特許第6596860号(P6596860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6596860電子デバイス、および、電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596860
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電子デバイス、および、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20191021BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B41J2/14 305
   B41J2/14 611
   B41J2/14 613
   B41J2/16 503
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-57122(P2015-57122)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175273(P2016-175273A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【弁理士】
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】松尾 剛秀
(72)【発明者】
【氏名】吉池 政史
【審査官】 松下 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−214522(JP,A)
【文献】 特開2015−047855(JP,A)
【文献】 特開2006−272913(JP,A)
【文献】 特開2014−188717(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0158944(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − B41J 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る第1の配線が設けられた駆動基板と、
前記駆動素子、前記第1の配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて設けられ、前記駆動素子の駆動に係る第2の配線が設けられた積層体と、
を備える電子デバイスであって、
前記第1の配線は、金(Au)を含む第1の配線金属が前記駆動基板に第1の下地層を介して形成されてなり、
前記第2の配線は、金(Au)を含む第2の配線金属が前記積層体に第2の下地層を介して形成されてなり、
前記第1の配線金属は、前記第1の下地層が露出した第1の除去部を有し、
前記露出した第1の下地層は、前記接合樹脂で覆われた部分と、前記接合樹脂で覆われていない部分とを有し、
前記第2の配線金属の一部は、前記第2の下地層が露出した第2の除去部を有し、
前記露出した第2の下地層は、前記接合樹脂で覆われた部分と、前記接合樹脂で覆われていない部分とを有し、
前記第1の除去部及び前記第2の除去部は、それぞれ前記接合樹脂がパターニングされた位置に形成されたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
面視において、前記第1の除去部は前記第1の配線金属で囲まれ、前記第2の除去部は前記第2の配線金属で囲まれていることを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記第1の除去の配線方向の寸法は、前記接合樹脂が前記第1の下地層と接合した部分の前記配線方向の幅よりも大きく、前記第2の除去部の配線方向の寸法は、前記接合樹脂が前記第2の下地層と接合した部分の前記配線方向の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記第1の除去部及び前記第2の除去部が、前記接合樹脂と化学結合する官能基を有する有機分子により表面処理されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記接合樹脂がエポキシ基を有し、前記有機分子がアミノ基を有することを特徴とする請求項4に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記第1の下地層及び前記第2の下地層が、Auとは異なる金属であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る第1の配線が形成された駆動基板と、前記駆動素子、前記第1の配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて接合され、前記駆動素子の駆動に係る第2の配線が設けられた積層体と、を備える電子デバイスの製造方法であって、
前記駆動基板に第1の下地層を形成する工程と、
前記第1の下地層に重ねて金(Au)を含む配線金属を形成し第1の配線を形成する工程と、
前記配線金属の一部を除去し前記第1の下地層を露出する工程と、
前記積層体に第2の下地層を形成する工程と、
前記第2の下地層に重ねて金(Au)を含む配線金属を形成し第2の配線を形成する工程と、
前記配線金属の一部を除去し前記第2の下地層を露出する工程と、
前記駆動基板と前記積層体との間にパターニングされた前記接合樹脂を挟み、前記第1の下地層及び前記第2の下地層が露出した部分に該接合樹脂が接着される状態で、前記駆動基板と前記積層体とを接合する工程と、
を含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る配線が形成された駆動基板に積層体が接合された電子デバイス、および、電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、電圧の印加により変形する圧電素子等の駆動素子を備えたデバイスであり、各種の装置やセンサー等に応用されている。例えば、液体噴射装置では、電子デバイスを利用した液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射している。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記の液体噴射ヘッドは、ノズルに連通する圧力室が形成された流路基板、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧電素子(駆動素子の一種)、及び、当該圧電素子に対して間隔を空けて配置された封止板(あるいは保護基板とも呼ばれる)等が積層された電子デバイスを備えている。近年、圧電素子等のアクチュエーターの駆動に係る駆動回路を封止板に設ける技術も開発されている。そして、このような基板同士が、間に空間を空けた状態で感光性樹脂からなる接着剤(接着樹脂)により接合されたものが提案されている。このほか、各種センサー等のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)における半導体パッケージでは、配線の高密度化や小型化に対応するべく基板同士を感光性樹脂により積層した構造が採用される。また、この種のMEMSでは、パッケージの小型化に加えて、高精度化や低消費電力化等の要請があるため、駆動回路の駆動に係る配線に関し、電気抵抗がより低く、延性に優れた金(Au)が材料として好適に採用されている。例えば、特許文献1に開示されているインクジェットプリンターにおいては、駆動素子としての圧電素子の駆動に係る配線として金が用いられている。そして、圧電素子や配線等が形成された基板に対して、封止板が接着剤により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−34114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、接着剤により基板同士を接合する構成において金が配線として採用されている場合、この配線部分において接着剤による接着強度が弱くなり、剥離し易いという問題があった。この点に関し、上記特許文献1の構成は、配線以外の部分で接着剤による有効な接着面積を稼ぐことで接着強度を確保している。しかしながら、配線部分での接合強度が弱い以上、接合信頼性が十分ではなく、特に、基板上において配線が高密度化されて多くの面積を占める構成においては、十分な接着強度が得られていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、配線に金やその合金が用いられた構成において接着信頼性をより高めることが可能な電子デバイス、および、電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔手段1〕
本発明の電子デバイスは、上記目的を達成するために提案されたものであり、駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る配線が設けられた駆動基板と、
前記駆動素子、前記配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて設けられた積層体と、
を備える電子デバイスであって、
前記配線は、金(Au)を含む配線金属が前記駆動基板に下地層を介して形成されてなり、
前記配線金属の一部を除去することで露出した前記下地層の一部において、前記露出した下地層は、前記接合樹脂で覆われた部分と前記接合樹脂で覆われない部分とを有することを特徴とする。
【0008】
手段1の構成によれば、接合樹脂との接着性が劣るAuを含む配線金属が除去されて露出した下地層に接合樹脂が接合されることで、駆動基板と積層体との接合強度をより強固にすることができ、接着信頼性を高めることが可能となる。特に、Auを主とする配線金属からなる配線がより高い密度で形成された構成に本発明は好適である。
【0009】
〔手段2〕
また、手段1の構成において、前記接合樹脂で覆われた部分と前記接合樹脂で覆われない部分とからなる前記下地層の一部である配線金属除去領域は、平面視において、前記配線金属に囲まれている構成を採用することが望ましい。
【0010】
手段2の構成によれば、配線金属除去領域が、平面視において、配線金属に囲まれていることで、この部分における電気抵抗が上昇することが抑制され、導通を確保することができる。
【0011】
〔手段3〕
また、手段1または手段2の構成において、前記配線金属除去領域の配線方向の寸法は、前記接合樹脂が当該下地層と接合した部分の前記配線方向の幅よりも大きい構成を採用することが望ましい。
【0012】
手段3の構成によれば、配線金属除去領域の配線方向の寸法が、接合樹脂が下地層と接合した部分の配線方向の幅よりも大きく設定されることで、接合樹脂と下地層との接合をより確実にすることができる。
【0013】
〔手段4〕
また、上記手段1から手段3の何れか一の構成に関し、前記配線金属除去領域が、前記接合樹脂と化学結合する官能基を有する有機分子により表面処理されている構成を採用することが望ましい。
【0014】
手段4の構成によれば、配線金属除去領域を表面処理することにより、当該部分における単位面積当たりの結合サイトが増加し、接合樹脂に対する接着強度をより増加させることができる。
【0015】
〔手段5〕
また、上記手段1から手段4の何れか一の構成に関し、前記接合樹脂がエポキシ基を有し、前記有機分子がアミノ基を有する構成を採用することができる。
【0016】
〔手段6〕
また、上記手段1から手段5の何れか一の構成に関し、前記下地層が、Auとは異なる金属である構成を採用することが望ましい。
【0017】
手段6の構成によれば、下地層がAuと異なる金属であれば、接合樹脂との接合強度を確保することができることに加え、配線材料としても機能するため、導電性を確保して電気抵抗を低く抑えることができる。
【0018】
〔手段7〕
そして、本発明の電子デバイスの製造方法は、駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る配線が形成された駆動基板と、前記駆動素子、前記配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて接合された積層体と、を備える電子デバイスの製造方法であって、
前記駆動基板に下地層を形成する工程と、
前記下地層に重ねて、金(Au)を含む配線金属を形成し配線を形成する工程と、
前記配線金属の一部を除去し前記下地層を露出する工程と、
前記駆動基板と前記積層体との間に前記接合樹脂を挟み、前記下地層が露出した部分に該接合樹脂が接着される状態で、前記駆動基板と前記積層体とを接合する工程と、
を含むことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために提案される本発明の電子デバイスは、以下の構成を備えたものであってもよい。
すなわち、駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る第1の配線が設けられた駆動基板と、
前記駆動素子、前記第1の配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて設けられ、前記駆動素子の駆動に係る第2の配線が設けられた積層体と、
を備える電子デバイスであって、
前記第1の配線は、金(Au)を含む第1の配線金属が前記駆動基板に第1の下地層を介して形成されてなり、
前記第2の配線は、金(Au)を含む第2の配線金属が前記積層体に第2の下地層を介して形成されてなり、
前記第1の配線金属は、前記第1の下地層が露出した第1の除去部を有し、
前記露出した第1の下地層は、前記接合樹脂で覆われた部分と、前記接合樹脂で覆われていない部分とを有し、
前記第2の配線金属の一部は、前記第2の下地層が露出した第2の除去部を有し、
前記露出した第2の下地層は、前記接合樹脂で覆われた部分と、前記接合樹脂で覆われていない部分とを有し、
前記第1の除去部及び前記第2の除去部は、それぞれ前記接合樹脂がパターニングされた位置に形成されたことを特徴とする。
上記構成によれば、接合樹脂との接着性が劣るAuを含む配線金属が除去されて露出した下地層に接合樹脂が接合されることで、駆動基板と積層体との接合強度をより強固にすることができ、接着信頼性を高めることが可能となる。特に、Auを主とする配線金属からなる配線がより高い密度で形成された構成に本発明は好適である。
上記構成において、面視において、前記第1の除去部は前記第1の配線金属で囲まれ、前記第2の除去部は前記第2の配線金属で囲まれている構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、平面視において、第1の除去部は第1の配線金属で囲まれ、第2の除去部は第2の配線金属で囲まれていることで、この部分における電気抵抗が上昇することが抑制され、導通を確保することができる。
また、上記何れかの構成において、前記第1の除去の配線方向の寸法は、前記接合樹脂が前記第1の下地層と接合した部分の前記配線方向の幅よりも大きく、前記第2の除去部の配線方向の寸法は、前記接合樹脂が前記第2の下地層と接合した部分の前記配線方向の幅よりも大きい構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第1の除去の配線方向の寸法は、接合樹脂が第1の下地層と接合した部分の配線方向の幅よりも大きく、第2の除去部の配線方向の寸法は、接合樹脂が第2の下地層と接合した部分の配線方向の幅よりも大きく設定されることで、接合樹脂と下地層との接合をより確実にすることができる。
さらに、何れか一の構成に関し、前記第1の除去部及び前記第2の除去部が、前記接合樹脂と化学結合する官能基を有する有機分子により表面処理されている構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第1の除去部及び第2の除去部を表面処理することにより、当該部分における単位面積当たりの結合サイトが増加し、接合樹脂に対する接着強度をより増加させることができる。
また、何れか一の構成に関し、前記接合樹脂がエポキシ基を有し、前記有機分子がアミノ基を有する構成を採用することができる。
また、上記何れか一の構成に関し、前記第1の下地層及び前記第2の下地層が、Auとは異なる金属である構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、第1の下地層及び第2の下地層がAuと異なる金属であれば、接合樹脂との接合強度を確保することができることに加え、配線材料としても機能するため、導電性を確保して電気抵抗を低く抑えることができる。
そして、本発明の電子デバイスの製造方法は、駆動素子および当該駆動素子の駆動に係る第1の配線が形成された駆動基板と、前記駆動素子、前記第1の配線、および接合樹脂を介在させて前記駆動基板と間隔を空けて接合され、前記駆動素子の駆動に係る第2の配線が設けられた積層体と、を備える電子デバイスの製造方法であって、
前記駆動基板に第1の下地層を形成する工程と、
前記第1の下地層に重ねて金(Au)を含む配線金属を形成し第1の配線を形成する工程と、
前記配線金属の一部を除去し前記第1の下地層を露出する工程と、
前記積層体に第2の下地層を形成する工程と、
前記第2の下地層に重ねて金(Au)を含む配線金属を形成し第2の配線を形成する工程と、
前記配線金属の一部を除去し前記第2の下地層を露出する工程と、
前記駆動基板と前記積層体との間にパターニングされた前記接合樹脂を挟み、前記第1の下地層及び前記第2の下地層が露出した部分に該接合樹脂が接着される状態で、前記駆動基板と前記積層体とを接合する工程と、
を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
図2】記録ヘッドの構成を説明する断面図である。
図3】電子デバイスの要部を拡大した断面図である。
図4】駆動基板の平面図である。
図5】配線の要部拡大図である。
図6】電子デバイスの製造工程を説明する模式図である。
図7】電子デバイスの製造工程を説明する模式図である。
図8】第2の実施形態における電子デバイスの製造工程を説明する模式図である。
図9】第2の実施形態における電子デバイスの製造工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明に係る電子デバイスを備えた液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を搭載した液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0021】
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面に対してインク(液体の一種)を噴射(吐出)して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジがプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジからインク供給チューブを通じて記録ヘッドに供給される構成を採用することもできる。
【0022】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。したがってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、図示しないリニアエンコーダーによって検出される。リニアエンコーダーは、その検出信号、即ち、エンコーダーパルスをプリンター1の制御部に送信する。
【0023】
また、キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、端部側から順に、記録ヘッド3のノズル面(ノズルプレート21)に形成されたノズル22を封止するキャップ11、及び、ノズル面を払拭するためのワイピングユニット12が配置されている。
【0024】
次に記録ヘッド3について説明する。図2は、記録ヘッド3の構成を説明する断面図である。図3は、図2における領域Aの拡大図であり、記録ヘッド3に組み込まれた電子デバイス14の要部を拡大した断面図である。また、図4は、記録ヘッド3の構成を説明する平面図であり、主に、振動板31の上面(封止板33との接合面)における構成を示している。さらに、図5は、図4における領域Bの拡大平面図である。本実施形態における記録ヘッド3は、図2に示すように、電子デバイス14および流路ユニット15が積層された状態でヘッドケース16に取り付けられている。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。
【0025】
ヘッドケース16は、合成樹脂製の箱体状部材であり、その内部には各圧力室30にインクを供給する第1リザーバー18が形成されている。この第1リザーバー18は、複数並設された圧力室30に共通なインクが貯留される空間であり、ノズル列方向に沿って形成されている。なお、ヘッドケース16の上方には、インクカートリッジ7側からのインクを第1リザーバー18に導入するインク導入路(図示せず)が形成されている。また、ヘッドケース16の下面側には、当該下面からヘッドケース16の高さ方向の途中まで直方体状に窪んだ収容空間17が形成されている。後述する流路ユニット15がヘッドケース16の下面に位置決めされた状態で接合されると、流路基板28上に積層された電子デバイス14(圧力室基板29、振動板31、封止板33等)が収容空間17内に収容されるように構成されている。
【0026】
ヘッドケース16の下面に接合される流路ユニット15は、流路基板28およびノズルプレート21を有している。本実施形態における流路基板28は、シリコン単結晶基板から作製されている。この流路基板28には、図2に示すように、第1リザーバー18と連通し、各圧力室30に共通なインクが貯留される第2リザーバー25と、この第2リザーバー25を介して第1リザーバー18からのインクを各圧力室30に個別に供給する個別連通路26とが、エッチングにより形成されている。第2リザーバー25は、ノズル列方向(圧力室30の並設方向)に沿った長尺な空部である。個別連通路26は、各圧力室30に対応して当該圧力室30の並設方向に沿って複数形成されている。この個別連通路26は、流路基板28と圧力室基板29とが接合された状態で、対応する圧力室30の長手方向における一側の端部と連通する。
【0027】
また、流路基板28の各ノズル22に対応する位置には、流路基板28の板厚方向を貫通したノズル連通路27が形成されている。すなわち、ノズル連通路27は、ノズル列に対応して当該ノズル列方向に沿って複数形成されている。このノズル連通路27を介して圧力室30とノズル22とが連通する。本実施形態におけるノズル連通路27は、対応する圧力室30の長手方向における他側(個別連通路26とは反対側)の端部と連通する。
【0028】
ノズルプレート21は、流路基板28の下面(電子デバイス14側とは反対側の面)に接合されたシリコン製あるいはステンレス鋼等の金属製の基板である。このノズルプレート21には、複数のノズル22が列状に開設されている。この列設された複数のノズル22(ノズル列)は、一端側のノズル22から他端側のノズル22までドット形成密度に対応したピッチで、主走査方向に直交する副走査方向に沿って設けられている。本実施形態においては、ノズルプレート21に2条のノズル列が並設されている。
【0029】
本実施形態における電子デバイス14は、各圧力室30内のインクに圧力変動を生じさせるアクチュエーターとして機能する薄板状の構成部材を積層してなるデバイスである。この電子デバイス14は、図2および図3に示すように、圧力室基板29、振動板31、圧電素子32および封止板33が積層されてユニット化されている。なお、電子デバイス14は、収容空間17内に収容可能なように、収容空間17よりも小さく形成されている。
【0030】
本実施形態における圧力室基板29は、シリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室基板29には、エッチングにより一部が板厚方向に完全に除去されて、圧力室30となるべき空間が形成されている。この空間、すなわち圧力室30は、各ノズル22に対応して複数並設されている。各圧力室30は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、長手方向の一側の端部に個別連通路26が連通し、他側の端部にノズル連通路27が連通している。
【0031】
振動板31は、弾性を有する薄膜状の部材であり、圧力室基板29の上面(流路基板28側とは反対側の面)に積層されている。この振動板31によって、圧力室30となるべき空間の上部開口が封止されている。換言すると、振動板31によって、圧力室30が区画されている。この振動板31における圧力室30(詳しくは、圧力室30の上部開口)に対応する部分は、圧電素子32の撓み変形に伴ってノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変位する変位部として機能する。すなわち、振動板31における圧力室30の上部開口に対応する領域が、撓み変形が許容される駆動領域となる。一方、振動板31における圧力室30の上部開口から外れた領域が、撓み変形が阻害される非駆動領域となる。
【0032】
上記振動板31は、例えば、圧力室基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この絶縁膜上(振動板31の圧力室基板29側とは反対側の面)における各圧力室30に対応する領域、すなわち駆動領域に圧電素子32がそれぞれ積層されている。なお、圧力室基板29及びこれに積層された振動板31が本発明における駆動基板に相当する。また、振動板31において圧電素子32が形成された面が、封止板33が接合される接合面である。
【0033】
本実施形態の圧電素子32は、所謂撓み振動モードの圧電素子である。図3に示すように、この圧電素子32は、例えば、振動板31上に、下電極層37、圧電体層38および上電極層39が順次積層されてなる。本実施形態においては、上電極層39が、圧電素子32毎に個別の電極として機能し、下電極層37が、各圧電素子32に共通な電極として機能する。このように構成された圧電素子32は、下電極層37と上電極層39との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、ノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形する。圧電素子32は、各ノズル22に対応してノズル列方向に沿って複数並設されており、図4に示すように、2条のノズル列に対応して2つの圧電素子群が、後述する共通電極膜36を間に挟んで振動板31上にそれぞれ形成されている。
【0034】
上電極層39および下電極層37としては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の各種金属や、これらの合金等が用いられる。また、圧電体層38としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その他、チタン酸バリウムなどの非鉛材料も用いることが可能である。
【0035】
図3に示すように、上電極層39の他側(図3における左側、若しくは図4における共通電極膜36側とは反対側)の端部は、圧力室30の上部開口縁を超えて非駆動領域に対応する振動板31上まで延在している。この上電極層39の上には、密着層50(本発明における第1の下地層に相当)を介して個別電極配線44(本発明における第1の配線に相当)が積層されている。個別電極配線44および密着層50は、個別電極である上電極層39毎に対応してパターニングされており、それぞれ対応する上電極層39に導通されている。また、図4に示すように、下電極層37の一側(図4における共通電極膜36側)の端部も同様に、駆動領域から圧力室30の上部開口縁を超えて、上電極層39が積層された非駆動領域とは反対側の非駆動領域に対応する振動板31上まで延在している。この延在された下電極層37の上にも密着層50介して共通電極配線45(本発明における第1の配線に相当)が積層されている。振動板31において圧電素子群に挟まれた領域である中央部分には、共通電極の端子として機能する共通電極膜36が形成されており、共通電極配線45は、この共通電極膜36に導通されている。
【0036】
上記個別電極配線44および共通電極配線45の材料(本発明における配線金属)としては、金(Au)若しくはAuの合金が用いられる。また、密着層50としては、金以外の金属、例えば、チタン、ニッケル、クロム、及び、これらの合金(Auを含まず)等が用いられる。本実施形態における密着層50は、ニッケルクロム(NiCr)から作製されている。そして、密着層50も導電性を有し、配線材の一部として機能する。そして、これらの個別電極配線44および共通電極配線45に、それぞれ対応するバンプ電極40が電気的に接合されている。このバンプ電極40については後述する。
【0037】
封止板33(本発明における積層体に相当)は、平板状に形成されたシリコン製の板材である。図3に示すように、この封止板33の圧電素子32と対向する領域には、各圧電素子32の駆動に係る駆動回路46が形成されている。駆動回路46は、封止板33となるシリコン単結晶基板の表面に、半導体プロセス(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程等)を用いて作成される。また、封止板33の圧電素子32側の面における駆動回路46上には、当該駆動回路46に接続される配線層47(本発明における第2の配線に相当)が、封止板33における振動板31側の表面、すなわち、振動板31との接合面に露出した状態で密着層48(本発明における第2の下地層に相当)を介して形成されている。配線層47は、上記駆動基板側の電極配線44,45と同様にAuからなり、駆動回路46よりも外側であって、非駆動領域に延設された下電極層37及び上電極層39に対応する位置まで引き回されている。密着層48は、上記密着層50と同様にNiCr等の金以外の金属からなる下地層である。なお、配線層47は、図3において便宜上一体的に表されているが、複数の配線を含んでいる。具体的には、圧電素子32の個別電極配線44(上電極層39)用の配線層47と、各圧電素子32の共通電極配線45(下電極層37)用の配線層47が、密着層50を介して封止板33の表面にパターニングされている。各配線層47は、駆動回路46内の対応する配線端子と電気的に接続されている。
【0038】
振動板31及び圧電素子32が積層された圧力室基板29からなる駆動基板と、圧電素子32の駆動に係る駆動回路が設けられた封止板33とは、バンプ電極40を介在させて接合樹脂43により接合されている。この接合樹脂43は、基板同士の間隔を確保するスペーサーとしての機能、基板同士の間における圧電素子32等を収容する空間を封止する封止材としての機能、および、基板同士を接合する接着剤としての機能を有する。接合樹脂43としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂等を主成分として光重合開始剤等を含む樹脂が好適に用いられ、本実施形態においてはエポキシ樹脂を主成分としたものが採用される。本実施形態においては、図4に示すように、振動板31および封止板33の外周縁に沿って平面視で枠状に形成された第1の接合樹脂43aと、これよりも内側であって、圧電素子群を囲む枠状に形成された第2の接合樹脂43bが形成されている。この2重に形成された接合樹脂43a,43bにより、振動板31と封止板33が隔てられている。振動板31と封止板33との間隙は、圧電素子32の歪み変形を阻害しない程度に設定されている。さらに、第2の接合樹脂43bの内側の領域であって、圧電素子32の駆動領域と共通電極膜36との間の共通電極配線45上には、第3の接合樹脂43cが形成されている。
【0039】
バンプ電極40は、駆動回路46と各圧電素子32の個別電極配線44(上電極層39)および共通電極配線45(下電極層37)とを接続するための電極であり、非駆動領域上の個別電極配線44、および、共通電極膜36にそれぞれ接触して電気的に接続し得るように配置されている。このバンプ電極40は、圧力室の並設方向(ノズル列方向)に沿って延びる突条としての内部樹脂(樹脂コア)41と、この内部樹脂41の表面に部分的に形成された導電膜42とから構成されている。内部樹脂41は、例えば、ポリイミド樹脂等の弾性を有する樹脂からなり、封止板33の接合面において振動板31の個別電極配線44が形成された非駆動領域に対向する領域(図4における左右両側)、および、共通電極膜36が形成された中央領域と対向する領域の合計3個所に形成されている。また、導電膜42は、配線層47の一部分であり、個別電極配線44に対向する位置にそれぞれ形成されている。このため、導電膜42は、ノズル列方向に沿って複数形成されている。同様に、共通電極膜36に対応する導電膜42は、ノズル列方向に沿って複数形成されている。
【0040】
図5は、図4における領域Bの拡大平面図である。同図や図4に示すように、接合樹脂43は、個別電極配線44および共通電極配線45、あるいは、封止板33の配線層47にも接合される。しかしながら、これらの電極配線44,45および配線層47の表層がAuであるため、接合樹脂43が接着されにくく、そのままでは接合樹脂43の接着強度が十分に得られない。このため、本発明に係る電子デバイス14では、図5に示すように個別電極配線44および共通電極配線45に関し、接合樹脂43と接合される部分のAuが除去されて下層である密着層50が露出され、この露出された部分に接合樹脂43が接合されることで、接着強度が確保されている。より具体的には、接合樹脂43と接合される部分を含み、この部分よりも少し広い領域の配線金属であるAu(本発明における第1の配線金属に相当)の一部が除去されて下地層である密着層50が露出した除去部49(本発明における第1の除去部に相当。換言すると、配線金属除去領域。)が電極配線44,45にそれぞれ形成されている。同様に、封止板33側の配線層47においても、接合樹脂43と接合される部分のAu(本発明における第2の配線金属に相当)が除去されて、下層である密着層48が露出された除去部47a(本発明における第2の除去部に相当。換言すると、配線金属除去領域。)が形成されている(図3参照)。配線層47における除去部47aは、電極配線44,45における除去部49と同様な構成であるため、以下においては主に電極配線44,45側の除去部49について説明する。
【0041】
本実施形態における除去部49は、エッチングにより平面視において楕円形状にAuがくりぬかれた(周囲を残して中抜きされた)部分である。この除去部49の配線方向(配線延在方向)の寸法(長径)L1は、除去部49において接合樹脂43が密着層50と接合された部分の幅L2よりも長くなっている。つまり、除去部49に露出した密着層50は、接合樹脂43で覆われた部分と、接合樹脂43で覆われていない部分とを有する。これにより、接合樹脂43と密着層50との接合領域をより確実に確保することができる。また、除去部49の配線幅方向の寸法(短径)W1は、電極配線44,45の幅W2よりも短くなっている。このため、除去部49は、Auに囲まれている。換言すると、電極配線44,45は、除去部49が形成された部分において分断されることなく連続している。これにより、この部分における電気抵抗が著しく上昇することが抑制され、導通を確保することができる。なお、除去部49の形状に関し、楕円状に限られず、矩形状等であってもよい。
【0042】
次に、電子デバイス14の製造工程、特に、圧電素子32および振動板31が積層された駆動基板としての圧力室基板29と、積層体としての封止板33との接合工程について説明する。なお、本実施形態における電子デバイス14は、封止板33となる領域が複数形成されたシリコン単結晶基板と、振動板31及び圧電素子32が積層されて圧力室基板29となる領域が複数形成されたシリコン単結晶基板とを接合した後で、切断して個片化することで得られる。
【0043】
図6および図7は、電子デバイス14の製造工程を説明する模式図であり、個別電極配線44に接合されるバンプ電極40および接合樹脂43の近傍の構成を示している。まず、圧力室基板29に対して、表面(封止板33との接合面)に振動板31が積層され、その上に下電極層37、圧電体層38及び上電極層39等が順次積層およびパターニングされて、圧電素子32が形成される。
【0044】
ここで、図6(a)に示すように、上電極層39および下電極層37が非駆動領域上に形成された状態で、図6(b)に示すように、密着層50(NiCrの層)および電極配線44,45の配線金属(Auの層)が順に成膜される。続いて、密着層50および電極配線44,45が所定の形状にパターニングされる。このパターニングの際に除去部49が形成される。具体的には、レジストの塗布、マスクを介した露光、および現像を経て、図6(c)に示すように、レジスト層51が、電極配線44,45のAu層上に形成される。このレジスト層51において除去部49に対応する部分に開口52が形成される。そして、電極配線44,45のAuの層に対しては例えばヨウ化カリウムを含む溶液(あるいは王水系溶液またはNaCN系溶液)等のエッチング溶液によるウェットエッチング、密着層50に対しては例えば硝酸セリウムアンモニウムを含むエッチング溶液によるウェットエッチングによって、電極配線44,45および密着層50がパターニングされる。これにより、図6(d)に示すように、除去部49に対応する部分のAu層が除去されて、密着層50が露出する。
【0045】
次に、この除去部49に露出した密着層50に対し、官能基を有する有機分子により表面処理が行われる。本実施形態における接合樹脂43がエポキシ基を有するため、表面処理ではこの接合樹脂43と化学結合する官能基を有する有機分子としてのアミノ基を有するシランカップリング剤が用いられる。具体的には、例えば、除去部49が形成された段階でシリコン単結晶基板が、上記シランカップリング剤が溶解された処理用溶液に所定の時間浸漬された後、乾燥されることにより処理が施される。この場合、除去部49に露出した密着層50を含め駆動基板の表面全体が処理される。また、例えば、除去部49に露出した密着層50に水酸基を配置し、これに対して、CVD法を用いてシランカップリング剤を結合反応させる方法を採用することもできる。このように表面処理が施されることにより、当該部分における単位面積当たりの結合サイトが増加し、接合樹脂43に対する接着強度をより増加させることができる。また、その分、密着層50の配線方向と交差する方向の寸法W1を狭くすることも可能となり、除去部49を形成することによる配線抵抗の増加を抑制することもできる。
【0046】
以上の工程を経て、シリコン単結晶基板に、駆動基板となる領域が複数形成される。一方、封止板33側のシリコン単結晶基板では、まず、半導体プロセスにより振動板31との接合面に駆動回路46が形成される。駆動回路46が形成されたならば、封止板33の接合面上にバンプ電極40の内部樹脂41が形成される。具体的には、材料である樹脂(例えばポリイミド樹脂)が所定の厚さで塗布された後、プリベーク処理、フォトリソグラフィー処理、およびエッチング処理を経て所定の位置に突条を呈する内部樹脂41がパターニングされる。内部樹脂41が形成されたならば、密着層48、配線層47、およびバンプ電極40の導電膜42となる金属を製膜した後で、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程により、密着層48、配線層47、および導電膜42が形成される。これにより、シリコン単結晶基板に、封止板33となる領域が複数形成される。また、電極配線44,45の除去部49と同様にして、配線層47にも除去部47aが形成され、当該部分に密着層48が露出した状態とされる。
【0047】
次に、駆動基板(圧力室基板29および振動板31)側のシリコン単結晶基板と封止板33側のシリコン単結晶基板との接合工程に移る。圧力室基板29に積層された振動板31の表面(封止板33側の接合面)または封止板33の表面(振動板31側の接合面)のいずれか一方の接合面に、接合樹脂43が塗布される(感光性樹脂塗布工程)。本実施形態においては、図6(e)に示すように、駆動基板の振動板31上に、電極配線44,45や圧電素子32等の構造体を覆う状態で接合樹脂43が、スピンコートにより塗布される。ここで、接合樹脂43は、電極配線44,45における除去部49内に入り込み、密着層50上にも積層される。
【0048】
接合樹脂43が塗布されたならば、続いて、所定のパターンのマスクを介して露光された後、加熱処理により当該接合樹脂43が仮硬化させられる(仮硬化工程)。あるいは、接合樹脂43が塗布された後、加熱処理を経てから露光が行われるようにしてもよい。仮硬化工程において、接合樹脂43の硬化度は、露光時における露光量あるいは加熱時の加熱量により調整される。続いて、図7(a)に示すように、現像が行われて所定の位置に接合樹脂43が所定の形状にパターニングされる(パターニング工程)。接合樹脂43がパターニングされたならば、両シリコン単結晶基板が接合される(接合工程)。具体的には、図7(b)に示すように、両シリコン単結晶基板の相対位置がアライメントされた状態で、何れか一方のシリコン単結晶基板を他方のシリコン単結晶基板側に向けて相対的に移動させて、バンプ電極40、圧電素子32、および電極配線44,45等の構造体および接合樹脂43を両シリコン単結晶基板の間に挟んで張り合わせる。この際、さらにこの状態で、図7(c)に示すように、バンプ電極40の弾性復元力に抗しつつ両シリコン単結晶基板が上下方向から加圧される。非駆動領域における下電極層37及び上電極層39に対しバンプ電極40が電気的に接続された状態で、両基板が接合樹脂43により接合される。この際、電極配線44,45および配線層47と重なる接合樹脂43は、各々除去部47a,49の密着層48,50と接着される。
【0049】
両シリコン単結晶基板が接合されたならば、圧力室基板29側のシリコン単結晶基板に対し、ラッピング工程、フォトリソグラフィー工程、及びエッチング工程を経て圧力室30が形成される。最後に、シリコン単結晶基板における所定のスクライブラインに沿ってスクライブされて、個々の電子デバイス14に切断されて分割される。なお、本実施形態では、2枚のシリコン単結晶基板の接合後に個片化される構成を例示したが、これには限られない。例えば、先に封止板及び流路基板をそれぞれ個片化してから、これらを接合するようにしてもよい。
【0050】
そして、上記の過程により製造された電子デバイス14は、接着剤等を用いて流路ユニット15(流路基板28)に位置決めされて固定される。そして、電子デバイス14をヘッドケース16の収容空間17に収容した状態で、ヘッドケース16と流路ユニット15とを接合することで、上記の記録ヘッド3が製造される。
【0051】
このように、電極配線44,45および配線層47に接合樹脂43が接合される部分では、当該部分を含む領域のAuが除去され、これらの除去部47a,49に露出した密着層48,50に接合樹脂43がそれぞれ接合されるので、接合樹脂43による基板同士の接合強度を確保することができ、接着信頼性を高めることが可能となる。特に、基板上にAuを主とする金属からなる配線がより高い密度で形成された構成に本発明は好適である。
【0052】
図8および図9は、本発明の第2の実施形態における電子デバイス14の製造工程を説明する模式図である。本実施形態において、電極配線44,45に除去部49が形成されるまで(図8(a)〜図8(c))は、上記第1の実施形態と同様の工程を経るのに対し、図8(d)に示すように、封止板33側のシリコン単結晶基板上に接合樹脂43が塗布される点が上記第1の実施形態と相違している。すなわち、封止板33の駆動基板側の面に、配線層47や駆動回路等の構造体を覆う状態で接合樹脂43が塗布される。この際、接合樹脂43は、配線層47における除去部47a内に入り込み、密着層48上にも積層される。封止板33側のシリコン単結晶基板に塗布された接合樹脂43は、図8(e)に示すように、露光、加熱、および現像を経て所定の位置に所定の形状にパターニングされる。接合樹脂43がパターニングされたならば、そして、図9(a)に示すように、両シリコン単結晶基板の相対位置がアライメントされた状態で張り合わされる。この際、電極配線44,45上に配置される接合樹脂43は、除去部49内の密着層50に接着され、両基板が接合される。この構成においても、上記第1の実施形態と同様に、除去部47a,49に露出した密着層48,50に接合樹脂43がそれぞれ接合されるので、接合樹脂43による基板同士の接合強度を確保することができ、接着信頼性を高めることが可能となる。なお、その他の構成は、上記した実施形態と同じであるため説明を省略する。
【0053】
なお、電極配線44,45や配線層47と接合される接合樹脂43として、感光性を有する接着剤を例示したが、これには限られず、基板同士(駆動基板と積層体)を接合可能な樹脂であれば種々のものを採用することができる。
【0054】
また、以上では、液体噴射ヘッドとして、インクジェットプリンターに搭載されるインクジェット式記録ヘッドを例示したが、インク以外の液体を噴射するものにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【0055】
そして、本発明は、液体噴射ヘッドにアクチュエーターとして用いられる電子デバイスには限られず、例えば、各種センサー等に使用される電子デバイス等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…プリンター,3…記録ヘッド,14…電子デバイス,22…ノズル,29…圧力室基板,30…圧力室,31…振動板,32…圧電素子,33…封止板,36…共通電極膜,37…下電極層,38…圧電体層,39…上電極層,40…バンプ電極,41…内部樹脂,42…導電膜,43…接合樹脂,44…個別電極配線,45…共通配線電極,46…駆動回路,47…配線層,47a…除去部,48…密着層,49…除去部,50…密着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9