特許第6596819号(P6596819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6596819タイヤ補強用のすだれ織物及びそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596819
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】タイヤ補強用のすだれ織物及びそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/04 20060101AFI20191021BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20191021BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B60C9/04 C
   B60C9/00 A
   D03D1/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-251252(P2014-251252)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-112938(P2016-112938A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−195407(JP,A)
【文献】 特開2003−213539(JP,A)
【文献】 特開2006−021514(JP,A)
【文献】 特開平05−200910(JP,A)
【文献】 特開平09−030216(JP,A)
【文献】 特開2011−122263(JP,A)
【文献】 特開2004−243621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
B29D30/00−30/72
D03D1/00−51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ補強用の経糸と、非連続の緯糸とを有するすだれ織物がディップ処理されたタイヤ補強用のすだれ織物であって、
前記各緯糸は、織物の幅方向を連続してのびる本体部と、前記本体部に連なりかつ織物内部に折り返されて終端するタックイン部とを有し、
隣接する2つの緯糸間において、一方の緯糸の前記本体部と、他方の緯糸のタックイン部とが離間しており、
前記一方の緯糸の前記本体部と、前記他方の緯糸のタックイン部との間隔Aが1.0mm以上であり、
前記タックイン部の長さBが15〜70mmであることを特徴とするタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項2】
前記経糸は、ポリエステル、ナイロン、アラミド又はセルロースの繊維である請求項記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項3】
前記経糸の太さが840dtex/2〜2200dtex/2である請求項1又は2記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項4】
前記緯糸は、ポリエステル、又は、ポリエステルが綿糸で被覆された複合糸からなる請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項5】
前記緯糸の太さが100dtex/1〜400dtex/1である請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項6】
前記緯糸が2本撚りである請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項7】
前記各緯糸は、前記本体部の両側にそれぞれ前記タックイン部が設けられており、
前記各タックイン部は、前記本体部に対して同じ側に折り返されている請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項8】
前記タックイン部がエアージェットを用いて折り返されたものである請求項1乃至7のいずれかに記載のタイヤ補強用のすだれ織物。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれかに記載されたタイヤ補強用のすだれ織物を、カーカスプライとして具えていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ補強用のすだれ織物及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、詳しくは、良好なユニフォミティの空気入りタイヤを製造するのに役立つすだれ織物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気入りタイヤを補強するカーカス材料として、すだれ織物が用いられている。すだれ織物は、タイヤコードからなる複数本の経糸と、この経糸の配列を保持するために経糸間に比較的粗く織り込まれた緯糸とを含む織物である。すだれ織物を作るための織機は、古くはシャトルタイプ(機械式)が知られていたが、近年では、生産性の高いエアージェットタイプに急速に置き換わりつつある(下記特許文献1乃至2参照)。
【0003】
図4には、シャトルタイプの織機で作られたすだれ織物100の平面模式図が示されている。このすだれ織物100は、平行に配列された複数の経糸102と、織物100の両端でU字状に折り返されながら連続的に経糸102に織り込まれた緯糸104とを具えている。このすだれ織物100は、ディップ処理によって、経糸102のゴムとの接着性や寸法安定性が改善される他、経糸102と緯糸104との交差部分が互いに接着される。
【0004】
図5には、エアージェットタイプの織機で作られたすだれ織物200の平面模式図が示されている。このすだれ織物200は、平行に引き揃えられた経糸202と、経糸の間に織り込まれた非連続の緯糸204とを有している。各緯糸204は、織物の幅方向を連続してのびる本体部206と、本体部206に連なりかつ織物内部へ折り返されて終端する小長さのタックイン部208とを有している。このタックイン部208は、隣接する緯糸204の本体部206と接触している(ただし、図5では、理解しやすいように、タックイン部208は、隣接する緯糸204の本体部206と僅かに離間して描かれている。)。このようなすだれ織物200も、ディップ処理を経て、経糸202と緯糸204との交差部分が接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−80697号公報
【特許文献2】特開2003−306007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記すだれ織物200がラジアルタイヤのカーカスに利用される典型的な例では、次のような工程が行われる。
【0007】
先ず、すだれ織物200は、ディップ処理される。ディップ処理では、すだれ織物200がディップ液に浸漬される。ディップ液としては、例えば、RFL(レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体、ゴムラテックス混合液)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。浸漬後、すだれ織物200は、余分なディップ液が除去され、乾燥される。乾燥後、すだれ織物200は、例えば、経糸202に所定の張力を与えながら熱処理される。これにより、経糸202のゴムとの接着性や寸法安定性が改善される。
【0008】
ディップ処理されたすだれ織物200は、カレンダー機等によって、未加硫ゴムで被覆される(ゴム被覆工程)。ゴム被覆されたすだれ織物200は、経糸202に対して所定の角度で裁断される(切断工程)。ラジアルタイヤの場合、この角度は、一般にほぼ90度である。裁断された織物片は、非裁断側の辺同士が各々ジョイントされて、所定長さのシート状のカーカスプライ材料が準備される(ジョイント工程)。
【0009】
シート状のカーカスプライ材料は、円筒状のドラムに巻き付けられ、例えば、図6に示されるような円筒状のカーカスプライ300へと成形される(成形工程)。このカーカスプライ300は、ほぼ軸方向に沿ってのびる経糸202と、ほぼ円周方向に沿ってのびる緯糸204とを有する。
【0010】
次に、円筒状のカーカスプライ300は、例えば、図7に示されるように、内圧pが付与されて膨張変形し、トロイド状のカーカスプライ301に成形される(シェーピング工程)。なお、図7では、理解しやすいように、円筒状のカーカスプライ300と、トロイド状のカーカスプライ301とが、中心軸を揃えて一緒に示されている。
【0011】
上記シェーピング工程では、内圧pによって緯糸204や未加硫ゴムが伸びることにより、経糸202の間隔Dが大きくなり、ひいては拡径されたカーカスプライ301が得られる。この際、経糸202の間隔Dは、図7のように、円周方向で均等に広くなることが理想的である。
【0012】
一方、経糸202の間隔Dが円周方向で不均一である場合、種々の不具合が生じる。主な不具合として、いわゆるデントが挙げられる。例えば、図8に示されるように、タイヤとして仕上がったカーカスプライ400が、部分的に経糸202の間隔Dが小さい高密度部分402を持っている場合、高密度部分402では経糸202の一本当たりに作用する張力は小さく、ひいては、経糸202の伸びも小さくなる。従って、図8の外側に示されているように、カーカスプライ400の経糸202の高密度部分402は、内圧を充填したときに伸びにくく、その外径が小さくなる。これが、タイヤの部分的な凹み、即ち、デント404を引き起こし、ひいてはタイヤの真円度であるユニフォミティを悪化させる。
【0013】
先に示した図5図6は、理解しやすいように、緯糸204のタックイン部208が、隣接する緯糸204の本体部206から離して描かれている。しかしながら、実際の織物では、緯糸204のタックイン部208は、隣接する緯糸204の本体部206に接触している。例えば、図9には、図5のすだれ織物の経糸202と直交するタックイン部の拡大断面図が示されている。また、図10(a)には、図9のA−A‘線及びB−B’線断面に相当する図5のすだれ織物のI−I線断面図が示されている。さらに、図10(b)には、図10(a)の部分拡大図が示されている。さらに、図10(c)には、図9のC−C’線断面が示されている。これらの図に示されるように、緯糸204の本体部206とタックイン部208とは、ディップ処理によって接着剤7で実質的に一体化されている。
【0014】
特に、図10(a)及び図10(c)に示されるように、タックイン部208と本体部206との接触部210は、経糸202に対して、他の円周方向部分よりも大きな拘束力を持つため、シェーピング工程において、経糸202の間隔Dが広がるのを妨げる。即ち、緯糸204の前記接触部210では、タイヤのユニフォミティの悪化を引き起こす前記高密度部分402を生成する傾向があるという問題があった。
【0015】
本発明の一つの目的は、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤを得るのに役立つタイヤ補強用のすだれ織物を提供することである。本発明の他の目的は、上で提供されたすだれ織物を用いたユニフォミティに優れた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、タイヤ補強用の経糸と、非連続の緯糸とを有するすだれ織物がディップ処理されたタイヤ補強用のすだれ織物であって、前記各緯糸は、織物の幅方向を連続してのびる本体部と、前記本体部に連なりかつ織物内部に折り返されて終端するタックイン部とを有し、隣接する2つの緯糸間において、一方の緯糸の前記本体部と、他方の緯糸のタックイン部とが離間していることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の態様では、前記一方の緯糸の前記本体部と、前記他方の緯糸のタックイン部との間隔Aが1.0mm以上とされても良い。
【0018】
本発明の他の態様では、前記タックイン部の長さBが15〜70mmとされても良い。
【0019】
本発明の他の態様では、前記経糸には、ポリエステル、ナイロン、アラミド又はセルロースの繊維が用いられ得る。
【0020】
本発明の他の態様では、前記経糸の太さが840dtex/2〜2200dtex/2の範囲とされても良い。
【0021】
本発明の他の態様では、前記緯糸には、ポリエステル、又は、ポリエステルが綿糸で被覆された複合糸が用いられても良い。
【0022】
本発明の他の態様では、前記緯糸の太さが100dtex/1〜400dtex/1の範囲とされても良い。
【0023】
本発明の他の態様では、前記緯糸が2本撚りとされても良い。
【0024】
本発明の他の態様では、前記各緯糸は、前記本体部の両側にそれぞれ前記タックイン部が設けられており、前記各タックイン部は、前記本体部に対して同じ側に折り返されていることが望ましい。
【0025】
本発明の他の態様では、前記タックイン部がエアージェットを用いて折り返されたものであるのが望ましい。
【0026】
本発明の他の態様は、空気入りタイヤであって、上述のいずれかのタイヤ補強用のすだれ織物をカーカスプライとして具えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、タイヤ補強用の経糸と、非連続の緯糸とを有したタイヤ補強用のすだれ織物であって、各緯糸は、織物の幅方向を連続してのびる本体部と、本体部に連なりかつ織物内部に折り返されて終端するタックイン部とを有する。隣接する2つの緯糸間において、一方の緯糸の本体部と、他方の緯糸のタックイン部とは、離間している。このようなすだれ織物は、タックイン部が緯糸の本体部から離されているので、経糸に対する拘束力を過度に高めることがなく、ひいては経糸の間隔の変化を妨げない。従って、本発明のすだれ織物は、ラジアルタイヤのカーカスを製造する際のシェーピング工程において、経糸の間隔を円周方向でより均一に近づけることができる。これは、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤの製造に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態のすだれ織物の平面模式図である。
図2図1のすだれ織物の経糸と直交するタックイン部の拡大断面図である。
図3】(a)は図1のI−I線断面図で図2のA−A‘線、又はB−B線断面位置に相当しており、(b)は図3(a)の部分拡大図、(c)は図2のC−C‘線拡大断面図である。
図4】シャトルタイプの織機で作られたすだれ織物の平面模式図である。
図5】エアージェットタイプの織機で作られたすだれ織物の平面模式図である。
図6】円筒状のカーカスプライの一例を示す斜視図である。
図7】円筒状のカーカスプライのシェーピング工程を説明する断面図である。
図8】デントを説明するカーカスプライの断面図である。
図9図5のすだれ織物の経糸と直交するタックイン部の拡大断面図である。
図10】(a)は図5のI−I線断面図で図9のA−A‘線、又はB−B線断面位置に相当しており、(b)は図10(a)の部分拡大図、(c)は図9のC−C‘線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ補強用のすだれ織物1の平面模式図を示している。本実施形態のすだれ織物1は、ラジアルタイヤのカーカスプライ材料として好適に利用される。
【0030】
すだれ織物1は、タイヤ補強用の経糸2と、この経糸2に織り込まれた非連続の緯糸3とを含んでいる。図1では、織物の中間部分において、経糸2の一部が省略されている。非連続の緯糸3を有するすだれ織物1は、例えば、エアージェットタイプの織機を用いて織られた後、上記したディップ処理を経て経糸2と緯糸3とが接着されて製造される。
【0031】
経糸2は、織物長手方向Yに沿ってのびており、かつ、織物幅方向Xに複数本並列されている。各経糸2は、空気入りタイヤの内部でカーカスコードとして機能する。
【0032】
経糸2には、例えば、ポリエステル、ナイロン、アラミド又はセルロース等の有機繊維コードが好適に用いられる。セルロースの繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、テンセル、ヴィスコース、ベンベルグ・ナイロン、モダール又はリヨセルなどが挙げられ、特に限定されるものではない。好ましい態様では、経糸2には、例えば、840dtex/2〜2200dtex/2の範囲の太さのものが用いられる。
【0033】
図2には、図1のすだれ織物1の経糸と直交する拡大断面図が示されている。各緯糸3は、各経糸2の配列状態を保持するもので、経糸2の長手方向に比較的粗い間隔で織り込まれている。緯糸3は、空気入りタイヤの性能に極力影響を与えないように、例えば、経糸2よりも細い糸であるのが望ましい。このような緯糸3としては、例えば、ポリエステル又はポリエステルが綿糸で被覆された複合材が好適であり、その太さは、例えば、100dtex/1〜400dtex/1の範囲が望ましい。また、好ましい態様では、緯糸3は、2本撚りとされる。
【0034】
図1に示されるように、各緯糸3は、本体部4とタックイン部5とを有している。
【0035】
本体部4は、織物幅方向Xの一端から他端まで連続してのびている。本体部4は、経糸2の間を交互に浮き沈みするように通過している(図2参照)。そして、織物長手方向Yで隣り合う本体部4は、互いに逆向きで経糸2に対して浮き沈みしながら織り込まれている。
【0036】
タックイン部5は、本体部4に連なり、かつ、織物の端部で略U字状に折り返され、比較的小さい長さBで終端している。各緯糸3は、本体部4の両側にそれぞれタックイン部5が設けられている。特に限定されるものではないが、本実施形態では、本体部4の両側の各タックイン部5は、本体部4に対して同じ側(本実施形態では図において上側)に折り返されている。図示されていないが、本体部4の両側の各タックイン部5は、本体部4に対して、異なる側に折り返されたものでも良い。
【0037】
図3(a)には、図1のI−I線断面図が示されている(これは、図2のA−A‘線、又はB−B線断面位置に相当している)。図1及び図3(a)に示されるように、タックイン部5も、経糸2の間を交互に浮き沈みしながら通過している。タックイン部5の浮き沈みは、タックイン部5と連続している本体部4の浮き沈みとは、逆向きとされている。一方、タックイン部5の浮き沈みは、このタックイン部5と隣接する他の緯糸3の本体部4の浮き沈みとは、同じ向きとされている。
【0038】
図1に示されるように、すだれ織物1は、隣接する2つの緯糸3A、3B間において、一方の緯糸3Aの本体部4と、他方の緯糸3Bのタックイン部5とが離間している。このようなすだれ織物1は、隣接する2つの緯糸3A、3B間において、一方の緯糸3Aの本体部4と、他方の緯糸3Bのタックイン部5との接触部を持たないので、経糸2に対して、局部的に大きな拘束力が作用することを防止できる。
【0039】
また、図3(b)には、図3(a)の部分拡大図、図3(c)には、図2のC−C‘線拡大断面図が示されている。図3(b)に示されるように、すだれ織物の経糸2と緯糸3との交差部6は、接着剤7(ディップ液の固化物)によって接着されている。本実施形態のすだれ織物は、緯糸3の本体部4とタックイン部5とは、相互に離間していて、図10(b)及び図10(c)で示したような緯糸3の210を具えていない。そのため、本実施形態のすだれ織物1は、緯糸3の重なりがないばかりか、図5に示した従来のすだれ織物に比してディップ付着量も少なくすることができる。このような少ないディップ付着量も、経糸2に対して、局部的に大きな拘束力が作用することを防止するのに役立つ。
【0040】
このようなすだれ織物1は、上述したように、ゴム被覆工程、切断工程、ジョイント工程などを経てカーカスプライ材料として提供される。このカーカスプライ材料を用いてラジアルタイヤのカーカスプライのシェーピング工程を行う場合、経糸2、2の間隔は、従来のものよりも、円周方向でより均一に広げられる。これは、空気入りタイヤのユニフォミティを向上させるのに役立つ。
【0041】
一方の緯糸3Aの本体部4と、他方の緯糸3Bのタックイン部5との織物長手方向Yに沿った間隔Aは、特に限定されるものではないが、例えば、1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上とされ得る。これにより、緯糸3によって、経糸2に対する強い拘束をより確実に解消させることができる。
【0042】
好ましい態様では、タックイン部5の織物幅方向Xの長さBは、15〜70mmの範囲とされる。これにより、すだれ織物1の端部分で経糸2が乱れるのが確実に防止される。
【0043】
本実施形態のすだれ織物1のタックイン部5は、機械式又はエアージェット式の織機によって折り返されるが、能率よく製造するためには、エアージェットで折り返されることが望ましい。特に、エアージェット式の織機では、空気圧の調整により、緯糸3の間隔を変えることができるため、物性に優れたすだれ織物を安定的に提供することができる。
【0044】
以上本発明の実施形態について詳細に説明されたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0045】
実施例として、経糸に1670dtex/2のポリエステルコードを用いたすだれ織物が試作された。このすだれ織物は、図1に示したように、隣接する2つの緯糸間において、一方の緯糸の本体部と、他方の緯糸のタックイン部とが離間しているものであった。経糸のピッチは、約1.0mmであり、その他、図1に示した各部の寸法は、次の通りである。
間隔A:5.0〜7.0mm
長さB:約28mm
間隔C:約12.5mm
比較例として、上記と同一の経糸及びそのピッチを用いたすだれ織物が試作された。このすだれ織物は、図4に示したように、隣接する2つの緯糸間において、一方の緯糸の本体部と、他方の緯糸のタックイン部とが接触するものであった。
間隔A:0mm(緯糸の本体部とタックイン部とが接触)
長さB:約28mm
間隔C:約12.5mm
【0046】
次に、実施例及び比較例のすだれ織物を、同じ条件でディップ処理してディップ反とされ、その後、ゴムで被覆することでカーカスプライ用のゴム引きすだれ織物が試作された。そして、実施例及び比較例のゴム引きすだれ織物をそれぞれカーカスプライ材料として、サイズ195/65R15の空気入りタイヤが2種類製造された。製造された各空気入りタイヤについて、ユニフォミティ及びカーカスプライのカーカスコード(経糸)のエンズの差が測定された。また、ディップ反のディップ付着量が測定された。測定方法等は、次の通りである。
【0047】
<タイヤのユニフォミティ>
JASO C607のユニフォミティ測定法に基づいて、各空気入りタイヤの回転時のタイヤ半径方向の力の変動成分であるラジアルフォースバリエーション(RFV)が、ユニフォミティマシンを用いて測定された。結果は、その平均値と標準偏差で示されている(n=1000)。数値が小さいほど、ばらつきが小さく良好であることを示す。
【0048】
<カーカスコードのエンズの差>
それぞれの空気入りタイヤを解体し、カーカスプライの前記接触部(図6において、符号210で示される部分)と、接触部210に隣接した部分(図6において、符号220で示される部分に相当)とのそれぞれにおいて、タイヤ周方向の5cm当たりのカーカスコードの本数であるエンズが測定され、それらの差が示された。この差が小さいほど、カーカスコードの間隔がタイヤ周方向に均一化されていることを示す。
【0049】
<ディップ付着量>
ディップ付着量は、ディップ処理を終えかつ乾燥したすだれ織物に付着しているディップ液の硬化物(接着剤)の量を示し、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」の「ディップピックアップ」の項目の溶解法に準拠して測定された。また、ディップ付着量は、カーカスプライのクラウン(緯糸の本体部のみが存在する部分)と、ショルダー(緯糸の本体部とタックイン部とが存在する部分)とのそれぞれにおいて、測定された。
【0050】
テストの結果は、表1に示される。
【0051】
【表1】
【0052】
実験の結果は、次の通りである。先ず、ディップ付着量については、比較例では、クラウンとショルダーとで約0.4ポイントの差があったが、実施例のすだれ織物は、それらの差が0.1ポイントに抑えられていた。比較例のものでは、ショルダーで緯糸のタックイン部と本体部とが接触しており、そこにディップ液がたまりやすい隙間が多く形成されているため、大きなが差が生じたと考えられる。一方、実施例のものでは、緯糸の本体部とタックイン部とを離間させたことにより、ディップ液がたまりやすい隙間が減ったためと思われる。
【0053】
エンズに関しては、実施例のすだれ織物を用いた空気入りタイヤは、比較例のすだれ織物を用いた空気入りタイヤに比べて、より均一化されていた。
【0054】
さらに、ユニフォミティに関しては、実施例の空気入りタイヤは、比較例の空気入りタイヤに比べて、RFVの平均値で約2.5N低減していた。この低減量は、測定誤差の範囲を完全に逸脱した優位な値である。さらに、実施例では、RFVの標準偏差も小さく、製造時のばらつきが小さく抑えられていることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 すだれ織物
2 経糸
3 緯糸
3A 一方の緯糸
3B 他方の緯糸
4 緯糸の本体部
5 緯糸のタックイン部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10