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特許6596731角度検出装置、無線通信システム、角度検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596731
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】角度検出装置、無線通信システム、角度検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/48 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   G01S3/48
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-36956(P2015-36956)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-161282(P2016-161282A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】家氏 策
(72)【発明者】
【氏名】冨永 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】前田 孝士
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−230974(JP,A)
【文献】 特開2009−216470(JP,A)
【文献】 特開2012−168194(JP,A)
【文献】 特開2003−240832(JP,A)
【文献】 特開2009−180514(JP,A)
【文献】 草場 克也 Katsuya Kusaba,ETC車輌位置計測用DOAセンサアレーの設計法,電子情報通信学会1999年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 1999 COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE OF IEICE,1999年,p145
【文献】 中澤 利之 Toshiyuki NAKAZAWA,不等間隔アレーを用いた方位推定 Estimating Angle of Arrival with Non-uniformly Spaced Array,電子情報通信学会論文誌 (J83−B) 第6号 THE TRANSACTIONS OF THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS B,日本,社団法人電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS,第J83-B巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00− 3/74
7/00− 7/42
13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波の位相差を検出する位相差検出部と、
前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値を算出する候補値演算部と、
複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値を特定する到来角度特定部と、
を備え、
前記候補値演算部は、
複数の前記組み合わせに係る前記位相差(φ)のそれぞれについて、前記位相差(φ)、位相差(φ+360°×n)および位相差(φ−360°×n)(n=1,2,・・)についての到来角度候補を演算し、
前記位相差(φ)、前記位相差(φ+360°×n)および前記位相差(φ−360°×n)についての到来角度候補が算出不可であった場合には、その旨を示す情報を出力し、
前記到来角度特定部は、
三組以上の前記組み合わせのそれぞれについて前記候補値が算出された場合には、前記候補値の最頻値を前記検出値として特定する
角度検出装置。
【請求項2】
前記位相差検出部は、
一の前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔が、他の前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔の整数倍とならない複数の前記組み合わせを選択する
請求項1に記載の角度検出装置。
【請求項3】
前記位相差検出部は、
複数の前記組み合わせの中に、一つ以上の前記アンテナ素子を挟んで配置された二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを含む
請求項1又は請求項2に記載の角度検出装置。
【請求項4】
前記到来角度特定部は、
一の前記組み合わせについて算出された複数の前記候補値のうち、他の前記組み合わせについて算出された複数の前記候補値のうちの何れか一つと共通する一の候補値を、前記検出値として特定する
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の角度検出装置。
【請求項5】
三つ以上の前記アンテナ素子で受信した前記到来波の振幅及び位相に対する信号処理に基づいて前記到来波の到来角度の推定値を算出する信号処理部を更に備え、
前記到来角度特定部は、
前記候補値に基づいて特定した前記検出値が前記信号処理に応じた推定可能範囲内にある場合には、前記信号処理に基づいて算出された前記推定値を、前記検出値として特定する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の角度検出装置。
【請求項6】
前記到来角度特定部は、
複数の前記到来角度の候補値に基づいて特定した前記検出値(θ[rad])が、前記到来波の波長(λ[m])、及び、三つ以上の前記アンテナ素子の間隔(d[m])に対し、|θ|<sin−1(λ/2d)の条件を満たす前記推定可能範囲内にある場合に、前記信号処理に基づいて算出された前記推定値を、前記検出値として特定する
請求項5に記載の角度検出装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の角度検出装置と、
三つ以上の前記アンテナ素子を有し、車線を走行する車両に搭載された車載器からの前記到来波を受信するアレイアンテナと、
を備える
無線通信システム。
【請求項8】
基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波の位相差を検出するステップと、
前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値を算出するステップと、
複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値を特定するステップと、
を有し、
前記到来波の到来角度の候補値を算出するステップでは、更に、
複数の前記組み合わせに係る前記位相差(φ)のそれぞれについて、前記位相差(φ)、位相差(φ+360°×n)および位相差(φ−360°×n)(n=1,2,・・)についての到来角度候補を演算し、
前記位相差(φ)、前記位相差(φ+360°×n)および前記位相差(φ−360°×n)についての到来角度候補が算出不可であった場合には、その旨を示す情報を出力し、
前記前記到来角度の検出値を特定するステップにおいて、
三組以上の前記組み合わせのそれぞれについて前記候補値が算出された場合には、前記候補値の最頻値を前記検出値として特定する
角度検出方法。
【請求項9】
角度検出装置のコンピュータを、
基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波の位相差を検出する位相差検出手段、
前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値を算出する候補値演算手段、
複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値を特定する到来角度特定手段、
として機能させ、
前記候補値演算手段は、
複数の前記組み合わせに係る前記位相差(φ)のそれぞれについて、前記位相差(φ)、位相差(φ+360°×n)および位相差(φ−360°×n)(n=1,2,・・)についての到来角度候補を演算し、
前記位相差(φ)、前記位相差(φ+360°×n)および前記位相差(φ−360°×n)についての到来角度候補が算出不可であった場合には、その旨を示す情報を出力し、
前記到来角度特定手段は、
三組以上の前記組み合わせのそれぞれについて前記候補値が算出された場合には、前記候補値の最頻値を前記検出値として特定する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度検出装置、無線通信システム、角度検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路等の有料道路における入口料金所、出口料金所等では、走行中の車両と自動的に無線通信を確立し、電子決済により課金処理を行う電子式料金収受システム(ETC(登録商標):Electronic Toll Collection System、「自動料金収受システム」とも言う)が利用されている。電子式料金収受システムでは、車線を走行する車両が所定の通信可能エリアに到来した際に、車線上に設置された無線通信機と、利用者の車両に搭載された車載器と、が自動的に無線による通信処理を行うことで課金処理がなされる。このように、無線通信により車両の走行を阻害することなく課金処理が行われることで、渋滞の発生を効果的に抑制することができる。
【0003】
上述の入口料金所等では、通常、複数の走行レーンが並列して敷設されており、上述の無線通信機も当該複数の走行レーンの各々に対応して設置される。この場合において、一の走行レーンに対応する無線通信機は、他の走行レーンを走行する車両の車載器との無線通信(誤通信)がなされてしまうことを避けるため、その通信可能エリアが予め対応する走行レーン(自走行レーン)の範囲内に制限されている。
【0004】
しかしながら、無線通信機の周囲には、入口料金所等を構成する様々な建造物(天井、柱等)が存在している。したがって、無線通信機が放射する電磁波が上記建造物等で反射することで、設計上想定しない領域にまで放射される可能性が生じる。そうすると、このような想定していない反射によって、例えば、自走行レーンに隣接する他の走行レーンを走行する車両との誤通信を引き起こす可能性がある。
このような問題を解決するため、天井等の上記建造物の表面に電波吸収材料を設けて電磁波の反射を抑制することで、想定されていない車両との誤通信を防止する策が講じられている。
【0005】
しかしながら、上述の電波吸収材料は高価であるばかりでなく、上記建造物への確実な設置、及び、維持のために設置コスト、維持コストが余計にかかってしまう。
【0006】
一方、上記電波吸収材料を用いる方法とは別に、複数のアンテナ素子を配列してなるアレイアンテナを用いることで、到来する電磁波の到来角度を推定するとともに、所望する到来角度から電波が到来した場合にのみ課金用の無線通信を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4810730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記アレイアンテナを用いて到来角度を推定する方法においては、主に、複数のアンテナ素子の各々が受信した到来波(電磁波)の位相差に基づいて到来角度を推定する。しかしながら、一般に、同一の周波数からなる二つの電磁波の位相差は、±360°(2π)×n(nは整数)の不確定性を有することが知られている。即ち、所定の位相差検出器を通じて二つの電磁波の位相差φを検出した場合であっても、当該検出した位相差φをもって、上記二つの電磁波の実際の位相のずれが、更に、n周期(360°×n)ずれているか否かを特定することができない。
【0009】
そのため、上述のアレイアンテナの構造(複数のアンテナ素子の間隔)、電磁波の波長等に基づく所定の条件を満たさない角度から到来する電磁波については、検出した位相差に応じた演算結果(解)が複数存在し、電磁波の到来角度を一意に特定することができない場合が生じる。そうすると、信号処理の方式次第では、真の到来角度とは異なる角度から電磁波が到来しているものと誤認識する場合がある。
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであって、電磁波の到来角度の誤認識を抑制可能な角度検出装置、無線通信システム、角度検出方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子(10a、10b、10c)のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波(E)の位相差(φ、φ)を検出する位相差検出部(200)と、前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔(d、d)と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値(θ11〜θ14、θ21〜θ24)を算出する候補値演算部(201)と、複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値(θd)を特定する到来角度特定部202と、を備える角度検出装置(20A)である。
このようにすることで、位相差の不確定性により一組のアンテナ素子の組み合わせだけでは、到来角度の解(候補値)を一つに特定できない場合であっても、他の一組のアンテナ素子の組み合わせから得られる解を参照して絞り込むことで、解の確度を向上させることができる。したがって、従来、解を一つに特定できなかった到来角度から入射した場合であっても、当該到来角度から入射したことを精度よく検出することができる。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、上述の角度検出装置に係る前記位相差検出部は、一の前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔が、他の前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔の整数倍とならない複数の前記組み合わせを選択する。
このようにすることで、アンテナ素子の複数の組み合わせの各々について算出された候補値によっても到来角度を一意に特定できなくなることを防止することができる。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、上述の角度検出装置に係る前記位相差検出部は、複数の前記組み合わせの中に、一つ以上の前記アンテナ素子を挟んで配置された二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを含む。
このようにすることで、一のアンテナ素子の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔と、他のアンテナ素子の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔と、の差を大きくすることができるので、到来角度を一層精度良く特定できる。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、上述の角度検出装置に係る前記到来角度特定部は、一の前記組み合わせについて算出された複数の前記候補値のうち、他の前記組み合わせについて算出された複数の前記候補値のうちの何れか一つと共通する一の候補値を、前記検出値として特定する。
このようにすることで、到来角度の検出値を、異なるアンテナ素子の組み合わせに渡って共通する一つの候補値に絞り込むことができるので、簡素な処理で、複数の候補値のうち最も確度の高い一の候補値を検出値として選出することができる。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、上述の角度検出装置は、三つ以上の前記アンテナ素子で受信した前記到来波の振幅及び位相に対する信号処理に基づいて前記到来波の到来角度の推定値(θs)を算出する信号処理部(203)を更に備え、前記到来角度特定部は、前記候補値に基づいて特定した前記検出値が前記信号処理に応じた推定可能範囲内にある場合には、前記信号処理に基づいて算出された前記推定値を、前記検出値として特定する。
このようにすることで、到来波についてのベクトル演算(振幅及び位相)に基づいて推定値を一意に特定可能な範囲から電磁波が到来していると見込まれる場合には、別途、当該信号処理に基づく到来角度推定処理を行い、その算出結果である推定値を出力する。したがって、一層精度の高い検出結果を得ることができる。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、上述の角度検出装置に係る前記到来角度特定部は、複数の前記到来角度の候補値に基づいて特定した前記検出値(θ[rad])が、前記到来波の波長(λ[m])、及び、三つ以上の前記アンテナ素子の間隔(d[m])に対し、|θ|<sin−1(λ/2d)の条件を満たす前記推定可能範囲内にある場合に、前記信号処理に基づいて算出された前記推定値を、前記検出値として特定する。
このようにすることで、信号処理に基づいて推定値を一意に算出可能な到来波の位相差が180°〜−180°(+π〜−π)の範囲で与えられる場合において、当該条件を満たす到来角度で到来波を入射した場合にのみ、信号処理に基づく到来角度推定処理を行うことができる。
【0017】
また、本発明の一態様は、上述の角度検出装置と、三つ以上の前記アンテナ素子を有し、車線(L1、L2)を走行する車両(A1、A2)に搭載された車載器からの前記到来波を受信するアレイアンテナと、を備える無線通信システム(1A)である。
【0018】
また、本発明の一態様は、基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波の位相差を検出するステップと、前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値を算出するステップと、複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値を特定するステップと、を有する角度検出方法である。
【0019】
また、本発明の一態様は、角度検出装置のコンピュータを、基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子のうち二つの前記アンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子で受信した到来波の位相差を検出する位相差検出手段、前記位相差と、当該位相差の検出に用いた前記組み合わせに係る二つの前記アンテナ素子の間隔と、に基づいて、前記到来波の到来角度の候補値を算出する候補値演算手段、複数の前記組み合わせの各々について算出された前記候補値に基づいて、前記到来角度の検出値を特定する到来角度特定手段、として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
上述の角度検出装置、無線通信システム、角度検出方法及びプログラムによれば、電磁波の到来角度の誤認識を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態に係る無線通信システムの概要を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る無線通信システムの機能構成を示す図である。
図3】第1の実施形態に係るアレイアンテナの構造を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第1の図である。
図5】第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第2の図である。
図6】第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第3の図である。
図7】第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第4の図である。
図8】第2の実施形態に係る無線通信システムの機能構成を示す図である。
図9】第2の実施形態に係る角度検出装置の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る無線通信システムについて、図1図7を参照ながら説明する。
【0023】
(全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る無線通信システムの概要を示す図である。
第1の実施形態に係る無線通信システム1Aは、図1に示すように、有料道路である高速道路の入口料金所、出口料金所等に敷設された料金収受設備1に備えられる。
ここで、料金収受設備1は、車線L1、L2を走行する車両A1、A2等に搭載された専用の車載器と無線による通信処理(無線通信)を行い、電子決済による課金処理を行う。
【0024】
図1に示すように、料金収受設備1は、無線通信システム1Aと、進入側車両検知器30と、発進制御装置40と、発進側車両検知器50と、を備えている。
無線通信システム1Aは、車両A1、A2に搭載された車載器との無線通信を経て課金処理を行うシステムである。無線通信システム1Aは、料金収受設備1の各車線L1、L2の各々に対応して設けられる。
進入側車両検知器30は、車線L1、L2の路側に設けられ、車線Lを走行する車両A1、A2の車体の存在の有無を判別し、車両A1、A2一台分の進入及び通過を検出する。
発進制御装置40は、車線L1、L2を走行する車両A1、A2の発進制御を行う。例えば、発進制御装置40は、車両A1との課金処理が正規に行われなかった場合には、車両A1の退出を制限すべく車線L1を閉塞する。また、発進制御装置40は、車両A1に対する課金処理が正規に完了した場合には、車線L1を開放する。
【0025】
発進側車両検知器50は、車両A1、A2の料金収受設備1からの退出を検知する。発進側車両検知器50は、上述の進入側車両検知器30と同様の仕組みにより、車両A1、A2の通過及び退出を検出する。
【0026】
無線通信システム1Aは、図1に示すように、無線通信機10と、路側システム20と、を有してなる。
無線通信機10は、料金収受設備1に建造される天井Rに取り付けられ、車線L1、L2上において予め規定された通信可能エリアQ1、Q2に進入した車両A1、A2(の車載器)との間で課金処理用の無線通信を行う。
路側システム20は、無線通信機10と車両A1、A2との無線通信の結果に基づいて、課金処理を行う。また、路側システム20は、例えば、車両A1、A2に対する課金処理が正規に行われたことを検知して発進制御装置40を開放するなど、料金収受設備1において必要な連携動作を司る。
【0027】
なお、本実施形態に係る無線通信機10は、内部にアレイアンテナ10Aを有している。後述するように、アレイアンテナ10Aは、車両A1、A2に搭載される車載器からの電磁波の到来角度を検出するために用いられる。
ここで、図1において、車線L1に対応して設けられた無線通信機10は、当該車線L1上に規定された通信可能エリアQ1に進入した車両A1との無線通信を行うことが想定されている。同様に、車線L2に対応して設けられた無線通信機10は、当該車線L2上に規定された通信可能エリアQ2に進入した車両A2との無線通信を行うことが想定されている。
しかしながら、料金収受設備1の運用において、天井R等の建造物、又は、走行車両等のその他の障害物の存在に起因して、想定しない電磁波の反射が起こり得る。例えば、車線L2を走行する車両A2の車載器が放射した電磁波が天井R等における反射を経て、車線L1に対応して設けられた無線通信機10に到来し得る。そうすると、当該無線通信機10は、到来した電磁波が車線L1を走行する車両A1から発せられたものと誤認識し、路側システム20の誤動作を引き起こす。
【0028】
そこで、本実施形態に係る路側システム20は、上述のアレイアンテナ10Aを通じて車載器からの電磁波の到来角度を検出する機能を有するとともに、当該到来角度の検出値に基づいて、対応する車線(車線L1、L2)を走行する車両(車両A1、A2)との無線通信が行われているか否かを判断する。
【0029】
(無線通信システムの機能構成)
図2は、第1の実施形態に係る無線通信システムの機能構成を示す図である。
また、図3は、第1の実施形態に係るアレイアンテナの構造を示す図である。
図2に示すように、無線通信システム1Aは、無線通信機10と、路側システム20と、を備えている。
【0030】
無線通信機10は、上述したアレイアンテナ10Aを有している。また、路側システム20は、アレイアンテナ10Aが受信した電磁波(到来波)を受け付けて、当該電磁波の到来角度を検出する角度検出装置20Aを有している。
【0031】
ここで、アレイアンテナ10Aの構造について、図3を参照しながら詳細に説明する。
図3に示すように、アレイアンテナ10Aは、基板11上における所定の基準線(例えば、図3に示すX軸方向)に沿って三つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10b及び第3アンテナ素子10c)が配列されてなる。
第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとの間隔dは、d=0.6λとなるように配置されている。また、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの間隔dは、d=1.3λとなるように配置されている。
なお、“λ”は、無線通信機10及び車載器との無線通信に用いる電磁波の波長である。なお、本実施形態において、無線通信機10及び車載器の間で行われる無線通信には、例えば、5.8GHz程度の周波数の電磁波が用いられる。この場合、波長λは、概ね5cm程度となる。
【0032】
図3に示すように、各アンテナ素子(第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10c)は、車載器から放射された電磁波である到来波Eを受信する。この際、到来波Eは各アンテナ素子に対し、所定の到来角度θで入射する。ここで、到来角度θは、基板11の板面(XY平面)の法線方向を基準とした到来波Eの入射角度である。
なお、間隔d、dに比べ、無線通信機10と車両A1、A2(車載器)との間隔が十分に大きいことを考慮すると、到来波Eは、第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10b、第3アンテナ素子10cの各々に対し、同一の到来角度θで到来する平面波と見なすことができる。
【0033】
そうすると、第1アンテナ素子10aが受信する到来波Eと第2アンテナ素子10bが受信する到来波Eとの行路差Δに応じて、各到来波Eに位相差φが生じる。したがって、位相差φは、行路差Δと位相差φとの関係式(Δ=(λ/2π)・φ)に基づいて、下記の式(1)で算出することができる。
【0034】
【数1】
【0035】
同様に、第1アンテナ素子10aが受信する到来波Eと第3アンテナ素子10cが受信する到来波Eとの位相差φは、行路差Δと位相差φとの関係式(Δ=(λ/2π)・φ)に基づいて、下記の式(2)で算出することができる。
【0036】
【数2】
【0037】
このように、アレイアンテナ10A(第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10b及び第3アンテナ素子10c)は、到来波Eを受信する際に、当該到来波Eの到来角度θに応じて幾何学的に定まる位相差φ、φ(式(1)、(2)参照)を生じさせる。
【0038】
なお、図3においては、基板11上の一の基準線(X軸方向)に沿って配置された三つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10b及び第3アンテナ素子10c)のみが表記されているが、実際には、基板11上の他の基準線(例えば、X軸方向に直交するY軸方向)に沿って複数のアンテナ素子が同様に配列される。当該他の基準線に沿って配列された各アンテナ素子についての機能、作用については、上述した第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10cと同様である。
また、図3に示した各アンテナ素子(第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10c)は、各アンテナ素子の配置の態様を模式的に表現したにすぎず、当該アンテナ素子の実際の構造は図3に示すものと異なっていてもよい。例えば、各アンテナ素子は、基板11上に形成されたパッチアンテナ等であってもよい。
【0039】
また、図2に示すように、角度検出装置20Aは、位相差検出部200と、候補値演算部201と、到来角度特定部202と、を備えている。
【0040】
位相差検出部200は、基準線に沿って配列された三つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10c、図3参照)のうち二つのアンテナ素子からなる組み合わせを複数選択するとともに、当該組み合わせに係る二つのアンテナ素子で受信した到来波Eの位相差(図3に示す位相差φ、φ)を検出する。
具体的には、位相差検出部200は、まず、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとの組み合わせを選択し、当該第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10bの各々で受信した到来波Eの位相差φを検出する。同様に、位相差検出部200は、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの組み合わせを選択し、当該第1アンテナ素子10a、第3アンテナ素子10cの各々で受信した到来波Eの位相差φを検出する。
なお、位相差検出部200は、入力された二つの信号波形(到来波Eに基づく信号波形)の位相差に相当する検出信号を生成可能な既存の位相差検出回路等であってよい。また、位相差検出部200は、三つのアンテナ素子のうちいずれか二つが選択された複数の組み合わせ別に複数設けられる態様であってもよい。例えば、角度検出装置20Aは、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとが接続された位相差検出部200と、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとが接続された位相差検出部200と、を別個に備える態様であってもよい。
【0041】
候補値演算部201は、位相差検出部200が検出した位相差(位相差φ、φ)と、当該位相差の検出に用いた組み合わせに係る二つのアンテナ素子の間隔(間隔d、d)と、に基づいて、到来波Eの到来角度θの候補値を算出する。
到来角度特定部202は、二つのアンテナ素子の複数の組み合わせの各々について、候補値演算部201より算出された候補値に基づいて、到来角度θの検出値を特定する。
【0042】
(角度検出装置の機能)
図4図5は、第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第1、第2の図である。
図4は、アレイアンテナ10Aに対し、到来波Eが、到来角度θ=65°で入射した場合の例を示している。
この場合、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第2アンテナ素子10bで受信した到来波Eとの位相差φは、間隔d(=0.6λ)及び式(1)によればφ=195.8°となる。位相差検出部200は、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとの組み合わせに係る位相差φ=195.8°を検出する。
【0043】
ここで、候補値演算部201は、位相差検出部200が検出した位相差φと、当該位相差φの検出に用いた組み合わせに係る二つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a及び第2アンテナ素子10b)の間隔dと、に基づいて、到来波Eの到来角度θの候補値を算出する。具体的には、候補値演算部201は、式(1)の逆関数である式(3)に、位相差検出部200が検出した位相差φ(=195.8°)を代入することで、到来角度θの候補値θ11を算出する。
【0044】
【数3】
【0045】
これにより、候補値演算部201は、到来角度θの候補値θ11=65°を算出する。
【0046】
しかしながら、位相差検出部200が検出して取得した位相差φは、実際には、±360°(2π)×n(nは整数)の不確定性を有する。即ち、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第2アンテナ素子10bで受信した到来波Eとの真の位相差は、検出された位相差φに対し、実際には更に、n周期(±360°×n)ずれている可能性がある。
例えば、位相差検出部200の仕様によっては、−164.2°の位相差を、φ=195.8°(=−164.2°+360°)と検出する場合が考えられる。
【0047】
ここで、例えば、アレイアンテナ10Aが到来角度θ’=−49.5°の到来波(仮想到来波E’とする)を入射したとする。この場合、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第2アンテナ素子10bで受信した到来波Eとの位相差は−164.2°となる。しかしながら、位相差検出部200の仕様によっては、上記−164.2°なる位相差を、位相差φ=195.8°(=−164.2°+360°)と検出し得る。そうすると、位相差検出部200が検出した位相差φ=195.8°との情報だけでは、到来波Eが到来角度θ=65°で到来したものか、到来角度θ’=−49.5°で到来したものか(図4に示す仮想到来波E’参照)の区別がつかない。
【0048】
そこで、候補値演算部201は、位相差検出部200の検出結果(位相差φ)を式(3)に代入して演算した候補値θ11の他に、位相差(φ−360°)、(φ−720°)、(φ+360°)を式(3)に代入して得られる他の候補値θ12、θ13、θ14を算出する。例えば、位相差(φ−360°)に基づく候補値θ12は、下記の式(4)に基づいて算出される。
【0049】
【数4】
【0050】
位相差(φ−720°)に基づく候補値θ13、及び、位相差(φ+360°)に基づく候補値θ14についての演算式も同様である。
【0051】
以上の演算により得られる4つの到来角度の候補値θ11、θ12、θ13、θ14と、到来角度の真値θとの関係を図5に示す。
図5に示すように、候補値演算部201は、例えば、位相差検出部200から位相差φ=195.8°を受け付けた際には、当該位相差φ=195.8°、及び、位相差(φ−360°)=−164.2°の各々に対応する二つの候補値θ11=65°、θ12=−49.5°を算出する。
また、候補値演算部201は、例えば、位相差検出部200から位相差φ=108.0°を受け付けた際には、当該位相差φ=108.0°に対応する一つのみの候補値θ11=30°を算出する。
【0052】
図6図7は、第1の実施形態に係る角度検出装置の機能を説明する第3、第4の図である。
図6は、アレイアンテナ10Aに対し、到来波Eが、到来角度θ=25°で入射した場合の例を示している。
この場合、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第3アンテナ素子10cで受信した到来波Eとの位相差φは、間隔d(=1.3λ)及び式(2)によればφ=197.8°となる。位相差検出部200は、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの組み合わせに係る位相差φ=197.8°を検出する。
【0053】
ここで、候補値演算部201は、位相差検出部200が検出した位相差φと、当該位相差φの検出に用いた組み合わせに係る二つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a及び第3アンテナ素子10c)の間隔dと、に基づいて、到来波Eの到来角度θの候補値を算出する。具体的には、候補値演算部201は、式(5)に、位相差検出部200が検出した位相差φ(=197.8°)を代入することで、到来角度θの候補値θ21を算出する。
【0054】
【数5】
【0055】
これにより、候補値演算部201は、到来角度θの候補値θ21=25°を算出する。
【0056】
しかしながら、位相差検出部200が検出して取得した位相差φは、上記と同様に、実際には、±360°(2π)×nの不確定性を有する。即ち、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第3アンテナ素子10cで受信した到来波Eとの真の位相差は、検出された位相差φに対し、更に、n周期(±360°×n)ずれている可能性がある。
【0057】
ここで、例えば、別途、アレイアンテナ10Aが到来角度θ’=−20.3°の到来波(図6に示す仮想到来波E’)を入射したとする。この場合、第1アンテナ素子10aで受信した到来波Eと第3アンテナ素子10cで受信した到来波Eとの位相差は−162.2°となる。しかしながら、位相差検出部200の仕様によっては、上記−162.2°なる位相差を、位相差φ=197.8°(=−162.2°+360°)とも検出し得る。そうすると、位相差検出部200が検出した位相差φ=197.8°との情報だけでは、到来波Eが到来角度θ=25°で到来したものか、到来角度θ’=−20.3°で到来したものか(図6に示す仮想到来波E’参照)の区別がつかない。
【0058】
そこで、候補値演算部201は、位相差検出部200の出力値(位相差φ)を式(5)に代入して演算した候補値θ21の他に、位相差(φ−360°)、(φ−720°)、(φ+360°)を式(5)に代入して得られる他の候補値θ22、θ23、θ24を算出する。例えば、位相差(φ−360°)に基づく候補値θ22は、下記の式(6)に基づいて算出される。
【0059】
【数6】
【0060】
位相差(φ−720°)に基づく候補値θ23、及び、位相差(φ+360°)に基づく候補値θ24についての演算式も同様である。
【0061】
以上の演算により得られる4つの到来角度の候補値θ21、θ22、θ23、θ24と、到来角度の真値θとの関係を図7に示す。
図7に示すように、候補値演算部201は、例えば、位相差検出部200から位相差φ=197.8°を受け付けた際には、当該位相差φ=197.8°、及び、位相差(φ−360°)=−162.2°の各々に対応する二つの候補値θ21=25°、θ22=−20.3°を算出する。
また、候補値演算部201は、例えば、位相差検出部200から位相差φ=81.3°を受け付けた際には、当該位相差φ=81.3°、位相差(φ−360°)=−278.7°、及び、位相差(φ+360°)の各々に対応する三つの候補値θ21=25°、θ22=−20.3°及びθ24=70.5°を算出する。
【0062】
続いて、図5図7を参照しながら、到来角度特定部202の機能について具体的に説明する。
到来角度特定部202は、第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10b及び第3アンテナ素子10cの複数の組み合わせの各々について、候補値演算部201の上記処理により算出された候補値に基づいて、到来角度の検出値θdを特定する
具体的には、到来角度特定部202は、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとの組み合わせについて算出された複数の候補値θ11、θ12、θ13、θ14と、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの組み合わせについて算出された複数の候補値θ21、θ22、θ23、θ24と、を参照する。そして、到来角度特定部202は、候補値θ11、θ12、θ13、θ14のうち候補値θ21、θ22、θ23、θ24の何れか一つと共通する一の候補値を、検出値θdとして特定する。
【0063】
例えば、候補値演算部201が、位相差検出部200を通じて取得した位相差φ=195.8°から、二つの候補値θ11=65°、θ12=−49.5°を算出したとする(図5参照)。同様に、候補値演算部201が、位相差検出部200を通じて取得した位相差φ=424.2°から、三つの候補値θ21=65°、θ22=−7.9°、−39.2°を算出したとする(図7参照)。
この場合、到来角度特定部202は、第1アンテナ素子10aと第2アンテナ素子10bとの組み合わせに係る候補値θ11=65°、θ12=−49.5°のうち、第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの組み合わせに係る候補値θ21=65°、θ22=−7.9°、−39.2°の何れか一つと共通する一の候補値として、θ11(=θ21)=65°を選択する。そして、到来角度特定部202は、当該選択したθ11=65°を出力すべき検出値θd=65°として特定する。
なお、図5図7に示すとおり、上記の場合における到来角度θの真値θは、θ=65°であり、到来角度特定部202が特定した検出値θdは、真値θに一致している。
【0064】
(作用効果)
第1の実施形態に係る角度検出装置20Aによれば、まず、位相差検出部200が、基準線に沿って配列された三つ以上のアンテナ素子(第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10c)のうち二つのアンテナ素子からなる組み合わせを複数選択し、当該組み合わせに係る二つのアンテナ素子で受信した到来波Eの位相差φ、φを検出する。
そして、候補値演算部201が、位相差φ、φと、当該位相差φ、φの検出に用いた組み合わせに係る二つのアンテナ素子の間隔d、dと、に基づいて、到来波Eの到来角度θの候補値θ11〜θ14、θ21〜θ24を算出する。
更に、到来角度特定部202が、複数の組み合わせの各々について算出された候補値θ11〜θ14、θ21〜θ24に基づいて、到来角度θの検出値θdを特定する。
【0065】
このようにすることで、位相差の不確定性により一組のアンテナ素子の組み合わせだけでは、解(到来角度の候補値θ11、θ12・・・)を一つに特定できない場合であっても、他の一組のアンテナ素子の組み合わせから得られる解(到来角度の候補値θ21、θ22・・・)を参照して絞り込むことで、解の確度を向上させることができる。したがって、従来、解を一つに特定できなかった到来角度θから入射した場合であっても、当該到来角度θから入射したことを精度よく検出することができる。
即ち、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aによれば、電磁波の到来角度の誤認識を抑制できる。
【0066】
また、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aは、上述のように、一の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ11、θ12、・・・)のうち、他の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ21、θ22、・・・)のうちの何れか一つと共通する一の候補値を、検出値θdとして特定する。
【0067】
このようにすることで、到来角度θの検出値θdを、異なるアンテナ素子の組み合わせに渡って共通する一つの候補値に絞り込むことができるので、簡素な処理で、複数の候補値(候補値θ11、θ12、・・・)のうち最も確度の高い一の候補値を検出値θdとして選出することができる。
ここで、「共通する」との文言は、二つの候補値が完全に一致していることを要する意味に限定されず、二つの候補値が予め規定された誤差の許容範囲内に含まれる、との意味を含むものとする。
【0068】
また、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aは、一の組み合わせに係る二つのアンテナ素子の間隔(間隔d)が、他の組み合わせに係る二つのアンテナ素子の間隔(間隔d)と、の整数倍とならない組み合わせを選択する(例えば、d=0.6λ、d=1.3λ)。
【0069】
ここで、一の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔(間隔d)が、他の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔(間隔d)の整数倍であった場合(例えば、d=m×d、mは整数)には、各組み合わせについて共通する候補値を一つに絞れない場合が生じる。即ち、一の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ11、θ12、・・・)のうち、他の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ21、θ22、・・・)と共通する候補値が二つ以上特定される場合がある。
そうすると、一の組み合わせについて算出された複数の候補値と、他の組み合わせについて算出された複数の候補値と、の両方に共通する候補値を一つに特定することができず、候補値の算出結果によっては、確度の高い検出値θdを得ることが困難となる。したがって、アンテナ素子の間隔d、dを、上記のような関係を満たさないように(d≠m×d)配置することで、どのような到来角度で入射した場合であっても、常に、共通する解を一意に特定することができる。
【0070】
以上、第1の実施形態について詳細に説明したが、第1の実施形態に係る無線通信システム1Aの具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
例えば、第1の実施形態に係るアレイアンテナ10Aは、基板11上の基準線(X軸(図2))に沿って、3つのアンテナ素子(第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10c)が所定の間隔で配列されるものとして説明したが、他の実施形態に係るアレイアンテナ10Aはこれに限定されない。
即ち、他の実施形態に係るアレイアンテナ10Aは、第1アンテナ素子10a〜第3アンテナ素子10cに加え、更に、上記基準線上に第4アンテナ素子等を有し、4つ以上のアンテナ素子が配列される態様であってもよい。
また、角度検出装置20Aは、3組以上のアンテナ素子の組み合わせについての候補値を算出してもよい。
【0071】
また、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aは、一の組み合わせについて算出された複数の候補値のうち、他の組み合わせについて算出された複数の候補値のうちの何れか一つと共通する一の候補値を、検出値θdとして特定するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
例えば、角度検出装置20A(到来角度特定部202)は、3組以上のアンテナ素子の組み合わせについての複数の候補値(例えば、候補値θ11、θ12、・・・、候補値θ21、θ22、・・・、候補値θ31、θ32、・・・)が算出された場合には、上記候補値の最頻値を検出値θdとして特定する態様であってもよい。ここで、候補値θ11、θ12、・・・は第1の組についての候補値、候補値θ21、θ22、・・・は第2の組についての候補値、また、候補値θ31、θ32、・・・は第3の組についての候補値である。
このようにすることで、複数の候補値のうち最も多くの組み合わせに渡って共通する候補値を検出値θdとして特定するので、到来角度の真値θに対し、一層精度の高い検出値θdを得ることができる。
【0072】
また、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aは、検出された一の位相差φに基づいて、最大で4つの候補値(候補値θ11、θ12、θ13、θ14)を算出するものとして説明したが、他の実施形態についてはこの態様に限定されない。
例えば、角度検出装置20A(候補値演算部201)は、検出された位相差φを基準に、更に、位相差(φ+720°)等に基づいて算出される5つ以上の候補値を算出してもよい。
【0073】
また、他の実施形態に係る角度検出装置20A(位相差検出部200)は、アンテナ素子の複数の組み合わせの中に、一つ以上のアンテナ素子を挟んで配置された二つのアンテナ素子からなる組み合わせを含むものとしてもよい。例えば、角度検出装置20Aは、第2アンテナ素子10bを間に挟んで配置された第1アンテナ素子10aと第3アンテナ素子10cとの組み合わせを選択する。
ここで、選択した複数の組み合わせに係るアンテナ素子の各間隔(間隔d、d)に大きな差がない場合、一の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ11、θ12、・・・)と、他の組み合わせについて算出された複数の候補値(候補値θ21、θ22、・・・)と、が互いに類似してしまうことが想定される。そうすると、角度検出装置20Aは、両方に共通する候補値を一つに特定することができない。
しかし、上記他の実施形態のように、一つ以上のアンテナ素子を挟んで配置された二つのアンテナ素子の組み合わせを常に含むことで、一のアンテナ素子の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔と、他のアンテナ素子の組み合わせに係るアンテナ素子の間隔と、の差を大きくすることができる。したがって、角度検出装置20Aは、到来角度を一層精度良く特定できる。
【0074】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る無線通信システムについて、図8図9を参照ながら説明する。
【0075】
図8は、第2の実施形態に係る無線通信システムの機能構成を示す図である。
図8に示すように、第2の実施形態に係る角度検出装置20Aは、第1の実施形態の構成に加え、更に、信号処理部203を備えている。
信号処理部203は、アレイアンテナ10Aに設けられた三つ以上のアンテナ素子で受信した到来波Eの振幅及び位相に対する信号処理に基づいて到来波Eの到来角度θの推定値θsを算出する。
ここで、信号処理部203は、電磁波(到来波E)の到来角度θを推定する既知の手法であるビームフォーマ法に基づく信号処理を行う。ビームフォーマ法とは、三つ以上のアンテナ素子が基準線に沿って配列されたアレイアンテナを用いて、アレイアンテナ10Aのメインローブ(アレイアンテナ10Aにつき最も放射特性の高い範囲角度)を全方向にわたって走査し、当該アレイアンテナ10Aの出力電力が大きくなる方向を探す方法である。ビームフォーマ法においては、各アンテナ素子で受信した到来波Eについてのベクトル演算(振幅値と位相値とを用いた演算)を行う。そのため、信号処理部203が推定した到来角度の推定値θsは、第1の実施形態に係る到来角度特定部202が特定した検出値θd(位相差φ、φに基づいて算出された値)と比較して、高精度となる。
【0076】
しかしながら、ビームフォーマ法においても、上記と同様、アレイアンテナ10Aを通じて取得した信号波形には±360°(2π)×nの不確定性を有する。即ち、到来波Eの到来角度θによっては、ビームフォーマ法であっても到来角度θを一意に推定できない場合がある。したがって、通常、角度検出装置20Aの設計者は、ビームフォーマ法により到来角度θを一意に推定できる条件(到来角度θの範囲)を規定する推定可能最大角度θmaxを予め把握しておく。
ここで、推定可能最大角度θmaxは、例えば、式(1)において、位相差φ=180°(π)を与える到来角度θとして規定される。即ち、到来角度θの絶対値が、第1アンテナ素子10a、第2アンテナ素子10bの各々で受信した到来波Eの位相差φが180°〜−180°の範囲に収まる条件(|θ|≦θmax)を満たす場合には、位相差φの不確定性を考慮せずに、一意に正しい到来角度θを推定することができる。
【0077】
この場合、推定可能最大角度θmaxは、以下の式(7)によって規定される。
【0078】
【数7】
【0079】
一方、第2の実施形態に係る到来角度特定部202は、候補値(例えば、候補値θ11、θ12、・・・、候補値θ21、θ22、・・・等)に基づいて特定した検出値θdが信号処理(ビームフォーマ法)に応じた推定可能範囲内にある場合には、当該信号処理に基づいて算出された推定値θsを、検出値θdとして特定する。
【0080】
図9は、第2の実施形態に係る角度検出装置の処理フローを示す図である。
第2の実施形態に係る角度検出装置20Aの具体的な処理フローについて、図9を参照しながら順を追って説明する。
ここで、図9に示す処理フローは、料金収受設備1において、車両A1、A2が通信可能エリアQ1、Q2に到来したことを検知した際に開始される(図1参照)。
【0081】
角度検出装置20Aは、まず、第1の実施形態に係る位相差検出部200、候補値演算部201及び到来角度特定部202の処理により、検出値θdを特定する(ステップS01)。具体的には、位相差検出部200が検出した位相差φ、φに応じた、アンテナ素子の組み合わせ別の候補値(候補値θ11、θ12、・・・、θ21、θ22、・・・)を算出するとともに、当該候補値に基づいて一の検出値θdを特定する。
【0082】
次に、到来角度特定部202は、上記候補値に基づいて特定した検出値θdがビームフォーマ法に基づく信号処理に応じた推定可能範囲内にあるか否かを判定する(ステップS02)。具体的には、到来角度特定部202は、検出値θdが|θd|≦θmaxを満たしているか否かを判定する。
【0083】
|θd|≦θmaxとなっている場合には(ステップS02:YES)、信号処理部203は、ビームフォーマ法に基づく信号処理を行い、到来角度の推定値θsを算出する。そして、到来角度特定部202は、信号処理部203によって算出された推定値θsを検出値θdとして特定する(ステップS03)。
一方、|θd|>θmaxとなっている場合には(ステップS02:NO)、角度検出装置20Aは、ビームフォーマ法によっては正しい到来角度の推定値θsを算出できないものと判断し、当該信号処理を行わない。
【0084】
到来角度特定部202は、上記ステップS01〜S03を経て特定された検出値θdを出力し(ステップS04)、一連の処理を終了する。
【0085】
(作用効果)
以上の通り、第2の実施形態に係る角度検出装置20Aによれば、信号処理部203が、三つ以上のアンテナ素子で受信した到来波Eの振幅及び位相に対する信号処理(ビームフォーマ法)に基づいて到来波Eの到来角度の推定値θsを算出する。そして、到来角度特定部202は、候補値θ11、θ12・・・等に基づいて特定した検出値θdが信号処理に応じた推定可能範囲内にある場合(|θd|≦θmax)には、推定値θsを、検出値θdとして特定する。
【0086】
このようにすることで、ビームフォーマ法に基づいて解(推定値θs)を一意に特定可能な範囲から電磁波が到来していると見込まれる場合には、別途、ビームフォーマ法に基づく到来角度推定処理を行い、その算出結果である推定値θsを出力することができる。
したがって、第1の実施形態に係る角度検出装置20Aよりも精度の高い検出結果を得ることができる。
一方、ビームフォーマ法に基づいては解を一意に特定可能な範囲から電磁波が到来していないと見込まれる場合には、第1の実施形態による手法で求めた検出値θdをそのまま採用して出力する。これにより、ビームフォーマ法による推定可能範囲外から電磁波が到来した場合であってもその到来角度θを検出することができる。
【0087】
なお、第2の実施形態に係る信号処理部203が行う信号処理の具体的態様は、上述の「ビームフォーマ法」に基づくものに限定されない。即ち、到来角度推定に用いられるその他の手法に基づく信号処理が採用されてもよい。具体的には、信号処理部203は、「ビームフォーマ法」をより発展させた「Capon法」、「MUSIC(Multiple Signal Classification)法」、「線形予測法」等に基づく信号処理を行ってもよい。
【0088】
なお、上述の各実施形態においては、角度検出装置20Aの各種機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各種処理を行うものとしている。ここで、上述した角度検出装置20Aの各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
また、角度検出装置20Aの各種機能が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0090】
1 料金収受設備
1A 無線通信システム
10 無線通信機
10A アレイアンテナ
10a 第1アンテナ素子
10b 第2アンテナ素子
10c 第3アンテナ素子
11 基板
20 路側システム
20A 角度検出装置
200 位相差検出部
201 候補値演算部
202 到来角度特定部
203 信号処理部
30 進入側車両検知器
40 発進制御装置
50 発進側車両検知器
A1、A2 車両
L1、L2 車線
Q1、Q2 通信可能エリア
R 天井
E 到来波
E’ 仮想到来波
、d アンテナ素子間距離
Δ、Δ 行路差
φ、φ 位相差
θ 到来角度
θ 到来角度の真値
θ11、θ12、θ13、θ14 到来角度の候補値
θ21、θ22、θ23、θ24 到来角度の候補値
θd 到来角度の検出値
θmax 推定可能最大角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9