(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素材料の重量W1と前記ケイ素系材料の重量W2との和に対する前記ケイ素系材料の重量W2の割合(=[W2/(W1+W2)]×100)は、5重量%〜20重量%である、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1−1.二次電池の構成
1−1−1.全体構成
1−1−2.正極
1−1−3.負極
1−1−4.セパレータ
1−1−5.電解質層
1−2.二次電池の動作
1−3.二次電池の製造方法
1−4.二次電池の作用および効果
2.二次電池の用途
2−1.電池パック(単電池)
2−2.電池パック(組電池)
2−3.電動車両
2−4.電力貯蔵システム
2−5.電動工具
【0020】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0021】
<1−1.二次電池の構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表している。
図2は、
図1に示したII−II線に沿った巻回電極体10の断面構成を表している。
図3は、
図2に示した正極13および電解質層16のそれぞれの断面構成を拡大している。
図4は、
図2に示した負極14および電解質層16のそれぞれの断面構成を拡大している。
【0022】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出により負極14の容量が得られる二次電池であり、いわゆるラミネートフィルム型の電池構造を有している。
【0023】
「電極反応物質」とは、電極反応に関わる物質であり、例えば、リチウム(Li)の吸蔵放出により電池容量が得られるリチウムイオン二次電池では、リチウム(またはリチウムイオン)である。以下では、本技術の二次電池がリチウムイオン二次電池である場合を例に挙げる。
【0024】
<1−1−1.全体構成>
この二次電池では、例えば、
図1に示したように、フィルム状の外装部材20の内部に、電池素子である巻回電極体10が収納されている。巻回電極体10では、例えば、セパレータ15および電解質層16を介して正極13および負極14が積層されていると共に、そのセパレータ15および電解質層16を介して積層された正極13および負極14が巻回されている。正極13には、正極リード11が取り付けられていると共に、負極14には、負極リード12が取り付けられている。巻回電極体10の最外周部は、保護テープ17により保護されている。
【0025】
正極リード11は、例えば、外装部材20の内部から外部に向かって導出されている。この正極リード11は、例えば、アルミニウム(Al)などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この導電性材料は、例えば、薄板状または網目状などである。
【0026】
負極リード12は、例えば、外装部材20の内部から外部に向かって、正極リード11と同様の方向に導出されている。この負極リード12は、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この導電性材料は、例えば、薄板状または網目状などである。
【0027】
外装部材20は、例えば、
図1に示した矢印Rの方向に折り畳むことが可能である1枚のフィルムであり、その外装部材20の一部には、巻回電極体10を収納するための窪みが設けられている。この外装部材20は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、融着層同士が巻回電極体10を介して対向するように外装部材20が折り畳まれると共に、その融着層の外周縁部同士が融着される。ただし、外装部材20は、接着剤などを介して貼り合わされた2枚のラミネートフィルムでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのフィルムのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。金属層は、例えば、アルミニウム箔などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。表面保護層は、例えば、ナイロンおよびポリエチレンテレフタレートなどのフィルムのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0028】
中でも、外装部材20は、ポリエチレンフィルムとアルミニウム箔とナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。ただし、外装部材20は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。
【0029】
外装部材20と正極リード11との間には、例えば、外気の侵入を防止するために密着フィルム21が挿入されている。また、外装部材20と負極リード12との間には、例えば、密着フィルム21が挿入されている。この密着フィルム21は、正極リード11および負極リード12の双方に対して密着性を有する材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この密着性を有する材料は、例えば、ポリオレフィン樹脂などであり、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび変性ポリプロピレンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0030】
<1−1−2.正極>
正極13は、例えば、
図2に示したように、正極集電体13Aと、その正極集電体13Aの上に設けられた正極活物質層13Bとを含んでいる。
【0031】
なお、正極活物質層13Bは、正極集電体13Aの片面だけに設けられていてもよいし、正極集電体13Aの両面に設けられていてもよい。
図2では、例えば、正極活物質層13Bが正極集電体13Aの両面に設けられている場合を示している。
【0032】
[正極集電体]
正極集電体13Aは、例えば、導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。導電性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどの金属材料であり、その金属材料のうちの2種類以上を含む合金でもよい。なお、正極集電体13Aは、単層でもよいし、多層でもよい。
【0033】
[正極活物質層]
正極活物質層13Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵放出することが可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層13Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0034】
正極材料は、リチウム含有化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。このリチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、中でも、リチウム含有複合酸化物およびリチウム含有リン酸化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0035】
「リチウム含有複合酸化物」とは、リチウムとリチウム以外の元素(以下、「他元素」という。)のうちのいずれか1種類または2種類以上とを構成元素として含む酸化物である。このリチウム含有酸化物は、例えば、層状岩塩型およびスピネル型などのうちのいずれか1種類または2種類以上の結晶構造を有している。
【0036】
「リチウム含有リン酸化合物」とは、リチウムと他元素のうちのいずれか1種類または2種類以上とを構成元素として含むリン酸化合物である。このリチウム含有リン酸化合物は、例えば、オリビン型などのうちのいずれか1種類または2種類以上の結晶構造を有している。
【0037】
他元素の種類は、任意の元素(リチウムを除く。)のうちのいずれか1種類または2種類以上であれば、特に限定されない。中でも、他元素は、長周期型周期表における2族〜15族に属する元素のうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より具体的には、他元素は、ニッケル、コバルト、マンガンおよび鉄などのうちのいずれか1種類または2種類以上の金属元素であることがより好ましい。高い電圧が得られるからである。
【0038】
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物は、例えば、下記の式(1)〜式(3)のそれぞれで表される化合物などである。
【0039】
Li
a Mn
(1-b-c) Ni
b M1
c O
(2-d) F
e ・・・(1)
(M1は、コバルト、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、スズ、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種である。a〜eは、0.8≦a≦1.2、0<b<0.5、0≦c≦0.5、(b+c)<1、−0.1≦d≦0.2および0≦e≦0.1を満たす。ただし、リチウムの組成は充放電状態に応じて異なり、aは完全放電状態の値である。)
【0040】
Li
a Ni
(1-b) M2
b O
(2-c) F
d ・・・(2)
(M2は、コバルト、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、スズ、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種である。a〜dは、0.8≦a≦1.2、0.005≦b≦0.5、−0.1≦c≦0.2および0≦d≦0.1を満たす。ただし、リチウムの組成は充放電状態に応じて異なり、aは完全放電状態の値である。)
【0041】
Li
a Co
(1-b) M3
b O
(2-c) F
d ・・・(3)
(M3は、ニッケル、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、スズ、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種である。a〜dは、0.8≦a≦1.2、0≦b<0.5、−0.1≦c≦0.2および0≦d≦0.1を満たす。ただし、リチウムの組成は充放電状態に応じて異なり、aは完全放電状態の値である。)
【0042】
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物は、例えば、LiNiO
2 、LiCoO
2 、LiCo
0.98Al
0.01Mg
0.01O
2 、LiNi
0.5 Co
0.2 Mn
0.3 O
2 、LiNi
0.8 Co
0.15Al
0.05O
2 、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2 、Li
1.2 Mn
0.52Co
0.175 Ni
0.1 O
2 およびLi
1.15(Mn
0.65Ni
0.22Co
0.13)O
2 などである。
【0043】
なお、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物がニッケル、コバルト、マンガンおよびアルミニウムを構成元素として含む場合には、そのニッケルの原子比率は、50原子%以上であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0044】
スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物は、例えば、下記の式(4)で表される化合物などである。
【0045】
Li
a Mn
(2-b) M4
b O
c F
d ・・・(4)
(M4は、コバルト、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、銅、亜鉛、モリブデン、スズ、カルシウム、ストロンチウムおよびタングステンのうちの少なくとも1種である。a〜dは、0.9≦a≦1.1、0≦b≦0.6、3.7≦c≦4.1および0≦d≦0.1を満たす。ただし、リチウムの組成は充放電状態に応じて異なり、aは完全放電状態の値である。)
【0046】
スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物は、例えば、LiMn
2 O
4 などである。
【0047】
オリビン型の結晶構造を有するリチウム含有リン酸化合物は、例えば、下記の式(5)で表される化合物などである。
【0048】
Li
a M5PO
4 ・・・(5)
(M5は、コバルト、マンガン、鉄、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ホウ素、チタン、バナジウム、ニオブ、銅、亜鉛、モリブデン、カルシウム、ストロンチウム、タングステンおよびジルコニウムのうちの少なくとも1種である。aは、0.9≦a≦1.1を満たす。ただし、リチウムの組成は充放電状態に応じて異なり、aは完全放電状態の値である。)
【0049】
オリビン型の結晶構造を有するリチウム含有リン酸化合物は、例えば、LiFePO
4 、LiMnPO
4 、LiFe
0.5 Mn
0.5 PO
4 およびLiFe
0.3 Mn
0.7 PO
4 などである。
【0050】
なお、リチウム含有複合酸化物は、下記の式(6)で表される化合物などでもよい。
【0051】
(Li
2 MnO
3 )
x (LiMnO
2 )
1-x ・・・(6)
(xは、0≦x≦1を満たす。)
【0052】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物および導電性高分子などでもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムおよび二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンおよび硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンおよびポリチオフェンなどである。
【0053】
ただし、正極材料は、上記した材料に限られず、他の材料でもよい。
【0054】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリルおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0055】
正極導電剤は、例えば、炭素材料などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケチェンブラックなどである。なお、正極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料および導電性高分子などでもよい。
【0056】
<1−1−3.負極>
負極14は、例えば、
図2に示したように、負極集電体14Aと、その負極集電体14Aの上に設けられた負極活物質層14Bとを含んでいる。
【0057】
なお、負極活物質層14Bは、負極集電体14Aの片面だけに設けられていてもよいし、負極集電体14Aの両面に設けられていてもよい。
図2では、例えば、負極活物質層14Bが負極集電体14Aの両面に設けられている場合を示している。
【0058】
[負極集電体]
負極集電体14Aは、例えば、導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。導電性材料の種類は、特に限定されないが、例えば、銅、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどの金属材料であり、その金属材料のうちの2種類以上を含む合金でもよい。なお、負極集電体14Aは、単層でもよいし、多層でもよい。
【0059】
負極集電体14Aの表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体14Aに対する負極活物質層14Bの密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層14Aと対向する領域において、負極集電体14Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法は、例えば、電解処理を用いて微粒子を形成する方法などである。電解処理では、電解槽中において電解法により負極集電体14Aの表面に微粒子が形成されるため、その負極集電体14Aの表面に凹凸が設けられる。電解法により作製された銅箔は、一般的に、電解銅箔と呼ばれている。
【0060】
[負極活物質層]
負極活物質層14Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵放出することが可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層14Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。負極結着剤および負極導電剤に関する詳細は、例えば、正極結着剤および正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0061】
充電途中において意図せずにリチウム金属が負極14に析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は、正極13の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極13の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。
【0062】
負極材料は、炭素材料およびケイ素系材料である。すなわち、負極活物質層14Bは、負極活物質として、2種類の負極材料(炭素材料およびケイ素系材料)を一緒に含んでいる。この「ケイ素系材料」とは、ケイ素を構成元素として含む材料の総称であり、そのケイ素系材料には、ケイ素の単体も含まれる。なお、炭素材料の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。同様に、ケイ素系材料の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0063】
負極材料として炭素材料を用いるのは、リチウムの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が安定して得られるからである。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するため、負極活物質層14Bの導電性が向上するからである。
【0064】
負極材料としてケイ素系材料を用いるのは、リチウムを吸蔵放出する能力が優れているため、著しく高いエネルギー密度が得られるからである。
【0065】
負極材料として炭素材料とケイ素系材料とを併用するのは、充放電時における負極活物質層14Bの膨張収縮を抑制しながら、高い理論容量(言い換えれば電池容量)が得られるからである。詳細には、ケイ素系材料は、理論容量が高いという利点を有する反面、充放電時において激しく膨張収縮しやすいという懸念点を有する。一方、炭素材料は、理論容量が低いという懸念点を有する反面、充放電時において膨張収縮しにくいという利点を有する。よって、炭素材料およびケイ素系材料を併用することにより、充放電時における負極活物質層14Bの膨張収縮が抑制されると共に、高い理論容量が得られる。
【0066】
炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。ただし、難黒鉛化性炭素に関する(002)面の面間隔は、0.37nm以上であることが好ましいと共に、黒鉛に関する(002)面の面間隔は、0.34nm以下であることが好ましい。より具体的には、炭素材料は、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭およびカーボンブラック類などである。このコークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂およびフラン樹脂などの高分子化合物が適当な温度で焼成(炭素化)されたものである。この他、炭素材料は、約1000℃以下の温度で熱処理された低結晶性炭素でもよいし、非晶質炭素でもよい。
【0067】
なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状および鱗片状のうちのいずれでもよい。中でも、炭素材料は、互いに形状が異なる2種類以上の炭素材料を含んでいることが好ましい。炭素材料の充填性が向上するため、より高いエネルギー密度が得られるからである。
【0068】
ケイ素系材料の種類は、ケイ素を構成元素として含む材料のうちのいずれか1種類または2種類以上であれば、特に限定されない。すなわち、ケイ素系材料は、ケイ素の単体でもよいし、ケイ素の化合物でもよいし、ケイ素の合金でもよいし、それらの2種類以上でもよい。また、ケイ素系材料は、ケイ素の単体、ケイ素の化合物およびケイ素の合金のうちの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に含む材料でもよい。このケイ素系材料の組織は、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物およびそれらの2種類以上の共存物などである。
【0069】
ただし、上記した「単体」とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)を意味しており、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。この単体に関する定義は、以降においても同様である。
【0070】
ケイ素の合金は、1種類または2種類以上の金属元素を構成元素として含む材料だけでなく、1種類または2種類以上の半金属元素を構成元素として含む材料でもよい。また、ケイ素の合金は、1種類または2種類以上の非金属元素を構成元素として含んでいてもよい。
【0071】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金に関して説明した一連の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0072】
ケイ素の合金およびケイ素の化合物の具体例は、SiB
4 、SiB
6 、Mg
2 Si、Ni
2 Si、TiSi
2 、MoSi
2 、CoSi
2 、NiSi
2 、CaSi
2 、CrSi
2 、Cu
5 Si、FeSi
2 、MnSi
2 、NbSi
2 、TaSi
2 、VSi
2 、WSi
2 、ZnSi
2 、SiC、Si
3 N
4 、SiTiNi、SiTiAl、Si
2 N
2 O、SiO
x (0<x≦2)、およびLiSiOなどである。
【0073】
中でも、ケイ素の化合物は、酸化ケイ素(SiO
x )であることが好ましい。酸化ケイ素は、リチウムの吸蔵放出に関して優れた可逆性を有しているからである。これにより、二次電池では、優れたサイクル特性などが得られる。
【0074】
このxは、上記した範囲内(0<x≦2)であれば特に限定されないが、中でも、0.5≦x≦1.5であることが好ましい。高い電池容量が得られると共に、リチウムの吸蔵放出に関する可逆性が向上するからである。詳細には、xが0.5よりも小さい場合には、電池容量が増加する反面、充放電時における酸化ケイ素の膨張量が大きくなるため、リチウムの吸蔵放出に関する可逆性が酸化ケイ素の微粉化に起因して低下する可能性がある。一方、xが1.5よりも大きい場合には、リチウムの吸蔵放出に関する可逆性が向上する反面、電池容量が減少する可能性がある。
【0075】
ケイ素の化合物(SiO
x )の平均粒径(メジアン径D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm〜10μmである。ケイ素の化合物(SiO
x )の比表面積は、特に限定されないが、例えば、1m
2 /g〜10m
2 /gである。
【0076】
炭素材料とケイ素系材料との混合比は、特に限定されない。中でも、炭素材料の重量W1とケイ素系材料の重量W2との和に対するケイ素系材料の重量W2の割合は、2重量%〜30重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。炭素材料とケイ素系材料との混合比が適正化されるため、充放電時における負極活物質層14Bの膨張収縮をより抑制しながら、より高い理論容量が得られるからである。この割合(重量%)は、[W2/(W1+W2)]×100により算出される。
【0077】
なお、負極材料は、上記した炭素材料とケイ素系材料との組み合わせの他、他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上でもよい。すなわち、負極活物質層14Bは、負極活物質として、2種類の負極材料(炭素材料およびケイ素系材料)と共に、他の負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0078】
他の負極材料は、例えば、金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料(金属系材料)である。高いエネルギー密度が得られるからである。ただし、上記したケイ素系材料は、ここで説明する金属系材料から除かれる。
【0079】
金属系材料は、単体でもよいし、化合物でもよいし、合金でもよいし、それらの2種類以上でもよい。また、金属系材料は、単体、化合物および合金のうちのいずれか1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に含む材料でもよい。ただし、合金は、2種類以上の金属元素を構成元素として含む材料だけでなく、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを構成元素として含む材料も含む。また、合金は、1種類または2種類以上の非金属元素を構成元素として含んでいてもよい。この金属系材料の組織は、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物およびそれらの2種類以上の共存物などである。
【0080】
上記した金属元素および半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上である。具体的には、例えば、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)などである。
【0081】
中でも、スズが好ましい。リチウムを吸蔵放出する能力が優れているため、著しく高いエネルギー密度が得られるからである。
【0082】
スズを構成元素として含む材料(スズ系材料)は、スズの単体でもよいし、スズの化合物でもよいし、スズの合金でもよいし、それらの2種類以上でもよい。また、スズ系材料は、スズの単体、スズの化合物およびスズの合金のうちの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に含む材料でもよい。
【0083】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、炭素および酸素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金に関して説明した一連の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0084】
スズの合金およびスズの化合物の具体例は、SnO
w (0<w≦2)、SnSiO
3 、LiSnOおよびMg
2 Snなどである。
【0085】
特に、スズ系材料は、例えば、第1構成元素であるスズと共に第2構成元素および第3構成元素を含む材料(Sn含有材料)であることが好ましい。第2構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セシウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル、タングステン、ビスマスおよびケイ素などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。第3構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。Sn含有材料が第2構成元素および第3構成元素を含んでいることにより、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0086】
中でも、Sn含有材料は、スズとコバルトと炭素とを構成元素として含む材料(SnCoC含有材料)であることが好ましい。このSnCoC含有材料では、例えば、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0087】
SnCoC含有材料は、スズとコバルトと炭素とを含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な相(反応相)であるため、その反応相の存在により優れた特性が得られる。もちろん、反応相は、低結晶性の部分と、非晶質の部分とを含んでいてもよい。この反応相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅(回折角2θ)は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合において、1°以上であることが好ましい。SnCoC含有材料においてリチウムがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液に対するSnCoC含有材料の反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部が含まれている相を含んでいる場合もある。
【0088】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応しているか否かに関しては、例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより、容易に判断できる。具体的には、例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応している。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素の存在に起因して低結晶化または非晶質化していると考えられる。
【0089】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素のうちの少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態に関しては、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて確認可能である。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。炭素のうちの少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、金原子の4f軌道(Au4f)のピークは、84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面に表面汚染炭素が存在しているため、その表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとして、そのピークをエネルギー基準とする。XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られる。このため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することで、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0090】
このSnCoC含有材料は、構成元素がスズ、コバルトおよび炭素だけである材料(SnCoC)に限られない。このSnCoC含有材料は、例えば、スズ、コバルトおよび炭素に加えて、さらにケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムおよびビスマスなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0091】
SnCoC含有材料の他、スズとコバルトと鉄と炭素とを構成元素として含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意である。一例を挙げると、鉄の含有量を少なめに設定する場合は、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%、鉄の含有量が0.3質量%〜5.9質量%、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が30質量%〜70質量%である。また、鉄の含有量を多めに設定する場合は、炭素の含有量が11.9質量%〜29.7質量%、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%〜48.5質量%、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。なお、SnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料の物性と同様である。
【0092】
この他、他の負極材料は、例えば、金属酸化物および高分子化合物などである。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムおよび酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンおよびポリピロールなどである。
【0093】
なお、負極活物質層14Bは、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上の方法により形成されている。
【0094】
塗布法とは、例えば、粒子(粉末)状の負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、その混合物を有機溶剤などに分散させてから負極集電体14Aに塗布する方法である。
【0095】
気相法は、例えば、物理堆積法および化学堆積法などである。より具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD)法およびプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法および無電解鍍金法などである。溶射法とは、溶融状態または半溶融状態の負極活物質を負極集電体14Aの表面に噴き付ける方法である。
【0096】
焼成法とは、例えば、塗布法を用いて、有機溶剤などに分散された混合物を負極集電体14Aに塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で混合物を熱処理する方法である。この焼成法は、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法およびホットプレス焼成法などである。
【0097】
この二次電池では、上記したように、充電途中において負極14にリチウムが意図せずに析出することを防止するために、リチウムを吸蔵放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極の電気化学当量よりも大きい。また、完全充電時の開回路電圧(すなわち電池電圧)が4.25V以上であると、4.20Vである場合と比較して、同じ正極活物質を用いても単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなるため、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されている。これにより、高いエネルギー密度が得られる。
【0098】
<1−1−4.セパレータ>
セパレータ15は、正極13と負極14との間に配置されており、正極13および負極14は、セパレータ15を介して隔離されている。このセパレータ15は、正極13と負極14との接触に起因する短絡の発生を防止しながら、リチウムイオンを通過させる。
【0099】
また、セパレータ15は、例えば、合成樹脂およびセラミックなどの多孔質膜のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、2種類以上の多孔質膜の積層膜でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0100】
なお、セパレータ15は、例えば、上記した多孔質膜(基材層)と、その基材層の上に設けられた高分子化合物層とを含んでいてもよい。正極13および負極14のそれぞれに対するセパレータ15の密着性が向上するため、巻回電極体10が歪みにくくなるからである。これにより、電解液の分解反応が抑制されると共に、基材層に含浸された電解液の漏液も抑制されるため、充放電を繰り返しても、電気抵抗が上昇しにくくなると共に、二次電池が膨れにくくなる。
【0101】
高分子化合物層は、基材層の片面だけに設けられていてもよいし、基材層の両面に設けられていてもよい。この高分子化合物層は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。高分子化合物層を形成する場合には、例えば、有機溶剤などにより高分子化合物が溶解された溶液を基材層に塗布したのち、その基材層を乾燥させる。なお、溶液中に基材層を浸漬させたのち、その基材層を乾燥させてもよい。
【0102】
<1−1−5.電解質層>
電解質層16は、電解液と、高分子化合物とを含んでおり、その電解質層16中では、電解液が高分子化合物により保持されている。すなわち、ここで説明する電解質層16は、いわゆるゲル状の電解質である。電解質層16を用いているのは、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、電解液の漏液が防止されるからである。
【0103】
ここでは、例えば、正極13(正極活物質層13B)の上に電解質層16(正極側電解質層161)が設けられていると共に、負極14(負極活物質層14B)の上に電解質層16(負極側電解質層162)が設けられている。これに伴い、例えば、正極13とセパレータ15との間に正極側電解質層161が配置されていると共に、負極14とセパレータ15との間に負極側電解質層162が配置されている。
【0104】
なお、正極集電体13Aの両面に正極活物質層13Bが設けられている場合には、2つの正極活物質層13Bのそれぞれの上に正極側電解質層161が設けられていてもよいし、2つの正極活物質層13Bのうちのいずれか一方の上だけに正極側電解質層161が設けられていてもよい。
【0105】
また、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bが設けられている場合には、2つの負極活物質層14Bのそれぞれの上に負極側電解質層162が設けられていてもよいし、2つの負極活物質層14Bのうちのいずれか一方の上だけに負極側電解質層162が設けられていてもよい。
【0106】
ただし、正極13の上に正極側電解質層161が設けられているのに対して、負極14の上に負極側電解質層162が設けられていなくてもよい。または、負極14の上に負極側電解質層162が設けられているのに対して、正極13の上に正極側電解質層161が設けられていなくてもよい。もちろん、正極13の上に正極側電解質層161が設けられていると共に、負極14の上に負極側電解質層162が設けられていてもよい。
【0107】
図2〜
図4では、例えば、正極13(2つの正極活物質層13Bのそれぞれ)の上に正極側電解質層161が設けられていると共に、負極14(2つの負極活物質層14Bのそれぞれ)の上に負極側電解質層162が設けられている場合を示している。
【0108】
以下では、必要に応じて、「正極側電解質層161」および「負極側電解質層162」というように2種類の呼称を用いると共に、正極側電解質層161および負極側電解質層162をまとめて「電解質層16」と総称する。
【0109】
[高分子化合物]
高分子化合物は、単独重合体および共重合体などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0110】
単独重合体は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどである。
【0111】
中でも、単独重合体は、ポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0112】
共重合体は、2種類以上の重合性化合物を成分として含んでいる。この「重合性化合物」とは、不飽和結合(炭素間二重結合)を含む化合物の総称である。
【0113】
「共重合体が2種類以上の重合性化合物を成分として含んでいる」とは、2種類以上の原料(いわゆるモノマー)を用いて、その2種類以上の原料の重合反応により共重合体が形成されていることを意味している。
【0114】
詳細には、重合性化合物は、共重合体を形成するための原料(モノマー)である。この重合性化合物は、不飽和結合(炭素間二重結合)を含んでいるため、共重合体の形成工程では、その重合性化合物に含まれている不飽和結合(炭素間二重結合)を利用して、その重合性化合物が重合反応(高分子化)する。
【0115】
重合性化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、マレイン酸モノメチル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンなどである。
【0116】
共重合体は、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとを成分として含む共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとマレイン酸モノメチルとを成分として含む共重合体などである。
【0117】
中でも、共重合体は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとを成分として含む共重合体であることが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0118】
なお、ゲル状の電解質である電解質層16において、電解液に含まれる「溶媒」とは、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。このため、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0119】
[電解液]
電解液は、溶媒および電解質塩を含んでいる。ただし、電解液は、さらに、添加剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0120】
溶媒は、有機溶媒などの非水溶媒のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。非水溶媒を含む電解液は、いわゆる非水電解液である。
【0121】
非水溶媒は、例えば、炭酸エステル(環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステル)、ラクトン、鎖状カルボン酸エステルおよびニトリルなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。環状炭酸エステルは、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ブチレンなどであり、鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸メチルプロピルなどである。ラクトンは、例えば、γ−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンなどである。カルボン酸エステルは、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。ニトリルは、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリルおよび3−メトキシプロピオニトリルなどである。
【0122】
この他、非水溶媒は、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルおよびジメチルスルホキシドなどでもよい。同様の利点が得られるからである。
【0123】
中でも、炭酸エステルは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。この場合には、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルおよび炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0124】
特に、非水溶媒は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、酸無水物、ジニトリル化合物(ジニトリル)、ジイソシアネート化合物およびリン酸エステルなどのうちのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。
【0125】
不飽和環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和結合(炭素間二重結合または炭素間三重結合)を含む環状炭酸エステルである。溶媒が不飽和環状炭酸エステルを含んでいると、主に、充放電時において不飽和環状炭酸エステルに由来する被膜が負極14の表面に形成されるため、その負極14の表面において電解液の分解反応が抑制される。
【0126】
この不飽和環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)および炭酸メチレンエチレン(4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン)などである。溶媒中における不飽和環状炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0127】
ハロゲン化炭酸エステルとは、1または2以上のハロゲンを構成元素として含む環状または鎖状の炭酸エステルである。溶媒がハロゲン化環状炭酸エステルを含んでいると、主に、充放電時においてハロゲン化環状炭酸エステルに由来する被膜が負極14の表面に形成されるため、その負極14の表面において電解液の分解反応が抑制される。
【0128】
環状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンおよび4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。鎖状のハロゲン化炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)および炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。溶媒中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0129】
スルホン酸エステルは、例えば、1,3−プロパンスルトンおよび1,3−プロペンスルトンなどである。溶媒中におけるスルホン酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0130】
酸無水物は、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物およびカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸および無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸および無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。溶媒中における酸無水物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0131】
ジニトリル化合物は、例えば、NC−C
m H
2m−CN(mは、1以上の整数である。)で表される化合物である。このジニトリル化合物は、例えば、スクシノニトリル(NC−C
2 H
4 −CN)、グルタロニトリル(NC−C
3 H
6 −CN)、アジポニトリル(NC−C
4 H
8 −CN)およびフタロニトリル(NC−C
6 H
4 −CN)などである。溶媒中におけるジニトリル化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0132】
ジイソシアネート化合物は、例えば、OCN−C
n H
2n−NCO(nは、1以上の整数である。)で表される化合物である。このジイソシアネート化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(OCN−C
6 H
12−NCO)などである。溶媒中におけるジイソシアネート化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0133】
リン酸エステルは、例えば、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。溶媒中におけるリン酸エステルの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0134】
中でも、非水溶媒は、不飽和環状炭酸エステルおよびハロゲン化炭酸エステルのうちの一方または双方であることが好ましい。上記したように、負極14の表面に形成される被膜を利用して、その負極14の表面における電解液の分解反応が効果的に抑制されるからである。
【0135】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、電解質塩は、例えば、リチウム塩以外の塩を含んでいてもよい。このリチウム以外の塩は、例えば、リチウム以外の軽金属の塩などである。
【0136】
リチウム塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4 )、過塩素酸リチウム(LiClO
4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C
6 H
5 )
4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH
3 SO
3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3 SO
3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li
2 SiF
6 )、塩化リチウム(LiCl)および臭化リチウム(LiBr)などである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0137】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちのいずれか1種類または2種類以上が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0138】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、中でも、溶媒に対して0.3mol/kg〜3.0mol/kgであることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0139】
[他の材料]
なお、電解質層16は、さらに、他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0140】
他の材料は、例えば、複数の無機粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上である。この複数の無機粒子は、主に、二次電池の安全性を向上させる役割を果たす。詳細には、電解質層16が複数の無機粒子を含んでいると、二次電池の充放電時においてセパレータ15が酸化されにくくなる。これにより、正極13と負極14とが短絡しにくくなるため、二次電池の安全性が向上する。
【0141】
複数の無機粒子の種類は、特に限定されない。具体的には、複数の無機粒子は、例えば、セラミック(絶縁性材料)などの無機材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このセラミックは、例えば、酸化アルミニウム(Al
2 O
3 )、酸化ジルコニウム(ZrO
2 )、酸化チタン(TiO
2 )および酸化マグネシウム(MgO
2 )などの金属酸化物である。セパレータ15の酸化が十分に抑制されるため、短絡の発生が十分に抑制されるからである。
【0142】
複数の無機粒子の平均粒径(メジアン径D50)および比表面積(BET比表面積)などは、特に限定されない。具体的には、平均粒径は、例えば、0.1μm〜2.5μmである。比表面積は、例えば、0.5m
2 /g〜11m
2 /gである。
【0143】
電解質層16中における複数の無機粒子の含有量は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0144】
[電解質層の詳細な構成]
図3に示したように、2つの正極側電解質層161のそれぞれには、その正極側電解質層161の厚さ方向に延在する複数の貫通孔16Kが設けられている。ただし、2つの正極側電解質層161のうちのいずれか一方だけに、貫通孔16Kが設けられていてもよい。また、1つの正極側電解質層161に設けられている貫通孔16Kの数は、1つだけでもよい。
【0145】
また、
図4に示したように、2つの負極側電解質層162のそれぞれには、その負極側電解質層162の厚さ方向に延在する複数の貫通孔16Kが設けられている。ただし、2つの負極側電解質層162のうちのいずれか一方だけに、貫通孔16Kが設けられていてもよい。また、1つの負極側電解質層162に設けられている貫通孔16Kの数は、1つだけでもよい。
【0146】
貫通孔16Kは、上記したように、電解質層16(正極側電解質層161および負極側電解質層162)の厚さ方向に延在すると共に、その電解質層16を貫通する孔である。この「厚さ方向」とは、
図3および
図4のそれぞれにおける上下方向である。
【0147】
より具体的には、貫通孔16Kは、電解質層16が有する2つの面(互いに対向する一対の面)のうち、一方の面から他方の面まで延在する一筋の経路である。このため、貫通孔16Kは、途中で1または2以上に分岐していないと共に、他の1または2以上の貫通孔16Kと連結されていない。すなわち、1つの貫通孔16Kに着目した場合、その貫通孔16Kを構成する開口(出口)の数は、一方の面側において1つだけであると共に、他方の面側においても1つだけである。
【0148】
負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられているのは、充放電時においてケイ素系材料の膨張に起因する応力が貫通孔16Kにより緩和されるため、電解液の分解反応が発生しにくくなるからである。また、充放電時において不要な副反応の発生に起因する影響が貫通孔16Kの内部に留められるため、電解液の分解反応が発生しても二次電池が膨れにくくなるからである。
【0149】
詳細には、充放電時には、ケイ素系材料が膨張するため、そのケイ素系材料が割れやすくなる。ケイ素系材料が割れると、高反応性の新生面が形成されるため、その新生面において電解液の分解反応が発生しやすくなる。しかしながら、負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられていると、その貫通孔16Kは、上記したケイ素系材料の膨張に起因して発生する応力を緩和させるスペースとして機能するため、ケイ素系材料が割れにくくなる。これにより、高反応性の新生面が形成されにくくなるため、電解液の分解反応が発生しにくくなる。
【0150】
また、充放電時には、負極活物質層14B中に含まれている負極活物質が電解液と反応するため、その電解液の分解反応が発生しやすくなる。この電解液の分解反応が発生する傾向は、特に、負極活物質が高反応性のケイ素系材料を含んでいると、顕著になる。しかしながら、負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられていると、負極活物質が電解液と反応しても、上記した不要な副反応の発生に起因する影響が貫通孔16Kの内部に留められる。これにより、不要な副反応の発生に起因する影響が貫通孔16K以外に及びにくくなるため、二次電池が膨れにくくなる。
【0151】
なお、正極側電解質層161に貫通孔16Kが設けられている理由は、上記した負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられている理由と同様である。すなわち、電解液の分解反応が発生しにくくなると共に、その電解液の分解反応が発生しても二次電池が膨れにくくなる。
【0152】
中でも、二次電池が膨れることを効果的に抑制するためには、以下の構成が好ましい。
【0153】
第1に、2つの負極側電解質層162のうち、いずれか一方の負極側電解質層162だけに貫通孔16Kが設けられているよりも、双方の負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられている方が好ましい。負極活物質層14Bがより膨れにくくなるからである。
【0154】
第2に、2つの正極側電解質層161のうち、いずれか一方の正極側電解質層161だけに貫通孔16Kが設けられているよりも、双方の正極側電解質層161に貫通孔16Kが設けられている方が好ましい。正極活物質層13Bがより膨れにくくなるからである。
【0155】
第3に、正極側電解質層161および負極側電解質層162のうち、一方だけに貫通孔16Kが設けられているよりも、双方に貫通孔16Kが設けられている方が好ましい。正極活物質層13Bがより膨れにくくなると共に、負極活物質層14Bもより膨れにくくなるからである。
【0156】
ここで、貫通孔16Kの構成条件に関する詳細は、例えば、以下の通りである。以下では、1つの負極側電解質層162に設けられている貫通孔16Kを例に挙げながら、その貫通孔16Kの構成条件を説明する。ただし、ここで説明する貫通孔16Kの構成条件は、1つの正極側電解質層161に設けられている貫通孔16Kに関しても同様に適用される。
【0157】
第1に、負極側電解質層162に設けられている貫通孔16Kの延在状況は、上記したように、厚さ方向に延在していれば、特に限定されない。中でも、貫通孔16Kは、厚さ方向において直線状に延在していることが好ましい。二次電池がより膨れにくくなると共に、リチウムの吸蔵放出が阻害されにくくなるからである。
【0158】
詳細には、貫通孔16Kが直線状に延在しておらず、すなわち貫通孔16Kが途中で1回または2回以上曲がりながら延在している場合には、不要な副反応時に発生したガスが貫通孔16Kを経由して負極側電解質層162の外部に放出されにくくなる。これにより、負極側電解質層162の内部にガスが滞留しやすくなるため、二次電池が膨れやすくなると共に、電解液を媒介とするリチウムの吸蔵放出がガスの存在に起因して阻害される可能性がある。
【0159】
これに対して、貫通孔16Kが直線状に延在しており、すなわち貫通孔16Kが途中で曲がらずに延在している場合には、不要な副反応時に発生したガスが貫通孔16Kを経由して負極側電解質層162の外部に放出されやすくなる。これにより、負極側電解質層162の内部にガスが滞留しにくくなるため、二次電池が膨れにくくなると共に、電解液を媒介とするリチウムの吸蔵放出が阻害されにくくなる。
【0160】
第2に、負極側電解質層162に貫通孔16Kが設けられている位置は、特に限定されない。中でも、貫通孔16Kと重なる負極14(負極活物質層14B)の一部には、ケイ素系材料が存在していることが好ましい。高反応性のケイ素系材料の表面において不要な副反応が発生しても、その不要な副反応時に発生したガスが貫通孔16Kを経由して負極側電解質層162の外部に放出されやすくなるため、二次電池がより膨れにくくなるからである。
【0161】
なお、「貫通孔16Kと重なる負極活物質層14Bの一部」とは、その負極活物質層14Bのうち、貫通孔16Kと重なる部分を意味している。逆に言えば、負極活物質層14B中に炭素材料およびケイ素系材料が含まれている場合において、そのケイ素系材料と重なる位置に貫通孔16Kが存在していることが好ましい。
【0162】
第3に、負極側電解質層162に設けられている貫通孔16Kの数は、上記したように、1または2以上であれば、特に限定されない。中でも、貫通孔16Kの数は、2以上であることが好ましく、二次電池の正常な充放電に影響を与えない範囲内においてできるだけ多いことがより好ましい。負極活物質層14Bがより膨張しにくくなるからである。
【0163】
貫通孔16Kの数を調べるためには、例えば、光学顕微鏡などの顕微鏡のうちのいずれか1種類または2種類以上を用いて、負極側電解質層162の表面を観察する。この負極側電解質層162の表面観察により得られる顕微鏡写真中において、貫通孔16Kは円形領域として観察されるため、貫通孔16Kの数(総数)を特定するためには、その円形領域の数を数えればよい。
【0164】
この「円形領域」とは、顕微鏡写真中に観察される略円形の領域である。この円形領域の外縁により画定される形状(輪郭の形状)は、略円形であればよいため、真円に限られない。すなわち、輪郭の形状は、その輪郭が曲線を含んでいる形状であれば、特に限定されないが、例えば、楕円でもよいし、それ以外の形状でもよい。顕微鏡写真中では、円形領域の内部の色は淡色(相対的に白色に近い色)であるのに対して、その円形領域以外の領域の色は濃色(相対的に黒色に近い色)であるため、その濃淡(コントラスト)を利用して、円形領域の有無を目視で確認できる。ただし、円形領域としては、内部の色が全体に渡って淡色である領域だけでなく、内部のうちの中心部を除いた部分の色が淡色であることに起因してリング状(またはクレータ状)に視認される領域もある。なお、上記した濃淡の位置関係(円形領域の内部色が淡色であると共に外部色が濃色)は、逆でもよい。
【0165】
第4に、負極側電解質層162に設けられている貫通孔16Kの単位面積当たりの数は、特に限定されない。中でも、負極側電解質層162の単位面積当たりにおける貫通孔16Kの数は、1個/cm
2 〜100個/cm
2 であることが好ましい。貫通孔16Kの数が適正化されるため、電池容量などを確保しながら、負極活物質層14Bがより膨張しにくくなるからである。
【0166】
貫通孔16Kの単位面積当たりの数を調べるためには、例えば、上記した貫通孔16Kの数を調べた場合と同様の手順により、任意の観察エリア内において貫通孔16K(円形領域)の数(総数)を特定したのち、その貫通孔16Kの総数(個)を観察エリアの面積(cm
2 )で割ればよい。すなわち、貫通孔16Kの単位面積当たりの数(個/cm
2 )=貫通孔16Kの総数(個)/観察エリアの面積(cm
2 )を算出する。観察エリアは、特に限定されないが、例えば、46cm×4cmで規定される任意の範囲である。
【0167】
第5に、上記したように、負極側電解質層162の表面観察により貫通孔16Kが円形領域として観察される場合において、その貫通孔16Kの平均直径は、特に限定されない。中でも、貫通孔16Kの平均直径は、0.02mm〜2mmであることが好ましい。貫通孔16Kの平均直径が適正化されるため、電池容量などを確保しながら、負極活物質層14Bがより膨張しにくくなるからである。なお、円形領域の形状楕円形などである場合の直径とは、その円形領域の最大径を意味する。
【0168】
貫通孔16Kの平均直径を調べるためには、例えば、上記した貫通孔16Kの数を調べた場合と同様の手順により、任意の観察エリア内において負極側電解質層162の表面を観察しながら、各貫通孔16K(円形領域)の直径(mm)を測定したのち、その直径の平均値を算出する。観察エリアに関する条件は、例えば、例えば、貫通孔16Kの単位面積当たりの数を調べた場合と同様である。
【0169】
<1−2.二次電池の動作>
この二次電池は、例えば、以下のように動作する。
【0170】
充電時には、正極13からリチウムイオンが放出されると、そのリチウムイオンが電解質層16を介して負極14に吸蔵される。一方、放電時には、負極14からリチウムイオンが放出されると、そのリチウムイオンが電解質層16を介して正極13に吸蔵される。
【0171】
<1−3.二次電池の製造方法>
電解質層16を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0172】
第1手順では、例えば、以下で説明するように、正極13および負極14を作製すると共に電解質層16を形成したのち、二次電池を組み立てる。なお、第1手順において説明する正極13および負極14の作製手順は、後述する第2手順および第3手順においても同様である。
【0173】
正極13を作製する場合には、最初に、正極活物質と、正極結着剤および正極導電剤などとを混合することにより、正極合剤とする。続いて、正極合剤を有機溶剤などに分散または溶解させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとする。最後に、正極合剤スラリーを正極集電体13Aの両面に塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層13Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて、正極活物質層13Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層13Bを加熱しながら圧縮成型してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0174】
負極14を作製する場合には、上記した正極13と同様の作製手順により、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを形成する。具体的には、負極活物質(炭素材料およびケイ素系材料を含む。)と負極結着剤および負極導電剤などとが混合された負極合剤を有機溶剤などに分散または溶解させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極合剤スラリーを負極集電体14Aの両面に塗布してから乾燥させて負極活物質層14Bを形成したのち、必要に応じてロールプレス機などを用いて負極活物質層14Bを圧縮成型する。なお、必要に応じて、負極活物質層14Bを形成したのち、その負極活物質層14Bを熱処理してもよい。
【0175】
電解質層16を形成する場合には、最初に、溶媒に電解質塩などを溶解させることにより、電解液を調製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、必要に応じて複数の無機粒子および希釈用溶媒(例えば、有機溶剤)などとを混合したのち、その混合物を撹拌することにより、ゾル状の前駆溶液を調製する。最後に、コーティング装置を用いて正極13(正極活物質層13B)の表面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、ゲル状の電解質層16(正極側電解質層161)を形成する。また、コーティング装置を用いて負極14(負極活物質層14B)の表面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、ゲル状の電解質層16(負極側電解質層162)を形成する。
【0176】
この電解質層16を形成する場合には、例えば、前駆溶液の塗布速度などの条件を調整することにより、貫通孔16Kを形成する。具体的には、例えば、前駆溶液の塗布速度を速くすると、貫通孔16Kが形成されやすくなると共に、前駆溶液の塗布速度を遅くすると、貫通孔16Kが形成されにくくなる。
【0177】
この場合には、例えば、前駆溶液の塗布速度などの条件を調整することにより、貫通孔16Kの単位面積当たりの数(個/cm
2 )を制御する。具体的には、例えば、前駆溶液の塗布速度を速くすると、貫通孔16Kの単位面積当たりの数が多くなると共に、前駆溶液の塗布速度を遅くすると、貫通孔16Kの単位面積当たりの数が少なくなる。なお、貫通孔16Kの数に関しても、同様の手順により調整可能である。
【0178】
また、例えば、前駆溶液中における高分子化合物の含有量などの条件を調整することにより、貫通孔16Kの平均直径(mm)を制御する。具体的には、例えば、前駆溶液中における高分子化合物の含有量を多くすると、貫通孔16Kの平均直径が大きくなると共に、前駆溶液中における高分子化合物の含有量を少なくすると、貫通孔16Kの平均直径が小さくなる。
【0179】
なお、貫通孔16Kを有する電解質層16(負極側電解質層162)を形成する場合には、以下で説明する方法を用いてもよい。
【0180】
最初に、負極14の作製工程において、例えば、乳鉢を用いてケイ素系材料の粉末と発泡剤の粉末とを摺り合わせることにより、そのケイ素系材料の表面に発泡剤を付着させる。この発泡剤の種類は、特に限定されないが、例えば、アゾジカルボンアミドおよびヒドラゾジカルボンアミドなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0181】
続いて、発泡剤が表面に付着されたケイ素系材料を用いることを除いて上記した手順により、負極14を作製する。この負極14の作製工程では、負極合剤スラリーの乾燥工程および負極活物質層14Bの熱処理工程などを経ることにより、ケイ素系材料の表面に付着されていた発泡剤がほぼ消失する傾向にある。しかしながら、例えば、負極活物質層14Bの熱処理温度などを調整することにより、ケイ素系材料の表面に発泡剤の分解物を残存させることができる。
【0182】
ケイ素系材料の表面に発泡剤の分解物を残存させたのち、最後に、上記した手順により、負極側電解質層162を形成する。この場合には、電解液中に六フッ化リン酸リチウムなどのフッ素含有リチウム塩が含まれていると、前駆溶液の乾燥工程において、フッ素含有リチウム塩に由来する遊離のフッ化水素(HF)が発生するため、そのフッ化水素が発泡剤の残留物と反応する。これにより、ケイ素系材料の近傍において、フッ化水素と発泡剤の残留物との反応に起因するガス(二酸化炭素)が発生するため、貫通孔16Kが形成される。
【0183】
上記した発泡剤を利用した方法を用いることにより、厚さ方向において直線状に延在するように貫通孔16Kが形成されやすくなる。また、ケイ素系材料の近傍に貫通孔16Kが形成されるため、その貫通孔16Kと重なる負極14(負極活物質層14B)の一部にケイ素系材料が存在しやすくなる。
【0184】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、溶接法などを用いて正極集電体13Aに正極リード11を取り付けると共に、溶接法などを用いて負極集電体14Aに負極リード12を取り付ける。続いて、セパレータ15および電解質層16を介して積層された正極13および負極14を巻回させることにより、巻回電極体10を作製する。続いて、巻回電極体10の最外周部に保護テープ17を貼り付ける。最後に、巻回電極体10を挟むように外装部材20を折り畳んだのち、熱融着法などを用いて外装部材20の外周縁部同士を接着させることにより、その外装部材20の内部に巻回電極体10を封入する。この場合には、正極リード11と外装部材20との間に密着フィルム21を挿入すると共に、負極リード12と外装部材20との間に密着フィルム21を挿入する。
【0185】
第2手順では、正極13に正極リード11を取り付けると共に、負極14に負極リード12を取り付ける。続いて、セパレータ15を介して積層された正極13および負極14を巻回させることにより、巻回電極体10の前駆体である巻回体を作製する。続いて、巻回体の最外周部に保護テープ17を貼り付ける。続いて、巻回体を挟むように外装部材20を折り畳んだのち、熱融着法などを用いて外装部材20の外周縁部同士を接着させることにより、その外装部材20の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて複数の無機粒子および重合禁止剤などの他の材料とを混合することにより、電解質用組成物を調製する。続いて、袋状の外装部材20の内部に電解質用組成物を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材20を密封する。続いて、モノマーを重合させることにより、高分子化合物を形成する。これにより、電解液が高分子化合物に含浸されると共に、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層16が形成される。この第2手順では、例えば、上記した発泡剤を利用した方法を用いることにより、貫通孔16Kを有する負極側電解質層162を形成することができる。
【0186】
第3手順では、多孔質膜(基材層)の両面に高分子化合物層が形成されたセパレータ15を用いることを除き、上記した第2手順と同様の手順により巻回体を作製したのち、その巻回体を袋状の外装部材20の内部に収納する。この高分子化合物層を形成する場合には、高分子化合物が有機溶剤などに溶解された溶液をセパレータ15の両面に塗布したのち、その溶液を乾燥させる。続いて、外装部材20の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などを用いて外装部材20の開口部を密封する。続いて、外装部材20に加重をかけながら外装部材20を加熱することにより、高分子化合物層を介してセパレータ15を正極13および負極14に密着させる。これにより、高分子化合物層中の高分子化合物に電解液が含浸されると共に、その高分子化合物がゲル化するため、電解質層16が形成される。この第3手順では、例えば、上記した発泡剤を利用した方法を用いることにより、貫通孔16Kを有する負極側電解質層162を形成することができる。
【0187】
なお、第3手順では、第1手順よりも二次電池の膨れが抑制される。また、第3手順では、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは溶媒などが電解質層16中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極13、負極14およびセパレータ15と電解質層16とが十分に密着する。
【0188】
<1−4.二次電池の作用および効果>
この二次電池によれば、負極14が炭素材料およびケイ素系材料を含んでいると共に、ゲル状の電解質である電解質層16が厚さ方向に延在する1または2以上の貫通孔16Kを有している。
【0189】
この場合には、上記したように、充放電時においてケイ素系材料の膨張に起因する応力が貫通孔16Kにより緩和されるため、電解液の分解反応が発生しにくくなる。しかも、充放電時において不要な副反応の発生に起因する影響が貫通孔16Kの内部に留められるため、電解液の分解反応が発生しても二次電池が膨れにくくなる。よって、優れた電池特性を得ることができる。
【0190】
特に、貫通孔16Kが厚さ方向において直線状に延在していれば、不要な副反応時に発生したガスが貫通孔16Kを経由して電解質層16の外部に放出されやすくなるため、そのガスが電解質層16の内部に滞留しにくくなる。よって、二次電池がより膨れにくくなると共に、リチウムの吸蔵放出が阻害されにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0191】
また、貫通孔16Kと重なる負極活物質層14Bの一部にケイ素系材料が存在していれば、そのケイ素系材料の表面において不要な副反応が発生しても、その不要な副反応時に発生したガスが貫通孔16Kを経由して電解質層16の外部に放出されやすくなる。よって、二次電池がより膨れにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0192】
また、貫通孔16Kの単位面積当たりの数が1個/cm
2 〜100個/cm
2 であれば、二次電池がより膨れにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0193】
また、貫通孔16Kの平均直径が0.02mm〜2mmであれば、二次電池がより膨れにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0194】
正極13の上に設けられた電解質層16(正極側電解質層161)が1または2以上の貫通孔16Kを有していると共に、負極14の上に設けられた電解質層16(負極側電解質層162)が1または2以上の貫通孔16Kを有していれば、二次電池がより膨れにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0195】
また、電解質層16が複数の無機粒子を含んでいれば、安全性が向上するため、より高い効果を得ることができる。この場合には、複数の無機粒子が酸化アルミニウムなどを含んでいれば、さらに高い効果を得ることができる。
【0196】
<2.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例に関して説明する。
【0197】
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、例えば、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0198】
二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、二次電池の用途は、上記以外の用途でもよい。
【0199】
中でも、二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器などに適用されることが有効である。これらの用途では優れた電池特性が要求されるため、本技術の二次電池を用いることにより、有効に性能向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、二次電池を用いた電源である。この電池パックは、後述するように、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されているため、その電力を利用して家庭用の電気製品などを使用することが可能である。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、二次電池を駆動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0200】
ここで、二次電池のいくつかの適用例に関して具体的に説明する。なお、以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、その適用例の構成は、適宜変更可能である。
【0201】
<2−1.電池パック(単電池)>
図5は、単電池を用いた電池パックの斜視構成を表している。
図6は、
図5に示した電池パックのブロック構成を表している。なお、
図5では、電池パックが分解された状態を示している。
【0202】
ここで説明する電池パックは、1つの本技術の二次電池を用いた簡易型の電池パック(いわゆるソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。この電池パックは、例えば、
図5に示したように、ラミネートフィルム型の二次電池である電源111と、その電源111に接続される回路基板116とを備えている。この電源111には、正極リード112および負極リード113が取り付けられている。
【0203】
電源111の両側面には、一対の粘着テープ118,119が貼り付けられている。回路基板116には、保護回路(PCM:ProtectionCircuitModule )が形成されている。この回路基板116は、タブ114を介して正極112に接続されていると共に、タブ115を介して負極リード113に接続されている。また、回路基板116は、外部接続用のコネクタ付きリード線117に接続されている。なお、回路基板116が電源111に接続された状態において、その回路基板116は、ラベル120および絶縁シート121により保護されている。このラベル120が貼り付けられることにより、回路基板116および絶縁シート121などは固定されている。
【0204】
また、電池パックは、例えば、
図6に示したように、電源111と、回路基板116とを備えている。回路基板116は、例えば、制御部121と、スイッチ部122と、PTC素子123と、温度検出部124とを備えている。電源111は、正極端子125および負極端子127を介して外部と接続されることが可能であるため、その電源111は、正極端子125および負極端子127を介して充放電される。温度検出部124は、温度検出端子(いわゆるT端子)126を用いて温度を検出する。
【0205】
制御部121は、電池パック全体の動作(電源111の使用状態を含む)を制御する。この制御部121は、例えば、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでいる。
【0206】
この制御部121は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達すると、スイッチ部122を切断させることにより、電源111の電流経路に充電電流が流れないようにする。また、制御部121は、例えば、充電時において大電流が流れると、スイッチ部122を切断させることにより、充電電流を遮断する。
【0207】
一方、制御部121は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達すると、スイッチ部122を切断させることにより、電源111の電流経路に放電電流が流れないようにする。また、制御部121は、例えば、放電時において大電流が流れると、スイッチ部122を切断させることにより、放電電流を遮断する。
【0208】
なお、過充電検出電圧は、例えば、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、例えば、2.4V±0.1Vである。
【0209】
スイッチ部122は、制御部121の指示に応じて、電源111の使用状態、すなわち電源111と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ部122は、例えば、充電制御スイッチおよび放電制御スイッチなどを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチのそれぞれは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。なお、充放電電流は、例えば、スイッチ部122のON抵抗に基づいて検出される。
【0210】
温度検出部124は、電源111の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部121に出力する。この温度検出部124は、例えば、サーミスタなどの温度検出素子を含んでいる。なお、温度検出部124により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部121が充放電制御を行う場合、残容量の算出時において制御部121が補正処理を行う場合などに用いられる。
【0211】
なお、回路基板116は、PTC素子123を備えていなくてもよい。この場合には、別途、回路基板116にPTC素子が付設されていてもよい。
【0212】
<2−2.電池パック(組電池)>
図7は、組電池を用いた電池パックのブロック構成を表している。
【0213】
この電池パックは、例えば、筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。この筐体60は、例えば、プラスチック材料などを含んでいる。
【0214】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御する。この制御部61は、例えば、CPUなどを含んでいる。電源62は、2種類以上の本技術の二次電池を含む組電池であり、その2種類以上の二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を含んでいる。
【0215】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて、電源62の使用状態、すなわち電源62と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチのそれぞれは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0216】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定すると共に、その電流の測定結果を制御部61に出力する。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部61に出力する。この温度の測定結果は、例えば、異常発熱時において制御部61が充放電制御を行う場合、残容量の算出時において制御部61が補正処理を行う場合などに用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定すると共に、アナログ−デジタル変換された電圧の測定結果を制御部61に供給する。
【0217】
スイッチ制御部67は、電流測定部64および電圧検出部66のそれぞれから入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御する。
【0218】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達すると、スイッチ部63(充電制御スイッチ)を切断することにより、電源62の電流経路に充電電流が流れないようにする。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電だけが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れると、充電電流を遮断する。
【0219】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達すると、スイッチ部63(放電制御スイッチ)を切断することにより、電源62の電流経路に放電電流が流れないようにする。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電だけが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れると、放電電流を遮断する。
【0220】
なお、過充電検出電圧は、例えば、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、例えば、2.4V±0.1Vである。
【0221】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどを含んでいる。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値、製造工程段階において測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)などが記憶されている。なお、メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部61が残容量などの情報を把握できる。
【0222】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部61に出力する。この温度検出素子69は、例えば、サーミスタなどを含んでいる。
【0223】
正極端子71および負極端子72のそれぞれは、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)、電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)などに接続される端子である。電源62は、正極端子71および負極端子72を介して充放電される。
【0224】
<2−3.電動車両>
図8は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。
【0225】
この電動車両は、例えば、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0226】
この電動車両は、例えば、エンジン75およびモータ77のうちのいずれか一方を駆動源として用いて走行することが可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合には、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して、エンジン75の駆動力(回転力)が前輪86および後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力が発電機79に伝達されるため、その回転力を利用して発電機79が交流電力を発生すると共に、その交流電力がインバータ83を介して直流電力に変換されるため、その直流電力が電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合には、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換されるため、その交流電力を利用してモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86および後輪88に伝達される。
【0227】
なお、制動機構を介して電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達されるため、その回転力を利用してモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換されるため、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0228】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御する。この制御部74は、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2種類以上の本技術の二次電池を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続されていると共に、その外部電源から電力供給を受けることにより、電力を蓄積させてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御すると共に、スロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサおよびエンジン回転数センサなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0229】
なお、電動車両がハイブリッド自動車である場合を例に挙げたが、その電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0230】
<2−4.電力貯蔵システム>
図9は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。
【0231】
この電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0232】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続されることが可能である。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続されることが可能である。
【0233】
なお、電気機器94は、例えば、1または2種類以上の家電製品を含んでおり、その家電製品は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビおよび給湯器などである。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機および風力発電機などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクおよびハイブリッド自動車などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所および風力発電所などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0234】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御する。この制御部90は、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2種類以上の本技術の二次電池を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信することが可能である。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、外部と通信しながら、家屋89における電力の需要と供給とのバランスを制御することにより、高効率で安定したエネルギー供給を可能とする。
【0235】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部90の指示に応じて電気機器94および電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、その電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0236】
電源91に蓄積された電力は、必要に応じて使用することが可能である。このため、例えば、電気使用料が安い深夜において、集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、電気使用料が高い日中において、その電源91に蓄積された電力を用いることができる。
【0237】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0238】
<2−5.電動工具>
図10は、電動工具のブロック構成を表している。
【0239】
ここで説明する電動工具は、例えば、電動ドリルである。この電動工具は、例えば、工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0240】
工具本体98は、例えば、プラスチック材料などを含んでいる。制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御する。この制御部99は、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2種類以上の本技術の二次電池を含んでいる。この制御部99は、動作スイッチの操作に応じて、電源100からドリル部101に電力を供給する。
【実施例】
【0241】
本技術の実施例に関して、詳細に説明する。
【0242】
(実験例1−1〜1−6)
以下の手順により、
図1および
図2に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0243】
正極13を作製する場合には、最初に、正極活物質(LiCoO
2 ,メジアン径D50=5μm)96質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(カーボンブラック)1質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に正極合剤を分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体13A(15μm厚のアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層13Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層13Bを圧縮成型したのち、その正極活物質層13Bが形成された正極集電体13Aを帯状(幅=48mm,長さ=300mm)に切断した。この場合には、正極活物質層13Bの体積密度を3.8g/cm
3 とした。
【0244】
負極14を作製する場合には、最初に、負極活物質95質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、負極導電剤2質量部(カーボンブラック)とを混合することにより、負極合剤とした。負極活物質としては、炭素材料(黒鉛,メジアン径D50=7μm)およびケイ素系材料(ケイ素の化合物であるSiO
x ,メジアン径D50=3μm)のうちの一方または双方を用いた。炭素材料とケイ素系材料との混合比(重量%)は、表1に示した通りである。続いて、有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に負極合剤を分散させることにより、ペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体14A(15μm厚の銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層14Bを形成した。続いて、負極活物質層14Bを加熱(温度=200℃)することにより、負極活物質の結着性を向上させた。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層14Bを圧縮成型したのち、その負極活物質層14Bが形成された負極集電体14Aを帯状(幅=50mm,長さ=310mm)に切断した。この場合には、負極活物質層14Bの体積密度を1.8g/cm
3 とした。
【0245】
電解質層16を形成する場合には、最初に、炭酸エステル(炭酸エチレンおよび炭酸ジエチル)に不飽和環状炭酸エステル(炭酸メチレンエチレン)を加えることにより、溶媒を準備した。続いて、溶媒に電解質塩(LiPF
6 )を溶解させることにより、電解液を調製した。この場合には、炭酸エステルの組成(重量比)を炭酸エチレン:炭酸ジエチル=50:50、不飽和環状炭酸エステルの含有量を1重量%、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0246】
続いて、電解液93質量部と、高分子化合物(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、複数の無機粒子(酸化アルミニウム,メジアン径D50=0.5μm)4質量部とを混合することにより、混合溶液を得た。続いて、ホモジナイザを用いて混合溶液を処理することにより、電解液中に高分子化合物および複数の無機粒子を均一に分散させたのち、その混合溶液を加熱(温度=75℃)しながら撹拌した。続いて、さらに混合溶液を撹拌(時間=30分間〜1時間)することにより、ゾル状の前駆溶液を得た。
【0247】
最後に、正極13の両面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、ゲル状の電解質層16(正極側電解質層161)を形成した。また、負極14の両面に前駆溶液を塗布したのち、その前駆溶液を乾燥させることにより、ゲル状の電解質層16(負極側電解質層162)を形成した。
【0248】
この電解質層16を形成する場合には、上記した発泡剤を利用した方法を用いることにより、貫通孔16Kが設けられた電解質層16を形成した。すなわち、貫通孔16Kが設けられた正極側電解質層161を形成すると共に、貫通孔16Kが設けられた負極側電解質層162を形成した。この場合には、前駆溶液の塗布速度などの条件を調整することにより、貫通孔16Kの数および平均直径を変化させた。また、比較のために、貫通孔16Kが設けられていない電解質層16も形成した。貫通孔16Kの有無、数(個/cm
2 )および平均直径(mm)は、表1に示した通りである。
【0249】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、正極集電体13Aに正極リード11を溶接すると共に、負極集電体14Aに負極リード12を溶接した。続いて、セパレータ15を介して、電解質層16が形成された正極13と電解質層16が形成された負極14とを巻回させることにより、巻回体を得た。セパレータ15としては、2つの多孔性ポリエチレンフィルムにより多孔性ポリプロピレンフィルムが挟まれた3層のポリマーセパレータ(総厚=15μm)を用いた。続いて、巻回体を長手方向に巻回させたのち、その巻回体の最外周部に保護テープ17を貼り付けることにより、巻回電極体10を形成した。最後に、巻回電極体10を挟むように外装部材20を折り畳んだのち、その外装部材20の外周縁部同士を熱融着した。これにより、外装部材20の内部に巻回電極体10が封入された。この場合には、正極リード11と外装部材20との間に密着フィルム21を挿入すると共に、負極リード12と外装部材20との間に密着フィルム21を挿入した。
【0250】
これにより、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池が完成した。
【0251】
二次電池の電池特性を評価するために、膨れ特性およびサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0252】
膨れ特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために、常温環境中(23℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。続いて、同環境中(23℃)において二次電池をさらに1サイクル充放電させることにより、2サイクル目の二次電池の厚さを測定した。続いて、同環境中(23℃)においてサイクル数の合計が150サイクルになるまで充放電を繰り返すことにより、150サイクル目の二次電池の厚さを測定した。最後に、膨れ率(%)=[(150サイクル目の二次電池の厚さ−2サイクル目の二次電池の厚さ)/2サイクル目の二次電池の厚さ]×100を算出した。
【0253】
二次電池の厚さを測定する場合には、二次電池に荷重(300g)を付与した状態において厚さ(平板厚さ)を測定した。
【0254】
充電時には、0.5Cの電流で電圧が4.4Vに到達するまで充電したのち、さらに4.4Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで充電した。放電時には、0.5Cの電流で電圧が3Vに到達するまで放電した。「0.5C」とは、電池容量(理論容量)を2時間で放電しきる電流値であると共に、「0.05C」とは電池容量を20時間で放電しきる電流値である。
【0255】
サイクル特性を調べる場合には、上記した膨れ特性を調べる手順において、2サイクル目の放電容量を測定すると共に150サイクル目の放電容量を測定したのち、容量維持率(%)=(150サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0256】
【表1】
【0257】
二次電池の膨れ特性は、以下で説明するように、負極活物質の組成および貫通孔16Kの有無などに応じて、大きく変動した。
【0258】
負極活物質として炭素材料だけを用いた場合(実験例1−3,1−4)には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると、容量維持率が僅かに増加したが、膨れ率が変化しなかった。また、負極活物質としてケイ素系材料だけを用いた場合(実験例1−5,1−6)には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると、膨れ率が僅かに減少すると共に、容量維持率が僅かに増加した。
【0259】
これに対して、負極活物質として炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合(実験例1−1.1−2)には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると、膨れ率が大幅に減少すると共に、容量維持率が大幅に増加した。なお、炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合には、ケイ素系材料の混合比、すなわち炭素材料の重量W1とケイ素系材料の重量W2との和に対するケイ素系材料の重量W2の割合が5重量%〜20重量%であると、膨れ率が十分に抑制されると共に容量維持率が十分に増加した。
【0260】
(実験例2−1〜2−8)
表2に示したように、負極活物質の組成(ケイ素系材料の種類および混合比)を変更したことを除き、実験例1−1,1−2と同様の手順により、二次電池を作製すると共に、その二次電池の電池特性を評価した。ケイ素系材料としては、ケイ素の酸化物(SiO
x )と共に、ケイ素の合金(SiTiNi)を用いた。
【0261】
【表2】
【0262】
負極活物質の組成を変更した場合(表2)においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質として炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると(実験例2−1〜2−4)、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていない場合(実験例2−5〜2−8)と比較して、膨れ率が大幅に減少すると共に容量維持率が大幅に増加した。
【0263】
(実験例3−1〜3−7)
表3に示したように、貫通孔16Kの単位面積当たりの数(個/cm
2 )を変更したことを除き、実験例1−1と同様の手順により、二次電池を作製すると共に、その二次電池の電池特性を評価した。この場合には、前駆溶液の塗布速度などの条件を変化させることにより、貫通孔16Kの単位面積当たりの数を調整した。
【0264】
【表3】
【0265】
貫通孔16Kの単位面積当たりの個数を変更した場合(表3)においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質として炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると(実験例3−1〜3−7)、膨れ率が十分に抑制されると共に容量維持率が十分に増加した。
【0266】
この場合には、特に、貫通孔16Kの単位面積当たりの個数が1個/cm
2 〜100個/cm
2 であると(実験例1−1,3−1〜3−5)、膨れ率が十分に抑制されながら高い容量維持率が得られた。
【0267】
(実験例4−1〜4−8)
表4に示したように、貫通孔16Kの平均直径(mm)を変更したことを除き、実験例1−1と同様の手順により、二次電池を作製すると共に、その二次電池の電池特性を評価した。この場合には、前駆溶液中における高分子化合物の含有量などの条件を変化させることにより、貫通孔16Kの平均直径を調整した。
【0268】
【表4】
【0269】
貫通孔16Kの平均直径を変更した場合(表4)においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質として炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると(実験例4−1〜4−8)、膨れ率が十分に抑制されると共に容量維持率が十分に増加した。
【0270】
この場合には、特に、貫通孔16Kの平均直径が0.02mm〜2mmであると(実験例1−1,4−2〜4−6)、膨れ率が十分に抑制されながら高い容量維持率が得られた。
【0271】
(実験例5−1〜5−4)
表5に示したように、電解液に添加剤(追加の溶媒)として不飽和環状炭酸エステル(炭酸ビニレン:VC)またはハロゲン化炭酸エステル(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン:FEC)を含有させたことを除き、実験例1−1,1−2と同様の手順により、二次電池を作製すると共に、その二次電池の電池特性を評価した。この場合には、電解液中における不飽和環状炭酸エステルの含有量を1重量%、電解液中におけるハロゲン化炭酸エステルの含有量を1重量%とした。
【0272】
【表5】
【0273】
電解液の組成を変更した場合(表5)においても、表1と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質として炭素材料とケイ素系材料とを併用した場合には、電解質層16に貫通孔16Kが設けられていると(実験例5−1〜5−4)、膨れ率が十分に抑制されると共に容量維持率が十分に増加した。
【0274】
この場合には、特に、電解液が不飽和環状炭酸エステルまたはハロゲン化炭酸エステルを含んでいると(実験例5−1〜5−4)、膨れ率が増加することを最低限に抑えながら、容量維持率がより増加した。
【0275】
表1〜表5に示した結果から、負極が炭素材料およびケイ素系材料を含んでいると共に、電解質層が厚さ方向に延在する1または2以上の貫通孔を有していると、二次電池の膨れ特性などが改善された。よって、電解質層を備えた二次電池において、優れた電池特性が得られた。
【0276】
以上、実施形態および実施例を挙げながら本技術を説明したが、本技術は、実施形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、電池構造がラミネートフィルム型であると共に、電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、これらに限られない。本技術の二次電池は、円筒型、角型およびコイン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合に関しても、同様に適用可能である。
【0277】
また、実施形態および実施例では、リチウムの吸蔵放出により負極の容量が得られるリチウムイオン二次電池に関して説明したが、これに限られない。例えば、本技術の二次電池は、リチウムの析出溶解により負極の容量が得られるリチウム金属二次電池でもよい。また、本技術の二次電池は、リチウムを吸蔵放出可能な負極材料の容量を正極の容量よりも小さくすることで、リチウムの吸蔵放出による容量とリチウムの析出溶解による容量との和により負極の容量が得られる二次電池でもよい。
【0278】
また、実施形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合に関して説明したが、これに限られない。電極反応物質は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素でもよいし、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素でもよいし、アルミニウム(Al)などの他の軽金属でもよい。また、電極反応物質は、上記した一連の元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む合金でもよい。
【0279】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0280】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
正極と、
炭素材料およびケイ素系材料を含む負極と、
電解液および高分子化合物を含むと共に、厚さ方向に延在する1または2以上の貫通孔を有する電解質層と
を備えた、二次電池。
(2)
前記貫通孔と重なる前記負極の一部に、前記ケイ素系材料が存在する、
上記(1)に記載の二次電池。
(3)
前記電解質層の単位面積当たりにおける前記1または2以上の貫通孔の数は、1個/cm
2 〜100個/cm
2 である、
上記(1)または(2)に記載の二次電池。
(4)
前記1または2以上の貫通孔の平均直径は、0.02mm〜2mmである、
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の二次電池。
(5)
前記炭素材料の重量W1と前記ケイ素系材料の重量W2との和に対する前記ケイ素系材料の重量W2の割合(=[W2/(W1+W2)]×100)は、5重量%〜20重量%である、
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の二次電池。
(6)
前記ケイ素系材料は、ケイ素の単体、ケイ素の化合物およびケイ素の合金のうちの少なくとも1種を含む、
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の二次電池。
(7)
前記電解質層は、
前記正極の上に設けられた正極側電解質層と、
前記負極の上に設けられた負極側電解質層と
を含み、
前記正極側電解質層および前記負極側電解質層のうちの少なくとも一方は、前記1または2以上の貫通孔を有する、
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の二次電池。
(8)
前記電解質層は、さらに、複数の無機粒子を含み、
前記複数の無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンおよび酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む、
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の二次電池。
(9)
前記電解液は、不飽和環状炭酸エステルおよびハロゲン化炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含む、
上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の二次電池。
(10)
リチウムイオン二次電池である、
上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の二次電池。
(11)
上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の二次電池と、
前記二次電池の動作を制御する制御部と、
前記制御部の指示に応じて前記二次電池の動作を切り換えるスイッチ部と
を備えた、電池パック。
(12)
上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の二次電池と、
前記二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部と、
前記駆動力に応じて駆動する駆動部と、
前記二次電池の動作を制御する制御部と
を備えた、電動車両。
(13)
上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の二次電池と、
前記二次電池から電力を供給される1または2種類以上の電気機器と、
前記二次電池からの前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部と
を備えた、電力貯蔵システム。
(14)
上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の二次電池と、
前記二次電池から電力を供給される可動部と
を備えた、電動工具。
(15)
上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の二次電池を電力供給源として備えた、電子機器。
【0281】
本出願は、日本国特許庁において2015年12月3日に出願された日本特許出願番号第2015−236663号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願のすべての内容を参照によって本出願に援用する。
【0282】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲の趣旨やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。