(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本実施形態の概要)
初めに、本発明の一実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。本鉛蓄電池は、電極群と、電解液と、前記電極群と前記電解液を収容する電槽と、前記電槽を封口する蓋部材とを備え、前記蓋部材は、前記電槽を覆う中蓋と、前記中蓋の上部に重ねて溶着される上蓋と、前記中蓋と前記上蓋との間に配置され、前記電槽内と外部とを連通させる排気通路と、前記排気通路の底面は、通路内の液体を前記電槽内に還流させるように傾斜しており、前記上蓋は、前記中蓋と溶着されて、前記排気通路の側壁を構成する通路壁と、前記排気通路の天井面に設けられ、前記排気通路を横断する横断壁と、を有し、前記横断壁の下端部は、前記通路壁と前記中蓋との溶着部よりも上方に位置する。
【0010】
本発明者は、排気通路の液滴の動きを鋭く観察することで、鉛蓄電池に振動が継続的に加わると、液滴が排気通路の天井面を伝って移動するという知見を初めて得た。発明者は、この知見により、鉛蓄電池に振動が継続的に加わり、液滴が排気通路の天井面を伝って移動を続けることで排気口に到達して外部に漏れ出してしまうことを初めて突き止めた。そこで、発明者は、排気通路の天井面を伝う液滴を排気口に到達しにくくするため、天井面に通路を横断する横断壁を設けて、天井面を伝う液滴を横断壁にて堰き止めることにより底面に落として、落ちた液滴を底面の傾斜による流路で還流させようと着想した。
【0011】
さらに、発明者は、天井面を伝う液滴を堰き止める横断壁としての機能を効果的に発揮するには、横断壁の高さをできるだけ高くすることが好ましいと考え、一案として、上蓋の天井面に通路壁と同じ高さの横断壁を設けることを検討した。しかしながら、これでは予想に反して、排気口からの液滴の漏れ出しを抑制する効果が不十分な可能性が考えられた。上記可能性について具体的に説明する。中蓋と上蓋とを溶着させる際には、平らな熱板を中蓋と上蓋との間に配置して、中蓋と上蓋を熱板に接触させて溶融させた後、熱板を取り除いて、中蓋と上蓋とを近づけて接触させて溶着させる。このとき、通路壁と横断壁が同じ高さであると、横断壁は溶融することになる。ところで、中蓋と上蓋とを溶着させる工程内で生じる振動や、溶融した中蓋と上蓋とを近づけて接触状態にて停止させたときに生じる加速度などによって、上蓋(横断壁)には中蓋の底面に向かう力が作用することがある。すると、横断壁は通路壁と異なり溶着対象が存在せず底面と対向しているため、仮に通路壁とともに横断壁を溶融させた状態で、横断壁に中蓋の底面に向かう力が作用すると、横断壁の溶融した部分の形が不安定にくずれて排気通路の底面に向かって伸びたりちぎれたりして、中蓋の底面に付着して固化してしまう。すると、排気通路の底面の傾斜による流路が固化した固化物によって妨げられ、排気通路の液滴が還流されにくくなる可能性がある。そして、排気通路の液滴が還流されにくい状態で鉛蓄電池に振動が継続的に加わると、排気通路の液滴が次第に増加することになり、排気通路の天井面を伝う液量も相対的に増加し、その結果、横断壁を設けているにも関わらず、液滴が排気通路の天井面を伝って排気口に到達して外部に漏れ出してしまう可能性が考えられた。
【0012】
また、上記可能性を含んだまま、複数の鉛蓄電池を製造した場合、中蓋の底面に上述したような固化物が付着している電池が不規則に存在しているかもしれない。しかしながら、中蓋と上蓋の溶着後に中蓋の底面に固化物が付着している電池であるか外観にて確認することは非常に困難である。すなわち、製造された複数の鉛蓄電池から、中蓋の底面に固化物が付着している電池だけ特定することは困難である。
【0013】
以上から、本発明者は、横断壁を溶融させると還流構造に不具合が生じるおそれがあり、且つ、その不具合が生じた鉛蓄電池の特定が困難であるという、還流構造を有する鉛蓄電池の特有の課題を突き止めたからこそ、本発明を着想するに至った。本発明のように、排気通路の天井面に横断壁を設け、横断壁の下端部を通路壁と中蓋との溶着部よりも上方に位置させることで、振動による液滴の漏れを抑制することができる。
【0014】
一方、業界において、横断壁について十分な検討が行われておらず、横断壁を溶融させると還流構造に不具合が生じるおそれがあり、且つ、その不具合が生じた鉛蓄電池の特定が困難であるという、還流構造を有する鉛蓄電池の特有の課題に注目していない以上、従来の還流構造を有する鉛蓄電池では、排気通路の天井面に横断壁を設け、この横断壁の下端部を通路壁と中蓋との溶着部よりも上方に位置させることは不要と考えられていた。実際の製品でも、排気通路の天井面に横断壁を設け、この横断壁の下端部を通路壁と中蓋との溶着部よりも上方に位置させていない。
【0015】
本鉛蓄電池の実施態様として、以下の構成が好ましい。
前記横断壁の前記天井面からの突出高さは、1.0mm以上である。このようにすれば、天井面を伝う液滴が横断壁を顕著に乗り越え難くなり、液滴の漏れ抑制効果が格段に高まる。
【0016】
前記電槽は、複数のセル室に仕切られており、前記排気通路は、前記複数のセル室のそれぞれと連通する複数の個別通路と、前記複数の個別通路と連通し、前記複数の個別通路からのガスを外部に一括排気する共通通路を含み、前記横断壁は、前記複数の個別通路の前記天井面のそれぞれに形成されている。
【0017】
例えば、共通通路に横断壁を設けた場合と、各セル室に対応した個別通路に横断壁を設けた場合において、鉛蓄電池に継続的に振動を加えたときの液滴の漏れ抑制効果を比較する。すると、個別通路に横断壁を設けた場合に液滴の漏れ抑制効果が顕著に高まる。
【0018】
この理由について、以下に説明する。中蓋と上蓋との間の限られた空間内に個別通路と共通通路を設けようとした場合、個別通路はできるだけ多くの水蒸気を結露させるために広い空間を使った迷路状の通路とし、共通通路はガスの排気が可能な幅の狭い単調な通路とするのが一般的である。共通通路は幅の狭い単調な通路であり、通路内の液体の移動できる方向が限られている。そのため、共通通路に横断壁を設けた場合には、液体が横断壁を乗り超え易くなり、この横断壁の溶融有無に関わらず、液滴の漏れ抑制効果が小さい。一方、個別通路は広い空間を使った迷路状であるからこそ、液体が横断壁を乗り超え難くなる。よって、個別通路に横断壁を設け、この横断壁を溶融させなかった場合に液滴の漏れ抑制効果が顕著に高まる。
【0019】
<実施形態>
一実施形態を
図1から
図21によって説明する。
1.鉛蓄電池10の構造
鉛蓄電池10は、流動可能な電解液を含む液式鉛蓄電池であり、
図1から
図3に示すように電槽20と、極板群30と、電解液Wと、端子部40P、40Nと、蓋部材50とを備える。尚、以下の説明において、電槽20の横幅方向(端子部40P、40Nの並び方向)をX方向とし、電槽20の高さ方向(上下方向)をY方向とし、奥行方向をZ方向とする。
【0020】
電槽20は合成樹脂製である。電槽20は4枚の外壁21と底壁22と備え、上面が開放した箱型をなす。電槽20は、
図2に示すように、複数枚(本例では5枚)の隔壁23を有している。隔壁23はX方向に概ね等間隔で形成されており、電槽内部を、複数のセル室25に仕切っている。セル室25は、電槽20の横幅方向(
図2のX方向)に6室設けられており、各セル室25には、希硫酸からなる電解液Wと共に極板群30が収容されている。
【0021】
極板群30は、
図3に示すように、正極板30Pと、負極板30Nと、両極板30P、30Nを仕切るセパレータ30Cとから構成されている。各極板30P、30Nは、格子体に活物質が充填されて構成されており、上部には耳部31P、31Nが設けられている。耳部31P、31Nは、ストラップ32を介して、同じ極性の極板30P、30Nをセル室25内にて連結するために設けられている。尚、正極板30Pの活物質の主成分は二酸化鉛、負極板30Nの活物質の主成分は鉛である。
【0022】
ストラップ32は板状であり、セル室25ごとに正極用と負極用の2組が設けられている。そして、隣接するセル室25の正負のストラップ32同士を、ストラップ32上に形成された接続部33を介して電気的に接続することにより、6つのセル室25の極板群30を直列に接続する構造となっている。
【0023】
蓋部材50は、中蓋60と上蓋100とを備える。
図4は、上蓋100をはずした状態で中蓋60を上方から見た平面図、
図5は、中蓋60を下方から見た底面図である。
図4、
図5に示すように、中蓋60は合成樹脂製であって、蓋本体61とフランジ部67とを備える。
【0024】
中蓋60の蓋本体61は、電槽20の上面を封口可能な大きさである。蓋本体61は、下面に、4つのリブ91と複数(本例では5枚)の蓋隔壁93を有している。各リブ91は、蓋本体61の下面から下向きに突出している。4つのリブ91は、電槽20の各外壁21に対応して設けられている。各蓋隔壁93は、リブ91と同様に、蓋本体61の下面から下向きに突出している。各蓋隔壁93は、電槽20の各隔壁23に対応して設けられている。
【0025】
中蓋60の各リブ91は電槽20の各外壁21の上端面に重なり、各蓋隔壁93は電槽20の各隔壁23の上端面に重なって位置する。このようにリブ91や蓋隔壁23を電槽20側の各壁21、23に重ねることで電槽20及び各セル室25を気密する構造になっている。尚、各リブ91と外壁21、蓋隔壁93と隔壁23は、気密性が保持されるように、熱溶着により接合されている。また、フランジ部67は、蓋本体61の外周縁に形成されている。フランジ部67は、蓋本体61の下面から下向きに延びており、電槽20の外壁21の上部を囲む。
【0026】
また、
図1、
図4に示すように、中蓋60の蓋本体61は、低面部62と、高面部64と、台状部65を有しており、高低差を付けた形状となっている。低面部62は、蓋部材50のZ方向の両端部に設けられている。Z方向の一端側のX方向の両端部に設けられた低面部62上には正極側と負極側の端子部40P、40Nが配置されている。尚、以下の説明において、正極側と負極側の端子部40P、40Nが配置されたZ方向の一端側を前方側とする。
【0027】
正極側の端子部40Pと、負極側の端子部40Nの構造は、同一であるため、以下、負極側の端子部40Nを例にとって構造を説明する。
図3に示すように、負極側の端子部40Nは、ブッシング41と、極柱45とを含む。ブッシング41は鉛合金等の金属製であり中空の円筒状をなす。ブッシング41は、
図3に示すように、中蓋60に対して一体形成された筒型の装着部63を貫通しており、上半分が低面部62の上面から突出している。ブッシング41のうち、低面部62の上面から露出する上半部は端子接続部であり、ハーネス端子などの接続端子(図略)が組み付けされる。
【0028】
尚、中蓋60はブッシング41をインサートした金型に樹脂を流して一体成形することから、装着部63はブッシング41と一体化され、ブッシング41の下部外周を隙間なく覆う。すなわち、ブッシング41のうち、中蓋60の上面から突出する上半部を除くそれ以外の部分が、装着部63に埋め込まれる構造となっている。
【0029】
極柱45は鉛合金等の金属製であり、円柱形状をしている。極柱45は、ブッシング41の内側に位置している。極柱45はブッシング41に比べて長く、極柱45の上部はブッシング41の内側に位置し、下部はブッシング41の下面から下向きに突出している。極柱45の上端部(先端部)は、ブッシング41に対して溶接により接合され、極柱45の基端部47は極板群30のストラップ32に接合されている。
【0030】
中蓋60の高面部64は、蓋本体61の前方中央に形成されている。高面部64は、X方向の両端部に形成された低面部62の間に位置している。高面部64の上面は、端子部40P、40Nの上面より高い。このようにすることで、仮に、金属部材などが電池上部に置かれたとしても、端子部40P、40Nに同時に接触し難くして、短絡するのを防止することができる。
【0031】
台状部65は、蓋本体61の後方側に形成されている。台状部65は、電槽20に設けられた6つのセル室25を横断するようにX方向に延設されている。台状部65の上面は、低面部62よりも高く、高面部64より低い。
【0032】
また、
図4に示すように、中蓋60の台状部65の上面壁65Aは、X方向に6つの注液孔75を有している。これら6つの注液孔75は、台状部65の上面壁65Aを上下に貫通しており、6つのセル室25にそれぞれ連通している。そのため、各注液孔75から電槽20の各セル室25に電解液を注液することが出来る。
【0033】
また、台状部65は、上面壁65Aから上向きに突出した下側隔壁71〜73を有している。下側隔壁71〜73は、各注液孔75に設けられており、各注液孔75を囲む、四角形状の枠型をしている。各下側隔壁72はX方向に延びる同一直線上に設けられている。
【0034】
上蓋100は中蓋60と同様、合成樹脂製である。
図6は、上蓋100を上方から見た平面図、
図7は、上蓋100を下方から見た底面図である。上蓋100は蓋本体110とフランジ部105とを備える。蓋本体110は、中蓋60の台状部65に倣った長方形であり、中蓋60の台状部65に対して重ねて取り付けられる。フランジ部105は、蓋本体110の外周縁に形成されている。フランジ部105は蓋本体110の外周縁から下向きに延びており、台状部65の外周を囲む。
【0035】
また、
図7に示すように、蓋本体110は、上側隔壁121〜123を有している。上側隔壁121〜123は蓋本体110の下面から下向きに突出しており、各注液孔75に設けられている。上側隔壁121〜123は、下側隔壁71〜73と同様に四角形状の枠型をしている。各上側隔壁122はX方向に延びる同一直線上に設けられている。
【0036】
各上側隔壁121〜123は、各下側隔壁71〜73に対応しており、各上側隔壁121〜123は各下側隔壁71〜73の上側に重なって配置される。これら上側隔壁121〜123と下側隔壁71〜73は、各注液孔75を囲む隔壁を構成する。上側隔壁121〜123と下側隔壁71〜73は、端面同士を熱溶着により接合している。
【0037】
また、鉛蓄電池10の蓋部材50は、中蓋60と上蓋100の間に、排気筒部T、個別通路R、共通通路U、一括排気部Qを有している。以下において、図面と対応させながら説明する。なお、個別通路Rと共通通路Uとが、本発明における排気通路に相当する。
(排気筒部Tの説明)
排気筒部Tは、中蓋60と上蓋100との間において、電槽20のセル室25ごとに設けられている。排気筒部Tは、筒型であり、内部がガスの通り道である。排気筒部Tは、電槽20のセル室25と個別通路Rの双方に連通しており、セル室25にて発生したガスを個別通路Rに通す機能を果たす。
【0038】
具体的に説明すると、
図4に示すように、中蓋60の台状部65には、X方向に6組の下側筒部T1が設けられている。下側筒部T1は、
図4、
図8に示すように、角筒型をしており、4つの下側周壁83A〜83Dから構成されている。4つの下側周壁83A〜83Dは、台状部65の上面壁65Aから上向きに突出している。また、台状部65の上面壁65Aは、X方向に6組の連通孔81を有している。各連通孔81は、各下側筒部T1の内側に位置している。各連通孔81は台状部65の上面壁65Aを上下に貫通し、電槽20の各セル室25に連通する。
【0039】
一方、上蓋100の蓋本体110は、
図7に示すように、X方向に6組の上側筒部T2を有している。上側筒部T2は、
図9に示すように、角筒型をしており、4つの上側周壁123A〜123Dから構成されている。4つの上側周壁123A〜123Dは、蓋本体110の下面から下向きに突出している。また、上側周壁123A〜123Dのうち、個別通路Rとの境界となる上側周壁123Dには、切り欠き部124が形成されている。
【0040】
本例では、排気筒部Tは、下側筒部T1と上側筒部T2から分割構成されており、各上側筒部T2と各下側筒部T1は、
図10に示すように、上下に重なって一つの排気筒部Tを構成する。各排気筒部Tは、各連通孔81を介して各セル室25に連通し、切り欠き部124を通じて、各個別通路Rと連通する。そのため、電槽20の各セル室25にて発生したガスは、連通孔81から排気筒部Tの内側を通った後、切り欠き部124を通じて個別通路Rに流通することが出来る。尚、各下側筒部T1と各上側筒部T2は、排気筒部Tの気密性が確保されるように、端面同士を熱溶着により接合している。
【0041】
(個別通路Rの説明)
個別通路Rは、中蓋60と上蓋100との間において、電槽20のセル室25ごとに設けられている。各個別通路Rは、共通通路Uに連通しており、排気筒部Tから流出するガスを、共通通路Uに流通させる機能を果たす。
【0042】
以下、個別通路Rの構成について具体的に説明する。中蓋60の台状部65は、
図8に示すように、電槽20のセル室25ごとに、複数の下側通路壁85A〜85Iを有している。複数の下側通路壁85A〜85Iは、台状部65の上面壁65Aから上向きに突出している。これら下側通路壁85A〜85Iの上端面は高さが揃っている。
【0043】
下側通路壁85Aは、下側筒部T1の下側周壁83Aを
図8中の左方向に延長した壁であり、下側周壁83Aと連続して形成されている。また、下側通路壁85Bは、下側筒部T1の下側周壁83Cを
図8中の左方向に延長した壁であり、下側周壁83Cと連続して形成されている。
【0044】
図8に示すように、下側通路壁85A〜85Iは、向きの異なる壁の集合体である。下側通路壁85A〜85Iは、他の下側通路壁85A〜85Iや下側周壁83A〜83Dと連結されており、壁全体(下側通路壁85A〜85Iの集合体)が屈曲した形状となっている。このようにすることで、個別通路Rの経路が、非直線な迷路形状となる。尚、下側通路壁85IはX方向に水平に延びており、下側隔壁72とZ方向に向かい合う関係になっている。
【0045】
一方、上蓋100の蓋本体110は、
図9に示すように、電槽20のセル室25ごとに、複数の上側通路壁125A〜125Iを有している。複数の上側通路壁125A〜125Iは、蓋本体110の下面から下向きに突出している。これら上側通路壁125A〜125Iの下端面は高さが揃っている。
【0046】
上側通路壁125Aは、上側筒部T2の上側周壁123Aを
図9中の左方向に延長した壁であり、上側周壁123Aと連続して形成されている。また、上側通路壁125Bは、上側筒部T2の上側周壁123Cを
図9中の左方向に延長した壁であり、上側周壁123Cと連続して形成されている。
【0047】
図9に示すように、上側通路壁125A〜125Iも、向きの異なる壁の集合体である。上側通路壁125A〜125Iは、下側通路壁85A〜85Iと同様に、他の上側通路壁125A〜125Iや上側周壁123A〜123Dと連結されており、壁全体(上側通路壁125A〜125Iの集合体)が屈曲した形状となっている。このようにすることで、個別通路Rの経路が、非直線な迷路形状となる。また、上側通路壁125IはX方向に水平に延びており、上側隔壁122とZ方向に向かい合う関係になっている。
【0048】
各上側通路壁125A〜125Iは、各下側通路壁85A〜85Iと対応しており、対応する下側通路壁85A〜85Iの上側に重なる。下側通路壁85と上側通路壁125は、
図11に示すように、1つの通路壁RWを構成する。個別通路Rは、対向する一対の通路壁RWを側壁として、その間に設けられている。すなわち、本例では、個別通路Rの側壁となる通路壁RWを、上側通路壁125と下側通路壁85から分割構成している。尚、下側通路壁85と上側通路壁125は、個別通路Rの気密性が確保されるように、端面同士を熱溶着により接合している。
【0049】
そして、個別通路Rの経路は、
図9に示す通りであり、排気筒部Tの上側周壁123Dの切り欠き部124を入口として、上側通路壁125Aと上側通路壁125Bの間を
図9の左方向に進み、その後、左側の上側通路壁125Cの正面で、
図9の下方に90°向きを変える。そして、上側通路壁125Aと上側通路壁125Cの隙間を通過した後、更に90°向きを変え、上側通路壁125Aと上側通路壁125Dの間、上側周壁123Aと上側通路壁125Dの間を
図9の右方向に進む。その後、右側の上側通路壁125Cの正面で、今後は、
図9の後方に向きを変える。
【0050】
そして、上側周壁123C、上側通路壁125Bに沿って進んだ後、上側通路壁125Gと上側通路壁125Eの間、上側通路壁125Eと上側通路壁125Iの間を順に通過し、最終的には、上側通路壁125Iと上側通路壁125Hとの間に設けられた隙間127を通じて、共通通路Uに至る。なお、ここでは、上蓋100側について説明を行ったが、下蓋60側の個別通路Rも上記と同じ経路である。また、X方向中央を基準とした左右の個別通路Rの経路は、Z方向を軸として線対称になっている。
【0051】
尚、本例では、
図8、
図9に示すように、下側周壁83Aと下側通路壁85Dや、上側周壁123Aと上側通路壁125Dの間に、個別通路Rが形成されており、下側筒部T1を構成する下側周壁83A〜83Cや、上側筒部T2を構成する上側周壁123A〜123Cが下側通路壁や上側通路壁の一部として機能している。
【0052】
(共通通路U、一括排気部Qの説明)
共通通路Uは、
図8、
図9に示すように、下側隔壁72と下側通路壁85Iとの間、及び上側隔壁122と上側通路壁125Iの間に形成されている。すなわち、共通通路Uは、上側隔壁122と下側隔壁72、上側通路壁125Iと下側通路壁85Iを、2つの側壁とし、その間に設けられた通路である。共通通路Uは、X方向に延びている。共通通路Uの通路幅は、その全長に亘って一定である。そして、共通通路Uの終端にあたるX方向の両端部には、一括排気部Qが設けられている。
【0053】
一括排気部Qは中蓋60と上蓋100との間に設けられており、共通通路Uから流入するガスを外部に一括排気する機能を果たす。一括排気部Qは、X方向の両端部に設けられており、使用環境に応じて、いずれか一方のみを開放し、他方を図示しない栓により封止する。本例では、個別通路Rを通るガスは、共通通路Uを通過した後、Z方向前方から見て右側(
図4では右側で、
図7では左側)の一括排気部Qを通じて外部に排気される。なお、
図8では、Z方向前方から見て左側の一括排気部Qが封止されずに開放されていると仮定して矢印を図示している。
【0054】
具体的に説明すると、
図8に示すように、中蓋60の台状部65の上面には、下側筒部Q1が形成されている。下側筒部Q1は、台状部65の上面壁65Aから上向きに突出している。一方、
図9に示すように、上蓋100の蓋本体110には、上側筒部Q2が形成されている。上側筒部Q2は、蓋本体110の下面から下向きに突出している。上側筒部Q2には、多孔質フィルタ205が収納されている。多孔質フィルタ205は、その下面が上側筒部Q2の下端面よりも上方に位置している。多孔質フィルタ205は、水蒸気の放出を抑制し、外部スパークが侵入するのを抑制する。一括排気部Qは、中蓋60側の下側筒部Q1と上蓋100側の上側筒部Q2から分割構成されており、下側筒部Q1の上側に上側筒部Q2が重なる構成になっている。尚、下側筒部Q1と上側筒部Q2は、気密性が確保されるように、端面同士を熱溶着により接合されている。
【0055】
そして、
図8に示すように、共通通路Uを構成する下側隔壁72、下側通路壁85Iは連結壁88を介して、中蓋60の下側筒部Q1に連結されている。また、
図9に示すように、共通通路Uを構成する上側隔壁122、上側通路壁125Iは連結壁128を介して、上蓋100の上側筒部Q2に連結されている。そして、下側筒部Q1は下側隔壁72、下側通路壁85Iとの連結部に開口を有している。そのため、共通通路Uは一括排気部Qと連通し、6つの個別通路Rを流れるガスは、共通通路Uを通じて、一括排気部Qに流入する構成になっている。
【0056】
また、上蓋100には、円筒型の排気ダクト200が設けられている。排気ダクト200の一方端は一括排気部Qの上側筒部Q2に連結(連通)し、他方端は上蓋100のフランジ部105を貫通し、外部に開口している。従って、共通通路Uから一括排気部Qに送られたガスを、排気ダクト200を通じて外部に排気することが出来る。
【0057】
すなわち、本鉛蓄電池10では、電槽20の各セル室25で発生したガスは、まず、各排気筒部Tから各個別通路Rへ流れる。その後、各個別通路Rを流れるガスは共通通路Uを通って一括排気部Qに流れ込み、最終的には、排気ダクト200から外部に排気される。
【0058】
また、
図8に示すように、中蓋60の台状部65には、電槽20の各セル室25に対応して還流孔82が形成されている。各還流孔82は、下側通路壁85A、下側周壁83D、下側通路壁85B、下側通路壁85Cに囲まれた領域内に位置している。すなわち、個別通路R内に位置している。還流孔82は、連通孔81と同様に、台状部65の上面壁65Aを上下に貫通しており、電槽20のセル室25に連通している。尚、
図8に示すように、還流孔82は、個別通路Rの入口部分に配置されており、個別通路Rのうち共通通路Uから見て最も遠い位置にある。
【0059】
そして、個別通路Rの底面である台状部65の上面壁65Aには、還流孔82に近い程、低くなるように傾斜が付けられている(
図10、
図14参照)。このようにすることで、ガスに含まれる水蒸気による水滴等の液滴Vを、還流孔82を通じて各セル室25に還流することが出来る。すなわち、セル室25で発生したガスに含まれる水蒸気は、ガスが個別通路Rを通過する際に、個別通路R内にて結露する。結露した液滴Vは、
図12にて破線矢印で示すように、還流孔82に向かって流れてゆく。そのため、ガスに含まれる水蒸気等の液滴を、各セル室25に還流することが出来る。
【0060】
2.横断壁131による液滴Vの漏れ抑制
上蓋100の蓋本体110は、
図9、
図13に示すように、個別通路Rごとに、2つの横断壁131A、131Bを有している。横断壁131A、131Bは、いずれも、蓋本体110の下面から下向きに延びており、個別通路Rを横切るように横断している。具体的に説明すると、横断壁131Aは、
図13に示すように、上側通路壁125Aと上側通路壁125Cとの間に設けられている。すなわち、個別通路Rの入口から所定距離離れた位置に設けられている。横断壁131Aは、一方側の端部を上側通路壁125Aに連結し、他方側の端部を上側通路壁125Cに連結している。従って、横断壁131Aは、個別通路Rを通路全幅に亘って横断する。また、横断壁131Aは、上側通路壁125Aの延長線上に設けられており、上側通路壁125Cに対して直交する関係となっている。尚、本実施形態では、横断壁131A、131Bの突出高さLを2.5mmに設定している。
【0061】
また、個別通路Rの通路幅に着目すると、横断壁131Aは、排気出口に向かう方向で、個別通路Rの通路幅が広い状態から狭い状態に変化する箇所、具体的には、
図18に示すように、個別通路Rの通路幅Rdが「Rd1」から「Rd2」に変化する箇所に設けられている。
【0062】
また、個別通路Rの形状に着目すると、横断壁131Aは、個別通路Rの屈曲部Nに対応して設けられている。すなわち、
図18に示すように、横断壁131Aは、個別通路R上に設けられた複数の屈曲部N1〜N7のうち、屈曲部N1に対応して設けられている。個別通路Rは、屈曲点N1にて、
図18の左方向から下方向に90度屈曲しており、横断壁131Aは、個別通路Rの向きが
図18の下方に屈曲する箇所に設けられている。
【0063】
横断壁131Bは、
図13に示すように、上側通路壁125Gと上側通路壁125Eとの間に設けられている。すなわち、個別通路Rの概ね中間位置に設けられている。横断壁131Bは、一方側の端部を上側通路壁125Gに連結し、他方側の端部を上側通路壁125Eに連結している。従って、横断壁131Bは、個別通路Rを通路全幅に亘って横断する。また、上側通路壁125G、横断壁131B、上側通路壁125Eは、同一直線上に設けられている。
【0064】
また、個別通路Rの通路幅に着目すると、横断壁131Bは、排気出口に向かう方向で、個別通路Rの通路幅が広い状態から狭い状態に変化する箇所、具体的には、
図18に示すように、個別通路Rの通路幅Rdが「Rd3」から「Rd4」に変化する箇所に設けられている。
【0065】
また、横断壁131Bは、個別通路Rの屈曲部N5に対応して設けられている。すなわち、個別通路Rは、屈曲点N5にて、
図18の左斜上方向から真上方向に屈曲しており、横断壁131Bは、個別通路Rが
図18の真上に屈曲する箇所に設けられている。
【0066】
横断壁131A、131Bを設けることで、以下の効果が得られる。
図14に示すように、個別通路Rの天井面(上蓋100の蓋本体110の下面)を伝う液滴Vは、横断壁131A、131Bに達すると、そこで塊となり、更に、横断壁131A、131Bに沿って下方に移動する。そのため、液滴Vが垂れて、個別通路Rの床面(中蓋60の上面壁65A)に落ちやすくなり、液滴Vが、共通通路Uや一括排気部Q、排気ダクト200に到達し難くなり、外部に漏れにくくなる。そして、個別通路Rの床面に垂れ落ちた液滴Vは、その後、還流孔82を通じてセル室25に還流する。従って、各セル室25内における電解液Wの減少を抑制できる。
【0067】
また、鉛蓄電池10に対して所定時間継続して振動を加える振動試験を、以下の条件で行ったところ、下記の結果が得られた。
(1)同一個別通路Rに対する横断壁131は
図9の横断壁131Aの1か所とし、横断壁131の突出高さLを変えて評価を行う。
(2)振動の周波数は7Hz、加速度は19.6m/s
2で上下方向、試験時間(振動を加えた時間)は15分とする。
(3)評価数をN=10とする。
(4)試験終了時に、排気ダクト200を目視で確認し、排気ダクト200に液滴Vが到達していない場合を「OK」、到達していた場合を「NG」とする。
尚、横断壁131の突出高さLとは、個別通路Rの天井面(すなわち、上蓋100の蓋本体110の下面)を基準とした、上下方向の長さを意味する(
図14、
図15参照)。
【0068】
図16に示すように、横断壁131の突出高さLが「0(壁なし)」の場合、全10回の試験中、10回とも「NG」となった。また、横断壁131の突出高さLが「0.2mm」の場合、全10回中の試験中、「NG」が8回で、「OK」が2回となった。横断壁131の突出高さLが「0.5mm」の場合、全10回中の試験中、「NG」が7回で、「OK」が3回となった。
【0069】
一方、横断壁131の突出高さLが「1.0mm」の場合、全10回の試験中、「NG」が1回で、「OK」が9回となり、横断壁131の突出高さLが「1mm」より大きいと、全10回の試験中、10回とも「OK」で、NG品は無かった。
【0070】
上記の振動試験から、横断壁131の突出高さLを「0.2mm」以上にすると、液滴Vが個別通路Rの天井部分を伝って外部に漏れることを抑制する効果が確認できた。また、横断壁131の突出高さLを「1.0」mm以上にすると、液滴Vが個別通路Rの天井部分を伝って外部に漏れることを顕著に抑制することが確認できた。
【0071】
また、(1)、(3)の条件を下記のように変更して、振動試験を行ったところ、
図17の結果が得られた。
(1)同一個別通路Rに対する横断壁131の設置箇所を変えて評価を行う。
(2)振動の周波数は7Hz、加速度は19.6m/s
2で上下方向、試験時間(振動を加えた時間)は15分とする。
(3)横断壁131の突出高さLは「1.0mm」で、評価数をN=10とする。
(4)試験終了時に、排気ダクト200を目視で確認し、排気ダクト200に液滴Vが到達していない場合を「OK」、到達していた場合を「NG」とする。
【0072】
試験結果は、
図17に示すように、横断壁131の設置個所が共通経路Uの直線上の場合、全10回の試験中、「NG」が5回、「OK」が5回となり、横断壁131の設置が
図9の横断壁131Aのみの場合、全10回の試験中、「NG」が1回、「OK」が9回となった。また、横断壁131の設置が
図9の横断壁131Bのみの場合も、全10回の試験中、「NG」が1回、「OK」が9回となった。
【0073】
発明者は、仮に共通通路Uまで液滴が到達した場合、共通通路Uの天井面には6つの個別通路Rから集まった大量の液滴が伝うことになることから、共通通路Uの天井面よりも各個別通路Rの天井面を伝う液滴の方が少ない。したがって、個別通路Rの天井面であれば低い横断壁で液滴Vを効果的に堰き止めることができると考えた。上記の振動試験から、共通通路Uよりも個別通路Rに、横断壁131A、131Bを設けることで、液滴Vが外部に漏れることを抑制する効果が高いことが確認できた。
【0074】
また、個別通路Rのうち屈曲部Nは、直線部(例えば、屈曲点N2〜N3の直線区間や共通通路U)に比べて、天井面を伝う液滴Vの移動速度が遅い。したがって、液滴Vの移動速度が遅い屈曲部Nに対応して横断壁131を設けることで、液滴Vが個別通路Rの天井部分を伝って外部に漏れることを抑制する効果をさらに高めることができる。
【0075】
また、
図15に示すように、横断壁131A、131Bは、上側通路壁125よりも、上蓋100の蓋本体110からの突出高さLが短く、横断壁131A、131Bの下端部132は、上側通路壁125と下側通路壁85の溶着部Jの上端J1よりも上方であり、且つ、多孔質フィルタ205の下端部よりも上方に位置する。このようにすることで、電池製造時において、上蓋100の上側通路壁125と中蓋60の下側通路壁85を熱溶着する時に、横断壁131は熱板HP(
図21参照)から非接触となることから、壁の下部が溶けて形状変化することを抑制することが出来る。
【0076】
「溶着部J」とは、上側通路壁125と下側通路壁85とを熱溶着した部位である。より具体的には、
図15に示すように、上側通路壁125と下側通路壁85の溶着面Dを含み、熱溶着により壁の厚さが太く変化している範囲(J1〜J2まで)である。
【0077】
尚、横断壁131A、131Bの下端部132が、溶着部Jの上端J1よりも上方に位置する関係にするには、熱板HPによる上側通路壁125の溶融代を考慮して、上側通路壁125や横断壁131A、131Bの突出高さLを決定するとよい。すなわち、上側通路壁125の先端部の溶融代(熱板で溶ける部分の長さ)が例えば「Cmm」である場合、横断壁131A、131Bの突出高さLを、上側通路壁125の突出高さより「Cmm」以上、短くすればよい。
【0078】
3.鉛蓄電池の製造方法
本鉛蓄電池10は、以下の(A)〜(E)の工程により、製造される。
(A)極板群の挿入及び接続体の接続工程
(B)中蓋を溶着する工程
(C)電解液を注入する工程
(D)上蓋を溶着する工程
(E)極柱を溶接する工程
【0079】
具体的に説明すると、鉛蓄電池10を製造する場合、まず、電槽20の各セル室25に対して極板群30を挿入する工程を行う(
図19参照)。その後、各セル室25間にて、ストラップ32上に設けられた接続体33を接続する工程を行う。これにより、各セル室25の極板群30は、直列に接続された状態となる。
【0080】
次に電槽20に対して中蓋60を溶着する工程を行う。本工程では、まず、加熱した熱板を電槽20と中蓋60の間に配置して、熱板の下面に電槽20の外壁21と隔壁23の上端面を接触させ、熱板の上面側に中蓋60のリブ91と蓋隔壁93の下端面を接触させる。そして、接触状態を一定時間保持する。これにより、電槽20側の外壁21と隔壁23の上端部は溶融し、また、中蓋60側のリブ91と蓋隔壁93の下端部は溶融する。
【0081】
その後、熱板を取り除いて、溶融した外壁21とリブ91の先端同士、及び溶融した隔壁23と蓋隔壁93の先端同士がそれぞれ整合するように、中蓋60と電槽20との位置を合わる。そして、中蓋60を電槽20に組み付ける。これにより、中蓋60側のリブ91が電槽20の外壁21の上端面に重なって当接し、中蓋60側の蓋隔壁93が電槽20の隔壁23の上端面に重なって当接する。次に、図外の押圧板で、中蓋60と電槽20を上下方向から押圧する。これにより、溶融した外壁21とリブ91の先端同士が溶着し、溶融した隔壁23と蓋隔壁93の先端同士が溶着する。以上により、電槽20と中蓋60は溶着される(
図20参照)。尚、熱板を利用して2つの樹脂材を溶着する点は、
図21に示す溶着方法と同じである。その後、中蓋60に形成された注液口75から電解液Wを電槽20内に注入する工程を行う。
【0082】
次に電槽20に溶着した中蓋60に対して上蓋100を溶着する工程を行う。本工程では、まず、
図21に示すように、加熱した熱板(本発明の「加熱部材」に相当)HPを中蓋60と上蓋100の間に配置して、熱板HPの下面に、中蓋60の上面側に設けられた各下側周壁83、各下側通路壁85、各下側筒部Q1及び各下側隔壁71〜73の上端面を接触させる。また、熱板HPの上面側に、上蓋100の下面に設けられた各上側周壁123、各上側通路壁125、各上側筒部Q2及び各上側隔壁121〜123の下端面を接触させる。そして、接触状態を一定時間保持する。これにより、中蓋60の上面に設けられた各下側周壁83、各下側通路壁85、各下側筒部Q1及び各下側隔壁71〜73の上端部は溶融し、また、上蓋100の下面に設けられた各上側周壁123、各上側通路壁125、各上側筒部Q2及び各上側隔壁121〜123の下端部は溶融する。
【0083】
ここで、上蓋100に下面に設けられた横断壁131は、上側通路壁125に比べて壁高さが低い。そのため、
図21に示すように、横断壁131は、熱板HPに対して接触せず非接触となり、熱板HPから離間する。そのため、熱板HPによる加熱中、横断壁131は溶融せず、形状を保つことが出来る。
【0084】
その後、熱板HPを取り除いて、溶融した各下側周壁83、各上側周壁123の先端同士、溶融した各下側通路壁85、各上側通路壁125の先端同士、溶融した各下側筒部Q1、各上側筒部Q2の先端同士、及び溶融した各下側隔壁71〜73、各上側隔壁121〜123の先端同士がそれぞれ整合するように、位置を合わせつつ、中蓋60の上方から上蓋100を組み付ける。これにより、上蓋100の上側周壁123が中蓋60の下側周壁83の上端面に重なって当接する。また、上蓋100の上側通路壁125が中蓋60の下側通路壁85の上端面に重なって当接する。また、上蓋100の上側筒部82が中蓋の下側筒部Q1の上端面に重なって当接する。また、上蓋100の上側隔壁121〜123が中蓋60の下側隔壁71〜73の上端面に重なって当接する。
【0085】
次に、図外の押圧板で、上蓋100を組み付けた鉛蓄電池10を、上下方向から押圧する。これにより、溶融した各下側周壁83、各上側周壁123の先端同士が溶着し、溶融した各下側通路壁85、各上側通路壁125の先端同士が溶着する。また、溶融した各下側隔壁71〜73、各上側隔壁121〜123の先端同士が溶着する。以上により、上蓋100と中蓋60は溶着される(
図3参照)。これにより、中蓋60と上蓋100は、蓋部材50として組み上がり、両蓋60、100間には、セル室25ごとに、排気筒部T、個別通路Rが形成され、また、共通通路U、一括排気部Qが形成される(蓋部材50の製造)。その後、ブッシング41と極柱45を、溶接する工程等が行われる。これにて、鉛蓄電池10は完成する。
【0086】
4.効果説明
本実施形態における鉛蓄電池10は、横断壁131A、131Bを各個別通路Rに設け、横断壁131A、131Bの下端部132を、溶着部Jの上端J1よりも上方に位置させることで、振動による液滴Vの漏れを抑制することができる。
【0087】
また、横断壁131A、131Bの天井面からの突出高さは、1.0mm以上である。このようにすれば、天井面を伝う液滴Vが横断壁131A、131Bを顕著に乗り越え難くなり、液滴Vの漏れ抑制効果が格段に高まる。
【0088】
また、横断壁131A、131Bは、各個別通路Rに形成されている。共通通路Uは幅の狭い単調な通路であり、通路内の液体の移動できる方向が限られている。そのため、共通通路Uに横断壁131A、131Bを設けた場合には、液体が横断壁131A、131Bを乗り超え易くなるので、この横断壁131A、131Bの溶融有無に関わらず、液滴の漏れ抑制効果が小さい。一方、個別通路Rは広い空間を使った迷路状であるからこそ、液体が横断壁131A、131Bを乗り超え難くなる。よって、個別通路Rに横断壁131A、131Bを設け、この横断壁131A、131Bを溶融させなかった場合に、横断壁131A、131Bを溶融させた場合に比べて液滴の漏れ抑制効果が顕著に高まる。
【0089】
また、横断壁131A、131Bは、排気筒部Tの切り欠き部124から離れて配置されている。具体的には、個別通路Rのうち、排気方向で、切り欠き部124よりも共通通路Uに近い位置(後方の位置)に、横断壁131A、131Bを配置している。このようにすることで、電槽20のセル室25から飛沫して、切り欠き部124から個別通路R内に入り込む電解液Wを、横断壁131A、131Bで堰き止めることができる。そのため、電槽20のセル室25から切り欠き部124を介して飛沫した電解液Wが、横断壁131A、131Bに遮られずに、個別通路Rの横断壁131A、131Bよりも共通通路Uに近い位置、すなわち外部出口寄りに直接付着するのを抑制できる。これにより、電槽20のセル室25から飛沫して個別通路Rに入り込み、個別通路Rの天井面を伝う液滴Vの量を減らして、振動による液滴Vの漏れをより一層抑制することができる。
【0090】
また、個別通路Rのうち屈曲部Nは、直線部に比べて、天井面を伝う液滴Vの移動速度が遅い。本構成では、そうした液滴Vの移動速度が遅い、屈曲部Nに対応して横断壁131A、131Bを設けているので、液滴Vが横断壁131A、131Bを乗り越えるのを一層抑制することができる。
【0091】
また、中蓋60は、個別通路R上の複数個所に、横断壁131A、131Bを有している。そのため、液滴Vが1段目の横断壁131Aを乗り越えたとしても、それを、後段の横断壁131Bにより堰き止められる。従って、液滴Vがより一層、外部に漏れ難くなる。
【0092】
また、個別通路Rは、非直線的な迷路状の通路であるため、個別通路Rを通過するガスに含まれる水蒸気が結露し易くなる。そのため、電解液が減少し難くなる。
【0093】
また、横断壁131Aは通路壁125Aの延長線上に位置し、横断壁131Bは通路壁125Gの延長線上に位置する。このようにすれば、金型に形成された通路壁成形用の成形溝を、溝深さを変えつつ延長することで、横断壁131A、131Bを成形することが出来る。
【0094】
また、横断壁131Aは、両端部を通路壁125A、125Cの壁面に連結している。このようにすれば、通路壁125A、125Cの剛性をアップすることが出来る。また、横断壁131Bは、両端部を通路壁125G、125Eの壁面に連結している。このようにすれば、通路壁125G、125Eの剛性をアップすることが出来る。
【0095】
また、本構成では、電槽20のセル室25ごとに、個別通路Rを設けている。このようにすれば、各セル室25から発生するガスを、各個別通路Rを介して外部に排気できる。また、個別通路R内の液滴Vを、還流孔82を通じて各セル室25に戻すことが出来る。すなわち、ガスに含まれる水蒸気が個別通路R内で結露することにより出来る水滴等の液滴Vは、全て元のセル室25に戻るので、各セル室25間で、電解液Wの液量が不均一になることを抑制することが出来る。
【0096】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
上記実施形態では、中蓋100の蓋本体100を平らな形状とし、横断壁131A、131Bを、蓋本体110の下面から下向きに突出する形状とした。横断壁131は、個別通路Rの天井面から突出する形状であればよく、例えば、
図22に示すように、蓋本体300に対して上側に凹む凹部310を形成し、その内側面330を、横断壁として利用するようにしてもよい。すなわち、上記の場合は、凹部310の上面壁320が個別通路Rの天井面となり、内側面330は天井面320から下方に突出する形態となるので、横断壁として機能し、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0097】
上記実施形態では、個別通路Rの側壁となる通路壁RWを、中蓋60側の下側通路壁85と上蓋100側の上側通路壁125とから分割構成した例を示した。通路壁RWは上下分割構造の他に1枚壁構造であってもよい。すなわち、上側通路壁125を下側通路壁85の長さ分だけ延長した壁とし、上蓋100側の上側通路壁125だけで通路壁RWを構成するようにしてもよい。尚、通路壁RWを上側通路壁125だけで構成する場合、上側通路壁125の下端部を、中蓋60の台状部65の上面壁65Aに溶着することで、気密性を保つようにするとよい。また、同様、排気筒部Tについても、上下分割構造ではなく、上蓋100側だけの1枚壁構造にしてもよい。すなわち、上蓋100側の4つの上側周壁123A〜123Dを、下側周壁83A〜83Dの長さ分だけ延長し、上蓋100側の上側周壁123A〜123Dだけで排気筒部Tの周壁を構成するようにしてもよい。同様に、共通通路Uの側壁や、一括排気部Qについても、上下分割構造ではなく、上蓋100側だけの1枚壁構造にしてもよい。
【0098】
上記実施形態では、個別通路R上の2か所に横断壁131A、131Bを設けた例を示した。横断壁131A、131Bは、個別通路R上の少なくとも1か所以上に設けられていればよく、個別通路R上の1箇所、又は3か所以上に設けるようにしてもよい。
【0099】
上記実施形態では、通路壁125Aや通路壁125Gの延長線上に横断壁131Aや横断壁131Bを設けた例を示した。横断壁131A、131Bは、個別通路Rを横切っていればよく、通路壁125Aや通路壁125Gの延長線上以外の場所に設けてもよい。
【0100】
上記実施形態では、各セル室25にて発生したガスを、各個別通路Rを介して、共通通路Uへ送り、一括排気部Qの排気ダクト200から一括排気する構成を例示した。ガスの排気方法は、一括排気部Qによる一括排気方式の他、個別排気方式としてもよい。すなわち、各セル室25にて発生したガスを各個別通路Rに設けた排気口から個別に排気するようにしてもよい。
【0101】
上記実施形態では、電槽20に複数のセル室25を設けた構成を例示したが、電槽20は、セル室25を有さない構成でもよい。
【0102】
なお、本発明は、以下の形で実施することができる。
(1)
電極群と、
電解液と、
前記電極群と前記電解液を収容する電槽と、
前記電槽を封口する蓋部材とを備え、
前記蓋部材は、
前記電槽を覆う中蓋と、
前記中蓋の上部に重ねて溶着される上蓋と、
前記中蓋と前記上蓋との間に配置され、前記電槽内と外部とを連通させる排気通路とを含み、
前記排気通路の底面は、通路内の液体を前記電槽内に還流させるように傾斜しており、
前記上蓋は、
前記中蓋と溶着されて、前記排気通路の側壁を構成する通路壁と、
前記排気通路の天井面に設けられ、前記排気通路を横断する横断壁と、を有し、
前記横断壁の下端部は、前記通路壁と前記中蓋との溶着部よりも上方に位置する鉛蓄電池。
【0103】
(2)
前記横断壁の前記天井面からの突出高さは、1.0mm以上である(1)に記載の鉛蓄電池。
【0104】
(3)
前記電槽は、複数のセル室に仕切られており、
前記排気通路は、前記複数のセル室のそれぞれと連通する複数の個別通路と、前記複数の個別通路と連通し、前記複数の個別通路からのガスを外部に一括排気する共通通路を含み、
前記横断壁は、前記複数の個別通路の天井面のそれぞれに少なくとも1つ形成されている(1)または(2)に記載の鉛蓄電池。
【0105】
(4)
少なくとも前記上蓋を溶融させて、前記中蓋と前記上蓋とを溶着させる(3)に記載の鉛蓄電池。
【0106】
(5)
前記横断壁は、前記通路壁の延長線上に設けられている(3)または(4)に記載の鉛蓄電池。
【0107】
(6)
前記個別通路は、屈曲した屈曲部を有しており、
前記横断壁は、前記屈曲部に対応して配置されている(3)から(5)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0108】
(7)
前記中蓋は、前記上蓋側に向かって上向きに突出する下側通路壁を有し、
前記上蓋は、前記中蓋側に向かって下向きに突出し、前記下側通路壁と溶着される上側通路壁を有し、
前記横断壁は、前記上側通路壁と前記下側通路壁の溶着部よりも上側に位置する(3)から(6)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0109】
(8)
前記横断壁は、前記個別通路上において、排気出口側に向かう方向で、通路幅が広い状態から狭い状態に変化する箇所に設けられている(3)から(7)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0110】
(9)
前記中蓋は、前記電槽内と前記個別通路を連通させる連通孔を有し、
前記上蓋は、前記中蓋の前記連通孔の周囲を囲み、かつ前記個別通路に連通させる開口部が形成された排気筒部を有し、
前記横断壁は、前記排気筒部の前記開口部から離れて配置されている(3)から(8)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0111】
(10)
鉛蓄電池の電槽を封口する蓋部材の製造方法であって、
前記蓋部材は、前記電槽を覆う中蓋と、前記中蓋の上部に重ねて溶着される上蓋と、前記中蓋と前記上蓋との間に配置され、前記電槽内と外部とを連通させる排気通路とを含み、前記排気通路の底面は、通路内の液体を前記電槽内に還流させるように傾斜しており、前記上蓋は、前記中蓋と溶着されて、前記排気通路の側壁を構成する通路壁と、前記排気通路の天井面に設けられ、前記排気通路を横断する横断壁とを有し、前記横断壁は、前記通路壁に比べて高さが低くなっており、
前記上蓋の前記通路壁を加熱部材に接触させて溶融させた後、前記中蓋に当接させて、前記上蓋の前記通路壁と前記中蓋とを溶着させる溶着工程を含み、
前記溶着工程では、前記加熱部材に対して、前記上蓋の前記横断壁を非接触とすることにより、前記横断壁を溶融させない鉛蓄電池の蓋部材の製造方法。