(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6596995
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】遊星ローラ式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20191021BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20191021BHJP
【FI】
F16H13/08 E
F16H57/04 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-135213(P2015-135213)
(22)【出願日】2015年7月6日
(65)【公開番号】特開2017-15231(P2017-15231A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−65654(JP,A)
【文献】
特開2000−130529(JP,A)
【文献】
特開平9−152003(JP,A)
【文献】
特開平7−145856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪と、この固定輪の内側において当該固定輪と同心状に配置された太陽軸と、前記固定輪と太陽軸との間に圧接された状態で設けられた複数の遊星ローラと、各遊星ローラをそれぞれ回転自在に支持するとともに当該遊星ローラの公転に連動して回転するキャリアと、前記遊星ローラの周面と接触可能な含油部材を支持する円板状の支持プレートとを備えた遊星ローラ式伝達装置であって、
前記支持プレートは、前記太陽軸又は当該太陽軸に一体回転可能に一体化された部材と、前記遊星ローラとで軸方向の遊動が規制されており、且つ、前記太陽軸又は前記部材との接触により当該太陽軸の回転に連動して、当該太陽軸に対して相対回転可能に構成されている遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項2】
前記支持プレートは、前記太陽軸又は前記部材が貫通可能な中央孔を有しており、
この中央孔の内縁と前記太陽軸又は前記部材の外周との間の第1クリアランスは、前記固定輪の内周と前記含油部材との間の第2クリアランス以下に設定されている、請求項1に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項3】
前記固定輪の軸方向両側面には前記遊星ローラをガイドする鍔輪がそれぞれ配置されており、
前記支持プレートの外周と前記鍔輪の内周との間の第3クリアランスは、前記第1クリアランスより大きく、且つ、当該第1クリアランス+2mm以下に設定されている、請求項2に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項4】
前記支持プレートの外周縁には軸方向に突出する環状の突出壁が形成されており、
この突出壁の軸方向の突出長さは、前記遊星ローラの端面に接触可能に設定されており、
前記支持プレートの遊星ローラ側の側面に、前記突出壁によって、前記遊星ローラの端面にグリースを供給し得る凹状のグリース溜りが形成されている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項5】
前記支持プレートの周縁部には、前記遊星ローラと同数のピンが軸方向に突出して形成されており、
前記含油部材は、前記ピンに回転自在に支持された含油ローラである、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遊星ローラ式動力伝達装置に関する。さらに詳しくは、含油部材を用いて装置内の潤滑を行う遊星ローラ式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車式の動力伝達装置に比べて回転速度ムラがなく、高精度にモータの動力を伝達することができるので、従来、プリンターの給紙機構等に遊星ローラ式動力伝達装置が用いられている。かかる遊星ローラ式の動力伝達装置では、金属製の太陽軸、遊星ローラ及び固定輪間の摩擦により動力が順次伝達されるが、金属摩擦による部材の焼き付きを防止するために潤滑剤として一般にグリースが用いられている。
【0003】
しかし、装置を使用しているうちにグリースが当該装置から排除され、グリースが枯渇することがある。グリースが枯渇すると、金属摩擦が始まるので焼き付きが発生して装置の寿命が低下する。
そこで、装置の寿命を延ばすために、合成樹脂粉末とオイルとを混合してローラ状に焼き固めた含油ローラを、グリースとともに用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1記載の遊星ローラ式動力伝達装置50は、
図7〜8に示されるように、ハウジング51に固定された固定輪52と、この固定輪52の内側において当該固定輪52と同心状に配置された太陽軸53と、この太陽軸53と固定輪52との間に圧接された状態で設けられた複数の遊星ローラ54と、各遊星ローラ54をそれぞれ回転自在に支持して当該遊星ローラ54の公転により回転するキャリア55とを備えている。
【0005】
隣接する遊星ローラ54間には、当該遊星ローラ54と接触する含油ローラ56が配置されている。各含油ローラ56は、キャリア55の端面において当該キャリア55とは別体に設けられた支持体57の周縁部に突設された支持軸58に回転自在に支持されている。
【0006】
支持体57の外周部において隣り合う支持軸58の間には、
図9に示されるように、遊星ローラ54を回転自在に軸支しているローラ軸59と係合する係合凹部60が形成されている。そして、これらの係合凹部60がそれぞれ対応するローラ軸59と係合することで、支持体57は、キャリア55と同心に回転し得る。
【0007】
動力伝達装置50において、太陽軸53が回転すると遊星ローラ54が自転しながら公転し、この公転とともにキャリア55が回転する。このとき、支持体57の係合凹部60が遊星ローラ54のローラ軸59と係合しているので、支持体57はキャリア55とともに回転する。支持体57の支持軸58に支持された含油ローラ56は、遊星ローラ54に追随するように公転するとともに、当該遊星ローラ54の周面と接触しながら自転する。これにより、含油ローラ56から遊星ローラ56にオイルが供給され、当該遊星ローラ54と固定輪52との転動面に油膜が形成される。含油ローラ56は、支持軸58に支持されることにより、その半径方向の位置が一定に保たれるので、固定輪52と遊星ローラ54との間に巻き込まれることはない。
【0008】
動力伝達装置50では、係合凹部60の周方向の幅がローラ軸59の直径よりも大きいので、支持体57はキャリア55に対して所定角度だけ周方向に変位可能である。このため、支持軸58に支持された含油ローラ56は、遊星ローラ54に対して前記所定角度だけ公転方向に変位可能である。これにより、含油ローラ56は遊星ローラ54に適度に押し付けられた状態で回転して、当該遊星ローラ54にオイルを供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3104006号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の動力伝達装置50では、キャリア55と支持体57との間の隙間c(
図8参照)にグリースがつまり、このグリースによって当該支持体57がキャリア55に固着することがあった。支持体57がキャリア55に固着してしまうと、遊星ローラ54に含油ローラ56を押し付けることができなくなる場合があった。すなわち、支持体57がキャリア55に固着してしまうと、支持体57とキャリア55とが供回りをし、その結果、支持体57により位置決めされている含油ローラ56が、
図10に示されるように、遊星ローラ54と非接触の離れた位置のままキャリア55とともに公転を続ける場合があった。この場合、含油ローラ56から遊星ローラ54にオイルを供給することができないので、装置の寿命を延ばすことができなくなる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、遊星ローラへのオイル供給を安定して行うことができる動力伝達装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の遊星ローラ式動力伝達装置(以下、単に「動力伝達装置」ともいう)は、
(1)固定輪と、この固定輪の内側において当該固定輪と同心状に配置された太陽軸と、前記固定輪と太陽軸との間に圧接された状態で設けられた複数の遊星ローラと、各遊星ローラをそれぞれ回転自在に支持するとともに当該遊星ローラの公転に連動して回転するキャリアと、前記遊星ローラの周面と接触可能な含油部材を支持する円板状の支持プレートとを備えた遊星ローラ式伝達装置であって、
前記支持プレートは、前記太陽軸又は当該太陽軸に一体回転可能に一体化された部材と、前記遊星ローラとで軸方向の遊動が規制されており、且つ、前記太陽軸又は前記部材との接触により当該太陽軸の回転に連動して、当該太陽軸に対して相対回転可能に構成されている。
【0013】
本発明の動力伝達装置では、支持プレートは、太陽軸又は当該太陽軸に一体回転可能に一体化された部材と、前記遊星ローラとで軸方向の遊動が規制されている。すなわち、キャリア側ではなく太陽軸側で、支持プレートの軸方向の遊動が規制されている。また、支持プレートは、遊星ローラの公転と同じ位相で回転するキャリアとは接触せず、当該遊星ローラとは異なる回転速度の太陽軸又は前記部材と接触して当該太陽軸の回転に連動して、当該太陽軸に対して相対回転する。このため、支持プレートがキャリアと同期して回転することがないので、含油部材を遊星ローラに常時接触させて、オイルを遊星ローラに確実に供給することができる。これにより、遊星ローラと固定輪の軌道面に安定してオイルを供給することができるので、オイル不足による軌道面の焼き付けを防止することができる。その結果、動力伝達装置の寿命を延ばすことができる。
【0014】
(2)上記(1)の動力伝達装置において、前記支持プレートは、前記太陽軸又は前記部材が貫通可能な中央孔を有しており、
この中央孔の内縁と前記太陽軸又は前記部材の外周との間の第1クリアランスは、前記固定輪の内周と前記含油部材との間の第2クリアランス以下に設定されていることが好ましい。この場合、支持プレートの中央孔の内周と前記太陽軸又は前記部材の外周との間の隙間(第1クリアランス)が、前記固定輪の内周と前記含油部材との間の隙間(第2クリアランス)以下であるので、仮に芯ずれが生じたとしても、含油部材が固定輪に接触して当該固定輪に噛み込まれるのを防止することができる。
【0015】
(3)上
記(2)の動力伝達装置において、前記固定輪の軸方向両側面には前記遊星ローラをガイドする鍔輪がそれぞれ配置されており、
前記支持プレートの外周と前記鍔輪の内周との間の第3クリアランスは、前記第1クリアランスより大きく、且つ、当該第1クリアランス+2mm以下に設定されていることが好ましい。この場合、支持プレートの外周と鍔輪の内周との間の隙間(第3クリアランス)が、支持プレートの中央孔の内周と前記太陽軸又は前記部材の外周との間の隙間(第1クリアランス)より大きいので、支持プレートと鍔輪とが接触して異音等が発生するのを防止することができる。また、第3クリアランスが、第1クリアランス+2mm以下に設定されているので、遊星ローラ内のグリースが第3クリアランスを通って外部に排除されるのを防止又は抑制することができる。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)の動力伝達装置において、前記支持プレートの外周縁には軸方向に突出する環状の突出壁が形成されており、
この突出壁の軸方向の突出長さは、前記遊星ローラの端面に接触可能に設定されており、
前記支持プレートの遊星ローラ側の側面に、前記突出壁によって、前記遊星ローラの端面にグリースを供給し得る凹状のグリース溜りが形成されていることが好ましい。この場合、支持プレートのグリース溜りに付着したグリースを遊星ローラに戻すことができ、動力伝達装置の寿命低下を防ぐことができる。
【0017】
(5)上記(1)〜(4)の動力伝達装置において、記支持プレートの周縁部には、前記遊星ローラと同数のピンが軸方向に突出して形成されており、
前記含油部材は、前記ピンに回転自在に支持された含油ローラであることが好ましい。この場合、ローラの外周面すべてを利用して遊星ローラにオイルを供給することができるので、効率よくオイルを供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の動力伝達装置によれば、遊星ローラへのオイル供給を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の動力伝達装置の一実施形態の縦断面図である。
【
図2】
図1に示される動力伝達装置のA−A線断面図である。
【
図3】含油ローラが設けられる支持プレートの側面図である。
【
図4】含油ローラが設けされた支持プレートの斜視説明図である。
【
図5】本発明の動力伝達装置の他の実施形態の断面説明図である。
【
図6】含油ローラが設けられる支持プレートの側面図である。
【
図8】
図7に示される動力伝達装置のB−B線断面図である。
【
図9】
図7に示される動力伝達装置における支持プレートの正面図である。
【
図10】含油ローラと遊星ローラとの非接触状態を説明する部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の動力伝達装置の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る動力伝達装置1の縦断面図であり、
図2は、
図1に示される動力伝達装置1のB−B線断面図である。動力伝達装置1は、モータの高速回転を減速して出力する装置であり、固定輪2と、太陽軸3と、複数の遊星ローラ4と、キャリア5と、支持プレート6とを備えている。
【0022】
固定輪2は、モータのハウジング7に形成されたブラケット8にボルト9で固定されている。ブラケット8は、一端側が開放された円筒形状を呈しており、その内部に太陽軸3及び支持プレート6が配置されている。固定輪2の軸方向両側面には、遊星ローラ4をガイドするための鍔輪10がそれぞれ配置されている。鍔輪10の内周10aは、自転及び公転する遊星ローラ4の軸方向への移動を規制するために、固定輪2の外周面2aよりもわずかに径内方向に突出している。鍔輪10は固定輪2とともにブラケット8にボルト9で固定されている。固定輪2は、例えば高炭素クロム軸受鋼等の金属で作製することができ、また、鍔輪10は、例えば工具鋼等の金属で作製することができる。
【0023】
モータ軸11の先端部には、ネジ12によって円筒形状のカップリング13が固定されている。カップリング13は、大径部13aと、小径部13bとを備えている。大径部13aの外径は小径部13bの外径よりも大きく、また、大径部13aの内径は小径部13bの内径よりも大きい。大径部13aの孔14内にモータ軸11が挿入されており、小径部13bの孔15内に太陽軸3の一端が圧入されている。太陽軸3は、固定輪2の内側において当該固定輪2と同心状に配置されている。
【0024】
遊星ローラ4は、固定輪2と太陽軸3との間に圧接された状態で配置されている。本実施形態では、3つの遊星ローラ4が周方向に等間隔で配置されている。遊星ローラ4は、例えば高炭素クロム軸受鋼等の金属で作製することができる。
【0025】
キャリア5は、遊星ローラ4の軸方向一方側(
図2において左側)であって、モータとは反対側に配置されている。キャリア5は円板形状を呈しており、その外周部に形成された周孔16にはローラ軸17が圧入されている。ローラ軸17は円柱体からなり、その一部が軸方向に突出するように周孔16内に圧入されている。ローラ軸17の先端部、すなわち軸方向に突出している側の端部はすべり軸受18を介して遊星ローラ4の孔4a内に挿入されている。すべり軸受18は、遊星ローラ4の内周面4bと、ローラ軸17の外周面17aとの間に設けられている。キャリア5の中央孔19には、出力軸20の一端部20aが圧入されている。
【0026】
ブラケット8の開口は円板形状のカバー21により閉止されている。カバー21は、ボルト9によって、固定輪2及び鍔輪10とともにブラケット8に固定されている。カバー21の中央孔22には玉軸受23が嵌入されている。玉軸受23の外輪24はカバー21の中央孔22内に圧入されており、ボール25を挟んで外輪24の内方に設けられた内輪26内に出力軸20が圧入されている。
【0027】
支持プレート6は遊星ローラ4のモータ側(
図2において右側)に配置されている。支持プレート6は、
図3〜4に示されるように、中央に孔(中央孔)27が形成された本体6aと、孔27の内周縁から軸方向一方側(
図2において右側)に沿って延設された円筒部6bと、本体6aの外周縁から軸方向他方側(
図2において左側)に突出する環状の突出壁6cとを備えている。また、支持プレート6の軸方向他方側の面の周縁部には、後述する含油ローラを回転自在に支持する支持軸28が、軸方向に沿って突出するように形成されている。本実施形態における支持軸28は、支持プレート6の本体6aと一体に形成されているが、支持プレートの本体6aと別体の支持軸を当該本体6aに固定してもよい。
【0028】
突出壁6cの軸方向の突出長さLは、遊星ローラ4の端面4cに接触可能な長さに設定されている。かかる突出壁6cを本体6aの外周縁に形成することで、支持プレート6の遊星ローラ4側の側面に凹状のグリース溜り30を形成することができる。このようなグリース溜り30を設けることにより、装置内にグリースを留めておくことが可能となり、当該グリース溜り30に付着したグリースを遊星ローラ4に戻すことができる。その結果、長期間に亘り遊星ローラ4と固定輪2との転動面を潤滑させることができ、動力伝達装置1の寿命低下を防止することができる。
【0029】
支持プレート6の円筒部6bは、カップリング13の小径部13bの外方に配置されている。換言すれば、カップリング13の小径部13bは、支持プレート6の開口27内に挿入されている。円筒部6bを小径部13bの外方に配置することで、支持プレート6の傾き、すなわち軸線に垂直な線に対する傾斜を小さくすることができる。
【0030】
支持プレート6は、太陽軸3と一体回転する部材であるカップリング13の段部13cと、遊星ローラ4とで軸方向の遊動が規制されている。太陽軸3はカップリング13の孔15に圧入されているので、カップリング13は当該太陽軸3と一体回転する。このため、カップリング13の外周にわずかな隙間を介して設けられた支持プレート6は、当該カップリング13の外周と接触して当該カップリング13の回転に連動して、すなわち太陽軸3の回転に連動して、当該太陽軸3に対して相対回転することが可能である。
【0031】
支持プレート6の支持軸28には、含油部材である含油ローラ29が回転自在に設けられている。含油ローラ29は、例えば超高分子量ポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂と、ナフテン系鉱油やシリコーンオイルのようなトラクション係数の高い潤滑油との混合物を前記各樹脂の融解温度に加熱し、冷却により固形化して得られたものを円筒形状に形成したものである。含油ローラ29の内部の小孔には前記潤滑油が含浸されている。また、含油ローラ29は、合成樹脂樹脂粉末と潤滑剤粉末とを加圧成形することで作製することもできる。
【0032】
本実施形態では、
図3に示されるように、支持プレート6の孔27の内縁、すなわち支持プレート6の円筒部6bの内周と、カップリング13の小径部13bの外周との間のクリアランス(第1クリアランス)C1が、固定輪2の内周と含油ローラ29の外周との間のクリアランス(第2クリアランス)C2以下になるように設定されている。このため、仮に装置の組立時に芯ずれが生じたとしても、含油ローラ29の外周が固定輪2の内周に接触するよりも先に円筒部6cの内周が小径部13の外周に接触する。これにより、含油ローラ29が固定輪2に接触して当該固定輪2に噛み込まれるのを防止することができる。第1クリアランスC1の大きさは、本発明において特に限定されるものではないが、通常は、例えば1mm以下である。
【0033】
また、本実施形態では、支持プレート6の外周、すなわち突出壁6cの外周6c1と、鍔輪10の内周10aとの間のクリアランス(第3クリアランス)C3が、第1クリアランスC1より大きく、且つ、第1クリアランス+2mm以下になるように設定されている。突出壁6cの外周6c1と、鍔輪10の内周10aとの間のクリアランス(第3クリアランス)C3を、支持プレート6の円筒部6bの内周と、カップリング13の小径部13bの外周との間のクリアランス(第1クリアランス)C1よりも大きくすることで、駆動時に、支持プレート6と鍔輪10とが接触して異音等が発生するのを防止することができる。また、第3クリアランスC3を、第1クリアランス+2mm以下に設定することで、遊星ローラ4内のグリースが第3クリアランスを通って外部に排除されるのを防止又は抑制することができる。これにより、装置内にグリースをより長くとどめておくことができ、動力伝達装置1の寿命低下を防止することができる。
【0034】
前述した動力伝達装置1では、太陽軸3に一体回転可能に一体化された部材であるカップリング13と、遊星ローラ4とで軸方向の遊動が規制されている。すなわち、キャリア5側ではなく太陽軸3側で、支持プレート6の軸方向遊動が規制されている。また、支持プレート6は、遊星ローラ4の公転と同じ位相で回転するキャリア5とは接触せず、当該遊星ローラ5とは異なる回転速度のカップリング13と接触して当該カップリング13の回転に連動して、すなわち太陽軸3の回転に連動して、当該太陽軸3に対して相対回転する。このため、従来のように支持プレート6がキャリア5に固着して当該キャリア5と同期して回転することがないので、含油ローラ29を遊星ローラ4に常時接触させて、オイルを遊星ローラ4に確実に供給することができる。これにより、遊星ローラ4と固定輪2の軌道面に安定してオイルを供給することができるので、オイル不足による軌道面の焼き付けを防止することができる。その結果、動力伝達装置1の寿命を延ばすことができる。
【0035】
図5は、本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置41の断面説明図であり、
図6は、含油ローラが設けられる支持プレートの側面図である。
図5に示される動力伝達装置41では、カップリングが用いられておらず、太陽軸42が直接モータ軸43に圧入されている点が、
図1〜4に示される動力伝達装置1と異なっている。また、支持プレート44の形状が、動力伝達装置1における支持プレート6と異なっている。これら以外の、例えば遊星ローラ等の構成は、動力伝達装置1の構成と共通している。したがって、動力伝達装置1と共通する構成要素には同じ参照符号を付すとともに、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0036】
太陽軸42は、モータ軸43に形成された穴45内に圧入されている。これにより、太陽軸42はモータ軸43の回転に同期して回転する。本実施形態では、動力伝達装置1におけるカップリング13を用いることなく、モータ軸43の回転を太陽軸42に伝達することができ、動力伝達装置1よりも部品点数を減らすことができる。
【0037】
支持プレート44は、本体44aと、この本体44aの中央に形成された凸部44b、と、本体44aの外周縁から軸方向他方側(
図5において左側)に突出する環状の突出壁44cとを備えている。凸部44bは、短円筒形状の側壁44b1と、円板状の天井壁44b2とを備えている。天井壁44b2の中央は、太陽軸42が挿入可能な中央孔46が形成されている。また、支持プレート44の軸方向他方側の面の周縁部には、含油ローラ29を回転自在に支持する支持軸28が、軸方向に沿って突出するように形成されている。
【0038】
突出壁44cの軸方向の突出長さL1は、遊星ローラ4の端面4cに接触可能な長さに設定されている。かかる突出壁44cを本体44aの外周縁に形成することで、支持プレート44の遊星ローラ4側の側面に、
図2に示されるグリース溜り30と同様のグリース溜り47を形成することができる。このようなグリース溜り47を設けることにより、装置内にグリースを留めておくことが可能となり、当該グリース溜り47に付着したグリースを遊星ローラ4に戻すことができる。
【0039】
本実施形態においても、支持プレート44と、太陽軸42及び鍔輪10との間のクリアランスが、異音発生防止の観点等から設定されている。すなわち、支持プレート44の中央孔46の内縁と、太陽軸42の外周との間のクリアランス(第1クリアランス)C1aが、固定輪2の内周と含油ローラ29の外周との間のクリアランス(第2クリアランス)C2a以下になるように設定されている。このため、仮に装置の組立時に芯ずれが生じたとしても、含油ローラ29の外周が固定輪2の内周に接触するよりも先に中央孔46の内縁が太陽軸42の外周に接触する。これにより、含油ローラ29が固定輪2に接触して当該固定輪2に噛み込まれるのを防止することができる。なお、凸部44bの側壁44b1の内周面と、モータ軸43の外周との間のクリアランスを第1クリアランスとして、この第1クリアランスを第2クリアランス以下に設定することも可能である。ただ、一般に太陽軸42の方がモータ軸43よりも寸法精度が良いので、位置決め用のクリアランスとしては、太陽軸42との間のクリアランスを用いることが好ましい。
【0040】
また、支持プレート44の突出壁44cの外周44c1と、鍔輪10の内周10aとの間のクリアランス(第3クリアランス)C3aが、第1クリアランスC1aより大きく、且つ、第1クリアランス+2mm以下になるように設定されている。第3クリアランスC3aを、第1クリアランスC1aよりも大きくすることで、駆動時に、支持プレート44と鍔輪10とが接触して異音等が発生するのを防止することができる。また、第3クリアランスC3aを、第1クリアランス+2mm以下に設定することで、遊星ローラ4内のグリースが第3クリアランスC3aを通って外部に排除されるのを防止又は抑制することができる。
【0041】
動力伝達装置41においても、
図1〜4に示される動力伝達装置1と同じく、キャリア5側ではなく太陽軸42側で、支持プレート44の軸方向の遊動を規制している。また、支持プレート44は、遊星ローラ4の公転と同じ位相で回転するキャリア5とは接触せず、当該遊星ローラ4とは異なる回転速度の太陽軸42と接触して当該太陽軸42の回転に連動して、当該太陽軸42に対して相対回転する。このため、従来のように支持プレート44がキャリア5に固着して当該キャリア5と同期して回転することがないので、含油ローラ29を遊星ローラ4に常時接触させて、オイルを遊星ローラ4に確実に供給することができる。これにより、遊星ローラ4と固定輪2の軌道面に安定してオイルを供給することができるので、オイル不足による軌道面の焼き付けを防止することができる。その結果、動力伝達装置41の寿命を延ばすことができる。
【0042】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、3つの遊星ローラが太陽軸の周りに配置されているが、遊星ローラの数は、本発明においてとくに限定されるものではなく、他の数、例えば4つの遊星ローラを太陽軸の周りに配置することもできる。
【0043】
また、前述した実施形態では、含油部材として、支持プレートの支持軸に回転自在に設けられた含油ローラを用いているが、本発明における含油部材は、かかる含油ローラに限定されるものではない。支持プレートの動きと連動可能であり、且つ、遊星ローラの周面に接触可能であるかぎり、例えば支持プレートに固定された円柱状の含油体を用いることもできる。ただ、含油ローラの場合は、ローラの外周面すべてを利用して遊星ローラにオイルを供給することができるので、効率よくオイルを供給することができるという利点がある。
【0044】
また、
図1〜4に示される実施形態では、太陽軸と一体化しており太陽軸と一体回転する部材としてカップリングを用いているが、
図5に示されるように、モータ軸も太陽軸と一体化して当該太陽軸と一体回転することから、かかるモータ軸を前記部材に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1:動力伝達装置 2:固定輪 3:太陽軸 4:遊星ローラ
5:キャリア 6:支持プレート 6b:円筒部 6c:突出壁
7:ハウジング 8:ブラケット 9:ボルト 10:鍔輪
10a:内周 11:モータ軸 13:カップリング
17:ローラ軸 18:すべり軸受 20:出力軸 21:カバー
23:玉軸受 28:支持軸 29:含油ローラ 30:グリース溜り
41:動力伝達装置 42:太陽軸 43:モータ軸
44:支持プレート 44c:突出壁 47:グリース溜り
C1,C1a:第1クリアランス C2,C2a:第2クリアランス
C3,C3a:第3クリアランス L1,L1:突出長さ