【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0035】
[試験例1]鉄濃度による褐藻類の生育の比較
先ず、異なる鉄濃度(0、5、10、15、30、40、60又は100μg/L)の調整海水をそれぞれ準備した。鉄濃度の調整については、ろ過滅菌した能登湾海水にスラグ系施肥材の溶出液(施肥材溶出液)を添加することにより行なった。この施肥材溶出液は、炭酸化を行なった製鋼スラグと広葉樹の剪定材からなる腐植物質とを2:1(重量比)で混合したスラグ系施肥材300gを海水1L中に浸漬させ、室温及び暗条件下において、14日間100rpmで振とうさせることにより作製し、金属鉄換算で全鉄(金属Fe、FeO、Fe
2O
3など)が0.32mg/L、無機態窒素(NH
4−N、NO
2−N、NO
3−Nの和)が33.12mg/L、リン酸態リンが0.54mg/L、珪酸態ケイ素が7.63mg/Lの組成を有していた。なお、前記調整海水及び施肥材溶出液中の鉄濃度については、pHが2未満となるように塩酸を添加して、酸可溶鉄として、ルミノール発光法を利用した鉄分析計(紀本電子工業社製FEA−07)で分析を行い、確認した。
そして、前記鉄濃度が異なる調整海水をシャーレに入れ、この中に、それぞれアカモク(ホンダワラ科植物)の幼胚(10個体)を入れ、20℃に設定した培養庫(東京理化器械社製LTI−700)で生育させた。このアカモクの幼胚の近傍で100μmol/m
2/sとなる白色光(白色LED光源、波長400〜750nm)、又は80μmol/m
2/sとなる青色光(青色LED光源、波長446nm)をそれぞれ18日間照射して、生育状況の比較を行なった。生育状況の評価は、18日間生育後の藻体をデジタルカメラにより撮影し、その葉の面積を求めることにより行なった。評価結果を
図4に示す。
【0036】
図4の結果から、鉄濃度が5μg/L以上であれば、白色光及び青色光のいずれでもアカモクの幼体を十分に生長することができ、また、光強度によらず、青色光を用いた方が生長をより促すことができることが分かった。
【0037】
[試験例2]光強度による褐藻類の生育の比較
先ず、滅菌処理をしていない能登湾海水に前記試験例1と同様の施肥材溶出液によって鉄濃度を15μg/Lに調整した調整海水を準備してシャーレに入れ、これに、それぞれアカモク(ホンダワラ科植物)の幼胚(10個体)を入れ、20℃に設定した培養庫(東京理化器械社製LTI−700)で生育させた。このアカモクの幼胚の近傍で光強度が0、5、10、20、40、60又は80μmol/m
2/sとなる青色光(青色LED光源、波長446nm)を、それぞれ18日間照射して、生育状況を評価した。生育状況の評価は、前記試験例1と同様に、18日間照射後の藻体をデジタルカメラにより撮影し、その葉の面積を求めることにより行なった。評価結果を
図5に示す。
【0038】
図5の結果から、褐藻類の十分な生育を行なうためには、少なくとも光強度が10μmol/m
2/s以上必要であることが分かると共に、光強度を40μmol/m
2/s以上としても、生育促進の効果が飽和することが分かる。また、0〜40μmol/m
2/sの光強度で培養したシャーレでは、アカモクが顕著に生長し、調整海水に用いた能登湾海水中に含まれていたと推察される植物プランクトンや他の藻類の胞子による繁茂はほとんど見られなかった。その一方で、60及び80μmol/m
2/sの光強度で培養したものについては、アカモクの藻体面積は、40μmol/m
2/sの場合と同程度であったが、藻体表面に植物プランクトンの付着が見られ、シャーレ内には、植物プランクトンによるコロニーが形成されたり、糸状の緑藻が繁茂したりしていた。以上の結果から、光強度の上限は、過剰な照射を行なうことなく、尚且つ他の微細藻類などの生育や繁殖が促進されるおそれを可及的に排除するために、40μmol/m
2/s未満とする必要があることが分かる。
【0039】
[実施例1]
褐藻類としてコンブ目植物のクロメの胞子(遊走子)を用いて、その生育と他の藻類(緑藻類、藍藻類、紅藻類、珪藻類)の生育との比較を行なった。手順は以下のように行なった。
先ず、製鋼スラグを骨材に使用した水和固化体〔新日鐵住金社製商品名ビバリー(登録商標)ロック〕を入れた水槽に、成熟し、子嚢斑を形成したクロメ胞子体を入れ、クロメから放出された遊走子を水和固化体に着生させ、遊走子付きの水和固化体(以下、単に「水和固化体」と呼ぶ。)とした。次いで、これを、鉄濃度が23μg/Lに調整された調整海水5Lを入れた水槽(30cm×30cm×50cm)に入れ、この水和固化体の近傍で10μmol/m
2/sとなる青色光(青色LED光源、波長446nm)を、一日当たり12時間照射しながら、15℃で5ヶ月間生育させた。水温は、水槽内に投げ込み式クーラー(イワキ社製FC−401AN)を入れ、15℃に保った。鉄濃度の調整については、滅菌処理をしていない能登湾海水に一般的な栄養強化培地であるPES(Provasoli’s enriched sea water)を0.1%添加することで調整し、当該PESには鉄源としてFeCl
3とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)とが1:1(モル比)となるように混合した。また、鉄が不足しないように、1週間毎に当該PESを追肥するとともに、前記調整海水を30日毎に全量交換した。なお、前記調整海水中の鉄濃度については、pHが2未満となるように塩酸を添加して、酸可溶鉄として、ルミノール発光法を利用した鉄分析計(紀本電子工業社製FEA−07)で分析を行い、確認した。
そして、上記の手順でクロメを生育させた後、水和固化体上に着生した単位面積当たりのクロメの個体数(個体数/cm
2)及び他の藻類(緑藻類、紅藻類)の個体数(個体数/cm
2)を、実体顕微鏡(ニコン社製SMZ745T)を用いて計測した(1cm
2角を3箇所測定し、その平均値とした)。
結果を以下の表1に示す。また、当該生育後の水和固化体の様子を示す写真を
図6(a)に示すが、当該水和固化体には、クロメの胞子体(幼体)が繁茂し、その他の藻類はほとんど見られなかった。
【0040】
また、上記クロメの生育を30日行なった後の水槽において調整海水を一部採取し、浮遊している植物プランクトン(緑藻類、藍藻類、紅藻類、珪藻類)の量を測定した。測定には、多波長励起蛍光光度計(bbe社製、商品名:Algae Online Analyzer)を用いて、各々のクロロフィルaの濃度(μg/L)を求め、それにより緑藻類、藍藻類、紅藻類、珪藻類の量を比較した。該多波長励起蛍光光度計は、藻類が持つ光合成色素に特有の励起波長(緑藻類:470nm、紅藻類:570nm、珪藻類:525nm、藍藻類:610nm)を照射して、蛍光波長680nmの蛍光強度を測定することにより、4種分類して、それぞれのクロロフィルa濃度を求めることができる。
結果を表2に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1において使用した青色光を、白色光(白色LED光源、波長400〜750nm)に変更した以外は、実施例1と同様の手順により、水和固化体に着生したクロメ並びに緑藻類及び紅藻類の個体数を求め、また、植物プランクトンの量についても同じように求めた。
結果を以下の表1及び表2に示す。また、当該生育後の水和固化体の様子を示す写真を
図6(b)に示す。当該水和固化体には、クロメは全く確認できず、緑藻類及び紅藻類が繁茂していた。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果から、全クロロフィルa量については、青色光を照射した実施例1では、白色光を照射した比較例1の12%程度に抑えられており、青色光によるクロロフィルaの光合成抑制効果が確認された。また、実施例1では、比較例1に対して珪藻類では25%、また、フィコビリン系の色素を保有する紅藻類では6%程度にそれぞれ抑えられている。すなわち、400〜500nmの青色光を用いることにより、特に、珪藻類及び紅藻類に対する生育抑制効果が大きいことが分かる。
【0045】
[実施例2]海域における褐藻類の生育、藻場造成
先ず、鉄濃度を15μg/Lに調整した調整海水を準備した。鉄濃度の調整については、滅菌処理をしていない能登湾海水にスラグ系施肥材の溶出液の添加により行なった。この施肥材溶出液は、炭酸化を行なった製鋼スラグと広葉樹の剪定材からなる腐植物質とを2:1(重量比)で混合したスラグ系施肥材300gを海水1L中に浸漬させ、室温及び暗条件下において、14日間100rpmで振とうさせることにより作製し、金属鉄換算で全鉄(金属Fe、FeO、Fe
2O
3など)が0.08mg/L、無機態窒素(NH
4−N、NO
2−N、NO
3−Nの和)が29.9mg/L、リン酸態リンが0.39mg/L、珪酸態ケイ素が3.72mg/Lの組成を有していた。なお、前記調整海水及び施肥材溶出液中の鉄濃度については、pHが2未満となるように塩酸を添加して、酸可溶鉄として、ルミノール発光法を利用した鉄分析計(紀本電子工業社製FEA−07)で分析を行い、確認した。
そして、前記の調整海水をいれた水槽(1m×3m×0.5m)中に、製鋼スラグを骨材に使用した水和固化体〔新日鐵住金社製商品名ビバリー(登録商標)ロック〕上にアカモクの幼体(幼胚)を着生させた水和固化体を入れて、このアカモクの幼体の近傍で40μmol/m
2/sとなる青色光(青色LED光源、波長446nm)を照射して、葉長が5cm程度の幼体になるまで生長させてアカモクの種苗(水和固化体付きの種苗)とした。水温は、水槽内に投げ込み式クーラー(イワキ社製FC−401AN)を入れ、20℃に保った。
【0046】
次いで、前記得られた水和固化体付きの種苗を、海域の底部に移植した。移植の際には、海水中で固化する接着剤(コニシ社製、商品名:水中ボンド)を前記水和固化体に塗布し、これを予め海底に設置した水和固化体〔新日鐵住金社製商品名ビバリー(登録商標)ロック〕に接着させて固定した。また、炭酸化を行なった製鋼スラグ(鉄を15〜25質量%含有)と広葉樹の剪定材からなる腐植物質(窒素:0.5〜1.5%、リン酸:0.5〜1.5%を含有)とを2:1(重量比)で混合したスラグ系施肥材2tを鋼鉄製の箱型容器(1.4m×1.4m×0.5m)に充填して、この施肥材入りの箱型容器を
図7のように設置した。そして、このまま半年間アカモクを海域で生育させ、半年後生育状況を観察して評価した。評価方法としては、繁茂したアカモクに対して50cm角の方形枠を用いてランダムに3ヶ所選定し、その枠内のアカモクの葉長を測定することにより行なった。
結果、ほとんどのアカモク(98%)の葉長が1.5m程度まで生長していた。
【0047】
[比較例2]
前記実施例2において、スラグ系施肥材を設置しないこと以外は、実施例2と同様の方法で海域にてアカモクを生長させて、半年後の生育状況を観察し、同じ評価方法にて評価した。
結果、多くのアカモク(70%)の葉長が1m未満であり、施肥材を用いた実施例2と比較して生育が劣っていることが確認された。