(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
引き続き、いくつかの具体例を説明する。
【0012】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスは、(a)第1軸の方向に延在する複数のレーザ導波路構造を含むレーザ本体領域と基板とを備えるレーザ構造体と、(b)前記複数のレーザ導波路構造のそれぞれのための複数の第1電極と、(c)前記複数のレーザ導波路構造のそれぞれのための複数のパッド電極と、(d)前記複数のレーザ導波路構造のそれぞれのための複数の配線金属体と、を備え、前記レーザ構造体は、前記第1軸の方向に配置された第1領域及び第2領域を含み、前記レーザ構造体の前記第1領域は、前記レーザ導波路構造のための共振器を含み、前記レーザ構造体の前記第1領域及び前記第2領域は、それぞれ、前記基板の第1基板領域及び前記基板の第2基板領域を含み、前記レーザ本体領域は、前記第1基板領域上に設けられ、前記レーザ本体領域は、前記第1領域と前記第2領域との境界に位置する第1端面を有し、前記第2領域は、前記第1端面の底縁から前記第1軸の方向に延在するテラスを含み、前記複数のパッド電極は前記テラス上に設けられ、前記複数の第1電極の各々は、前記レーザ導波路構造上に設けられた部分を有し、前記複数のパッド電極の各々は、前記複数の配線金属体のうちの一つを介して前記複数の第1電極のうちの一つに接続され、前記複数の配線金属体の各々は、前記テラス上に設けられた第1部分と、前記第1端面上に設けられる第2部分とを含み、前記複数のレーザ導波路構造の各々は、コア層を含む。
【0013】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、複数のレーザ導波路構造及び複数の第1電極は、パッド電極を搭載しない第1領域に設けられ、その結果、個々のレーザ導波路構造間の間隔及び共振器長は、複数のパッド電極の配置に起因する制約から独立している。また、複数のパッド電極の配置は、第2領域のテラス上において、レーザ導波路構造間の間隔及び共振器長並びに複数の第1電極の配置から独立している。レーザ構造体の第1領域及び第2領域が、第1軸の方向に延在するので、第2領域上における個々のパッド電極は、第1領域と第2領域との境界を横切る配線金属体の一つを介して第1領域のレーザ半導体領域上における複数の第1電極のうちの一つに接続される。
【0014】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記複数の配線金属体の各々は、前記レーザ本体領域上に設けられた第3部分を更に含む。
【0015】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、各配線金属体は、第1部分、第2部分及び第3部分を含み、複数のパッド電極の各々は、複数の配線金属体のうちの一つにおける第3部分を介して、複数の第1電極のうちの一つに接続される。
【0016】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記コア層はコア端面を有し、前記第1端面は、前記コア層の前記コア端面を含み、前記配線金属体の前記第2部分が前記コア層の前記コア端面から離れている。
【0017】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、配線金属体が、第1端面においてコア層のコア端面から離れているので、配線金属体が、コア層のコア端面に係る光の入射及び/又は出射を妨げない。そのため、各導波路構造の第1端面からの出射光を、各導波路構造における、量子カスケードレーザの発振状態を監視するためのモニター光として使用できる。
【0018】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記コア層はコア端面を有し、前記第1端面は、前記コア層の前記コア端面を含み、前記配線金属体の前記第2部分は、前記コア層の前記コア端面上に設けられる。
【0019】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、配線金属体がコア層のコア端面上に設けられる部分を有するので、配線金属体は、レーザ導波路構造の共振器ミラーの反射率を高める高反射膜として寄与できる。
【0020】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記コア層はコア端面を有し、前記第1端面は、前記コア層の前記コア端面を含み、当該量子カスケードレーザデバイスは、前記複数のレーザ導波路構造のうちの少なくとも一つのレーザ導波路構造のための前記コア層の前記コア端面上に設けられた金属層を更に備え、前記金属層は、前記第1端面上において前記配線金属体の前記第2部分から隔置されている。
【0021】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、第1端面上において、金属層は、配線金属体の第2部分から隔置されると共にコア層のコア端面上に設けられるので、配線金属体の第2部分が第1端面上における、レーザ導波路構造の共振器ミラーの反射を攪乱することを防止できると共に、金属層が第1端面上における、レーザ導波路構造の共振器ミラーの反射率を高める高反射膜として機能することができる。
【0022】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記レーザ本体領域は、前記第1軸の方向に配列された分布反射領域及びレーザ半導体領域を含み、前記レーザ半導体領域は、前記第1軸に交差する方向に延在する半導体端面を含み、前記分布反射領域は、前記基板の主面への法線の方向に延在する一又は複数の高屈折率部を含み、該高屈折率部は、前記レーザ半導体領域の前記半導体端面から隔置されており、前記分布反射領域は、前記第1端面を含み、前記分布反射領域は、前記第2領域と前記レーザ半導体領域との間に設けられる。
【0023】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、分布反射領域は、レーザ導波路構造のための共振器ミラーとして働く。
【0024】
一形態に係る量子カスケードレーザデバイスでは、前記レーザ導波路構造は前記第1端面に到達している。
【0025】
この量子カスケードレーザデバイスによれば、第1端面は、レーザ導波路構造のための共振器ミラーとして働く。
【0026】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、量子カスケードレーザデバイスに係る本実施形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る、回折格子を有する分布帰還型量子カスケードレーザデバイスを模式的に示す図面である。
図1の(a)部は、量子カスケードレーザデバイスを示す平面図を示し、
図1の(b)部は、レーザ導波路構造を模式的に表す縦断面を示す。
図1の(c)部及び(d)部は、レーザ導波路構造及び半導体構造物の配置の形態を示す平面図である。量子カスケードレーザデバイス11は、複数の量子カスケードレーザを備える半導体レーザアレイを含む。具体的には、量子カスケードレーザデバイス11はレーザ構造体13を備え、このレーザ構造体13は、レーザ本体領域15及び基板17を備える。レーザ本体領域15は、量子カスケードレーザそれぞれのための複数のレーザ導波路構造19を含み、各レーザ導波路構造19は第1軸Ax1の方向に延在する。本実施例では、レーザ本体領域15は、一例として3つのレーザ導波路構造19を有している。レーザ構造体13は第1領域13a及び第2領域13bを含み、第1領域13a及び第2領域13bは第1軸Ax1の方向に配置されている。第1領域13a及び第2領域13bは、それぞれ、基板17の第1基板領域17a及び第2基板領域17bを含む。レーザ本体領域15は、第1基板領域17a上に設けられている。レーザ構造体13の第1領域13aは、レーザ導波路構造19のための共振器を含む。
【0028】
量子カスケードレーザデバイス11は、複数のレーザ導波路構造19それぞれのための複数の第1電極25と、複数のレーザ導波路構造19それぞれのための複数のパッド電極27と、複数のレーザ導波路構造19それぞれのための複数の配線金属体29とを備え、第1電極25、パッド電極27及び配線金属体29は、レーザ構造体13上に設けられている。パッド電極27の各々は、複数の配線金属体29のうちの一つを介して複数の第1電極25のうちの一つに接続される。第1電極25の各々は、レーザ導波路構造19上に設けられた部分を有する。レーザ導波路構造19の各々は、コア層21aを含む。コア層21aは、下部クラッド層21bと上部クラッド層21cとの間に設けられる。本実施例では、各レーザ導波路構造19は、回折格子層21d及びコンタクト層21eを含む。第1電極25は、レーザ導波路構造19の上面(例えば、コンタクト層21e)に接触を成す。量子カスケードレーザデバイス11は、中赤外の波長領域、例えば約3〜約20μmの光を生成できるコア層21aをそれぞれ含む複数の量子カスケードレーザを備えたアレイ構造を有する。好適な実施例では、量子カスケードレーザデバイス11におけるアレイ構造を構成する量子カスケードレーザの各々は、回折格子層21dに含まれる回折格子の周期によって決定される、互いに異なる波長の光を生成する。
【0029】
レーザ構造体13は第1素子端13f及び第2素子端13gを有しており、第1素子端13f及び第2素子端13gは、第1軸Ax1に交差するAx2方向に延在する。第2領域13bはテラス13dを含み、テラス13dは、第1端面13cの底縁13eから第1軸Ax1の方向に延在しており、本実施例では、第1素子端13fに到達する。複数のパッド電極27はテラス13d上に設けられる。本実施例では、テラス13dは、基板17の第2基板領域17bに設けられる。基板17は、レーザ本体領域15及びパッド電極27を搭載する主面17cと、主面17cの反対側にある裏面17dを含む。レーザ本体領域15は第1端面13cを有し、第1端面13cは第1領域13aと第2領域13bとの境界13iに位置する。第1端面13cは、基板17の主面17cの法線方向に延在する。また、第1素子端13f及び第2素子端13gも基板17の主面17cの法線方向に延在する。第1端面13cは、ドライエッチングにより形成される。ドライエッチングによる加工で垂直性の高い端面形成が可能なため、これを用いることで、劈開で端面形成した場合と同等の高い端面反射率が得られる。ここで、各量子カスケードレーザの発振波長が例えば3μm以上の長い中赤外の波長領域にあるので、ドライエッチングに起因するエッチング端面のラフネス(典型的には50〜100nm程度の表面凹凸)があったとしても、発振波長が1.3〜1.55μmである光通信用の半導体レーザに比べ、エッチング端面のラフネスによる乱反射で端面の実効的な反射率の低下は相対的に生じにくい。従って、エッチング端面を用いても、量子カスケードレーザの発振特性への影響は小さい。一方、ドライエッチングによる加工は、アレイ内の個々の量子カスケードレーザの均一性の向上に寄与できる。
【0030】
この量子カスケードレーザデバイス11によれば、複数のレーザ導波路構造19及び複数の第1電極25は、パッド電極27を搭載しない第1領域13aに配置され、この配置は、個々のレーザ導波路構造19間の間隔SP及び共振器長LGが、複数のパッド電極27の配置に起因する制約から独立することを可能にする。また、パッド電極27の配置は、第2領域13bのテラス13d上において、レーザ導波路構造19間の間隔SP及び共振器長LG並びに複数の第1電極25の配置から独立している。レーザ構造体13の第1領域13a及び第2領域13bが、第1軸Ax1の方向に配列されるので、第2領域13b上における個々のパッド電極27は、第1領域13aと第2領域13bとの境界13iを横切る配線金属体29の一つを介して第1領域13aのレーザ導波路構造19上における第1電極25のうちの一つに接続される。
【0031】
本実施例では、量子カスケードレーザデバイス11は、基板17の裏面17d上に、複数のレーザ導波路構造19によって共有される第2電極23を含むことができる。第2電極23は、基板17の導電性半導体を介してレーザ導波路構造19の各々に接続される。
【0032】
配線金属体29とレーザ構造体13との電気的な接触による動作不良の発生を避けるために、配線金属体29が形成される第1領域13a及び第2領域13bの表面(例えば、基板17の主面17c)を絶縁膜37で覆っている。更に、第1端面13cが導電性を有する材料、例えば半導体を備える素子構造においては、第1端面13cと配線金属体29の電気的な接触による動作不良の発生を避けるため、第1端面13c上も絶縁膜37で覆っている。また、レーザ導波路構造19上の表面も絶縁膜37で覆っている。第1電極25の各々は、レーザ導波路構造19上の表面を覆う絶縁膜37に設けられた空孔37aを介して、レーザ導波路構造19の上面(例えば、コンタクト層21e)に接触を成す(
図3参照)。
【0033】
図1の(c)部及び(d)部を参照しながら、レーザ導波路構造19のための共振器を説明する。
図1の(c)部を参照すると、レーザ導波路構造19は第1端面13cに到達している。この量子カスケードレーザデバイス11によれば、第1端面13c上におけるレーザ導波路構造19の端面は、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして働く。本実施例では、レーザ導波路構造19は第2端面13jに到達している。レーザ導波路構造19は、第1端面13cの反対側にある他端部13hを有することができ、他端部13hは、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして働き、例えば半導体端面(例えば、第2端面13j)又は分布反射構造を有することができる。必要な場合には、具体的には、第2端面13j上に誘電体または金属から成るコーティング膜35を設けて反射率を調整するようにしてもよい。上記構成により、レーザ導波路構造19においては、第1端面13cと他端部13hを両端面とするレーザ発振の為の共振器が形成されている。
【0034】
図1の(d)部を参照すると、レーザ本体領域15は分布反射領域31(分布反射器:Distributed Reflector)及びレーザ半導体領域33を含み、分布反射領域31及びレーザ半導体領域33は第1軸Ax1の方向に配列されている。分布反射領域31は第1端面13cを含む。分布反射領域31は、第2領域13bとレーザ半導体領域33との間に設けられ、分布ブラッグ反射構造を有する。この量子カスケードレーザデバイス11によれば、分布反射領域31は、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして働く。レーザ半導体領域33は、第1軸Ax1に交差する第2軸Ax2方向に延在する半導体端面33aを含む。半導体端面33aは、分布反射領域31とレーザ半導体領域33との境界に位置する。レーザ半導体領域33は、半導体端面33aの反対側に他端部33bを有する。他端部33bは、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして働き、半導体端面(例えば、第2端面13j)又は分布ブラッグ反射構造を有することができる。
【0035】
図1の(d)部に示されるように、分布反射領域31は、基板17の主面17cへの法線方向に延在する一又は複数の高屈折率部31a、31bを含み、該高屈折率部31a、31bは、レーザ半導体領域33内のレーザ導波路構造19の半導体端面33aから隔置されている。本実施例では、分布反射領域31の高屈折率部31a、31bは、ブラッグ反射を引き起こすように周期的に配列される。具体的には、高屈折率部31a、31bは半導体壁を備える。2つの高屈折率部31aと31bの間、高屈折率部31bと半導体端面33aとの間、及び高屈折率部31aと第1端面13cの間には、高屈折率部31a、31bより低い屈折率の材料から成る低屈折率部(高屈折率部31a、31bより低い屈折率の材料の壁)を設けることができる。高屈折率部31aと31bの間、高屈折率部31bと半導体端面33aとの間、及び高屈折率部31aと第1端面13cの間を低屈折率の材料で充填して、高屈折率部と低屈折率部の間の段差を低減することにより、第1電極25が、分布反射領域31の上面を延在して第1端面13cの上縁に到達できる。ブラッグ反射により、分布反射領域31を最も効率よく高反射化するためには、Ax1方向における高屈折率部31a、31bの各厚さ、高屈折率部31aと31bの間の低屈折率部の厚さ、及び高屈折率部31bと半導体端面33aの間の低屈折率部の厚さは、レーザ導波路構造19の延在方向(Ax1方向)に基準幅λ/(4×n)(ここで、「λ」は量子カスケードレーザの真空中の発振波長であり、「n」は、この発振波長における、各高屈折率部及び低屈折率部の実効屈折率である)の奇数倍に設定することができる。具体的には、高屈折率部31a、31bの各厚さ、高屈折率部31aと31bの間の低屈折率部の厚さ、及び高屈折率部31bと半導体端面33aの間の低屈折率部の厚さは、例えば、λ/(4×n)又は3×λ/(4×n)に設定されることができる。このような構成の高屈折率部、及び低屈折率部を用いることで、分布反射領域31はレーザ導波路構造19の後端面の高反射膜として機能し、閾値電流の低減や光出力の増大等、量子カスケードレーザデバイスの特性改善に寄与する。なお、分布反射領域31の高屈折率部の個数としては、任意の個数を選択でき、個数が多いほど、より高反射が得られる。
【0036】
図1の(e)部、(f)部及び(g)部は、
図1の(c)部及び(d)部に示されたI−I線に沿ってとられたレーザ導波路構造19が形成された領域の断面を模式的に示す。
図1の(e)部、(f)部及び(g)部を参照しながら、第1電極25をそれぞれのパッド電極27に繋ぐ配線金属体29の具体的な形態を説明する。これらの図は、配線金属体29の異なる形態を示す。各配線金属体29は、第1部分29a及び第2部分29bを含む。第1部分29aはテラス13d上に設けられ、第2部分29bは第1端面13c上に設けられる。
【0037】
図1の(e)部に示されるように、第2部分29bの一端は第1部分29aに接続され、さらに第1部分29aはパッド電極27に接続される。第2部分29bの他端は第1電極25に接続される。第2部分29bは、第1端面13cにおけるレーザ導波路構造19のコア層21aの端面上に設けられて、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーの高反射膜として働き、閾値電流の低減や光出力の増大等、量子カスケードレーザデバイス11の特性改善に寄与する。また、上記説明の通り、本構造においては、配線金属体29がレーザ導波路構造19の後端面高反射膜も兼ねており、ウエハ上での製造プロセスにおいて、両者を一括で形成できる。従って、従来の上部配線電極と後端面高反射膜を別プロセスにて形成していたアレイ構造に比べて、製造プロセスを簡略化できるため、生産性が向上し、低コスト化が図れる。第2部分29bが高反射膜として効果的に機能するためには、第2軸Ax2方向における第2部分29bの幅をレーザ導波路構造19の幅より大きくして、半導体端面33aから出射されるレーザ導波路構造19の導波光全体を反射できるようにするのが良い。
【0038】
図1の(f)部に示されるように、第2部分29bは、第1端面13c上おいて、レーザ導波路構造19のコア端面から離れた別のエリアに設けられるので、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーの高反射膜として利用されない。第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面を迂回するように設けられる。この迂回のために、配線金属体29は、第2部分29bを第1電極25に接続するようにレーザ本体領域15上に設けられた第3部分(
図7及び
図8に示された第3部分「29c」)を有する。この形態においては、第2部分29bの一端は第1部分29aを介してパッド電極27に接続され、第2部分29bの他端は、レーザ本体領域15上の該第3部分29cを介して第1電極25に接続される。
【0039】
図1の(g)部に示されるように、第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面から離れた第1端面13c上に設けられて、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーの高反射膜として利用されない。しかし、レーザ導波路構造19のコア端面上には、配線金属体29とは別の金属層39が、共振器ミラーの高反射膜として設けられる。金属層39は、第1端面13c上において第2部分29bから隔置されている。金属層39の端部EDが第1端面13c又はテラス13d上に位置するので、金属層39は、第1電極25をパッド電極27に接続するための配線層として用いられていない。これ故に、第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面を迂回して金属層39から離れている。この迂回のために、配線金属体29は、第2部分29bを第1電極25に接続するようにレーザ本体領域15上に設けられた第3部分(
図7及び
図8に示された第3部分「29c」)を有する。この形態においては、第2部分29bの一端は第1部分29aを介してパッド電極27に接続され、第2部分29bの他端は、レーザ本体領域15上の第3部分29cを介して第1電極25に接続される。
【0040】
量子カスケードレーザデバイス11によれば、第1部分29a及び第2部分29b(必要な場合には、第3部分29c)を含む配線金属体29を介して、パッド電極27の各々は、第1電極25のうちの一つに接続される。
【0041】
引き続いて、いくつかの実施例を説明する。この説明において、理解の容易のために、可能な場合には、
図1において示された部材の参照符合を用いる。
【0042】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る量子カスケードレーザデバイスを示す図面である。
図2の(a)部は、実施例1に係る量子カスケードレーザデバイスを示す平面図であり、
図2の(b)部は、
図2の(a)部に示されたIIb−IIb線に沿ってとられた断面を示す。
図2の(a)部を参照すると、パッド電極27は、テラス13d上の配線金属体29の第1部分29aの一端に接続され、第1端面13c上の配線金属体29の第2部分29bの他端が、レーザ導波路構造19上の第1電極25の一端に接続される。これ故に、配線金属体29の第2部分29bは第1端面13c(より具体的には、コア層21aのコア端面)上を延在する。実施例1に係る量子カスケードレーザデバイス11によれば、配線金属体29の第2部分29bがコア層21aのコア端面上に設けられる部分を有するので、第2部分29bは高反射膜として機能し、第1端面13c上におけるレーザ導波路構造19の共振器ミラーの反射率は、配線金属体29の第2部分29bによって高められる。中赤外量子カスケードレーザにおいては、Ax1軸と直交するAx2軸方向におけるレーザ導波路構造19の幅は、Ax2方向における発振光の水平横モードを単一モードとするために、通常10μm程度以下に設定される。このため、Ax2軸方向における配線金属体29の第2部分29bの幅は、例えば20μm以上であることが良く、これによってレーザ導波路構造19を伝搬するレーザ光の多くを反射でき、高反射膜として有効に機能する。Ax2軸方向において、第2部分29bは、隣の第2部分29bから、例えば30μm以上で離れていることが良い。この程度離れていれば、隣接するレーザ導波路構造19間の電気的な絶縁が確保され、電気的なクロストークや絶縁破壊による動作不良の発生を抑制できる。実施例1の量子カスケードレーザデバイス11は、4つのレーザ導波路構造19を含む。本素子構造においては、パッド電極27はレーザ導波路構造19が形成された第1領域13aから分離されて、第2領域13bに集約されるため、4つのレーザ導波路構造19に関して、導波路間の間隔SPを、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望の値で配列できる。また、同様の理由により、その共振器長LGを、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望のサイズで設けることができる。
図2の(a)部及び(b)部に示されるように、配線金属体29は、第1端面13c上の第2部分29bによって、レーザ導波路構造19の光共振器の共振器ミラーの高反射膜を構成する。
【0043】
また、
図2の(b)部を参照すると、レーザ導波路構造19が延在するAX1方向において、凹部と凸部が周期Λで交互に繰り返し配列された回折格子が回折格子層21d中に形成されている。周期Λに対応したブラッグ波長の光が、回折格子で選択的に反射されて、共振器内で増幅されるため、このブラッグ波長での単一軸モード発振が可能となる。また各レーザ導波路構造19において、適宜異なる周期Λを設定することで、異なるブラッグ波長が選択されるため、個々のレーザ導波路構造19において、異なる発振波長での動作が可能となる。この結果、量子カスケードレーザデバイス11は複数の発振波長を有する広波長帯域の光源として動作することができる。
【0044】
図3は、
図2の(a)部に示されたIII−III線に沿ってとられた断面を示す。レーザ本体領域15は、メサ状にエッチングされたレーザ導波路構造19が埋込領域41で埋め込まれた埋め込みヘテロ構造を含むことができる。埋込領域41は、例えばアンドープ半導体又は半絶縁性半導体を備える。レーザ導波路構造19のメサ側面は埋込領域41によって埋め込まれて、レーザ導波路構造19は互いに絶縁される。レーザ導波路構造19の上面上には、絶縁膜37の開口37aが設けられており、第1電極25が開口37aを介してレーザ導波路構造19の上面に接触を成す。基板17の裏面17d上には、第2電極23が接触を成す。
【0045】
図4は、
図2の(a)部に示されたIV−IV線に沿ってとられた断面を示す。テラス13dは、4つのパッド電極27を搭載しており、これらのパッド電極27は、それぞれの配線金属体29(29a)に接続される。第2領域13bにおける、基板17の主面17c上は、絶縁膜37によって覆われており、絶縁膜37は、パッド電極27を基板17からしっかり絶縁している。基板17の裏面17d上には、第2電極23が接触を成す。
【0046】
図5は、
図2の(a)部に示されたV−V線に沿ってとられた断面を示す。第1端面13cには埋込領域41も到達している。レーザ本体領域15では、レーザ導波路構造19の埋込領域41の表面及び第1端面13cを絶縁膜37が覆い、第2領域13b上では、主面17c上を絶縁膜37が覆っている、絶縁膜37上を配線金属体29及びパッド電極27が延在している。絶縁膜37は、第1電極25、パッド電極27及び配線金属体29を基板17、第1端面13c、及び埋込領域41からしっかり絶縁している。基板17の裏面17d上には、第2電極23が接触を成す。
【0047】
図6は、
図2の(a)部に示されたVI−VI線に沿ってとられた断面を示す。
図6及び
図2の(a)部に示されるように、個々のレーザ導波路構造19に対応するパッド電極27が、第1軸Ax1の方向に配列されて、量子カスケードレーザデバイスのための半導体チップのサイズ縮小に寄与している。
【0048】
(実施例2)
図7は、実施例2に係る量子カスケードレーザデバイスを示す図面である。
図7の(a)部は、実施例2に係る量子カスケードレーザデバイスを示す平面であり、
図7の(b)部は、
図7の(a)部に示されたVIIb−VIIb線に沿ってとられた断面を示す。
図7の(a)部を参照すると、量子カスケードレーザデバイス11は、3つのレーザ導波路構造19を含む。パッド電極27は、テラス13d上の配線金属体29の第1部分29aの一端に接続され、第1端面13c上の配線金属体29の第2部分29bの他端は、レーザ本体領域15上の配線金属体29の第3部分29cの一端に接続され、第3部分29cの他端は、第1電極25に接続される。第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面を迂回するように設けられる。この迂回のために、配線金属体29は、第2部分29bを第1電極25に接続するようにレーザ本体領域15上に設けられた第3部分29cを有する。
図7の(a)部及び(b)部に示されるように、実施例2に係る量子カスケードレーザデバイスによれば、第1端面13cは、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして働く。第2部分29bは、レーザ導波路構造19の端面(より具体的に、コア層21aのコア端面)から離れた第1端面13c上に設けられるため、第2部分29bは、第1端面13cにおけるコア層21aのコア端面に係る光の入射及び/又は出射を妨げない。そのため、各レーザ導波路構造19の第1端面13cからの出射光を、各レーザ導波路構造19における、量子カスケードレーザの発振状態を監視するためのモニター光として使用できる。実施例2によれば、パッド電極27はレーザ導波路構造19が形成された第1領域13aから分離されて、第2領域13bに集約されるため、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、3つのレーザ導波路構造19の共振器長LGを所望のサイズで設けることができる。また、上記と同じ理由により、引き出しのための第3部分29cの延在のためのエリアを除いて、隣接するレーザ導波路構造19間の間隔SPを、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望の値で配列できる。実施例2に係る量子カスケードレーザデバイスは、配線金属体29の引き回しの点を除いて、実施例1に係る量子カスケードレーザデバイスと同じであることができる。
【0049】
(実施例3)
図8は、実施例3に係る量子カスケードレーザデバイスを示す図面である。
図8の(a)部は、実施例3に係る量子カスケードレーザデバイスを示す平面であり、
図8の(b)部は、
図8の(a)部に示されたVIIIb−VIIIb線に沿ってとられた断面を示す。
図8の(a)部を参照すると、実施例3の量子カスケードレーザデバイス11は、3つのレーザ導波路構造19を含む。第1端面13c上において、第2部分29bは、レーザ導波路構造19の端面、具体的にはコア層21aのコア端面を迂回するように設けられる。この迂回のために、配線金属体29は、第2部分29bを第1電極25に接続するようにレーザ本体領域15上に設けられた第3部分29cを有する。第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面から離れた第1端面13c上に設けられて、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーとして利用されない。このため、第2部分29bが、第1端面13c上における、レーザ導波路構造19の共振器ミラーの反射を攪乱することを防止できる。パッド電極27は、テラス13d上の配線金属体29の第1部分29aを介して第2部分29bの一端に接続され、第1端面13c上の配線金属体29の第2部分29bの他端は、レーザ本体領域15上の配線金属体29の第3部分29cの一端に接続され、第3部分29cの他端は、第1電極25に接続される。
図8の(a)部及び(b)部に示されるように、レーザ導波路構造19のコア端面上には、配線金属体29とは別の金属層39が、共振器ミラーの高反射膜として設けられる。金属層39は、第1端面13cの上端から下端まで延在する一方で、第1端面13c上において第2部分29bから隔置されている。金属層39がコア層21aのコア端面上を延在するので、第1端面13c上におけるレーザ導波路構造19の共振器ミラーの反射率は、金属層39によって高められる。即ち、金属層39はレーザ導波路構造19の後端面の高反射膜として機能し、閾値電流の低減や光出力の増大等、量子カスケードレーザデバイスの特性改善に寄与する。また本構造においては、配線金属体29と後端面高反射膜である金属層39を、ウエハ上での製造プロセスにおいて、一括で形成できる。従って、従来の上部配線電極と後端面高反射膜を別プロセスにて形成していたアレイ構造に比べて、製造プロセスを簡略化できるため、生産性が向上し、低コスト化が図れる。上記のように、Ax2軸方向におけるレーザ導波路構造19の幅は、Ax2方向における発振光の水平横モードを単一モードとするために、通常10μm程度以下に設定される。このため、この方向における金属層39の幅は、例えば20μm以上であることが良く、これによってレーザ導波路構造19を伝搬するレーザ光の多くを金属層39で反射できる。従って、金属層39は高反射膜として有効に機能する。実施例3に係る量子カスケードレーザデバイスによれば、パッド電極27はレーザ導波路構造19が形成された第1領域13aから分離されて、第2領域13bに集約されるため、3つのレーザ導波路構造19に関しては、共振器長LGをパッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望のサイズで設けることができる。また同様の理由により、引き出しのための第3部分29cの延在のためのエリアを除いて、隣接するレーザ導波路構造19間の間隔SPをパッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望の値で配列できる。実施例3に係る量子カスケードレーザデバイスは、金属層39の追加の点を除いて、実施例2に係る量子カスケードレーザデバイスと同じであることができる。
【0050】
図9は、配線金属体29の形状に係るいくつかの実施例の量子カスケードレーザデバイスを示す平面図である。
【0051】
(実施例4)
図9の(a)部は、実施例4に係る量子カスケードレーザデバイスを示す平面である。
図9の(a)部を参照すると、パッド電極27は、テラス13d上の配線金属体29の第1部分29aの一端に接続される。配線金属体29の第2部分29b及び第1電極25は、それぞれ、第1端面13c及び分布反射領域31の上面上を延在する。配線金属体29の第2部分29bは第1端面13c(より具体的には、分布反射領域31の端面)上を延在して、第2部分29bの他端は、レーザ導波路構造19上の第1電極25の一端に接続される。第2部分29bは、第1端面13cにおけるレーザ導波路構造19の端面上に設けられて、レーザ導波路構造19のための共振器ミラーの高反射膜として機能する。従って、本構造においては、分布反射領域31と第2部分29bの両者がレーザ導波路構造19の後端面の高反射化に寄与するため、閾値電流の低減や光出力の増大等、量子カスケードレーザデバイスの特性改善がより容易となる。個々のレーザ導波路構造19に対応するパッド電極27が、第1軸Ax1の方向にステップ状に配列されて、量子カスケードレーザデバイスのための半導体チップのサイズ縮小に寄与している。実施例4に係る量子カスケードレーザデバイスは、4つのレーザ導波路構造19を含み、パッド電極27はレーザ導波路構造19が形成された第1領域13aから分離されて、第2領域13bに集約される。このため、レーザ導波路構造19間の間隔SPや共振器長LGに関して、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望の値で設定できる。
【0052】
図10は、
図9の(a)部に示されたX−X線に沿ってとられた断面を示す。
図11は、
図9の(a)部に示されたXI−XI線に沿ってとられた断面を示す。
図9の(a)部、
図10及び
図11に示されるように、レーザ本体領域15の第1領域13aは、分布反射領域31及びレーザ半導体領域33を含む。レーザ半導体領域33は、レーザ導波路構造19と、これらのレーザ導波路構造19を埋め込む埋込領域41とを含む。レーザ導波路構造19間において、埋込領域41が、レーザ導波路構造19に沿って延在している。第1領域13aのレーザ半導体領域33、分布反射領域31及び第2領域13bは、レーザ導波路構造19の延在方向(Ax1方向)に順に配列される。分布反射領域31は、第1端面13cを含む。実施例4の量子カスケードレーザデバイスは、4つのレーザ導波路構造19を含み、これらのレーザ導波路構造19を間隔SPに関して所望の値で配列でき、共振器長LGに関して第1領域13aを所望のサイズで設けることができる。
【0053】
レーザ本体領域15では、埋込領域41の表面、分布反射領域31の上面、及び第1端面13cを絶縁膜37が覆い、第2領域13b上では、主面17c上を絶縁膜37が覆っている。絶縁膜37は、パッド電極27及び配線金属体29を基板17、第1端面13c、分布反射領域31、及び埋込領域41からしっかり絶縁している。基板17の裏面17d上には、第2電極23が接触を成す。
【0054】
分布反射領域31は、半導体壁で構成された高屈折率部31a、31bと、該半導体壁より低い屈折率の材料で構成された低屈折率部31c、31d、31eとを含む。高屈折率部31a、31b及び低屈折率部31c、31d、31eは、共に、当該量子カスケードレーザデバイスの発光波長の光を透過可能な材料からなることができる。高屈折率部31a、31b及び低屈折率部31c、31d、31eは、レーザ導波路構造19の延在方向(Ax1方向)に交互に配列されて、分布反射のための屈折率分布を提供する。高屈折率部31a、31b及び低屈折率部31c、31d、31eは、レーザ導波路構造19の延在方向に交差する方向(Ax2方向)に延在している。具体的には、高屈折率部31a、31bの半導体壁はAx2方向の断面構造として、
図3に示したレーザ本体領域15同様、レーザ導波路構造19が埋込領域41の半導体で埋め込まれた、埋め込みヘテロ構造からなることができる。低屈折率部31c、31d、31eのための誘電体壁は、BCB樹脂、ポリイミド樹脂、SiO
2、SiN、SiON、アルミナといった誘電体からなることができる。
【0055】
(実施例5)
図9の(b)部は、実施例5に係る量子カスケードレーザデバイスを示す平面である。本実施例5に係る量子カスケードレーザデバイスは、配線金属体29の引き回しの違いを除いて、実施例4に係る量子カスケードレーザデバイスと同じ構成を有する。実施例5の量子カスケードレーザデバイスは、3つのレーザ導波路構造19を含む。パッド電極27は、テラス13d上の配線金属体29の第1部分29aの一端に接続され、第1部分29aの他端は第1端面13c上の第2部分29bの一端に接続される。第2部分29bの他端は、レーザ本体領域15上の配線金属体29の第3部分29cの一端に接続され、第3部分29cの他端は、レーザ半導体領域33上において第1電極25に接続される。第2部分29bは、レーザ導波路構造19のコア端面を迂回するように設けられる。この迂回のために、配線金属体29は、第2部分29bを第1電極25に接続するようにレーザ本体領域15上に設けられた第3部分29cを有する。実施例5に係る量子カスケードレーザデバイスによれば、配線金属体29の第2部分29bが、第1端面13c上においてコア層21aのコア端面から離れているので、第2部分29bは、コア層21aのコア端面に係る光の入射及び/又は出射を妨げない。そのため、各レーザ導波路構造19の第1端面13cからの出射光を、各レーザ導波路構造19における、量子カスケードレーザの発振状態を監視するためのモニター光として使用できる。本実施例の構造においても、パッド電極27はレーザ導波路構造19が形成された第1領域13aから分離されて、第2領域13bに集約されるため、3つのレーザ導波路構造19は、共振器長LGに関して、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望のサイズで設けることができ、また、引き出しのための第3部分29cの延在のためのエリアを除いて、レーザ導波路構造19を間隔SPに関して、パッド電極27の配置、サイズに制約されること無く、所望の値で配列できる。
【0056】
図12は、分布反射領域31に係るいくつかの実施例の量子カスケードレーザデバイスを示す平面図である。これらの図に示された素子構造は、分布反射領域31の構造以外は、
図9の(b)部に示した構成と同じである。
【0057】
(実施例6)
図12の(a)部を参照すると、分布反射領域31は、高屈折率部31a、31bを互いに接続する補強壁43を備えることができる。本実施例では、補強壁43は、量子カスケードレーザデバイス11の半導体チップの側縁49に沿って延在する。補強壁43は高屈折率部31a、31bを一体化して、高屈折率部の強度を補強する。補強壁43の配置は、高屈折率部31a、31bの端(半導体チップの側縁49)に限定されることなく、必要な場合には、高屈折率部31a、31bの任意の領域に補強壁43を接続できる。補強壁43は、例えば埋込領域41と同じ材料からなることができる。特に補強壁43と、高屈折率部31a、31bにおける補強壁43が接続された領域が同じ半導体材料(例えばFeドープInP等)で形成されている場合は、これらの領域は結晶レベルで切れ目なく一体化された一様な構造となるため、高屈折率部の強度を効果的に増加できる。また、これらの領域は同じ材料で一括形成できるため、製造プロセスを簡略化できる利点もある。但し、補強壁43の材料としては、これに限定はされず、必要に応じて、高屈折率部の機械的強度改善に効果がある、他の任意の材料、例えば半導体以外の材料も使用可能である。なお、複数ある高屈折率部の全てが補強壁43で接続される必要は無く、高屈折率部のうちの少なくとも2つの高屈折率部が補強壁43により接続されて、一体化された構造であっても良く、その場合でも、補強壁43の付加により、高屈折率部の機械的強度を増加できる。
【0058】
(実施例7)
図12の(b)部を参照すると、分布反射領域31は、高屈折率部31bをレーザ半導体領域33に接続する接続壁45を備えることができる。接続壁45は、高屈折率部31bとレーザ半導体領域33を一体化して、高屈折率部の強度を補強する。本実施例では、接続壁45は補強壁43に繋がっている。接続壁45は、レーザ半導体領域33から延出するように設けられる延長部であることができ、接続壁45の配置は、半導体チップの側縁49(高屈折率部31bの端)に限定されることなく、必要な場合には、高屈折率部31bの任意の領域に接続壁45を接続できる。接続壁45は、例えば埋込領域41と同じ材料からなることができる。特に接続壁45と高屈折率部31bにおける接続壁45が接続されている領域、及びレーザ半導体領域33における接続壁45が接続されている領域が、同じ半導体材料(例えばFeドープInP等)で形成されている場合は、これらの領域は結晶レベルで切れ目なく一体化された一様な構造となるため、高屈折率部の強度を効果的に増加できる。また、これらの領域は同じ材料で一括形成できるため、製造プロセスを簡略化できる利点もある。但し、接続壁45の材料としては、これに限定はされず、必要に応じて、高屈折率部の機械的強度改善に効果がある、他の任意の材料、例えば半導体以外の材料も使用可能である。なお、本実施例では補強壁43と接続壁45を同時に導入した構造を示したが、両者は各々独立した構造であり、これらを単独で導入しても良い。
【0059】
(実施例8)
図12の(c)部を参照すると、分布反射領域31の高屈折率部31a、31bを、レーザ導波路構造19が延在する方向(Ax1方向)と直交するAx2方向において、半導体チップの側縁49から離れた位置で終端することができる。高屈折率部31a、31bの終端部は、低屈折率部31c、31d、31eを互いに接続する誘電体接続壁47によって半導体チップの側縁49から隔置される。本実施例の構造では、Ax2方向における高屈折率部31a、31bの幅W1が素子幅W2よりも短いため、W1=W2の構造、即ち、高屈折率部が半導体チップの側縁49まで達している構造に比べて、基板17の主面17cの法線方向における高屈折率部の高さ(
図10におけるH)に対するAx2方向の素子幅W2の比(W2/H)が、低減される。これに起因して、高屈折率部の機械的強度が増す結果、高屈折率部の破損がより生じにくくなるという利点がある。別の利点としては、この構造によれば、高屈折率部31a、31bが半導体チップの側縁49まで達していないため、高屈折率部のドライエッチングの際、本側縁部を経由してエッチングガスがAx1方向に流れ易くなる。従って、高屈折率部が半導体チップの側縁49まで達している構造に比べて、エッチング時のガスの循環が良くなり、その結果、基板面内におけるマイクロローディング効果に起因するエッチングレートの変動が軽減されて安定化するため、高屈折率部形成時のエッチングのウエハ面内での均一性や再現性が改善される。また、実際の素子製造においては、半導体ウエハ上において、
図12に示すような量子カスケードレーザデバイス11が形成された半導体チップが、側縁49を素子界面として直列に多数繋がった形態で形成され、隣接するチップ間の素子界面(側縁49)において、劈開等の手法により、素子界面に平行な方向(AX1方向)に亀裂を発生させることで、個々のチップに分離される。ここで、側縁49まで高屈折率部が達している構造では、上記素子界面に亀裂を入れて分離する際の衝撃で高屈折率部が破損しやすく、素子分離時の歩留まりが悪い。一方、本実施例の構造では、側縁49に高屈折率部が存在しないため、素子分離時、高屈折率部はダメージを被らず、従って、高屈折率部の破損に起因する、素子分離時の製造歩留まり低下を回避できる。
【0060】
(実施例9)
図13は、第1電極25、配線金属体29及びパッド電極27の構造に係る実施例9の量子カスケードレーザデバイスを示す平面図である。本図に示された素子構造は、上部電極配線の材料構成以外は、
図7の(a)部に示した構成と同じである。実施例9の量子カスケードレーザデバイス11では、第1電極25、配線金属体29、及びパッド電極27の内の少なくとも1つの領域を構成する材料が、他の領域を構成する材料と異なっている。この配線構造によれば、上記各領域の材料として、他領域と異なる材料を選択できるため、上部電極配線に関する設計自由度が増し、その最適化が容易となるという利点がある。例えば、第1電極25としては、レーザ導波路構造19のコンタクト層21eとのオーミックコンタクトや放熱の為のAuメッキの必要性から、またパッド電極27としては、Auワイヤをボンディングする必要性から、共にAu系の材料が望ましいが、配線金属体29としては、例えばCuを用いることで、Auを用いた場合に比べて、低抵抗化や低コスト化が図れる改善が得られる。
【0061】
(実施例10)
図14は、ハイメサ構造に係る実施例10の量子カスケードレーザデバイスを示す断面である。
図14の断面は、
図3に描かれたIII−III線に沿った断面に対応している。実施例1〜9の量子カスケードレーザデバイスにおいて、レーザ導波路構造19が形成された領域の構造は埋め込みヘテロ構造には限定されず、他の任意の構造を使用できる。例えば、
図14に示したような、メサ状のレーザ導波路構造19を埋め込むことなく、絶縁膜37により直接にレーザ導波路構造19のメサ側面を覆ったハイメサ構造であっても良い。絶縁膜37は、レーザ導波路構造19の上面上に位置する開口37aを有しており、各レーザ導波路構造19のための第1電極25が、開口37aを介してレーザ導波路構造19の上面に接触を成す。また、第1電極25は、レーザ導波路構造19の両側面上に設けられると共に、基板17の主面17c上にも位置する。第1電極25は、第1軸Ax1の方向に延在している。この導波路構造では、レーザ導波路構造19のメサ側壁を、半導体より屈折率が遥かに小さい絶縁膜37で覆うため、メサ側壁を半導体埋め込み層41で埋め込んだ埋め込みヘテロ構造に比べて、コア層21aへの光閉じ込めを有意に増加でき、これによる発振特性の改善が見込めるという利点がある。また、本実施例構造を用いれば、分布帰還型の量子カスケードレーザデバイス11を完成するための結晶成長が2回で済むため、3回の成長が必要な埋め込みヘテロ構造に比べて、製造プロセスを簡略化できる利点がある。
【0062】
作製方法の一例として、実施例4,5の分布反射領域31が付加された量子カスケードレーザデバイス11の作製方法を説明する。この説明において、理解を容易にするために、可能な場合には、本実施形態において用いられた参照符合を用いる。基板17のためのn型のInPウエハを準備する。このInPウエハ上に、下部クラッド層21bのためのn型InP層、コア層21aのための超格子列(量子井戸層:GaInAs、バリア層:AlInAs)、回折格子層21dのためのアンドープ又はn型GaInAs層を順に成長する。この後に、フォトリソグラフィ及びエッチングを用いて、
図10に示すように、Ax1方向において、凹部と凸部が周期Λで交互に繰り返し配列された回折格子を有する回折格子層21dを形成する。ここで、集積された各レーザ導波路構造19を異なる波長で発振させるために、各レーザ導波路構造19毎に、異なる発振波長に対応した、異なる周期Λの回折格子層21dを形成することができる。この形成の後に、上部クラッド層21cのためのn型InP層及びコンタクト層21eのためのn型GaInAs層を順に成長して、半導体積層を形成する。これらの成長は、例えば有機金属気相成長法、又は分子線エピタキシー法によって行われる。なお、必要に応じてコア層21aの上下に、コア層21aへの導波光の閉じ込めを強化するための光閉じ込め層を付加しても良い。光閉じ込め層としては、コア層21aへの導波光の閉じ込めを大きくするために、例えば、高屈折率を有するアンドープ又はn型のGaInAs等を用いることができる。半導体積層上に、レーザ導波路構造19のための複数のストライプパターンを有する第1絶縁膜マスクを形成する。この第1絶縁膜マスクを用いて、レーザ導波路構造19のための半導体ストライプメサを形成する。必要な場合には、第1絶縁膜マスクを残したまま、Fe、Ti、Cr、Coといった遷移金属を添加した半絶縁性又はアンドープのInP(或いは、GaInAs、AlInAs、GaInAsP、AlGaInAs)により半導体ストライプメサを埋め込んで半導体領域を形成する。この埋込成長の後に第1絶縁膜マスクを除去する。半導体領域上に、テラス領域(テラス13d)並びに分布反射領域31及びレーザ半導体領域33を規定するパターンを有する第2絶縁膜マスクを形成する。この第2絶縁膜マスクを用いたドライエッチングによって、半導体領域から、第1端面13c、テラス領域(テラス13d)、分布反射領域31の高屈折率部の半導体壁、及びレーザ半導体領域33の半導体端面33aを形成する。この後に、分布反射領域31の低屈折率部のための誘電体の堆積及びそのエッチングによって分布反射領域31における屈折率分布を形成する。低屈折率部のために、BCB樹脂、ポリイミド樹脂、SiO
2、SiN、SiON、アルミナといった誘電体を用いることができ、これらが、スパッタ法、スピンコート法といった成膜方法により形成できる。次いで、ウエハ全面にSiO
2(或いは、SiN、SiON、アルミナ、ポリイミド樹脂、BCB樹脂といった誘電体層)を絶縁膜37として形成すると共に、個々のレーザ導波路構造19上の絶縁膜37には、コンタクトのための開口37aが形成される。この後に、ウエハ全面に第1電極25、パッド電極27、配線金属体29のための金属の堆積及びパターン形成を行う。また、InPウエハの裏面には第2電極23のための金属の堆積を行うことができる。第2電極23、第1電極25、パッド電極27、配線金属体29及び金属層39の材料として、Ti/Au、Ge/Auといった金系の材料を用いることができる。これらの工程により、複数のレーザ導波路構造19を含む量子カスケードレーザデバイス11の配列を備える基板生産物が形成される。
【0063】
中赤外量子カスケード半導体レーザの技術背景を説明する。中赤外量子カスケード半導体レーザは、環境ガス分析、医療診断、産業加工といった、今後高成長が期待される中赤外分野に使用可能な、小型、低コストの光源として有望視されており、近年開発が盛んとなってきている。例えば、環境ガス分析等のガスセンシング用途には、ターゲットガスの特定の吸収線をピンポイントで狙い撃ちするために、その吸収線の波長での単一モード動作が必要であり、そのために、波長選択用の回折格子(回折格子層21d)は有用である。単体の中赤外量子カスケード半導体レーザでは、基本的には上記のように回折格子の周期により発振波長がある波長に固定される。注入電流や素子温度の変更により、多少の波長可変は可能であるけれども、広い波長域における波長可変は不可能である。このような理由から、単体の中赤外量子カスケード半導体レーザでは、回折格子周期で決定される発振波長帯に吸収があるガス成分のガス計測だけが可能である。しかしながら、実用上、広い波長範囲にわたって吸収波長の異なる複数のガス成分を一括して分析することが求められる。
【0064】
異なる発振波長で動作可能な複数の中赤外量子カスケード半導体レーザの導波路構造を単一の半導体基板上にモノリシック集積したアレイ光源を実現することによって、複数のガス成分を一括して分析することが可能になる。ここで、アレイを構成する導波路の短共振器化は低消費電力を可能にすると共に、導波路間隔の低減は、素子サイズの低減に寄与する。これらは共に、ガスセンシングといった用途における中赤外量子カスケード半導体レーザアレイの実用化に寄与できる。しかしながら、このようなアレイでは、導波路構造の数に応じて、パッド電極の数も増加する。発明者の知見によれば、多数のパッド電極の配置は、導波路構造の配列及びサイズを制約する。より具体的には、従来の中赤外量子カスケード半導体レーザのアレイでは、同一領域に導波路構造とパッド電極を形成するため、導波路間隔や導波路の共振器長は、ワイヤボンディングのために、例えば100μm×100μm以上の領域が必要とされるパッド電極サイズで制限され、そのため、導波路間隔の低減と短共振器化との両立は容易ではない。本発明に係る量子カスケードレーザデバイスでは、短共振器化は低消費電力を可能にすると共に、チャンネル間隔に係る自由度は、チップサイズの低減に寄与する。これらは共に、ガスセンシングといった用途における実用化を寄与できる。
【0065】
なお、本発明に係る量子カスケードレーザデバイスは上記実施形態に記載したものに限定されない。例えば、上記実施形態では、各レーザ導波路構造19は、回折格子層21dを含むが、これに限られず、回折格子層21dを含まなくてもよい。例えば、各レーザ導波路構造19が回折格子層21dを含まない場合、量子カスケードレーザデバイスに含まれる複数の量子カスケードレーザは、所謂ファブリー・ペロー型(Fabry−Perot型)の量子カスケードレーザを構成する。
【0066】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。