(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動回路は、前記入射光の照射領域における前記第1の画素群の面積と前記第2の画素群の面積とが互いに等しくなるように制御する、請求項1または2に記載の空間光変調器。
光を前記変調部へ導く導光光学系を設け、前記導光光学系により前記変調部における光の入射位置を可変とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の空間光変調器の駆動方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明による空間光変調器、光変調装置、及び空間光変調器の駆動方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、一実施形態に係る光変調装置1Aの構成を概略的に示す図である。光変調装置1Aは、例えば光トラップ装置、レーザ加工装置、または顕微鏡装置などに組み込まれる。この光変調装置1Aは、光源2、導光光学系3、空間光変調器(Spatial Light Modulator;SLM)4
、及び集光光学系6を備えている。SLM4Aは、変調部40A及び駆動回路41を有する。
【0019】
光源2は、コヒーレントな光L
1をSLM4Aの変調部40Aに提供するための光源であって、例えば半導体レーザ素子等のレーザ光源や、SLD(Super Luminescence Diode)等のインコヒーレント光源等によって構成される。光源2から出力される光L
1は平行光である。図中の破線AX
1は、光源2から出力される光L
1の中心軸線、すなわち進行方向と直交する断面における強度分布の中心を進行方向に結んだ線を表す。該強度分布は例えばガウス分布である。光L
1は、空間を伝搬して導光光学系3に達する。
【0020】
導光光学系3は、光源2から出力された光L
1をSLM4Aの変調部40Aへ導く。具体的には、光源2と光学的に結合されており、光源2から出力された光L
1を受ける。導光光学系3は、テレセントリック光学系であって、一対のレンズ3a,3bを少なくとも有する。レンズ3a,3bは、光L
1の中心軸線AX
1に沿った方向に並んで配置されている。レンズ3aは、光L
1の光路上において光源2とレンズ3bとの間に位置する。レンズ3a,3bの光軸は、中心軸線AX
1に沿っており、好適には中心軸線AX
1と略平行である。レンズ3a,3bの光軸は互いに一致している。レンズ3aとレンズ3bとの距離は、レンズ3aの焦点距離とレンズ3bの焦点距離との和に等しい。従って、レンズ3aとレンズ3bとの間において光L
1は一旦収束したのち発散し、レンズ3bから再び平行光として出力される。なお、レンズ3a,3bの焦点距離を互いに異ならせることによって、レンズ3bから出力される光L
1のビーム径を、レンズ3aに入力される光L
1のビーム径と異ならせてもよい。なお、図に示すように、レンズ3bの焦点距離をレンズ3aの焦点距離よりも長くすることによって、レンズ3bから出力される光L
1のビーム径が、レンズ3aに入力される光L
1のビーム径よりも大きくなるように、導光光学系3をビームエキスパンダとして機能させてもよい。
【0021】
このような導光光学系3においては、レンズ3a,3bが光軸と交差する方向(図中の矢印D1)に沿って移動可能に構成され、レンズ3a,3bの光軸と中心軸線AX
1との距離が変更可能とされている。レンズ3a,3bの光軸が中心軸線AX
1に対して中心軸線AX
1と交差する方向に或る距離だけずれると、レンズ3bから出力される光L
1の中心軸線AX
2は、中心軸線AX
1に対して平行な状態を維持しつつ、該方向に同じ距離だけシフトする。すなわち、導光光学系3は、光L
1の中心軸線をシフトさせる機能も有する。これにより、変調部40Aに対する光L
1の入射角を維持しながら、光L
1の入射位置を可変にできる。
【0022】
変調部40Aは、導光光学系3と光学的に結合されており、導光光学系3から出力された平行光である光L
1を受ける。変調部40Aは、光L
1の光路上に設けられ、位相パターンを表示する。変調部40Aは、複数の画素40aを有し、駆動信号(本実施形態では駆動電圧)の大きさに応じて入射光L
1の位相を画素40a毎に変調する。駆動回路41は、変調部40Aに所望の位相パターンを表示させるための駆動電圧を画素40a毎に生成する。所望の位相パターンは、図示しないコンピュータによって演算され、駆動回路41に送られる。駆動回路41は、コンピュータから位相パターンに関する信号を受けて、この信号に基づく駆動電圧を変調部40Aの複数の画素40aに与える。
【0023】
本実施形態のSLM4Aは液晶型であり、例えば、LCOS−SLM(Liquid Crystal On Silicon Spatial Light Modulator)或いはLCD(LiquidCrystal Display)である。なお、
図1には反射型のSLM4Aが示されているが、SLM4Aは透過型であってもよい。
【0024】
図2は、SLM4Aの一例としてLCOS型のSLMを概略的に示す断面図であって、変調部40Aに入射する光L
1の中心軸線AX
2に沿った断面を示している。このSLM4Aは、変調部40A及び駆動回路41に加えて、シリコン基板42及び透明基板49を有する。変調部40Aは、複数の画素電極43、液晶層44、透明電極45、配向膜46a及び46b、誘電体ミラー47、並びにスペーサ48を含む。
【0025】
透明基板49は、光L
1を透過する材料からなり、シリコン基板42の主面に沿って配置される。複数の画素電極43は、シリコン基板42の主面上において二次元格子状に配列され、変調部40Aの各画素40aを構成する。透明電極45は、複数の画素電極43と対向する透明基板49の面上に配置される。液晶層44は、複数の画素電極43と透明電極45との間に配置される。液晶層44は、例えばネマチック液晶といった液晶からなり、多数の液晶分子44aを含む。配向膜46aは液晶層44と透明電極45との間に配置され、配向膜46bは液晶層44と複数の画素電極43との間に配置される。誘電体ミラー47は配向膜46bと複数の画素電極43との間に配置される。誘電体ミラー47は、透明基板49から入射して液晶層44を透過した光L
1を反射して、再び透明基板49から出射させる。
【0026】
駆動回路41は、複数の画素電極43と透明電極45との間に印加される駆動電圧を制御する画素電極回路(アクティブマトリクス駆動回路)である。駆動回路41から何れかの画素電極43に駆動電圧が印加されると、該画素電極43と透明電極45との間に生じた電界の大きさに応じて、該画素電極43上に位置する液晶分子44aの向きが変化し、その結果、液晶層44の当該部分の屈折率が変化する。したがって、液晶層44の当該部分を透過する光L
1の光路長が変化し、ひいては、当該部分を透過する光L
1の位相が変化する。光L
1は、位相変調の後、光L
2として透明基板49から変調部40Aの外部へ出射する。複数の画素電極43に様々な大きさの駆動電圧が印加されることによって、位相変調量の空間的な分布を電気的に書き込むことができ、必要に応じて様々な波面形状を光L
2において実現することができる。
【0027】
再び
図1を参照する。集光光学系6は、SLM4Aの変調部40Aと光学的に結合されており、変調部40Aから出力された変調後の光L
2を受ける。変調部40Aから出力される光L
2は平行光であり、集光光学系6は、この光L
2を任意の位置に集光する。集光光学系6は、例えば集光レンズ61によって好適に構成される。集光レンズ61による集光点O
2と集光レンズ61との距離は、集光レンズ61の焦点距離と等しい。あお、
図1では集光点O
2は光L
2の中心軸線AX
2上に位置しているが、集光点O
2は中心軸線AX
2から離れた位置にあってもよい。また、集光点O
2は単一の位置に限らず、複数の位置に形成されてもよい。
【0028】
ここで、本実施形態によるSLM4Aの駆動方法について説明する。駆動回路41は、変調部40Aの複数の画素40aのうち画素群401(第1の画素群)に駆動信号V
1(t)を提供し、画素群402(第2の画素群)に駆動信号V
2(t)を提供する。
図3の(a)は、駆動信号V
1(t)の時間波形の一例を概念的に示すグラフである。
図3の(b)は、駆動信号V
2(t)の時間波形の一例を概念的に示すグラフである。これらの図に示されるように、駆動回路41は、周期的に時間変化する駆動信号V
1(t)またはV
2(t)を各画素40aに提供する。駆動信号V
1(t),V
2(t)は矩形波であり、基準電位より大きい電圧Vaと、基準電位より小さい電圧Vbとの間で変動する。一例では、電圧Va=−Vbである。但し、Va,Vbの値は画素毎に独立して設定される。駆動信号の振幅(Va−Vb)は、各画素40aにおける変調位相の大きさに対応する。すなわち、振幅(Va−Vb)が小さいほど位相変調量が小さくなり、振幅(Va−Vb)が大きいほど位相変調量が大きくなる。駆動信号V
1(t),V
2(t)の周波数は互いに等しく、例えば120Hz〜2400Hzの範囲内であり、一実施例では480Hz(周期約2ms)である。このように、駆動信号V
1(t),V
2(t)を周期的に時間変化させることによって、液晶層44を構成する液晶を常に微動させ、液相から固相への相転移を防いで相状態を長く維持することができる。その結果、SLM4Aの寿命を伸ばすことができる。
【0029】
また、
図3の(a)及び(b)を対比すると、駆動信号V
1(t)の位相と、駆動信号V
2(t)の位相とが互いに反転している。言い換えると、駆動信号V
1(t)と駆動信号V
2(t)とは、180°の位相差を有する。すなわち、駆動信号V
1(t)の電圧Vbから電圧Vaへの立ち上がりと、駆動信号V
2(t)の電圧Vaから電圧Vbへの立ち下がりとが同期しており、駆動信号V
1(t)の電圧Vaから電圧Vbへの立ち下がりと、駆動信号V
2(t)の電圧Vbから電圧Vaへの立ち上がりとが同期している。従って、いずれのタイミングで見ても、駆動信号V
1(t)の電圧がVaであるときには駆動信号V
2(t)の電圧がVbであり、駆動信号V
1(t)の電圧がVbであるときには駆動信号V
2(t)の電圧がVaである。また、Va=−Vbの場合、いずれのタイミングで見ても、駆動信号V
1(t)と駆動信号V
2(t)とは基準電位を挟んで互いに反転している。
【0030】
図4は、変調部40Aの正面図であって、画素群401,402の輪郭を示している。変調部40Aにおいて画素群401,402は相補的な画素領域であり、変調部40Aの複数の画素は、画素群401及び402の何れかに属する。
図4に示される例では、画素群401,402はそれぞれ四角形状であり、直線状の境界線B
1を挟んで変調部40Aを2つの領域に分割している。好ましくは、光L
1の照射領域Q内における画素群401,402の各面積は互いに等しくされる。そのために、境界線B
1が照射領域Qの中心Pを通るように(言い換えると、照射領域Qの中心Pが境界線B
1上に位置するように)、光L
1の中心軸線AX
2の位置が導光光学系3によって調整される。この調整は、作業者により手動で行われてもよく、或いはアクチュエータにより自動的に行われてもよい。また、境界線B
1が直線状ではない場合、照射領域Q内における画素群401,402の各面積を互いに等しくするために、照射領域Qの中心Pは境界線B
1から離れてもよい。なお、一つの画素40a当たりの面積が変調部40A全体で均等である場合、画素群の面積は、当該画素群に含まれる画素の個数と同義である。
【0031】
以上に説明した、本実施形態による光変調装置1A及びSLM4A、並びにSLM4Aの駆動方法によって得られる効果について、従来の課題と共に説明する。近年、SLMは、例えば微小物体を操作する光トラップ技術、光走査顕微鏡、レーザ加工といった様々な分野において利用されている。これらの分野においては、SLMからの出力光の安定した制御が重要である。本実施形態のように、SLMが電圧信号によって駆動される場合、この電圧信号には周期的な時間変化が与えられることがある。その場合、電圧信号の時間変化に起因して、各画素の変調量に時間的なゆらぎ(電圧信号の変化周期と同期した変動)が生じ、ひいてはSLMから出力される変調後の光の強度に時間的なゆらぎが生じる。本発明者の知見によれば、時間変化の周波数が小さいほど、そのゆらぎは大きくなる。近年のSLMにおいては画素数が益々増加しているが、1画素あたりの電荷蓄積時間を確保するために各撮像フレームのリフレッシュレートは画素数の増加とともに長くなる。リフレッシュレートは電圧信号の時間変化の周期と関係し、1フレームの位相パターンをSLMに書き込むためには通常1/2f(f:電圧信号の周波数)の時間を要する。故に、電圧信号の周波数が小さくなり、結果として上記のゆらぎが大きくなる。
【0032】
変調後の光にゆらぎが生じると、例えば光トラップ技術の場合にはトラップされた微小物体が微かに振動する。また、光走査顕微鏡においては得られる像の明るさが周期的に変動し、レーザ加工においては加工対象に照射される光の強度が周期的に変動してしまう。従って、変調後の光に生じるゆらぎを低減することが望まれる。
【0033】
変調後の光のゆらぎの大きさは、SLMの変調部の電圧特性に依存する。故に、画素単位で観察すると、ゆらぎの大きさは画素毎に異なる。しかしながら、ゆらぎの周期は全ての画素において一致する。従って、集光光学系を用いて複数の画素からの光のゆらぎを積算した場合であっても、ゆらぎの周期は変わらない。本発明者は、或る画素領域全体のゆらぎの時間位相に対して、別の画素領域全体のゆらぎの時間位相を半周期ずらすことにより、互いに打ち消しあうことができると考えた。
【0034】
すなわち本実施形態では、複数の画素40aのうち画素群401を構成する各画素40aに提供する駆動信号V
1(t)の位相と、複数の画素40aのうち画素群402を構成する各画素40aに提供する駆動信号V
2(t)の位相とを互いに反転させている。このような構成によれば、変調部40Aから出力される変調後の光L
2が集光点O
2において集光される際に、画素群401からの光L
2のゆらぎと画素群402からの光L
2のゆらぎとが互いに打ち消し合う。これにより、変調後の光L
2に生じるゆらぎを低減できるので、集光点O
2における光L
2の場(位相並びに、振幅若しくは光強度)を安定化させることができる。なお、各画素40aの位相は駆動信号V
1(t),V
2(t)の振幅(Va−Vb)に応じて定まるので、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相の反転にかかわらず、変調部40Aにおいては所望の位相パターンが得られる。なお、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が互いに反転しているか否かは、各画素40aに提供される駆動電圧の時間波形をプロービングし、オシロスコープ等を用いて観察することによって容易に判別できる。
【0035】
本実施形態によるこのような作用効果を以下に詳細に説明する。まず、ゆらぎの大きさについて定式化を行う。ゆらぎの大きさは、液晶の粘性と駆動電圧の周波数とに主に依存し、駆動電圧の振幅V、駆動電圧の振幅の関数A(V)、駆動電圧の周波数f、及び時間tを用いて
A(V)sin(2πft)
と表すことができる。なお、液晶の粘性のため、駆動電圧の周波数を徐々に大きくすると、液晶は駆動電圧の変化に徐々に追随できなくなる。従って、関数A(V)は、周波数fが大きくなるほど小さくなる。
【0036】
SLMによる位相変調量は、所望の位相パターンに基づく位相変調量Phs(V)を上記のゆらぎに加算することで求められる。すなわち、位相変調量は、
Phs(V)+A(V)sin(2πft)
となる。
【0037】
SLMには画素毎に独立した駆動電圧が入力されるので、各画素の番号をk、画素数をNとして、上記の位相変調量を全画素について積算する(下記の数式(1))。なお、この積算は、光学的にはSLMからの変調後の光を集光することと同義である。
【数1】
更に、N/2個の画素のみ駆動電圧の位相を反転させると、上記の数式(1)は下記の数式(2)に書き換えられる。このとき、位相変調量Phs(V)は駆動電圧の振幅Vのみに依存するので不変である。
【数2】
数式(2)の第2項及び第3項は、sin(θ+π)=−sinθ(θ:任意の角度)なる関係を用いて以下の数式(3)のように書き換えられる。
【数3】
数式(3)の第2項及び第3項は互いに相殺するので、最終的に、位相変調量の積算結果は下記となり、ゆらぎは完全にキャンセルされる。
【数4】
以上の説明から明らかなように、画素群401に提供する駆動信号V
1(t)の位相と、画素群402に提供する駆動信号V
2(t)の位相とを互いに反転させることによって、変調後の光L
2に生じるゆらぎを低減することができる。なお、以上の説明から、画素群401の画素数と画素群402の画素数とが互いに等しい場合にゆらぎを最も低減することができるが、これらが互いに異なる場合であっても、或る程度のゆらぎを低減することができる。
【0038】
また、実際には、画素群401,402の画素数が互いに等しい場合であっても、表示される位相値が画素40a毎に異なるため、完全にゆらぎを相殺することはできない。しかしながら、本発明者の知見によれば、画素数が多いほど、画素群401における位相値の平均と、画素群402における位相値の平均とが互いに近づく。従って、実用上、十分にゆらぎを低減することが可能である。
【0039】
図5は、本実施形態の効果を示すグラフであって、1波長分の位相変調量の時間波形の計測結果を示す。
図5の(a)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が一致する場合の集光点O
2における位相変調量の変化の一例を示す。
図5の(b)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を相互に反転した場合の集光点O
2における位相変調量の変化の一例を示す。なお、これらの図において、縦軸は位相変調量を光L
2の波長λによって規格化した値(単位:λ)を示し、横軸は時間(単位:秒)を示す。
図5の(a)に示されるように、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が一致する場合には、位相変調量が目標値(規格化値1.0)の周辺で周期的に変動し、大きなゆらぎが生じている。なお、この変動周期は駆動信号V
1(t),V
2(t)の時間変化の周期と一致する。これに対し、
図5の(b)を参照すると、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を相互に反転した場合には、ゆらぎが小さく抑制されていることがわかる。なお、
図5の(b)においてもゆらぎが完全に解消されないのは、上述したように画素40a毎の位相値のばらつきに因ると考えられる。しかしながら、ゆらぎの大きさを、
図5の(a)と比較しておよそ20%〜25%にまで抑制できている。
【0040】
また、
図6及び
図7は、本実施形態の効果を示す別のグラフである。
図6の(a)及び(b)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が一致する場合の集光点O
2における位相変調量の変化の一例を示す。
図7の(a)及び(b)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を相互に反転した場合の集光点O
2における位相変調量の変化の一例を示しており、それぞれ
図6の(a)及び(b)に対応している。なお、これらの図において、縦軸は光強度(位相変調量をθとしたときに三角関数sinθで表現される値)を示し、横軸は時間(単位:秒)を示す。
図6の(a)及び(b)に示されるように、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が一致する場合には、光L
2の振幅が目標値の周辺で周期的に変動し、大きなゆらぎが生じている。これに対し、
図7の(a)及び(b)を参照すると、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を相互に反転した場合には、ゆらぎが小さく抑制されることがわかる。
【0041】
本発明者は、照射領域Q内における画素群401,402の面積比がゆらぎの抑制にどの程度影響するかを確認するために、照射領域Qの中心Pと境界線B
1との距離を変化させつつゆらぎの大きさを計測した。
図8は、その結果を示すグラフである。
図8において、グラフG11は、中心Pが境界線B
1上に位置する場合を示す。グラフG12,G13は、境界線B
1に直交する方向に0.5mmだけ中心Pを移動させた場合を示す。但し、グラフG12,G13の移動の向きは互いに逆である。グラフG14は、グラフG12と同じ向きに1.0mmだけ中心Pを移動させた場合を示す。なお、グラフG15は、参考のため駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転させない場合の計測結果を示す。
図8において縦軸は位相変調量(単位:λ)を表し、横軸は時間(単位:秒)を表す。
【0042】
図8から明らかなように、グラフG11〜G14とグラフG15とを比較すると、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転させることによって位相変調量のゆらぎが顕著に低減されていることがわかる。また、グラフG12とグラフG13とを比較すると、ゆらぎの時間波形の位相が互いに反転していることがわかる。このことから、境界線B
1のどちら側に照射領域Qがずれているのかを、ゆらぎの位相に基づいて判定することができる。また、グラフG11〜14を相互に比較すると、照射領域Qの中心Pが境界線B
1に近づくほど(すなわち画素群401,402の面積比が1:1に近づくほど)、ゆらぎが効果的に抑制されることがわかる。従って、ゆらぎの大きさを計測し、これが最小となるように照射領域Qを移動させることによって、画素群401,402の面積比を1:1に精度良く近づけることができる。
【0043】
図9は、本実施形態の効果を確認するために、SLM4A及び集光光学系6によって形成された4点のビームスポットLU,LD,RU,及びRDを示す図である。同図では、光強度が色の濃淡で示されており、光強度が大きいほど淡く、光強度が小さいほど濃く示されている。
図10の(a)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が互いに一致する場合のビームスポットLU,LD,RU,及びRDそれぞれの光強度I_Lu,I_Ld,I_Ru,及びI_Rdを示すグラフである。
図10の(b)は、
図10の(a)の部分A1を拡大して示すグラフである。また、
図11の(a)は、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転した場合の光強度I_Lu,I_Ld,I_Ru,及びI_Rdを示すグラフである。
図11の(b)は、
図11の(a)の部分A2を拡大して示すグラフである。なお、
図10及び
図11の(b)において、グラフG21は光強度I_Luを示し、グラフG22は光強度I_Ldを示し、グラフG23は光強度I_Ruを示し、グラフG24は光強度I_Rdを示す。また、
図10及び
図11において、縦軸は4点の光強度の平均値で規格化した光強度の大きさを表し、横軸は時間(単位:ミリ秒)を表す。
【0044】
図10の(b)に示されるように、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が互いに一致する場合には、ゆらぎの大きさ(変動の振幅)は光強度(規格化値1)の約2%であった。これに対し、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転した場合には、ゆらぎの大きさは光強度の約0.5%であった。このように、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転させることによって、ゆらぎの大きさを約1/4に低減することができた。また、4点の光強度I_Lu,I_Ld,I_Ru,及びI_Rdは互いにほぼ等しい位相でもってゆらいでおり、その周波数は駆動信号V
1(t),V
2(t)の周波数と一致した。
【0045】
なお、この例のように光軸から離れた位置に集光点を形成する場合、N次回折光(Nは1次以上の整数)が該集光点の形成に寄与するが、その回折光強度の増減は、光軸上を進む0次の回折光強度に影響する。すなわち、集光点の光強度が増したときには0次回折光の強度が減少し、集光点の光強度が減じたときには0次回折光の強度が増大する。従って、本実施形態によれば、0次回折光及びN次回折光の双方のゆらぎを低減することができる。
【0046】
ここで、本発明者は、画素群401により表示される位相パターンと、画素群402により表示される位相パターンとの相違とゆらぎの大きさとの関係について確認した。
図12は、
図9に示された4点のビームスポットLU,LD,RU,及びRDを形成するための位相パターンを示す図であって、色の濃淡により位相値を表している。
図12に示される位相パターンのように、各画素群401,402における各位相パターンが互いにほぼ同一(或いは対称)である場合には、各画素群401,402において生じるゆらぎの大きさも同等となり、これらのゆらぎが効果的に打ち消し合う。これに対し、例えば
図13に示されるように、画素群401,402における各位相パターンが互いに異なる(同一ではなく、対称でもない)場合も考えられる。
【0047】
図14及び
図15は、
図13に示された位相パターンを回転させることにより、画素群401,402のそれぞれに含まれる位相パターンを変化させた様子を示している。
図14の(a)では、画素群401,402のそれぞれに含まれる各位相パターンを、境界線B
1に関して線対称としている。
図14の(b)、
図15の(a)及び(b)では、位相パターンの回転角度を徐々に増し、画素群401,402のそれぞれに含まれる各位相パターンの非対称の程度を次第に大きくしている。
【0048】
図16は、
図14の(a)及び(b)、並びに
図15の(a)及び(b)に示されたそれぞれの場合における位相変調量のゆらぎの大きさを示すグラフである。
図16において、グラフG31は
図14の(a)の場合を示し、グラフG32は
図14の(b)の場合を示し、グラフG33は
図15の(a)の場合を示し、グラフG34は
図15の(b)の場合を示す。また、縦軸は位相変調量(規格化値)を表し、横軸は時間を表す。
図16のグラフG31〜G34を比較すると、画素群401,402のそれぞれに含まれる各位相パターンの非対称の程度にかかわらず、ゆらぎの大きさは互いに同等であることがわかる。この結果から、本実施形態によれば、画素群401,402に含まれる各位相パターンが互いに異なっていても、変調後の光に生じるゆらぎを効果的に低減できることが理解される。
【0049】
図17の(a)は、
図15の(b)における画素群401の位相変調量のヒストグラムを示す。また、
図17の(b)は、
図15の(b)における画素群402の位相変調量のヒストグラムを示す。
図17の(a),(b)を比較すると、いずれにおいても0(rad)から2π(rad)までほぼ一様に位相が分布していることがわかる。従って、
図17の(a),(b)に示されるヒストグラムそれぞれの平均値は、いずれもπ(rad)となる。位相変調量のゆらぎの大きさは位相値に比例するので、画素群401,402における位相変調量のゆらぎの大きさは互いに同程度であるといえる。このことからも、本実施形態によれば、画素群401,402に含まれる各位相パターンが互いに異なっていても、変調後の光に生じるゆらぎを効果的に低減できることが容易に理解される。
【0050】
なお、本実施形態においては、画素群401,402の境界線B
1において位相が常に不連続となるので、その位相差に起因する回折損失が光L
2の光強度の損失として現れる。
図18及び
図19は、位相差をπとしたときに光L
2の光強度の損失をシミュレーションによって評価した結果を示す図である。
図18及び
図19の(a)は位相パターンを示し、(b)は(a)の位相パターンによって形成される4点のビームスポットを示し、(c)はそのうち1つのビームスポットを拡大して示す。
図18は駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相が互いに一致する場合を示し、
図19は駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転させた場合を示す。この評価において、
図18の(c)に示されるビームスポットの光強度を1.0としたとき、
図19の(c)に示されるビームスポットの光強度は0.93であった。すなわち、境界線B
1における回折損失に起因して、光強度が7%低下している。ただし、
図10、
図11で実験的に評価した4点の平均光強度は0.5%程度の低下であったため、駆動信号V
1(t),V
2(t)の位相を互いに反転させることによる光強度の損失は、極めて小さいといえる。
【0051】
本実施形態のように、変調部40Aは液晶層44を含んでもよい。変調部40Aが液晶層44を含む場合、液晶の相状態を長く保つために駆動信号を周期的に時間変化させることが望ましく、上述したゆらぎが生じ易い。従って、本実施形態の構成が適している。
【0052】
また、本実施形態のように、入射光L
1の照射領域における画素群401の面積と画素群402の面積とは互いに等しくてもよい。これにより、第1の画素群からの光のゆらぎの大きさと第2の画素群からの光のゆらぎの大きさとがほぼ等しくなり、これらがより効果的に打ち消し合うので、変調後の光のゆらぎを更に低減することができる。
【0053】
また、本実施形態のように、光変調装置1Aは、光源2から出力された光L
1を変調部40Aへ導く導光光学系3を備えてもよい。そして、導光光学系3は、変調部40Aにおける光L
1の入射位置を可変としてもよい。これにより、光L
1の照射範囲における画素群401,402の面積割合が互いに近づくように光L
1の入射位置を移動させ、画素群401からの光L
2のゆらぎの大きさと、画素群402からの光L
2のゆらぎの大きさとを互いに近づけることができる。従って、これらのゆらぎをより効果的に打ち消し合わせて、変調後の光L
2のゆらぎを更に低減することができる。
【0054】
(第1変形例)
上記実施形態では変調部40Aを2つの画素群401,402に分割しているが、画素群の分割態様はこれに限られない。例えば、
図20に示されるように、境界線B
1と交差する別の境界線B
2を設け、変調部40Aを4つの画素群403〜406に分割してもよい。そして、画素群403,405(共に第1の画素群)に提供する駆動信号V
1(t)の位相と、画素群404,406(共に第2の画素群)に提供する駆動信号V
2(t)の位相とを互いに反転させてもよい。このような形態であっても、変調後の光L
2に生じるゆらぎを効果的に低減することができる。なお、好適には、照射領域Q内における画素群403,405の面積の和と、画素群404,406の面積の和とが互いに等しくなるように、境界線B
1,B
2と照射領域Qの中心Pとの相対位置関係が設定されるとよい。
【0055】
或いは、
図21に示されるように、或る方向を長手方向とする複数の画素群407と、該方向を長手方向とする複数の画素群408とが、該方向と交差する方向に交互に並んでもよい。このような形態であっても、変調後の光L
2に生じるゆらぎを効果的に低減することができる。また、この場合、照射領域Qの中心Pと境界線B
3との相対位置によらず、画素群407の面積の総和と、画素群408の面積の総和との比を1:1に近づけることができる。従って、変調部40Aに対する光L
1の入射位置の調整を不要にできる。但し、境界線B
3の長さの総和が、
図4の境界線B
1の長さ、及び
図20の境界線B
1,B
2の長さの和と比較して長くなるので、光強度の損失の観点からは
図4若しくは
図20の分割形態の方が好ましい。
【0056】
(第2変形例)
図22は、上記実施形態の第2変形例に係る光変調装置1Bの構成を示す図である。本変形例の光変調装置1Bは、上記実施形態のSLM4A(
図2を参照)に代えて、SLM4Bを備えている。SLM4Bは、透過型の変調部40Bと、駆動回路41とを有する。変調部40Bは、上記実施形態と同様の光源及び導光光学系と光学的に結合されており、導光光学系から出力された平行光である光L
1を裏面に受ける。変調部40Bは、光L
1の光路上に設けられ、位相パターンを表示する。変調部40Bは、複数の画素40aを有し、駆動信号の大きさに応じて入射光L
1の位相を画素40a毎に変調する。駆動回路41は、変調部40Bに所望の位相パターンを表示させるための駆動電圧を画素40a毎に生成する。変調後の光L
2は、変調部40Bの表(おもて)面から出力され、集光光学系6に達する。集光光学系6は、光L
2を任意の位置に集光する。
【0057】
駆動回路41は、変調部40Bの複数の画素40aのうち画素群401(第1の画素群)に駆動信号V
1(t)を提供し、画素群402(第2の画素群)に駆動信号V
2(t)を提供する。駆動信号V
1(t)及びV
2(t)の信号波形は、上記実施形態と同様である(
図3を参照)。すなわち、本変形例においても、駆動信号V
1(t)の位相と、駆動信号V
2(t)の位相とは互いに反転している。
【0058】
本実施形態のように、SLMは透過型であってもよい。このような場合であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0059】
(第3変形例)
図23は、上記実施形態の第3変形例に係る光変調装置1Cの構成を示す図である。本変形例では、駆動回路41が、画素群401と画素群402との境界線B
1を可変とする。すなわち、駆動回路41は、駆動信号V
1(t)を提供する画素40aと、駆動信号V
2(t)を提供する画素40aとを自在に変更することができる。従って、導光光学系3を用いて光L
1の中心軸線AX
1を移動しなくても、光L
1の照射領域の位置に応じて境界線B
1を移動させることにより、変調部40Aに対する光L
1の入射位置(すなわち照射領域の中心Pの位置)を境界線B
1に近づけ、画素群401,402の面積比を1:1に近づけることができる。故に、本変形例においても、画素群401からの光L
2のゆらぎの大きさと、画素群402からの光L
2のゆらぎの大きさとを互いに近づけることができるので、これらのゆらぎをより効果的に打ち消し合わせて、変調後の光L
2のゆらぎを更に低減することができる。また、上記実施形態と比較して、導光光学系3の構成を簡易にすることができる。
【0060】
(第4変形例)
図24は、上記実施形態の第4変形例に係る光変調装置1Dの構成を示す図である。光変調装置1Dは、上記実施形態の光変調装置1Aの構成に加えて、ビームスプリッタ7、光検出器8、及び導光光学系制御部9を更に備える。ビームスプリッタ7の表(おもて)面は、SLM4Aの光出射面と光学的に結合され、SLM4Aから出力された光L
2を受け、この光L
2の一部を反射して光L
3とし、残部を透過して光L
4とする。光L
3は、集光光学系6によって任意の位置に集光される。一方、光L
4は、ビームスプリッタ7の裏面と光学的に結合された光検出器8に入射する。光検出器8は、変調後の光L
2の強度を検出するために、光L
4の光強度に応じた電気信号S1を生成する。光検出器8は、導光光学系制御部9と電気的に接続されており、導光光学系制御部9に電気信号S1を提供する。光検出器8は、例えば単一の受光部を有するフォトダイオードといった半導体受光素子を含んで構成される。光L
4は、レンズによって集光されてもよく、集光されなくてもよい。導光光学系制御部9は、アクチュエータを含んで構成され、導光光学系3を方向D1に沿って移動させることができる。導光光学系制御部9は、光検出器8からの電気信号S1によって得られる光L
4の光強度の周期的な変動(ゆらぎ)の大きさに基づいて、該変動が最小値に近づくように導光光学系3の位置を制御することにより、変調部40Aに対する光L
1の入射位置(すなわち照射領域の中心Pの位置)を定める。
【0061】
本変形例の光変調装置1Dのように、変調後の光L
2の強度を検出する光検出器8と、導光光学系3を制御する導光光学系制御部9とが設けられてもよい。そして、導光光学系制御部9は、光検出器8から提供される光強度の周期的な変動に基づいて、変調部40Aにおける光L
1の入射位置を定めてもよい。これにより、光L
1の照射範囲における画素群401,402の面積割合に応じて光L
1の入射位置を自動的に移動させ、画素群401からの光L
2のゆらぎの大きさと、画素群402からの光L
2のゆらぎの大きさとを容易に近づけることができる。
【0062】
(第5変形例)
図25は、上記実施形態の第5変形例に係る光変調装置1Eの構成を示す図である。光変調装置1Eは、上記第3変形例の光変調装置1Cの構成に加えて、ビームスプリッタ7及び光検出器8を更に備える。ビームスプリッタ7及び光検出器8の構成及び機能は、上述した第4変形例と同様である。また、光変調装置1EのSLM
4Eは、上記実施形態の駆動回路41に代えて、駆動回路41Bを有する。駆動回路41Bは、光検出器8と電気的に接続されており、光L
4の光強度に応じた電気信号S1を受ける。駆動回路41Bは、光検出器8からの電気信号S1によって得られる光L
4の光強度の周期的な変動(ゆらぎ)の大きさに基づいて、該変動が最小値に近づくように、画素群401と画素群402との境界線B
1の位置を定める。これにより、光L
1の照射範囲における画素群401,402の面積割合に応じて境界線B
1を自動的に移動させ、画素群401からの光L
2のゆらぎの大きさと、画素群402からの光L
2のゆらぎの大きさとを容易に近づけることができる。
【0063】
本発明による空間光変調器、光変調装置、及び空間光変調器の駆動方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上記実施形態及び各変形例ではSLMは入射光の位相を変調しているが、SLMは入射光の強度を変調してもよい。また、上記実施形態及び各変形例では液晶型のSLMが用いられているが、SLMは液晶型以外のもの(例えばメンブレンミラー型や多重量子井戸型等)であってもよい。どのようなタイプのSLMであっても、周期的に時間変化する駆動信号によってSLMを駆動する場合には、変調媒体が有する電気特性が変調後の光にゆらぎとなって現れる。従って、本発明が好適に適用され得る。