(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596642
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20191021BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20191021BHJP
G02B 1/118 20150101ALI20191021BHJP
【FI】
G02B5/22
C23C16/27
G02B1/118
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-68753(P2015-68753)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188933(P2016-188933A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(73)【特許権者】
【識別番号】592089607
【氏名又は名称】猪居 武
(74)【代理人】
【識別番号】100090088
【弁理士】
【氏名又は名称】原崎 正
(72)【発明者】
【氏名】馬場 恒明
(72)【発明者】
【氏名】三木 伸一
(72)【発明者】
【氏名】猪居 武
【審査官】
辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−153525(JP,A)
【文献】
特開2011−032159(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0011668(US,A1)
【文献】
特表2014−500973(JP,A)
【文献】
特開2011−191368(JP,A)
【文献】
特開2010−175657(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/006874(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/020295(WO,A1)
【文献】
中国実用新案第202975370(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
C23C 16/27
G02B 1/118
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、ヨウ素含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項2】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、ヨウ素含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項3】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項4】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、フッ化化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、フッ化化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項5】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項6】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項7】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項8】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、有機フッ素化合物ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項9】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項10】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ケイ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第二層となるケイ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のヨウ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項11】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項12】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ケイ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第二層となるケイ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【請求項13】
表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜を、第二層にヨウ素含有DLC膜を、第三層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材。
【請求項14】
真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、および、有機ケイ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第三層となるケイ素含有DLC膜を形成し、次に、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第三層となるケイ素含有DLC膜の表面に、第二層となるヨウ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス及び有機フッ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に積層形成した第二層となるヨウ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のフッ素含有DLC膜を、さらに積層形成したことを特徴とする表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーライトと呼ばれる波長の短い可視光カットの機能を併せ持ち、人体の感覚器官、特に視覚器官を保護する作用をもち、生活リズムを維持する安全性に優れていて、ブルーライト以外の可視光線光量、および近赤外線光量損失の少ない複合基材に関し、さらにその構成は、周期的に配列したナノサイズの凹凸構造として、いわゆるモスアイ構造と呼ばれる整列した円錐形や四角錐形などの錐形体や円柱形構造を持つ表面を構成する透明高分子とこれを支持する光学用透明高分子との最上層にDLCの薄膜を積層した構造からなる表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置LCD、プラズマディスプレイなど各種表示装置から発する光は波長域が紫外線領域の360nmから赤外線領域の1200nmにおよび、そのうち、380〜500nmの波長の光は一般にブルーライトと呼ばれ、生体に障害を及ぼす光として知られるようになった。さらに近年の情報機器の発展と携帯型機器の急速な普及に伴い、各種表示装置、とくに液晶表示装置から発生するブルーライトによる日常的な健康障害のおそれが顕在化した。
すなわち、ブルーライトは一時的な眼精疲労症状を引き起こすのみならず、水晶体を通過してさらに網膜に達し、視神経を障害するおそれがあるとされている。またサーカディアンリズムと呼ばれる生活リズムをかく乱する作用について医学的見地から注意が喚起されている。
【0003】
ブルーライト削減に関連して、太陽光中のブルーライトを避けるために、サングラス用の合成樹脂レンズにおいては、光透過性の少ないブルー系色素と色感覚補正のためのピンク系色素を配合した材料が合成樹脂レンズ、あるいはフィルムとして提案されている(特許文献1、2)。しかしながら、これらの特許文献1、および2においては光安定性が劣る、表面への滲み出し、散逸の可能性がある有機系色素がレンズの着色に使用されているため、効果の継続性、耐久性が不定である。加えてこれら色素は広範囲にわたって健康障害のない可視光までも削減するため、視界は全域にわたって不自然に暗くなり、また同時に明暗のコントラストが損なわれる。
また、めがねによる対応は作業者自身がそれぞれ直接装着することを必要とすることから不便で限定的、受動的な防御方法にとどまる。
別にブルーライトカット効果があるとするシリカ・アルミナ系の複雑な組成の無機ガラスが提案されている(特許文献3)。しかしながらこの提案は重くて剛直ないわゆるガラス板であって通常湾曲している表面をもつ軽量の表示装置に適用できるものではない。
【0004】
一般に液晶表示などの表示装置面が備えるべき性質としては、低反射性と良好な透過光量保持がある。低反射性は太陽、あるいは蛍光灯などの照明に由来する外光からの映り込みを防ぎ、良好な光の透過性は光源からの光の授受、収支を改善し、外光と対抗して視認性に貢献するものである。
これに関してモスアイ構造は表示装置の表面において、入射光に対して屈折率が連続的に変化する構造であることからほぼ無反射の表面を得ることが可能で、同時に光源からの入射光を効率よく取り込んで放射することができる。たとえば透明性の支持材料の上に底部の径が約100nm、高さが約180〜220nm、ピッチが約100nm、アスペクト比(高さ/ピッチ)が1以上であるような周期性をもつナノサイズの紡錘形凸部を有する高分子フィルムは、支持体上にあっても可視光線の範囲において反射率が0.25%以下、透過率が99%以上であることが知られている。しかしながらその構造自体では紫外線カット、ブルーライトカット効果はない。
また透明性の支持材料として汎用されているポリエステル樹脂、あるいはアクリル樹脂は可視光線のほか紫外線、ブルーライトまでをよく透過する、すなわちそれら光線のカット効果はない。
他の光学用透明樹脂として用いられているセルロース系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂についても同様にブルーライトカット効果はない。
【0005】
一方でモスアイ構造への被膜形成による先行技術としては、特許文献(特開2010-44185号公報)には有機ケイ素化合物の加水分解生成物被膜形成(特許文献4)、特許文献(特開2000-71290号公報)には二酸化ケイ素薄膜による撥油性に優れた被膜形成(特許文献5)、特許文献(国際特許WO2013191092A号公報)には有機系樹脂による反射性を変化させることによる着色などデザイン性に優れた構造体(特許文献6)があげられている。しかしながらこれらはいずれもブルーライト削減効果に関するものではない。
【0006】
DLCとは一般的にはダイヤモンド状の構造と、グラファイト状の構造と、水素原子を構造に含むポリエチレン様の高分子構造の三元系の構造からなる非晶質炭素材料である。
DLC生成に当たり、炭素源としてエチレン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素を用いた場合には通常は水素を含む基本的に三元系の構造となる。
【0007】
これらのDLC類は、これまでにそれらの硬度、潤滑性、耐久性に基づいて金属加工工具、から機器の摺動部や軸受部、自動車のエンジン各部にコーティングされて広く利用されてきた。また、レンズにコーティングすることでブルーカットすることも知られている。しかしながら、DLCの屈折率が高いため、DLCコーティングによって反射率の増加を生じ、映り込み、透過量減少等の原因になるが、反射率を低減した表示装置面等へのDLCコーティング技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−83839
【特許文献2】特開2008−74916
【特許文献3】特開2014−141363
【特許文献4】特開2010−44184
【特許文献5】特開2000−71290
【特許文献6】WO2013191092A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)は硬質、潤滑性、耐摩耗性、化学的安定性、耐熱性、表面平滑性などの優れた特徴から、物理的、化学的損傷を受けやすいディスプレイなど表示装置等への応用が期待されるが、表示装置等に用いる透明性基材上へのDLC薄層形成は、ガラス、樹脂より高いDLCの屈折率に起因して、反射率の増加を招き(
図22)、映り込みや、可視光及び工業用用途(赤外線センサーなど)として非常に重要な近赤外光量の減少等の原因になる。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、ブルーライトカット効果を持ち、併せて優れた反射防止性と透過性、可視光線、および赤外線透過性も備えた人の視覚器官を保護し、生活リズムのかく乱を防護することのできる表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を達成するために、請求項1の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、ヨウ素含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0012】
また、
請求項2の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または有機ヨウ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、ヨウ素含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0013】
また、
請求項3の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0014】
また、
請求項4の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0015】
また、
請求項5の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0016】
また、
請求項6の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0017】
また、
請求項7の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0018】
また、
請求項8の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス、有機フッ素化合物ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス、有機ヨウ素化合物ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を形成したことを特徴とする。
【0019】
また、
請求項9の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする。
【0020】
また、
請求項10の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ケイ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第二層となるケイ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のヨウ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする。
【0021】
また、
請求項11の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする。
【0022】
また、
請求項12の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ケイ素化合物単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガスを導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第二層となるケイ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする。
【0023】
また、
請求項13の発明は、表面にモスアイ構造を有する透明基材のそのモスアイ構造表面に、外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜を、第二層にヨウ素含有DLC膜を、第三層にケイ素含有DLC膜を、積層形成したことを特徴とする。
【0024】
また、
請求項14の発明は、真空容器内で表面にモスアイ構造を有する透明基材を導電板上に載置し、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ケイ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ケイ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に、第三層となるケイ素含有DLC膜を形成し、次に、真空容器内に炭化水素ガス及び有機ヨウ素化合物ガスの混合ガス、または、有機ヨウ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に形成した第三層となるケイ素含有DLC膜の表面に、第二層となるヨウ素含有DLC膜を形成した後、真空容器内に炭化水素ガス及び有機フッ素化合物ガスの混合ガス、または、有機フッ素化合物ガス単体を導入すると同時に減圧状態に維持してプラズマを生成し、導電板に負電位のパルス電圧を繰り返し印加して、導電板上の透明基材のモスアイ構造表面に積層形成した第二層となるヨウ素含有DLC膜の表面に、外側表面となる第一層のフッ素含有DLC膜を、さらに積層形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1、請求項3、請求項5、請求項7、請求項9、請求項11、
請求項13の発明によれば、視覚器官に悪影響を及ぼす380〜500nmの波長領域のブルーライトをDLC膜により吸収することができる。そして、ブルーライトがDLC膜で除去された可視光線をモスアイ構造により、その表面で反射するのを防いで透明基材を透過させることができるので、透明基材を透過した可視光全体の透過量が減って暗くなるのを防ぐことができる。このように、本発明に係る表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材は、DLCによる高い物理的強度に加えて、可視光全体の透過量を殆ど減じることなく、視覚器官に悪影響を及ぼすブルーライトのみを除去することができる。そして、本発明によれば、ブルーライトカット効果を持ち、併せて優れた反射防止性と透過性、可視光線、および赤外線透過性も備えた人の視覚器官を保護し、生活リズムのかく乱を防護するフィルムなどの透明基材を提供することができる。
【0026】
また、
請求項1の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、ヨウ素添加によりDLC膜の導電性が高まり、透明基材表面の帯電防止、埃や塵の付着防止の効果を有する。
【0027】
また、
請求項2の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、ヨウ素含有DLC膜を密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚で形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0028】
また、
請求項3の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、フッ素・ヨウ素の混合含有により、DLC膜の撥水性が高まり透明基材の表面に汚れが付着し難くなると共に、帯電を防止し、埃や塵の付着を防止できる効果も有する。
【0029】
また、
請求項4の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚で形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0030】
また、
請求項5の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、ヨウ素・ケイ素の混合含有により、帯電を防止し、埃や塵の付着を抑制できると共に、透明基材の表面との密着性が高まり更に剥がれ難い効果も有する。
【0031】
また、
請求項6の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚で形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0032】
また、
請求項7の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合添加により、撥水性が高まり透明基材の表面に汚れが付着し難くなり、しかも帯電を防止し、埃や塵の付着を抑制できると共に、透明基材の表面との密着性が高まり更に剥がれ難い効果も有する。
【0033】
また、
請求項8の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜を密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚で形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0034】
また、
請求項9の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、第一層のヨウ素添加によりDLC膜の帯電を防止し、埃や塵の付着を抑制でき、しかも第二層のケイ素添加によりDLC膜と透明基材の表面との密着性が高まり更に剥がれ難い効果も有する。
【0035】
また、
請求項10の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚でそれぞれ積層して形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0036】
また、
請求項11の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、第一層のフッ素・ヨウ素の混合添加により、DLC膜表面の撥水性が高まり透明基材の表面に汚れが付着し難くなると共に、帯電を防止し、埃や塵の付着を抑制でき、しかも第二層のケイ素添加により、DLC膜と透明基材の表面との密着性が高まり更に剥がれ難い効果も有する。
【0037】
また、
請求項12の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜を、第二層にケイ素含有DLC膜を、密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚でそれぞれ積層して形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【0038】
また、
請求項13の発明によれば、前記
(0025)の効果に加えて、第一層のフッ素添加によりDLC膜表面の撥水性が高まり透明基材の表面に汚れが付着し難くなり、第二層のヨウ素添加によりDLC膜の帯電を防止し、埃や塵の付着を抑制でき、しかも第三層のケイ素添加によりDLC膜と透明基材の表面との密着性が高まり更に剥がれ難い効果も有する。
【0039】
また、
請求項14の発明によれば、微細な凹凸形状のモスアイ構造の表面に、外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜を、第二層にヨウ素含有DLC膜を、第三層にケイ素含有DLC膜を、密着性を高めて均一にコーティングでき、しかも例えば数nm〜数百nmの膜厚でそれぞれ積層して形成することができる。またヨウ素は成膜速度の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明を実施するための形態を示す表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材を製造する製造装置の構成図である。
【
図2】本発明を実施するための
形態を示す表面にDLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図3】本発明を実施するための
形態−1を示す表面にヨウ素含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図4】本発明を実施するための
形態−2を示す表面にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図5】本発明を実施するための
形態−3を示す表面にヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図6】本発明を実施するための
形態−4を示す表面にフッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図7】本発明を実施するための
形態−5を示す外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜・第二層にケイ素含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図8】本発明を実施するための
形態−6を示す外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜・第二層にケイ素含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図9】本発明を実施するための
形態−7を示す外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜・第二層にヨウ素含有DLC膜・第三層にケイ素含有DLC膜をコーティングしたモスアイ構造を有する透明基材の部分拡大模式断面図である。
【
図10】(A)はBruggmanの有効媒質近似による屈折率変化を示す図、(B)は同図(A)の計算模式図である。
【
図11】モスアイ構造を有するフィルム基材のDLCコーティング有無における反射率特性を示す図である。
【
図12】DLCコーティングしたモスアイ構造を有するフィルム基材の透過率を示す図である。
【
図13】DLCコーティングによるブルーライトカットを示す図である。
【
図14】フッ素含有DLC、フッ素・ヨウ素の混合含有DLCをコーティングしたモスアイ構造のフィルム基材の透過率を示す図である。
【
図15】フッ素含有DLC、ヨウ素含有DLCをコーティングしたモスアイ構造のフィルム基材の透過率を示す図である。
【
図16】フッ素・ヨウ素の混合含有DLCをコーティングしたモスアイ構造のフィルム基材の透過率を示す図である。
【
図17】DLC膜厚10nm程度のモスアイ構造を有するフィルム基材のDLCコーティング有無、非モスアイ構造のDLCをコーティングしたモスアイ構造のフィルム基材との430nm透過率、700nm透過率を比較する表である。
【
図18】DLCの膜厚変化によるブルーカット率(430nmにおけるモスアイ透過率-DLCモスアイ透過率)の変化を示す図である。
【
図19】フィルム基材のDLCコーティング有無における反射率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に記載の発明を実施するための形態に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
本発明者らは、高い透過光量、ブルーカット、高い物理的強度を備え持つ表示装置に適した資材について鋭意検討するなかで、モスアイ構造物へのDLC被膜形成(
図2)に着想した。背景技術に記載のとおりモスアイ構造物への被膜形成の事例はあるが、これらの被膜物質とモスアイ資材の屈折率は同等程度であり、コーティングによって光学値(屈折率に起因する反射率等)が影響しないことは明らかである。一方、屈折率の高いDLC被膜の形成における光学的影響については未知であり、モスアイ構造物及びモスアイ構造物ではない樹脂の表面に高屈折率のダイヤモンドライクカーボンをコーティングしたときの屈折率変化をBruggmanの有効媒質近似によって計算した
(図10)。反射率は、屈折率差が大きいほど高くなる。モスアイ構造物では、表面に高屈折率の物質が存在しても、屈折率変化がなだらかであり、反射率増加を抑制できることを明らかにした。
【0042】
また、モスアイ構造物の凹凸構造上にDLC膜を積層させ、表示装置等の資材に用いるには、通常の化学蒸着では密着性が乏しく、実用性に欠ける。そこで、イオン注入との併用により密着性を高めることを創案した。こうして作製したDLCコーティングモスアイ構造物は、反射率の増加を抑制し
(図11)、高い透過率を示す
(図12)。このことは、通常、屈折率の高い物質によるコーティングは反射率を増加させることから、革新的な結果といえる。また、
図13で示すように通常のモスアイフィルムと比較して、ブルー領域の透過率が小さく、ブルーカットの機能を有している。
【0043】
さらに、本発明においては、DLCにハロゲン、ケイ素等の機能性を付与できる各種元素をドープしても、光学特性は維持できることも明らかにした。機能性として、フッ素では撥水性向上、ケイ素では密着性向上、ヨウ素では導電率向上などが挙げられる。この際、用いる元素は単体及び複合であってもよい。
図14にフッ素単体、フッ素及びヨウ素を含んだDLC膜−モスアイフィルムの透過率を示すが、近赤外域の高い透過量、ブルーライト領域の光量のカットは維持されている。また、
図15のヨウ素添加の事例にみられるように、ハロゲンを用いた場合、ハロゲン特有色によるブルーライトカット効果の向上も期待できる。さらに、ヨウ素においては成膜速度の向上効果も併せ持つ。
【0044】
すなわち、本発明では、モスアイ構造と呼ばれる整列した微細な凹凸を有する超低反射性の光学基材の最表面にダイヤモンドライクカーボンDLCの薄膜を積層させて得られるブルーライトカット作用をもちモスアイ構造がもつ導光性と反射防止性、DLCが持つ光学的、機械的(注:補強作用などのこと)特性を両立、助長させた複合基材、また、各種元素の添加により機能性を付与した複合素材を提供できる。
【0045】
最表面に配列したナノサイズの微細な凹凸を有する周期的に配列したモスアイ構造をもつ三次元架橋された高分子薄層は、たとえば光架橋剤を含むアクリル樹脂に凹型鋳型をもって成型したあと紫外線照射を行って硬化し、同時にロールツーロール方式で支持体となるポリエステルのような有機ポリマーに圧着接合し、一体化して得られるモスアイ構造2を有する透明基材1である。
【0046】
組成が水素、フッ素、ヨウ素、ケイ素のいずれか、あるいはこれら元素の組み合わせからなるDLC膜3を、透明基材1のモスアイ構造2の表面に積層させて得られる複合基材である。
【0047】
この表面にDLC膜3をコーティングしたモスアイ構造2を有する透明基材1は、ブルーライトとなる波長380〜500nmまでの間の光源からの光量をカットする。ブルーライトのカット率は膜厚により任意に制御でき
(図18)、波長430nmにおけるブルーライトのカット率は0.5%から70%程度である。
【0048】
この表面にDLC膜3をコーティングしたモスアイ構造2を有する透明基材1は、ナノ凹凸構造の典型例の一つであるモスアイ構造を持つ基材の表層にDLC膜3をコーティングして積層した構造からなるブルーライトカットする基材である。このモスアイ構造2を有する透明基材1にはフィルム等も含まれる。
【0049】
表面にモスアイ構造をもつフィルムとしては、市販の製品があり、たとえば三菱レイヨン(株)製の商品名「モスマイト」を使用することができる。
【0050】
本発明の実施の形態は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされ、あるいは変更することができる。たとえばモスアイ構造と相似の構造とかなりの反射防止効果があるミクロンサイズの凹凸(サンドブラスト)をもつ表面にも本発明のDLCを用いることができる。
【0051】
本発明の透明基材には透光性を妨げない範囲で着色剤(顔料、染料、蛍光剤)を加えることができる。
【0052】
本発明の透明素材は表示装置に好適に用いることができる。すなわち、液晶表示装置、プラズマ・ディスプレイパネル、無機、および有機エレクトロルミネッセンス表示装置などである。それらの構成部材としては発光性表示素子、各種光源、光拡散シート、位相差板、偏光板、さらにレンズ、額縁用ガラス、ショウウインドウ用ガラス、光学レンズ、携帯電話用表示面などである。
【0053】
ブルーライトカットする機能をもつ表面にDLC膜3をコーティングしたモスアイ構造2を有する透明基材1は、モスアイ構造2の表面に積層形成されるDLC膜の含まれる組成成分の水素、フッ素、ヨウ素、ケイ素により、実施の形態−1
(図3)〜実施の
形態−7(図9)に示すような組み合わせがある。そして、表面にDLC膜3をコーティングしたモスアイ構造2を有する透明基材1は、
図1に示す構造の製造装置により製造され、その組み合わせに応じて次のような製造方法が行われる。
【0054】
図1に示す構造の製造装置において、モスアイ構造2を有する透明基材1の表面にイオン注入で非晶質化のDLC膜3をコーティングするために使用される真空容器5には、排気手段の真空ポンプ51及びイオン注入のための各種の原料ガスを導入するための原料ガス導入路52がそれぞれ接続されている。
【0055】
真空容器5の近くには原料ガス供給部6が設けられている。この原料ガス供給部6には例えば、DLC膜3の原料ガスとなる炭化水素ガスとして例えばアセチレンガスが入っているアセチレンガス封入容器61、フッ素含有DLC膜31の原料ガスとなる有機フッ素化合物ガスとして例えば四フッ化メタンガスが入っている四フッ化メタンガス封入容器62、ヨウ素含有DLC膜32の原料ガスとなる有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガスが入っているトリフルオロヨードメタンガス封入容器63、ケイ素含有DLC膜33の原料ガスとなる有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガスが入っているテトラメチルシランガス封入容器64などが収容されている。
【0056】
なお、DLC膜3の原料ガス等に用いる炭化水素ガスとして、前記したアセチレンガスを含め、アルカン、シクロアルカン、アルケン、シクロアルケン、アルキン、シクロアルキン、芳香族化合物等のガスが使用できる。DLC膜31の原料ガス等に用いる有機フッ素化合物ガスは、前記した四フッ化メタンガスを含め、上述の炭化水素ガスの水素原子の一部または全部がフッ素により置換したガスが使用できる。DLC膜32の原料ガス等に用いる有機ヨウ素化合物ガスは、前記したトリフルオロヨードメタンガスを含め、上述の炭化水素ガスの水素原子の一部または全部がヨウ素により置換したガスが使用できる。DLC膜33の原料ガス等に用いる有機ケイ素化合物ガスは、前記したテトラメチルシランガスを含め、上述の炭化水素ガスの炭素原子の一部または全部をケイ素により置換したガスが使用できる。使用するガスは単体、または、混合ガスであってもよい。また、DLC形成の妨げにならない範囲で、これらの炭化水素ガスの構成元素の一部が窒素など他の元素で置換されていてもよい。
【0057】
各封入容器61〜64は、原料ガス導入路52に分岐枝導入路52aを通じて接続されている。これらの分岐枝導入路52aには、マスフローコントローラー52bがそれぞれ取り付けられている。マスフローコントローラー52bの制御を通じて、各封入容器61〜64内から真空容器5内に供給される原料ガスの流入量が調整されている。
【0058】
真空容器5内には、非導電性のモスアイ構造2を有する透明基材1を載置する導電板53が配置されている。この導電板53には例えばステンレス板が使用されている。導電板53は支持部材53aを通じて真空容器5の底部に支持されている。図では支持部材53aは真空容器5の底部を貫通して外部に延びていて、パルス電源54に接続している。支持部材53aは絶縁材で構成されている。
【0059】
この絶縁材で構成される支持部材53aの筒状の内部には図示しない配線ケーブルが挿入されていて、配線ケーブルの一端は導電板53に接続され、他端は外部のパルス電源54に接続されている。真空容器5の内部の導電板53にはこの配線ケーブルを通じてパルス電源54から負電位のパルスバイアスが周期的に印加される。また、真空容器2の内部にはプラズマを発生させるための高周波電力用のアンテナ55が配置されている。
【0060】
〔
実施の形態−1〕
図3に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、ヨウ素含有DLC膜32が積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0061】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度1.9×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0062】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をヨウ素含有DLC膜32でコーティングする。
【0063】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、ヨウ素含有DLC膜32を積層して形成する。ヨウ素含有DLC膜32の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0064】
〔
実施の形態−2〕
図4に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34が積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0065】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機フッ素化合物ガスとして例えば四フッ化メタンガス封入容器62から真空容器5内に1分間当たり10ccの四フッ化メタンガスを導入し、さらに有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度3.9×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0066】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34でコーティングする。
【0067】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34を積層して形成する。フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0068】
〔
実施の形態−3〕
図5に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜35が積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0069】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入し、さらに有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガス封入容器64から真空容器5内に1分間当たり4ccのテトラメチルシランガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度2.3×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0070】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜35でコーティングする。
【0071】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜35を積層して形成する。ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜35の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0072】
〔
実施の形態−4〕
図6に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜36が積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0073】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、有機フッ素化合物ガスとして例えば四フッ化メタンガス封入容器62から真空容器5内に1分間当たり10ccの四フッ化メタンガスを導入し、また有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入し、さらに有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガス封入容器64から真空容器5内に1分間当たり4ccのテトラメチルシランガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度4.5×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0074】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をフッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜36でコーティングする。
【0075】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜36を積層して形成する。フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜36の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0076】
〔
実施の形態−5〕
図7に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜32が、その下層の第二層にケイ素含有DLC膜33が、積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0077】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガス封入容器64から真空容器5内に1分間当たり4ccのテトラメチルシランガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば1.8×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0078】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をケイ素含有DLC膜33でコーティングする。このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜33を積層して形成する。
【0079】
続いて、原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば1.9×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0080】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面に既にコーティングされているケイ素含有DLC膜33の表面をヨウ素含有DLC膜32でさらにコーティングする。
【0081】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の外側表面となる第一層にヨウ素含有DLC膜32を、その下層の第二層にケイ素含有DLC膜33を、それぞれ積層して形成する。第一層にヨウ素含有DLC膜32の膜厚及び第二層のケイ素含有DLC膜33の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0082】
〔
実施の形態−6〕
図8に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34が、その下層の第二層にケイ素含有DLC膜33が、積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0083】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガス封入容器64から真空容器5内に1分間当たり4ccのテトラメチルシランガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば1.8×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0084】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をケイ素含有DLC膜33でコーティングする。このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、第二層となるケイ素含有DLC膜33を積層して形成する。
【0085】
続いて、真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機フッ素化合物ガスとして例えば四フッ化メタンガス封入容器62から真空容器5内に1分間当たり10ccの四フッ化メタンガスを導入し、さらに有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度3.1×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0086】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面に既にコーティングされているケイ素含有DLC膜33の表面をフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34でコーティングする。
【0087】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の外側表面となる第一層にフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34を、その下層の第二層にケイ素含有DLC膜33を、それぞれ積層して形成する。第一層のフッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜34の膜厚及び第二層のケイ素含有DLC膜33の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【0088】
〔
実施の形態−7〕
図9に示す透明基材1は、その表面にモスアイ構造2を有し、モスアイ構造2の表面にはコーティングにより、外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜31が、その下層の第二層にヨウ素含有DLC膜32が、更にその下層の第三層にケイ素含有DLC膜33が、積層して形成されている。そして、この透明基材1は
図1に示す構造の製造装置を使用して次のような方法で製造される。
【0089】
真空容器5内に表面にモスアイ構造2を有する透明基材1を導電板53上に載置する。モスアイ構造2を有する透明基材1のサイズは例えば3cm×3cm×0.03mmが使用される。原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ケイ素化合物ガスとして例えばテトラメチルシランガス封入容器64から真空容器5内に1分間当たり4ccのテトラメチルシランガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度1.8×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0090】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面をケイ素含有DLC膜33でコーティングする。このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の表面に、第三層となるケイ素含有DLC膜33を積層して形成する。
【0091】
続いて、原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機ヨウ素化合物ガスとして例えばトリフルオロヨードメタンガス封入容器63から真空容器5内に1分間当たり4ccのトリフルオロヨードメタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度1.9×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0092】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面に既にコーティングされているケイ素含有DLC膜33の表面をヨウ素含有DLC膜32でさらにコーティングする。
【0093】
さらに続けて、原料ガス供給部6のマスフローコントローラー52bを制御して、炭化水素ガスとして例えばアセチレンガス封入容器61から真空容器5内に1分間当たり15ccのアセチレンガスを導入し、また有機フッ素化合物ガスとして例えば四フッ化メタンガス封入容器62から真空容器5内に1分間当たり10ccの四フッ化メタンガスを導入する。同時に真空ポンプ51を作動させて真空容器5内の排気を行い続けて、一定の濃度の例えば真空度2×10
-2torrの減圧状態に維持する。
【0094】
一定の濃度に達したところで、高周波電源から例えば13.56MHzの高周波をアンテナ55に伝送することにより、真空容器5内に高周波放電によるプラズマを生成させる。また、導電板53にパルス電源54から電圧10KV、パルス幅100μs、パルス周波数100Hzの負電位のパルス電圧を繰り返し印加することによって、プラズマ中の正イオンを透明基材1のモスアイ構造2の表面に吸引加速する。注入と同時に透明基材1のモスアイ構造2の表面に既にコーティングされているヨウ素含有DLC膜32の表面をフッ素含有DLC膜31でさらにコーティングする。
【0095】
このようにして、導電板53上の透明基材1のモスアイ構造2の外側表面となる第一層にフッ素含有DLC膜31を、その下層の第二層にヨウ素含有DLC膜32を、さらにその下層の第三層にケイ素含有DLC膜33を、それぞれ積層して形成する。第一層のフッ素の膜厚、第二層のヨウ素含有DLC膜32の膜厚及び第三層のケイ素含有DLC膜33の膜厚は注入時間に比例し、膜厚を厚くしたいときは注入時間は長くなる。
【符号の説明】
【0096】
1 透明基材
2 モスアイ構造
3 DLC膜
31 フッ素含有DLC膜
32 ヨウ素含有DLC膜
33 ケイ素含有DLC膜
34 フッ素・ヨウ素の混合含有DLC膜
35 ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜
36 フッ素・ヨウ素・ケイ素の混合含有DLC膜
5 真空容器
51 真空ポンプ
52 原料ガス導入路
52a 分岐枝導入路
52b マスフローコントローラー
53 導電板
53a 支持部材
54 パルス電源
55 アンテナ
6 原料ガス供給部
61 アセチレンガス封入容器
62 四フッ化メタンガス封入容器
63 トリフルオロヨードメタンガス封入容器
64 テトラメチルシランガス封入容器