(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597276
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20191021BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20191021BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20191021BHJP
F16C 37/00 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C33/64
F16C19/06
F16C37/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-247192(P2015-247192)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-110776(P2017-110776A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】伏見 元紀
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第5749660(US,A)
【文献】
特開昭63−231021(JP,A)
【文献】
特開2000−126985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16C 35/00−39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、を備え、
径方向に貫通する複数の軸油穴と、外周面に沿って形成され前記複数の軸油穴に連通する軸油溝と、を有し、一方向に回転する軸部材に前記内輪が外嵌される転がり軸受であって、
前記内輪に、前記軸部材の前記軸油溝に連通する複数の内輪油穴が前記内輪の内周面から外周面に向けて形成され、
前記内輪油穴は、径方向外側に向かうに従って前記軸部材の回転方向に向かって傾斜して形成される転がり軸受。
【請求項2】
前記内輪油穴は、前記内輪の内周面から前記内輪軌道面に向けて形成される請求項1に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、より詳細には、例えば、ジェットエンジン、ガスタービン、及びターボ冷凍機などの高速回転下で使用されるアンダーレース潤滑方式の転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転で使用される転がり軸受として、内輪の内周面から内輪軌道面に向けて給油用の油穴を設けて、軸受内部に潤滑油を確実に供給するアンダーレース潤滑方式の転がり軸受が知られており(例えば、特許文献1参照)、その油穴は、穴や切欠きにより構成されている。
【0003】
また、油穴は、軸受を冷却する目的があり、内輪内部を通過する油穴の距離を延長するために、油穴を径方向に対して軸方向に傾斜して形成することも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−009515号公報
【特許文献2】特開2010−156367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1、2に記載の転がり軸受では、冷却効果が不十分であるため、冷却効果の更なる向上が求められていた。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内輪油穴を介して供給される潤滑油による冷却効果を向上することができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、を備え、径方向に貫通する複数の軸油穴と、外周面に沿って形成され複数の軸油穴に連通する軸油溝と、を有し、一方向に回転する軸部材に内輪が外嵌される転がり軸受であって、内輪に、軸部材の軸油溝に連通する複数の内輪油穴が内輪の内周面から外周面に向けて形成され、内輪油穴は、径方向外側に向かうに従って軸部材の回転方向に向かって傾斜して形成される転がり軸受。
(2)内輪油穴は、内輪の内周面から内輪軌道面に向けて形成される(1)に記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内輪に、軸部材の軸油溝に連通する複数の内輪油穴が内輪の内周面から外周面に向けて形成され、内輪油穴が、径方向外側に向かうに従って軸部材の回転方向に向かって傾斜して形成されるため、内輪油穴を介して供給される潤滑油による冷却効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態を説明する断面図である。
【
図3】回転数と外輪温度の関係を示すグラフである。
【
図4】軸部材をA方向に回転させた場合の潤滑油の流速を示す解析図である。
【
図5】軸部材をB方向に回転させた場合の潤滑油の流速を示す解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る転がり軸受の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の玉軸受(転がり軸受)10は、3点接触玉軸受であり、
図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に設けられる複数の玉(転動体)13と、を備え、一方向(矢印B方向)に回転する軸部材20に内輪12が外嵌されている。なお、玉軸受10は、保持器を備えていてもよい。
【0012】
軸部材20は、
図1及び
図2に示すように、円筒状の部材であり、径方向に貫通し、内部の油路21に連通する複数(本実施形態では6本)の軸油穴22と、外周面に沿って形成され複数の軸油穴22に連通する軸油溝23と、を有する。また、6個の軸油穴22は、周方向に略等間隔に形成されている。
【0013】
また、
図1及び
図2に示すように、内輪12には、軸部材20の軸油溝23に連通する複数(本実施形態では8本)の内輪油穴12bが、内輪12の内周面から外周面の内輪軌道面12aに向けて形成されている。そして、内輪油穴12bは、径方向外側に向かうに従って軸部材20の回転方向(矢印B方向)に向かって傾斜して形成されている。また、8個の内輪油穴12bは、周方向に略等間隔に形成されている。
【0014】
このように構成された玉軸受10では、軸部材20の油路21に潤滑油が供給されることにより、軸部材20の軸油穴22、軸油溝23、及び内輪12の内輪油穴12bを介して、軸受内部に潤滑油が供給される。
【0015】
以上説明したように、本実施形態の玉軸受10によれば、内輪12に、軸部材20の軸油溝23に連通する複数の内輪油穴12bが、内輪12の内周面から外周面の内輪軌道面12aに向けて形成され、この内輪油穴12bが、径方向外側に向かうに従って軸部材20の回転方向(矢印B方向)に向かって傾斜して形成されるため、内輪油穴12bを介して供給される潤滑油による冷却効果を向上することができる。
【0016】
また、本実施形態の玉軸受10によれば、内輪油穴12bが、径方向外側に向かうに従って軸部材20の回転方向(矢印B方向)に向かって傾斜して形成されるため、軸油溝23内に潤滑油が滞留した後、滞留した潤滑油が内輪油穴12bから吐出される。これにより、全ての内輪油穴12bにおいて潤滑油の流速が均一化されるので、軸油穴22と内輪油穴12bの周方向の位置合わせが不要になる。
【0017】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、本発明を玉軸受に適用する場合を例示したが、これに限定されず、円筒ころ軸受や円すいころ軸受などの他のタイプの転がり軸受に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0018】
本発明の作用効果を確認するため、
図2に示す玉軸受を作成して、それを矢印A方向(比較例)及び矢印B方向(実施例)に回転させる評価試験を行った。試験結果を下記表1及び
図3に示し、解析結果を
図4及び
図5に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1及び
図3から明らかなように、全ての回転数において、実施例の方が比較例よりも外輪温度が低いことから、実施例の方が冷却効果が高いことがわかった。
【0021】
この軸受の冷却効果の相違は、内輪から熱を奪う時間の長さに依存している。つまり、内輪油穴内を潤滑油の流速が遅いほど冷却効果が高くなる。そして、比較例では、
図4から明らかなように、各内輪油穴で潤滑油の流速に相互差があり、流速の速い油穴(矢印A1参照)が存在しているので、十分な冷却効果が得られないことがわかった。これに対して、実施例では、
図5から明らかなように、比較例と比べて潤滑油の流速が遅く、流速も均一化されているので(矢印B1参照)、十分な冷却効果が得られることがわかった。
【0022】
そして、上記した潤滑油の流速の相違は、軸部材の軸油溝内を流れる潤滑油の運動方向に依存している。具体的には、軸油溝内の潤滑油の移動方向に対して内輪油穴の傾斜方向が近い場合(比較例に近い構造の場合)、潤滑油の移動方向は大きく変化せず、潤滑油が内輪油穴に抵抗なく移動する。
【0023】
従って、比較例の場合、潤滑油が内輪油穴に抵抗なく移動する(
図4の矢印Am参照)ため、その潤滑油の吐出度合いは、軸部材の軸油穴と内輪の内輪油穴の遠近のみ依存し、軸油穴に近い内輪油穴から潤滑油が積極的に吐出されるため、各内輪油穴で潤滑油の流速に相互差が生じる。
【0024】
これに対して、実施例の場合、軸油溝内の潤滑油の移動方向(
図5の矢印Bm参照)に対して内輪油穴の傾斜方向が遠く、潤滑油の移動方向が大きく変化するため、軸油溝内に潤滑油が滞留しようとする。これにより、滞留後に内輪油穴から潤滑油が吐出されるため、比較例と比べて潤滑油の流速が遅く、全ての内輪油穴において流速も均一化されているので、十分な冷却効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 玉軸受(転がり軸受)
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
12b 内輪油穴
13 玉(転動体)
20 軸部材
21 油路
22 軸油穴
23 軸油溝