【文献】
野々垣 稔,“種々の接触理論による接触近似式表面形状パラメータの考察”,奈良工業高等専門学校 研究紀要,日本,奈良工業高等専門学校,2000年 3月15日,第35号,第1頁-第4頁,ISSN 0387-1150,URL,https://www.nara-k.ac.jp/nnct-library/publication/pdf/h11kiyo_all.pdf
【文献】
久門 輝正,“固体仕上面間の接触機構 (第5報,突起の弾性変形を考慮した場合)”,日本機械学會論文集,日本,日本機械学會,1972年10月25日,38巻, 314号,第2657頁-第2665頁,ISSN 2185-9485,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikai1938/38/314/38_314_2657/_article/-char/ja/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分布算出部は、前記粗さ分布が、前記尖度及び歪度の組み合わせによって定まるパラメータを用いて表されるJohnson分布によるときの、前記突起頂点分布を算出する請求項1に記載の演算装置。
前記分布算出部は、前記突起頂点分布としての、基準面からの突起頂点の高さが各高さであり、かつ、突起頂点の曲率が各曲率である確率を規定する確率密度関数を表すGreenwood simplified ellipticモデルを、前記粗さ分布が、前記尖度及び歪度の組み合わせによって定まるパラメータを用いて表されるJohnson分布によるときの、前記突起頂点分布に変換することにより、前記突起頂点分布を算出する請求項2に記載の演算装置。
前記分布算出部は、前記突起頂点分布の変換の際に、前記粗さ分布がJohnson分布によるときの前記突起頂点分布の変換に応じて、突起頂点の各高さに対する突起頂点の曲率を補正するように、前記突起頂点分布を算出する請求項3記載の演算装置。
前記接触算出部は、前記突起頂点分布について予め計算された積分積算を表す演算子、及び二つの前記突起頂点分布の組み合わせについて予め計算された積分積算を表す演算子を用いて、前記真実接触面積又は垂直抗力を算出する請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の演算装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の実施の形態における概要を説明する。
【0019】
上記課題の一つ目の問題に対し、本発明の実施の形態では、粗さ突起接触モデルであるGreenwood and Trippモデル(GTモデル)の考え方を用いることによって、
図1に示すように、非正規分布を持つ粗面同士の接触を取り扱うことができる。これらの粗面は互いに歪度、及び尖度が異なっていても計算可能である。
【0020】
上記課題の二つ目の問題に対し、本発明の実施の形態では、粗さ分布が指定された歪度、及び尖度に変換されるときに、歪度、及び尖度に従属する形で突起頂点分布を変換する。変換前の突起頂点分布はGreenwood(2006)のsimplified ellipticモデル(GSEモデル)で与えられる(非特許文献1参照)。この計算手順については、以下の原理の説明で詳細を示す。
【0021】
[非特許文献1]:Greenwood, J. A. (2006). A simplified elliptic model of rough surface contact. Wear, 261(2), 191-200.
【0022】
GTモデルをベースに、以下の改良を施すことで精度を大幅に向上させる。GTモデルでは突起頂点分布を正規分布とし、突起曲率半径を一定と仮定しており、このままでは精度が不十分なため、より実粗面に近い突起頂点分布および突起曲率半径分布を用いているGSEモデルを用いてGTモデルの式を改良する。
【0023】
また、本発明の実施の形態では、取り扱いやすさと精度を考慮し、非正規分布としてPearson分布に代わりJohnson分布を用いる。上記の改良では粗さ分布が正規分布である粗面しか扱えないため、歪度、尖度に特徴を持つ粗面について取り扱うことができない。そこで、粗さ分布にJohnson分布を用いて任意の歪度、尖度を持つ粗面を取り扱えるようにした。粗さ分布にJohnson分布を用いた場合の突起頂点分布の変換について厳密に計算を行い、曲率半径の変化についても補正を与えることによって精度を維持する。
【0024】
また、既存の突起接触モデルではHertzの接触理論に基づいて、二つの粗面の接触時における実際の接触面積である真実接触面積、及び垂直抗力を計算している。このとき、突起を一定の曲率を持つ半球であると仮定しているが、実際の突起は先端から離れるにしたがって曲率が小さくなる。そこで、本発明の実施の形態では突起の曲率変化を考慮して、元の接触モデルにおける曲率に一定倍率の補正を与える。
【0025】
以上の改良によって、検討可能な粗面の条件が大幅に拡張され、さらに直接数値計算と比較しても非常に良好な真実接触面積の予測が可能となる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態における原理を説明する。
【0028】
本発明の演算装置に入力するパラメータは、η
i:突起数密度、σ
ki:断面曲率又はβ
i:平均突起曲率半径、σ
i:二乗平均平方根粗さ、S
ski:歪度(スキューネス)、S
kui:尖度(クルトシス)、E
i:ヤング率(縦弾性係数)、v
i:ポアソン比、A
n:見かけの接触面積である。添字のiは粗面1、及び粗面2それぞれの持つ物理量であることを示す。以下に、これらのパラメータについて概要を述べる。
【0029】
以下の原理の説明では、等方粗さを持つ粗面を仮定する。以下(1)式の粗さ断面曲線のパワースペクトル密度P(k)(k:波数)のモーメントを用いて、以下(2)式で二乗平均平方根粗さσ、断面曲率σ
k、突起数密度ηは算出される。
【0030】
【数1】
・・・(1)
・・・(2)
【0031】
上記(1)式、(2)式のパラメータをパワースペクトル密度から算出する以外に、これらのパラメータに実測した値を直接用いても良い。本発明の実施の形態で援用するGSEモデルの場合、実測で得られる平均突起曲率半径βと断面曲率σ
kとの間には以下(3)式の関係がある。
【0033】
3次元の離散点で表現される粗面において、ある点の基準面からの高さがzである確率が確率密度関数(以下、粗さ分布関数)φ(z)で規定されるとき、歪度S
sk、及び尖度S
kuは以下(4)式、及び(5)式となる。
【0034】
【数3】
・・・(4)
・・・(5)
【0035】
ここで、mは粗さ基準面高さであり、一般にデータ処理前に取り除かれるため、以降はm=0とする。粗さ分布関数が正規分布である場合は、S
sk=0、S
ku=3となる。これらのパラメータについても、光学顕微鏡などで自動的に算出された値をそのまま用いても良い。
【0036】
ヤング率E
i、ポアソン比v
iは材料固有の値であり、垂直抗力の算出には等価ヤング率を用いる。
【0039】
まず、指定された歪度、及び尖度の組み合わせに対応する、基準面からの高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である粗さ分布を決定する。歪度、及び尖度を制御できる分布関数として、Pearson分布やJohnson分布関数などがあるが、本発明の実施の形態ではJohnson分布を用いる。Johnson分布は歪度、及び尖度の組合せに対応した以下(7)式の2つの異なる式で与えられる。
【0041】
ここで、ξは粗面上の点の無次元高さであり、高さzを二乗平均平方根粗さで無次元化したものである。上記(7)式のφ
JSU(ξ)及びφ
JSB(ξ)はそれぞれJohnsonSU(JSU)分布、JohnsonSB(JSB)分布と呼ばれる。
図2に歪度、及び尖度の組合せと、組み合わせに対応する分布の種類を示す。(7)式中のγ、δ、λ、ζは、Johnson分布パラメータと呼ばれ、分布の種類と同様に歪度、及び尖度の組合せによって決まる。数値計算を用いて歪度、及び尖度の組合せに対応する分布の種類とJohnson分布パラメータを決定し、得られた結果をデータベース化することによって、速やかに分布関数を求めることができる。表1に代表的な歪度、及び尖度に対応するパラメータの組合せを示す。また、
図3に歪度、及び尖度による分布形状を示す。
【0043】
Johnson分布のパラメータの導出方法は、以下(1)〜(5)の手順に従う。
【0044】
(1)まず、必要なS
sk、S
kuの値から、上記
図2に示す関係に応じて、JSB、又はJSUのいずれの式を用いるか決定する。
(2)γ,δ,λ,ζに適当な初期値を与える。
(3)γ,δ,λ,ζから分布Φを計算し、(4)式、及び(5)式に代入し、S
sk、S
kuを導出する。この際、(4)式、及び(5)式の無次元化が必要である。
(4)上記(3)で導出したS
sk、S
kuと必要なS
sk、S
kuの値が異なる場合、γ,δ,λ,ζの値を更新する。
(5)上記(2)〜(4)をS
sk、S
kuの値が必要なS
sk、S
kuの値に十分近づくまで繰り返す。このとき(2)に関しては適切な値を与えることで収束を早くさせることができる。また、(4)の更新の時は最適化手法に従って更新を行うと効率が良い。最適化手法としては、例えば、焼きなまし法やタブー探索法などが挙げられる。
【0045】
上記のJohnson分布を用いれば歪度、及び尖度の値に対応する粗さ分布を算出できるが、突起接触モデルで計算に用いるのは突起頂点分布である。
図4に示すように一般的には粗さ分布と突起頂点分布とは異なり、突起頂点分布は、基準面からの突起頂点の高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である。すなわち、粗さ分布をJohnson分布によって変換した場合、突起頂点分布はそれに対応して異なる分布形状に変換されることになる。
【0046】
以下に突起頂点分布の変換方法を示す。Johnson分布関数の累積分布関数φ
JSU(ξ)及びφ
JSB(ξ)の正規分布の累積分布関数Φ(ξ)の間には以下(8)式の関係がある。
【0048】
このことは、正規分布に従う粗さ分布における離散点の無次元高さをξ
0とし、Johnson変換後の離散点の無次元高さをξとしたときに、両者の間に以下(9)式の関係が成り立つことを意味している。
【0050】
突起頂点分布もJohnson分布と同様に変換されるため、これらの関係を用いて突起頂点分布の変換を求めることが可能である。変換前の突起頂点分布関数をφ
0(ξ
0)、変換後の突起頂点分布関数をφ(ξ)とする。変換前に高さξに位置していた突起が変換後に高さξ
0に移ったとすると、次の関係式が成り立つ。
【0052】
(10)式を高さξについて微分すると以下(11)式が得られる。
【0054】
よって、変換前の突起頂点分布φ
0(ξ)が既知であれば変換後の突起頂点分布関数を解析的に求めることができる。本発明の実施の形態では変換前の突起頂点分布関数として、突起の高さと曲率についての分布を表すGSEモデルを用いる。GSEモデルの突起頂点分布関数は以下(12)式により表される。
【0056】
gは断面曲率σ
kで無次元化した突起曲率(無次元曲率)である。この式をgの全範囲で積分すれば突起頂点高さについての分布となる。αはNayakのパラメータと呼ばれる無次元数で、入力パラメータη、σ、σ
kを用いて以下のように表すことができる。
【0059】
ここで、非特許文献1記載のGSEモデルにおいて、粗面及び平滑面についての真実接触面積A
rは以下(14)式で表される。
【0061】
また、垂直抗力Wは以下(15)式で表される。
【0063】
〈・〉はMacauleyのブラケットで、以下(16)式のように定義される。
【0065】
ここで、異なる面性状を持つ粗面同士の接触における真実接触面積A
rおよび垂直抗力Wの導出を行うと、以下(17)式、及び(18)式が得られる。
【0066】
【数15】
・・・(17)
・・・(18)
【0067】
ここで、dは両粗面の基準面間距離であり、これを合成粗さσ
*で無次元化したものを膜厚比と呼ぶ。φ1が、粗面1の突起頂点分布関数であり、φ2が、粗面2の突起頂点分布関数である。
【0068】
GSEモデルでは粗面の無次元高さξおよび無次元曲率gについての二重積分であるが、本発明の実施の形態では、上記(17)式、及び(18)式のように、粗面1、及び粗面2のそれぞれの無次元高さξ
iおよび無次元曲率g
iについての四重積分である。
【0069】
(17)式、及び(18)式に前工程で算出した突起頂点分布および入力パラメータを代入すれば、真実接触面積および垂直抗力を求めることができる。さらに、本発明では(17)式、及び(18)式に以下の2つの手法で曲率についての補正を行う。
【0070】
第1に、従来の粗さ突起接触モデルはいずれも突起形状を一定の曲率半径を持つ半球と仮定している。しかし、実際の粗さ突起は真球ではなく、先端から徐々に曲率が変化していくものと考えるのが妥当である。そこで、数値的に生成した粗面における突起形状を調べ、それらを平均化した。その結果を
図5に示す。突起は先端曲率円よりも広がっていることがわかる。厳密に突起形状の変化を考慮して計算に入れ込むことは困難であるため、ここでは簡易的に先端の曲率半径に一定倍率の補正を掛けるものとする。
【0071】
第2に、Johnson変換における突起曲率の補正である。Johnson分布は粗さの高さ分布を変換するが、それに伴ってそれぞれの突起の曲率も変化する。例えば、
図6に示す通り、変換によって突起が高さ方向に引き伸ばされたような形状になった場合、突起の曲率半径は小さくなる。逆に変換によって高さ方向に縮んだ場合は、突起の曲率半径は大きくなる。突起が引き伸ばされるか、縮められるかは突起の位置する高さによって決まる。突起先端の高さがξ
0のとき、変換後の高さξにおける曲率の変化は上記(11)式のf(ξ)に等しい。しかし、先端以外の突起曲率については同様にその位置の高さによって変化するため、突起全体の曲率変化を計算することは非常に困難である。そこで、本発明の実施の形態では突起頂点よりも一定距離下方での高さを用いて変換を行う。
【0072】
以上の2つの突起曲率についての変換を一つの式で表すと、次のようになる。
【0074】
ここで、gは変換前の突起曲率、g′は変換後の突起曲率であり、εは実粗面における突起形状の広がりを補正する係数、cはJohnson変換における突起曲率変化の基準距離である。
【0075】
補正した突起曲率を用いて(17)式、及び(18)式を修正すると以下(20)式、及び(21)式となる。
【0076】
【数17】
・・・(20)
・・・(21)
【0077】
これらを計算すれば、任意の面性状を持つ粗面同士の接触についての真実接触面積および垂直抗力が算出できる。
【0078】
しかし、(20)式、及び(21)式はこのままでは四重積分となり膨大な計算コストが掛かってしまうため、以下(22)式、及び(23)式のように演算子を定義する。
【0079】
【数18】
・・・(22)
・・・(23)
【0080】
定義したF及びGの演算子を用いれば、真実接触面積A
r及び垂直抗力Wは以下(24)式、及び(25)式となる。
【0081】
【数19】
・・・(24)
・・・(25)
【0082】
実際の数値計算ではこれらの演算子をξについてあらかじめ計算しておき、それを代入することで二重積分と同等のコストで真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出することができる。
【0083】
<本発明の実施の形態に係る演算装置の構成>
【0084】
次に、本発明の実施の形態に係る演算装置の構成について説明する。
図7に示すように、本発明の実施の形態に係る演算装置100は、CPUと、RAMと、後述する演算処理ルーチンを実行するためのプログラムや各種データを記憶したROMと、を含むコンピュータで構成することが出来る。この演算装置100は、機能的には
図7に示すように入力部10と、演算部20と、出力部50とを備えている。
【0085】
入力部10は、二つの粗面の各々の接触時におけるパワースペクトル密度P
i(k)、ヤング率E
i、ポアソン比v
i、及び見かけの接触面積A
nを受け付ける。また、入力部10は、二つの粗面の各々の歪度S
ski及び尖度S
kuiを受け付ける。
【0086】
演算部20は、データベース28と、設定部30と、分布算出部32と、接触算出部34とを含んで構成されている。
【0087】
データベース28には、上記表1に示すような歪度、及び尖度に対応するJohnson分布のパラメータγ,δ,λ,ζの値が格納されている。
【0088】
設定部30は、入力部10で受け付けた二つの粗面の各々の接触時におけるパワースペクトル密度P
i(k)、ヤング率E
i、ポアソン比v
i、見かけの接触面積A
n、歪度S
ski、及び尖度S
kuiに基づいて、二つの粗面の各々の尖度及び歪度を含む面性状を計算条件として設定する。二乗平均平方根粗さσ、断面曲率σ
ki、突起数密度η
iはパワースペクトル密度P
i(k)に基づいて上記(2)式で算出して、計算条件とする。また、等価ヤング率E′を上記(6)式で算出して、計算条件とする。
【0089】
分布算出部32は、設定部30で設定した計算条件に基づいて、二つの粗面の各々について、尖度及び歪度の組み合わせに対応する、基準面からの高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である粗さ分布を取得し、粗さ分布から、基準面からの突起頂点の高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である突起頂点分布φ
i(ξ)を算出する。ここでは、変換前の突起頂点分布関数φ
0(ξ)として、上記(12)式で表されるGSEモデルを用いて、粗さ分布から、変換後の突起頂点分布φ
i(ξ)を算出する。GSEモデルは、突起頂点分布としての、基準面からの突起頂点の高さが各高さであり、かつ、突起頂点の曲率が各曲率である確率を規定する確率密度関数を表す。また、GSEモデルは、粗さ分布が正規分布によるときの突起頂点分布である。上記(11)式に従って、GSEモデルを、粗さ分布が、尖度及び歪度の組み合わせによって定まるパラメータを用いて表される上記(8)式のJohnson分布によるときの突起頂点分布φ
i(ξ)に変換することにより、突起頂点分布φ
i(ξ)を算出する。また、上記(19)式により、突起頂点分布の変換の際に、粗さ分布がJohnson分布によるときの突起頂点分布の変換に応じて、突起頂点の各高さに対する突起頂点の曲率を補正するように、突起頂点分布φ
i(ξ)を算出する。
【0090】
接触算出部34は、上記(24)式、及び(25)式に従って、設定部30で計算条件とされた等価ヤング率E′及び見かけの接触面積A
nと、二つの粗面の各々について算出された突起頂点分布φ
i(ξ)とに基づいて、二つの粗面の接触時における実際の接触面積である真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出する。ここでは、上記(22)式により突起頂点分布について予め計算された積分積算を表す演算子F、及び上記(23)式により二つの突起頂点分布の組み合わせについて予め計算された積分積算を表す演算子Gを用いて、真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出する。
【0091】
<第1の実施の形態に係る演算装置の作用>
【0092】
次に、第1の実施の形態に係る演算装置100の作用について説明する。入力部10において二つの粗面の各々の接触時におけるパワースペクトル密度P
i(k)、ヤング率E
i、ポアソン比v
i、見かけの接触面積A
n、歪度S
ski、及び尖度S
kuiを受け付けると、演算装置100は、
図8に示す演算処理ルーチンを実行する。
【0093】
まず、ステップS100では、入力部10で受け付けた二つの粗面の各々の接触時におけるパワースペクトル密度P
i(k)、ヤング率E
i、ポアソン比v
i、見かけの接触面積A
n、歪度S
ski、及び尖度S
kuiに基づいて、二つの粗面の各々の尖度及び歪度を含む面性状を計算条件として設定する。
【0094】
次に、ステップS102では、入力部10で受け付けた二つの粗面の各々の歪度S
ski及び尖度S
kuiに基づいて、データベース28からJohnson分布のパラメータγ,δ,λ,ζの値を読み出す。
【0095】
ステップS104では、設定部30で設定した計算条件と、ステップS102で読み出したJohnson分布のパラメータγ,δ,λ,ζとに基づいて、上記(8)式に従って、二つの粗面の各々について、尖度及び歪度の組み合わせに対応する、基準面からの高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である粗さ分布を取得し、上記(11)式に従って、粗さ分布から、基準面からの突起頂点の高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である突起頂点分布φ
i(ξ)を算出する。
【0096】
ステップS106では、上記(22)式により突起頂点分布について計算された積分積算を表す演算子Fを算出し、上記(23)式により二つの突起頂点分布の組み合わせについて計算された積分積算を表す演算子Gを算出する。
【0097】
ステップS108では、上記(24)式、及び(25)式に従って、入力部10で受け付けたヤング率E
i及び見かけの接触面積A
nと、二つの粗面の各々について算出された突起頂点分布φ
i(ξ)と、上記ステップS106で算出された演算子F、演算子Gとに基づいて、二つの粗面の接触時における実際の接触面積である真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出し、出力部50に出力して処理を終了する。
【0099】
同じ歪度、及び尖度を持つ粗面同士を接触させたときの真実接触面積について、本発明の実施の形態の手法で算出した結果と、直接数値計算で算出した結果との比較を
図9に示す。
【0100】
粗面を数値的に生成する手法として、2D-Weierstrass-Mandelbrot関数(以下、WM関数)を用いる。WM関数についての詳細な手法は、例えば非特許文献2の手法を用いることができる。
【0101】
[非特許文献2]:Ciavarella, M., Greenwood, J. A., & Paggi, M. (2008). Inclusion of “interaction” in the Greenwood and Williamson contact theory. Wear, 265(5), 729-734.
【0102】
ここで、真実接触面積A'
rは変形を無視した場合での粗面同士のオーバーラップしている部分の投影面積を指しており、弾性変形を仮定した場合の真実接触面積A
rの2倍に等しい。
図9のように本発明の実施の形態の手法で算出した真実接触面積と、直接数値計算で算出した真実接触面積は非常に良い一致を示す。一方、従来技術では同じ歪度、尖度を持つ粗面同士を接触させるような計算を行うことはできない。また、
図10に同じ歪度、尖度を持つ粗面同士を接触させたときの垂直抗力について示す。なお、
図9及び
図10におけるRegは正規分布の場合を表す。
【0103】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る演算装置によれば、尖度及び歪度の組み合わせに対応する、基準面からの高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である粗さ分布を取得し、粗さ分布から、基準面からの突起頂点の高さが各高さである確率を規定する確率密度関数である突起頂点分布を算出し、二つの粗面の各々について算出された突起頂点分布に基づいて、二つの粗面の接触時における実際の接触面積である真実接触面積又は垂直抗力を算出することにより、各々指定された歪度及び尖度を有する粗面同士の接触状況を算出することができる。
【0104】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0105】
例えば、上述した実施の形態では、(19)式により、突起頂点の各高さに対する突起頂点の曲率を補正する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。突起頂点の曲率を補正しない場合には、上記g′をgに置き換えて計算して、真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出すればよい。
【0106】
例えば、上述した実施の形態では、真実接触面積A
r及び垂直抗力Wを算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、真実接触面積A
r又は垂直抗力Wのいずれかを算出するようにしてもよい。