(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、電子部品と導電膜との間に設けられる樹脂フィルムが熱伝導性を有する材料で形成されていない。そのため、例えば、電子部品がインダクタの場合、インダクタで発生した熱が樹脂フィルムによって放熱され難く、インダクタの温度が上昇するおそれがある。これにより、設計上、インダクタの自己温度上昇に基づく定格電流の低下につながるおそれがある。
【0008】
一方、特許文献2に開示の技術では、電子部品を覆う熱収縮絶縁構造が熱伝導性材料を含む絶縁材料によって形成されているので、放熱性を有している。しかしながら、特許文献2に開示の技術では、基板上の電子部品を覆うように絶縁材料を堆積させることで熱収縮絶縁構造が形成され、その熱収縮絶縁構造上に遮蔽材料を堆積させることで導電性コーティングが形成されているので、熱収縮絶縁構造や導電性コーティングの厚みが必要以上に厚くなるおそれがある。また、特許文献2に開示の技術では、基板上の全ての電子部品を覆うように熱収縮絶縁構造や導電性コーティングが設けられている。そのため、このような熱収縮絶縁構造や導電性コーティングを設けることで、大型化するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、金属磁性材料からなるコアを備えるインダクタにおいて、シールド部材によるノイズ抑制効果を有するとともに、シールド部材とインダクタのコアとの間の絶縁性および放熱性を確保し、小型化が可能なインダクタ、および、DC−DCコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るインダクタは、基板に実装されるインダクタであって、金属磁性材料からなるコアと、コアに巻回される巻線と、巻線の各端部にそれぞれ接続され、コアに設けられる一対の外部電極と、基板のグランドに電気的に接続され、コアの上面と3面以上の側面を覆うように配設されるシールド部材と、コアとシールド部材との間に配設され、熱伝導性を有する絶縁部材と、を備え、シールド部材の厚みは、当該シールド部材の電気抵抗率と、当該シールド部材の透磁率と、当該シールド部材によってシールドしたいノイズの周波数とを、表皮効果の表皮の深さを求める式に適用することで設定され、絶縁部材の厚みは、当該絶縁部材の絶縁破壊電圧と、インダクタの使用環境下において絶縁部材によって絶縁を確保したい電圧とに基づいて設定されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るインダクタでは、コアの上面と3面以上の側面を覆うようにシールド部材が設けられ、このシールド部材が基板のグランドに接続されている。このシールド部材により、インダクタで発生したノイズが遮蔽され、外部に放射されるノイズが抑制される。また、本発明に係るインダクタでは、このシールド部材とコアとの間に熱伝導性を有する絶縁部材が設けられている。この絶縁部材により、金属磁性材料からなるコアとシールド部材との絶縁性が確保される。また、絶縁部材が熱伝導性を有しているので、コアとシールド部材との間の放熱性が確保される。特に、本発明に係るインダクタでは、シールド部材の厚みが表示効果の表皮の深さを求める式にシールドしたいノイズの周波数を適用することで設定されているので、シールドしたい周波数のノイズに対する抑制効果を発揮しつつ、シールド部材の厚みを薄くすることができる。また、本発明に係るインダクタでは、絶縁部材の厚みが絶縁破壊電圧と絶縁を確保したい電圧に基づいて設定されているので、絶縁を確保したい電圧に対する絶縁性を確保しつつ、絶縁部材の厚みを薄くすることができる。これにより、シールド部材と絶縁部材を備えるインダクタを小型化することができる。このように、本発明に係るインダクタによれば、金属磁性材料からなるコアを備えるインダクタにおいて、シールド部材によるノイズ抑制効果を有するとともに、シールド部材とインダクタのコアとの間の絶縁性および放熱性を確保し、小型化が可能となる。
【0012】
本発明に係るインダクタでは、シールド部材は、50[μm]〜200[μm]の範囲内の厚みを有することが好ましい。このように構成することで、シールドしたいノイズの周波数がAMラジオなどに影響を与える可能性がある周波数を含むので、シールド部材の厚みを抑えつつ、インダクタから放射されるノイズによるAMラジオなどに対する影響を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るインダクタでは、絶縁部材は、1[μm]〜100[μm]の範囲内の厚みを有することが好ましい。このように構成することで、自動車などでインダクタが使用される場合に絶縁を確保したい電圧が自動車などで用いられる可能性がある電源の電圧を含むので、絶縁部材の厚みを抑えつつ、自動車などで使用される場合にシールド部材とコアとの間の絶縁性を確保することできる。
【0014】
本発明に係るインダクタでは、外部電極は、コアの下面に設けられ、シールド部材と絶縁部材は、コアの上面と全側面に配設されることが好ましい。このように構成することで、インダクタで発生した各方向のノイズをシールド部材で遮断でき、外部に放射されるノイズの抑制効果を向上させることができる。
【0015】
本発明に係るインダクタでは、外部電極は、コアの任意の側面に設けられ、シールド部材と絶縁部材は、コアの上面と任意の側面以外の側面に配設されることが好ましい。このように構成することで、コアの側面に設けられる外部電極によって基板の配線パターンに接合できるので、外部電極と基板の配線パターンとの接合の信頼性を向上させることができる。
【0016】
本発明に係るインダクタでは、任意の側面には、外部電極と接触しない部分にシールド部材と絶縁部材が配設されることが好ましい。このように構成することで、インダクタで発生した任意の側面側へのノイズもシールド部材で可能な限り遮断でき、外部に放射されるノイズの抑制効果を向上させることができる。
【0017】
本発明に係るDC−DCコンバータは、スイッチング素子と、スイッチング素子に電気的に接続されたパワーインダクタと、パワーインダクタに電気的に接続された平滑用のコンデンサと、を備え、パワーインダクタは、上述した何れかのインダクタであることを特徴とする。本発明に係るDC−DCコンバータによれば、パワーインダクタとして上述したシールド部材と絶縁部材を備えるインダクタを用いているので、シールド部材によってパワーインダクタから発生したノイズに対する抑制効果を有するとともに、シールド部材とパワーインダクタのコアとの間の絶縁性および放熱性を確保し、小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属磁性材料からなるコアを備えるインダクタにおいて、シールド部材によるノイズ抑制効果を有するとともに、シールド部材とインダクタのコアとの間の絶縁性および放熱性を確保し、小型化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0021】
実施形態では、使用環境が自動車で使用される場合の環境であり、本発明に係るインダクタを自動車の電子装置の電源回路として用いられるDC−DCコンバータのインダクタ(パワーインダクタ)に適用する。以下の説明では、2つの実施形態について説明する。なお、使用環境は、インダクタが使用される対象における環境(特に、電圧に関する環境)である。
【0022】
(第1実施形態)
図1〜
図3を参照して、第1実施形態に係るインダクタ1について説明する。
図1は、第1実施形態に係るインダクタ1の構成を模式的に示す断面図である。
図2は、第1実施形態に係るインダクタ1の外観を模式的に示す図であり、(a)が側面図であり、(b)が平面図であり、(c)が底面図である。
図3は、第1実施形態に係るインダクタ1を備えるDC−DCコンバータ4の回路図である。なお、
図1には、インダクタ1と、このインダクタ1が実装される基板5の一部を示している。
【0023】
インダクタ1は、DC−DCコンバータ4の電子部品の一つとして用いられるパワーインダクタである。このインダクタ1を含むDC−DCコンバータ4は、基板5に実装される。インダクタ1について具体的に説明する前に、
図3を参照して、DC−DCコンバータ4について説明しておく。
【0024】
DC−DCコンバータ4は、例えば、電源40から入力される任意の直流電圧を所望の直流電圧に降圧(変換)し、この降圧した電圧を電気負荷50に出力する。DC−DCコンバータ4は、例えば、自動車の電子装置の電源回路として用いられ、電源40(バッテリ)の12Vを5Vに降圧して電気負荷50に出力する。DC−DCコンバータ4は、チョッパ方式(スイッチング方式)のDC−DCコンバータである。
【0025】
DC−DCコンバータ4は、例えば、
図3に示すように、入力側のコンデンサ4a、スイッチング素子4b、ダイオード4cと、インダクタ1と、出力側のコンデンサ4dとを備えており、これらの電子部品が基板5に実装されている。基板5には、配線パターン(グランドパターン、電源パターン、信号パターン)が形成されている。スイッチング素子4bは、コントローラ(図示せず)などによってスイッチング制御されて、所定のスイッチング周波数に応じてON/OFFする。スイッチング素子4bとしては、例えば、MOSFETが好適に用いられる。スイッチング素子4bのスイッチング周波数は、例えば、100[kHz]〜400[kHz]である。
【0026】
このDC−DCコンバータ4の動作について説明する。スイッチング素子4bがONすると、インダクタ1に電流が流入する。このとき、インダクタ1は、自己誘導作用により、流入する電流を妨げるように起電力を発生してエネルギを蓄える。スイッチング素子4bがOFFすると、インダクタ1への電流の流入が停止する。このとき、インダクタ1は、電流を維持しようとして、蓄えたエネルギを出力側に電流として流す。このスイッチングによる電圧は、コンデンサ4dによって平滑化されて、電気負荷50に出力される。
【0027】
このように動作するDC−DCコンバータ4において、スイッチング素子4bでのスイッチングに応じて、インダクタ1からノイズ(電界のノイズ、磁界のノイズ)を発生する。このノイズが外部に放射されると、例えば、DC−DCコンバータ4が自動車で用いられる場合、放射されたノイズが車載のAMラジオなどに伝搬されると、ラジオからの音声に雑音が入るおそれがある。このインダクタ1から外部に放射されるノイズを抑制するために、インダクタ1はシールド機能を有している。それでは、インダクタ1について説明する。
【0028】
インダクタ1は、メタルコンポジットインダタである。インダクタ1は、例えば、巻線タイプのインダクタが好適に用いられる。また、インダクタ1は、積層タイプのインダクタなども用いることができる。インダクタ1は、コア10と、巻線11と、一対の外部電極12,13と、シールド部材14と、絶縁部材15と、を備えている。
【0029】
コア10は、金属磁性材料からなる。コア10は、例えば、直方体形状である。巻線11は、コア10に銅などの導体が巻回されることで形成される。巻線11の両端部は、コア10の下面10aに引き出されている。巻線11は、例えば、縦巻きである。
【0030】
外部電極12,13は、インダクタ1を基板5に実装するための端子電極である。外部電極12,13は、コア10の下面10aに配設されている。外部電極12,13は、導体からなる。外部電極12,13は、例えば、平板状である。一方の外部電極12は、巻線11の一方の端部に電気的に接続されている。この外部電極12は、基板5の上面5aに設けられた電源パターン5bにはんだ5hにより接続されることで、DC−DCコンバータ4のスイッチング素子4bとダイオード4cとの接続点に電気的に接続される。他方の外部電極13は、巻線11の他方の端部に電気的に接続されている。この外部電極13は、基板5の上面5aに設けられた電源パターン5cにはんだ5iにより接続されることで、DC−DCコンバータ4の出力側のコンデンサ4dの一端に電気的に接続される。
【0031】
シールド部材14は、インダクタ1で発生するノイズを遮蔽するための部材である。シールド部材14は、金属材料で形成され、導電性を有している。この金属材料は、例えば、銅である。シールド部材14は、スリットや穴などがない連続した平面状である。シールド部材14は、例えば、金属板が好適に用いられる。また、シールド部材14は、金属箔、金属を蒸着した膜またはフィルムなども用いることができる。なお、コア10が金属磁性材料で形成されているので、シールド部材14とコア10との間を絶縁する必要がある。
【0032】
シールド部材14は、コア10の上面10bおよび4つの側面10c,10d,10e,10fを覆うように配設されている。このように、シールド部材14は、コア10の下面10aを除いた全面を覆っている。但し、インダクタ1が基板5に実装された場合、コア10の下方には、基板5の内部に設けられたグランドプレーン5dが配置されている。シールド部材14は、基板5の上面5aに設けられたグランドパターン5eにはんだ5jにより接続されている。基板5では、このグランドパターン5dがビア5fを介してグランドプレーン5dに電気的に接続されている。
【0033】
特に、シールド部材14の厚みは、ノイズ抑制効果(特に、AMラジオに影響を与えるノイズに対する抑制効果)を発揮できる範囲内で薄くなるように設定されている。このシールド部材14の厚みを設定するために、表皮効果の関係式を用いる。表皮効果とは、高周波電流は周波数が高くなるほど導体の表面に近いところに流れる現象である。例えば、所定の周波数の高周波電流を導体に流した場合、導体の表面から所定の周波数に応じた表皮の深さ内のところで流れ、導体の表面から表皮の深さを超えるとこでは流れない。したがって、シールド部材14は、ノイズを基板5のグランドに落とすために、抑制したいノイズの周波数に応じた表皮の深さ程度の厚みを有していればよい。
【0034】
シールド部材14の厚みは、下記の(式1)により算出される値を用いて設定される。この(式1)は、表皮の深さを求める式である。(式1)におけるt1は、表皮の深さであり、本実施形態ではシールド部材14の厚みである。(式1)におけるρは、導体の電気抵抗率であり、本実施形態ではシールド部材14の電気抵抗率である。(式1)におけるμは、導体の透磁率であり、本実施形態ではシールド部材14の透磁率である。(式1)におけるfは、電流の周波数であり、本実施形態ではシールド部材14によってシールドしたいノイズの周波数である。ちなみに、(式1)における2πfは、電流の角周波数である。
【数1】
【0035】
この(式1)にシールドしたいノイズの周波数fを代入して、シールド部材14の厚みt1を設定する場合、シールドしたいノイズの周波数が低いほどシールド部材14の厚みを厚くする必要があり、この周波数が高いほどシールド部材14の厚みを薄くしてもよい。
【0036】
本実施形態では、インダクタ1を自動車の電子装置のDC−DCコンバータ4のパワーインダクタに適用しているので、インダクタ1から放射される電界ノイズや磁界のノイズが自動車に搭載されるAMラジオに影響を与えないように、シールド部材14の厚みを設定する。上述したようにDC−DCコンバータ4のスイッチング素子4bのスイッチング周波数が100[kHz]〜400[kHz]であるので、シールドしたいノイズ(基本波のノイズ)の下限の周波数を100[kHz]とする。また、AMラジオで使用される周波数帯が500[kHz]〜1800[kHZ]であるので、シールドしたいノイズ(高調波のノイズ)の上限の周波数を1800[kHz]とする。
【0037】
また、例えば、シールド部材14の金属材料として銅を用いた場合、シールド部材14の電気抵抗率ρとして銅の電気抵抗率(=1.68×10
−8[Ωm])を用い、シールド部材14の透磁率μとして銅の透磁率(=1.256×10
−6[H/m])を用いる。この銅の電気抵抗率と透磁率及び下限の周波数の100[kHz]を(式1)に代入してシールド部材14の厚みを求めると、約200[μm]となる。また、銅の電気抵抗率と透磁率及び上限の周波数の1800[kHz]を(式1)に代入してシールド部材14の厚みt1を求めると、約50[μm]となる。
【0038】
シールド部材14の厚みは、この50[μm]〜200[μm]の範囲内の好適な値が設定される。例えば、AMラジオに対して1800[kHz]のノイズの影響が大きい場合には、シールド部材14の厚みを50[μm]まで薄くしても、ノイズ抑制効果が得られる。また、シールド部材14の厚みを200[μm]とした場合、AMラジオに影響を与える可能性のある最も低い周波数のノイズから最も高い周波数のノイズまで、ノイズ抑制効果が得られる。なお、自動車にFMラジオが搭載されている場合、FMラジオではAMラジオよりも高い周波数帯が使用されるので、この50[μm]〜200[μm]の範囲内の厚みのシールド部材14を用いることで、FMラジオに影響を与えるノイズの抑制効果もある。
【0039】
絶縁部材15は、金属磁性材料からなるコア10とシールド部材14との電気的短絡を防止(電気的絶縁を確保)する部材である。また、絶縁部材15は、インダクタ1で発生する熱の放熱性を向上させる部材である。絶縁部材15は、熱伝導性を有する絶縁性材料で形成され、熱伝導性と電気的絶縁性を有している。この熱伝導性を有する絶縁性材料は、熱伝導性を有する樹脂材料であり、例えば、アルミナのフィラーが充填されたエポキシ樹脂である。絶縁部材15は、例えば、シート状のものが好適に用いられる。
【0040】
絶縁部材15は、コア10とシールド部材14との間に配設されている。絶縁部材15は、例えば、コア10の表面に密着した状態で設けられる。絶縁部材15は、シールド部材14が配設される全ての箇所に設けられる。したがって、絶縁部材15は、コア10の下面10aを除いた全面(上面10bおよび4つの側面10c,10d,10e,10f)に設けられる。
【0041】
特に、絶縁部材15の厚みは、絶縁性を十分に確保できる範囲内で薄くなるように設定されている。絶縁部材15の厚みは、絶縁破壊電圧と絶縁を確保できる距離からなる下記の(式2)により算出される。この(式2)におけるt2は、絶縁を確保できる距離であり、本実施形態では絶縁部材15の厚みである。(式2)におけるvは、絶縁を確保できる電圧であり、本実施形態では絶縁部材15によって絶縁を確保したい電圧である。(式2)におけるdは、絶縁破壊電圧であり、本実施形態では絶縁部材15の絶縁破壊電圧である。絶縁破壊電圧は、絶縁部材15の絶縁性材料によって変わる。
【数2】
【0042】
この(式2)に絶縁を確保したい電圧vを代入して、絶縁部材15の厚みt2を設定する場合、絶縁を確保したい電圧vが高いほど絶縁部材15の厚みを厚くする必要があり、この電圧vが低いほど絶縁部材15の厚みを薄くしてもよい。
【0043】
本実施形態では、インダクタ1を自動車の電子装置のDC−DCコンバータ4のパワーインダクタに適用しているので、自動車において使用される電源の電圧に対して絶縁性を確保できるように絶縁部材15の厚みを設定する。自動車には電源として補機用の12V系のバッテリが搭載されるので、この12V系のバッテリを考慮して、絶縁を確保したい下限の電圧を12[V]とする。また、駆動源として電動モータを備える自動車の場合、電動モータの電源として数100[V]程度の高電圧のバッテリが搭載されるので、この電動モータ用のバッテリを考慮して、絶縁を確保したい上限の電圧を1000[V]とする。また、本実施形態では、例えば、絶縁部材15の絶縁性材料が樹脂材料の場合、絶縁破壊電圧は概ね10000〜50000[V/mm]の範囲内となるので、絶縁破壊電圧として10000[V/mm]を用いる。
【0044】
この絶縁を確保したい下限の電圧の12[V]と絶縁破壊電圧の10000[V/mm]を(式2)に代入して絶縁部材15の厚みを求めると、約1[μm]となる。また、絶縁を確保したい上限の電圧の1000[V]と絶縁破壊電圧の10000[V/mm]を(式2)に代入して絶縁部材15の厚みt2を求めると、100[μm]となる。
【0045】
絶縁部材15の厚みは、この1[μm]〜100[μm]の範囲内の好適な値が設定される。例えば、高電圧バッテリが搭載されていない自動車の場合には、絶縁部材15の厚みを1[μm]程度まで薄くしても、絶縁性を確保することができる。一方、高電圧バッテリが搭載され、駆動源として電動モータを備える自動車の場合、絶縁部材15の厚みを100[μm]とすることで、絶縁性を十分に確保することができる。特に、実際に搭載される高電圧バッテリの電圧を考慮して、(式2)を用いて絶縁部材15の厚みを設定することで、100[μm]よりも薄い厚みを設定することができる。
【0046】
インダクタ1におけるシールド部材14の作用について説明する。インダクタ1では、スイッチング素子4bで所定のスイッチング周波数でスイッチングしているときに、電界のノイズや磁界のノイズを発生する。このインダクタ1のコア10の周囲には基板5のグランドに接続されたシールド部材14が設けられているので、このシールド部材14によって電界のノイズや磁界のノイズが遮蔽される。特に、スリットや穴のない連続したシールド部材14が設けられているので、磁界のノイズが遮蔽される。これにより、インダクタ1の外部に放射される電界のノイズや磁界のノイズが低減される。特に、コア10の周囲の全面(下面10aを除く)にシールド部材14が設けられているので、シールド部材14によって全ての方向の電界のノイズや磁界のノイズが遮断される。
【0047】
特に、シールド部材14は、(式1)を用いて、AMラジオに影響を与える可能性のある100[kHz]〜1800[kHz]の周波数に対応した50[μm]〜200[μm]の範囲内の好適な厚みが設定されている。そのため、インダクタ1でAMラジオに影響がある周波数のノイズが発生した場合に、そのノイズをシールド部材14を介して基板5のグランドに流すことができる。これによって、外部に放射されるAMラジオに影響を与える周波数のノイズが低減され、AMラジオの雑音が抑制される。
【0048】
インダクタ1における絶縁部材15の作用について説明する。インダクタ1のコア10は、金属磁性材料で形成されている。このコア10とシールド部材14との間には絶縁部材15が設けられているので、この絶縁部材15によってコア10とシールド部材14との電気的短絡が防止される。特に、樹脂材料からなる絶縁部材15は、(式2)を用いて、自動車に搭載されるバッテリの電圧を考慮した12[V]〜1000[V]の電圧に対応した1[μm]〜100[μm]の範囲内の好適な厚みが設定されている。そのため、この絶縁部材15によって、自動車に搭載されるバッテリの電圧に対する絶縁性が確保される。また、絶縁部材15が熱伝導性を有する材料で形成されているので、インダクタ1で発生した熱が絶縁部材15および金属製のシールド部材14を介して外部に放出される。
【0049】
なお、インダクタ1の下方には、基板5のグランドプレーン5dが設けられている。このグランドプレーン5dによって、インダクタ1の下方に放射される電界のノイズや磁界のノイズが遮蔽される。これにより、インダクタ1の下方に放射される電界のノイズや磁界のノイズが低減される。また、インダクタ1で発生した熱がグランドプレーン5dを介して基板5全体に伝導され易くなり、放熱効果が向上する。
【0050】
第1実施形態に係るインダクタ1によれば、50[μm]〜200[μm]の範囲内の厚みを有するシールド部材14がコア10を覆うように設けられているので、ノイズ抑制効果(特に、自動車に搭載されるAMラジオに影響を与える可能性のあるノイズに対する抑制効果)を有している。
【0051】
また、第1実施形態に係るインダクタ1によれば、1[μm]〜100[μm]の範囲内の厚みを有する絶縁部材15がシールド部材14とコア10との間に設けられているので、金属材料からなるシールド部材14と金属磁性材料からなるコア10との間の絶縁性(特に、自動車における絶縁性)を確保することができる。また、第1実施形態に係るインダクタ1によれば、熱伝導性を有する絶縁材料によって絶縁部材15が形成されているので、放熱効果を向上させることができる。インダクタ1の放熱効果が向上することで、インダクタ1の自己温度上昇に基づく定格電流の低下を抑制することができる。
【0052】
また、第1実施形態に係るインダクタ1によれば、表示効果の表皮の深さを求める(式1)を用いてシールド部材14の厚みが50[μm]〜200[μm]の範囲内の好適な値に設定されているので、ノイズ抑制効果を発揮する範囲内でシールド部材14の厚みを薄くすることができる。また、第1実施形態に係るインダクタ1によれば、絶縁破壊電圧と絶縁を確保したい電圧からなる(式2)を用いて絶縁部材15の厚みが1[μm]〜100[μm]の範囲内の好適な値に設定されているので、絶縁性を確保できる範囲内で絶縁部材15の厚みを薄くすることができる。このようにシールド部材14と絶縁部材15の厚みを薄くできるので、シールド部材14と絶縁部材15が設けられたインダクタ1を小型化することができる。また、シールド部材14と絶縁部材15の厚みを薄くすることで、軽量化することができるとともに、コストを低減することができる。
【0053】
また、第1実施形態に係るインダクタ1によれば、外部電極12,13がコア10の下面10aに設けられ、シールド部材14と絶縁部材15がコア10の上面10bと4側面10c,10d,10e,10fに配設されているので、インダクタ1で発生した各方向のノイズをシールド部材14で効果的に遮断でき、外部に放射されるノイズの抑制効果を向上させることができる。
【0054】
(第2実施形態)
図4および
図5を参照して、第2実施形態に係るインダクタ2について説明する。
図4は、第2実施形態に係るインダクタ2の構成を模式的に示す正面図である。
図5は、第2実施形態に係るインダクタ2の外観を模式的に示す図であり、(a)が側面図であり、(b)が平面図であり、(c)が底面図である。なお、
図4には、インダクタ2と、このインダクタ2が実装される基板5の一部(断面)を示している。
【0055】
インダクタ2は、第1実施形態に係るインダクタ1と比較すると、外部電極がコアの側面に設けられ、この側面にはシールド部材と絶縁部材が設けられない点が異なる。インダクタ2は、インダクタ1と同様のコア10と巻線11を備えている。また、インダクタ2は、一対の外部電極22,23と、シールド部材24と、絶縁部材25と、を備えている。
【0056】
外部電極22,23は、インダクタ2を基板5に実装するための端子電極である。外部電極22,23は、コア10の下面10aから側面10fにかけて配設されている。外部電極22,23は、平板状であり、断面が略L字形状である。一方の外部電極22は、基板5の上面5aに設けられた電源パターン5bにはんだ5lにより接続されている。他方の外部電極23は、基板5の上面5aに設けられたに電源パターン5cにはんだ5mにより接続されている。特に、この外部電極22,23の場合、外部電極22,23におけるコアの下面10aに沿った部分に加えて、コア10の側面10fに沿った部分も、はんだ5l,5mにより各電源パターン5b,5cに接合されている。
図5(a)には、外部電極22を接合するためのはんだ5lも示している。
【0057】
シールド部材24は、第1実施形態のシールド部材14と比較すると、外部電極22,23が設けられるコア10の側面10fに設けられない点が異なる。したがって、シールド部材24は、コア10の上面10bおよび3つの側面10c,10d,10eを覆うように配設されている。
【0058】
絶縁部材25は、第1実施形態の絶縁部材15と比較すると、外部電極22,23が設けられるコア10の側面10fに設けられない点が異なる。したがって、絶縁部材25は、コア10の上面10bおよび3つの側面10c,10d,10eに配設されている。
【0059】
第2実施形態に係るインダクタ2は、第1実施形態と同様の作用および効果を有する。但し、コア10の側面10fにはシールド部材24が設けられていなので、これ以外の方向のノイズ抑制効果を有している。なお、インダクタ2は縦巻きタイプであるので、インダクタ2の上方と下方にノイズが放射され易い。この上方と下方に放射されるノイズに対しては、インダクタ2のコア10の上面10bにシールド部材24が設けられ、また、インダクタ2の下方に基板5のグランドプレーン5dが設けられているので、これらのノイズを効率良く抑制することができる。また、コア10の側面10fにはシールド部材24および絶縁部材25が設けられていなので、放熱効果を向上させることができる。
【0060】
特に、第2実施形態に係るインダクタ2によれば、コア10の側面10fに外部電極22,23が設けられているので、外部電極22,33と基板5の電源パターン5b,5cとの接合の信頼性を向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では自動車の電子装置の電源回路であるDC−DCコンバータ4のインダクタ1(パワーインダクタ)に適用したが、DC−DCコンバータ以外の電子回路に用いられるインダクタに適用することもでき、また、自動車以外で用いられるDC−DCコンバータのインダクタ(パワーインダクタ)に適用することもできる。
【0062】
上記実施形態では直方体形状のコア10を備えるインダクタ1に適用したが、半球形状、円柱形状、直方体形状以外の多面体形状など、他の形状のコアを備えるインダクタに適用することもできる。コアが直方体形状ではない場合、シールド部材と絶縁部材を設ける側面の3面または4面は、コアを挟んで対向する2面と、その2面の各側端部に繋がる1面または2面である。上面は、この側面の3面または4面の各上端部に繋がる面である。
【0063】
上記実施形態ではシールド部材14の厚みを50[μm]〜200[μm]の範囲内の厚みとしたが、シールド部材に用いる金属材料やシールド部材によってシールドしたいノイズの周波数に応じて、(式1)を用いてシールド部材の厚みを適宜設定するようにするとよい。
【0064】
上記実施形態では絶縁部材15の厚みを1[μm]〜100[μm]の範囲内の厚みとしたが、絶縁部材の絶縁破壊電圧(絶縁性材料に応じた電圧)とインダクタが使用される環境において絶縁部材によって絶縁を確保したい電圧に応じて、(式2)を用いて絶縁部材の厚みを適宜設定するようにするとよい。
【0065】
上記実施形態ではインダクタ1のコア10の下方には基板5の内部にグランドプレーン5d(グランドパターン)が設けられる構成としたが、インダクタ1のコア10の下方には基板5の表面(例えば、上面5b)にグランドパターン(但し、外部電極12,13の箇所を除く)が設けられる構成としてもよい。
【0066】
上記第2実施形態ではコア10の側面10fに外部電極22,23を設け、この側面10fにはシールド部材24および絶縁部材25を設けない構成としたが、この側面10fにも外部電極22,23と接触しない部分にシールド部材24および絶縁部材25を設けてもよい。