特許第6596197号(P6596197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596197
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20191010BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20191010BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20191010BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20191010BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01L29/78 658F
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 652T
   H01L21/265 Z
   H01L21/265 602A
   H01L21/316 P
   H01L21/316 S
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-185718(P2014-185718)
(22)【出願日】2014年9月11日
(65)【公開番号】特開2016-58659(P2016-58659A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年5月26日
【審判番号】不服2018-10126(P2018-10126/J1)
【審判請求日】2018年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】須ケ原 紀之
(72)【発明者】
【氏名】堤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】巻渕 陽一
(72)【発明者】
【氏名】荒岡 幹
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】原田 信介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光央
【合議体】
【審判長】 恩田 春香
【審判官】 鈴木 和樹
【審判官】 飯田 清司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/074237(WO,A1)
【文献】 特開2010−80787(JP,A)
【文献】 特開2011−165941(JP,A)
【文献】 特開2014−154667(JP,A)
【文献】 特開平11−31691(JP,A)
【文献】 特開2002−75984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/336
H01L29/78
H01L29/12
H01L21/265
H01L21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型炭化珪素基板のおもて面上に、前記第1導電型炭化珪素基板よりも不純物濃度の低い第1導電型炭化珪素層を形成する第1工程と、
前記第1導電型炭化珪素層の表面領域の一部に第1の第2導電型領域を形成する第2工程と、
前記第1の第2導電型領域の表面領域に第1導電型ソース領域を形成する第3工程と、
前記第1の第2導電型領域の表面領域に、前記第1の第2導電型領域よりも不純物濃度の高い第2の第2導電型領域を形成する第4工程と、
熱処理炉内を窒素のみの雰囲気中で昇温し、NOのみの雰囲気中で700℃以上の酸化処理を行い、前記第1の第2導電型領域の、前記第1導電型炭化珪素層と前記第1導電型ソース領域とに挟まれた領域の表面上に、ゲート酸化膜を形成する第5工程と、
水蒸気(H2O)雰囲気によるPOA処理を行う第6工程と、
窒素の雰囲気で前記熱処理炉を冷却して、200℃以上400℃未満の炉出し温度で前記熱処理炉から取り出し、伝導帯エネルギーレベルをEcとし、測定されたエネルギーレベルをEとするとき、炭化珪素半導体と前記炭化珪素半導体上の前記ゲート酸化膜との界面における、0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値を、1.8×1011/cm2/eV以下にする第工程と、
前記ゲート酸化膜の上にゲート電極を形成する第工程と、
前記第1導電型ソース領域及び前記第2の第2導電型領域に電気的に接続するソース電極を形成する第工程と、
前記第1導電型炭化珪素基板の裏面上にドレイン電極を形成する第10工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)の単結晶基板など、炭化珪素を材料に用いた半導体装置として、ショットキーバリアダイオードやプレーナー型縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field−Effect Transistor、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が製品化されている。従来の炭化珪素MOSFETでは、ゲート酸化膜と炭化珪素との界面における界面準位密度が大きいため、チャネル移動度が小さく、素子抵抗が大きい。
【0003】
炭化珪素MOSFETを製造する際に、乾燥酸素によるゲート酸化処理の後に、水蒸気によるPOA(Post Oxidation Anneal)処理を行うことによって、チャネル移動度が改善されることが知られている。例えば、乾燥酸素によるゲート酸化処理の後にPOA処理を行わない場合のチャネル移動度が6cm2/V/sであるのに対して、ゲート酸化処理後に水蒸気によるPOA処理を行った場合のチャネル移動度が25cm2/V/s程度にまで改善することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、炭化珪素MOSFETでは、ゲート酸化膜が厚いため、1100℃以上の高温でPOA処理が行われることがある。POA処理に要する時間を短縮するには、熱処理炉にウェハを入れるときの温度や熱処理炉からウェハを出すときの温度を高く設定し、設定温度までの昇温時間及び設定温度からの降温時間を短縮するのが望ましい。そのため、ウェハを出し入れするときの熱処理炉の温度は、例えば700℃程度であることが多い。一方、炉内温度を室温まで冷却してから熱処理炉からウェハを出す方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】荒井和雄、外1名、「SiC素子の基礎と応用」、オーム社、203年3月26日
【非特許文献2】矢野裕司、外4名、「時定数の長いトラップに起因した4H−SiC MOSFET 特性の変動」、SiC及び関連ワイドギャップ半導体研究会第18回講演会 神戸国際会議場 P−92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱処理炉からウェハを出すときの温度が高いと、炉からウェハを出すときにウェハボート周辺の大気中の乾燥酸素によって意図しない酸化反応が起こることがある。この意図しない酸化反応が起こると、炭化珪素半導体とゲート酸化膜との界面における界面準位密度が高くなるため、チャネル移動度が小さくなってしまうという問題点がある。一方、室温まで冷却してからウェハを出す場合には、降温速度を毎分5℃に設定しても、400℃程度以下になると毎分3℃程度になり、200℃程度以下になると毎分1.5℃程度になってしまうため、例えば1100℃から室温まで冷却するのに、実際には半日以上の時間が必要となる。それによって、ゲート酸化工程の全所要時間が、例えばウェハの炉出し温度が700℃である場合には6時間程度であったのに対して、室温でウェハを出す場合には18時間程度に増えてしまうため、生産性が1/3に低下してしまうという問題点がある。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、生産性の低下を最小限に抑えつつ、高いチャネル移動度を有する炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1導電型炭化珪素基板のおもて面上に、前記第1導電型炭化珪素基板よりも不純物濃度の低い第1導電型炭化珪素層を形成する第1工程と、前記第1導電型炭化珪素層の表面領域の一部に第1の第2導電型領域を形成する第2工程と、前記第1の第2導電型領域の表面領域に第1導電型ソース領域を形成する第3工程と、前記第1の第2導電型領域の表面領域に、前記第1の第2導電型領域よりも不純物濃度の高い第2の第2導電型領域を形成する第4工程と、熱処理炉内を窒素のみの雰囲気中で昇温し、NOのみの雰囲気中で700℃以上の酸化処理を行い、前記第1の第2導電型領域の、前記第1導電型炭化珪素層と前記第1導電型ソース領域とに挟まれた領域の表面上に、ゲート酸化膜を形成する第5工程と、水蒸気(H2O)雰囲気によるPOA処理を行う第6工程と、窒素の雰囲気で前記熱処理炉を冷却して、200℃以上400℃未満の炉出し温度で前記熱処理炉から取り出し、伝導帯エネルギーレベルをEcとし、測定されたエネルギーレベルをEとするとき、炭化珪素半導体と前記炭化珪素半導体上の前記ゲート酸化膜との界面における、0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値を、1.8×1011/cm2/eV以下にする第工程と、前記ゲート酸化膜の上にゲート電極を形成する第工程と、前記第1導電型ソース領域及び前記第2の第2導電型領域に電気的に接続するソース電極を形成する第工程と、前記第1導電型炭化珪素基板の裏面上にドレイン電極を形成する第10工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、界面準位密度が十分に低いため、高いチャネル移動度が実現される。
【0012】
この発明によれば、高いチャネル移動度を有する縦型の炭化珪素MOS(Metal Oxide Semiconductor、金属−酸化膜−半導体)型半導体装置が得られる。
【0013】
この発明によれば、炉出し温度が200℃以上であることによって、例えば3時間〜4時間程度かかる200℃から室温までの冷却を行わずに済むため、生産性の低下を抑えることができる。炉出し温度が400℃未満であることによって、炉から炭化珪素半導体装置を出すときに意図しない酸化が進むのを抑えることができるため、界面準位密度が高くなるのを防ぎ、高いチャネル移動が得られる。
【0015】
この発明によれば、炉出し温度が200℃以上であることによって、例えば3時間〜4時間程度かかる200℃から室温までの冷却を行わずに済むため、生産性の低下を抑えることができる。炉出し温度が400℃未満であることによって、炉から炭化珪素半導体装置を出すときに意図しない酸化が進むのを抑えることができるため、界面準位密度が高くなるのを防ぎ、高いチャネル移動が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、生産性の低下を最小
限に抑えつつ、高いチャネル移動度を有する炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のゲート酸化処理における炉内温度変化の一例を示す温度プロファイル図である。
図3】本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のPOA処理における炉内温度変化の一例を示す温度プロファイル図である。
図4】界面準位密度の測定例を示す特性図である。
図5】本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書及び添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+及び−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度及び低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明及び添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
・炭化珪素半導体装置の一例
図1は、本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の一例を示す断面図である。図1に示すように、炭化珪素半導体装置は、N型の炭化珪素でできたn炭化珪素基板1、及びN型の炭化珪素でできたn-炭化珪素層2を備えている。n炭化珪素基板1は、例えば炭化珪素にN型不純物がドーピングされた炭化珪素単結晶基板であってもよい。n炭化珪素基板1は、例えばドレイン領域となる。
【0020】
-炭化珪素層2は、n炭化珪素基板1のおもて面上に設けられている。n-炭化珪素層2の不純物濃度は、n炭化珪素基板1よりも低い。n-炭化珪素層2は、例えば炭化珪素にN型不純物がドーピングされた半導体層であってもよい。n-炭化珪素層2は、例えばN型のドリフト層となる。
【0021】
炭化珪素半導体装置は、n炭化珪素基板1のおもて面側に、MOS構造として、例えばp領域3、nソース領域4、p+領域5、ゲート酸化膜6、ゲート電極7及びソース電極8を備えている。炭化珪素半導体装置は、n炭化珪素基板1の裏面側に、例えばドレイン電極9を備えている。
【0022】
p領域3は、n-炭化珪素層2の表面領域の一部に設けられている。p領域3は、n-炭化珪素層2の表面領域の別の一部を挟むように設けられている。p領域3は、例えば炭化珪素にP型不純物がドーピングされた半導体領域であってもよい。p領域3は、第1の第2導電型領域の一例である。
【0023】
nソース領域4は、p領域3の表面領域に設けられている。nソース領域4は、n-炭化珪素層2の、隣り合うp領域3とp領域3とに挟まれる表面領域から離れて設けられている。nソース領域4の不純物濃度は、n-炭化珪素層2よりも高い。
【0024】
+領域5は、p領域3の表面領域において、nソース領域4を挟んで、n-炭化珪素層2の、隣り合うp領域3とp領域3とに挟まれる表面領域の反対側に設けられている。p+領域5は、p領域3及びnソース領域4に接する。p+領域5の不純物濃度は、p領域3よりも高い。p+領域5は、第2の第2導電型領域の一例である。
【0025】
ゲート酸化膜6は、n-炭化珪素層2の、p領域3に挟まれる領域とnソース領域4とに挟まれたp領域3の表面上に設けられている。ここで、伝導体エネルギーレベルをEcとし、測定されたエネルギーレベルをEとする。p領域3とゲート酸化膜6との界面における、0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値は、1.8×1011/cm2/eV以下である。
【0026】
ゲート電極7は、ゲート酸化膜6の表面上に設けられている。
【0027】
ソース電極8は、nソース領域4及びp+領域5に接して設けられている。ソース電極8は、nソース領域4及びp+領域5に電気的に接続されている。ソース電極8は、図示しない層間絶縁膜によって、ゲート電極7から絶縁されている。
【0028】
ドレイン電極9は、n炭化珪素基板1の裏面上に設けられている。ドレイン電極9は、n炭化珪素基板1にオーミック接合している。
【0029】
図1に示す炭化珪素半導体装置の製造手順の一例
まず、N型の炭化珪素でできたn炭化珪素基板1を用意する。このn炭化珪素基板1のおもて面上に、例えばN型不純物をドーピングしながら炭化珪素でできたn-炭化珪素層2をエピタキシャル成長させる。
【0030】
次いで、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入法によって、n-炭化珪素層2の表面領域の、p領域3となる領域に、P型不純物をイオン注入する。次いで、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入法によって、p領域3となるイオン注入領域の、nソース領域4となる領域に、N型不純物をイオン注入する。
【0031】
次いで、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入法によって、p領域3となるイオン注入領域の、p+領域5となる領域に、P型不純物をイオン注入する。なお、p領域3を設けるためのイオン注入、nソース領域4を設けるためのイオン注入、及びp+領域5を設けるためのイオン注入の順序は、上述した順序に限らず、種々変更可能である。
【0032】
次いで、熱処理(アニール)を行って、例えばp領域3、nソース領域4及びp+領域5となる各イオン注入領域を活性化させる。それによって、p領域3、nソース領域4及びp+領域5ができる。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0033】
次いで、p領域3、nソース領域4及びp+領域5が設けられた側の面を熱酸化して、この面全体にゲート酸化膜6を設ける。ゲート酸化処理の後に、POA処理を行ってもよい。POA処理行うことによって、ゲート酸化膜6の膜質が改善される。ゲート酸化処理やPOA処理では、100〜150枚程度のウェハを同時に処理するバッチ式の縦型の拡散炉が用いられることがある。縦型の拡散炉では、ウェハボートと呼ばれる治具に載せられたウェハは、例えば700℃程度に保たれた拡散炉内をゆっくりと上昇していく。上昇が終わると予め設定されたプログラムに基づいて、温度上昇、ガスバルブの切り替え、ガス流量の変更及び温度下降などが行われる。処理が終わるとウェハボートはゆっくりと下降し、炉から取り出される。ゲート酸化処理やPOA処理における熱処理炉内の温度変化については、後述する。
【0034】
次いで、ゲート酸化膜6の上にゲート電極7を設ける。次いで、nソース領域4及びp+領域5に接するように、ソース電極8を設ける。次いで、n炭化珪素基板1の裏面上に、ドレイン電極9を設ける。そして、熱処理を行って、n炭化珪素基板1とドレイン電極9とをオーミック接合する。以上のようにして、図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0035】
・ゲート酸化処理における炉内温度変化の一例
図2は、本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のゲート酸化処理における炉内温度変化の一例を示す温度プロファイル図である。図2には、例えば炉入れ温度を700℃とし、NOガスによるゲート酸化処理の例が示されている。
【0036】
図2に示すように、窒素(N2)雰囲気中で例えば700℃から1300℃のプロセス温度まで昇温する。続いて、雰囲気をNOに切り替えて、例えば1300℃でゲート酸化処理を行う。続いて、窒素雰囲気に切り替えて200℃〜400℃の炉出し温度、例えば300℃まで、降温速度を例えば毎分5℃に設定して降温していく。本来、1300℃から300℃まで−5℃/分で降温できれば、破線で示すように200分で300℃に到達する。
【0037】
しかし、炉内温度が下がるに連れて、実線で示すように−5℃/分の降温速度に追従できなくなると考えられる。従って、降温を開始してからの経過時間で管理しないで、炉内温度が所定の炉出し温度、例えば300℃になっていることを確認して、ウェハボートの下降を始める必要がある。
【0038】
この機能を実現するには、所定の炉出し温度になっていなければ次のステップに進まないというプログラムを組めばよい。このような機能がない場合には、例えば1100℃〜800℃の降温速度を−5℃/分とし、800℃〜600℃の降温速度を−3℃/分とし、600℃〜300℃の降温速度を−1.5℃/分とする、などのように温度帯で降温速度を変えるようにしてもよい。
【0039】
・POA処理における炉内温度変化の一例
図3は、本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法のPOA処理における炉内温度変化の一例を示す温度プロファイル図である。図3には、例えば炉入れ温度を700℃とし、水蒸気(H2O)によるPOA処理の例が示されている。
【0040】
図3に示すように、窒素雰囲気中で例えば700℃から1100℃のプロセス温度まで昇温する。続いて、雰囲気を水蒸気に切り替えて、例えば1100℃でPOA処理を行う。続いて、窒素雰囲気に切り替えて200℃〜400℃の炉出し温度、例えば300℃まで、降温速度を例えば毎分5℃に設定して降温していく。本来、1100℃から300℃まで−5℃/分で降温できれば、破線で示すように160分で300℃に到達する。
【0041】
しかし、炉内温度が下がるに連れて、実線で示すように−5℃/分の降温速度に追従できなくなると考えられる。従って、降温を開始してからの経過時間で管理しないで、炉内温度が所定の炉出し温度、例えば300℃になっていることを確認して、ウェハボートの下降を始める必要がある。
【0042】
この機能を実現するには、所定の炉出し温度になっていなければ次のステップに進まないというプログラムを組めばよい。このような機能がない場合には、例えば1100℃〜800℃の降温速度を−5℃/分とし、800℃〜600℃の降温速度を−3℃/分とし、600℃〜300℃の降温速度を−1.5℃/分とする、などのように温度帯で降温速度を変えるようにしてもよい。
【0043】
・界面準位密度の測定例
図4は、界面準位密度の測定例を示す特性図である。図4において、縦軸は界面準位密度Ditであり、単位は/cm2/eVである。横軸は、伝導体エネルギーレベルEcと測定されたエネルギーレベルEとの差Ec−Eであり、単位はeVである。「ドライ酸化のみ」のプロットは、1300℃のN2Oガス雰囲気中でゲート酸化処理を行った後に700℃で炉出しを行い、POA処理を行わなかったサンプルのものである。「700℃炉出し」のプロットは、1300℃のN2Oガス雰囲気中でゲート酸化処理を行った後に、1100℃の水蒸気雰囲気中でPOA処理を行い、700℃で炉出しを行ったサンプルのものである。「300℃炉出し」のプロットは、1300℃のN2Oガス雰囲気中でゲート酸化処理を行った後に、1100℃の水蒸気雰囲気中でPOA処理を行い、300℃で炉出しを行ったサンプルのものである。「300℃炉出し」のサンプルは、実施の形態にかかるサンプルである。
【0044】
p領域3とゲート酸化膜6との界面における、0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値は、「ドライ酸化のみ」のサンプルで8×1012/cm2/eV程度であり、「700℃炉出し」のサンプルで5×1011/cm2/eV程度である。それに対して、「300℃炉出し」のサンプルの0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値は、1.8×1011/cm2/eVであり、「700℃炉出し」のサンプルの値の半分以下である。
【0045】
「ドライ酸化のみ」のサンプルでは、p領域3とゲート酸化膜6との界面にダングリングボンドなどの未結合手が多数存在し、それら未結合手がキャリアの捕獲源となる。従って、チャネル移動度が大きくならない。それに対して、ゲート酸化処理後に水蒸気によるPOA処理を行うと、ダングリングボンドが水酸基(−OH)などによって終端されるため、界面準位密度が小さくなり、キャリアを捕獲しにくくなる。従って、チャネル移動度が大きくなる。しかし、炉出し温度が400℃よりも高いと、炉出し時に意図しない酸化反応が起こり、POA処理によって水酸基で終端された界面が再びダングリングボンド化してしまい、界面準位密度が大きくなってしまうと考えられる。従って、400℃よりも高い温度で炉出しを行うことは、チャネル移動度が低下する原因の一つであると考えられる。
【0046】
実施の形態によれば、界面準位密度が十分に低いため、高いチャネル移動度を実現することができる。また、炉出し温度から室温までの冷却を行わずに済むため、生産性の低下を抑えることができる。また、炉出し時に意図しない酸化が進むのを抑えることができるため、界面準位密度が高くなるのを防ぐことができる。それによって、高いチャネル移動を実現することができる。従って、生産性の低下を最小限に抑えつつ、高いチャネル移動度を有する炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【0047】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、実施の形態中に記載した温度やガス種などは一例であり、本発明はそれらに限定されるものではない。また、各実施の形態では第1導電型をN型とし、第2導電型をP型としたが、本発明は第1導電型をP型とし、第2導電型をN型としても同様に成り立つ。また、例えば図5に示すように、炭化珪素基板のおもて面側に炭化珪素基板と異なる導電型のエピタキシャル層を有する炭化珪素半導体装置でも同様である。
【0048】
・炭化珪素半導体装置の別の例
図5は、本発明の実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の別の例を示す断面図である。図5に示すように、炭化珪素半導体装置は、n炭化珪素基板1及びn-炭化珪素層2を備えている。n炭化珪素基板1及びn-炭化珪素層2については、図1に示す例と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0049】
炭化珪素半導体装置は、n炭化珪素基板1のおもて面側に、MOS構造として、例えばp領域3、nソース領域4、p+領域5、ゲート酸化膜6、ゲート電極7、ソース電極8、pベース領域10、p炭化珪素層11及びn-領域12を備えている。炭化珪素半導体装置は、n炭化珪素基板1の裏面側に、例えばドレイン電極9を備えている。
【0050】
pベース領域10は、n-炭化珪素層2の表面領域の一部に設けられている。pベース領域10は、n-炭化珪素層2の表面領域の別の一部を挟むように設けられている。pベース領域10は、例えば炭化珪素にP型不純物がドーピングされた半導体領域であってもよい。
【0051】
p炭化珪素層11は、n-炭化珪素層2の表面上に設けられている。p炭化珪素層11は、例えば炭化珪素にP型不純物がドーピングされた半導体層であってもよい。
【0052】
-領域12は、n-炭化珪素層2の、隣り合うpベース領域10とpベース領域10との間の領域の表面上に、設けられている。n-領域12は、p炭化珪素層11を貫通して、n-炭化珪素層2の、隣り合うpベース領域10とpベース領域10との間の領域に接する。n-領域12の不純物濃度は、n炭化珪素基板1よりも低い。n-領域12は、例えばp炭化珪素層11の一部の導電型を、N型不純物のイオン注入及び熱処理によって反転させた領域であってもよい。n-領域12は、例えばn-炭化珪素層2とともにn型のドリフト領域となる。
【0053】
p領域3は、p炭化珪素層11の一部であり、pベース領域10の表面上に設けられている。p領域3は、n-領域12を挟むように設けられている。
【0054】
nソース領域4は、pベース領域10の上のp領域3の表面領域に設けられている。nソース領域4は、n-領域12から離れて設けられている。nソース領域4の不純物濃度は、n-領域12よりも高い。
【0055】
+領域5は、p炭化珪素層11において、p炭化珪素層11を貫通してpベース領域10に接する。p+領域5は、n-領域12から離れており、nソース領域4を挟んでn-領域12の反対側に設けられている。p+領域5は、p領域3及びnソース領域4に接する。p+領域5の不純物濃度は、p炭化珪素層11よりも高い。
【0056】
ゲート酸化膜6は、p炭化珪素層11において、p領域3の、n-領域12とnソース領域4とに挟まれた領域の表面上に設けられている。p領域3とゲート酸化膜6との界面における、0.2eV≦Ec−E≦0.3eVにおける界面準位密度の平均値は、1.8×1011/cm2/eV以下である。
【0057】
ゲート電極7、ソース電極8及びドレイン電極9については、図1に示す例と同様であるため、重複する説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、例えば炭化珪素基板上に形成されたスイッチングデバイスとして用いることができる炭化珪素半導体装置に有用であり、特に、炭化珪素でできた縦型のMOSFETなどの半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0059】
1 n炭化珪素基板
2 n-炭化珪素層
3 p領域
4 nソース領域
5 p+領域
6 ゲート酸化膜
7 ゲート電極
8 ソース電極
9 ドレイン電極
図1
図2
図3
図4
図5