(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールの軸心に挿通されるシャフトと、該シャフトに接続され回転状態と非回転状態とに切り替え可能なロッキングベースと、前記スプールと前記ロッキングベースとの間に配置されたエネルギー吸収装置と、を備えたシートベルトリトラクタにおいて、
前記エネルギー吸収装置は、前記スプールの端部に同芯軸上に一体に形成されるとともに環状に形成された波形溝を有する底面を備えたハウジングと、該ハウジングに対向するように接続されるとともに前記ハウジングの波形溝と同期した波形溝を有するカバープレートと、一端が前記ハウジングの波形溝に挿入され他端が前記カバープレートの波形溝に挿入された複数の駆動ピンと、該駆動ピンの各中間部に配置された複数の質量体と、前記駆動ピンが挿通されて前記質量体の両側に配置されるとともに前記ロッキングベースに接続される一対の中間プレートと、該中間プレートと前記ロッキングベースとの間に配置された固定リングと、を備え、
前記中間プレートは、前記ケーシングの内周面に芯出し可能に接触する外周面を備えている、
ことを特徴とするシートベルトリトラクタ。
乗員をシートに拘束するウェビングと、該ウェビングの巻き取りを行うシートベルトリトラクタと、前記ウェビングを車体側に固定するベルトアンカーと、前記シートの側面に配置されたバックルと、前記ウェビングに配置されたトングと、を備えたシートベルト装置において、
前記シートベルトリトラクタは、請求項1〜4の何れか一項に記載のシートベルトリトラクタである、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に記載されたようなエネルギー吸収装置が作動するときは、スプール(シャフト)がウェビングにより引き出し方向に強く引っ張られた状態になっている。したがって、エネルギー吸収装置の作動時において、スプール(シャフト)は、引き出し方向に湾曲した状態で引き出し方向に回転することとなる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたエネルギー吸収装置では、一対のリングディスク間に揺動部材を配置した構成となっており、スプール(シャフト)が湾曲した場合、リングディスクと揺動部材との間で軸ズレが生じ、エネルギー吸収特性の性能低下を招いてしまうこととなる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、無段階にエネルギー吸収特性を変更することができるとともにエネルギー吸収特性の性能向上を図ることができる、シートベルトリトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールの軸心に挿通されるシャフトと、該シャフトに接続され回転状態と非回転状態とに切り替え可能なロッキングベースと、前記スプールと前記ロッキングベースとの間に配置されたエネルギー吸収装置と、を備えたシートベルトリトラクタにおいて、前記エネルギー吸収装置は、
前記スプールの端部に同芯軸上に一体に形成されるとともに環状に形成された波形溝を有する底面を備えたハウジングと、該ハウジングに対向するように接続されるとともに前記ハウジングの波形溝と同期した波形溝を有するカバープレートと、一端が前記ハウジングの波形溝に挿入され他端が前記カバープレートの波形溝に挿入された複数の駆動ピンと、該駆動ピンの各中間部に配置された複数の質量体と、前記駆動ピンが挿通されて前記質量体の両側に配置されるとともに前記ロッキングベースに接続される一対の中間プレートと、該中間プレートと前記ロッキングベースとの間に配置された固定リングと、を備え、前記中間プレートは、前記ケーシングの内周面に芯出し可能に接触する外周面を備えている、ことを特徴とするシートベルトリトラクタが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、乗員をシートに拘束するウェビングと、該ウェビングの巻き取りを行うシートベルトリトラクタと、前記ウェビングを車体側に固定するベルトアンカーと、前記シートの側面に配置されたバックルと、前記ウェビングに配置されたトングと、を備えたシートベルト装置において、前記シートベルトリトラクタは、前記ウェビングの巻き取りを行うスプールと、該スプールの軸心に挿通されるシャフトと、該シャフトに接続され回転状態と非回転状態とに切り替え可能なロッキングベースと、前記スプールと前記ロッキングベースとの間に配置されたエネルギー吸収装置と、を備え、前記エネルギー吸収装置は、
前記スプールの端部に同芯軸上に一体に形成されるとともに環状に形成された波形溝を有する底面を備えたハウジングと、該ハウジングに対向するように接続されるとともに前記ハウジングの波形溝と同期した波形溝を有するカバープレートと、一端が前記ハウジングの波形溝に挿入され他端が前記カバープレートの波形溝に挿入された複数の駆動ピンと、該駆動ピンの各中間部に配置された複数の質量体と、前記駆動ピンが挿通されて前記質量体の両側に配置されるとともに前記ロッキングベースに接続される一対の中間プレートと、該中間プレートと前記ロッキングベースとの間に配置された固定リングと、を備え、前記中間プレートは、前記ケーシングの内周面に芯出し可能に接触する外周面を備えている、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【0010】
上述したシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置におい
て、前記中間プレートは、中心部に内歯を備えた開口部を有し
、前記固定リングは、前記内歯と係合可能な係合歯を備えた軸部を有していてもよい。さらに、前記内歯と前記係合歯とは、径方向にクリアランスを有し、周方向に接触する接触部を有していてもよい。また、前記ケーシングは、前記抵抗体を挟んだ両側に一対のラジアル軸受部を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上述した本発明に係るシートベルトリトラクタ及びシートベルト装置によれば、スプールとロッキングベースとの間に抵抗体を有するエネルギー吸収装置を配置したことにより、スプールとロッキングベースとの間に生じた相対回転運動エネルギーを抗力(例えば、慣性力、摩擦力等)に変換することができ、無段階にエネルギー吸収特性を変更することができる。
【0012】
また、本発明では、ケーシング内に配置される中間プレートの芯出しを中間プレートの外周面で行うようにしたことから、スプール(シャフト)が湾曲しようとした場合であっても、エネルギー吸収装置を構成する主要部品(ケーシング、抵抗体、中間プレート)の平行度を保持することができ、エネルギー吸収装置のエネルギー吸収特性の性能向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について
図1(A)〜
図6を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタを示す図であり、(A)は軸方向断面図、(B)は
図1(A)におけるB−B矢視断面図、である。
図2は、
図1に示したシートベルトリトラクタのシャフトユニットを示す部品展開図である。
図3は、
図1に示したエネルギー吸収装置の部分拡大図である。
【0015】
本発明の一実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、例えば、
図1(A)〜
図3に示したように、乗員を拘束するウェビングWの巻き取りを行うスプール2と、スプール2の軸心に挿通されるシャフト3と、シャフト3に接続され回転状態と非回転状態とに切り替え可能なロッキングベース4と、スプール2とロッキングベース4との間に配置されたエネルギー吸収装置5と、を備え、エネルギー吸収装置5は、スプール2に固定されたケーシング51と、ケーシング51内に配置された抵抗体52と、抵抗体52と連動可能に配置された中間プレート53と、中間プレート53とロッキングベース4との間に配置された動力伝達部材54と、を備え、スプール2、ケーシング51及び中間プレート53は、同芯軸上に配置されており、中間プレート53は、ケーシング51の内周面に芯出し可能に接触する外周面53cを備えている。なお、
図1(A)及び
図1(B)において、説明の便宜上、ウェビングWの図を省略してある。
【0016】
図示したシートベルトリトラクタ1は、従来のシートベルトリトラクタと同様に、スプール2を回転可能に収容する断面角型U字形状のベースフレーム11と、シャフト3の一端に配置されるスプリングユニット12と、シャフト3の他端に配置されるロック機構13と、車両の加速度を検知するビークルセンサ14と、車両衝突時等にスプール2を回転させてウェビングWを巻き取って乗員とウェビングWとの隙間を消失させるプリテンショナ15と、を有している。なお、プリテンショナ15は、必要に応じて省略することができる。また、シャフト3は、例えば、トーションバーによって構成される。
【0017】
スプリングユニット12は、
図1に示したように、スパイラルスプリング(図示せず)の軸心を形成するスプリングコア12aと、スパイラルスプリングを収容するスプリングカバー12bと、を有している。スプリングコア12aには、シャフト3の一端が接続されている。
【0018】
ロック機構13は、
図1及び
図2に示したように、シャフト3の端部に配置されるロッキングベース4と、ロッキングベース4に揺動可能に配置されたパウル13aと、ロッキングベース4の外側に隣接するようにシャフト3の端部に配置されるロックギア13bと、ロックギア13bに揺動可能に配置されたフライホイール13cと、これらの部品を収容するとともにシャフト3を回転可能に支持するリテーナ13dと、を有している。
【0019】
ビークルセンサ14は、
図1に示したように、ロック機構13と隣接して配置されており、車両の衝突等により車両に生じた加速度を検知した際に、ロックギア13bの外周に形成された歯に係合するアクチュエータ14aを有している。
【0020】
ビークルセンサ14が車両の衝突等により車両に生じた加速度を検知すると、アクチュエータ14aによりロックギア13bの回転が規制される。また、ウェビングWが急速に引き出された場合には、フライホイール13cが慣性力により揺動してリテーナ13dの内周面に形成された歯に係合し、ロックギア13bの回転が規制される。ロックギア13bの回転が規制されると、パウル13aが揺動してロッキングベース4の外径方向に突出し、ベースフレーム11の開口部に形成された歯と係合する。このパウル13aの係合によって、ロッキングベース4はベースフレーム11に固定(拘束)された状態となる。
【0021】
ロック機構13が作動した状態で、ウェビングWを引き出す方向に荷重が負荷された場合であっても、シャフト3(トーションバー)に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2はシャフト3(トーションバー)を介してロッキングベース4に接続されていることから、非回転状態に保持される。そして、シャフト3(トーションバー)に閾値以上の荷重が生じた場合には、シャフト3(トーションバー)が捻れることによって、スプール2がロッキングベース4に対して相対的に回転運動を生じ、ウェビングWが引き出される。
【0022】
シャフト3は、トーションバーの最大捻れ回転数を規定するストッパ3aを有していてもよい。ストッパ3aは、例えば、ロッキングベース4の軸部の外周に挿嵌される。かかるストッパ3aにより、ウェビングWの引き出し量が規制される。また、ストッパ3aとスプール2との間にはガタツキ防止用のカラー3bが配置されていてもよい。なお、図示しないが、シャフト3はトーションバーに限定されるものではなく、剛体のシャフト3にスプール2との相対回転を許容するEAプレート(エネルギー吸収プレート)を配置したものであってもよい。
【0023】
プリテンショナ15は、例えば、
図1に示したように、シャフト3に挿通され同心軸上に配置されたピニオン15aと、ピニオン15aと係合可能な内歯を有するリングギア15bと、リングギア15bに動力を付与する動力発生手段と、リングギア15bの外周を覆うカバー15cと、を有している。動力発生手段は、例えば、リングギア15bの外周に係合して回転させる質量体(図示せず)と、質量体を放出可能に収容するパイプ15dと、質量体に動力を付与するガスジェネレータ(図示せず)と、を有している。
【0024】
通常時は、ピニオン15aとリングギア15bとは離隔しており、車両衝突時にパイプ15dから質量体が放出されると、質量体の移動によってリングギア15bがピニオン15aと噛み合うとともに、リングギア15bの回転によってピニオン15aが回転され、スプール2がウェビングWの巻き取り方向に回転される。
【0025】
図2に示したように、ピニオン15aは、内側に延出されシャフト3に嵌合されるベアリング部15eを有しており、ベアリング部15eはスプール2に形成された開口部に嵌合される。したがって、シャフト3の一端は、ピニオン15aのベアリング部15eを介してスプール2に接続されている。なお、ピニオン15aは、プッシュナット15fにより軸方向の位置決めがなされていてもよい。
【0026】
上述したシートベルトリトラクタ1の構成は、例えば、特開2012−30636号等に記載された従来のシートベルトリトラクタと実質的に同様の構成を有しており、これ以上の詳細な説明を省略する。そして、本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1は、
図1(A)〜
図3に示したように、スプール2とロッキングベース4との間にエネルギー吸収装置5が配置されている。
【0027】
エネルギー吸収装置5は、例えば、相対的に回転運動する物体間に配置されるエネルギー吸収装置であって、スプール2の端部に同芯軸上に一体に形成されるとともに環状に形成された波形溝511aを有する底面を備えたハウジング511と、ハウジング511に対向するように接続されるとともにハウジング511の波形溝511aと同期した波形溝512aを有するカバープレート512と、一端がハウジング511の波形溝511aに挿入され他端がカバープレート512の波形溝512aに挿入された複数の駆動ピン521と、駆動ピン521の各中間部に配置された複数の質量体522と、駆動ピン521が挿通されて質量体522の両側に配置されるとともにロッキングベース4に接続される一対の中間プレート53と、中間プレート53とロッキングベース4との間に配置された固定リング541と、を有している。質量体522の内側には、質量体522の径方向に移動を案内するガイドリング523が配置されていてもよい。
【0028】
ここで、本実施形態において、「波形溝」とは、円周方向に蛇行するように形成された溝を意味する。また、「同期」とは、波形溝511aと波形溝512aとが同位相において同一の振幅を有していることを意味する。
【0029】
図示したエネルギー吸収装置5では、ハウジング511がスプール2と一体に形成されているが、ハウジング511とスプール2とを別体に形成して接続するようにしてもよい。ハウジング511は、略有底円筒形状を有しており、開口側にカバープレート512が接続されることにより、抵抗体52等の部品を収容する空間が形成される。すなわち、本実施形態では、ハウジング511及びカバープレート512によりケーシング51が構成される。なお、ハウジング511とカバープレート512との位置関係を入れ替えて、カバープレート512をスプール2に接続するようにしてもよい。
【0030】
また、
図2に示したように、ハウジング511の底面には波形溝511aが直に形成されている。なお、波形溝511aをハウジング511とは別部品の環状の金属板に形成し、この金属板をハウジング511の底面に配置するようにしてもよい。カバープレート512の中心部には、ロッキングベース4を挿通可能な開口部512bが形成されている。また、カバープレート512の内面には、
図1(A)に示したように、波形溝512aが直に形成されているが、波形溝511aと同様に、別部品の環状の金属板に波形溝512aを形成するようにしてもよい。
【0031】
駆動ピン521は、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。質量体522は、例えば、鉛や鉄等の金属によって構成される。また、質量体522は、駆動ピン521が波形溝511a及び波形溝512aに沿って移動することによって、スプール2の径方向に往復移動することとなることから、
図2に示したように、放射状に配置される。質量体522は、例えば、全体として内側が狭く外側が広く形成された略台形形状を有しており、内側に突出した突起部522aを有している。
【0032】
ガイドリング523は、外周に形成された複数の溝部523aと、内周に形成された内歯523bと、を有している。溝部523aは、質量体522の突起部522aに挿入され、内歯523bは、固定リング541と係合するように構成されている。
【0033】
図2に示したように、本実施形態では、駆動ピン521と質量体522とを別体に構成し、質量体522に形成された貫通孔に駆動ピン521を挿通している。このとき、駆動ピン521は、質量体522の貫通孔に圧入されていてもよいし、質量体522の貫通孔に遊嵌状に挿通されていてもよい。また、図示しないが、駆動ピン521と質量体522とはダイカスト等によって一体に形成されていてもよい。
【0034】
駆動ピン521を質量体522に圧入した場合や駆動ピン521と質量体522とを一体に形成した場合には、駆動ピン521を質量体522に固定することができ、波形溝511a及び波形溝512aを移動する駆動ピン521の回転(自転)を抑制することができる。したがって、駆動ピン521及び質量体522の移動に伴って発生する抗力(慣性力、摩擦力等)によってエネルギー吸収を行うことができる。すなわち、本実施形態では、駆動ピン521及び質量体522により抵抗体52が構成される。
【0035】
中間プレート53は、駆動ピン521を挿通する複数の長孔53aと、固定リング541の軸部541aに係合する内歯53bと、を有する環状の部品である。かかる中間プレート53を駆動ピン521の両端部に配置することにより、駆動ピン521にバランスよく荷重を付加させることができる。長孔53aは、長径が径方向に沿って配置されており、その長さは波形溝511a及び波形溝512aの振幅よりも大きくなるように設計されている。
【0036】
また、中間プレート53は、
図3に示したように、外周面53cがハウジング511の内周面511bに摺動可能に接触するように構成されている。この接触により中間プレート53が芯出しされ、ケーシング51と中間プレート53とが同芯軸上に配置される。なお、外周面53cは、中間プレート53の外形の全周に渡って形成されていてもよいが、中間プレート53の外周に沿って略均等に配置された少なくとも三点以上の部分に形成されていればよい。
【0037】
固定リング541は、例えば、
図2に示したように、連結リング542を介してロッキングベース4に固定される。また、固定リング541は、ロッキングベース4の軸部4aに螺合される軸部541aと、カバープレート512の開口部512bを覆うフランジ部541bと、を有している。軸部541aの外周面には、中間プレート53の内歯53b及びガイドリング523の内歯523bに係合する係合歯が形成されている。また、フランジ部541bの内縁部には、連結リング542を収容可能な凹部541cが形成されている。
【0038】
連結リング542は、固定リング541の凹部541cに係合可能な凸部542aと、ロッキングベース4に係合可能な凹部542bと、を有する環状の部品である。かかる連結リング542を固定リング541とロッキングベース4との間に挿入することにより、これらの部品を機械的に強固に連結することができる。なお、連結リング542は、必要に応じて省略することができ、固定リング541を直にロッキングベース4に固定するようにしてもよい。
【0039】
かかる構成により、固定リング541は、ロッキングベース4と一体になって回転し、軸部541aが中間プレート53の内歯53b及びガイドリング523の内歯523bに係合することによって動力伝達可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、固定リング541及び連結リング542により動力伝達部材54が構成される。
【0040】
上述したエネルギー吸収装置5において、今、ロック機構13が作動してロッキングベース4がベースフレーム11に固定されているものとする。このとき、スプール2はシャフト3を介してロッキングベース4に接続されていることから、非回転状態に保持される。例えば、乗員が前方に移動してウェビングWを引き出す方向に荷重が負荷された場合、本実施形態ではシャフト3がトーションバーによって構成されていることから、シャフト3に所定の閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2は非回転状態に保持される。
【0041】
そして、シャフト3に所定の閾値以上の荷重が生じた場合には、シャフト3が捻れることによって、スプール2がロッキングベース4に対して相対的に回転運動を生じ、ウェビングWが引き出される。このスプール2の相対的な回転運動によって、エネルギー吸収装置5のケーシング51と抵抗体52との間に相対的な回転運動を生じることとなり、駆動ピン521が波形溝511a及び波形溝512aに沿って移動することとなる。このとき、質量体522は、径方向に往復移動しつつ、駆動ピン521と連動して回転(公転)することとなる。
【0042】
駆動ピン521及び質量体522の質量は、ウェビングWに生じる加速度の予測値に応じて任意に設計される。また、車両衝突時等に乗員に生じる加速度、すなわち、ウェビングWに生じる加速度は、時間の経過とともに上昇する傾向にあり、同じ質量であれば加速度の大きさによって、スプール2から入力されたエネルギーの吸収量を変動させることができる。また、ウェビングWに生じる加速度は、乗員の体格差(体重差)によっても変動することとなるが、この場合も加速度の大きさに応じてエネルギー吸収装置5のエネルギー吸収量を変動させることができる。すなわち、上述したエネルギー吸収装置5によれば、無段階にエネルギー吸収特性を変更することができる。
【0043】
かかるエネルギー吸収装置5の作動時には、ウェビングWの張力によってシャフト3に高い荷重が負荷されており、シャフト3はウェビングWの引き出し方向に湾曲した状態になっている。一方、エネルギー吸収装置5は、波形溝511aを含むハウジング511と、波形溝512aを含むカバープレート512との間で抵抗体52及び中間プレート53を回転させる必要があることから、エネルギー吸収装置5のエネルギー吸収特性を保持するには、主要部品(ケーシング51、抵抗体52、中間プレート53)の平行度を保持することが重要となる。
【0044】
ここで、
図4は、中間プレートと動力伝達部材との係合状態を示す説明図である。
図4において、説明の便宜上、中間プレート53の内縁部と動力伝達部材54を構成する固定リング541の軸部541aのみを図示している。図示したように、中間プレート53の内周面には内歯53bが形成されており、固定リング541の軸部541aの外周面には係合歯541eが形成されている。この内歯53bと係合歯541eとは、径方向にクリアランスΔcを有し、周方向に接触する接触部541fを有している。
【0045】
具体的には、内歯53b及び係合歯541eは、略径方向に沿った対峙する面を有し、これらの面によって接触部541fが構成される。このように、内歯53bと係合歯541eとの間に接触部541fを構成することにより、回転方向(周方向)の動力を伝達することができる。また、内歯53b及び係合歯541eは、略周方向に沿った対峙する面を有し、これらの面を接触させないようにすることによってクリアランスΔcが構成される。
【0046】
かかるクリアランスΔcを中間プレート53と固定リング541(動力伝達部材54)とのジョイント部に形成することによって、スプール2(シャフト3)を湾曲させようとする力が生じた場合であっても、エネルギー吸収装置5を含むシャフトユニットを中間プレート53と固定リング541(動力伝達部材54)とのジョイント部で屈曲させることができ、他の部分における湾曲を抑制することができる。なお、図示しないが、ガイドリング523の内歯523bも中間プレート53の内歯53bと同様の形状及び構成を有している。
【0047】
ここで、
図5は、
図1に示したシートベルトリトラクタの効果を示す概念図であり、(A)は本実施形態の通常状態、(B)は本実施形態の過負荷状態、(C)は比較例の通常状態、(D)は比較例の過負荷状態、を示している。なお、各図において、エネルギー吸収装置5の一部(ケーシング、中間プレート、質量体)の図については断面を図示している。
【0048】
図5(A)に示したように、中間プレート53は、外周面53cがケーシング51(ハウジング)の内周面511bに接触していることから、
図5(B)に示したように、スプール2を介してケーシング51側に大きな力Fが作用した場合であっても、ケーシング51に対する中間プレート53の傾斜を抑制することができる。なお、力Fによる負荷は、上述したように、固定リング541(動力伝達部材54)と中間プレート53とのジョイント部において吸収される。換言すれば、固定リング541(動力伝達部材54)は、エネルギー吸収装置5に対して、ユニバーサルジョイント(自在継手)のように作用することとなる。
【0049】
一方、
図5(C)に示したように、中間プレート53′の外周面53c′をケーシング51′(ハウジング)の内周面511b′から離隔させた場合には、中間プレート53′の芯出しは固定リング541′(動力伝達部材)と中間プレート53′とのジョイント部で行うこととなる。そして、
図5(D)に示したように、スプール2′を介してケーシング51′側に大きな力F′が作用した場合には、ロッキングベース4′及び固定リング541′とともに中間プレート53′も傾斜することとなる。したがって、中間プレート53′に挟まれた質量体522′に大きな負荷がかかることとなり、エネルギー吸収装置5′のエネルギー吸収特性に影響を与えることとなる。
【0050】
このように、上述した本実施形態に係るシートベルトリトラクタ1によれば、ケーシング51内に配置される中間プレート53の芯出しを中間プレート53の外周面53cで行うようにしたことから、スプール2(シャフト3)が湾曲しようとした場合であっても、エネルギー吸収装置5における動力伝達部材54とのジョイント部で積極的に屈曲させることができ、エネルギー吸収装置5を構成する主要部品(ケーシング51、抵抗体52、中間プレート53)の平行度を保持することができ、エネルギー吸収装置5のエネルギー吸収特性の性能向上を図ることができる。
【0051】
ところで、エネルギー吸収装置5のエネルギー吸収特性の性能向上を更に図るために、
図3に示したように、ケーシング51は、抵抗体52を挟んだ両側に一対のラジアル軸受部(第一ラジアル軸受部55及び第二ラジアル軸受部56)を有していてもよい。なお、
図3において、説明の便宜上、シャフト3及びロッキングベース4の図を省略してある。また、一点鎖線Lはシャフト3の中心線を示している。
【0052】
図3に示したように、ハウジング511の内縁部には、固定リング541の軸部541aの先端部に摺動可能に挿通される凹部が形成されており、凹部は、軸部541aの外周面に沿って配置される環状壁511cと、軸部541aの先端部に対向して配置される対向壁511dと、を有している。この環状壁511cによって第一ラジアル軸受部55が構成されている。また、対向壁511dによってスラスト軸受部57を構成するようにしてもよい。
【0053】
また、カバープレート512の内縁部には、固定リング541のフランジ部541bの外周部に摺動可能に挿通される凸部が形成されており、フランジ部541bの外周部には凸部を受け入れる環状の凹部541dが形成されている。カバープレート512の内縁部に形成された凸部は、凹部541dの外周面に沿って配置される環状壁512cを有している。この環状壁512cによって第二ラジアル軸受部56が構成されている。なお、図示したように、フランジ部541bでカバープレート512の開口部を覆うことによりダスト等の混入を抑制することができる。
【0054】
第一ラジアル軸受部55及び第二ラジアル軸受部56は、シャフト3の径方向に生じるラジアル荷重を受け得るように構成されており、特に、エネルギー吸収装置5の軸方向両端部に対して近接した位置に形成されている。したがって、エネルギー吸収装置5の作動時において、シャフト3が湾曲しようとした場合であっても、そのラジアル荷重を第一ラジアル軸受部55及び第二ラジアル軸受部56で受けることができる。したがって、エネルギー吸収装置5のケーシング51に近接した位置でエネルギー吸収装置5を軸受けすることができ、エネルギー吸収装置5の軸ズレを抑制することができる。
【0055】
本実施形態では、第一ラジアル軸受部55を構成する環状壁511cを凹部形状に形成しているが、第二ラジアル軸受部56のように凸部形状によって形成するようにしてもよい。また、第二ラジアル軸受部56を構成する環状壁512cを凸部形状に形成しているが、第一ラジアル軸受部55のように凹部形状によって形成するようにしてもよい。
【0056】
また、上述した実施形態では、第一ラジアル軸受部55及び第二ラジアル軸受部56を固定リング541との接触面で構成するようにしたが、例えば、固定リング541がロッキングベース4と一体に形成されているような場合には、第一ラジアル軸受部55及び第二ラジアル軸受部56をロッキングベース4との接触面で構成するようにしてもよい。
【0057】
次に、上述したシートベルトリトラクタ1を備えたシートベルト装置101について、
図6を参照しつつ説明する。ここで、
図6は、本実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【0058】
図6に示したシートベルト装置101は、乗員(図示せず)をシートSに拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うシートベルトリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー102と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー103と、シートSの側面に配置されたバックル104と、ウェビングWに配置されたトング105と、を備え、シートベルトリトラクタ1は、上述した実施形態に係るシートベルトリトラクタ1である。
【0059】
図示したシートベルト装置101は、いわゆる助手席用のシートベルト装置であり、シートSと隣接した位置にピラーPが配置されていることが多い。そして、例えば、シートベルトリトラクタ1はピラーP内に配置されており、ガイドアンカー102はピラーPの表面に配置されている。かかるシートベルト装置101では、ウェビングWを引き出してトング105をバックル104に嵌着することにより、ウェビングWで乗員をシートSに拘束することができる。
【0060】
なお、シートベルト装置101のシートベルトリトラクタ1以外の構成については、従来のシートベルト装置と同様の構成であるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、シートベルト装置101は、助手席用のものに限定されず、運転席用のシートベルト装置であってもよいし、後部座席用のシートベルト装置であってもよい。後部座席用のシートベルト装置では、ガイドアンカー102を省略するようにしてもよい。
【0061】
本発明は上述した実施形態に限定されず、例えば、エネルギー吸収装置5は上述した構成以外のエネルギー吸収装置であってもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。