(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
d軸電流指令からd軸電圧指令を生成し、q軸電流指令からq軸電圧指令を生成し、前記d軸電圧指令及び前記q軸電圧指令から3相交流電圧指令を生成し、前記3相交流電圧指令を電力増幅器へ出力することで誘導電動機を制御する制御装置において、
前記d軸電流指令とd軸電流検出値との間の偏差が0になるように前記d軸電圧指令を生成すると共に、前記q軸電流指令とq軸電流検出値との間の偏差が0になるように前記q軸電圧指令を生成する電流制御部と、
電気角に基づいて、前記電流制御部により生成された前記d軸電圧指令及び前記q軸電圧指令を、前記3相交流電圧指令に変換する第1の座標変換部と、
前記電気角に基づいて、前記電力増幅器と前記誘導電動機との間に設けられた電流検出器により検出された3相交流電流検出値を、前記d軸電流検出値及び前記q軸電流検出値に変換する第2の座標変換部と、
前記誘導電動機におけるq軸上に発生する2次側の磁束の指令を0として、前記d軸電流指令、前記q軸電流指令、電気角速度、並びに予め設定された1次抵抗同定値及び1次インダクタンス同定値に基づいて、スリップ角周波数指令生成用のq軸電圧指令を生成するd軸電圧指令生成部と、
前記d軸電圧指令生成部により生成された前記スリップ角周波数指令生成用のq軸電圧指令と、前記電流制御部により生成された前記q軸電圧指令との間の偏差が0になるように、前記誘導電動機の2次抵抗値を2次インダクタンスで除算した結果である逆2次時定数を同定し、前記逆2次時定数に、前記q軸電流指令を前記d軸電流指令で除算した結果を乗算することで、スリップ角周波数指令を生成するスリップ角周波数指令生成部と、
前記スリップ角周波数指令生成部により生成された前記スリップ角周波数指令に前記誘導電動機の回転子角速度を加算し、前記電気角速度を求める加算器と、
前記加算器により求めた前記電気角速度を積分し、前記電気角を求める積分器と、
を備えたことを特徴とする制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来、誘導電動機をd軸及びq軸にてベクトル制御する制御装置が知られている。この制御装置は、電流指令(d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*)を生成し、これらの電流指令をPIにより電流制御して電圧指令(d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*)を生成する。
【0003】
制御装置は、電圧指令を座標変換し、U相、V相及びW相の3相交流電圧指令(U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*)を生成する。そして、制御装置は、この3相交流電圧指令を電力増幅器へ出力することで、誘導電動機を制御する。
【0004】
また、制御装置は、電力増幅器と誘導電動機との間に設けられた電流検出器により検出されたU相、V相及びW相の3相交流電流検出値(U相交流電流検出値iu、V相交流電流検出値iv及びW相交流電流検出値iw)を入力する。そして、制御装置は、3相交流電流検出値を座標変換し、電流検出値(d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iq)を生成する。
【0005】
このような制御装置において、電圧指令を3相交流電圧指令に座標変換し、また、3相交流電流検出値を電流検出値に座標変換する際に、電気角θeが用いられる。この電気角θeは、誘導電動機の回転子角速度ωrにすべり周波数を加算し、加算結果の電気角速度ω1を積分することにより得られる。
【0006】
従来、すべり周波数を同定して行うスリップチューニングは、誘導電動機の2次抵抗値r2と2次インダクタンスL2との間の比である逆2次時定数W2(=r2/L2)を同定することで行われていた。一般に、すべり周波数は、誘導電動機の温度変化に伴って変化することが知られている。このため、誘導電動機の温度として誘導電動機の2次抵抗値r2の変化を捉え、これを2次インダクタンスの逆2次時定数W2に反映することで、すべり周波数を同定する。
【0007】
例えば、温度センサーを用いて誘導電動機の2次抵抗値r2の温度変化を検出し、これによりすべり周波数を同定する手法が知られている。また、誘導電動機の温度を推定してすべり周波数を同定する手法も知られている(例えば、特許文献1を参照)。この手法は、誘導電動機へ供給される電流値を検出し、当該電流値から誘導電動機のローターバーの温度を推定し、基準設定温度と推定した温度との間の差に基づいて、すべり周波数の補正量を算出することで、すべり周波数を同定するものである。
【0008】
さらに、d軸電圧指令vd*に基づいて逆2次時定数W2を同定することで、すべり周波数を同定する手法も知られている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、誘導電動機をベクトル制御する制御装置において、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成し、スリップ角周波数指令ωs*(すべり周波数)を求める。具体的には、本発明は、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系にて、q軸2次磁束φ2q=0の制御を行う。そして、逆2次時定数W2(=r2/L2(r2は2次抵抗値、L2は2次インダクタンス))を同定し、逆2次時定数W2からスリップ角周波数指令ωs*を求める。ここで、q軸2次磁束φ2qは、誘導電動機において、q軸上に発生する2次側の磁束を示す。
【0020】
すべり周波数は、誘導電動機の温度変化に伴って変化し、誘導電動機の温度変化はその2次抵抗値r2の変化となり、逆2次時定数W2の変化となる。つまり、すべり周波数は、逆2次時定数W2の変化として捉えることができる。
【0021】
また、本発明では、同定精度が低い漏れインダクタンス同定値xq^を用いてd軸電圧指令vd*のフィードバック制御系を構成するのではなく、同定精度が高い1次インダクタンス同定値xd^を用いてq軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成する。1次インダクタンス同定値xd^の同定精度が高いのは、当該同定値が無負荷運転にて定められるからである。
【0022】
つまり、本発明では、同定精度が高い1次インダクタンス同定値xd^を用いて、q軸2次磁束φ2q=0の制御を行い、逆2次時定数W2を同定してスリップ角周波数指令ωs*を求める。これにより、従来に比べ、スリップ角周波数指令ωs*であるすべり周波数を精度高く同定することができる。
【0023】
〔モータ制御システム〕
図1は、本発明の実施形態による制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。このモータ制御システムは、制御装置1、電力増幅器2、誘導電動機3及びPG(パルスジェネレータ)4を備えて構成される。
【0024】
制御装置1は、誘導電動機3をd軸及びq軸にてベクトル制御する装置である。この制御装置1は、電流指令(d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*)を電流制御し、電圧指令(d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*)に変換する。そして、制御装置1は、電気角θeに基づいて、電圧指令をU相、V相及びW相の3相交流電圧指令(U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*)に変換し、3相交流電圧指令を電力増幅器2へ出力する。
【0025】
本発明の実施形態では、制御装置1は、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成し、q軸2次磁束φ2q=0の制御を行って逆2次時定数W2を同定し、逆2次時定数W2からスリップ角周波数指令ωs*を算出する。そして、制御装置1は、スリップ角周波数指令ωs*に基づいて、電気角θeを算出する。
【0026】
制御装置1は、電力増幅器2と誘導電動機3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相、V相及びW相の3相交流電流検出値(U相交流電流検出値iu、V相交流電流検出値iv及びW相交流電流検出値iw)を入力する。また、制御装置1は、PG4から回転子角速度ωrを入力する。
【0027】
電力増幅器2は、制御装置1から3相交流電圧指令を入力し、当該3相交流電圧指令からPWM信号を生成し、PWM信号によってスイッチング素子のゲートをオンオフし、図示しない電源から供給された電力を増幅する。そして、電力増幅器2は、増幅した電力を誘導電動機3へ供給する。
【0028】
これにより、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系にて算出されたスリップ角周波数指令ωs*であるすべり周波数は、同定精度が高い1次インダクタンス同定値xd^を用いて算出されるから、精度の高い値となる。そして、誘導電動機3は、精度の高いすべり周波数が反映された3相交流電圧指令に基づいて制御される。したがって、誘導電動機3を精度高く制御することができる。
【0029】
PG4は、誘導電動機3の回転に応じたパルス信号を発生する。このパルス信号のカウント値から誘導電動機3の回転子角速度ωrが得られ、当該回転子角速度ωrが制御装置1へ入力される。尚、
図1には、PG4から制御装置1へ、回転子角速度ωrが入力されるように略して示してある。
【0030】
〔制御装置1〕
次に、
図1に示した制御装置1について詳細に説明する。
図1を参照して、この制御装置1は、d軸電圧指令生成部10、スリップ角周波数指令生成部11、加算器12、積分器13、電流制御部20及び座標変換部21,22を備えている。尚、
図1に示す制御装置1には、本発明に直接関連する構成部のみが示されており、その他の構成部は省略してある。
【0031】
d軸電圧指令生成部10は、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力すると共に、後述する加算器12から電気角速度ω1を入力し、さらに、予め設定された1次抵抗同定値r1^及び1次インダクタンス同定値xd^を入力する。
【0032】
d軸電圧指令生成部10は、以下の数式により、q軸2次磁束指令φ2q*=0としたq軸電圧指令vq**を生成し、q軸電圧指令vq**をスリップ角周波数指令生成部11に出力する。q軸電圧指令vq**は、スリップ角周波数指令生成用の指令である。
〔数式2〕
vq**=r1^×iq*+ω1×xd^×id* ・・・(2)
【0033】
尚、q軸電圧指令vq**は、q軸2次磁束指令φ2q*を考慮した場合、以下の数式にて表される。
〔数式3〕
vq**=r1^×iq*+ω1×xd^×id*
+(ω1×ωs/W2)×φ2q* ・・・(3)
W2は逆2次時定数、ωsはスリップ角周波数をそれぞれ示す。前記数式(3)にq軸2次磁束指令φ2q*=0を代入することにより、前記数式(2)が得られる。
【0034】
スリップ角周波数指令生成部11は、d軸電圧指令生成部10からq軸電圧指令vq**を入力すると共に、後述する電流制御部20からq軸電圧指令vq*を入力する。また、スリップ角周波数指令生成部11は、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力し、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE指示@を入力し、後述の加算器12から電気角速度ω1を入力する。
【0035】
スリップ角周波数指令生成部11は、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0になるように、スリップ角周波数指令ωs*を生成し、スリップ角周波数指令ωs*を加算器12に出力する。q軸電圧指令vq**にはq軸2次磁束指令φ2q*=0の要素が含まれているから、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差を0にする制御には、q軸2次磁束φ2qを0にする制御が含まれる。つまり、スリップ角周波数指令生成部11は、q軸2次磁束φ2qが0になるように、スリップ角周波数指令ωs*を生成する。スリップ角周波数指令生成部11の詳細については後述する。
【0036】
q軸電圧指令vq*は、以下の数式にて表される。
〔数式4〕
vq*=r1×iq+ω1×xd×id+(ω1×ωs/W2)×φ2q
・・・(4)
r1は1次抵抗値、iqはq軸電流検出値、ω1は電気角速度、xdは1次インダクタンス、idはd軸電流検出値、ωsはスリップ角周波数、W2は逆2次時定数、φ2qはq軸2次磁束をそれぞれ示す。
【0037】
加算器12は、スリップ角周波数指令生成部11からスリップ角周波数指令ωs*を入力すると共に、PG4から回転子角速度ωrを入力し、スリップ角周波数指令ωs*に回転子角速度ωrを加算し、電気角速度ω1を求める。そして、加算器12は、電気角速度ω1を積分器13、d軸電圧指令生成部10及びスリップ角周波数指令生成部11に出力する。
【0038】
積分器13は、加算器12から電気角速度ω1を入力し、電気角速度ω1を積分することで電気角θeを求める。そして、積分器13は、電気角θeを座標変換部21,22に出力する。
【0039】
電流制御部20は、減算器23,24及び制御器25,26を備えている。減算器23は、d軸電流指令id*を入力すると共に、後述する座標変換部22からd軸電流検出値idを入力し、d軸電流指令id*からd軸電流検出値idを減算し、d軸電流偏差値を制御器25に出力する。
【0040】
減算器24は、q軸電流指令iq*を入力すると共に、後述する座標変換部22からq軸電流検出値iqを入力し、q軸電流指令iq*からq軸電流検出値iqを減算し、q軸電流偏差値を制御器26に出力する。
【0041】
制御器25は、減算器23からd軸電流偏差値を入力し、当該d軸電流偏差値が0になるように電流制御し、d軸電圧指令vd*を算出する。そして、制御器25は、d軸電圧指令vd*を座標変換部21に出力する。
【0042】
制御器26は、減算器24からq軸電流偏差値を入力し、当該q軸電流偏差値が0になるように電流制御し、q軸電圧指令vq*を算出する。そして、制御器26は、q軸電圧指令vq*を座標変換部21及びスリップ角周波数指令生成部11に出力する。
【0043】
座標変換部21は、電流制御部20からd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を入力すると共に、積分器13から電気角θeを入力する。そして、座標変換部21は、電気角θeに基づいて、回転座標系のd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*をU相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*に変換する。座標変換部21は、U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*を電力増幅器2に出力する。
【0044】
座標変換部22は、電力増幅器2と誘導電動機3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相交流電流検出値iu、V相交流電流検出値iv及びW相交流電流検出値iwを入力すると共に、積分器13から電気角θeを入力する。そして、座標変換部22は、電気角θeに基づいて、U相交流電流検出値iu、V相交流電流検出値iv及びW相交流電流検出値iwを回転座標系のd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqに変換する。座標変換部22は、d軸電流検出値idを電流制御部20の減算器23に出力すると共に、q軸電流検出値iqを減算器24に出力する。
【0045】
〔スリップ角周波数指令生成部11〕
次に、
図1に示したスリップ角周波数指令生成部11について詳細に説明する。
図2は、スリップ角周波数指令生成部11の構成例を示すブロック図である。このスリップ角周波数指令生成部11は、減算器30、フィルタ31、スリップレギュレータ32、リミッタ33、減算器34、反転器35、加算器36、乗算器37、フィルタ38、保持器39、乗算器40及びワンショット生成器41を備えている。減算器30、フィルタ31及びスリップレギュレータ32により、q軸電圧指令制御部50が構成される。
【0046】
スリップ角周波数指令生成部11は、前述のとおり、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0になるように、言い換えると、q軸2次磁束φ2qが0になるように、スリップ角周波数指令ωs*を生成する。
【0047】
減算器30は、q軸2次磁束指令φ2q*=0を実現するためのq軸電圧指令vq**を入力すると共に、電流制御部20からq軸電圧指令vq*を入力する。そして、減算器30は、q軸電圧指令vq**からq軸電圧指令vq*を減算し、q軸電圧指令偏差を求め、q軸電圧指令偏差をフィルタ31に出力する。電流制御部20から入力するq軸電圧指令vq*は、ベクトル制御により算出されるq軸電圧指令フィードバックであり、現在のq軸電圧検出値に相当するものとして扱われる。
【0048】
フィルタ31は、減算器30からq軸電圧指令偏差を入力すると共に、加算器12から電気角速度ω1を入力する。また、フィルタ31は、後述の乗算器40からスリップ角周波数指令ωs*をスリップ角周波数ωsとして入力し、さらに、後述の乗算器37から逆2次時定数同定値W2^を入力する。そして、フィルタ31は、q軸電圧指令偏差に以下の数式を乗算することでフィルタ処理を施し、フィルタ処理後のq軸電圧指令偏差をスリップレギュレータ32に出力する。
〔数式5〕
(P0×ω1×ωs/W2^)/(1+P0×ω1
2×ωs
2/W2^
2)
・・・(5)
P0は、予め設定されたフィルタゲインである。ここで、ω1=ωs+ωrである。
【0049】
これにより、フィルタ31から出力されるフィルタ処理後のq軸電圧指令偏差は、電気角速度ω1が小さい場合(誘導電動機3が低速の場合)、0に近い値となる。したがって、誘導電動機3が低速の場合、スリップ角周波数指令生成部11から出力されるスリップ角周波数指令ωs*はさほど変化しないから、シームレスな制御を実現することができる。
【0050】
スリップレギュレータ32は、フィルタ31からフィルタ処理後のq軸電圧指令偏差を入力する。そして、スリップレギュレータ32は、PI制御により、フィルタ処理後のq軸電圧指令偏差が0になるように、上限値を+1とし下限値を−2とした範囲内でレギュレータ出力値δを生成し、レギュレータ出力値δをリミッタ33及び減算器34に出力する。
図2のスリップレギュレータ32において、Kpは比例ゲイン(P値)を示し、Kiは積分ゲイン(I値)を示す。
【0051】
スリップレギュレータ32は、後述のワンショット生成器41からチューニング開始パルスW2_TUNE0@を入力し、その入力タイミングで当該スリップレギュレータ32をリセットする。チューニング開始パルスW2_TUNE0@は、ユーザの操作に従ったチューニング指示W2_TUNE@のタイミングで生成されるパルス信号である。
【0052】
これにより、スリップレギュレータ32において、q軸2次磁束φ2q=0になるようにレギュレータ出力値δが生成される。
【0053】
図3は、
図2に示した減算器30、フィルタ31及びスリップレギュレータ32により構成されるq軸電圧指令制御部50の等価回路の構成例を示すブロック図である。
図2に示したq軸電圧指令制御部50は、q軸2次磁束φ2q=0になるように制御を行うから、その等価回路は、q軸2次磁束指令φ2q*=0を入力するように構成される。q軸電圧指令制御部50の等価回路は、減算器51及びスリップレギュレータ52を備えている。
【0054】
減算器51は、q軸2次磁束指令φ2q*=0を入力すると共に、q軸2次磁束φ2qを入力し、q軸2次磁束指令φ2q*=0からq軸2次磁束φ2qを減算してq軸2次磁束偏差δφ2qを求める。そして、減算器51は、q軸2次磁束偏差δφ2qをスリップレギュレータ52に出力する。
【0055】
スリップレギュレータ52は、
図2に示したスリップレギュレータ32に相当する。スリップレギュレータ52は、減算器51からq軸2次磁束偏差δφ2qを入力し、PI制御により、q軸2次磁束偏差δφ2qが0になるように、レギュレータ出力値δを生成する。上限値を+1とし下限値を−2とした上下限処理、並びにチューニング開始パルスW2_TUNE0@によるリセット処理も、スリップレギュレータ32と同様である。
【0056】
図2に戻って、リミッタ33は、スリップレギュレータ32からレギュレータ出力値δを入力し、レギュレータ出力値δの上下限を制限する。リミッタ33は、レギュレータ出力値δが上限値である+δ0を超える場合、レギュレータ出力値δ=+δ0に設定し、レギュレータ出力値δが下限値である−δ0を下回る場合、レギュレータ出力値δ=−δ0に設定する。そして、リミッタ33は、上下限制限後のレギュレータ出力値δを減算器34に出力する。+δ0及び−δ0は、予め設定された値である。
【0057】
これにより、リミッタ33において、レギュレータ出力値δが−δ0から+δ0までの範囲の値に制限され、後述の減算器34において、この範囲のレギュレータ出力値δは不感帯の値となる。
【0058】
減算器34は、スリップレギュレータ32からレギュレータ出力値δを入力すると共に、リミッタ33から上下限制限後のレギュレータ出力値δを入力する。そして、減算器34は、レギュレータ出力値δから上下限制限後のレギュレータ出力値δを減算し、不感帯を含むレギュレータ出力値δを求め、不感帯を含むレギュレータ出力値δを反転器35に出力する。
【0059】
図4は、減算器34の入出力を説明する図である。横軸は、減算器34がスリップレギュレータ32から入力するレギュレータ出力値δを示し、縦軸は、減算器34が出力する不感帯を含むレギュレータ出力値δを示す。
図4から、減算器34がスリップレギュレータ32から入力するレギュレータ出力値δが−δ0から+δ0までの範囲において、減算器34が出力する不感帯を含むレギュレータ出力値δは0であることがわかる。
【0060】
これにより、減算器34から、−δ0から+δ0までの範囲で0となる不感帯を含むレギュレータ出力値δが出力される。したがって、当該範囲内において、スリップ角周波数指令ωs*は不変となるから、誘導電動機3の制御を安定させることができる。
【0061】
図2に戻って、反転器35は、減算器34から不感帯を含むレギュレータ出力値δを入力し、不感帯を含むレギュレータ出力値δに−1を乗算することで不感帯を含むレギュレータ出力値δを反転させる。そして、反転器35は、反転した不感帯を含むレギュレータ出力値δを加算器36に出力する。加算器36は、反転器35から反転した不感帯を含むレギュレータ出力値δを入力し、反転した不感帯を含むレギュレータ出力値δに1を加算し、加算結果kを乗算器37に出力する。
【0062】
乗算器37は、加算器36から加算結果kを入力すると共に、後述のフィルタ38から逆2次時定数指令W2*を入力し、加算結果kに逆2次時定数指令W2*を乗算し、逆2次時定数同定値W2^を求める。そして、乗算器37は、逆2次時定数同定値W2^を保持器39及び乗算器40に出力する。
【0063】
保持器39は、a接点のリレー39a、b接点のリレー39b、入力端子I1,I2、リセット端子R及び出力端子Outを備えている。保持器39は、乗算器37から逆2次時定数同定値W2^を、入力端子I1を介して入力すると共に、出力端子Outを介して出力した逆2次時定数同定値W2^を、入力端子I2を介して入力する。また、保持器39は、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE@を入力する。
【0064】
図5は、保持器39の動作を説明する図である。
図2の保持器39及び
図5を参照して、保持器39は、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE@を、リセット端子Rを介して入力すると、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がり時に、リレー39aが導通し、リレー39bが非導通となる。
【0065】
保持器39は、乗算器37から入力した逆2次時定数同定値W2^を、導通したリレー39a及びOut端子を介して、フィルタ38及び入力端子I2に出力する。
【0066】
そして、保持器39は、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がりの後、リレー39aが非導通となり、リレー39bが導通する。そうすると、保持器39は、入力端子I2を介して入力した逆2次時定数同定値W2^を、導通したリレー39b及びOut端子を介してフィルタ38及び入力端子I2に出力する。
【0067】
これにより、
図5に示すように、保持器39からフィルタ38に出力される逆2次時定数同定値W2^は、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がりのタイミングで、W2^_1からW2^_2に変更される。つまり、ユーザの操作に従ったチューニング指示W2_TUNE@の入力に伴って、保持器39において、チューニング開始時の新たな逆2次時定数同定値W2^_2が保持される。そして、チューニング時以降の通常状態において、保持された新たな固定の逆2次時定数同定値W2^_2が、次のチューニング指示W2_TUNE@が入力されるまでの間、保持器39からフィルタ38に出力され続ける。
【0068】
図2に戻って、フィルタ38は、保持器39から逆2次時定数同定値W2^を入力し、逆2次時定数同定値W2^に対し、予め設定された時定数ωLGによる1次遅れフィルタ処理を施す。そして、フィルタ38は、フィルタ処理後の逆2次時定数同定値W2^を逆2次時定数指令W2*として乗算器37に出力する。
【0069】
ワンショット生成器41は、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE@を入力し、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がりのタイミングで、ワンショットのチューニング開始パルスW2_TUNE0@をスリップレギュレータ32に出力する。これにより、チューニング開始時に、スリップレギュレータ32がリセットされる。
【0070】
乗算器40は、乗算器37から逆2次時定数同定値W2^を入力し、逆2次時定数同定値W2^に対し、q軸電流指令iq*をd軸電流指令id*で除算した結果を乗算し、スリップ角周波数指令ωs*を求める。そして、乗算器40は、スリップ角周波数指令ωs*を加算器12に出力する。
【0071】
このように、ユーザの操作によるチューニング指示W2_TUNE@に従って、チューニングが開始すると、スリップレギュレータ32がリセットされ、新たな制御が開始する。それと共に、保持器39において、チューニング直前の逆2次時定数同定値W2^が新たな逆2次時定数同定値W2^として保持される。そして、フィルタ38においても、新たな逆2次時定数同定値W2^に対してフィルタ処理された新たな逆2次時定数指令W2*が生成され、乗算器37に出力される。
【0072】
チューニング時以降の通常状態において、乗算器37により、q軸2次磁束φ2q=0になるように制御された加算結果kに、フィルタ38からの固定値である逆2次時定数指令W2*が乗算されることで、逆2次時定数同定値W2^が求められる。
【0073】
これにより、q軸2次磁束φ2q=0となり制御が安定すると、加算結果k=1となり、乗算器37により算出される逆2次時定数同定値W2^は、逆2次時定数指令W2*と同じ値になる。したがって、
図2に示したスリップ角周波数指令生成部11は、q軸2次磁束φ2q=0になるようにスリップ角周波数指令ωs*を生成するが、これは、逆2次時定数同定値W2^が逆2次時定数指令W2*と同一になるように制御することと同義であるといえる。
【0074】
〔シミュレーション結果〕
次に、制御装置1のシミュレーション結果について説明する。
図6は、本発明の実施形態による制御装置1のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6において、このシミュレーション結果は、コンピュータを用いて得られたものである。グラフの上から、電気角速度ω1、逆2次時定数同定値W2^、q軸2次磁束φ2q、q軸2次磁束偏差δφ2q、トルクτ、トルク指令τ*、端子電圧指令v1*の特性を示しており、横軸は時間である。端子電圧指令v1*は、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*をベクトル合成した指令であり、√(|vd*|
2+|vq*|
2)にて算出される。
【0075】
電気角速度ω1において、加速前及び減速後の速度が0rpm、加速後及び減速前の速度が6000rpmである。逆2次時定数同定値W2^は、5rad/sを基準とした値である。
【0076】
このシミュレーション結果から、誘導電動機3が加速して一定速度(6000rpm)に到達する(電気角速度ω1が大きくなり一定となる)過程において、q軸2次磁束φ2qは変動し、その後、スリップ角周波数指令生成部11の制御により一定となり安定することがわかる。
【0077】
また、誘導電動機3が減速して一定速度(0rpm)に到達する(電気角速度ω1が小さくなり一定となる)過程においても同様に、q軸2次磁束φ2qは変動し、その後、スリップ角周波数指令生成部11の制御により一定となり安定することがわかる。
【0078】
q軸2次磁束偏差δφ2q、トルクτ及びトルク指令τ*も同様に、誘導電動機3が加速する過程及び減速する過程において変動するが、その後一定となり安定することがわかる。
【0079】
以上のように、本発明の実施形態の制御装置1によれば、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成し、q軸2次磁束指令φ2q*=0の制御を行い、逆2次時定数W2を同定してスリップ角周波数指令ωs*を求める。具体的には、d軸電圧指令生成部10は、前記数式(2)に示したとおり、q軸2次磁束指令φ2q*=0として、1次インダクタンス同定値xd^を用いたq軸電圧指令vq**を生成する。スリップ角周波数指令生成部11は、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0になるように(q軸2次磁束φ2qが0になるように)、逆2次時定数W2を同定し、スリップ角周波数指令ωs*を算出する。
【0080】
つまり、同定精度が低い漏れインダクタンス同定値xq^を用いたd軸電圧指令vd*のフィードバック制御系を構成するのではなく、同定精度が高い1次インダクタンス同定値xd^を用いたq軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成するようにした。
【0081】
これにより、同定精度が高い1次インダクタンス同定値xd^を用いて、q軸2次磁束φ2q=0の制御を行うようにしたから、逆2次時定数同定値W2^の同定精度が高くなる。したがって、誘導電動機3のすべり周波数を精度高く同定することができ、所望のスリップチューニングを実現することができる。