(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乗員状態判定部は、前記車両加速度判定部が前記車両加速度取得部により取得された加速度が所定の閾値以上である判定し、前記相関演算部が演算した相関が所定の閾値以上である場合、乗員の覚醒度が低いと判定することを特徴とする請求項1に記載の乗員状態判定装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の運転者等の乗員の居眠りなどに代表される覚醒度を判定する技術が知られている。例えば、特許文献1は、緊張低下状態、疲労状態、過度な緊張状態等の心身状態を各々別の心身状態として区別して判定することを目的としてドライバの心身状態判定装置を開示する。この心身状態判定装置は、ドライバの緊張感の大きさを反映するドライバの頭部揺動量に関する第1の心身情報、及び第1の心身情報以外の第2の心身情報を検出する心身情報検出手段と、運転環境情報を検出する運転環境情報検出手段と、心身状態判定をドライバ個人に適合させるための個人情報を定める個人適合化手段と、運転環境情報と個人情報とに基づいて判定閾値を決定する判定閾値決定手段と、第1の心身情報及び第2の心身情報を判定閾値と比較し、ドライバの心身状態を判定する心身状態判定手段などから構成されている。
【0003】
この心身状態判定装置は、カメラで撮像したドライバの頭部の画像信号に基づいて、ドライバの頭部揺動量のうち頭部の上下方向の加速度(αd(t))を検出すると共に、シートに設けられた加速度センサにより基準部位の上下方向の加速度(αs(t))を検出する。心身情報検出手段が第1の心身情報としてこの頭部の上下方向の加速度と基準部位の上下方向の加速度の比(頭部振動伝達率:X(t))を演算することにより、心身状態判定手段は、ドライバの心身状態を判定する。たとえば、頭部振動伝達率X(t)は、X(t)=αd(t)/αs(t)として表される。
【0004】
また、特許文献2は、運転者の運転者状態をより詳細に判別できるようにする運転者状態判定装置を開示する。この運転者状態判定装置は、覚醒度を反映する運転者情報、注意集中度を反映する運転者情報、及び運転能力を反映する運転者情報の中から選択された少なくとも2つの運転者情報を検出し、検出された各運転者情報の運転者個人の平均値及び標準偏差と、車両運転状態または外部環境状態を示す車両・運転環境情報とに基づいて、運転者状態を判定するための運転者状態判定閾値を決定し、検出された各運転者情報、及び決定された運転者状態判定閾値に基づいて、運転者状態を判定する。この運転者状態判定装置は、注意集中度を反映する運転者情報として、運転者の頭部の加速度等の頭部動揺量(αh(t))とシートで検出される上下加速度(αs(t))の比の自然対数により得られる頭部振動伝達率(Y(t))に基づいて運転者の状態を判定する。たとえば、頭部振動伝達率(Y(t))は、Y(t)=ln(αh(t))−ln(αs(t))と表され、このレベルが高いほど注意集中度が低いことを表している。
【0005】
また、特許文献3は、運転者の注意力が低下しているか否かを精度良く検出する乗員検出システムを開示する。この乗員検出システムは、3Dカメラによって撮影された三次元画像に基づき運転者の頭部及び手に関する情報を抽出する情報抽出処理部と、情報抽出処理部で抽出された情報に基づき運転者の頭部及び手の位置或いは動作が予め規定された規定状態にあるか否かを検出する検出処理部と、検出処理部における検出結果に基づき運転者の頭部及び手が規定状態を外れている場合は、当該部位が規定状態を外れている時間を積算する積算処理部と、積算処理部によって積算された積算時間に基づいて、当該積算時間が予め設定された設定値を上回る場合、運転者の注意力が低下していると判定し、当該積算時間が設定値以下の場合、運転者の注意力が低下していないと判定する判定処理部を備える。
【0006】
また、特許文献4は、運転者の覚醒状態を高い精度で判断する覚醒状態判断システムを開示する。この覚醒状態判断システムは、運転者の撮像画像に基づいて、運転者の目部の挙動を検出する第1指標検出部と、運転者の頭部の挙動を検出する第2指標検出部とを有する挙動検出部と、取得した道路情報、車両情報及び/又は車間距離情報とから判断した車両の運転が単調となる単調区間における運転者の頭部の挙動に基づいて、運転者の覚醒度合いの判断基準を設定する判断基準設定部と、検出された運転者の頭部の挙動と、設定された判断基準を用いて運転者の覚醒状態を判断する判断部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置を車両の座席に設置した場合の、(A)運転者が座った時の概略図、(B)斜視図。
【
図2】本発明に係る第一実施例の変形例の乗員状態判定装置を車両に設置した場合の概略図。
【
図3】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置のブロック図。
【
図4】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置の乗員加速度取得部のブロック図。
【
図5】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置の相関演算部のブロック図。
【
図6】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置の乗員状態判定部のブロック図。
【
図7】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における加速度信号と体動信号の時間変化(0秒〜300秒の間)を示すグラフ。
【
図8】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における、(A)加速度信号と体動信号の時間変化(100秒〜120秒の間)を示すグラフ、(B)加速度信号と体動信号を積算した信号の時間変化(100秒〜120秒の間)を示すグラフ。
【
図9】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における遅延演算部と即時演算部が出力する信号の時間変化(100秒〜120秒の間)を示すグラフ。
【
図10】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における応答特性算出部が出力する相関信号の時間変化(100秒〜120秒の間)を示すグラフ。
【
図11】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における、(A)段差路面での加速度信号と体動信号の時間変化(155秒〜175秒の間)を示すグラフ、(B)対応する時間帯において乗員が覚醒状態の時の相関信号を示すグラフ。
【
図12】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における、(A)段差路面での加速度信号と体動信号の時間変化(220秒〜250秒の間)を示すグラフ、(B)対応する時間帯において乗員が居眠り状態の時の相関信号を示すグラフ。
【
図13】(A)本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における平らな路面(衝撃等がない状態)で乗員が覚醒状態の時に体動が発生した時(10秒〜30秒の間)の加速度信号と体動信号の時間変化を示すグラフ、(B)対応する時間帯において本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における平らな路面(衝撃等がない状態)で乗員が覚醒状態の時に体動が発生した時の相関信号を示すグラフ、(C)従来技術における平らな路面(衝撃等がない状態)で乗員が覚醒状態の時に体動が発生した時の伝達率評価を示すグラフ。
【
図14】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における応答特性検出部が出力する応答特性信号と相関特性算出部が出力する相関応答特性信号の時間変化(200秒〜300秒の間)を示すグラフ。
【
図15】本発明に係る第一実施例の乗員状態判定装置における判定部が出力する覚醒状態判定情報の時間変化を示すグラフ。
【
図16】本発明に係る第一実施例の変形例の乗員状態判定装置の相関演算部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施例について説明する。本発明に係る乗員状態判定装置は、車両の乗員の身体表面に電波や光などの電磁波EMWを照射し、その反射波に含まれる身体の揺動や振動などの体動を抽出し、その体動と車両の振動や衝撃との相関から乗員の覚醒度の状態を判定するものである。なお、電磁波EMWとは、空間の電場と磁場の変化によって形成される波(波動)のことであり、いわゆる光(赤外線、可視光線、紫外線)や電波(マイクロ波など)を含む。
【0016】
<第一実施例>
図1乃至
図6を参照し、本実施例における乗員状態判定装置100を説明する。乗員状態判定装置100は、
図1に示すように、ハンドルWLを使用する乗員である運転者DRが座る車両のシートSTに設置される。乗員状態判定装置100は、その車両の乗員の上半身の一部が直接的または間接的に接する面を有するシートSTの背もたれBKやヘッドレストHRに設置され、乗員の上半身の体動を検知する。
【0017】
乗員の体動とは、本明細書においては、車両が道路を走行することにより、シートSTを介して伝わる振動/衝撃や加速度の変化により乗員の上半身が受動的に振動したり揺動したりする動きと、ハンドルを回したり左右を確認するために乗員自らが能動的に上半身を動かしたり、また、咳やくしゃくみなどの生理現象により上半身を動かしたときの動きの両方を含む。
【0018】
乗員状態判定装置100は、乗員の上半身に電磁波である電波EMWを照射波として照射し、照射した電波EMWが上半身で反射して戻ってきた電波信号を反射波として受信するセンサユニットSUを備える電波式の乗員状態判定装置である。乗員状態判定装置100では、センサユニットSUは、シートSTに埋め込まれ、乗員の上半身の後方から電波EMWを照射し、その上半身からの反射波を取得する。
【0019】
なお、乗員状態判定装置100は、シートSTに設けられ、照射した電波の反射波を受信することで乗員の上半身の体動を取得するものであるが、これに限定されない。たとえば、
図2に示すように、乗員の顔を中心とした上半身に光を照射し、その反射光から乗員の上半身の体動を取得する光学式の乗員状態判定装置100’であってもよい。乗員状態判定装置100’では、センサユニットSU’は、ハンドルWLの奥のたとえばハンドル軸部や、インパネ部分やバックミラーなどに設置され、シートSTに座る運転者DRの前方から光EMWを照射し、その反射光を受光する。もちろん、検出精度を高めるため、電波式のセンサユニットSUと光学式のセンサユニットSU’の両方を用いてもよい。
【0020】
乗員状態判定装置100における電波式のセンサユニットSUであれ、乗員状態判定装置100’における光学式のセンサユニットSU’であれ、照射した電磁波とその反射波の位相のズレに基づいて測定対象物までの距離を測定できるという電磁波としての共通の特性を利用する点では同じである。電波式のセンサユニットSUは、電波を発振し照射する照射部SUSと、その電波が生体表面で反射した反射波を受信し、照射した電磁波の信号と受信した反射信号を乗算したI信号とそのI信号を所定の位相(たとえばπ/2)だけ遅らせたQ信号を出力する受信部SURを有する所謂ドップラーセンサである。センサユニットSUにおけるドップラーセンサは、電波を照射すると共に、受信した反射波を演算し、DC領域に近いベースバンド成分と変調成分を含むI信号を出力し、反射波の位相をπ/2だけずらした反射波を演算し、同様のQ信号を出力する。
【0021】
光学式のセンサユニットSU’は、2つの異なる波長の光を発光し顔等の生体に照射する照射部SUSと、その反射光と背景光などの外乱光を受光する受信部SURを有する所謂光センサである。照射部SUSは、一般的に所定の2波長(たとえば赤外光)を出力する発光ダイオード(LED、Light Emitting Diode)であり、受信部SURは、受信した光信号を電気信号に復調する受光素子であるフォトダイオードである。受信部SURは、それぞれの波長に対応して復調した電気信号(R1信号、R2信号)を出力する。受信部SURが出力した電気信号は、乗員状態判定装置100/100’に乗員の体動を示す信号として入力される。なお、照射部SUSが2波長の照射波を照射するのは例示である。たとえば、照射部SUSは、1波長を2つの時点で取得し、2時点の受信強度(受光強度)の差を2時点における距離の差として評価してもよい。
【0022】
乗員状態判定装置100は、
図3に示すように、車両の加速度を取得する車両加速度取得部10と、車両の乗員の上半身の加速度をセンサユニットSUから取得する乗員加速度取得部20と、車両加速度取得部10が取得した加速度が所定の閾値以上か否かの判定を行う車両加速度判定部30と、車両加速度取得部10が取得し、車両加速度判定部30が所定の閾値以上であると判定した加速度信号と乗員加速度取得部20が取得した加速度信号の相関を演算する相関演算部50と、車両加速度判定部30が行った判定および/または相関演算部50が演算した相関に基づいて乗員の覚醒度を判定する乗員状態判定部40と、車両加速度取得部10とセンサユニットSUを制御する制御部60と、を備える。
【0023】
車両加速度取得部10は、車両に設けられた加速度センサから車両に加えられている加速度を取得する。車両加速度取得部10は、加速度センサが検出する、車両が走行する道路の凸凹等から受ける上下方向の振動や衝撃などの加速度、車両の加速や減速に伴う前後方向の加速度、ならびにハンドルを操作することで受ける左右方向の加速度を取得する。
【0024】
制御部60は、車両加速度取得部10が加速度センサから取得するタイミングを制御する共に、センサユニットSUの照射部SUSが電磁波EMWを照射するタイミングを制御する。制御部60は、厳密に2つのタイミングを同じにする必要はないが、後述するように、車両が受ける加速度と乗員の体動の相関を演算するものであるから概ね同じタイミングで車両加速度取得部10および照射部SUSを制御する。または、制御部60は、両者を短い周期で継続的に制御してもよい。
【0025】
車両加速度判定部30は、車両加速度取得部10が取得した加速度が所定の閾値以上か否かの判定を行う。所定の閾値とは、車両が道路面の凸凹や段差を走行する際に乗員が座るシートSTが受ける程度の振動や衝撃の加速度を言う。車両加速度判定部30は、車両加速度取得部10が取得した加速度が所定の閾値以上の場合に、その取得した加速度を加速度信号として相関演算部50に伝える。ただし、これに限定されず、車両加速度取得部10が取得した加速度をそのまま相関演算部50に伝え、後述する乗員状態判定部40は、乗員状態を判定する際に車両加速度判定部30の判定結果を考慮してもよい。
【0026】
乗員加速度取得部20は、
図4に示すように、受信した反射波を電気信号に変換し受信部SURが出力した受信信号を入力信号として受けるローパスフィルタ21およびバンドパスフィルタ22と、ローパスフィルタ21およびバンドパスフィルタ22の出力信号を入力信号として受けてアナログ信号をデジタル信号に変換するADコンバータを含む信号取得部23と、信号取得部23からの信号を入力信号として受け角速度ωを算出する角速度算出部24と、を備える。
【0027】
ローパスフィルタ21は、受信部SURが受信し復調したアナログの電気信号を入力され、その信号を平滑化する平滑化フィルタである。ローパスフィルタ21は、受信部SURが出力する受信信号から高周波成分のノイズを除去しベースバンド成分のみを通過させ、受光信号を平滑化した信号を出力する。なお、本明細書では、電波式のセンサユニットSUを用いる場合の受信信号はI信号/Q信号と、光学式のセンサユニットSU’を用いる場合の受信信号はR1信号/R2信号と言う。いずれであっても、2つ信号を複素平面の2軸として角速度ωを求めるため方式の違いでしかない。なお、乗員状態判定装置100は、車両の乗員の上半身の体動情報を取得することを目的としているので、ローパスフィルタ21は、たとえば10Hz以上の高周波は除去するフィルタである。
【0028】
バンドパスフィルタ22は、受信部SURが受信し復調したアナログの電気信号を入力され、平滑化すると共に微分処理を行う平滑微分フィルタである。バンドパスフィルタ22は、ローパスフィルタ21と同様に受信信号を平滑化すると共に受信信号からDC成分を除去し、信号の微分値を出力する。なお、バンドパスフィルタ22による微分値(ΔI/ΔQまたはΔR1/ΔR2)は近似値であり、これに限定されず、後述のように計算により求めてもよい。
【0029】
信号取得部23は、たとえば、マイクロコンピュータに実装されたアナログ信号をデジタル信号に変換するADコンバータを含むADポートである。ADポートでは、適宜I信号/Q信号またはR1信号/R2信号から高周波成分を除去して受け入れる。また、信号取得部23は、受け入れたI信号/Q信号またはR1信号/R2信号に基づいて、単位時間当たりの変化量であるΔI/ΔQまたはΔR1/ΔR2を算出してもよい。なお、このマイクロコンピュータは、制御部60や、角速度算出部24等の構成要素を実装されてもよい。
【0030】
角速度算出部24は、信号取得部23が取得したI信号/Q信号またはR1信号R2信号、および、これらの信号の変化量のΔI/ΔQまたはΔR1/ΔR2に基づいて、I信号/Q信号またはR1信号/R2信号の角速度ωを算出する。たとえば、I−Q座標平面(複素平面)における角速度ωは、
ω=dθ/dt
なお、θ=arctan(I−I
offset)/(Q−Q
offset)
I
offset:センサユニットの設置条件により定まる定数
Q
offset:センサユニットの設置条件により定まる定数
と表すことができるので、角速度ωは、式(1)で表すことができる。
【数1】
・・・(1)
【0031】
乗員の上半身の体動によりセンサユニットSU/SU’と生体表面との距離が変動するので、I−Q座標平面またはR1−R2座標平面にプロットされる点は、体動に応じて変動する。この時の変動量を位相Δθで表すと、その角速度ωは、Δθ/Δtとなる。この角速度ωを評価することで、受信信号の強度の変動により生体表面との距離の変動を評価することができる。すなわち、たとえば、角速度ωが揺動している場合には、乗員の上半身とセンサユニットSU/SU’との距離も増減しているので、乗員の上半身自体が揺動していると評価できる。このように、角速度算出部24は、角速度ωを乗員の体動信号として相関演算部50に出力する。
【0032】
相関演算部50は、
図5に示すように、車両加速度判定部30からの加速度信号を平滑化する車両加速度信号バンドパスフィルタ56と、乗員加速度取得部20からの体動信号を平滑化する体動信号バンドパスフィルタ55と、所定時間信号を遅延させる遅延器54と、遅延された加速度信号ASと体動信号BSを積算した信号ABS
−に基づき二乗平均平方根の演算を行う遅延演算部52と、遅延しない加速度信号ASと体動信号BSを積算した信号ABS
+に基づき二乗平均平方根の演算を行う即時演算部51と、遅延演算部52の出力値ABP
−と即時演算部の出力値ABP
+に基づき相関信号SCを算出する応答特性算出部53と、を備える。
【0033】
車両加速度信号バンドパスフィルタ56は、車両の大きな衝撃に伴う加速度を除外し、平らな路面を定速直進していて加速度がほぼない状態から、路面に凸凹があったり、加速/減速があったり、カーブを回っていたりなど通常の走行において付加される加速度信号を通過させる。体動信号バンドパスフィルタ55は、車両の上記加速度信号による振動や衝撃により乗員に与えられる周波数帯域の体動信号を抽出する。たとえば、1〜5Hzを通過帯域としてもよい。遅延器54は、車両加速度信号バンドパスフィルタ56が出力した加速度信号ASを、例えば3秒程度遅延させる電気回路である。
【0034】
即時演算部51は、車両加速度信号バンドパスフィルタ56を通過したサンプリング時(t)の加速度信号AS[t]と、体動信号バンドパスフィルタ55を通過したサンプリング時(t)の体動信号BS[t]とを積算器で加算した信号ABS
+[t]に基づき、式(2)に示すような二乗平均平方根の演算を行い、ABP
+[t]を求める。ここで、ABS
+[t]は、ABS
+[t]=AS[t]*BS[t]である。即時演算部51は、車両加速度取得部10が取得した車両の加速度と乗員加速度取得部20が取得した乗員の加速度を積算する。
【0035】
遅延演算部52は、車両加速度信号バンドパスフィルタ56を通過した後遅延器54で遅延されたサンプリング時(t)の加速度信号AS[t]と、体動信号バンドパスフィルタ55を通過したサンプリング時(t)の体動信号BS[t]とを積算器で加算した信号ABS
−[t]に基づき、式(2)に示すような二乗平均平方根の演算を行い、ABP
−[t]を求める。ここで、ABS
−[t]は、ABS
−[t]=AS[t−φ]*BS[t]である。なお、φは、遅延器54での遅延時間である。遅延演算部52は、車両加速度取得部10が取得して所定時間遅延させた車両の加速度と乗員加速度取得部20が取得した乗員の加速度を積算する。
【数2】
・・・(2)
【0036】
なお、Nは、二乗平均平方根を算出する窓の幅である。たとえば、1秒間の二乗平均平方根を算出する場合、20Hzのサンプリングを行うと、Nは20である。なお、本実施例では、二乗平均平方根を求めているが、これに限定されず、所定数のサンプルの平均を求める他の一般的手法によってもよい。時間tが経過すると共に、二乗平均平方根を算出する窓が移動し、即時演算部51および遅延演算部52は、所定数Nの積算結果の移動平均を演算する。
【0037】
応答特性算出部53は、遅延演算部52の出力値ABP
−[t]と即時演算部の出力値ABP
+[t]に基づき、式(3)に示すような相関信号SC[t]を算出する。
【数3】
・・・(3)
【0038】
なお、本実施例では、相関信号SC[t]は、ABP
+[t]とABP
−[t]の比の対数であるが、これに限定されず、両者の相関を得るための他の一般的手法によってもよい。
【0039】
相関信号SC[t]は、現在(即時)の体動信号と現在の加速度信号を積算した信号に対して、現在の体動信号と過去(上記例で言えば3秒前の過去)の加速度信号を積算した信号の相関を示すものである。すなわち、相関信号SC[t]は、過去の加速度に対する現在の体動の相関を示す指標であり、相関信号SC[t]の値が大きいということは、過去の加速度に対して現在も体動が生じていることを示している。したがって、乗員が居眠りしているなど覚醒度が低い状態で車両から振動や衝撃などの加速度を受けると、その加速度により大きく長めに体動が発生するので、相関信号SC[t]の値が大きい場合には、乗員の覚醒度が低い状態にあると考えることができる。逆に、相関信号SC[t]の値が小さい場合、すなわち車両からの振動等と体動との相関が低い場合には、車両からの振動等に意識的または無意識に対応して体動を小さくしており、乗員の覚醒度は高いと考えられる。このように、過去の車両の加速度に対する現在の乗員の体動を評価する相関信号SC[t]を算出することで、乗員の覚醒度の状態を適切に判定することができる。
【0040】
乗員状態判定部40は、
図6に示すように、相関演算部50が演算した相関信号SC[t]に基づいて、より安定的に乗員の覚醒度を判定する。乗員状態判定部40は、相関信号SCの内所定の閾値(Th)を超える応答特性信号SR[t]を検出する応答特性検出部41と、応答特性検出部41が検出した応答特性信号SR[t]について移動平均値である相関応答特性信号SP[t]を算出する相関特性算出部42と、相関応答特性信号SP[t]に基づき乗員状態の判定を行う判定部43とを有する。
【0041】
応答特性検出部41は、相関信号SC[t]の内所定の閾値を超える相関信号SC
th[t]を式(4)により求める。すなわち、応答特性検出部41は、所定の閾値(Th)を超えた相関信号SCのみを抽出し、所定の閾値以下の相関信号SC[t]を後述する乗員状態判定を行う情報から除外することで、車両の振動等による生じた可能性の高い体動を抽出する。たとえば、所定の閾値(Th)は、0.3とすることができる。
【数4】
・・・(4)
【0042】
そして、応答特性検出部41は、所定の閾値を超える相関信号SC
th[t]の移動平均値を式(5)に示すように応答特性信号SRとして算出する。なお、本実施例では、相加平均を求めているが、これに限定されず、所定数のサンプルの平均を求める他の一般的手法によってもよい。なお、Mは、相加平均を算出する窓の幅である。たとえば、1秒間の相加平均を算出する場合、20Hzのサンプリングを行うと、Mは20である。
【数5】
・・・(5)
【0043】
相関特性算出部42は、応答特性検出部41が検出した応答特性信号SR[t]について、式(6)に示すように移動平均値である相関応答特性信号SP[t]を算出する。
【数6】
・・・(6)
【0044】
なお、Pは、相加平均を算出する窓の幅である。たとえば、3分間の相加平均を算出する場合、20Hzのサンプリングを行うと、Pは3600である。本実施例では、より安定した相関応答特性信号SPを求めるために、応答特性検出部41に加えて平均値を求めているが、いずれかの平均値の算出を省略してもよい。
【0045】
判定部43は、相関応答特性信号SP[t]に基づき乗員の状態の判定を行う。相関応答特性信号SPが小さいということは、乗員は車両からの振動等に起因する体動は抑制されているので車両からの振動等に対して耐えている状態と考えられるため、乗員の覚醒度は高いと判定することができる。逆に、相関応答特性信号SPが大きいということは、乗員は車両からの振動等に起因する体動は抑制されていないので車両からの振動等に対して耐えていない状態と考えられるため、乗員の覚醒度は低いと判定することができる。
【0046】
ここで、
図7乃至
図15を参照し、上式で求められる各信号について説明する。
図7は、車両の振動等を表している車両加速度信号バンドパスフィルタ56を通過した加速度信号AS[t]と、乗員の体動を表している体動信号バンドパスフィルタ55を通過した体動信号BS[t]の時間変化(tが0秒〜300秒の間)を示すグラフである。本図に示される加速度信号AS[t]と体動信号BS[t]を見る限り、両者において相関があるのか否かについて明確な知見は得られないと言ってよい。
【0047】
図8(A)は、tが100秒〜120秒の間における車両加速度信号バンドパスフィルタ56を通過した加速度信号AS[t]と体動信号バンドパスフィルタ55を通過した体動信号BS[t]を示している。
図8(B)は、同じ時間帯における、加速度信号AS[t]と体動信号BS[t]とを積算器で加算した信号ABS
+[t]と、車両加速度信号バンドパスフィルタ56を通過した後遅延器54で遅延されたサンプリング時(t)の加速度信号AS[t]と体動信号BS[t]とを積算器で加算した信号ABS
−[t]を示す。加算した信号ABS
+[t]は、現在(即時)の車両の振動等に関連する体動信号を示すものであり、加算した信号ABS
−[t]は、過去の車両の振動等に関連する体動信号を示すものである。本図に示される加算された信号ABS
+[t]/ABS
−[t]を見る限り、両信号は非常に細かく変動しており、両者における相関の有無について明確な知見は得られないと言ってよい。
【0048】
図9は、同じ時間帯における、加算した信号ABS
+[t]に基づき遅延演算部52が二乗平均平方根の演算を行った値ABP
+[t]と、加算した信号ABS
−[t]に基づき即時演算部51が二乗平均平方根の演算を行った値ABP
−[t]を示している。ABP
+[t]は、現在(即時)の車両の振動等に関連する体動信号の大きさを示すものであり、ABP
−[t]は、過去の車両の振動等に関連する体動信号の大きさを示すものである。ABP
+[t]とABP
−[t]を比べると、二乗平均平方根を算出する窓の幅により両信号の細かい変動が捨象されて、現在の車両の振動等に関連する体動と過去の車両の振動等に関連する体動との関係に関する知見が得られようとしている。たとえば、tが104〜108秒の間では両者は大きく異なっているが、tが112〜116秒の間では大きな違いは見られない。
【0049】
図10は、同じ時間帯におけるABP
+[t]とABP
−[t]に基づき、応答特性算出部53が出力する相関信号SC[t]を示している。相関信号SC[t]が大きい場合は、車両から振動等の加速度を受けて乗員が揺動し体動が発生していることを示すので、乗員の覚醒度が低い状態にある場合である。逆に、相関信号SC[t]が小さい場合は、車両から振動等の加速度を受けて乗員が揺動せず体動が発生していないことを示すので、乗員の覚醒度が高い状態にある場合である。たとえば、tが104〜108秒の間では、相関信号SC[t]は比較的大きいので、乗員の覚醒度が低い状態にある。また、tが112〜116秒の間では、相関信号SC[t]は比較的小さい(絶対値がゼロに近い)ので、乗員の覚醒度が高い状態にある。
【0050】
ここで、
図11に示す乗員の覚醒度が高い状態と、
図12に示す乗員の覚醒度が低い状態を比較して説明する。
図11では、tが155〜175秒における、加速度信号AS[t]および体動信号BS[t]と、相関信号SC[t]を示す。この時間帯では、車両は段差のある路面を走行しており、乗員は覚醒度が高い状態であった。この時間帯における相関信号SC[t]は、ほぼ0を中心に大半は−0.3〜+0.3の間に収まっており絶対値が小さく、車両から振動等の加速度を受けて乗員が揺動せず体動が発生していないことを示し、よって、乗員は覚醒度が高い状態であることを示している。
【0051】
逆に、
図12では、tが220〜250秒における、加速度信号AS[t]および体動信号BS[t]と、相関信号SC[t]を示しており、この時間帯では、車両は段差のある路面を走行しており、乗員は居眠りし覚醒度が低い状態であった。そうすると、この時間帯における相関信号SC[t]は、安定しておらず、−0.8から+0.5の間で大きく変動しており、車両から振動等の加速度を受けて乗員が揺動し体動が発生していることを示し、よって、乗員は覚醒度が低い状態であることを示している。
【0052】
また、
図13を参照し、本発明に相関信号SC[t]と従来技術の振動伝達率X(t)を比較して説明する。
図13(A)は、tが10〜30秒における、加速度信号AS[t]および体動信号BS[t]、
図13(B)は、相関信号SC[t]を、
図13(C)は、上述した従来技術における振動伝達率X(t)を示す。この時間帯においては、加速度信号AS[t]は小さく、車両の加速度はあまり生じていないので、いわゆる平らな道路を走行している状態である。それに対して、体動信号BS[t]は、tが14〜15秒、17秒前後、23〜24秒辺りで大きい値を示しているが、乗員が道路からの振動等とは無関係に上半身を動かした体動であると考えられる。
【0053】
このような体動を、本発明における相関信号SC[t]により評価すると、本図(B)に示すようにいずれの時点でもゼロ近辺であり、道路からの振動等により生じた体動があったことを示していない。一方、同じ体動を、従来技術の振動伝達率X(t)により評価すると、本図(C)に示すように、振動伝達率X(t)の値は大きく変動しており、すなわち、体動があったことを示している。しかし、この体動は、道路からの振動等により生じた体動ではないので、値が大きくなっても乗員の覚醒度の低さを表しているものではない。したがって、従来技術の振動伝達率X(t)では、車両の振動等がない時の体動を誤検知してしまう恐れがあったが、本願発明における相関信号SC[t]では、そのような恐れがなくなった。
【0054】
図14は、応答特性検出部41が出力する応答特性信号SRと相関特性算出部42が出力する相関応答特性信号SPの時間変化(200秒〜300秒の間)を示す。応答特性信号SRは、所定の閾値を超えた相関信号SC[t]のみを抽出して1秒間の相加平均を算出したものであるから、相関信号SC[t]の変動の傾向に比べると、ある程度車両の振動等により生じた体動がまとまって現れる傾向にある。すなわち、tが295秒前後や219秒前後では、車両の振動等により生じた体動を検出している。相関応答特性信号SPは、応答特性信号SRの3分間の移動平均を算出した値である。したがって、相関応答特性信号SPは、車両の振動等により生じた体動を累積させて、体動が車両の振動等により生じている傾向が強くなってきているのか、弱くなってきているのかを時系列的に評価できる。たとえば、3分間に応答特性信号SRを検出すれば相関応答特性信号SPは徐々に高くなり、検出しなければ相関応答特性信号SPは徐々に低くなる。
【0055】
図15は、判定部43が出力する覚醒状態判定情報の時間変化を示す。判定部43は、相関応答特性信号SPの時系列的な変動から、乗員の覚醒状態を判定する。乗員の覚醒状態は、秒単位で明確に覚醒状態と居眠り状態が入れ替わるものではなく、その境界は非常にあいまいであり、また、乗員の個人的な特性によっても異なるものである。そうすると、本図に示すように、乗員の覚醒状態を判定する判定部43における覚醒状態から居眠り状態への移行は、ある乗員に対してある程度の時間経過の中で判定していくことが好ましい。
【0056】
すなわち、本図では、tが200〜400秒の範囲では、相関応答特性信号SPは比較的低い状態であるが、tが450秒以降は相関応答特性信号SPが高い状態となっている。このように、判定部43は、相関応答特性信号SPが低い状態から高い状態になった時に、覚醒状態から居眠り状態になったと判定する。また、逆に、判定部43は、相関応答特性信号SPが高い状態から低い状態になった時に、居眠り状態から覚醒状態になったと判定する。なお、車両加速度取得部10が取得した加速度をそのまま相関演算部50に伝える場合、判定部43は、車両加速度判定部30の判定結果を考慮し、車両に加えられている加速度が所定の閾値未満の場合には各状態の判定を行わなくともよい。
【0057】
上述したように、車両加速度判定部30が行った判定と相関演算部50が演算した相関に基づいて乗員の覚醒状態を判定することで、道路の凹凸などによって車両が揺れたり振動したり衝撃したことによる乗員の上半身の揺れなどの体動の大小に応じて、その乗員の覚醒度の判定を行う乗員状態判定装置100を提供することができる。
【0058】
また、乗員状態判定装置100では、乗員状態判定部40は、車両加速度判定部30が車両加速度取得部10により取得された加速度信号が所定の閾値以上である判定し、相関演算部50が演算した相関信号SC[t]が所定の閾値以上である場合、乗員の覚醒度が低いと判定する。このように、道路の凹凸などによる車両の一定以上の揺れ等があった場合に相関が高ければ覚醒度が低いと判定でき、乗員の覚醒度の状態を適切に判定することができる。
【0059】
<第一実施例の変形例>
図16を参照し、本変形例における乗員状態判定装置100Aを説明する。なお、上記実施例と同じ構成要素には同じ符号を付し、重複記載を避けるために説明を省略する。乗員状態判定装置100Aは、本図に示す相関演算部50Aを備え、その他の構成要素は上記実施例と同じである。相関演算部50Aは、車両加速度判定部30からの加速度信号を平滑化する車両加速度信号バンドパスフィルタ56と、乗員加速度取得部20からの体動信号を平滑化する体動信号バンドパスフィルタ55と、車両加速度信号バンドパスフィルタ56が出力した加速度信号ASと、体動信号バンドパスフィルタ55が出力した体動信号BSの比を算出する加速度伝達率算出部57を備える。加速度伝達率算出部57は、相関信号SCを以下の式により算出する。
SC[t]=BS[t]/AS[t]
これによれば、即時に相関を算出できるので応答性の良い判定を行うことができる。
【0060】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。