(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような構成のキャニスタにおいては、通例、エンジン運転中に吸気通路の負圧等を利用して、第1室や第2室内の吸着剤に吸着された燃料成分を脱離し、吸気通路内に導入するパージが行われる。
【0006】
パージ中、第1室や第2室内の吸着剤に吸着されている燃料成分は吸気通路の負圧により吸気通路側に移動していく。例えば、第2室の第2吸着剤に吸着されている燃料は、第1室側に移動していく。一方、エンジンが停止してパージが行われなくなると、吸気通路の負圧がなくなることにより、第1室や第2室内の吸着剤に吸着されている(残留している)燃料成分は、吸気通路側に移動しなくなる一方、重力により吸着剤内で下側に移動していく。
【0007】
このようにパージが行われていない状態では、第1室や第2室の吸着剤の内部において、燃料成分濃度を平衡に保とうとする推進力がはたらく。例えば、第2室の第2吸着剤の内部に残留している燃料成分は、一定の濃度以上になると、第2吸着剤内で大気開放ポート側に向かって推進する。第2吸着剤内で大気開放ポート側の端部に到達した燃料成分は、大気開放ポートから放出される場合がある。
【0008】
本開示の技術は、そうした燃料成分の大気放出を抑制可能なキャニスタ、及びキャニスタの車両搭載構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の技術は、車両に搭載され、蒸発燃料の吸着・脱離を行うキャニスタを対象とする。本開示のキャニスタでは、内部に流体が流通可能な通路が形成されている。前記通路の一端側には、燃料タンクからの蒸発燃料を導入する蒸発燃料導入ポートと、エンジンの吸気通路に連通させるためのパージポートとが設けられている。さらに、前記通路の他端側には、大気に連通する大気開放ポートが設けられている。また、前記通路上には、前記一端側から順に、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第1吸着剤が収容される第1室と、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第2吸着剤が収容される第2室とが設けられている
。当該キャニスタでは、車両搭載状態において、前記通路のうちの前記第1室部分の第1通路は略水平となるように構成され、前記通路のうちの前記第2室部分の第2通路は略鉛直、かつ前記大気開放ポート側が上側となるように構成されている。
また、当該キャニスタは、前記第1室を形成する第1ケースと、前記第2室を形成する第2ケースとを有する。前記第1ケースは、車両のフロアパネルの下方、かつ該フロアパネルの下方に取り付けられたサイレンサの上方に配置される。前記第2ケースは、車両のリヤフェンダ内の空間に配置される。
【0010】
この構成によれば、キャニスタが車両に搭載されている状態において、前記通路のうちの前記第2室部分の第2通路は略鉛直かつ前記大気開放ポート側が上側となるように構成されているため、前記第2室の第2吸着剤の残留燃料成分の大気開放ポート側への推進が重力により遅くなる。これにより、エンジンが停止してから燃料成分が吸着剤の大気開放ポート側端部に到達するまでの時間が長くなる。よって、燃料成分の大気放出が抑制される。
【0011】
また、上記の構成によれば、前記第1ケースを、車両のフロアパネルの下方の空間を有効利用して配置し、前記第2ケースを、車両のリヤフェンダ内の空間を有効利用して配置することができる。
【0012】
また、上記の構成によれば、第1ケースの下側がサイレンサでカバーされて、飛び石等により第1ケースが損傷することを防止できる。また、第1ケースは、周囲空気よりも相対的に温度の高い比較的高温な排気ガスが流通するサイレンサの上方に配置されることにより、全体的に暖められる。それによって、第1ケース内の第1吸着剤の活性状態が高められ、第1吸着剤による蒸発燃料成分の脱離能力を良好に発揮させることができる。
【0013】
前記キャニスタでは、車両搭載状態において、前記第2室における前記第1室側の端部が、前記第1室における前記第2室側の端部よりも上方に位置するように、構成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、キャニスタは、車両搭載状態において、第2室における第1室側の端部が、第1室における第2室側の端部よりも上方に位置するように構成されていることにより、重力により第2室内で下側に偏った燃料成分が破過して液化した場合であっても、第1室の第1吸着剤に導いて、第1吸着剤に吸着させることができる。
【0015】
また、前記キャニスタでは、前記第2吸着剤は、前記第2通路の延在方向における前記大気開放ポート側の方が反大気開放ポート側よりも、蒸発燃料の吸着能力が高く構成されていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、第2通路の延在方向における大気開放ポート側の方が反大気開放ポート側よりも、蒸発燃料の吸着能力が高く構成されていることにより、第2吸着剤内での毛細管現象による残留燃料成分の大気開放ポート側への推進が、大気開放ポート側に近づくほど遅くなる。そのため、エンジンが停止してから燃料成分が第2吸着剤の大気開放ポート側の端部に到達するまでの時間を一層長くすることができる。よって、燃料成分の大気放出がより良好に抑制される。
【0017】
また、前記キャニスタでは、前記第2室内に、複数の前記第2吸着剤が収容され、前記第2室内において、前記第2吸着剤と空間部とが、前記通路の延在方向において交互に配置されることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、第2室内に、複数の第2吸着剤が収容され、第2室内において、第2吸着剤と空間部とが、通路の延在方向において交互に配置されることにより、一の第2吸着剤内の残留燃料成分が、隣の第2吸着剤に推進しにくくなる。すなわち、第2吸着剤内の残留燃料成分が、大気開放ポート側へ推進しにくくなる。これにより、エンジンが停止してから燃料成分が吸着剤の大気開放ポート側の端部に到達するまでの時間をより長くすることができる。よって、燃料成分の大気放出がより良好に抑制される。
【0019】
また、前記キャニスタでは
、前記第1通路と前記第2通路とはホースを利用して接続されることが好ましい。
【0020】
この構成によれば
、第1通路と第2通路とはホースを利用して接続されることにより、第1ケースと第2ケースとをそれぞれ適切な位置に配置できる。したがって、車両にキャニスタを配置する際のレイアウトの自由度が向上する
。
【発明の効果】
【0021】
本開示の技術によれば、燃料成分の大気放出を抑制可能なキャニスタ及びそうしたキャニスタに好適な車両搭載構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、例示的な
参考例および実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
《
参考例1》
参考例のキャニスタ1について説明する。
図1は、
参考例1のキャニスタ1の外観を示す斜視図である。
図1に示すように、キャニスタ1は第1キャニスタ1Aと第2キャニスタ1Bとを含む。
【0025】
第1キャニスタ1Aは第1ケースとしてのケース10を有する。このケース10は、有底筒状の形状を有している。当該ケース10の筒軸方向の一端側の底壁には、蒸発燃料導入ポート11と、パージポート12と、連通ポート17とが形成されている。第2キャニスタ1Bは第2ケースとしてのケース70を有する。このケース70は、有底筒状の形状を有している。当該ケース70の筒軸方向の一端側の底壁には、大気開放ポート13が形成されている。さらに、このケース10の筒軸方向の他端側の底壁には、連通ポート18が形成されている。
【0026】
第1キャニスタ1Aの連通ポート17と第2キャニスタ1Bの連通ポート18とは、接続管19により接続される。キャニスタ1(1A,1B)の内部には、後に詳述するように、流体が流通可能な通路が形成されている。その通路の一端側には、蒸発燃料導入ポート11とパージポート12とが設けられている。当該通路の他端側には、大気に連通する大気開放ポート13が設けられている。
【0027】
また、その通路上には、前記一端側から順に、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第1吸着剤51,61が収容される第1室(第1キャニスタ1Aの内部空間)21と、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第2吸着剤81が収容される第2室(第2キャニスタ1Bの内部空間)22とが設けられている(後に参照する
図5及び
図6に示す)。換言すれば、第1室21及び第2室22は、キャニスタ1の全通路の一部(第1通路及び第2通路)を構成する。第1室21における第1通路の延在方向は、第1キャニスタ1Aのケース10の筒軸方向とほぼ一致している。そして、第2室22における第2通路の延在方向は、第2キャニスタ1Bのケース70の筒軸方向とほぼ一致する。
【0028】
この
参考例1にかかるキャニスタ1は、自動車等の車両に搭載される。
図2は、この
参考例1のキャニスタ1が搭載された車両の下面図である。
図3は、この
参考例1のキャニスタ1が搭載された車両の後部の側面図である。
図2に示すように、車両の左右の側部側では、左右一対のサイドフレーム41L,41Rが車両の前部から後部にまで延びている。車両の前部の左右のサイドフレーム41L,41R間にはエンジン30が搭載されている。排気管39は、エンジン30から車両後部にまで延び、フロアパネル101の下方に取り付けられたサイレンサ40に接続されている。燃料タンク31は、車両の後部側においてフロアパネル101の下面側に配置されている。
【0029】
第1キャニスタ1Aは、燃料タンク31の後方であって、サイレンサ40の前部近傍、かつ左サイドフレーム41Lに対し車幅方向における内側に配置されている。サイレンサ40の前部近傍にキャニスタ1を配置するのは、キャニスタ1をサイレンサ40で暖め、キャニスタ1内をパージする際に、活性炭内温度低下(気化潜熱)を抑制することで脱離性能を向上させることを目的としている。この第1キャニスタ1Aは、筒軸方向が略水平となるように横置き配置されている。また、
図3に示すように、第1キャニスタ1Aは、燃料タンク31とほぼ同じ高さ位置でフロアパネル101下の空間を利用して配置されている。
【0030】
図2及び
図3に示すように、第2キャニスタ1Bは、第1キャニスタ1Aに対して、左サイドフレーム41Lを挟んで反対側であって、左リヤホイール42Lの後方のリヤフェンダ45内の空間に配置されている。第2キャニスタ1Bをこの位置に配置することにより、側突時等に、第2キャニスタ1Bが排気管39に当接するのを左サイドフレーム41Lにより抑制することができる。第1キャニスタ1Aの接続ポート(連通ポート17)と第2キャニスタ1Bの接続ポート(連通ポート18)とは接続管19を利用して接続される。接続管19としては、例えば、曲げのための可撓性を有するホース等を利用可能である。
【0031】
エンジン30(の吸気通路34)とキャニスタ1のパージポート12とを接続するパージ通路35は、左サイドフレーム41Lに沿って車両前後方向に延設されている。燃料タンク31とキャニスタ1の蒸発燃料導入ポート11とを接続する蒸発燃料導入通路32は、これらの間で前後方向に延びている。キャニスタ1の大気開放ポート13に接続される大気開放管(不図示)は、左右のリヤホイール42L,42Rのうちの左リヤホイール42L後方のリヤフェンダ45内の空間にまで延びている。
【0032】
ここで、第2キャニスタ1Bは、
図1にも示されているように、筒軸方向が略鉛直かつ大気開放ポート13側が上側となるように縦置き配置されている。なお、本
参考例において略鉛直とは、鉛直に対して0度から約45度の範囲の角度で傾いていることを含む。
【0033】
また、第2キャニスタ1Bは、車両搭載状態において、第2室22における第1室21側の端部が、第1室21における第2室22側の端部よりも上方に位置するように構成されている。これは、重力により第2室22内で下側に偏った燃料成分が破過して液化した場合であっても、接続管19等にたまることなく、第1室21の第1吸着剤51,61に導かれて、第1吸着剤51,61に吸着されるようにすることを目的としている。
【0034】
図4は、この
参考例1のキャニスタ1を有する蒸発燃料処理システムの概略構成図である。蒸発燃料処理システムは、燃料タンク31内で発生した蒸発燃料を処理するシステムである。燃料タンク31内で発生した蒸発燃料を含む蒸発燃料ガスは、蒸発燃料導入通路32及び蒸発燃料導入ポート11を介してキャニスタ1(1A,1B)の内部に導入され、導入された蒸発燃料はキャニスタ1(1A,1B)内部の吸着剤(第1吸着剤51,61、第2吸着剤81)により吸着される。
【0035】
パージポート12は、パージ通路35を介してエンジン30の吸気通路34に接続されている。エンジン30の運転中、スロットルバルブ37の開閉動作により吸気通路34が負圧になると、大気開放ポート13を介してキャニスタ1内に空気が導入されることにより、吸着剤(第1吸着剤51,61、第2吸着剤81)に吸着されている燃料成分が脱離し、脱離した燃料成分は、パージ通路35から吸気通路34を介してエンジン30の燃焼室に導入され、燃焼用の燃料として利用される。
【0036】
パージ通路35の途中にはパージバルブ36が設けられている。このパージバルブ36の開度を制御することにより、パージにより吸気通路34に導入する蒸発燃料の量を制御することができる。このパージバルブ36の開度の制御は、エンジン30の運転状態等に基づいて図示しないエンジンコントローラ(ECU)により行われる。
【0037】
図5は、この
参考例1のキャニスタ1の第1キャニスタ1Aの断面図である。
図5に示すように、第1キャニスタ1Aはケース10を有する。このケース10は、有底筒状のケース本体10Aと、ケース本体10Aの開口端面を閉じる蓋10Bとを含む。当該ケース10は、例えば樹脂により形成されており、車両搭載状態において、蓋10Bを後方に向け且つ底板10xを前方に向ける、筒軸方向を前後方向とした姿勢に設置される。
【0038】
こうしたケース10において、ケース本体10Aの底板10xのキャニスタ外側には、蒸発燃料導入ポート11と、連通ポート17と、パージポート12とが形成されている。連通ポート17は、上述した接続管19を介して第2キャニスタ1Bの連通ポート18に接続されるポートである。
【0039】
このケース10内には、第1吸着剤51,61を収容する第1室21が設けられている。ケース本体10Aの底板10xのキャニスタ内部側には、ケース本体10Aの空間内で筒軸方向に沿ってその開口側(つまり蓋10B側)に突出する第1仕切壁14及び第2仕切壁15が形成されている。第1室21は、これら第1仕切壁14及び第2仕切壁15によって仕切られている。
【0040】
第1仕切壁14は、その先端部が蓋10Bの近傍まで延び、第1室21をパージポート12及び蒸発燃料導入ポート11に連通するA室21Aと、連通ポート17に連通するB室21Bとに仕切る。他方、第2仕切壁15は、第1仕切壁14の突出量よりも小さい突出量で形成されている。この第2仕切壁15は、第1室21の筒軸方向一端側の空間を蒸発燃料導入ポート11側とパージポート12側との2つの空間に仕切っている。
【0041】
A室21Aには、ケース本体10Aの底板10x側から順に通気板54、フィルタ板53、第1吸着剤51、フィルタ板53、通気板54が収容されている。ケース本体10Aの筒壁及び第1仕切壁14には、ケース本体10Aの底板10xの近傍においてA室21Aの内方に突出するストッパ16が形成されているとともに、ケース10の蓋10Bとその蓋10B側の通気板54との間にはスプリング55が介設されている。
【0042】
スプリング55は、通気板54、フィルタ板53、第1吸着剤51、フィルタ板53、通気板54をストッパ16側に押し付けている。そのため、上記の各通気板54、フィルタ板53、第1吸着剤51は、隣接する部材同士が押し付け合い、各部材間や第1吸着剤51とケース10との間に隙間が生じないようになっている。上記のような構成によれば、A室21A内に上記の各部材を上記順でケース本体10Aの開口側から入れることにより本構造を容易に実現できる。
【0043】
B室21Bには、ケース本体10Aの底板10x側から順に通気板54、フィルタ板63、第1吸着剤61、フィルタ板63、通気板64が収容されている。ケース本体10Aの筒壁及び第1仕切壁14には、ケース本体10Aの底板10xの近傍において第2室22の内方に突出するストッパ16が形成されているとともに、通気板64とケース10の蓋10Bとの間にはスプリング65が介設されている。
【0044】
スプリング65は、通気板64をストッパ16側に押し付けている。そのため、上記の各通気板64、フィルタ板63、第1吸着剤61は、隣接する部材同士が押し付け合い、各部材間や第1吸着剤61とケース10との間に隙間が生じないようになっている。上記のような構成によれば、B室21B内に上記の各部材を上記順でケース本体10Aの開口側から入れることにより本構造を容易に実現できる。
【0045】
これらA室21A及びB室21B内の第1吸着剤51,61は、前述のように、燃料タンク31内で発生した蒸発燃料を吸着・脱離する。これら第1吸着剤51,61としては、例えば、蒸発燃料を吸着・脱離可能な活性炭が利用可能である。第1吸着剤51,61用の活性炭としては、例えば、直径2mm、軸長4mm程度のペレット状の形状を有し、細孔サイズの体積分布において5nm付近にピークを有するものを用いる。
【0046】
A室21A及びB室21B内のフィルタ板53,63は、例えば不織布により構成される。これらフィルタ板53,63は、振動等により細かく粉砕した活性炭が各ポートを介して各通路に進入するのを抑制する。A室21A及びB室21B内の通気板54,64は、例えば、多数の貫通孔64aを有する格子状の板材である。これら通気板54,64は、例えば樹脂により形成されている。
【0047】
ケース10の蓋10B側の端部において、A室21Aの通気板54と蓋10Bとの間、及びB室21Bの通気板64と蓋10Bとの間には、スプリング55,65が介設される空間がそれぞれ設けられているとともに、仕切板14の蓋10B側の端部と蓋10Bとの間には隙間が形成されている。そして、これらの空間と隙間とにより、A室21AとB室21Bとを連通させる連通部Tが構成されている。
【0048】
図6は、この
参考例1のキャニスタ1のうちの第2キャニスタ1Bの断面図である。
図6に示すように、第2キャニスタ1Bはケース70を有する。このケース70は、有底筒状のケース本体70Aと、ケース本体70Aの開口端面を閉じる蓋70Bとを含む。当該ケース70は、例えば樹脂により形成されており、車両搭載状態において、蓋70Bを上方に向け且つ底板70xを下方に向ける、筒軸方向を上下方向とした姿勢に設置される。
【0049】
蓋70B(つまり、ケース70の上端側の壁部)には、大気開放ポート13が形成されている。ケース本体70Aの底板70x(つまり、ケース70の下端側の壁部)には、上述した接続管19を介して第1キャニスタ1Aの連通ポート17に連通する連通ポート18が形成されている。そして、ケース70内には、第2吸着剤61を収容する第2室22が形成されている。
【0050】
第2室22には、ケース本体70Aの底板70x側から順に通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84が収容されている。ケース本体70Aの筒壁には、ケース本体70Aの底板70xの近傍において第2室22の内方に突出するストッパ76が形成されているとともに、通気板84とケース70の蓋70Bとの間にはスプリング85が介設されている。
【0051】
スプリング85は、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84をストッパ76側に押し付けている。そのため、上記の各通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81は、隣接する部材同士が押し付け合い、各部材間や第2吸着剤81とケース70との間に隙間が生じないようになっている。上記のような構成によれば、第2室22内に上記の各部材を上記順でケース本体70Aの開口側から入れることにより本構造を容易に実現できる。
【0052】
第2吸着剤81は、燃料タンク31内で発生した蒸発燃料を吸着・脱離する。この第2吸着剤81としては、例えば、蒸発燃料を吸着・脱離可能な活性炭が利用可能である。より具体的に、第2吸着剤81には、第1キャニスタ1A内の第1吸着剤51よりも吸着能力が低いが、脱離性能が高い活性炭が利用される。これは、第1吸着剤51には、できるだけ多くの燃料を吸着し、かつ吸着した燃料を保持して第2室22側にできるだけ移動させないことが要求されるが、第2吸着剤81には、燃料を吸着する一方で、吸着されている燃料成分がパージ時に脱離されやすいことが要求されるためである。
【0053】
第2吸着剤81用の活性炭としては、例えば、第1吸着剤51,61よりも粒径の大きいペレット状あるいはモノリス状の形状を有し、細孔サイズの体積分布において1000nm付近にピークを有するものを用いる。
【0054】
フィルタ板83は、例えば不織布により構成される。このフィルタ板83は、振動等により細かく粉砕した活性炭が各ポートを介して各通路に進入するのを抑制する。通気板84は、例えば、多数の貫通孔84aを有する格子状の板材である。この通気板84は、例えば樹脂により形成されている。
【0055】
次に、この
参考例1のキャニスタ1の作用について説明する。例えば、給油時や駐車時において、燃料タンク31内で燃料が蒸発することによって発生した蒸発燃料を含む蒸発燃料ガスは、燃料タンク31の内圧が上昇することによって、蒸発燃料導入ポート11を介してキャニスタ1に導入される。そして、燃料成分が第1室21(第1キャニスタ1A)及び第2室22(第2キャニスタ1B)の活性炭により吸着され、燃料成分がほとんど取り除かれたガスは、大気開放ポート13から大気へ放出される。
【0056】
ここで、第1吸着剤51に蒸発燃料ガスが吸着され続け、第1吸着剤51内の燃料成分濃度が一定以上に高くなると、連通部T内に蒸発燃料ガスが進行する。さらに、連通部T内の燃料成分濃度が一定以上に高くなると、蒸発燃料ガスは、第2室22内の第2吸着剤61によりその反大気開放ポート13側から吸着されていく。そして、第2吸着剤61の大気開放ポート13側の端部の燃料成分濃度が一定値以上に高くなると、蒸発燃料ガスは、大気開放ポート13を介して大気へ放出される可能性がある。なお、エンジン30の運転が行われ、パージが行われると、第2吸着剤61の大気開放ポート13側から徐々に燃料成分が脱離していく。
【0057】
具体的に、例えばエンジン30の運転時には、ECU(図示せず)の制御によりまたは圧力差によりパージバルブ36が開弁されると、エンジン30の吸気負圧により、大気開放ポート13を介して大気中の空気がキャニスタ1内の第2室22及び第1室21に導入される。このとき、第1室21の第1吸着剤51,61及び第2室22の第2吸着剤81から蒸発燃料が脱離(パージ)され、空気とともにパージポート12を介してエンジン30の吸気通路34に供給される。
【0058】
この
参考例1では、キャニスタ1が車両に搭載されている状態において、前記通路のうちの第2室22部分の第2通路は略鉛直かつ大気開放ポート13側が上側となるように構成されている。そのため、第2室22の第2吸着剤61の残留燃料成分の大気開放ポート13側への推進が重力により遅くなる。これにより、エンジン30が停止してから燃料成分が第2吸着剤61の大気開放ポート13側の端部に到達するまでの時間が長くなる。よって、燃料成分の大気放出が抑制される。
【0059】
また、この
参考例1では、キャニスタ1は、車両搭載状態において、第2室22における第1室21側の端部が、第1室21における第2室22側の端部よりも上方に位置するように構成されている。そのため、重力により第2室22内で下側に偏った燃料成分が破過して液化した場合であっても、第1室21の第1吸着剤51に導かれ、第1吸着剤51により吸着される。
【0060】
また、この
参考例1では、キャニスタ1は、第1室21を形成する第1キャニスタ1Aのケース10と、第2室22を形成する第2キャニスタ1Bのケース70とを有し、第1通路と第2通路とは接続管19を利用して接続される。これにより、第1キャニスタ1Aのケース10と第2キャニスタ1Bのケース70とをそれぞれに適切な位置に配置できる。したがって、車両にキャニスタ1を配置する際のレイアウトの自由度が向上する。
【0061】
また、この
参考例1では、第1キャニスタ1Aのケース10を、車両のフロアパネル101の下方の空間を有効利用して配置し、第2キャニスタ1Bのケース70を、車両のリヤフェンダ45内の空間を有効利用して配置することができる。
【0062】
《
参考例2》
参考例2のキャニスタ1について説明する。図面は上記
参考例1と共通である。この
参考例2では、第2吸着剤61は、ケース70の筒軸方向、つまり通路の延在方向における大気開放ポート13側の方が反大気開放ポート13側よりも、蒸発燃料の吸着能力が高く構成されている。この
参考例2のキャニスタ1について、その他の構成は、上記
参考例1と同様である。
【0063】
このように構成することにより、第2吸着剤61内での毛細管現象による残留燃料成分の大気開放ポート13側への推進が、大気開放ポート13側に近づくほど遅くなる。そのため、エンジン30が停止してから燃料成分が第2吸着剤61の大気開放ポート13側の端部に到達するまでの時間を一層長くすることができる。よって、燃料成分の大気放出がより良好に抑制される。
【0064】
《
参考例3》
参考例3のキャニスタ1について説明する。
図7は、
参考例3のキャニスタ1のうちの第2キャニスタ1Bの断面図である。この
参考例3の第2キャニスタ1Bでは、
図7に示すように、第2室22内に、複数の第2吸着剤61が収容されており、第2室22内において、第2吸着剤61と空間部Sとが、ケース70の筒軸方向、つまり通路の延在方向において交互に配置されている。
【0065】
具体的に、第2室22には、ケース本体70Aの底板70x側(反大気開放ポート13側)から順に、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84、空間形成部材86、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84、空間形成部材86、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84、空間形成部材86、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84、空間形成部材86、通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、フィルタ板83、通気板84が収容されている。
【0066】
第2吸着剤81は、燃料タンク31内で発生した蒸発燃料を吸着・脱離する。この
参考例3の第2吸着剤81は、ケース70の筒軸方向の長さが上記
参考例1の第2吸着剤81とは異なるが、組成は上記
参考例1の第2吸着剤81と同様でよく、例えば、蒸発燃料を吸着・脱離可能な活性炭が利用可能である。通気板84及びフィルタ板83は、上記
参考例1の通気板84及びフィルタ板83と同一でよい。
【0067】
空間形成部材86は、隣接する2つの通気板84の間に介在し、これらの通気板84の間に空間部Sを形成する。空間形成部材86は、通気板84と同様に、例えば、樹脂により形成される。空間形成部材86とこれに隣接する通気板84とは一体で形成してもよいし、接着剤等で結合してもよい。
【0068】
このように、第2室22には、第2吸着剤81とこれを両側から挟むフィルタ板83及び通気板84との組み合わせがケース70の筒軸方向において直列に複数(この例では5つ)設けられており、これら第2吸着剤81、フィルタ板83及び通気板84の組み合わせのうち隣り合う組同士の間には、空間部Sが設けられている。
【0069】
そして、ケース本体70Aの筒壁には、ケース本体70Aの底板70xの近傍において第2室22の内方に突出するストッパ76が形成されているとともに、通気板84とケース70の蓋70Bとの間にはスプリング85が介設されている。
【0070】
スプリング85は、通気板84をストッパ76側に押し付けている。そのため、上記の各通気板84、フィルタ板83、第2吸着剤81、空間形成部材86は、隣接する部材同士が押し付け合い、各部材間に隙間が生じないようになっている。上記のような構成によれば、第2室22内に上記の各部材を上記順でケース本体70Aの開口側から入れることにより本構造を容易に実現できる。
【0071】
この
参考例3のキャニスタ1について、これら以外の構成は、上記
参考例1と同様である。
【0072】
この
参考例3によれば、第2室22内に、複数の第2吸着剤61が収容され、第2室22内において、第2吸着剤61と空間部Sとが、通路の延在方向において交互に配置されることにより、一の第2吸着剤61内の残留燃料成分が、隣の第2吸着剤61に推進しにくくなる。すなわち、第2吸着剤61内の残留燃料成分が、大気開放ポート13側へ推進しにくくなる。これにより、エンジン30が停止してから燃料成分が第2吸着剤61の大気開放ポート13側の端部に到達するまでの時間がより長くなる。よって、燃料成分の大気放出がより良好に抑制される。
【0073】
《
参考例4》
参考例4のキャニスタ1について説明する。図面は上記
参考例3と共通である。この
参考例4では、複数の第2吸着剤81は、通路の延在方向における大気開放ポート13側に位置する第2吸着剤81の方が反大気開放ポート13側に位置する第2吸着剤81よりも、蒸発燃料の吸着能力が高く構成されている。蒸発燃料の吸着能力は、一般に、ブタンワーキングキャパシティ(BWC)により表され、本
参考例では、第2吸着剤81は、通路の延在方向における大気開放ポート13側の方が反大気開放ポート13側よりも、パージ後のブタンワーキングキャパシティ(BWC)の値が大きく構成されている。
【0074】
なお、BWCの値が大きい吸着剤とは、吸着剤に用いられる活性炭の単位体積当たりの細孔密度を高めたものである。例えば、第2吸着剤81を形成する際に、反大気開放ポート13側ほど、大気開放ポート13側よりも粒径の大きいペレットを敷き詰めて形成するといったことが考えられる。
【0075】
また、第2吸着剤81の大気開放ポート13側の吸着能力は高ければ良いだけではなく、パージを行う際には、確実に脱離できるものでなくてはならないので、吸着能力の設定は、パージ時の脱離性能とのバランスを考慮して行うことが好ましい。この
参考例4のキャニスタ1について、その他の構成は、上記
参考例1と同様である。
【0076】
このように構成することにより、第2吸着剤81内での毛細管現象による残留燃料成分の大気開放ポート13側への推進が、大気開放ポート13側に近づくほど遅くなる。そのため、エンジン30が停止してから、燃料成分が大気開放ポート13に到達するまでの時間を一層長くすることができる。よって、燃料成分の大気放出がより良好に抑制される。
【0077】
《実施形
態》
実施形
態のキャニスタ1について説明する。
図8は、実施形
態のキャニスタ1が搭載された車両の下面部である。
図9は、実施形
態のキャニスタ1が搭載された車両の後部の側面図である。この実施形
態では、
図8及び
図9に示すように、第1キャニスタ1Aは、車両のフロアパネル101と、そのフロアパネル101の下方に取り付けられたサイレンサ40との間に配置されている。
【0078】
具体的に、第1キャニスタ1Aは、サイレンサ40の上部近傍でサイレンサ40と接触はしないがサイレンサ40からの熱伝達が及ぶ範囲に、筒軸方向が略水平となるように横置き配置されており、サイレンサ40によって地面側から遮蔽されている。第1キャニスタ1Aをサイレンサ40の上部近傍に配置するのは、第1キャニスタ40を比較的高温な排気ガスが流通するサイレンサ40の熱で全体的に暖めることを目的としている。
【0079】
この第1キャニスタ1Aは、
図9に示すように、燃料タンク31よりも高い位置に配置されている。そして、第1キャニスタ1Aの蒸発燃料導入ポート11は、蒸発燃料導入通路32を介して接続される燃料タンク31のポート31aよりも高い位置に配置されている。こうした蒸発燃料導入ポート11と燃料タンク31のポート31aとの位置関係は、燃料タンク31内の液状燃料、すなわち蒸気となっていない燃料が第1キャニスタ1Aに導入されてしまうことを防止するのに有効である。
【0080】
この実施形
態によれば、第1キャニスタ1Aが車両のフロアパネル101とその下方にあるサイレンサ40との間に配置されるので、第1キャニスタ1Aの下側がサイレンサ40でカバーされて、飛び石等により第1キャニスタ1Aが損傷することを防止できる。また、第1キャニスタ1Aがサイレンサ40の上部近傍に配置されることによって全体的に暖められるため、ケース10内の第1吸着剤51の活性状態が高められ、第1吸着剤51による蒸発燃料成分の脱離能力を良好に発揮させることができる。
【0081】
上述した
参考例及び実施形態のキャニスタ1は、以下の構成及び特徴を有する。
【0082】
上記
参考例1〜4及び実施形
態のキャニスタ1は、
車両に搭載され、蒸発燃料の吸着・脱離を行うキャニスタ1であって、
内部に流体が流通可能な通路が形成され、
前記通路の一端側に、燃料タンク31からの蒸発燃料を導入する蒸発燃料導入ポート11と、エンジン30の吸気通路34とを連通させるためのパージポート12とが設けられ、
前記通路の他端側に、大気に連通する大気開放ポート13が設けられ、
前記通路上に、前記一端側から順に、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第1吸着剤51,61が収容される第1室21と、蒸発燃料の吸着・脱離が可能な第2吸着剤81が収容される第2室22とが設けられ、
車両搭載状態において、前記通路のうちの第1室21部分の第1通路は略水平となるように構成され、前記通路のうちの第2室22部分の第2通路は略鉛直かつ大気開放ポート13側が上側となるように構成されている。
【0083】
上記
参考例1〜4及び実施形
態において、
キャニスタ1は、車両搭載状態において、第2室22における第1室21側の端部が、第1室21における第2室22側の端部よりも上方に位置するように、構成されている。
【0084】
上記
参考例2及び4において、
第2吸着剤81は、前記第2通路の延在方向における大気開放ポート13側の方が反大気開放ポート13側よりも、蒸発燃料の吸着能力が高く構成されている。
【0085】
上記
参考例3及び4において、
第2室22内に、複数の第2吸着剤81が収容され、
第2室22内において、第2吸着剤81と空間部Sとが、前記通路の延在方向において交互に配置される。
【0086】
上記
参考例1〜4及び実施形
態において、
キャニスタ1は、第1室21を形成する第1ケースとしてのケース10と、第2室22を形成する第2ケースとしてのケース70とを有し、
前記第1通路と前記第2通路とは接続管19を利用して接続される。
【0087】
これによれば、第1室21を形成するケース10と、第2室22を形成するケース70とを有し、第1通路と第2通路とを接続管19を利用して接続されることにより、両ケース10,70をそれぞれに適切な位置に配置できる。したがって、車両にキャニスタ1を配置する際にレイアウトの自由度が向上する。
【0088】
上記
参考例1〜4及び実施形
態において、
第1室21を形成するケース10は、車両のフロアパネル101の下方に配置され、
第2室22を形成するケース70は、車両のリヤフェンダ45内の空間に配置される。
【0089】
これによれば、第1室21を形成するケース10を、車両のフロアパネル101の下方の空間を有効利用して配置し、第2室22を形成するケース70を、車両のリヤフェンダ45内の空間を有効利用して配置することができる。
【0090】
上記実施形
態において、
前記第1室21を形成するケース10は、車両のフロアパネル101と、該フロアパネル101の下方に取り付けられたサイレンサ40との間に配置される。
【0091】
《その他の実施形態》
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい
参考例及び実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記
参考例及び実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0092】
例えば、上記
参考例及び実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0093】
上記
参考例1〜4及び実施形
態では、第1室21は第1キャニスタ1Aに形成され、第2室22は第2キャニスタ1Bに形成されている。つまり、第1室21と第2室22とは別々のケース10とケース70に形成されている。しかし、車両搭載状態において、前記通路のうちの第1室21部分の第1通路は略水平となるように構成され、前記通路のうちの第2室22部分の第2通路は略鉛直かつ大気開放ポート13側が上側となるように構成されている限り、第1室21と第2室22とは、例えば1のケース10により一体で構成されていてもよい。
【0094】
また、上記
参考例1〜4及び実施形
態では、第1キャニスタ1Aは、燃料タンク31とほぼ同じ高さ位置に配置されている。このような場合においても、燃料タンク31内の液状燃料が第1キャニスタ1Aに導入されるのを防止する観点から、第1キャニスタ1Aの蒸発燃料導入ポート11は、上記実施形態5と同様に、蒸発燃料導入通路32を介して接続される燃料タンク31のポート31aよりも高い位置に配置されていることが好ましい。
【0095】
また、上記
参考例3及び4では、通気板64と第2吸着剤61と通気板64との組み合わせが5組設けられている。しかし、これらの組み合わせは4組以下、あるいは6組以上であってもよい。