(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記ボイド率が前記予め定められた範囲よりも大きい場合には、前記タンク内の前記気相部分を加圧することによって前記沸点を上昇させる、請求項1または2に記載のエンジンの冷却装置。
前記制御装置は、前記ボイド率が前記予め定められた範囲よりも小さい場合には、前記タンク内の前記気相部分を減圧することによって前記沸点を低下させる、請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの冷却装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インジェクタからの燃料噴射量が少ない場合には、燃料噴射量が多い場合と比較して、燃料がインジェクタ先端を通過することによる冷却効果が小さくなるので、インジェクタの先端部がより高温になる。そのため、単にエンジン冷却水をインジェクタ先端の冷却水路に導入するという通常の冷却方式では、冷却水通路内の冷却水が周囲の熱により熱伝達係数の低い沸騰状態(たとえば、膜沸騰状態)となって、インジェクタの先端部を適切に冷却することができないという虞がある。
【0006】
特に、CNG(Compressed Natural Gas)等の気体燃料を主燃料とし、軽油等の液体燃料を副燃料とする二元燃料エンジンにおいては、副燃料である液体燃料は着火用に少量だけ気筒内に噴射される構成のため、気筒内の温度が高温となる高負荷時においてもインジェクタから噴射される液体燃料の噴射量は少量であり、インジェクタの先端部がより高温になりやすい。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、燃料噴射量が少量になる場合でもインジェクタを適切に冷却するエンジンの冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に係るエンジンの冷却装置は、吸気通路の一方端に接続される気筒内に燃料を噴射するインジェクタを搭載するエンジンの冷却装置である。冷却装置は、インジェクタ内に設けられ、インジェクタの先端部を冷却するための冷却液が流通する冷却液通路と、冷却液を貯留するタンクと、冷却液通路内の冷却液のボイド率を検出する検出装置と、タンク内の気相部分の圧力を調整するための圧力調整装置と、ボイド率に基づいて圧力調整装置を制御する制御装置とを備える。制御装置は、ボイド率が予め定められた範囲内になるように圧力調整装置を用いて冷却液の沸点を変化させる。
【0009】
このようにすると、ボイド率が予め定められた範囲内になるように沸点を変化させることによって、冷却液通路内の冷却液の沸騰状態を、熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。そのため、冷却能力の低下を抑制することができる。
【0010】
好ましくは、予め定められた範囲は、熱伝達係数が予め定められた値よりも高い沸騰状態に対応するボイド率の範囲を含む。
【0011】
このようにすると、冷却液通路内の冷却液の沸騰状態を、熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。そのため、冷却能力の低下を抑制することができる。
【0012】
さらに好ましくは、制御装置は、ボイド率が予め定められた範囲よりも大きい場合には、タンク内の気相部分を加圧することによって沸点を上昇させる。
【0013】
このようにすると、ボイド率が予め定められた範囲よりも大きい場合には、タンク内の気相部分を加圧することによって沸点を上昇させることができる。そのため、ボイド率を予め定められた範囲内になるように沸点を変化させることができる。これにより、冷却液通路内の冷却液の沸騰状態を熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。
【0014】
さらに好ましくは、制御装置は、ボイド率が予め定められた範囲よりも小さい場合には、タンク内の気相部分を減圧することによって沸点を低下させる。
【0015】
このようにすると、ボイド率が予め定められた範囲よりも小さい場合には、タンク内の気相部分を減圧することによって沸点を低下させることができる。そのため、ボイド率を予め定められた範囲内になるように沸点を変化させることができる。これにより、冷却液通路内の冷却液の沸騰状態を熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。
【0016】
さらに好ましくは、制御装置は、エンジンの状態に基づいてインジェクタの先端部の温度の推定値を算出し、推定値がしきい値以上の場合に、ボイド率に基づいて圧力調整装置を制御する。
【0017】
このようにすると、インジェクタの先端部の温度がしきい値よりも高い場合、冷却液通路内の冷却液が沸騰状態であるため、ボイド率に基づいて圧力調整装置を適切に制御することによって、沸騰状態を熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、燃料噴射量が少量になる場合でもインジェクタを適切に冷却するエンジンの冷却装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るエンジンの冷却装置の概略構成を示す図である。本実施の形態において、エンジン100は、CNGやLNG(Liquefied Natural Gas)等の天然ガスの気体燃料と、軽油等の液体燃料とを用いて動作する二元燃料エンジンである。
【0022】
エンジン100は、冷却装置1と、インジェクタ101〜104と、インテークマニホールド110と、複数の気筒111〜114と、吸気通路116と、制御装置200と、燃料供給装置212とを含む。
【0023】
吸気通路116の一方端にはエアクリーナ(図示せず)が接続される。吸気通路116の他方端は、インテークマニホールド110に接続される。インテークマニホールド110は、4本に分岐した枝管を有し、4本の枝管は、気筒111〜114にそれぞれ接続される。さらに、気筒111〜114には、エキゾーストマニホールドの4本の枝管(いずれも図示せず)にそれぞれ接続される。
【0024】
インジェクタ101〜104は、気筒111〜114の上部にそれぞれ設けられる。インジェクタ101〜104は、制御装置200からの制御信号に基づいて動作し、気筒111〜114に燃料を噴射する。インジェクタ101〜104は、たとえば、予め定められた順序で、かつ、エンジン100の動作状態に応じたタイミングで、エンジン100の動作状態に応じた期間だけ燃料を噴射する。
【0025】
燃料供給装置212は、吸気通路116に設けられ、吸気通路116内に気体燃料を供給する。具体的には、燃料供給装置212は、燃料ボンベと、レギュレータと、供給量調整装置(いずれも図示せず)とを含む。燃料ボンベは、液化された気体燃料を貯蔵する。レギュレータは、燃料ボンベから燃料配管等を経由して供給される液化された気体燃料を減圧することによって液化された気体燃料を気化する。供給量調整装置は、制御装置200の制御信号に基づいて、気化された燃料が流通する流路の断面積(開度)を調整することによって燃料の供給量を調整する。供給量調整装置としては、たとえば、ステップモータを用いて開度を変更可能な制御弁が用いられる。
【0026】
気筒111〜114の各々には、ピストン(図示せず)が収納される。各気筒内での燃焼によってピストンが押し下げられることによって、クランク機構を介して連結されたクランクシャフト(いずれも図示せず)が回転させられる。これによりエンジン100が動作する。
【0027】
制御装置200は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファ等とを含んで構成される。制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン100が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0028】
制御装置200は、たとえば、エンジン100に対する要求トルクに基づいて燃料供給装置212による燃料の供給量と、インジェクタ101〜104による燃料の供給量とを設定し、設定された各供給量にしたがって燃料供給装置212およびインジェクタ101〜104を制御する。たとえば、エンジン100が車両に搭載される場合、制御装置200は、アクセル開度等に基づいてエンジン100に対する要求トルクを算出する。
【0029】
冷却装置1は、エンジン100に設けられるインジェクタ101〜104の各々を冷却する。冷却装置1は、ポンプ10と、タンク20と、圧力調整装置30と、循環通路60〜65と、ラジエータ70とを含む。
【0030】
ポンプ10は、制御装置200の制御信号に基づいて動作する電動ポンプである。ポンプ10は、循環通路60〜65によって冷却液を循環させる。
【0031】
タンク20は、冷却液を貯留する。循環通路60〜65は、タンク20とインジェクタ101〜104内の冷却液通路との間で冷却液を循環する通路を構成する。
【0032】
循環通路60〜65は、以下のように構成される。すなわち、循環通路60の一方端は、ラジエータ70に接続され、循環通路60の他方端は、ポンプ10に接続される。循環通路61の一方端は、ポンプ10に接続され、循環通路61の他方端は、エンジン100の内部に設けられる循環通路62の一方端に接続される。循環通路62は、途中で4本の枝通路に分岐して、インジェクタ101〜104にそれぞれ接続される。
【0033】
インジェクタ101〜104の各々には、循環通路62から導入される冷却液を先端部の周囲に流通させるための冷却液通路(
図2参照)が形成される。
【0034】
循環通路63は、エンジン100の内部に設けられ、インジェクタ101〜104に形成された冷却液通路にそれぞれ接続された4本の枝通路を有する。循環通路63の4本の枝通路は、途中で1本の通路に集約され、循環通路64の一方端に接続される。循環通路64の他方端は、タンク20に接続される。循環通路65の一方端は、タンク20に接続され、循環通路65の他方端は、ラジエータ70に接続される。
【0035】
ラジエータ70は、冷却液を流通する管と、管の周囲に設けられた放熱フィンとを含む熱交換器であって、内部を流通する冷却液とラジエータ70の外部の空気との間で熱交換を行なうことによって、冷却液を冷却する。
【0036】
圧力調整装置30は、制御装置200からの制御信号に基づいて動作し、タンク20の気相部分の圧力を増減する。圧力調整装置30は、減圧弁40と、コンプレッサ50とを含む。
【0037】
減圧弁40を介してタンク20内の気体がタンク20の外に放出されることによってタンク20の気相部分の圧力が減少する。減圧弁40は、たとえば、制御装置200からの制御信号に基づいて開弁状態と閉弁状態とのうちのいずれかに制御される開閉弁である。
【0038】
コンプレッサ50によりタンク20の外からタンク20内に空気等の気体が導入されることによってタンク20の気相部分の圧力が増加する。コンプレッサ50は、たとえば、制御装置200からの制御信号に基づいて動作する電動コンプレッサである。
【0039】
また、インジェクタ101内の冷却液通路には、ボイドセンサ201が設けられる。ボイドセンサ201は、流通する通路内の冷却液のボイド率を検出する。ボイド率とは、冷却液の単位体積当たりの気泡の容積の割合を示す。ボイドセンサ201は、検出結果を示す信号Vrを制御装置200に送信する。ボイドセンサ201が設けられる詳細な位置については後述する。
【0040】
図2は、インジェクタ101の先端部の内部構造を概略的に示した図である。インジェクタ101は、ノズルニードル101aと、噴孔101bと、ノズルボディ101cとを含む。
【0041】
ノズルニードル101aは、棒状に形成される。ノズルボディ101cの内部には、ノズルニードル101aを収納する空間が形成される。ノズルニードル101aは、
図2の上下方向に摺動可能にノズルボディ101c内に収納される。ノズルニードル101aが収納される空間には燃料が充填され所定の圧力が付与されている。
図2に示すノズルニードル101aの位置は、噴孔101bとノズルニードル101aを収納する空間とを遮断する位置であって、燃料噴射が停止される位置である。
【0042】
ノズルボディ101cの下端部には、2つの噴孔101bが
図2において左右対称の位置に形成される。なお、噴孔101bが設けられる個数は、特に2つに限定されるものではなく、たとえば、1つであってもよいし、3つ以上であってもよいものとする。
【0043】
ノズルニードル101aの上部には図示しない駆動部が設けられており、駆動部は、制御装置200の制御信号に基づいてノズルニードル101aを紙面上下方向に移動させる力を発生させる。駆動部は、たとえば、電磁力によって作動するソレノイドバルブ等を用いてノズルニードル101aを上下方向に移動させる機構であるが、公知の技術を用いればよく、その詳細な説明は行なわない。
【0044】
駆動部の動作によってノズルニードル101aに紙面上方向に移動させる力が作用して、ノズルニードル101aが紙面上方向に移動する。これにより、噴孔101bとノズルニードル101aを収納する空間とが連通状態になり、当該空間内の燃料が噴孔101bからインジェクタ101の外部に噴射される。そして、駆動部の動作によってノズルニードル101aに紙面下方向に移動させる力が作用して、ノズルニードル101aが紙面した方向に移動する。これにより、再び噴孔101bとノズルボディ101cの内部とが遮断状態になり、燃料噴射が停止される。
【0045】
ノズルボディ101c内には、ノズルニードル101aが収納される空間とは別に冷却液を流通させるための空間が冷却液通路66として設けられる。冷却液通路66の一方端は、循環通路62の枝通路の一つに接続される。冷却液通路66の他方端は、循環通路63の枝通路の一つに接続される。
【0046】
冷却液通路66は、ノズルボディ101c内をノズルニードル101aの長手方向に沿って形成され、循環通路62から冷却液を導入するための第1通路66aと、ノズルニードル101aの下方側の部位の外周を囲むように形成される第2通路66bと、ノズルボディ101内をノズルニードル101aの長手方向に沿って形成され、循環通路63に冷却液を導出するための第3通路66cとを含む。第2通路66bには、ボイドセンサ201が設けられる。好ましくは、ボイドセンサ201は、第1通路66a、第2通路66bおよび第3通路66cのうちの最も高温になる位置に設けられることが望ましい。
【0047】
以上のような構成を有する冷却装置1を搭載したエンジン100においては、インジェクタ101〜104の先端部が気筒111〜114内にそれぞれ露出して設けられる。そのため、インジェクタ101〜104の先端部は燃料の燃焼時などにおいて高温に晒されることとなる。高温に晒されるインジェクタ101〜104の先端部はデポジットの生成を抑制するために、冷却装置1を用いて冷却される。
【0048】
ところで、インジェクタ101〜104からの燃料噴射量が少ない場合には、燃料噴射量が多い場合と比較して、燃料がインジェクタ先端を通過することによる冷却効果が小さくなるので、インジェクタ101〜104の先端部がより高温になる。そのため、単に冷却液をインジェクタ先端の冷却液通路66に導入するという通常の冷却方式では、冷却液通路66内の冷却液が周囲の熱により熱伝達係数の低い沸騰状態(たとえば、膜沸騰状態)となって、インジェクタ101〜104の先端部を適切に冷却することができないという虞がある。
【0049】
特に、上述したような二元燃料エンジンにおいては、副燃料である液体燃料は着火用に少量だけ気筒内に噴射される構成のため、気筒内の温度が高温となる高負荷時においてもインジェクタ101〜104から噴射される液体燃料の噴射量は少量であり、インジェクタ101〜104の先端部がより高温になりやすい。
【0050】
そこで、本実施の形態においては、制御装置200は、ボイドセンサ201により検出されたボイド率が予め定められた範囲内になるように圧力調整装置30を用いて冷却液の沸点を変化させることを特徴とする。
【0051】
このようにすると、ボイド率が予め定められた範囲内になるように沸点を変化させることによって、冷却液通路内の冷却液の沸騰状態を、熱伝達係数の高い沸騰状態にすることができる。そのため、冷却能力の低下を抑制することができる。
【0052】
以下に、
図3を参照して、インジェクタ101の冷却液通路66内の冷却液のボイド率に基づいて圧力調整装置30を制御する制御処理について説明する。
【0053】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置200は、インジェクタ101の先端部の温度の推定値を取得する。制御装置200は、たとえば、エンジン100の負荷、燃料噴射量あるいは燃料噴射時期に基づいてインジェクタ101の先端部の温度の推定値を算出する。制御装置200は、たとえば、負荷と、燃料噴射量と、燃料噴射時期と、インジェクタ101の先端部の温度との関係を示すマップ等を用いてインジェクタ101の先端部の温度の推定値を算出する。
【0054】
S102にて、制御装置200は、インジェクタ101の先端部の温度の推定値がしきい値A以上であるか否かを判定する。しきい値Aは、たとえば、冷却液が沸騰状態であると判定できる値であれば特に限定されるものではなく、たとえば、1気圧における冷却液の沸点よりも高い予め定められた値である。インジェクタ101の先端部の温度の推定値がしきい値A以上であると判定される場合(S102にてYES)、処理はS104に移される。
【0055】
S104にて、制御装置200は、ボイドセンサ201の検出結果に基づいてボイド率を取得する。S106にて、制御装置200は、取得したボイド率が目標範囲内であるか否かを判定する。目標範囲は、予め定められた範囲であって、熱伝達係数が予め定められた値よりも高い沸騰状態に対応するボイド率を含む範囲である。
【0056】
以下に、
図4を用いて熱伝達係数と沸騰状態とボイド率との関係を説明する。
図4は、冷却液として水を用いた場合を一例とした、熱伝達係数と沸騰状態とボイド率との関係を説明するための図である。
【0057】
図4の横軸は、冷却液通路66の壁面の温度から沸点を減算した値ΔTe(以下、温度差ΔTeとも記載する)の対数値を示す。すなわち、
図4の横軸は、壁面の温度が沸点に対してどの程度高いかを示している。
【0058】
図4の縦軸は、ボイド率と、単位面積当たりの熱伝達量qの対数値とを示す。
図4のラインLN1は、温度差ΔTeとボイド率との関係を示すボイド率の変化曲線である。
図4のラインLN2は、温度差ΔTeと単位面積当たりの熱伝達量qとの関係を示す沸騰曲線である。なお、熱伝達係数は、単位面積当たりの熱伝達量qを温度差ΔTeで除算した値である。
【0059】
温度差ΔTeが5以下である場合(A点までの領域である場合)、冷却液の沸騰状態は、自然対流状態となる。この場合、気泡が生じないため、ボイド率はゼロとなる。温度差ΔTeが5よりも大きく、かつ、30以下である場合(A点からC点までの領域である場合)、冷却液の沸騰状態は、核沸騰状態となる。核沸騰状態においては気泡が生じるため、ボイド率はゼロよりも大きい値となる。また、核沸騰状態における単位当たりの熱伝達量q(すなわち、熱伝達係数)は、沸騰状態が自然対流状態であるときよりも高い値になる。なお、温度差ΔTeが5よりも大きく、かつ、10以下である場合(A点からB点までの領域である場合)には、冷却液中の冷却液通路の66の壁面付近において気泡が生じ始めるサブクール沸騰状態になる。
【0060】
温度差ΔTeが30よりも大きく、かつ、120以下である場合、冷却液の沸騰状態は、遷移沸騰状態となる。このとき、気泡の発生量がさらに増大するため、ボイド率は、核沸騰状態に対応するボイド率よりも大きい値となる。さらに、温度差ΔTeが120よりも大きい場合、冷却液の沸騰状態は、膜沸騰状態となる。このときのボイド率は、遷移沸騰状態に対応するボイド率よりも大きい値となる。
【0061】
本実施の形態においては、熱伝達係数がA点における熱伝達係数よりも高い核沸騰状態に対応するボイド率の範囲が目標範囲として設定される。すなわち、ボイド率の目標範囲は、ゼロよりも大きく、かつ、核沸騰状態と遷移沸騰状態との境界となるC点に対応するボイド率Vr(1)以下の範囲である。なお、冷却液として水以外の冷媒が用いられる場合には、用いられる冷媒に対応したボイド率の変化曲線と沸騰曲線とを用いて核沸騰状態に対応するボイド率の範囲が目標範囲として設定される。
【0062】
図3に戻って、取得したボイド率が目標範囲内であると判定される場合(S106にてYES)、この処理は終了する。一方、取得したボイド率が目標範囲内でないと判定される場合(S106にてNO)、処理はS108に移される。
【0063】
S108にて、制御装置200は、取得したボイド率が目標範囲よりも大きいか否かを判定する。取得したボイド率が目標範囲よりも大きいと判定される場合(S108にてYES)、処理はS110に移される。
【0064】
S110にて、制御装置200は、圧力調整装置30を用いてタンク20内の気相部分を加圧することによって沸点を上昇させる。制御装置200は、たとえば、現在のボイド率と目標範囲の上限値であるVr(1)との差分に応じて加圧量を設定するフィードバック制御を行なう。
【0065】
一方、取得したボイド率が目標範囲よりも小さいと判定される場合(S108にてNO)、処理はS112に移される。
【0066】
S112にて、制御装置200は、圧力調整装置30を用いてタンク20内の気相部分を減圧することによって沸点を低下させる。制御装置200は、たとえば、ボイド率がゼロよりも大きくなるまで沸点を低下させるようにしてもよいし、あるいは、現在のボイド率と目標範囲の上限値であるVr(1)との差分に応じて減圧量を設定するフィードバック制御を行なってもよい。
【0067】
なお、ノズル温度の推定値がしきい値Aよりも小さい場合には(S102にてNO)、この処理は終了される。
【0068】
以上のような構造およびフローチャートに基づく制御装置200の動作について説明する。
【0069】
たとえば、インジェクタ101の先端部の温度の推定値が取得され(S100)、取得されたインジェクタ101の先端部の温度の推定値がしきい値A以上である場合には(S102にてYES)、ボイド率が取得される(S104)。
【0070】
冷却液の沸騰状態が、自然対流状態である場合には、取得されるボイド率はゼロとなる。そのため、ボイド率が目標範囲内でなく(S106にてNO)、かつ、ボイド率が目標範囲よりも小さいため(S108にてNO)、ボイド率が目標範囲内になるように冷却液の沸点が低下させられる(S112)。すなわち、減圧弁40が開弁状態になることによって、タンク20内の気相部分が減圧され、ボイド率が0よりも大きくなるように冷却液の沸点が低下させられる。ボイド率が目標範囲内になるように沸点が低下させられることによって、冷却液通路66の壁面の温度と沸点との温度差ΔTeが大きくなり、冷却液の沸騰状態が自然対流状態から核沸騰状態に変化する。このとき、単位面積当たりの熱伝達量(すなわち、熱伝達係数)が増加する。
【0071】
一方、冷却液の沸騰状態が、遷移沸騰状態である場合には、取得されるボイド率が目標範囲よりも高い値となる。そのため、ボイド率が目標範囲内でなく(S106にてNO)、かつ、ボイド率が目標範囲よりも大きいため(S108にてYES)、ボイド率が目標範囲内になるように沸点が上昇させられる(S110)。すなわち、コンプレッサ50が作動することによって、タンク20内の気相部分が加圧され、ボイド率が目標範囲内になるまで沸点が上昇させられる。ボイド率が目標範囲内になるように沸点が上昇させられることによって、冷却液通路66の壁面の温度と沸点との温度差ΔTeが小さくなり、冷却液の沸騰状態が遷移沸騰状態から核沸騰状態に変化する。このとき、単位面積当たりの熱伝達量(すなわち、熱伝達係数)が増加する。
【0072】
以上のようにして、本実施の形態に係る冷却装置によると、圧力調整装置30を用いてボイド率が目標範囲内になるように沸点を変化させることによって、冷却液通路66内の冷却液の沸騰状態を、熱伝達係数の高い核沸騰状態にすることができる。たとえば、ボイド率が目標範囲よりも大きい場合には、コンプレッサ50を用いてタンク20内の気相部分を加圧することによって沸点を上昇させることができる。沸点の上昇によって、冷却液通路66の壁面の温度と沸点との温度差ΔTeを小さくすることができる。これにより、冷却液の沸騰状態を核沸騰状態に変化させることができる。また、ボイド率が目標範囲よりも小さい場合に、減圧弁40を用いてタンク20内の気相部分を減圧することによって沸点を低下させることができる。沸点の低下によって、冷却液通路66の壁面の温度と沸点との温度差ΔTを大きくすることができる。これにより、冷却液の沸騰状態を核沸騰状態に変化させることができる。そのため、沸騰状態を核沸騰状態にすることによって、沸騰状態が自然対流状態あるいは遷移沸騰状態である場合よりも熱伝達係数を増加させることができるため、冷却能力の低下を抑制することができる。したがって、燃料噴射量が少量である場合でもインジェクタを適切に冷却するエンジンの冷却装置を提供することができる。
【0073】
さらに、本実施の形態において、制御装置200は、インジェクタ101の先端部の温度の推定値がしきい値A以上である場合に、ボイド率に基づいて圧力調整装置30を制御する。これにより、冷却液通路66内の冷却液が沸騰状態であるときに、ボイド率に基づいて圧力調整装置を適切に制御することができる。
【0074】
以下、変形例について説明する。
本実施の形態においては、エンジン100は、二元燃料エンジンを前提として説明したが、少なくとも気筒内に燃料を噴射するインジェクタが搭載されるエンジンであればよく、特に二元燃料エンジンに限定されるものではない。すなわち、エンジン100は、たとえば、
図1において燃料供給装置212を省略した構成であってもよい。
【0075】
本実施の形態においては、冷却液としては、たとえば、水を一例として説明したが、冷却液としては、好ましくは高負荷時のインジェクタの先端部の温度の最大値に基づいて設定することが望ましい。より具体的には、冷却液としては、高負荷時のインジェクタの先端部の温度の最大値から10℃〜30℃程度低い温度を沸点とする冷却液を用いることが望ましい。たとえば、高負荷時のインジェクタの先端部の温度の最大値が270℃程度である場合には、冷却液として、エチレングリコールモノフェチルエーテル(沸点:245℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点:256℃)等を用いることができる。
【0076】
本実施の形態においては、インジェクタ101における冷却液通路66内の冷却液のボイド率を各インジェクタ101〜104の冷却液通路内の冷却液のボイド率の代表値として取得するものとして説明したが、たとえば、インジェクタ101〜104の各々にボイドセンサを設けて、各ボイドセンサの検出結果に基づいて圧力調整装置30を制御してもよい。
【0077】
制御装置200は、たとえば、各ボイドセンサのボイド率の平均値を算出し、算出された平均値が目標範囲になるように圧力調整装置30を制御してもよいし、あるいは、各ボイドセンサのボイド率のうちの最小値が目標範囲よりも小さいか否かに基づいて圧力調整装置30を制御してもよいし、各ボイドセンサのボイド率のうちの最大値が目標範囲よりも大きいか否かに基づいて圧力調整装置30を制御してもよい。
【0078】
本実施の形態においては、冷却液の沸騰状態が核沸騰状態である場合のボイド率の範囲を目標範囲として設定するものとして説明したが、目標範囲は、核沸騰状態である場合のボイド率に加えて遷移沸騰状態である場合のボイド率の範囲の一部(たとえば、
図4の点Cから点B’までの領域に対応するボイド率の範囲)を含むようにしてもよい。なお、点B’は、温度差ΔTeとして許容できる上限値を考慮して設定することが望ましい。
【0079】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。