特許第6596852号(P6596852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596852
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物および積層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20191021BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20191021BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20191021BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20191021BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C08F290/06
   C08G18/67 050
   C08G18/79 010
   B32B27/30 A
   B32B27/40
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-51681(P2015-51681)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-169351(P2016-169351A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】田中 将啓
(72)【発明者】
【氏名】石川 正和
【審査官】 水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/045782(WO,A1)
【文献】 特開2006−241420(JP,A)
【文献】 特開2005−162908(JP,A)
【文献】 特開2012−017404(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/094532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00−290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分および(B)成分を、(A):(B)=50:50〜95:5の質量割合で含有する硬化性樹脂組成物。
(A)成分:以下の(a1)〜(a3)成分を、(a1)の水酸基/(a2)の水酸基の当量比が2.0〜59.0、(a1)と(a2)の水酸基/(a3)のイソシアネート基の当量比が0.9〜1.1の反応比で反応して得られるウレタン(メタ)アクリレート

(a1)下記式(1)で表されるポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、aはR2Oの平均付加モル数であり、2〜8を示す。)

(a2)下記式(2)で表されるポリエーテルジオール
【化2】
(式中、R3は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、bはR3Oの平均付加モル数であり、2〜16を示す。)

(a3)下記式(3)で表されるジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体
【化3】
(式中、R4は炭素数4〜10のアルキレン基を示す。)

(B)成分:下記式(4)で表される単官能エチレン性不飽和化合物
【化4】



(式中、R5は水素原子またはメチル基を示し、R6は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、cはR6Oの平均付加モル数であり、0〜2を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物層、および基材の少なくとも二層で構成され、前記基材の少なくとも一方の面に前記硬化物層が形成されてなる積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、および該組成物を硬化して得られる硬化物層が基材上に形成された積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射により直ちに硬化して強度や耐薬品性に優れる硬化膜を形成することから、各種の表面を保護するための塗料、コーティング材として用いられている。近年では、液晶ディスプレイ等の画像表示装置に使用される反射防止フィルム、偏光フィルム、プリズムシート等の光学フィルムまたはシートや、電子機器や家電製品の筐体、表示パネル、スイッチボタン等に使用されるインサート成形またはインモールド転写フィルムへの利用が拡大している。
このような用途に用いられる硬化性樹脂組成物には、傷や凹みなどによって外観や性能が損なわれることを防ぐために、高硬度、耐傷つき性などの性能が求められる。その中でも近年、傷付きにくさを向上させる手段として、硬さを向上させるのではなく、柔軟性と復元性を向上させることにより、軽微な傷や凹みが生じても、経時的に傷を復元して消失させる特性(以下、自己修復性と記載)を持たせることが実施されている。
【0003】
自己修復性は様々な用途で有用な特性とされることから、幅広い用途に適用することが可能である。特に家電製品の筐体、パネル、画像表示装置など、人の目に触れる頻度や、人や物に接触する頻度の高い部位に用いられる場合には、復元力が高く、修復時間のより早い方が好まれる傾向にある。
また、用途により様々な種類の基材が使用されることから、それらの基材に対する密着性が良好であることが必要である。密着性を付与するための一般的な手法として、硬化性樹脂に低粘度の単官能または二官能のモノマーを配合し、濡れ広がりや基材への浸透性、基材との親和性を高める方法が知られており、自己修復性樹脂についても同様にこの手法を用いることが可能である。
【0004】
しかしながら、自己修復性を発現するためには適度なバランスで柔軟性と硬さを併せ持つことが必要であり、硬化膜を形成した際に適切な架橋密度となるよう分子設計を行う必要がある。密着性付与のために単官能、または二官能のモノマーを配合すると、硬化膜を形成した際に架橋密度が低下するため、自己修復性を十分に発現しない不具合が生じる場合があった。そのため、実使用において自己修復性を十分に発揮しつつも、基材に対する良好な密着性も付与するために、様々な試みがなされている。
例えば、特許文献1には、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物と、ポリオールと、芳香環構造を有するイソシアネートからなるウレタン(メタ)アクリレートと、エチレン性不飽和基を1つ有するモノマーとを含んでなる硬化性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の組成物は、密着性に優れており、芳香環構造を取り入れていることにより硬さには優れているものの、柔軟性が不十分であり、自己修復性については瞬時の復元が認められないため、実使用において十分に満足されるものではなかった。
【0005】
また、特許文献2には、ウレタン(メタ)アクリレートと、ポリオールと、単官能の(メタ)アクリレートを含んでなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の組成物は、可塑剤としてポリオールを含むことにより密着性、柔軟性については優れた効果が期待でき、自己修復性については人間の爪で付けられた軽微な傷は経時的に復元して消失するが、上述のような画像表示装置、電子機器や家電製品の筐体などに用いられる場合、十分な硬さを有していないことから、鉛筆、ペン、金属ブラシなどの高硬度で鋭利な材質の物に接触されると傷が残ってしまうため、実使用において自己修復性が十分に満足されるものではなかった。
また、特許文献3には、ウレタン(メタ)アクリレートと、単官能エチレン性不飽和化合物と、多官能の(メタ)アクリレートモノマーを含有してなる樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献3に記載の樹脂組成物はレンチキュラーレンズ、フレネルレンズなどのレンズシートに好適に用いられるものであり、優れた硬度と高屈折率を持たせるため、芳香環構造を有しており、変形に対して優れた復元性を示すものの、本出願で記載するような傷復元性を示すだけの柔軟性を持ち合わせておらず、上述のような画像表示装置、電子機器や家電製品の筐体などに使用するには適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−141654号公報
【特許文献2】特開2007−314779号公報
【特許文献3】特開2004−131520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、本発明の課題は、活性エネルギー線照射により速やかに硬化し、実使用において優れた自己修復性と、プラスチック基材に対する優れた密着性と、耐カール性を示す硬化性樹脂組成物、および該組成物の硬化物が形成されてなる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のアルキレンオキシド鎖長を有するポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、特定のアルキレンオキシド鎖長を有するポリエーテルポリオール、ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレートと、特定のアルキレンオキシド鎖長を有するポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートを、特定の割合で含有する硬化性樹脂組成物が上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の[1]および[2]である。
【0009】
[1]下記(A)成分および(B)成分を、(A):(B)=50:50〜95:5の質量割合で含有する硬化性樹脂組成物。
(A)成分:以下の(a1)〜(a3)成分を、
(a1)の水酸基/(a2)の水酸基の当量比が2.0〜59.0、
(a1)と(a2)の水酸基/(a3)のイソシアネート基の当量比が0.9〜1.1
の反応比で反応して得られるウレタン(メタ)アクリレート
(a1)下記式(1)で表されるポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、aはR2Oの平均付加モル数であり、2〜8を示す。)
(a2)下記式(2)で表されるポリエーテルジオール
【化2】
(式中、R3は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、bはR3Oの平均付加モル数であり、2〜16を示す。)
(a3)下記式(3)で表されるジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体
【化3】
(式中、R4は炭素数4〜10のアルキレン基を示す。)
(B)成分:下記式(4)で表される単官能エチレン性不飽和化合物
【化4】
(式中、R5は水素原子またはメチル基を示し、R6は炭素原子数2〜4のアルキレン基を示し、cはR6Oの平均付加モル数であり、0〜2を示す。)
[2]前記の[1]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物層、および基材の少なくとも二層で構成され、前記基材の少なくとも一方の面に前記硬化物層が形成されてなる積層構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線照射により速やかに硬化し、実使用において優れた自己修復性と、プラスチック基材に対する優れた密着性と、耐カール性を示す。そのため、本発明の硬化性樹脂組成物は、各種の塗料、コーティング材、液晶ディスプレイ等の画像表示装置に使用される反射防止フィルム、偏光フィルム、プリズムシート等の光学フィルムまたはシートや、電子機器や家電製品の筐体、表示パネル、スイッチボタン等に使用されるインサート成形またはインモールド転写フィルムなどの用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)成分として特定のウレタン(メタ)アクリレート、(B)成分として特定の単官能エチレン性不飽和化合物を含んでなることを特徴とする。
【0012】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A)>
本発明の硬化性樹脂組成物に用いるウレタン(メタ)アクリレート(A)は、(a1)成分としてポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、(a2)成分としてポリエーテルポリオール、(a3)成分としてジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体を用い、ウレタン化反応して得られる化合物である。
【0013】
上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(a1)は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを開環付加重合して得られる化合物である。
【0014】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。これらヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、二種以上を併用しても良い。
【0015】
開環付加重合に用いられる炭素数2〜4のアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点からエチレンオキシド、プロピレンオキシドが好ましい。これらアルキレンオキシドは、単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合は、ブロック状に反応させても良く、ランダム状に反応させても良い。
【0016】
上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートに対するアルキレンオキシドの付加モル数は、塗膜を形成する際の硬化収縮を抑えるとともに、自己修復性を発現するための適度な柔軟性を付与するために、2〜8モルであり、好ましくは3〜6モルである。付加モル数を該範囲とすることによって、塗膜を形成した際に良好な架橋密度とすることができ、良好な自己修復性、耐カール性、柔軟性を持たせることができる。
【0017】
上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(a1)は、一般的には公知の方法に従って製造することができる。例えば、反応容器にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド、開環重合触媒、必要に応じて重合禁止剤や有機溶剤を投入し、所定の温度を維持して反応させる。このとき、アルキレンオキシドは、これ以外の原料を先に投入した上で、少量ずつ滴下しながら反応させても良い。また、反応後は公知の吸着剤を用いて触媒を吸着処理し、吸着剤をろ過により除去しても良く、酸やアルカリで中和して生成した塩をろ過により除去しても良い。
【0018】
上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(a1)としては、例えばポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシブチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンポリオキシブチレンモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これら(a1)成分は、単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0019】
上記ポリエーテルポリオール(a2)としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。これらの内、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。これらのポリエーテルポリオールは、単独で用いても良く、二種以上を併用しても良い。
【0020】
上記ポリエーテルポリオール(a2)のアルキレンオキシドの繰り返し単位数は、塗膜を形成した際に適度に柔軟性を付与し、自己修復性を発現するために、2〜16モルであり、好ましくは3〜12モルである。アルキレンオキシドの繰り返し単位を該範囲とすることにより、塗膜に適度な柔軟性を付与することができ、良好な自己修復性を発現させることができる。
【0021】
上記ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(a3)に用いられるジイソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネートとして1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートとして2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、耐黄変性や自己修復性発現の観点から脂肪族ジイソシアネートと脂環族ジイソシアネートが好ましく、脂肪族ジイソシアネートが特に好ましい。具体的には、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましく、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートが特に好ましい。
【0022】
上記ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(a3)の製造方法は、一般的には公知の方法に従って製造することができる。例えば、反応容器に前記ジイソシアネート化合物、第四級アンモニウム塩などのイソシアヌレート化触媒、必要に応じて有機溶剤を投入し、所定の温度を維持してイソシアヌレート化反応を行う。また、反応後は生成物の保存安定性の向上を目的として反応停止剤を投入してイソシアヌレート化反応を停止させることが好ましい。さらに、未反応のジイソシアネート化合物は、蒸留により除去することが好ましい。
【0023】
上記ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(a3)の入手可能な市販品としては、例えば、旭化成ケミカルズ(株)製の「デュラネートTPA−100」、「デュラネートTKA−100」、「デュラネートTLA−100」、住化バイエルウレタン(株)製の「スミジュールN3300」、「デスモジュールN3600」、「デスモジュールN3790BA」、「デスモジュールN3900」、「デスモジュールZ4700BA」、三井武田ケミカル(株)製「タケネートD−170N」、DIC(株)製の「バーノックDN−980」、「バーノックDN−981」、「バーノックDN−990」、「バーノックDN−992」、日本ポリウレタン(株)製の「コロネートHX」、「コロネートHXR」、「コロネートHXLV」などが挙げられる。
【0024】
ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造において、上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート(a1)と上記ポリエーテルポリオール(a2)の配合比は、後述するウレタン(メタ)アクリレートの柔軟性、硬度、ハンドリング性の観点から、(a1)の水酸基/(a2)の水酸基の当量比が2.0〜59.0であり、好ましくは3.0〜15.0である。当量比を該範囲とすることにより、後述のウレタン化においてゲル化などの不具合を起こすことなく、ハンドリング性の良好なウレタンアクリレートを得ることができる。
【0025】
ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造において、水酸基とイソシアネート基の当量比は、製造物の保存安定性の観点から(a1)と(a2)の水酸基の合計/(a3)のイソシアネート基の当量比が0.9〜1.1であることが好ましく、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0026】
ウレタン(メタ)アクリレート(A)の製造において、ウレタン化反応の方法は特に限定されないが、一般的には公知の方法に従って製造することができる。例えば、反応容器中に(a1)成分、(a2)成分、(a3)成分を投入し、必要に応じてウレタン化触媒、重合禁止剤、黄変防止剤、有機溶剤を投入し、所定の温度において反応させる。このとき、(a1)成分、(a2)成分、(a3)成分の投入の仕方については、特に限定されないが、これら全てを一括で仕込んでも良く、少量ずつ系に加えて反応させても良い。また、(a1)成分と(a2)成分のどちらか一方を先に(a3)成分と反応させたのち、残りの成分を投入して反応させても良い。
【0027】
ウレタン化反応において、反応時間を短縮することができることから、ウレタン化触媒を使用することが好ましい。ウレタン化触媒としては、ジブチルスズジラウレートなどの有機スズ化合物、ジブチルビスマスジラウレートなどの有機ビスマス化合物、トリエチルアミンなどの3級アミン、テトラアルキルアンモニウムブロマイドなどの4級アンモニウムなどを用いることができる。これらのウレタン化触媒は、反応原料の総量に対して0.005〜1.0重量%の量で用いられる。
【0028】
ウレタン化反応は、通常30〜100℃の範囲で行われる。ウレタン化反応の終点は、イソシアネート基を示す2270cm-1の赤外吸収スペクトルの消失や、JIS K 7301に記載の方法でイソシアネート基の含有量を求めることで確認することができる。
【0029】
<単官能エチレン性不飽和化合物(B)>
本発明の硬化性樹脂組成物に用いる単官能エチレン性不飽和化合物(B)は、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを開環付加重合して得られる化合物である。
【0030】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。これらヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、二種以上を併用しても良い。
【0031】
上記ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートにおけるアルキレンオキシドの付加モル数は、基材に対する密着性を向上させる観点から、1〜2であり、好ましくは1である。付加モル数を該範囲とすることで、良好な密着性を付与することができる。
【0032】
ウレタン(メタ)アクリレート(A)、および単官能エチレン性不飽和化合物(B)の配合割合は、(A)成分と(B)成分の合計質量を100質量%とした場合、質量比で(A):(B)=50:50〜95:5の範囲であり、60:40〜90:10の範囲であることが好ましい。(A)成分と(B)成分の配合量を該範囲とすることで、自己修復性と密着性をバランス良く発現することができる。
【0033】
<光重合開始剤>
本発明の硬化性樹脂組成物には光重合開始剤を配合しても良い。前記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインまたはベンゾインアルキルエーテル;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシドが挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシドが好ましく、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノンがより好ましい。
【0034】
さらに、本発明の硬化性樹脂組成物には、任意成分として本発明の効果を阻害しない範囲内で、(メタ)アクリル重合体、表面調整剤、レベリング剤、充填剤、顔料、シランカップリング剤、帯電防止剤、消泡剤、防汚剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、光重合開始剤、有機溶剤等を配合することができる。
【0035】
本発明の硬化性樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)、単官能エチレン性不飽和化合物(B)、その他必要に応じて、上記の任意成分を配合し混合することにより得られる。
【0036】
<積層体の構成および製造方法>
本発明の積層体は、ウレタン(メタ)アクリレート(A)、および単官能エチレン性不飽和化合物(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物層、および基材の少なくとも二層で構成される積層構造体であり、基材の少なくとも一方の面に硬化性樹脂組成物の硬化物が形成されてなるものである。
【0037】
上記基材としては、特に限定されないが、プラスチック、ガラス、金属、木材、紙などの材質のものを用いることができる。これらの中でもプラスチックが好ましく、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、シクロオレフィンポリマー、エチレン酢酸ビニル共重合(EVA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVA)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等が挙げられる。また、プラスチック樹脂の形状は、特に限定されないが、膜厚の薄いフィルムや厚みのある樹脂板などが一般的に用いられる。
【0038】
硬化性樹脂の基材への塗工方法としては、硬化性樹脂組成物の基材への塗工方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、フローコート法、バーコート法等の方法や、グラビア印刷、スクリーン印刷等の印刷方法を適用することが可能である。硬化物の厚さは特に限定されないが、通常1〜200μmの範囲であり、3〜100μmの範囲が好ましく、5〜50μmの範囲がより好ましい。膜厚を該範囲にすることによって硬化性樹脂組成物の硬化性、硬化物の傷復元性を良好に保つことができる。
【0039】
硬化性樹脂組成物を硬化させる方法としては、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線および電子線などの活性エネルギー線の群より選ばれる光線を選択することができる。活性エネルギー線の照射方法は、通常の硬化性樹脂組成物の硬化方法を用いることができる。活性エネルギー線照射装置として紫外線を用いる場合、波長が200〜450nmの領域にスペクトル分布を有するフュージョンUVシステムズ(株)製Hバルブ等の無電極ランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。活性エネルギー線の照射量は、積算光量として通常10〜3,000mJ/cm2であり、50〜2,000mJ/cm2が好ましく、100〜1,000mJ/cm2がより好ましい。照射時の雰囲気は空気中でもよく、窒素やアルゴン等の不活性ガス中で硬化してもよい。
【実施例】
【0040】
以下に合成例、実施例、および比較例を挙げ、前記実施形態を具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
(合成例1:ウレタン(メタ)アクリレート(A−1)の合成)
撹拌装置、空気導入管、温度計を備えた四ツ口フラスコに、(a1)成分としてポリオキシエチレンモノアクリレート(一般式(1)においてR1=水素原子、R2=C24、a=4.5、水酸基価(OHV)=201mgKOH/g)を753.3g、(a2)成分としてポリエチレングリコール(式(2)においてR3=C24、b=9)を60.0g、(a3)成分としてヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」と表記)のイソシアヌレート変性体(商品名:デュラネートTPA−100、旭化成ケミカルズ(株)社製、イソシアネート基含有率=23.1%、以下「TPA−100」と表記)を545.5g、ジブチルスズジラウレート(商品名:ネオスタンU−100、日東化成(株)社製、以下「DBTDL」と表記)を0.20g、ハイドロキノンモノメチルエーテル(以下、「MEHQ」と表記)を0.20g投入した。次に、乾燥空気を吹き込みながら内温を60℃に保持して5時間反応させた後、JIS K 7301の方法でイソシアネート基含有率が0.05%以下となることを確認したのち、ウレタンアクリレート(A−1)を得た。収量は1333.4gであった。
【0042】
(合成例2〜4、比較合成例1〜4)
表1に記載したポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート、ポリエーテルジオール、ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体、ウレタン化触媒、重合禁止剤を用い、実施例1と同様の操作を行って、本発明に用いるウレタンアクリレートA−2〜A−4、および本発明に用いるウレタンアクリレートとは異なるウレタンアクリレートA’−1〜A’−4を得た。
【0043】
(比較合成例5:ウレタン(メタ)アクリレート(A’−5)の合成)
撹拌装置、空気導入管、温度計を備えた四ツ口フラスコに、(a1)成分としてポリオキシエチレンモノアクリレート(一般式(1)においてR1=水素原子、R2=C24、a=4.5、水酸基価=201mgKOH/g)558.0g、(a2)成分としてポリエチレングリコール(式(2)においてR3=C24、b=9)12.0g、DBTDLを0.11g、MEHQを0.11g投入した。次に、乾燥空気を吹き込みながら(a3)成分としてHDIを5時間かけてゆっくりと滴下し、内温を60℃に保持しながら168.0g投入した。JIS K 7301の方法でイソシアネート基含有率が0.05%以下となることを確認して、本発明に用いるウレタンアクリレートとは異なるウレタンアクリレート(A’−5)を得た。収量は738.0gであった。
【0044】
【表1】
【0045】
表1における略号は以下の化合物を示す。
・TPA−100:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、商品名「デュラネートTPA−100」旭化成ケミカルズ(株)製
・HDI:1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート
・DBTDL:ジブチルスズジラウレート、商品名「ネオスタンU−100」日東化成(株)製
・MEHQ:ハイドロキノンモノメチルエーテル
【0046】
<実施例1〜11、比較例1〜8:硬化物が積層された積層構造体の製造>
上記合成例で得られたウレタン(メタ)アクリレート(A)、単官能エチレン性不飽和化合物(B)、光重合開始剤を表2、表3に示す割合で配合し、均一に溶解させて硬化性樹脂組成物を得た。続いて、PET基材(コスモシャインA4300、基材厚100μm、東洋紡績(株)製)、またはPC基材(JIS6735準拠、厚さ2mm)上にこの硬化性樹脂組成物を乾燥膜厚が20μmとなるよう塗布した。さらに、紫外線照射装置〔フュージョンUVシステムズジャパン(株)製、光源Hバルブ〕を用いて大気雰囲気下で積算光量500mJ/cm2の紫外線を照射することで硬化物を有する積層構造体を得た。得られた積層構造体について、以下の評価を実施した。
【0047】
<硬化性>
PET基材を用いて得られた積層構造体の硬化膜表面を指でなぞり、ベタつきの有無を調べた。判定基準は下記の通りである。
○:ベタつきがない。
×:ベタつきがある。
【0048】
<自己修復性>
PET基材を用いて得られた積層構造体の硬化膜表面を、真鍮ブラシを用いて500g荷重で5往復擦ったとき、硬化膜の表面状態を目視により判定した。判定基準は下記の通りである。
◎:傷が1秒以内に修復する。
○:傷が1〜5秒の間に修復する。
△:傷が5〜60秒の間に修復する。
×:60秒以上静置しても傷が修復しない。
【0049】
<耐カール性>
PET基材を用いて得られた積層構造体を10cm×10cmにカットし、25℃、60RH%の条件下で1時間静置したのち、水平な台に硬化物面を上にして置いた際、浮き上がった4辺それぞれの高さを計測し、その平均値から耐カール性を下記の基準により判定した。
◎:高さの平均値が2mm未満である。
○:高さの平均値が2mm以上、5mm未満である。
△:高さの平均値が5mm以上、20mm未満である。
×:高さの平均値が20mm以上である。
【0050】
<密着性>
PET基材、およびPC基材を用いて得られた積層構造体を25℃、60RH%の条件下で1時間静置したのち、JIS K 5600に準拠し、カッターナイフで1mm四方の碁盤目を100個作製し、市販のセロハンテープを表面に密着させたあとに一気に剥がしたとき、剥離せずに残った碁盤目の個数を下記の基準により判定した。
◎:残存した碁盤目の個数が100個である。
○:残存した碁盤目の個数が80〜99個である。
△:残存した碁盤目の個数が50〜79個である。
×:残存した碁盤目の個数が49個以下である。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2、表3における略号は以下の化合物を表す。
・Irgacure184: 1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、商品名「イルガキュア184、BASFジャパン(株)製。
・B−1: 式(4)において、R5=水素原子、R6=C24、c=1
・B−2: 式(4)において、R5=水素原子、R6=C36、c=1
・B−3: 式(4)において、R5=水素原子、R6=C24、c=2
・B’−1: 式(4)において、R5=水素原子、R6=C24、c=4.5
【0054】
また、表2、表3の「自己修復性」、「耐カール性」、「密着性」の評価について、下段の数値は、実測値を示している。
【0055】
表2の結果より、本発明に係る実施例1〜11の硬化性樹脂組成物は、硬化性、自己修復性、耐カール性、密着性のいずれの物性においても優れていた。
一方、比較例1においては、(B)成分を含まず、(A)成分のみの構成としたところ、基材に対する密着性が不十分であった。比較例2においては、配合比が範囲を超え、(A)成分に対して(B)成分を多く配合すると、架橋構造が十分に形成されず、架橋密度が低下したために自己修復性が不十分であり、擦り傷が瞬時に復元しなかった。比較例3においては、(A)成分中に(a2)成分を含まなかったところ、架橋構造が不十分であるために、自己修復性を発現するものの、修復時間がやや長かった。比較例4においては、ウレタン化における(a1)/(a2)の比が範囲を超えて低く、ポリエーテルの割合を多くしたところ、合成の最中にゲル化したために以後の評価が不可能であった。
【0056】
比較例5においては、(a2)成分のポリエーテル鎖長を、範囲を超えて長くしたところ、硬化膜の強度が低下したために真鍮ブラシでつけた傷が破断傷となり、自己修復性が発現しなかった。比較例6においては、(a1)成分のポリエーテル付加による鎖延長を行わなかったところ、塗膜の柔軟性が著しく低下し、自己修復性が発現しなかった。また、耐カール性が不十分となったために硬化収縮の影響が大きくなり、カールが発生した。比較例7においては、(a3)成分を構造の異なるイソシアネートとしたところ、イソシアヌレート構造を有さないために強度が低下し、自己修復性が発現しなかった。比較例8においては、(B)成分のポリエーテル鎖長を、範囲を超えて長くしたところ、PET基材に対する密着性は十分であったが、PC基材に対しては十分に密着しなかった。