特許第6597533号(P6597533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597533波形データ選択装置および波形データ選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597533
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】波形データ選択装置および波形データ選択方法
(51)【国際特許分類】
   G10H 7/00 20060101AFI20191021BHJP
   G10H 7/02 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G10H7/00 608
   G10H7/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-177892(P2016-177892)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-44998(P2018-44998A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−091460(JP,A)
【文献】 特開2012−133056(JP,A)
【文献】 特開平07−225579(JP,A)
【文献】 特開平07−271372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏操作子の操作により発生する発音指示に基づいて波形データを出力する音源に用いられる波形データ選択装置であって、
1つの音色について、演奏操作子の操作時に得られるパラメータが複数のパラメータ範囲として複数の範囲に区分され、前記複数のパラメータ範囲にそれぞれ波形データセットが対応付けられ、各波形データセットは複数種類の波形データを含み、隣接するパラメータ範囲にそれぞれ対応する波形データセット内の複数種類の波形データの一部は互いに重複し、
今回の発音指示に基づく第1のパラメータ値と前回の発音指示に基づく第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち隣接するパラメータ範囲に属するか否かを判定する判定手段と、
前記第1のパラメータ値と前記第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データと重複する波形データを選択する選択手段とを備える、波形データ選択装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記第1のパラメータ値と前記第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前記重複する波形データのうち前回選択した波形データと異なる波形データを選択する、請求項1記載の波形データ選択装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記第1のパラメータ値と前記第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち同じパラメータ範囲に属するか否かをさらに判定し、
前記選択手段は、前記第1のパラメータ値と前記第2のパラメータ値とが同じパラメータ範囲に属すると判定された場合に、前回の発音指示と同じ波形データセット内で波形データを選択する、請求項1または2記載の波形データ選択装置。
【請求項4】
演奏操作子の操作により発生する発音指示に基づいて波形データを出力する音源に用いられる波形データ選択方法であって、
1つの音色について、演奏操作子の操作時に得られるパラメータが複数のパラメータ範囲として複数の範囲に区分され、前記複数のパラメータ範囲にそれぞれ波形データセットが対応付けられ、各波形データセットは複数種類の波形データを含み、隣接するパラメータ範囲にそれぞれ対応する波形データセット内の複数種類の波形データの一部は互いに重複し、
今回の発音指示に基づく第1のパラメータ値と前回の発音指示に基づく第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち隣接するパラメータ範囲に属するか否かを判定するステップと、
前記第1のパラメータ値と前記第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データと重複する波形データを選択するステップとを含む、波形データ選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源に用いられる波形データ選択装置および波形データ選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波形メモリ音源方式の電子音楽装置では、波形メモリに音色および音域に応じて異なる波形データが記憶されている。発音指示が発生すると、指示された音色および音高に応じた波形データが選択される。同じ音色および同じ音高の発音指示が連続した場合、同じ波形データが選択されると、機械的に正確すぎる発音が行われる。そのため、電子音楽装置により発生される音が不自然に聞こえることがある。
【0003】
そこで、特許文献1に記載された電子音楽装置では、所定の音色について、複数の異なる波形データセットが記憶装置に記憶される。各波形データセットは、音域およびベロシティの範囲の組み合わせに応じて異なる波形データを含む。この電子音楽装置では、今回の発音指示による音高およびベロシティの範囲が前回の発音指示による音高およびベロシティの範囲と一致する場合には、前回の発音指示により選択された波形データセットとは異なる波形データセット内において今回指示されている音高およびベロシティ範囲に対応する波形データが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4238807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
演奏操作子として鍵盤を有する電子音楽装置では、使用者が鍵盤を操作することによりピアノの音色の発音を行うことができる。また、鍵盤の特定の複数の鍵にドラムセットを構成する複数の楽器の音色がそれぞれ割り当てられている。ピアノの音色で演奏を行う場合には、使用者は鍵盤へのタッチを調整しながら演奏を行うため、結果的に発音のベロシティはばらつくことになる。一方、使用者が電子音楽装置においてドラムセットの一の楽器に割り当てられた鍵を複数回続けて叩く場合には、タッチを意識しない傾向がある。
【0006】
上記の従来の電子音楽装置では、使用者が同じ音高でかつ同じベロシティの発音を続けて行った場合でも、異なる波形データに基づく音が続けて発生される。また、例えば、使用者がタッチを意識せずにドラムセットの一の楽器に割り当てられた鍵を複数回続けて叩いた場合に、使用者が意図しないでベロシティがわずかに変化することにより、異なる波形データに基づく発音が続けて行われることがある。このような場合、音が不自然に変化し、違和感が生じる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、データ量の増加を抑制しつつ自然な流れの発音を可能とする波形データ選択装置および波形データ選択方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る波形データ選択装置は、演奏操作子の操作により発生する発音指示に基づいて波形データを出力する音源に用いられる波形データ選択装置であって、1つの音色について、演奏操作子の操作時に得られるパラメータが複数のパラメータ範囲として複数の範囲に区分され、複数のパラメータ範囲にそれぞれ波形データセットが対応付けられ、各波形データセットは複数種類の波形データを含み、隣接するパラメータ範囲にそれぞれ対応する波形データセット内の複数種類の波形データの一部は互いに重複し、今回の発音指示に基づく第1のパラメータ値と前回の発音指示に基づく第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち隣接するパラメータ範囲に属するか否かを判定する判定手段と、第1のパラメータ値と第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データと重複する波形データを選択する選択手段とを備える。
【0009】
その波形データ選択装置によれば、使用者が前回の発音指示および今回の発音指示の際に同じ操作を続けて行い、意図せずに今回の操作時の第1のパラメータ値が前回の操作時の第2のパラメータ値とわずかに異なった場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データと重複する波形データが選択される。この場合、今回の発音指示に基づいて選択された波形データは、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データでもあるため、聴感上自然な音の発生が可能となり、聴者に違和感が生じない。また、隣接する波形データセットが重複する波形データを含むので、波形データの量の削減が可能である。その結果、データ量の増加を抑制しつつ自然な流れの発音が可能となる。
【0010】
選択手段は、第1のパラメータ値と第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、重複する波形データのうち前回選択した波形データと異なる波形データを選択してもよい。
【0011】
この場合、使用者が前回の発音指示および今回の発音指示の際に同じ操作を続けて行い、意図せずに今回の操作時の第1のパラメータ値が前回の操作時の第2のパラメータ値とわずかに異なった場合に、同じ波形データに基づく発音が続けて行われず、わずかに異なる発音が続けて行われる。それにより、機械的な発音ではない自然な発音が可能となる。
【0012】
判定手段は、第1のパラメータ値と第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち同じパラメータ範囲に属するか否かをさらに判定し、選択手段は、第1のパラメータ値と第2のパラメータ値とが同じパラメータ範囲に属すると判定された場合に、前回の発音指示と同じ波形データセット内で波形データを選択してもよい。この場合、使用者が意図的に続けて同じ操作を行った場合に同一または類似の発音が可能となる。
【0013】
本発明に係る波形データ選択方法は、演奏操作子の操作により発生する発音指示に基づいて波形データを出力する音源に用いられる波形データ選択方法であって、1つの音色について、演奏操作子の操作時に得られるパラメータが複数のパラメータ範囲として複数の範囲に区分され、複数のパラメータ範囲にそれぞれ波形データセットが対応付けられ、各波形データセットは複数種類の波形データを含み、隣接するパラメータ範囲にそれぞれ対応する波形データセット内の複数種類の波形データの一部は互いに重複し、今回の発音指示に基づく第1のパラメータ値と前回の発音指示に基づく第2のパラメータ値とが複数のパラメータ範囲のうち隣接するパラメータ範囲に属するか否かを判定するステップと、第1のパラメータ値と第2のパラメータ値とが隣接するパラメータ範囲に属すると判定された場合に、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセット内の波形データと重複する波形データを選択するステップとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、データ量の増加を抑制しつつ自然な流れの発音が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る波形データ選択装置を含む電子音楽装置の構成を示すブロック図である。
図2】対応関係テーブルの一例を示す模式図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る波形データ選択装置の機能的な構成を示すブロック図である。
図4】波形データ選択装置による波形データ選択処理を示すフローチャートである。
図5】波形データの選択の一例を示す模式図である。
図6】波形データの選択の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る波形データ選択装置および波形データ選択方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
(1)電子音楽装置の構成
図1は本発明の一実施の形態に係る波形データ選択装置を含む電子音楽装置の構成を示すブロック図である。図1の電子音楽装置1によれば、ユーザは演奏を行うことができるとともに楽曲の制作等の音楽制作を行うことができる。また、電子音楽装置1は、音源16で用いられる波形データを選択するための波形データ選択装置100を含む。
【0018】
電子音楽装置1は、演奏操作子2、入力I/F(インタフェース)3、設定操作子4、検出回路5、ディスプレイ6および表示回路7を備える。演奏操作子2は、鍵盤またはドラムパッド等を含む。電子ドラムセット(ドラムキット)は、バスドラム、スネアドラム、タムタム、フロアタム、ハイハットシンバル、クラッシュシンバルおよびライドシンバル等の複数のリズム楽器により構成される。演奏操作子2が鍵盤である場合には、鍵盤の複数の特定の鍵に電子ドラムセットの複数のリズム楽器の音色がそれぞれ割り当てられる。なお、鍵盤の特定の鍵に効果音の音色が割り当てられてもよい。演奏操作子2がドラムパッドである場合には、ドラムパッドの複数のパッドに電子ドラムセットの複数のリズム楽器の音色がそれぞれ割り当てられる。また、演奏操作子2が電子ドラムセットのペダル等のMIDI(Musical Instrument Digital Interface)コントローラを含んでもよく、タッチパネルディスプレイの画面に表示される鍵盤、ドラムパッドまたは複数の音符の表示等のGUI(Graphical User Interface)を含んでもよい。演奏操作子2は入力I/F3を介してバス19に接続され、ユーザの演奏動作に基づく演奏データが演奏操作子2により入力される。演奏データは発音指示(ノートオンイベント)を含む。発音指示は、音高(ピッチ)、ベロシティ等を含む。
【0019】
設定操作子4は、オンオフ操作されるスイッチ、回転操作されるロータリエンコーダ、またはスライド操作されるリニアエンコーダ等を含み、検出回路5を介してバス19に接続される。この設定操作子4は、音量の調整、電源のオンオフおよび各種設定を行うために用いられる。
【0020】
ディスプレイ6は、表示回路7を介してバス19に接続される。ディスプレイ6には各種情報が表示される。ディスプレイ6がタッチパネルディスプレイであってもよい。この場合、上記の演奏操作子2がタッチパネルディスプレイの画面上にGUIとして表示されてもよい。
【0021】
電子音楽装置1は、RAM(ランダムアクセスメモリ)9、ROM(リードオンリメモリ)10、CPU(中央演算処理装置)11、タイマ12および記憶装置13をさらに備える。RAM9、ROM10、CPU11および記憶装置13はバス19に接続され、タイマ12はCPU11に接続される。外部記憶装置15等の外部機器が通信I/F(インタフェース)14を介してバス19に接続されてもよい。RAM9、ROM10、CPU11およびタイマ12がコンピュータを構成する。
【0022】
RAM9は、例えば揮発性メモリからなり、CPU11の作業領域として用いられるとともに、各種データを一時的に記憶する。ROM10は、例えば不揮発性メモリからなり、システムプログラムおよび波形データ選択プログラム等のコンピュータプログラムを記憶する。CPU11は、ROM10に記憶された波形データ選択プログラムをRAM9上で実行することにより後述する波形データ選択処理を行う。タイマ12は、現在時刻等の時間情報をCPU11に与える。
【0023】
記憶装置13は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。この記憶装置13には、一または複数の楽曲データが記憶される。楽曲データは、楽曲を表す音響信号(オーディオデータ)である。ここで、音響信号は、音の変化を表す波形信号を所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより得られる複数のサンプリング値からなる。演奏操作子2から入力される演奏データに基づいて楽曲データが生成され、記憶装置13に記憶されてもよい。上記の波形データ選択プログラムが記憶装置13に記憶されてもよい。
【0024】
外部記憶装置15は、記憶装置13と同様に、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含み、楽曲データ等の各種データまたは波形データ選択プログラムを記憶してもよい。
【0025】
なお、本実施の形態における波形データ選択プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納された形態で提供され、ROM10または記憶装置13にインストールされてもよい。また、通信I/F14が通信網に接続されている場合、通信網に接続されたサーバから配信された波形データ選択プログラムがROM10または記憶装置13にインストールされてもよい。
【0026】
電子音楽装置1は、音源16、効果回路17およびサウンドシステム18をさらに備える。音源16および効果回路17はバス19に接続され、サウンドシステム18は効果回路17に接続される。音源16は、音色、音域、ベロシティ等に応じて異なる複数の波形データを記憶する波形メモリを有する。この音源16は、演奏操作子2から入力される演奏データ、記憶装置13から与えられる楽曲データ等に基づいて波形メモリに記憶された波形データを選択し、選択した波形データを用いて楽音信号を生成する。音色は楽器の種類ごとに異なる。効果回路17は、音源16により生成される楽音信号に音響効果を付与する。
【0027】
サウンドシステム18は、デジタルアナログ(D/A)変換回路、増幅器およびスピーカを含む。このサウンドシステム18は、音源16から効果回路17を通して与えられる楽音信号をアナログ音信号に変換し、アナログ音信号に基づく音を発生する。それにより、楽音信号が再生される。電子音楽装置1において、主としてRAM9、ROM10、CPU11および記憶装置13が波形データ選択装置100を構成する。
【0028】
(2)対応関係テーブル
図1の波形データ選択装置100は対応関係テーブルを含む。演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの全範囲が複数のパラメータ範囲に区分されている。対応関係テーブルは、各音色について、複数のパラメータ範囲と複数の波形データセットとの対応関係および各波形データセットに属する複数の波形データを示している。対応関係テーブルには、波形データを特定するための情報が格納され、実際の波形データは音源16の波形メモリに記憶されている。本実施の形態では、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータは、発音指示に含まれるベロシティである。
【0029】
図2は対応関係テーブル一例を示す模式図である。ベロシティの全範囲が複数のベロシティ範囲に区分される。本例では、ベロシティは0から127までの値を有し、ベロシティの全範囲がベロシティ範囲V1〜V8に区分される。複数のベロシティ範囲V1〜V8に複数の波形データセットS1〜S8がそれぞれ対応付けられる。波形データセットS1は波形データDa〜Deを含み、波形データセットS2は波形データDe〜Diを含み、波形データセットS3は波形データDh〜Dlを含む。波形データセットS4は波形データDk〜Doを含み、波形データセットS5は波形データDo〜Dsを含む。波形データセットS8は波形データDx〜Dzを含む。
【0030】
隣接するベロシティ範囲は、互いに重複した1または複数の波形データを含む。例えば、波形データセットS1および波形データセットS2は、共通の波形データDeを含み、波形データセットS2および波形データセットS3は共通の波形データDh,Diを含む。また、波形データセットS3および波形データセットS4は共通の波形データDk,Dlを含み、波形データセットS4および波形データセットS5は共通の波形データDoを含む。以下、隣接するベロシティ範囲が共通に含む1または複数の波形データを重複波形データと呼ぶ。図2において、重複波形データが実線の矩形、点線の楕円、太線の矩形および実線の楕円で示される。
【0031】
同じ波形データセットに属する複数の波形データは、音色が異なると感じられない程度の相違を有する。具体的には、複数の波形データ間で時間軸に沿った音高、音量および周波数成分の変動のうち少なくとも1つが異なる。例えば、時間軸に沿った音高の一方向の変化または揺らぎ等の動きが異なる。一例として、一の波形データは安定した音高を有し、他の波形データは安定で揺らぎのある音高を有し、さらに他の波形データは異なる揺らぎのある音高を有する。また、時間軸に沿った音量または周波数成分の変動が異なっていてもよい。さらに、音高、音量および周波数成分の変動の組み合わせが異なっていてもよい。上記のように相違する複数の波形データは、例えば、自然楽器による演奏音をアナログ信号として録音し、録音したアナログ信号をアナログデジタル変換することにより得られる。例えば、ドラムを同じ強さで叩いた場合、叩き具合のわずかな相違により音高、音量または周波数成分の変動が異なる複数のサンプリングデータが得られる。得られた複数のサンプリングデータから特徴的なサンプリングデータを抽出し、抽出したサンプリングデータをそのまま波形データとして、または加工後に波形データとして音源16の波形メモリに記憶する。
【0032】
各波形データセット内の重複波形データを除く波形データは、他の波形データセット内の重複波形データを除く波形データと異なる。各波形データセット内の複数の波形データ間の聴感上の相違の程度は、重複波形データを除いて異なる複数の波形データセット間の波形データの聴感上の相違の程度より小さい。
【0033】
(3)波形データ選択装置100の機能的な構成
図3は本発明の一実施の形態に係る波形データ選択装置100の機能的な構成を示すブロック図である。図3に示すように、波形データ選択装置100は、対応関係テーブル110、ベロシティ取得部120、ベロシティ範囲特定部130、波形データセット選択部140、情報記憶部150、判定部160および波形データ選択部170を含む。波形データ選択装置100の各部の機能は、図1のCPU11がROM10または記憶装置13に記憶された波形データセット選択プログラムを実行することにより実現される。
【0034】
対応関係テーブル110は、音色ごとに予め作成され、図1のROM10または記憶装置13に記憶される。例えば、電子ドラムセットを構成する各リズム楽器は単一の音高および音色を有し、リズム楽器の種類ごとに音色が異なる。そのため、リズム楽器の種類ごとに作成された対応関係テーブル110が用いられる。
【0035】
ベロシティ取得部120は、図1の演奏操作子2の操作により発生される発音指示(ノートオンイベント)NOに含まれるベロシティの値を取得する。ベロシティ範囲特定部130は、複数のベロシティ範囲のうち取得されたベロシティの値が属するベロシティ範囲を特定する。以下、今回の発音指示に基づいて特定されたベロシティ範囲を今回ベロシティ範囲と呼び、前回の発音指示に基づいて特定されたベロシティ範囲を前回ベロシティ範囲と呼ぶ。波形データセット選択部140は、対応関係テーブル110に基づいて、今回ベロシティ範囲に対応する波形データセットを選択する。情報記憶部150は、前回ベロシティ範囲を示す前回ベロシティ範囲情報および前回の発音指示に基づいて選択された波形データを示す前回波形データ情報を記憶する。情報記憶部150は、図1のROM10または記憶装置13により構成される。
【0036】
判定部160は、情報記憶部150に記憶された前回ベロシティ範囲情報に基づいて前回ベロシティ範囲を特定し、今回ベロシティ範囲が前回ベロシティ範囲と一致するか否かおよび今回ベロシティ範囲と前回ベロシティ範囲とが隣接するか否かを判定する。波形データ選択部170は、判定部160の判定結果および情報記憶部150に記憶された前回波形データ情報に基づいて、波形データセット選択部140により選択された波形データセット内における一の波形データを選択し、選択した波形データを示す波形データ選択信号SELを図1の音源16に与える。波形データの選択方法の詳細については後述する。音源16は、波形データ選択信号SELにより示される波形データを用いて楽音信号を生成する。
【0037】
(4)波形データ選択装置100の動作
図4は波形データ選択装置100により行われる波形データ選択処理を示すフローチャートである。図4の波形データ選択処理は、図1のCPU11がROM10または記憶装置13に記憶された波形データ選択プログラムを実行することにより行われる。
【0038】
ベロシティ取得部120は、発音指示NOが発生したか否かを判定する(ステップS1)。発音指示NOが発生した場合には、ベロシティ取得部120は発音指示NOに含まれるベロシティの値を取得する(ステップS2)。ベロシティ範囲特定部130は、対応関係テーブル110に基づいて、ベロシティ取得部120により取得されたベロシティの値が属するベロシティ範囲を今回ベロシティ範囲として特定する(ステップS3)。波形データセット選択部140は、今回ベロシティ範囲に対応する波形データセットを選択する(ステップS4)。ここで、情報記憶部150は、前回ベロシティ範囲情報を記憶している。
【0039】
判定部160は、情報記憶部150に記憶された前回ベロシティ範囲情報に基づいて前回ベロシティ範囲を特定し、ベロシティ範囲特定部130により特定された今回ベロシティ範囲が前回ベロシティ範囲と一致するか否かを判定する(ステップS5)。今回ベロシティ範囲が前回ベロシティ範囲と一致する場合には、波形データ選択部170は、波形データセット選択部140により選択された波形データセット内において予め設定された選択方法で1つの波形データを選択し(ステップS6)、ステップS1に戻る。
【0040】
同じ波形データセットが続けて選択された場合には、第1〜第4の選択方法のうち予め設定された選択方法により波形データが選択される。第1の選択方法としては、今回選択された波形データセット内で記憶順に波形データが選択され、他の波形データセットが選択された後に再び上記の波形データセットが選択された場合には先頭に記憶された波形データから順に波形データが選択される。第2の選択方法としては、第1の選択方法と同様に、今回選択された波形データセット内で記憶順に波形データが選択され、休符により発音指示が発生しない場合には当該波形データセット内の先頭に記憶された波形データから順に波形データが選択される。第3の選択方法としては、今回選択された波形データセット内で波形データがランダムに選択される。第4の選択方法としては、今回選択された波形データセット内で波形データがランダムに選択されるが、2回続けて同じ波形データは選択されない。
【0041】
ステップS5において今回ベロシティ範囲が前回ベロシティ範囲と一致しない場合には、判定部160は、今回ベロシティ範囲と前回ベロシティ範囲とが隣接するか否かを判定する(ステップS7)。今回ベロシティ範囲と前回ベロシティ範囲とが隣接する場合には、波形データ選択部170は、波形データセット選択部140により選択された波形データセット内の一の重複波形データを選択し(ステップS8)、ステップS1に戻る。この場合に選択されるべき重複波形データは、前回ベロシティ範囲に対応する波形データセットと共通の重複波形データである。
【0042】
ステップS7において今回ベロシティ範囲と前回ベロシティ範囲とが隣接しない場合には、波形データ選択部170は、波形データセット選択部140により選択された波形データセット内の一の波形データを選択し(ステップS9)、ステップS1に戻る。
【0043】
この場合には、今回選択された波形データセット内での波形データの選択方法は限定されない。例えば、当該波形データセット内で最後に選択された波形データが選択されてもよく、予め定められた波形データが選択されてもよく、予め定められた順序で波形データが選択されてもよく、ランダムに波形データが選択されてもよい。
【0044】
図5は波形データの選択の一例を示す模式図であり、図6は波形データの選択の他の例を示す模式図である。図5の例では、1番目、2番目および3番目の発音指示NO1,NO2,NO3によるベロシティの値がベロシティ範囲V4にそれぞれ属する。それにより、同じ波形データセットS4内の波形データDk、波形データDlおよび波形データDmが順に選択される。次に、4番目の発音指示NO4によるベロシティの値がベロシティ範囲V5に属する。この場合、ベロシティ範囲V5はベロシティ範囲V4に隣接するので、ベロシティ範囲V5に対応する波形データセットS5内の重複波形データDoが選択される。さらに、5番目および6番目の発音指示NO5,NO6によるベロシティの値がベロシティ範囲V5にそれぞれ属する。それにより、同じ波形データセットS5内の波形データDpおよび波形データDqが順に選択される。
【0045】
図6の例では、図5の例と同様に、1番目、2番目および3番目の発音指示NO1,NO2,NO3に基づいて同じ波形データセットS4内の波形データDk、波形データDlおよび波形データDmが順に選択される。次に、4番目の発音指示NO4によるベロシティの値がベロシティ範囲V3に属する。この場合、ベロシティ範囲V3はベロシティ範囲V4に隣接するので、ベロシティ範囲V3に対応する波形データセットS3内の重複波形データDk,Dlのうち一の重複波形データDlが選択される。さらに、5番目の発音指示NO5によるベロシティの値もベロシティ範囲V3に属する。この場合、波形データセットS3内の重複波形データDk,Dlのうち既に選択された重複波形データDlとは異なる重複波形データDkが選択される。さらに、6番目の発音指示NO6によるベロシティの値もベロシティ範囲V3に属する。この場合、波形データセットS3内の波形データDjが選択される。なお、4番目の発音指示NO4に基づいて重複波形データDlが選択された後、5番目の発音指示NO5に基づいて波形データセットS3内の1番目の波形データDhが選択されてもよく、6番目の発音指示NO6に基づいて波形データセットS3内の2番目の波形データDiまたは他の波形データDj,Dk,Dlのいずれかが選択されてもよい。
【0046】
(5)実施の形態の効果
使用者が演奏操作子2により続けて同じ演奏操作を行った場合に意図せずに今回の操作時のベロシティの値が前回の操作時のベロシティの値とわずかに異なり、今回のベロシティの値と前回のベロシティの値とが隣接するベロシティ範囲に属することがある。このような場合、波形データ選択装置100によれば、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回の発音指示に対応する波形データセットと共通の重複波形データが選択される。この場合、今回の発音指示に基づいて選択された重複波形データは、前回の発音指示に対応する波形データセット内の重複波形データでもあるため、聴感上自然な音の発生が可能となり、聴者に違和感が生じない。また、隣接する波形データセットが共通の重複波形データを含むので、波形データの量の削減が可能である。その結果、データ量の増加を抑制しつつ自然な流れの発音が可能となる。
【0047】
また、今回の発音指示に対応する波形データセット内において、前回選択された波形データと異なる重複波形データが選択されるので、わずかに異なる発音が続けて行われる。それにより、機械的な発音ではない自然な発音が可能となる。
【0048】
(6)他の実施の形態
複数のベロシティ範囲の区分数または各ベロシティ範囲の長さは上記実施の形態に限定されず、任意に設定可能である。また、使用者が設定操作子4を用いることにより複数のベロシティ範囲の区分数または各ベロシティ範囲の長さを任意に設定および変更可能であってもよい。
【0049】
各波形データセット内の重複波形データの数および種類は上記実施の形態に限定されず、ベロシティ範囲にごとに任意に設定可能である。また、使用者が設定操作子4を用いることにより波形データセット内の重複波形データの数および種類を任意に設定および変更可能であってもよい。
【0050】
上記実施の形態では、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値がベロシティの値であるが、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値はこれに限定されない。例えば、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値が電子ドラムセットのペダル等のMIDIコントローラから与えられるコントロールチェンジの値であってもよい。この場合のコントロールチェンジの値はペダルの位置を示す。具体的には、演奏操作子2が電子ドラムセットのハイハットシンバルのペダルである場合、パラメータの値がハイハットシンバルの開き具合を制御するためのコントロールチェンジの値であってもよい。この場合、パラメータの全範囲が複数のパラメータ範囲に区分され、複数のパラメータ範囲にそれぞれ異なる波形データセットが対応付けられる。
【0051】
また、演奏操作子2がドラムパッドである場合、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値がドラムパッドの叩く位置または座標を示すコントロールチェンジの値であってもよい。この場合にも、パラメータの全範囲が複数のパラメータ範囲に区分され、複数のパラメータ範囲にそれぞれ異なる波形データセットが対応付けられる。例えば、使用者がドラムパッドの中央部を叩いたときのパラメータの値が属するパラメータ範囲、ドラムパッドの周縁部を叩いたときのパラメータの値が属するパラメータ範囲等にそれぞれ異なる波形データセットが対応付けられる。
【0052】
さらに、演奏操作子2に圧力センサが設けられ、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値が圧力センサにより得られる圧力情報の値であってもよい。この場合にも、複数のパラメータ範囲にそれぞれ異なる波形データセットが対応付けられる。また、演奏操作子2の操作時に得られるパラメータの値が発音指示(ノートオンイベント)から発音終了指示(ノートオフイベント)までの時間幅であってもよい。この場合、複数の時間幅に比較的短い波形データを含む波形データセットおよび緩やかに減衰する波形データを含む波形データセット等がそれぞれ対応付けられる。
【0053】
本発明に係る波形データ選択装置および波形データ選択方法は、リズム楽器等の楽器に限らず、効果音の発生にも適用可能である。上記実施の形態では、波形データ選択装置100が電子音楽装置1に設けられているが、波形データ選択装置100がパーソナルコンピュータ、スマートデバイス(smart device)、ゲーム機器等の電子機器に適用されてもよい。上記実施の形態に係る波形データ選択装置100は、CPU11等のハードウエアおよび波形データ選択プログラム等のソフトウエアにより実現されるが、図3の波形データ選択装置100の各構成要素が電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0054】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記実施の形態では、判定部160が判定手段の例であり、波形データ選択部170が選択手段の例である。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…電子音楽装置、2…演奏操作子、3…入力I/F、4…設定操作子、5…検出回路、6…ディスプレイ、7…表示回路、9…RAM、10…ROM、11…CPU、12…タイマ、13…記憶装置、14…通信I/F、15…外部記憶装置、16…音源、17…効果回路、18…サウンドシステム、19…バス、100…波形データ選択装置、110…対応関係テーブル、120…ベロシティ取得部、130…ベロシティ範囲特定部、140…波形データセット選択部、150…情報記憶部、160…判定部、170…波形データ選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6