特許第6596747号(P6596747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富山住友電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000004
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000005
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000006
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000007
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000008
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000009
  • 特許6596747-燃料電池及び金属多孔体の製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596747
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】燃料電池及び金属多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20191021BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20191021BHJP
   C25B 11/03 20060101ALI20191021BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20191021BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20191021BHJP
   C25B 1/04 20060101ALN20191021BHJP
   C22C 1/08 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/88 Z
   C25B11/03
   !H01M8/10 101
   !H01M8/12 101
   !C25B1/04
   !C22C1/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-549280(P2018-549280)
(86)(22)【出願日】2018年5月10日
(86)【国際出願番号】JP2018018125
(87)【国際公開番号】WO2019082424
(87)【国際公開日】20190502
【審査請求日】2018年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-206447(P2017-206447)
(32)【優先日】2017年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591174368
【氏名又は名称】富山住友電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】土田 斉
(72)【発明者】
【氏名】西村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 精治
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−346411(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/111663(WO,A1)
【文献】 特開2001−102084(JP,A)
【文献】 米国特許第8785079(US,B1)
【文献】 特開2012−238415(JP,A)
【文献】 特開2014−89893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
C25B 11/03
H01M 4/88
C22C 1/08
C25B 1/04
H01M 8/10
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体をガス拡散層として備える燃料電池であって、
前記骨格は金属又は合金によって形成されており、
前記金属多孔体は、ガスの通流方向と平行な方向の平均気孔径と、ガスの通流方向と直交する方向の平均気孔径との比が、1.4以上2.5以下である、燃料電池。
【請求項2】
前記金属多孔体は、前記ガスの通流方向と平行な方向の平均気孔径と、前記金属多孔体の厚み方向の平均気孔径との比が、2.0以上4.0以下である、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記金属多孔体は、厚み方向の気孔径の最大値と最小値との比が2.0以下である、請求項1又は請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格が金属又は合金によって形成されている平板状の金属多孔体を厚み方向に圧縮して圧延することで、前記圧延後の前記金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径と短軸方向の平均気孔径との比が1.4以上2.5以下となるようにする、金属多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記圧延を、前記圧延後の前記金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径と側面から見える厚み方向の平均気孔径との比が2.0以上4.0以下となるように行う、請求項4に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記圧延を、前記圧延後の前記金属多孔体の側面から見える厚み方向の気孔径の最大値と最小値との比が2.0以下となるように行う、請求項4又は請求項5に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記圧延を、直径が300mm以上の圧延ローラーを用いて行う、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の金属多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料電池及び金属多孔体の製造方法に関する。本出願は、2017年10月25日に出願した日本特許出願である特願2017−206447号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電池、キャパシタ、燃料電池等に対してますます高出力化、高容量化(小型化)が望まれている。
【0003】
燃料電池のガス拡散層には、一般に、カーボン構造体やステンレス鋼(SUS)構造体が利用されている。カーボン構造体やSUS構造体にはガス流路となる溝が形成されている。溝の幅は約500μm程度であり、一繋がりの線状になっている。溝は、カーボン構造体やSUS構造体が電解質と接触する面の面積の約1/2程度に設けられているため、ガス拡散層の気孔率は50%程度である。
【0004】
上記のようなガス拡散層は気孔率がそれほど高くなく、また、圧力損失も大きい。このため、燃料電池を小型化しつつ出力を大きくするためには、ガス拡散層としてカーボン構造体やSUS構造体の代わりに三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を用いることが提案されている。
【0005】
例えば、特表2015−526840号公報(特許文献1)には、電気化学セルにおいて使用される開口多孔質フロー構造として、金属発泡体を含む多孔質金属材料を用いることが開示されている。
【0006】
また、特開2017−033918号公報(特許文献2)には、ニッケル(Ni)及びスズ(Sn)を含む三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体をガス拡散層として用いた燃料電池が開示されている。
【0007】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体は、例えば、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体を導電化処理し、骨格の表面に金属をめっきしてから樹脂成形体を除去することにより作製される。樹脂成形体としては樹脂発泡体が好ましく用いられている。特に、金属多孔体の気孔率を大きくする観点からは、気孔率が約98%の発泡ウレタンを出発原料として用いて金属多孔体が製造されている。樹脂成形体を除去した後には、適宜金属めっき層の還元が行なわれる。
【0008】
また、必要に応じて機械的な加工(例えば、プレス、圧延、圧印、鍛造など)が行なわれ、金属多孔体は厚みが約0.30mm以上0.50mm以下程度となるように圧縮される。金属多孔体は圧縮されることで気孔率が低下するため、圧縮前の金属多孔体の気孔率は50%以上であることが好ましく、75%〜85%程度であることよりが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2015−526840号公報
【特許文献2】特開2017−033918号公報
【発明の概要】
【0010】
本開示の一態様に係る燃料電池は、三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体をガス拡散層として備える燃料電池であって、骨格は金属又は合金によって形成されており、金属多孔体は、ガスの通流方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、ガスの通流方向と直交する方向の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が、1.4以上2.5以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体の一例の、骨格の構造を示す拡大写真である。
図2図2は、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体の一例の、部分断面の概略を表す拡大図である。
図3図3は、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体の一例の、主面の概略を表す図である。
図4図4は、図3に示す金属多孔体の側面の概略を表す図である。
図5図5は、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の一例の、発泡ウレタン樹脂の写真である。
図6図6は、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面に導電層を形成した状態の一例の、部分断面の概略を表す拡大図である。
図7図7は、金属多孔体にガスを供給した場合の圧力損失を測定する装置の概略を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示が解決しようとする課題]
燃料電池のガス拡散層には、一般に、カーボン構造体やステンレス鋼(SUS)構造体が利用されている。カーボン構造体やSUS構造体にはガス流路となる溝が形成されている。溝の幅は約500μm程度であり、一繋がりの線状になっている。溝は、カーボン構造体やSUS構造体が電解質と接触する面の面積の約1/2程度に設けられているため、ガス拡散層の気孔率は50%程度である。これに対し、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体は気孔率が非常に高いため、燃料電池のガス拡散層及び集電体として用いることで圧力損失を小さくし、かつガスを均一に流すことができるため、燃料利用率を向上させることができる。
【0013】
燃料電池を小型化する観点からは金属多孔体の厚みを薄くすることが好ましい。しかしながら、金属多孔体の厚みを薄くすると、燃料ガスを燃料電池内に送り込む際の圧力損失が大きくなってしまう。圧力損失を小さくするためには金属多孔体の気孔径を大きくすることが有効であるが、気孔径を大きくすると骨格密度が低くなるため、金属多孔体を集電体としても用いる場合、電解質と金属多孔体との接触点が少なくなり抵抗が増加してしまう。また、低目付の金属多孔体の場合は、金属多孔体を薄く圧延して使用すると、圧延時に厚み方向の中央付近の気孔部が優先的に潰れてしまい、圧力損失が高くなったり、厚み方向のガス流路が不均一になったりしてしまう。
【0014】
そこで、本開示は、金属多孔体をガス拡散層及び集電体として用いた燃料電池であって、金属多孔体の気孔径が小さく、かつ、均一な流路、圧力損失が小さい燃料電池を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
本開示によれば、金属多孔体をガス拡散層及び集電体として用いた燃料電池であって、金属多孔体の気孔径が小さく、かつ、均一な流路、圧力損失が小さい燃料電池を提供することができる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)本開示の一態様に係る燃料電池は、三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体をガス拡散層として備える燃料電池であって、骨格は金属又は合金によって形成されており、金属多孔体は、ガスの通流方向と平行な方向の平均気孔径(X)とガスの通流方向と直交する方向の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が1.4以上2.5以下である。
【0016】
上記(1)によれば、金属多孔体をガス拡散層及び集電体として用いた燃料電池であって、金属多孔体の気孔径が小さく、かつ、均一な流路、圧力損失が小さい燃料電池を提供することができる。
【0017】
(2)上記(1)に記載の燃料電池において、金属多孔体のガスの通流方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、金属多孔体の厚み方向の平均気孔径(Z)との比(X/Z)が、2.0以上4.0以下であることが好ましい。
【0018】
上記(2)によれば、ガス拡散層である金属多孔体において、均一に分布する気孔部の厚み方向の全ての空間をガスの流路として活用できるため、従来の溝型流路のガス拡散層に比べてガスを電解質の全面に均一に供給することができる。
【0019】
(3)上記(1)又は上記(2)に記載の燃料電池において、金属多孔体の厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)が2.0以下であることが好ましい。
【0020】
上記(3)によれば、ガス拡散層である金属多孔体の厚みをより薄くしても燃料ガスの圧力損失が大きくならないため、より小型でかつ高出力の燃料電池を提供することができる。
【0021】
(4)本開示の一態様に係る金属多孔体の製造方法は、三次元網目状構造の骨格を有し、骨格が金属又は合金によって形成されている平板状の金属多孔体を厚み方向に圧縮して圧延することで、圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)が、1.4以上2.5以下となるようにしている。
【0022】
上記(4)によれば、燃料電池のガス拡散層として用いた場合に燃料電池を小型化かつ高出力化することが可能な金属多孔体を提供することができる。
【0023】
(5)上記(4)に記載の金属多孔体の製造方法において、圧延を、圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と、側面から見える厚み方向の平均気孔径(S)との比(S/S)が2.0以上4.0以下となるように行うことが好ましい。
【0024】
上記(5)によれば、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合に、燃料ガスの圧力損失をより小さくすることが可能な金属多孔体を提供することができる。
【0025】
(6)上記(4)又は上記(5)に記載の金属多孔体の製造方法において、圧延を、圧延後の金属多孔体の側面から見える厚み方向の気孔径の最大値(Smax)と最小値(Smin)との比(Smax/Smin)が2.0以下となるように行うことが好ましい。
【0026】
上記(6)によれば、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合に、ガス拡散層の厚みをより薄くすることができ、かつ燃料ガスの圧力損失を小さくすることが可能な金属多孔体を提供することができる。
【0027】
(7)上記(4)から上記(6)のいずれか一項に記載の金属多孔体の製造方法において、圧延を、直径が300mm以上の圧延ローラーを用いて行うことが好ましい。
【0028】
上記(7)によれば、厚み方向における各気孔(セル)の気孔径がより均一な金属多孔体を提供することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る燃料電池の具体例を、以下に説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
<燃料電池>
本開示の実施形態に係る燃料電池は、三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体(以下、単に「金属多孔体」とも記す)をガス拡散層として備えるものである。燃料電池の種類は特に限定されるものではなく、固体高分子型燃料電池であってもよいし、固体酸化物型燃料電池であってもよい。
【0029】
金属多孔体の骨格を構成する金属又は合金は、燃料電池が動作する温度や雰囲気等の使用条件に応じて適宜選択すればよい。例えば、ニッケルやアルミニウムを主成分とする金属又は合金によって骨格が形成されている金属多孔体や、チタンを主成分とする金属又は合金によって骨格が形成されている金属多孔体をガス拡散層として用いることができる。
【0030】
なお、主成分とするとは、前記金属又は前記合金において占める割合が最も多いことをいうものとする。
【0031】
ガス拡散層以外のその他の構成は公知の燃料電池の構成を採用することができる。
例えば、固体高分子型燃料電池の場合には、イオン交換膜と触媒層とを接合した膜・電極接合体などは、市販されているものをそのまま利用することができる。膜・電極接合体の両端にガス拡散層として前記金属多孔体を配置し、水素又は空気(酸素)を供給して水素極、空気極として作用する構成となっていればよい。
【0032】
また、固体酸化物型燃料電池の場合には、固体酸化物による固体電解質層の両端にガス拡散層として前記金属多孔体を配置し、水素又は空気(酸素)を供給して水素極、空気極として作用する構成となっていればよい。
【0033】
なお、金属多孔体はガス拡散層としてだけでなく集電体としても作用させることができる。
(金属多孔体)
以下では、ガス拡散層として用いる金属多孔体の構成について詳述する。
【0034】
金属多孔体は三次元網目状構造の骨格を有しており、全体としては平板状の形状をしている。図1に、金属多孔体の一例の、三次元網目状構造の骨格を写した拡大写真を示す。また、図1に示す金属多孔体の断面を拡大視した拡大模式図を図2に示す。
【0035】
骨格の形状が三次元網目状構造である場合には、典型的には図2に示すように、金属多孔体10の骨格12の内部13は中空になっている。そして、骨格12は金属又は合金11によって形成されている。また、金属多孔体10は連続気孔を有しており、骨格12によって気孔部14が形成されている。
【0036】
図3に金属多孔体の一例の主面の概略図を示す。図3では紙面に垂直な方向が金属多孔体の厚み方向である。
【0037】
図3に示すように金属多孔体の主面の気孔部14は、燃料電池において供給されるガスの通流方向Aと平行な方向が長軸となる楕円形状をしている。具体的には、ガスの通流方向Aと平行な方向の平均気孔径(X)と、ガスの通流方向と直交する方向の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が、1.4以上2.5以下となっている。X/Yが1.4未満であるとガスの圧力損失を十分に小さくすることができない。また、X/Yが2.5超であると気孔部14の形状をばらつきが生じてしまう。すなわち、金属多孔体を製造する際に、基材となる樹脂成形体を無理に引き延ばして金属又は合金をめっきした場合には、Y方向に浪打ち形状が生じ、Y方向のガスの流路が不均一となりやすくなってしまう。また、金属多孔体を無理に一方向に引き延ばしてX/Yが2.5超となるようにした場合には、金属多孔体の骨格に破断部が生じてガスが通流する際の障害となってしまうことがある。これらの観点から、X/Yは、1.4以上2.0以下であることが好ましく、1.4以上1.8以下であることが更に好ましい。
【0038】
なお、金属多孔体の平均気孔径(X、Y、Z)とは、金属多孔体の表面を顕微鏡で観察し、任意の100個の気孔部のX方向、Y方向又はZ方向の気孔径を計測した平均をいうものとする。
【0039】
燃料電池はガス拡散層においてガスがより多く拡散するほど発電効率が高くなる。ガスの拡散性は、ガス拡散層の骨格とガスとの衝突確率によって決定される。
【0040】
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体は骨格の形状が複雑であるため、供給されたガスは骨格と接触することで複雑に反射し衝突確率が高くなる。このため、前記金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いることでガスの拡散性が高くなり、燃料電池の出力を向上させることができる。更に、ガス拡散層における液水の滞留を抑えることができる。
【0041】
また、ガスの通流方向Aと平行な方向の金属多孔体の平均気孔径(X)と、ガスの通流方向と直交する方向の金属多孔体の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が、1.4以上2.5以下であることによりガスの圧力損失を小さくすることができる。この効果は金属多孔体の厚みを薄くしても得られるため、本開示の実施形態に係る燃料電池は、小型でかつ高出力のものとすることができる。
【0042】
図4に、図3に示す金属多孔体を側面から見た場合の概略図を示す。
図4に示すように金属多孔体の側面の気孔部14は、燃料電池において供給されるガスの通流方向Aと平行な方向の平均気孔径(X)と、金属多孔体の厚み方向の平均気孔径(Z)との比(X/Z)が、2.0以上4.0以下であることが好ましい。X/Zが2.0以上であることにより、ガスの圧力損失をより小さくすることができる。また、X/Zが4.0以下であることにより金属多孔体の製造コストを下げることができる。これらの観点から、X/Zは、2.5以上4.0以下であることが好ましく、2.5以上3.5以下であることが更に好ましい。
【0043】
本開示の実施形態に係る燃料電池はガス拡散層が金属多孔体によって構成されているため、均一に分布する気孔部の厚み方向の全ての空間をガスの流路として活用できる。このため、電解質の全面にガスを均一に供給することができ、これによって反応の高効率化を促進して燃料電池の出力密度を向上させることができる。なお、金属密度が低い金属多孔体(すなわち低目付の金属多孔体)を薄く圧延したものをガス拡散層として用いようとすると、通常は圧延時に厚み方向の中央付近の気孔部が優先的に潰れてしまうため、ガス拡散層の流路が不均一になってガスの圧力損失が大きくなってしまう。このため、厚み方向の気孔径が均一でない金属多孔体をガス拡散層として用いる場合には、酸素や水素の動力をアップさせる必要がある。これに対して、厚み方向の気孔径のバラツキが少なく均一である金属多孔体の場合には、圧力損失がより小さいため、ガスの動力費を低減することができる。すなわち、本開示の実施形態に係る燃料電池はガス拡散層におけるガスの圧力損失が小さいため、燃料電池のコンパクト化や、ガスの動力費を低減することができる。また、金属多孔体の厚み内でガスの流路を均一にすることで、電解質の全面により均一にガスを供給することができ、燃料電池の性能を向上させ、高出力化することができる。
【0044】
前記金属多孔体は、厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)が2.0以下であることが好ましい。これにより金属多孔体の厚み方向の気孔部の気孔径がより均一になるため、ガスが供給された場合に、ガスを均一に拡散させることができ、かつ、ガスの圧力損失をより小さくすることができる。金属多孔体の厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)は、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましい。
【0045】
また、固体高分子型燃料電池の場合には、空気極で水が生成する。ガス拡散層及び集電体として用いた金属多孔体の厚み方向の気孔径が不均一であると水詰まり現象が引き起こされる虞がある。金属多孔体の、厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)を2.0以下とすることにより、気孔率が高く、排水性が向上した金属多孔体とすることができる。
【0046】
金属多孔体の骨格12は、金属又は合金11によって形成されていればよい。燃料電池の水素極においては、ニッケルを主成分とする金属によって骨格が形成されている金属多孔体をガス拡散層として用いることができる。一方、空気極のガス拡散層は高温で酸化雰囲気となるため、金属多孔体の骨格は耐酸化性を備えた合金によって形成されていることが好ましい。ニッケルを主成分とする合金であって耐酸化性を備えるものとしては、例えば、NiCr(ニッケルクロム)、NiSn(ニッケルスズ)、NiSnCr(ニッケルスズクロム)、NiW(ニッケルタングステン)、NiSnFe(ニッケルスズ鉄)等が挙げられる。
【0047】
金属多孔体の気孔率は、50%以上98%以下であることが好ましい。金属多孔体の気孔率が50%以上であることにより金属多孔体を非常に軽量なものとすることができ、更には、燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性をより高めることができる。また、金属多孔体の気孔率が98%以下であることにより、金属多孔体を十分な強度のものとすることができる。これらの観点から、金属多孔体の気孔率は70%以上98%以下であることがより好ましく、80%以上98%以下であることが更に好ましい。
【0048】
金属多孔体の気孔率は次式で定義される。
気孔率=(1−(多孔質材の質量[g]/(多孔質材の体積[cm]×素材密度[g/cm]))×100[%]
金属多孔体の厚みは250μm以上1000μm以下であることが好ましい。金属多孔体の厚みが250μm以上であることにより、十分な強度を有し、また、燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性能が高い金属多孔体とすることができる。金属多孔体の厚みが1000μm以下であることにより、軽量な金属多孔体とすることができる。これらの観点から金属多孔体の厚みは、250μm以上750μm以下であることがより好ましく、250μm以上500μm以下であることが更に好ましい。
【0049】
金属多孔体の厚み方向においては、気孔部の数が2、3個程度であることが好ましく、2.4個以上であることがより好ましい。気孔部の数が2個以上であることにより、連結孔となる部分での破断を発生し難くすることができる。また、気孔部の数が3個以下であることにより、金属又は合金による骨格の厚みを均一にし易くなる。
【0050】
金属多孔体の平均気孔径(X)は350μm以上1000μm以下であることが好ましい。平均気孔径(X)が350μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(X)が1000μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(X)は400μm以上700μm以下であることがより好ましく、450μm以上600μm以下であることが更に好ましい。
【0051】
金属多孔体の平均気孔径(Y)は250μm以上750μm以下であることが好ましい。平均気孔径(Y)が250μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(Y)が750μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(Y)は300μm以上700μm以下であることがより好ましく、300μm以上450μm以下であることが更に好ましい。
【0052】
金属多孔体の平均気孔径(Z)は100μm以上400μm以下であることが好ましい。平均気孔径(Z)が100μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(Z)が400μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(Z)は100μm以上350μm以下であることがより好ましく、100μm以上250μm以下であることが更に好ましい。
<金属多孔体の製造方法>
上記本開示の実施形態に係る燃料電池に用いられる金属多孔体は、例えば、三次元網目状構造の骨格を有し、前記骨格が金属又は合金によって形成されている平板状の金属多孔体を厚み方向に圧縮して圧延することにより製造することができる。厚み方向に圧縮する際には、圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)が1.4以上2.5以下となるようにすればよい。
【0053】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によって得られる金属多孔体を燃料電池のガス拡散として用いるには、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向が、ガスの通流方向と平行な方向となるように配置すればよい。
【0054】
金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)が1.4未満であると、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの圧力損失を十分に小さくすることができない。また、S/Sが2.5超であると気孔部14の形状をばらつきが生じてしまう。すなわち、金属多孔体を製造する際に、基材となる樹脂成形体を無理に引き延ばして金属又は合金をめっきした場合には、短軸方向に浪打ち形状が生じ、短軸方向のガスの流路が不均一となりやすくなってしまう。また、金属多孔体を無理に一方向に引き延ばしてS/Sが2.5超となるようにした場合には、金属多孔体の骨格に破断部が生じてガスが通流する際の障害となってしまうことがある。これらの観点から、S/Sは、1.4以上2.0以下であることが好ましく、1.4以上1.8以下であることが更に好ましい。
【0055】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法においては、前記圧延を、圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と、側面から見える厚み方向の平均気孔径(S)との比(S/S)が2.0以上4.0以下となるように行うことが好ましい。なお、厚み方向とは、金属多孔体の厚み方向をいうものとする。
【0056】
/Sが2.0以上であることにより、ガスの圧力損失をより小さくすることができる。また、S/Sが4.0以下であることにより金属多孔体の製造コストを下げることができる。これらの観点から、S/Sは、2.5以上4.0以下であることが好ましく、2.5以上3.5以下であることが更に好ましい。
【0057】
なお、金属多孔体の平均気孔径(S、S、S)とは、金属多孔体の表面を顕微鏡で観察し、任意の100個の楕円状の気孔部の長軸方向、短軸方向又は金属多孔体の厚み方向の気孔径を計測した平均をいうものとする。
【0058】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法においては、前記圧延を、圧延後の金属多孔体の側面から見える厚み方向の気孔径の最大値(Smax)と最小値(Smin)との比(Smax/Smin)が2.0以下となるように行うことが好ましい。これにより金属多孔体の厚み方向の気孔部の気孔径がより均一になるため、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合に、ガスを均一に拡散させることができ、かつ、ガスの圧力損失をより小さくすることができる。金属多孔体の側面から見える厚み方向の気孔径の最大値(Smax)と最小値(Smin)との比(Smax/Smin)は、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましい。
【0059】
圧延後の金属多孔体の気孔率は特に限定されるものではなく、例えば、50%以上98%以下程度であればよい。金属多孔体の気孔率が50%以上であることにより金属多孔体を非常に軽量なものとすることができ、更には、燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性をより高め、圧力損失も小さくすることができる。また、金属多孔体の気孔率が98%以下であることにより、金属多孔体を十分な強度のものとすることができる。これらの観点から、金属多孔体の気孔率は70%以上98%以下であることがより好ましく、80%以上98%以下であることが更に好ましい。
【0060】
また、圧延前の金属多孔体の気孔率は、90%以上99%以下程度であればよく、95%以上98%以下であることがより好ましく、96%以上97%以下であることが更に好ましい。
【0061】
圧延後の金属多孔体の厚みは、250μm以上1000μm以下であることが好ましい。金属多孔体の厚みが250μm以上であることにより、十分な強度を有し、また、燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性能が高い金属多孔体とすることができる。金属多孔体の厚みが1000μm以下であることにより、軽量な金属多孔体とすることができる。これらの観点から金属多孔体の厚みは、250μm以上750μm以下であることがより好ましく、250μm以上500μm以下であることが更に好ましい。
【0062】
また、圧延前の金属多孔体の厚みは、500μm以上5000μm以下であることが好ましく、800μm以上3000μm以下であることがより好ましく、1100μm以上2200μm以下であることが更に好ましい。
【0063】
圧延後の金属多孔体の厚み方向においては、気孔部の数が2、3個程度であることが好ましく、2.4個以上であることがより好ましい。気孔部の数が2個以上であることにより、連結孔となる部分での破断を発生し難くすることができる。また、気孔部の数が3個以下であることにより、金属又は合金による骨格の厚みを均一にし易くなる。
【0064】
圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)は350μm以上1000μm以下であることが好ましい。平均気孔径(S)が350μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(S)が1000μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(S)は400μm以上700μm以下であることがより好ましく、450μm以上600μm以下であることが更に好ましい。
【0065】
圧延後の金属多孔体の主面から見える気孔部の短軸方向の平均気孔径(S)は250μm以上750μm以下であることが好ましい。平均気孔径(S)が250μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(S)が750μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(S)は300μm以上700μm以下であることがより好ましく、300μm以上450μm以下であることが更に好ましい。
【0066】
圧延後の金属多孔体の側面から見える厚み方向の平均気孔径(S)は100μm以上400μm以下であることが好ましい。平均気孔径(S)が100μm以上であることにより、金属多孔体の強度を高めることができ、更には、金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いた場合にガスの拡散性を高めることができる。平均気孔径(S)が400μm以下であることにより、金属多孔体の曲げ性を高めることができる。これらの観点から、金属多孔体の平均気孔径(S)は100μm以上350μm以下であることがより好ましく、100μm以上250μm以下であることが更に好ましい。
(圧延方法)
金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いる場合に、燃料電池の小型化や、ガスの拡散性能を高めるために、金属多孔体の厚みが250μm以上1000μm以下程度となるように圧縮して圧延することが好ましい。圧延は、圧延ローラーを用いて行うことが好ましい。金属多孔体の主面から見える気孔部がわずかにでも長円となっている場合には、当該長円の長軸方向と平行な方向に対して圧延を行うことで、気孔部が更に長円となるようにすることができる。
【0067】
また、低目付の金属多孔体を製造しようとすると、一般に厚み方向の中央部分の金属量が少なく(骨格が細く)なっており、250μm、1000μm以下程度に圧延した際に、金属量の少ない中央部分の気孔部が潰れてしまいやすい。厚み方向の中央部分の気孔部の潰れを抑制するためには、大きなロール径の圧延ローラーで圧延を行うことが好ましい。特に、直径が300mm以上の圧延ローラーで圧延を行うことで、厚み方向の気孔径の最大値(Smax)と最小値(Smin)との比(Smax/Smin)が2.0以下となるように圧延することができる。また、ロール径が小さい圧延ローラーを用いると、圧縮率を高めるためには複数回繰り返して圧延を行う必要があるが、ロール径が大きい場合には圧延回数を少なくすることができる。これは、耐食性や耐熱性を備える硬い金属多孔体の場合に顕著である。
【0068】
また、一般に、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体は、基材の表面に金属又は合金を電気めっきすることによって製造される。めっき法によって製造された金属多孔体は、厚み方向の中央部の骨格が細く、強度が弱い傾向にある。金属多孔体を圧延する際の圧延ローラーのロール径が小さいと、厚み方向の中央部の骨格の強度が弱い部分が優先的に潰れてしまい、厚み方向の気孔径を均一にすることが困難である。これに対し、ロール径が大きい(好ましくは直径が300mm以上の)圧延ローラーを用いて金属多孔体を圧延すると、ロールとの接触の際に、金属多孔体が少しずつ変形して均一に潰れるため、厚み方向の気孔径を均一にすることができる。
【0069】
また、従来は、金属多孔体の厚み方向の気孔径を均一にしようとすると、圧延率を低くする必要があった。圧延率が低くするには、圧延前の金属多孔体を薄くする必要がある。例えば、圧延前の厚みが0.6mm程度の金属多孔体を製造しようとすると、厚みが0.6mm程度の樹脂成形体(発泡ウレタン等)を用意する必要がある。しかしながら、厚みが0.6mm程度の樹脂成形体においては、厚み方向において気孔部が2個程度しか存在できず、そのような樹脂成形体は骨格がばらばらになってしまうため、厚みが0.6mm程度の樹脂成形体を用意すること現実的ではなかった。したがって、従来は、厚みが0.5mm程度であって、かつ、厚み方向の気孔径が均一な金属多孔体を製造することはできなかった。
【0070】
これに対し、上述のように、ロール径が大きい圧延ローラーを用いて金属多孔体を圧延することにより、厚み方向に気孔部を均一に潰すことができる。このため、本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によれば、厚みが0.5mm程度であって、かつ、厚み方向の気孔径が均一な金属多孔体を製造することができる。
【0071】
上記のようにして得られる金属多孔体を燃料電池のガス拡散層として用いるには、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向が、ガスの通流方向と平行となるように金属多孔体を配置すればよい。これにより、燃料電池のガス拡散層において、ガスの拡散性能を高くし、かつ、ガスの圧力損失を小さくすることができる。更に、ガス拡散層における液水の滞留を抑えることができる。
【0072】
圧延する前の金属多孔体は、例えば、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面を導電化処理する工程と、前記導電化処理をした樹脂成形体の骨格の表面に金属又は合金の層を形成する工程と、前記樹脂成形体を除去する工程と、を経ることにより製造することができる。
【0073】
以下に、圧延する前の金属多孔体の製造方法を詳述する。
(樹脂成形体)
三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体としては、樹脂発泡体を用いることが好ましい。樹脂発泡体は、多孔性のものであればよく公知又は市販のものを使用することができる。例えば、発泡ウレタン、発泡スチレン等が挙げられる。これらの中でも、特に気孔率が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。図5に三次元網目状構造の骨格を有する発泡ウレタン樹脂の写真を示す。
【0074】
発泡ウレタンはポリウレタン発泡体ブロックを約1m毎に切断し、水平方向、或いは垂直方向を軸として渦巻き状にピーリングを行うことで発泡ウレタンシートを切出することができる。水平方向を軸とすると高さが600mm程度しか取れないため、垂直方向を軸とする方が好ましい。樹脂発泡体の厚み、気孔率、平均気孔径は限定的でなく、適宜に設定することができる。
【0075】
ポリウレタン発泡体ブロックは、樹脂の発泡時、樹脂の自重、粘度などにより発泡気孔の形状そのものが上下方向に縦長となる。ポリウレタン発泡体ブロックを渦巻き状にピーリングして発泡ウレタンシートを切出する際には、生産効率の観点から、発泡気孔の長軸方向が発泡ウレタンシートの長手方向となるようにすることが好ましい。
【0076】
発泡ウレタンシートを連続的に導電化処理する工程や、金属をめっきする工程において、発泡ウレタンシートの長手方向に張力を加えることにより、発泡ウレタンシートの主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(U)と短軸方向の平均気孔径(U)との比(U/U)が1.0から1.2の範囲となるようにすることができる。このような発泡ウレタンシートを基材として用いて金属多孔体を製造し、当該金属多孔体を圧延することで金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)を1.4以上2.5以下とすることができる。
【0077】
また、金属をめっきする工程の前に、発泡ウレタンシートを一方向に引き伸ばし、その状態の発泡ウレタンシートを基材として金属又は合金をめっきすることで、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)を1.4以上2.5以下とすることもできる。
(導電化処理)
図6に、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体を導電化処理した基材の一例の、部分断面の概略を拡大した図を示す。図6に示すように、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体60は連通気孔を有しており、骨格によって気孔部64が形成されている。樹脂成形体60の骨格の表面に金属又は合金の層を形成することで金属多孔体の骨格が形成されるため、金属多孔体の気孔率や平均気孔径、厚みは、樹脂成形体60の気孔率や平均気孔径、厚みと略等しくなる。このため、樹脂成形体60の気孔率や平均気孔径、厚みは、製造目的である金属多孔体の気孔率や平均気孔径、厚みに応じて適宜選択すればよい。樹脂成形体60の気孔率及び平均気孔径は、金属多孔体の気孔率及び平均気孔径と同様に定義される。
【0078】
樹脂成形体60の骨格の表面を導電化処理する方法は、樹脂成形体60の骨格の表面に導電性を有する導電層61を設けることができる限り、特に限定されるものではない。導電層61を構成する材料としては、例えば、ニッケル、スズ、クロム、銅、鉄、タングステン、チタン、ステンレススチール等の金属の他、カーボンブラック等の非晶質炭素、黒鉛等のカーボン粉末が挙げられる。なお、金属以外の非晶質炭素やカーボン粉末を用いて導電層61を形成した場合には、必要に応じて樹脂成形体を除去する際に導電層61も一緒に除去される。
【0079】
導電化処理の具体例としては、例えば、金属粉末やカーボン粉末にバインダーを加えて得られる導電性塗料の塗布や、スパッタリング、蒸着、イオンプレーティングなどの気相処理や、無電解めっき処理などによって樹脂成形体の骨格の表面に導電層を形成する方法が挙げられる。
【0080】
金属粉末や炭素粉末等を含む導電性塗料を塗布する場合には、樹脂成形体の骨格の表面に導電性を有する粉末(例えば、ステンレススチール等の金属材料の粉末、結晶質のグラファイト、非晶質のカーボンブラック等の炭素粉末)とバインダーとの混合物を塗着する方法が挙げられる。また、この時に、スズ粉末とカーボン粉末とを用いたり、クロム粉末又は酸化クロム粉末と炭素粉末とを用いたりしてもよい。
【0081】
炭素粉末としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛などを用いることができ、特に材料に限定はない。樹脂成形体の骨格の表面に形成される導電層の導電性を均一にすることを目的にする場合にはカーボンブラックを採用し、導電層の強度を考慮する際には黒鉛の微粉末を用いればよい。また、活性炭も含めて混合することは好ましい。スラリーを作製する際に一般的に用いられる増粘剤、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)などを添加しても良い。このスラリーを、厚みを調整して板状或いは帯状に裁断しておいた樹脂成形体の骨格に塗着し、乾燥させることで、樹脂成形体の骨格の表面に導電層を形成することができる。
【0082】
ニッケル、スズ又はクロム等を用いたスパッタリング処理によって導電層を形成する場合には、例えば、基板ホルダーに樹脂成形体を取り付けた後、不活性ガスを導入しながらホルダーとターゲット(ニッケル、スズ又はクロム等)との間に直流電圧を印加する方法が挙げられる。これにより、イオン化させた不活性ガスを、ニッケル、スズ又はクロム等に衝突させ、吹き飛ばしたニッケル粒子、スズ粒子又はクロム粒子等を樹脂成形体の骨格の表面に堆積させることができる。
【0083】
ニッケルを用いた無電解めっき処理によって導電層を形成する場合には、例えば、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に樹脂成形体を浸漬することによって行うことができる。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、樹脂成形体を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬してもよい。
【0084】
導電層の目付量(付着量)は、後の工程のニッケルめっき、スズめっき又はクロムめっき等によって形成される金属又は合金の目付け量と合わせた最終的な金属組成に応じて適宜調整すればよい。
【0085】
導電層にニッケルを用いる場合は樹脂成形体の骨格の表面に連続的に形成されていればよく、目付量は限定的でないが、通常5g/m以上15g/m以下程度、好ましくは7g/m以上10g/m以下程度とすればよい。
(ニッケルめっき層の形成)
ニッケルめっき層の形成は無電解ニッケルめっき及び電解ニッケルめっきのどちらを利用しても構わないが、電解めっきの方が、効率が良いため好ましい。電解ニッケルめっきを行う場合は、常法に従って行えばよい。電解ニッケルめっき処理に用いるめっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴等が挙げられる。
【0086】
前記の無電解めっきやスパッタリングにより骨格の表面に導電層を形成された樹脂成形体をめっき浴に浸し、樹脂成形体を陰極に、ニッケル対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電層の表面に、更にニッケルのめっき層を形成することができる。ニッケルめっき層の目付量は、金属多孔体の最終的な金属、合金組成に応じて調整すればよい。
(クロムめっき層の形成)
ニッケルのめっき層が形成された樹脂成形体の骨格の表面にクロムのめっき層を形成する場合には、電解めっきやクロマイズ処理のどちらを利用しても構わないが、クロマイズ処理の方が処理と同時に合金を生成させることができるため、効率が良く好ましい。
【0087】
電解めっきを行う場合は、公知のクロムめっき方法に従って行えばよく、めっき浴としては公知又は市販のものを使用することができる。例えば、6価クロム浴、3価クロム浴を用いることができる。めっき対象となる樹脂成形体を前記クロムめっき浴に浸して陰極に接続し、対極としてクロム板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることによりクロムのめっき層を形成することができる。
(その他の金属)
金属多孔体の骨格にニッケル及びクロム以外の金属成分、例えば、Sn(スズ)、W(タングステン)、Fe(鉄)等を含有させる場合には、これらの金属のめっき層を骨格の表面に形成し、必要に応じて熱処理によって合金化させればよい。また、前記導電層を形成する際にこれらの金属粉末を含む導電性塗料を用いてもよい。
(骨格がアルミニウムを主成分とする金属又は合金である金属多孔体)
上記のニッケルめっき層の形成に替えて、アルミニウムめっき層の形成を行うことで、アルミニウムを主成分とする金属又は合金によって骨格が形成された金属多孔体を製造することもできる。
【0088】
アルミニウムのめっきは、溶融塩浴中で前記樹脂成形体がカソードとして作用するように電気分解(溶融塩電解)することで行うことができる。
【0089】
溶融塩としては、例えば、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩を使用することができる。有機系ハロゲン化物としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)を挙げることができる。アルミニウムハロゲン化物としては、例えば、塩化アルミニウム(AlCl)を挙げることができる。
(樹脂成形体の除去)
骨格の表面に金属又は合金の層が形成された樹脂構造体から基材として用いた樹脂成形体を除去する方法は限定的でなく、薬品による処理や、焼却による燃焼除去の方法等が挙げられる。焼却による場合には、例えば、600℃程度以上の大気等の酸化性雰囲気下で加熱すればよい。
(骨格がチタンを主成分とする金属又は合金である金属多孔体)
上記のようにしてニッケルを主成分とする金属又は合金によって骨格が形成された金属多孔体の骨格の表面にチタンをめっきすることで、骨格の表面にチタン膜が形成された金属多孔体を製造することもできる。更に、ニッケルの表面にチタン膜が形成された金属多孔体を酸又はアルカリで処理してニッケルを除去することで、チタンを主成分とする金属によって骨格が形成された金属多孔体を製造することもできる。
【0090】
チタンのめっきは、第1族金属の金属イオンと、フッ化物イオンと、チタニウムイオンとを含む。例えば、フッ化リチウム(LiF)及びフッ化ナトリウム(NaF)のうち少なくとも一つと、塩化リチウム(LiCl)及び塩化ナトリウム(NaCl)のうち少なくとも一つとの溶融塩浴に更にチタンを溶解し、当該チタンが溶解した溶融塩浴中でニッケルを主成分とする金属多孔体をカソードとして溶融塩電解することで行うことができる。
【0091】
チタニウムイオンは、Ti4+やTi3+であればよい。
前記溶融塩浴にチタンを添加して溶融塩浴中で、3Ti4++Ti金属→4Ti3+という均化反応を生じさせる必要がある。溶融塩浴に添加するチタンの量は、溶融塩浴中のTi4+がTi3+となるのに必要最低限な量を超える量とすればよい。溶融塩浴にチタンを予め十分に溶解させておくことで、続いて行う溶融塩電解時において電析するチタンが溶融塩浴中に溶解しないようにすることができる。
【0092】
酸又はアルカリによる処理としては、例えば、ニッケルの表面にチタン膜が形成された金属多孔体を酸又はアルカリに浸漬することが挙げられる。
【0093】
酸又はアルカリとしては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、水酸化ナトリウム(NaOH)、希硝酸(HNO)等を用いることができる。
【0094】
金属多孔体の骨格が耐食性や耐熱性を有する金属や合金によって形成されている場合には、骨格が硬く、圧延によって変形させ難い場合がある。このような場合には、例えば、骨格がニッケルによって構成されている金属多孔体を圧延して気孔部を所望の形状に変形させ、その後に合金化を行って骨格に耐食性や耐熱性を持たせればよい。また、骨格がニッケルによって構成されている金属多孔体を形成する際に基材として用いる樹脂成形体に張力をかけたりして気孔部を所望の形状に変形させ、その後に、ニッケルのめっき層の形成とニッケルの合金化を行ってもよい。
【0095】
例えば、骨格がNiCr(ニッケルクロム)によって構成されている金属多孔体を製造する場合には、まず、三次元網目状構造の骨格を有する樹脂成形体の骨格の表面にニッケルのめっき層を形成してニッケル多孔体を得る。続いて、ニッケル多孔体を圧延して気孔部を変形させる。このとき、ニッケル多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向の平均気孔径(S)と短軸方向の平均気孔径(S)との比(S/S)や、長軸方向の平均気孔径(S)と側面から見える厚み方向の平均気孔径(S)との比(S/S)、更に、圧延後の金属多孔体の側面から見える厚み方向の気孔径の最大値(Smax)と最小値(Smin)との比(Smax/Smin)が所望のものとなるように圧延する。その後に、クロマイズ処理等によってニッケル多孔体の骨格をクロムと合金化すればよい。
<水素の製造方法、及び水素の製造装置>
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によって得られる金属多孔体は、例えば、燃料電池用のガス拡散層や、水電解による水素製造用の電極に好適に使用できる。
【0096】
水素の製造方式には、大きく分けて[1]アルカリ水電解方式、[2]PEM(Polymer Electrolyte Membrance)方式、及び[3]SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)方式がある。本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によって得られる金属多孔体は、ガス抜け性が高いため、いずれの方式にも好適に用いることができる。
【0097】
前記[1]のアルカリ水電解方式では、強アルカリ水溶液に陽極と陰極を浸漬し、電圧を印加することで水を電気分解する方式である。金属多孔体を電極として使用することで水と電極の接触面積が大きくなり、水の電気分解の効率を高めることができる。
【0098】
アルカリ水電解方式による水素の製造方法においては、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向が、発生した水素の排出方向と平行な方向となるように金属多孔体を配置して用いればよい。
【0099】
金属多孔体の厚みや金属の目付量は、電極面積が大きくなるとたわみなどの原因となるため、設備の規模によって適宜選択すればよい。金属の目付量としては200g/m以上2000g/m以下程度であることが好ましく、300g/m以上1200g/m以下程度であることがより好ましく、400g/m以上1000g/m以下程度であることが更に好ましい。気泡の抜けと表面積の確保を両立するために、異なる平均気孔径を持つ複数の金属多孔体を組み合わせて使うこともできる。
【0100】
前記[2]のPEM方式は、固体高分子電解質膜を用いて水を電気分解する方法である。固体高分子電解質膜の両面に陽極と陰極を配置し、陽極側に水を流しながら電圧を印加することで、水の電気分解により発生した水素イオンを、固体高分子電解質膜を通して陰極側へ移動させ、陰極側で水素として取り出す方式である。動作温度は100℃程度である。水素と酸素で発電して水を排出する固体高分子型燃料電池と同様の構成で、全く逆の動作をさせるものである。陽極側と陰極側は完全に分離されているため、純度の高い水素を取り出せる利点がある。陽極・陰極共に電極を透過させて水・水素ガスを通す必要があるため、電極には導電性の多孔体が必要である。
【0101】
本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法により得られ金属多孔体は、高い気孔率と良好な電気伝導性を備えているため、固体高分子型燃料電池に好適に使用できるのと同じように、PEM方式の水電解にも好適に使用できる。PEM方式による水素の製造方法においては、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向が、発生した水素の排出方向と平行な方向となるように金属多孔体を配置して用いればよい。
【0102】
金属多孔体の厚みや金属の目付量は、設備の規模によって適宜選択すればよいが、気孔率が小さくなり過ぎると水を通過させるための圧力損失が大きくなるため、気孔率は30%以上となるように厚みと金属の目付量を調整することが好ましい。また、PEM方式では固体高分子電解質膜と電極の導通は圧着になるため、加圧時の変形・クリープによる電気抵抗増加が、実用上問題ない範囲になるように金属の目付属量を調節する必要がある。金属の目付量としては200g/m以上2000g/m以下程度であることが好ましく、300g/m以上1200g/m以下程度であることがより好ましく、400g/m以上1000g/m以下程度であることが更に好ましい。他、気孔率の確保と電気的接続の両立のために、異なる平均気孔径を持つ複数の金属多孔体を組み合わせて使うこともできる。
【0103】
前記[3]のSOEC方式は、固体酸化物電解質膜を用いて水を電気分解する方法で、電解質膜がプロトン伝導膜か酸素イオン伝導膜かによって構成が異なる。酸素イオン伝導膜では、水蒸気を供給する陰極側で水素が発生するため、水素純度が下がる。そのため、水素製造の観点からはプロトン伝導膜を用いることが好ましい。
【0104】
プロトン伝導膜の両側に陽極と陰極を配置し、陽極側に水蒸気を導入しながら電圧を印加することで、水の電気分解により発生した水素イオンを、固体酸化物電解質膜を通して陰極側へ移動させ、陰極側で水素のみを取り出す方式である。動作温度は600℃以上800℃以下程度である。水素と酸素で発電して水を排出する固体酸化物型燃料電池と同様の構成で、全く逆の動作をさせるものである。
【0105】
陽極・陰極共に電極を透過させて水蒸気・水素ガスを通す必要があるため、電極には導電性かつ、特に陽極側で高温の酸化雰囲気に耐える多孔体が必要である。本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によって得られる金属多孔体は、高い気孔率と良好な電気伝導性と高い耐酸化性・耐熱性を備えているため、固体酸化物型燃料電池に好適に使用できるのと同じように、SOEC方式の水電解にも好適に使用できる。酸化性雰囲気となる側の電極には、高い耐酸化性が要求されるため、クロムやスズを含む金属多孔体を使用することが好ましい。
【0106】
SOEC方式による水素の製造方法においては、金属多孔体の主面から見える気孔部の長軸方向が、発生した水素の排出方向と平行な方向となるように金属多孔体を配置して用いればよい。
【0107】
金属多孔体の厚みや金属の目付量は、設備の規模によって適宜選択すればよいが、気孔率が小さくなり過ぎると水蒸気を投入するための圧力損失が大きくなるため、気孔率は30%以上となるように厚みと金属の目付量を調整することが好ましい。また、SOEC方式では固体酸化物電解質膜と電極の導通は圧着になるため、加圧時の変形・クリープによる電気抵抗増加が、実用上問題ない範囲になるように金属の目付量を調節する必要がある。金属の目付量としては200g/m以上2000g/m以下程度であることが好ましく、300g/m以上1200g/m以下程度であることがより好ましく、400g/m以上1000g/m以下程度であることが更に好ましい。気孔率の確保と電気的接続の両立のために、異なる平均気孔径を持つ複数の金属多孔体を組み合わせて使うこともできる。
<付記>
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体を電極として用いて、水を電気分解することによって水素を発生させる方法であって、
前記骨格は金属又は合金によって形成されており、
前記金属多孔体は、水素の排出方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、水素の排出方向と直交する方向の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が、1.4以上2.5以下である、水素の製造方法。
(付記2)
前記金属多孔体は、水素の排出方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、前記金属多孔体の厚み方向の平均気孔径(Z)との比(X/Z)が、2.0以上4.0以下である、付記1に記載の水素の製造方法。
(付記3)
前記金属多孔体は、厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)が2.0以下である、付記1又は付記2に記載の水素の製造方法。
(付記4)
前記水が強アルカリ水溶液である付記1から付記3のいずれか一項に記載の水素の製造方法。
(付記5)
固体高分子電解質膜の両側に前記金属多孔体を配置して前記固体高分子電解質膜と前記金属多孔体とを接触させ、それぞれの金属多孔体を陽極及び陰極として作用させ、前記陽極側に水を供給して電気分解することによって、前記陰極側に水素を発生させる、付記1から付記3のいずれか一項に記載の水素の製造方法。
(付記6)
固体酸化物電解質膜の両側に前記金属多孔体を配置して前記固体高分子電解質膜と前記金属多孔体とを接触させ、それぞれの金属多孔体を陽極及び陰極として作用させ、前記陽極側に水蒸気を供給して水を電気分解することによって、前記陰極側に水素を発生させる、付記1から付記3のいずれか一項に記載の水素の製造方法。
(付記7)
水を電気分解することによって水素を発生させることが可能な水素の製造装置であって、
電極として三次元網目状構造の骨格を有する平板状の金属多孔体を備え、
前記骨格は金属又は合金によって形成されており、
前記金属多孔体は、水素の排出方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、水素の排出方向と直交する方向の平均気孔径(Y)との比(X/Y)が、1.4以上2.5以下である、水素の製造装置。
(付記8)
前記金属多孔体は、水素の排出方向と平行な方向の平均気孔径(X)と、前記金属多孔体の厚み方向の平均気孔径(Z)との比(X/Z)が、2.0以上4.0以下である、付記7に記載の水素の製造装置。
(付記9)
前記金属多孔体は、厚み方向の気孔径の最大値(Zmax)と最小値(Zmin)との比(Zmax/Zmin)が2.0以下である、付記7又は付記8に記載の水素の製造装置。
(付記10)
前記水が強アルカリ水溶液である、付記7から付記9のいずれか一項に記載の水素の製造装置。
(付記11)
固体高分子電解質膜の両側に陽極及び陰極を有し、
前記陽極及び前記陰極は前記固体高分子電解質膜と接触しており、
前記陽極側に供給された水を電気分解することによって前記陰極側に水素を発生させることが可能な水素の製造装置であって、
前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方に前記金属多孔体を用いる、付記7から付記9のいずれか一項に記載の水素の製造装置。
(付記12)
固体酸化物電解質膜の両側に陽極及び陰極を有し、
前記陽極及び前記陰極は前記固体高分子電解質膜と接触しており、
前記陽極側に供給された水蒸気を電気分解することによって前記陰極側に水素を発生させることが可能な水素の製造装置であって、
前記陽極及び前記陰極の少なくとも一方に前記金属多孔体を用いる、付記7から付記9のいずれか一項に記載の水素の製造装置。
【実施例】
【0108】
以下、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、これらの実施例は例示であって、本開示の燃料電池はこれらに限定されるものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
[実施例1]
圧延前の、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体として、住友電気工業株式会社製のセルメット(「セルメット」は登録商標)を用意した。金属多孔体の大きさは100mm×100mm×1.0mmtであり、主面から見える気孔部は長手方向にわずかに長円となっており、長軸方向の平均気孔径(SX)が0.56mm、短軸方向の平均気孔径(S)が0.46mmであった。また、気孔率は95%であった。
【0109】
上記の金属多孔体を、直径が450mmの圧延ローラーを用い、主面から見える気孔部の長軸方向に沿って、厚みが0.50mmとなるように圧延を行って金属多孔体No.1を得た。
【0110】
金属多孔体No.1(圧延後のもの)は、長軸方向の平均気孔径(S)が0.62mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.42mmであり、気孔率が91%であった。
【0111】
金属多孔体No.1の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[実施例2]
圧延前の金属多孔体として、長軸方向の平均気孔径(S)が0.55mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.38mmであり、気孔率が96%である金属多孔体を用い、厚みが0.70mmとなるように圧縮した以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.2を得た。
【0112】
金属多孔体No.2(圧延後のもの)は、長軸方向の平均気孔径(S)が0.61mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.35μmであり、気孔率が93%であった。
【0113】
金属多孔体No.2の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[実施例3]
圧延前の金属多孔体として、長軸方向の平均気孔径(S)が0.64mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.33mmであり、気孔率が96%である金属多孔体を用い、厚みが0.80mmとなるように圧縮した以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.3を得た。
【0114】
金属多孔体No.3(圧延後のもの)は、長軸方向の平均気孔径(S)が0.71mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.30μmであり、気孔率が94%であった。
【0115】
金属多孔体No.3の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[実施例4]
圧延前の金属多孔体として、厚みが1.40mmである金属多孔体を用いた以外は実施例3と同様にして金属多孔体No.4を得た。
【0116】
金属多孔体No.4の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[実施例5]
圧延前の金属多孔体として、厚みが1.60mmである金属多孔体を用いた以外は実施例3と同様にして金属多孔体No.5を得た。
【0117】
金属多孔体No.5の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[実施例6]
直径が250mmの圧延ローラーを用いた以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.6を得た。
【0118】
金属多孔体No.6の圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[比較例1]
圧延前の金属多孔体として、長軸方向の平均気孔径(S)が0.55mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.45mmであり、厚みが1.20mmである金属多孔体を用いた以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.Aを得た。
【0119】
金属多孔体No.A(圧延後のもの)は、長軸方向の平均気孔径(S)が0.60mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.50μmであり、気孔率が91%であった。
【0120】
金属多孔体No.Aの圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
[比較例2]
圧延前の金属多孔体として、長軸方向の平均気孔径(S)が0.47mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.25mmである金属多孔体を用いた以外は実施例1と同様にして金属多孔体No.Bを得た。
【0121】
金属多孔体No.B(圧延後のもの)は、気孔部の長軸方向がより長くなるように無理に圧延したため、骨格の一部にヒビや割れが発生してしまい、使用に耐えるものではなかった。なお、金属多孔体No.B(圧延後のもの)の、骨格の形状が維持されている部分については、長軸方向の平均気孔径(S)が0.75mmであり、短軸方向の平均気孔径(S)が0.28μmであり、気孔率が91%であった。
【0122】
金属多孔体No.Bの圧延前の各測定値を表1に、圧延後の各測定値を表2に示す。
−評価−
金属多孔体No.1〜No.6、金属多孔体No.A、にガスを供給して、流量−圧力損失試験を行うことにより、圧力損失を測定した。具体的には、図7に示す回路図の装置のように、ポンプ73から流量が0.5L/minとなるようにガスを試験試料(金属多孔体)70に供給し、試験試料(金属多孔体)70を透過する前の圧力P1と、透過した後の圧力P2を圧力計測器72によって測定した。そして、各試験試料(金属多孔体)70における圧力損失ΔPをP1−P2として算出した。ガスの流量は流量計71により測定した。各金属多孔体におけるガスの通流方向は、各金属多孔体の気孔部の長軸方向と平行な方向となるようにした。なお、金属多孔体No.Bは上述のように使用に耐えるものではなかったため測定を行わなかった。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
表2に示すように、本開示の実施形態に係る金属多孔体の製造方法によって得られた金属多孔体No.1〜No.6は、厚みを薄くしてもガスの圧力損失が少なかった。このため、燃料電池のガス拡散層として用いた場合に、燃料電池の小型化に寄与し、更に、ガス拡散性能が高く圧力損失も小さいため高出力の燃料電池とすることができる。
【0126】
また、参考として、金属多孔体No.1〜No.6の気孔部の短軸方向と平行な方向にガスを通流した以外は上記の方法と同様に圧力損失を測定した。その結果を表2に示す。いずれの金属多孔体も、気孔部の短軸方向と平行な方向にガスを通流した場合の方が、長軸方向と平行な方向にガスを通流した場合よりも圧力損失が大きくなっていた。
【0127】
−金属多孔体に加湿したガスを供給した場合の凝縮した水滴の挙動の観察−
80℃の加湿した酸素ガスを、上記のポンプ73から流量が0.5L/minとなるように試験試料(各金属多孔体)70に供給し、10分経過後の金属多孔体の水溜まりを目視観察した。なお、加湿した酸素ガスは、金属多孔体No.1〜No.6の気孔部の長軸方向と平行な方向に通流した。
【0128】
その結果、金属多孔体No.1〜No.6においては、凝縮した水滴が気孔部に溜まらずに、気流に乗って速やかに排出されていた。一方、金属多孔体No.Aにおいては、凝縮した水滴が気孔部に溜まってしまい、排出性が悪かった。
【0129】
なお、金属多孔体No.1〜No.6の気孔部の短軸方向と平行な方向に加湿した酸素ガスを通流した場合には、金属多孔体No.Aと同様に、凝縮した水滴が気孔部に溜まってしまい、水の排出性が悪かった。
【符号の説明】
【0130】
10 金属多孔体、11 金属又は合金、12 骨格、13 骨格の内部、14 気孔部、60 樹脂成形体、61 導電層、64 気孔部、A ガスの通流方向、70 試験試料(金属多孔体)、71 流量計、72 圧力計測器、73 ポンプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7