特許第6597735号(P6597735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597735
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】車両用制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20191021BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20191021BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20191021BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20191021BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B60T8/17 A
   B60T13/122 B
   B60T13/68
   B60T17/18
   B60K28/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-159953(P2017-159953)
(22)【出願日】2017年8月23日
(65)【公開番号】特開2019-38319(P2019-38319A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】尾上 宗矢
(72)【発明者】
【氏名】和泉 知示
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 壮史
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−139034(JP,A)
【文献】 特開2000−071957(JP,A)
【文献】 特開2005−319848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60T 13/00 − 13/78
B60T 17/00 − 17/22
B60K 28/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、
前記制御手段は、正常時、前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を2倍以上に設定し、エンジン始動時、前記スタータモータの作動完了前に前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を1倍に設定すると共に前記倍力比1倍に設定された制動力に対応した反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項2】
所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、
前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させ、
前記制動力発生機構は、前記主電源の充電状態が閾値以下になった場合、制動力が減少されるように構成されたことを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項3】
所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、
前記ブレーキペダルの操作量に基づく油圧で車輪の制動力を発生可能なマスタシリンダを有し、
前記反力発生機構が、前記マスタシリンダと流路を介して連通されたストロークシミュレータと、前記流路の途中部を開閉可能な切替弁とにより構成され、
前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させると共に、前記切替弁の閉操作に電力が必要な場合、前記スタータモータの操作直前状態からエンジン始動完了まで前記反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴とする車両用制動制御装置。
【請求項4】
所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、
前記ブレーキペダルの操作量に基づく油圧で車輪の制動力を発生可能なマスタシリンダを有し、
前記反力発生機構が、前記マスタシリンダと流路を介して連通されたストロークシミュレータと、前記流路の途中部を開閉可能な切替弁とにより構成され
前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させると共に、前記切替弁の閉操作に電力が不要な場合、イグニッションオフ状態からエンジン始動完了まで前記反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴とする車両用制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動制御装置に関し、特にブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力する制動力発生機構とブレーキペダルの操作量に対応した反力を発生させる反力発生機構とを備えた車両用制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗員によって操作される操作手段と、この操作手段に操作反力を付与する反力発生機構と、操作手段に対する操作量に応じて車両が所定の応答量動作するように駆動する駆動手段とを備えたバイワイヤ方式の車両が知られている。
ブレーキバイワイヤは、操作フィーリングの向上等の利点が注目されている技術である。
【0003】
このブレーキバイワイヤ技術では、装置全体を統括する制御手段が、乗員によって操作されたブレーキペダルのストロークに基づいて操作反力(踏力)を設定して反力発生機構に対して制御信号を出力し、設定された踏力に基づいて制動力(減速度)を設定して制動力発生機構に対して制御用のブレーキ液圧を出力する。ブレーキペダルのストロークと操作反力との関係を規定した踏力特性マップ及びストローク(または、操作反力)と制動力との関係を規定した制動力特性マップが、制御手段に予め記憶されている。
【0004】
ブレーキペダルのストロークに対応するように作動される制動力発生機構は、その機能性確保が安全性に直結するものであるため、様々なフェイルセーフ対策が提案されている。
特許文献1のブレーキシステムは、乗員によるブレーキペダルのストロークに対応して作動する常用油圧ブレーキと、電動パーキングブレーキとを備え、電動パーキングブレーキの解除を常用油圧ブレーキの油圧配管の一部から得られる油圧を用いて行っている。
これにより、常用油圧ブレーキに発生している油圧系の不具合をブレーキペダルの操作動作を介して乗員に伝達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−319848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブレーキバイワイヤ技術では、反力発生機構と制動力発生機構が、車両主電源に夫々接続され、その構造上、バッテリの充電状態(SOC:Stage Of Charge)が機能確保に必要な所定閾値を下回った場合、両機構に電圧を十分に供給できない虞がある。
それ故、登坂路等で駐車した後、エンジンが再始動されるとき、エンジンを始動させるスタータモータに対してバッテリから大きな電力が供給されるため、一時的にバッテリの充電状態が低下し、その結果、制動力発生機構による各車輪の制動力が十分に確保されない虞がある。
【0007】
特許文献1の技術は、パーキングブレーキ解除の際、ブレーキペダルの操作動作を介して乗員に油圧系の不具合(例えば、配管欠陥)等の車両情報を伝達することができる。
しかし、特許文献1の技術では、既に発生している不具合(実際の油圧低下)を乗員に対して伝達しているに過ぎず、不具合が発生する前段階において車両の後退を乗員に伝達することは困難である。従って、特許文献1の技術は、発生する前段階において不具合を乗員に予告伝達するものではなく、発生前の不具合を未然に回避するものでもない。
【0008】
しかも、特許文献1の技術では、ブレーキペダルのストロークに対応して作動する常用油圧ブレーキに加え、その構成上、他の制動機構である電動パーキングブレーキを必要としているため、装置が大型化すると共に製造コストが高価になる虞がある。
即ち、ブレーキペダルの操作動作を介して発生する前段階において不具合を乗員に予告し、この予告情報に基づき発生前の不具合を未然に回避する技術を提案するものは現時点では存在していない。
【0009】
本発明の目的は、制動力発生機構の電圧が十分に確保できない状況であっても、ブレーキペダルの操作動作を介して制動力の変化を抑制可能な車両用制動制御装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の車両用制動制御装置は、所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、前記制御手段は、正常時、前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を2倍以上に設定し、エンジン始動時、前記スタータモータの作動完了前に前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を1倍に設定すると共に前記倍力比1倍に設定された制動力に対応した反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴としている。
【0011】
この車両用制動制御装置では、前記制御手段は、正常時、前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を2倍以上に設定し、エンジン始動時、前記スタータモータの作動完了前に前記ブレーキペダルの操作量と制動力発生機構の制動力との倍力比を1倍に設定すると共に前記倍力比1倍に設定された制動力に対応した反力を前記ブレーキペダルに発生させることにより、乗員の踏力増加を誘発することができるため、一時的に主電源の充電状態が低下しても、制動力発生機構による各車輪の制動力を十分に確保することができる。また、制動力発生機構による制動力が低下されても、乗員の踏力に基づく制動力で停車状態を維持することができる。
【0012】
【0013】
請求項の発明は、所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させ、前記制動力発生機構は、前記主電源の充電状態が閾値以下になった場合、制動力が減少されるように構成されたことを特徴としている。
この構成によれば、一時的に主電源の充電状態が低下しても、制動力発生機構による各車輪の制動力を十分に確保することができ、乗員の踏力増加を誘発することができる。また、主電源の充電状態が閾値以下になり制動力を低下させる制動力発生機構であっても、各車輪の制動力を確保することができる。
【0014】
【0015】
請求項の発明は、所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、前記ブレーキペダルの操作量に基づく油圧で車輪の制動力を発生可能なマスタシリンダを有し、前記反力発生機構が、前記マスタシリンダと流路を介して連通されたストロークシミュレータと、前記流路の途中部を開閉可能な切替弁とにより構成され、前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させると共に、前記切替弁の閉操作に電力が必要な場合、前記スタータモータの操作直前状態からエンジン始動完了まで前記反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴としている。
この構成によれば、一時的に主電源の充電状態が低下しても、制動力発生機構による各車輪の制動力を十分に確保することができ、ストロークシミュレータを用いて乗員の踏力増加を誘発することができる。また、前記切替弁の閉操作に電力が必要な油圧回路において、消費電力を抑えつつ車両の後退を回避することができる。
【0016】
請求項の発明は、所定電圧を生成可能な主電源と、ブレーキペダルの操作量を電力を用いて倍力して車輪の制動力を発生させる制動力発生機構と、前記主電源に対して前記制動力発生機構と並列状に接続され且つエンジンを始動可能なスタータモータと、前記ブレーキペダルの操作量に対応した反力をブレーキペダルに発生させる反力発生機構と、前記制動力発生機構と反力発生機構を制御可能な制御手段とを備えた車両用制動制御装置において、前記ブレーキペダルの操作量に基づく油圧で車輪の制動力を発生可能なマスタシリンダを有し、前記反力発生機構が、前記マスタシリンダと流路を介して連通されたストロークシミュレータと、前記流路の途中部を開閉可能な切替弁とにより構成され、前記制御手段は、前記スタータモータの作動完了前に所定値以上の反力を前記ブレーキペダルに発生させると共に、前記切替弁の閉操作に電力が不要な場合、イグニッションオフ状態からエンジン始動完了まで前記反力を前記ブレーキペダルに発生させることを特徴としている。
この構成によれば、一時的に主電源の充電状態が低下しても、制動力発生機構による各車輪の制動力を十分に確保することができ、ストロークシミュレータを用いて乗員の踏力増加を誘発することができる。また、前記切替弁の閉操作に電力が不要な油圧回路において、消費電力を抑えつつ車両の後退を回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用制動制御装置によれば、ブレーキペダルの操作動作を介して車両情報を乗員に伝達することにより、制動力発生機構の電圧が十分に確保できない状況であっても、制動力の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に係る制動制御装置の機能ブロック図である。
図2】制動制御装置の概略構成図である。
図3】ストロークと踏力との関係を示す踏力特性のマップである。
図4】踏力と減速度との関係を示す制動特性のマップである。
図5】始動制御処理手順を示すフローチャートである。
図6】実施例1に係る各要素のタイムチャートである。
図7】変形例に係る各要素のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の制動制御装置に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例1について図1図6に基づいて説明する。
まず、車両Vの概略構成について説明する。
図1に示すように、本実施例に係る車両Vは、二次電池のバッテリ7に電気的に接続されたDCDCコンバータ2と、車両主電源のバッテリ3と、エンジン8に連結されたスタータモータ4と、電動ブレーキブースタによって構成された制動液圧生成機構5(制動力発生機構)と、ブレーキペダル9に対してペダルストローク(以下、単にストロークと略す。)Stに応じた反力を付与する反力発生装置6(反力発生機構)と、これらを統合制御するECU(Electronic Control Unit)10(制御手段)等を備え、ブレーキバイワイヤ機構である制動制御装置1を構成している。
【0021】
DCDCコンバータ2は、エンジン8の稼働中において、発電機等によりバッテリ7に蓄電された二次電池の電源電圧を12Vに変換してバッテリ3に蓄電可能に構成されている。
スタータモータ4は、バッテリ3に対して制動液圧生成機構5や反力発生装置6等と同様に電気的に並列状に接続されている。このスタータモータ4は、乗員によるスタータスイッチ11のオン操作によってバッテリ3の電力が通電されるため、休止(停止)中のエンジン8がクランキングされ、再始動するように構成されている。
【0022】
ECU10は、CPU(Central Processing Unit)と、ROMと、RAMと、イン側インタフェースと、アウト側インタフェース等によって構成されている。ROMには、踏力及び制動力を制御するための種々のプログラムやデータ及びマップが格納され、RAMには、CPUが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられている。
ECU10は、ブレーキペダル9のストロークStを検出するストロークセンサ12と、エンジン8の回転数を検出する回転数センサ13と、バッテリ3の充電状態(SOC:Stage Of Charge)を検出するSOCセンサ14と、車両Vが走行(停車)する路面勾配を検出する勾配センサ15等と電気的に接続され、各センサ12〜15の検出信号が順次入力されている。
【0023】
次に、制動制御装置1について説明する。
図2に示すように、制動制御装置1は、制動液圧生成機構5と、反力発生装置6と、ECU10と、ブレーキペダル9のストロークStに応じたブレーキ液圧を生成可能なマスタシリンダ16と、このマスタシリンダ16又は制動液圧生成機構5により発生されたブレーキ液圧によって車両の前後左右輪FL,FR,RL,RRの回転を夫々制動するホイールシリンダ17a〜17d等を備えている。
制動液圧生成機構5の正常時、制動液圧生成機構5から各ホイールシリンダ17a〜17dに対してブレーキペダル9の操作に対して倍力(例えば、倍力比2倍以上)されたブレーキ液圧を供給し、制動液圧生成機構5の異常時、マスタシリンダ16から各ホイールシリンダ17a〜17dに対してブレーキペダル9の操作に対応したブレーキ液圧(例えば、倍力比1倍)を供給するように構成されている。
【0024】
次に、マスタシリンダ16について説明する。
マスタシリンダ16は、第1圧力発生室16aと、第2圧力発生室16bとを備えている。第1,第2圧力発生室16a,16bは、リザーバタンク18に夫々接続され、内部に圧縮スプリングを夫々備えている。これら第1,第2圧力発生室16a,16bは、ブレーキペダル9の踏込操作に応じて略同様のブレーキ液圧を圧送可能に構成されている。
第1圧力発生室16aは、開閉可能な電磁弁21を介してホイールシリンダ17a,17bに連通され、第2圧力発生室16bは、開閉可能な電磁弁24を介してホイールシリンダ17c,17dに連通されている。電磁弁21,24は、通電時、閉作動すると共に制動液圧生成機構5の異常時、非通電状態にされて開作動される。
【0025】
次に、制動液圧生成機構5について説明する。
制動液圧生成機構5は、リザーバタンク18に接続され、電動モータと、油圧ポンプ等によって構成されている。この制動液圧生成機構5は、異常時、例えば、バッテリ3のSOCが判定閾値未満のとき、作動に必要な電圧確保が難しい。
制動液圧生成機構5は、開閉可能な電磁弁22を介してホイールシリンダ17a,17bに連通され、開閉可能な電磁弁23を介してホイールシリンダ17c,17dに連通されている。電磁弁22,23は、通電時、開作動されている。
【0026】
図2に示すように、電磁弁21の下流側流路と電磁弁22の下流側流路とが連通され、電磁弁23の下流側流路と電磁弁24の下流側流路とが連通されている。
各ホイールシリンダ17a〜17dの上流側流路には、リザーバタンク18にブレーキ液圧をリターンさせるリターン流路が夫々設けられている。
【0027】
これにより、制動液圧生成機構5が正常時、電磁弁21〜24は第1モード、所謂電磁弁21,24が閉作動且つ電磁弁22,23が開作動に設定され、各ホイールシリンダ17a〜17dに対して制動液圧生成機構5から倍力比2倍以上のブレーキ液圧が供給される。一方、制動液圧生成機構5が異常時、電磁弁21〜24は第2モード、所謂電磁弁21,24が開作動且つ電磁弁22,23が閉作動に設定され、各ホイールシリンダ17a〜17dに対してマスタシリンダ3から直接的に倍力比1倍のブレーキ液圧が供給される。
【0028】
次に、反力発生機構6について説明する。
反力発生機構6は、第1圧力発生室16aと電磁弁21とを連通する流路に接続されると共に、ストロークシミュレータとシミュレータバルブとを備えている(何れも図示略)
ストロークシミュレータは、消費油量をシミュレートし、マスタシリンダ16(16a)から圧送されたブレーキ液圧を吸収して消費するように構成されている。
このストロークシミュレータは、例えば、シリンダと、このシリンダ内に摺動自在なピストンと、ピストンを付勢する付勢手段等によって形成されている。
【0029】
シミュレータバルブは、第1圧力発生室16aと電磁弁21とを連通する流路とストロークシミュレータとの間に一方弁と並列状に配設されて通電時、開作動する電磁弁によって構成されている。
シミュレータバルブを開操作することにより、乗員がブレーキペダル9を踏込又は踏戻操作したとき、ブレーキペダル9を介して予め設定された特性を備えた操作反力(踏力F)を乗員に対して作用させることができる。また、シミュレータバルブを閉操作することにより、乗員に対して高い操作反力を作用させることができ、閉操作を微調整することにより、ブレーキペダル9を介して乗員に付与する操作反力を微調整することも可能である。尚、ブレーキペダル9から乗員の脚に対して作用する操作反力と乗員がブレーキペダル9を操作する踏力Fは作用反作用の関係であるため、以下、説明に応じて表現を使い分けている。
【0030】
次に、ECU10について説明する。
ECU10は、制動液圧生成機構5と、反力発生機構6と、ストロークセンサ12と、電磁弁21〜24等に電気的に接続されると共に、減速度制御処理、踏力制御処理、及び始動制御処理を実行可能に構成されている。
【0031】
まず、減速度制御処理及び踏力制御処理について説明する。
図3に示すように、ECU10は、踏力特性マップM1を有している。
マップM1は、所定の関数、例えば、対数によって規定されている。
次式に示すように、乗員の感覚の強さは刺激の強さの対数に比例している(ウェーバー・フェヒナーの法則)。
A=klogB+K
尚、Aは感覚量、Bは物理量、kはゲイン、Kは積分定数である。
それ故、踏力特性マップM1には、乗員がブレーキペダル9を操作する踏力Fとブレーキペダル9のストロークStとが対数関係になる特性が予め設定されている。
【0032】
ECU10は、ストロークセンサ12で検出されたストロークStと踏力特性マップM1とに基づき目標操作反力に相当する踏力Fを設定し、これに対応した作動指令信号を反力発生機構6に出力している。
これにより、乗員が知覚するブレーキペダル9の踏力Fとブレーキペダル9のストロークStとの関係を人間の知覚特性状線形にすることができ、乗員が体性感覚を介して感じる知覚量とブレーキペダル9を操作する物理的な操作量との乖離を回避している。
【0033】
図4に示すように、ECU10は、制動特性マップM2を有している。
ECU10は、検出されたストロークStを介して設定された踏力Fと制動特性マップM2とを用いて車両の目標減速度に相当する減速度Dを設定し、第1モードにおいて減速度Dに対応した作動指令信号を制動液圧生成機構5に出力している。
これにより、各ホイールシリンダ17a〜17dが駆動され、制動特性マップM2に基づく減速度Dの制動が実行されている。
【0034】
次に、始動制御処理について説明する。
制動液圧生成機構5は、バッテリ3のSOCが閾値以下になった場合、スタータモータ4に電力を集中するため、作動に必要な電圧が十分に供給されない。
それ故、登坂路等で駐車した後、エンジン8が再始動されるとき、エンジン8を始動させるスタータモータ4に対してバッテリ3から大きな電力が供給されるため、一時的にバッテリ3のSOCが低下し、その結果、制動液圧生成機構5による各車輪の制動力が十分に確保されない虞がある。
そこで、ECU10は、エンジン8の再始動時、スタータモータ4の作動完了(スタータスイッチ11のオン操作)前に所定値以上の操作反力をブレーキペダル9に発生させることにより、乗員の踏力増加を誘発している。
【0035】
具体的には、ECU10は、スタータスイッチ11のオン操作前において、乗員がブレーキペダル9を操作する操作反力に対して倍力比1倍のブレーキ液圧を供給するように制動液圧生成機構5を制御すると共に、これに対応したブレーキペダル9の操作反力を発生するように反力発生機構6を制御している。
また、ECU10は、スタータスイッチ11がオン操作された時点からエンジン8の始動が完了するまでの間、エンジン8のクランキング性を高めるため、スタータモータ4への電力が集中するように制動液圧生成機構5の作動を停止させている。
これにより、スタータモータ4の作動完了前は、反力発生機構6によってブレーキペダル9に倍力比1倍に対応した操作反力が発生されると共に制動液圧生成機構5から倍力比1倍のブレーキ液圧がホイールシリンダ17a〜17dに対して供給され、スタータスイッチ11のオン操作時及びスタータスイッチ11がオン操作された時点からエンジン8の始動が完了するまでの間は、マスタシリンダ3から直接的に倍力比1倍のブレーキ液圧がホイールシリンダ17a〜17dに対して供給されている。
【0036】
次に、図5のフローチャート及び図6のタイムチャートに基づいて、始動制御処理手順について説明する。
尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示している。
また、図6のタイムチャートは、1段目から順に、イグニッション操作状態、スタータモータ4の操作状態、制動液圧生成機構5の作動状態、シミュレータバルブの作動状態、反力発生機構6による操作反力量、ブレーキペダル9のストロークStを夫々示している。
【0037】
図5に示すように、まず、各種情報を読み込み、S2へ移行する。
S2では、フラグFが0か否か判定する。
尚、フラグFは、始動制御処理を実行中のとき、F=1が設定され、それ以外のとき、F=0が設定されている。
【0038】
S2の判定の結果、フラグFが0の場合、S3に移行し、イグニッションがオフ操作されたか否か判定する。
S3の判定の結果、イグニッションがオフ操作された場合、ブレーキペダル9の操作反力を増加するため、シミュレータバルブを閉方向に操作し(S4)、S5に移行する。
図6に示すように、閉操作に電力が不要なシミュレータバルブにおいて、消費電力を抑えるため、イグニッションがオフ操作された時刻t0と、シミュレータバルブを閉操作する時刻t0とが同時刻に設定されている。
【0039】
S5では、ブレーキペダル9の操作量であるストロークStが所定値以上か否か判定する。
本実施例では、路面勾配と倍力比1倍のときに車両Vの停止に必要なブレーキペダル9の操作量(ストロークSt)との関係を予め保有しており、勾配センサ15の検出値に基づき車両Vの停止に必要なブレーキペダル9のストロークStが上記所定値として設定される。
【0040】
S5の判定の結果、ブレーキペダル9のストロークStが所定値以上の場合、電磁弁21〜24を第1モードに設定し(S6)、S7に移行する。
S5の判定の結果、ブレーキペダル9のストロークStが所定値未満の場合、S4にリターンして、シミュレータバルブを更に閉方向に操作する。
図6に示すように、時刻t1において、マスタシリンダ16から供給される倍力比1倍のブレーキ液圧でも車両Vの後退を回避できるブレーキペダル9のストロークSt及びこれに対応した操作反力が設定される。尚、制動液圧生成機構5は、イグニッションがオフであっても、反力発生機構6の作動に関わりなく時刻t0の制動力を維持している。
【0041】
S7では、制動液圧生成機構5による倍力比を1倍に設定し、フラグFを1に設定して(S8)、リターンする。
S3の判定の結果、イグニッションがオフ操作されない場合、車両Vが運転状態又は停止状態であるため、ブレーキペダル9の操作反力や制動力を現状維持してリターンする。
【0042】
S2の判定の結果、フラグFが1の場合、始動制御処理を実行中であるため、S9に移行し、スタータモータ4(スタータスイッチ11)がオン操作されたか否か判定する。
S9の判定の結果、スタータモータ4がオン操作された場合、制動液圧生成機構5に供給される電圧が低下して(S10)、S11に移行する。
図6に示すように、例えば、乗員がドアを開けて車両Vに乗り込み(時刻t2)、ブレーキペダル9の踏込操作を開始(t3)すると経過時間と共にストロークStが増加する。
そして、ブレーキペダル9のストロークStと反力発生機構6による操作反力とが釣り合った時刻t4において、乗員によるブレーキペダル9の踏込操作が終了する。
その後、時刻t5において、スタータモータ4がオン操作され、制動液圧生成機構5の電圧が低いレベルに変更される。尚、制動液圧生成機構5の電圧低下が生じても、ストロークStに対応したマスタシリンダ16から供給される倍力比1倍のブレーキ液圧によって、各車輪に付与される制動力は確保している。
【0043】
S11では、エンジン8の回転数が所定値、例えばアイドリング回転数、以上か否か判定する。
S11の判定の結果、エンジン8の回転数が所定値以上の場合、エンジン8の始動が完了したため、S12に移行して、バッテリ3のSOCが判定閾値以上か否か判定する。
S12の判定の結果、バッテリ3のSOCが判定閾値以上の場合、制動液圧生成機構5を起動して(S13)、シミュレータバルブを開方向に操作する(S14)。
S15では、電磁弁21〜24を第1モードに設定し、制動液圧生成機構5による倍力比を2倍以上に設定した後(S16)、フラグFを0に設定して(S17)、リターンする。
【0044】
S12の判定の結果、バッテリ3のSOCが判定閾値未満の場合、電磁弁21〜24を第2モードに設定し(S18)、警報を実行した後(S19)、リターンする。
S11の判定の結果、エンジン8の回転数が所定値未満の場合、エンジン8の始動が完了していない(クランキング途中である)ため、リターンする。
S9の判定の結果、スタータモータ4がオン操作されていない場合、始動制御処理が継続しているため、リターンする。
【0045】
次に、上記制動制御装置1の作用、効果について説明する。
実施例1に係る制動制御装置1によれば、ECU10は、スタータモータ4の作動完了前に所定値以上の操作反力をブレーキペダル9に発生させることにより、乗員の踏力増加を誘発することができるため、一時的にバッテリ3のSOCが低下しても、制動液圧生成機構5による各車輪の制動力を十分に確保することができる。
【0046】
ECU10が、ブレーキペダル9のストロークStと制動液圧生成機構5の制動力との倍力比を1倍に設定したため、制動液圧生成機構5による制動力が十分ではなくても、乗員の踏力Fに基づく制動力で停車状態を維持することができる。
【0047】
制動液圧生成機構5は、バッテリ3のSOCが閾値以下になった場合、制動力を低下させるように構成されたため、バッテリ3のSOCが閾値以下になり制動力を低下させる制動液圧生成機構5であっても、各車輪の制動力を確保することができる。
【0048】
ブレーキペダル9のストロークStに基づく油圧で車輪FL,FR,RL,RRの制動力を発生可能なマスタシリンダ16を有し、反力発生機構6が、前記マスタシリンダ16と流路を介して連通されたストロークシミュレータと、流路の途中部を開閉可能なシミュレータバルブとにより構成されたため、ストロークシミュレータを用いて乗員の踏力増加を誘発することができる。
【0049】
ECU10は、シミュレータバルブの閉操作に電力が不要な場合、イグニッションオフ状態からエンジン8の始動完了まで操作反力をブレーキペダル9に発生させるため、シミュレータバルブの閉操作に電力が不要な油圧回路において、消費電力を抑えつつ車両Vの後退を回避することができる。
【0050】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、イグニッションオフ状態からエンジンの始動完了まで操作反力をブレーキペダルに発生させる例を説明したが、シミュレータバルブの閉操作に電力が必要な場合には、スタータモータの操作直前状態からエンジン始動完了まで操作反力をブレーキペダルに発生させても良い。
【0051】
図7に示すように、イグニッションがオフ操作された時刻t0から乗員がドアを開けて車両に乗り込む時刻t2までの間、制動液圧生成機構は作動しているものの、シミュレータバルブ開度及び反力発生機構による操作反力は発生していない。
シミュレータバルブ開度や操作反力は、ドアの開閉検出センサによるドアの開操作検出時から増加され、例えば、乗員がブレーキペダルを踏込操作開始する時刻t3において、マスタシリンダから供給されるブレーキ液圧でも車両の後退を回避できるブレーキペダルのストローク及びこれに対応した操作反力が設定される。
そして、ブレーキペダルのストロークと反力発生機構による操作反力とが釣り合った時刻t4において、乗員によるブレーキペダルの踏込操作が終了し、時刻t5において、スタータモータがオン操作され、制動液圧生成機構の電圧が低いレベルに変更される。
【0052】
2〕前記実施形態においては、バッテリのSOCが判定閾値未満のとき供給電圧を低下させる制動液圧生成機構の例を説明したが、少なくとも、スタータモータオン操作時、制動液圧生成機構の供給電圧を低下させれば良く、これにより、エンジンの始動性能を向上することができる。
また、イグニッションオフからのエンジンの始動時、供給電圧を低下させる制動液圧生成機構の例を説明したが、アイドリングストップからのエンジンの再始動時、DCDCコンバータを介して電力が供給されるため、制動液圧生成機構の電圧低下制御を省略することが可能である。
【0053】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0054】
1 制動制御装置
3 バッテリ
4 スタータモータ
5 制動液圧生成機構
6 反力発生機構
8 エンジン
9 ブレーキペダル
10 ECU
16 マスタシリンダ
V 車両
St ストローク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7