特許第6597732号(P6597732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597732
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】ガス処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20191021BHJP
   H01L 21/31 20060101ALN20191021BHJP
   H01L 21/302 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   C23C16/455
   !H01L21/31 B
   !H01L21/302 201
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-142838(P2017-142838)
(22)【出願日】2017年7月24日
(65)【公開番号】特開2019-23329(P2019-23329A)
(43)【公開日】2019年2月14日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133776
【弁理士】
【氏名又は名称】三井田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】神尾 卓史
(72)【発明者】
【氏名】布重 裕
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−175060(JP,A)
【文献】 特開2016−117933(JP,A)
【文献】 特開2004−158499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
H01L 21/302−21/3215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気である処理室内の基板に対して処理ガスを供給して処理を行うガス処理装置において、
前記処理室に設けられ、前記基板が載置される載置部と、
前記載置部の上方側に位置して前記処理室の天井部を構成し、前記処理ガスをシャワー状に供給するための複数の第1のガス供給口が形成されるガス供給部と、
前記ガス供給部に上方から対向し、前記処理ガスを横方向に拡散させるための第1の拡散空間を画成する平坦な対向面を備えると共に、前記処理ガスの供給路を形成するガス供給路形成部と、
前記対向面の中央部のまわりに設けられる凹部と、
前記供給路から供給された前記処理ガスを前記第1の拡散空間に横方向に分散させるために周方向に沿って複数のガス吐出口が形成され、前記対向面の中央部のまわりに複数、各々当該対向面から突出せずに前記凹部内に設けられるガス分散部と、
を備えたことを特徴とするガス処理装置。
【請求項2】
前記ガス供給路形成部は、
前記対向面の中央部に下方に向けて開口する第2のガス供給口と、
前記ガス分散部及び前記第2のガス供給口に前記処理ガスを導入するために、当該ガス分散部及び第2のガス供給口に共通して設けられ、上流側から前記処理ガスが供給される共通流路と、
を備えることを特徴とする請求項1記載のガス処理装置。
【請求項3】
前記第2のガス供給口は前記処理ガスを前記第1の拡散空間にシャワー状に供給するために複数設けられ、
前記ガス供給路形成部は、前記処理ガスを横方向に拡散させて前記第2のガス供給口に供給するために、各第2のガス供給口に共通の第2のガス拡散空間を備え、
前記共通流路は、前記ガス分散部及び前記第2のガス拡散空間に前記処理ガスを供給することを特徴とする請求項2記載のガス処理装置。
【請求項4】
前記第1のガス供給口と前記第2のガス供給口とは、互いに重ならないことを特徴とする請求項2または3記載のガス処理装置。
【請求項5】
前記ガス処理装置は、前記処理ガスである原料ガス、雰囲気を置換するための置換ガス、及び前記原料ガスと反応して前記基板上に反応生成物を生成するための反応ガスを順番に複数サイクル供給して成膜する成膜装置であり、
前記処理ガスの供給路の上流側には、前記原料ガス用の流路、反応ガス用の流路及び置換ガス用の流路が接続されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載のガス処理装置。
【請求項6】
前記原料ガス用の流路と前記反応ガス用の流路との合流点から前記各ガス分散部に至るまでの流路の長さが互いに同じであることを特徴とする請求項5記載のガス処理装置。
【請求項7】
前記ガス供給路形成部には、前記対向面の中央部に下方に向けて開口する第2のガス供給口前記処理ガスを横方向に拡散させて前記第2のガス供給口に供給するために、各第2のガス供給口に共通の第2のガス拡散空間と前記ガス分散部及び前記第2のガス供給口に前記処理ガスを導入するために、当該ガス分散部及び第2のガス供給口に共通して設けられ、上流側から前記処理ガスが供給される共通流路と、が設けられ、
前記原料ガス用の流路と前記反応ガス用の流路との合流点から前記各ガス分散部に至るまでの流路の長さと、前記合流点から前記第2のガス拡散空間に至るまでの流路の長さと、が互いに同じであることを特徴とする請求項5または6記載のガス処理装置。
【請求項8】
前記処理ガスの供給路は前記ガス分散部毎に設けられ、
前記ガス供給路形成部は、前記各供給路にガスを供給するために、横方向に前記処理ガスを拡散させる第3のガス拡散空間と、
前記原料ガス用の流路と前記反応ガス用の流路との合流点の下流側が分岐することで形成され、前記処理ガス、前記反応ガス、前記置換ガスを各々、前記第3の拡散空間における互いに異なる位置に供給するための分岐路と、
を備えることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一つに記載のガス処理装置。
【請求項9】
前記置換ガス流路に設けられ、前記置換ガスを貯留するガス貯留部と、
前記置換ガス流路において前記ガス貯留部の下流側に設けられ、前記置換ガスが貯留されて前記ガス貯留部内が昇圧した後、当該ガス貯留部から前記置換ガスが前記処理室に供給されるように開閉されるバルブと、
を備えることを特徴とする請求項5ないし8のいずれか一つに記載のガス処理装置。
【請求項10】
前記凹部は上方へ向かうにつれて開口面積が小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一つに記載のガス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気とされた処理容器内にて基板にガス処理を行うためのガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)にガス処理として例えばALD(Atomic Layer Deposition)による成膜が用いられる場合が有る。このALDでは真空雰囲気とされた処理容器内に、ウエハの表面に吸着する原料ガスと、当該原料ガスと反応する反応ガスと、を交互に複数回供給して、ウエハの表面に反応生成物の原子層を堆積させて成膜する。原料ガスが供給される時間帯と反応ガスが供給される時間帯との間には、パージガスが供給される。
【0003】
このALDを行う成膜装置については、ウエハの面内に均一性高い膜厚で成膜するように構成されることが求められている。このような要請に応える装置として、例えば特許文献1には、ウエハの載置台と対向する対向面に複数のガス供給部を備える装置が示されている。各ガス供給部は、周方向に各ガスを吐出する吐出口を備えることで、載置台の上方に区画されて設けられた拡散空間において横方向にガスを拡散させる。このように拡散したガスは、拡散空間の底部を形成するプレートに多数開口した吐出口からシャワー状にウエハに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−70249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のウエハの面内における膜厚の均一性についてより高くすることが検討されており、そのために上記のガス供給部及び拡散空間を備える成膜装置については、当該拡散空間に供給されるガスの濃度の均一性をより高くすることが検討されている。また、上記のガス供給部及び拡散空間を備える成膜装置について、比較的短い時間内に比較的大きな流量でパージガスをガス供給部から吐出し、原料ガス及び反応ガスを速やかにパージして、装置のスループットを向上させることが検討されている。そのようにパージを行う場合であっても、拡散空間におけるガスの濃度の均一性を高くし、ウエハに均一性高い膜厚で成膜することができる技術が求められている。
【0006】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、基板の面内に均一性高いガス処理を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス処理装置は、真空雰囲気である処理室内の基板に対して処理ガスを供給して処理を行うガス処理装置において、
前記処理室に設けられ、前記基板が載置される載置部と、
前記載置部の上方側に位置して前記処理室の天井部を構成し、前記処理ガスをシャワー状に供給するための複数の第1のガス供給口が形成されるガス供給部と、
前記ガス供給部に上方から対向し、前記処理ガスを横方向に拡散させるための第1の拡散空間を画成する平坦な対向面を備えると共に、前記処理ガスの供給路を形成するガス供給路形成部と、
前記対向面の中央部のまわりに設けられる凹部と、
前記供給路から供給された前記処理ガスを前記第1の拡散空間に横方向に分散させるために周方向に沿って複数のガス吐出口が形成され、前記対向面の中央部のまわりに複数、各々当該対向面から突出せずに前記凹部内に設けられるガス分散部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基板にシャワー状に処理ガスを供給するガス供給部に上方から対向し、当該処理ガスを横方向に拡散させるための拡散空間を形成する平坦な対向面の中央部のまわりに凹部が設けられる。そして、周方向に沿って複数のガス吐出口が形成されるガス分散部が、対向面の中央部のまわりに、各々当該対向面から突出せずに凹部内に複数設けられる。このような構成により、拡散空間において処理ガスの流れが阻害されることが抑制されるため、基板の面内において均一性高いガス処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る成膜装置の縦断側面図である。
図2】前記成膜装置を構成する流路形成部の斜視図である。
図3】前記流路形成部に設けられる対向面の平面図である。
図4】前記流路形成部の縦断側面図である。
図5】前記流路形成部に設けられるガス流路の斜視図である。
図6】前記流路の平面図である。
図7】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図8】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図9】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図10】前記成膜装置によって行われる処理を説明するための模式図である。
図11】前記成膜装置によって行われる処理のタイミングチャートである。
図12】前記流路形成部の他の構成例を示す縦断側面図である。
図13】前記流路形成部に設けられる溝の他の構成例を示す縦断側面図である。
図14】前記溝と前記流路形成部に設けられるガス分散部との位置関係を示す説明図である。
図15】前記対向面の他の構成例を示す平面図である。
図16】評価試験の結果を示すためのウエハの模式図である。
図17】評価試験の結果を示すためのウエハの模式図である。
図18】評価試験の結果を示すためのウエハの模式図である。
図19】評価試験の結果を示すためのウエハの模式図である。
図20】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガス処理装置の一実施形態である成膜装置1について、図1の縦断側面図を参照しながら説明する。この成膜装置1は、扁平な円形の処理容器11を備えている。当該処理容器11内には真空雰囲気が形成されると共に、例えば直径が300mmの円形の基板であるウエハWが格納される。成膜装置1は、このウエハWに対して、原料ガスであるTiCl(四塩化チタン)ガスと反応ガスであるNH(アンモニア)ガスとを交互に繰り返し供給してALDを行い、TiN(窒化チタン)膜を成膜する。TiClガスの供給を行う時間帯とNHガスの供給を行う時間帯との間には不活性ガスであるN(窒素)ガスがパージガスとして供給され、処理容器11内の雰囲気がTiClガス雰囲気またはNHガス雰囲気からNガス雰囲気に置換される。また、ALDによる成膜処理中はTiClガス及びNHガスを処理容器11内に導入するためのキャリアガスとして、Nガスが連続して処理容器11内に供給される。
【0011】
上記の処理容器11の側壁には、ウエハの搬入出口12と、この搬入出口12を開閉するゲートバルブ13とが設けられている。搬入出口12よりも上部側には、処理容器11の側壁の一部をなす、縦断面の形状が角型のダクトを円環状に湾曲させて構成した排気ダクト14が設けられている。排気ダクト14の内周面には、周方向に沿って伸びるスリット状の開口部15が形成されており、処理容器11の排気口をなす。
【0012】
また、上記の排気ダクト14には、排気管16の一端が接続されている。排気管16の他端は真空ポンプにより構成される排気機構17に接続されている。排気管16には、例えば圧力調整用のバルブにより構成される圧力調整機構18が介設されている。後述の制御部10から出力される制御信号に基づき、当該圧力調整用のバルブの開度が調整され、処理容器11内の圧力が所望の真空圧力となるように調整される。
【0013】
図中21は、ウエハWを載置するために処理容器11内に設けられた円形で水平な載置台であり、ウエハWはその中心が当該載置台の中心に揃うように載置される。載置部をなす当該載置台21には、ヒーター22が埋設されている。このヒーター22は、例えば400℃〜700℃にウエハWを加熱する。載置台21の下面側中央部には処理容器11の底部を貫通し、上下方向に伸びる支持部材23の上端が接続されており、この支持部材23の下端は昇降機構24に接続されている。この昇降機構24によって載置台21は、図1に鎖線で示す下方側の位置と、図1に実線で示す上方側の位置との間を昇降することができる。下方側の位置は、上記の搬入出口12から処理容器11内に進入するウエハWの搬送機構との間で、当該ウエハWの受け渡しを行うための受け渡し位置である。上方側の位置は、ウエハWに処理が行われる処理位置である。
【0014】
図中25は、支持部材23において処理容器11の底部の下方に設けられるフランジである。図中26は伸縮自在なベローズであり、上端が処理容器11の底部に、下端がフランジ25に夫々接続され、処理容器11内の気密性を担保する。図中27は3本(図では2本のみ表示している)の支持ピンであり、図中28は支持ピン27を昇降させる昇降機構である。載置台21が受け渡し位置に位置したときに、載置台21に設けられる貫通孔29を介して支持ピン27が昇降して、載置台21の上面において突没し、載置台21と上記の搬送機構との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0015】
上記の排気ダクト14の上側には、処理容器11内を上側から塞ぐようにガス供給路形成部3が設けられている。ガス供給路形成部3は、本体部31とガス導入部32とを備えている。本体部31は扁平な円形のブロックとして構成されており、当該本体部31の周縁部は、上記の排気ダクト14に沿って設けられると共に、当該排気ダクト14に支持されている。ガス導入部32は、本体部31の上面の径方向に沿った部位が、上方へと引き出されるように盛り上がることで構成されている。
【0016】
上記の本体部31についてさらに詳しく説明すると、当該本体部31における中央下部は、処理容器11内を載置台21に向かうように突出することで、円形の突出部3Aを形成しており、この突出部3Aの下面の中央部は、後述のシャワープレート36に上方から対向する円形の対向面34として構成されている。以降、この対向面34を示す本体部31の下方側斜視図である図2も参照しながら説明する。突出部3Aにおいて対向面34の外周領域は、下方へとさらに突出することで円環状の突起部35を形成しており、この突起部35の下端はシャワープレート36の周縁部に接続されている。
【0017】
シャワープレート36は水平に設けられると共に円形に構成されており、当該シャワープレート36の周縁は上記の突起部35に沿って形成されている。このシャワープレート36は載置台21に対向しており、処理容器11の天井を構成する。突起部35、シャワープレート36及び対向面34に囲まれることで、扁平で円形であるガスの拡散空間37が画成されている。当該拡散空間37の中心は、載置台21の中心上に位置している。上記のシャワープレート36には、当該シャワープレート36の厚さ方向に穿孔された多数のガス供給口38が分散して配設されており、後述するように第1の拡散空間である拡散空間37に供給されたガスは、第1のガス供給口をなすガス供給口38から、載置台21に載置されるウエハWにシャワー状に供給される。図中39は、シャワープレート36の下面において、当該シャワープレート36の周縁部に沿って下方に突出するように設けられた環状突起である。図1に示すように、環状突起39は処理位置における載置台21の周縁部に近接し、そのように載置台21に近接したときの当該環状突起39の内側で、シャワープレート36と載置台21とに挟まれる空間は、ウエハWに処理を行う処理空間30として構成される。
【0018】
対向面34の平面図である図3、及びガス供給路形成部3の下部側及びシャワープレート36の縦断側面図である図4も参照して説明を続ける。なお、図4では上記の拡散空間37及びその周囲におけるガスの流れを矢印で示している。各図に示すように対向面34には円環状の溝41、即ち凹部が形成されている。この溝41は、対向面34の中央部を囲むように拡散空間37の周方向に沿って設けられている。そして、溝41の中心は対向面34の中心に一致している。図3に示す溝41の外径L1はウエハWの直径よりも小さく、例えば100mm〜180mmであり、溝41の内径L2は例えば40mm〜100mmである。また、図4に示す溝41の深さH1は、例えば3mm〜8mmである。
【0019】
溝41をなす2つの側壁面のうち、対向面34の中心寄りの側壁面42は、上側へ向かうほど対向面34の周縁に向かい、対向面34の周縁寄りの側壁面43は、上側へ向かうほど対向面34の中心へ向かう。従って、溝41の縦断面で見て側壁面42、43は水平面に対して傾斜しており、このように側壁面42、43が形成されることで、溝41は下方へ向かうにつれて拡幅されるように末広がりに構成されている。従って、溝41は上方へ向かうにつれて開口幅が小さくなるように形成されている。つまり、上方へ向かうにつれて溝41は、その開口面積が小さくなるように構成されている。なお、溝41を構成する上面は例えば水平である。
【0020】
溝41内には、例えば8つのガス分散部44が当該溝41の周方向に、互いに等間隔を空けて設けられている。従って、ガス分散部44は対向面34に埋設されている。このガス分散部44は、垂直な円柱状に構成されている。そして、例えばガス分散部44の径は、溝41の上面の幅と同じ大きさに構成されており、図1図4に示すように、ガス分散部44の上端部は溝41の上面に埋まるように設けられているため、上記の溝41の側壁面42、43はガス分散部44の側壁から下るように形成されている。
【0021】
ガス分散部44には、その上面の中心部から垂直下方に向かうように形成されたガス導入口45が設けられており、後述するガス供給路5を介して既述の各ガスが当該ガス導入口45に導入される。そして、ガス分散部44の側面には溝41の上面より下方の位置に、ガス導入口45に接続された多数のガス吐出口46が当該ガス分散部44の周方向に、等間隔で開口している。ガス導入口45から供給されたガスは、各ガス吐出口46から水平方向に溝41内へ吐出される。なお、図3では代表して1つのガス分散部44から吐出されるガスの流れを矢印で示しており、他の7つのガス分散部44からも同様にガスが吐出される。このようにガス分散部44から吐出されたガスは、溝41内から側壁面42、43にガイドされて拡散空間37に供給され、当該拡散空間37を横方向に広がり、シャワープレート36のガス供給口38からウエハWにシャワー状に吐出される。
【0022】
ところで、上記のガス分散部44の下面47は水平であり、対向面34と同じ高さに位置している。従って、ガス分散部44は対向面34から突出しないように設けられている。このようにガス分散部44が対向面34から突出しないため、一のガス分散部44から吐出されて拡散空間37を横方向に広がるガスが、他のガス分散部44に衝突し、当該ガスの流れが阻害されて淀みが生じることを防ぐことができる。従って、拡散空間37に均一性高く、且つ速やかに当該ガスを拡散させることができる。また、ガス分散部44の下面47が対向面34と同じ高さであり、拡散するガスから見て天井面の高さの変化が抑えられているため、拡散空間37においてガス分散部44付近の領域と、それ以外の領域とでガスは同様に流れる。従って、拡散空間37において、より均一性高くガスを拡散させることができる。
【0023】
また、上記のようにガス分散部44が溝41内に設けられていることにより、図4にH2で示す拡散空間37の高さは小さく、例えば8mm以下とされる。このように高さH2が設定されることで、拡散空間37の容積を比較的小さくすることができるため、拡散空間37に残留する原料ガス及び反応ガスを速やかにパージすることができる。それによって、ALDを行うにあたり後述の1サイクルに要する時間を抑えることができるため、スループットの向上を図ることができる。ただし、この高さH2が小さくなるほど、拡散空間37を流れるガスは対向面34における僅かな段差の影響を受けるため、例えば3mm以上とすることが好ましい。
【0024】
対向面34において溝41に囲まれる領域、即ち対向面34の中央部には、多数のガス供給口48が分散して下方に開口するように形成されている。そして、第2のガス供給口である各ガス供給口48の上端は、本体部31に設けられた扁平な円形の拡散空間49の底部に接続されている。第2の拡散空間である当該拡散空間49は、後述する直線導入路62から供給されたガスを横方向に拡散させるために設けられ、拡散した各ガスはガス供給口48から拡散空間37にシャワー状に吐出される。従って、拡散空間49は各ガス供給口48に対して共通に設けられた空間であり、拡散空間49の下方でガス供給口48が形成される部位はシャワープレート40として構成されている。
【0025】
以降、説明の混乱を避けるために、シャワープレート40、拡散空間49を夫々上側シャワープレート40、上側拡散空間49と記載し、既述のシャワープレート36、拡散空間37については下側シャワープレート36、下側拡散空間37と夫々記載する場合が有る。上側シャワープレート40から吐出されたガスは、ガス分散部44から吐出されたガスと同様に、下側シャワープレート36のガス供給口38からウエハWにシャワー状に吐出される。また、上側シャワープレート40のガス供給口48と下側シャワープレート36のガス供給口38とは、互いに重ならないように各々形成されている。そのようにガス供給口38、48を各々形成することで、上側シャワープレート40から吐出されたガスは、下側シャワープレート36の上面に衝突して下側拡散空間37を横方向に拡散した後に下側シャワープレート36から吐出されるため、当該下側シャワープレート36の中央部から吐出されるガスの濃度が、下側シャワープレート36の周縁部から吐出されるガスの濃度に比べて高くなることが抑制される。
【0026】
ガス供給路形成部3には、既述した各ガスをガス分散部44及び上側拡散空間49に供給するガス供給路5が設けられている。当該ガス供給路5は、導入路51、52と、合流路53と、2つの分岐路54と、ガス導入用拡散空間55と、8つの直線導入路61と、8つの直線導入路62と、により構成されている。導入路51、導入路52、合流路53及び分岐路54の上部側は、例えば上記のガス導入部32に設けられ、分岐路54の下部側、ガス導入用拡散空間55及び直線導入路61、62は、例えば上記の本体部31に設けられている。また、このガス供給路5において、第3の拡散空間であるガス導入用拡散空間55よりも上流側は、上記のガス分散部44及び上側拡散空間49に対して共通に設けられている。このガス導入用拡散空間55の上流側は、導入路51、52、合流路53及び分岐路54からなる共通流路5Aとして構成されており、当該共通流路5Aはガス分散部44及び上側拡散空間49にガスを供給する。
【0027】
ガス供給路5について示した図5の斜視図及び図6の平面図を参照しながら説明する。図5に示すように、導入路51、52は、各々水平方向に伸びるように設けられており、これらの導入路51、52は互いに区画されている。導入路51の上流側には、原料ガスと、原料ガスのキャリアガスと、パージガスとが供給される。導入路52の上流側には、反応ガスと、反応ガスのキャリアガスと、パージガスとが供給される。従って導入路51は、原料ガス用の流路及び置換ガス用の流路をなし、導入路52は、反応ガス用の流路及び置換ガス用の流路をなす。例えば導入路51は導入路52の上方に位置しており、導入路51の下流側は下方へと屈曲し、導入路52に接続されることで、これら導入路51、52の下流側は互いに合流し、上記の合流路53として構成されている。
【0028】
合流路53の下流側は導入路52の延長方向に沿って水平に伸びた後、当該延長方向に向かって見て左右に分岐することで、上記の2つの分岐路54を形成する。各分岐路54の下流側は水平方向に伸びた後、垂直下方へ向かうように屈曲され、扁平なガス導入用拡散空間55における互いに異なる位置に接続されている。このように合流路53の下流側を分岐させてガス導入用拡散空間55に接続することで、ガス導入用拡散空間55に均一性高くガスを分布させ、ひいては上記の拡散空間37における各ガスの濃度の均一性が高くなるようにしている。なお、各分岐路54の長さは互いに等しい。
【0029】
上記のガス導入用拡散空間55は、平面で見て一の直線導入路と他の直線導入路とが交差してなる十字流路56と、4つの分岐路57と、8つの分岐端58とにより構成される。十字流路56を構成する一の直線状の流路における一端部上及び他端部上に、上記の分岐路54の下流端が各々接続されている。十字流路56の中心部から各分岐路54の下流端までの長さは各々等しい。この十字流路56の中心部は、上記の対向面34の中心部上に位置している。十字流路56を構成する他の直線状の流路における各端部は、当該他の直線状の流路の伸長方向に見て左右に分岐し、上記の分岐路57を形成する。
【0030】
分岐路57の上流側は上記の十字流路56をなす一の直線導入路に沿って伸びている。そして分岐路57の下流側は、上流側に対して屈曲されており、十字流路56の中心部から遠ざかるように伸びている。この分岐路57の下流端は、当該分岐路57の下流側における流路の伸長方向に見て左右に分岐し、上記の分岐端58として構成されている。これらの各分岐端58は、十字流路56の中心部の外側へ向かって引き延ばされたように、平面で見て幅広に形成されている。そして、これら8つの分岐端58の下部には8つの直線導入路61の上流端が各々接続されている。十字流路56の中心部から各直線導入路61までの長さは各々等しい。この8つの直線導入路61の下流側は斜め下方に向かうと共に平面視放射状に伸びるように形成されており、当該直線導入路61の下流端は、上記のガス分散部44のガス導入口45に接続されている。従って、直線導入路61は、ガス分散部44に処理ガスを供給する供給路をなす。各直線導入路61は互いに同じ長さを有する。そして、各直線導入路61の長さ方向の中央部から、直線導入路62が斜め下方に延出されると共に、平面で見て対向面34の中心部側に向かうように形成されている。そして、各直線導入路62の下流端は上側拡散空間49の周縁部に上側から、互いに周方向に等間隔を空けて接続されている。各直線導入路62も互いに同じ長さを有する。
【0031】
合流路53の上流端、即ち導入路51、52が互いに合流するこれら導入路51、52の下流端を図5に点P1として示している。また、直線導入路61の下流端、即ちガス分散部44のガス導入口45の上流端を図4に点P2として示している。ガス供給路5を構成する各流路が既述のように構成されることで、点P1から各点P2に至るまでの各流路の長さは互いに等しい。従って、各ガス分散部44から同時ないしは略同時に原料ガス、反応ガス、パージガスが各々吐出されるため、拡散空間37の各部におけるこれらのガスの濃度に差が生じることが抑制される。それによって、膜厚の面内均一性を向上させ、且つパージに要する時間を抑えることでALDの1サイクルに要する時間の短縮化を図ることができる。なお、この点P1から各点P2に至るまでの各流路に関して、点P1からの距離が互いに同じ位置における流路幅については互いに同じ幅となるようにしてもよいし、若干異なる幅とすることで拡散空間37におけるガスの濃度分布を調整してもよい。
【0032】
また、直線導入路62の下流端、即ちガス導入用拡散空間55の上端を点P3として示している。ガス供給路5を構成する各流路が既述のように構成されることで、点P1から各点P3に至るまでの流路の長さは各々等しい。さらに、この点P1から点P3に至るまでの流路の長さは、点P1から点P2に至るまでの流路の長さと同じであり、ガス分散部44と上側シャワープレート40とから同時ないしは略同時に原料ガス、反応ガス、パージガスが各々吐出される。それにより、拡散空間37の各部においてガスの濃度に差が生じることを、より確実に抑えることができる。ところで流路の長さが互いに等しいとは装置の設計上、流路が等しいことが含まれる。つまり、装置を構成する部材の組み立て誤差や部材の加工精度の結果、流路の長さが異なっていても流路の長さが等しくなるように設計されていれば、流路の長さが等しいことに含まれる。
【0033】
図1に戻って説明を続ける。上記のガス供給路形成部3に形成された導入路51、52の上流端には、配管71、81の下流端が夫々接続されている。配管71の上流端は、バルブV1、ガス貯留タンク72A、流量調整部73Aをこの順に介して、処理ガスであるTiClガスの供給源74Aに接続されている。流量調整部73Aはマスフローコントローラにより構成されており、ガス供給源74Aから供給されるTiClガスについて下流側へ供給される流量を調整する。なお、後述する他の各流量調整部73B〜73Fについても、この流量調整部73Aと同様に構成されており、配管の下流側へ供給されるガスの流量を調整する。
【0034】
ガス貯留部をなすガス貯留タンク72Aは、ガス供給源74Aから供給されたTiClガスを処理容器11内に供給する前に一旦貯留する。そのようにTiClガスを貯留させ、ガス貯留タンク72A内が所定の圧力に昇圧した後で、ガス貯留タンク72Aからガス供給路形成部3へTiClガスを供給する。このガス貯留タンク72Aからガス供給路形成部3へのTiClガスの給断が、上記のバルブV1の開閉により行われる。このようにガス貯留タンク72AへTiClガスを一旦貯留することで、比較的高い流量で当該TiClガスを処理容器11に供給することができる。なお、後述するガス貯留部をなす各ガス貯留タンク72B、72D、72Eについても、ガス貯留タンク72Aと同様に、配管の上流側のガス供給源から供給される各ガスを一旦貯留する。そして、各ガス貯留タンク72B、72D、72Eの下流側に設けられるバルブV2、V4、V5の開閉によって、各ガス貯留タンク72B、72D、72Eからガス供給路形成部3へのガスの給断が夫々行われる。
【0035】
上記の配管71においてバルブV1の下流側には、配管75の下流端が接続されている。配管75の上流端はバルブV2、ガス貯留タンク72B、流量調整部73Bをこの順に介してNガスの供給源74Bに接続されている。さらに、配管75においてバルブV2の下流側には、配管76の下流端が接続されている。配管76の上流端は、バルブV3、流量調整部73Cをこの順に介して、N2ガスの供給源74Cに接続されている。
【0036】
続いて、配管81について説明する。配管81の上流端は、バルブV4、ガス貯留タンク72D、流量調整部73Dをこの順に介して、NHガスの供給源74Dに接続されている。配管81におけるバルブV4の下流側には配管82の下流端が接続されている。配管82の上流端はバルブV5、ガス貯留タンク72E、流量調整部73Eをこの順に介して、Nガスの供給源74Eに接続されている。さらに、配管82においてバルブV5の下流側には、配管83の下流端が接続されている。配管83の上流端は、バルブV6、流量調整部73Fをこの順に介して、Nガスの供給源74Fに接続されている。
【0037】
上記の配管76におけるバルブV3の下流側にはオリフィス77が、配管83におけるバルブV6の下流側にはオリフィス78が夫々形成されている。オリフィス77が形成されることにより、配管76におけるバルブV3の下流側の径は、配管76におけるバルブV3の上流側及び配管71、75の径よりも小さく構成されており、ガス貯留タンク72A、72Bを介して比較的大きな流量で供給される各ガスが、配管76を逆流することが抑制される。また、オリフィス78が形成されることにより、配管83におけるバルブV6の下流側の径は、配管83におけるバルブV3の上流側及び配管81、82の径よりも小さく構成されており、ガス貯留タンク72A、72Bを介して比較的大きな流量で供給される各ガスが、配管83を逆流することが抑制される。
【0038】
ところで上記のNガス供給源74B、74Eから供給されるNガスは、既述のパージを行うために処理容器11内に供給される。Nガス供給源74C、74Fから各々供給されるNガスは、TiClガス、NHガスに対するキャリアガスであり、このキャリアガスは、上記のようにウエハWの処理中は連続して処理容器11内に供給されるので、パージを行う際にも処理容器11内に供給される。従って、当該キャリアガスが処理容器11内に供給される時間帯は、パージを行うためにガス供給源74B、74EからのNガスが処理容器11内に供給される時間帯に重なり、キャリアガスはパージにも用いられることになるが、説明の便宜上、Nガス供給源74B、74Eから供給されるガスをパージガスとして記載し、Nガス供給源74C、74Fから供給されるガスはキャリアガスとして記載する。
【0039】
また、成膜装置1は制御部10を備えている。この制御部10はコンピュータにより構成されており、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、成膜装置1における後述の一連の動作を実施することができるようにステップ群が組み込まれており、当該プログラムによって制御部10は成膜装置1の各部に制御信号を出力し、当該各部の動作が制御される。具体的には、各バルブV1〜V6の開閉、流量調整部73A〜73Fによるガスの流量の調整、圧力調整機構18による処理容器11内の圧力の調整、ヒーター22によるウエハWの温度の調整などの各動作が、制御信号によって制御される。上記のプログラムは、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、DVDなどの記憶媒体に格納されて、制御部10にインストールされる。
【0040】
続いて成膜装置1における成膜処理について、各バルブの開閉状態及び各配管におけるガスの流通状態について示す図7図10を参照しながら説明する。図7図10では、閉じているバルブVにはハッチングを付すことで、開いているバルブVと区別して表示している。また、配管71、75、76、81〜83について、ガスが下流側へ流通している部位は、流通していない部位に比べて太く示している。なお、図7図10では図の煩雑化を防ぐために、ガス供給路5の上流側を図1に比べて簡略化して示している。また、各ガスを供給する時間帯について示すタイミングチャートである図11も適宜参照する。
【0041】
先ず、バルブV1〜V6が閉じられた状態で、搬送機構によりウエハWが処理容器11内に搬送されて、受け渡し位置における載置台21に載置される。搬送機構が処理容器11内から退避した後、ゲートバルブ13が閉じられる。載置台21のヒーター22によりウエハWが既述の温度に加熱されると共に載置台21が処理位置へ上昇し、処理空間30が形成される。排気管16に介設される圧力調整機構18により、処理容器11内が所定の真空圧力になるように調整される。
【0042】
そしてバルブV3、V6が開かれ、Nガス供給源74C、74Fから夫々ガス供給路5にキャリアガス(Nガス)が供給される。その一方で、ガス供給源74A、ガス供給源74DからTiClガス、NHガスが配管71、81に供給される。バルブV1、V4が閉じられていることで、これらのTiClガス、NHガスは、ガス貯留タンク72A、72Dに夫々貯留され、当該ガス貯留タンク72A、72D内が昇圧する。然る後、バルブV1が開かれ(チャート中、時刻t1)、ガス貯留タンク72Aに貯留されたTiClガスが、ガス供給路5に供給され、ガス分散部44及び上側シャワープレート40から下側拡散空間37に吐出される。ガス分散部44から吐出されたTiClガスについては、既述したようにガス分散部44にその流れが妨げられることなく下側拡散空間37を横方向に拡散する。上側シャワープレート40からはTiClガスが下側拡散空間37の中央部に供給される。
【0043】
上記のようにガス分散部44及び上側シャワープレート40からTiClガスが供給されることで、この供給が開始されてから僅かな時間で、下側拡散空間37の各部において均一性高い濃度でTiClガスが分布し、当該TiClガスは下側シャワープレート36からウエハWに供給され、ウエハWの面内には均一性高くTiClガスが吸着する。この処理容器11内のウエハWへのTiClガスの供給に並行して、ガス供給源74B、74Eから配管75、82に夫々パージガス(Nガス)が供給される。バルブV2、V5が閉じられていることで、パージガスはガス貯留タンク72B、72Eに貯留され、当該ガス貯留タンク72B、72E内が昇圧する(図7、ステップS1)。
【0044】
その後、バルブV1が閉じられると共にバルブV2、V5が開かれ(時刻t2)、処理容器11内へのTiClガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク72B、72Eに各々貯留されたパージガスがガス供給路5に供給され、TiClガスと同様に、ガス分散部44及びシャワープレート40から下側拡散空間37に吐出される。従って、ガス分散部44吐出されたパージガスは、TiClガスと同様、ガス分散部44によって流れが妨げられることが無く、下側拡散空間37を横方向に拡散する。
【0045】
上記のようにガス分散部44及びシャワープレート40からガスが吐出されることで、当該パージガスの供給が開始されてから僅かな時間で、下側拡散空間37の各部において均一性高い濃度でパージガスが分布し、当該パージガスは下側シャワープレート36からウエハWに供給される。その結果、ウエハWに吸着されずに処理空間30に残留したTiClガスが、ウエハWの面内の各部の上方から同時ないしは略同時に除去され、当該TiClガスのウエハWへの吸着が停止する。このTiClガスは排気ダクト14へとパージされて、処理容器11内から除去される。このようにパージが行われる一方で、バルブV1が閉じられたことにより、ガス供給源74Aから配管71に供給されたTiClガスが、ガス貯留タンク72Aに貯留され、当該ガス貯留タンク72A内が昇圧する(図8、ステップS2)。
【0046】
続いて、バルブV2、V5が閉じられると共にバルブV4が開かれる(時刻t3)。それにより、ガス供給路5へのパージガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク72Dに貯留されたNHガスが当該ガス供給路5へ供給され、ガス分散部44及びシャワープレート40から下側拡散空間37に吐出される。このNHガスについてもTiClガス、パージガスと同様に下側拡散空間37の各部において濃度の均一性が高くなるようにNHガスが分布し、下側シャワープレート36から処理空間30に供給されて、ウエハWの面内の各部には均一性高くNHガスが供給される。結果、ウエハWの面内において均一性高く吸着されたTiClガスの窒化反応が進行し、反応生成物としてTiNの薄層が形成される。その一方で、バルブV2、V5が閉じられたことにより、ガス供給源74B、74Eから配管75、82に夫々供給されたパージガスがガス貯留タンク72B、72Eに貯留され、当該ガス貯留タンク72B、72E内が昇圧する(図9、ステップS3)。
【0047】
然る後、バルブV4が閉じられると共にバルブV2、V5が開かれ(時刻t4)、処理容器11内へのNHガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク72B、72Eに各々貯留されたパージガスがガス供給路5に供給され、ステップS2と同様に、ガス分散部44及びシャワープレート40から下側拡散空間37に吐出されて、下側シャワープレート36から吐出される。その結果、処理空間30に残留した未反応のNHガスが、ウエハWの面内各部の上方から同時ないしは略同時に除去されて窒化反応が停止することで、ウエハWの面内各部におけるTiNの薄層の厚さは揃えられる。NHガスは排気ダクト14へとパージされて、処理容器11内から除去される。このようにパージが行われる一方で、バルブV4が閉じられたことにより、ガス供給源74Dから配管81に供給されたNHガスが、ガス貯留タンク72Dに貯留され、当該ガス貯留タンク72D内が昇圧する(図10、ステップS4)。
【0048】
時刻t4から所定の時間経過後、バルブV2、V5が閉じられると共にバルブV1が開かれ(時刻t5)、処理容器11内へのパージガスの供給が停止すると共に、ガス貯留タンク72Aに貯留されたTiClガスが、ガス供給路5に供給される。つまり上記のステップS1が再度行われる。従って、上記のパージが終了する時刻t5は、上記のTiClガスの供給が開始される時刻t1でもある。このステップS1が行われた後は上記のステップS2〜S4が行われ、その後は、さらにステップS1〜S4が行われる。つまり上記のステップS1〜S4を一つのサイクルとすると、このサイクルが繰り返し行われ、TiNの薄層がウエハWの表面に堆積し、TiN膜が成膜される。そして、所定の回数のサイクルが実行されると、処理容器11内への搬入時とは逆の手順でウエハWが処理容器11から搬出される。
【0049】
この成膜装置1によれば、シャワープレート36に対向する対向面34の中央部を囲むように環状の溝41が形成され、平坦な対向面34から突出しないように溝41内に8つのガス分散部44が、対向面34の周方向に間隔を空けて設けられている。このような構成により、下側拡散空間37を横方向に広がるガスの流れが、ガス分散部44に妨げられることが抑制される。従って、下側拡散空間37にガスが供給されてから僅かな時間内において、当該下側拡散空間37の各部における当該ガスの濃度の均一性を高くすることができるので、シャワープレート36を介してウエハWの面内に均一性高く当該ガスを供給することができる。その結果として、ウエハWの面内において均一性高い膜厚を有するようにTiN膜を形成することができる。
【0050】
ところで、400℃〜700℃の範囲のうちの比較的高い温度にウエハWを加熱して処理するにあたり、ウエハWの膜厚の面内均一性を高く、且つウエハWの面内各部おけるTiN膜の被覆性を高くするためには、上記の原料ガスについて処理容器11内へ供給する流量を比較的大きくすることが好ましい。そのように比較的大きい流量で原料ガスを供給しても、比較的大きな流量のパージガスをガス供給路形成部3に供給することで短い時間内に当該原料ガスのパージが行えるように、既述のガス貯留タンク72B、72Eが設けられている。
【0051】
後述の評価試験で示すように、そのように比較的大きな流量のパージガスが下側拡散空間37に供給されたときに、対向面34からガス分散部44が突出していると、ウエハWの面内における膜厚の均一性の低下が起りやすいが、既述のようにガス分散部44を設けることで、そのような不具合を防ぐことができる。つまり、このようにガス貯留タンク72B、72Eを介してパージガスを供給する場合において、上記のように対向面34から突出しないようにガス分散部44を設けることが特に有効である。ただし、ガス貯留タンク72B、72Eを介さずにパージガスを供給する場合でも、対向面34から突出しないようにガス分散部44を設けることで下側拡散空間37におけるパージガスの濃度の均一性を高くすることができるため有効である。また、TiClガス、NHガスについても、ガス供給路形成部3に比較的大きな流量を供給してスループットの向上を図るために、ガス貯留タンク72A、72Dを介して供給する例を示したが、このようなガス貯留タンク72A、72Dを介さずに供給してもよい。
【0052】
ところで図12には、ガス供給路形成部3の他の構成例を示している。図1図4などで説明した構成例との差異点を挙げると、この図12に示すガス供給路形成部3では、上側シャワープレート40及び上側拡散空間49が設けられておらず、溝41の内側に、当該対向面34の中心を中心とする円環状の溝63が設けられている。従って、溝41、63は同心円状に形成されている。溝63については、大きさ以外は溝41と同様に構成されており、溝63内には周方向に等間隔を空けて複数、例えば4つのガス分散部44が設けられており、直線導入路62からガスが供給される。溝63内のガス分散部44の下面47は、溝41内のガス分散部44の下面47と同様に、水平且つ対向面34と同じ高さに形成されている。つまり図12に示すガス供給路形成部3では、下側拡散空間37の中央部には溝41、63に設けられた各ガス分散部44によって、ガスが供給される。
【0053】
このように溝63内にガス分散部44を設けた構成としてもよい。ただし、この図12に示す構成によれば、ガス分散部44が対向面34におけるより中心に近い位置に配置されていることで、各ガス分散部44から吐出されるガスの流量の僅かな差違により、対向面34の中心部付近での横方向に流れるガスの衝突、干渉具合が変化するため、それに起因して下側拡散空間37の中央部におけるガスの濃度の均一性が低下するおそれが有る。つまり、上側シャワープレート40により下方にガスを吐出する構成の方が、このようなガスの衝突及び干渉による不具合を抑制することができるため、下側拡散空間37におけるガスの濃度をより均一化することができ、より確実に、ウエハWの面内に均一性高い成膜処理を行うことができるので好ましい。
【0054】
ガス分散部44が設けられる溝41についてさらに説明すると、縦断面で溝41を見たときの側壁面42、43の各傾きの大きさは、下側拡散空間37におけるガスの分布を調整するために適宜設定することができる。従って、これら側壁面42の傾きの大きさ、側壁面43の傾きの大きさは互いに同じとすることには限られず、互いに異なっていてもよい。さらに縦断面で見たときの溝41の側壁面42、43は、図13に示すように、ガス分散部44から離れた位置に垂直に形成されていてもよい。従って、溝41については、既述したように下方へ向けて末広がりに、即ち上側に向かうにつれて縮幅されるように形成することには限られない。ただし、そのように上側に向かうにつれて縮幅されるように形成されることで、溝41内の容積を小さくすることができる。即ちパージガスにより、雰囲気の置換が必要な容積が大きくなることを防ぐことができるので、パージに要する時間が長くなることを抑制して、スループットを向上させることができる。
【0055】
また、対向面34からガス分散部44が突出しないとは、ガス分散部44の下面47が対向面34と同じ高さに位置するように構成することには限られず、図14に示すようにガス分散部44の下面47が、対向面34よりも上方に位置するように構成することも含まれる。ただし、ガス分散部44の下面47と対向面34との高さの差H3が大きすぎると、この高さの差H3によって下側拡散空間37におけるガスの流れが乱れてしまい、ウエハWの面内各部に供給されるガスの均一性が低下するおそれが有るので、それを防ぐために高さの差H3は例えば3mm以下とすることが好ましい。
【0056】
図15には異なる対向面34の構成例を示している。この図15の対向面34においては溝41が設けられておらず、当該対向面34の周方向に沿って8つの円形の凹部64が、シャワープレート40を囲むように間隔を空けて設けられており、各凹部64内にガス分散部44が対向面34から突出しないように設けられている。従って、ガス分散部44が収納される凹部としては、環状の溝とすることには限られない。なお、この凹部64については、当該凹部64内の容積を抑えるために、上方に向かうにつれてその径が狭くなることで、開口面積が小さくなるように形成することができる。なお、図15でも図3と同様に、代表して1つのガス分散部44から吐出されるガスの流れを矢印で示しており、他の7つのガス分散部44からも同様にガスが吐出される。
【0057】
ALDを行う成膜装置を本発明の実施形態として示したが、本発明はCVDを行う成膜装置についても適用することができ、その場合もウエハWの面内の各部に均一性高く処理ガスを供給して成膜処理を行うことができる。また、使用するガス種についても上記した例には限られない。さらに、本発明は成膜装置に適用されることには限られず、ウエハWに処理ガスを供給してエッチングを行うエッチング装置にも適用することができる。なお、本発明は既述した例には限られず、既述した実施形態については適宜変更したり、組み合わせたりすることができる。
【0058】
・評価試験
以下、本発明に関連して行われた評価試験について説明する。
評価試験1
評価試験1−1として図1などで説明した成膜装置1を用いて、図7図10で説明したステップS1〜S4に従って成膜処理を行ったときのウエハWの面内における膜厚の分布を調べた。従って、この評価試験1−1で用いた成膜装置1において、ガス分散部44は溝41内に設けられており、対向面34から突出していない。ただし、パージガスは既述のガス貯留タンク72B、72Eを介さず、単位時間あたり比較的少ない流量でガス分散部44に供給されるようにした。また、1サイクルに要する時間は0.38秒に設定した。さらに、評価試験1−2として、パージガスは既述のガス貯留タンク72B、72Eを介して供給され、単位時間あたりにガス供給路形成部3に供給される当該パージガスの流量が、評価試験1−1よりも大きいことを除いては、評価試験1−1と同じ条件で成膜処理を行い、ウエハWの面内における膜厚の分布を調べた。
【0059】
比較試験1−1、比較試験1−2として、評価試験1−1、評価試験1−2と夫々略同様の試験を行った。比較試験1−1、1−2と評価試験1−1、1−2との差異点としては、比較試験1−1、1−2で用いた成膜装置では、対向面34に溝41が形成されておらず、複数のガス分散部44が対向面34の中心を中心とする同心円に沿って当該対向面34から突出するように設けられていることが挙げられる。
【0060】
図16図17は評価試験1−1、1−2の結果を夫々示すウエハWの平面図であり、図18図19は比較試験1−1、1−2の結果を夫々示すウエハWの平面図である。これらの図16図19では、ウエハWの面内において、所定の膜厚となった点を、実線、点線、鎖線で夫々結んで示している。実線は比較的高い膜厚となった点を結び、鎖線は実線を付した点よりも低い膜厚となった点を結び、点線は鎖線を付した点よりも低い膜厚となった点を結んでいる。従って、これらの実線、鎖線、点線は同程度の膜厚となった領域を囲んで区画して膜厚分布を示すための等高線である。また、各試験について、膜厚の平均値、膜厚のレンジ(膜厚の最大値−膜厚の最小値)を測定している。
【0061】
図16図18を参照して評価試験1−1、比較試験1−1を比較すると、比較試験1−1では実線、鎖線、点線で囲まれる領域が夫々現れているが、評価試験1−1では実線、鎖線で囲まれる領域のみが現れている。膜厚の平均値について、評価試験1−1が104.7Å、比較試験1−1が103.8Åであった。膜厚のレンジについて、評価試験1−1が2.0Å、比較試験1−1が3.5Åであった。このように評価試験1−1と比較試験1−1との間で膜厚の平均値に大きな差は無く、評価試験1−1では比較試験1−1に比べて、ウエハWの面内の膜厚について、均一性が高いことが確認された。従って、本発明の効果が確認された。
【0062】
また図17図19を参照して評価試験1−2、比較試験1−2を比較すると、比較試験1−2ではウエハWの周方向に点線で囲まれる膜厚が低い領域が分散して現れている。この点線で囲まれる領域の位置は、ガス分散部44が設けられる位置に対応していた。つまり、ガス分散部44によってガスの流れが阻害されたことで膜厚の均一性が低下したことが推定される。この比較試験1−2に対して、評価試験1−2ではウエハWの周方向に見て、膜厚の高低の変化が抑えられていることが分かる。膜厚の平均値について、評価試験1−2が101.2Å、比較試験1−2が100.8Å、膜厚のレンジについて評価試験1−2が3.6Å、比較試験1−2が4.7Åであった。このように評価試験1−2と比較試験1−2との間で膜厚の平均値に大きな差は無く、評価試験1−2では比較試験1−2に比べて、ウエハWの面内の膜厚について、均一性が高いことが確認された。
【0063】
評価試験2
評価試験2として、上記の評価試験1−2と同様にパージガスを比較的大きな流量で供給することでTiN膜の成膜処理を行い、ウエハWの面内の各部における膜厚を測定した。従って、評価試験2では図1などで説明した、ガス分散部44が対向面34から突出しない成膜装置1を用いている。また、比較試験2として、上記の比較試験1−2と同様にパージガスを比較的大きな流量で供給することでTiN膜の成膜処理を行い、ウエハWの面内の各部における膜厚を測定した。従って、比較試験2ではガス分散部44が対向面34から突出した成膜装置を用いている。また、この比較試験2で用いた成膜装置では、評価試験2で用いた成膜装置1とは図5で説明したガス供給路5の構成が若干異なっており、合流路53の下流側が分岐せずにガス導入用拡散空間55に接続されている。評価試験2、比較試験2共に、1サイクルに要する時間は0.38秒に設定した。
【0064】
また、上記の評価試験2、比較試験2における膜厚の測定点は、ウエハWの中心点、及びこの中心点を中心とする3つの同心円上における点である。3つの同心円について、内側から外側に向けて第1の円、第2の円、第3の円とすると、第2の円の半径は第1の円の半径の概ね2倍の大きさであり、第3の円の半径は第1の円の半径の概ね3倍の大きさである。また、第3の円はウエハWの周縁部上に位置している。第1の円、第2の円、第3の円において測定点を夫々8個、16個、24個設定しており、同じ円にお位置する測定点は、周方向に等間隔を空けて設定されている。各測定点を区別するために番号を付す。ウエハWの中心の測定点を1、第1の円の測定点を2〜9、第2の円の測定点を10〜25、第3の円の測定点を26〜49とする。
【0065】
図20のグラフは上記の試験結果を示している。横軸は既述の測定点の番号を示しており、縦軸は膜厚(単位:Å)を示している。また、評価試験2の結果はグラフ中に丸のプロットを付し、各プロットを実線で結んで示している。比較試験2の結果はグラフ中に三角のプロットを付し、各プロットを点線で結んで示している。グラフから明かなように、比較試験2に比べて評価試験2の方が各測定点間における膜厚の変動が抑制されている。従って、この評価試験2からもガス分散部44を対向面44から突出させないようにすることで、ウエハWの面内の膜厚分布を高くすることができることが示された。また、ガス供給路5について、合流路53の下流側を分岐させてガス導入用拡散空間55に接続することも、膜厚の均一性の上昇に寄与していると考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1 成膜装置
10 制御部
11 処理容器
17 排気機構
21 載置台
3 ガス供給路形成部
34 対向面
36 下側シャワープレート
38 ガス供給口
37 下側拡散空間
41 溝
44 ガス分散部
46 ガス吐出口
図1
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