構成)
以下、情報処理装置300の構成について詳細に説明する。
【0047】
図2は、情報処理装置300の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、情報処理装置300は、通信部310と、I/O部320と、制御部330と、音声出力部340及び記憶部350を備えて構成される。
【0048】
通信部310は、ネットワークを介して、制御部330の制御に従い、周辺装置および他の情報処理装置と通信(各種メッセージの送受信等)を実行する機能を有する。具体的には、通信部310は、ネットワークを介して、制御部330の制御に従い、各部から伝達されたメッセージを他の装置へ送信し、他の装置からメッセージを受信し、当該受信したメッセージを他の部に伝達する。当該通信は有線、無線のいずれでもよく、また、互いの通信が実行できるのであれば、どのような通信プロトコルを用いてもよい。さらに、当該通信は、セキュリティを確保するために、暗号化処理を施してもよい。ここでいう「メッセージ」には、テキスト、画像(写真、イラスト)、音声、動画等およびこれらに付帯する情報(テキスト、画像、音声、動画に付帯する日付および位置等に関する情報)が含まれる。
【0049】
I/O部320は、制御部330の制御に従い、他の機器、他の装置または媒体と、無線または有線による接続する機能を有する。I/O部320は、具体的には、WiFi(Wireless Fidelity)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)、USB(Universal Serial Bus)、電源コネクタ、I2C(Inter-Integrated Circuit)等の接続装置をいう。
【0050】
制御部330は、各部を制御する機能を有するプロセッサである。制御部330は、可動性評価部331及び振動伝達効率評価部332を備えて構成される。制御部330は、記憶部350に記憶されているプログラム及びデータに従って各部を動作させる。
【0051】
可動性評価部331は、計測プローブ100から出力された電圧に基づき、FFT解析をして、特定の周波数成分値を求める。「FFT解析」とは、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)による解析をいい、周波数ごとの成分値を解析して求めることができる。可動性評価部331は、具体的には、ADコンバータを含み、計測プローブ100から出力された電圧を、当該ADコンバータがデジタル信号の電圧情報に変換し、当該電圧情報をFFT解析する。ADコンバータとして、情報処理装置300に内蔵されたAD変換回路を用いてもよいし、外付けのAD変換器を用いてもよい。
【0052】
この実施形態では、計測プローブ100は、術中に術者が手で保持して計測するハンドピースとして用いることを想定しており、そのとき、手振れによる影響を考慮する必要がある。計測プローブ100から出力された電圧に及ぼす手振れの影響を低減するために、一例として、当該特定の周波数成分値を5Hz以上とする。また、さらに好ましくは、可聴域を考慮して、計測プローブ100が耳小骨900に与える振動の加振周波数を可聴域の下限である20Hzとする。このとき、可動性評価部331は、アクチュエータ116が探針103に与える振動の加振周波数(アクチュエータ116への入力周波数)と等しい電圧情報の成分値を、当該特定の周波数成分値として求める。具体的には、例えば、可動性評価部331において、アクチュエータ116の加振周波数を20Hzとした場合、電圧情報における各波形の20Hzの周波数成分の値を、当該特定の周波数成分値として求める。これにより、可聴域まで周波数をあげると蝸牛障害等を引き起こす可能性があるが、可聴域まで周波数をあげることなく手振れの影響を低減することができる。換言すれば、可動性評価部331によるFFT解析によって、計測プローブ100が出力する電圧から手振れの影響を除外できるため、計測プローブ100を術者が手で保持した状態で計測可能であり、術中に簡便に計測できる。
【0053】
ここで、可動性評価部331におけるFFT解析に関して、
図3に示すようにアブミ骨122とそれを支える靱帯121を模した校正器の可動性を、計測プローブ100によって計測した場合の結果を用いて説明する。当該校正器を計測プローブ100によって計測した結果、当該校正器の可動性が低下する(ばね定数が大きくなる)と、FFT解析の結果の20Hz成分が増加する。当該増加量により、耳小骨900の可動性を定量化する。5Hz以下に見られる周波数成分は手振れによるものであるが、20Hz成分とは明確に区別可能であるため、計測プローブ100を用いて手持ち計測でも、手振れによる影響をほとんど受けずに耳小骨900の可動性の評価が可能である。
【0054】
可動性評価部331は、特定の周波数成分値に基づき、耳小骨900の可動性(コンプライアンス)を評価する。具体的には、可動性評価部331は、計測プローブ100が耳小骨900に与える回転振動等の振動の加振周波数と等しい(アクチュエータ116への入力周波数と等しい)20Hzの周波数成分におけるコンプライアンスの大きさに基づき、耳小骨900の固着度合を評価する。具体的には、この例では、可動性評価部331は、20Hzの周波数成分におけるコンプライアンスの大きさに基づいて、耳小骨900の可動性を5段階の可動性評価レベル(「1」〜「5」)のいずれかに分類する。
【0055】
なお、耳小骨900の可動性(コンプライアンス)Cは、アクチュエータ116が耳小骨900に与える変位をD[単位:m]と、アクチュエータ116が耳小骨900に当該変位を与えた際の反力をP[単位:N]とを用いて、次の式(1)により求めることができる。
【0057】
振動伝達効率評価部332は、計測プローブ100が耳小骨900を振動させているときに増幅器500から出力された電圧に基づき、FFT解析をして、特定の周波数成分の蝸牛マイクロホン電位を求め、当該蝸牛マイクロホン電位の大きさに基づいて、耳小骨900の振動伝達効率を評価する。具体的には、この例では、振動伝達効率評価部332は、計測プローブ100から耳小骨900に入力される振動の周波数と等しい周波数成分の蝸牛マイクロホン電位の大きさに基づいて、耳小骨900の振動伝達効率を5段階の振動伝達効率評価レベル(「1」〜「5」)のいずれかに分類する。なお、計測プローブ100から耳小骨900に入力される振動の周波数は、通常の可聴域に含まれる周波数であり、例えば125Hz〜8000Hzである。
【0058】
制御部330は、可動性評価部331及び振動伝達効率評価部332による評価結果(可動性評価レベルの値、振動伝達効率評価レベルの値)を、I/O部320を介してデータベース700及び表示装置400に出力する。
【0059】
音声出力部340は、制御部330の制御に従い、音声を出力する機能を有する。音声出力部340は、可動性評価部331及び振動伝達効率評価部332による評価結果(可動性評価レベルの値、振動伝達効率評価レベルの値)を音声出力可能である。音声出力部340は、情報処理装置300に内蔵されたスピーカであってもよいし、外付けの音声出力デバイスであってもよい。
【0060】
記憶部350は、制御部330の制御に従い、情報処理装置300が動作するうえで必要とする各種プログラム、データおよびパラメータを記憶する機能を有する。記憶部350、具体的には、例えば、ROM、RAMで構成される主記憶装置、不揮発性メモリ等で構成される補助記憶装置、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等各種の記録媒体によって構成される。記憶部350は、例えば、制御部330の制御に従い、計測プローブ100から出力された電圧を、ADコンバータ(不図示)を介してデジタル信号に変換したデジタル信号の電圧情報として記憶してもよい。
【0061】
(計測プローブ100の構成)
(第1構造例)
第1構造例に係る計測プローブ100は、
図3に示すように、探針103およびアタッチメント120を含んで構成される。また、アタッチメント120は、アクチュエータ116、圧電センサ117、ひずみゲージ118、探針固定用磁石119を含んで構成される。
図3は、探針103をアタッチメント120に取り付けた状態を示す。
図3には、説明のため、耳小骨900を構成するアブミ骨122及び靱帯121がモデル化して記載されている。
【0062】
探針103は、具体的には、耳科用探針を用いてもよい。実際に耳科手術等で使用している探針103を用いることで、術者が違和感なく耳小骨900の反力を計測することができる。アクチュエータ116は、具体的には、探針103を駆動するための変位拡大機構付き圧電アクチュエータ等を用いればいい。圧電センサ117は、具体的には、ピエゾ式圧電セラミックス等を用いればよい。
【0063】
探針103は、その重心付近と基端部103cの2点において、それぞれ固定支点と圧電センサ117により取り外し可能に支持されており、当該支持部分には、探針固定用磁石119を用いる。このように、探針103をアタッチメント120に取り付ける構成とすることにより、探針103の脱着が容易となり、例えば探針103のみ交換したり滅菌処理を施したりすることができるため、衛生面を向上させることができる。
【0064】
計測プローブ100は、具体的には、例えば、探針103の先端部103bの側部を耳小骨900に当てアクチュエータ116により重心付近の支点を中心として一定振幅の回転振動等の振動を探針103に与え、圧電センサ117により、アクチュエータ116が与えている力(すなわち探針103からの反力)を測定し、電圧を出力する。このような構成とすることで、アクチュエータ116による探針103の動きが、術者が通常計測時に行う動きと類似しているため、違和感なく耳小骨900の反力を計測することができる。
【0065】
計測プローブ100は、より具体的には、アクチュエータ116により、探針103を20Hzで振動させ、探針103の先端部103bを耳小骨900を構成するアブミ骨122に接触させたときに、アクチュエータ116にかかる反力を圧電センサ117で測定して、電圧を出力する。ここで、当該出力した電圧は、耳小骨900へ与える変位は蝸牛の保護の観点からすると可能な限り微小であったほうがよいため、計測プローブ100のアクチュエータ116が与える変位を40μm以下とし、実際の手術手技と同程度にし、チャージアンプ等(不図示)を用いて増幅して、当該測定した反力に比例した電圧を出力する。なお、アクチュエータ116の変位は、ひずみゲージ118により計測する。
【0066】
(第2構造例)
第2構造例に係る計測プローブ100は、
図4に示すように、第1上カバー101、第2上カバーB102、探針103、ロック用ツマミ104、コードブッシュ105、下カバーA106、板バネ107(107a、107b)、タッピングネジ108(108a、108b、108c、108d、108e、108f、108g、108h)、支点用金具109、Eリング110、アクチュエータ116、チャージアンプ112、コード113、123、アクチュエータ用ホルダ114、標準ネジ115(115a、115b、115c)、圧電センサ117、支点用金具固定ピン111、を備えて構成される。第2構造例に係る計測プローブ100において、アタッチメント120は、支点用金具109、アクチュエータ116、圧電センサ117を含んで構成される。
【0067】
探針103は、細長い棒状で形成されている。探針103は、具体的には、耳科用探針等を用いればよく、固定支点として支点用金具109と、アクチュエータ116に取り付けられる圧電センサ117とに載置することでこれらの部品に支持され取り付けられる。これにより、通常術中に用いられる耳科用探針である探針103を、支点用金具109と、アクチュエータ116に取り付けられる圧電センサ117とに載置する(すなわち、探針103をアタッチメントに取り付ける)だけでよく、簡易に取り付けられて、定量的な耳小骨反力を計測することができ、使い勝手のよい計測プローブを提供することができる。また、探針103の先端部103bは直接、耳小骨900に触れるため、このように簡易な取り付けであれば、探針103の交換もしやすく衛生面の向上を図ることもできる。
【0068】
また、探針103には、
図10に示すように、重心付近に窪み103aが形成されてもよい。
図10の例では、支点用金具109は、球状に形成したマグネット136(支持部)と、マグネット136を嵌め込んで支持する土台135とを備えて構成される。そして、探針103の重心付近に、マグネット136が嵌め込まれるSR形状の窪み103aが形成されている。このような構成とすることで、支点用金具109に対して座りよく探針103を設置できる。また、探針103は、窪み103aの内面に部分接触(点接触)する球状のマグネット136によって支持されるため、探針103がアクチュエータ116により回転振動を与えられた際に回転方向に柔軟に動くことができる。また、探針103の計測プローブ100からの取り外し及び計測プローブ100への取り付けを容易とすることができる。また、マグネット136の磁力で探針103を支点用金具109に固定することができるため、探針103の計測プローブ100からの脱落を防止することができる。また、探針103を計測プローブ100から取り外して使用する際にも、窪み103が術者の持ち手の位置決めのためのしるしになり、術者が手で探針103を持つ際に、目視で確認しなくとも簡単に探針103の重心の付近の位置を特定できるため、使い勝手のよい探針を提供することができる。
【0069】
計測プローブ100は、探針103に弾性的に接する弾性体を備えてもよい。当該弾性体は、探針103に接して弾性抵抗力を付与するものであればどのようなものでもよい。この実施形態では、板バネ107を使用した場合について説明する。板バネ107は、探針103に弾性的に接して、弾性抵抗力を付与する。具体的には、板バネ107a、107bは、
図4に示すように、タッピングネジ108a、108bによって第1上カバー101にネジ留めされており、第1上カバー101を第2上カバーB102にセットした際に、探針103に接するように取り付けられている。これにより、探針103がマグネット136に付勢されている。このような構成とすることで、探針103の慣性項を打ち消すことができ、精度よく耳小骨反力を計測することができる。また、このような構成とすることにより、板バネ107は交換可能となるため、使い勝手のよい計測プローブを提供することができる。
【0070】
支点用金具109は、探針103の固定支点として、
図4に示すように、支点用金具固定ピン111により下カバーA106にピン留めされて取り付けられていてもよい。
【0071】
また、支点用金具109は、
図10に示すように、球状に形成したマグネット136と、探針103の重心付近の窪み103aに嵌め込んで支持する土台135を含んで構成してもよい。ここで、マグネット136は、探針と着磁力により吸着されている。なお、このような態様に限られず、球状に形成した支持部を非磁性材料により形成し、支持部とは別にマグネットを設けてもよい。この場合には、支持部を、探針とマグネットにより挟み込むことで、支持部が、マグネットの着磁力により探針と吸着されてもよい。
【0072】
圧電センサ117は、探針103とアクチュエータ116に挟み込まれるように配置され、回転振動する探針103によってアクチュエータ116にかかる反力を測定する。測定した反力はチャージアンプ112に伝達され、チャージアンプ112が当該反力を電圧に変換して出力する。圧電センサ117は、具体的には、アクチュエータ116が探針103に与えている力の反力が探針103を介して加えられることで電荷信号を発生させる。このとき、チャージアンプ112は、当該発生した電荷信号を電圧に変換して出力する。圧電センサ117は、具体的には、圧電センサ(ピエゾ式圧電セラミックス)、積層圧電センサ等を用いればよい。
【0073】
また、圧電センサ117は、探針103を点支持ではなく、面又は線で支持してもよい。圧電センサ117が探針103を線で接触して支持する例について
図9を用いて説明する。
図9に示すように、圧電センサ117は、横ぶれ防止機構部131、マグネット132、センサ本体部133及びセンサ保持部134を備えて構成される。
【0074】
横ぶれ防止機構部131は、探針103の横ぶれを防止するための部材である。横ぶれ防止機構部131は、例えば、略円板状の部材であり、その上部には、略中央に、凹状の両サイドの高さを高くした探針受けを形成(言い換えれば、中央サイドに半円柱状の突起部分を、両サイドに中央サイドの突起部分より高さを高くした左右ブレ防止の突起部分を形成)してもよい。このような構成により、マグネット132の磁力によって、取り外し可能かつ拘束力をもって支持しつつ、両サイドに形成された突起部分の傾斜面により、探針103の芯を自動的にマグネット132に対して揃え、探針103の横ぶれを防止することができる。横ぶれ防止機構部131の材質は、軽量で一定の剛性があればどのような材質でもよく、例えばステンレス等を用いることが考えられる。
【0075】
マグネット132は、探針103を横ぶれ防止機構部131の凹状の探針受けに磁力で吸着し、安定に支持させるための部材である。マグネット132の材質は、探針103を、磁気的吸引力により取り外し可能に拘束し得るものであれば、どのような材質でもよく、例えば、ネオジム磁石等を用いることが考えられる。
【0076】
センサ本体部133は、圧電センサ117のセンサ本体である。センサ本体部133は、圧電効果を有する圧電素子を有し、探針103により加えられる力を電荷信号に変換して出力する。
【0077】
センサ保持部134は、センサ本体部133を保持(接着)する部材である。また、センサ保持部134は、1以上の丸溝(
図9の例では、4か所ある丸溝)を設けて、センサ本体部133からの信号線(コード)を保持してもよい。
【0078】
また、圧電センサ117は、一例として、横ぶれ防止機構部131及びマグネット132とセンサ本体部133の間に非導電性の部材を挟んで構成してもよい。このような構成により、圧電センサ117のセンサ本体部133と横ぶれ防止機構部131を介した探針103との間に絶縁領域を設けることができ、耳小骨900周辺は電気的に非常にセンシティブであるため、より安全に、計測プローブ100の探針103を用いて耳小骨900に接触させることができる。
【0079】
アクチュエータ116は、
図4に示すように、アクチュエータ用ホルダ114に格納されて、標準ネジ115によりアクチュエータ用ホルダ114にネジ留めされることで取り付けられている。アクチュエータ116は、具体的には、変位拡大機構付き圧電アクチュエータ等を用いればよい。
【0080】
チャージアンプ112は、アクチュエータ用ホルダ114にタッピングネジ108cによりネジ留めされて取り付けられており、アクチュエータ用ホルダ114はタッピングネジ108d、108e、108fにより下カバーA106にネジ留めされて取り付けられている。
【0081】
チャージアンプ112は、コード113、123が接続されており、コード113、123は、コードブッシュ105を通って外部の装置(情報処理装置300等)と接続する。なお、コードブッシュ105は、例えば六角ナット固定リブ等の固定手段を用いて、下カバーA106に取り付けてもよい。この様な構成とすることで、コードブッシュ105の取り付けが容易となる。また、チャージアンプ112は、アナログ演算及び増幅するOPアンプ部とアクチュエータに電源を供給するための電源供給部に分離して構成してもよく、それに伴い、コード113、123は、OPアンプ部に接続しアナログ信号を出力するための線(信号線)と電源供給部に接続しアクチュエータ116に電源を供給するための線(電源線)を分離して形成してもよい。このような構成により、OPアンプ部は、ノイズを拾ってしまう関係上、圧電センサ117の近傍に設ける必要があるが、それ以外の部分(電源供給部)については計測プローブ100の外に設けることで、計測プローブ100のハンドピース化において、よりコンパクトにすることができる。また、この様な構成により、信号線と電源線を分けたことで出力した信号に対する誘導ノイズの影響を低減することもできる。
【0082】
第2構造例に係る計測プローブ100は、第1上カバー101と第2上カバーB102を取り付け、第2上カバーB102と下カバーA106を取り付け、ロック用ツマミ104をEリング110によりEリング留めによって取り付けられて使用される。なお、第1上カバー101の一部と第2上カバーB102の一部はヒンジ機構を形成しており、当該ヒンジ機構により第1上カバー101と第2上カバーB102とが互いに連結された状態で回動することで、第2上カバーB102に対し第1上カバー101を開閉することが可能となっている。このような構成にすることによりタッピングネジ108a、108bによりネジ留めされている板バネ107a、107bが交換可能となり、使い勝手のよい計測プローブを提供することができる。
【0083】
計測プローブ100は、
図4に示すように、加振装置は細長い棒状の探針103であり、探針103はその重心付近と基端部103cの2点において、固定支点と力センサにより支持され、アクチュエータ116は、探針103の重心付近の支点を中心として一定振幅の回転振動等の振動を与え、力センサは、圧電センサ117およびチャージアンプ112を含み、圧電センサ117はアクチュエータが探針103に与えている力を探針103により加えられることで電荷信号を発生させ、チャージアンプ112は、当該発生した電荷信号を電圧に変換して出力する。このような構成とすることで、耳小骨900の反力を計測することを可能とし、耳小骨固着耳の処置前後の可動性の改善度を評価することができ、術後成績の向上および再手術のリスクを低減することができる。
【0084】
第2構造例に係る計測プローブ100は、
図5に示すように、術者が計測プローブ100の第2上カバーB102と下カバーA106を手に掴んで保持する際に握りやすいよう、第2上カバーB102および下カバーA106は、人間の手の握る形にそった形状を構成している。このような構成とすることにより、計測プローブ100をハンドピース化し、使い勝手のよい計測プローブ100を提供することができる。
【0085】
なお、
図5において、説明のためロック用ツマミ104を第2上カバーB102の両側に取り付けた状態を示しているが、片側のみでロックすることができるよう、ロック用ツマミ104を左右のいずれかに設けてもよい。さらに、片側のみにロック用ツマミ104を設けた際、もう片方の側には、第2上下カバー102に対して第1上カバー101をワンタッチで上下に開閉するための開閉用ツマミを設けてもよい。
【0086】
図6(a)、
図6(b)に示すように、計測プローブ100は、術者が計測プローブ100を手に掴んで保持する際に握りやすいよう、第2上カバーB102および下カバーA106が、人間の手の握る形にそった形状をなしている。このような構成とすることにより、計測プローブ100をハンドピース化し、使い勝手のよい計測プローブ100を提供することができる。また、計測プローブ100は、ハンドピース化して用いることを想定しており、その一例として、
図6(b)に各部の寸法(単位はmm)を記載しているが、当該寸法の限りでなく、ハンドピースとして人間の手に握り易い寸法であればどのような寸法でもよい。
【0087】
また、下カバーA106は、支点用金具109(支点)とアクチュエータ116との相対位置を一定に保ち得る剛性及びアクチュエータ116の振動に抗し得る慣性力とを計測プローブ100に付与する剛性・慣性力付与部材として機能してもよい。支点用金具109とアクチュエータ116との相対位置を一定に保ち得る剛性及びアクチュエータ116の振動に抗し得る慣性力とを計測プローブ100に付与することにより、アクチュエータ116の振動の反動が作用することによる下カバーA106及び第2上カバーB102の振動及び計測プローブ100の振れを抑制し、圧電センサ117による検出精度を向上させることができる。
【0088】
下カバーA106を剛性・慣性力付与部材として機能させる方法として、下カバーA106を第2上カバーB102よりも剛性及び比重の大きい素材で形成する方法を挙げることができる。また、下カバーA106を剛性・慣性力付与部材として機能させる代わりに、下カバーA106の底部に例えば金属製の剛性・慣性力付与部材を取り付けてもよく、アタッチメント120のフレームを金属製の剛性・慣性力付与部材としてもよい。いずれの構成であっても、支点用金具109とアクチュエータ116との相対位置が一定に保たれ、且つアクチュエータ116の振動に抗し得る慣性力が計測プローブ100に付与されることにより圧電センサ117による検出精度を向上させることができる。
【0089】
また、下カバーA106は、計測プローブ100の重心を探針103の重心付近の支点よりも探針103の先端部103b側に位置づける重心位置付け部材として機能してもよい。計測プローブ100の重心が探針103の重心付近の支点よりも探針103の先端部103b側に位置づけられることにより、アクチュエータ116の振動の反動が作用することによる下カバーA106及び第2上カバーB102の振動を抑制し、圧電センサ117による検出精度を向上させることができる。
【0090】
下カバーA106を重心位置付け部材として機能させる方法として、下カバーA106を第2上カバーB102よりも比重の大きい素材で形成するとともに、下カバーA106の重心が探針103の重心付近の支点よりも探針103の先端部103b側に位置するように下カバーA106の厚みなどを選定する方法を挙げることができる。また、下カバーA106を重心位置付け部材として機能させる代わりに、下カバーA106の底部に例えば金属製の重心位置付け部材を取り付けてもよく、アタッチメント120のフレームを金属製の重心位置付け部材としてもよい。いずれの構成であっても、計測プローブ100の重心が探針103の重心付近の支点よりも探針103の先端部103b側に位置づけられることにより、下カバーA106及び第2上カバーB102の振動を抑制し、圧電センサ117による検出精度を向上させることができる。
【0091】
図7に示すように、探針103には板バネ107a、107bが上方から接している。また、探針103は、その重心付近と基端部103cの2点において支持されるよう、探針103の重心付近に位置する支点用金具109と圧電センサ117の2点によって支持されて取り付けられている。このような構成により、アクチュエータ116は、探針103に、その重心付近の支点を中心とした一定振幅の回転振動等の振動を、圧電センサ117を介して与えることができる。
【0092】
(中耳伝音特性評価システム1が実行する処理)
図8のフローチャートを参照して、本実施形態の中耳伝音特性評価システム1が実行する処理の一例について説明する。
本実施形態の中耳伝音特性評価システム1は、加振ステップS10、評価項目判断ステップS11、電圧測定ステップS12、可動性評価ステップS13、蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14、増幅ステップS15、振動伝達効率評価ステップS16、及び出力ステップS17からなる一連の処理を実行する。
【0093】
加振ステップS10は、アクチュエータ116により振動させた探針103の先端部103bを耳小骨900に接触させることにより耳小骨900に振動を与える処理ステップである。加振ステップS10は、電圧測定ステップS12及び蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14の終了時まで継続される。
【0094】
評価項目判断ステップS11は、可動性を評価するか又は振動伝達効率を評価するかを判断する処理ステップである。ここで、「可動性を評価する」と判断された場合には、電圧測定ステップS12以降の処理が実行される。
【0095】
電圧測定ステップS12は、加振ステップS10により耳小骨900に振動を与えているときに探針103からアクチュエータ116にかかる反力に応じた電圧を測定し出力する処理ステップである。
【0096】
可動性評価ステップS13は、電圧測定ステップS12により測定された電圧に基づいて、耳小骨900の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する処理ステップである。
【0097】
出力ステップS17は、可動性評価レベルの値及び振動伝達効率評価レベルの値を出力する処理ステップである。この場合、出力ステップS17では、可動性評価ステップS13により分類された可動性評価レベルの値を出力する処理が実行される。
【0098】
一方、評価項目判断ステップS11において、「振動伝達効率を評価する」と判断された場合には、蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14以降の処理が実行される。
【0099】
蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14は、蝸牛窓または蝸牛窓近傍に電極600を設置し、加振ステップS10により耳小骨900に振動を与えているときの蝸牛マイクロホン電位を検出する処理ステップである。
【0100】
増幅ステップS15は、蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14により検出された蝸牛マイクロホン電位を増幅する処理ステップである。
【0101】
振動伝達効率評価ステップS16は、増幅ステップS15により増幅した蝸牛マイクロホン電位に基づき、耳小骨900の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する処理ステップである。
【0102】
出力ステップS17では、振動伝達効率評価ステップS16により分類された振動伝達効率評価レベルの値を出力する処理が実行される。
【0103】
以上の一連の処理が実行されることにより、探針103を用いた中耳手術の術中に、耳小骨900の可動性及び振動伝達効率を定量的に評価することができるので、聴力回復の程度を定量的に判断しつつ中耳手術を行うことができる。
【0104】
なお、上記実施形態は本発明の原理とその効果を説明するための例示にすぎず、本発明を限定するものではない。当該技術を熟知する者は、本発明の趣旨と範囲を離反しないことを前提として、上記実施形態に追加または変更を加えることが可能である。すなわち、当業者が本発明の趣旨および技術思想を超えないことを前提に実施したあらゆる等価の追加または変更は、本発明の特許請求の範囲によってカバーされる。
【0105】
例えば、上記実施形態では、可動性評価レベル及び振動伝達効率評価レベルがそれぞれ「1」から「5」の5段階ある場合を例示して説明したが、それぞれ4段階以下としてもよく、6段階以上としてもよい。また、可動性評価レベルの段階数と振動伝達効率評価レベルの段階数は同じである必要はない。
【0106】
また、上記実施形態では、可動性評価部331及び振動伝達効率評価部332において実施される周波数解析の例としてFFT解析を挙げたが、その他の周波数解析を実施することにより、特定の周波数成分値を求めるようにしてもよい。その他の周波数解析にはウェーブレット変換が含まれる。
【0107】
また、上記実施形態では、マグネット136を球状に形成し、マグネット136が窪み103aの内面に点接触する構成としたが、マグネット136の形状は、球状に限定されず、窪み103aの内面に部分接触し得る形状であればどのような形状であってもよい。例えば、円錐状、角錐状など錐状のマグネット136を採用することも可能である。また、窪み103aの内面に対するマグネット136の接触形態は、点接触に限らず、線接触又は面接触であってもよい。
【0108】
ここで、支点用金具109の変形例について
図11を用いて説明する。
図11は支点用金具109の変形例における(a)探針103を外した状態の斜視図、(b)探針103を取り付けた状態の断面図である。
この支点用金具109Bでは、マグネット136Bが、支点用金具109Bの土台135Bの底面に設けられた凹部137に内蔵されている。
【0109】
また、探針103の窪み103aは、探針103が延びる方向に沿う縦断面視で三角形状をなしている。
支点用金具109の土台135Bの内面のうち、探針103が載置される底面には、探針103が延びる方向に沿う縦断面視で三角形状をなす支持突部138が形成されている。支持突部138が窪み103aと線接触している。
【0110】
またこの変形例では、支点用金具109Bの土台135Bの内面のうち、探針103が接する側面に、テフロン樹脂により形成された摺動面139が形成されている。
このように、探針103が摺動面139と接しながら振動することで、探針103の動作を滑らかにして、精度よく計測を行うことができる。
【0111】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、以下の説明において、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。また、第1実施形態と同一の作用および効果についても、その説明を省略する。
【0112】
(中耳伝音特性評価システム2の構成)
図12は、中耳伝音特定評価システム2の構成の一例を示すシステム図であり、
図13は中耳伝音特定評価システム2の機能構成を示すブロック図である。
中耳伝音特定評価システム2は、前述した中耳伝音特定評価システム1に対して、測定されたデータを蓄積し、蓄積したデータに基づいて、最適な手術内容を提案する機能が更に付与されている。また、本実施形態の計測プローブ100Bは、前述した計測プローブ100に対して、剛性、清潔性、防水性が向上されている。これらの点について、以下に説明する。
【0113】
図12および
図13に示すように、本実施形態に係る中耳伝音特性評価システム2には、計測プローブ100を制御する制御装置200を備えている。制御装置200は、電源、コンバータ、ドライバを備えている。また増幅器500と接続され、増幅器で増幅された蝸牛マイクロホンの電位値は、制御装置200を介して情報処理装置300Bに伝達される。
【0114】
また、本実施形態のデータベース700Bは、手術による処置前、処置中、および処置後において力センサが出力したセンサ電圧値、電極600から検出された電位値、および処置の内容を蓄積する。
【0115】
また、データベース700Bは、耳小骨に想定される症状と、その時の可動性の値として数値シミュレーションにより算出された可動性解析値と、を蓄積する。ここで、数値シミュレーションの内容について
図14を用いて説明する。
図14は、解析シミュレーションのモデルを説明する図である。
【0116】
図14に示すように、本実施形態の中耳伝音特性評価システムでは、有限要素法解析(FEM解析)を用いた数値シミュレーションを行い、解析により得られた解析値をデータベース700Bに蓄積する。
有限要素法解析では、
図14の左側に示す中耳の構造を3Dモデルで再現し、これを有限で微小な体積要素に分割する。そして、3Dモデルの一部に外力を加えた際に、それぞれの体積要素において成立する運動方程式を解く。これにより、それぞれの体積要素の変位量が解析され、3Dモデル全体の挙動を評価することができる。
【0117】
そして、耳小骨を構成する3つの骨のうち、硬化や固着が発生する症状を想定し、それぞれの症状における可動性を解析する。可動性は、前述した式(1)を用いても評価することができる。これにより、想定された各症状に対応する可動性解析値を算出することができる。
【0118】
また、本実施形態の情報処理装置300Bにおける制御部330Bは、手術者に最適な手術内容を提案する手術内容提案部333を備えている。
手術内容提案部333は、処置前、処置中、および処置後において計測されたセンサ電圧値、および計測された電位値のうちの少なくともいずれか一方の値に基づいて、データベース700Bに蓄積されたセンサ電圧値、電位値、および手術の内容を参照して、最適な手術内容を提案する。ここで、手術内容とは、手術において患者の中耳に対して処置を行う場所や、処置の内容を意味する。
なお、手術内容提案部333は、処置前に計測された電圧値又は電位値だけを用いてもよい。処置後の値を用いることで、回復の程度を確認して、当該手術における処置方法の妥当性を評価することができる。
【0119】
すなわち、データベース700Bには、手術内容提案モデルが生成されている。
例えば手術内容提案モデルには、過去の実績として、処置前において計測されたセンサ電圧値から推定される可動性と、その時に実際に行われた手術の内容と、が記載されている。
【0120】
このため、これから手術を行う際に、患者の現状の耳小骨の可動性を、計測したセンサ電圧値から推定し、類似する症状において実際に行われた手術の内容を確認することで、患者の中耳に対して処置を行う場所や処置の内容を判断することができる。
また、手術内容提案モデルには、過去の実績として、処置中および処理後において計測されたセンサ電圧値から推定される可動性と、その時に実際に行われた手術の内容と、を記載してもよい。
【0121】
ここで、蓄積されたデータと、新たに測定したデータの類似性の評価方法としては、単純にセンサ電圧値の絶対値の大きさで評価してもよいし、電圧波形の形状を比較して評価してもよい。
【0122】
また、手術内容提案モデルには、過去の実績として、処置前において検出された検出された蝸牛マイクロホンの電位差から推定される振動伝達効率と、その時に実際に行われた手術の内容と、が記載されている。
【0123】
このため、これから手術を行う際に、患者の現状の振動伝達効率を、検出した蝸牛マイクロホンの電位値から推定し、類似する症状において実際に行われた手術の内容を確認することで、患者の中耳に対して処置を行う場所や処置の内容を判断することができる。
また、手術内容提案モデルには、過去の実績として、処置中および処置後において検出された蝸牛マイクロホンの電位値から推定される振動電圧効率と、その時に実際に行われた手術の内容と、を記載してもよい。
【0124】
ここで、蓄積されたデータと、新たに測定したデータの類似性の評価方法としては、単純に蝸牛マイクロホンの電位値の絶対値の大きさで評価してもよいし、電圧波形の形状を比較して評価してもよい。
【0125】
また、手術内容提案部333は、手術前において計測されたセンサ電圧値に基づいて、データベース700Bに蓄積された想定される症状、および可動性解析値を参照して、最適な手術内容を提案する。
すなわち、手術内容提案モデルに、数値シミュレーションにより得られた可動性解析を記載してゆくことで、例えば、処置前の状態で測定されたセンサ電圧値から推定される耳小骨の可動性が、可動性解析値と類似する場合には、数値シミュレーションで想定された耳小骨の症状と、患者の症状が近いと判断することができる。
このようにして、過去の手術の実績が少ない場合であっても、適切な手術の内容として、一定の妥当性のある選択を行うことができる。
【0126】
ここで、蓄積されたデータと、新たに測定したデータの類似性の評価方法としては、単純に絶対値の大きさで評価してもよいし、電圧波形の形状を比較して評価してもよい。
【0127】
次に、
図15から
図21を参照して、本発明の計測プローブ100Bの第3構造例について説明する。なお、以下の説明では、第2構造例と同一の構成については同一の符号を付し、異なる構成についてのみ説明する。
また、以下の説明において、便宜上、探針103が延びる方向を前後方向という。そして、上カバー側から探針103を見た平面視(上面視)で、前後方向と直交する方向を左右方向という。
【0128】
ここで、
図15は、計測プローブ100Bの第3構造例における分解斜視図である。
図16は、計測プローブ100Bの斜視図である。
図17(a)は、計測プローブ100Bの平面図である。
図17(b)は、計測プローブ100Bの側面図である。
図18は、計測プローブ100Bの縦断面図である。
図19は、支点用金具周辺の拡大斜視図である。
図20は、先端部周辺の断面図である。
図21はアクチュエータケース周辺の断面図である。
【0129】
図15から
図17に示すように、第3構造例に係る計測プローブ100Bの外観は、第2構造例に係る計測プローブ100と類似している。
図15に示すように、計測プローブ100Bは、探針103を支持した状態で、支点用金具109Cが収容される第1収容凹部181を備えた金属フレーム180を備えている。
金属フレーム180は側面視で下カバーA106に沿う形状を呈し、前後方向に延びている。金属フレーム180は下カバーA106の内部に収容されて固定ねじ125により下カバーA106に固定されている。
【0130】
図18に示すように、金属フレーム180には、3つの収容凹部が形成されている。金属フレーム180の前方の上面には、下方に向けて窪む第1収容凹部181が形成されている。
第1収容凹部181に、支点用金具109Cが収容されている。第1収容凹部181は、上面視で支点用金具109Cと同等の大きさをなす矩形状を呈している。
【0131】
また、金属フレーム180の前方の下面には、上方に向けて窪む第2収容凹部182が形成されている。
第2収容凹部182には、支点用金具109Cを固定する固定用マグネット235が収容されている。すなわち、金属フレーム180には、固定用マグネット235が内蔵されている。
固定用マグネット235は円柱状を呈している。第2収容凹部182は、下面視で固定用マグネット235と同等の大きさをなす円形状を呈している。
【0132】
また、金属フレーム180の後方の上面には、下方に向けて窪む第3収容凹部183が形成されている。
第3収容凹部183には、アクチュエータ116、圧電センサ117、およびアクチュエータケース140が収容されている。
アクチュエータケース140は、固定ねじ125により金属フレーム180に固定されている。また、第2上カバーB102の前方が、金属フレーム180と固定ねじ125により固定されている。
【0133】
計測プローブ100Bの支点用金具109Cは、探針103を左右方向の両側から覆うように形成されている。
また、支点用金具109Cは、上面視で探針103と直交して延び、かつ探針103を上下方向に回動自在に支持する回転軸150を備えている。
【0134】
図19に示すように、回転軸150は、探針103を回転自在に支持した状態で、支点用金具109Cに溶接により固定されている。すなわち、回転軸150は、探針103および支点用金具109Cを貫くように配置されている。
探針103の挿入孔103d(
図20参照)に、回転軸150が隙間をあけて挿入されている。
【0135】
図18に示すように、計測プローブ100Bは、それぞれが合成樹脂材料により形成された第1上カバー101、第2上カバーB102、および下カバーA106から構成されるカバーを備えている。
カバーは、第1上カバー101と下カバーA106とにより形成される開口部160を有している。
【0136】
図20に示すように、開口部160は、探針103の先端部103bが、外側に向けて突き出すように形成されている。
そして、計測プローブ100Bは金属キャップ170を備えている。金属キャップ170は、カバーの開口部160と同軸をなす筒状をなし、開口部160に着脱自在に取り付けられている。
【0137】
図20に示すように、金属キャップ170は、二つの筒体が同軸に配置された二重筒構造になっている。すなわち、金属キャップ170は、径方向の外側に配置された外筒171と、外筒171の内側に配置された内筒172と、を備えている。
外筒171および内筒172それぞれにおける前方側の開口端部同士が、互いに連結されている。
【0138】
外筒171の内周面には、雌ねじ部171aが形成されている。外筒171の外周面には、径方向の内側に向けて窪む外周凹部171bが形成されている。
第1上カバー101と下カバーA106とにより形成される開口部160は筒状をなし、外周面に雄ねじ部160aが形成されている。開口部160は、開口部160の後方に位置する部分よりも縮径されている。
【0139】
そして、金属キャップ170は、外筒171の雌ねじ部171aが、開口部160の雄ねじ部160aに装着されることで、カバーに取り付けられる。
この際、例えばカバー全体を滅菌シートで被覆し、滅菌シート(図示せず)の端部を、外筒171の外周凹部171bに巻き付けたテープ等により縛ることで、滅菌シートをカバーに固定することができる。ここで、金属キャップ170を個別に加熱処理をしておくことで、計測プローブ100B全体を清潔に保つことができる。
【0140】
金属キャップ170における外筒171の外周面と、カバーのうち、開口部160の後方に位置する部分と、が径方向に面一となっている。
開口部160の内側に、金属キャップ170の内筒172が挿入されている。内筒172の内側に、探針103が挿通されている。
【0141】
また、
図21に示すように、計測プローブ100Bは、アクチュエータ116を覆うアクチュエータケース140を備えている。アクチュエータケース140の内側は、水密構造となっている。
アクチュエータケース140は、上下方向に開口するケース本体141と、ケース本体141の上方を被覆する防水シート142と、防水シート142をケース本体141に固定するシート固定枠143と、を備えている。
【0142】
ケース本体141は、2段の角筒状に形成されている。ケース本体141は、上側に位置する上筒と、下側に位置する下筒と、を備えている。上筒および下筒は一体に形成され、互いに同軸に配置されている。
【0143】
ケース本体141は、上面視で左右方向よりも前後方向に長い長方形状を呈している。ケース本体141の上筒141Aは、下筒141Bよりも前後方向に小さくなっている。上筒141Aは、下筒141Bの上面のうち、前後方向の中央部に配置されている。
【0144】
ここで、アクチュエータケース140の内部構造について説明する。
金属フレーム180の第3収容凹部183にアクチュエータ116および圧電センサ117を収容した状態で、金属フレーム180がケース本体141に載置されている。金属フレーム180とケース本体141との間には、防水用のOリング190が配置されている。
【0145】
防水シート142は、有頂筒状に形成されるとともに、下端部が径方向の外側に向けて突出している。防水シート142の頂部には、連通孔142Aが形成されている。
防水シート142は、ケース本体141の上筒141A全体を被覆するとともに、下端部が下筒141Bの上面に接している。
【0146】
下筒141Bの上面のうち、上面視で上筒141Aの外側に位置する部分には、シート固定枠143が配置されている。
シート固定枠143は上面視で矩形状を呈している。防水シート142の下端部は、シート固定枠143と、ケース本体141の下筒141Bの上面と、に挟まれることで固定されている。シート固定枠143は、接着剤により下筒141Bの上面に固着されている。
【0147】
本実施形態では、圧電センサ117の上部に、探針保持金具147が配置されている。探針保持金具147は、防水シート142の連通孔142Aに配置され、防水シート142の上側の空間と接触している。
探針保持金具147は、防水シート142の頂部の下面に、接着剤により固着されている。このように、アクチュエータケース140を構成するそれぞれの部品と他の部品との境目に、Oリングや接着剤が配置されていることで、アクチュエータケース140の内側が水密構造となっており、計測プローブ100Bが防水性を備えている。
【0148】
(中耳伝音特性評価システム2が実行する処理)
次に、
図22のフローチャートを参照して、本実施形態の中耳伝音特性評価システム2が実行する処理の一例について説明する。
本実施形態の中耳伝音特性評価システム2は、加振ステップS10、評価項目判断ステップS11、電圧測定ステップS12、可動性評価ステップS13、蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14、増幅ステップS15、振動伝達効率評価ステップS16、出力ステップS17、データ確認ステップS18、データ蓄積ステップS19、および手術内容提案ステップS20からなる一連の処理を実行する。
なお、S10からS17については、前述した内容と重複するため、その説明を省略する。
【0149】
データ確認ステップS18では、手術内容提案部333が、手術内容を提案するために必要なデータが揃っているかどうかを確認する。ここで、手術内容を提案するために必要なデータとは、センサ電圧値および蝸牛マイクロホンの電位値を指す。
【0150】
手術内容提案部333は、最適な手術内容の提案にあたって、センサ電圧値又は蝸牛マイクロホンの電位値のいずれかのみを用いてもよいし、両方を用いてもよい。
そして、手術内容提案部333が行う手術内容の提案に必要なデータが揃っていると判断すると(S18のOK)、データ蓄積ステップS19に進み、必要なデータが揃っていないと判断すると(S18のNG)、評価項目判断ステップS11に戻る。
【0151】
次に、データ蓄積ステップS19では、データ確認ステップS18で確認した、センサ電圧値、蝸牛マイクロホンの電位値、および手術の内容を、データベース700Bに蓄積する。
ここで、各データは、出力ステップS17により出力されたデータを、データベース700Bに蓄積することができる。
【0152】
また、データ蓄積ステップS19では、処置中、および処置後において計測されたセンサ電圧値、および蝸牛マイクロホンの電位値を蓄積してもよい。
更にデータ蓄積ステップS19では、数値シミュレーションにより算出された可動性解析値と、当該解析において想定される症状の内容と、を蓄積してもよい。この場合には、別途FEM(有限要素法)解析を別途実施して算出された可動性解析値を用いることができる。
【0153】
次に、手術内容提案ステップS20では、処置前において計測されたセンサ電圧値、および計測された電位値のうちの少なくともいずれか一方の値に基づいて、データベース700Bに蓄積されたセンサ電圧値、電位値、および手術の内容を参照して、最適な手術内容を提案する。
これにより、蓄積されたデータの中から、最も類似するデータを用いて、患者の中耳に対して処置を行う場所や方法を選択することができる。
【0154】
また、データ蓄積ステップでは、処置中、および処置後において計測されたセンサ電圧値、および蝸牛マイクロホンの電位値を参照してもよい。
これにより、手術の経過とともに変化してゆく中耳伝音特性を即座に評価して、患者の中耳に対して処置を行っている場所が正しいかどうかや、処置の内容が正しいかどうかをその場で確認することができる。
【0155】
以上の一連の処理が実行されることにより、探針103を用いた中耳手術の術中に、耳小骨900の可動性及び振動伝達効率を定量的に評価することができるので、聴力回復の程度を定量的に判断しつつ中耳手術を行うことができる。
更に、データベース700Bに蓄積される情報に基づいて、手術内容提案部333が処置を行うべき場所やその方法を提案するので、仮に術者の経験値がそれほど多くないような場合であっても、過去に蓄積された手術の内容や解析値を用いて、適切な手術を行うことができる。
【0156】
以上説明したように、本実施形態に係る中耳伝音特性評価システム2によれば、データベース700Bには、処置前において力センサが出力したセンサ電圧値、電極600から検出された電位値、および前記手術の内容が蓄積されている。
そして、手術内容提案部333が、手術前において計測されたセンサ電圧値、および計測された前記電位値のうちの少なくともいずれか一方の値に基づいて、データベース700Bに蓄積されたセンサ電圧値、電位値、および手術の内容を参照して、最適な手術内容を提案する。このため、過去の手術における経験を活用して、不具合のある箇所の特定、および処置の選択を容易にし、最適な手術内容を提案することができる。
【0157】
また、データベース700Bが、想定される症状と、その症状の際の可動性の値としての可動性解析値と、を備え、手術内容提案部333が、これらの情報も用いて最適な手術内容を提案する。このため仮に実績値の蓄積が少ないような場合であっても、数値シミュレーションにより得られた可動性解析値を用いて、最適な手術内容を提案することができる。
【0158】
また、データベース700Bが、処置中、および処置後において計測されたセンサ電圧値、および蝸牛マイクロホンで検出された電位値を蓄積し、手術内容提案部333が、こられの情報も用いて最適な手術内容を提案する。このため、手術の途中や手術後における可動性や振動伝達効率の状態を確認しながら手術を行うことが可能により、より一層確実な手術方法を選択することができる。
【0159】
また、計測プローブ100Bにおいて、支点用金具109Cが、探針103を左右方向の両側から覆うように形成されるとともに、探針103を、上下方向に回動自在に支持する回転軸150を備えている。そして、回転軸150が、探針103および支点用金具109Cを貫くように配置されている。このため、探針103が常に回転軸150により支点用金具109Cと接続されている状態となり、探針103が振動する際に、支点用金具109Cから探針103が外れることを確実に抑制することができる。
【0160】
また、計測プローブ100Bが、探針103を支持した状態で、支点用金具109Cが収容される収容凹部を備えた金属フレーム180を備えている。
このため、計測プローブ100B全体の質量や剛性を高めることが可能になり、アクチュエータ116の振動により、計測プローブ100Bが振動してノイズとなる振動を発生するのと抑えることができる。
【0161】
また、金属フレーム180に、支点用金具109Cを固定する固定用マグネット235が内蔵されている。このため、支点用金具109Cを金属フレーム180から着脱自在としながらも、固定用マグネット235の着磁力により、金属フレーム180を支点用金具109Cに保持することができる。これにより、探針103の交換の容易性を確保しながら、探針103の位置ずれを抑えることができ、計測プローブ100Bの利便性を向上することができる。
【0162】
また、探針103の先端部が、外側に向けて突き出すように形成された開口部160を有するカバーを備え、カバーの開口部160には、金属キャップ170が着脱自在に取り付けられている。
このため、例えば滅菌シートで計測プローブ100Bを被覆するような場合において、金属キャップ170のみに加熱消毒を行った後に、上カバーおよび下カバーA106を覆う滅菌シートを、この金属キャップ170を用いて開口部160に固定することができる。
これにより電子部品により構成された計測プローブ100B全体の加熱消毒が難しい場合であっても、清潔な状態で使用することができる。
【0163】
また、計測プローブ100Bが、アクチュエータ116を覆うアクチュエータケース140を備え、アクチュエータケース140の内側が、水密構造となっている。このため、手術において患者の血液や体液が探針103をつたって計測プローブ100Bの内側に進入してくるような場合であっても、アクチュエータケース140の内側に配置された電子部品に支障をきたすことを回避することができる。
【0164】
なお、上記実施形態は本発明の原理とその効果を説明するための例示にすぎず、本発明を限定するものではない。当該技術を熟知する者は、本発明の趣旨と範囲を離反しないことを前提として、上記実施形態に追加または変更を加えることが可能である。すなわち、当業者が本発明の趣旨および技術思想を超えないことを前提に実施したあらゆる等価の追加または変更は、本発明の特許請求の範囲によってカバーされる。
【0165】
例えば、本実施形態では、手術内容提案部333が、計測されたセンサ電圧値、および蝸牛マイクロホンの電位値のうちの少なくともいずれか一方の値に基づいて、最適な手術内容を提案する構成を示したが、このような態様に限られない。
すなわち、計測されたセンサ電圧値の大きさを示す指標として、可動性評価部331が分類した可動性評価レベルの値を用いてもよいし、蝸牛マイクロホンの電位値の大きさを示す指標として、振動伝達効率評価部332が分類した振動伝達効率評価レベルの値を用いてもよい。
【0166】
また、本実施形態では、増幅ステップS15において、電極600が検出した蝸牛マイクロホンの電位が増幅される構成を示したが、このような態様に限られない。増幅ステップS15を行うことなく、蝸牛マイクロホンから検出された電位値をそのまま用いて、後の各ステップを行ってもよい。
【0167】
また、本実施形態で説明した各ステップの順番は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意に変更することができる。すなわち、各ステップのうちの複数のステップを同時並行して行ってもよい。
【0168】
(付記)
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0169】
(1): 探針(探針103)と、
前記探針を振動させるアクチュエータ(アクチュエータ116)と、
前記探針の先端部(先端部103b)を耳小骨(耳小骨900)に接触させたときに前記アクチュエータにかかる反力に応じた電圧を出力する力センサ(圧電センサ117、チャージアンプ112)と、
を含む計測プローブ(計測プローブ100)と、
前記力センサから出力された電圧に基づいて、前記耳小骨の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する可動性評価部(可動性評価部331)と、
蝸牛窓または蝸牛窓近傍に設置し、前記探針により前記耳小骨に振動を与えているときの蝸牛マイクロホン電位を検出するための電極(電極600)と、
検出した前記蝸牛マイクロホン電位を増幅する増幅器(増幅器500)と、
増幅した前記蝸牛マイクロホン電位に基づき、前記耳小骨の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する振動伝達効率評価部(振動伝達効率評価部332)と、
前記可動性評価部により分類された前記可動性評価レベルの値及び前記振動伝達効率評価部により分類された前記振動伝達効率評価レベルの値を出力する出力部(出力部800、音声出力部340、表示装置400)と、
を備える中耳伝音特性評価システム(中耳伝音特性評価システム1)。
【0170】
(2): 前記可動性評価レベルの値及び前記振動伝達効率評価レベルの値を評価データとして蓄積するデータベース(データベース700)を更に備える、(1)に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0171】
(3): 前記データベースには、手術による処置前、処置中及び処置後における前記評価データが蓄積される、(2)に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0172】
(4): 前記可動性評価部は、前記力センサから出力された電圧の特定の周波数成分の大きさを求め、当該大きさに基づいて前記耳小骨の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する、(1)乃至(3)のいずれか1に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0173】
(5): 前記振動伝達効率評価部は、前記増幅器から出力された電圧の特定の周波数成分の大きさを求め、当該大きさに基づいて前記耳小骨の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する、(1)乃至(4)のいずれか1に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0174】
(6): 前記探針は、その重心付近と基端部(基端部103c)の2点において、固定支点と前記力センサにより取り外し可能に支持され、
前記アクチュエータは、前記探針の重心付近の支点を中心として一定振幅の振動を与え、
前記力センサは、圧電センサ(圧電センサ117)およびチャージアンプ(チャージアンプ112)を含み、前記圧電センサは前記アクチュエータが前記探針に与えている力を前記探針により加えられることで電荷信号を発生させ、前記チャージアンプは、前記発生した電荷信号を電圧に変換して出力し、
前記可動性評価部は、前記計測プローブから出力された電圧に基づき、周波数解析をして、前記特定の周波数成分の大きさを求める、(4)に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0175】
(7): 前記探針は、その重心付近に窪み(窪み103a)が形成され、
前記支点は、前記窪みに嵌めて支持するためのマグネット(マグネット136)を備え、前記マグネットは、前記窪みの内面に部分接触する、(6)に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0176】
(8): 前記計測プローブは、
前記探針に弾性的に接する弾性体(板バネ107)を備える、(6)または(7)に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0177】
(9): 前記アクチュエータは、5Hz以上の周波数で前記探針を振動させ、
前記特定の周波数成分は、5Hz以上の周波数成分である、(6)乃至(8)のいずれか1に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0178】
(10): 前記計測プローブは、前記支点と前記アクチュエータとの相対位置を一定に保ち得る剛性及び前記アクチュエータの振動に抗し得る慣性力とを前記計測プローブに付与する剛性・慣性力付与部材(下カバーA106)を備える(6)乃至(9)のいずれか1に記載の中耳伝音特性評価システム。
【0179】
(11): アクチュエータにより振動させた探針の先端部を耳小骨に接触させることにより前記耳小骨に振動を与える加振ステップ(加振ステップS10)と、
前記探針の先端部を耳小骨に接触させたときの前記アクチュエータにかかる反力に応じた電圧を出力する電圧測定ステップ(電圧測定ステップS12)と、
前記電圧に基づいて、前記耳小骨の可動性を複数段階の可動性評価レベルのいずれかに分類する可動性評価ステップ(可動性評価ステップS13)と、
蝸牛窓または蝸牛窓近傍に電極を設置し、前記加振ステップにより前記耳小骨に振動を与えているときの蝸牛マイクロホン電位を検出する蝸牛マイクロホン電位検出ステップ(蝸牛マイクロホン電位検出ステップS14)と、
検出された前記蝸牛マイクロホン電位を増幅する増幅ステップ(増幅ステップS15)と、
増幅した前記蝸牛マイクロホン電位に基づき、前記耳小骨の振動伝達効率を複数段階の振動伝達効率評価レベルのいずれかに分類する振動伝達効率評価ステップ(振動伝達効率評価ステップS16)と、
前記可動性評価ステップにより分類された可動性評価レベルの値及び前記振動伝達効率評価ステップにより分類された前記振動伝達効率評価レベルの値を出力する出力ステップ(出力ステップS17)と、
を有する中耳伝音特性評価方法。
【解決手段】本発明の中耳伝音特性評価システムは、探針と、探針を振動させるアクチュエータ、および探針の先端部を耳小骨に接触させたときにアクチュエータにかかる反力に応じた電圧を出力する力センサを含む計測プローブと、蝸牛窓または蝸牛窓近傍に設置し、探針により耳小骨に振動を与えているときの蝸牛マイクロホンの電位値を検出するための電極と、手術による処置前において力センサが出力したセンサ電圧値、電極から検出された電位値、および手術の内容を蓄積するデータベースと、手術前において計測されたセンサ電圧値、および計測された電位値のうちの少なくともいずれか一方の大きさに基づいて、データベースに蓄積されたセンサ電圧値、電位値、および手術の内容を参照して、最適な手術内容を提案する手術内容提案部と、を備えている。