(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る金属空気電池1の構成を示す図である。
図1の金属空気電池1は亜鉛イオンを利用する二次電池であり、亜鉛空気二次電池である。金属空気電池は、他の金属イオンを利用してもよい。金属空気電池1の本体11は中心軸J1を中心とする略円柱状であり、
図1では、中心軸J1に垂直な面における本体11の断面(後述の負極3を除く。)を示す。金属空気電池1は、正極2、負極3および電解質層4を備える。
【0020】
負極3(金属極とも呼ばれる。)は、中心軸J1を中心とするコイル状の部材である。本実施の形態における負極3は、断面が略円形の線状の部材を中心軸J1を中心として螺旋状に巻いた形状を有する。負極3は、導電性材料にて形成されるコイル状の基材、および、基材の表面に形成される析出金属層を備える。中心軸J1方向における負極3の端部には負極集電端子(図示省略)が接続される。
【0021】
上記基材を形成する材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、金(Au)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)等の金属、または、いずれかの金属を含む合金が例示される。本実施の形態では、基材は銅にて形成される。集電体を兼ねる基材の導電率を高くするという観点では、基材は銅または銅合金を含むことが好ましい。基材の本体が銅にて形成される場合、当該本体の表面にニッケル等の他の金属の保護膜が形成されることが好ましい。この場合、基材の表面は、当該保護膜の表面となる。例えば、保護膜の厚さは、1〜20μm(マイクロメートル)であり、保護膜は、めっきにて形成される。析出金属層は、亜鉛(Zn)の電解析出により形成される。析出金属層は、亜鉛を含む合金の電解析出にて形成されてもよい。金属空気電池1の設計によっては、筒状または棒状の負極3が利用されてもよい。
【0022】
負極3の周囲には、円筒状のセパレータ41が設けられ、セパレータ41の周囲には、円筒状の正極2(空気極とも呼ばれる。)が設けられる。すなわち、セパレータ41の内側面は負極3に対向し、セパレータ41の外側面は正極2の内側面に対向する。負極3、セパレータ41および正極2は、中心軸J1を中心とする同心状に設けられ、中心軸J1に沿って見た場合に、負極3の外縁と正極2との間の距離は、中心軸J1を中心とする周方向の全周に亘って一定である。すなわち、金属空気電池1における負極3および正極2の間では、全周に亘って、等電位面の間隔が一定である。等電位面に粗密がないため、充放電時の電流分布は周方向において一定となる。なお、全周に亘る電流分布がおよそ均一となるのであるならば、正極2の形状は、例えば、頂点が6個以上の正多角形の筒状であってもよい。セパレータ41の詳細については後述する。
【0023】
正極2は、導電性セラミックにて形成された筒状の支持体である多孔質の正極本体21、および、正極本体21の負極3とは反対側の外側面に形成された正極触媒層22を有する。好ましくは、正極触媒層22は、正極本体21の全周に亘って形成される。正極触媒層22の外側面の一部には、耐アルカリ性を有するセラミックにて形成されるインターコネクタ24が設けられる。インターコネクタ24の厚さは、例えば約30〜300μmである。インターコネクタ24には正極集電端子(図示省略)が接続される。正極触媒層22の外側面において、インターコネクタ24にて覆われていない領域には、撥水性を有する材料(例えば、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン))による多孔質の層が撥液層29として形成される。撥液層29は、高いガス透過性および高い液不透過性を有する。
【0024】
正極導電層である正極本体21は、導電性セラミックを含む材料の押出成形および焼成により形成される。導電性セラミックとして、好ましくは、導電性を有するペロブスカイト型酸化物またはスピネル型酸化物が利用される。本実施の形態では、正極本体21は、ペロブスカイト型酸化物(例えば、LSM(LaSrMnO
3)、LSMF(LaSrMnFeO
3)、あるいは、LSCF(LaSrCoFeO
3))にて形成される。正極本体21において利用されるペロブスカイト型酸化物は、Co、Mn、Feのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。充電時における酸化による劣化を防止するという観点では、正極本体21は、導電性カーボンを含まないことが好ましい。正極本体21は、他の導電性セラミックにより形成されてよい。正極本体21のガス透過量は、2000m
3/(m
2・h・atm)以上であることが好ましく、この場合、正極本体21の空孔率は、30%以上であることが好ましい。空孔率が30%よりも小さい場合、ガス透過性が過度に低くなる。また、正極本体21の空孔率は、80%以下であることが好ましい。空孔率が80%よりも大きい場合、正極本体21の支持体としての強度が低下する。
【0025】
また、正極触媒層22は、ペロブスカイト型酸化物(例えば、LSM、LSCF、あるいは、LSMF)等の導電性セラミックの粉体を、例えばスラリーコート法および焼成により、正極本体21上に担持させた部位を含む。正極触媒層22は、正極本体21の負極3とは反対側の外側面上にセラミックにて形成された多孔膜であり、支持体である正極本体21により支持される。例えば、正極触媒層22の厚さは、正極本体21の厚さよりも十分に小さい。金属空気電池1では、原則として、多孔質の正極触媒層22近傍において空気と後述の電解液40との界面が形成される。
【0026】
既述のセパレータ41は、正極本体21の負極3側の内側面に形成される多孔膜であり、当該内側面の全周に亘って形成される。セパレータ41は、例えば、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)、ハフニア(HfO
2)およびセリア(CeO
2)等の機械的強度および絶縁性が高いセラミック粉末の焼結体であり、耐アルカリ性を有する。後述するように、セパレータ41の作製では、正極本体21の内側面にスラリーコート法等により上記セラミック粉末およびバインダを含むスラリーを成膜して乾燥し、高温の焼成によりスラリーに含まれるバインダが除去される。これにより、バインダの劣化によりセパレータの寿命が短くなることが防止される。セパレータ41は、セラミックのみにて構成されることが好ましい。セパレータ41は、これらのセラミックの混合体や積層体であってもよい。
【0027】
上記セラミック粉末の平均粒子径は、好ましくは、0.1μm以上、かつ、30μm以下であり、必要に応じて分級加工により粒子径が揃えられる。セパレータ41の平均細孔径は0.01μm以上、2μm以下であることが好ましい。これにより、負極3の析出金属(デンドライト等)がセパレータ41を貫通することが防止される。セパレータ41の平均細孔径は、正極本体21の平均細孔径よりも小さいことが好ましい。また、円筒状のセパレータ41の厚さ(肉厚)は50μm以上、200μm以下であり、正極本体21の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0028】
筒状の正極2の内側(中心軸J1側)の空間には、水系の電解液40が充填される。電解液40は、正極2と負極3との間に介在し、両極に接する。負極3のおよそ全体は電解液40中に浸漬される。多孔質のセパレータ41、および、正極本体21の細孔にも電解液40が充填される。さらに、正極触媒層22の一部の細孔にも電解液40が充填される。以下の説明では、中心軸J1に沿って見た場合における負極3と正極2との間の空間を「電解質層4」という。すなわち、電解質層4は、負極3と正極2との間に配置される。本実施の形態では、電解質層4はセパレータ41を含む。
【0029】
電解液40は、アルカリ水溶液であり、好ましくは、水酸化カリウム(苛性カリ、KOH)水溶液、または、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ、NaOH)水溶液を含む。また、電解液40は、亜鉛イオンまたは亜鉛を含むイオンを含む。すなわち、電解液40に含まれる亜鉛イオンは、様々な態様で存在してよく、亜鉛(すなわち、亜鉛原子)を含むイオンと捉えられてもよい。例えば、テトラヒドロキシ亜鉛イオンとして存在してもよい。
【0030】
中心軸J1方向において負極3、電解質層4および正極2の両端面には、円板状の閉塞部材が固定される。各閉塞部材の中央には貫通孔が設けられる。金属空気電池1では、撥液層29および閉塞部材により、本体11内の電解液40が上記貫通孔以外から外部へと漏出することが防止される。また、両端面上の閉塞部材の貫通孔を利用して、本体11と図示省略の貯溜タンクとの間にて電解液を循環させることが可能である。
【0031】
図1の金属空気電池1において放電が行われる際には、負極集電端子と正極集電端子とが、例えば、照明器具等の負荷を介して電気的に接続される。負極3が有する亜鉛は酸化されて亜鉛イオンが生成され、電子は負極集電端子、および、正極集電端子を介して正極2に供給される。多孔質の正極2では、撥液層29を透過した空気中の酸素が、負極3から供給された電子により還元され、水酸化物イオンとして電解液中に溶出する。正極2では、正極触媒により酸素の還元反応が促進される。
【0032】
一方、金属空気電池1において充電が行われる際には、負極集電端子と正極集電端子との間に電圧が付与され、正極2に対して水酸化物イオンから電子が供給されるとともに酸素が発生する。負極3では、正極集電端子を介して負極集電端子に供給される電子により金属イオンが還元されて亜鉛が析出する。
【0033】
このとき、コイル状の負極3では、角部がないため、電界集中が起こりにくい。すなわち、電流密度に大きな偏りが生じない。また、負極3が、電解液40に均一に接触する。その結果、亜鉛が樹枝状に析出するデンドライトや、ひげ状(針状)に析出するウィスカーの生成および成長が大きく抑制される。実際には、負極3の表面のほぼ全体において緻密な亜鉛が均一に析出し、析出金属層が形成される。正極2では、正極触媒層22に含まれる正極触媒により酸素の発生が促進される。さらに、正極2では、カーボン素材を用いていないことにより、充電時に発生する酸素による酸化劣化が生じることはない。
【0034】
上述のように、金属空気電池1では、正極本体21を支持体として、正極本体21の外側面に正極触媒層22が形成され、正極本体21の内側面にセパレータ41が形成される。すなわち、セパレータ41および正極2が一繋がりの部材として作製される。
図2は、セパレータ41が設けられた正極2を作製する流れを示す図である。
図2は、正極2の作製の基本的な流れを示すものであり、処理順序は適宜変更されてよい。
【0035】
正極2の作製では、まず、導電性セラミックを含む正極形成材料の押出成形および焼成により円筒状の正極本体21が多孔質の支持体として形成される(ステップS11)。導電性セラミックとして、例えば、ペロブスカイト型酸化物が利用され、ここでは、LSMまたはLSCFが利用される。正極導電層である正極本体21において高い導電性を確保し、かつ、酸素発生反応触媒としての機能も確保するという観点では、LSCFを利用することが好ましい。
【0036】
焼成の前に、成形体を100〜800℃で加熱処理して成形体中の有機成分を分解除去してもよい。焼成は、成形体が十分に焼結し、かつ、ガス透過性や電解液浸透性、電池性能を保持できる条件であればよく、900〜1500℃で行われることが好ましい。また、成形体を後述の他の層と共焼成してもよい。共焼成を行うことにより、成形体と当該層との間の接着強度を向上させることができる。また、各層を個別に焼成する場合に比べて、焼成工程のリードタイムを低減することができる。正極本体21は、押出成形および焼成以外の手法にて形成されてよい。
【0037】
正極本体21が準備されると、正極本体21の外側面にスラリーコート法により正極触媒を含むスラリーを成膜し、正極本体21と共に焼成することにより、正極触媒層22が形成される(ステップS12)。正極触媒として、例えば、ペロブスカイト型酸化物等のセラミックが利用され、ここでは、LSM、LSCFまたはLSMFが利用される。このとき、正極触媒層22のセラミックが、正極本体21を形成する導電性セラミックと同じ結晶構造を有することにより、正極本体21と正極触媒層22との熱膨張係数差が小さくなり、焼成によるクラックや剥離の発生が抑制される。
【0038】
スラリーの膜の形成(成膜)は、キャスティング法、ディッピング法、スプレー法、印刷法等の様々な手法が利用可能である。正極2における各層の膜厚は、ガス透過性、電解液浸透性等、電池性能に関わる特性を保持させるという観点と、焼成時の焼成収縮を考慮して、適宜調整される。正極触媒層22は、上記成膜および焼成以外の手法にて形成されてよい(インターコネクタ24、セパレータ41および撥液層29において同様)。
【0039】
正極触媒層22が形成されると、正極触媒層22の外側面に対して、一部の領域を除いてマスキングが行われる。続いて、ペロブスカイト型酸化物等の微細な粉末を含むスラリーを用いて、スラリーコート法により当該領域に対して膜が形成され、当該膜を正極本体21および正極触媒層22と共に焼成することにより、インターコネクタ24が形成される(ステップS13)。
【0040】
インターコネクタ24が形成されると、正極本体21の内側面にスラリーコート法によりセパレータ形成材料を含むスラリーを成膜し、正極本体21、正極触媒層22およびインターコネクタ24と共に焼成することにより、セパレータ41が形成される(ステップS14)。セパレータ形成材料として、例えば、絶縁性のセラミックが利用され、ここでは、アルミナまたはジルコニアが利用される。セパレータ41の焼成では、スラリーに含まれるバインダが除去されることが好ましい。
【0041】
セパレータ41が形成されると、正極触媒層22の外側面にスラリーコート法により撥液材料を含むスラリーを成膜し、正極本体21、正極触媒層22、インターコネクタ24およびセパレータ41と共に焼成することにより、撥液層29が形成される(ステップS15)。撥液材料を含むスラリーの成膜では、インターコネクタ24の部分をマスキングすることが好ましい。撥液材料として、例えば、FEPやPTFEが利用される。また、スラリーに増粘剤を必要量添加してスラリー粘度を調整することにより、正極触媒層22の深度方向への染み込み深さが調整される。これにより、正極触媒層22における細孔内の粒子表面が撥液材料により完全に覆われることを防止しつつ、金属空気電池1において、正極触媒層22の近傍に三相界面を形成することが実現される。
【0042】
ここで、セパレータを支持体とする比較例の金属空気電池を想定する。
図3は、比較例の金属空気電池9の構成を示す図であり、
図1に対応する断面図である。比較例の金属空気電池9では、アルミナにて形成されるセパレータ94が筒状の支持体であり、セパレータ94の外側面に正極92の正極導電層921等が設けられる。正極92はペロブスカイト型酸化物を含むスラリーのスラリーコート法による成膜および焼成を、複数回繰り返すことにより所定の厚さにて形成される。
【0043】
比較例の金属空気電池9では、正極92を厚くするには、成膜および焼成を多数回繰り返す必要があるため、金属空気電池9(の正極92)の製造が煩雑となる。また、正極92のクラックや剥離も生じ易くなる。実際には、正極92の厚膜化には、製造コスト等との兼ね合いから一定の限界が生じる。したがって、比較例の金属空気電池9では、正極92の厚さが比較的薄くなる。その結果、正極92の電気抵抗が高くなり、電池性能の向上が困難となる。
【0044】
これに対し、
図1の金属空気電池1では、正極2が、導電性セラミックにて形成された筒状の支持体である多孔質の正極本体21を備え、正極本体21の内側面に絶縁性のセラミックにて形成された多孔膜であるセパレータ41が設けられる。このように、正極本体21を支持体とすることにより、正極2を容易に厚くすることができ、正極2の電気抵抗を低くして、金属空気電池1の電池性能を向上することができる。また、セパレータを支持体とする比較例のように、スラリーコートおよび焼成を繰り返して、正極2を厚膜化する必要が無いため、金属空気電池1の製造工程を減らす(簡略化する)ことができる。さらに、セパレータ41が支持体ではない金属空気電池1では、セパレータ94を支持体とする比較例の金属空気電池9に比べて、セパレータ41を大幅に薄くすることができる。その結果、負極3と正極2との間の距離を小さくして、金属空気電池1の電池性能をさらに向上することができる。また、セパレータ41の形成におけるクラックや剥離の発生も抑制することができる。
【0045】
図1の金属空気電池1では、正極本体21の厚さが、セパレータ41の厚さよりも大きいことにより、正極2の電気抵抗を低くしつつ、負極3と正極2との間の距離を小さくすることができ、金属空気電池1の電池性能をさらに向上することができる。正極本体21の厚さは、好ましくは、セパレータ41の厚さの3倍よりも大きく、より好ましくは、5倍よりも大きい。
【0046】
既述のように、金属空気電池1では、正極触媒層22において電解液と空気の界面が形成される。金属空気電池1における放電では、空気中の酸素、および、電解液中の水から水酸化物イオンが生成される酸素還元反応が、正極触媒層22において主に生じる。したがって、正極触媒層22は、放電反応層として捉えることができ、正極触媒層22は、正極本体21を形成する導電性セラミックよりも、酸素還元反応に優れたセラミックにて形成されることが好ましい。正極本体21および正極触媒層22のうち、酸素還元反応の活物質である酸素と接する正極触媒層22に、酸素還元反応用の触媒を用いることにより、当該活物質が当該触媒に効率よく供給される。これにより、濃度過電圧を低減して、金属空気電池1における放電性能を向上することができる。
【0047】
一方、金属空気電池1における充電では、電解液中の水酸化物イオンから酸素および水が生成される酸素発生反応が、正極導電層である正極本体21において主に生じる。したがって、正極本体21は、充電反応層として捉えることができ、正極本体21は、正極触媒層22を形成するセラミックよりも、酸素発生反応に優れた導電性セラミックにて形成されることが好ましい。正極本体21および正極触媒層22のうち、酸素発生反応の活物質である水酸化物イオン(を含む電解液)が充填される正極本体21に、酸素発生反応用の触媒を用いることにより、当該活物質が当該触媒に効率よく供給される。これにより、濃度過電圧を低減して、金属空気電池1における充電性能を向上することができる。
【0048】
ここで、酸素還元反応および酸素発生反応の優劣の評価は、例えば、特開2005−190833号公報(特許文献3)に記載の手法により行うことが可能である。すなわち、各種材料を触媒として用いたガス拡散型電極を形成し、酸素還元反応および酸素発生反応を生じさせ、所定の電極電流密度を示す参照極に対する電圧が測定される。酸素還元反応では、当該電圧が大きい材料ほど酸素還元反応が優れているといえ、酸素発生反応では、当該電圧が小さい材料ほど酸素発生反応が優れているといえる。
【0049】
正極触媒層22および正極本体21の好ましい材料は、ペロブスカイト型酸化物である。ペロブスカイト型酸化物は、Aをアルカリ金属、アルカリ土類金属、または、希土類金属とし、Bを遷移金属として、ABO
3で表される。正極触媒層22の好ましい材料は、ペロブスカイト型酸化物において、AサイトがLa、Sr、Caの少なくとも一種から構成され、BサイトがFe、Ni、Co、Mnの少なくとも一種から構成される。正極本体21の好ましい材料は、ペロブスカイト型酸化物において、AサイトがLa、Srの少なくとも一種から構成され、BサイトがCo、Feの少なくとも一種から構成される(ただし、正極触媒層22の材料と相違することが好ましい。)。例えば、放電反応層である正極触媒層22をLSMまたはLSMFにて形成し、充電反応層である正極本体21をLSCFにて形成する場合、正極触媒層22のセラミックが正極本体21のセラミックよりも酸素還元反応に優れ、かつ、正極本体21のセラミックが正極触媒層22のセラミックよりも酸素発生反応に優れる。
【0051】
<実施例1>
押出成形法および高温焼成により得られた厚さ2mm、外径16mm、内径12mm、長さ70mmの日立造船社製の円筒型ペロブスカイト酸化物多孔質セラミック支持管(LSM、平均細孔径5μm)を基盤として、以下に述べるように、スラリーコート法を用いつつ、焼成温度が高い工程順に成膜焼成することで、セパレータが設けられた正極(空気極)を作製した。以下、セラミック支持管を「セラミックチューブ」と呼ぶ。
【0052】
(セパレータ用スラリーの調製1)
1層目、2層目セパレータ成膜用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標))3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加した。攪拌はバインダが溶解して溶液が透明になるまで行った。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のアルミナ粉末(例えば、昭和電工社製A−42−6)とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0053】
(セパレータ成膜1)
上記円筒型セラミックチューブの上端にホース状キャップ(ロートの役割をするもの)を装着し、下端は封止栓をした。上端のホース状キャップはスラリーが溢れるのを防止するためのものである。ホース状キャップをしたセラミックチューブの上端から漏斗を使用し、1層目、2層目製膜用スラリーを注入し、セラミックチューブ上部まで満たされた状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。2回目はセラミックチューブを上下反転させてこの操作をもう一度繰り返した。その後、セラミックチューブを1250℃、4時間焼成することで、内側面に2層のアルミナ膜が積層されたセラミックチューブを得た。
【0054】
(触媒層用スラリーの調製)
触媒層用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標)H−37)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のLaSrCoFeO
3原料粉末とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0055】
(触媒層成膜)
上記円筒型セラミックチューブの上端と下端に封止栓をすることにより、チューブ内側にスラリーが侵入することを防止した。セラミックチューブを、その上端までスラリーに浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のセラミックチューブを1150℃、5時間焼成することで、外側面に正極触媒層が形成されたセラミックチューブを得た。
【0056】
(インターコネクタ用スラリーの調製)
インターコネクタ成膜用スラリーを、下記の手順で調製した。ソルミックス(登録商標)H−37(日本アルコール販売社製)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトシキエトキシ)エチル(関東化学社製)1を加えた溶液に、4重量%のバインダ(エチルセルロース(東京化成社製))を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、平均粒子径3.7μmのLaSrCoFeO
3(LSCF)粉末27重量%、φ10mmの樹脂ボールと共にポットミル容器に入れ、ボールミルで50時間混合し、インターコネクタ用スラリーを得た。
【0057】
(インターコネクタ成膜)
正極触媒層が形成されたセラミックチューブの外側面において、幅5mm、長さ60mmのインターコネクタを形成させる部分以外の領域をマスキングテープで被覆した。マスキングしたセラミックチューブを、LSCFスラリーに1分間浸漬させた後、35℃で30分、80℃で90分以上乾燥させ、この操作を5回繰り返した後、マスキングテープを剥がし、1150℃で4時間焼成することで、正極触媒層の外側面にインターコネクタが形成されたセラミックチューブを得た。
【0058】
(セパレータ用スラリーの調製2)
3層目、4層目セパレータ成膜用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標))3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、2.9重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加した。攪拌はバインダが溶解して溶液が透明になるまで行った。上記のようにして得られた溶液を、予め20重量%のジルコニア粉末(例えば、東ソー社製TZ−0)とφ10mmのナイロン樹脂ボールを入れたナイロン樹脂ポット容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0059】
(セパレータ成膜2)
内側面に2層のアルミナ膜が積層されたセラミックチューブの上端にホース状キャップ、下端に封止栓を装着した。ホース状キャップを装着したセラミックチューブの上端から漏斗を使用し、3層目、4層目成膜用スラリーを注入し、セラミックチューブ上部まで満たされた状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のセラミックチューブを1000℃、4時間焼成することで、内側面に3層の膜(2層のアルミナ膜および1層のジルコニア膜)が積層されたセラミックチューブを得た。
【0060】
引き続き、当該セラミックチューブを3層目成膜時とは上下を反対にして同様に上端にホース状キャップ、下端に封止栓を装着した。ホース状キャップをしたセラミックチューブの上端から、3層目成膜で使用したものと同じスラリーを注入し、セラミックチューブの上部まで満たした状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のセラミックチューブを1000℃、4時間焼成することで、内側面に4層の膜(2層のアルミナ膜および2層のジルコニア膜)が積層されたセラミックチューブを得た。
【0061】
(撥液層用スラリーの調製)
三井デュポン社製FEPディスパージョン原液を20重量%に希釈し、増粘剤としてアルコックス(登録商標)E−30を2.8重量%秤量し、FEP希釈溶液に増粘剤が塊にならないように撹拌しながら少量ずつ添加した。
【0062】
(撥液層成膜)
セラミックチューブのインターコネクタ部分に、撥液層(撥水層)がインターコネクタと重なる部分の幅が1mmになるようにテープで被覆し、上述のディスパージョンに1分間浸漬させ、室温・30分、60℃・15時間乾燥させ、280℃、50分間焼成することで撥液層が形成されたセラミックチューブを得た。
【0063】
(サンプル評価)
得られたサンプルに対して、N
2ガス透過試験によりガス透過性能を評価し、耐水圧試験により耐水圧性能を評価した。円筒型ペロブスカイト酸化物多孔質セラミックチューブのガス透過性能は、2027m
3/(m
2・h・atm)であったのに対し、セパレータ、正極触媒層、インターコネクタおよび撥液層を形成したセラミックチューブのガス透過性能は、117m
3/(m
2・h・atm)となった。また、セラミックチューブの内側に水を満たし、N
2ガスで徐々に加圧した耐水圧試験の結果、0.045MPaで漏水が確認された。
【0064】
(電池性能評価)
得られた正極(空気極)の内側にZnを2g電析させたCuコイル(負極)を挿入し、電解液(7M−KOH+0.65M−ZnO)を正極の内側に循環させ、室温にて電池性能評価を実施した。その結果、放電では、電流密度54.5mA/cm
2で電圧0.69Vとなり、出力密度は0.038W/cm
2となった。充電では、電流密度52.9mA/cm
2で電圧2.05Vとなった。なお、放電では、放電電圧が高いほど高性能であり、出力密度が大きいほど高性能である(出力密度(W/cm
2)=電流密度(A/cm
2)×電圧(V))。充電では、充電電圧が低いほど高性能である。
【0065】
<比較例1>
押出成形法および高温焼成により得られた厚さ2mm、外径16mm、内径12mm、長さ70mmの日立造船社製の円筒型アルミナ多孔質セラミックチューブ(Al
2O
3、平均細孔径10μm)を基盤として、以下に述べるように、スラリーコート法を用いつつ、焼成温度が高い工程順に成膜焼成することで、比較例の正極を作製した。なお、比較例の正極では、後述の導電層とセパレータとの間の界面に反応相が形成されることを抑制する緩衝層が設けられる。
【0066】
(緩衝層用スラリーの調製)
緩衝層用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標)H−37)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のLaSrCoMnFeO
3原料粉末とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0067】
(導電層用スラリーの調製)
導電層用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標)H−37)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のLaSrCoFeO
3原料粉末とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0068】
(触媒層用スラリーの調製)
触媒層用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標)H−37)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のLaSrMnFeO
3原料粉末とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0069】
(緩衝層成膜、導電層成膜、触媒層成膜)
上記円筒型セラミックチューブの上端と下端に封止栓をすることにより、チューブ内側にスラリーが侵入することを防止した。緩衝層用スラリーに、セラミックチューブをその上端まで浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で90分以上乾燥させた。この操作を2回繰り返した。
【0070】
引き続き、導電層用スラリーに、セラミックチューブをその上端まで浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で90分以上乾燥させた。緩衝層と導電層の合計3回浸漬・乾燥後のセラミックチューブ(支持体)を1325℃、4時間焼成した。
【0071】
更に、導電層用スラリーに、セラミックチューブをその上端まで浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で90分以上乾燥させた。この操作を3回繰り返した後のセラミックチューブを1325℃、4時間焼成した。
【0072】
更に、導電層用スラリーに、セラミックチューブをその上端まで浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で90分以上乾燥させた。この操作を3回繰り返した後、引き続き、触媒層用スラリーに、セラミックチューブをその上端まで浸漬させた状態で1分間保持した。1分経過後、セラミックチューブをスラリーから引き上げ、スラリーを垂れ切りした。その後、35℃で30分以上乾燥し、80℃で90分以上乾燥させた。導電層と触媒層の合計4回の浸漬・乾燥後のセラミックチューブを1325℃、4時間焼成した。
【0073】
以上の工程により、緩衝層、導電層、触媒層が形成されたセラミックチューブを得た。
【0074】
(セパレータ用スラリーの調製1)
1層目、2層目セパレータ成膜用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標))3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、3.4重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加した。攪拌はバインダが溶解して溶液が透明になるまで行った。上記のようにして得られた溶液を、予め32重量%のアルミナ粉末(例えば、昭和電工社製A−42−6)とφ10mmの樹脂ボールを入れたポットミル容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0075】
(セパレータ成膜1)
上記円筒型セラミックチューブの上端にホース状キャップ(ロートの役割をするもの)を装着し、下端は封止栓をした。上端のホース状キャップはスラリーが溢れるのを防止するためのものである。ホース状キャップをしたセラミックチューブの上端から漏斗を使用し、1層目製膜用スラリーを注入し、セラミックチューブ上部まで満たされた状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。この操作を2回繰り返した後のセラミックチューブを1250℃、4時間焼成することで、内側面に2層のアルミナ膜が積層されたセラミックチューブを得た。なお、当該アルミナ膜の細孔径は、セラミックチューブの細孔径よりも小さく、当該アルミナ膜は、デンドライトの貫通を防止するためのものである(後述のジルコニア膜において同様)。
【0076】
(インターコネクタ用スラリーの調製)
インターコネクタ成膜用スラリーを、下記の手順で調製した。ソルミックス(登録商標)H−37(日本アルコール販売社製)3に対し、酢酸2−(2−n−ブトシキエトキシ)エチル(関東化学社製)1を加えた溶液に、4重量%のバインダ(エチルセルロース(東京化成社製))を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加し、溶解するまで攪拌した。上記のようにして得られた溶液を、平均粒子径3.7μmのLaSrCoFeO
3粉末27重量%、φ10mmの樹脂ボールと共にポットミル容器に入れ、ボールミルで50時間混合し、インターコネクタ用スラリーを得た。
【0077】
(インターコネクタ成膜)
触媒層を形成した上記セラミックチューブの外側面において、幅5mm、長さ60mmのインターコネクタを形成させる部分以外の領域をマスキングテープで被覆した。マスキングしたセラミックチューブを、LSCFスラリーに1分間浸漬させ、35℃で30分、80℃で90分以上乾燥させ、この操作を5回繰り返した後、マスキングテープを剥がし、1150℃で4時間焼成することでインターコネクタが形成されたセラミックチューブを得た。
【0078】
(セパレータ用スラリーの調製2)
3層目、4層目セパレータ成膜用スラリーは、下記のようにして調製した。アルコール(ソルミックス(登録商標))3に対し、酢酸2−(2−n−ブトキシエトキシ)エチルを1加えた溶液に、2.9重量%のバインダ(エチルセルロース)を塊にならないように攪拌しながら少量ずつ添加した。攪拌はバインダが溶解して溶液が透明になるまで行った。上記のようにして得られた溶液を、予め20重量%のジルコニア粉末(例えば、東ソー社製TZ−0)とφ10mmのナイロン樹脂ボールを入れたナイロン樹脂ポット容器に入れて、ボールミルで10日以上混合攪拌した。
【0079】
(セパレータ成膜2)
内側面に2層のアルミナ膜が積層されたセラミックチューブ上端にホース状キャップ、下端に封止栓を装着した。ホース状キャップをしたセラミックチューブの上端から漏斗を使用し、3層目、4層目成膜用スラリーを注入し、セラミックチューブ上部まで満たされた状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のセラミックチューブを1000℃、4時間焼成することで、内側面に3層の膜(2層のアルミナ膜および1層のジルコニア膜)が積層されたセラミックチューブを得た。
【0080】
引き続き、当該セラミックチューブを3層目成膜時とは上下を反対にして同様に上端にホース状キャップ、下端に封止栓を装着した。ホース状キャップをしたセラミックチューブの上端から、3層目成膜で使用したものと同じスラリーを注入し、セラミックチューブの上部まで満たした状態で1分間保持した。1分経過後、下端の封止栓を取り外し、スラリーを抜いた。その後、15時間以上室温で乾燥し、50℃で2時間以上乾燥させた。乾燥後のセラミックチューブを1000℃、4時間焼成することで、内側面に4層の膜(2層のアルミナ膜および2層のジルコニア膜)が積層されたセラミックチューブを得た。
【0081】
(撥液層用スラリーの調製)
三井デュポン社製FEPディスパージョン原液を20重量%に希釈し、増粘剤としてアルコックス(登録商標)E−30を2.8重量%秤量し、FEP希釈溶液に増粘剤が塊にならないように撹拌しながら少量ずつ添加した。
【0082】
(撥液層成膜)
セラミックチューブのインターコネクタ部分に、撥液層がインターコネクタと重なる部分の幅が1mmになるようにテープで被覆し、上述のディスパージョンに1分間浸漬させ、室温・30分、60℃・15時間乾燥させ、280℃、50分間焼成することで撥液層を形成したセラミックチューブを得た。
【0083】
(サンプル評価)
得られたサンプルに対して、N
2ガス透過試験によりガス透過性能を評価し、耐水圧試験により耐水圧性能を評価した。円筒型アルミナ多孔質セラミックチューブのガス透過性能は、3015m
3/(m
2・h・atm)であったのに対し、緩衝層、導電層、触媒層、セパレータ、インターコネクタおよび撥液層を形成したセラミックチューブのガス透過性能は、93m
3/(m
2・h・atm)となった。また、セラミックチューブの内側に水を満たし、N
2ガスで徐々に加圧した耐水圧試験の結果、0.065MPaで漏水が確認された。
【0084】
(電池評価)
得られた正極(空気極)の内側にZnを2g電析させたCuコイル(負極)を挿入し、電解液(7M−KOH+0.65M−ZnO)を正極の内側に循環させ、室温にて電池性能評価を実施した。その結果、放電では、電流密度2.3mA/cm
2で電圧0.70Vに達し、出力密度は0.002W/cm
2であった。充電では、電流密度25mA/cm
2で電圧15Vに達した。
【0085】
図4は、実施例1の正極を用いた金属空気電池、および、比較例1の正極を用いた金属空気電池の充放電特性を示す図である。
図5は、実施例1の正極を用いた金属空気電池、および、比較例1の正極を用いた金属空気電池の出力密度を示す図である。
図4から判るように、実施例1の正極、すなわち、正極本体を支持体とする正極を用いた金属空気電池では、比較例1の正極、すなわち、セパレータを支持体とする正極を用いた金属空気電池よりも放電電圧が高く(
図4中のL1,L2参照)、充電電圧が低い(
図4中のL3,L4参照)。また、
図5から判るように、実施例1の正極を用いた金属空気電池では、比較例1の正極を用いた金属空気電池よりも出力密度が高い。このように、実施例1の正極を用いた金属空気電池では、比較例1の正極を用いた金属空気電池よりも電池性能が高いといえる。なお、実施例1の正極の作製に要する時間は、比較例の正極の作製に要する時間の2/3程度である。
【0091】
上記金属空気電池1では様々な変形が可能である。
【0092】
金属空気電池1において、筒状の正極2の周囲に負極3が設けられてもよい。すなわち、負極3は、正極2の内側面または外側面に対向すればよい。なお、負極3が正極2の外側面に対向する金属空気電池1では、セパレータ41は正極本体21の外側面に設けられる。
【0093】
金属空気電池1の設計によっては、例えば、セパレータ41が筒状の独立した部材として準備され、外側面に正極触媒層22が形成された正極本体21の内部に、当該部材が挿入されてもよい。また、金属空気電池1に求められる電池性能によっては、セパレータ41のみが正極本体21の内側面に形成され、正極触媒層22が省略されてもよい。金属空気電池1では、筒状の支持体である正極本体21の内側面または外側面に多孔膜がセラミックにて形成される、すなわち、正極本体21が、内側面または外側面において、セラミックにて形成された多孔膜を支持可能な筒状部材として設けられることにより、正極2を容易に厚くすることができ、正極2の電気抵抗を低くして、電池性能を向上することができる。デンドライトの発生が問題とならない場合等には、セパレータ41が省略されてよい。
【0094】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。