特許第6597631号(P6597631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特許6597631フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール
<>
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000005
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000006
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000007
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000008
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000009
  • 特許6597631-フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597631
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】フィルム外装電池およびそれを備えた電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20191021BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20191021BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20191021BHJP
   H01M 2/10 20060101ALI20191021BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20191021BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M2/02 K
   H01M2/16 P
   H01M2/16 F
   H01M2/10 Y
   H01M10/052
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-555227(P2016-555227)
(86)(22)【出願日】2015年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2015079548
(87)【国際公開番号】WO2016063865
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2018年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-214610(P2014-214610)
(32)【優先日】2014年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-43797(P2015-43797)
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 登
(72)【発明者】
【氏名】志村 健一
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−232328(JP,A)
【文献】 特開2012−009165(JP,A)
【文献】 特開2008−124064(JP,A)
【文献】 特開2007−018746(JP,A)
【文献】 特開2006−269345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 2/02
H01M 2/10
H01M 2/16
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して積層された正極および負極を有する電池要素と、
リチウム塩を含有する非水電解質と、
それらを収容するフィルム外装体と、を備え、
a:前記非水電解質が、過充電時に過剰なエネルギーを消費するレドックスシャトル剤を含み、
b:前記セパレータは、
(b1)その融点が180℃以上であり、
(b2)ガーレー値が100〔sec/100cc〕以下であ
容量あたりのフィルム外装体の表面積が、5000mm/Ah以下である、
フィルム外装電池。
【請求項2】
前記セパレータの厚みが、12μm〜40μmの範囲内である、請求項1に記載のフィルム外装電池。
【請求項3】
前記セパレータが、織布または不織布である、請求項1または2に記載のフィルム外装電池。
【請求項4】
前記セパレータが、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維の中から選ばれる、請求項3に記載のフィルム外装電池。
【請求項5】
容量が4Ah以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載のフィルム外装電池。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のフィルム外装電池と、
それを収容するモジュール容器と、
を備える電池モジュール。
【請求項7】
さらに、
前記フィルム外装電池に当接しまたは近接した状態で配置され、電池内部でガスが発生した場合に当該電池を外部から押さえて前記電池要素の変形を防止する押さえ部材を備える、
請求項に記載の電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム外装電池等に関し、特に、レドックスシャトル剤の作動時の熱によりセパレータが変形して正極および負極が短絡することがなく、しかもレドックスシャトル剤による効率的なエネルギー消費を行うことが可能な、安全性をより向上させたフィルム外装電池等に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高い、自己放電が小さい、長期信頼性に優れる等の利点により、ノート型パソコンや携帯電話などの電池としてすでに実用化されている。しかし、近年では電子機器の高機能化や電気自動車への利用が進み、よりエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池の開発が求められている。
【0003】
エネルギー密度が高いセルを実現するためには、例えばNCA(リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物)やLNO(リチウムニッケル酸化物)などの正極を用いることが有効である。しかしながら、これらの正極は過充電や高温時等に酸素放出を伴い熱暴走を起こす可能性がある。過充電時の安全性を担保する技術の一つとして、従来、レドックスシャトル剤を用いるものが提案されている。
【0004】
レドックスシャトル剤を利用した過充電防止のメカニズムは概略次のとおりである。すなわち、セルの通常使用電圧より高電圧で反応するレドックスシャトル剤を電解液に添加しておくことで、過充電時にセル電圧が上昇した際、レドックスシャトル剤が電流を消費することとなり、これにより活物質が過充電状態になることが防止されるというものである。こうしたレドックスシャトル剤による過充電防止機構を利用した二次電池としては、一例で特許文献1のようなものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−287445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レドックスシャトル剤は、動作時に熱を発生することから、セパレータの融点が低い場合、セパレータが溶けて正極および負極が短絡する可能性がある。また、過充電の状況下であっても、レドックスシャトル剤によるエネルギー消費が効率的に継続されるようになっていることが望ましい。
【0007】
そこで本発明の目的は、レドックスシャトル剤を用いるフィルム外装電池に関し、レドックスシャトル剤の作動時の熱によりセパレータが変形して正極および負極が短絡することがなく、しかもレドックスシャトル剤による効率的なエネルギー消費を行うことが可能な、安全性をより向上させたフィルム外装電池等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一形態に係る電池は、次のとおりである:
セパレータを介して積層された正極および負極を有する電池要素と、
リチウム塩を含有する非水電解質と、
それらを収容するフィルム外装体と、を備え、
a:前記非水電解質が、過充電時に過剰なエネルギーを消費するレドックスシャトル剤を含み、
b:前記セパレータは、
(b1)その融点が180℃以上であり、
(b2)ガーレー値が100〔sec/100cc〕以下である、
フィルム外装電池。
【0009】
(用語の説明)
・「フィルム外装電池」とは、電池要素を電解液とともにフィルム外装体に収容した電池のことをいい、一般的には、全体として偏平な形状をしている。例えば電動車両用の電池では、容量が大きいこと、内部抵抗が低いこと、放熱性が高いこと等が要求されるところ、フィルム外装電池はこれらの点で有利である。1つのフィルム外装電池を「電池セル」または単に「セル」を称することもある。
・「フィルム外装体」とは、可撓性を有するフィルムで構成され電池要素を収容する外装体のことをいい、2枚のフィルムを対向配置して互いに溶着することにより電池要素を密閉するものであってもよいし、1枚のフィルムを折り返して対向した面どうしを溶着することにより電池要素を密閉するものであってもよい。
・数値範囲に関して例えば「a〜b」の範囲などと言った場合には、a以上b以下の範囲のことを意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レドックスシャトル剤を用いるフィルム外装電池等に関し、レドックスシャトル剤の作動時の熱によりセパレータが変形して正極および負極が短絡することがなく、しかもレドックスシャトル剤による効率的なエネルギー消費を行うことが可能な、安全性をより向上させたフィルム外装電池等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一形態のフィルム外装電池の基本的構造を示す斜視図である。
図2図1の電池の断面の一部を示す断面図である。
図3】フィルム外装電池の内部構造を説明するための模式図である(平面視)。
図4】フィルム外装電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図5】フィルム外装電池をモジュール容器内に収容した電池モジュールの模式図である。
図6】フィルム外装電池に対して圧力を加える機構を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.フィルム外装電池の基本的な構成
本発明の一形態に係るフィルム外装電池50の基本的構成について図1図2を参照して説明する。なお、本発明のフィルム外装電池50としては、当然ながら他の構造(例えばガス放出機構等)を備えていてもよいが、図1および図2では電池の基本的構成のみを示す。
【0013】
フィルム外装電池50は、図1図2に示すように、電池要素20と、それを非水電解質とともに収容するフィルム外装体10と、電池要素20に接続されるとともにフィルム外装体10の外部に引き出された正極タブ21および負極タブ25(以下、これらを単に「電極タブ」ともいう)とを備えている。
【0014】
電池要素20は、それぞれ電極材料が両面に塗布された金属箔からなる複数の正極と複数の負極とがセパレータを間に挟んで交互に積層されたものである。電池要素20の全体的な外形は、特に限定されるものではないが、この例では偏平な略直方体である。電池要素20を構成する各部の詳細については後述するものとする。
【0015】
<フィルム外装体等>
フィルム外装体の材質としては、電解液に安定で、かつ十分な水蒸気バリア性を持つものであれば、どのような材質であっても構わない。例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウムと樹脂のラミネートフィルムを用いることが一例として好ましい。外装体は、単一の部材で構成してもよいし、複数の部材を組み合わせて構成してもよい。本実施形態では、図1に示すように、フィルム外装体10は、第1のフィルム11とそれに対向配置された第2のフィルム12とで構成されるものであってもよい。
【0016】
フィルム外装体10の輪郭形状は特に限定されるものではないが、四角形であってもよく、この例では長方形となっている。両フィルム11、12は、電池要素20の周囲で互いに熱溶着されて接合されている。これにより、フィルム外装体10の周縁部が熱溶着部15となっている。熱溶着部15のうち短辺側の一辺から、正極タブ21および負極タブ25が引き出されている。電極タブ21、25としては種々の材質を採用しうるが、一例として、正極タブ21がアルミニウムまたはアルミニウム合金で、負極タブ25が銅またはニッケルである。負極タブ25の材質が銅の場合、表面にニッケルめっきが施されてもよい。
【0017】
なお、電極タブ21、25の引出し位置について、タブが長辺側の一辺から引き出されていてもよい。また、正極タブ21と負極タブ25とが別々の辺から引き出されていてもよい。この例としては、正極タブ21と負極タブ25とが対向する辺から反対向きに引き出される構成が挙げられる。
【0018】
図3に例示するように、正極および負極はそれぞれ外周の一部に部分的に突出した延長部(符号31a、35a参照)を有していてもよく、正極の延長部と負極の延長部とは、正極および負極を積層したときに互いに干渉しないように位置をずらして互い違いに配置されている。正極の延長部どうしが積層され互いに接続されることで集電部31aが形成され、その集電部31aに正極タブ21が接続される。同様に、負極に関しても、延長部どうしが積層され互いに接続されることで集電部35aが形成され、その集電部35aに負極タブ25が接続される。電極タブと集電部との接続は例えば溶接によって行なわれてもよい。
【0019】
図4はフィルム外装電池の内部構造の模式的に表した断面図であり、正極31および負極35がセパレータ38を介して積層された状態が描かれている。なお、実際のフィルム外装電池では、複数の正極31および負極35がセパレータ38を介して交互に積層されることとなる。
【0020】
電池要素の各要素に関しては、具体的には以下のようなものを採用してもよい。
<セパレータ>
本実施形態におけるセパレータとしては、融点が180℃以上で通気度が高いものが用いられる。具体的には、通気度に関し、ガーレー値(sec/100cc)が100以下のものが好ましく、50以下のものがより好ましく、20以下のものがさらに好ましい。
【0021】
融点が180℃以上の材料としては、高分子材料では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロース、アラミド、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。また、無機材料ではガラス繊維が挙げられる。
【0022】
これらの材料による多孔膜や織布、不織布による、高通気度セパレータが本発明に好適に採用できる。なかでも織布や不織布によるセパレータが、通気度が特に高く好ましい。具体的には、ガラス繊維、アラミド繊維、またはポリイミド繊維などが挙げられる。
【0023】
セパレータの表面に、基材よりも耐熱性が高い材料によるコート層を有してもよい。コート層の材料として、高耐熱性樹脂や、アルミニウム、シリコン、チタンなどの酸化物や窒化物を用いることができる。
【0024】
セパレータの厚みは、例えば12μm〜40μmの範囲であることが好ましい。厚みが12μmを下回るような場合、セパレータの強度が下がり、製造時等の取扱い性が低下することとなる。一方、厚みが40μmを上回るような場合、電池のエネルギー密度が低下することとなるのに加え、特に、本発明ではレドックスシャトル剤を利用するものであるところそのシャトル剤によるエネルギー消費作用が低下する可能性がある。これは次のような理由による。すなわち、レドックスシャトル剤は、電解液中で正極(図4の符号31)と負極(図4の符号35)との間で往復移動を繰り返しながら酸化還元反応をすることで、過充電時の電流を消費するものである。したがって、セパレータが厚すぎる場合(言い換えれば電極間の距離が離れるほど)電極間におけるレドックスシャトル剤の移動・反応が低減し、その結果、シャトル剤によるエネルギー消費作用が低下するためである。このようなシャトル剤とセパレータ厚みとの関係に鑑みれば、セパレータの厚みは30μm以下であることも好ましく、20μm以下であることも好ましい。
【0025】
本発明では、電極間のセパレータ内においてレドックスシャトル剤が移動し反応することが重要となる。レドックスシャトル剤が電極間で良好に往復移動してその作用を発揮するためには、セパレータの厚みが厚すぎないこと、および、セパレータの通気度が十分に高いことが必要である。したがって、セパレータが上記のような厚みかつ通気度であることは、シャトル剤による効率的なエネルギー消費を実現できる点で好適である。
【0026】
上記特性については「厚み」×「ガーレー値」というパラメータを指標とすることもできる。一例として、この値は10〜1500(sec/100cc・μm)の範囲内であることが好ましく、10〜500(sec/100cc・μm)の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
<負極>
負極は、金属箔で形成される負極集電体と、負極集電体の両面に塗工された負極活物質とを有する。負極活物質は負極用結着材によって負極集電体を覆うように結着される。負極集電体は、負極端子と接続する延長部を有して形成され、この延長部には負極活物質は塗工されない。
【0028】
本実施形態における負極活物質は、特に制限されるものではなく、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料、リチウムと合金可能な金属、およびリチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物等が挙げられる。
【0029】
炭素材料としては、例えば、炭素、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。ここで、結晶性の高い炭素は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
【0030】
金属や金属酸化物を含有する負極は、エネルギー密度を向上でき、電池の単位重量あたり、あるいは単位体積あたりの容量を増やすことができる点で好ましい。
【0031】
金属としては、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属又は合金は2種以上混合して用いてもよい。また、これらの金属又は合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。
【0032】
金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。本実施形態では、負極活物質として酸化スズ若しくは酸化シリコンを含むことが好ましく、酸化シリコンを含むことがより好ましい。これは、酸化シリコンは、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。また、金属酸化物に、窒素、ホウ素およびイオウの中から選ばれる一種または二種以上の元素を、例えば0.1〜5質量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物の電気伝導性を向上させることができる。
【0033】
また、負極活物質は、単独の材料を用いずに、複数の材料を混合して用いることもできる。例えば、黒鉛と非晶質炭素のように、同種の材料同士を混合しても良いし、黒鉛とシリコンのように、異種の材料を混合しても構わない。
【0034】
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸等を用いることができる。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100質量部に対して、0.5〜25質量部が好ましい。
【0035】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、クロム、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0036】
<正極>
正極は、金属箔で形成される正極集電体と、正極集電体の両面に塗工された正極活物質とを有する。正極活物質は正極用結着剤によって正極集電体を覆うように結着される。正極集電体は、正極端子と接続する延長部を有して形成され、この延長部には正極活物質は塗工されない。
【0037】
正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出し得る材料であれば特に限定されず、いくつかの観点から選ぶことができる。高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物を含むことが好ましい。高容量の化合物としては、リチウム酸ニッケル(LiNiO)またはリチウム酸ニッケルのNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(A)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0038】
LiNi(1−x) (A)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0039】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(A)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、LiαNiβCoγMnδ(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγAlδ(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNiβCoγMnδ(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi0.8Co0.05Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.1Al0.1等を好ましく用いることができる。
【0040】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(A)において、xが0.5以上であることも好ましい。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、LiαNiβCoγMnδ(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi0.4Co0.3Mn0.3(NCM433と略記)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM523と略記)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2(NCM532と略記)など(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0041】
また、式(A)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1〜1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(A)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0042】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMnO、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoOまたはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePOなどのオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0043】
また、ラジカル材料等を正極活物質として用いることも可能である。
【0044】
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものと用いることができる。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜15質量部が好ましい。
【0045】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、銀、又はそれらの合金を用いることができる。正極集電体の形状としては、例えば、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。正極集電体としては、アルミニウム箔を好適に用いることができる。
【0046】
<電解液>
本実施形態における電解液は、リチウム塩(支持塩)と、この支持塩を溶解する非水溶媒を含む非水電解液であって、低沸点溶媒の割合が比較的低く設定されたものであることが好ましい。低沸点溶媒の気化によって電極間にガスが発生すると、その場所ではレドックスシャトル剤が移動できなくなり、シャトル剤によるエネルギー消費が行われなくなるためである。
【0047】
具体的には、電解液は、全溶媒の体積を100%としたときに、沸点が160℃以上の溶媒を20体積%以上含有するものであることが好ましく、30%以上含有することがより好ましく、50%以上含有することがさらに好ましい。
【0048】
非水溶媒としては、炭酸エステル(鎖状又は環状カーボネート)、カルボン酸エステル(鎖状又は環状カルボン酸エステル)、エーテル(鎖状または環状エーテル)またはこれらのフッ素置換化合物、リン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0049】
炭酸エステル溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;プロピレンカーボネート誘導体が挙げられる。
【0050】
カルボン酸エステル溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の炭酸エステル(環状または鎖状カーボネート類)が好ましい。
【0052】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等が挙げられる。
【0053】
また、非水電解液に含有できる溶媒としては、その他にも、例えば、エチレンサルファイト(ES)、プロパンサルトン(PS)、ブタンスルトン(BS)、Dioxathiolane−2,2−dioxide(DD)、スルホレン、3−メチルスルホレン、スルホラン(SL)、無水コハク酸(SUCAH)、無水プロピオン酸、無水酢酸、無水マレイン酸、ジアリルカーボネート(DAC)、2,5−ジオキサヘキサンニ酸ジメチル、2,5−ジオキサヘキサンニ酸ジメチル、フラン、2,5−ジメチルフラン、ジフェニルジサルファイド(DPS)、ジメトキシエタン(DME)、ジメトキシメタン(DMM)、ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン、クロロエチレンカーボネート、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、フェニルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、テトラヒドロピラン(THP)、1,4−ジオキサン(DIOX)、1,3−ジオキソラン(DOL)、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、ブチルアセテート、メチルジフルオロアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、メチルフォルメイト、エチルフォルメイト、エチルブチレート、イソプロピルブチレート、メチルイソブチレート、メチルシアノアセテート、ビニルアセテート、ジフェニルジスルフィド、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、アジポニトリル、バレロニトリル、グルタロニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリル、イソブチロニトリル、ビフェニル、チオフェン、メチルエチルケトン、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、グライム、エーテル、アセトニトリル、プロピオンニトリル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)イオン液体、ホスファゼン、がある。
【0054】
フッ素化炭酸エステルは、式(1)で表され、式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、R及びRの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。例えば、DECの水素の一部をフッ素で置換した、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートや、ECの水素の一部をフッ素で置換したフルオロエチレンカーボネート(FEC)がある。
【0055】
【化1】
【0056】
フッ素化カルボン酸エステルとしては、具体的には、例えば、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸エチル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、酢酸2,2−ジフルオロエチル、ヘプタフルオロイソ酪酸メチル、2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、ペンタフルオロプロピオン酸メチル、2−(トリフルオロメチル)−3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル、ヘプタフルオロ酪酸エチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロ酢酸イソプロピル、トリフルオロ酢酸tert−ブチル、4,4,4−トリフルオロ酪酸エチル、4,4,4−トリフルオロ酪酸メチル、2,2−ジフルオロ酢酸ブチル、ジフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸n−ブチル、酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、3−(トリフルオロメチル)酪酸エチル、テトラフルオロ−2−(メトキシ)プロピオン酸メチル、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸3,3,3トリフルオロプロピル、ジフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、酢酸1H,1H−ヘプタフルオロブチル、ヘプタフルオロ酪酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、エチル3,3,3−トリフルオロプロピオネートなどが挙げられる。
【0057】
鎖状フッ素化エーテル化合物は、式(2)で表され、式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基又はフッ素置換アルキル基を示し、Ra及びRbの少なくとも一つはフッ素置換アルキル基である。例えば、CF3OCH3、CF3OC26、F(CF22OCH3、F(CF22OC25、F(CF23OCH3、F(CF23OC25、F(CF24OCH3、F(CF24OC25、F(CF25OCH3、F(CF25OC25、F(CF2)8OCH3、F(CF2)8OC25、F(CF2)9OCH3、CF3CH2OCH3、CF3CH2OCHF2、CF3CF2CH2OCH3、CF3CF2CH2OCHF2、CF3CF2CH2O(CF22H,CF3CF2CH2O(CF22F、HCF2CH2OCH3,H(CF22OCH2CH3、H(CF22OCH2CF3,H(CF22CH2OCHF2、H(CF22CH2O(CF22H、H(CF22CH2O(CF23H、H(CF23CH2O(CF22H、(CF32CHOCH3、(CF32CHCF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CF3CHFCF2OCH2CH3、CF3CHFCF2CH2OCHF2、H(CF22CH2OCF2CHFCF3、CHF2−CH2−O−CF2CFH−CF3、F(CF22CH2OCF2CFHCF3などが挙げられる。
【0058】
【化2】
【0059】
本実施形態における支持塩としては、LiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO等の通常のリチウムイオン電池に使用可能なリチウム塩を用いることができる。支持塩は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
<レドックスシャトル剤>
レドックスシャトル剤としては、非水電解質中に均一に溶解もしくは分散し得る化合物であって、正極活物質の通常使用する最大の(SOC100%の)電位よりも高い酸化電位を有する化合物を用いることができる。ただし、レドックスシャトル剤は正極活物質の使用する最大の電位に応じて適宜選択することが好ましい。レドックスシャトル剤の酸化電位は、正極の最大電位より0.1〜2V高いことが好ましく、0.2〜1V高いことが更に好ましい。レドックスシャトル剤の酸化電位が上記の範囲内にある場合、二次電池を通常の電圧で動作させている時にはレドックスシャトル剤の反応を抑制することができ、かつ過充電などの異常時には速やかにレドックスシャトル剤が反応し、二次電池の動作を停止させることができる。
【0061】
レドックスシャトル剤としては、芳香族化合物、複素環錯体、フェロセン等のメタロセン錯体、Ce化合物、ラジカル化合物などが挙げられる。また、レドックスシャトル剤は一種のみを単独で用いることもでき、または二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
具体的な化合物としては、例えば、3,4−ジフルオロアニソール、2,4−ジフルオロアニソール、1−メトキシ−2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロアニソール、4−(トリフルオロメトキシ)アニソール、3,4−ジメトキシベンゾニトリル、1,2,3,4−テトラクロロ−5,6−ジメトキシベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロ−3,6−ジメトキシベンゼン4−フルオロ−1,2−ジメトキシベンゼン、4−ブロモ−1,2−ジメトキシベンゼン、2−ブロモ−1,4−ジメチルベンゼン、1−ブロモ−3−フルオロ−4−メトキシベンゼン、2−ブロモ−1,3−ジフルオロ−5−メトキシベンゼン、4,5−ジフルオロ−1,2−ジメトキシベンゼン、2,5−ジフルオロ−1,4−ジメトキシベンゼン、1,2,3,4−テトラクロロ−5,5−ジメトキシシクロペンタジエン、1,2,4−トリメトキシベンゼン、1,2,3−トリメトキシベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ジメトキシベンゼン、4−tert−ブチル−1,2−ジメトキシベンゼン、1,4−ジテトラブチル−2,5−トリフルオロメトキシベンゼン、1,2−ジテトラブチル−4,5−トリフルオロメトキシベンゼン、等の1つ以上の電子吸引性もしくは電子供与性の置換基を有する単素環式化合物;4−クロロ−1,2−メチレンジオキシベンゼン、4−ブロモ−1,2−メチレンジオキシベンゼン、3,4−メチレンジオキシベンゾニトリル、4−ニトロ−1,2−メチレンジオキシベンゼン、2−クロロ−5−メトキシピラジン等の複素環式化合物;ニトロキシルラジカル化合物等のラジカル化合物;硝酸セリウム等のセリウム化合物;フェロセン錯体等のメタロセン錯体;等のうち、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
なかでも、1つ以上のアルコキシ基を有する芳香族化合物(メトキシベンゼン類やジメトキベンゼン類)を好ましく用いることができる。これらの化合物は、酸化反応により生じる酸化体の化学的安定性が優れているため、副反応等で電池性能が低下することを抑制し得る。また、ハロゲン原子を有する化合物をより好ましく用いることができる。このような化合物は、酸化電位が高く、より酸化還元電位の高い正極、すなわちより高エネルギー密度の二次電池に適用することができる。
【0064】
<電池容量>
フィルム外装電池の電池容量は、一形態において、4Ah以上であることが好ましく、6Ah以上であることがより好ましく、8Ah以上であることがさらに好ましい。電池容量が大きいということは充電時の充電電流も大きいことを意味し、大電流で充電が行われる場合には電池が高温となり易い。したがって、本発明の技術的思想はこのような大型のフィルム外装電池に特に好適に適用することができる。
【0065】
<放熱性の観点>
フィルム外装電池の放熱性が高過ぎる場合、充電電圧がある程度高くならない限り、電池は所定の温度(安全機構が作動するトリガ温度)にまで上昇しない。電圧が比較的低いうちに(換言すれば比較的安全な状態のうちに)、電池を所定の温度にまで上昇させ、安全機構を作動させることが、安全性の面から好ましい。このような考え方に基けば、フィルム外装電池の放熱性を比較的低く設計することも好ましい。したがって、電池の容量あたりの表面積は5000mm/Ah以下、好ましくは4000mm/Ah以下、さらに好ましくは2500mm/Ah以下に設定されていてもよい。
【0066】
なお、上記の「表面積」とは、フィルム外装体の表面積(周縁部のシール部も含む)のことを意味する。フィルム外装体においては、フィルムの端面も面積を有しているが、表面積全体に占める割合が極小さいものであるので、端面の面積は「表面積」に含めなくても構わない。
【0067】
2.フィルム外装電池の容器への収納
図5に、本実施形態のフィルム外装電池を利用した電池モジュールの一例を示す。この電池モジュール1は、1つまたは複数のフィルム外装電池50と、それを収容するモジュール容器71とを備えている。
【0068】
モジュール容器71は、ハードケースとして構成されたものであってもよく、材質は、樹脂、金属、それらの組合せ等のいずれであってもよい。また、モジュール容器71としては不燃性材料で作製されたものであってもよい。一例として、モジュール容器71は、アルミニウム合金などの不燃性容器として構成されたものであってもよい。
【0069】
容器内でのフィルム外装電池50の配置についても、特に限定されるものではなく、種々の配置とすることができる。例えば、図5(a)のような単層の状態で配置してもよい。または、図5(b)のような積層状態で配置してもよい。フィルム外装電池50の向きに関し、電池モジュール1の使用時姿勢で、フィルム外装電池50が略水平となるような向き(横置き)としてもよいし、略垂直となるような向き(縦置き)としてもよいし、傾斜していてもよいし、さらにそれらの組合せであってもよい。
【0070】
さらに、本発明の一形態の電池モジュール1としては、フィルム外装電池50が膨張するのを防止するために、該電池を厚み方向に押さえる押さえ部材61、62(図5(a)参照)を有するものであってもよい。押さえ部材61、62は、フィルム外装電池50の外面の少なくとも一部を押さえる押圧面を有するものであれば、その大きさや形状はどのようなものであってもよい。押圧面は、フィルム外装電池の外面(正確には電池要素の形状に対応して盛り上がった部分の平坦面)に全面的に当接するようなものであってもよい。押圧面は、一例で平坦面として形成される。具体的な一例として、押さえ部材61、62は板状部材であってもよい。なお、一実施態様として、押圧面を凹凸状に形成してもよい。
【0071】
押さえ部材61、62は、必ずしも当該部材がフィルム外装電池50に対して押し付けられている(バネなどの付勢部材により付勢されている)必要はない。初期状態では、押さえ部材61、62がフィルム外装電池50に単に当接または近接しており、フィルム外装電池50が膨張し始めた際に密着して電池のそれ以上の変形を防止するようなものであればよい。このような構成であったとしても、後述する、ガス発生にともなう電池内部の電極積層体の膨張を防ぐことができるためである。
【0072】
図5(b)のような電池の配置の場合、フィルム外装電池50、50の間に1つの押さえ部材62を配置するとともに、その両側に押さえ部材61、63を配置するようにしてもよい。押さえ部材63の形状等については押さえ部材61、62に関する上記説明をそのまま流用しうる。なお、以上の説明では、フィルム外装電池50の両側に押さえ部材を配置する構成について説明したが、一方または両方を省略して、モジュール容器71の内面でフィルム外装電池50の外面を押さえるようにすることも可能である。
【0073】
上記のような押さえ部材61、62等が設けられていることにより、フィルム外装体電池50の外面は、フィルム外装体10の膨張が始まった時に、押さえ部材61、62等によって押さえられ、それにより、電池内部の電極積層体(図2の電池要素20)の変形が防止される。仮に、フィルム外装電池50の外形を拘束する部材が何ら設けられていない場合、フィルム外装体10や電池要素20がある程度の自由に膨張できることとなり、例えば電極間で発生したガスによって電極間の距離が広がってしまう可能性もある。電極間の距離が広がるということはその部分におけるレドックスシャトル剤のエネルギー消費機能が低下することを意味する。これに対して、本実施形態のようにフィルム外装電池50の外面を押さえ、変形を防止する押さえ部材が設けられている場合、ガスが発生するような状況においても電極間の距離を所定範囲内に保つことができ、ひいてはレドックスシャトル剤によるエネルギー消費機能を良好に保つことが可能となる。押さえ部材は、その押圧面がフィルム外装体の外面(最大面積面)の全面に当接して押さえるものであってもよいが、他の態様としては、例えば、同面の50%以上、好ましくは75%以上の領域を押さえるものであってもよい。
【0074】
図5では一例として、縦置きのフィルム外装電池50に対してその両側を押さえ部材61、62等で保持することが描かれているが、フィルム外装電池50を外部から押さえてその膨張を防止できるものであれば、他にも種々の機構を採用可能である。
【0075】
図6はフィルム外装電池50に対して圧力を加える機構を模式的に表したものである。具体的には、第1の部材65上にフィルム外装電池50が配置され、フィルム外装電池50上に該電池を押さえる第2の部材69が配置された構成となっている。なお、図6ではフィルム外装電池50を横置きとしているが、ここでは、電池を横置きとするか縦置きとするかは本質的な違いではなく、フィルム外装電池50をどのような部材で押圧するかや、付勢するか否か等がより重要な点である。
【0076】
第1の部材65に相当するものとしては、例えば、モジュールケース、積層された他のフィルム外装電池、または、電池が搭載される機器の一部を構成するベース部材等であってもよい。
【0077】
第2の部材69に相当するものとしては、積層された他のフィルム外装電池、フィルム外装電池を押圧する押圧部材等であってもよく、また、例えばバネ等の付勢手段を併用してフィルム外装電池を押圧する構成とすることも好ましい。なお、フィルム外装電池を積層する場合には、電池の自重により、下方のフィルム外装電池が押圧されることとなるので、付勢手段を併用しなくてもよい場合もある。
【0078】
なお、第1の部材と第2の部材との両方を電池に対して押し付ける構成としてもよい。一方、これとは反対に、初期状態では、第1の部材および/または第2の部材はフィルム外装電池に密着していない(例えば、若干の隙間を開けて配置されている)が、フィルム外装電池が膨張し始めると密着して、実質的に、押さえ部材としての機能を果たすような構成としてもよい。
【0079】
以上のように構成された本発明の一形態に係るフィルム外装電池によれば、(i)電解液にレドックスシャトル剤が含まれているので、電池に過充電を引き起こすような充電状態となった際であっても、過剰な電流についてレドックスシャトル剤の作用によって消費されるので、正極活物質を過充電状態にすることがない。
(ii)また、レドックスシャトル剤の作動により電解液が高温になったとしても、セパレータはその融点が180℃以上のものであるので、セパレータが変形、溶融するといったこともなく、したがって電極間が短絡することもなく、安全性が確保される。
(iii)さらに、セパレータはガーレー値で100(sec/100cc)以下という通気度を有するものであるので、セパレータ内においてレドックスシャトル剤が良好に作動し、過剰な電流を良好に消費することができる。
【0080】
以上、本発明の一態様としての構成を幾つか説明したが、上記に説明したそれぞれ事項(技術的特徴)は本発明の範囲を逸脱しない範囲内で適宜組み合せることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
<負極>
負極活物質として、天然黒鉛を用いた。この負極活物質と、負極結着剤としてのスチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と、導電補助材としてのアセチレンブラックとを、96:2:1:1の質量比で計量した。なお、SBRとしては、ゴム粒子分散体(固形分40質量%)を用い、結着材の固形分が上記質量比となるように計量して用いた。
【0083】
そして、これらを水と混合して、負極スラリーを調製した。負極スラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布した後に、窒素雰囲気下で80℃の熱処理を8時間行うことで乾燥させた。そして、得られた負極を露点−10℃の環境に3時間保存し、負極を得た。
【0084】
<正極>
正極活物質として、LiNi0.8Co0.15Al0.05を用いた。この正極活物質と、導電補助材としてのカーボンブラックと、正極結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、90:5:5の質量比で計量した。そして、これらをN−メチルピロリドンと混合して、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布した後に乾燥し、さらにプレスすることで、正極を作製した。
【0085】
<セパレータ>
厚さ25μm、空孔率70%、ガーレー値1.4秒/100ccの不織布構造のアラミドを用いた。アラミドの熱分解温度は400℃以上である。
【0086】
<電極積層体>
得られた正極と負極を、セパレータを介して積層した。正極活物質に覆われていない正極集電体および負極活物質に覆われていない負極集電体の端部をそれぞれ溶接した。さらに、その溶接箇所に、アルミニウム製の正極端子およびニッケル製の負極端子をそれぞれ溶接して、平面的な積層構造を有する電極積層体を得た。セルの初回充電容量が10Ahになるように積層数を調整した。
【0087】
<電解液>
非水溶媒としてECとDECの混合溶媒(体積比:EC/DEC=30/70)を用いた。その中に、支持塩としてのLiPFを電解液中の濃度が1Mとなるように添加した。さらに、レドックスシャトル剤として1、2−ジフルオロ−4,5−ジメトキシベンゼンを、電解液中の濃度が0.1Mになるように添加し、電解液を調製した。
【0088】
<二次電池>
電極積層体を外装体としてのアルミニウムラミネートフィルム内に収容し、外装体内部に電解液を注入した。その後、0.1気圧まで減圧しつつ外装体を封止し、リチウムイオン二次電池を作製した。二次電池の表面積は36000mmとした。
【0089】
<評価>
(過充電試験)
作製した二次電池に対し、1Cで10Vまで定電流で充電する過充電試験を行った。電池の積層体部分を平板な押さえ板で、電池の厚みに合わせて定寸で固定した状態で試験を行った。試験前には、押さえ板による積層体に対する圧力は加わっていない。セル表面の最高到達温度と、二次電池からの発煙の有無を表1にまとめる。
【0090】
(実施例2)
セパレータとして厚さ15μm、空孔率65%、ガーレー値90秒/100ccの微多孔構造のアラミドを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
セパレータとして厚さ25μm、空孔率70%、ガーレー値2.2秒/100ccの不織布構造のセルロースを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。セルロースの熱分解温度は約300℃である。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
セパレータとして厚さ20μm、空孔率80%、ガーレー値60秒/100ccの微多孔構造のポリイミドを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。ポリイミドの熱分解温度は約500℃以上である。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
セパレータとして厚さ25μm、空孔率70%、ガーレー値1.7秒/100ccの不織布構造のポリプロピレンを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。ポリプロピレンの融点は160℃である。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
セパレータとして厚さ25μm、空孔率55%、ガーレー値200秒/100ccの微多孔構造のポリプロピレンを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例3)
セパレータとして厚さ45μm、空孔率65%、ガーレー値270秒/100ccの微多孔構造のアラミドを用いた。それ以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示される通り、融点が160℃であるポリプロピレンセパレータを備える二次電池(比較例1、2)においては、セルの表面温度が270℃程度まで上昇し、ラミネート外装体から発煙が見られた。これはセルの内部温度が160℃に到達し、セパレータが溶融・収縮し、正負極がショートしたためである。
【0098】
また、熱分解温度が400℃を越えるアラミド微多孔セパレータであっても、膜厚が45μmでガーレー値が270秒/100ccのものを備える二次電池(比較例3)においては、セルの表面温度が280℃まで上昇し、ラミネート外装体から発煙が見られた。これは膜厚とガーレー値の増加によって、レドックスシャトル剤の動作性が低下して、正極が過充電状態になり熱暴走したためである。
【0099】
一方で、熱分解温度が400℃を越えるアラミドからなり、かつガーレー値が100秒/100cc以下であるセパレータを備える二次電池(実施例1、2)や、熱分解温度が300℃程度のセルロースからなるセパレータを備える二次電池(実施例3)、熱分解温度が500℃以上であるポリイミドセパレータを備える二次電池においては、到達温度が130℃程度にとどまり、ラミネート外装体からの発煙が見られなかった。これは、レドックスシャトル剤が正常に電流を消費し、かつセパレータの溶融・収縮が起こらなかったことで正負極のショートが抑制されたためと考えられる。
【0100】
(付記)
本出願は、以下の発明を開示する。
1.セパレータを介して積層された正極および負極を有する電池要素と、リチウム塩を含有する非水電解質と、それらを収容するフィルム外装体と、を備え、
a:上記非水電解質が、過充電時に過剰なエネルギーを消費するレドックスシャトル剤を含み、
b:上記セパレータは、
(b1)その融点が180℃以上であり、
(b2)ガーレー値が100〔sec/100cc〕以下である、フィルム外装電池。
なお、セパレータは、「その融点が180℃以上である」ものに代えて、「その融点または熱分解温度が180℃以上である」ものであってもよい。
【0101】
2.上記セパレータの厚みが、12μm〜40μmの範囲内である、上記1に記載のフィルム外装電池。
【0102】
3.上記セパレータが、織布または不織布である、上記1または2に記載のフィルム外装電池。
【0103】
4.上記セパレータが、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維の中から選ばれる、上記3に記載のフィルム外装電池。
【0104】
5.容量あたりのフィルム外装体の表面積が、5000mm/Ah以下である、上記1〜4のいずれかに記載のフィルム外装電池。
【0105】
6.容量が4Ah以上である、上記1〜5のいずれかに記載のフィルム外装電池。
【0106】
7.上記1〜6のいずれかに記載のフィルム外装電池と、それを収容するモジュール容器と、を備える電池モジュール(「組電池」と称することもできる)。
【0107】
8. さらに、上記フィルム外装電池に当接しまたは近接した状態で配置され、電池内部でガスが発生した場合に当該電池を外部から押さえて上記電池要素の変形を防止する押さえ部材(61、62等)を備える、上記7に記載の電池モジュール。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の一形態に係る二次電池は、例えば、電源を必要とするあらゆる産業分野に利用可能である。一例として、携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源として利用でき;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車などの電動車両の電源として利用でき;電車や衛星や潜水艦などの移動用輸送用媒体の電源として利用でき;電力を貯める蓄電システムとして利用できる。
【符号の説明】
【0109】
1 電池モジュール
10 フィルム外装体
11、12 フィルム
15 熱溶着部
18 ガス放出機構
20 電池要素
21、25 電極タブ
31 正極
35 負極
31a、35b 集電体
38 セパレータ
50 フィルム外装電池
61〜63 押さえ部材
65、69 部材
71 モジュールケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6