特許第6596567号(P6596567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596567
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収材料とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/10 20060101AFI20191010BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20191010BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20191010BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20191010BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   B01J20/10 C
   B01J20/30
   B01J20/28 A
   B01J20/28 Z
   C01B32/50
   C01B33/32
【請求項の数】18
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-502825(P2018-502825)
(86)(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公表番号】特表2018-528851(P2018-528851A)
(43)【公表日】2018年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2016003593
(87)【国際公開番号】WO2017022249
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2018年7月6日
(31)【優先権主張番号】2932/MUM/2015
(32)【優先日】2015年8月3日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】バラゴパル エヌ. ナイル
(72)【発明者】
【氏名】ジー エム アニルクマル
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】スバ パナムピルリル ヴィジャヤンマ
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥル アゼーズ ピア モハメド
(72)【発明者】
【氏名】ウニクリシュナン ナイル サラワシー ハリーシュ
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101214967(CN,A)
【文献】 米国特許第06387845(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C01B 32/00−32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸リチウムを主成分とする二酸化炭素吸収材料の製造方法であって、
リチウム(Li)成分とケイ素(Si)成分とを含むLi−Si前駆体化合物が水溶液中に分散されたゾル状組成物を用意すること、
前記ゾル状組成物に対し電磁波を照射してゲル状組成物を得ること、および、
前記ゲル状組成物を焼成してリチウムとケイ素とを含むケイ酸リチウムを得ること、
を包含する、二酸化炭素吸収材料の製造方法。
【請求項2】
前記ゾル状組成物は、前記リチウム(Li)成分と前記ケイ素(Si)成分とを含む水溶液中で、加水分解反応を生じさせることにより用意する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ素(Si)成分は、シリカアルコキシド、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカの少なくとも1種である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ゾル状組成物は、さらにゲルマニウム(Ge)成分を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記電磁波は、波長が1mm以上1m以下であって、周波数が300MHz以上300GHz以下のマイクロ波である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波の総照射時間は、1分間以上60分間以下とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記ケイ酸リチウムを、アルカリ炭酸塩と複合化することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ炭酸塩は、ナトリウム(Na)成分、カリウム(K)成分およびリチウム(Li)成分のうちの2種以上を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ炭酸塩における各アルカリ成分の割合が、
Na:1mol%以上80mol%以下、
K :1mol%以上70mol%以下、および
Li:1mol%以上90mol%以下、
である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ炭酸塩は、共晶炭酸塩である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
ケイ酸リチウムを主成分とする粉末であって、
前記粉末を構成する個々の粒子は、ロッド状、板状、鱗片状および花弁状からなる群から選択される少なくとも1種の形態を有する、二酸化炭素吸収材料。
【請求項12】
前記ケイ酸リチウムは、一般式:LixSiyOz,ここで式中、x、yおよびzは、x+4y−2z=0を満たす;で表される、請求項11に記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項13】
さらに、ナトリウムおよびカリウムの少なくとも一種を含み、
前記ケイ酸リチウムにおける前記リチウムの一部が、前記ナトリウムおよびカリウムに置換されている、請求項11または12の二酸化炭素吸収材料。
【請求項14】
さらにゲルマニウムを含み、前記ケイ酸リチウムにおける前記シリコンの一部が、前記ゲルマニウムに置換されている、請求項11〜13のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項15】
前記ケイ酸リチウムは、長手方向の寸法をa、前記長手方向に直交する一の短手方向の寸法をbとしたとき、前記短手方向の寸法bが100nm以下であって、かつ、a/bで規定されるアスペクト比が2以上の棒状粒子が、全体の50個数%以上を占める、請求項11〜14のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項16】
さらに、アルカリ炭酸塩を含み、
前記ケイ酸リチウムの表面の少なくとも一部が、前記アルカリ炭酸塩により覆われている、請求項11〜15のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項17】
500℃以上710℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO吸収速度が、25mg/(g・min)以上である、請求項11〜16のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項18】
600℃以上710℃以下の温度範囲における、単位重量あたりのCOガス吸収速度が、50mg/(g・min)以上である、請求項11〜17のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の吸収特性に優れた二酸化炭素吸収材料とその製造方法に関する。
本出願は、2015年8月3日に出願されたインド特許出願第2932/MUM/2015号(Indian Patent Application No. 2932/MUM/2015)に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO)は、地球温暖化ガスとなることから、排出量の大幅な削減が迫られている。そこで、火力発電所や工場、自動車等から排出される排気ガスからCOを選択的に分離、回収する材料や技術の開発が求められている。これまでにも、例えば、多孔質材料、CO吸収能を有するアミノ基等を導入した化学吸収材料、金属有機構造体(Metal-Organic Framework:MOF)、炭素質材料、アルカリ金属炭酸塩等からなるCO吸着材料/吸収材料が提案されている。
【0003】
これらの材料は、耐熱性が低いことや、その物理的吸着特性等から、その殆どが室温から200℃以下の低温環境でCO吸収材料として利用されている。一方で、上記のうちでもアルカリ金属炭酸塩からなるCO吸収材料は、450℃を超える高温での使用が可能なことから、高温環境で使用し得るCO吸収材料として期待されている。特に、ケイ酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩は10質量%〜35質量%ものCO吸収能があることが報告されおり、その実用化に大きな期待が寄せられている(例えば、特許文献1〜3および非特許文献1〜2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許第3396642号公報
【特許文献2】日本国特許第3591724号公報
【特許文献3】日本国特許第4427498号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry A, 2014, 2, 12792-12798
【非特許文献2】Journal of Materials Chemistry A, 2013, 1, 3919-3925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このアルカリ金属炭酸塩については、COの吸収速度が50mg/(g・min)以下、典型的には10mg/(g・min)以下と遅く、COを効率的に処理するには多量のCO吸収材料が必要であった。また、このアルカリ金属炭酸塩は600℃以上の温度域でのCO吸収特性には優れるものの、例えば200℃以上450℃以下の中温域でのCO吸収能は極めて低いという欠点もあった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、CO吸収特性がより改善された二酸化炭素吸収材料を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる二酸化炭素吸収材料を簡便に製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明は、ケイ酸リチウムを主成分とする二酸化炭素(CO)吸収材料の製造方法を提供する。この製造方法は、リチウム(Li)成分とケイ素(Si)成分とを含むLi−Si前駆体化合物が水溶液中に分散されたゾル状組成物を用意すること、上記ゾル状組成物に対し電磁波を照射してゲル状組成物を得ること、および、上記ゲル状組成物を焼成してリチウムとケイ素とを含むケイ酸リチウムを得ること、を包含する。
【0008】
かかる構成によると、いわゆるゾルゲル法を応用してケイ酸リチウムを得るに際し、ゲル化に要する時間を短縮することができるとともに、CO吸収特性が改善されたケイ酸リチウムを得ることができる。これにより、例えば、CO吸収容量およびCO吸収速度が向上されたCO吸収材料を提供することができる。
【0009】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、上記ゾル状組成物は、上記リチウム(Li)成分と上記ケイ素(Si)成分とを含む水溶液中で、加水分解反応を生じさせることにより用意することを特徴としている。
かかる構成により、公知のゾルゲル法を応用して品質の良好なCO吸収材料を安定して製造することができる。
【0010】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、上記ケイ素(Si)成分は、シリカアルコキシド、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカの少なくとも1種であることを特徴としている。かかる構成により、より手軽にCO吸収性能に優れたCO吸収材料を製造することができる。
【0011】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、上記ゾル状組成物は、さらにゲルマニウム(Ge)成分を含むことを特徴としている。かかる構成により、結晶形態や、CO吸収温度域、CO吸収容量等の特性の異なる様々なCO吸収材料を製造することができる。
【0012】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、上記電磁波は、波長が1mm以上1m以下であって、周波数が300MHz以上300GHz以下のマイクロ波であることを特徴としている。ここで、上記電磁波の総照射時間は、1分間以上60分間以下とすることが好ましい。
かかる構成によっても簡便にCO吸収性能に優れたCO吸収材料を製造することができる。
【0013】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、さらに、上記ケイ酸リチウムを、アルカリ炭酸塩と複合化することを含むことを特徴としている。
かかる構成により、例えば200℃以上600℃以下の温度範囲におけるCO吸収容量およびCO吸収速度が高められたCO吸収材料を製造することができる。
【0014】
ここに開示されるCO吸収材料の製造方法の好ましい一態様において、上記アルカリ炭酸塩は、ナトリウム(Na)成分、カリウム(K)成分およびリチウム(Li)成分のうちの2種以上を含むことが好ましい。例えば、上記アルカリ炭酸塩における各アルカリ成分の割合が、Na:1mol%以上80mol%以下、K:1mol%以上70mol%以下、およびLi:1mol%以上90mol%以下、であることが好ましい態様であり得る。特に上記アルカリ炭酸塩は、共晶炭酸塩であることが好ましい。
かかる構成により、例えば200℃以上600℃以下の温度域でのCO吸収容量およびCO吸収速度等がより一層高められたCO吸収材料を製造することができる。
【0015】
他の側面において、ここに開示される技術は、CO吸収材料を提供する。このCO吸収材料は、上記のいずれかの製造方法により製造されたケイ酸リチウムを主成分とするCO吸収材料であることを特徴としている。
これにより、CO吸収容量およびCO吸収速度等のCO吸収特性が改善されたCO吸収材料が実現される。
【0016】
なお、ここに開示されるCO吸収材料は、ケイ酸リチウムを主成分とし、500℃以上710℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO吸収速度が、25mg/(g・min)以上であることにより特徴づけることができる。例えば、600℃以上710℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCOガス吸収速度が、50mg/(g・min)以上であることも好ましい。このように、ここに開示される技術によると、CO吸収速度が大幅に改善されたCO吸収材料が提供され得る。
【0017】
ここに開示されるCO吸収材料の好ましい一態様では、上記ケイ酸リチウムは、長手方向の寸法をa、上記長手方向に直交する一の短手方向の寸法をbとしたとき、上記短手方向の寸法bが100nm以下であって、かつ、a/bで規定されるアスペクト比が2以上の棒状粒子が、全体の50個数%以上を占めるものであり得る。
このように高いアスペクト比を有する粒子からなるCO吸収材料は、高温環境で繰り返し使用された場合であっても凝集が起こり難く、優れたCO吸収特性を長期にわたって維持し得る点で好ましい。なお、本明細書において、ケイ酸リチウムの寸法は、電子顕微鏡等の観察手段により観察することで測定される値である。
【0018】
ここに開示されるCO吸収材料の好ましい一態様では、さらに、アルカリ炭酸塩を含み、上記ケイ酸リチウムの表面の少なくとも一部が、上記アルカリ炭酸塩により覆われていることを特徴としている。このような構成によると、CO吸収速度が安定して大幅に高められたCO吸収材料が提供され得る。
【0019】
以上のように、ここに開示される技術によると、中温から高温域(例えば、200℃〜710℃程度の温度範囲)で、COを選択的に効率よく吸収することができるCO吸収材料が提供される。このようなCO吸収材料は、例えば、天然ガスを原料とする液体燃料製造プラント、水性ガスシフト反応を利用したCO回収システム等において、高温の混合ガスやCO単相ガスからのCO吸収に特に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、一実施形態に係るCO吸収材料の製造方法を示すフロー図である。
図1B図1Bは、他の実施形態に係るCO吸収材料の製造方法を示すフロー図である。
図1C図1Cは、他の実施形態に係るCO吸収材料の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、一実施形態に係るMW−SG試料のXRDパターンである。
図3図3は、実施例にて(a)作製したままのMW−SG試料と、(b)CO吸収・脱離後のMW−SG試料のTEM像である。
図4図4は、従来法により作製したSG試料と、本技術により作製したMW−SG試料との動的TGA曲線である。
図5図5は、一実施形態に係るMW−SG試料のCO等温吸収曲線である。
図6図6は、一実施形態に係るMW−SG試料のCO吸収速度を示すグラフである。
図7図7は、一実施形態に係るMW−SG試料のサイクル特性を示すグラフである。
図8図8は、他の実施形態に係るMW−SG−NKL試料の動的TGA曲線である。
図9図9は、他の実施形態に係るMW−SG−NKL3試料のCO等温吸収曲線である。
図10図10は、他の実施形態に係るMW−SG−NKL3試料のCO吸収速度を示すグラフである。
図11図11は、一実施形態に係る(a)ケイ素原料,(b)リチウム原料,(c)電磁波を照射する前のゾル状溶液,および(d)電磁波を照射した後のゲル状溶液についてのXRDパターンである。
図12図12は、ゲル状溶液乾燥粉末を熱処理しながらその場(in-situ)高分解能X線回折分析した結果を示す図である。
図13図13は、(a,b)473K,(c,d)673K,(e,f)773K,(g,h)1073Kで熱処理したゲル状溶液乾燥粉末のTEM像である。
図14図14は、1073Kで熱処理したゲル状溶液乾燥粉末のSEM像である。
図15図15は、一実施形態に係るケイ酸リチウム粒子の全体を例示したSEM像であり、(b)はその部分拡大図である。
図16図16(a)〜(e)は、図15のケイ酸リチウム粒子のTEM像である。
図17図17は、一実施形態に係るケイ酸リチウムのCO等温吸収曲線である。
図18図18は、一実施形態に係る(a)ケイ酸リチウムと、(b)ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムのXRDパターンである。
図19図19は、一実施形態に係る(a)ケイ酸リチウムと、(b)ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムのラマンスペクトルである。
図20図20は、一実施形態に係るゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子の低倍率でのSEM像である。
図21図21(a)〜(d)は、一実施形態に係るゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子の異なる倍率、観察視野でのTEM像である。
図22図22は、一実施形態に係るゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの動的TGA曲線である。
図23図23は、一実施形態に係るゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの300℃におけるCO等温吸収曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「X〜Y」との表記は、特にことわりの無い限り「X以上Y以下」を意味する。
【0022】
図1A〜1Cは、一実施形態に係る二酸化炭素(CO)吸収材料の製造方法を示すフロー図である。ここに開示される製造方法は、典型的には、ケイ酸リチウムを主成分とするCO吸収材料を製造するものである。
ケイ酸リチウムとしては、リチウム(Li)とケイ素(Si)と酸素(O)とを含む化合物を考慮することができる。典型的には、ケイ酸リチウムは、一般式:LiSi,ここで式中、x、yおよびzは、x+4y−2z=0を満たす;で表される各種の化合物であり得る。典型的には、任意の数のケイ酸イオンが連なったケイ酸塩アニオンと、リチウムカチオンとを含む形態の各種のケイ酸リチウムを考慮することができる。このようなケイ酸リチウムとしては、典型的には、オルトケイ酸リチウム(LiSiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)、二ケイ酸リチウム(LiSi)、メタ三ケイ酸リチウム(LiSi)、メタ四ケイ酸リチウム(LiSi11)等であってよい。またケイ酸リチウムは、これらの例に限定されることなく、例えば、LiSiO,LiSi,Li12SiO等に代表される、化合物であってよい。これらはいずれか1種からなる単相であってもよいし、いずれか2種以上が組み合わされて含まれる混相であってもよい。ケイ酸リチウムは、殆どのものが、本質的にはSiO四面体またはSiの単体が連結した骨格(例えばSiO連結体)を有し、この四面体の空隙にLiのようなアルカリ金属元素がイオンとなって入っていると考えられる。そして本発明者らは、ここに開示される製造方法によると、SiO四面体が他の四面体と同形置換を起こし得ると考えている。このような置換体とは特に制限されないが、例えば、典型的には、AlO四面体や、FeO四面体、GeO四面体、SnO四面体等が考慮される。
【0023】
そこで、ここに開示されるケイ酸リチウムは、上記のLiとSiとOとに加えて、他の元素(M)を含む化合物であってよい。かかる他の元素としてはCOの吸収および脱着条件において安定に存在し得る化合物を構成する元素である限り特に制限されない。例えば、上記のアルミニウム(Al)や鉄(Fe)等のケイ素と同じ14族元素のゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb)等であってよい。中でもゲルマニウム(Ge)成分であることが好ましい。このような14族元素は、ケイ酸リチウムの結晶構造においてSiと容易に置換し、比較的安定に存在し得るために好ましい。ケイ酸リチウムに含まれる他の元素の割合は厳密には限定されないものの、例えば、ケイ素(Si):他の元素(M)との比が、1:0.001〜1:0.5程度であることが好ましく、1:0.04〜1:0.45がより好ましい。このようなケイ酸リチウムは、例えば、一般式:Liy2Siy1で表される各種の化合物として理解することができる。ここで式中、x、y1、y2およびzはいずれも自然数であって、y1+y2=yおよびx+4y−2z=0を満たす。
【0024】
ここに開示されるCO吸収材料の代表的な一例として、CO吸収能の観点からは、オルトケイ酸リチウムがケイ酸リチウムの70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、例えば実質的に100モル%であるのが望ましい。以下、かかるケイ酸リチウムとして、例えば、実質的に、オルトケイ酸リチウムが100モル%である場合を例にして本発明についての説明を行う。なお、以上のケイ酸リチウムは、例えば、周辺環境等に依存してその組成が変化することが許容され得る。
【0025】
また、ケイ酸リチウムを「主成分とする」とは、CO吸収材料を構成する化合物においてケイ酸リチウムが占める割合が最も多いことを意味する。CO吸収材料に占めるケイ酸リチウムの割合は、後述の複合体の形態のCO吸収材料を考慮すると厳密には規定できないものの、典型的には50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上(特に好ましくは70質量%以上、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、実質的に100質量%)とすることができる。かかるケイ酸リチウムの割合は、例えば、一例として、X線回折(X-ray diffraction analysis;XRD)分析に基づき算出することができる。
【0026】
そして、このCO吸収材料の製造方法は、例えば図1Aに示されるように、以下の工程(S1)〜(S3)を含むことを特徴としている。
(S1)リチウム(Li)成分とケイ素(Si)成分とを含むLi−Si前駆体化合物が水溶液中に分散されたゾル状組成物を用意すること。
(S2)ゾル状組成物に対し電磁波を照射してゲル状組成物を得ること。
(S3)ゲル状組成物を焼成してリチウムとケイ素とを含むケイ酸リチウムを得ること。
なお、必須の工程ではないが、図1Bに示されるように、ここに開示される製造方法は、上記の工程(S3)に引き続き、下記の工程(S4)を実施することもできる。
(S4)得られたケイ酸リチウムを、アルカリ炭酸塩と複合化すること。
【0027】
S1.ゾル状組成物の用意
ここに開示されるCO吸収材料は、大略的には、Li−Si前駆体化合物を含むゾル状組成物を、ゲル化する湿式法により好ましく調整することができる。
ここでゾル状組成物とは、Li−Si前駆体化合物を分散質とし、少なくとも水を分散媒として含むコロイド水溶液であり得る。分散媒としての水は、蒸留水、イオン交換水、純水等であってよい。かかる分散媒は、水を主体とする限りにおいて、低級アルコール(メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール)やエチレングリコール、アセトン等のケトン等の水溶性で低分子量の有機溶媒が混合されていてもよい。分散媒は、後述の加水分解の効率を高めるために、100質量%の水からなることが好ましい(すなわち、ゾル状組成物はハイドロゾルであり得る)。
【0028】
分散質としてのLi−Si前駆体化合物は、上記のケイ酸リチウムの原料となるリチウム成分とケイ素成分とを含み、脱水縮合反応、重縮合反応および焼成(加熱)などの処理により、上記ケイ酸リチウムを形成し得る各種の化合物であり得る。典型的には、リチウムとケイ素の水溶性溶解物が水酸化物等として析出した析出物であり得、これらは水和物や水和錯体の形態であってよい。また水酸化物等の析出物は、ゾル状態を維持し得る程度であれば脱水縮合していてもよい。換言すると、このLi−Si前駆体化合物は、ゾル状を呈するコロイド粒子であって、コロイド溶液を維持し得る大きさであればその粒径等は厳密には制限されない。例えば、Li−Si前駆体化合物の平均粒子径は、典型的には1nm〜5μm程度であり、好ましくは3nm〜3μm程度であり、より好ましくは10nm〜1μm程度であり得る。かかる平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値を採用することができる。
【0029】
このようなゾル状組成物は、例えば、別途用意したLi−Si前駆体化合物を水等の分散媒に分散させることで調製してもよいし、上記Li−Si前駆体化合物が予め分散されているゾル状組成物を入手してもよいし、公知の燃焼法またはアーク法等の乾式法ないしは沈降法またはゲル法(ゾルゲル法を含む)等の湿式法を利用するなどして調製してもよい。
一例として、一般的なゾルゲル法によりゾル状組成物を調製する場合、リチウム塩とシリカアルコキシドとが溶解状態となり得る混合溶液中で、アルコキシドを水と接触させて加水分解を生じさせることにより、Li成分とSi成分とを含有する前駆体化合物をこの混合溶液中に形成することができる。なお、このとき、ゾル状組成物は水を分散媒とすることが好ましいことから、リチウム塩を溶解させた水溶液中にアルコキシドを少量ずつ添加することで、ゾル状組成物を調製するのがより好ましい。例えば、リチウム塩を溶かした水溶液を撹拌しながら、この水溶液中にシリカアルコキシドのアルコール溶液を加えることで、前駆体化合物を得ることができる。撹拌は、例えば、マグネチックスターラーや機械式撹拌機、あるいは超音波撹拌機のような他の手段を利用して実施することができる。
【0030】
かかる加水分解反応および縮合反応を進行させるに際し、反応速度(加水分解速度および縮合速度)を調整する目的で、塩酸等の酸やアンモニア等のアルカリを加水分解触媒として混合溶液中に加えるようにしてもよい。なお、かかる加水分解触媒は、反応溶液のpHを制御して、形成される前駆体化合物の一次粒径を調整する役割も果たし得る。
【0031】
リチウム塩としては、リチウムの酸化物や、加熱によって酸化物となり得る各種の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。好ましくは水溶性の各種塩であり得る。また、リチウムのアルコキシドを用いることもできる。
【0032】
シリカアルコキシドとしては、ゾルゲル法において用いることができる各種の化合物を特に制限なく使用することができる。例えば、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4のアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基等の官能基を導入したシリカアルコキシド等を好ましく用いることができる。なかでもアルコキシシランを用いることが好ましく、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等に代表される、Si原子に1〜4のアルコキシ基が結合したシリカアルコキシドが好ましい例として示される。特に好ましくは、テトラエトキシシラン(Si(OC:TEOS、オルトケイ酸テトラエチルともいう)、テトラメトキシシラン(Si(OCH:TMOS、オルトケイ酸テトラメチルともいう)、メチルトリメトキシシランである。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、いずれか2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
なお、上記で例示したゾルゲル法以外のゾル状組成物の調製方法としては、例えば、下記の手法を採用することが例示される。例えば、ケイ素成分として、ゲル法シリカ(コロイダルシリカを含む)、沈降法シリカ、ヒュームドシリカ(シリカキセロゲル、シリカクリオゲルおよびシリカアエロゲルを含む)等のナノシリカ材料を使用して、上記と同様にゾル状組成物を調製することができる。特に限定されるものではないが、このようなシリカ材料とリチウム成分とが、例えば、水溶液中において互いに錯体を形成したり、加水分化反応および/または脱水縮合反応等により化合物を形成したりすることで、ここに開示されるゾル状組成物として好適に用いることができる。
【0034】
また、ケイ酸リチウムが他の元素(M)を含む場合は、上記Li−Si前駆体化合物が当該他の元素を含むように調製すればよい。例えば、ゾルゲル法によりゾル状組成物を調製する際に、混合溶液中に他の元素(M)を加えるようにすればよい。典型的には、図1Cに例示したように、上記リチウム成分と同様に、他の元素(M)の塩等を混合溶液に添加すればよい。これにより、以下同様の手順で、Li,Si,OおよびMを含むケイ酸リチウムを製造することができる。
【0035】
S2.電磁波照射によるゲル状組成物の形成
次いで、用意したゾル状組成物に対して電磁波を照射することで、このゾル状組成物をゲル化してゲル状組成物を得る。
例えば、ゾルゲル法により用意したゾル状組成物において、一般的に、加水分解により形成された水和物等の析出物は、引き続き撹拌が行われることで脱水縮合が生じ得る。かかる縮合反応は隣り合ったLi−Si前駆体化合物の間で連鎖的に進行するため、撹拌を続けることによりLi−Si前駆体化合物は3次元的な縮合体を形成し得る。この縮合体は、ゾル状組成物に粘性を付与し、ゲル状組成物へと変化させる。したがって、ゾル状組成物を一定時間撹拌することにより、自ずとゲル状組成物を得ることができる。また、上記のとおり、加水分解触媒を加えたり、環境温度等を調製したりすることで、ゲル状組成物の形成を促進させ得ることも知られている。
【0036】
これに対し、ここに開示される技術においては、ゾル状組成物に電磁波を照射することで、上記のゲル化をより好適に促進させるようにしている。撹拌の操作は必ずしも必要ではないが、ゾル状組成物のゲル化を均一に進行させる観点からは、ゾル状組成物を撹拌しながら電磁波を照射することがより好ましい。なお、詳細な機構は明らかではないが、ゾル状組成物に電磁波を照射することで、形成されるゲル状組成物におけるLi−Si前駆体化合物の骨格構造に何らかの変化がもたらされるものと考えることができる。そしてかかる骨格構造の変化により、このゲル状組成物から得られるケイ酸リチウムは、通常とは異なる特殊な形態を有する粉末として得ることができる。本発明者らの検討によると、電磁波の作用により、上記のSiO四面体の連結態様に特異性が発現し、SiO四面体の配列(たとえば、連結角と連結度等)に異方性が見られるものと考えている。
【0037】
したがって、CO吸収材料を構成する個々のケイ酸リチウムの結晶粒子の形状は、特に限定されるものではないが、典型的にはいわゆる球状ないしは粒状ではなく、例えば、ロッド状、板状、鱗片状、花弁状および海綿状等と呼ばれる形状異方性が高いものとなり得る。このようなケイ酸リチウムの特殊な形態に基づき、ここに開示されるケイ酸リチウムは、CO吸収容量やCO吸収速度等といったCO吸収特性が効果的に向上されると考えることができる。例えば、理論値に近い高いCO吸収容量を備えるケイ酸リチウムを製造できる。まだ、吸収したCOの脱着も良好に行うことができる。したがって、ここに開示される技術において、CO吸収特性の向上に関して電磁波の照射は欠かせない操作であり得る。また、電磁波の照射によるゲル化の促進により、ゲル状組成物を短時間で得ることもできる。これにより、CO吸収材料の製造時間の短縮化が図れる点においても好ましいといえる。
【0038】
電磁波としては、超低周波、長波、中波、短波、マイクロ波(高周波)、赤外線、可視光線、紫外線、X線およびガンマ線のいずれを用いることも可能である。しかしながら、電磁波の照射効率の観点からは、ゾル状組成物を効果的に加熱し得る電磁波を採用することが好ましい。かかる観点において、マイクロ波(microwave)は、ゾル状組成物の分散媒としての水や、Li−Si前駆体化合物に含まれる結晶水や水和水等の水分子に直接吸収され、この水分子が発熱して、Li−Si前駆体化合物を加熱し得る。このマイクロ波加熱(誘電加熱)によると、Li−Si前駆体化合物を内部から、エネルギーロスを抑えて高速かつ選択的に加熱できるために好ましい態様であり得る。
【0039】
マイクロ波としてはその周波数(波長)や出力、照射時間等は特に制限されない。例えば、照射対象であるゾル状組成物がゲル化するに必要なエネルギー量を適切に供給し得るよう適宜決定することができる。例えば、波長が1mm以上1m以下であって、周波数が300MHz以上300GHz以下のマイクロ波を用いることが例示される。なお、周波数については、国際規格に基づき、2.45GHz帯のマグネトロンにより発生される高周波を利用することがより適切であり得る(地域によっては915MHz帯の高周波であってもよい)。また、例えば、出力については、加熱効率の観点から、300W〜300kW程度とすることが適切であり、300W〜10kW程度が好ましく、300W〜2000W程度がより好ましく、500W〜1600W程度が特に好ましい。
【0040】
また、照射時間は、出力やゾル状組成物の量および照射時の形態(マイクロ波の到達度)等を勘案して調整することができる。また、マイクロ波は、例えば、連続して所定の照射時間に亘って照射しても良いし、インターバルを介して複数回照射することもできる。マイクロ波照射の好ましい一形態としては、所定の出力のマイクロ波を、ゾル状組成物における分散媒が沸騰するまで照射し、次いでゾル状組成物を冷却したのち、再度所定の出力のマイクロ波を照射すること、を所定の回数繰り返すことである。ここで、分散媒が沸騰により揮発してしまった場合などには、必要に応じて分散媒を補填するようにしてもよい。マイクロ波の照射時間は、例えば、一つの例として、0.2〜0.5モル程度のケイ酸リチウムを製造するに際し、2.45GHzで600W〜1000W(例えば700W)のを、合計で1分間以上20分間以下(例えば4〜12分間)程度照射することが例示される。
【0041】
なお、ゲル状組成物とは、ゾル状組成物が流動性をほぼ失って硬化した状態であり得る。このゲル状との状態については、厳密に定義することは困難ではあるが、代表的には、(i)少なくとも分散質と分散媒との2成分以上の組成をもつ凝集性の分散系であって、(ii)固体の特徴をもつ力学的挙動を示し、(iii)分散質および分散媒の両方が系全体に連続的に(均質に)広がっている状態、と定義することができる。本明細書におけるゲル状組成物とは、当業者によく知られている明確なゾルゲル転移を経て、概ね全ての分散質が共有結合によって三次元的に結ばれた化学ゲルであり得る。すなわち、分散質は、目的のケイ酸リチウムと略同じ組成を有したものとなり得る。かかる分散質は、3次元的ではあるが不連続に結合した組織からなる、非晶質な(すなわち結晶質でない)物質となる。そしてこの分散質に分散媒が含浸保持されることで、ゲル状組成物が構成されている。
【0042】
S3.ケイ酸リチウムの焼成
このようにして得られたゲル状組成物を乾燥し、焼成する。これにより、分散媒およびケイ酸リチウム以外の過剰な成分は完全に除去され、目的の固体状のケイ酸リチウムを得ることができる。なお、ゲル状組成物において加水分解反応および脱水縮合反応が完全に終了していない部位が含まれていても、これらの反応は焼成により促進され、ゲル状組成物は、典型的には結晶性の緻密な固体へと変化される。
乾燥は、自然乾燥でもよいし、乾燥器を用いて乾燥してもよい。焼成は、一般的な加熱炉を用いて行ってもよい。さらに、乾燥と焼成とは組み合わせて行っても良い。この場合、例えば、エアオーブン炉を用いたり、超臨界乾燥法、噴霧乾燥法、噴霧造粒法または噴霧熱分解法等を利用したりして実施することができる。これらの乾燥および焼成の手法は、いずれか一つを単独で実施してもよいし、互いに組み合わせて実施してもよい。
【0043】
焼成条件は、ゲル状組成物がケイ酸リチウムへと変化することができれば特に制限されない。例えば、アモルファスの状態にあるLi−Si前駆体化合物がケイ酸リチウムへと結晶し得る条件であればよい。具体的には、焼成温度をおよそ500℃以下とする場合は、ゲル状組成物の酸化が好適に進行するように、焼成雰囲気を酸素含有雰囲気(典型的には大気雰囲気)とすることが好ましい。また、焼成温度がおよそ500℃以上(超過)の場合は、焼成雰囲気は酸素含有雰囲気(典型的には大気雰囲気)であってもよいし、例えば、大気、窒素ガス、炭酸ガスあるいはこれらのうちの2種以上の混合ガスであってもよい。焼成の温度は、473℃よりも高い温度(好ましくは500℃以上)とするのが適切である。焼成温度については、700℃以上とするのがより好ましく、800℃以上とするのが特に好ましい。これにより、使用した原料に由来する余分な成分を除去することができるとともに、結晶性の高いケイ酸リチウムを得ることができる。焼成温度の上限は特に制限されないが、例えば1100℃以下、1000℃以下、典型的には900℃程度とすることができる。焼成時間は特に制限されないが、例えば、30分間以上5時間以下程度が適切であり、1時間以上5時間以下がより好ましく、2時間以上4時間以下とするのが特に好ましい。
【0044】
このようにして実現されるCO吸収材料において、ケイ酸リチウムは、典型的な球状、粒状ないしは角状等の形態の粒子(一次粒子)や、あるいは、特殊な形態の粒子(一次粒子)から構成される粉末として得られる。この特殊な形態とは、異方性が高い形状であって、例えば、ロッド状、板状、鱗片状等であり得る。また、ケイ酸リチウムは、これらの一次粒子が結合した2次粒子の形態で粉末を構成することができる。この二次粒子は、例えば、粒状であってもよいし、例えば、花弁状および海綿状等として表現される特殊な形態であってもよい。
【0045】
ケイ酸リチウムが、異方性の少ない球状粒子ないしは角状粒子等からなる場合、それらの平均粒子径は、厳密に限定されるものではないが、例えば、10nm以上1μm以下程度、20nm以上500nm以下程度であってよい。かかる寸法は、例えば、電子顕微鏡観察に基づいて測定される円相当径の算術平均値を採用することができる。
【0046】
また、例えば、典型的には、ケイ酸リチウムは、微視的(例えば、ナノメートルオーダー)には、針状(ファイバー状)ないしは棒状(ロッド状)粒子の集合体からなる粉末として得られる。かかる棒状粒子は、一方向(一次元)に大きく成長した結晶形態をいう。ここで結晶の長手方向の寸法をa、この長手方向に直交する一の短手方向の寸法をbとしたとき、短手方向の平均の寸法bは、概ね100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは30nm以下であり得る。また、a/bで規定されるアスペクト比は、典型的には2以上であり、好ましくは5以上であり、例えば10以上、特に好ましくは15以上であり得る。かかる寸法についても、例えば、電子顕微鏡観察に基づいて測定することができる(以下同じ。)。
【0047】
また、ケイ酸リチウムは、やや巨視的(例えば、マイクロメートルオーダー)には、上記の球状粒子やロッド状粒子が一体的に集合してなる板状結晶からなる粉末であってもよい。
ここで板状とは、葉状,雲母状,薄板状,層状等とも表現され、面方向(二次元)に大きく成長した結晶形態をいう。典型的には比較的平坦な薄板状の結晶である。ここで、結晶面内の長手方向の寸法をa、この長手方向に直交する一の厚み方向の寸法をbとしたとき、短手方向の平均の寸法bは、概ね10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、特に好ましくは1μm以下であり得る。また、長手方向の寸法は、特に限定されないものの、概ね50μm以下程度である。この板状結晶についてa/bで規定されるアスペクト比は、典型的には2以上であり、好ましくは3以上であり、例えば5以上、特に好ましくは10以上であり得る。板状結晶は、一つが単独で粒子を構成していてもよいし、複数のものが集合(結合)して一つの粒子を構成していてもよい。複数の結晶が集合しているとき、それらは双晶であってもよい。板状結晶が複数の一次粒子の集合であるとき、このような板状結晶は、一次粒子の間隙内に微細な空隙を内包していてもよい。このような空隙の寸法は特に制限されないが、例えば、径が2nm以上50nm未満程度のメソポアや、径が50nm以上のマクロポアであってよい。
【0048】
鱗片状および花弁状は、板状の一種の変形であるとも理解でき、面方向に大きく成長した結晶形態である。その中でも、鱗片状は、例えば複数の板状結晶が面方向を概ね揃えて、あたかも魚の鱗のように集合した結晶形態をいう。また、花弁状は、例えば複数の板状結晶が面方向が異なるようにして、あたかも一つの結晶からなる花弁が花を構成するように集合した結晶形態をいう。このような特殊な形状は、上記製造方法に特有の電磁波の作用により、特異な晶癖が強く反映された形態であるとも考えられる。このような粒子の粒径は特に制限されないが、例えば、0.1μm以上20μm以下程度であり得る。
【0049】
海綿状は、スポンジ状、ハニカム状等とも表現され、全体としては大きな嵩を有するものの、薄い板状の壁部(壁面)を介して多数の空隙を含む結晶形態である。この壁部については、上記の板状結晶と同様に理解することもできる。また、粒子内に含まれる空隙の大きさは特に制限されないが、例えば、メソポアやマクロポアであってよい。典型的にはマクロポアであり得る。このような海綿状粒子の粒径は特に制限されないが、例えば、0.1μm以上20μm以下程度であり得る。
【0050】
ここに開示されるケイ酸リチウムにおいて、このような特徴的な形状を有する粒子は、ケイ酸リチウムを構成する粒子全体の50個数%以上、例えば70個数%以上、特に80個数%を占め得ることが好ましい。このような特徴的な形状により、理論値に近い高いCO吸収特性を備えることができる。また、COを吸収するのみならず、脱着をも高効率で実現することができる。さらに、高温でのCOの吸収および放出を繰り返し行った場合でも、結晶粒子の凝集が抑さえられ、CO吸収能の低下が抑制され得る。
【0051】
また、このようにして実現されるCO吸収材料は、例えば、同一の材料を用いて公知のゾルゲル法により製造したケイ酸リチウムと比較して、CO吸収速度が約1.5倍〜2倍程度に高められたものであり得る。また、このようなCO吸収能は、より低温から発現されて、例えば200℃以上710℃程度の温度域でCOの吸収が可能となり得る。また、450℃以上の温度範囲では、より速いスピードでCOを吸収し得る。例えば、500℃以上710℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO吸収速度は、20mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは25mg/(g・min)以上であり得る。また、600℃以上710℃以下の温度範囲における、単位重量あたりのCOガス吸収速度が、30mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは50mg/(g・min)以上であり得る。すなわち、ここに開示される技術により、200℃以上710℃程度、特に好ましくは450℃以上710℃以下の温度域で優れたCO吸収能を発現し得るCO吸収材料が実現される。なお、ここに開示されるCO吸収材料は、おおよそ720℃以上(例えば750℃以上)の温度でCOの放出を始める。したがって、かかるCO放出の温度まで(例えば、720℃未満)は、このCO吸収材料によるCOの吸収が可能とされる。
【0052】
S4.ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩との複合化
以上のようにして得られたケイ酸リチウムは、上記のとおり、そのままでもCO吸収材料として使用することができるが、例えば、アルカリ炭酸塩と複合化することでよりCO吸収能がより一層向上されたCO吸収材料とすることができる。
アルカリ炭酸塩は、ここに開示されるケイ酸リチウムのCO吸収温度域で軟化または液相となり得る。かかるアルカリ炭酸塩の存在は、ケイ酸リチウムへのCOの移動をスムーズにするものと考えられる。これにより、より低温側でのCOの吸収容量を大幅に拡大することができ、COの吸収速度も増大することができる。
【0053】
アルカリ炭酸塩としては、ナトリウム(Na)成分、カリウム(K)成分、リチウム(Li)、ルビジウム(Rb)成分、セシウム(Cs)成分、フランシウム(Fr)成分等のアルカリ金属の炭酸塩を考慮することができる。これらはいずれか1種のアルカリ金属の炭酸塩であってもよいし、2種以上のアルカリ金属を含む炭酸塩であってもよい。ここに開示される技術においては、アルカリ炭酸塩は、ナトリウム成分、カリウム成分、リチウム成分のいずれか1種以上を含むことが好ましく、いずれか2種以上を含むことがより好ましく、3種を含むことが特に好ましい。
【0054】
また、アルカリ炭酸塩がLi,K,Naの3種のアルカリ金属炭酸塩の混合系である場合、これらは、例えば固溶体結晶または共晶であるのが好ましい。固溶体である場合、アルカリ炭酸塩におけるNa,K,Liの割合は、下記のとおりであることが好ましい。かかる組成は、共晶組成をも含み得るものである。
Na:1mol%以上80mol%以下
K :1mol%以上70mol%以下
Li:1mol%以上90mol%以下
【0055】
アルカリ炭酸塩が共晶である場合、共晶点はより低くなることから、CO吸収容量およびCO吸収速度が更に改善され得るために好ましい。K−Li系炭酸塩では、共晶組成はKCOとLiCOとのモル比が約55:45の混合系である。アルカリ炭酸塩がK−Li系炭酸塩であるとき、KとLiとのモル比(K:Li)はかかる共晶組成を含む60:40〜40:60程度の範囲であることが好ましい。また、Na−Li系炭酸塩の共晶組成は、NaCOとLiCOとのモル比が約49:51のときである。したがってアルカリ炭酸塩がNa−Li系炭酸塩であるとき、NaとLiとのモル比(Na:Li)はかかる共晶組成を含む55:45〜45:55程度の範囲であることが好ましい。そしてNa−K−Li系炭酸塩では、共晶組成はNaCOとKCOとLiCOとがモル比で約31:35:34のときであり得る。したがってアルカリ炭酸塩がNa−K−Li系炭酸塩であるとき、NaとKとLiとのモル比(Na:K:Li)はかかる共晶組成を含む約25〜35:30〜40:30〜40程度の範囲であることが好ましい。なかでも、アルカリ炭酸塩がLi−Na−K系の共晶炭酸塩であることが特に好ましい。
【0056】
なお、必ずしもこの例に限定されるものではないが、複合化に使用するアルカリ炭酸塩の平均粒子径としては、典型的には、50nm以上5μm以下程度が適切であり、100nm以上1μm以下が好ましく、200nm以上500nm以下が特に好ましい。
また、ケイ酸リチウムに複合化するアルカリ炭酸塩の割合は、例えば、ケイ酸リチウムを100質量部として、アルカリ炭酸塩を1質量部以上50質量部以下とするのが適切であり、5質量部以上40質量部以下とするのが好ましく、10質量部以上30質量部以下とするのが特に好ましい。
【0057】
複合化に際しては、ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩とを十分に混合したのち、例えば上記の焼成条件で焼成することで、両者を一体化することができる。これにより、ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩とが複合化されたCO吸収材料を製造することができる。
【0058】
このようにして実現されるCO吸収材料は、例えば、同一の材料を用いて公知のゾルゲル法により製造したケイ酸リチウムと比較して、CO吸収容量が約2倍以上に高められたものであり得る。また、このようなCO吸収能は、より低温から発現されて、例えば200℃以上710℃程度の温度域でCOの吸収が可能となり得る。特に、300℃以上の温度範囲からのCO吸収能力が大幅に改善され得る。したがって、例えば400℃以上、特に450℃以上の温度範囲では、より速いスピードでCOを吸収し得る。例えば、450℃以上650℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO吸収速度は、40mg/(g・min)以上であり得る。また、500℃以上650℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO吸収速度は、50mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは80mg/(g・min)以上、特に好ましくは100mg/(g・min)以上であり得る。また、600℃以上650℃以下の温度範囲における、単位重量あたりのCOガス吸収速度が、100mg/(g・min)以上であり得、好ましくは150mg/(g・min)以上、より好ましくは200mg/(g・min)以上であり得る。すなわち、ここに開示される技術により、200℃以上710℃程度、特に好ましくは350℃以上710℃以下の温度域で優れたCO吸収能を発現し得るCO吸収材料が実現される。
【0059】
以下、ここで開示されるCO吸収材料の製造方法について、具体的な実施形態を示して説明を行う。しかしながら、本発明を以下の例に限定することを意図するものではない。
【0060】
参考例.ゾルゲル法
硝酸リチウム(LiNO,Alfa Aesar製)とコロイダルシリカ(シグマアルドリッチ社製)を出発原料としてオルトケイ酸リチウムを合成した。
まず最初に、15.3gのLiNOを225mLの蒸留水に溶解して1Mの硝酸リチウム水溶液を調製した。そしてこの硝酸リチウム水溶液を室温で一定速度で撹拌しながら、pHが8となるまで25%水酸化アンモニウム(S.D. Fine-Chem Limited製)をゆっくりと加えることで加水分解を行った。続いて、撹拌を続けながらこの反応水溶液に3.3gのコロイダルシリカを滴下して加え、引き続き1時間の撹拌を行うことで、ゾル状組成物を得た。コロイダルシリカの添加量は、硝酸リチウム量に対し、Li:Siがモル比で4:1となる量である。このゾル状組成物は、ケイ酸リチウムの前駆体が主として水和錯体の形態の水酸化物として析出していると考えられる。このゾル状組成物を、室温で更に24時間養生して脱水縮合させたのち、110℃で乾燥し、800℃で3時間焼成することで、粉末状のオルトケイ酸リチウムを得た。このようにして得たオルトケイ酸リチウムをSGと表記する。
【0061】
1−1.オルトケイ酸リチウムの作製
硝酸リチウム(LiNO,Alfa Aesar製)とコロイダルシリカ(シグマアルドリッチ社製)を出発原料として、ここに開示される技術に従いオルトケイ酸リチウムを合成した。
先ず、上記の参考例と同様に、硝酸リチウム水溶液を室温で撹拌しながら、pH8まで25%水酸化アンモニウムを加えることで加水分解を行った。この反応水溶液にコロイダルシリカを滴下し、マグネチックスターラーを用いて1時間の撹拌を行うことで、ケイ酸リチウム前駆体が水溶液中に分散されたゾル状組成物を得た。次いで、このゾル状組成物に対し、2.45GHzで700Wの電磁波を照射することで、脱水縮合反応を行った。電磁波の照射には電子レンジを使用し、2分間の照射を5回、合計10分間行うようにした。具体的には、電磁波を2分間照射してゾル状組成物を沸騰させた後、休息期間を設けてゾル状組成物を室温にまで冷却し、沸騰により蒸発した分の水を初期量まで補填すること、を5回繰り返し行った。脱水縮合させたゲル状組成物(反応物)を110℃で乾燥し、800℃の大気雰囲気で3時間焼成することで、粉末を得た。このようにして得た粉末試料をMW−SGと表記する。
【0062】
1−2.XRD
上記のようにして得た粉末試料(MW−SG)について、X線回折(X-ray diffraction analysis;XRD)分析を行った。サンプルの同定には、Cu Kα線(λ=0.154nm)を使用したX線小角散乱/広角回折セットアップ(フランス,Xenocs社製、Xeuss SAXS/WAXSシステム,2θ=4°〜36°およびオランダ,アイントホーフェン,PANalytical製、X'pert Pro回折計,2θ=10°〜90°)を用いた。得られたXRDパターンを図2に示した。
このXRDパターンから、得られた粉末は結晶性が高く、殆どの回折ピークがJCPDSカードのNo.37−1472のオルトケイ酸リチウム相(LiSiO)に一致することがわかった。いくつかの回折ピークは、メタケイ酸リチウム(LiSiO,JCPDSカードNo.29−0828)に帰属されたが、これは室温においてオルトケイ酸リチウムが雰囲気中のCOを吸収し、次の反応が生じたことによるものと考えられた。
LiSiO+CO → LiSiO+LiCO
【0063】
1−3.TEM観察
また、粉末試料(MW−SG)について、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による観察を行った。TEM観察には、オランダ,FEI社製、Tecnai G2を用いた。得られたTEM像を図3に示した。図3(a)は作製直後のMW−SG試料の観察結果であり、(b)は後述のCO吸収特性の評価後のMW−SG試料の観察結果を示している。
TEM観察の結果、MW−SGはロッド状の粒子が集合して粉末を形成しており、ロッドの幅方向の寸法(直径)は概ね100nm以下、典型的には50nm以下であり、図3(a)のMW−SGにおける平均直径は約20nm程度であった。また、ロッド状の粒子のアスペクト比は確実に2よりは大きく、概ね5以上、おおよそ10以上であることが確認できた。また、図3(b)に示されるように、MW−SG試料は、CO吸収特性の評価における加熱の前後で形態に大きな変化は見られず、加熱による凝集等が起こり難いことがわかった。
【0064】
1−4.CO吸収特性
<動的吸収特性>
粉末試料(MW−SG)の二酸化炭素吸収特性を、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。具体的には、所定量のMW−SG試料にプローブ分子としてのCOを吸収させ、試料の温度を連続的に上昇させることによって生じる着脱ガス量を測定する熱重量分析(Thermogravimetric Analysis;TGA)により評価した。測定は、Nパージ法により行い、吸収ガスとして100%COガスを用い、昇温速度20℃/minで100℃〜800℃の温度域で測定を行った。得られた動的TGA曲線を図4に示した。図4には、比較のために、従来のゾルゲル法により作製したSG試料についての動的TGA曲線も併せて示した。
【0065】
ここに開示された技術により調製されたMW−SGは、従来法によるSGと比べて、より低い温度からCOを吸収し始め、COの吸収温度範囲は約450℃〜710℃の範囲であり、約750℃以上ではCOの放出が生じることが確認できた。またMW−SGのCO吸収容量は200mg/gを超え、動的吸収においてSGの約2倍近い吸収量を有することがわかった。また、TGA曲線の立ち上がりからCO吸収速度もSGより速く、CO吸収性能に優れていることが確認できた。
【0066】
<等温的吸着特性>
次いで、粉末試料(MW−SG)の二酸化炭素の等温吸収特性を、測定温度を様々に変化させて評価した。測定温度は、400℃〜700℃の範囲で50℃ごとに設定した。等温吸収試験には100%COガスを用い、MW−SG試料を昇温速度10℃/minで所定の測定温度まで昇温したのち、100%CO気流下で2時間(7200秒)保持することで、当該温度でのCO吸収容量を測定した。得られた等温吸収曲線を図5に示した。
図5からわかるように、高温になるほどCO吸収速度は速くなり、例えば測定温度が700℃の場合では15分程度で平衡に達することがわかった。また、測定温度が400℃と低い場合には、CO吸収量は減るものの、COの吸収は行われていることもうかがえた。
【0067】
この図5の等温吸収曲線の立ち上がりの傾きから吸収速度を算出した。具体的には、測定開始から2分間の等温吸収曲線の傾きを吸収速度とした。その結果を図6に示した。
図6から明らかなように、650℃〜700℃程度の温度範囲では、CO吸収速度が50mg/(g・min)以上であり、例えば700℃では100mg/(g・min)以上となることがわかった。
【0068】
1−5.サイクル特性
粉末試料(MW−SG)に対し、二酸化炭素の吸収と脱離を600℃以上の高温で繰り返し行ったときの、CO吸収のサイクル特性を評価した。具体的には、TGA装置を用い、MW−SG試料を所定のCO吸収温度である700℃にまで10℃/minの速度で加熱し、この吸収温度で20分間CO気流下に保持してCOを吸収させた。次いで、MW−SG試料を800℃まで加熱し、この脱離温度でN気流下に保持することでCOを脱離させた。2サイクル目からはCO吸収温度を600℃とし、MW−SG試料を600℃にまで冷却したのち、20分間CO気流下に保持してCOを吸収させた。このようなCOの吸収と脱離を合計10回行い、その時のMW−SG試料の重量変化を調べた。その結果を図7に示した。
図7から明らかなとおり、MW−SGは繰り返しCOの吸収と脱離を繰り返してもその吸収特性にばらつきがみられず、安定したサイクル特性を有することが確認できた。
【0069】
2−1.アルカリ炭酸塩・オルトケイ酸リチウム複合体の作製
先ず上記と同様にして、粉末状のMW−SG試料を調製した。また、ナトリウム(Na),カリウム(K)およびリチウム(Li)の炭酸塩を、質量比が(Na:K:Li)の順で、(1)(10:30:60)、(2)(32:37:31)、(3)(31:45:24)となるように混合した。これらは、(Na:K:Li)のモル%で、(1)8.5:19.5:72、(2)31:27:42、(3)31:35:34に等しい。なお、(3)のアルカリ炭酸塩は、Na−K−Liの共晶炭酸塩に相当する配合である。これらを、MW−SG試料100質量部に対し、アルカリ炭酸塩を15〜20質量部の割合で混合し、その混合物を昇温速度1℃/minで800℃まで加熱し、800℃で3時間焼成した。このようにして得られたアルカリ炭酸塩とオルトケイ酸リチウムの複合体を、アルカリ配合に応じて、MW−SG−NKL1〜NKL3とした。
【0070】
2−2.CO吸収特性
<動的吸収特性>
得られたアルカリ炭酸塩・オルトケイ酸リチウム複合体(MW−SG−NKL1〜NKL3)の二酸化炭素吸収特性を、上記1−4欄と同様にして、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。その結果、得られた動的TGA曲線を図8に示した。図8には、参考のために、従来のゾルゲル法により作製したSGおよびアルカリ炭酸塩を添加していないMW−SGについての結果も併せて示した。
アルカリ炭酸塩を複合体化したMW−SG−NKL1〜NKL3は、いずれもMW−SGと比べて、動的吸収におけるCO吸収容量が1.5〜3倍ほどに増大されたことがわかった。また、CO吸収特性にも変化が見られ、300℃〜650℃程度のより低い温度域でのCO吸収量が多くなり、またこの低温域での吸収速度が大きく増大されたことが確認された。この傾向は、これは、Na,K,Liの共晶炭酸塩を複合化させたMW−SG−NKL3について最も顕著に見られた。これらのアルカリ炭酸塩が400℃〜500℃で軟化または液相化し、この溶融炭酸塩により、より低温域でのCOの吸収拡散性が向上されたことによるものと推察される。
【0071】
<等温的吸収特性>
そこで、MW−SG−NKL3について、上記1−4欄の記載と同様にして、二酸化炭素の等温吸収特性を行った。なお、MW−SG−NKL3は、図8に示すとおり、200℃以上、典型的には300℃程度からCOを吸収し始め、700℃でのCO吸収容量は650℃でのCO吸収容量よりも減少する。そのため、試験は350℃〜650℃まで温度範囲で50℃ごとに行った。また、得られた等温吸収曲線の測定開始から2分間の曲線の傾きからCO吸収速度を算出した。これらの結果を、等温吸収曲線を図9に、CO吸収速度を図10に示した。図10については、参考のために、従来のゾルゲル法により作製したSGおよびアルカリ炭酸塩を添加していないMW−SGについての結果も併せて示した。
【0072】
図9に示されるように、MW−SG−NKL3についても高温になるほどCO吸収速度が速くなり、例えば測定温度が650℃の場合では5〜10分程度で平衡に達することがわかった。また、測定温度が350℃と低い場合も、MW−SGの400℃における場合より良好にCO吸収が行えることがわかった。
【0073】
図10に示されるように、アルカリ共晶炭酸塩を複合化したMW−SG−NKL3のCO吸収速度は、全ての温度域において、従来のゾルゲル法により作製したSG試料はもちろんのこと、MW−SG試料よりも大幅に高い値を示すことが確認できた。このMW−SG−NKL3のCO吸収速度は、400℃〜450℃において26.7mg/(g・min)と急速に上昇し、アルカリ共晶炭酸塩が軟化溶融する450℃以上でさらに高い値を示すことがわかった。MW−SG−NKL3の600℃におけるCO吸収速度はMW−SGの約4倍以上、650℃では約5倍以上にもなることがわかった。
図10から明らかなように、600℃〜650℃程度の温度範囲では、CO吸収速度が200mg/(g・min)以上であり、例えば650℃では約350mg/(g・min)に達するレベルとなることがわかった。
【0074】
以上のことから、ここに開示される技術により、CO吸収温度範囲が拡大されると共に、CO吸収容量およびCO吸収速度の改善されたCO吸収材料とその製造方法が提供される。なお、上記実施例では、ケイ素成分として、コロイダルシリカを使用した例を示した。具体的な例は示さないが、本発明者らは、このコロイダルシリカに代えて、ヒュームドシリカを用いたり、出発原料をTEOSとするゾルゲル法にて調製したゾル状組成物を用いたりして、上記実施例と同様にCO吸収能に優れたCO吸収材料が得られることを確認している。したがって、当業者であれば、上記例に示した以外の各種の手法によりゾル状組成物を調製し得る。
【0075】
3−1.電磁波照射の効果の確認
上記1−1では、リチウム原料として硝酸リチウム(LiNO)を、ケイ素原料としてコロイダルシリカを使い、ゾルゲル法を利用してオルトケイ酸リチウム(LiSiO)を合成した。ゾルゲル反応では、ゾル状の反応溶液に対して電磁波を照射することで、加水分解によるゲル化を促進させた。
そこで、原料として用いた(a)コロイダルシリカおよび(b)硝酸リチウムと、(c)電磁波を照射する前のゾル状溶液および(d)電磁波を照射した後のゲル状溶液についてXRD分析を行うことで、それぞれの材料の構成相を調べた。なお、(c)ゾル状または(d)ゲル状の溶液については、各溶液を乾燥して得た粉末について分析を行った。その結果を図11に示した。
【0076】
図11から明らかなように、原料として用いた(a)コロイダルシリカは非晶質であり、(b)硝酸リチウムは結晶質である。そして加水分解が始まってゾル状となった(c)反応溶液においては、なお結晶性の硝酸リチウムが存在するものの、LiOHの(101)面に起因する回折ピークが出現していることが確認できる。そして電磁波による処理後の(d)反応溶液においては、LiOHの(101)面からの回折ピークが相対的に大きく増大していることから、電磁波の照射により加水分解が著しく促進されていることが明瞭に確認できた。これらの結果は、リチウム塩からLiOHへの部分置換あるいは全置換が高性能なケイ酸リチウムを製造するために適切な経路であり得ることを明確に示しており、そのためこの実施形態にて開示している。
【0077】
3−2.焼成による相変化
次いで、上記の電磁波を照射した後のゲル状溶液の乾燥粉末に対して大気中で熱処理を施し、その場(in-situ)で高分解能X線回折(high-resolution X-ray diffraction:HTXRD)分析に供することにより、この乾燥粉末の結晶相の変化を追跡した。HTXRD分析は、746K,773K,1073K,1176K,1273Kにおいて行った。HTXRD分析の結果を図12に示した。なお、適切な温度での熱処理後の粉末試料は、上記1−1で得た粉末試料(MW−SG)に相当する。なお、以下の説明において、特筆しない限り、熱処理は大気中で行ったものとする。
【0078】
図12に示すように、HTXRD分析から以下のことを確認できた。
・746Kにおいて、乾燥粉末は完全にアモルファスである。
・773Kにおいて、乾燥粉末にはLiSiOの存在が確認できる。したがって、LiSiOの核生成(結晶化)は、746Kを超えて773K未満の温度範囲で生じる。
・1073Kにおいて、乾燥粉末はLiSiO(メタケイ酸リチウム)とLiSiO(オルトケイ酸リチウム)との混相であるが、本質的にはLiSiOから構成されている。
・1073Kまでの熱処理で、温度上昇に伴ってLiSiOの(110)面および(011)面からの回折強度が増加し、LiSiOの(111)面からの回折強度が減少していることから、LiSiOの生成はLiSiOを消費することで進行すると考えられる。
・熱処理温度の上昇に伴いピークが左側へ僅かにシフトしているが、これはLiSiOからLiSiOへの相変化に伴う体積膨張により結晶に導入された成長ストレスに起因するものと考えられる。
・1273Kまでの昇温を行ったが、1073Kを超えると粉末の構成相に何ら変化はみられない。つまり、上記組成の粉末試料(MW−SG)については、1273K以下の加熱によりLiSiO等の安定相が得られることが確認できた。
【0079】
3−3.粒子形態の確認
また、上記の電磁波を照射した後のゲル状溶液の乾燥粉末に対して様々な温度で約3時間の熱処理を施し、TEMを使用して粉末試料の形態を観察した。熱処理温度は、473K,673K,773K,1073Kとした。その結果を図13のa〜hに示した。図13中、a,bは473Kで,c,dは673Kで,e,fは773Kで,g,hは1073Kで熱処理したゲル状溶液乾燥粉末のTEM像であり、それぞれの熱処理温度で異なる2つの倍率の像を示している。なお、1073Kで3時間熱処理した粉末は、上記1−1で作製した粉末試料(MW-SG)に相当する。
【0080】
図13のaおよびbに示されるように、473Kで熱処理された粉末は、微小な球状粒子から構成されていることが確認できた。この球状の粒子形状はコロイダルシリカに由来するものと考えられる。また、cおよびdに示されるように、673Kで熱処理された粉末にも、なお球状粒子の存在が確認できた。
ここで、図11(d)のXRDパターンで熱処理前の乾燥粉末において存在が確認されているLiNOの融点が約528Kであること、図12のHTXRD分析結果からこの乾燥粉末は746K以上で結晶化することから、673Kで観察された球状粒子はアモルファスシリカ相からなると考えられる。したがって、本例でシリカ源として用いられたコロイダルシリカにおけるアモルファスシリカ相は、反応溶液中での加水分解および電磁波の照射によって完全に消失(分解)されることがないこと、また球状の形態を保ったまま乾燥され、焼成に供されたことが確認された。このシリカ粒子の表面は溶融したリチウム塩でよく濡れるため、乾燥および焼成に際しても、673Kまではシリカ粒子の凝集が好適に抑制されたと考えられる。
【0081】
図13のeおよびfに示されるように、773Kで熱処理された粉末では、一変してナノファイバー状の粒子が明瞭に観察された。図12のHTXRD分析結果から、773KではLiSiO相が生成されることがわかっている。このことから、このナノファイバー状粒子はLiSiO結晶からなると判断される。このようなナノファイバー状結晶の形成は、673Kまでアモルファスシリカ粒子が凝集せずに溶融リチウム塩中に存在していたことを考慮すると、673K以上の温度では溶融リチウム塩中で球状シリカが特殊な規則性で配列するとともにSiO四面体が所定の結合角で結合したことで、異方性の高いナノファイバー状の結晶が形成されたと考えられる。つまり、LiSiO結晶の核生成は、融液状態のリチウム塩でコーティングされ、かつ、一次元の配列状態にあるアモルファスシリカ粒子において生じ、これがナノファイバー状の結晶粒子の形成を好適に促したものと考えられる。
【0082】
図13のgおよびhに示されるように、1073Kで熱処理された粉末において、ナノファイバー状の結晶粒子は、ナノロッド状(ナノロール状であり得る。)の粒子に変化することがわかった。このナノロッド状の粒子はLiSiOであり、LiSiOナノファイバーが相変化に伴い膨張・一体化したことにより形成されたことがわかる。
【0083】
そこで、1073Kで熱処理した粉末(図3(a)のMW−SG試料に相当)を走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)で観察した。SEM観察には、ドイツCarl Zeiss社製のEVO18,Special Editionを使用し、加速電圧20kVで観察した。その結果を図14のA(約2600倍),B(約5000倍)に示した。
図14に示すように、ナノロッド状の粒子は、マイクロメータトルオーダー(例えば、1000倍〜5000倍程度)で巨視的に観察すると、板状結晶またはこれが集合した花弁状の形態を呈していることが確認された。
【0084】
4−1.リチウムリッチのシリコン−リチウム複合化合物の作製
上記1−1と同様にして、ケイ酸リチウムを調製し、二酸化炭素吸収材料を得た。ただし、本例では、上記の加水分解後の反応水溶液に対して加えるコロイダルシリカの量を減少させて、コロイダルシリカの添加量を、Li:Siがモル比で8:1となるリチウムリッチの配合とした。また、電磁波の照射条件は、2.45GHz,700Wの電磁波を2分間、計5回照射するようにした。得られたゲル状組成物は、150℃のオーブンで乾燥させ、大気中500℃で3時間加熱したのち、N雰囲気中、800℃で30分間焼成した。
得られたケイ酸リチウム粉末を構成する粒子の形態をSEMとTEMとで観察し、その結果を図15および図16にそれぞれ示した。
【0085】
図15の(a)は、ケイ酸リチウム粒子(一次粒子)の全体のSEM像(約5000倍)であり、(b)はその部分拡大図(約12500倍)である。図15の(a)から明らかなように、リチウムリッチのケイ酸リチウムは、マイクロメータトルオーダーでは、花弁状というよりは海綿状の結晶形態を有していることがわかった。このSEM像において、空隙を取り囲むように形成されたケイ酸リチウム結晶の壁面は、空隙の寸法(幅)に対して厚みが十分に薄く、オルトケイ酸リチウムに見られた板状結晶よりも厚みが薄いことがよくわかる。また、結晶壁面がより小さな間隔で互いに結合していることがわかる。この図で確認できる空隙は、径がおおよそ50nm〜500nm程度のマクロポアであることがわかった。
このように、ここに開示される製造方法によると、ケイ酸リチウムの組成を変化させることで、形成されるケイ酸リチウム粒子の形態が大きく変化することが確認された。また、このケイ酸リチウムは、Siに対しLiの割合が非常に多い。そのため、骨格となるSi四面体の連結体の周囲には多量のLiが存在した状態で結晶が構成される。すなわち、このケイ酸リチウムは、シリコン(Si)を主成分とするコア部分と、コア部分の表面を覆うように存在するリチウム(Li)を主成分とするシェル部分とから構成される、シリコン−リチウム複合化合物であると理解することができる。このようなケイ酸リチウムは、上記3−3で説明したケイ酸リチウムの生成機構によく適合するものであるといえる。
【0086】
なお、非特許文献2には、化学組成がLiSiOで表されるリチウムリッチのケイ酸リチウムが開示されている。このLiSiOは、高いCO吸収容量を備えるものの、CO脱着性に劣るという問題がある。このLiSiOは固相反応法により合成され、50μmを超える巨大な粒子から構成されている(例えば、図2参照)。また、この巨大な粒子を1μmオーダーで微細に観察した場合であっても、ここに開示されるような特徴的な結晶形態は確認できない。このことによりLiSiO結晶の比表面積は著しく小さく、COの脱着反応が好適に進まないことがその理由であると予想される。例えば、このLiSiO結晶にはCOの脱着のための下記の反応場が用意され難いと考えられる。
LiSiO+LiCO → LiSiO+CO
【0087】
図16(a)〜(e)は、図15と同じケイ酸リチウム粒子を異なる視野および倍率で観察したTEM像である。マイクロメートルオーダーで海綿状の形態を有するケイ酸リチウム粒子は、図16 に示されるように、20nm〜数100nm程度の一次粒子が集合して形成されていることがわかった。つまり海綿状体の壁面は、より微細な粒子の集合であることがわかった。またこれらの粒子は、複数のものが空隙をもって結合しており、壁面自体が多孔質構造であることも確認できた。この壁面に内包される空隙は、径が概ね50nm以下程度のメソポアないしはミクロポアであることがわかった。このことから、ここに開示されるケイ酸リチウム粒子は、海綿形状によって粒子内に比較的大きな空隙(マクロポア)を内包しているとともに、その壁面にはより微小な空隙(メソポアおよびミクロポア)を内包していることがわかった。このような多孔質構造により、後述するこのケイ酸リチウムの高いCO吸収特性が実現されていると考えられる。
【0088】
4−2.CO吸収特性
上記で得たリチウムリッチのケイ酸リチウムの二酸化炭素(CO)吸収特性を、熱重量分析により調べた。熱重量分析においては、まず、窒素ガスパージを行った。具体的には、試料を、流量49ml/分のN気流下、昇温速度10℃/minで800℃まで加熱したのち、800℃で20分間保持し、その後710℃にまで温度を下げ、10分間保持した。その後、Nガスを100%COガスに切り替え、710℃でのCOガス吸収量を測定した。得られた等温吸収曲線を図17に示した。
図17に示されるように、本例のケイ酸リチウムのCO吸収容量は約840mg/gに達することが確認された。これは、モルに換算すると約19mmolCO/gに等しく、著しく高い値である。なお、上記2−2で示された組成がLiSiOの粉末(MW−SG)について650℃で測定した吸収容量は約350mg/gであったことから、組成および結晶構造の違いにより約2〜3倍もの吸収容量の増大が可能なことが確認できた。なお、本例で作製したケイ酸リチウムの組成を、CO吸収容量から理論的に計算すると、おおよそLi12SiOか6(LiO)SiOに相当すると考えられる。
【0089】
5−1.ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの作製
上記1−1に準じてケイ酸リチウムを調製し、二酸化炭素吸収材料を得た。ただし、本例では、ゲルマニウム(Ge)を含むケイ酸リチウムを作製するため、図1Cのフローチャートに示したように、ゲルマニウム源として塩化ゲルマニウム(GeCl)をさらに用い、この硝酸ゲルマニウムを硝酸リチウム水溶液に溶解させることでケイ酸リチウムに導入した。硝酸ゲルマニウムの添加量は、Si:Geがモル比で1:0.1826となる割合とした。また、全ての原料を混合した反応水溶液は、5分間の超音波撹拌の後、電磁波を照射した。電磁波の照射には電子レンジを使用し、2.45GHzで700Wの電磁波を4分間照射することで、脱水縮合反応を促進させた。このようにして作製されるケイ酸リチウムの組成は、LiGe0.15Si0.846である。
【0090】
5−2.XRD分析
上記のようにして得たゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムについてXRD分析を行い、得られたXRDパターンを図18(b)に示した。また、参考のために、図18(a)には、図2に示したLiSiO組成のケイ酸リチウムについてのXRDパターンを併せて示した。
図18に示されるように、(b)ゲルマニウムをドープしたケイ酸リチウムのXRDパターンには、LiSiOのピークとともに、わずかにLiGe12のピークが同定された。また、LiSiOのピークはやや低角側にシフトされていた。このことから、LiSiOの結晶構造内にGeが導入されていることが確認された。
【0091】
5−3.ラマン分析
また、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムについてラマン分光分析を行い、得られたラマンスペクトルを図19(b)に示した。また、参考のために、図19(a)には、LiSiO組成のケイ酸リチウムについてのラマンスペクトルを併せて示した。
図19(b)のみに見られる784,823,862cm−1の3つのピークがGeO四面体の価電子の振動周波数によく一致しており、XRD分析の結果をよく支持する結果であった。ラマン分析によっても、結晶構造においてSiがGeによって置換されることにより、一般式:LiGe0.15Si0.846で表される組成を有する材料が形成されたことが確認された。
【0092】
5−4.ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの形態
上記で得られたゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムを構成する粒子の形態をSEMとTEMとで観察し、その結果を図20および図21にそれぞれ示した。
図20は、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子のSEM像である。ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムは、図14のケイ酸リチウムと同様に、板状の結晶が複数組み合わさって花弁状のケイ酸リチウム結晶を形成していることが確認できた。本例のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムにおいて、一枚の板状結晶は、厚みがおおよそ5μm以下であって、面方向の寸法が10μm前後あるいはそれ以上であり、比較的薄い板状結晶が集合して構成されていることがわかった。
図21の(a)〜(d)は、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子のTEM像であり、倍率や観察場所が異なる像である。このTEM像からは、図20のSEM像で観察された一枚の板状結晶が所定の方向に沿って大きく成長している様子が見て取れる。
【0093】
5−5.動的吸収特性
上記で得られたゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの二酸化炭素吸収特性を、上記1−4と同様にして、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。その結果、得られた動的TGA曲線を図22に示した。
なお、本例では、上記5−1と同様にして、Geのドープ量の異なる3種のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムをさらに用意するとともに、参考のために、LiGeOも用意し、同様に動的なCO吸収特性を調べて評価した。これらの結果と、LiSiOについての結果とを併せて、図22に示した。なお、新たに調製したゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムにおいて、SiとドープしたGeとのモル比は、Si:Geとして、1:0.4470,1:0.083,1:0.04とした。
【0094】
図22に示したように、ケイ酸リチウムにGeをドープすることで、LiSiOおよびLiGeOと比較して、動的吸収におけるCO2吸収容量が1.2倍ほど増大されたことがわかった。また、GeをドープすることでCO吸収特性に変化が見られ、300℃〜500℃程度の低い温度域でのCO吸収量が急激に多くなり、またこの低温域での吸収速度が大きく増大されたことが確認された。Siに対するGeのドープ割合が、モル比で、0から増大するにつれてCO吸収量も増大するが、Geのモル比が約0.1826を超えるとCO吸収量は減少に転じることが確認された。
【0095】
5−6.等温吸収特性
そこで、上記5−1で用意したSi:Geがモル比で1:0.1826のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムを用い、300℃の低温における二酸化炭素の等温吸収特性を調べた。その結果、得られた等温吸収曲線を図23に示した。
図23に示すように、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムは、吸収容量自体はさほど多くはないものの、300℃の低温においても迅速にCOを吸収するCO吸収特性を備えていることが確認された。
【0096】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23