特許第6596250号(P6596250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596250
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】液滴製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 2/04 20060101AFI20191010BHJP
   B01J 4/02 20060101ALI20191010BHJP
   A23P 10/20 20160101ALI20191010BHJP
【FI】
   B01J2/04
   B01J4/02 B
   A23P10/20
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-144596(P2015-144596)
(22)【出願日】2015年7月22日
(65)【公開番号】特開2017-23934(P2017-23934A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】米倉 正浩
(72)【発明者】
【氏名】森 公哉
(72)【発明者】
【氏名】大野 祐貴
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−231986(JP,A)
【文献】 特開平4−99106(JP,A)
【文献】 特開昭48−68474(JP,A)
【文献】 実開昭60−91242(JP,U)
【文献】 実開昭60−91243(JP,U)
【文献】 実開昭59−138439(JP,U)
【文献】 特開平2−293038(JP,A)
【文献】 特公昭51−22023(JP,B1)
【文献】 特開昭63−263078(JP,A)
【文献】 特表昭57−500060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 2/04
A23P 10/20
B01J 4/02
B05B 1/02
C02F 1/22
A23L 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、飲料、乳製品、水溶液、有機溶液、コロイド溶液を原料液として、該原料液の液滴を凍結させることで固体粒子を作製するに際し、前記原料液を滴下させて液滴を製造する液滴製造装置であって、
前記原料液が流通し、先端部から鉛直下方に前記原料液を液滴として自然落下させるノズルと、
伝熱材からなる管体を有し、該管体の内部を熱媒体が流通する加熱部であって、前記管体が前記ノズルに接触して前記ノズル内を流通する原料液を加熱する加熱部とを備え、
前記ノズルの先端部と前記加熱部の最下部との距離が、前記ノズルの内径若しくは前記液滴の長径のいずれか大きい方の値の0.5倍以上1.0倍以下に設定されていることを特徴とする液滴製造装置。
【請求項2】
前記ノズルに前記原料液を定量供給する原料液供給装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の液滴製造装置。
【請求項3】
前記熱媒体は、温風であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料液を滴下する液滴製造装置に関し、滴下された液滴を急速に凍結又は固体化して粒子を作製する際に安定して液滴を製造する液滴製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体の粒子を作製する方法として、一方の原料液のノズル等から滴下し、滴下した液滴を他方の原料液の中に落し入れ、液滴を化学反応させることで固体化させる方法が知られている。
このような方法を実現する装置として、例えば特許文献1に開示されている「滴下装置」がある。この滴下装置は、「液滴を滴下する滴下ノズルと、前記滴下ノズルに振動を加える加振器と、前記滴下ノズルに対して、実質的に無脈動で液体を供給する送液手段とを備えてなることを特徴とする」ものである(特許文献1の請求項1参照)。
【0003】
また、特許文献1には、滴下ノズルに振動を与える加振器に関し、以下のように記載されている。「加振器3は、例えば、滴下ノズル2の上方に配置され、前記滴下ノズル2に対して所定の振動数で振動を加える。加振器3は、滴下ノズル2それぞれに垂直方向に所定の振動数で振動を与えることができるように構成され、例えば電磁式振動発生器、機械式振動発生器、または超音波振動発生器等を採用して形成することができる。(特許文献1の[0017]参照)
【0004】
また、滴下した液滴を固体化する別の方法としては、元々固体である原材料を融解等により液化し、該液化された原材料をノズルから滴下した後、急速に冷却して再固体化する方法がある。
このような方法の場合も、上記の特許文献1と同様に滴下ノズルに振動を与えて液滴を強制的に製造するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−102574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、発明者らは、液滴を製造する方法として、特許文献1に開示されたようにノズルに加振器等により振動を与えて強制的に液滴を製造するのではなく、ごく微量の原料液をその流量を非常に高い精度で調整してノズルに供給し、ノズルの先端部に原料液を溜めて球体を作製し、該球体を成長させて、球体に作用する重力がノズル側へ作用する引っ張り張力を上回ることで自然に滴下させる方法を開発している。
そして、製造された液滴を固体化する方法としては、液滴を例えば液体窒素等の低温液体中に滴下させて急速冷却する方法を検討している。
【0007】
一般的に、液滴を急速冷却する場合、ノズルの周囲環境も低温状態になる。このような場合において、特許文献1に開示されたように加振器などによりノズルに振動を与える方法では、ノズルに比較的多量の原料液が断続的に送られるため、ノズルの先端部において原料液が凍結若しくは再固体化が生じるといった問題は発生しない。
【0008】
しかしながら、上述したように、非常に高い精度で調整された微量の原料液をノズルに供給し、原料液の球体をゆっくりと成長させ、振動を与えることなく自然に滴下させる方法においては、ノズルの周囲環境が低温状態である場合、ノズルの先端部において原料液が凍結若しくは再固体化してしまうという問題が生じることが分かった。
【0009】
このような問題の発生を防止する方法しては、ノズルに熱源を接触させ、原料液を加熱することが考えられ、このような加熱方法として、温風をノズルに吹きかける方法や、赤外線等によりノズルを加熱する方法が一般的である。
しかしながら、温風をノズルに吹きかける方法では、原料液の球体が十分に成長する前に落下してしまうという問題があるし、赤外線等により加熱する方法では、ノズルのみをピンポイントで加熱することは難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、ノズルに振動を与えることなくノズルから液滴を滴下させて液滴を製造する場合であり、原料液がノズル先端部での成長過程でノズル内よりも周囲環境温度で冷却される場合において、原料液がノズルの先端部で凍結や再固体化せずに液滴を継続して製造可能な液滴製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題を解決するため発明者らは、ノズルのみを加熱する方法として、ノズルの先端部に熱源となる加熱部を接触させることは、先端部における原料液の凍結若しくは再固体化を防止するために有効であると考え、具体的な態様について検討を行った。
その結果、図6に示すように、ノズル3の先端部に原料液Lの球体をゆっくりと成長させた場合において、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離が近いと、装置の微小な振動や、静電気などの原因により、加熱部4の最下部が原料液Lで濡れてしまい、最適な大きさの液滴を安定して滴下できないということが判明した。
そこで、発明者はノズル3の先端部に加熱部4を接触させるとしても、ノズル3の先端部と加熱部4の配置には満たすべき位置関係があると考え、さらに検討を加えることで本発明を完成させたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0012】
(1)本発明に係る液滴製造装置は、水、飲料、乳製品、水溶液、有機溶液、コロイド溶液を原料液として、該原料液の液滴を凍結させることで固体粒子を作製するに際し、前記原料液を滴下させて液滴を製造する液滴製造装置であって、
前記原料液が流通し、先端部から鉛直下方に前記原料液を液滴として自然落下させるノズルと、
伝熱材からなる管体を有し、該管体の内部を熱媒体が流通する加熱部であって、前記管体が前記ノズルに接触して前記ノズル内を流通する原料液を加熱する加熱部とを備え、
前記ノズルの先端部と前記加熱部の最下部との距離が、前記ノズルの内径若しくは前記液滴の長径のいずれか大きい方の値の0.5倍以上1.0倍以下に設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記ノズルに前記原料液を定量供給する原料液供給装置を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記熱媒体は、温風であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、原料液が流通し、先端部から鉛直下方に前記原料液を液滴として自然落下させるノズルと、前記ノズルに接触して前記ノズル内を流通する原料液を加熱する加熱部を備え、前記ノズルの先端部と前記加熱部の最下部との距離が、前記ノズルの内径若しくは前記液滴の長径のいずれか大きい方の値の0.5倍以上に設定されていることにより、前記ノズル先端部の原料液が凍結もしくは冷却による再固体化せず、かつ原料液が加熱部の最下部に触れることなく、最適な大きさの液滴を継続して製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る液滴製造装置の要部の説明図である。
図2】本発明の実施の形態に係る液滴製造装置の全体構成の説明図である。
図3】本発明の実施の形態に係る液滴製造装置によって、液滴が製造される過程を説明する説明図である。
図4】加熱部の設置位置が適切でないために液滴が凍結した状態の説明図である。
図5】本発明の実施の形態に係る液滴製造装置におけるノズルと加熱部との配置の他の態様の説明図である。
図6】本発明が解決しようとする課題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態に係る液滴製造装置1は、図1図2に示すように、原料液Lの液滴を凍結させるか又は冷却して固体化することで固体粒子を作製するに際し、原料液Lを滴下させて液滴を製造するものであって、原料液Lを液滴として自然落下させるノズル3と、ノズル3に接触してノズル3内を流通する原料液Lを加熱する加熱部4を備えてなるものである。
各構成を詳細に説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、各構成要素の特徴を分かり易くするために、便宜上、特徴となる部位を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0018】
<ノズル>
ノズル3は、原料液Lが流通し、先端部から鉛直下方に原料液Lを液滴として自然落下させるものである。
ノズル3は、加振器などによって振動が与えられ、原料液Lを強制的に液滴として吐出するものとは違い、非常に高い精度で調整された微量の原料液Lが定量供給されることで、ノズル3の先端部に原料液Lの球体をゆっくりと成長させ、球体に作用する重力がノズル3側へ作用する引っ張り張力を上回ることで自然に滴下させるものである。
なお、ノズル3に原料液Lを定量供給する原料液供給装置8(図2参照)の一例については後述する。
【0019】
ノズル3は、加熱部4に固定されているのではなく、接触した状態であり、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cを調整できるようになっている。
【0020】
本実施の形態において、ノズル3は外径2.0〜4.0mm程度、内径A:1.4〜2.0mmの管を用いて製造されたものである。
ノズル3の材質としては、SUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lと反応せず、かつ、ノズル3の周囲環境に適したもの、さらに衛生的に問題のない材質であれば材質は問わない。
【0021】
<加熱部>
加熱部4は、ノズル3に接触してノズル3内を流通する原料液Lを加熱するものである。
本実施の形態の加熱部4は、伝熱材からなる矩形の管体からなり、内部に熱媒体6としての温風が流通している。
加熱部4の材質にはSUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lや熱媒体6と反応せずかつ、ノズル3の周囲環境に適したもの、さらに衛生的に問題のない材質であれば材質は問わない。
【0022】
本実施の形態の液滴製造装置1は、例えば液体状となった食品の液滴の製造に用いられ、この液滴を液体窒素内に落し入れることで急速に再固体化させて、粒子状の食品を生産するのに用いられる。
一般的に、食品や医薬品の製造装置は、衛生面から毎日分解して洗浄できることが求められる。よって、液滴製造装置1を食品の製造装置の一部として用いる場合、加熱部4としては、異物などが溜まりにくいシンプルな形状のものが好ましい。
この点、本実施形態の加熱部4は、矩形状の管体を用いて内部を流通する熱媒体6の熱をノズル3に伝えるものであり、シンプルな形状であり、洗浄にも支障がない。
また、本実施形態では、熱媒体6として温風を用いているが、これは、食品や医薬品の製造工場においては、温風を供給する配管が張り巡らされていることが多く、温風を得やすいためである。
もっとも、熱媒体6としては、温風に限定されるものではなく、温水など他のものであってもよい。
【0023】
ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離C(図1参照)は、ノズル3の内径A(図1参照)若しくは液滴の長径B(図1参照)のいずれか大きい方の値の0.5倍以上に設定されている。ここで、液滴の長径Bとは、液滴の形状を楕円体と考え、その楕円体において最も長い径を指している。また、液滴の長径Bは、液滴を凍結させて固体状にした状態でその粒径を計測することで求めることができる。
加熱部4の最下部の位置をこのように設定することで、原料液Lが加熱部4を濡らすことがない。この点は、後述する実施例で実証している。
【0024】
なお、加熱部4は、原料液Lがノズル3の先端部において凍結又は再固体化することを防止するためのものであり、加熱温度やノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離C、原料液Lの種類やノズル3の周囲環境によって上記目的を達成できるように適宜設定すればよい。
ただ、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cの上限値としては、ノズル3の内径A若しくは液滴の長径Bのいずれか大きい方の値の1.0倍以下とすることが好ましい。
【0025】
この理由は以下の通りである。
ノズル3の先端部から加熱部4を離すことで加熱部4が原料液Lで濡れるのを防止することはできるが、加熱部4を離し過ぎるとノズル3の先端部において原料液Lが徐々に凍結若しくは再固体化することがある(図4参照)。
そこで、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cには上限値を設けることが好ましく、後述する実施例において検証したところ、上記の範囲が好ましいことが判明した。
上記のように、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cの下限値及び上限値は、実施例で後述するように、液滴製造テストを繰り返し行い、液滴を安定して製造できる好ましい条件として設定したものである。
【0026】
ここで、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cを、ノズル3の内径A若しくは液滴の長径Bのいずれか大きい方の値の0.5倍〜1.0倍とする場合について、具体例を示す。
例えば、ノズル3の外径が2.0mm(内径A:1.4mm)において、液滴の長径Bが1.4mm以下の液滴を製造する場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cはノズル3の内径A(1.4mm)を基準とし、その0.5倍〜1.0倍、すなわち0.7〜1.4mmで調整することになる。
また、ノズル3の外径が2mm(内径A:1.4mm)において、液滴の長径Bが1.4mm以上の液滴を製造する場合、例えば液滴の長径Bが4.0mmの場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cは、液滴の長径B(4.0mm)を基準として、その0.5倍〜1.0倍、すなわち2.0〜4.0mmで調整することになる。
【0027】
また、ノズル3の外径が4.0mm(内径A:2.0mm)において、液滴の長径Bが2.0mm以下の液滴を製造する場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cはノズル3の内径(2.0mm)を基準とし、その0.5倍〜1.0倍、すなわち1.0mm〜2.0mmで調整することになる。
さらに、ノズル3の外径が4.0mm(内径A:2.0mm)において、液滴の長径Bが2.0mm以上の液滴を製造する場合、例えば液滴の長径Bが5.0mmの場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cは液滴の長径B(5.0mm)を基準として、その0.5倍〜1.0倍、すなわち2.5〜5.0mmで調整することになる。
【0028】
なお、原料液Lが凍結又は再固体化しやすい性質である場合には、2つの加熱部4を用いてノズル3の両側面に各加熱部4をそれぞれ接触させるようにしてもよい。
また、図5に示すように、複数のノズル3を直線状に並べて配置し、これらのノズル3に一つの加熱部4を接触させるようにしてもよい。
【0029】
<原料液供給装置>
原料液供給装置は、ノズル3に原料液Lの流量を非常に高い精度で調整して供給するものであり、原料液Lを貯留する原料タンク5と、一端側が原料タンク5に、他端側がノズル3に接続されて、原料液Lが流通してノズル3に供給される供給配管7と、供給配管7に設けられて、原料タンク5からノズル3へ供給される原料液Lを一定流量に調整する一定流量調整部10を有している。以下、原料液供給装置を構成する各部分を詳細に説明する。
【0030】
《原料タンク》
原料タンク5は、ノズル3に供給する原料液Lを貯留するものである。
原料タンク5の材質にはSUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lと反応しないものであれば材質は問わない。
【0031】
《供給配管》
供給配管7は、一端側が原料タンク5、他端側がノズル3に接続されて、原料タンク5に貯留された原料液Lを流通させてノズル3に供給するものである。
供給配管7の材質としては、SUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lと反応しない材質であれば良い。
【0032】
《一定流量調整部》
一定流量調整部10は、供給配管7に設けられ、ノズル3に供給される原料液Lを一定の流量に調整するものであり、図2に示すように、原料液Lが流通する供給配管7を所定の流路断面積に縮小させる流路縮小部11と、流路縮小部11と原料タンク5との間に設けられ、流路縮小部11の上流側における前記原料液Lの圧力p1を調整する圧力調整部13とで構成されている。
【0033】
なお、本実施の形態において「一定流量」とは、ノズル3に供給される原料液Lの流量が変動せずに予め定められた所定の流量を保持することを指し、予め定められた所定の流量は圧力調整部13で調整される圧力に応じて変更することができる。
【0034】
(流路縮小部)
流路縮小部11は、供給配管7に設けられ、原料液Lが流通する供給配管7の流路を所定の流路断面積に一度縮小させ、その後拡大することによって、流路縮小部11の下流側における原料液Lの圧力p2を低下させ、流路縮小部11の上流側と下流側に圧力差Δp(=p1―p2)を生じさせるものである。
【0035】
流路縮小部11には、オリフィスやコントロール弁を用いることができる。
コントロール弁はその開度によって開口部の断面積(流路断面積)が変わるため、原料液Lをノズル3に供給して液滴を製造している最中においても流量を変更することができるが、コントロール弁の開口部の断面積が微妙に変化して、流量が変動しやすい。
そのため、液滴製造中に流量を変更する必要がない場合においては、流路断面積が一定に固定されているオリフィスを用いる方がより好ましい。
【0036】
なお、流路縮小部11の材質にはSUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lと反応しないものであれば材質は問わない。
【0037】
(圧力調整部)
圧力調整部13は、流路縮小部11より上流(原料タンク5側)に設けられ、流路縮小部11の上流側における原料液Lの圧力p1を調整するものである。
圧力調整部13の一例としては、図2に示すように、ホッパ15と、液面計17と、弁制御部19及び自動開閉弁21から構成されたものがある。
【0038】
ホッパ15は、原料タンク5とノズル3との間に設けられて、ノズル3に供給される原料液Lを一時的に貯留するものであり、原料液Lに不純物が混入しない程度に密閉され、原料液Lを静置できる構造であることが望ましい。
ホッパ15の材質にはSUS304を用いることができるが、これに限定されるものではなく、原料液Lと反応しないものであれば材質は問わない。
【0039】
液面計17は、ホッパ15に一時的に貯留された原料液Lの液面高さを測定するものであり、測定された前記液面高さは、電気的に接続された弁制御部19に出力される。
【0040】
弁制御部19は、液面計17から出力された前記液面高さに基づいて、該液面高さが予め定めた所定の液面高さとなるように、電気的に接続された自動開閉弁21に制御信号を出力して自動開閉弁21の開閉を制御するものである。
【0041】
自動開閉弁21は、原料タンク5とホッパ15との間の供給配管7に配置され、弁制御部19からの制御信号に基づいて開閉動作を行うものである。
自動開閉弁21としては、ボール弁を用いることができるが、これに限定されることはなく、原料タンク5からホッパ15への原料液Lの供給と遮断を切り替え可能な構造の弁であれば、玉形弁等を用いても良い。
【0042】
圧力調整部13の構成は上記に限定されるものではなく、流路縮小部11の上流側における圧力p1を厳密に調整できるものであれば、構造は問わない。
【0043】
上記のように、本実施の形態に係る液滴製造装置1においては、一定流量調整部10を用いて原料液Lをノズル3に、非常に高い精度で一定流量に調整して供給することによって、安定して長時間、液滴を製造することができる。
さらに、上記構成の液滴製造装置1は、圧力調整部13により制御するホッパ15内における原料液Lの液面高さを変更することにより、ノズル3に供給する原料液Lの流量を変更することができる。
【0044】
しかしながら、例えば液滴製造装置1により製造した液滴を凍結させるような場合、長時間液滴を製造し続けると、ノズル3からの原料液Lが液滴状態から連続流に変化してしまうことがある。これは、ノズル3の周囲環境が低温であることにより、ノズル3に供給される原料液Lが冷却されてその微小量に粘度変化あるいは凝固による粒状物質の発生等といった変質が生じ、変質した原料液Lが流路縮小部11を通過すると一定流量調整部10により厳密に一定流量に調整されていた原料液Lの流量が変化するためであると考えられる。
そして、一度、液滴の滴下に適した状態から外れて連続流になると、変質した原料液Lが流路縮小部11を通過してノズル3から排出されたとしても、液滴が滴下するのに適した状態に自発的に戻ることはほとんど見られない。
【0045】
一方で、ホッパ15や原料タンク5内の原料液Lにおいては通常は変質が生じておらず、上記のとおり、差圧式流量計の原理に基づいた一定流量調整部10を用いて非常に高い精度で一定流量に調整して原料液Lをノズル3に供給すれば、原料液Lの供給開始時においてはほぼ100%、ノズル3から排出される原料液Lは連続流とはならず、液滴として滴下できる。
【0046】
そこで、本実施の形態に係る液滴製造装置1においては、図2に示すように、供給配管7の流路を閉開することで、連続流を液滴に戻すためのリセット弁23をさらに備えることが望ましい。
【0047】
(リセット弁)
リセット弁23は、流路縮小部11と圧力調整部13との間の供給配管7に設けられて、供給配管7の流路を閉開するものであり、ノズル3からの原料液Lが液滴状態から連続流となった場合に、リセット弁23により供給配管7の流路を一旦閉じ、原料液Lの状態を静置した後、再び開くことによって、液滴の製造を再開することができる機能を有する。
【0048】
本実施の形態では、リセット弁23としてボール弁を用いているが、これに限定されることではなく、ノズル3への原料液Lの供給と遮断を制御できる供給遮断装置であっても良く、例えば、電磁弁に外部からON/OFF信号を発信して供給もしくは遮断を制御する装置がある。
【0049】
次に、上記のように構成された本実施の形態に係る液滴製造装置1の液滴製造時における動作態様を、図1及び図2を参照して下記に説明する。
【0050】
まず、ホッパ15において原料液Lが所定の液面高さとなるように、原料タンク5からホッパ15へと原料液Lを供給する。この時、ホッパ15とノズル3とを接続する供給配管7に設けられたリセット弁23は閉じておくことが望ましい。
【0051】
ホッパ15において原料液Lが所定の液面高さに達して液滴の製造に適した条件を満たしたら、リセット弁23を開き、ホッパ15からノズル3へ原料液Lの供給を開始する。
ノズル3への原料液Lの供給中は、ホッパ15において原料液Lが所定の液面高さを保つように液面計17、弁制御部19、自動開閉弁21を用いて次のように自動的に制御する。
【0052】
原料タンク5からホッパ15へ原料液Lが供給されて、液面計17で測定された液面高さが予め定められた所定の液面高さ以上であると弁制御部19において判定された場合、弁制御部19から自動開閉弁21に「閉」信号が出力される。
そして、自動開閉弁21においては、弁制御部19から出力された「閉」信号に基づいて弁が閉じられ、原料タンク5からホッパ15への原料液Lの供給が停止する。
【0053】
リセット弁23が開いてノズル3から液滴が滴下している状態では、ホッパ15からノズル3へと原料液Lが常に供給されており、ホッパ15における原料液Lの液面高さは徐々に低下する。
【0054】
ホッパ15における原料液Lの液面高さが低下し、液面計17で測定された液面高さが所定の液面高さよりも低いと弁制御部19において判定された場合、弁制御部19から自動開閉弁21へと「開」信号が出力される。
【0055】
そして、自動開閉弁21においては、弁制御部19から出力された「開」信号に基づいて弁が開かれ、原料タンク5からホッパ15への原料液Lが供給される。
【0056】
このように、ホッパ15、液面計17、弁制御部19及び自動開閉弁21から構成される圧力調整部13を用い、ホッパ15に貯留された原料液Lの液面を所定の液面高さに制御することにより、ホッパ15における原料液Lの位置エネルギー(位置ヘッド)を所定の値に制御し、これによって流路縮小部11の上流側における圧力p1を所定の値に調整することができる。
【0057】
一方、流路縮小部11における下流側の圧力p2に関しては、一般に、流路の途中で流路断面積を一度縮小させ、その後拡大させると、流路の下流側における流体の圧力p2が低下し、本実施の形態に係る液滴製造装置1においては大気圧とほぼ等しいとみなされる。
そのため、流路縮小部11の上流側と下流側における圧力差Δp(=p1−p2)は所定の値に保たれることになる。
【0058】
ここで、差圧式(オリフィス)流量計の原理から、一定の流路断面積(開度)の部位の上流側と下流側における圧力差Δpが一定である条件下では、当該部位を流通する流体の体積流量は一定となることが知られている。
【0059】
したがって、本実施の形態に係る液滴製造装置1においては、所定の流路断面積に縮小する流路縮小部11と、流路縮小部11の上流側における圧力p1を調整する圧力調整部13から構成される一定流量調整部10を用いることにより、ノズル3に供給される原料液Lが極微量であっても、非常に高い精度で一定流量に調整することができる。
【0060】
ノズル3に原料液Lを供給すると、図3に示すように、ノズル3の先端部に懸垂した球体が形成される。
このとき、ノズル3の先端部には加熱部4が接触しており、かつノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが所定の範囲に設定されているので、原料液Lの成長過程で原料液Lの球体が加熱部4を濡らすことがなく適切な大きさまで成長する。また、ノズル3の周囲環境が原料液Lを凍結又は再固体化するものであっても、ノズル3の先端部が加熱部4によって暖められているので、原料液Lがノズル3内またはノズル3の外で凍結又は再固体化することもない。
【0061】
原料液Lをゆっくりと供給し続けて該球体を成長させて、該球体の重力が原料液Lの表面張力に起因するノズル3側への引っ張り張力よりも上回ると、ノズル3の先端部から原料液Lが液滴として自然落下する。
このように、非常に高い精度で一定流量に調整された原料液Lをノズル3に供給し、かつ加熱部4を設けることによって、液滴を安定かつ継続して製造することが可能となる。
【0062】
なお、ノズル3から排出された原料液Lの状態が何らかの原因によって連続流になった場合には、リセット弁23を閉じ、ノズル3への原料液Lの供給を一旦停止した後、リセット弁23を開き、原料液Lのノズル3への供給を再開する。
【0063】
このように、何らかの原因によってノズル3から排出される原料液Lが連続流となっても、リセット弁23を閉じることにより、液滴の製造を開始する直前の状態、すなわち、原料液Lを液滴の製造に適した状態へと自動的にリセットすることができる。
【0064】
リセット弁23の開閉によって連続流の状態を滴下の状態にリセットできる理由は以下の通りである。
上述したように、製造した液滴を凍結させる場合、ノズル3の先端以外は低温対策を施すものの、長時間周囲環境が低温となることによって原料液Lが徐々に冷却されて、変質した原料液Lが発生してしまう。この変質した原料液Lが流路縮小部11やノズル3に悪影響を及ぼした後、ノズル3から排出される。その直後、液滴状態から連続流と変化してしまう。
一旦、連続流となってしまうと、液滴の製造に適した条件を満たした状態にほとんど戻らない。
【0065】
しかしながら、連続流となった時点でリセット弁23を閉じると、変質した原料液Lは既にノズル3から排出されており、リセット弁23から上流側には液滴の製造に適した状態の原料液Lが残されているため、一旦閉じたリセット弁23を開いてノズル3から原料液Lの排出を再開すると、再度変質した原料液Lが発生するまで、液滴として滴下させることができる。
【0066】
なお、上記の実施の形態においては、ノズル3に原料液Lを定量供給する装置として、図2に示すものを例示したが、本発明はこれに限定されず、ノズル3で原料液Lの球体を成長させて液滴として自然落下させるためにノズル3に原料液Lを定量供給できるものであれば、他の態様のものであってもよい。
また、本発明における原料液Lは、水、飲料、乳製品、水溶液、有機溶液、コロイド溶液等の液状物質を対象としており、その種類に関して特に制限はない。
【実施例】
【0067】
本実施形態の液滴製造装置1を用いて、水の液滴を製造し、これを液体窒素に落し入れ、氷の粒子を作る試験を行った。
原料液Lである水の温度は7℃、熱媒体6である温風の温度は70℃とした。液体窒素が満たされた容器は、ノズル3の下方6cmとし、ノズル3の雰囲気の温度は約4℃とした。
【0068】
また、ノズル3の内径Aを1.4mmとし、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cを0.0mm〜7.0mmの範囲で変更し、かつ液滴の長径Bを1.0mm〜5.0mmの範囲で変更した。
さらに、ノズル3の内径Aを2.0mmとし、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cを上記と同様に0.0mm〜7.0mmの範囲で変更し、かつ液滴の長径Bについても上記と同様に1.0mm〜5.0mmの範囲で変更した。
【0069】
そして、1時間継続して、液滴を製造できた条件を「安定」と評価した。また、1時間以内に加熱部4に接触し、液滴が規定値よりも大きくなるなどした条件を「加熱部と接触」と評価し、1時間以内に原料液Lが滴下することなく氷結した条件を「凍結」と評価した。
ノズル3の内径Aを1.4mmとした場合の結果を表1に、ノズル3の内径Aを2.0mmとした場合の結果を表2にそれぞれ示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
<表1についての考察(ノズル内径A:1.4mm)>
・液滴の長径Bが1.0mmの場合
この場合は、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜0.5mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが1.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが1.5mm〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが1.0mmの場合、ノズル内径A(1.4mm)の方が大きく、「安定」となった距離C=1.0mmは、ノズル内径A(1.4mm)の0.5〜1.0倍、すなわちほぼ0.7〜1.4mmの範囲となっている。
【0073】
・液滴の長径Bが3.0mmの場合
この場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜1.0mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが1.5〜3.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが3.5〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが3.0mmの場合、ノズル内径A(1.4mm)より液滴の長径Bの方が大きく、「安定」となった距離C=1.5〜3.0mmは、液滴の長径B(3.0mm)の0.5〜1.0倍、すなわち1.5〜3.0mmとなっている。
【0074】
・液滴の長径Bが5.0mmの場合
この場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜2.0mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが2.5〜5.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが5.5〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが5.0mmの場合、ノズル内径A(1.4mm)より液滴の長径Bの方が大きく、「安定」となった距離C=2.5〜5.0mmは、液滴の長径B(5.0mm)の0.5〜1.0倍、すなわち2.5〜5.0mmとなっている。
【0075】
<表2についての考察(ノズル内径A:2.0mm)>
・液滴の長径Bが1.0mmの場合
この場合は、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜0.5mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが1.0〜2.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが2.5mm〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが1.0mmの場合、ノズル内径A(2.0mm)の方が大きく、「安定」となった距離C=1.0〜2.0mmは、ノズル内径A(2.0mm)の0.5〜1.0倍、すなわち1.0〜2.0mmとなっている。
【0076】
・液滴の長径Bが3.0mmの場合
この場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜1.0mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが1.5〜3.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが3.5〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが3.0mmの場合、ノズル内径A(2.0mm)より液滴の長径Bの方が大きく、「安定」となった距離C=1.5〜3.0mmは、液滴の長径B(3.0mm)の0.5〜1.0倍、すなわち1.5〜3.0mmとなっている。
【0077】
・液滴の長径Bが5.0mmの場合
この場合、ノズル3の先端部と加熱部4の最下部との距離Cが0.0〜2.0mmでは「加熱部と接触」となり、距離Cが2.5〜5.0mmで「安定」となり、さらに距離Cが5.5〜7.0mmでは「凍結」となった。
液滴の長径Bが5.0mmの場合、ノズル内径A(2.0mm)より液滴の長径Bの方が大きく、「安定」となった距離C=2.5〜5.0mmは、液滴の長径B(5.0mm)の0.5〜1.0倍、すなわち2.5〜5.0mmとなっている。
【0078】
以上のように、ノズル3の内径Aが1.4mm、2.0mmのいずれの場合であっても、ノズル3の先端部と加熱部4との距離Cを、ノズル3の内径Aもしくは液滴の長径Bのいずれか大きい値の0.5〜1.0倍の範囲とすることで、安定して液滴を製造できることが実証された。
【符号の説明】
【0079】
1 液滴製造装置
3 ノズル
4 加熱部
5 原料タンク
6 熱媒体
7 供給配管
10 一定流量調整部
11 流路縮小部
13 圧力調整部
15 ホッパ
17 液面計
19 弁制御部
21 自動開閉弁
23 リセット弁
25 監視部
25a 発信部
25b 受信部
27 リセット弁制御部
A ノズルの内径
B 液滴の長径
C ノズルの先端部と加熱部の最下部との距離
L 原料液
図1
図2
図3
図4
図5
図6