(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゾル状組成物は、前記リチウム(Li)成分と前記ケイ素(Si)成分とを含む水溶液中で、加水分解反応を生じさせることにより用意する、請求項1に記載の製造方法。
前記ケイ酸リチウムは、長手方向の寸法をa、前記長手方向に直交する一の短手方向の寸法をbとしたとき、前記短手方向の寸法bが100nm以下であって、かつ、a/bで規定されるアスペクト比が2以上の棒状粒子が、全体の50個数%以上を占める、請求項11〜14のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収材料。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「X〜Y」との表記は、特にことわりの無い限り「X以上Y以下」を意味する。
【0022】
図1A〜1Cは、一実施形態に係る二酸化炭素(CO
2)吸収材料の製造方法を示すフロー図である。ここに開示される製造方法は、典型的には、ケイ酸リチウムを主成分とするCO
2吸収材料を製造するものである。
ケイ酸リチウムとしては、リチウム(Li)とケイ素(Si)と酸素(O)とを含む化合物を考慮することができる。典型的には、ケイ酸リチウムは、一般式:Li
xSi
yO
z,ここで式中、x、yおよびzは、x+4y−2z=0を満たす;で表される各種の化合物であり得る。典型的には、任意の数のケイ酸イオンが連なったケイ酸塩アニオンと、リチウムカチオンとを含む形態の各種のケイ酸リチウムを考慮することができる。このようなケイ酸リチウムとしては、典型的には、オルトケイ酸リチウム(Li
4SiO
4)、メタケイ酸リチウム(Li
2SiO
3)、二ケイ酸リチウム(Li
2Si
2O
5)、メタ三ケイ酸リチウム(Li
4Si
3O
8)、メタ四ケイ酸リチウム(Li
6Si
4O
11)等であってよい。またケイ酸リチウムは、これらの例に限定されることなく、例えば、Li
8SiO
6,Li
6Si
2O
7,Li
12SiO
8等に代表される、化合物であってよい。これらはいずれか1種からなる単相であってもよいし、いずれか2種以上が組み合わされて含まれる混相であってもよい。ケイ酸リチウムは、殆どのものが、本質的にはSiO
4四面体またはSiの単体が連結した骨格(例えばSiO
4連結体)を有し、この四面体の空隙にLiのようなアルカリ金属元素がイオンとなって入っていると考えられる。そして本発明者らは、ここに開示される製造方法によると、SiO
4四面体が他の四面体と同形置換を起こし得ると考えている。このような置換体とは特に制限されないが、例えば、典型的には、AlO
4四面体や、FeO
4四面体、GeO
4四面体、SnO
4四面体等が考慮される。
【0023】
そこで、ここに開示されるケイ酸リチウムは、上記のLiとSiとOとに加えて、他の元素(M)を含む化合物であってよい。かかる他の元素としてはCO
2の吸収および脱着条件において安定に存在し得る化合物を構成する元素である限り特に制限されない。例えば、上記のアルミニウム(Al)や鉄(Fe)等のケイ素と同じ14族元素のゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb)等であってよい。中でもゲルマニウム(Ge)成分であることが好ましい。このような14族元素は、ケイ酸リチウムの結晶構造においてSiと容易に置換し、比較的安定に存在し得るために好ましい。ケイ酸リチウムに含まれる他の元素の割合は厳密には限定されないものの、例えば、ケイ素(Si):他の元素(M)との比が、1:0.001〜1:0.5程度であることが好ましく、1:0.04〜1:0.45がより好ましい。このようなケイ酸リチウムは、例えば、一般式:Li
xM
y2Si
y1O
zで表される各種の化合物として理解することができる。ここで式中、x、y1、y2およびzはいずれも自然数であって、y1+y2=yおよびx+4y−2z=0を満たす。
【0024】
ここに開示されるCO
2吸収材料の代表的な一例として、CO
2吸収能の観点からは、オルトケイ酸リチウムがケイ酸リチウムの70モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、例えば実質的に100モル%であるのが望ましい。以下、かかるケイ酸リチウムとして、例えば、実質的に、オルトケイ酸リチウムが100モル%である場合を例にして本発明についての説明を行う。なお、以上のケイ酸リチウムは、例えば、周辺環境等に依存してその組成が変化することが許容され得る。
【0025】
また、ケイ酸リチウムを「主成分とする」とは、CO
2吸収材料を構成する化合物においてケイ酸リチウムが占める割合が最も多いことを意味する。CO
2吸収材料に占めるケイ酸リチウムの割合は、後述の複合体の形態のCO
2吸収材料を考慮すると厳密には規定できないものの、典型的には50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上(特に好ましくは70質量%以上、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、実質的に100質量%)とすることができる。かかるケイ酸リチウムの割合は、例えば、一例として、X線回折(X-ray diffraction analysis;XRD)分析に基づき算出することができる。
【0026】
そして、このCO
2吸収材料の製造方法は、例えば
図1Aに示されるように、以下の工程(S1)〜(S3)を含むことを特徴としている。
(S1)リチウム(Li)成分とケイ素(Si)成分とを含むLi−Si前駆体化合物が水溶液中に分散されたゾル状組成物を用意すること。
(S2)ゾル状組成物に対し電磁波を照射してゲル状組成物を得ること。
(S3)ゲル状組成物を焼成してリチウムとケイ素とを含むケイ酸リチウムを得ること。
なお、必須の工程ではないが、
図1Bに示されるように、ここに開示される製造方法は、上記の工程(S3)に引き続き、下記の工程(S4)を実施することもできる。
(S4)得られたケイ酸リチウムを、アルカリ炭酸塩と複合化すること。
【0027】
S1.ゾル状組成物の用意
ここに開示されるCO
2吸収材料は、大略的には、Li−Si前駆体化合物を含むゾル状組成物を、ゲル化する湿式法により好ましく調整することができる。
ここでゾル状組成物とは、Li−Si前駆体化合物を分散質とし、少なくとも水を分散媒として含むコロイド水溶液であり得る。分散媒としての水は、蒸留水、イオン交換水、純水等であってよい。かかる分散媒は、水を主体とする限りにおいて、低級アルコール(メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール)やエチレングリコール、アセトン等のケトン等の水溶性で低分子量の有機溶媒が混合されていてもよい。分散媒は、後述の加水分解の効率を高めるために、100質量%の水からなることが好ましい(すなわち、ゾル状組成物はハイドロゾルであり得る)。
【0028】
分散質としてのLi−Si前駆体化合物は、上記のケイ酸リチウムの原料となるリチウム成分とケイ素成分とを含み、脱水縮合反応、重縮合反応および焼成(加熱)などの処理により、上記ケイ酸リチウムを形成し得る各種の化合物であり得る。典型的には、リチウムとケイ素の水溶性溶解物が水酸化物等として析出した析出物であり得、これらは水和物や水和錯体の形態であってよい。また水酸化物等の析出物は、ゾル状態を維持し得る程度であれば脱水縮合していてもよい。換言すると、このLi−Si前駆体化合物は、ゾル状を呈するコロイド粒子であって、コロイド溶液を維持し得る大きさであればその粒径等は厳密には制限されない。例えば、Li−Si前駆体化合物の平均粒子径は、典型的には1nm〜5μm程度であり、好ましくは3nm〜3μm程度であり、より好ましくは10nm〜1μm程度であり得る。かかる平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値を採用することができる。
【0029】
このようなゾル状組成物は、例えば、別途用意したLi−Si前駆体化合物を水等の分散媒に分散させることで調製してもよいし、上記Li−Si前駆体化合物が予め分散されているゾル状組成物を入手してもよいし、公知の燃焼法またはアーク法等の乾式法ないしは沈降法またはゲル法(ゾルゲル法を含む)等の湿式法を利用するなどして調製してもよい。
一例として、一般的なゾルゲル法によりゾル状組成物を調製する場合、リチウム塩とシリカアルコキシドとが溶解状態となり得る混合溶液中で、アルコキシドを水と接触させて加水分解を生じさせることにより、Li成分とSi成分とを含有する前駆体化合物をこの混合溶液中に形成することができる。なお、このとき、ゾル状組成物は水を分散媒とすることが好ましいことから、リチウム塩を溶解させた水溶液中にアルコキシドを少量ずつ添加することで、ゾル状組成物を調製するのがより好ましい。例えば、リチウム塩を溶かした水溶液を撹拌しながら、この水溶液中にシリカアルコキシドのアルコール溶液を加えることで、前駆体化合物を得ることができる。撹拌は、例えば、マグネチックスターラーや機械式撹拌機、あるいは超音波撹拌機のような他の手段を利用して実施することができる。
【0030】
かかる加水分解反応および縮合反応を進行させるに際し、反応速度(加水分解速度および縮合速度)を調整する目的で、塩酸等の酸やアンモニア等のアルカリを加水分解触媒として混合溶液中に加えるようにしてもよい。なお、かかる加水分解触媒は、反応溶液のpHを制御して、形成される前駆体化合物の一次粒径を調整する役割も果たし得る。
【0031】
リチウム塩としては、リチウムの酸化物や、加熱によって酸化物となり得る各種の化合物を用いることができる。具体的には、例えば、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。好ましくは水溶性の各種塩であり得る。また、リチウムのアルコキシドを用いることもできる。
【0032】
シリカアルコキシドとしては、ゾルゲル法において用いることができる各種の化合物を特に制限なく使用することができる。例えば、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4のアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基等の官能基を導入したシリカアルコキシド等を好ましく用いることができる。なかでもアルコキシシランを用いることが好ましく、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等に代表される、Si原子に1〜4のアルコキシ基が結合したシリカアルコキシドが好ましい例として示される。特に好ましくは、テトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4:TEOS、オルトケイ酸テトラエチルともいう)、テトラメトキシシラン(Si(OCH
3)
4:TMOS、オルトケイ酸テトラメチルともいう)、メチルトリメトキシシランである。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、いずれか2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
なお、上記で例示したゾルゲル法以外のゾル状組成物の調製方法としては、例えば、下記の手法を採用することが例示される。例えば、ケイ素成分として、ゲル法シリカ(コロイダルシリカを含む)、沈降法シリカ、ヒュームドシリカ(シリカキセロゲル、シリカクリオゲルおよびシリカアエロゲルを含む)等のナノシリカ材料を使用して、上記と同様にゾル状組成物を調製することができる。特に限定されるものではないが、このようなシリカ材料とリチウム成分とが、例えば、水溶液中において互いに錯体を形成したり、加水分化反応および/または脱水縮合反応等により化合物を形成したりすることで、ここに開示されるゾル状組成物として好適に用いることができる。
【0034】
また、ケイ酸リチウムが他の元素(M)を含む場合は、上記Li−Si前駆体化合物が当該他の元素を含むように調製すればよい。例えば、ゾルゲル法によりゾル状組成物を調製する際に、混合溶液中に他の元素(M)を加えるようにすればよい。典型的には、
図1Cに例示したように、上記リチウム成分と同様に、他の元素(M)の塩等を混合溶液に添加すればよい。これにより、以下同様の手順で、Li,Si,OおよびMを含むケイ酸リチウムを製造することができる。
【0035】
S2.電磁波照射によるゲル状組成物の形成
次いで、用意したゾル状組成物に対して電磁波を照射することで、このゾル状組成物をゲル化してゲル状組成物を得る。
例えば、ゾルゲル法により用意したゾル状組成物において、一般的に、加水分解により形成された水和物等の析出物は、引き続き撹拌が行われることで脱水縮合が生じ得る。かかる縮合反応は隣り合ったLi−Si前駆体化合物の間で連鎖的に進行するため、撹拌を続けることによりLi−Si前駆体化合物は3次元的な縮合体を形成し得る。この縮合体は、ゾル状組成物に粘性を付与し、ゲル状組成物へと変化させる。したがって、ゾル状組成物を一定時間撹拌することにより、自ずとゲル状組成物を得ることができる。また、上記のとおり、加水分解触媒を加えたり、環境温度等を調製したりすることで、ゲル状組成物の形成を促進させ得ることも知られている。
【0036】
これに対し、ここに開示される技術においては、ゾル状組成物に電磁波を照射することで、上記のゲル化をより好適に促進させるようにしている。撹拌の操作は必ずしも必要ではないが、ゾル状組成物のゲル化を均一に進行させる観点からは、ゾル状組成物を撹拌しながら電磁波を照射することがより好ましい。なお、詳細な機構は明らかではないが、ゾル状組成物に電磁波を照射することで、形成されるゲル状組成物におけるLi−Si前駆体化合物の骨格構造に何らかの変化がもたらされるものと考えることができる。そしてかかる骨格構造の変化により、このゲル状組成物から得られるケイ酸リチウムは、通常とは異なる特殊な形態を有する粉末として得ることができる。本発明者らの検討によると、電磁波の作用により、上記のSiO
4四面体の連結態様に特異性が発現し、SiO
4四面体の配列(たとえば、連結角と連結度等)に異方性が見られるものと考えている。
【0037】
したがって、CO
2吸収材料を構成する個々のケイ酸リチウムの結晶粒子の形状は、特に限定されるものではないが、典型的にはいわゆる球状ないしは粒状ではなく、例えば、ロッド状、板状、鱗片状、花弁状および海綿状等と呼ばれる形状異方性が高いものとなり得る。このようなケイ酸リチウムの特殊な形態に基づき、ここに開示されるケイ酸リチウムは、CO
2吸収容量やCO
2吸収速度等といったCO
2吸収特性が効果的に向上されると考えることができる。例えば、理論値に近い高いCO
2吸収容量を備えるケイ酸リチウムを製造できる。まだ、吸収したCO
2の脱着も良好に行うことができる。したがって、ここに開示される技術において、CO
2吸収特性の向上に関して電磁波の照射は欠かせない操作であり得る。また、電磁波の照射によるゲル化の促進により、ゲル状組成物を短時間で得ることもできる。これにより、CO
2吸収材料の製造時間の短縮化が図れる点においても好ましいといえる。
【0038】
電磁波としては、超低周波、長波、中波、短波、マイクロ波(高周波)、赤外線、可視光線、紫外線、X線およびガンマ線のいずれを用いることも可能である。しかしながら、電磁波の照射効率の観点からは、ゾル状組成物を効果的に加熱し得る電磁波を採用することが好ましい。かかる観点において、マイクロ波(microwave)は、ゾル状組成物の分散媒としての水や、Li−Si前駆体化合物に含まれる結晶水や水和水等の水分子に直接吸収され、この水分子が発熱して、Li−Si前駆体化合物を加熱し得る。このマイクロ波加熱(誘電加熱)によると、Li−Si前駆体化合物を内部から、エネルギーロスを抑えて高速かつ選択的に加熱できるために好ましい態様であり得る。
【0039】
マイクロ波としてはその周波数(波長)や出力、照射時間等は特に制限されない。例えば、照射対象であるゾル状組成物がゲル化するに必要なエネルギー量を適切に供給し得るよう適宜決定することができる。例えば、波長が1mm以上1m以下であって、周波数が300MHz以上300GHz以下のマイクロ波を用いることが例示される。なお、周波数については、国際規格に基づき、2.45GHz帯のマグネトロンにより発生される高周波を利用することがより適切であり得る(地域によっては915MHz帯の高周波であってもよい)。また、例えば、出力については、加熱効率の観点から、300W〜300kW程度とすることが適切であり、300W〜10kW程度が好ましく、300W〜2000W程度がより好ましく、500W〜1600W程度が特に好ましい。
【0040】
また、照射時間は、出力やゾル状組成物の量および照射時の形態(マイクロ波の到達度)等を勘案して調整することができる。また、マイクロ波は、例えば、連続して所定の照射時間に亘って照射しても良いし、インターバルを介して複数回照射することもできる。マイクロ波照射の好ましい一形態としては、所定の出力のマイクロ波を、ゾル状組成物における分散媒が沸騰するまで照射し、次いでゾル状組成物を冷却したのち、再度所定の出力のマイクロ波を照射すること、を所定の回数繰り返すことである。ここで、分散媒が沸騰により揮発してしまった場合などには、必要に応じて分散媒を補填するようにしてもよい。マイクロ波の照射時間は、例えば、一つの例として、0.2〜0.5モル程度のケイ酸リチウムを製造するに際し、2.45GHzで600W〜1000W(例えば700W)のを、合計で1分間以上20分間以下(例えば4〜12分間)程度照射することが例示される。
【0041】
なお、ゲル状組成物とは、ゾル状組成物が流動性をほぼ失って硬化した状態であり得る。このゲル状との状態については、厳密に定義することは困難ではあるが、代表的には、(i)少なくとも分散質と分散媒との2成分以上の組成をもつ凝集性の分散系であって、(ii)固体の特徴をもつ力学的挙動を示し、(iii)分散質および分散媒の両方が系全体に連続的に(均質に)広がっている状態、と定義することができる。本明細書におけるゲル状組成物とは、当業者によく知られている明確なゾルゲル転移を経て、概ね全ての分散質が共有結合によって三次元的に結ばれた化学ゲルであり得る。すなわち、分散質は、目的のケイ酸リチウムと略同じ組成を有したものとなり得る。かかる分散質は、3次元的ではあるが不連続に結合した組織からなる、非晶質な(すなわち結晶質でない)物質となる。そしてこの分散質に分散媒が含浸保持されることで、ゲル状組成物が構成されている。
【0042】
S3.ケイ酸リチウムの焼成
このようにして得られたゲル状組成物を乾燥し、焼成する。これにより、分散媒およびケイ酸リチウム以外の過剰な成分は完全に除去され、目的の固体状のケイ酸リチウムを得ることができる。なお、ゲル状組成物において加水分解反応および脱水縮合反応が完全に終了していない部位が含まれていても、これらの反応は焼成により促進され、ゲル状組成物は、典型的には結晶性の緻密な固体へと変化される。
乾燥は、自然乾燥でもよいし、乾燥器を用いて乾燥してもよい。焼成は、一般的な加熱炉を用いて行ってもよい。さらに、乾燥と焼成とは組み合わせて行っても良い。この場合、例えば、エアオーブン炉を用いたり、超臨界乾燥法、噴霧乾燥法、噴霧造粒法または噴霧熱分解法等を利用したりして実施することができる。これらの乾燥および焼成の手法は、いずれか一つを単独で実施してもよいし、互いに組み合わせて実施してもよい。
【0043】
焼成条件は、ゲル状組成物がケイ酸リチウムへと変化することができれば特に制限されない。例えば、アモルファスの状態にあるLi−Si前駆体化合物がケイ酸リチウムへと結晶し得る条件であればよい。具体的には、焼成温度をおよそ500℃以下とする場合は、ゲル状組成物の酸化が好適に進行するように、焼成雰囲気を酸素含有雰囲気(典型的には大気雰囲気)とすることが好ましい。また、焼成温度がおよそ500℃以上(超過)の場合は、焼成雰囲気は酸素含有雰囲気(典型的には大気雰囲気)であってもよいし、例えば、大気、窒素ガス、炭酸ガスあるいはこれらのうちの2種以上の混合ガスであってもよい。焼成の温度は、473℃よりも高い温度(好ましくは500℃以上)とするのが適切である。焼成温度については、700℃以上とするのがより好ましく、800℃以上とするのが特に好ましい。これにより、使用した原料に由来する余分な成分を除去することができるとともに、結晶性の高いケイ酸リチウムを得ることができる。焼成温度の上限は特に制限されないが、例えば1100℃以下、1000℃以下、典型的には900℃程度とすることができる。焼成時間は特に制限されないが、例えば、30分間以上5時間以下程度が適切であり、1時間以上5時間以下がより好ましく、2時間以上4時間以下とするのが特に好ましい。
【0044】
このようにして実現されるCO
2吸収材料において、ケイ酸リチウムは、典型的な球状、粒状ないしは角状等の形態の粒子(一次粒子)や、あるいは、特殊な形態の粒子(一次粒子)から構成される粉末として得られる。この特殊な形態とは、異方性が高い形状であって、例えば、ロッド状、板状、鱗片状等であり得る。また、ケイ酸リチウムは、これらの一次粒子が結合した2次粒子の形態で粉末を構成することができる。この二次粒子は、例えば、粒状であってもよいし、例えば、花弁状および海綿状等として表現される特殊な形態であってもよい。
【0045】
ケイ酸リチウムが、異方性の少ない球状粒子ないしは角状粒子等からなる場合、それらの平均粒子径は、厳密に限定されるものではないが、例えば、10nm以上1μm以下程度、20nm以上500nm以下程度であってよい。かかる寸法は、例えば、電子顕微鏡観察に基づいて測定される円相当径の算術平均値を採用することができる。
【0046】
また、例えば、典型的には、ケイ酸リチウムは、微視的(例えば、ナノメートルオーダー)には、針状(ファイバー状)ないしは棒状(ロッド状)粒子の集合体からなる粉末として得られる。かかる棒状粒子は、一方向(一次元)に大きく成長した結晶形態をいう。ここで結晶の長手方向の寸法をa、この長手方向に直交する一の短手方向の寸法をbとしたとき、短手方向の平均の寸法bは、概ね100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは30nm以下であり得る。また、a/bで規定されるアスペクト比は、典型的には2以上であり、好ましくは5以上であり、例えば10以上、特に好ましくは15以上であり得る。かかる寸法についても、例えば、電子顕微鏡観察に基づいて測定することができる(以下同じ。)。
【0047】
また、ケイ酸リチウムは、やや巨視的(例えば、マイクロメートルオーダー)には、上記の球状粒子やロッド状粒子が一体的に集合してなる板状結晶からなる粉末であってもよい。
ここで板状とは、葉状,雲母状,薄板状,層状等とも表現され、面方向(二次元)に大きく成長した結晶形態をいう。典型的には比較的平坦な薄板状の結晶である。ここで、結晶面内の長手方向の寸法をa、この長手方向に直交する一の厚み方向の寸法をbとしたとき、短手方向の平均の寸法bは、概ね10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、特に好ましくは1μm以下であり得る。また、長手方向の寸法は、特に限定されないものの、概ね50μm以下程度である。この板状結晶についてa/bで規定されるアスペクト比は、典型的には2以上であり、好ましくは3以上であり、例えば5以上、特に好ましくは10以上であり得る。板状結晶は、一つが単独で粒子を構成していてもよいし、複数のものが集合(結合)して一つの粒子を構成していてもよい。複数の結晶が集合しているとき、それらは双晶であってもよい。板状結晶が複数の一次粒子の集合であるとき、このような板状結晶は、一次粒子の間隙内に微細な空隙を内包していてもよい。このような空隙の寸法は特に制限されないが、例えば、径が2nm以上50nm未満程度のメソポアや、径が50nm以上のマクロポアであってよい。
【0048】
鱗片状および花弁状は、板状の一種の変形であるとも理解でき、面方向に大きく成長した結晶形態である。その中でも、鱗片状は、例えば複数の板状結晶が面方向を概ね揃えて、あたかも魚の鱗のように集合した結晶形態をいう。また、花弁状は、例えば複数の板状結晶が面方向が異なるようにして、あたかも一つの結晶からなる花弁が花を構成するように集合した結晶形態をいう。このような特殊な形状は、上記製造方法に特有の電磁波の作用により、特異な晶癖が強く反映された形態であるとも考えられる。このような粒子の粒径は特に制限されないが、例えば、0.1μm以上20μm以下程度であり得る。
【0049】
海綿状は、スポンジ状、ハニカム状等とも表現され、全体としては大きな嵩を有するものの、薄い板状の壁部(壁面)を介して多数の空隙を含む結晶形態である。この壁部については、上記の板状結晶と同様に理解することもできる。また、粒子内に含まれる空隙の大きさは特に制限されないが、例えば、メソポアやマクロポアであってよい。典型的にはマクロポアであり得る。このような海綿状粒子の粒径は特に制限されないが、例えば、0.1μm以上20μm以下程度であり得る。
【0050】
ここに開示されるケイ酸リチウムにおいて、このような特徴的な形状を有する粒子は、ケイ酸リチウムを構成する粒子全体の50個数%以上、例えば70個数%以上、特に80個数%を占め得ることが好ましい。このような特徴的な形状により、理論値に近い高いCO
2吸収特性を備えることができる。また、CO
2を吸収するのみならず、脱着をも高効率で実現することができる。さらに、高温でのCO
2の吸収および放出を繰り返し行った場合でも、結晶粒子の凝集が抑さえられ、CO
2吸収能の低下が抑制され得る。
【0051】
また、このようにして実現されるCO
2吸収材料は、例えば、同一の材料を用いて公知のゾルゲル法により製造したケイ酸リチウムと比較して、CO
2吸収速度が約1.5倍〜2倍程度に高められたものであり得る。また、このようなCO
2吸収能は、より低温から発現されて、例えば200℃以上710℃程度の温度域でCO
2の吸収が可能となり得る。また、450℃以上の温度範囲では、より速いスピードでCO
2を吸収し得る。例えば、500℃以上710℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO
2吸収速度は、20mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは25mg/(g・min)以上であり得る。また、600℃以上710℃以下の温度範囲における、単位重量あたりのCO
2ガス吸収速度が、30mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは50mg/(g・min)以上であり得る。すなわち、ここに開示される技術により、200℃以上710℃程度、特に好ましくは450℃以上710℃以下の温度域で優れたCO
2吸収能を発現し得るCO
2吸収材料が実現される。なお、ここに開示されるCO
2吸収材料は、おおよそ720℃以上(例えば750℃以上)の温度でCO
2の放出を始める。したがって、かかるCO
2放出の温度まで(例えば、720℃未満)は、このCO
2吸収材料によるCO
2の吸収が可能とされる。
【0052】
S4.ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩との複合化
以上のようにして得られたケイ酸リチウムは、上記のとおり、そのままでもCO
2吸収材料として使用することができるが、例えば、アルカリ炭酸塩と複合化することでよりCO
2吸収能がより一層向上されたCO
2吸収材料とすることができる。
アルカリ炭酸塩は、ここに開示されるケイ酸リチウムのCO
2吸収温度域で軟化または液相となり得る。かかるアルカリ炭酸塩の存在は、ケイ酸リチウムへのCO
2の移動をスムーズにするものと考えられる。これにより、より低温側でのCO
2の吸収容量を大幅に拡大することができ、CO
2の吸収速度も増大することができる。
【0053】
アルカリ炭酸塩としては、ナトリウム(Na)成分、カリウム(K)成分、リチウム(Li)、ルビジウム(Rb)成分、セシウム(Cs)成分、フランシウム(Fr)成分等のアルカリ金属の炭酸塩を考慮することができる。これらはいずれか1種のアルカリ金属の炭酸塩であってもよいし、2種以上のアルカリ金属を含む炭酸塩であってもよい。ここに開示される技術においては、アルカリ炭酸塩は、ナトリウム成分、カリウム成分、リチウム成分のいずれか1種以上を含むことが好ましく、いずれか2種以上を含むことがより好ましく、3種を含むことが特に好ましい。
【0054】
また、アルカリ炭酸塩がLi,K,Naの3種のアルカリ金属炭酸塩の混合系である場合、これらは、例えば固溶体結晶または共晶であるのが好ましい。固溶体である場合、アルカリ炭酸塩におけるNa,K,Liの割合は、下記のとおりであることが好ましい。かかる組成は、共晶組成をも含み得るものである。
Na:1mol%以上80mol%以下
K :1mol%以上70mol%以下
Li:1mol%以上90mol%以下
【0055】
アルカリ炭酸塩が共晶である場合、共晶点はより低くなることから、CO
2吸収容量およびCO
2吸収速度が更に改善され得るために好ましい。K−Li系炭酸塩では、共晶組成はK
2CO
3とLi
2CO
3とのモル比が約55:45の混合系である。アルカリ炭酸塩がK−Li系炭酸塩であるとき、KとLiとのモル比(K:Li)はかかる共晶組成を含む60:40〜40:60程度の範囲であることが好ましい。また、Na−Li系炭酸塩の共晶組成は、Na
2CO
3とLi
2CO
3とのモル比が約49:51のときである。したがってアルカリ炭酸塩がNa−Li系炭酸塩であるとき、NaとLiとのモル比(Na:Li)はかかる共晶組成を含む55:45〜45:55程度の範囲であることが好ましい。そしてNa−K−Li系炭酸塩では、共晶組成はNa
2CO
3とK
2CO
3とLi
2CO
3とがモル比で約31:35:34のときであり得る。したがってアルカリ炭酸塩がNa−K−Li系炭酸塩であるとき、NaとKとLiとのモル比(Na:K:Li)はかかる共晶組成を含む約25〜35:30〜40:30〜40程度の範囲であることが好ましい。なかでも、アルカリ炭酸塩がLi−Na−K系の共晶炭酸塩であることが特に好ましい。
【0056】
なお、必ずしもこの例に限定されるものではないが、複合化に使用するアルカリ炭酸塩の平均粒子径としては、典型的には、50nm以上5μm以下程度が適切であり、100nm以上1μm以下が好ましく、200nm以上500nm以下が特に好ましい。
また、ケイ酸リチウムに複合化するアルカリ炭酸塩の割合は、例えば、ケイ酸リチウムを100質量部として、アルカリ炭酸塩を1質量部以上50質量部以下とするのが適切であり、5質量部以上40質量部以下とするのが好ましく、10質量部以上30質量部以下とするのが特に好ましい。
【0057】
複合化に際しては、ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩とを十分に混合したのち、例えば上記の焼成条件で焼成することで、両者を一体化することができる。これにより、ケイ酸リチウムとアルカリ炭酸塩とが複合化されたCO
2吸収材料を製造することができる。
【0058】
このようにして実現されるCO
2吸収材料は、例えば、同一の材料を用いて公知のゾルゲル法により製造したケイ酸リチウムと比較して、CO
2吸収容量が約2倍以上に高められたものであり得る。また、このようなCO
2吸収能は、より低温から発現されて、例えば200℃以上710℃程度の温度域でCO
2の吸収が可能となり得る。特に、300℃以上の温度範囲からのCO
2吸収能力が大幅に改善され得る。したがって、例えば400℃以上、特に450℃以上の温度範囲では、より速いスピードでCO
2を吸収し得る。例えば、450℃以上650℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO
2吸収速度は、40mg/(g・min)以上であり得る。また、500℃以上650℃以下の温度範囲における単位重量あたりのCO
2吸収速度は、50mg/(g・min)以上であり得、より好ましくは80mg/(g・min)以上、特に好ましくは100mg/(g・min)以上であり得る。また、600℃以上650℃以下の温度範囲における、単位重量あたりのCO
2ガス吸収速度が、100mg/(g・min)以上であり得、好ましくは150mg/(g・min)以上、より好ましくは200mg/(g・min)以上であり得る。すなわち、ここに開示される技術により、200℃以上710℃程度、特に好ましくは350℃以上710℃以下の温度域で優れたCO
2吸収能を発現し得るCO
2吸収材料が実現される。
【0059】
以下、ここで開示されるCO
2吸収材料の製造方法について、具体的な実施形態を示して説明を行う。しかしながら、本発明を以下の例に限定することを意図するものではない。
【0060】
参考例.ゾルゲル法
硝酸リチウム(LiNO
3,Alfa Aesar製)とコロイダルシリカ(シグマアルドリッチ社製)を出発原料としてオルトケイ酸リチウムを合成した。
まず最初に、15.3gのLiNO
3を225mLの蒸留水に溶解して1Mの硝酸リチウム水溶液を調製した。そしてこの硝酸リチウム水溶液を室温で一定速度で撹拌しながら、pHが8となるまで25%水酸化アンモニウム(S.D. Fine-Chem Limited製)をゆっくりと加えることで加水分解を行った。続いて、撹拌を続けながらこの反応水溶液に3.3gのコロイダルシリカを滴下して加え、引き続き1時間の撹拌を行うことで、ゾル状組成物を得た。コロイダルシリカの添加量は、硝酸リチウム量に対し、Li:Siがモル比で4:1となる量である。このゾル状組成物は、ケイ酸リチウムの前駆体が主として水和錯体の形態の水酸化物として析出していると考えられる。このゾル状組成物を、室温で更に24時間養生して脱水縮合させたのち、110℃で乾燥し、800℃で3時間焼成することで、粉末状のオルトケイ酸リチウムを得た。このようにして得たオルトケイ酸リチウムをSGと表記する。
【0061】
1−1.オルトケイ酸リチウムの作製
硝酸リチウム(LiNO
3,Alfa Aesar製)とコロイダルシリカ(シグマアルドリッチ社製)を出発原料として、ここに開示される技術に従いオルトケイ酸リチウムを合成した。
先ず、上記の参考例と同様に、硝酸リチウム水溶液を室温で撹拌しながら、pH8まで25%水酸化アンモニウムを加えることで加水分解を行った。この反応水溶液にコロイダルシリカを滴下し、マグネチックスターラーを用いて1時間の撹拌を行うことで、ケイ酸リチウム前駆体が水溶液中に分散されたゾル状組成物を得た。次いで、このゾル状組成物に対し、2.45GHzで700Wの電磁波を照射することで、脱水縮合反応を行った。電磁波の照射には電子レンジを使用し、2分間の照射を5回、合計10分間行うようにした。具体的には、電磁波を2分間照射してゾル状組成物を沸騰させた後、休息期間を設けてゾル状組成物を室温にまで冷却し、沸騰により蒸発した分の水を初期量まで補填すること、を5回繰り返し行った。脱水縮合させたゲル状組成物(反応物)を110℃で乾燥し、800℃の大気雰囲気で3時間焼成することで、粉末を得た。このようにして得た粉末試料をMW−SGと表記する。
【0062】
1−2.XRD
上記のようにして得た粉末試料(MW−SG)について、X線回折(X-ray diffraction analysis;XRD)分析を行った。サンプルの同定には、Cu Kα線(λ=0.154nm)を使用したX線小角散乱/広角回折セットアップ(フランス,Xenocs社製、Xeuss SAXS/WAXSシステム,2θ=4°〜36°およびオランダ,アイントホーフェン,PANalytical製、X'pert Pro回折計,2θ=10°〜90°)を用いた。得られたXRDパターンを
図2に示した。
このXRDパターンから、得られた粉末は結晶性が高く、殆どの回折ピークがJCPDSカードのNo.37−1472のオルトケイ酸リチウム相(Li
4SiO
4)に一致することがわかった。いくつかの回折ピークは、メタケイ酸リチウム(Li
2SiO
3,JCPDSカードNo.29−0828)に帰属されたが、これは室温においてオルトケイ酸リチウムが雰囲気中のCO
2を吸収し、次の反応が生じたことによるものと考えられた。
Li
4SiO
4+CO
2 → Li
2SiO
3+Li
2CO
3
【0063】
1−3.TEM観察
また、粉末試料(MW−SG)について、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による観察を行った。TEM観察には、オランダ,FEI社製、Tecnai G2を用いた。得られたTEM像を
図3に示した。
図3(a)は作製直後のMW−SG試料の観察結果であり、(b)は後述のCO
2吸収特性の評価後のMW−SG試料の観察結果を示している。
TEM観察の結果、MW−SGはロッド状の粒子が集合して粉末を形成しており、ロッドの幅方向の寸法(直径)は概ね100nm以下、典型的には50nm以下であり、
図3(a)のMW−SGにおける平均直径は約20nm程度であった。また、ロッド状の粒子のアスペクト比は確実に2よりは大きく、概ね5以上、おおよそ10以上であることが確認できた。また、
図3(b)に示されるように、MW−SG試料は、CO
2吸収特性の評価における加熱の前後で形態に大きな変化は見られず、加熱による凝集等が起こり難いことがわかった。
【0064】
1−4.CO
2吸収特性
<動的吸収特性>
粉末試料(MW−SG)の二酸化炭素吸収特性を、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。具体的には、所定量のMW−SG試料にプローブ分子としてのCO
2を吸収させ、試料の温度を連続的に上昇させることによって生じる着脱ガス量を測定する熱重量分析(Thermogravimetric Analysis;TGA)により評価した。測定は、N
2パージ法により行い、吸収ガスとして100%CO
2ガスを用い、昇温速度20℃/minで100℃〜800℃の温度域で測定を行った。得られた動的TGA曲線を
図4に示した。
図4には、比較のために、従来のゾルゲル法により作製したSG試料についての動的TGA曲線も併せて示した。
【0065】
ここに開示された技術により調製されたMW−SGは、従来法によるSGと比べて、より低い温度からCO
2を吸収し始め、CO
2の吸収温度範囲は約450℃〜710℃の範囲であり、約750℃以上ではCO
2の放出が生じることが確認できた。またMW−SGのCO
2吸収容量は200mg/gを超え、動的吸収においてSGの約2倍近い吸収量を有することがわかった。また、TGA曲線の立ち上がりからCO
2吸収速度もSGより速く、CO
2吸収性能に優れていることが確認できた。
【0066】
<等温的吸着特性>
次いで、粉末試料(MW−SG)の二酸化炭素の等温吸収特性を、測定温度を様々に変化させて評価した。測定温度は、400℃〜700℃の範囲で50℃ごとに設定した。等温吸収試験には100%CO
2ガスを用い、MW−SG試料を昇温速度10℃/minで所定の測定温度まで昇温したのち、100%CO
2気流下で2時間(7200秒)保持することで、当該温度でのCO
2吸収容量を測定した。得られた等温吸収曲線を
図5に示した。
図5からわかるように、高温になるほどCO
2吸収速度は速くなり、例えば測定温度が700℃の場合では15分程度で平衡に達することがわかった。また、測定温度が400℃と低い場合には、CO
2吸収量は減るものの、CO
2の吸収は行われていることもうかがえた。
【0067】
この
図5の等温吸収曲線の立ち上がりの傾きから吸収速度を算出した。具体的には、測定開始から2分間の等温吸収曲線の傾きを吸収速度とした。その結果を
図6に示した。
図6から明らかなように、650℃〜700℃程度の温度範囲では、CO
2吸収速度が50mg/(g・min)以上であり、例えば700℃では100mg/(g・min)以上となることがわかった。
【0068】
1−5.サイクル特性
粉末試料(MW−SG)に対し、二酸化炭素の吸収と脱離を600℃以上の高温で繰り返し行ったときの、CO
2吸収のサイクル特性を評価した。具体的には、TGA装置を用い、MW−SG試料を所定のCO
2吸収温度である700℃にまで10℃/minの速度で加熱し、この吸収温度で20分間CO
2気流下に保持してCO
2を吸収させた。次いで、MW−SG試料を800℃まで加熱し、この脱離温度でN
2気流下に保持することでCO
2を脱離させた。2サイクル目からはCO
2吸収温度を600℃とし、MW−SG試料を600℃にまで冷却したのち、20分間CO
2気流下に保持してCO
2を吸収させた。このようなCO
2の吸収と脱離を合計10回行い、その時のMW−SG試料の重量変化を調べた。その結果を
図7に示した。
図7から明らかなとおり、MW−SGは繰り返しCO
2の吸収と脱離を繰り返してもその吸収特性にばらつきがみられず、安定したサイクル特性を有することが確認できた。
【0069】
2−1.アルカリ炭酸塩・オルトケイ酸リチウム複合体の作製
先ず上記と同様にして、粉末状のMW−SG試料を調製した。また、ナトリウム(Na),カリウム(K)およびリチウム(Li)の炭酸塩を、質量比が(Na:K:Li)の順で、(1)(10:30:60)、(2)(32:37:31)、(3)(31:45:24)となるように混合した。これらは、(Na:K:Li)のモル%で、(1)8.5:19.5:72、(2)31:27:42、(3)31:35:34に等しい。なお、(3)のアルカリ炭酸塩は、Na−K−Liの共晶炭酸塩に相当する配合である。これらを、MW−SG試料100質量部に対し、アルカリ炭酸塩を15〜20質量部の割合で混合し、その混合物を昇温速度1℃/minで800℃まで加熱し、800℃で3時間焼成した。このようにして得られたアルカリ炭酸塩とオルトケイ酸リチウムの複合体を、アルカリ配合に応じて、MW−SG−NKL1〜NKL3とした。
【0070】
2−2.CO
2吸収特性
<動的吸収特性>
得られたアルカリ炭酸塩・オルトケイ酸リチウム複合体(MW−SG−NKL1〜NKL3)の二酸化炭素吸収特性を、上記1−4欄と同様にして、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。その結果、得られた動的TGA曲線を
図8に示した。
図8には、参考のために、従来のゾルゲル法により作製したSGおよびアルカリ炭酸塩を添加していないMW−SGについての結果も併せて示した。
アルカリ炭酸塩を複合体化したMW−SG−NKL1〜NKL3は、いずれもMW−SGと比べて、動的吸収におけるCO
2吸収容量が1.5〜3倍ほどに増大されたことがわかった。また、CO
2吸収特性にも変化が見られ、300℃〜650℃程度のより低い温度域でのCO
2吸収量が多くなり、またこの低温域での吸収速度が大きく増大されたことが確認された。この傾向は、これは、Na,K,Liの共晶炭酸塩を複合化させたMW−SG−NKL3について最も顕著に見られた。これらのアルカリ炭酸塩が400℃〜500℃で軟化または液相化し、この溶融炭酸塩により、より低温域でのCO
2の吸収拡散性が向上されたことによるものと推察される。
【0071】
<等温的吸収特性>
そこで、MW−SG−NKL3について、上記1−4欄の記載と同様にして、二酸化炭素の等温吸収特性を行った。なお、MW−SG−NKL3は、
図8に示すとおり、200℃以上、典型的には300℃程度からCO
2を吸収し始め、700℃でのCO
2吸収容量は650℃でのCO
2吸収容量よりも減少する。そのため、試験は350℃〜650℃まで温度範囲で50℃ごとに行った。また、得られた等温吸収曲線の測定開始から2分間の曲線の傾きからCO
2吸収速度を算出した。これらの結果を、等温吸収曲線を
図9に、CO
2吸収速度を
図10に示した。
図10については、参考のために、従来のゾルゲル法により作製したSGおよびアルカリ炭酸塩を添加していないMW−SGについての結果も併せて示した。
【0072】
図9に示されるように、MW−SG−NKL3についても高温になるほどCO
2吸収速度が速くなり、例えば測定温度が650℃の場合では5〜10分程度で平衡に達することがわかった。また、測定温度が350℃と低い場合も、MW−SGの400℃における場合より良好にCO
2吸収が行えることがわかった。
【0073】
図10に示されるように、アルカリ共晶炭酸塩を複合化したMW−SG−NKL3のCO
2吸収速度は、全ての温度域において、従来のゾルゲル法により作製したSG試料はもちろんのこと、MW−SG試料よりも大幅に高い値を示すことが確認できた。このMW−SG−NKL3のCO
2吸収速度は、400℃〜450℃において26.7mg/(g・min)と急速に上昇し、アルカリ共晶炭酸塩が軟化溶融する450℃以上でさらに高い値を示すことがわかった。MW−SG−NKL3の600℃におけるCO
2吸収速度はMW−SGの約4倍以上、650℃では約5倍以上にもなることがわかった。
図10から明らかなように、600℃〜650℃程度の温度範囲では、CO
2吸収速度が200mg/(g・min)以上であり、例えば650℃では約350mg/(g・min)に達するレベルとなることがわかった。
【0074】
以上のことから、ここに開示される技術により、CO
2吸収温度範囲が拡大されると共に、CO
2吸収容量およびCO
2吸収速度の改善されたCO
2吸収材料とその製造方法が提供される。なお、上記実施例では、ケイ素成分として、コロイダルシリカを使用した例を示した。具体的な例は示さないが、本発明者らは、このコロイダルシリカに代えて、ヒュームドシリカを用いたり、出発原料をTEOSとするゾルゲル法にて調製したゾル状組成物を用いたりして、上記実施例と同様にCO
2吸収能に優れたCO
2吸収材料が得られることを確認している。したがって、当業者であれば、上記例に示した以外の各種の手法によりゾル状組成物を調製し得る。
【0075】
3−1.電磁波照射の効果の確認
上記1−1では、リチウム原料として硝酸リチウム(LiNO
3)を、ケイ素原料としてコロイダルシリカを使い、ゾルゲル法を利用してオルトケイ酸リチウム(Li
4SiO
4)を合成した。ゾルゲル反応では、ゾル状の反応溶液に対して電磁波を照射することで、加水分解によるゲル化を促進させた。
そこで、原料として用いた(a)コロイダルシリカおよび(b)硝酸リチウムと、(c)電磁波を照射する前のゾル状溶液および(d)電磁波を照射した後のゲル状溶液についてXRD分析を行うことで、それぞれの材料の構成相を調べた。なお、(c)ゾル状または(d)ゲル状の溶液については、各溶液を乾燥して得た粉末について分析を行った。その結果を
図11に示した。
【0076】
図11から明らかなように、原料として用いた(a)コロイダルシリカは非晶質であり、(b)硝酸リチウムは結晶質である。そして加水分解が始まってゾル状となった(c)反応溶液においては、なお結晶性の硝酸リチウムが存在するものの、LiOHの(101)面に起因する回折ピークが出現していることが確認できる。そして電磁波による処理後の(d)反応溶液においては、LiOHの(101)面からの回折ピークが相対的に大きく増大していることから、電磁波の照射により加水分解が著しく促進されていることが明瞭に確認できた。これらの結果は、リチウム塩からLiOHへの部分置換あるいは全置換が高性能なケイ酸リチウムを製造するために適切な経路であり得ることを明確に示しており、そのためこの実施形態にて開示している。
【0077】
3−2.焼成による相変化
次いで、上記の電磁波を照射した後のゲル状溶液の乾燥粉末に対して大気中で熱処理を施し、その場(in-situ)で高分解能X線回折(high-resolution X-ray diffraction:HTXRD)分析に供することにより、この乾燥粉末の結晶相の変化を追跡した。HTXRD分析は、746K,773K,1073K,1176K,1273Kにおいて行った。HTXRD分析の結果を
図12に示した。なお、適切な温度での熱処理後の粉末試料は、上記1−1で得た粉末試料(MW−SG)に相当する。なお、以下の説明において、特筆しない限り、熱処理は大気中で行ったものとする。
【0078】
図12に示すように、HTXRD分析から以下のことを確認できた。
・746Kにおいて、乾燥粉末は完全にアモルファスである。
・773Kにおいて、乾燥粉末にはLi
2SiO
3の存在が確認できる。したがって、Li
2SiO
3の核生成(結晶化)は、746Kを超えて773K未満の温度範囲で生じる。
・1073Kにおいて、乾燥粉末はLi
2SiO
3(メタケイ酸リチウム)とLi
4SiO
4(オルトケイ酸リチウム)との混相であるが、本質的にはLi
4SiO
4から構成されている。
・1073Kまでの熱処理で、温度上昇に伴ってLi
4SiO
4の(110)面および(011)面からの回折強度が増加し、Li
2SiO
3の(111)面からの回折強度が減少していることから、Li
4SiO
4の生成はLi
2SiO
3を消費することで進行すると考えられる。
・熱処理温度の上昇に伴いピークが左側へ僅かにシフトしているが、これはLi
2SiO
3からLi
4SiO
4への相変化に伴う体積膨張により結晶に導入された成長ストレスに起因するものと考えられる。
・1273Kまでの昇温を行ったが、1073Kを超えると粉末の構成相に何ら変化はみられない。つまり、上記組成の粉末試料(MW−SG)については、1273K以下の加熱によりLi
4SiO
4等の安定相が得られることが確認できた。
【0079】
3−3.粒子形態の確認
また、上記の電磁波を照射した後のゲル状溶液の乾燥粉末に対して様々な温度で約3時間の熱処理を施し、TEMを使用して粉末試料の形態を観察した。熱処理温度は、473K,673K,773K,1073Kとした。その結果を
図13のa〜hに示した。
図13中、a,bは473Kで,c,dは673Kで,e,fは773Kで,g,hは1073Kで熱処理したゲル状溶液乾燥粉末のTEM像であり、それぞれの熱処理温度で異なる2つの倍率の像を示している。なお、1073Kで3時間熱処理した粉末は、上記1−1で作製した粉末試料(MW-SG)に相当する。
【0080】
図13のaおよびbに示されるように、473Kで熱処理された粉末は、微小な球状粒子から構成されていることが確認できた。この球状の粒子形状はコロイダルシリカに由来するものと考えられる。また、cおよびdに示されるように、673Kで熱処理された粉末にも、なお球状粒子の存在が確認できた。
ここで、
図11(d)のXRDパターンで熱処理前の乾燥粉末において存在が確認されているLiNO
3の融点が約528Kであること、
図12のHTXRD分析結果からこの乾燥粉末は746K以上で結晶化することから、673Kで観察された球状粒子はアモルファスシリカ相からなると考えられる。したがって、本例でシリカ源として用いられたコロイダルシリカにおけるアモルファスシリカ相は、反応溶液中での加水分解および電磁波の照射によって完全に消失(分解)されることがないこと、また球状の形態を保ったまま乾燥され、焼成に供されたことが確認された。このシリカ粒子の表面は溶融したリチウム塩でよく濡れるため、乾燥および焼成に際しても、673Kまではシリカ粒子の凝集が好適に抑制されたと考えられる。
【0081】
図13のeおよびfに示されるように、773Kで熱処理された粉末では、一変してナノファイバー状の粒子が明瞭に観察された。
図12のHTXRD分析結果から、773KではLi
2SiO
3相が生成されることがわかっている。このことから、このナノファイバー状粒子はLi
2SiO
3結晶からなると判断される。このようなナノファイバー状結晶の形成は、673Kまでアモルファスシリカ粒子が凝集せずに溶融リチウム塩中に存在していたことを考慮すると、673K以上の温度では溶融リチウム塩中で球状シリカが特殊な規則性で配列するとともにSiO
4四面体が所定の結合角で結合したことで、異方性の高いナノファイバー状の結晶が形成されたと考えられる。つまり、Li
2SiO
3結晶の核生成は、融液状態のリチウム塩でコーティングされ、かつ、一次元の配列状態にあるアモルファスシリカ粒子において生じ、これがナノファイバー状の結晶粒子の形成を好適に促したものと考えられる。
【0082】
図13のgおよびhに示されるように、1073Kで熱処理された粉末において、ナノファイバー状の結晶粒子は、ナノロッド状(ナノロール状であり得る。)の粒子に変化することがわかった。このナノロッド状の粒子はLi
4SiO
4であり、Li
2SiO
3ナノファイバーが相変化に伴い膨張・一体化したことにより形成されたことがわかる。
【0083】
そこで、1073Kで熱処理した粉末(
図3(a)のMW−SG試料に相当)を走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)で観察した。SEM観察には、ドイツCarl Zeiss社製のEVO18,Special Editionを使用し、加速電圧20kVで観察した。その結果を
図14のA(約2600倍),B(約5000倍)に示した。
図14に示すように、ナノロッド状の粒子は、マイクロメータトルオーダー(例えば、1000倍〜5000倍程度)で巨視的に観察すると、板状結晶またはこれが集合した花弁状の形態を呈していることが確認された。
【0084】
4−1.リチウムリッチのシリコン−リチウム複合化合物の作製
上記1−1と同様にして、ケイ酸リチウムを調製し、二酸化炭素吸収材料を得た。ただし、本例では、上記の加水分解後の反応水溶液に対して加えるコロイダルシリカの量を減少させて、コロイダルシリカの添加量を、Li:Siがモル比で8:1となるリチウムリッチの配合とした。また、電磁波の照射条件は、2.45GHz,700Wの電磁波を2分間、計5回照射するようにした。得られたゲル状組成物は、150℃のオーブンで乾燥させ、大気中500℃で3時間加熱したのち、N
2雰囲気中、800℃で30分間焼成した。
得られたケイ酸リチウム粉末を構成する粒子の形態をSEMとTEMとで観察し、その結果を
図15および
図16にそれぞれ示した。
【0085】
図15の(a)は、ケイ酸リチウム粒子(一次粒子)の全体のSEM像(約5000倍)であり、(b)はその部分拡大図(約12500倍)である。
図15の(a)から明らかなように、リチウムリッチのケイ酸リチウムは、マイクロメータトルオーダーでは、花弁状というよりは海綿状の結晶形態を有していることがわかった。このSEM像において、空隙を取り囲むように形成されたケイ酸リチウム結晶の壁面は、空隙の寸法(幅)に対して厚みが十分に薄く、オルトケイ酸リチウムに見られた板状結晶よりも厚みが薄いことがよくわかる。また、結晶壁面がより小さな間隔で互いに結合していることがわかる。この図で確認できる空隙は、径がおおよそ50nm〜500nm程度のマクロポアであることがわかった。
このように、ここに開示される製造方法によると、ケイ酸リチウムの組成を変化させることで、形成されるケイ酸リチウム粒子の形態が大きく変化することが確認された。また、このケイ酸リチウムは、Siに対しLiの割合が非常に多い。そのため、骨格となるSi四面体の連結体の周囲には多量のLiが存在した状態で結晶が構成される。すなわち、このケイ酸リチウムは、シリコン(Si)を主成分とするコア部分と、コア部分の表面を覆うように存在するリチウム(Li)を主成分とするシェル部分とから構成される、シリコン−リチウム複合化合物であると理解することができる。このようなケイ酸リチウムは、上記3−3で説明したケイ酸リチウムの生成機構によく適合するものであるといえる。
【0086】
なお、非特許文献2には、化学組成がLi
8SiO
6で表されるリチウムリッチのケイ酸リチウムが開示されている。このLi
8SiO
6は、高いCO
2吸収容量を備えるものの、CO
2脱着性に劣るという問題がある。このLi
8SiO
6は固相反応法により合成され、50μmを超える巨大な粒子から構成されている(例えば、
図2参照)。また、この巨大な粒子を1μmオーダーで微細に観察した場合であっても、ここに開示されるような特徴的な結晶形態は確認できない。このことによりLi
8SiO
6結晶の比表面積は著しく小さく、CO
2の脱着反応が好適に進まないことがその理由であると予想される。例えば、このLi
8SiO
6結晶にはCO
2の脱着のための下記の反応場が用意され難いと考えられる。
Li
2SiO
3+Li
2CO
3 → Li
4SiO
4+CO
2
【0087】
図16(a)〜(e)は、
図15と同じケイ酸リチウム粒子を異なる視野および倍率で観察したTEM像である。マイクロメートルオーダーで海綿状の形態を有するケイ酸リチウム粒子は、
図16 に示されるように、20nm〜数100nm程度の一次粒子が集合して形成されていることがわかった。つまり海綿状体の壁面は、より微細な粒子の集合であることがわかった。またこれらの粒子は、複数のものが空隙をもって結合しており、壁面自体が多孔質構造であることも確認できた。この壁面に内包される空隙は、径が概ね50nm以下程度のメソポアないしはミクロポアであることがわかった。このことから、ここに開示されるケイ酸リチウム粒子は、海綿形状によって粒子内に比較的大きな空隙(マクロポア)を内包しているとともに、その壁面にはより微小な空隙(メソポアおよびミクロポア)を内包していることがわかった。このような多孔質構造により、後述するこのケイ酸リチウムの高いCO
2吸収特性が実現されていると考えられる。
【0088】
4−2.CO
2吸収特性
上記で得たリチウムリッチのケイ酸リチウムの二酸化炭素(CO
2)吸収特性を、熱重量分析により調べた。熱重量分析においては、まず、窒素ガスパージを行った。具体的には、試料を、流量49ml/分のN
2気流下、昇温速度10℃/minで800℃まで加熱したのち、800℃で20分間保持し、その後710℃にまで温度を下げ、10分間保持した。その後、N
2ガスを100%CO
2ガスに切り替え、710℃でのCO
2ガス吸収量を測定した。得られた等温吸収曲線を
図17に示した。
図17に示されるように、本例のケイ酸リチウムのCO
2吸収容量は約840mg/gに達することが確認された。これは、モルに換算すると約19mmolCO
2/gに等しく、著しく高い値である。なお、上記2−2で示された組成がLi
4SiO
4の粉末(MW−SG)について650℃で測定した吸収容量は約350mg/gであったことから、組成および結晶構造の違いにより約2〜3倍もの吸収容量の増大が可能なことが確認できた。なお、本例で作製したケイ酸リチウムの組成を、CO
2吸収容量から理論的に計算すると、おおよそLi
12SiO
8か6(Li
2O)SiO
2に相当すると考えられる。
【0089】
5−1.ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの作製
上記1−1に準じてケイ酸リチウムを調製し、二酸化炭素吸収材料を得た。ただし、本例では、ゲルマニウム(Ge)を含むケイ酸リチウムを作製するため、
図1Cのフローチャートに示したように、ゲルマニウム源として塩化ゲルマニウム(GeCl
4)をさらに用い、この硝酸ゲルマニウムを硝酸リチウム水溶液に溶解させることでケイ酸リチウムに導入した。硝酸ゲルマニウムの添加量は、Si:Geがモル比で1:0.1826となる割合とした。また、全ての原料を混合した反応水溶液は、5分間の超音波撹拌の後、電磁波を照射した。電磁波の照射には電子レンジを使用し、2.45GHzで700Wの電磁波を4分間照射することで、脱水縮合反応を促進させた。このようにして作製されるケイ酸リチウムの組成は、Li
4Ge
0.15Si
0.846O
4である。
【0090】
5−2.XRD分析
上記のようにして得たゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムについてXRD分析を行い、得られたXRDパターンを
図18(b)に示した。また、参考のために、
図18(a)には、
図2に示したLi
4SiO
4組成のケイ酸リチウムについてのXRDパターンを併せて示した。
図18に示されるように、(b)ゲルマニウムをドープしたケイ酸リチウムのXRDパターンには、Li
4SiO
4のピークとともに、わずかにLi
4Ge
5O
12のピークが同定された。また、Li
4SiO
4のピークはやや低角側にシフトされていた。このことから、Li
4SiO
4の結晶構造内にGeが導入されていることが確認された。
【0091】
5−3.ラマン分析
また、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムについてラマン分光分析を行い、得られたラマンスペクトルを
図19(b)に示した。また、参考のために、
図19(a)には、Li
4SiO
4組成のケイ酸リチウムについてのラマンスペクトルを併せて示した。
図19(b)のみに見られる784,823,862cm
−1の3つのピークがGeO
4四面体の価電子の振動周波数によく一致しており、XRD分析の結果をよく支持する結果であった。ラマン分析によっても、結晶構造においてSiがGeによって置換されることにより、一般式:Li
4Ge
0.15Si
0.846O
4で表される組成を有する材料が形成されたことが確認された。
【0092】
5−4.ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの形態
上記で得られたゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムを構成する粒子の形態をSEMとTEMとで観察し、その結果を
図20および
図21にそれぞれ示した。
図20は、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子のSEM像である。ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムは、
図14のケイ酸リチウムと同様に、板状の結晶が複数組み合わさって花弁状のケイ酸リチウム結晶を形成していることが確認できた。本例のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムにおいて、一枚の板状結晶は、厚みがおおよそ5μm以下であって、面方向の寸法が10μm前後あるいはそれ以上であり、比較的薄い板状結晶が集合して構成されていることがわかった。
図21の(a)〜(d)は、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウム粒子のTEM像であり、倍率や観察場所が異なる像である。このTEM像からは、
図20のSEM像で観察された一枚の板状結晶が所定の方向に沿って大きく成長している様子が見て取れる。
【0093】
5−5.動的吸収特性
上記で得られたゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムの二酸化炭素吸収特性を、上記1−4と同様にして、環境温度を変化させた動的な吸収特性として評価した。その結果、得られた動的TGA曲線を
図22に示した。
なお、本例では、上記5−1と同様にして、Geのドープ量の異なる3種のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムをさらに用意するとともに、参考のために、Li
4GeO
4も用意し、同様に動的なCO
2吸収特性を調べて評価した。これらの結果と、Li
4SiO
4についての結果とを併せて、
図22に示した。なお、新たに調製したゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムにおいて、SiとドープしたGeとのモル比は、Si:Geとして、1:0.4470,1:0.083,1:0.04とした。
【0094】
図22に示したように、ケイ酸リチウムにGeをドープすることで、Li
4SiO
4およびLi
4GeO
4と比較して、動的吸収におけるCO2吸収容量が1.2倍ほど増大されたことがわかった。また、GeをドープすることでCO
2吸収特性に変化が見られ、300℃〜500℃程度の低い温度域でのCO
2吸収量が急激に多くなり、またこの低温域での吸収速度が大きく増大されたことが確認された。Siに対するGeのドープ割合が、モル比で、0から増大するにつれてCO
2吸収量も増大するが、Geのモル比が約0.1826を超えるとCO
2吸収量は減少に転じることが確認された。
【0095】
5−6.等温吸収特性
そこで、上記5−1で用意したSi:Geがモル比で1:0.1826のゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムを用い、300℃の低温における二酸化炭素の等温吸収特性を調べた。その結果、得られた等温吸収曲線を
図23に示した。
図23に示すように、ゲルマニウム・ドープ・ケイ酸リチウムは、吸収容量自体はさほど多くはないものの、300℃の低温においても迅速にCO
2を吸収するCO
2吸収特性を備えていることが確認された。
【0096】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。