(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての排気浄化制御装置について説明する。排気浄化制御装置の最小構成は、以下に説明するエンジン制御装置1のみで実現可能であるが、エンジン制御装置1及び酸素濃度センサ15〜17を含むシステム全体を排気浄化制御装置として実現することも可能である。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.装置構成]
図1は、車両に搭載されるエンジン10及びこれを制御するエンジン制御装置1を模式的に示す図である。このエンジン10は、吸気ポート8内に設けられたインジェクタ9からの燃料噴射を一時的に停止する燃料カット機能を備えている。また、エンジン10の吸気通路11にはスロットル弁12が介装される。一方、排気通路13には上流側から順に、過給機のタービン14、前段触媒6、後段触媒7が配置される。
【0015】
前段触媒6、後段触媒7はともに三元触媒であり、理論空燃比近傍の雰囲気下で窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素を浄化する機能を持つ。また、これらの前段触媒6、後段触媒7には、セリア系材料、セリア・ジルコニア系材料、セリア・ジルコニア・アルミナ系複合材料などの酸素吸蔵材が担持される。酸素吸蔵材はリーン雰囲気下で酸素を吸蔵し、リッチ雰囲気下において、リーン運転中に吸蔵した酸素を脱離させる特性を持つ。なお、前段触媒6は後段触媒7よりも触媒に担持する貴金属量が多い。
【0016】
排気通路13上には、排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ15〜17が介装される。以下、前段触媒6の上流側に配置されたものを、上流センサ15とも呼ぶ。同様に、前段触媒6と後段触媒7との間に配置されたものを中間センサ16とも呼び、後段触媒7の下流側に配置されたものを下流センサ17とも呼ぶ。上流センサ15、中間センサ16、下流センサ17のそれぞれは、理論空燃比相当の酸素濃度を閾値として、センサ出力Vを二値的に変化させるスイッチング出力型のジルコニアO
2センサである。ここでは、空燃比がリッチであるときのセンサ出力Vが所定値V
0であり、空燃比がリーンであるときのセンサ出力Vがゼロであるものとする。なお、ジルコニアO
2センサのセンサ出力Vは温度によって変化するため、センサ出力Vを排気温度に応じて補正する制御構成としてもよい。各酸素濃度センサ15〜17からのセンサ出力Vは、エンジン制御装置1に伝達される。
【0017】
図1に示すように、エンジン10には、エンジン回転速度N(エンジン回転数)を検出するエンジン回転数センサ18と、エンジン10の冷却水温Wを検出する水温センサ19とが設けられる。また、車両の任意の位置には、車速Sを検出する車速センサ20が設けられる。これらのセンサ18〜20で検出されたエンジン回転速度N、冷却水温W、車速Sの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。また、スロットル弁12の開度(スロットル開度)の情報も、エンジン制御装置1に伝達される。
【0018】
エンジン制御装置1(排気浄化制御装置)は、エンジン10を総合的に制御するコンピュータであり、車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。このエンジン制御装置1は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサやROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発メモリなどを集積した電子デバイス(ECU、電子制御装置)として形成される。ここでいうプロセッサとは、例えば制御ユニット(制御回路)や演算ユニット(演算回路)、キャッシュメモリ(レジスタ)等を内蔵する処理装置(プロセッサ)である。また、ROM、RAM及び不揮発メモリは、プログラムや作業中のデータが格納されるメモリ装置である。エンジン制御装置1で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてROM、RAM、不揮発メモリ、リムーバブルメディア内に記録される。また、プログラムの実行時には、プログラムの内容がRAM内のメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0019】
[2.制御構成]
エンジン制御装置1は、触媒6、7の酸素吸蔵能力Aに応じて、エンジン10の燃料カットを制御する機能を持つ。ここでは、燃料カットの開始条件が成立したときに、直ちにインジェクタ9からの燃料供給が遮断されるのではなく、酸素吸蔵能力Aに応じて設定されるディレイ時間Bが経過した後に燃料供給が遮断される。つまり、燃料カットの開始条件が成立した時点を基準として、ディレイ時間Bが経過する前にその開始条件が不成立となった場合には、その燃料カットは不実施とされる。これにより、ディレイ時間Bよりも短時間の瞬間的な燃料カットが抑制される。
【0020】
上記のような制御を実施するための要素として、エンジン制御装置1には燃料カット制御部2、算出部3、設定部4が設けられる。これらはエンジン制御装置1で実行されるプログラムの一部の機能を示すものであり、ソフトウェアで実現されるものとする。ただし、各機能の一部又は全部をハードウェア(電子制御回路)で実現してもよく、あるいはソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
【0021】
[2−1.燃料カット制御部]
燃料カット制御部2は、エンジン10の燃料カットを司るものであり、所定の燃料カット条件の成否に応じて燃料カットを実施するものである。ここでは、燃料カット条件が成立した場合に、所定のディレイ時間Bが経過した後にエンジン10への燃料供給を遮断する制御が実施される。燃料カット条件は、例えば以下の全ての条件1〜4が成立することである。これらの条件が成立したままディレイ時間Bが経過した場合に、燃料カットが開始される。また、燃料カットの実施中にいずれかの条件が不成立になると、燃料カットが終了する。なお、ディレイ時間Bの間にいずれかの条件が不成立になった場合には、燃料カットが不実施とされる。
【0022】
=燃料カット条件=
1.エンジン回転速度Nが第一速度N
1以上、第二速度N
2以下である(N
1≦N≦N
2)
2.スロットル開度が全閉状態(所定開度以下)である
3.車速Sが所定車速S
1以上、所定車速S
2以下である(S
1≦S≦S
2)
4.冷却水温Wが所定水温W
1以上である(W
1≦W)
【0023】
[2−2.算出部]
算出部3は、触媒6、7の酸素吸蔵能力Aを算出するものである。ここでいう酸素吸蔵能力Aとは、触媒6、7に吸蔵される酸素の重量を表す。酸素吸蔵能力Aは、触媒6、7が劣化するに連れて低下する特性を有する。例えば、触媒6、7が新品であるときの酸素吸蔵能力Aは最も高く、触媒6、7の使用時間が長くなるほど酸素吸蔵能力Aは低下する特性を持つ。
【0024】
本実施形態の算出部3は、空燃比を変化させたときに各酸素濃度センサ15〜17が出力するセンサ出力Vに基づいて、触媒6、7の酸素吸蔵能力Aを算出する。すなわち、上流センサ15の応答時刻を基準として、下流センサ17の応答時刻までの時間(出力反転時間)に応じた酸素吸蔵能力Aを算出する。ここで、上流センサ15の応答時刻から下流センサ17の応答時刻までの時間が短いほど、触媒6と触媒7の総合的な酸素吸蔵能力Aが低いものと判断され、低い値の酸素吸蔵能力Aが算出される。
【0025】
また、前段触媒6のみの酸素吸蔵能力A
Uに関して、上流センサ15の応答時刻を基準として、中間センサ16の応答時刻までの時間(第二出力反転時間)が短いほど低く算出される。一方、後段触媒7のみの酸素吸蔵能力A
Dは、総合的な酸素吸蔵能力Aから前段触媒6のみの酸素吸蔵能力A
Uを減じた値として算出される。触媒6、7各々の上下流に酸素濃度センサ15〜17を配置することで、触媒6、7各々の酸素吸蔵能力A
U、A
Dが精度よく算出される。
【0026】
ここで、
図2(A)〜(C)を用いて酸素吸蔵能力Aの算出手法を詳述する。
図2(A)に示すように、燃料カットの実施中には空燃比がリーンである。時刻t
0に燃料カットが終了してエンジン10の燃焼が再開すると、空燃比がストイキ近傍(例えば弱リッチ程度に相当するフィードバック目標空燃比)に制御される。空燃比の変動は、各酸素濃度センサ15〜17における酸素濃度の変化として検出される。上流センサ15は、他のセンサ16、17と比較してエンジン10に近い位置に設けられていることから、時刻t
0の直後である時刻t
1に所定値V
0を出力する。これに対し、中間センサ16は、前段触媒6から脱離した酸素の影響を受けて、時刻t
1よりもやや遅れた時刻t
2に所定値V
0を出力する。さらに、下流センサ17は、後段触媒7から脱離した酸素の影響も受けて、時刻t
2よりもさらに遅れた時刻t
3に所定値V
0を出力する。各センサ15〜17のセンサ出力Vの変化を
図2(B)に示す。
【0027】
一方、触媒6、7が経時劣化して酸素吸蔵能力Aが低下すると、各触媒6、7に吸蔵される酸素量が減少することから、各触媒6、7からの脱離酸素量も減少する。これにより、
図2(C)に示すように、中間センサ16の応答時刻t
4は、劣化前の時刻t
2よりも早い時刻となる。同様に、下流センサ17の応答時刻t
5も、劣化前の時刻t
3より早い時刻となる。したがって、時刻t
1を基準として、中間センサ16、下流センサ17のセンサ出力Vが変化するまでの時間が短いほど、酸素吸蔵能力Aが低いものと判断することができる。なお、時刻t
1が時刻t
0とほぼ同時刻であるとみなせる場合には、時刻t
0を基準とした出力反転時間に基づいて、酸素吸蔵能力Aの高低を判断してもよい。ここで算出された酸素吸蔵能力Aの情報は、設定部4に伝達される。
【0028】
上記の説明では、時刻t
0に空燃比をリーンからストイキ近傍まで変化させているが、センサ出力Vの変化は、空燃比をストイキ近傍からリーン側へと変化させた場合にも検出可能である。したがって、例えば燃料カットの開始直後におけるセンサ出力Vの変化を観察することで、酸素吸蔵能力Aを把握することも可能である。また、ストイキ近傍の空燃比における各センサ15〜17のセンサ出力Vは、温度に応じて変化しうる。そこで、
図2(B)、(C)中に示すように、所定値V
0よりも小さい閾値V
1を予め設定しておき、センサ出力Vが閾値V
1以上になった時刻を応答時刻とみなしてもよい。
【0029】
[2−3.設定部]
設定部4は、算出部3で算出された酸素吸蔵能力Aに応じて、ディレイ時間Bの長さを設定するものである。ここでは、ディレイ時間Bが、触媒6と触媒7が有する総合的な酸素吸蔵能力Aに応じて設定される。本実施形態では、触媒6と触媒7が有する総合的な酸素吸蔵能力Aが高いほどディレイ時間Bが長く、酸素吸蔵能力Aが低いほどディレイ時間Bが短く設定される。酸素吸蔵能力Aとディレイ時間Bとの対応関係を
図3に例示する。
【0030】
酸素吸蔵能力Aが高いほど、エンジン10が燃料カットから復帰したときに、触媒6、7から脱離する酸素量が増大し、排気浄化性能に与える悪影響が大きくなる。一方、酸素吸蔵能力Aが低ければ、燃料カットからの復帰直後に触媒6、7から脱離する酸素量が減少するため、排気浄化性能はそれほど低下しない。そこで、酸素吸蔵能力Aが高いほどディレイ時間Bを長く設定することで、脱離酸素による排気浄化性能の低下を効率的に抑制できる。
【0031】
なお、算出部3で算出された各々の触媒6、7の酸素吸蔵能力A
U、A
Dを用いてディレイ時間Bを設定してもよい。なお、後段触媒7の酸素吸蔵能力A
Dは、トータルの酸素吸蔵能力Aから前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uを減算して求めることができる。そして、この場合、前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uに対応する第一ディレイ時間B
Uを設定するとともに、後段触媒7の酸素吸蔵能力A
Dに対応する第二ディレイ時間B
Dを設定し、これらの加算値をディレイ時間Bとして算出することも可能である。各々の触媒6、7の酸素吸蔵能力A
U、A
Dを考慮することで、各触媒6、7の劣化度合いに応じたより適切なディレイ時間Bが与えられることになり、総合的な排気浄化性能の低下が抑制される。
【0032】
[3.フローチャート]
[3−1.燃料カット制御]
図4は、燃料カットの制御手順を例示するフローチャートである。このフローは、例えば車両のイグニッションキースイッチ(メインスイッチ)がオンの状態であるときに、所定周期で繰り返し実施される。このフロー中で使用される制御フラグFは、燃料カットの実施状態を表すものであり、燃料カットの実施中にF=1に設定される。また、フロー中の記号Cは、燃料カット条件が成立し続けている時間に相当するカウンタ値である。
【0033】
最初に、燃料カット条件の判定に用いられる各種情報が取得され(ステップA1)、制御フラグFがF=0であることを条件として(ステップA2)、燃料カットの開始条件が成立するか否かが判定される(ステップA3)。ここで、例えば上記の条件1〜4の全てが成立する場合には、カウンタ値Cに値C+1が代入されて、経過時間が計測される(ステップA4)。一方、条件1〜4のいずれかが成立しない場合には、カウンタ値CがC=0にリセットされ(ステップA8)、この演算周期での制御が終了する。
【0034】
燃料カットの開始条件が成立し続けた場合、その経過時間がディレイ時間B以上であるか否かが判定される(ステップA5)。この判定は、カウンタ値Cが、ディレイ時間Bに相当する所定値C
0以上であるか否かを判定することに代えることができる。この条件が成立すると、燃料カット制御部2にて燃料カットが開始され、エンジン10への燃料供給が遮断される(ステップA6)。また、制御フラグFがF=1に設定され(ステップA7)、その演算周期での制御が終了する。
【0035】
制御フラグFがF=1となる燃料カットの実施中には、燃料カットの終了条件が成立するか否かが判定される(ステップA9)。ここで、例えば上記の条件1〜4の全てが成立したままであれば、燃料カットが継続される(ステップA13)。一方、条件1〜4のいずれかが不成立になると、燃料カットが終了する(ステップA10)。また、制御フラグFがF=0に設定されるとともに(ステップA11)、ディレイ時間Bの設定フローが開始され(ステップA12)、その演算周期での制御が終了する。
【0036】
[3−2.ディレイ時間の設定]
図5は、ディレイ時間Bの設定手順を例示するフローチャートである。このフローは、燃料カットが終了した直後に開始され、燃料カットが再び開始されるまでの間に、
図4に示すフローと並行して実施される。フロー中の記号Tは、下流センサ17の出力反転時間に相当するカウンタ値である。
【0037】
まず、ディレイ時間Bの設定に用いられる各種情報が取得され(ステップB1)、制御フラグFがF=0であることを条件として(ステップB2)、車両の走行条件やエンジン10の運転条件が、触媒6、7の有する酸素吸蔵能力Aを精度よく計測できる条件となっているか否かが判定される(ステップB3)。例えば、車両の走行状態やエンジン10の運転状態が安定して連続しているか否かが判定される。また、酸素吸蔵能力Aの算出精度は触媒温度の影響を強く受けて変化するため、触媒温度が指定温度範囲内(例えば、400℃〜600℃)であるか否かが判定される。これらの条件が成立する場合には、酸素吸蔵能力Aを精度よく計測できる状態であると判断されて、ステップB4に進む。一方、本フローと並行して実施される
図4のフローで制御フラグFがF=1に設定された場合や、ステップB3の条件が不成立の場合には、本フローは終了する。
【0038】
ステップB4では、上流センサ15のセンサ出力Vが閾値V
1以上であるか否かが判定される。ここで、V<V
1である場合にはこの演算周期での制御が終了し、V≧V
1である場合にはステップB5に進む。ステップB5では、下流センサ17のセンサ出力Vが閾値V
1以上であるか否かが判定される。ここで、V<V
1である場合にはカウンタ値Tに値T+1が代入されて、経過時間が計測される(ステップB6)。一方、V≧V
1になると、その時点におけるカウンタ値Tに基づき、算出部3で触媒6、7の酸素吸蔵能力Aが算出される(ステップB7)。また、設定部4では、酸素吸蔵能力Aに基づいてディレイ時間Bが設定される(ステップB8)。ここで設定されたディレイ時間Bは、
図4中のステップA5での判定内容(例えば、所定値C
0の値)に反映される。
【0039】
[4.作用]
上記のエンジン制御装置1を搭載した車両の走行状態について、
図6(A)〜(E)を用いて説明する。時刻t
10にアクセルペダルが踏み戻され、スロットル開度が全閉になると〔
図6(B)〕、エンジン回転速度Nが徐々に低下するとともに〔
図6(D)〕、車速Sが減少する〔
図6(E)〕。その後、時刻t
11にエンジン回転速度Nが第二速度N
2以下になると、燃料カット条件が成立する。ここで仮に、燃料カットのディレイ時間Bが設定されなかった場合には、
図6(A)中に破線で示すように、排気通路13に外気が導入されて空燃比が増大し、触媒6、7の酸素吸蔵材に多量の酸素が吸蔵されることになる。したがって、
図6(C)に破線で示すように、燃料カットが終了した時刻t
13の直後から触媒6、7の排気浄化性能が低下し、NOx排出濃度が一時的に上昇してしまう。
【0040】
これに対し、本実施形態では燃料カットのディレイ時間Bが設定され、少なくとも時刻t
11からディレイ時間Bが経過した時刻t
12までの間は、燃料カットが開始されずに保留される。これにより、
図6(A)に示すように、ディレイ時間Bの分だけ燃料カットの実施期間が短縮されることになり、触媒6、7に吸蔵される酸素量が減少する。したがって、
図6(C)に実線で示すように、ディレイ時間Bが設定されなかった場合と比較して、触媒6、7の排気浄化性能が向上する。
【0041】
その後、時刻t
16に再び燃料カット条件が成立した場合も同様であり、ディレイ時間Bが経過するまでの間は、燃料カットが開始されずに保留される。また、ディレイ時間Bの間にアクセルペダルが踏み込まれてスロットル開度が大きくなると、燃料カット条件が不成立となり、燃料カットが開始されない。ここで仮に、燃料カットのディレイ時間Bが設定されなかった場合には、
図6(A)中に破線で示すように、数秒未満で完了するような瞬間的な燃料カットが発生することになる。これにより、
図6(C)中に破線で示すように、スロットル開度が増大し始める時刻t
17以降の排気浄化性能が低下し、NOx排出濃度が一時的に上昇してしまう。一方、本実施形態では、このような瞬間的な燃料カットが抑制、禁止される。したがって、車両の燃費悪化を抑制しつつ、時刻t
17以降の排気浄化性能を低下させることなく維持することができる。
【0042】
[5.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1(排気浄化制御装置)では、燃料カット条件が成立した場合に、エンジン10への燃料供給を停止させるためのディレイ時間Bが設定されるため、瞬間的な燃料カットの発生を防止することができる。また、触媒6、7に酸素が吸蔵される機会を減少させることができるとともに、燃料カットの実施時間を短縮することができる。これにより、触媒6、7に吸蔵される酸素量を減少させることができ、燃料カットからの復帰後における排気浄化性能の低下を抑制することができる。また、ディレイ時間Bが経過した後には燃料カットが実施されるため、無駄な燃料消費を抑制することができ、燃費を改善することができる。したがって、触媒6、7の排気浄化性能の低下を抑制しつつ燃費を改善することができる。
【0043】
また、上記のエンジン制御装置1では、触媒6と触媒7のトータルの酸素吸蔵能力Aに基づいて燃料カットのディレイ時間Bが設定される。これにより、燃料カットの終了後に触媒6、7から脱離しうる酸素量を考慮して、燃料カットを実施する時間の短縮量を決定することができる。したがって、燃料カットからの復帰後における排気浄化性能の低下を精度よく抑制することができる。
【0044】
(2)上記のエンジン制御装置1では、例えば
図3に示すように、酸素吸蔵能力Aが高いほどディレイ時間Bが延長され、酸素吸蔵能力Aが低いほどディレイ時間Bが短縮される。この設定は、酸素吸蔵能力Aが高いほど、燃料カットから復帰したときに触媒6、7から脱離する酸素量が増大し、排気浄化性能に与える悪影響が大きくなることに由来する。つまり、酸素吸蔵能力Aが高いほどディレイ時間Bを延長することで、燃料カットを開始されにくくすることができ、かつ、燃料カットの実施時間を短縮することができる。したがって、燃料カットからの復帰後に触媒6、7から脱離する酸素量を減少させることができ、排気浄化性能を向上させることができる。
【0045】
(3)上記のエンジン制御装置1では、触媒6、7の上流側に配置された上流センサ15と下流側に配置された下流センサ17とを用いて、空燃比の変化に対する応答時刻差に基づいて酸素吸蔵能力Aを算出している。ここでいう応答時刻差とは、
図2(B)中の時刻t
1から時刻t
3までの時間(出力反転時間)に相当する。この応答時刻差が短いほど酸素吸蔵能力Aが低いものと判断することで、触媒6と触媒7のトータルの酸素吸蔵能力Aを精度よく把握することができ、適切にディレイ時間Bを設定することができる。したがって、排気浄化性能を向上させることができる。
【0046】
(4)本実施形態の前段触媒6は、後段触媒7よりも触媒貴金属の担持量が多いため、トータルの排気浄化性能に与える影響についても、後段触媒7よりも前段触媒6の方が大きい。これを踏まえて、触媒6と触媒7のトータルの酸素吸蔵能力Aを参照する代わりに、前段触媒6のみの酸素吸蔵能力A
Uを参照したい場合も考えられる。このような要望に対し、上記のエンジン制御装置1では、触媒6、7の間に配置された中間センサ16を用いて、前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uを算出することが可能である。すなわち、
図2(B)中の時刻t
1から時刻t
2までの時間(第二出力反転時間)を参照し、この時間が短いほど前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uが低いものと判断して、前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uを算出すればよい。また、後段触媒7の酸素吸蔵能力A
Dは、トータルの酸素吸蔵能力Aから前段触媒6の酸素吸蔵能力A
Uを減算して求めればよい。このように、個々の酸素吸蔵能力A
U、A
Dを用いることで、燃料カットのディレイ時間Bを適正化することができ、排気浄化性能を向上させることができる。
【0047】
[6.変形例]
上述の実施形態では、排気通路13に二つの触媒6、7が介装された排気系を例示したが、具体的な触媒6、7の個数やレイアウトはこれに限定されない。また、触媒6、7の種類に関しても同様であり、三元触媒だけでなく、三元機能を有するNOx吸蔵還元触媒やNOx選択還元触媒などの触媒を対象とすることができる。なお、触媒6、7に含有される酸素吸蔵材の種類についても同様である。
【0048】
上述の実施形態では、触媒6、7の酸素吸蔵能力Aに基づいてディレイ時間Bを算出する算出部3を例示したが、他のパラメータを考慮してディレイ時間Bを算出することも考えられる。酸素吸蔵材への酸素の吸着しやすさは、触媒温度や排気温度、雰囲気温度(外気温)に依存して変化しうる。そこで、これらの各種温度を考慮してディレイ時間Bを補正してもよい。
【0049】
また、酸素吸蔵能力Aとディレイ時間Bとの関係は、
図3に示すような関係に限定されない。例えば、酸素吸蔵能力Aが低いほど触媒6、7の排気浄化性能が低下しているものと推定されることから、できるだけ燃料カットの実施時間を短縮することで、燃料カットからの復帰後における脱離酸素量を減少させたいことも考えられる。この場合、酸素吸蔵能力Aが低いほどディレイ時間Bを長く設定することで、脱離酸素による排気浄化性能の低下を抑制することができる。
【0050】
上述の実施形態では4つの燃料カット条件を例示したが、具体的な燃料カット条件は任意に設定可能であり、各条件の組み合わせについても任意に設定可能である。また、車両走行中の燃料カットだけでなく、車両停止中の燃料カット(アイドリングストップ制御)に対して、上記の制御を適用することも可能である。少なくとも、瞬間的な燃料カットの発生を抑制することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0051】
また、上述の実施形態では、空燃比をリーンから弱リッチへと変化させたとき(燃料カットから復帰したとき)の出力反転時間に基づいて酸素吸蔵能力Aを算出しているが、酸素吸蔵能力Aの算出手法はこれに限定されない。例えば、空燃比をストイキ近傍で振動させたときに、触媒6、7の下流側にて検出される酸素濃度の振動周期(周波数)に基づき、酸素吸蔵能力Aを算出してもよい。この振動周期は、触媒6、7の酸素吸蔵能力Aが低下するに連れて短くなる。また、触媒6、7の下流側における振動周波数は、酸素吸蔵能力Aが低下するに連れて、上流側における振動周波数に近づくように変化する。したがって、酸素濃度の振動周期(周波数)や上下流における振動周波数比などを酸素吸蔵能力Aの指標として用いることができる。