(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の各実施形態に係る超音波手術器具の一例としての超音波手術システム1の構成を示す図である。超音波手術システム1は、超音波によって生体組織に対する処置を行うための処置具10と、処置具10に駆動電力を供給する電源装置80と、フットスイッチ90とを有している。超音波手術システム1は、皮質骨等の硬い骨の切削に適したモードである皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨の切削に適したモードである軟骨切削モードとを有する。しかしながら、超音波手術システム1は、骨の切削以外の処置にも用いられ得る。
【0011】
処置具10は、ハンドピース20と、ハンドピース20から突出しているプローブ180と、プローブ180の周囲に形成された細長形状のシース30とを有している。以降の説明では、処置具10におけるプローブ180側を処置具10の先端側と称し、ハンドピース20側を基端側と称することにする。
【0012】
ハンドピース20は、その内部に超音波振動子を有している。超音波振動子は、電源装置80からの駆動電力に従って超音波振動する。ハンドピース20は、この超音波振動子で発生した超音波振動をプローブ180に伝達する。プローブ180は、超音波振動子に接続されており、超音波振動子の振動に伴って振動する。
【0013】
シース30の先端は、半円筒状に形成されており、この半円筒状に形成された部分からプローブ180の先端に設けられた処置部181が露出されるようになっている。また、シース30の先端には、例えばコールドナイフ182が形成されている。コールドナイフ182は、耐腐食性の金属材料によって形成されており、生体組織の切削を容易にするために用いられる。なお、コールドナイフ182は設けられていなくてもよい。
【0014】
また、ハンドピース20は、入力部22を有している。入力部22は、超音波振動子を駆動させるための指示を入力するための部位である。入力部22は、皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとを切り替えるための複数のスイッチを含んでいてよい。入力部22は、電源装置80に接続されている。また、ハンドピース20内の超音波振動子は、電源装置80に接続されている。電源装置80は、入力部22への入力を検出し、それに応じた駆動電力を超音波振動子に供給する。
【0015】
フットスイッチ90は、ハンドピース20に設けられた入力部22と同様の機能を有する。すなわち、フットスイッチ90には、入力部22と同様に皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとを切り替えるための複数のスイッチを含んでいてよい。電源装置80は、フットスイッチ90への入力を検出したら、それに応じた駆動電力を超音波振動子に供給する。なお、入力部22とフットスイッチ90は、少なくともいずれか一方が設けられていればよい。
【0016】
処置を行う際には、ユーザは、ハンドピース20を保持し、超音波振動するプローブ180に設けられた処置部181を処置対象である生体組織に接触させる。このとき、ユーザは、入力部22又はフットスイッチ90を操作して超音波振動子を振動させる。超音波振動子で発生した振動は、プローブ180に伝達される。振動するプローブ180の処置部181と生体組織が接触することにより、生体組織の切削等の処置がなされる。
【0017】
図2は、本発明の第1の実施形態における超音波手術システム1の主要な構成を示すブロック図である。
図2において、
図1で説明したのと同様の構成については、
図1と同様の参照符号を付すことで説明を省略する。
【0018】
図2に示すように、電源装置80は、制御回路81と、モニタ82と、スピーカ83とを有している。
【0019】
制御回路81は、例えば超音波振動子24の駆動電力を生成する出力生成回路と、操作者によるプローブ180の押し付けが適切であるか否かを操作者に対して報知する回路とを有するICとして構成されている。制御回路81は、入力部22又はフットスイッチ90からの入力に応じて超音波振動子24の駆動電力を制御する。また、制御回路81は、操作者によるプローブ180の被検体である生体組織への押し付け力を検出し、検出した押し付け力に応じて操作者に対して現在のプローブ180の押し付けが適切であるか否かを例えばモニタ82を利用したり、スピーカ83を利用したり、又はその両者を利用したりして報知する。
【0020】
モニタ82は、例えば液晶ディスプレイであり、制御回路81による制御に基づいて各種の画像を表示する。スピーカ83は、制御回路81による制御に基づいて各種の音声を発する。
【0021】
図3は、第1の実施形態における制御回路81の構成を示すブロック図である。制御回路81は、出力生成回路811と、電圧電流検知回路812と、インピーダンス検知回路813と、比較回路814と、メモリ815と、報知回路816とを有している。
【0022】
出力生成回路811は、レギュレータ等の電源生成回路を有する。入力部22又はフットスイッチ90の操作があったとき、出力生成回路811は、入力部22又はフットスイッチ90からの指示値に応じた振幅で超音波振動子24が振動するように超音波振動子24の駆動電力を生成する。
【0023】
軟骨切削モードにおける振幅と皮質骨・海綿骨切削モードにおける振幅とでは、軟骨切削モードにおける振幅のほうが高く設定される。これは、軟骨切削モードでは、主として、超音波振動による摩擦熱によって切削が行われるためである。ここで、質量m[kg]の物体が動摩擦係数μ´の粗い水平面をs[m]滑ったときの熱量Q[J]は、重力加速度をg(m/s2)とすると、以下の(式1)で与えられる。
Q=μ´mgs (式1)
(式1)において、押し付け力を粗い面に対する力の垂直成分とすると、プローブ180の押し付け力(N)の大きさは、上式のmgに対応していると考えることができる。また、sは超音波プローブの縦振動の振幅に相当する。したがって、押し付け力が一定であれば、プローブ180の振幅を大きくするほど軟骨の切削量は大きくなる。このため、軟骨切削モードにおいては、切削の効率を向上させるために、可能な限りで超音波振動の振幅は大きく設定される。一方、皮質骨・海綿骨切削モードでは、超音波振動による摩擦熱よりも、超音波振動による衝撃によって切削が行われる。皮質骨・海綿骨切削モードでは、超音波振動による摩擦熱は切削に余り寄与しない。このため、皮質骨・海綿骨切削モードにおける超音波振動の振幅は軟骨切削モードにおける振幅よりも小さく設定されてよい。ここでは、押し付け力を粗い面に対する力の垂直成分としているが、押し付け力を、例えば垂直に対して角度を持っている状態の力として考えることももちろん可能である。
【0024】
電圧電流検知回路812は、出力生成回路811の出力電圧及び出力電流をそれぞれ検知する。
【0025】
インピーダンス検知回路813は、電圧電流検知回路812で検知された出力電圧と出力電流との比から超音波振動子24のインピーダンスを算出する。超音波振動子24のインピーダンスは、生体組織へのプローブ180の押し付け力によって変化し得る。したがって、インピーダンス検知回路813は、超音波振動子24のインピーダンスを検出することによってプローブ180の押し付け力を間接的に検出する検知回路として機能する。超音波振動子24のインピーダンスは、超音波振動子24が押し当てられている生体組織の種類や温度によっても変化し得る。したがって、インピーダンスから押し付け力を算出する際には、生体組織の種類及び温度に応じてインピーダンスの値を補正することが望ましい。また、押し付け力の変化がインピーダンスに与える影響は、生体組織の種類や温度変化の影響に比べて小さい。このため、インピーダンスから押し付け力を算出する際に、生体組織の種類及び温度の影響を無視するようにしてもよい。
【0026】
比較回路814は、インピーダンス検知回路813で検知されたインピーダンスの値を押し付け力の値に変換する。そして、比較回路814は、変換した押し付け力の値とメモリ815に記憶されている押し付け力の範囲とを比較する。そして、比較回路814は、押し付け力の比較結果に応じた報知をするように報知回路816に指示する。
【0027】
メモリ815は、押し付け力の範囲を記憶している。なお、押し付け力が小さくなると切削量が少なくなって手術に時間を要してしまい、押し付け力が大きくなると切削量は多くなる大きくなるが周辺組織への熱侵襲も大きくなる。したがって、押し付け力の範囲は、切削量と熱侵襲とのバランスで決められる。また、押し付け力の範囲としては、皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとで異なるものが用いられる。詳細については後で説明する。また、メモリ815は、インピーダンス検知回路813で検知されたインピーダンスの値を押し付け力の値に変換するためのテーブルを記憶している。このテーブルは、例えば、プローブ180の振幅を一定値とした状態で、プローブ180の押し付け力を種々に変化させたときのインピーダンスの変化を実測していくことで得られる。
【0028】
報知回路816は、比較回路814からの指示に従ってモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に対する報知を行う。この報知は、操作者によるプローブ180の押し付けが適切であるか、強いか、弱いかである。なお、押し付けが強いときにユーザに対して押し付けを弱めるように指示し、押し付けが弱いときにユーザに対して押し付けを強めるように指示するような報知が行われてもよい。さらに、報知は、押し付け力を表すゲージ等を表示することによって行われてもよい。
【0029】
以下、本実施形態に係る超音波手術システム1の動作を説明する。
図4は、超音波手術システム1の動作を示すフローチャートである。
図4の処理は、例えば超音波手術システム1の電源がオンされ、入力部22又はフットスイッチ90が操作された時に開始される。
【0030】
ステップS1において、出力生成回路811は、超音波振動子24を駆動するための駆動電力を生成する。入力部22又はフットスイッチ90によって軟骨切削モードであることが指示されたときには、出力生成回路811は、軟骨切削モードのために予め設定された指示値に対応した振幅で超音波振動が発生するように駆動電力を生成する。一方、入力部22又はフットスイッチ90によって皮質骨・海綿骨切削モードであることが指示されたときには、出力生成回路811は、皮質骨・海綿骨切削モードのために予め設定された指示値に対応した振幅で超音波振動が発生するように駆動電力を生成する。なお、出力生成回路811は、駆動電力をフィードバック制御するように構成されていてもよい。この場合、例えば電圧電流検知回路812で検知された出力生成回路811の出力電流は出力生成回路811に戻される。そして、出力生成回路811は、戻された出力電流が指示値と一致するように出力電圧を制御する。
【0031】
ステップS2において、インピーダンス検知回路813は、電圧電流検知回路812によって検知された出力電圧及び出力電流の比から超音波振動子24のインピーダンスを算出する。
【0032】
ステップS3において、比較回路814は、メモリ815に予め記憶されているテーブルに従って、インピーダンス検知回路813で算出されたインピーダンスの値を押し付け力の値に変換する。
【0033】
ステップS4において、比較回路814は、インピーダンスの値から得られた現在の押し付け力の値とメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲とを比較する。そして、比較回路814は、比較結果に基づいて、操作者によるプローブ180の押し付け力は適切であるか否かを判定する。例えば、現在の押し付け力の値がメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲内であれば、押し付け力は適切であると判定される。
【0034】
以下、押し付け力の範囲について説明する。
図5は、皮質骨に対して押し付け力又は振幅を変えた際の切削量の変化を測定する実験結果を示したグラフである。実験では、測定対象の皮質骨の6点(N=6)に対して押し付け力及び振幅を変更可能な振動治具を押し付けた際の切削量(切削された皮質骨の体積)を測定している。また、
図5のグラフにおいて、切削量は、6点の切削量の平均値が示されている。また、振幅の値は、実験に使用された治具の振動可能な最大の振幅(81μm)に対する百分率で示されている。
【0035】
図5に示すように、皮質骨の場合には、全体的な傾向としては、押し付け力が同じ場合には振幅が大きいほど切削量は大きくなり、また、振幅が同じ場合には押し付け力が大きいほど切削量は大きくなる。ただし、押し付け力が0.5(N)以下であるときには、振幅を大きくしても切削量は大きくならない。また、押し付け力が8(N)を超えるときも、切削量は大きくはならない。前述したように皮質骨は、主に超音波振動による衝撃によって切削される。このため、押し付け力が小さすぎたり、大きすぎたりして超音波振動による衝撃の伝達効率が悪くなると、切削量は小さくなってしまう。
図5のグラフから、皮質骨・海綿骨切削モードのときの押し付け力の範囲は、振幅が40%(23μm)のときには3(N)−5(N)であり、振幅が70%(57μm)のときには2(N)−6(N)であり、振幅が100%(81μm)のときには1(N)−7(N)であると考えられる。これらの値がメモリ815に記憶される。
【0036】
図6Aは、軟骨に対して押し付け力又は振幅を変えた際の切削量の変化を測定する実験結果を示したグラフである。
図6Aも、測定対象の軟骨の6点(N=6)における切削量(切削された皮質骨の体積)の平均値が示されている。また、振幅の値は、実験に使用された治具の振動可能な最大の振幅(81μm)に対する百分率で示されている。
【0037】
図6Aに示すように、軟骨の場合には、全体的な傾向としては、押し付け力が同じ場合には振幅が大きいほど切削量は大きくなり、また、振幅が同じ場合には押し付け力が大きいほど切削量は大きくなる。軟骨の場合には、皮質骨の場合とは異なり、100[N・μm]以下では軟骨が溶解せず、切削が進まない。これは、軟骨は主に超音波振動による摩擦熱によって切削されるためである。
図6Bは、
図6Aの結果に基づいて、横軸に(押し付け力)×(振幅)をとり、縦軸に切削量をとったグラフである。(押し付け力)×(振幅)の値(すなわち熱量に相当する)が大きくなりすぎると、切削量は大きくなるものの、熱侵襲も大きくなる。したがって、例えば、軟骨切削モードのときの押し付け力の範囲は、(押し付け力)×(振幅)の値を100[N・μm]−300[N・μm]とする値である。この値がメモリ815に記憶される。
【0038】
このように、比較回路814は、
図5又は
図6Bに示される関係によって定まる押し付け力の範囲を現在の押し付け力と比較する。ステップS4において、押し付け力が適切であると判定されたときには、処理はステップS5に移行する。ステップS4において、押し付け力が適切でないと判定されたときには、処理はステップS6に移行する。
【0039】
ステップS5において、比較回路814は、押し付け力が適切である旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による現在の押し付けが適切である旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS9に移行する。報知は、例えば「適度な押し付けです」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。
【0040】
ステップS6において、比較回路814は、操作者によるプローブ180の押し付け力は大きいか否かを判定する。例えば、現在の押し付け力の値がメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲よりも大きいときには、押し付け力は大きいと判定される。一方、現在の押し付け力の値がメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲よりも小さいときには、押し付け力は小さいと判定される。ステップS6において、押し付け力が大きいと判定されたときには、処理はステップS7に移行する。ステップS6において、押し付けが小さいと判定されたときには、処理はステップS8に移行する。
【0041】
ステップS7において、比較回路814は、押し付け力が大きい旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による押し付けを弱めることを促す旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS9に移行する。報知は、例えば「もっと弱く押し付けてください」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。
【0042】
ステップS8において、比較回路814は、押し付け力が小さい旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による押し付けを強めることを促す旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS9に移行する。報知は、例えば「もっと強く押し付けてください」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。
【0043】
ステップS9において、出力生成回路811は、処理を終了するか否かを判定する。例えば、超音波手術システム1の電源がオフされた場合又は入力部22或いはフットスイッチ90の操作が解除された場合に処理を終了すると判定される。ステップS9において、処理を終了すると判定された場合には、
図4の処理は終了する。ステップS9において、処理を終了しないと判定された場合には、処理はステップS1に戻る。
【0044】
以上説明したように本実施形態によれば、操作者によるプローブ180の生体組織への押し付け力が所定の押し付け力の範囲と比較され、その比較結果に応じて操作者による押し付けが適切であるか否かが報知される。これにより、操作者は、適切な押し付け力で処置を行うことが可能である。
【0045】
また、本実施形態では皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとで押し付け力の範囲を異ならせている。これにより、操作者は、皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとの違いを意識せずに超音波手術システム1からの報知だけを頼りに押し付けを行うことが可能である。
【0046】
なお、
図4の各ステップの処理は「回路」を用いて行われるが、ソフトウェアによって行われてもよい。
【0047】
[第1の実施形態の変形例]
以下、第1の実施形態の変形例を説明する。第1の実施形態で説明した押し付け力は、出力生成回路811で生成される出力電圧の大きさと考えることもできる。定電流制御では、押し付け力が大きくなって生体からの負荷が大きくなると出力生成回路811は、出力電流を一定にすべく、出力電圧を大きくする。このため、押し付け力は、出力生成回路811で生成される出力電圧にほぼ比例する。したがって、押し付け力の値の代わりに出力電圧の値をメモリ815に記憶させておくこともできる。この場合にはインピーダンス検知回路813はなくてもよい。
【0048】
図7は、超音波手術システム1の出力開始からの出力電圧と操作者への報知との関係を示した図である。ここで、
図7の横軸は超音波手術システム1の出力開始からの時間である。また、
図7の縦軸は出力電圧の値である。なお、
図7は、皮質骨の例であるが、軟骨においても出力電圧によって操作者への報知を行うことができる。
【0049】
図7の例では、メモリ815には3種類の出力電圧の閾値が記憶されている。閾値1は、皮質骨を切削するための出力電圧の下限値である。すなわち、出力電圧が閾値1未満であるときには押し付けが弱すぎて衝撃の伝達効率が悪く、十分な切削は行われない。このため、押し付けを強めることを促す報知が行われる。
【0050】
一方、閾値2は、皮質骨を適切に切削するための出力電圧の上限値である。例えば、閾値2は、である1100Vpp(電圧振幅値)である。すなわち、出力電圧が閾値2を超えると押し付けが強すぎるために衝撃の伝達効率が悪くなり、十分な切削は行われない。また、出力電圧が閾値2を超えると生体組織が焼け焦げたりするおそれもある。このため、押し付けを弱めることを促す報知が行われる。さらに、所定時間、出力電圧が閾値2を超えているときには超音波システム1の動作が強制停止される。なお、閾値2は、出力生成回路811の定格電圧であってもよい。
【0051】
さらに、閾値3は、出力生成回路811の電源の制約によって決まる値である。出力電圧が閾値3に達している状態では、出力生成回路811はこれ以上の電圧を生成することはできず、超音波手術システム1が異常な動作をしていると考えられる。この場合には、報知をするだけではなく、超音波システム1の動作を強制停止させることが望ましい。
【0052】
図8は、変形例の超音波手術システム1の動作を示すフローチャートである。
図8の処理は、例えば超音波手術システム1の電源がオンされ、入力部22又はフットスイッチ90が操作された時に開始される。なお、
図8の動作は、第1の実施形態と同様に押し付け力を閾値と比較する場合においても適用され得る。
【0053】
ステップS11において、出力生成回路811は、超音波振動子24を駆動するための駆動電力を生成する。入力部22又はフットスイッチ90によって軟骨切削モードであることが指示されたときには、出力生成回路811は、軟骨切削モードのために予め設定された指示値に対応した振幅で超音波振動が発生するように駆動電力を生成する。一方、入力部22又はフットスイッチ90によって皮質骨・海綿骨切削モードであることが指示されたときには、出力生成回路811は、皮質骨・海綿骨切削モードのために予め設定された指示値に対応した振幅で超音波振動が発生するように駆動電力を生成する。
【0054】
ステップS12において、比較回路814は、超音波手術システム1の起動直後のタイミングであるか否かを判定する。ここでの起動直後のタイミングとは、超音波手術システム1の出力電圧の出力開始直後のタイミングのことである。
図7に示すように、超音波手術システム1の出力電圧の出力開始の直後である起動直後のタイミング(約500ms程度)では、瞬間的に大きな出力電圧が発生する。このような瞬間的な大電圧を押し圧力の増加と誤判定しないように、超音波手術システム1の起動直後についてはステップS13−S20の処理が行われないようにする。ステップS12において、超音波手術システム1の起動直後のタイミングであると判定されたときには、処理はステップS21に移行する。ステップS12において、超音波手術システム1の起動直後のタイミングでないと判定されたときには、処理はステップS13に移行する。
【0055】
ステップS13において、比較回路814は、電圧電流検知回路812で検知された現在の出力電圧の値とメモリ815に予め記憶されている出力電圧の閾値とを比較する。そして、比較回路814は、現在の出力電圧の値が閾値3に達しているか否かを判定する。ステップS13において、現在の出力電圧の値が閾値3に達していると判定されたときには、処理はステップS14に移行する。ステップS13において、現在の出力電圧の値が閾値3に達していないと判定されたときには、処理はステップS15に移行する。
【0056】
ステップS14において、比較回路814は、出力生成回路811に対して出力電圧の生成を停止させるように要求する。この要求を受けて、出力生成回路811は、出力電圧の生成を停止する。その後、処理はステップS21に移行する。ステップS14において、操作者に対して超音波手術システム1の動作が停止したことを報知するようにしてもよい。
【0057】
ステップS15において、比較回路814は、現在の出力電圧の値が閾値2を超えているか否かを判定する。ステップS15において、現在の出力電圧の値が閾値2を超えていると判定されたときには、処理はステップS16に移行する。ステップS15において、現在の出力電圧の値が閾値2を超えていないと判定されたときには、処理はステップS18に移行する。
【0058】
ステップS16において、比較回路814は、現在の出力電圧の値が閾値2を超えてから所定時間(例えば3秒)を超えたか否かを判定する。ステップS16において、現在の出力電圧の値が閾値2を超えてから所定時間(例えば3秒)を超えたと判定されたときには、処理はステップS14に移行する。すなわち、所定時間、現在の出力電圧の値が閾値2を超えているときには、出力電圧の生成は停止される。ステップS16において、現在の出力電圧の値が閾値2を超えてから所定時間(例えば3秒)を超えていないと判定されたときには、処理はステップS17に移行する。
【0059】
ステップS17において、比較回路814は、押し付け力が大きい旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による押し付けを弱めることを促す旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS21に移行する。報知は、例えば「もっと弱く押し付けてください」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。すなわち、短時間の出力電圧の増加では強制的に超音波手術システム1が停止されることはなく、報知だけが行われる。また、音声ではなく、特定の音の表音パターンを変えることにより報知が行われてもよい。
【0060】
ステップS18において、比較回路814は、現在の出力電圧の値が閾値1以上であるか否かを判定する。ステップS18において、現在の出力電圧の値が閾値1以上であると判定されたときには、処理はステップS19に移行する。ステップS18において、現在の出力電圧の値が閾値1以上でないと判定されたときには、処理はステップS20に移行する。
【0061】
ステップS19において、比較回路814は、押し付け力が適切である旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による現在の押し付けが適切である旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS21に移行する。報知は、例えば「適度な押し付けです」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。なお、押し付け力が適切であるときには報知が行われなくてもよい。また、音声ではなく、特定の音の表音パターンを変えることにより報知が行われてもよい。
【0062】
ステップS20において、比較回路814は、押し付け力が小さい旨を報知回路816に通知する。この通知を受けて、報知回路816は、操作者による押し付けを強めることを促す旨をモニタ82及びスピーカ83を利用して操作者に報知する。その後、処理は、ステップS21に移行する。報知は、例えば「もっと強く押し付けてください」といった文字をモニタ82に表示させたり、音声をスピーカ83から発するようにしたり、その両者を利用したりすることで行われる。また、音声ではなく、特定の音の表音パターンを変えることにより報知が行われてもよい。
【0063】
ステップS21において、出力生成回路811は、処理を終了するか否かを判定する。例えば、超音波手術システム1の電源がオフされた場合又は入力部22或いはフットスイッチ90の操作が解除された場合に処理を終了すると判定される。ステップS21において、処理を終了すると判定された場合には、
図8の処理は終了する。ステップS21において、処理を終了しないと判定された場合には、処理はステップS11に戻る。
【0064】
以上説明した変形例では押し付け力を直接的に検出せずに出力電圧を押し付け力と見なして第1の実施形態と同様の押し付け力の判定を行うことができる。すなわち、この変形例でも、操作者は、適切な押し付け力で処置を行うことが可能である。
【0065】
なお、変形例では、基本的には出力電圧の瞬時値を閾値と比較している。これに対し、出力電圧の瞬時値ではなく、ある時間内の出力電圧の平均値、積算値、最頻値、最大値等を閾値と比較してもよい。出力電圧のある時間の移動平均値、積算値、最頻値又は最大値と閾値との比較により、瞬間的な出力電圧の変化では報知が行われないようにも構成することができる。これにより、必要以上の報知が抑制される。また、移動平均値、積算値、最頻値、最大値を閾値と比較するときに、移動平均値、積算値、最頻値、最大値のそれぞれが閾値2を超えるか又は閾値1未満となった時に報知が行われるようにしてもよい。また、移動平均値、積算値、最頻値、最大値のそれぞれがある一定時間の間、閾値2を超えるか又は閾値1未満となった時に報知が行われるようにしてもよい。例えば、移動平均値や積算値の場合にはそのままでも均された情報となっているが、ノイズの影響も考慮して一定期間の間、閾値2を越えるか閾値1未満である状態を維持した場合に報知が行われるようにしてもよい。また、最大値の場合には移動平均値の場合よりもノイズ等の影響が懸念される。このため、一定期間のうちの少なくとも半分以上、閾値2を越えるか閾値1未満である場合に報知が行われるようにしてもよい。さらに、最頻値の場合には、押し付け力が十分に反映されている情報と考えられるため、一定期間の間、閾値2を超えるか又は閾値1未満となった時に報知が行われるようにしてもよい。
【0066】
また、出力電圧の変化の仕方によって報知の仕方を変えるようにしてもよい。例えば、出力電圧が閾値2を超えている場合であっても、出力電圧が減少傾向にあればあえて報知をしなくともやがて出力電圧が閾値2を下回るようになると考えられる。このような考え方に基づき、例えば、出力電圧が閾値2を超えていても出力電圧が減少傾向にあるときには押し付けを弱めることを促す旨の報知を行わずに、出力電圧が増加傾向にあるときだけ押し付けを弱めることを促す旨の報知を行うといった構成に代えてもよい。同様に、例えば、出力電圧が閾値1未満であっても出力電圧が増加傾向にあるときには押し付けを強めることを促す旨の報知を行わずに、出力電圧が減少傾向にあるときだけ押し付けを強めることを促す旨の報知を行うといった構成に代えてもよい。
【0067】
さらに、出力電圧の瞬時ではなく、ある時間内の出力電圧の平均値、積算値、最頻値、最大値等を閾値と比較するときには、報知が行われる一定時間の長さを出力電圧の変化の仕方によって変えるようにしてもよい。例えば、出力電圧が閾値2を超えていてかつ出力電圧が減少傾向にあるときの一定時間よりも、出力電圧が閾値2を超えていてかつ出力電圧が増加傾向にあるときの方の一定時間の長さを短くしてもよい。これにより、より緊急性のあるほうである出力電圧が増加傾向にあるときには早期に報知が行われることになる。
【0068】
さらに、本変形例では、3つの閾値に応じて異なる報知がなされるが、閾値の数は3つに限るものではない。例えば閾値1と閾値2の2つでも、4つ以上の閾値に応じて報知が行われてもよい。
【0069】
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態は、現在の押し付け力と範囲とを比較して、その比較結果に応じて操作者に対して報知を行うものである。これに対し、第2の実施形態は、現在の押し付け力と押し付け量の範囲とを比較して、その比較結果に応じて超音波振動子24の振幅をフィードバック制御するものである。
【0070】
図9は、第2の実施形態における制御回路81の構成を示すブロック図である。制御回路81は、出力生成回路811と、電圧電流検知回路812と、インピーダンス検知回路813と、比較回路814と、メモリ815とを有している。第2の実施形態における制御回路81は、比較回路814の出力が出力生成回路811に戻されるように構成されている。
【0071】
第2の実施形態における出力生成回路811は、第1の実施形態における出力生成回路811と同様に皮質骨・海綿骨切削モードと軟骨切削モードとで異なる振幅の超音波振動が発生するように駆動電力を制御する。また、第2の実施形態における出力生成回路811は、軟骨切削モードの際には、現在の押し付け力の値とメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲の上限値又は下限値との差に応じて振幅を増減させるように制御する。例えば、出力生成回路811は、現在の押し付け力の値を(押し付け力)×(振幅)の値を100[N・μm]−300[N・μm]の条件を満たす値とするように振幅を増減させるように制御する。さらに、出力生成回路811は、皮質骨・海綿骨切削モードの際には、現在の押し付け力の値に応じて振幅を増減させるように制御する。例えば、出力生成回路811は、押し付け力が3N以下の場合には、切削量の減少を抑えるために振幅を増加させるように制御する。また、出力生成回路811は、押し付け力が5N以上の場合には、熱の発生を抑えるための安全策として振幅を減少させるように制御する。
【0072】
以上説明したように本実施形態によれば、現在の押し付け力の値とメモリ815に予め記憶されている押し付け力の範囲の上限値又は下限値との差に応じて振幅のフィードバック制御が行われる。このため、操作者は、押し付けの強さを変えることなく、処置を行うことができる。
【0073】
なお、第1の実施形態の変形例と同様に押し付け力は、出力生成回路811の出力電圧として検知されてもよい。この場合、インピーダンス検知回路813はなくてもよい。
【0074】
[第3の実施形態]
以下、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、以下、本実施形態の超音波手術システムを用いた処置方法である。
図10は、超音波手術システム1を用いた処置の流れを示すフローチャートである。
図10は、膝関節における変性軟骨の切削処置の流れを示している。
図10の流れは、膝関節に限らず、肩関節等の他の関節に対する処置に対しでも適用可能である。
【0075】
ステップS101において、医師は、トロッカーを用いて、処置対象の生体組織(ここでは膝関節内の変性軟骨)の位置まで処置具及び関節鏡を挿入できるようにするためのポートを形成する。
【0076】
ステップS102において、医師は、関節鏡用のポートを通して関節鏡及び超音波手術システム1の処置具10を膝関節内に挿入する。
【0077】
ステップS103において、医師は、関節鏡を通してモニタ上に表示される膝関節内の画像を見ながら、超音波手術システム1の処置部181を処置対象である変性軟骨に接触させる。
【0078】
ステップS104において、医師は、例えば入力部22を操作して超音波手術システム1を軟骨溶解モードに設定し、変性軟骨に対して処置具を押し付けつつ、処置具の押し付け具合を確認しながら切削する。このとき、医師の押し付けが強い場合は、例えばモニタ82に「押し付けが強すぎます」と押し付けが強い旨が表示されるので、医師は手を止めることなく、モニタ82を見ながら押し付けを弱めて処置を続行する。その結果、押し付けが適量となった際には、例えばモニタ82に「適度な押し付けです」と表示されるため、医師はモニタ82を見て現状の押し付け具合を保ちながら処置を行う。一方で、医師の押し付けが弱い場合は例えばモニタ82に「押し付けが弱すぎます」と押し付けが弱い旨が表示されるので、医師は手を止めることなく、モニタ82を見ながら押し付けを強めて処置を続行する。その結果、押し付けが適量となった際には、例えばモニタ82に「適度な押し付けです」と表示されるため、医師はモニタ82を見て現状の押し付け具合を保ちながら処置を行う。
【0079】
以上説明したように本実施形態によれば、医師は押し付けが弱すぎて切削量が少ない状態であるのか、あるいは強く押し付けすぎていて周辺組織への熱侵襲がある状態で処置が進んでいるのかを音声やモニタの表示によって直感的に把握することができるため、効率よく、且つ熱侵襲の少ない安全な手術を、手を止めることなく行うことができる。
【0080】
また、第2の実施形態に記載のシステムを使った場合については、医師は押し付け力を気にせず手術を進めることができる。
【0081】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。例えば、前述の各実施形態では、押し付け力は、超音波振動子のインピーダンスに基づいて検知される。しかしながら、押し付け力は、超音波振動子のインピーダンス以外から検知されてもよい。例えば、押し付け力は、歪ゲージ等の力を直接的に検知するセンサによって検知されてもよい。この他、プローブの共振周波数の変化から押し付け力が検知されてもよい。温度から押し付け力が検知されてもよい。
【0082】
また、超音波振動子のインピーダンスから生体組織の状態を識別する技術も知られている。この技術は、前述の各実施形態に適用されてもよい。この場合、識別された生体組織に応じた押し付け力の範囲が選択される。