【文献】
Shigemi Sasaki et al,A New Undulator for Generating Variably Polarized Radiation,Japanese Journal of Applied Physics,日本,The Japanese Society of Applied Physics,1992年12月15日,Volume 31, Part 2, Number 12B,L1794-L1796
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに対向するように間隙をあけて平行に配置された第1磁石列及び第2磁石列を有し、前記第1磁石列に含まれる磁石の磁化方向及び前記第2磁石列に含まれる磁石の磁化方向が、前記第1磁石列及び前記第2磁石列を含む面内において、各磁石列の磁石配列方向に沿って周期的に変化するアンジュレータ磁石列であって、
前記第1磁石列は各々が複数の磁石から成る第1シフト磁石列及び第1基準磁石列を結合して形成される一方で、前記第2磁石列は各々が複数の磁石から成る第2基準磁石列及び第2シフト磁石列を結合して形成され、
前記第1シフト磁石列は、前記第2基準磁石列に対向配置されつつ、前記第1磁石列及び前記第2磁石列により形成される周期性を持った磁場の振幅が最大化される状態を基準として前記第2基準磁石列から見て前記磁石配列方向に平行な所定の向きに所定のシフト量だけシフトして配置され、
前記第2シフト磁石列は、前記第1基準磁石列に対向配置されつつ、前記状態を基準として前記第1基準磁石列から見て前記所定の向きに前記シフト量だけシフトして配置され、
前記第1シフト磁石列において、前記第1基準磁石列から前記シフト量分の距離以内の領域には、前記第1基準磁石列内の磁石の磁化方向を元に磁化方向が定められた磁石が配置される
ことを特徴とするアンジュレータ磁石列。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量又は部材等を参照する記号又は符号を記すことによって、該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量又は部材等の名称を省略又は略記することがある。
【0015】
<<第1実施形態>>
本発明の第1実施形態を説明する。
図1に本発明の第1実施形態に係るアンジュレータ磁石列1の構成を示す。アンジュレータ磁石列1は、互いに対向するように間隔をあけて平行に配置された2つの磁石列10及び磁石列20を有する。磁石列10及び磁石列20の夫々は、直線状に配列された複数の磁石30にて形成される。磁石30は、ネオジム磁石等の永久磁石である。特に記述無き限り、磁石列10及び磁石列20を形成する全磁石30は全て同じ形状及び大きさを有しており、各磁石列において複数の磁石30は一定のピッチで配列される。
【0016】
本実施形態では、説明の具体化のため、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を想定する。Z軸は各磁石列における磁石30の配列方向に平行である。磁石列10及び20間において磁石30の配列方向は互いに同じである。Y軸は磁石列10及び20間を結ぶ方向に平行である。また、X軸及びY軸に平行な面をXY面と呼び、Y軸及びZ軸に平行な面をYZ面と呼び、Z軸及びX軸に平行な面をZX面と呼ぶ。YZ面は磁石列10及び20を含む面である。より厳密に言うと、磁石列10及び20を形成する全磁石30の中心はYZ面上に位置する。
【0017】
更に、上下左右を以下のように定義する。左右方向はZ軸に平行であり、Z軸の正に向かう向きを右と定義し、Z軸の負に向かう向きを左と定義する。上下方向はY軸に平行であり、Y軸の正に向かう向きを上と定義し、Y軸の負に向かう向きを下と定義する。また、或る2つの磁石列に関し、相対的に上側に位置している磁石列及び相対的に下側に位置している磁石列を夫々上側磁石列及び下側磁石列と呼ぶ。ここでは、磁石列20から見て磁石列10は上側に位置していると考える。このため、以下では、磁石列10及び磁石列20を夫々上側磁石列10及び下側磁石列20と呼ぶことがある。
【0018】
磁石30を含む任意の磁石について、当該磁石のS極からN極に向かう方向を磁化方向(磁化の向き)と呼ぶ。
図1から明らかではないが(例えば
図2等参照)、磁石列10に含まれる複数の磁石30の磁化方向及び磁石列20に含まれる複数の磁石30の磁化方向は、磁石列10及び20を含むYZ面内において、Z軸に平行な方向に沿って周期的に変化する。各磁石列(10、20)における磁石30の磁化方向の変化の周期(周期長)をλ
uにて表す。周期λ
uは磁石列10及び20間で共通であり、例えば数10mm(ミリメートル)程度である。
【0019】
磁石列10及び20によって形成される磁場をアンジュレータ磁場Bと呼ぶ。但し、ここにおけるアンジュレータ磁場Bは、磁石列10及び20によって形成される磁場の内、電子ビーム軸上における、電子ビーム軸に垂直な成分の磁場を指す。電子ビーム軸は、磁石列10及び20間を通過する電子ビームの軸である。電子ビーム軸は、Z軸に平行であって且つ磁石列10及び20間の中間を通る。アンジュレータ磁場Bの向き及び大きさはZ軸方向に沿って周期的に変化し、
図1では、アンジュレータ磁場Bの周期的な変化が磁石列10及び20間の曲線にて示されている。Y軸方向における磁石列10及び20間の隙間をギャップという。
【0020】
[基準となる構成]
本実施形態では、アンジュレータ磁石列1における特異な磁石配列を説明するが、まず
図2を参照して、アンジュレータ磁石列1の基準例としてのアンジュレータ磁石列1
REFの構成を説明する。アンジュレータ磁石列1
REFは、磁石列10及び20の基準例としての磁石列10
REF及び20
REFを備える。尚、
図2及びアンジュレータ磁石列を示す後述の各図面では、アンジュレータ磁石列を形成する全磁石30の一部のみが抽出して示されている。
【0021】
アンジュレータ磁石列1
REFは、Halbach型磁石列であり、1周期λ
uの中に4個の磁石30が存在する。
図2を含む磁石(例えば磁石30)を図示する図面において、磁石の磁化方向を磁石(例えば磁石30)内に矢印で示している。
【0022】
図3(a)に示す如く、Y軸に平行なベクトルであってY軸の原点からY軸の正側に向かう基準ベクトルと、磁化方向を示すベクトルとの成す角度を、磁化方向の角度と呼ぶ。磁化方向の角度は0°以上360°未満となる。従って、或る磁化方向がY軸の負から正に向かう向きと一致するとき、その磁化方向の角度は0°であり、且つ、或る磁化方向がY軸の正から負に向かう向きと一致するとき、その磁化方向の角度は180°である。ここでは、基準ベクトルを起点とし、
図2の紙面の時計周り方向に磁化方向の角度を定めるものとする。つまり、或る磁化方向がZ軸の負から正に向かう向きと一致するとき、その磁化方向の角度は90°であり、且つ、或る磁化方向がZ軸の正から負に向かう向きと一致するとき、その磁化方向の角度は270°であるものとする。
【0023】
1周期λ
uの中に存在する磁石30の個数Mがアンジュレータ磁石列1
REFでは4であるので、磁石列10
REF及び20
REFの夫々において、磁石30の磁化方向はYZ面内でZ軸に平行な方向に沿って90°(=360°/M)ずつ変化する。但し、その変化の向きは、上側磁石列10
REF及び下側磁石列20
REF間で互いに逆である。以下では、
図3(b)に示す如く、角度θを磁化方向の角度として持つ磁石30を、θの磁石30と表現する。また、Z軸方向における磁石30の幅を記号dにて表す。
【0024】
磁石列10
REFでは、左から右に向かって、0°、90°、180°、270°の磁石30が、この順番で繰り返し配列され、連続する4つの磁石30により1周期分の磁石列が形成される。従って、磁石列10
REFにおける0°の磁石30の中心をZ軸の原点にとった場合、Z軸方向において原点から右向きに距離(i×4)×d、距離(i×4+1)×d、距離(i×4+2)×d、距離(i×4+3)×dだけ離れた位置に、夫々、磁石列10
REFにおける0°、90°、180°、270°の磁石30の中心が位置する(iは整数)。
【0025】
磁石列20
REFでは、左から右に向かって、0°、270°、180°、90°の磁石30が、この順番で繰り返し配列され、連続する4つの磁石30により1周期分の磁石列が形成される。従って、磁石列20
REFにおける0°の磁石30の中心をZ軸の原点にとった場合、Z軸方向において原点から右向きに距離(i×4)×d、距離(i×4+1)×d、距離(i×4+2)×d、距離(i×4+3)×dだけ離れた位置に、夫々、磁石列20
REFにおける0°、270°、180°、90°の磁石30の中心が位置する。
【0026】
但し、磁石列10
REFにおける0°、90°、180°、270°の磁石30に対向する位置に、夫々、磁石列20
REFにおける0°、270°、180°、90°の磁石30が配置される。より具体的には、磁石列10
REFにおける第i磁石の中心位置と磁石列20
REFにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、磁石列10
REFにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、90°、180°、270°の磁石30であって且つ磁石列20
REFにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、270°、180°、90°の磁石30である。
【0027】
図2を含む磁石(例えば磁石30)を図示する図面において、磁石ペアに加わる吸引力をドットで満たされた矢印にて表す。
図2においては、0°の磁化方向を持つ磁石ペア及び180°の磁化方向を持つ磁石ペアにのみ注目して吸引力を示している(後述の
図4等においても同様)。
図2を含むアンジュレータ磁石列を図示する図面において、上側磁石列及び下側磁石列に加わる全体的な力を白抜きの矢印で表す。基準となるアンジュレータ磁石列1
REFでは、磁石列10
REF及び20
REF間に大きな吸引力が加わる。
【0028】
[第1改良構成]
アンジュレータ磁石列の第1改良構成を説明する。第1改良構成に係る
図4のアンジュレータ磁石列1
Aは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
A及び下側磁石列20
Aを備える。上側磁石列10
A単体の構成は上述の上側磁石列10
REFのそれと同様であると共に、下側磁石列20
A単体の構成は上述の下側磁石列20
REFのそれと同様である。
【0029】
但し、アンジュレータ磁石列1
Aでは、アンジュレータ磁石列1
REFを基準として、上側磁石列が下側磁石列に対して左側に周期λ
uの1/4分の距離だけずらして配置されている。以下では、説明の便宜上、周期λ
uの1/w分の距離だけずらすことを、1/w周期分だけシフトさせるなどと表現することがある(wは任意の実数)。アンジュレータ磁石列1
Aでは、アンジュレータ磁石列1
REFを基準として、上側磁石列が下側磁石列に対して左側に1/4周期分だけシフトされている。
【0030】
従って、磁石列10
Aにおける0°、90°、180°、270°の磁石30に対向する位置に、夫々、磁石列20
Aにおける90°、0°、270°、180°の磁石30が配置される。より具体的には、磁石列10
Aにおける第i磁石の中心位置と磁石列20
Aにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、磁石列10
Aにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、90°、180°、270°の磁石30であって且つ磁石列20
Bにおける第1〜第4磁石は、夫々、90°、0°、270°、180°の磁石30である。
【0031】
図4を含む磁石(例えば磁石30)を図示する図面において、磁石ペアに加わる反発力を黒塗りの矢印にて表す。
図4においては、0°の磁石30と180°の磁石30による磁石ペアにのみ注目して吸引力を示している(後述の
図5においても同様)。
【0032】
図4の構成により形成される磁気回路は、
図2の構成により形成される磁気回路と
図5の構成により形成される磁気回路との中間の磁気回路であると考えることができる。
図5の構成では、アンジュレータ磁石列1
REFを基準として上側磁石列が下側磁石列に対して左側に1/2周期分だけ(即ち周期λ
uの1/2分の距離だけ)シフトされており、結果、上側磁石列及び下側磁石列間に反発力が働いている。
【0033】
また、
図2の構成により形成される磁気回路では(即ち基準となるアンジュレータ磁石列1
REFでは)、アンジュレータ磁場Bの振幅(即ちZ軸方向に沿って向き及び大きさが変化するアンジュレータ磁場BのY軸成分の振幅)が最大化され、
図4の構成により形成される磁気回路では(即ちアンジュレータ磁石列1
Aでは)、アンジュレータ磁場Bの振幅が
図2のそれよりも小さくなる。
図5の構成により形成される磁気回路では、アンジュレータ磁場Bの振幅はゼロとなる。
【0034】
図4の構成により形成される磁気回路では、上側磁石列及び下側磁石列が上下方向の力を受けない。このため、ギャップを可変するための駆動機構の小型化が可能となる。但し、代わりに、上側磁石列は全体として右向きの大きな力を受ける一方で下側磁石列は全体として左向きの大きな力を受けるため、上側及び下側磁石列を支える構造部品に左右方向の大きな力が加わる。つまり、ギャップを可変するための駆動機構の小型化は可能となるものの、上側及び下側磁石列を支える構造部品(後述の
図19における架台170を含む)には強い剛性が求められる。
【0035】
[第2改良構成]
そこで、第2改良構成として、
図6にアンジュレータ磁石列1
Bを考える。第2改良構成に係るアンジュレータ磁石列1
Bは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
B及び下側磁石列20
Bを備える。上側磁石列10
B及び下側磁石列20
Bの構成は、基本的に、夫々、上側磁石列10
REF及び下側磁石列20
REFのそれと同様である。
【0036】
但し、アンジュレータ磁石列1
Bでは、アンジュレータ磁石列1
REFを基準として、上側磁石列の左半分が下側磁石列に対して左側に1/4周期分だけ(即ち周期λ
uの1/4分の距離だけ)シフトして配置され且つ下側磁石列の右半分が上側磁石列に対して左側に1/4周期分だけ(即ち周期λ
uの1/4分の距離だけ)シフトして配置される。右半分では上側磁石列ではなく下側磁石列を左側にずらすことで、アンジュレータ磁場Bの周期性が担保される。
【0037】
図7及び
図8を参照し、アンジュレータ磁石列1
Bの構成について説明を加える。
図7及び
図8は、アンジュレータ磁石列1
REFを出発点としたアンジュレータ磁石列1
Bの作成手順を示している。アンジュレータ磁石列1
REFにおいて、上側磁石列10
REFの左半分及び右半分の磁石列を夫々磁石列310及び320と呼び、下側磁石列20
REFの左半分及び右半分の磁石列を夫々磁石列360及び370と呼ぶ。
【0038】
まず、
図7に示す如く、アンジュレータ磁石列1
REFを出発点として、上側磁石列10
REFの左半分の磁石列310を下側磁石列20
REFに対して左側に1/4周期分だけシフトさせる。
図7の磁石列310aは当該シフト後の磁石列310を表す。このシフトにより、上側磁石列の左半分の磁石列310aと上側磁石列の右半分の磁石列320との間に、周期λ
uの1/4分の隙間が被補間領域330として生じる。この被補間領域330に、補間元領域340内の磁石30と同じ磁化方向を持った磁石30を補間配置する。磁石330aは補間配置された磁石を表している。補間元領域340は、磁石列320の左端と、その左端から右向きに距離λ
u/4分だけずれた位置とに挟まれた領域である。磁石列310aと磁石330aから成る磁石列を磁石列310bにて参照する。磁石列310bと磁石列320がそれらの境界面である結合面BD1で結合されることで上側磁石列10
Bが形成される。
【0039】
一方、
図8を示す如く、アンジュレータ磁石列1
REFを出発点として、下側磁石列20
REFの右半分の磁石列370を上側磁石列10
REFに対して左側に1/4周期分だけシフトさせる。
図7の磁石列370aは当該シフト後の磁石列370を表す。磁石列370を左側にシフトさせる際、磁石列370の左端付近の磁石30が磁石列360の右端付近の磁石30と重なり合うような現象が生じるが、磁石列370の磁石30の内、上記シフトによって磁石列360内の磁石30と重なり合うことになる磁石30は削除する。磁石列360と磁石列370aがそれらの境界面である結合面BD2で結合されることで下側磁石列20
Bが形成される。
【0040】
図7の結合面BD1のZ軸方向における位置と
図8の結合面BD2のZ軸方向における位置とが互いに一致する状態で、上側磁石列10
Bと下側磁石列20
Bを組み合わせることによりアンジュレータ磁石列1
Bが形成される。尚、磁石列310及び370のシフトにより、アンジュレータ磁石列の左右端で上側磁石列が下側磁石列よりも1/4周期分だけ突出することになるが、そのような突出を無くしたものをアンジュレータ磁石列1
Bとすればよい。
【0041】
図6のアンジュレータ磁石列1
Bにより形成される磁気回路では、磁石列10
B及び20
Bの夫々において左右方向の力が相殺されるため、磁石列を一体化して保持する構造部品(後述の
図19の磁石列ビーム110、120に相当)にのみZ軸方向の圧縮及び引張力が作用し、上側及び下側磁石列を支える構造部品(後述の
図19における架台170を含む)には、磁気力による力が働かない。これにより、基準となるアンジュレータ磁石列1
REFを用いる場合と比べて、上側及び下側磁石列を支える構造部品に要求される剛性を減少させることが可能となり、ひいてはアンジュレータ全体の重量を大幅に減少させることが可能となる。
【0042】
アンジュレータ磁石列1
REFを出発点として、上側磁石列の内、下側磁石列から見て左側にシフトされた部分を上側シフト磁石列と呼び、そのようなシフトが成されてない部分を上側基準磁石列と呼ぶ。同様に、アンジュレータ磁石列1
REFを出発点として、下側磁石列の内、上側磁石列から見て左側にシフトされた部分を下側シフト磁石列と呼び、そのようなシフトが成されてない部分を下側基準磁石列と呼ぶ。
図7及び
図8に示す例においては、磁石列310b及び320が、夫々、上側シフト磁石列及び上側基準磁石列に相当し、磁石列370a及び360が、夫々、下側シフト磁石列及び下側基準磁石列に相当する。
図6に示す例においては、磁石列10S
B及び10R
Bが、夫々、上側シフト磁石列及び上側基準磁石列に相当し、磁石列20S
B及び20R
Bが、夫々、下側シフト磁石列及び下側基準磁石列に相当する。
【0043】
上側磁石列10
Bは、上側シフト磁石列10S
Bと上側基準磁石列10R
Bとを結合して形成される一方で、下側磁石列20
Bは、下側基準磁石列20R
Bと下側シフト磁石列20S
Bとを結合して形成される。尚、
図6では、上側シフト磁石列と上側基準磁石列の結合部分及び下側基準磁石列と下側シフト磁石列の結合部分に力が加わる様子を、太線で模擬的に表している(後述の
図9等でも同様)。
【0044】
上側シフト磁石列は下側基準磁石列に対向配置される(上側シフト磁石列及び下側基準磁石列を含む、後述の他のアンジュレータ磁石列についても同様)。つまり、アンジュレータ磁石列1
Bにおいては、上側シフト磁石列10S
Bにおける0°、90°、180°、270°の磁石30に対向する位置に、夫々、下側基準磁石列20R
Bにおける90°、0°、270°、180°の磁石30が配置される。より具体的には、上側シフト磁石列10S
Bにおける第i磁石の中心位置と下側基準磁石列20R
Bにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、上側シフト磁石列10S
Bにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、90°、180°、270°の磁石30であって且つ下側基準磁石列20R
Bにおける第1〜第4磁石は、夫々、90°、0°、270°、180°の磁石30である。
【0045】
下側シフト磁石列は上側基準磁石列に対向配置される(下側シフト磁石列及び上側基準磁石列を含む、後述の他のアンジュレータ磁石列についても同様)。つまり、アンジュレータ磁石列1
Bにおいては、下側シフト磁石列20S
Bにおける0°、270°、180°、90°の磁石30に対向する位置に、夫々、上側基準磁石列10R
Bにおける270°、0°、90°、180°の磁石30が配置される。より具体的には、下側シフト磁石列20S
Bにおける第i磁石の中心位置と上側基準磁石列10R
Bにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、下側シフト磁石列20S
Bにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、270°、180°、90°の磁石30であって且つ上側基準磁石列10R
Bにおける第1〜第4磁石は、夫々、270°、0°、90°、180°の磁石30である。
【0046】
[第3改良構成]
アンジュレータ磁石列の第3改良構成を説明する。第3改良構成に係る
図9のアンジュレータ磁石列1
Cは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
C及び下側磁石列20
Cを備える。上側磁石列10
C及び下側磁石列20
Cの構成は、基本的に、夫々、上側磁石列10
REF及び下側磁石列20
REFのそれと同様であるが、第2改良構成で述べた磁石列のシフト技術が適用されている。更に、第3改良構成では、上側磁石列10
Cに上側シフト磁石列及び上側基準磁石列を夫々に複数設け、それに対応して、下側磁石列20
Cに下側基準磁石列及び下側シフト磁石列を夫々に複数設けている。
【0047】
アンジュレータ磁石列1
Cの構成を、より具体的に説明する。上側磁石列10
Cは、複数の上側シフト磁石列10S
C及び複数の上側基準磁石列10R
Cを結合して形成されており、下側磁石列20
Cは、複数の下側シフト磁石列20S
C及び複数の下側基準磁石列20R
Cを結合して形成されている。
【0048】
上側磁石列10
Cにおいて、上側シフト磁石列10S
Cと上側基準磁石列10R
Cは交互に配置される。つまり、上側磁石列10
Cにおいて、1つの上側シフト磁石列10S
Cは1つの上側基準磁石列10R
Cと他の1つの上側基準磁石列10R
Cとの間に配置され(但し、注目した上側シフト磁石列10S
Cが上側磁石列10
Cの端に位置していないと仮定)、1つの上側基準磁石列10R
Cは1つの上側シフト磁石列10S
Cと他の1つの上側シフト磁石列10S
Cとの間に配置される(但し、注目した上側基準磁石列10R
Cが上側磁石列10
Cの端に位置していないと仮定)。
【0049】
下側磁石列20
Cにおいて、下側シフト磁石列20S
Cと下側基準磁石列20R
Cは交互に配置される。つまり、下側磁石列20
Cにおいて、1つの下側シフト磁石列20S
Cは1つの下側基準磁石列20R
Cと他の1つの下側基準磁石列20R
Cとの間に配置され(但し、注目した下側シフト磁石列20S
Cが下側磁石列20
Cの端に位置していないと仮定)、1つの下側基準磁石列20R
Cは1つの下側シフト磁石列20S
Cと他の1つの下側シフト磁石列20S
Cとの間に配置される(但し、注目した下側基準磁石列20R
Cが下側磁石列20
Cの端に位置していないと仮定)。
【0050】
上側磁石列10
Cの左端のZ軸座標(Z軸上の位置)と下側磁石列20
Cの左端のZ軸座標(Z軸上の位置)は同じであるとする。そうすると、上側磁石列10
Cの左端から見て第j番目の上側シフト磁石列10S
Cは下側磁石列20
Cの左端から見て第j番目の下側基準磁石列20R
Cに対向配置される(jは整数)。つまり、第j番目の上側シフト磁石列10S
Cにおける0°、90°、180°、270°の磁石30に対向する位置に、夫々、第j番目の下側基準磁石列20R
Cにおける90°、0°、270°、180°の磁石30が配置される。より具体的には、第j番目の上側シフト磁石列10S
Cにおける第i磁石の中心位置と第j番目の下側基準磁石列20R
Cにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、第j番目の上側シフト磁石列10S
Cにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、90°、180°、270°の磁石30であって且つ第j番目の下側基準磁石列20R
Cにおける第1〜第4磁石は、夫々、90°、0°、270°、180°の磁石30である。
【0051】
下側磁石列20
Cの左端から見て第j番目の下側シフト磁石列20S
Cは上側磁石列10
Cの左端から見て第j番目の上側基準磁石列10R
Cに対向配置される。つまり、第j番目の下側シフト磁石列20S
Cにおける0°、270°、180°、90°の磁石30に対向する位置に、夫々、第j番目の上側基準磁石列10R
Cにおける270°、0°、90°、180°の磁石30が配置される。より具体的には、第j番目の下側シフト磁石列20S
Cにおける第i磁石の中心位置と第j番目の上側基準磁石列10R
Cにおける第i磁石の中心位置とを結ぶ直線はY軸に平行であり、第j番目の下側シフト磁石列20S
Cにおける第1〜第4磁石は、夫々、0°、270°、180°、90°の磁石30であって且つ第j番目の上側基準磁石列10R
Cにおける第1〜第4磁石は、夫々、270°、0°、90°、180°の磁石30である。
【0052】
図9の例では、磁石30の配列における1周期ごとに、シフト磁石列と基準磁石列を切り替えている。即ち、
図9の例では、磁石列10S
C、10R
C、20S
C及び10R
Cの各々に1周期分の磁石30、即ち4個の磁石30しか含まれていない。故に、
図6及び
図9を比較すると、
図6の上側シフト磁石列10S
Bの右端から4つ分の磁石30にて
図9の上側シフト磁石列10S
Cが形成され、
図6の下側基準磁石列20S
Bの右端から4つ分の磁石30にて
図9の下側基準磁石列20R
Cが形成され、
図6の上側基準磁石列10R
Bの左端から4つ分の磁石30にて
図9の上側基準磁石列10R
Cが形成され、
図6の下側シフト磁石列20S
Bの左端から4つ分の磁石30にて
図9の下側シフト磁石列20S
Cが形成されている。
【0053】
尚、1つの上側シフト磁石列、1つの上側基準磁石列、1つの下側シフト磁石列及び1つの下側基準磁石列の夫々を1周期分の磁石30にて形成する例を説明したが、それらの夫々を複数周期分(例えば10周期分)の磁石30にて形成するようにしても良い。
【0054】
第3改良構成によれば、第2改良構成の作用及び効果が得られる点に加え、磁石列を一体化して保持する構造部品(後述の
図19の磁石列ビーム110、120に相当)にかかる圧縮及び引張力を分散させることが可能であり、当該構造部品に要求される剛性をも減少させること可能となる。
【0055】
[第4改良構成]
アンジュレータ磁石列の第4改良構成を説明する。第1〜第3改良構成で述べた方法により、上側磁石列及び下側磁石列間における吸引力と反発力は、理想的には完全につりあう。しかし、実際の磁石30の透磁率は1ではないこと及び上側/下側磁石列をシフト磁石列及び基準磁石列に分割したことが原因で、吸引力と反発力は完全にはつりあわず、ギャップによっては吸引力及び反発力のどちらかが表れる(
図10(c)参照)。つまり、吸引力のギャップに対する依存曲線(
図10(a)参照)と反発力のギャップに対する依存曲線(
図10(b)参照)とが一致しない状態が作られる。
【0056】
吸引力及び反発力を微調整するべく、1/4周期分だけシフトせしめられた上側又は下側シフト磁石列を、そのシフト後の位置から更に左右どちらかに微小量だけシフトさせることが考えられる。第4改良構成では、そのような微小量のシフトを磁化方向の回転によって近似する。
【0057】
第4改良構成に係る
図11のアンジュレータ磁石列1
Dは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
D及び下側磁石列20
Dを備える。上側磁石列10
Dは複数の上側シフト磁石列10S
Dと複数の上側基準磁石列10R
Dを結合して形成され、下側磁石列20
Dは複数の下側シフト磁石列20S
Dと複数の下側基準磁石列20R
Dを結合して形成される。
【0058】
図9の上側磁石列10
Cにおける上側シフト磁石列10S
C及び上側基準磁石列10R
Cを夫々上側シフト磁石列10S
D及び上側基準磁石列10R
Dに置換することで
図11の上側磁石列10
Dが形成される。
図9の下側磁石列20
Cにおける下側シフト磁石列20S
C及び下側基準磁石列20R
Cを夫々下側シフト磁石列20S
D及び下側基準磁石列20R
Dに置換することで
図11の下側磁石列20
Dが形成される。
【0059】
図9の磁石列10R
C及び20S
Cにおいて、0°、90°、180°、270°の磁石30を、夫々、(360°−Δφ)、(90°−Δφ)、(180°−Δφ)、(270°−Δφ)の磁石30に置換することができ、その置換後の磁石列10R
C及び20S
Cが夫々磁石列10R
D及び20S
Dである。
図9の磁石列10S
C及び20R
Cにおいて、0°、90°、180°、270°の磁石30を、夫々、(0°+Δφ)、(90°+Δφ)、(180°+Δφ)、(270°+Δφ)の磁石30に置換することができ、その置換後の磁石列10S
C及び20R
Cが夫々磁石列10S
D及び20R
Dである。Δφは所定の正の角度量である。Δφは90°未満であり、通常は0°に近い微小な角度量である。Δφによる磁化方向の回転が、上記微小量のシフトの近似に相当する。
【0060】
実際に使用するギャップの範囲に合わせて磁石30の磁化方向の設計を行い、その設計結果に基づくアンジュレータ磁石列1
Dを形成すれば、ギャップの範囲は限られるが、吸引力及び反発力を十分にゼロに近づけることが可能となる。
【0061】
[シミュレーション]
次に、上述した幾つかのアンジュレータ磁石列に対して行ったシミュレーションの内容及び結果を説明する。本シミュレーションでは、周期λ
uが18mm(ミリメートル)であって且つアンジュレータ磁石列の全長(Z軸方向における長さ)が4.5m(メートル)であることを想定した。また、ギャップの可変範囲を3〜9mmとし、磁石30を形成する永久磁石の残留磁束密度及び比透磁率は夫々1.2T(テスラ)及び1.06であると仮定した。
【0062】
図12に、複数のギャップにおけるアンジュレータ磁石列の吸引力のシミュレーション結果(計算結果)を示す。
図12のグラフにおいて、横軸はギャップを示し、縦軸は上側磁石列及び下側磁石列間の吸引力を示す。但し、負の吸引力は反発力を表している。実線による折れ線410
REFは、
図2のアンジュレータ磁石列1
REFにおける上側磁石列及び下側磁石列間の吸引力の計算結果を表す。実線による折れ線410
Bは、
図6のアンジュレータ磁石列1
Bにおける上側磁石列及び下側磁石列間の吸引力の計算結果を表す。破線による折れ線410
Cは、
図9のアンジュレータ磁石列1
Cにおける上側磁石列及び下側磁石列間の吸引力の計算結果を表す。
【0063】
3mmのギャップにおいて、アンジュレータ磁石列1
REFでは約5.4tf(重量トン)の吸引力がある一方、アンジュレータ磁石列1
Bでは吸引力が約220kgf(重量キログラム)となっており、アンジュレータ磁石列の自重程度にまで吸引力を軽減できていることが分かる。アンジュレータ磁石列1
Cでは、ギャップの大きい領域において反発力が吸引力より勝っているが、絶対値としては磁気力を400kgf程度に抑えられている。また、アンジュレータ磁石列1
REF、1
B及び1
Cの全てにおいて左右方向の力はゼロとみなせるほどに小さい。
【0064】
上記のシミュレーション条件(計算条件)において、ギャップが3mmであるときのアンジュレータ磁石列の磁場分布を
図13に示す。
図13において、横軸はZ軸方向の位置(z)を示し、縦軸はアンジュレータ磁場BのY軸成分Byを示す。実線曲線420
REFは、アンジュレータ磁石列1
REFにおけるZ軸方向の位置変化に対する磁場Byの変化を示し、実線曲線420
Bは、アンジュレータ磁石列1
BにおけるZ軸方向の位置変化に対する磁場Byの変化を示す。
図13には示さないが、アンジュレータ磁石列1
Cにおけるそれも実線曲線420
Bと略同じである。
【0065】
アンジュレータ磁石列1
B(又は1
C)にて生成される磁場の強さは、アンジュレータ磁石列1
REFのそれの75%程度になっているが、アンジュレータ磁石列1
B(又は1
C)においても、十分な強度を持った周期性の良い磁場が生成されていることが分かる。Halbach型磁石列では磁気吸引力がアンジュレータ磁場Bの強さの2乗に比例することが知られている。アンジュレータ磁石列1
REFにおいてアンジュレータ磁場Bの強さを
図13の状態の75%程度にまで落としたとしても、吸引力は元の5割以上残る(例えば、“5.4トン×0.75
2”の吸引力が残る)ため、磁石列シフトによる磁場強度の減少を考慮に入れたとしても、アンジュレータ磁石列1
B(又は1
C)の優位性が認められる。
【0066】
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態並びに後述の第3〜第5実施形態は第1実施形態を基礎とする実施形態であり、第2〜第5実施形態において特に述べない事項に関しては、矛盾の無い限り、第1実施形態の記載が第2〜第5実施形態にも適用される。矛盾の無い限り、第1〜第5実施形態の内、任意の複数の実施形態を組み合わせても良い。
【0067】
今、下側基準磁石列に対する上側シフト磁石列の左へのシフト量Δzを、位相φzを用いて表現する。上側基準磁石列に対する下側シフト磁石列の左へのシフト量もΔzである。1周期λ
u分の位相φzはラジアン表記で2πである。故に、位相φzは、“φz=2π×Δz/λ
u”にて表される。アンジュレータ磁石列1
REFでは上記シフト自体が行われていないため、アンジュレータ磁石列1
REFにおいては“φz=0”である。上述のアンジュレータ磁石列1
A、1
B、1
C及び1
Dにおいては、シフト量Δzが周期λ
uの1/4であるため、“φz=π/2”である。
図5のアンジュレータ磁石列においては、シフト量Δzが周期λ
uの1/2であるため、“φz=π”である。
【0068】
図14において、曲線Fyは、上側磁石列及び下側磁石列間に働くY軸方向の磁気力を表している。
図14では、下側基準磁石列に対し上側シフト磁石列が右へシフトされるときのシフト量Δzが負であると考えている。Y軸方向の磁気力Fyは、“−π/2<φz<π/2”であるとき吸引力であり、“−π≦φz<−π/2”又は“π/2<φz≦π”であるとき反発力である。吸引力としてのY軸方向の磁気力Fyは、“φz=0”であるときに最大となり、位相φzが0からπ/2又は(−π/2)に向けて増大又は減少するにつれてゼロに向けて減少する。反発力としてのY軸方向の磁気力Fyは、“φz=π”であるときに最大となり、位相φzがπからπ/2に向けて減少するにつれて又は(−π)から(−π/2)に向けて増大するにつれてゼロに向けて減少する。
【0069】
図14において、曲線By
AMPは、アンジュレータ磁場BのY軸成分の振幅の大きさを表している。アンジュレータ磁場BのY軸成分の振幅の大きさBy
AMPは、位相φzが0であるときに最大となり、位相φzが0からπ又は(−π)に向けて増大又は減少するにつれてゼロに向けて減少する。
【0070】
Y軸方向の磁気力Fy及びアンジュレータ磁場BのY軸成分の振幅の大きさBy
AMPは、位相φzの極性に依存せず位相φzの絶対値のみで決まるため、以下では、“0≦φz≦π”の範囲にのみ注目する。
【0071】
第1実施形態では、吸引力と反発力の相殺に重きをおき、“φz=π/2”となるアンジュレータ磁石列(1
A、1
B、1
C又は1
D)を提案した。但し、位相φzが0以外であって且つπ/2以外のアンジュレータ磁石列を形成するようにしても良い。即ち例えば、“0<φz<π”を満たす任意のシフト量Δzを用いてアンジュレータ磁石列1を形成しても良い。
【0072】
一般化して考えた場合、アンジュレータ磁石列1の例である第2実施形態に係るアンジュレータ磁石列1
GN(不図示)は、各々が複数の磁石30から成る上側シフト磁石列及び上側基準磁石列を結合して形成された上側磁石列と、各々が複数の磁石30から成る下側基準磁石列及び下側シフト磁石列を結合して形成された下側磁石列とを有し、上側シフト磁石列は、下側基準磁石列に対向配置されつつ、上側磁石列及び下側磁石列により形成される周期性を持った磁場の振幅が最大化される状態(以下、磁場最大化状態という;φz=0であるときに磁場最大化状態が実現される)を基準として、下側基準磁石列から見て磁石配列方向に平行な所定の向き(
図6の例では左向き)に所定のシフト量Δzだけシフトして配置され、下側シフト磁石列は、上側基準磁石列に対向配置されつつ、磁場最大化状態を基準として、上側基準磁石列から見て磁石配列方向に平行な所定の向き(
図6の例では左向き)に所定のシフト量Δzだけシフトして配置される。
【0073】
第1実施形態におけるアンジュレータ磁石列1
A、1
B、1
C又は1
Dは、アンジュレータ磁石列1
GNの一種であり、後述の第3及び第4実施形態に係るアンジュレータ磁石列もアンジュレータ磁石列1
GNに属する。
【0074】
アンジュレータ磁石列1
GNでは、“0<φz<π”が満たされるようにシフト量Δzが決定される。つまり、シフト量Δzは、磁石30の磁化方向の変化の周期λ
uの1/2未満である。これにより、“φz=0”であるアンジュレータ磁石列1
REFとの比較において、上側磁石列及び下側磁石列間で生じる磁気力(吸引力又は反発力)の大きさを低減させることができ、第1実施形態の第1及び第2改良構成等の説明にて述べたような作用及び効果を得ることが可能となる。
【0075】
但し、位相φzが0近辺又はπ近辺では、実質的な有益性は得られにくい。従って例えば、アンジュレータ磁石列1
GNでは、“π/4≦φz≦3π/4”が満たされるようにシフト量Δzを決定すると良い。つまり、シフト量Δzは、周期λ
uの1/8以上且つ3/8以下であると良い。
【0076】
典型的には例えば、第1実施形態におけるアンジュレータ磁石列1
A、1
B、1
C又は1
Dの如く、アンジュレータ磁石列1
GNでは、“φz=π/2”が満たされるようにシフト量Δzを決定すると良い。つまり、シフト量Δzは、周期λ
uの1/4であると良い。これにより、上側磁石列及び下側磁石列間で生じる磁気力の大きさの低減効果が最大化される。尚、シフト量Δzが周期λ
uの1/4であるとは、誤差を含んだ若干の幅のある概念であると解される。第1実施形態の第4改良構成の説明にて述べたように、吸引力のギャップ依存性と反発力のギャップ依存性は僅かであっても実際には互いに異なる。この対策として、シフト量Δzを周期λ
uの1/4から若干相違させることも可能である。この相違があっても、実質的にはシフト量Δzは周期λ
uの1/4であると考えることも可能であるし、この相違の結果、シフト量Δzが周期λ
uの1/8以上且つ3/8以下になると考えても良い。
【0077】
尚、
図7を参照して説明したように、アンジュレータ磁石列1
GNの上側シフト磁石列において、上側シフト磁石列の右側に隣接する上側基準磁石列からシフト量Δz分の距離以内の領域(
図7の被補間領域330に相当)には、上側基準磁石列内の磁石30の磁化方向を元に磁化方向が定められた磁石30が配置される。これにより、磁場Bの周期性の担保が可能となる。より具体的には、上記領域(
図7の被補間領域330に相当)に、上側基準磁石列における所定領域(
図7の補間元領域340に相当)内の磁石30の磁化方向と同じ磁化方向を有する磁石30が配置される。ここにおける所定領域(
図7の補間元領域340に相当)は、上側基準磁石列の両端の内、上側シフト磁石列に近い方の端(
図7では上側基準磁石列320の左端)と、その端から右向きにシフト量Δzだけずれた位置とに挟まれた領域である。
【0078】
また、第1実施形態におけるアンジュレータ磁石列1
C又は1
Dの如く、アンジュレータ磁石列1
GNにおいて、上側シフト磁石列、上側基準磁石列、下側シフト磁石列及び下側基準磁石列は夫々に複数設けられていて良い。これにより、磁石列を一体化して保持する構造部品(後述の
図19の磁石列ビーム110、120に相当)にかかる圧縮及び引張力を分散させることが可能であり、当該構造部品に要求される剛性をも減少させること可能となる。この場合、上側磁石列において上側シフト磁石列及び上側基準磁石列が交互に結合される一方、下側磁石列において下側基準磁石列及び下側シフト磁石列が交互に結合される。
【0079】
<<第3実施形態>>
本発明の第3実施形態を説明する。第1実施形態では、1周期λ
uの中に存在する磁石30の個数Mが4であることを想定したが、Mが4以外のアンジュレータ磁石列1を形成しても良い。例として、以下に、M=8又はM=2のアンジュレータ磁石列1を説明するが、Mが2、4及び8の何れでもないアンジュレータ磁石列1を形成することも可能である。
【0080】
図15は、M=8の条件で形成されたアンジュレータ磁石列1
PAの構成図である。アンジュレータ磁石列1
PAは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
PA及び下側磁石列20
PAを備える。上側磁石列10
PAは、1つの上側シフト磁石列10S
PAと1つの上側基準磁石列10R
PAとを結合することで形成される。下側磁石列20
PAは、上側シフト磁石列10S
PAに対向配置される1つの下側基準磁石列20R
PAと、上側基準磁石列10R
PAに対向配置される1つの下側シフト磁石列20S
PAとを結合することで形成される。
【0081】
図16は、M=8の条件で形成された他のアンジュレータ磁石列1
PBの構成図である。アンジュレータ磁石列1
PBは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
PB及び下側磁石列20
PBを備える。上側磁石列10
PBは、複数の上側シフト磁石列10S
PBと複数の上側基準磁石列10R
PBを結合することで形成される。下側磁石列20
PBは、複数の下側基準磁石列20R
PBと、複数の下側シフト磁石列20S
PBを結合することで形成される。M=4の場合と同様(即ち第1実施形態の第3改良構成と同様)、上側磁石列10
PBにおいて上側シフト磁石列10S
PBと上側基準磁石列10R
PBは交互に配置されると共に下側磁石列20
PBにおいて下側シフト磁石列20S
PBと下側基準磁石列20R
PBは交互に配置され、且つ、各々の上側シフト磁石列10S
PBは何れかの下側基準磁石列20R
PBに対向配置されると共に各々の下側シフト磁石列20S
PBは何れかの上側基準磁石列10R
PBに対向配置される。
【0082】
図15のアンジュレータ磁石列1
PA及び
図16のアンジュレータ磁石列1
PBでは、M=8であるため、周期λ
uは“M×d=8×d”であり(
図3(b)参照)、上側シフト磁石列、上側基準磁石列、下側シフト磁石列及び下側基準磁石列の夫々において、磁石30の磁化方向はYZ面内でZ軸に平行な方向に沿って45°(=360°/M)ずつ変化する。但し、その変化の向きは、上側磁石列及び下側磁石列間で互いに逆である。
【0083】
図15のアンジュレータ磁石列1
PA及び
図16のアンジュレータ磁石列1
PBおけるシフト量Δzは、φz=π/2に相当する、λ
u/4であるが、第2実施形態で述べたように、それらのシフト量Δzを周期λ
uの1/4以外にすることも可能である。また、
図16のアンジュレータ磁石列1
PBでは、1つの上側シフト磁石列、1つの上側基準磁石列、1つの下側シフト磁石列及び1つの下側基準磁石列の夫々を1周期分の磁石にて形成しているが、それらの夫々を複数周期分(例えば10周期分)の磁石にて形成するようにしても良い。
【0084】
図17は、M=2の条件で形成されたアンジュレータ磁石列1
QAの構成図である。アンジュレータ磁石列1
QAは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
QA及び下側磁石列20
QAを備える。上側磁石列10
QAは、1つの上側シフト磁石列10S
QAと1つの上側基準磁石列10R
QAとを結合することで形成される。下側磁石列20
QAは、上側シフト磁石列10S
QAに対向配置される1つの下側基準磁石列20R
QAと、上側基準磁石列10R
QAに対向配置される1つの下側シフト磁石列20S
QAとを結合することで形成される。
【0085】
図18は、M=2の条件で形成された他のアンジュレータ磁石列1
QBの構成図である。アンジュレータ磁石列1
QBは、アンジュレータ磁石列1の例であり、上側磁石列10及び下側磁石列20の例としての上側磁石列10
QB及び下側磁石列20
QBを備える。上側磁石列10
QBは、複数の上側シフト磁石列10S
QBと複数の上側基準磁石列10R
QBを結合することで形成される。下側磁石列20
QBは、複数の下側基準磁石列20R
QBと、複数の下側シフト磁石列20S
QBを結合することで形成される。M=4の場合と同様(即ち第1実施形態の第3改良構成と同様)、上側磁石列10
QBにおいて上側シフト磁石列10S
QBと上側基準磁石列10R
QBは交互に配置されると共に下側磁石列20
QBにおいて下側シフト磁石列20S
QBと下側基準磁石列20R
QBは交互に配置され、且つ、各々の上側シフト磁石列10S
QBは何れかの下側基準磁石列20R
QBに対向配置されると共に各々の下側シフト磁石列20S
QBは何れかの上側基準磁石列10R
QBに対向配置される。
【0086】
図17のアンジュレータ磁石列1
QA及び
図18のアンジュレータ磁石列1
QBでは、M=2であるため、周期λ
uは“M×d=2×d”であり(
図3(b)参照)、上側シフト磁石列、上側基準磁石列、下側シフト磁石列及び下側基準磁石列の夫々において、磁石30の磁化方向はYZ面内でZ軸に平行な方向に沿って180°(=360°/M)ずつ変化する。
【0087】
図17のアンジュレータ磁石列1
QA及び
図18のアンジュレータ磁石列1
QBおけるシフト量Δzは、φz=π/2に相当する、λ
u/4である。M=2の場合、周期λ
uの1/4分の磁石のZ軸方向における幅は、磁石30の幅dの半分である。Z軸方向における幅がd/2の磁石、即ち、磁石30の半分の大きさを持つ磁石を磁石30aにて参照する。磁石30aの2つ分が、磁石30の1つ分に相当する。
図17及び
図18の上側シフト磁石列(10S
QA、10S
QB)及び下側シフト磁石列(20S
QA、20S
QB)の夫々では、λ
u/4分のシフトに伴い、磁石30aが部分的に用いられている。尚、
図17のアンジュレータ磁石列1
QA及び
図18のアンジュレータ磁石列1
QBおけるシフト量Δzを、第2実施形態で述べたように、周期λ
uの1/4以外にすることも可能である。また、
図18のアンジュレータ磁石列1
QBでは、1つの上側シフト磁石列、1つの上側基準磁石列、1つの下側シフト磁石列及び1つの下側基準磁石列の夫々を1周期分の磁石にて形成しているが、それらの夫々を複数周期分(例えば10周期分)の磁石にて形成するようにしても良い。
【0088】
<<第4実施形態>>
本発明の第4実施形態を説明する。
図19は、第4実施形態に係るアンジュレータ(アンジュレータ装置)100の側面図である。
【0089】
アンジュレータ100は、上側磁石列10及び下側磁石列20を含むアンジュレータ磁石列1と、上側磁石列10を一体化して保持する磁石列ビーム110と、下側磁石列20を一体化して保持する磁石列ビーム120と、アンジュレータ磁石列1並びに磁石列ビーム110及び120を内包する空間を真空状態に保つための真空チャンバ130と、真空チャンバ130の上方に配置され且つ上側磁石列10及び磁石列ビーム110を上方から支える高剛性ビーム140Uと、真空チャンバ130の下方に配置され且つ下側磁石列20及び磁石列ビーム120を下方から支える高剛性ビーム140Lと、真空チャンバ130の真空状態を保ちながらシャフト151Uを用いて高剛性ビーム140Uと磁石列ビーム110を連結する真空導入連結部150Uと、真空チャンバ130の真空状態を保ちながらシャフト151Lを用いて高剛性ビーム140Lと磁石列ビーム120を連結する真空導入連結部150Lと、高剛性ビーム140U及び140Lに結合される駆動機構であって、ボールねじを利用して高剛性ビーム140U及び140Lを上下方向に移動させることが可能なボールねじ式駆動機構160と、ボールねじ式駆動機構160が取り付けられる概略L字状の断面形状を有した架台170と、を備える。尚、真空チャンバ130における真空状態とは、真空に近い状態を指し、少なくとも大気圧よりも気圧が低い状態を指すものであって良い。
【0090】
図20は、アンジュレータ100の正面図である。
図20では、図示の便宜上、真空チャンバ130の図示を省略している。また、
図20では、真空導入連結部150U及び150Lの構成要素の内、高剛性ビーム140Uと磁石列ビーム110を物理的に結合する複数のシャフト151U及び高剛性ビーム140Lと磁石列ビーム120を物理的に結合する複数のシャフト151Lのみが示されている。
【0091】
ボールねじ式駆動機構160は、図示されない制御部からの制御信号に従い、高剛性ビーム140U及び140Lの双方を個別に上下方向に移動させることで、或いは、高剛性ビーム140U及び140Lの一方に上下方向に移動させることで、上側磁石列10及び下側磁石列20間のギャップを可変させることができる。より具体的には例えば、ボールねじ式駆動機構160は、高剛性ビーム140Uを上方に且つ高剛性ビーム140Lを下方に互いに同じ量だけ移動させることで上側磁石列10及び下側磁石列20間のギャップを増大させることができ、高剛性ビーム140Uを下方に且つ高剛性ビーム140Lを上方に互いに同じ量だけ移動させることで上側磁石列10及び下側磁石列20間のギャップを減少させることができる。このため、アンジュレータ100は、上側磁石列10及び下側磁石列20間のギャップ(間隔)が可変となるようにアンジュレータ磁石列1を保持する保持部を備えていると言える。保持部は、磁石列ビーム110及び120、高剛性ビーム140U及び140L、真空導入連結部150U及び150L、ボールねじ式駆動機構160並びに架台170を含むと考えて良い。
【0092】
図21に、放射光施設200の平面図を模式的に示す。放射光施設200は、電子銃201、線形加速器202、シンクロトロン203、蓄積リング204、及び、1以上のビームライン205を有する。蓄積リング204における各ビームライン205の基部付近にアンジュレータ100が配置される。
【0093】
電子銃201から発射された電子eは、線形加速器202により1GeV(ギガエレクトロンボルト)程度のエネルギの速度にまで加速された後、シンクロトロン203により高周波を用いて8GeV程度のエネルギの速度にまで更に加速され、光速に近い速度を有した状態で蓄積リング204に入る。
【0094】
電子eは、そのエネルギを維持したまま蓄積リング204内を高速で回り、蓄積リング204内に配置されているアンジュレータ磁石列1の形成する周期磁場により蛇行せしめられて、放射光Rを放出する。放射光Rはビームライン205に入り、ビームライン205内で種々な研究及び実用的用途に利用される。
【0095】
上述の如く、第1〜第4実施形態の技術によれば、上側及び下側磁石列間の磁気吸引力を大幅に減少させることが可能である。このため、上側及び下側磁石列を支える構造部品に要求される剛性を減少させることが可能となると共に、アンジュレータの構造(駆動機構を含む)の簡略化及びアンジュレータ全体の重量の大幅な減少が可能となる。結果、アンジュレータの製造及び設置に関わるコスト及び期間の大幅な削減が可能となる、
【0096】
<<変形等>>
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本発明の実施形態の例であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。
【0097】
本発明を、互いに対向配置された一対の磁石列(上側磁石列及び下側磁石列)に適用する方法を上述したが、同様の方法を様々な形態のアンジュレータ磁石列及びアンジュレータ(アンジュレータ装置)に適用することができる、例えば、Figure−8アンジュレータやSpring−8型のヘリカルアンジュレータは、互いに対向配置された一対の磁石列(上側磁石列及び下側磁石列)を3組有しているが、夫々の組に本発明が適用されて良い。また、AppleII型のアンジュレータは、互いに対向配置された一対の磁
石列(上側磁石列及び下側磁石列)を2組有しているが、夫々の組に本発明が適用されて良い。
【0098】
上述の実施形態では、磁石列10及び20が上下方向に並んでいると考えたが、磁石列10及び20は上下方向以外の方向(例えば左右方向)に並んでいても良い。