(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態の概要>
本明細書に記載された技術に係る鉛蓄電池は、セパレータを介して極板を積層することで構成された極板群と、前記極板群が収容される収容空間を有する電槽と、を備え、前記極板は、集電体に電極材料を充填するものであり、前記極板群の外周には、前記極板を構成する前記集電体の少なくとも一部が露出しており、前記露出した前記集電体と前記収容空間を構成する側壁部とが当接していることに特徴を有する。
【0011】
本明細書に記載された技術によれば、極板を構成する集電体の少なくとも一部が露出しており、露出した集電体と収容空間を構成する側壁部とが当接している。これにより、極板の全面に電極材料が露出する構成と比べ、極板群を収容空間に挿入する際に電極材料が側壁部に当接する事態を抑制することができるから、電極材料の脱落を抑制することができる。
【0012】
また、前記露出した前記集電体と、前記側壁部とは、互いに押圧された状態で当接しているものとすることができる。このような構成では、極板群を収容空間に挿入する際に、極板群と側壁部との間で摩擦が生じ易くなり、電極材料の脱落が起こり易い。本明細書に記載された技術によれば、電極材料が側壁部に当接する事態を抑制することができるから、電極材料の脱落をより効果的に抑制することができる。
【0013】
また、前記電槽は、開口を有しており、前記極板における前記集電体は、前記開口の方向に沿って、断続的または連続的に露出しているものとすることができる。このような構成とすれば、開口を通じて極板群を収容空間に差し入れる際に、集電体の露出部分と側壁部とが当接し易くなり、摩擦を低減することができる。
【0014】
また、前記極板における前記集電体が露出している面は、前記側壁部側の面のみであるものとすることができる。このような構成とすれば、集電体が極板の両面に露出する構成と比べて、側壁部側への集電体の露出面積を大きくすることができ、電極材料が側壁部に当接する事態をより効果的に抑制できる。
【0015】
前記極板群の外周には、前記極板を構成する前記集電体の一部のみが露出しているものとすることができる。仮に、集電体の全部が側壁部側に露出する構成の場合、極板における側壁部とは反対側に、電極材料が偏り易くなる。集電体の一部のみが露出する構成とすれば、このような事態を抑制することができ、極板が変形する事態をより確実に抑制できる。
【0016】
また、前記極板における前記集電体の少なくとも前記一部は、前記側壁部に向かって湾曲された部分であるものとすることができる。集電体を湾曲させる構成とすれば、例えば、直角に曲げる構成と比べて、集電体の剛性を高くすることができ、極板の変形を抑制することができる。
【0017】
また、前記集電体は、前記集電体を構成する桟同士が交差する交点を有しており、前記極板における前記集電体が露出している箇所は,前記交点を含まないものとすることができる。集電体において、比較的強度の高い交点を変形させる必要がないから、集電体全体の強度を維持することができ、極板の変形を抑制することができる。
【0018】
また、本明細書に記載された技術に係る鉛蓄電池は、制御弁式鉛蓄電池とすることができる。
【0019】
<実施形態1>
以下、実施形態1について
図1から
図6を参照しつつ説明する。本実施形態の鉛蓄電池10は、例えば、二輪自動車等に搭載される制御弁式鉛蓄電池(密閉式鉛蓄電池)である。
図1及び
図3に示すように、鉛蓄電池10は、電槽20と、極板群30と、蓋部材60と、を備える。なお、以下の説明において、電槽20の横幅方向をX軸方向とし、電槽20の奥行方向をY軸方向、高さ方向をZ軸方向とする。
【0020】
電槽20は、
図2に示すように、上方に開口された箱型をなしており、例えば合成樹脂製とされる。電槽20は、X軸方向に配列された一対の側壁部22,22と、Y軸方向に配列された一対の側壁部24,24を備えている。電槽20の内部は、X軸方向(極板群の厚さ方向)に並ぶ5枚の隔壁21(収容空間を構成する側壁部)により、6つのセル室25(収容空間)に仕切られている。
【0021】
6つのセル室25のうち、X軸方向における両端のセル室25は、電槽20の側壁部22(収容空間を構成する側壁部)と隔壁21に挟まれた空間であり、それ以外のセル室25は、対向配置される一対の隔壁21,21の間に挟まれた空間とされる。各セル室25は、上方に開口された開口25Aをそれぞれ有している。各セル室25には、
図3に示すように、各開口25Aを通じて挿入された極板群30がそれぞれ収容されている。
【0022】
蓋部材60は、例えば、合成樹脂製であって、6つの開口25Aを上方から一括して塞ぐ構成とされる。蓋部材60のX軸方向両側には端子挿通孔63A、63Bがそれぞれ開口されている。端子挿通孔63Aには正極端子65Aが貫通され、端子挿通孔63Bには負極端子65Bが貫通されている。
【0023】
極板群30は、
図3に示すように、正極板31と、負極板32と、セパレータ33と、を備えている。正極板31及び負極板32は、電槽20の横幅方向(X軸方向)に沿って交互に配列されており、セパレータ33を介して積層されている。セパレータ33は、例えば、ガラス繊維によって構成されたマットセパレータとされる。セパレータ33は、隣り合う正極板31及び負極板32を仕切る機能、及び電解液を保持する機能を担っている。正極板31及び負極板32は、それぞれ集電体に電極材料が充填されることで構成されている。なお、集電体としては、エキスパンド格子、鋳造格子、打ち抜き格子などの格子体を用いることが好ましい。
【0024】
各正極板31は、正極用のストラップ40によって連結されており、各負極板32は、負極用のストラップ(図示せず)によって連結されている。なお、各極板は、耳部34(
図5参照)を介してストラップと連結されている。また、隣接する2つのセル室25において正極用のストラップと、負極用のストラップ同士は電気的に接続されている。これにより、各セル室25の各極板群30が直列接続される構成となっている。
【0025】
本実施形態の極板群30においては、
図3に示すように、負極板32が極板群30の外面を構成するものとされる。つまり、セル室25を構成する側壁部(隔壁21又は側壁部22)の表面に対して負極板32の表面が対向配置されている。以下の説明では、セル室25として、一対の隔壁21,21に挟まれたものを例示し、極板群30を構成する複数の極板のうち、隔壁21(収容空間を構成する側壁部)に最も近い側に配される負極板32(以下の説明では符号32Aを付す)の構成について説明する。
【0026】
本実施形態では、
図4に示すように、自然状態(セル室25に収容されていない状態)の極板群30の厚さX3(群長)が、X軸方向におけるセル室25の寸法X2(対向する一対の隔壁21,21間の距離)よりもわずかに大きい値(又はX2と等しい値)で設定されている。また、極板群30におけるセパレータ33は、上述したようにガラス繊維によって構成され、その厚さ方向において弾性的に圧縮可能な構成とされる。このため、極板群30は、セパレータ33が圧縮変形することで、厚さ方向の圧縮変形が可能な構成となっている。
【0027】
鉛蓄電池10を製造する際には、自然状態(セル室25に挿入する前の状態)の極板群30を、押圧装置(図示せず)によって厚さ方向に圧縮することで、その厚さを小さくし、セル室25に挿入する。そして、セル室25内に収容された極板群30は、その厚さ方向(X軸方向、
図3の左右方向)において、隣り合う一対の隔壁21,21に圧迫された状態で配される。このため、隔壁21は負極板32Aによって押圧された状態となっている。なお、この時の押圧力は、例えば、約20kgfとされるが、この値に限定されるものではない。
【0028】
また、セル室25に収容された極板群30をセル室25から引き抜くと、極板群30は、圧縮されていたセパレータ33が弾性復帰することで、自然状態に復帰するものとされる。なお、極板群30をセル室25から引き抜く際には、負極板32Aによってセル室25の隔壁21が押圧されていることに起因して、ある程度の引き抜き力が必要となる。なお、リテーナ式の密閉式鉛蓄電池においては、極板群30を圧迫することで、電解液を保持したセパレータ33と極板とを確実に接触させることができる。
【0029】
次に、負極板32Aの構成について
図5及び
図6によって説明する。負極板32Aは、隔壁21と対向配置されており、
図5及び
図6に示すように、集電体41に電極材料45が充填されることで構成されている。集電体41は、例えば、鉛合金によって構成されている。負極板32Aの電極材料45としては、例えば、鉛粉、水、希硫酸などを主体としたペーストが用いられる。
【0030】
集電体41は、複数の縦桟42及び複数の横桟43を備えている。縦桟42(縦骨、集電体を構成する桟)は、セル室25に対する極板群30の挿入方向に沿って長い形状をなしており、横桟43(横骨、集電体を構成する桟)は、縦桟42に対して直交する方向に長い形状をなしている。縦桟42は、
図6に示すように、複数の湾曲部46によって構成されている。
【0031】
縦桟42と横桟43の交点を交点P1(桟同士が交差する交点)とした場合において、湾曲部46は、縦桟42において、隣り合う2つの交点P1,P1の間の部分を隔壁21側に向かって湾曲させることで構成されている。湾曲部46における隔壁21側の端部46A(露出した集電体の一部)は、隔壁21側に露出されており、隔壁21に当接する構成となっている。つまり、負極板32Aにおいては、集電体41の一部(端部46A)のみが、極板群30の外周に露出する構成となっており、その露出部分は、交点P1を含まない部分とされる。
【0032】
また、本実施形態では、上述したように、極板群30が圧迫された状態で配されており、湾曲部46の端部46Aと、隔壁21とは、互いに押圧された状態で当接している。また、負極板32Aにおける厚さ方向の両面はそれぞれ平面状をなしている。
【0033】
なお、負極板32Aにおける隔壁21側の表面においては、電極材料45と端部46Aとが面一となるように配されている。負極板32Aにおいて端部46A以外の箇所では、縦桟42及び横桟43が電極材料45のペースト中に埋設されている。一方、負極板32Aにおけるセパレータ33側の表面は、その全面が電極材料45によって構成されている。つまり、本実施形態では、集電体41が隔壁21側のみに露出されている。
【0034】
本実施形態では、
図6に示すように、複数の湾曲部46(ひいては端部46A)が開口25Aの開口方向(セル室25に対する極板群30の挿入方向に対応、
図6の上下方向)に沿って配列されている。つまり、負極板32Aにおいては、集電体41が開口25Aの開口方向に沿って断続的に露出されている。
【0035】
なお、本実施形態の集電体41は、例えば、打ち抜き加工によって集電体41の湾曲部46以外の形状を成形した後、専用の型を用いて湾曲部46を成形することで製造することができる。具体的には、専用の型によって、交点P1を固定しつつ縦桟42を隔壁21側に押圧し、湾曲させることで湾曲部46を形成することができる。なお、この時の縦桟42の曲げ量M1は、負極板32Aの厚さをT1、縦桟42の厚さをT2、交点P1を基準とした電極材料45の厚さをT3とした場合において、M1=T1−T2−T3となるように設定することができる。
【0036】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態の鉛蓄電池10は、セパレータ33を介して極板を積層することで構成された極板群30と、極板群30が収容されるセル室25を有する電槽20と、を備え、負極板32Aは、集電体41に電極材料45を充填するものであり、極板群30の外周には、負極板32Aを構成する集電体41の端部46Aが露出しており、露出した集電体41の端部46Aとセル室25を構成する隔壁21とが当接していることに特徴を有する。
【0037】
本実施形態によれば、負極板32Aを構成する集電体41の端部46Aが露出しており、露出した集電体41の端部46Aとセル室25を構成する側壁部(例えば、隔壁21)とが当接している。これにより、負極板32Aの全面に電極材料45が露出する構成と比べ、極板群30をセル室25に挿入する際に電極材料45が隔壁21に当接する事態を抑制することができるから、電極材料45の脱落を抑制することができる。
【0038】
また、露出した集電体41の端部46Aと、隔壁21とは、互いに押圧された状態で当接している。このような構成では、極板群30をセル室25に挿入する際に、極板群30と隔壁21との間で摩擦が生じ易くなり、電極材料45の脱落が起こり易い。本実施形態によれば、電極材料45が隔壁21に当接する事態を抑制することができるから、電極材料45の脱落をより効果的に抑制することができる。
【0039】
また、電槽20は、開口25Aを有しており、負極板32Aにおける集電体41は、開口25Aの開口方向に沿って、断続的に露出している。このような構成とすれば、開口25Aを通じて極板群30をセル室25に差し入れる際に、集電体41の露出部分と隔壁21とが当接し易くなり、摩擦を低減することができる。
【0040】
また、負極板32Aにおける集電体41が露出している面は隔壁21側の面のみとされる。このような構成とすれば、集電体41が負極板32Aの両面に露出する構成と比べて、隔壁21側への集電体41の露出面積を大きくすることができ、電極材料45が隔壁21に当接する事態をより効果的に抑制できる。
【0041】
また、極板群30の外周には、集電体41の一部のみが露出している。仮に、集電体41の全部が隔壁21側に露出する構成の場合、電極材料45が負極板32Aにおいて隔壁21と反対側(セパレータ33側)に偏り易くなる。集電体41の一部のみが露出する構成とすれば、このような事態を抑制することができ、負極板32Aが変形する事態をより確実に抑制できる。なお、極板において電極材料45が一方に偏ると、極板の製造時において、電極材料45を乾燥させた際などに、極板が反ることが懸念されるが、本実施形態では、このような事態を抑制することができる。
【0042】
また、負極板32Aにおける集電体41の一部は、隔壁21に向かって湾曲された湾曲部46とされる。集電体41を湾曲させる構成とすれば、例えば、直角に曲げる構成と比べて、集電体41の剛性を高くすることができ、負極板32Aの変形を抑制することができる。
【0043】
また、集電体41は、集電体41を構成する桟同士が交差する交点P1を有しており、負極板32Aにおける集電体41が露出している箇所は,交点P1を含まないものとされる。集電体41において、比較的強度の高い交点P1を変形させる必要がないから、集電体41全体の強度を維持することができ、負極板32Aの変形を抑制することができる。
【0044】
<実施形態2>
次に、実施形態2を
図7によって説明する。本実施形態においては、隔壁21と対向する負極板の構成が上記実施形態と相違する。なお、上記実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複する説明を省略する。実施形態2の負極板132Aにおいては、集電体141の縦桟142が湾曲部46、及び湾曲部146を有している。湾曲部146は、セパレータ33側(湾曲部46の湾曲方向と反対側)に湾曲する形状をなしている。本実施形態では、湾曲部46及び湾曲部146がZ軸方向(極板群の挿入方向)に沿って交互に配列されている。湾曲部146は、その端部において、セパレータ33側に露出されている。つまり、上記実施形態1では、集電体41が隔壁21側のみに露出されているのに対し、本実施形態では、隔壁21側とセパレータ33側の双方に露出されている。
【0045】
このような構成とすれば、集電体141を基準とした電極材料45の量を負極板132Aの板厚方向の両側について、それぞれ均等にすることができる。これにより、負極板132Aの製造時において、電極材料45を乾燥させた際に、負極板132Aが反る事態を抑制することができる。
【0046】
<他の実施形態>
本明細書に記載された技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような態様も含まれる。
(1)上記実施形態においては、湾曲部46(又は湾曲部146)を有する負極板として、隔壁21と対向する負極板を例示したが、これに限定されない。側壁部22と対向する負極板32に湾曲部46や湾曲部146を設けてもよい。また、正極板31が隔壁21と対向配置される構成としてもよく。この場合には、正極板31を構成する集電体に湾曲部46や湾曲部146を設けてもよい。
(2)上記実施形態では、鉛蓄電池として、制御弁式鉛蓄電池を例示したが、これに限定されない。鉛蓄電池は、極板群が、その厚さ方向において圧迫された状態で収容空間に配されている構成のものであればよい。
(3)上記実施形態において、隔壁21と負極板32Aの間にスペーサが介在されている構成としてもよい。この構成の場合には、スペーサが本発明の「側壁部」の一例となる。
(4)上記実施形態では、集電体41を構成する縦桟42の一部が隔壁21側に露出される構成としたが、これに限定されない。例えば、横桟43の一部が隔壁21側に露出される構成としてもよい。
(5)上記実施形態では、横桟43が縦桟42に対して直交する方向(Y軸方向)に延びる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、横桟43がY軸方向に対して傾斜する方向に延びていてもよい。
(6)上記実施形態では、露出した集電体が当接する隔壁21の表面が平面であるものを例示したが、これに限定されない。例えば、隔壁21の表面が、突起やリブを有する凹凸形状であってもよく、このような突起やリブに対して、集電体41の露出部分が当接する構成であってもよい。
(7)上記実施形態においては、集電体41の縦桟42が断続的に露出する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、縦桟42が、長手方向の全長に亘って、極板群30の外周に露出していてもよい。言い換えると、集電体41が開口25Aの開口方向に沿って連続的に露出されていてもよい。