(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596259
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】靴
(51)【国際特許分類】
A43B 13/14 20060101AFI20191010BHJP
A43B 13/18 20060101ALI20191010BHJP
A43B 9/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
A43B13/14 B
A43B13/18
A43B9/02
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-161511(P2015-161511)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-38746(P2017-38746A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】300085381
【氏名又は名称】株式会社 リフト
(74)【代理人】
【識別番号】100074169
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 文彦
(72)【発明者】
【氏名】藤木 修一
【審査官】
粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−052401(JP,A)
【文献】
実開昭57−007305(JP,U)
【文献】
特開2001−112507(JP,A)
【文献】
米国特許第04899467(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0127509(US,A1)
【文献】
特開2010−082432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 9/00−13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
革もしくは人工合成革材からなる本底と、本底に設置されるクッション性のある中物と、靴内部の前記中物の上に設置される中敷と、アッパーと、からなる靴において、
靴の屈曲性を保ちながら履き心地を良くするため、
前記本底は、靴底の外周に沿って一定の位置にリブが立設されるように、靴底の外周に沿って一定の幅を残して前記中物の高さと同じ高さに中央部分を削る事によって嵌合凹部を削設するとともに、その残余部分を靴底の外周の端部から一定幅で切削することで靴底の外周に沿って内側の一定の位置にリブを立設形成し、
前記中物は前記嵌合凹部と同形状に形成し、
前記アッパーは、本底側端部が内側に折り込まれた折込部を有しており、
前記中物を前記嵌合凹部に嵌装するとともに、前記アッパーの前記折込部を縫糸によって立設する前記リブに縫い付けてアッパーを本底に固定し、
更に、前記本底の踵部に、本底の略半分の長さからなり板状の芯が靴の長手方向に沿って設置された中底を嵌装することを特徴とする靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、革もしくは人工合成革材を本底とする靴に関し、特に、クッション性のある厚幅の中物を本底に嵌装することにより、靴の柔軟性と屈曲性を保ちながらかつある程度の厚みを持たせて履き心地を良くする事を可能とした靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な、靴の製法が考案され、幅広く用いられている。特に、旧来からある製法としては、グッドイヤー・ウェルト製法や、マッケイ製法や、ラバー製法(セメント式)などの製法が存在しており、靴の形状や用途に応じて様々な製造方法が選択され使用されている。
【0003】
グッドイヤー・ウェルト製法とは、中底に貼り付けられたリブにアッパーとライニングとウェルト(細革)を縫い付けた上で、ウェルトと本底(ソール)と縫合する製法である。また、マッケイ製法とは、アッパーと本底を専用ミシン(マッケイミシン)で直接縫い付ける製法である。ラバー製法(セメント式)とは、アッパーと本底をグッドイヤー・ウェルト製法等のように縫い付けることはせず、接着剤で接着する製法である。これらは何れも、古くから広く利用されている製法であり、それぞれ一長一短があるため、短所を改善した様々な靴を製造するための方法および技術が開発されている。
【0004】
例えば、特開2011−235066号公報では、靴の構造に関する技術として、クッション材を充填する十分なスペースを中抜きした本底に、甲革(アッパー)を、釣り込んだ中底の外周に沿って直接的に縫着した後、クッション材を本底の中抜きに充填し、さらに、本底と他の本底を共通する外周に沿って縫着することにより底付けする靴底の構造が開示されている。この技術により、マッケイ式製法の屈曲性・デザイン性とグッドイヤー・ウェルト式製法の耐久性・クッション性を兼ね備えた靴の生産が可能となる旨が示唆されている。
【0005】
この製法によれば、屈曲性とクッション性を兼備する靴の生産が可能となるとされている。しかしながら、この技術によると、クッション材を充填する層と接地する層が別の革で構成されることとなり、両者を確実に接合しないと、隙間から靴内に浸水する虞があった。また、靴を構成する部材の種類が多くなるため、製作するのに必要なコストが必ずしも低減できるとは言えなかった。
【0006】
また、特開2014−176731号公報では、様々な人の足裏の形状の違いに合わせた履き心地の良い靴に関する技術として、靴底と、靴底側端部が内側に部分的に折り込まれたアッパーと、靴内に配置されるクッションとからなるプラットフォーム構造を有する靴であって、クッションが靴内底上に着脱自在に配置される技術が開示されている。この技術によると、プラットフォーム構造の靴の特長を備えつつ、プラットフォーム構造を分解することなくクッション材の取り付け、取り外しが可能となり、様々な人の足裏の凹凸形状に合わせた履き心地の良い靴を、提供することが可能となる旨が示唆されている。
【0007】
しかし、この技術によると、靴を構成する部材の種類が増えるとともに、構造が複雑になるという問題があり、更に屈曲性の観点から、充分な柔軟性を確保する事が難しいという問題点があった。
【0008】
革もしくは人工合成革材を本底とする靴は、生産直後は革が堅いため歩きにくく靴擦れを起こしやすいという問題点がある。そこで、革が馴染む前であっても柔軟性があり、靴の屈曲性を保ちつつ履き心地を良くした靴の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2011−235066号公報
【特許文献2】特開2014−176731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決するために、革もしくは人工合成革材を本底とする靴であって、特に、クッション性のある厚幅層からなる中物を本底に嵌装して柔軟性を確保した、靴の柔軟性と屈曲性を保ちながら履き心地を良い靴を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明に係る靴は、革もしくは人工合成革材からなる本底と、本底に設置されるクッション性のある中物と、アッパーと、からなる靴であって、靴の屈曲性を保ちながら履き心地を良くするため、前記本底は、靴底の外周に沿って一定の位置にリブが立設されるように中央に嵌合凹部を削設するとともに、前記中物は前記嵌合凹部と同形状に形成し、前記中物を前記嵌合凹部に嵌装するとともに、前記アッパーの周縁を縫糸によって前記リブに縫い付けてアッパーを本底に固定する構成である。
【0011】
また、前記靴は、靴内部の中物の上に中敷を設置した構成である。
また、前記アッパーは、本底側端部が内側に折り込まれた折込部を有しており、該折込部と立設する前記リブとを縫い付けて前記本底に前記アッパーを固定する構成である。
【0012】
また、前記嵌合凹部は、前記中物の高さと同じ高さとなるように削設する構成である。
また、前記靴は、前記本底の踵部に、本底の略半分の長さからなる中底を嵌装する構成である。
更に、前記中底は、板状の芯を靴の長手方向に沿って設置した構成でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果がある。
1.本底の中央に嵌合凹部を削設したため、本底の柔軟性が確保され、全体の屈曲性が保たれた靴を構成することができる。また、嵌合凹部の削設に伴ってリブが本底の外周に沿って立設した構造となるため、アッパーと本底を縫合する部位を容易に形成することが可能となる。また、嵌合凹部にクッション性のある中物を嵌装する構成としたため、ある程度厚みのある履き心地の良い靴を提供することが可能となる。
2.中物に上に中敷を設置したため、中物のずれや変形を抑制するとともに、履き心地を向上することが可能となる。
【0014】
3.アッパーの本底側端部に折込部を設けたため、本底とアッパーの接合部を綺麗に仕上げることが可能となる。
4.嵌合凹部を中物の高さと同じ高さとなるように削設したため、中物と本底が一体的な構成となる。
【0015】
5.本底の踵部に、本底の略半分の長さの中底を嵌装したため、踵の高いハイヒールであっても、履き心地を確保することが可能となる。
6.中底に板状の芯を設けたため、中底の変形を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る靴を、図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る靴の断面図であり、
図2は、グッドイヤー・ウェルト製法による靴の断面図である。
図3は、バレーシューズの断面図であり、
図4は、中底を挿入した本底の斜視図である。
本発明の靴1は、本底10と、中物20と、アッパー30と、縫糸60とからなり、屈曲性と履き心地の良さを兼ね備えた靴である。
【0017】
本底10は、靴の底部分の部材である。地面等に直接接する部材であるため、充分な剛性が要求されるとともに、歩く際の負荷を軽減するため、本実施例では、その材質として革もしくは人工合成革材を使用している。なお、本底10は、本実施例のような革や人工合成革材に限らず、剛性と柔軟性を有する強化ゴムなど他の材質を用いる事も可能である。
【0018】
中物20は、本底10の中に設置されるクッション性のある部材である。本実施例では、中物20の材質として、ゴムや軟性ウレタンフォーム、フェルト等を使用しているが、これに限定されることはなく、靴の用途に応じて適宜選択して使用することが可能である。また、アッパー30は、靴1の甲の部分であり、本実施例では、
図1に示すように、靴1の表面となる表革32と、靴1の内壁となる裏革34とで構成されている。アッパー30を、中物20の設置された本底10に縫い合わせる事により、靴1が形成される構成である。
【0019】
図4に示すように、本底10の中央には、嵌合凹部50が設けられている。嵌合凹部50は、本底10に削設される凹状の窪みであり、本実施例では、
図1に示すように、靴底の外周に沿って一定の幅を残し、
中央部分を削る事で嵌合凹部50を形成している。また、本実施例では、靴底の外周の端部から一定幅で更に切削することで、靴底の外周に沿って内側の一定の位置にリブ40が立設した形で残存する構成となっている。
【0020】
中物20は、削設された嵌合凹部50と同じ形状となるように形成されている。これにより、中物20を嵌合凹部50に嵌装することが可能となる。本実施例では、嵌合凹部50は、本底10を靴底の外周に沿って一定幅を残して内側を削ることによって形成されるため、中物20を嵌入する凹みを容易に形成できる。また、厚みのある本底10に凹みを削設するため、靴底が柔らかくなり、靴の屈曲性を確保することが可能となる。
【0021】
中物20は、嵌合凹部50に嵌装することにより靴内部で安定するため、歩行時等にずれる心配がなくなる。また、クッション性のある部材であるため、靴の履き心地が良くなる。
【0022】
アッパー30は、本底10を削ることによって形成されたリブ40に縫糸60によってその周縁が縫い付けられることによって本底10と堅固に固定する構成である。リブ40は、
図1に示すように、垂直に立設されている。この垂直に立設されたリブ40の外側からアッパー30の端部を縫糸60によって縫い付けることで、本底10とアッパー30とが縫合され固定される構成である。この構造とすることにより、本底10とアッパー30との縫合が容易となる。
【0023】
例えば、従来のグッドイヤー・ウェルト製法によると、
図2に示すように、本底110と中敷170の間に中物120を挟み込んだ上で、ウェルト140とアッパー130と中敷170とをすくい縫い糸160で縫合し、更にウェルト140と本底110とを出し縫い糸162で縫合することで靴100が製造される。この製法では、本底が厚みを持ったままであるため、靴の屈曲性を確保することが困難という問題点があった。また、中物120をクッション性の高いものにすると、靴底の厚みが増すため、靴の屈曲性を確保するとともに履き心地を良くするのは困難であった。これは、セメント式製法やマッケイ製法でも同様であった。
【0024】
また、バレーシューズの製法によると、
図3に示すように、靴200は、本底210とアッパー230とを縫糸260で直接縫合するため、本底に厚みを持たせる事が困難であるとともに、中敷270の挿入は可能であるが、中物まで挿入する構造は難しいため、靴の屈曲性を確保できても履き心地の向上が困難という問題点があった。また、バレーシューズとしての独特の構造であるため、汎用性に欠ける所があった。
【0025】
本発明に係る靴1は、本底10に削設した嵌合凹部50に中物20を嵌装する構成であるため、上記問題点が解消し、靴の屈曲性の確保と履き心地の向上、更には汎用性の確保も同時に実現可能となった。
【0026】
靴1は、
図1に示すように、靴1内部であって中物20の上に中敷70を設置する構成とすることが可能である。この構成とすることにより、中物20のずれや剥離・脱落を防止することが可能となるとともに、履き易さが向上し、さらにすっきりしたインナーデザインとすることが可能となる。
【0027】
アッパー30は、
図1に示すように、本底10側の端部が内側に折り込んだ折込部36を有する構成とすることが可能である。本実施例では、本底10とアッパー30との縫合はリブ40を介して行う構成であり、折込部36と立設するリブ40とを縫い付けて本底10とアッパー30とを固定することで、本底10とアッパー30の接合部分を綺麗に仕上げることが可能になるとともに、接合部分の強度が増すため、頑丈な靴1を構成することが可能となる。
【0028】
嵌合凹部50は、本実施例では、
図1に示すように、中物20の高さと同じ高さとなるように削設した構成である。この構成とすることにより中物20の上面とリブ40の先端が面一となるため、本底10と中物20とが一体的な構成となるとともに、靴1を履いた際に靴内に凹凸を感じるなどの不快感を感じることがなく、履き心地の良い靴1を提供することが可能となる。
【0029】
本発明に係る靴1の別の実施例として、
図4に示すように、本底10の踵部11に、本底10の略半分の長さからなる中底80を嵌装する構成とすることが可能である。中底80は、本実施例では、本底10に接着した後、マッケイ縫いによって固定している。この構成とすることにより、靴の踵にヒールを取り付けた場合、段差が生じて本底10が垂れ下がることを防ぐことが可能となり、本発明に係る靴1を踵の高いハイヒールに適用した場合であっても、履き心地を確保することが可能となる。
【0030】
中底80は、
図4に示すように、板状の芯82を靴1の長手方向に沿って設置する構成である。この構成とすることにより、中底80の変形を防止することが可能となり、頑丈で変形し難く、長持ちする靴1を構成することが可能となる。中底80は、本実施例では、本底10と同じ革もしくは人工合成革材を使用しているが、これに限定されることはなく、適度な強度を有する素材であれば適宜選択可能である。また、芯82は、ヨレに強い適度な強度を有する剛性のある材質であれば、適宜選択して使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】グッドイヤー・ウェルト製法による靴の断面図
【符号の説明】
【0032】
1、100、200 靴
10、110、210 本底
11 踵部
20、120 中物
30、130、230 アッパー
32 表革
34 裏革
36 折込部
40 リブ
50 嵌合凹部
60、260 縫糸
70、170、270 中敷
80 中底
82 芯
140 ウェルト
160 すくい縫い糸
162 出し縫い糸