特許第6596251号(P6596251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596251
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】酸臭低減剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20191010BHJP
【FI】
   A23L27/10 C
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-145649(P2015-145649)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-23064(P2017-23064A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106769
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】生田 祐嗣
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 真人
(72)【発明者】
【氏名】西川 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩一郎
【審査官】 吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−045305(JP,A)
【文献】 特開2010−004767(JP,A)
【文献】 特開2011−130669(JP,A)
【文献】 特開2006−296356(JP,A)
【文献】 片山脩,果実・そ菜の香気成分,日本食品工業学会誌,日本,1964年,11巻、10号,P447-P458
【文献】 原田陽一、小杉麗子、米内貞弘,コーヒーについて,調理科学,日本,1974年,7巻、2号,p71-p77
【文献】 日本味と匂学会誌,2014年,Vol.21, No.3,p.225-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族脂肪酸を含む飲食品の酸臭低減剤であって、スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物若しくは植物精油を有効成分として含むことを特徴とする上記の酸臭低減剤。
【請求項2】
脂肪族脂肪酸が飽和脂肪酸である請求項1記載の酸臭低減剤。
【請求項3】
飽和脂肪酸が酢酸、酪酸及びイソ吉草酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸である請求項2記載の酸臭低減剤。
【請求項4】
スピラントールを含有する植物がオランダセンニチ又はキバナオランダセンニチである請求項1〜3のいずれかの項に記載の酸臭低減剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の酸臭低減剤と飲食品用香味料とを含有することを特徴とする飲食品の酸臭低減用香味料組成物。
【請求項6】
脂肪族脂肪酸を含む飲食品の酸臭を低減する方法であって、当該飲食品にスピラントールを0.5〜500ppbの含有量となるように添加することを特徴とする酸臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族脂肪酸(特に酢酸、酪酸、イソ吉草酸)を含むことで過度の酸臭を不快と感じる飲食品の酸臭低減剤に関する。
また、本発明は、当該酸臭低減剤と飲食品用香味料とを含有する飲食品用香味料組成物、当該飲食品用香味料組成物を添加した脂肪族脂肪酸を含有する飲食品、並びに、脂肪族脂肪酸を含有する飲食品の酸臭低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳関連製品や酸性飲料などの飲食品では、喫食時に酸臭を過度に感じるため、良質な風味を損なう機会があった。かかる酸臭は、ビネガー(酢)様、チーズ様、汗臭さ、脂肪臭、ヤギ臭といった多様なものであるが、その多くは鎖状のモノカルボン酸である脂肪族脂肪酸に起因するものである。
【0003】
食酢等の酢酸含有飲食物にコハク酸モノエチルを添加して酸味酸臭を低減する方法が提案されている(特許文献1)。
また、酢酸、クエン酸、乳酸等の酸剤を含む酸性飲食品の酸味・酸臭を抑制する方法として、酸性飲食品に対して酵母エキスを乳酸菌で発酵させて得られる成分を添加する方法が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、従来技術には一長一短があり、特に、ビネガー様の香りだけでなくチーズ様などの個性的な香りを有する飲食品に対しては十分な低減は図れないという問題点を残していた。
【0004】
一方、ビネガー様やチーズ様の個性的な香りは、飲食品の美味しさのキーポイントである良質な香味・風味の一部を構成するものであるから、過度に低減することは好ましくない。また、低減剤自体の香味が飲食品の香味を損なわないことも考慮しなければならず、極微量の添加でビネガー様、チーズ様の個性的な香りを適度に低減できる素材の選択が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−263810号公報
【特許文献2】特開2013−78265号公報
【特許文献3】特公昭48−35465号公報
【特許文献4】特開昭62−198611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、脂肪族脂肪酸含有飲食品の喫食時に感じられる不快な酸臭(香り)、特にビネガー様の香りやチーズ様の香りが混在して醸し出される不快な酸臭を低減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは不快な酸臭を低減する素材を種々検討した結果、脂肪族脂肪酸を含むことによってビネガー様の香りだけでなくチーズ様などの個性的な香りを有する飲食品において、微量のスピラントールの添加が不快に感じる酸臭の低減をもたらし、結果的に飲食品の良質な香味・風味を維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)脂肪族脂肪酸を含む飲食品の酸臭低減剤であって、スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物若しくは植物精油を有効成分として含むことを特徴とする上記の酸臭低減剤。
(2)脂肪族脂肪酸が飽和脂肪酸である(1)の酸臭低減剤。
(3)飽和脂肪酸が酢酸、酪酸及びイソ吉草酸からなる群より選ばれる1種以上の脂肪酸である(2)の酸臭低減剤。
(4)スピラントールを含有する植物がオランダセンニチ又はキバナオランダセンニチである(1)〜(3)のいずれかの酸臭低減剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかの酸臭低減剤と飲食品用香味料とを含有することを特徴とする飲食品用香味料組成物。
(6)脂肪族脂肪酸を含有する飲食品に(5)の飲食品用香味料組成物が添加されてなる飲食品。
(7)スピラントールの含有量が0.5〜500ppbであることを特徴とする(6)の脂肪族脂肪酸含有飲食品。
(8)脂肪族脂肪酸を含む飲食品の酸臭を低減する方法であって、当該飲食品にスピラントールを0.5〜500ppbの含有量となるように添加することを特徴とする酸臭低減方法。
【0009】
ここで、スピラントールと酸味との関係について、以下のような先行技術が存在する。
特許文献3には、スピラントールを使用して酸味を有する飲食品の品質を改善する加工法が提案されている。しかし、特許文献3の具体的内容は、スピラントールの添加によってクエン酸の酸味が増強されると同時にクエン酸特有の苦味が除去され酸味がまろやかになるというものであり、脂肪族脂肪酸が発する特有の不快な酸臭低減にスピラントールが寄与することは何ら示されていない。
さらに、特許文献4には、歯磨きなどの口腔用組成物にスピラントールを配合して組成物中の有機酸の酸味を除去することが提案されている。しかし、特許文献4の具体的内容は、歯磨きの薬効成分であるフッ化第1錫の安定化剤として配合されるフィチン酸やクエン酸の酸味を抑制するものであり、脂肪族脂肪酸が発する特有の不快な酸臭低減にスピラントールが寄与することは何ら示されていない。
【発明の効果】
【0010】
スピラントールを有効成分とする酸臭低減剤を使うことで、喫食時に感じられる脂肪族脂肪酸含有飲食品の不快な酸臭を低減し、飲食品の味質を向上させることができる。また、極微量の添加でビネガー様、チーズ様の個性的な酸臭を適度に低減することが可能であり、低減剤自体の香味が飲食品の香味を損なうことがない。言い換えれば、脂肪族脂肪酸含有飲食品の香味のバランスに影響を与えることなく、不快な酸臭のみを低減することができ、当該飲食品の味質向上に優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1〕酸臭低減剤
本発明の酸臭低減剤は、その有効成分としてスピラントールを含有する。
本発明で用いるスピラントール(spilanthol)とは、キク科オランダセンニチ(Spilanthes acmella)、キバナオランダセンニチ(Spilanthes acmella var. oleracea)等に含まれる辛味成分であり、下記の化学式で表されるN−イソブチル−2,6,8−デカトリエンアミドである。
CH3CH=CH−CH=CH(CH2)2CH=CHCONHCH2CH(CH3)2
【0012】
スピラントールは前記植物から採取、精製することにより得られる他、化学的に合成す
ることも可能である。本発明ではいずれの方法により得られたスピラントールであっても使用でき、また、純度が高いものである必要はない。
他の成分の味や匂いが飲食品の香味に影響を与えない場合は、スピラントールを含有する植物の抽出物や精油等を精製することなく使用してもよい。安全性の観点からは食経験のある植物から得られる抽出物又は精油を使用することが好ましく、また、供給、価格等の実用性の観点から、スピラントール含量の多いオランダセンニチ又はキバナオランダセンニチの抽出物又は精油を使用するのが特に好ましい。
【0013】
スピラントールは、例えば、スピラントール含量の高いオランダセンニチ又はキバナオランダセンニチの全草又は花頭から抽出又は蒸留により採取することができる。
抽出による採取法を例示すると、オランダセンニチ又はキバナオランダセンニチの花頭を乾燥・粉砕した後、有機溶媒で抽出してスピラントールを含有する抽出液を得る。
【0014】
抽出に使用する有機溶媒は特に制限はなく、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類を適宜単独で、又は混合して使用することができる。
アルコール類のような極性有機溶媒が好ましく、安全性の観点から特にエタノール又はエタノール水溶液が好ましい。エタノール水溶液は、エタノール濃度が好ましくは50〜90%(w/w)、特に好ましくは70〜80%(w/w)のものである。
得られた抽出液から常法により溶媒を留去し、スピラントール含有抽出物が得られる。
【0015】
得られたスピラントール含有抽出物はそのまま酸臭低減剤として使用できるが、抽出物に含まれているスピラントール以外の成分が飲食品の香味に与える影響が問題となるような場合には、さらに蒸留等の精製方法によりスピラントール含量を高めて使用することが好ましい。
精製方法としては分子蒸留、薄膜蒸留、各種クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらの精製方法を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、よりスピラントール含量の高い酸臭低減剤を得ることができる。
【0016】
本発明の酸臭低減剤は、有効成分のスピラントールの他に、食品用香料、酸化防止剤、食塩、糖類、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、発色剤、pH調整剤など、飲食品に一般的に使用される各種の添加剤を必要に応じて適宜配合してもよい。また、酸臭低減剤は固体でも液体でもよい。
【0017】
〔2〕飲食品用香味料組成物
本発明の酸臭低減剤は、単独で飲食品に添加することもできるが、飲食品用の香味料成分等と任意に組み合わせて、飲食品用の香味料組成物として使用することもできる。
本発明の酸臭低減剤と組み合わせる香味料成分としては、飲食品用に使用できるものであれば特に制限は無く、用途や目的に応じて従来から使用されていた種々の香味料素材が使用可能である。
具体的にはアミノ酸およびその塩、核酸、アルデヒド類、アルコール類、エステル類、香辛料抽出物等の従来公知の香味料素材が挙げられる。
この場合、香味料組成物中のスピラントールの含量は10ppb〜5%、特に100ppb〜5000ppmであることが好ましい。なお、香味料組成物は液体でも粉末でも固形でも良く、適用する飲食品により適宜調整できる。
【0018】
〔3〕酸臭低減剤の適用対象
本発明の酸臭低減剤は、飲食品中に含まれる脂肪族脂肪酸(鎖状のモノカルボン酸)に起因してビネガー様、チーズ様、汗臭さ、脂肪臭、ヤギ臭といった多様な不快な酸臭をも
たらすような飲食品、例えば、乳関連製品や酸性飲料などの飲食品やドレッシングなどの調味料に使用することができる。
脂肪族脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類される。直鎖飽和脂肪酸の香りの範囲はビネガーからチーズ様、ヤギ臭から石鹸様まであり、分岐脂肪酸はより個性的な香りをもつとされている。不飽和脂肪酸は、香りのキャラクターが多様であり、汗臭さや脂肪臭の匂いを含んでいる。
【0019】
飽和脂肪酸の具体例と各々の特有の香りは、以下の通りである。中でも、酢酸、酪酸、イソ吉草酸が不快な酸臭の代表例である。
酢酸:ビネガー様
プロピオン酸:ビネガー様
酪酸:チーズ様
3−メチル酪酸(イソ酪酸):チーズ様
吉草酸:チーズ様
2−メチル酪酸:ドライフルーツ様
イソ吉草酸:チーズ様 .
2−メチルぺンタン酸:チーズ様
3−メチルぺンタン酸:チーズ様
4−メチルぺンタン酸:チーズ様、パイナップル
ヘキサン酸(カプロン酸):チーズ様、ヤギ臭
へプタン酸:チーズ様、ヤギ臭
5−メチルヘキサン酸:チーズ様、ドライフルーツ様
オクタン酸(カプリル酸):ヤギ臭
2−メチルへプタン酸:ドライフルーツ様
4−メチルオクタン酸:脂肪臭、チーズ様
4−エチルオクタン酸:髪様
4−メチルノナン酸:脂肪臭、髪様
デカン酸(カプリン酸):ヤギ臭、石鹸様
ドデカン酸(ラウリン酸):石鹸様
トリデカン酸:石鹸様
ぺンタデカン酸:石鹸様
ミリスチン酸(テトラデカン酸):石鹸様
パルミチン酸(へキサデカン酸):石鹸様
【0020】
不飽和脂肪酸の具体例と各々の特有の香りは、以下の通りである。
2−ブテン酸:チーズ様、カラメル
2−ぺンテン酸:チーズ様、バタ一様
4−ぺンテン酸:チーズ様
2−メチル−2−ぺンテン酸:チーズ様、汗臭い、ストロベリー
2−メチル−3−ぺンテン酸:チーズ様
2−メチル−4−ぺンテン酸:チーズ様、腐敗臭
trans−2−へキセン酸:汗臭い
trans−3−へキセン酸:汗臭い
cis−3−へキセン酸:汗臭い
2,4−ジメチル−2−ぺンテン酸:チーズ様、ストロベリー
3−オクテン酸:脂肪臭
cis−4−オクテン酸:脂肪臭、ロースト臭
trans−4−オクテン酸:脂肪臭
cis−5−オクテン酸:脂肪臭
tnans−4−デセン酸:脂肪臭、バタ一様
9−デセン酸:脂肪臭、焦げた
10−ウンデセン酸:ヤギ臭、脂肪臭
11−ドデセン酸:脂肪臭
リノレン酸:脂肪臭
オレイン酸:脂肪臭
3−イソプロぺニルぺンタジエン酸:脂肪臭、焦げ臭
【0021】
本発明の酸臭低減剤は、黒酢などを使ったビネガードリンク、乳酸菌飲料、酸性乳飲料、ヨーグルト、ブラックコーヒーなどを飲食する際に感じられる不快な酸臭低減のため、特に好適に使用可能である。
ビネガードリンクについては、酢酸が不快な酸臭の原因物質である。乳酸菌飲料、酸性乳飲料並びにヨーグルトなどの乳入り飲食品に関しては、酢酸と酪酸が不快な酸臭の原因物質である。また、ブラックコーヒーに関しては、イソ吉草酸が不快な酸臭の原因物質である。
【0022】
乳酸菌飲料や酸性乳飲料に見出される酢酸と酪酸は、いずれも乳原料に由来するものである。飲料の経時変化や加熱殺菌に伴い、他の香気成分(乳などの外香)の力価が弱まるのに対して、酢酸や酪酸などの酸臭は力価が変わらないので、製品の香気バランスが崩れ、結果的に、酸臭が目立つように感じるのである。
また、ブラックコーヒーのイソ吉草酸も同様に原料のコーヒー豆に由来するものであり、同様に製造過程や流通過程で製品の香気バランスが崩れ、結果的に、酸臭が目立つようになる。
【0023】
本発明の酸臭低減剤を飲食品に添加する場合、有効成分であるスピラントール含量が低いときは十分な効果を発揮できず、その一方、スピラントール含量が高いときはその風味が飲食品の風味に好ましくない影響を及ぼしてしまうおそれがある。
そのため、本発明の酸臭低減剤を飲食品に直接添加する場合は、最終製品である飲食品中におけるスピラントール含量として0.5〜500ppbになるような添加量が適当であり、特に好ましくは50〜500ppbである。
【実施例】
【0024】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例は例示の目的にのみ用いられ、本発明はこれによって限定されるものではない。
〔製造例1〕<オランダセンニチ抽出物>
オランダセンニチの花頭乾燥品10kg(約5mmに粉砕したもの)に99容量%エタノール100kgを加え75℃〜還流温度で5時間抽出した。
抽出液を40℃まで冷却後、遠心分離装置により固液分離し、その抽出液を減圧下20kgまで濃縮した。
濃縮液に活性炭0.2kg加え1時間攪拌後、珪藻土を加え加圧ろ過し活性炭を除去し、さらに減圧下で濃縮し0.43kgのオランダセンニチ濃縮物を得た。
【0025】
この濃縮物に蒸留水2kgを加え、酢酸エチル2kgで3回抽出した。抽出した酢酸エチル層をまとめ珪藻土を加え加圧ろ過後、減圧で濃縮することにより0.31kgのオランダセンニチ粗抽出物を得た。オランダセンニチの花頭乾燥品からの収率は3.1%であった。スピラントール含量は12.4%であった。上記オランダセンニチ粗抽出物100gを脂肪酸トリグリセライド100gと混合し、減圧薄膜蒸留装置を使用し、真空度:3〜5Pa、蒸発面温度:110〜150℃で蒸留し、留出液33.3gを得た。オランダセンニチ粗抽出物からの収率は33%であった。スピラントール含量:38.0質量%。
【0026】
〔試験例1〕ビネガードリンクに対する効果
(1)ビネガードリンクの作り方
穀物酢5gと果糖ぶどう糖液糖10gに蒸留水85gを加えて合計100gになるように希釈した。オランダセンニチ抽出物(製造例1)を添加し、容器に充填後、殺菌(70℃、10分間)し、ビネガードリンクを完成した。
【0027】
(2)官能評価方法
評価者:5名
(a)「不快な酸臭」に関する評価方法:
7段階評価法で、無添加品を4とした際に、無添加品と比べて評価した。
1:非常に弱い
2:弱い
3:やや弱い
4:同じ
5:やや強い
6:強い
7:かなり強い
【0028】
(b)「全体の香味バランス」に関する評価方法:
7段階評価法で、無添加品を4とした際に、無添加品と比べて評価した。
1:香味バランスが非常に悪い
2:香味バランスが悪い
3:香味バランスがやや悪い
4:香味バランスが同じ
5:香味バランスがやや良い
6:香味バランスが良い
7:香味バランスが非常に良い
【0029】
(3)官能評価結果
結果は、以下の表1の通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
〔試験例2〕乳酸菌飲料に対する効果
(1)乳酸菌飲料の作り方
発酵乳原液(全固形分54%、無脂乳固形分4%)20gに蒸留水を加えて合計100
gとなるように希釈した。レモン香料0.1g及びオランダセンニチ抽出物(製造例1)を添加し、ガラス容器に充填後、殺菌(70℃、10分間)し、殺菌乳酸菌飲料を完成した。
【0032】
(2)官能評価方法
5名の評価者が、前記の試験例1と全く同様の評価方法で評価した。
(3)官能評価結果
結果は、以下の表2の通りである。
【0033】
【表2】
【0034】
〔試験例3〕酸性乳飲料に対する効果
(1)酸性乳飲料の作り方
砂糖とペクチンを粉体混合し、これに水を加え分散させ、70℃で加熱溶解させた後、5℃に冷却する。それに、牛乳を加えて良く混合した後、ホモゲナイズ処理(150kg/cm2)を行う。さらに、フルーツ香料及びオランダセンニチ抽出物(製造例1)を添加し、95℃で30秒間の殺菌を行った後、ガラス瓶にホットパックし、冷却して酸性乳飲料を得た。
【0035】
(2)官能評価方法
5名の評価者が、前記の試験例1と全く同様の評価方法で評価した。
(3)官能評価結果
結果は、以下の表3の通りである。
【0036】
【表3】
【0037】
〔試験例4〕ヨーグルトに対する効果
(1)ヨーグルトの作り方
牛乳94g、脱脂粉乳6gを混合後、殺菌(90〜95℃、5分間)した。48℃に冷却した後、スターターを接種した。これをガラス容器に入れ、発酵(40℃、4時間、pH4.5)させた。冷却後、5℃にて保存し、これをヨーグルトベースとした。
一方、糖液は白糖20g、ペクチン1g、水79gを混合後、90〜95℃、5分間加熱し、ホットパック充填したものを使用した。
上記ヨーグルトベース60g、糖液40g、香料0.1gおよびオランダセンニチ抽出物(製造例1)を混合し、これをホモミキサー処理およびホモゲナイザー処理した。
【0038】
(2)官能評価方法
5名の評価者が、前記の試験例1と全く同様の評価方法で評価した。
(3)官能評価結果
結果は、以下の表4の通りである。
【0039】
【表4】
【0040】
〔試験例5〕ブラックコーヒーに対する効果
(1)ブラックコーヒーの作り方
アラビカ種からなるブレンド豆(L値20)60gを市販のコーヒーミルで粉砕し、90〜95℃の熱水でドリップし抽出液480gを得、室温付近まで冷却した。その後、得られた抽出液に対し、重曹を0.6g加えた。最後に、イオン交換水とオランダセンニチ抽出物(製造例1)を加えて、ブラックコーヒー1000gを調製した。
【0041】
(2)官能評価方法
5名の評価者が、前記の試験例1と全く同様の評価方法で評価した。
(3)官能評価結果
結果は、以下の表5の通りである。
【0042】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の酸臭低減剤は、食酢など脂肪族脂肪酸を含む飲食品の不快な酸臭を極微量の添加で低減することができ、しかも、脂肪族脂肪酸含有飲食品の香味のバランスに影響を与えることがないので、風味に優れた脂肪族脂肪酸含有飲食品を簡便に製造することを可能にする。
従って、本発明は、食品産業において有効に利用することができる。