特許第6596313号(P6596313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596313
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】プレコートフィン及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/18 20060101AFI20191010BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20191010BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20191010BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20191010BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20191010BHJP
   C09D 101/02 20060101ALI20191010BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   F28F13/18 B
   F28F1/32 H
   B32B15/08 E
   B32B15/20
   C09D163/10
   C09D101/02
   C09D171/02
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-228230(P2015-228230)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-96545(P2017-96545A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹崎 幹根
(72)【発明者】
【氏名】上田 薫
【審査官】 安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−195032(JP,A)
【文献】 特開2011−094873(JP,A)
【文献】 特開2012−136749(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113461(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/157325(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/147782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 13/18
F28F 1/32
B32B 15/08
B32B 15/20
C09D 101/02
C09D 163/10
C09D 171/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器のフィン用のプレコートアルミニウム板であって、
アルミニウムからなる基板と、
該基板の少なくとも一方の面に形成された親水性塗膜と、を有し、
上記基板の圧延平行方向における上記親水性塗膜の表面粗さRzLと、上記基板の圧延垂直方向における上記親水性塗膜の表面粗さRzLTとが、RzL≦1.5μm、0.3μm≦RzLT≦2.5μm、及びRzL/RzLT≦0.9の関係を満足し、
上記親水性塗膜は、水滴との接触角が25°以下であり、上記基板の圧延平行方向における上記水滴の転落角が20°以下である、プレコートアルミニウム板。
【請求項2】
上記基板の上記圧延垂直方向における表面粗さRzが0.5μm以上、かつ3μm以下である、請求項1に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項3】
上記親水性塗膜の平均膜厚が0.3μm以上、かつ1.5μm以下である、請求項1又は2に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項4】
上記親水性塗膜は、親水性重合体(A)が架橋剤(B)によって架橋された、アミド基を有する樹脂からなり、上記親水性重合体(A)は、アクリル変性エポキシ樹脂、アクリルセルロース樹脂、セルロースメラミン樹脂、セルロースアセテート樹脂、及びポリオキシアルキレン樹脂からなるグループから選ばれる少なくとも1種からなり、上記架橋剤(B)は、イソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、及びカルボジイミドからなるグループから選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項5】
上記プレコートフィンは、上記基板と上記親水性塗膜との間に形成されたプライマー層を有し、該プライマー層は、ウレタン系プライマー、アクリル系プライマー、及びエポキシ系プライマーから選ばれる少なくとも1種からなり、上記プライマー層の平均膜厚が0.3μm以上、かつ3μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板からなるフィンを備えた、熱交換器。
【請求項7】
上記フィンの少なくとも一部において、上記基板の上記圧延平行方向が鉛直方向に配置されている、請求項6に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、その表面に形成された親水性塗膜とを有するプレコートフィン、及び該プレコートフィンを備えた熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
空調用エアコンに用いられる熱交換器には、フィンチューブタイプが用いられている。熱交換器は、銅またはアルミニウム製の配管と、配管が貫通する多数のアルミニウム製のプレートフィンとを有する。プレートフィンはアルミニウムまたはアルミニウム合金を鋳造・熱間圧延・冷間圧延によりコイル状にされ、両面に親水性の塗料あるいは撥水性の塗料がプレコートされている。
【0003】
近年、熱交換性能の熱交換性能の向上、運転時の騒音低下を目的としてフィンの親水性の向上が求められている。水飛び及び露飛びの防止や親水性能の持続を目的として室内機のフィンには、耐汚染性、耐水飛び性が求められている。また、省エネのために、室外機のフィンの除霜性が求められる一方で、フィンピッチを狭くすることによりフィンの枚数を増加させることが検討されている。
【0004】
家庭用および業務用エアコンには、室内機と室外機と備え、それぞれを配管で接続し、配管内に冷媒を通している。室内機と室外機の内部には、冷媒通路管にフィンを付与した熱交換器があり、熱交換器に風を送るためのファンとファンを回すためのモーターが配置されている。室外機と室外機とを結ぶ経路内に圧縮機と膨張弁を組み入れて熱交換を行っている。冷房運転時は圧縮機で高温になった冷媒を室外機で室外に放熱し、低温になった冷媒を膨張弁から通すことで気化させて低温になった冷媒を室内機に通して冷風を室内に供給する。室内から熱を奪った冷媒を再び圧縮機で圧縮するというサイクルにより冷房運転が可能となる。
【0005】
反対に、暖房運転時は圧縮機で高温になった冷媒を室内機で室内に熱を放出し、温度が低下した冷媒を膨張弁から通すことで気化させて低温になった冷媒を室外機に通して室外の熱を吸収する。室外から熱を吸収した冷媒を再び圧縮機で圧縮するというサイクルにより暖房運転が可能となる。通常、暖房運転を行う場合、室外の温度は寒いと感じられる程度に低いため、室外から熱を吸収するためには冷媒の室外の温度をよりさらに低くする必要があるため、0℃以下になることがある。冷媒の温度が0℃以下になると配管に接するフィンも必然的に0℃以下となり、空気中の水分が付着して霜が付着する。
【0006】
室外機のフィンに霜が付着すると、冷媒と室外の空気との間の障壁となるため熱の移動が妨げられるとともに、フィン間を流れる空気の量が低下するため、より一層の熱交換性能の低下を招く。霜が多く着きすぎて熱交換性能が低下した場合には、この霜を取り除くために暖房運転を停止して除霜運転を行う必要が生じる。除霜運転では、室外機を通る冷媒を霜が溶解する温度まで加熱して、一定時間循環させることで霜を水に変えて排出させるが、冷媒を加熱するためのエネルギーが必要となる問題と、暖房運転が停止するため、室内の快適性が阻害されるという問題が生じる。そのため霜の付着を低減する技術が提案されている。
【0007】
特許文献1では、親水性樹脂と架橋性微粒子とを含有する親水性塗膜が提案されている。そして、親水性樹脂として、特定の(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、及び、ポリエチレンオキサイド及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種の樹脂を含有する親水化処理剤を用いて金属表面を親水皮膜で被覆する親水性塗膜が提案されている。
特許文献2では、ポリオルガノシロキサンの部分加水分解物とフルオロアルキルシランの部分加水分解物との混合物からなる有機ケイ素化合物成分と、該有機ケイ素化合物成分を溶解しうる有機溶剤を含有する滑水性コーティング剤が提案されている。
【0008】
特許文献3では、有機系樹脂溶液と微粒子とからなる撥水性コーティング組成物が提案されている。
特許文献4では、特定のアクリル変性エポキシ樹脂に架橋剤、フッ素系ポリマー、および消泡性付与剤を混合添加した着霜抑制処理組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−000534号公報
【特許文献2】特開2013−147573号公報
【特許文献3】特開平5−117637号公報
【特許文献4】特開2011−102334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の親水性塗膜においては、凝縮水がフィン表面に濡れ広がるため、通風抵抗が低く維持できるとともに、熱交換性能が高いという特徴がある。しかし、その高い親水性の効果によりフィン表面に薄い水膜が保持されさやすい。さらに、親水性塗膜の表面が粗く凹凸を有しているため、親水性を発現させるために水膜が流れ落ちにくい。その結果、暖房運転時の室外機のフィンに霜が付着し易いという問題がある。
また、特許文献2の滑水性コーティング剤を用いることにより、滑水性に優れ、かつ長期間滑水性を維持することが出来る塗膜を形成することができる。しかし、滑水性コーティング剤は、ポストコートに適しており、プレコートには適していない。また、滑水性コーティング剤によって形成される塗膜は、滑水持続性も不十分であるという問題がある。
【0011】
特許文献3においては、上述の撥水性コーティング組成物の塗布により、フィン表面を超撥水化させて着霜時間を長くすることが提案されているが、熱伝達率の高いフィンの表面と凝縮水の接触面積が小さくなる。その結果、フィンの表面が熱伝達率の低い空気と接する面積が大きくなるため、熱交換性能が低くなる。また、凝縮水が霜になるよりも氷になりやすい。そのため、除霜運転(解凍運転)時には、霜が融解するのではなく、氷の脱落が起こり、室外機内に氷塊が堆積するおそれがある。その結果、室外機内に堆積した氷塊を除去するための装置が別途必要になる。
【0012】
特許文献4の着霜抑制処理組成物は、室外機の着霜を抑制し、耐食性に優れた皮膜を形成することができる。しかし、滑水性が不十分であり更なる改良が望まれている。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、長期間にわたり親水性に優れながら凝縮水の滑落性に優れ、霜の付着を十分に防止できる共に、霜の除去性に優れた熱交換器のフィン用のプレコートアルミニウム板、及び熱交換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、熱交換器のフィン用のプレコートアルミニウム板であって、
アルミニウムからなる基板と、
該基板の少なくとも一方の面に形成された親水性塗膜と、を有し、
上記基板の圧延平行方向における上記親水性塗膜の表面粗さRzLと、上記基板の圧延垂直方向における上記親水性塗膜の表面粗さRzLTとが、RzL≦1.5μm、0.3μm≦RzLT≦2.5μm、及びRzL/RzLT≦0.9の関係を満足し、
上記親水性塗膜は、水滴との接触角が25°以下であり、上記基板の圧延平行方向における上記水滴の転落角が20°以下である、プレコートアルミニウム板。
【0015】
本発明の他の態様は、プレコートアルミニウム板からなるフィンを備えた、熱交換器にある。
【発明の効果】
【0016】
上記プレコートアルミニウム板は、表面粗さRzLと表面粗さRzLTとが上記関係を満足する親水性塗膜を有している。さらに、親水性塗膜は、水滴との接触角、及び水滴の転落角が上記所定値以下である。そのため、プレコートアルミニウム板は、親水性に優れると共に、表面に凝着水が付着しても凝着水が滑落し易い。さらに、滑落時には、親水性塗膜の表面における凝着水の濡れ広がりを防止することができる。さらに、プレコートアルミニウム板はこのような優れた親水性及び凝着水の滑落性を長期間維持することができる。そのため、プレコートアルミニウム板を熱交換器のフィンに用いることにより、霜の付着を十分に防止できる共に、霜の除去性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における、基板上に形成された親水性塗膜を有するプレコートアルミニウム板の拡大断面図。
図2】実施例1における、プレコートアルミニウム板の上面図。
図3】実施例1における、(a)親水性塗膜上の接触角が小さな水滴を示す説明図、(b)親水性塗膜上の接触角が大きな水滴を示す説明図。
図4】実施例1における、転落角の測定方法を示す説明図。
図5】実施例1における、基板と親水性塗膜との間にプライマー層を有するプレコートアルミニウム板の拡大断面図。
図6】実施例1における、熱交換器の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、プレコートアルミニウム板及び熱交換器の実施形態について説明する。
プレコートアルミニウム板は、基板上に形成された親水性塗膜を有する。親水性塗膜は、基板の片面に形成されていても、両面に形成されていてもよい。好ましくは、親水性塗膜は基板の両面に形成されていることがよい。この場合には、プレコートアルミニウム板からなる熱交換器用のフィンが、その両面において優れた親水性を示しつつ、優れた凝縮水の滑落性を示すことができる。そのため、熱交換器のフィンへの霜の付着をより一層防止することができ、霜の除去性をより一層向上させることができる。
【0019】
プレコートアルミニウム板において、基板の圧延平行方向における親水性塗膜の表面粗さRzLと、基板の圧延垂直方向における親水性塗膜の表面粗さRzLTとは、RzL≦1.5μm、0.3μm≦RzLT≦2.5μm、及びRzL/RzLT≦0.9の関係を満足することが好ましい。基板の圧延平行方向は、圧延方向と平行な方向であり、圧延垂直方向は、圧延方向と垂直な方向である。なお、本明細書における各表面粗さは、いずれも、JIS B0601−2001における最大高さ粗さを示す。
【0020】
RzL>1.5μmの場合には、凝縮水の滑落性が低下し易くなるおそれがある。また、プレコートアルミニウム板からなるフィンに霜が付着し易くなったり、付着した霜の除去が困難になったりするおそれがある。また、RzLT<0.3μmの場合には、親水性が低下し易くなるおそれがある。また、フィンに霜が付着し易くなるおそれがある。これらをより防止する観点から、RzLT≧0.8μmがより好ましく、RzLT≧1μmがさらに好ましく、RzLT≧1.5μmが特に好ましい。また、RzLT>2.5μmの場合には、フィンに霜が付着し易くなったり、付着した霜の除去が困難になったりするおそれがある。これらをより防止する観点から、RzLT≦2.3μmがより好ましく、RzLT≦1.8μmがさらに好ましい。
【0021】
また、RzL/RzLT>0.9の場合には、親水性及び/又は凝着水の滑落性が低下し易くなるおそれがある。また、フィンに霜が付着し易くなったり、付着した霜の除去が困難になったりするおそれがある。これらをより防止する観点から、RzL/RzLT≦0.8がより好ましく、RzL/RzLT≦0.7がさらに好ましい。
【0022】
親水性塗膜は、水滴との接触角が25°以下であることが好ましい。接触角が25°を超える場合には、親水性、凝着水の滑落性が低下し易くなるおそれがある。また、フィンに霜が付着し易くなったり、付着した霜の除去が困難になったりするおそれがある。これらをより防止する観点から、接触角は20°以下がより好ましく、15°以下がさらに好ましい。
【0023】
また、親水性塗膜は、基板の圧延平行方向における水滴の転落角が20°以下であることが好ましい。転落角が20°を超える場合には、親水性、凝着水の滑落性が低下し易くなるおそれがある。また、フィンに霜が付着し易くなったり、付着した霜の除去が困難になったりするおそれがある。これらをより防止する観点から、転落角は15°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。
【0024】
親水性塗膜の平均膜厚は、0.3μm以上、かつ1.5μm以下であることが好ましい。この場合には、凝着水の滑落性の低下をより一層抑制することができる。また、霜の付着をより抑制したり、付着した霜がより除去されやすくなる。さらに、上記範囲を超えて膜厚を大きくすることは可能ではあるが、大きくし過ぎても効果の向上効果はほとんど得られず、プレコートアルミニウム板からなるフィンの重量が大きくなるため好ましくない。親水性塗膜の平均膜厚は0.5μm以上であることがより好ましく、0.6μm以上であることがさらに好ましい。
【0025】
親水性塗膜は、親水性重合体(A)を架橋剤(B)によって架橋してなる。親水性重合体(A)としては、アクリル変性エポキシ樹脂、アクリルセルロース樹脂、セルロースメラミン樹脂、セルロースアセテート樹脂、及びポリオキシアルキレン樹脂からなるグループから選ばれる少なくとも1種の重合体を用いることができる。架橋剤(B)としては、イソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、及びカルボジイミドからなるグループから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの組み合わせを採用することにより、表面粗さRzLと表面粗さRzLTとが上記所望の関係を満足し、接触角及び転落角が上記所望の範囲となる親水性皮膜を実現し易くなる。
【0026】
アクリル変性エポキシ樹脂は、アクリルによって変性されたエポキシ樹脂である。アクリル変性エポキシ樹脂は、例えば次の(1)〜(3)の方法により得ることができる。すなわち、(1)水素引抜き反応によってアクリルモノマー等の重合性不飽和モノマーをエポキシ樹脂にグラフト重合する方法によりアクリルエポキシ樹脂を得ることができる。(2)カルボキシル基含有アクリルモノマー等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーをエポキシ樹脂のエポキシ基にエステル化反応させ、エポキシ樹脂中に導入された二重結合に、アクリルモノマーを重合反応させることによってアクリル変性エポキシ樹脂を得ることもできる。(3)エポキシ樹脂とカルボキシル基含有アクリル樹脂とを反応させることにより、アクリル変性エポキシ樹脂を得ることもできる。好ましくは、(3)の方法によって製造されるアクリル変性エポキシ樹脂がよい。この場合には、霜の付着をより抑制することができると共に、親水性塗膜の耐食性が向上する。
【0027】
親水性重合剤と架橋剤とを混合し、基板の少なくとも一方の表面に塗装し、加熱することによりアミド基を生成する架橋反応を起こさせることができる。この結果、親水性を発現する官能基を有する樹脂が使用中に凝縮水に流れ出てしまうことによる親水性の劣化が起こりにくくなり、親水性及び凝着水の滑落性の持続性により優れた親水性塗膜が得られる。
【0028】
基板は、板状のアルミニウムからなる。本明細書において、アルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金を含む概念である。基板の圧延垂直方向の表面粗さRzは0.5μm以上、かつ3μm以下であることが好ましい。この場合には、親水性塗膜の表面粗さRzLと表面粗さRzLTとが上記所望の関係をより満足し易くなる。同様の観点から、基板の圧延垂直方向の表面粗さRzは1μm以上、2.5μm以下であることがより好まく、1.2μm以上、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
プレコートアルミニウム板は、熱交換器のフィンに用いられる。フィンの少なくとも一部においては、基板の圧延平行方向が鉛直方向に配置されることが好ましい。この場合には、プレコートアルミニウム板の上述の優れた特徴を十分に発揮することができる。その結果、熱交換器は、霜の付着をより十分に防止できる共に、霜をより十分に除去することができる。なお、上述の「圧延平行方向が鉛直方向」とは、外観上、圧延平行方向と鉛直方向が一致していればよく、圧延平行方向と鉛直方向とは必ずしも一致しておらず、多少の傾きを許容する。傾斜角度は、フィンに付着した凝着水が流れ落ちる任意の角度に設定することができる。
【0030】
通常、プレコートアルミニウム板を熱交換器用のフィンに成形する場合、基板の圧延平行方向が板状のフィン(以下、プレートフィンという)の長手方向になり、プレートフィンの長手方向が熱交換器において垂直(すなわち、鉛直)に配置される。すなわち、プレコートアルミニウム板の圧延平行方向が熱交換器における垂直方向になる。したがって、上記プレコートアルミニウム板のように圧延平行方向に良好な水滑落性を付与することによって、熱交換器においては、凝着水(例えば凝縮水滴ともいう)が良好に排出される。
【0031】
プレコートアルミニウム板は、次のようにして製造することができる。まず、アルミニウムからなる基板を次のようにして製造する。具体的には、アルミニウムを鋳造して鋳塊を製造する(すなわち、鋳造工程)。次いで、鋳塊を加熱して圧延しコイル(すなわち、ロール状に巻かれたアルミニウム板)を製造する(すなわち、熱間圧延工程)。次に、熱間圧延後のコイルを冷間圧延する(すなわち冷間圧延工程)。このようにして、アルミニウムからなる基板を得ることができる。そして、冷間圧延コイルの圧延垂直方向の最大粗さを上述のように0.5μm以上、かつ3.0μm以下にすることが好ましい。基板の圧延垂直方向の表面粗さRzを上記所望の範囲に調整するためには、冷間圧延ロールの圧延垂直方向の最大粗さ、圧延速度、潤滑油などの各種圧延条件を適宜調整すればよい。冷間圧延性を向上するために冷間圧延工程の途中で焼鈍を行ってもよい(すなわち、焼鈍工程)。
【0032】
アルカリ性脱脂剤を用いて、冷間圧延後のコイルの表面から圧延油等の汚れを除去し、表面をエッチングすることができる。その後、化成処理剤によりコイルの表面に化成皮膜を形成することができる。化成処理としては、例えばクロメート処理、ジルコニア処理等がある。化成皮膜を形成することにより、基板と親水性塗膜/又は後述のプライマー層との密着性を向上させることができる。次いで、ロール塗装により、親水性塗膜を形成するための親水塗料をコイルの表面に塗布し、親水性塗膜を形成する。親水塗料としては、例えば上述の親水性重合体(A)と、架橋剤(B)とを含有する塗料が用いられる。親水塗料は、さらに溶剤や各種添加剤を含有することができる。
【0033】
親水塗料の粘度は、JIS K5400に規定にされているフォードカップNo.4での測定によって5〜15秒とすることが好ましい。この場合には、表面粗さRzLと表面粗さRzLTとが上記所望の関係を満足する親水性塗膜をより形成し易くなる。親水塗料の塗装後には、温度200℃程度で数秒の加熱を行うことにより、親水性重合体(A)を架橋剤(B)によって架橋させることができる。親水性重合体(A)を架橋させることにより、親水性を発現する官能基を有する樹脂が水に流れ出にくくなる。そのため、親水持続性をより向上させることができる。
【0034】
また、水性塗料の塗布の前に、プライマー層を形成することが好ましい。この場合には、基板と、親水性塗膜との間にプライマー層が形成され、基板と親水性塗膜との密着性をより向上させることができる。プライマー層は、ウレタン系プライマー、アクリル系プラマー、及びエポキシ系プライマーからなるグループより選ばれる少なくとも1種により形成することができる。プライマーの厚さは0.3μm以上、かつ3μm以下が好ましい。
【0035】
プレコートアルミニウム板は、例えば以下のようにして熱交換器の製造に用いられる。具体的には、まず、プレコートアルミニウム板は、コイルから条切断され、複数のフィンを得る。次いで、フィンに、プレス機によって、スリット加工、ルーバー成型、カラー加工を施す。次いで、所定の位置に配置した金属管をフィンに設けた孔に通しながらフィンを積層する。積層後に、金属管内に拡管プラグを挿入して金属管の外径を拡大させることにより、金属管とフィンを密着させる。このようにして、熱交換器を得ることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
本例においては、実施例及び比較例にかかる複数のプレコートアルミニウム板(具体的には、試料E1〜試料E21及び試料C1〜試料C9)を作製し、その特性を比較評価する。図1に示すごとく、実施例のプレコートアルミニウム板1は、アルミニウムからなる基板2と、その少なくとも一方の面に形成された親水性塗膜3とを有する。図1及び図2に示すごとく、プレコートアルミニウム板1においては、基板2の圧延平行方向Xにおける親水性塗膜3の表面粗さRzLと、基板2の圧延垂直方向Yにおける親水性塗膜3の表面粗さRzLTとが、RzL≦1.5μm、0.3μm≦RzLT≦2.5μm、及びRzL/RzLT≦0.9の関係を満足する。図3(a)に示すごとく、親水性塗膜3は、水滴19との接触角αが25°以下である。また、図4に示すごとく、親水性塗膜3においては、基板1の圧延平行方向Xにおける水滴19の転落角βが20°以下である。
【0037】
本例においては、表1及び表2に示すごとく、基板の表面粗さRz、化成処理の種類、プライマー層の有無や種類、親水性塗膜の製造に用いた親水塗料の組成や粘度、親水性塗膜の膜厚等を変更し、表面粗さRzL、表面粗さRzLT、水滴との接触角α、水滴の転落角βなどが異なる複数のプレコートアルミニウム板(すなわち、試料E1〜試料E21、試料C1〜試料C9)を製造した。親水塗料においては、表1及び表2に示すごとく、親水性重合体及び架橋剤の種類や配合割合を変更した。化成皮膜の形成量は、いずれも20mg/m2である。また、いずれのプレコートアルミニウム板においても、親水性塗膜は基板の両面に形成した。また、試料E19〜試料E21のプレコートアルミニウム板1は、図5に示すごとく、基板2と親水性塗膜3との間にプライマー層4を有する。その他のプレコートアルミニウム板1は、プライマー層を有しておらず、図1に示すごとく基板2上に親水性塗膜3が形成されている。試料E1〜試料E18の各種物性や特性は以下のようにして測定した。
【0038】
(A)表面粗さRz、RzL、RzLTの測定
表面粗さは、オリンパス社製のレーザ顕微鏡LEXT OLS−3000を用いて測定した。具体的には、まず、顕微鏡の対物レンズの倍率を100倍にし、レーザ光のスキャンピッチを0.05μmに設定して、各試料の表面のスキャンを行い、面でのデータを得た。次いで、その面のデータを指定した方向(具体的には、圧延平行方向又は圧延垂直方向)で解析して、粗さを算出した。方向は、拡大により確認される圧延目に基づいて決定した。測定長は130μmであり、圧延平行方向については7箇所の測定を1視野で行い、圧延垂直方向については7箇所の測定を2視野(すなわち、合計14箇所)で行った。
【0039】
(B)親水性塗膜及びプライマー層の膜厚
渦電流式膜厚計を用いて、プレコートアルミニウム板の親水性塗膜の表面における任意の10箇所の膜厚を測定し、これらの測定値の相加平均から平均膜厚を求めた。また、基板と親水性塗膜との間にプライマー層を有するプレコートアルミニウム板の場合は、プライマー層のみを形成した塗装アルミニウム板と、プライマー層の上にさらに親水性塗膜を形成したプレコートアルミニウム板とのそれぞれについて、上述と同様の渦電流式膜厚計を用いた膜厚の測定を行った。そして、塗装アルミニウム板の測定結果からプライマー層の平均膜厚を得ることができ、プレコートアルミニウム板と塗装アルミニウム板との測定結果(平均値)の差から親水性塗膜の平均膜厚を求めた。
【0040】
(C)接触角
プレコートアルミニウム板1の親水性塗膜3上に、2μlの水滴19を滴下した(図3(a)及び(b)参照)。そして、親水性塗膜3上における水滴19の接触角αを測定した。図3(a)は接触角αが鋭角である場合を示し、図3(b)は接触角αが鈍角である場合を示す。親水性塗膜形成直後の接触角を表1及び表2に示す。
【0041】
(D)転落角
図4に示すごとく、プレコートアルミニウム板1の親水性塗膜3上に、シリンジを使用して10μlの水滴19を滴下し、プレコートアルミニウム板1の片端を持ち上げて傾斜させた。そして、水滴19が落下し始める際の、プレコートアルミニウム板1と水平面とのなす角度を測定した。この角度が転落角βである。なお、この転落角の測定試験においては、図4に示すように、圧延平行方向Xが傾斜するようにプレコートアルミニウム板1を傾けた。親水性塗膜形成直後の転落角βを表1及び表2に示す。
【0042】
次に、各プレコートアルミニウム板について、次のようにして着霜抑制性、除霜性、親水持続性、滑落持続性、耐食性、耐湿性の評価を行った。着霜抑制性及び除霜性の評価には、プレコートアルミニウム板からなるフィンを備えた評価用の熱交換器を用いた。
【0043】
図6に示すごとく、熱交換器5は、クロスフィンチューブタイプであり、プレコートアルミニウム板1からなる多数のプレートフィン6と、これらを貫通する伝熱用の金属管7とを有する。各プレートフィン6は、所定の間隔を明けて平行に配置されている。プレートフィンの幅(W)は25.4mm、高さ(H)は290mm、フィン積層ピッチ(P)は1.4mm、熱交換器全体の幅(D)は300mmである。プレートフィン6の高さ方向が基板の圧延平行方向Xである。プレートフィンの幅(W)における金属管7を2列とし、プレートフィン高さ(H)における金属管7の段数を14段とした。なお、図6においては、図面作成の便宜のため、金属管7の数を省略している。また、金属管は、内面にらせん溝を有する銅管である。金属管の寸法は、外径:7.0mm、底肉厚:0.45mm、フィン高さ:0.20mm、フィン頂角:15.0°、らせん角:10.0°である。
【0044】
熱交換器5は、次のようにし作製した。まず、厚み0.1mmのプレコートアルミニウム板1からなるプレートフィン6に、金属管7を挿通して固定するための高さ1〜4mmのフィンカラー部を有する組み付け孔(図示略)をプレス加工により形成した。プレートフィンを積層した後に、組み付け孔の内部に、別途作製した金属管7を挿通させた。金属管7としては、転造加工等によって内面に溝加工を施すと共に、定尺切断・ヘアピン曲げ加工を施した銅管を用いた。次に、金属管7の一端から拡管プラグを挿入し、金属管7の外径を広げることにより、金属管7をプレートフィン6に固着させた。拡管プラグを抜いた後、Uベント管を金属管7にろう付け接合することにより、熱交換器5を得た。
【0045】
(E)着霜抑制性
上記のようにして作製した熱交換器5を用いて着霜抑制性の評価を行なった(図6参照)。具体的には、雰囲気温度(すなわち、乾球温度)が2℃、湿球温度が1℃の環境下に、各試料E1〜試料E21、試料C1〜試料C9のプレコートアルミニウム板1からなるフィン6を備えた熱交換器5を設置した。熱交換器1の伝熱用の金属管7内に、流速20kg/hで、温度が−5℃で、出口過熱度が2℃の冷媒(すなわち、熱交換媒体)を流した。一方、流通させる風の入口風速を1.5m/sとする条件下において熱交換器5の着霜運転を行なった。そして、熱交換器5の入側と出側での差圧から通風抵抗を測定し、通風抵抗が500Paになるまで運転を行った。通風抵抗が500Paとなったところで除霜運転に切り替え、金属管7内に約20℃に加熱した冷媒を2分間流通させた。除霜運転時には熱交換器に流通させる風の入口風速は0m/sとした。着霜運転と除霜運転とを5サイクル繰り返し、着霜抑制性を5サイクル目の着霜運転時間にて評価した。また、5サイクル目の試験中の熱交換器の冷媒入口と冷媒出口における冷媒の温度および圧力、冷媒の流量を測定し、冷媒入口と冷媒出口における冷媒のエンタルピー差を測定することにより、平均熱交換量の測定を行った。そして、5サイクル目の通風抵抗が500Paになるまでの運転時間を試料C6よりなるフィンを備えた熱交換器と比較した。運転時間が試料C6の熱交換器よりも10分以上延びた場合を「◎」と評価し、5分以上10分未満延びた場合を「○」と評価した。また、運転時間の延長が0から5分未満の場合を「△」と評価し、運転時間が短くなった場合を「×」と評価した。
【0046】
(E)除霜性
着霜抑制性と同様の評価を行い、除霜後の残氷が全霜量の20%以下の場合を「◎」と評価し、除霜後の残氷が全霜量の20%を超えかつ40%以下の場合を「○」と評価し、除霜後の残氷が全霜量の40%を超えかつ80%以下の場合を「△」と評価し、除霜後の残氷が全霜量の80%を超える場合を「×」と評価した。
【0047】
(F)親水持続性
親水持続性は、劣化試験後の接触角を測定することによって評価した。まず、プレコートアルミニウム板を、イオン交換水に2分間浸漬した後、6分間エアブローで乾燥させるというサイクルを300サイクル実施した(劣化試験)。次いで、この劣化試験後の水滴との接触角を上述の方法により測定した。劣化試験後の接触角が10゜以下の場合を「◎」と評価し、10゜を超え25゜以下の場合を「○」と評価し、25゜を超え30゜以下の場合を「△」と評価し、30゜を超える場合を「×」と評価した。
【0048】
(G)滑落持続性
滑落持続性は、劣化試験後の転落角を測定することによって評価した。劣化試験は、上述の親水持続性と同様であり、転落角の測定方法は上述の通りである。劣化試験後の転落角が10゜以下の場合を「◎」と評価し、10゜を超え20゜以下の場合を「○」と評価し、20゜を超え30゜以下の場合を「△」と評価し、30゜を超える場合を「×」と評価した。
【0049】
(H)耐食性
各プレコートアルミニウム板を用いて、JIS Z2371で規定されている塩水噴霧試験を500時間行い、試験後の耐食性を評価した。試験後に、親水性塗膜の表面に茶色の変色が発生しなかった場合を「○」と評価し、変色が発生した場合を「×」と評価した。
【0050】
(I)耐湿性
各プレコートアルミニウム板を用いて、JIS H4001で規定されている耐湿性試験を960時間行い、試験後の耐湿性を評価した。試験後に、親水性塗膜の表面に茶色の変色が発生しなかった場合を「○」と評価し、変色が発生した場合を「×」と評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【符号の説明】
【0054】
1 プレコートアルミニウム板
19 水滴
2 基板
3 親水性塗膜
4 プライマー層
5 熱交換器
6 フィン
7 チューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6