特許第6596243号(P6596243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6596243-耐震スリット芯材及び耐震スリット 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596243
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】耐震スリット芯材及び耐震スリット
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20191010BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20191010BHJP
   E04B 2/84 20060101ALI20191010BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   E04B1/62 Z
   E04H9/02 321H
   E04B2/84 H
   E04B1/94 H
   E04B2/84 F
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-124752(P2015-124752)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-8574(P2017-8574A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
(72)【発明者】
【氏名】板垣 亮祐
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−255269(JP,A)
【文献】 実公昭54−044414(JP,Y2)
【文献】 実公昭47−019286(JP,Y1)
【文献】 特開2001−288926(JP,A)
【文献】 特開2003−221942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 − 1/99
E04B 2/84
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の構造柱と非構造壁との間に介在させる耐震スリットの耐震スリット芯材であって、該耐震スリット芯材は、変形復帰性75%以上の合成樹脂発泡板と、その長手方向に沿った端面の少なくとも一面側に備えられた耐火材とからなり、上記合成樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、硬質ウレタン系樹脂又はフェノール系樹脂からなり、かつ上記合成樹脂発泡板の長手方向寸法が100〜3000mm、短手寸法が90〜400mm、厚み方向の寸法が15〜60mmであり、上記耐火材が断面コの字状の金属箔であり、該断面コの字状の金属箔により合成樹脂発泡板の前記端面側が覆われており、上記断面コの字状の金属箔の突き出し部の長さが5〜20mmであり、上記断面コの字状の金属箔は、少なくとも上記突き出し部において合成樹脂発泡板の板面に接着固定されていることを特徴とする、耐震スリット芯材。
【請求項2】
上記合成樹脂発泡板が、その両板面に補強層を有することを特徴とする、請求項1に記載の耐震スリット芯材。
【請求項3】
上記金属箔が、アルミ箔であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐震スリット芯材。
【請求項4】
上記金属箔が、粘着剤付きアルミ箔テープであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐震スリット芯材。
【請求項5】
合成樹脂発泡板と、その長手方向に沿った端面側の少なくとも一方側を挟持する力骨材とを備え、合成樹脂発泡板と力骨材との間に耐火材を有する、建築物の構造柱と非構造壁との間に介在させる耐震スリットにおいて、上記合成樹脂発泡板は、変形復帰性75%以上の合成樹脂発泡板からなり、上記合成樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、硬質ウレタン系樹脂又はフェノール系樹脂からなり、かつ上記合成樹脂発泡板の長手方向寸法が100〜3000mm、短手寸法が90〜400mm、厚み方向の寸法が15〜60mmであり、上記耐火材が断面コの字状の金属箔であり、該断面コの字状の金属箔により合成樹脂発泡板の前記端面側が覆われており、上記断面コの字状の金属箔の突き出し部の長さが5〜20mmであり、上記断面コの字状の金属箔は、少なくとも上記突き出し部において合成樹脂発泡板の板面に接着固定されていることを特徴とする、耐震スリット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の構造柱と非構造壁との間に介在させる耐震スリットに用いられる耐震スリット芯材及び耐震スリットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル、マンション等のコンクリート構造物の構造柱と非構造壁との接合部等の構造体同士の境界部分に、垂直方向に伸びる耐震スリットを設けて、構造柱と非構造壁とを構造的に分断することで、地震の揺れによる構造柱の損傷等を低減させる方法がとられている。この種の耐震スリットは、地震時の衝撃により圧縮されるが、マグニチュード5以上7未満の所謂中地震程度の地震後にも初期性能を確保するため、地震後に元の形状に復元可能な変形復帰性を有することが不可欠である。これに加え、火災時には延焼を防止するための防火隔壁としての効果も求められるため、耐震スリットには耐火性能も必要である。
【0003】
ここで、耐震スリットは、多くの場合、耐震スリット芯材として、ポリスチレンフォーム等の合成樹脂発泡板と、その端面に配置したロックウールやセラミックファイバー等の耐火材との複合品が用いられている。しかし、耐火材としてロックウールやセラミックファイバー等の材料を用いた場合、その厚みは耐火性能を考慮して5mmを超える厚いものとなり、力骨材と合成樹脂発泡板との間に該耐火材を挿入した耐震スリットは、力骨材の耐震スリット芯材への掛かりが浅いものとなり、力骨材から耐震スリット芯材が離脱し易いものであった。
力骨材から耐震スリット芯材が離脱し易い耐震スリットは、施工時に大きな側圧を掛けられないことから、一回当たりのコンクリート打設高さを低くする必要があり、コンクリートの打込み回数が増えると言う課題があった。また、施工の際、コンクリート打設時の側圧により、耐震スリット芯材のみがズレることが発生してしまうと、このような場合、施工後の外観検査で壁内部での耐震スリット芯材のズレは発見し難く、検査で耐震スリット芯材のズレが見逃されて補修されない場合には、施工不良の状態となり、耐震性能の低下、クラック発生による漏水の原因となってしまう。
【0004】
上記問題を解決するため、耐震スリットの設置作業において、耐震スリット芯材の片面に壁の軸線方向に沿って突出する支持腕を設け、この支持腕の先端を型枠間に差し渡されたセパレータに取り付け、耐震スリット芯材を補強する方法が特許文献1に開示されている。
また、力骨材に補強係止片等からなる係止部を形成するとともに、それらの係止部に補強部材を係合して力骨材相互間を連結することにより、コンクリート打設時に耐震スリット芯材に作用する側圧に対する力骨材の支持強度を補強する方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭59−175545号公報
【特許文献2】特開2002−194919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術にあっては、耐震スリット芯材を保持するための支持腕の構成が複雑でコスト高となる上、支持腕をセパレータに取り付ける作業が煩雑になるという問題を有していた。また、上記した特許文献2に記載された技術においても、力骨材の構造が複雑であり、その製造コストが高くなるとともに、施工方法が煩雑になるという問題が存在した。
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、力骨材と耐震スリット芯材との嵌合強度に優れるとともに、変形復帰性及び耐火性能にも優れる耐震スリットの耐震スリット芯材及び耐震スリットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明者等は、耐火材に着目し、鋭意研究を重ねた結果、薄くても耐火性能に優れた金属箔を耐火材として用いるとともに、該金属箔を所定以上の変形復帰性を有する合成樹脂発泡板と所定の構成で組み合わせることで、上記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、次の(1)〜()に記載した耐震スリット芯材及び()に記載した耐震スリットとした。
(1)建築物の構造柱と非構造壁との間に介在させる耐震スリットの耐震スリット芯材であって、該耐震スリット芯材は、変形復帰性75%以上の合成樹脂発泡板と、その長手方向に沿った端面の少なくとも一面側に備えられた耐火材とからなり、上記合成樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、硬質ウレタン系樹脂又はフェノール系樹脂からなり、かつ上記合成樹脂発泡板の長手方向寸法が100〜3000mm、短手寸法が90〜400mm、厚み方向の寸法が15〜60mmであり、上記耐火材が断面コの字状の金属箔であり、該断面コの字状の金属箔により合成樹脂発泡板の前記端面側が覆われており、上記断面コの字状の金属箔の突き出し部の長さが5〜20mmであり、上記断面コの字状の金属箔は、少なくとも上記突き出し部において合成樹脂発泡板の板面に接着固定されていることを特徴とする、耐震スリット芯材。
)上記合成樹脂発泡板が、その両板面に補強層を有することを特徴とする、上記(1)に記載の耐震スリット芯材。
)上記金属箔が、アルミ箔であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の耐震スリット芯材。
)上記金属箔が、粘着剤付きアルミ箔テープであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の耐震スリット芯材。
)合成樹脂発泡板と、その長手方向に沿った端面側の少なくとも一方側を挟持する力骨材とを備え、合成樹脂発泡板と力骨材との間に耐火材を有する、建築物の構造柱と非構造壁との間に介在させる耐震スリットにおいて、上記合成樹脂発泡板は、変形復帰性75%以上の合成樹脂発泡板からなり、上記合成樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、硬質ウレタン系樹脂又はフェノール系樹脂からなり、かつ上記合成樹脂発泡板の長手方向寸法が100〜3000mm、短手寸法が90〜400mm、厚み方向の寸法が15〜60mmであり、上記耐火材が断面コの字状の金属箔であり、該断面コの字状の金属箔により合成樹脂発泡板の前記端面側が覆われており、上記断面コの字状の金属箔の突き出し部の長さが5〜20mmであり、上記断面コの字状の金属箔は、少なくとも上記突き出し部において合成樹脂発泡板の板面に接着固定されていることを特徴とする、耐震スリット。
【発明の効果】
【0009】
上記した本発明によれば、変形復帰性75%以上の合成樹脂発泡板と、その長手方向に沿った端面の少なくとも一面側に備えられた耐火材とからなり、該耐火材が断面コの字状の金属箔であり、該断面コの字状の金属箔により合成樹脂発泡板の前記端面側が覆われている耐震スリット芯材としたので、耐震スリットの施工後において地震時等の衝撃によって該耐震スリット芯材が圧縮変形した場合でも、変形復帰性に優れる合成樹脂発泡板共々金属箔からなる耐火材も元の状態に近い形まで戻ることができ、地震後においても耐震スリットの設置付近に間隙等が生じ難く、耐火性や耐水性等の初期性能を維持することができるものとなる。また、耐火材として薄くても耐火性能の高い金属箔を用いているので、力骨材と合成樹脂発泡板との間に介在させても、力骨材の嵌合強度を阻害せず、施工の際に、力骨材から耐震スリット芯材が離脱し難いものとなり、施工不良が生じ難いものとなるとともに、一度に打設可能なコンクリート打設高さが高くなり、コンクリート打込み回数が減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る耐震スリット芯材の一実施形態を示した斜視図である。
図2】変形復帰性を評価する試験において、耐火材部分の厚さの測定位置を示した斜視図である。
図3】施工性を評価する試験において、実際に各種耐震スリット芯材を用いて構築した耐震スリットの概念的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る耐震スリット芯材は、所定以上の変形復帰性を有する合成樹脂発泡板と、薄くても耐火性能に優れた金属箔からなる耐火材とを、合成樹脂発泡板の変形に耐火材が追従し易いように所定の構成で組み合わせたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明で用いる合成樹脂発泡板は、変形復帰性75%以上であることが必要である。変形復帰性が上記のものであれば、中地震程度の地震時の衝撃によって該合成樹脂発泡板が圧縮変形した場合でも、元の状態に近い形まで戻ることができ、地震後においても設置位置付近に隙間が生じ難く、耐火性、耐水性等において初期性能を維持することができる。上記の観点から、変形復帰性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
なお、上記変形復帰性は、独立行政法人都市構生機構制定の「機材の品質判定基準(平成26年5月版):スリット材の性能試験方法」に基づき測定することができる。
【0013】
上記変形復帰性能を満たすものであれば、合成樹脂発泡板は、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、硬質ウレタン系樹脂、あるいはフェノール系樹脂からなるいずれのものであってもよい。但し、中でも、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましく、特にはポリカーボネート系樹脂が好ましく用いられる。これは、ポリカーボネート系樹脂からなる発泡板は、変形復帰性能に優れるとともに、変形や割れが生じ難く、耐震スリット芯材として要求させる性能をバランスよく有しているために、特に好ましく用いられる。
【0014】
合成樹脂発泡板は、少なくともその両板面に補強層を有するものであることが好ましい。補強層としては、発泡板の成形時に形成される緻密な表層、所謂成形スキン層であってもよく、また他部材からなる補強シートを発泡板の板面に貼着したものとしてもよい。貼着する補強シートとしては、表面が平滑で、透水性の低いシートであれば、種々の素材のものを用いることができる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート等の合成樹脂フィルム、アルミシート、またクラフト紙などが挙げられるが、より好ましくは、厚み50〜500μm、特に好ましくは100〜350μmのライナーとして用いられるクラフト紙である。このような補強シートを合成樹脂発泡板の両板面に貼着することにより、コンクリートと耐震スリット芯材との縁切りをより容易に行うことが可能となる。
【0015】
本発明で用いる合成樹脂発泡板は、上記したポリカーボネート系樹脂等よりなる基材樹脂を、従来公知の押出発泡成形、インジェクション発泡成形、プレス発泡成形、発泡粒子の型内成形などによって発泡成形させて製造されるが、中でも、押出発泡成形による方法が、好適な板状発泡体を容易に得ることができるので好ましい。
【0016】
合成樹脂発泡板の寸法は、施工される場所や、耐震スリットの寸法に対応するものであれば、特に制限はないが、長手方向の寸法は100〜3000mmであることが好ましく、より好ましくは1000〜2500mmである。また、短手方向の寸法は90〜400mmであることが好ましく、より好ましくは100〜300mmである。厚み方向の寸法は15〜60mmであることが好ましく、より好ましくは20〜50mmである。厚みが上記範囲内であれば、耐震スリットの耐震スリット芯材として、所望される耐震特性を発揮することができる。
【0017】
本発明で用いる耐火材は、薄くても耐火性能に優れた金属箔からなる。金属箔としては、アルミ箔、銅箔、錫箔、ニッケル箔、ステンレス箔、鉛箔、錫鉛合金箔、青銅箔、銀箔、イリジウム箔などを挙げることができるが、中でもアルミ箔、銅箔が好ましく、特にはアルミ箔が好適に用いられる。これは、アルミ箔は安価であるとともに、耐火性能が高いために好ましく用いられる。
【0018】
耐火材として用いる金属箔の適した厚みは、使用する金属箔の種類により異なるが、アルミ箔を用いる場合には、施工性と耐火性とのバランス、及び発泡板への変形追従性を考慮すると、6〜200μmの厚みであることが好ましく、20〜100μmの厚みであることがより好ましく、30〜60μmの厚みであることが更に好ましい。
【0019】
金属箔からなる耐火材は、断面コの字状とし、該断面コの字状の金属箔により、図1に示したように、合成樹脂発泡板の長手方向に沿った端面側が覆われている構成で、両者が組み合わされる。
断面コの字状の金属箔の突き出し部の長さは、施工性、耐火性、また合成樹脂発泡板への変形追従性等の観点から、5mm以上であることが好ましく、5〜20mmであることがより好ましく、7〜15mmであることが特に好ましい。
また、断面コの字状の金属箔は、少なくともその突き出し部において合成樹脂発泡板の板面に接着固定されていることが、合成樹脂発泡板への変形追従性の観点から好ましい。金属箔と合成樹脂発泡板とを接着固定させる方法としては、両者間に別途粘着剤或いは接着剤を介在させて両者を接着固定させてもよいが、施工性を考慮し、粘着剤付きの金属箔テープ、具体的には、粘着剤付きアルミ箔テープ、粘着剤付き銅箔テープ等を用いて行うことが好ましい。
【0020】
本発明に係る耐震スリット芯材は、その長手方向に沿った端面側の一端面側又は両端面側を狭持する力骨材を備えた耐震スリットとして用いられることが好ましい。耐震スリット芯材の両端面側に力骨材を備える場合には、耐火材としての断面コの字状の金属箔は、合成樹脂発泡板の上記端面の少なくとも一方側に備えられていればよいが、より確実に耐火性能を発現させるためには、両端面側に備えられていることが好ましい。さらに、耐震スリット芯材を垂直スリットの芯材として用いる場合には、下面となる端面側を断面コの字状の金属箔で覆ってもよい。
【0021】
以上、説明したように、本発明に係る耐震スリット芯材は、所定以上の変形復帰性を有する合成樹脂発泡板と、薄くても耐火性能に優れた金属箔からなる耐火材とを、合成樹脂発泡板の変形に耐火材が追従し易いように所定の構成で組み合わせたものであるので、耐震スリットの施工後において地震時の衝撃によって該耐震スリット芯材が圧縮変形した場合でも、変形復帰性に優れる合成樹脂発泡板共々金属箔からなる耐火材も元の状態に近い形まで戻ることができ、地震後においても耐震スリットの設置付近に間隙等が生じ難く、耐火性や耐水性等の初期性能を維持することができるものとなる。また、力骨材との嵌合強度に優れたものとなり、施工の際に、力骨材から耐震スリット芯材が離脱し難く、施工不良が生じ難いものとなるとともに、コンクリート打設時のコンクリート側圧に対する耐荷性能が高く、一度に打設可能なコンクリート打設高さが高くなり、コンクリート打込み回数が減らすことがでる。
【実施例】
【0022】
−実施例1〜3、比較例1〜3−
次の種々の構成の耐震スリット芯材を作製した。
−実施例1−
合成樹脂発泡板:ポリスチレン系樹脂からなる発泡板(株式会社ジェイエスピー製 ミラフォーム3種品、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度35kg/m3
耐火材:粘着剤付きアルミ箔テープ(日立マクセル株式会社製 スリオンテックアルミテープNo.8060、幅50mm、厚さ50μm)
構成:合成樹脂発泡板の長手方向に沿った両端面側を、断面コの字状の金属箔で覆った構成
−実施例2−
合成樹脂発泡板:フェノール系樹脂からなる発泡板(旭化成建材株式会社製オマフォーム、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度27kg/m3
耐火材:粘着剤付きアルミ箔テープ(日立マクセル株式会社製 スリオンテックアルミテープNo.8060、幅50mm、厚さ50μm)
構成:合成樹脂発泡板の長手方向に沿った両端面側を、断面コの字状の金属箔で覆った構成
−実施例3−
合成樹脂発泡板:ポリカーボネート系樹脂からなる発泡板(株式会社ジェイエスピー製 ミラポリカフォーム、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度60kg/m3
耐火材:粘着剤付きアルミ箔テープ(日立マクセル株式会社製 スリオンテックアルミテープNo.8060、幅50mm、厚さ50μm)
構成:合成樹脂発泡板の長手方向に沿った両端面側を、断面コの字状の金属箔で覆った構成
−比較例1−
合成樹脂発泡板:ポリスチレン系樹脂からなる発泡板(株式会社ジェイエスピー製 ミラフォーム3種品、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度35kg/m3
耐火材:使用せず
構成:合成樹脂発泡板単体
−比較例2−
合成樹脂発泡板:ポリスチレン系樹脂からなる発泡板(株式会社ジェイエスピー製 ミラフォーム3種品、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度35kg/m3
耐火材:粘着剤付きアルミ箔テープ(日立マクセル株式会社製 スリオンテックアルミテープNo.8060、幅25mm、厚さ50μm)
構成:合成樹脂発泡板の長手方向に沿った両端面を、平板状の金属箔で覆った構成
−比較例3−
合成樹脂発泡板:ポリスチレン系樹脂からなる発泡板(株式会社ジェイエスピー製 ミラフォーム3種品、厚さ25mm×幅210mm×長さ200mm、密度35kg/m3
耐火材:ロックウール(ニチアス株式会社製、密度120kg/m3、厚さ10mm)
構成:合成樹脂発泡板の長手方向に沿った一端面に、ロックウールを沿わせた構成
なお、上記各種合成樹脂発泡板の両板面には、王子マテリア株式会社製SRK(主成分セルロース、厚み300μm、坪量250g)を補強シートとして積層接着した。
【0023】
得られた上記各種の耐震スリット芯材について、変形復帰性、嵌合強度、耐火性能、そして実際の施工性について、測定或いは評価し、その結果を表1に示す。
なお、変形復帰性、嵌合強度等の測定或いは評価は、それぞれ下記の方法で行った。
【0024】
〔変形復帰性〕
独立行政法人都市構生機構制定の「機材の品質判定基準」(平成23年4月版)2建築編の5.スリット材の別紙「スリット材の性能試験方法」2.圧縮試験(試験番号02)4)変形復帰性に準じて試験を行った。
試験方法は以下の通りである。
試験前に図2に示す位置の耐火材部分の最大厚さを測定した。試験体に厚さ15mmまでの変位量を与え圧縮し、その後荷重ゼロまで復帰させた。この操作を5回繰り返したのち、厚さが安定するまで静置した。安定後、試験前と同様の方法で厚さを測定し、これを復帰厚さとした。試験速度は往復とも500mm/minとし、下式に従って変形量を算出した。
変形復帰性(%)=(t2/t1)×100
ここに、
t1:試験前の耐火材部分の厚さの最大値(mm)
t2:試験後の耐火材部分の厚さの最大値(mm)
【0025】
〔嵌合強度〕
篏合強度の評価は、以下の方法により行った。
目地棒(長さ300mm)を鋼製型枠にスクリュー釘ピッチ50mmで固定し、力骨材と耐震スリット芯材(厚さ25mm,幅210mm,長さ200mm)を挟み込んだ。次に、耐震スリット芯材部分の全面に荷重を加えるため、サイズ:厚さ16mm×幅90mm×長さ200mmのゴム板がスリッ芯材に接する側に積層された板を耐震スリット芯材の上に置き、その上から加圧棒により耐震スリット芯材表面に荷重をかけた。加圧条件は、試験速度:10mm/min、加圧棒:r=17mm(直径34mm、長さ600mmの鉄パイプ)とした。
なお、評価方法としては、加圧棒の変位が5mm時に、たわみ荷重が500N以上のものを○、たわみ荷重が500N以下のものを×と評価した。
【0026】
〔耐火性能〕
耐火性能の評価は、独立行政法人都市構生機構制定の「機材の品質判定基準(平成26年5月版):スリット材の性能試験方法」における耐火性能試験に準じて行った。
評価としては、試験終了時までに次の(1)から(4)までに適合するものを○とし、適合しないものを×とした。
(1)スリット部の裏面温度は、次式に適合すること。
最高温度≦180℃+初期温度
平均温度≦140℃+初期温度
この式における初期温度は、試験開始時のスリット部の裏面温度の平均とする。
(2)非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出がないこと。
(3)非加熱面で10秒を超えて継続する発炎がないこと。
(4)火炎が通る亀裂等の損傷を生じないこと。
【0027】
〔施工性〕
図3は、種々の構成からなる耐震スリット芯材1を垂直スリットの芯材としてコンクリート建造物に適用したときの横断面図である。耐震スリット芯材1は、その両側端側が力骨材4,4で挟持された状態で、柱部(構造柱)2と壁部(非構造壁)3との境界付近に埋設される。さらに、それら力骨材4,4の背面側にはシーリング材5,5が充填されている。
耐震スリットの前記境界部付近への埋設は、対向して設置された型枠のそれぞれに目地棒を固定し、耐震スリット芯材1の両側端部に力骨材4,4をそれぞれ配置した耐震スリットを、力骨材4,4の背面側の溝を目地棒に嵌合させることにより固定し、次いで、型枠間にコンクリートを打設し、所定期間経過後に型枠を取り外し、その後、型枠とともに外された目地棒の跡にコーキング材5,5を充填するという作業手順で行った。
施工性の評価は、上記作業、特にコンクリートの打設作業が良好に行われたものを○、コンクリート打設時に耐震スリット芯材が安定せず、耐震スリット芯材の力骨材からの離脱等が懸念されたものを×と評価した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1より、合成樹脂発泡板としてポリスチレン系樹脂を使用した実施例1、フェノール系樹脂を使用した実施例2、およびポリカーボネート系樹脂を使用した実施例3は、耐震スリット芯材として要求される変形復帰性能、嵌合強度、耐火性能そして施工性の全て満足していることが分かる。また、地震発生時における元の形状への戻りやすさを示す、変形復帰性は、実施例3≒実施例1>実施例2であり、実施例2に比べ、実施例1、3の方がより元の形状に戻りやすく、耐震スリット芯材により適していることが分かる。
これに対し、合成樹脂発泡板は実施例1と同じものを使用しているが、比較例1〜3の耐震スリット芯材の構成では、耐震スリット芯材として要求される変形復帰性能、嵌合強度、耐火性能そして施工性の全ての性能を満足するものはなかったことが分かる。
比較例1のように耐火材が無い構成の耐震スリット芯材では、耐火性能を満足することができない。比較例2のように合成樹脂発泡板の木口面(長手方向に沿った端面)のみにアルミ箔テープを貼り付けた構成の耐震スリット芯材では、変形復帰性試験時にアルミ箔テープの一部が発泡板から剥がれ、変形したままとなり、合成樹脂発泡板の変形復帰に追従できないため、変形復帰性能を満足することができない。比較例3のように、金属箔の変わりに、厚さのある耐火材であるロックウールを使用した構成の耐震スリット芯材では、力骨材の合成樹脂発泡板への掛かりが浅くなるため、施工を簡略化するために耐震スリットとして要求される嵌合強度を得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る耐震スリット芯材は、変形復帰性及び耐火性能にも優れ、また、力骨材と耐震スリット芯材との嵌合強度に優れるため、コンクリート構造物の非構造壁と構造柱との間に設置される耐震スリットを形成するための耐震スリット芯材として、好適に使用することできるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 耐震スリット芯材
2 柱部
3 壁部
4 力骨材
5 シーリング材
図1
図2
図3