(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可燃性ガス又は可燃性ガスと支燃性ガスの混合気を着火させる方法としては、放電が一般的である(例えば、ISO-10156:Gases and gas mixture-Determination of fire potential and oxidizing ability for the selection of cylinder valve outlets)。
一方、液体状態の低温液化ガスを着火させる方法としては、低温液化ガスが共存する気相に放電着火して火炎を液相に伝播させる方法や液相中で直接放電して着火させる方法がある。
非特許文献1は気相中で着火する方法に該当するが、この方法においては外気から容器内への侵入熱により被検体試料である液体酸素と液体メタンの混合液の蒸発速度が非常に大きくなり、気相と液相の双方で被検体試料の組成を推定できないばかりでなく、多くの被検体試料を必要とするため、試験に用いる防護壁など安全面の環境整備や安全対策に非常に多くのコストが必要であった。
【0007】
一方、液相中で直接放電して着火させる方法においては、放電電極の電極間距離と絶縁破壊強度の問題がある。
一般に、放電と放電電極の電極間距離の関係は、放電する雰囲気の絶縁破壊強度に依存し、気相中に比べて液相中の絶縁破壊強度は大きい場合が多い。例えば、常温の空気の絶縁破壊強度は3MV/mであるのに対し、液体窒素の絶縁破壊強度は56〜65MV/mとなる。
このことは、液相中の放電は非常に大きな起電力(電極間の電位差)を必要とするだけでなく、必要な放電を得るためには電極間距離を精度良く調整しなければならないことを示唆する。
【0008】
また、液体酸素と液体炭化水素などの混合液のように、常温に比較して著しく低い温度領域では、放電電極が熱収縮により常温時と比べて放電電極の電極間距離が変動する場合があった。更に、放電を繰り返し行うことで、放電電極先端の摩耗が避けられず、試験中に電極間距離を調整する機構が必要であった。電極間距離が変動すると放電の再現性が得られず、液相中における放電の再現性が確保できなければ、燃焼・爆発試験により低温液化ガスの最小着火エネルギーや爆発範囲などの測定を行うことができない。
【0009】
さらに、大量の被検体試料を用いた爆発試験では、爆発の威力がより大きくなることから、できるだけ少量の被検体試料を用いることが好ましく、少量の被検体試料を用いる小型の爆発試験設備に適合するべく放電電極も小型かつシンプルな構造にすることが望まれていた。しかしながら、可燃性及び支燃性の低温液化ガスの液相中で再現性かつ精度よく着火させる着火放電装置はこれまでになかった。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、液体状態の低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系の燃焼・爆発試験を行うに際して、前記液体状態の低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系において着火させる低温液化ガス燃焼・爆発試験用着火電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る低温液化ガス燃焼・爆発試験用着火電極は、低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系の燃焼・爆発試験装置に用いるものであって、
液体状態の低温液化ガスを貯留する液化容器における液溜部の内壁面に設けられた接地電極と、
該接地電極との電極間距離を調整可能に設けられた電極棒とを備えたことを特徴とするものである。
なお、低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系には、液体酸素+液体メタン、液体酸素+液体プロパンなど支燃性液化ガスと可燃性液化ガスの混合系と、液体酸素+固体金属粉、固体樹脂、活性表面をもつ固体混合物を含むこととし、これらを総称して「低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系」と呼ぶこととする。
【0012】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、前記電極棒が挿入されて一端側が前記液化容器に連通する電極棒挿入管と、
前記電極棒が挿通されて前記電極棒挿入管の他端側をシールするシール部と、
前記電極間距離を調整する電極間距離調整部とを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記接地電極は、前記液化容器において前記液体状態の低温液化ガスが貯留する液溜部の肉厚をtとすると、前記液溜部の内壁面との接触面積Sが4πt
2以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、液体状態の低温液化ガスを貯留する液化容器における液溜部の内壁面に設けられた接地電極と、該接地電極との電極間距離を調整可能に設けられた電極棒とを備えたことにより、少量の低温液化ガスの液相中において再現性及び精度良く放電して前記低温液化ガスを着火することができ、その結果、最小着火エネルギーや爆発範囲の推定、あるいは、粉体や触媒効果のある表面の効果、液化ガスが共存する系での燃焼・爆発試験を低温下で繰り返し行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、液体状態の低温液化ガスの燃焼・爆発試験に用いる着火電極の望ましい形態について説明した後に、本発明に係る低温液化ガス燃焼・爆発試験用着火電極(以下、単に「着火電極」という場合もある)について説明する。
【0017】
<着火電極の望ましい形態>
一般的に、液化した可燃性ガス及び支燃性ガスの液相中に着火電極を設ける場合、液体中に二本の電極を設ける方法と、接地極(アース)と一本の電極を設ける方法がある。
二本の電極を設ける方法は、電極間距離を予め決定することが容易であるが、構造や配線が複雑になるデメリットがある。
【0018】
一方、接地極と一本の電極を設ける方法は、電極から接地極に向かって実際に放電される位置が特定されないため、電極と接地極との間の電極間距離(放電距離)を一定にすることが難しいと考えられる。例えば、接地極が
図3に示すような半球部51aと円筒部51bにより構成される容器51であって、電極棒53から容器51に向かって放電される場合、放電箇所が容器51の半球部51aか円筒部51bであるかによって放電距離が異なり、放電距離が長くなると放電が生じにくいだけでなく放電しても放電エネルギーを推算するのが難しい場合がある。
【0019】
さらに、放電を繰り返すことで、電極の端部が溶損などにより電極間距離が長くなる場合や、また、低温液化ガスを貯留して液相中で放電する場合には、温度変化による熱収縮の影響を受け、放電距離が常温時と変わってしまう場合がある。そこで、放電を繰り返し行った場合や低温液化ガスを貯留した場合においても再現性良く放電させるためには、電極間距離を任意に調整できる機構が必要である。
【0020】
以上より、着火電極の望ましい形態としては、構造や配線を簡易にするという観点から、一方を接地極とし、他方を一本の電極にしたものであり、かつ、放電箇所が特定でき、さらに、低温液化ガスの液相中で放電を行う際に電極間距離を任意に調整することが可能な機構を備えたものである。
【0021】
次に、このような望ましい形態の着火電極を有する着火電極の各構成について
図1〜
図5に基づいて説明する。
本発明の実施の形態に係る着火電極1は、低温液化ガス又は低温液化ガスが共存する系の燃焼・爆発試験装置において前記低温液化ガスの液中で放電して前記低温液化ガスを着火させるものであって、液体状態の前記低温液化ガスを貯留する液化容器13における液溜部15の内壁面に設けられた接地電極17と、接地電極17との電極間距離を調整可能に設けられた電極棒19と、電極棒19が挿入されて一端側が液溜部15に連通する電極棒挿入管23と、電極棒19が挿通されて電極棒挿入管23の他端側をシールするシール部25と、前記電極間距離を調整する電極間距離調整部27とを備えてなるものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0022】
<液化容器>
液化容器13は、ガス導入部11から導入された前記気体状態の低温液化ガスを冷却して液化する冷却ブロック14と、液化されて液体状態となった前記低温液化ガスを貯留する液溜部15からなるものである。
ガス導入部11は気体状態の低温液化ガスを導入するために液化容器13の側面に設けられたものであり、ロー付けなどで配管を接合し、外部のガス供給源(一次側)に接続される。
【0023】
冷却ブロック14は、ガス導入部11から前記気体状態の低温液化ガスの供給を受けると共に、例えば冷凍機(図示なし)から冷熱の供給を受けて前記気体状態の低温液化ガスをして液化するものであり、ガス導入部11から導入される前記気体状態の低温液化ガスを十分な冷熱を伝えられる熱伝導性の高い銅などで形成することが好ましい。
【0024】
液溜部15は、
図1に示すように、底部15aを有する筒状容器から成り、冷却ブロック14で冷却されて液化した前記低温液化ガスを貯留するものであり、冷却ブロック14にロー付け溶接などで接合されている。
さらに、液溜部15は、電極棒19との間で適正な放電距離を得るため、底部15aに突起形状の接地電極17を備えている。
【0025】
液溜部15は、熱伝導が良く、接合及び加工も比較的容易な銅や真鍮などで製作されることが望ましい。
さらに、液溜部15は、前記液化した低温液化ガスを貯留する条件に耐えうる強度を有している必要があるが、製作可能な範囲でできるだけ肉厚が薄く、最も少ない質量で製作されることが望ましい。その理由は以下の通りである。
【0026】
通常、低温液化ガスの燃焼・爆発試験は、気体状態の低温液化ガスを液化して貯留する液化容器13を耐圧恒温容器内(図示なし)などに収容して行う。
液溜部15の肉厚が厚く、筒状胴部や底部15aの質量が大きいと、燃焼・爆発試験を行った際に液溜部15を形成する材料が前記耐圧恒温容器内で大量の破片となって飛散し、飛散する破片の運動エネルギーが大きくなって該耐圧恒温容器が損傷する危険性が増す。
【0027】
また、液溜部15の耐圧性が高いと、高い圧力を保持した上で液溜部15が損壊するため、損壊した液溜部15の材料は大きな運動エネルギーを蓄積した状態で飛散して前記耐圧恒温容器に衝突し、該耐圧恒温容器が損傷する危険性がさらに増す。
【0028】
そのため、液溜部15は、着火放電により爆発が起きた場合の前記耐圧恒温容器などの周囲への損傷をできるだけ抑えるため、液溜部15の容器壁をできるだけ薄肉で製作することが望ましく、これにより損壊までの蓄積エネルギーを少なく、飛散する材料量も少なくなるため、前記耐圧恒温容器の損傷を低減させることができる。
【0029】
一方、液溜部15の肉厚が薄くなりすぎると、燃焼・爆発試験を行うために繰り返し着火放電した時に液溜部15の壁面で電流密度が高くなると、液化容器13内における前記低温液化ガスの濃度が爆発範囲外であったり、着火エネルギーが少なかった場合等の理由により、放電によって着火しなくても液溜部15の壁面が破損し、液化した前記低温液化ガスを保持できなくなる場合がある。この場合においては、後述するように、液溜部15の肉厚tに見合って、接地電極17と液溜部15の内壁面との接触面の接触面積Sを確保することが必要となる。
【0030】
<接地電極>
接地電極17は、液溜部15の内壁面に設けられたものであり、少量の低温液化ガスを液溜部15に貯留した場合において、放電箇所を前記低温液化ガスの液相中とするため、液溜部15の底部15aに設けることが望ましい。
【0031】
接地電極17は、放電箇所を特定するため、例えば
図1及び
図5に示す円錐形状のような突起とすることが望ましく、さらに、このような突起とすることで、放電した時の電流密度が前記突起の先端を最高値とし、液溜部15の内壁面と接触する接触面に向かって電流密度は減少する。仮に、放電箇所から離れた位置で電流密度が高くなる(電路が細くなる)と、当該位置での損傷を招く可能性がある。
【0032】
このことから、液溜部15の破損を防ぐため、接地電極17と液溜部15とが接触する接触面においては電流密度が十分に低下させる必要がある。そのためには、前記接触面の接触面積Sが、液溜部15の肉厚をtとすると、S≧4πt
2の関係を満たすような形状とすることが望ましい。
こうすることで、放電した時の液溜部15における電流密度を低下させることで液溜部15の損傷を最小にしつつ液溜部15の肉厚を薄くすることができ、かつ、着火した場合の周囲への損傷の可能性を最小にすることができる。
【0033】
接地電極17の長さは、低温液化ガスの液相の最小着火エネルギーを求める場合は、液中に潜る程度の長さになるが、それに限らず、低温液化ガスの気相の最小着火エネルギーを求める場合は接地電極17の先端が気相に出る長さとしても良く、その際は電極間距離を調整できるように、後述する電極棒19の挿入深さも適宜選択される。
【0034】
<電極棒>
電極棒19は、接地電極17との間で放電させるものであり、電極棒19の先端が液溜部15に貯留された前記液体状態の低温液化ガスの液面より下方となるように、電極棒挿入管23を挿通して液溜部15に挿入されている。
さらに、電極棒19は、液化容器13との電気的絶縁を保つため、絶縁被覆21により被覆されている。
電極棒19の材質としては、銅など電気伝導が良い材料であることが望ましいが、電気伝導性が良くても酸素雰囲気化で容易に燃焼するアルミニウムなどは好ましくない。
【0035】
<電極棒挿入管>
電極棒挿入管23は、絶縁被覆21により被覆された電極棒19を挿通するものであり、一端側が冷却ブロック14に接続されて液溜部15に連通するものである。
【0036】
<シール部>
シール部25は、電極棒19が貫通して電極棒挿入管23の他端側をシールするものであり、ナット29とグランド31を締め付けてシール部材25aを押圧することで、電極棒挿入管23のシール性を高める。
シール部材25aの材質にはテフロン(登録商標)など、絶縁性が良く、かつ、常温においてガスシール性が高い樹脂などが好ましい。
【0037】
<電極間距離調整部>
電極間距離調整部27は、電極棒19の先端と接地電極17の先端との電極間距離を調整するものである。電極間距離調整部27の一例としては、
図1に示すように、電極棒19にねじ切られた雄ネジ部27aと、電極棒挿入管23に固定された雌ネジ部27bを組み合わせたものがあり、電極棒19をまわすことで電極間距離を任意に調整することが可能である。
【0038】
上記構成の着火電極1を、例えば
図4に示すような点火回路41に接続して放電する際に、液化容器13内における低温液化ガス組成、静電容量、放電させた時の最大電圧等を計測して最適な電極間距離を決定することができる。
さらに、着火電極1を用いることにより、液化容器13に貯留された液体状態の低温液化ガスの最小着火エネルギーを測定することができる。ただし、最小着火エネルギーを測定する際には、以下の点について留意する必要がある。
【0039】
まず、液化容器13内で放電により着火現象が起きるかどうかは、液化容器13内における低温液化ガス組成と放電エネルギーが大きく影響する。
例えば、可燃性物質と支燃性物質が完全燃焼に必要な当量比で存在した場合は、非常に少ない着火エネルギーでも着火する一方で、可燃性物質又は支燃性物質濃度のいずれかが非常に希薄な場合は、着火エネルギーが少ないと爆発範囲内であっても着火は起こらない。例えば、酸素ガス―メタンガス混合物質(室温)では当量比1の時、着火に要する最小着火エネルギーは約0.3mJであるが、当量比0.8又は1.2の時、最小着火エネルギーは約2mJである。ちなみに、爆発範囲を特定する時の着火エネルギーは10Jであり、一般の爆発範囲は、「10Jの放電でも爆発が起こる濃度領域」と考えるべきである。
【0040】
一方、放電エネルギーは、液化容器13内における低温液化ガス組成及び状態に大きく依存する。電極棒19の先端と接地電極17の先端との電極間距離が非常に短い場合は、絶縁破壊電圧が一定であるため、少ない電位差でも放電が起こり、放電エネルギーは少なく計測されるが、前記電極間距離が長くなると放電エネルギーが徐々に増してくる。更に前記電極間距離が長くなって、着火電極1に供給される電圧に対して絶縁破壊距離を超えると、放電自体をしなくなる。そのため、放電により着火させる場合には、前記電極間距離を適度に設定することが必要である。
【0041】
放電エネルギーは、本来、スパークイグナイタ43内に蓄えられた電気量と、放電後にスパークイグナイタ43に残存する電気量の差とすることが望ましいが、放電前後の電気量を精度良く計測することは非常に困難である。又、電流電圧計測機器45を用いて放電時の電流と電圧を測定して放電エネルギーを求める方法もあるが、機器応答精度等の制限により、特に瞬時の電流値を計測することが困難である。一方、着火電極1に静電容量計(図示なし)を接続して放電前に静電容量を計測しておき、放電時の電極間最大電位差の測定値から放電エネルギーを推算する方法は、比較的簡単で精度が高いとされている。
【0042】
これらの留意点を念頭に、液化容器13内における低温液化ガス組成を一定に保ったまま、電極間距離を少しずつ変化させてその都度放電させ、着火の有無と、静電容量や最大電圧を計測する等して放電エネルギーを推算すれば、液化容器13内の前記低温液化ガス組成に対する最小着火エネルギーを観測することができる。
【0043】
さらに、液化容器13内における低温液化ガス組成を変更し、所定の放電エネルギーを得るために電極間距離調整部27により電極棒19の先端と接地電極17の先端との電極間距離を調整して放電することにより、着火電極1を用いて爆発範囲を測定することができる。
【0044】
以上より、本実施の形態に係る着火電極1を用いて低温液化ガスの液相中で放電させることで前記低温液化ガスの着火源とすることができ、最小着火エネルギーの測定、液体状態での爆発範囲の測定、夾雑物の影響など、液化ガスの爆発、燃焼を伴う現象を繰り返しかつ精度良く測定・観察することが可能となる。
【実施例1】
【0045】
本実施例1においては、接地電極を用いた放電箇所の特定ならびに電極間距離の調整による放電の可否について検証するため、
図4に示す点火回路41に接続した着火電極1を用いて放電試験を行った。以下、当該放電試験の結果を説明する。
【0046】
まずは、着火電極1の液溜部15に接地電極17を設けずに放電を繰り返し行った場合の液溜部15における損傷の度合いを確認した。
本実施例1における放電試験においては、気体状態の窒素(N
2)をガス導入部11から導入し、冷却ブロック14により窒素を液化して約5ccの液体窒素(LN
2)を液溜部15に貯留した。
その後、スパークイグナイタ43により液体窒素中で放電を繰り返し行った。
【0047】
放電時の電流及び電圧を点火回路41における電流電圧計測機器45により測定した結果、繰返し放電において電流と電圧の双方にバラツキが生じた。
さらに、液溜部15が破損して液体窒素が漏洩、蒸発した。放電試験の終了後、着火電極1を常温に戻してから液溜部15の破損状況を観測した結果、液溜部15の底部15aに破損が認められた。なお、当該放電試験おいて、液溜部15の肉厚は0.2mmであった。
【0048】
次に、液溜部15の底部15aに接地電極17を設け、放電試験を行った。本実施例1において接地電極17は円錐形とし(
図5参照)、液溜部15の底部15aと接触する面の直径をφd=1mmとした。
【0049】
上述の放電試験と同様、気体状態の窒素(N
2)をガス導入部11から導入し、冷却ブロック14により窒素を約77Kまで冷却することで液化し、約5ccの液体窒素(LN
2)を液溜部15に貯留した。
【0050】
そして、まず、着火電極1に静電容量計(図示なし)を接続し、静電容量を測定する。
次に、着火電極1にスパークイグナイタ43と電流電圧計測機器45を接続し(
図4参照)、スパークイグナイタ43により着火電極に適当な電圧を印加して着火電極1から放電させ、電流電圧計測機器45により放電電圧を測定した。
【0051】
なお、本試験は、電極間距離調整部27により電極間距離を調整した場合と電極間距離を調整しない場合の双方について行った。
その結果、液溜部15の底部15aに接地電極17を設けることにより、電流と電圧の双方にバラツキを生じることなく、又、静電容量計測による放電エネルギーの推算値とも整合し、繰り返し放電を行うことができた。
【0052】
以上より、低温液化ガス燃焼・爆発試験用着火電極1において、低温液化ガスの液溜部15に先端が突起した接地電極17を設けることで、液体状態の低温液化ガス中においても安定して放電させることができ、さらに、着火電極の電極間距離を調整することにより、適切な放電距離の調整が可能なことが示された。
【実施例2】
【0053】
本実施例2においては、実施例1と同様に
図4に示す点火回路41に接続した着火電極1を用い、放電着火の可否及び再現性について検証実験を行った。以下、当該放電着火爆発試験の結果を説明する。
【0054】
本実施例2における放電着火爆発試験においては、まず、液溜部15を90K以下まで冷却した上で、電極間距離調整部27により電極棒19の先端と接地電極17の先端との距離を調整した。
その後、気体状態の酸素O
2をガス導入部11から導入し、冷却ブロック14により前記気体状態の酸素を液化して、約3ccの液体酸素(LO
2)を液溜部15に貯留した。
次に、気体状態のメタンCH
4を、液溜部15に貯留した前記液体酸素との気体状態での体積混合比が4vol%の濃度となる量をガス導入部11から導入し、冷却ブロック14により前記気体状態のCH
4を液化した液体メタン(LCH
4)を液溜部15にLO
2と共に貯留した。
【0055】
液溜部15にLO
2と4vol%のLCH
4の混合液を貯留した状態で、スパークイグナイタ43により前記混合液中で放電を繰り返したが、爆発は観測されなかった。
この状態から、気体状態のメタンをガス導入部11からさらに導入し、冷却ブロック14により前記気体状態のメタンを冷却して液化し、LCH
4濃度を20vol%まで増加したLO
2とLCH
4の混合液を液溜部15に貯留し、該混合液中で放電を行った。
その結果、液溜部15で爆轟が観測され、低温液化ガスの液相中で燃焼爆発試験を実施できることが示された。
【0056】
なお、本実施例2において、液溜部15の肉厚はt=0.2mmであり、一方、接地電極17は円錐形であって液溜部15との接触面の直径はφ1mmであった(
図5参照)。この時、接地電極17と液溜部15との接触面の接触面積Sは、液溜部15の肉厚をtとすると、S≧4πt
2の関係を満たす。そのため、前記接触面における電流密度を十分に低下させることができ、放電しても爆発が観測されなかった場合において、液溜部15の壁面が損傷することを防止することができた。
【0057】
以上より、本発明に係る低温液化ガスの燃焼・爆発用着火電極を用いることで、低温液化ガスの液相中において、電極間距離を調整することで再現性良く放電させることができ、また、可燃性ガスと支燃性ガスを液化した混合液の液相中において着火し燃焼・爆発試験を実施できることが実証された。