(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性モノマー(a)と非水溶性モノマー(b)との共重合物であるアクリル系ポリマー微粒子(A)、黒色系無彩物(B)、および、媒体(C)を含み、構造色として明確な有彩色を呈することを特徴とする有彩色部材であって、
水溶性モノマー(a)の50重量%以上がカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーであり、
アクリル系ポリマー微粒子(A)が、全モノマー組成中に、屈折率が1.50以上のモノマーを10.0重量%以上含有し、平均粒子径が100nm〜600nmであり、かつ、粒子径の変動係数Cv値が30%以下であり、
黒色系無彩物(B)が、アクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上含有されている有彩色部材。
【背景技術】
【0002】
構造色とは、光の波長あるいはそれ以下の微細構造による発色現象を指し、身近な例にはコンパクトディスクやシャボン玉、オパール、真珠、モルフォ蝶、玉虫などから観察される。
【0003】
近年、構造色を発するような規則正しい周期的な構造を人工的に作成する開発が進められている。例えば、球状微細粒子が媒体(C)中に分散してなる分散液を噴射・塗布し、基板上で乾燥・固定することで、球状微細粒子を垂直・平面方向に規則的に配列させる粒子積層体の製造方法が提案されている。
【0004】
「特許文献1」には、単分散酸化チタン粒子を基板上に堆積させることで、チタン粒子の粒子径に応じて外観色調が赤色系から青色系と変化する粒子積層体を得ることができると示されている。しかし、このような色材では、レイリー散乱やミー散乱などの光の散乱により、その発色は淡い乳白色として観察されてしまい、発色性が十分でないいう課題がある。
【0005】
「非特許文献1」では、カーボンブラックを添加することで、レイリー散乱やミー散乱のような散乱光を吸収し、彩度の向上が可能であることが示されている。しかしながら、ここで使用されているシリカ粒子など粒子間の相互作用の弱い球状粒子では、添加剤を加えることで粒子の規則構造が崩れ、充分な発色を得ることができないという課題がある。
【0006】
「特許文献2」、「非特許文献2」では、散乱光の吸収剤を加えず単分散な黒色粒子のみを用いることで、粒子積層体に由来する構造色と、余分な散乱光の吸収を同時に達成できることが示されている。この方法では、粒子の規則性が崩れにくいため、発色性は上記「非特許文献1」よりも改善されるが、やはり発色性が不十分であるといえる。そのため、分散液の粒子濃度を充分に増やすことや、粒子積層体を厚膜にする必要が生じ、制御技術や量産化、コスト面において課題がある。
【0007】
以上のように単分散微粒子を規則的に配列させることで、その微粒子配列による光の干渉が起き、積層構造体に係わる特有の干渉色調(反射光色)を呈する有彩色部材は多く報告されている。また、粒子サイズの揃った無機微粒子分散体に、散乱光吸収剤を添加することや、黒色の樹脂微粒子を使用することで、発色性の改善が検討されてきた。しかしながら、高い着色力を有する有彩色色材を作成することは非常に困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の有彩色部材の特徴について更に説明する。
【0020】
<有彩色部材>
本発明の有彩色部材は、50重量%以上がカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーである水溶性モノマー(a)と非水溶性モノマー(b)の共重合物からなり、平均粒子径が100nm〜600nmの範囲にあり、粒子径の変動係数Cv値が30%以下であるアクリル系ポリマー微粒子(A)及び、アクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上の黒色系無彩物(B)及び、媒体(C)を含み、構造色として明確な有彩色を呈することを特徴とする。粒子間の相互作用が強いアクリル系ポリマー微粒子(A)を用いることで、微粒子の取る構造の規則性を高め、発色性の優れた有彩色材料を得ることができる。また、黒色系無彩物(B)を加えることで、構造色とは無関係の散乱光を効率的に吸収し優れた発色性を得ることができる。
【0021】
本発明において有彩色部材は、例えばアクリル系ポリマー微粒子(A)と黒色系無彩物(B)を媒体(C)中で分散させた分散体であってもよい。これを微細なカプセルや光学セルに封入することにより、表示材などに用いることができる。また、この有彩色部材は粒子が互いに接触し固定された粒子積層体状態であってもよい。これを有彩色を有する塗膜そのものとして使用することや、粉砕し顔料のようにスラリー化して用いることもできる。
【0022】
<アクリル系ポリマー微粒子(A)>
本発明のアクリル系ポリマー微粒子(A)は、これの体積基準で表される平均粒子径(d)が100〜600nmの範囲にあることを特徴とする。有彩光色をより鮮明に発色させる観点から、この平均粒子径は150〜350nmの範囲にあることが好ましい。このアクリル系ポリマー微粒子(A)の平均粒子径は有彩色材料で観察される発色と相関を有している。
【0023】
上記のような微粒子の取る構造の規則性により有彩色は得られることから、微粒子の粒子径はなるべく均一であることが望ましい。本発明において、微粒子の粒子径のばらつきの指標である変動係数Cv値が30%以下であり、20%以下であることが好ましい。変動係数Cv値が30%より大きい場合、微粒子の取る構造の規則性を十分に得ることができず、有彩色を得ることができない可能性がある。
【0024】
なお、本発明における平均粒子径とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたときの、累積カーブが50%となる累積中位径のことを指し、動的光散乱法により測定できる。
【0025】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。アクリル系ポリマー微粒子(A)は、重量が500〜2000倍となるように水に分散しておく。該分散液約5mlを測定装置[(株)日機装製マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)およびポリマーの屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた累積中位径の値を平均粒子径とする。
【0026】
また、本発明においては、粒子径の均斉度を表す変動係数Cv値は下記式で定義される値のことを指し、平均粒子径と同様、動的光散乱法によって測定できる。
[Cv値]=([粒子径の標準偏差]/[平均粒子径])
この粒子径の標準偏差は、上記の平均粒子径の測定時に得られた微粒子の粒子径に対する分布から算出することができる。
【0027】
本発明においてアクリル系ポリマー微粒子(A)とは、分子内に(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーをモノマー成分として有するポリマー微粒子を指す。(メタ)アクリル酸系モノマーをモノマー成分として有することにより、太陽光等の自然光又は白色光の照射下において、光劣化変色を起こしにくい、耐候性に優れた有彩色部材を得ることができる。本発明において(メタ)アクリル酸系モノマーはモノマー成分として、10重量%以上有することが好ましい。
【0028】
本発明において、アクリル系ポリマー微粒子(A)は50重量%以上がカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーである水溶性モノマー(a)と非水溶性モノマー(b)の共重合物からなること特徴とする。本発明のアクリル系ポリマー微粒子(A)は水溶性モノマー(a)に対して50重量%以上のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーが組み込まれていることで、微粒子間の相互作用による規則構造の誘導が起こり、高度な規則構造が得られると考えられる。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーのうち70重量%以上、100重量%以下であることが、微粒子の規則構造誘導の観点から更に好ましい。また、非水溶性モノマー(b)が組み込まれることで、アクリル系ポリマー微粒子(A)を安定に合成することが可能になると考えられる。
【0029】
また本発明では、微粒子の安定性や分散性の観点から、水溶性モノマー(a)と非水溶性モノマー(b)の重量比(a)/(b)は0.01〜0.5の範囲であることが好ましく、0.01〜0.1の範囲であることが更に好ましい。
【0030】
本発明では、水溶性モノマー(a)とは25℃の蒸留水に対して、1.0重量%以上溶解するものを指す。また、非水溶性モノマー(b)とは、25℃の蒸留水に対して、1.0重量%以上溶解しないものを指す。
【0031】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーである水溶性モノマー(a)として、例えば(メタ)アクリル酸、こはく酸モノ(2−アクリロイルオキシエチル)などが挙げられる。
【0032】
それ以外の(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル−2−パ−フルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル、(メタ)アクリル酸パ−フルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパ−フルオロメチルメチルの(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素置換系モノマー;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジエチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル類等の(メタ)アクリル酸エステルモノマーが挙げられる。
また、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基を有するモノマーや、1,1,1−トリヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチルビニルエーテル−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマーなどの、官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0033】
本発明では、アクリル系ポリマー微粒子の屈折率調整の観点から、全モノマー成分として屈折率が1.50以上のモノマーを10.0重量%以上有することが好ましく、10.0重量%以上かつ80重量%以下有することがさらに好ましい。本発明では、モノマーの屈折率として、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION (J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulke)に記載の値を使用した。
【0034】
屈折率が1.50以上のモノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン、メトキシスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、クロルメチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ペンタブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ペンタブロモベンジル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。本発明では、屈折率が1.50以上のモノマーとしてスチレンを有することが好ましく、スチレンをモノマー成分として10重量%以上、90重量%以下有することがさらに好ましく、10重量%以上、80重量%以下有することがさらに好ましい。
【0035】
本発明では、アクリル系ポリマー微粒子(A)は、共重合が可能であれば上記以外のモノマーをモノマー成分として有してもよい。
【0036】
共重合が可能な上記以外のモノマーとして、例えば、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等のカルボン酸基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物等の無水カルボン酸基を有するモノマー;ヒドロキシビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等のビニルエーテルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、パーサティック酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニリデン、クロロヘキサンカルボン酸ビニル等が挙げられる。
【0037】
本発明において、アクリル系ポリマー微粒子(A)のガラス転移温度Tgは40℃以上であることが好ましい。Tgが40℃より小さい場合、特に有彩色部材が粒子積層体のような形態をとる場合、微粒子が形状を保持せず、微粒子の取る構造が崩れてしまい、有彩色が得られない可能性がある。
【0038】
本発明においてガラス転移温度Tgとは、下記FOXの式で算出される設計Tgのことを指す。
FOXの式: 1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・+wN/TgN
Tg:アクリル系ポリマー微粒子(A)のガラス転移温度(K)
Tg1、Tg2、・・・、TgN:成分1、2、・・・Nのガラス転移温度(K)
w1、w2、・・・、wN:成分1、2、・・・Nの重量分率
(例えば、モノマー組成が、アクリル酸−2−エチルヘキシル(50重量%、218K)、スチレン(45重量%、373K)、アクリル酸(5重量%、379K)のアクリル系ポリマー微粒子(A)の場合は、Tg(K)=275(K)=2(℃)となる。)
【0039】
本発明において、アクリル系ポリマー微粒子(A)自体の吸収により、構造色による反射強度を低下させることを防ぐため、アクリル系ポリマー微粒子(A)は無色であることが好ましい。本発明においてアクリル系ポリマー微粒子(A)が無色であるとは、400nm〜800nmにおいてアクリル系ポリマー微粒子(A)の反射スペクトルを測定したときに、その反射強度の最小値が20%以上であるものを指す。反射スペクトルの測定は以下の方法で行うことができる。アクリル系ポリマー微粒子(A)を臭化カリウム粉末中に10重量%で分散し、脱水、加圧し、膜圧1mmのペレットを得る。このペレットを直径30mmの円状、厚さ10mmの酸化アルミニウムの白色盤の手前に設置し、分光光度計(日立分光光度計/U−4100 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、反射スペクトルを測定する。得られた反射スペクトルを、アクリル系ポリマー微粒子(A)の反射率とする。各波長における反射率は、上記の白色盤単体で測定したものを100%として計算した。
【0040】
本発明のアクリル系ポリマー微粒子(A)は一般的に用いられている乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合等で適宜調製することができる。
【0041】
本発明のアクリル系ポリマー微粒子(A)を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0042】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物などをあげることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、モノマー100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0043】
水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。また、重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、重合を促進したり、低温において重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩などの還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、全モノマー100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0044】
本発明のアクリル系ポリマー微粒子(A)を乳化重合で得るに際して用いられる界面活性剤としては、特に制限はなく、公知の界面活性剤を使用することができる。例えば、アニオン系界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート、これらのナトリウム、カリウム塩等が挙げられ、また、カチオン系界面活性剤としてはセチルトリメチルアンモニウムプロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、また、ノニオン系界面活性剤としては、リピリジニウム等が挙げられる。また、反応性乳化剤(例えば、アクリロイル基、メタクロイル基等の重合性基を有する乳化剤)としては、例えば、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の反応性乳化剤が挙げられ、特に限定することなく使用される。またこれらを併用して用いることもできる。
【0045】
<黒色系無彩物(B)>
黒色系無彩物(B)は色味がなく低明度の物質のことを指し、アクリル系ポリマー微粒子(A)の構造による発色をより鮮明にさせるために使用する。本発明で黒色系無彩物(B)とは、その明度、彩度をCIE1976(L*,a*,b*)色空間で表した時に、明度であるL*が60以下、彩度である(a*の二乗+b*の二乗)の平方根が20以下であるものを指す。L*、a*、b*の算出は、以下のようにして行うことができる。黒色系無彩物(B)を臭化カリウム粉末中に0.1重量%で分散し、脱水、加圧し、膜圧1mmのペレットを得る。分光光度計(日立分光光度計/U−4100 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、このペレットの透過スペクトルを測定する。得られた透過スペクトル、光源D50、および2度視感度曲線から算出したL*、a*、b*を本発明におけるL*、a*、b*とする。
【0046】
黒色系無彩物(B)としては特に限定はされないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、黒鉛などのなどの炭素系黒色色材、酸化鉄、酸化マンガン、硫化亜鉛などの酸化物系黒色色材、ニグロシン類、アジン類、メラミン類などの有機系黒色色材などが挙げられる。
【0047】
本発明では、黒色系無彩物(B)はアクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上含まれる。0.001重量%より少ない場合、黒色系無彩物(B)による効果が不十分になり、明確な有彩色が得られなくなる可能性がある。また、黒色系無彩物(B)はアクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上、10重量%以下含まれることが好ましい。黒色系無彩物(B)はアクリル系ポリマー微粒子(A)に対して10重量%より多く含まれると、微粒子の取る構造による干渉光も吸収されてしまい、十分な発色が得られない可能性がある。
【0048】
また、アクリル系ポリマー微粒子(A)が黒色を有している場合でも、無色の場合と同様に黒色系無彩物(B)を添加することで、構造色とは無関係の散乱光を効率的に吸収し優れた発色性を得ることができる。
【0049】
本発明において黒色系無彩物(B)は媒体(C)に対して不溶であることが好ましい。黒色系無彩物(B)が媒体(C)に不溶であることで、媒体(C)中で偏在し、散乱光などに由来する有彩色に不要な発色を効率的に吸収し取り除くことができる。媒体(C)中で不溶であることは、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡などから確認することが可能である。なお、本発明における不溶とは、媒体と分離している状態を示し、媒体が空気である場合にも適用される。
【0050】
本発明において黒色系無彩物(B)は顔料であることが好ましい。黒色系無彩物(B)が染料であった場合、顔料と比較して耐候性に劣るため、有彩色色材中で散乱光などの不要な光の吸収を長期にわたって行うことができない。
【0051】
<媒体(C)>
本発明で媒体(C)とは、アクリル系ポリマー微粒子(A)や、黒色系無彩物(B)の隙間に存在するもののことを指す。媒体(C)としては特に限定はされないが、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの極性溶剤や、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ノルマルヘキサンなどの非極性溶媒が挙げられる。また、それらにゲル化剤を加えゲル状態にすることもできる。さらには、ホットメルト樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などの樹脂を用いることもできる。また、空気などの気体であってもよい。
【0052】
<その他>
また本発明の有彩色部材には、上記のアクリル系ポリマー微粒子(A)、黒色系無彩物(B)、媒体(C)のほかに、必要に応じて、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、帯電付与剤、界面活性剤、分散安定剤、消泡剤、安定剤等の添加剤を加えることもできる。
【0053】
以上から、本発明の有彩色部材はアクリル系ポリマー微粒子(A)と黒色系無彩物(B)と媒体(C)を含むことで、容易に優れた有彩色を得ることができる。この有彩色部材は、例えば、電着カラー板、カラーシート、カラーフィルター、偏光フィルム、インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インク、ホログラム部材、顔料、センサー用色材として用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例にいささかも限定されるものではない。
【0055】
<S−1(分散液);アクリル系ポリマー微粒子(A)分散液の調整>
容量2リットルの四つ口フラスコに、純水300重量部、乳化剤としてアデカリアソープSR―10を2.0重量部仕込み、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム1.2重量部を加え、モノマーとしてアクリル酸6部、スルホン酸ビニル4部、スチレン60重量部、メタクリル酸メチル66重量部、アクリル酸2−エチルヘキシル44重量部、アクリロニトリル20重量部の混合液を100分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間撹拌しながら80℃に保持した。この乳化重合で得られた分散液(S−1)中には、アクリル系ポリマー微粒子(A)が含まれ、その平均粒子径は200nmであった。
【0056】
<S−2〜3、5〜13、15〜26(分散液);アクリル系ポリマー微粒子(A)分散液の調整>
容量2リットルの四つ口フラスコに、純水300重量部、乳化剤としてアデカリアソープSR―10を表1に従って加え、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム1.2重量部を加え、モノマーを表1に従って各種割合で加えた混合液を100分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間撹拌しながら80℃に保持した。この乳化重合で得られた分散液(S−2〜3、5〜13、15〜26)中には、アクリル系ポリマー微粒子(A)が含まれ、その平均粒子径は100nm〜600nmであった。
【0057】
<S−4(分散液)/コアシェル型アクリル系ポリマー微粒子(A)分散液の調整>
容量2リットルの四つ口フラスコに、純水300重量部、乳化剤としてアデカリアソープSR―10を2.0重量部仕込み、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム0.3重量部を加え、モノマーとして、スチレン90重量部、メタクリル酸メチル40重量部、ジビニルベンゼン10重量部の混合液を100分間かけて滴下し、滴下終了後、さらに30分間撹拌しながら80℃に保持した。上記撹拌後、さらに、メタクリル酸5重量部、メタクリル酸メチル40重量部、アクリル酸ブチル15重量部からなる混合液を、100分間かけて滴下した。滴下終了後、2時間撹拌しながら80℃に保持した。この乳化重合で得られた分散液(S−4)中には、アクリル系ポリマー微粒子(A)が含まれ、その平均粒子径は平均粒子径220nmであった。
【0058】
<S−14(分散液)/黒色粒子型アクリル系ポリマー微粒子(A)分散液の調整>
容量1リットルの四つ口フラスコに、純水300重量部、乳化剤としてアデカリアソープSR―10を1.0重量部仕込み、撹拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム0.5重量部を加え、モノマーとしてアクリル酸6部、スチレン149重量部、アクリル酸ブチル45重量部、さらに黒色染料のC.Iソルベントブラック27の8重量部を加えた混合物を100分間かけて滴下した。滴下終了後、撹拌しながら80℃に保持した。この乳化重合で得られた分散液(S−14)中には、アクリル系ポリマー微粒子(A)が含まれ、その平均粒子径は平均粒子径240nmであった。
【0059】
上述のアクリル系ポリマー微粒子(A)のモノマー組成と性状を表2に示す。
【0060】
表1
【表1】
【0061】
AA:アクリル酸(屈折率1.4202)
MAA:メタクリル酸(屈折率1.432)
VSA:スルホン酸ビニル(屈折率1.4493)
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル(屈折率1.4502)
St:スチレン(屈折率1.5470)
BzA:アクリル酸ベンジル(屈折率1.5143)
BzMA:メタクリル酸ベンジル(屈折率1.5120)
MMA:メタクリル酸メチル(屈折率1.4140)
EA:アクリル酸エチル(屈折率1.4060)
BA:アクリル酸ブチル(屈折率1.4180)
2EHA:アクリル酸-2エチルヘキシル(屈折率1.4360)
GMA:メタクリル酸グリシジル(屈折率1.4490)
AN:アクリロニトリル(屈折率1.3911)
ATFE:アクリル酸トリフルオロエチル(屈折率1.3506)
DVB:ジビニルベンゼン(屈折率1.5470)
上記屈折率は、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION (J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulke)に記載の値を使用した。
【0062】
<実施例1>
アクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.01重量%となるように、分散液S−1に表1記載の配合物A−1を添加し、十分に撹拌することで実施例1の有彩色部材である分散液を得た。
【0063】
<実施例2〜30、比較例1〜8>
アクリル系ポリマー微粒子(A)に対して表3記載の重量割合となるように、各分散液に各配合物を添加し、十分撹拌することで実施例2〜30、比較例1〜8記載の有彩色部材である分散液を得た。
ただし、実施例22〜24は参考例である。
【0064】
上述の有彩色部材の調整に用いた、配合物を表2に示す。
【0065】
表2
【表2】
【0066】
<混合時(分散液状態)の発色評価試験>
上記で調整した実施例1〜30、比較例1〜8の分散液における発色性を反射スペクトルから評価した。各種調整した分散体を石英セル(S20曲底標準セル/ジーエルサイエンス社製)に6.0ml加え、この反射スペクトルを所定の分光光度計(日立分光光度計/U−4100 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。各波長における反射率は、検出器が設置された球の内面に直径30mmの円状、厚さ20mmの酸化アルミニウムの白色盤のものを100%として計算した。評価結果においては、構造色による反射率の最大値と構造色によらないベースラインの反射率の差分を反射率のコントラストとしたとき、そのコントラストが30%以上の場合を◎、20%以上かつ30%より小さい場合を○、10%以上かつ20%より小さい場合を○△、5%以上かつ10%より小さい場合を△、5%より小さい場合を×と評価した
【0067】
<塗工物の発色評価試験>
上記で調整した実施例1〜30、比較例1〜8の分散液をIJ紙に塗工して得られる、粒子積層体の発色性を分光反射率スペクトルで評価した。上記で調整した分散液(実施例1〜29、比較例1〜6)をIJ紙(KA5100AP/エプソン社製)上に、厚みが約2.0μmとなるように塗布し、オーブンで70℃5分加熱し粒子積層体を得た。これの反射スペクトルを、所定の分光光度計(日立分光光度計/U−4100 日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。各波長における反射率は、検出器が設置された球の内面に直径30mmの円状、厚さ10mmの酸化アルミニウムの白色盤のものを100%として計算した。
評価結果においては、構造色による反射率の最大値と構造色によらないベースラインの反射率の差分を反射率のコントラストとしたとき、そのコントラストが30%以上の場合を◎、20%以上かつ30%より小さい場合を○、10%以上かつ20%より小さい場合を○△、5%以上かつ10%より小さい場合を△、5%より小さい場合を×と評価した
【0068】
<塗工物の耐候性評価>
上記で調整した実施例1〜30、比較例1〜8の分散液をIJ紙に塗工して得られる粒子積層体の耐候性を、キセノンランプを用いた促進暴露試験により評価した。上記で調整した粒子積層体を、太陽光同等の分光分布となるキセノンランプ(東洋精機製SUNTEST CPS+)を用いて、470W/m2、100時間暴露し、上記の塗工物の発色試験と同様の方法で分光反射率スペクトルを測定した。評価結果においては、構造色による反射率の最大値と構造色によらないベースラインの反射率の差分を反射率のコントラストとしたとき、そのコントラストが30%以上の場合を◎、20%以上かつ30%より小さい場合を○、10%以上かつ20%より小さい場合を○△、5%以上かつ10%より小さい場合を△、5%より小さい場合を×と評価した。
【0069】
上述の実施例、比較例の配合処方と、発色評価試験結果を表3に示す。
【0070】
表3
【表3】
【0071】
実施例5から得られた粒子積層体の、走査型電子顕微鏡S−4300(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて撮影した写真を
図1に示す。
【0072】
表3の実施例1〜30の結果より、水溶性モノマー(a)と非水溶性モノマー(b)との共重合物であるアクリル系ポリマー微粒子(A)、黒色系無彩物(B)、および、媒体(C)を含み、構造色として明確な有彩色を呈することを特徴とする有彩色部材であって、水溶性モノマー(a)の50重量%以上がカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーであり、アクリル系ポリマー微粒子(A)が、平均粒子径が100nm〜600nmであり、かつ、粒子径の変動係数Cv値が30%以下であり、黒色系無彩物(B)が、アクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上含有されているものは、明確な構造発色を示すことが分かった。
【0073】
それに対して、50重量%以上がカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーである水溶性モノマー(a)でない比較例1〜2では、明確な構造発色は確認されなかった。これは、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸系モノマーの水溶性モノマー(a)に対する割合が不十分であったため、粒子間の相互作用が適切に得られず、粒子の規則構造が適切に発達できなかったためであると考えられる。またアクリル系ポリマー微粒子(A)の変動係数Cv値が30%より大きい比較例3では、良好な発色は得られなかった。これは、使用した微粒子の変動係数が大きいため、規則性配列が形成されなかったためであると考えられる。また、黒色系無彩物(B)をアクリル系ポリマー微粒子(A)に対して0.001重量%以上含んでいない比較例4〜8は良好な発色は得られなかった。これは黒色系無彩物(B)の量が不十分であったため、散乱光の影響が顕著に現れ、良好な発色性が得られなかったためであると考えられる。
【0074】
顔料である黒色系無彩物(B)を使用した実施例1、3〜17、25、28の分散体状態での評価では、水溶性の黒色系無彩物(B)を使用した実施例20〜21と比較して、さらに良好な発色が得られた。これは黒色系無彩物(B)が媒体(C)である水中に不溶であったため、偏在して存在することができ、効率的に散乱光などの不要な発色を吸収できたためであると考えられる。また、黒色系無彩顔料を使用した実施例1、3〜17、25、28の粒子積層体状態での耐候性評価では、水溶性黒色無彩染料を使用した実施例20〜21と比較して、さらに良好な発色が得られた。これは黒色系無彩物(B)が顔料であったため、染料と比べて良好な耐候性を示したためであると考えられる。また、アクリル系ポリマー微粒子(A)の全モノマー組成中に屈折率が1.50以上のモノマーを10重量%以上有する実施例1〜17、25〜28では、10重量%より少なく有する実施例22〜24と比較して、さらに良好な発色性が得られることが分かった。これは、屈折率が1.50以上のモノマーが十分に樹脂に組み込まれたため、樹脂の屈折率が適切に制御され、構造発色が十分に得られたためであると考えられる。また、アクリル系ポリマー微粒子(A)の全モノマー組成中にスチレンを10重量%以上有している実施例1、3〜17、25、28では、10重量%より少なく有する実施例2、26〜27と比較して、さらに良好な発色性が得られることが分かった。また、粒子積層体の発色性評価においては、アクリル系ポリマー微粒子(A)のTgが40℃以上の実施例1、3〜17、25、28では、40℃より小さい実施例29〜30と比較してさらに良好な発色性が得られることが分かった。これは、微粒子が十分に硬かったため、粒子積層体状態でも、その形状や規則構造を保持できたためであると考えられる。
【0075】
黒色系無彩物(B)をアクリル系ポリマー微粒子(A)に対して10重量%以下含有する実施例1、3〜17、25、28では、10重量%より多く含有する実施例18と比較して、さらに良好な発色性が得られることが分かった。これは、黒色系無彩物(B)の含有量が適切に制御されることで、黒色系無彩物(B)による微粒子の規則構造による干渉光の吸収が抑えられたためであると考えられる。