(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
3次元CAD(Computer Aided Design)データを層分割し、分割した層ごとに層の上に層を積むようにして材料を付加して3次元の造形物を製造する方法は、国際規格でAdditive Manufacturingと定義されている。1980年代に発明されたこの製造方法は、一般的には3Dプリンタ(スリー ディー プリンタ)と呼ばれる。3Dプリンタは、3次元CADデータがあれば、金型を使わずに複雑な形状を容易に製造できることから、近年、新たなものづくり手法として注目されている。
【0003】
3Dプリンタでは、切削による除去的な加工や、型に材料を流し込んで固める成形加工とは異なり、メッシュ形状やポーラス形状をはじめとする、かつては製造が難しかった形状を容易に正確に製造できる。更には、複数の種類の材料を同一の層内に自由に配置させた造形を可能とすることも期待されている。複数の材料を用いた造形により、それぞれの材料の特性を活かした新たな機能を付与した造形物が実現できるからである。
【0004】
例えば、導電材料と絶縁材料とを複合させることで、電子回路の機能を有する造形物が実現する。また、硬質な材料と柔軟な材料とを複合させることで、強度と柔軟性の両立した機能を有する造形物が実現する。そして、これらの機能は新規材料の開発をせずとも実現することができる。
【0005】
特許文献1には、複数の材料の混合比を調整して造形物を積層造形する方法が開示されている。特許文献1の方法によれば、造形物の部位に応じて複数の造形材料の混合比をヘッド内で調整しても良いし、混合のための混合ユニットで混合した造形材料をヘッドから射出してもよい。この方法で粉末材料の混合比を制御することにより、造形対象物と同じ重量の造形物が可能であるとしている。材料の混合比を調整して造形する関連技術は、特許文献2や特許文献3にも開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のノズルの構成を示すブロック図である。本実施形態のノズル10は、開口面積を任意に変えて第1の材料と第2の材料の供給量を各々制御する第1の開閉口11と第2の開閉口12と、第1の開閉口11と第2の開閉口12から各々供給される前記第1の材料と前記第2の材料を混合して造形部に供給する混合チャンバ13と、を有する。
【0016】
本実施形態によれば、複数の造形材料の混合比と射出量とを調整可能なノズルと、これを用いた3次元造形物を積層造形する積層造形装置が提供される。
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態の積層造形装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の積層造形装置20は、ノズル21と、材料チャンバ22と、造形部23と、加熱部24と、制御部25とを有する。
【0017】
ノズル21は、複数の造形材料の混合比と射出量とを調整可能な材料供給ノズルである。材料チャンバ22は、ノズル21に複数の造形材料を各々供給する材料供給用のチャンバである。
【0018】
造形部23は、ノズル21から射出される造形材料を積層して3次元造形物を造形する。造形部23は、上下左右に移動可能なステージを有する。造形部23は、回転や傾斜する機構を有していてもよい。
【0019】
加熱部24は、造形部23に積層された造形材料の、造形物を形成する領域を加熱して焼結する。材料の焼結方法としては、ASTM(American Society for Testing and Materials)がAdditive Manufacturingの方式として分類している粉末床溶融結合方式(Powder bed fusion)を用いることができる。この方式の場合、加熱部24は、レーザ照射機構または電子ビーム照射機構を備えることで、造形ステージ23上の所定の領域を所定の時間、レーザ照射または電子ビーム照射することにより加熱して材料を焼結する。レーザとしては、Additive Manufacturingで使用されるファイバーレーザ等を用いることができる。
【0020】
制御部25は、ノズル21や材料チャンバ22や造形部23や加熱部24に接続する。制御部25は、造形材料の混合比、材料の造形面への供給量や供給位置や供給タイミング、造形面の位置、加熱の温度や位置や時間など、造形物の積層造形に関わる制御を行なう。制御部25は、サーバなどの情報処理装置をプログラムにより動作させて実現することができる。
【0021】
前記プログラムによる動作は、造形物の3次元CADデータに基づいて設定される。すなわち、制御部25は、3次元CADデータに基づき、所定の層に所定の混合比の材料を所定の量供給するノズル21や材料チャンバ22の調整、加熱部24による造形部23上の所定の領域の材料の焼結、造形部23の昇降などの移動、などの制御を行う。以上の工程を繰り返すことで、3次元の造形物を形成することができる。
【0022】
図3は、本実施形態のノズルの構成を示す図である。ノズル30は、第1の開閉口31と第2の開閉口32と混合チャンバ33とを有する。
【0023】
第1の開閉口31と第2の開閉口32とは、各々、第1の材料と第2の材料とを各々供給する第1の材料チャンバ34と第2の材料チャンバ35とに設けられている。また、第1の開閉口31と第2の開閉口32とは、第1の材料チャンバ34と第2の材料チャンバ35とから配管などを介して離れた位置に設けられていても良い。なお、開閉口の数は2個に限定されず、取り扱う材料の種類に応じて任意の複数とすることができる。
【0024】
第1の開閉口31と第2の開閉口32とは、複数の開閉板の駆動により開閉する。開閉板の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、ステンレス鋼等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0025】
混合チャンバ33は、第1の開閉口31と第2の開閉口32とから各々供給される第1の材料と第2の材料とを混合し、射出口36から造形部23へ射出する。射出口36の径は、例えば粉末材料の粒径が50μm程度の場合、200μm程度とすることができるが、これには限定されない。混合チャンバ33の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、ステンレス鋼等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0026】
第1の材料と第2の材料は、例えば粉末とすることができるが、これには限定されない。第1の材料がプラスチック粉末で、第2の材料が金属粉末というように、2種類の材料の材質が極端に異なる場合なども可能である。なお、第1の材料と第2の材料は、各々、2種類以上の材料が予め所定の比率で混合された混合材料であっても良い。
【0027】
第1の材料や第2の材料としては、例えば、プラスチック材料であれば、ナイロン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの材料にガラスやカーボン等を所定量添加していても良い。また、金属材料であれば、銅、ステンレス、アルミ、チタン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、セラミックやカーボン等の材料であってもよい。材料が粉末状であれば、粉末の粒径は、例えば、5μmから50μm程度の範囲とすることができるが、これには限定されない。
【0028】
図4は、本実施形態のノズル30の動作を説明するための図である。第1の開閉口31と第2の開閉口32は、A−A’面を矢印の方向に見た図のように、複数の開閉板37の駆動により開閉する。開閉板37の材質としては、炭素鋼、アルミニウム、ステンレス鋼等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0029】
第1の開閉口31と第2の開閉口32とから供給された第1の材料と第2の材料とは、混合チャンバ33で混合されて、射出口36から造形部23へ射出される。第1の材料と第2の材料とが粉末状の場合、例えば、第1の材料と第2の材料の粒径を変えることで、粒径の小さい材料が粒径の大きい材料の隙間に入り込みやすくなり、効率的に混合することができる。また、混合チャンバ33では、第1の材料と第2の材料とを混練してもよい。
【0030】
第1の材料と第2の材料との混合比は、第1の開閉口31と第2の開閉口32の開口面積によって制御することができる。例えば、第1の材料と第2の材料とを1:9の比率で混合する場合、第1の開閉口31と第2の開閉口32の開口面積の比率を1:9とする。ただし、開口面積の比率が供給される材料の比率と1:1にはならない場合、第1の材料と第2の材料との比率が1:9になるように開口面積の比率を予め求められた値に調整すればよい。例えば、第1の材料と第2の材料の粒径が異なる場合、粒径が小さい材料の方が高密度になるため、粒径が小さい材料の開口面積を粒径が大きい材料の開口面積に対して所定の割合だけ小さくする、といった対応が可能である。
【0031】
図5は、本実施形態のノズル30の材料供給例を説明するための図である。
図5では、ノズル30をX軸方向に移動させながら造形部に材料を供給する場合を示している。ノズル30は、A地点からB地点まで、第1の材料と第2の材料の混合比が8:2で一定の混合材料を供給する。B地点からC地点までは、混合比を8:2から3:7に直線的に連続的に変化させて供給する。さらに、C地点からは、混合比が3:7で一定の混合材料を供給し、D地点で終了する。
【0032】
以上のように、ノズル30によれば、第1の材料と第2の材料の混合比を、一定に保つことも、連続的に変化させることも可能である。これは、開閉口の開口面積を、複数の開閉板の駆動により、所望の時に任意に変えることができるためである。さらに、ノズル30によれば、所定の混合比の材料の射出量を所望の時に任意に変えることもできる。
【0033】
2種類の材料の混合比を連続的に変化させた混合比の傾斜構造を形成することで、2種類の材料が隣り合った界面に生じる応力を緩和することが可能となる。これにより、2種類の材料の界面で剥離や割れが発生しない信頼性の高い造形物が実現できる。
【0034】
なお、
図5において、第1の材料と第2の材料の混合比は、10:0から0:10まで、任意の混合比とすることが可能である。また、B地点からC地点までの混合比の連続的な変化は、直線的な変化の他にも、任意の曲線や段階的な変化、さらにはこれらの任意の組み合わせ、とすることも可能である。
【0035】
図6は、本実施形態のノズルの具体的な構造例を示す図である。ノズル60は、第1の開閉口61と第2の開閉口62と混合チャンバ63とを有する。混合チャンバ63の内側の第1の材料と第2の材料とを受ける面には、B−B’面の矢印方向の図に示すように、螺旋構造64の溝もしくは突起が設けられている。この螺旋構造64の溝もしくは突起により、第1の材料と第2の材料とは効率的に混合し、射出口から造形部に射出される。
【0036】
図7は、本実施形態のノズルの別の具体的な構造例を示す図である。ノズル70は、第1の開閉口71と第2の開閉口72と混合チャンバ73とを有する。混合チャンバ73の内側の第1の材料と第2の材料とを受ける面には、C−C’面の矢印方向の図に示すように、回転部74が設けられている。この回転部74が回転することにより、第1の材料と第2の材料とは撹拌されて効率的に混合し、射出口から造形部に射出される。回転部74の回転速度は、制御部25で制御することができ、例えば100rpm程度の速度が可能であるが、これには限定されない。また、回転部74の回転により、第1の材料と第2の材料とを混練することもできる。
【0037】
図8は、本実施形態のノズル30を複数有する構造を示す正面図、上面図、側面図、D−D’断面図である。
図8の構造は、各ノズル30に第1の材料と第2の材料とを各々供給する、第1の材料チャンバ84と第2の材料チャンバ85とを有する。
【0038】
各材料チャンバ内は、ノズル30ごとに区分けされ、ノズル30ごとに材料の残量を検知するセンサ86が設けられている。各ノズル30に対応した材料チャンバ内の材料が所定量以下になった場合、センサ86がこれを検知し、材料供給源(図示省略)から材料チャンバに材料が供給される。このとき、材料チャンバ内に供給された材料の偏りを、スキージ87で均一化することができる。
【0039】
センサ86は、例えば光学非接触式のセンサとすることができる。粉末材料がある場合、光が遮断されることで材料の存在を検出することができる。また、スキージ87は、平スキージ、角スキージ、剣スキージ等から適切な形状を選択することができる。スキージ87の材質は、ゴム、プラスチック、金属等から、適切な材料を選択することができる。
【0040】
本構造によれば、ノズル30ごとに材料の混合比と射出量とを変えた材料の供給が可能である。
【0041】
図9は、本実施形態の積層造形装置20の動作を示すフローチャートである。以下に、
図2と
図3に示す構造を用いて、積層造形装置20の動作を説明する。
【0042】
まず、制御部25は、第1の材料と第2の材料を各々供給する第1の材料チャンバ34と第2の材料チャンバ35から、第1の材料と第2の材料を、各々、ノズル30の第1の開閉口31と第2の開閉口32に供給する。制御部25は、第1の材料と第2の材料の所望の混合比と供給量とに基づいて第1の開閉口31と第2の開閉口32の開口面積を制御して、第1の材料と第2の材料を混合チャンバ33に供給する(ステップS1)。
【0043】
混合チャンバ33は、第1の材料と第2の材料とを混合する(ステップS2)。混合チャンバ33は、混合した材料を射出口36から造形部23の所定の位置へ射出する(ステップS3)。このとき、制御部25は、ノズル30(21)や造形部23の位置を制御する。
【0044】
次に、制御部25は、加熱部24を用いて、造形部23に積層された材料の造形物となる領域を加熱し、造形領域の材料を焼結して造形物を形成する(ステップS4)。
【0045】
次に、制御部25は、造形部23上に所定の層数を積層したか否かを確認する(ステップS5)。S5がNOの場合、制御部25は、次の層を積層するために造形部23を所定量、例えば次の層の層厚分、下降させて位置を設定する(ステップS6)。層厚としては、例えば30μmから50μmであるが、これには限定されない。造形ステージ23の位置を設定した後、制御部25は、ステップS1を繰り返し、造形物を完成して(ステップS5がYES)、終了する。
【0046】
なお、造形部23に供給された未焼結材料については回収し、分離して再利用することもできる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、複数の造形材料の混合比と射出量とを調整可能なノズルと、これを用いた3次元造形物を積層造形する積層造形装置が提供される。
【0048】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものである。
【0049】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0050】
付記
(付記1)
開口面積を任意に変えて第1と第2の材料の供給量を各々制御する第1と第2の開閉口と、
前記第1と第2の開閉口から各々供給される前記第1と第2の材料を混合して造形部に供給する混合チャンバと、を有するノズル。
(付記2)
前記第1と第2の開閉口は、複数の開閉板の駆動により開閉する、付記1記載のノズル。
(付記3)
前記第1と第2の開閉口は、前記第1と第2の材料を各々供給する第1と第2の材料チャンバに各々設けられている、付記1または2記載のノズル。
(付記4)
前記混合チャンバは、前記第1と第2の材料を混合する螺旋構造もしくは回転部を有する、付記1から3の内の1項記載のノズル。
(付記5)
付記1から4の内の1項記載のノズルと、
前記ノズルが供給する材料を積層して3次元造形物を造形する造形部と、
前記ノズルと前記造形部の前記3次元造形物の造形に関わる動作を制御する制御部と、を有する積層造形装置。
(付記6)
前記ノズルを複数有する、付記5記載の積層造形装置。
(付記7)
前記ノズルは、前記第1と第2の材料の混合比もしくは供給量を変えた複数の材料を供給する、付記5または6記載の積層造形装置。
(付記8)
前記ノズルは、前記第1と第2の材料の混合比もしくは供給量を連続的に変えた材料を供給する、付記5または6記載の積層造形装置。
(付記9)
前記造形部はステージを有する、付記5から8の内の1項記載の積層造形装置。
(付記10)
前記造形部に供給された材料を加熱する加熱部を有する、付記5から9の内の1項記載の積層造形装置。
(付記11)
複数の前記ノズルに材料を供給する材料チャンバ内の材料の偏りを均一化するスキージを有する、付記6記載の積層造形装置。
(付記12)
開口面積を任意に変える第1と第2の開閉口から第1と第2の材料の供給量を各々制御して供給し、
供給された前記第1と第2の材料を混合し、
前記混合した前記第1と第2の材料を射出する、ノズル動作方法。
(付記13)
前記第1と第2の開閉口は、複数の開閉板の駆動により開閉する、付記12記載のノズル動作方法。
(付記14)
前記第1と第2の開閉口は、前記第1と第2の材料を各々供給する第1と第2の材料チャンバに各々設けられている、付記12または13記載のノズル動作方法。
(付記15)
螺旋構造もしくは回転部の回転により前記第1と第2の材料を混合する、付記12から14の内の1項記載のノズル動作方法。
(付記16)
付記12から15の内の1項記載のノズル動作方法により材料を射出し、射出した前記材料を積層し、積層した前記材料から3次元造形物を造形する、積層造形方法。
(付記17)
前記第1と第2の材料の混合比もしくは供給量を変えた複数の前記材料を射出する、付記16記載の積層造形方法。
(付記18)
前記第1と第2の材料の混合比もしくは供給量を徐々に変えた前記材料を射出する、付記16または17記載の積層造形方法。
(付記19)
積層した前記材料を加熱する、付記16から18の内の1項記載の積層造形方法。
(付記20)
前記ノズル動作をする複数のノズルで前記材料を射出する、付記16から19の内の1項記載の積層造形方法。