特許第6597796号(P6597796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597796非水電解質電池用セパレータおよび非水電解質電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597796
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】非水電解質電池用セパレータおよび非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
【請求項の数】10
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-556269(P2017-556269)
(86)(22)【出願日】2017年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2017038161
(87)【国際公開番号】WO2018079474
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-211471(P2016-211471)
(32)【優先日】2016年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出田 康平
(72)【発明者】
【氏名】杉原 充
(72)【発明者】
【氏名】茶山 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】大森 孝修
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−025093(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148577(WO,A1)
【文献】 特開2011−137063(JP,A)
【文献】 特開2015−204133(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104183806(CN,A)
【文献】 特開2015−028840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂を含む多孔質膜(I)と、
無機フィラー、下記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体、非水溶性重合体および塩基性化合物を含む多孔質層(II)とを有し、前記水溶性重合体が、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミドから選ばれる重合体を含有する非水電解質電池用セパレータであって、160℃で1時間加熱した場合の熱収縮率及び200℃で1時間加熱した場合の熱収縮率が、いずれも5%以下である、非水電解質電池用セパレータ
【化1】
一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基を表す;RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン、ニトロ基または炭素数1〜10の1価の有機基を表す;aおよびbはそれぞれ独立に1以上の整数、cおよびdはそれぞれ独立に0以上の整数を表す;ただし、a+cおよびb+dはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す;nは0〜3の整数を表す;Xは単結合、CH、SO、CO、O、S、C(CHまたはC(CFを表す。
【請求項2】
前記水溶性重合体が、下記一般式(2)で表される構造単位および下記一般式(3)で表される構造単位から選ばれる構造単位を含む請求項1記載の非水電解質電池用セパレータ:
【化2】
一般式(2)中、Rは炭素数2〜50の2価の有機基を表し、Rは炭素数2〜50の3価または4価の有機基を表す;mおよびcはいずれも0または1を表し、m=0のときc=1、m=1のときc=0である;
【化3】
一般式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数2〜50の2価の有機基を表す。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるRおよび/または前記(3)におけるRが脂肪族骨格を有する請求項2記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項4】
前記水溶性重合体中に含まれるRおよびRのうち50モル%以上が一般式(1)で表される構造を有する請求項2または3に記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項5】
前記水溶性重合体の重量平均分子量が20,000以上である請求項1〜4いずれかに記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項6】
前記塩基性化合物が、アルカリ金属化合物、炭素数1〜20の4級アンモニウム化合物および炭素数1〜20のアミン化合物から選ばれた1種以上の化合物である請求項1〜5のいずれか記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項7】
前記塩基性化合物の含有量が、前記水溶性重合体の酸性基に対して0.2〜4モル当量である請求項1〜6のいずれか記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項8】
前記多孔質層(II)中、無機フィラー100質量部に対して水溶性重合体を0.4〜5.0質量部含む請求項1〜7のいずれか記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項9】
前記多孔質層(II)中、無機フィラー100質量部に対して非水溶性重合体を0.5〜5.0質量部含む請求項1〜8のいずれか記載の非水電解質電池用セパレータ。
【請求項10】
正極と負極がセパレータを介して積層されている非水電解質電池であって、該セパレータが請求項1〜9のいずれかに記載の非水電解質電池用セパレータである非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池用セパレータおよびそれを用いた非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池は、携帯電子機器や輸送機器の電源として広く用いられ、特に、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両駆動用の高出力電源としての需要拡大が見込まれている。
【0003】
非水電解質電池は、セル内に、正極と負極が対向するように配置されており、両極の短絡を防止するために、両極間にイオン透過性のセパレータを有する。セパレータとしては、ポリオレフィン製多孔質膜が好適に使用されている。ポリオレフィン製多孔質膜は、電気絶縁性、イオン透過性、耐電解液性および耐酸化性に優れる。さらに、ポリオレフィン製多孔質膜は、異常昇温時に想定される100〜150℃程度の温度において孔閉塞することにより、電流を遮断し、過度の昇温を抑制することができる。しかしながら、何らかの原因で孔閉塞後も昇温が続いた場合は、ポリオレフィン製多孔質膜が収縮することによって、電極間の短絡が起こり、非水電解質電池が発火するおそれがある。
【0004】
これまでに、安全性に優れた非水電解質電池を構成し得るセパレータとして、熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ150℃における熱収縮率が10%以上の樹脂多孔質膜と、耐熱性微粒子を含有する耐熱多孔質層とを有する非水電解質電池用セパレータ(例えば、特許文献1参照)、水溶性ポリマーの多孔膜とポリオレフィンの多孔膜とが積層されてなる非水電解液二次電池用セパレータ(例えば、特許文献2参照)、ポリマー微多孔質膜と、無機微粒子、水溶性ポリマー、水不溶性有機微粒子、水を含むスラリー組成物によって形成されるコーティング層を有するリチウムイオン電池用セパレータ(例えば、特許文献3参照)、耐熱性含窒素芳香族重合体およびセラミック粉末を含む層を有するリチウムイオン電池用セパレータ(例えば、特許文献4参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−123996号公報
【特許文献2】特開2009−224343号公報
【特許文献3】特開2016−25093号公報
【特許文献4】特開2000−30686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載された技術は、100〜150℃程度の温度における形状安定性には優れるものの、近年求められる高出力電源用途において生じ得る160〜200℃の高温条件における形状安定性には、なお課題があった。そこで、本発明は、160〜200℃の温度範囲における形状安定性に優れる非水電解質電池用セパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、主として以下の構成を有する。
ポリオレフィン樹脂を含む多孔質膜(I)と、
無機フィラー、下記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体、非水溶性重合体および塩基性化合物を含む多孔質層(II)とを有し、前記水溶性重合体が、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミドから選ばれる重合体を含有する非水電解質電池用セパレータであって、160℃で1時間加熱した場合の熱収縮率及び200℃で1時間加熱した場合の熱収縮率が、いずれも5%以下である、非水電解質電池用セパレータ
【0008】
【化1】
【0009】
上記一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基を表す;RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン、ニトロ基または炭素数1〜10の1価の有機基を表す;aおよびbはそれぞれ独立に1以上の整数、cおよびdはそれぞれ独立に0以上の整数を表す;ただし、a+cおよびb+dはそれぞれ独立に1〜4の整数を表す;nは0〜3の整数を表す;Xは単結合、CH、SO、CO、O、S、C(CHまたはC(CFを表す。
【0010】
また、本発明は、正極と負極がセパレータを介して積層されている非水電解質電池であって、該セパレータが上記の非水電解質電池用セパレータである非水電解質電池を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電池用セパレータは、160〜200℃の温度範囲における形状安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、前述の通り、ポリオレフィン樹脂を含む多孔質膜(I)と、無機フィラー、前記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体、非水溶性重合体および塩基性化合物を含む多孔質層(II)を有する。多孔質膜(I)の片面または両面に多孔質層(II)を有することが好ましい。ここで、多孔質膜(I)の片面に多孔質層(II)を有するとは、多孔質膜(I)の一方の表面に多孔質層(II)が形成されていることを意味する。また、多孔質膜(I)の両面に多孔質層(II)を有するとは、多孔質膜(I)の両方の表面に多孔質層(II)が形成されていることを意味する。本発明の詳細について以下に説明する。
【0013】
1.多孔質膜(I)
本発明における多孔質膜(I)は、ポリオレフィン樹脂を含む。多孔質膜(I)は、ポリオレフィン樹脂を含むことにより、異常昇温時において孔閉塞することにより電流を遮断し、非水電解質電池における両極の短絡を防止する機能を有する。
【0014】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、電気絶縁性、イオン透過性および孔閉塞効果がより高いことから、ポリエチレン樹脂が好ましい。多孔質膜(I)は、ポリオレフィン樹脂とともに、他の樹脂を含んでもよい。
【0015】
多孔質膜(I)を構成する樹脂の融点(軟化点)は、充放電反応の異常昇温時に孔が閉塞する機能(孔閉塞機能)の観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。一方、正常時の孔閉塞を抑制する観点から、融点(軟化点)は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。ここで、融点(軟化点)は、JIS K7121:2012に基づいて示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。
【0016】
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、工程作業性や電極との倦回時に生じる様々な外圧に耐える機械強度(例えば、引っ張り強度、弾性率、伸度、突き刺し強度)の観点から、好ましくは30万以上、より好ましくは40万以上、さらに好ましくは50万以上である。
【0017】
多孔質膜(I)の孔径は、イオン透過性を確保し、電池特性の低下を抑制する観点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。一方、孔閉塞機能の温度に対する応答を上げる観点から1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下がさらに好ましい。
【0018】
多孔質膜(I)の透気抵抗度は、イオン透過性を確保し、電池特性の低下を抑制する観点から、好ましくは500s/100ccAir以下、より好ましくは400s/100ccAir以下、さらに好ましくは300s/100ccAir以下であり、電池内での十分な絶縁性を得るために、好ましくは50s/100ccAir以上、より好ましくは70s/100ccAir以上、さらに好ましくは100s/100ccAir以上である。ここで、透気抵抗度は、JIS P8117:2009に基づいてテスター産業(株)社製のガーレー式デンソメーターB型により求めることができる。
【0019】
2.多孔質層(II)
多孔質層(II)は、加熱時のセパレータの形状安定性を向上させる機能を有する。多孔質層(II)は、無機フィラー、前記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体、非水溶性重合体および塩基性化合物を含む。必要に応じてさらに他の成分を含んでもよい。
【0020】
多孔質層(II)は、無機フィラー、前記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体、非水溶性重合体、塩基性化合物および溶媒を必須成分とするスラリーを作製し、これを多孔質層(I)上に塗工および乾燥して形成することができる。スラリーに用いられる溶媒は水であるが、乾燥性や多孔質層(I)への塗工性の観点からアルコール類を少量添加してもよい。
以下に、各成分の詳細を説明する。
【0021】
[1]無機フィラー
多孔質層(II)は、無機フィラーを含むことにより、セパレータの加熱時の形状安定性を向上させる効果を有する。
【0022】
無機フィラーとしては、充填材と一般的に呼ばれる無機フィラーを挙げることができる。例えば、アルミナ、ベーマイト、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性ガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。これらを2種以上含んでもよい。これらの中でも、アルミナおよびベーマイトから選ばれる無機フィラーが好ましい。アルミナおよびベーマイトは粒子表面の親水性が高く、少量添加で、無機フィラーと水溶性重合体を強固に結着することができる。
【0023】
無機フィラーの平均粒径は、0.1μm以上が好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、無機フィラーの比表面積を適度に抑えて、表面吸着水を低減することができるため、セパレータとしての含水率を低減でき、電池特性をより向上させることが可能となる。一方、無機フィラーの平均粒径は、2.0μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましい。平均粒径が2.0μm以下であると、多孔質層(II)の膜厚を後述する所望の範囲に容易に調整することができる。
【0024】
ここで言う平均粒径とは、レーザー散乱粒度分布計(マイクロトラックベル(株)(旧日機装(株))社製「MT3300EXII」)を使用して、水に無機フィラーを添加した液を、流速45%、出力25Wの条件で超音波を照射しながら3分間循環させた後、10分以内に測定した体積基準の積算分率における50%の粒径(D50)を指す。
【0025】
[2]水溶性重合体
水溶性重合体は、無機フィラー同士を結着することにより、加熱時のセパレータの形状安定性を向上させる効果を有する。下記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体は、剛直な主鎖構造を有するため、耐熱性を向上させることができる。また、一般式(1)中のRおよびRに水酸基、カルボキシル基およびスルホン基から選ばれた酸性官能基を有することにより、塩基性化合物とイオン結合を形成し、これを介して無機フィラーを強固に結着する。これらの効果により、加熱時のセパレータの形状安定性を向上させることができる。なお、水溶性重合体における水溶性は、一般式(1)で表される構造と塩基性化合物の共存下で発現する。
【0026】
【化2】
【0027】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基を表す。RおよびRは、それぞれ独立にハロゲン、ニトロ基または炭素数1〜10の1価の有機基を表す。aおよびbは、それぞれ独立に1以上の整数、cおよびdは、それぞれ独立に0以上の整数を表す。ただし、a+cおよびb+dは、それぞれ独立に1〜4の整数を表す。nは、0〜3の整数を表す。Xは、単結合、CH、SO、CO、O、S、C(CHまたはC(CFを表す。無機フィラーへの結着の観点から、RおよびRは、水酸基またはカルボキシル基が好ましく、cおよびdは0が好ましい。
【0028】
水溶性重合体としては、ポリイミド、ポリアミドおよびポリアミドイミドから選ばれる重合体が好ましく、耐熱性をより向上させることができる。
【0029】
水溶性重合体は、下記一般式(2)で表される構造単位および下記一般式(3)で表される構造単位から選ばれる構造単位を有することが好ましく、耐熱性をより向上させることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
上記一般式(2)中、Rは、炭素数2〜50の2価の有機基を表し、Rは、炭素数2〜50の3価または4価の有機基を表す。一般式(2)中、mおよびcは、いずれも0または1を表し、m=0のときc=1、m=1のときc=0である。上記一般式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数2〜50の2価の有機基を表す。
【0032】
上記一般式(2)中のRおよび上記一般式(3)中のRは、芳香族および脂肪族のいずれの骨格を有しても良いが、脂肪族骨格を有することで、水溶性重合体の水溶性が向上し、水溶化剤である塩基性化合物の添加量を低減することできるので好ましい。
【0033】
前記一般式(2)および(3)におけるRおよびRのうちの50モル%以上が一般式(1)で表されるジアミン残基であることがさらに好ましく、無機フィラーをより強固に結着することにより、加熱時の形状安定性をより向上させることができる。なお、水溶性重合体が、一般式(2)で表される構造単位および一般式(3)で表される構造単位のいずれか一方のみを含む場合は、RおよびRのうちのいずれかの50モル%以上が一般式(1)で表されるジアミン残基であることが好ましい。水溶性重合体が一般式(2)で表される構造単位および一般式(3)で表される構造単位を両方含む場合は、RおよびRの合計の50モル%以上が一般式(1)で表されるジアミン残基であることが好ましく、RおよびRのそれぞれの50モル%以上が一般式(1)で表されるジアミン残基であることがより好ましい。
【0034】
前記一般式(2)において、m=1の場合は、水溶性重合体はポリイミドである。ポリイミドは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重縮合物であるポリアミド酸のイミド環化物であり、ジアミンの残基およびテトラカルボン酸二無水物の残基を含む。一般式(2)中におけるRはジアミンの残基を表し、Rはテトラカルボン酸二無水物の残基を表す。
【0035】
前記一般式(1)で表される構造を含むジアミンの例としては、3,5−ジアミノ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、5,5’−メチレンビス(2−アミノ安息香酸)、ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−5−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−5−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−カルボキシフェニル)エーテルや、これらの化合物の水素原子1〜4個を、水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基により置換したものなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0036】
一般式(1)で表される構造を含まないジアミンの例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルサルファイド、4,4’−ジアミノジフェニルサルファイド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、9,9’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノプロピルテトラメチルジシロキサン)等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0037】
テトラカルボン酸二無水物の例としては、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸無水物や、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−(カルボキシメチル)−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、ジシクロヘキシルメタン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシルケトン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロヘキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸無水物、これらの化合物の水素原子1〜4個を、水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基により置換したものが挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0038】
水溶化剤である塩基性化合物の必要添加量を低減し、電池作製時の内部抵抗を抑制する観点から、Rは脂肪族骨格を有していることが好ましい。ここで言う脂肪族骨格とは、非環式または環式の、非芳香族性の炭化水素を含んだ骨格を指す。脂肪族骨格として好ましいRを与える酸二無水物としては、上記した脂肪族テトラカルボン酸無水物、または、これらの化合物の水素原子1〜4個を、水酸基、カルボキシル基またはスルホン酸基により置換したものが挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0039】
前記一般式(2)で表される構造単位を有するポリイミドは、例えば、前述のジアミンとテトラカルボン酸二無水物を溶媒中で重縮合することによりポリアミド酸を得た後、イミド環化させることにより得ることができる。通常の重縮合反応と同様に、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込み比率(モル比)が1:1に近いほど、生成するポリアミド酸の重合度は大きくなり、分子量が増加する。テトラカルボン酸二無水物とジアミンの仕込み比率(モル比)は、100:50〜150が好ましい。
【0040】
また、ポリイミドの末端を、無水マレイン酸、無水フタル酸、ナジック酸無水物、エチニル無水フタル酸、ヒドロキシ無水フタル酸などのジカルボン酸無水物;あるいはヒドロキシアニリン、アミノ安息香酸、ジヒドロキシアニリン、カルボキシヒドロキシアニリン、ジカルボキシアニリンなどのモノアミンで封止することもできる。
【0041】
上記重縮合反応に用いられる溶媒としては、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ジメチルイミダゾリン等の非プロトン性極性溶媒;フェノール、m−クレゾール、クロロフェノール、ニトロフェノールなどのフェノール系溶媒;ポリリン酸、リン酸に5酸化リンを加えたリン系溶媒などを好ましく用いることができる。
【0042】
一般には、これらの溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを100℃以下の温度で反応させることにより、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得る。その後、好ましくは100℃〜300℃の温度範囲でイミド環化を行い、ポリイミド樹脂を得る。また、イミド環化の際に、トリエチルアミン、イソキノリン、ピリジンなどの塩基類を触媒として添加することもできるし、副生する水をトルエンなどの非極性溶媒と混合して共沸させて除去を進めることもできる。その後、反応溶液を水などに投入してポリイミドを析出させ、乾燥させることにより、ポリイミドの固体を得ることができる。また、ポリアミド酸の状態で一度水などの貧溶剤に投入してポリアミド酸の固体を得て、これを100℃〜500℃の温度で熱処理することにより、イミド環化を行い、ポリイミド樹脂の固体を得ることもできる。
【0043】
前記一般式(2)において、m=0の場合は、水溶性重合体はポリアミドイミドである。ポリアミドイミドは、ジアミンとトリカルボン酸との重縮合物であるポリアミドアミド酸のイミド環化物であり、ジアミンの残基およびトリカルボン酸の残基を含む。一般式(2)におけるRはジアミンの残基を表し、Rはトリカルボン酸の残基を表す。
【0044】
ジアミンの例としては、前記ポリイミドを構成するジアミンとして先に例示したものが挙げられる。
【0045】
トリカルボン酸の例としては、トリメリット酸、ヒドロキシトリメリット酸、ジフェニルエーテルトリカルボン酸、ジフェニルスルホントリカルボン酸などの芳香族化合物、ジシクロヘキシルエーテルトリカルボン酸、ジシクロヘキシルスルホントリカルボン酸、ジシクロヘキシルエーテルトリカルボン酸、ビシクロヘキシルトリカルボン酸などの脂肪族化合物、並びに、これらの酸無水物、およびこれらの化合物のフェノール置換体などを挙げることができる。これらを2種以上使用してもよい。
【0046】
特に水溶化剤である塩基性化合物の必要添加量を低減し、電池作製時の内部抵抗を抑制する観点から、Rは脂肪族骨格を有していることが好ましい。ここで言う脂肪族骨格とは非環式または環式の、非芳香族性の炭化水素を含んだ骨格を指す。脂肪族骨格として好ましいRを与えるトリカルボン酸としては、上記した脂肪族化合物、並びに、これらの酸無水物、およびこれらの化合物のフェノール置換体などを挙げることができる。これらを2種以上使用してもよい。
【0047】
また、これらのトリカルボン酸と、フタル酸、ヒドロキシフタル酸などのジカルボン酸もしくはこれらの無水物;トリメシン酸などの他のトリカルボン酸もしくはこれらの無水物;または、ピロメリット酸、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸もしくはこれらのヒドロキシ基置換体などのテトラカルボン酸もしくはこれらの無水物とを共重合してもよい。これら他の酸または酸無水物を共重合する場合、その量は酸および酸無水物全体に対して50モル%以下が好ましい。
【0048】
前記一般式(2)で表される構造単位を有するポリアミドイミドは、例えば、前述のジアミンとトリカルボン酸を溶媒中で重縮合することによりポリアミドアミド酸を得て、イミド環化させることにより得ることができる。ポリイミドの場合と同様に、トリカルボン酸とジアミンの仕込み比率(モル比)は、100:50〜150が好ましい。
【0049】
また、ポリイミドの場合と同様に、ポリアミドイミドの末端を封止することもできる。
【0050】
上記重縮合反応に用いられる溶媒としては、ポリイミドの重縮合反応に用いられる溶媒として例示したものを挙げることができる。
【0051】
一般には、これらの溶媒中でジアミンとトリカルボン酸とを100℃以下の温度で反応させることにより、ポリアミドイミド前駆体であるポリアミド酸を得る。その後、好ましくは100℃〜300℃の温度範囲でイミド環化を行い、ポリアミドイミド樹脂を得る。また、イミド環化の際に、トリエチルアミン、イソキノリン、ピリジンなどの塩基類を触媒として添加することもできるし、副生する水をトルエンなどの非極性溶媒と混合して共沸させて除去を進めることもできる。その後、反応溶液を水などに投入してポリアミドイミドを析出させ、乾燥させることにより、ポリアミドイミドの固体を得ることができる。また、ポリアミド酸の状態で一度水などの貧溶剤に投入してポリアミド酸の固体を得て、これを100℃〜500℃の温度で熱処理することにより、イミド環化を行い、ポリアミドイミド樹脂の固体を得ることもできる。
【0052】
前記一般式(3)で表される構造単位を有するポリアミドは、ジアミンとジカルボン酸との重縮合物である。一般式(3)におけるRはジアミンの残基を表し、Rはジカルボン酸の残基を表す。
【0053】
ジアミンの例としては、ポリイミドを構成するジアミンとして先に例示したものが挙げられる。
【0054】
ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシルエーテルジカルボン酸、ジシクロヘキシルスルホンジカルボン酸、ビシクロヘキシルジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらを2種以上使用してもよい。
【0055】
特に水溶化剤である塩基性化合物の必要添加量を低減し、電池作製時の内部抵抗を抑制する観点から、Rは脂肪族骨格を有していることが好ましい。ここで言う脂肪族骨格とは非環式または環式の、非芳香族性の炭化水素を含んだ骨格を指す。脂肪族骨格として好ましいRを与えるジカルボン酸としては、上記した脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらを2種以上使用してもよい。
【0056】
前記一般式(3)で表される構造単位を有するポリアミドは、例えば、前述のジアミンとジカルボン酸を溶媒中で重縮合することにより得ることができる。ポリイミドの場合と同様に、ジカルボン酸とジアミンの仕込み比率(モル比)は、100:50〜150が好ましい。
【0057】
上記重縮合反応に用いられる溶媒としては、ポリイミドの重縮合反応に用いられる溶媒として例示したものを挙げることができる。
【0058】
一般には、これらの溶媒中でジカルボン酸の酸塩化物または活性エステルとジアミンとを30℃以下の温度で反応させることにより、ポリアミドを得る。反応の際に、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基類を触媒として添加することができる。その後、反応溶液を水などに投入してポリアミドを析出させ、乾燥させることにより、ポリアミドの固体を得ることができる。
【0059】
水溶性重合体の重量平均分子量は、水溶性が得られる範囲で大きい方が加熱時のセパレータの形状安定性を向上させることができるので好ましい。水溶性重合体の重量平均分子量は、好ましくは20,000以上、さらに好ましくは25,000以上である。重量平均分子量の好ましい上限は、水溶性の観点から200,000以下である。
【0060】
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定され、ポリスチレン換算で求められる値である。水溶性重合体の重量分子量は、以下の条件にて測定を行った。
1) 機器装置 : Waters 2690
2) カラム: TOSOH CORPORATION, TSK−GEL(d−4000 & d−2500)
3) 溶媒 : NMP
4) 流速 : 0.4mL/min
5) 試料濃度 : 0.05〜0.1 wt%
6) 注入量 : 50μL
7) 温度 : 40℃
8) 検出器 : Waters 996
なお、換算に用いるポリスチレンには、Polymer Laboratories社の標準ポリスチレンを用いた。
【0061】
多孔質層(II)における水溶性重合体の含有量は、前記無機フィラー100質量部に対して0.4〜5.0質量部が好ましい。水溶性重合体の含有量を0.4質量部以上とすることにより、無機フィラーを強固に結着し、加熱時のセパレータの形状安定性をより向上させることができる。一方、水溶性重合体の含有量を5.0質量部以下とすることにより、多孔質膜(I)の目詰まりを低減し、セパレータの透気抵抗度の上昇を抑制することができる。
【0062】
[3]非水溶性重合体
非水溶性重合体は、多孔質膜(I)からの多孔質層(II)の脱離を抑制する効果を有する。
【0063】
非水溶性重合体としては、電気絶縁性を有し、非水電解質に対して安定であり、電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい、電気化学的に安定な材料が好ましい。そのような材料としては、例えば、スチレン樹脂[ポリスチレン(PS)など]、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂(PMMAなど)、ポリアルキレンオキシド[ポリエチレンオキシド(PEO)など]、フッ素樹脂(PVDFなど)、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらの樹脂は、尿素樹脂、ポリウレタンなどにより架橋されていてもよい。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、スチレン樹脂、アクリル樹脂およびフッ素樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が低く柔軟性に富むため、多孔質膜(I)からの多孔質層(II)の脱離をより効果的に抑制することができる。Tgが低く柔軟性に富む樹脂は、加熱時の形状安定性が低い傾向にあるが、多孔質層(II)に前述の水溶性重合体を含むことにより、高温における軟化を抑制し、加熱時の形状安定性を向上させながら、多孔質膜(I)からの多孔質層(II)の脱離をより抑制することができる。
【0064】
多孔質層(II)における非水溶性重合体の含有量は、無機フィラー100質量部に対して、0.5〜5.0質量部が好ましい。非水溶性重合体の含有量を0.5質量部以上とすることにより、加熱時も多孔質層(II)が多孔質膜(I)に強く結着するため、セパレータの形状安定性をより向上させることができる。一方、非水溶性重合体の含有量を5.0質量部以下とすることにより、多孔質膜(I)の目詰まりを低減し、セパレータの透気抵抗度の上昇を抑制することができる。
【0065】
[4]塩基性化合物
塩基性化合物は、前記一般式(1)で表される構造を含む水溶性重合体とイオン結合を形成することにより、無機フィラーとの結着性を向上させる効果を有する。
【0066】
塩基性化合物としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、炭素数1〜20の4級アンモニウム化合物、および炭素数1〜20のアミン化合物が挙げられる。水溶性重合体とのイオン結合性の観点から、アルカリ金属化合物、炭素数1〜20の4級アンモニウム化合物、および炭素数1〜20のアミン化合物から選ばれた1種以上の化合物が好ましい。
【0067】
アルカリ金属化合物の例としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
【0068】
アルカリ金属の水酸化物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。水溶性重合体の溶解性および安定性の観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる化合物がより好ましい。
【0069】
アルカリ金属の炭酸塩の例としては、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウムカリウムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。水溶性重合体の溶解性および安定性の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸ナトリウムカリウムから選ばれる化合物がより好ましい。
【0070】
アルカリ金属のリン酸塩の例としては、リン酸リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸二水素リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ルビジウム、リン酸水素ルビジウム、リン酸二水素ルビジウム、リン酸セシウム、リン酸水素セシウム、リン酸二水素セシウム、リン酸ナトリウムカリウム、リン酸水素ナトリウムカリウムなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。水溶性重合体の溶解性および安定性の観点から、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウムカリウム、およびリン酸水素ナトリウムカリウムから選ばれる化合物が好ましい。
【0071】
炭素数1〜20のアミン化合物の例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどの脂肪族3級アミンや;ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ルチジンなどの芳香族アミンなどが挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。
【0072】
炭素数1〜20の4級アンモニウム化合物の例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩などが挙げられる。これらを2種類以上用いてもよい。
【0073】
多孔質層(II)における塩基性化合物の含有量は、水溶性重合体の溶解性の観点から、水溶性重合体中の酸性官能基に対して、0.2モル当量以上が好ましく、0.5モル当量以上がより好ましい。一方、塩基性化合物の含有量が4モル当量を超えると電池の内部抵抗が高くなり、充放電速度が低下することがあるので、含有量は4モル当量以下が好ましい。また、水溶性重合体の分解や水溶性重合体と無機フィラーとの結着性低下を抑制する観点から、3モル当量以下がさらに好ましい。
【0074】
多孔質層(II)には、必要に応じて、上記以外の各種添加剤、例えば酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤などを含有してもよい。
【0075】
多孔質層(II)の膜厚は、多孔質膜(I)が融点以上で溶融および収縮した際の破膜強度と絶縁性を確保する観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。一方、非水電解質電池の高容量化の観点から、膜厚は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0076】
3.非水電解質電池用セパレータ
本発明の非水電解質電池用セパレータは、前述の多孔質膜(I)と多孔質層(II)とを有する。多孔質層(II)は、多孔質膜(I)の一方の表面または両方の表面に形成されていることが好ましい。
【0077】
非水電解質電池用セパレータの透気増加度は、+200s/100ccAir以下が好ましく、+100s/100ccAir未満がより好ましい。透気増加度が+200s/100ccAir以下であれば、イオン透過性を確保し、電池特性の低下を抑制することができる。
【0078】
ここで透気増加度とは、多孔質膜(I)のみの透気抵抗度に対して、多孔質膜(I)および多孔質層(II)を有するセパレータの透気抵抗度がどの程度増加しているかを表す値である。透気抵抗度は、テスター産業(株)社製のガーレー式デンソメーターB型を使用して、JIS P−8117:2009に従って測定する。多孔質膜(I)およびセパレータを、それぞれ、クランピングプレートとアダプタープレートの間にシワが入らないように固定し、透気抵抗度を測定し、下記式から透気増加度を算出することができる。
【0079】
透気増加度(s/100ccAir)={セパレータの透気抵抗度(s/100ccAir)}−{多孔質膜(I)の透気抵抗度(s/100ccAir)}
透気増加度を+200s/100ccAir以下とする手段としては、例えば、水溶性重合体および非水溶性重合体の含有量を前述の好ましい範囲に調整することなどにより、多孔質膜(I)の目詰まりを低減する方法が挙げられる。
【0080】
非水電解質電池用セパレータの熱収縮率は、5%以下が好ましく、3%未満がより好ましい。熱収縮率は、加熱時の形状安定性の指標であり、熱収縮率が5%以下であれば、電池異常発熱時においても、セパレータの熱収縮によって正極と負極が接触して短絡することを抑制することができる。
【0081】
ここで、熱収縮率とは、室温におけるセパレータの長さに対する、所定の温度で加熱した後のセパレータの長さの割合を指す。非水電解質電池用セパレータを50mm×50mmに切り出した後、機械方向(MD)の辺および幅方向(TD)の辺それぞれの多孔質膜(I)側に、各30mmの長さのマーキングを入れる。マーキングを入れたセパレータを、紙で挟んだ状態で、所定の温度(150℃、160℃、200℃)に加熱したオーブンに入れて1時間加熱する。その後、オーブンから非水電解質電池用セパレータを取り出し、室温まで冷却した後、MDおよびTDのマーキングの長さを測定し、短い方のマーキング部分の長さをd(mm)として、下記式から熱収縮率を算出する。
熱収縮率(%)={(30−d)/30}×100 。
【0082】
熱収縮率を5%以下とする手段としては、例えば、水溶性重合体の含有量を前述の好ましい範囲に調整する方法などが挙げられる。
【0083】
4.非水電解質電池用セパレータの製造方法
本発明の非水電解質電池用セパレータは、例えば、多孔質膜(I)の少なくとも片面に、前述の無機フィラー、水溶性重合体、非水溶性重合体、塩基性化合物および溶媒を含む塗工液を塗布後、溶媒を除去し、多孔質層(II)を形成することにより得ることができる。以下にその詳細を説明する。
【0084】
[1]塗工液の製造方法
上記塗工液は、水溶性重合体および塩基性化合物を水に溶解した水溶液に、無機フィラーを添加して混合および分散した後、非水溶性重合体を加えて混合することにより製造することが好ましい。乾燥性や多孔質層(I)への塗工性の観点から、水にアルコール類を少量添加してもよい。
【0085】
無機フィラーを混合および分散する方法としては、例えば、機械撹拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができる。これらの中でも無機フィラーを高度に分散させることができ、また短時間で無機フィラーと水溶性重合体をなじませることが可能なメディア分散法が好ましい。
【0086】
[2]多孔質膜(I)の製造方法
多孔質膜(I)の製造方法としては、例えば、発泡法、相分離法、溶解再結晶法、延伸開孔法、粉末焼結法などが挙げられる。これらの中でも、微細孔の均一性およびコストの観点から、相分離法が好ましい。
【0087】
相分離法による多孔質膜(I)の製造方法としては、例えば、ポリエチレンと成形用溶剤とを加熱溶融混練し、得られた溶融混合物をダイより押出し、冷却することによりゲル状成形物を形成し、得られたゲル状成形物に対して少なくとも一軸方向に延伸を実施し、前記成形用溶剤を除去することによって多孔質膜を得る方法などが挙げられる。
【0088】
[3]多孔質層(II)の形成方法
[1]により得られた塗工液を[2]により得られた多孔質膜(I)の少なくとも片面に塗布し、溶媒を除去することにより、多孔質層(II)を形成することが好ましい。
【0089】
塗工液を多孔質膜(I)に塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。
【0090】
溶媒を除去する方法としては、例えば、多孔質膜(I)を固定しながらその融点以下の温度で加熱乾燥する方法、減圧乾燥する方法などが挙げられる。これらの中でも、加熱乾燥による方法が、工程の簡略化にも繋がり好ましい。
【0091】
加熱乾燥温度は、多孔質膜(I)の孔閉塞機能の発現を抑制する観点および熱使用量を低減する観点から、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。加熱乾燥時間は、数秒〜数分間が好ましい。
【0092】
5.非水電解質電池
本発明の非水電解質電池用セパレータは、非水系電解質を使用する電池に好適に使用できる。具体的には、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、銀−亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。中でも、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いることが好ましい。
【0093】
非水電解質電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されている。セパレータは電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、例えば、円盤状の正極および負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極および負極が交互に積層された電極構造(積層型)、積層された帯状の正極および負極が巻回された電極構造(捲回型)等が挙げられる。非水電解質電池に使用される、集電体、正極、正極活物質、負極、負極活物質および電解液は、特に限定されず、従来公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0094】
次に本発明の実施例をあげて説明する。
【0095】
水溶性重合体の作製方法を以下に示す。
【0096】
合成例1:ポリイミド樹脂Aの合成
よく乾燥させた四つ口丸底フラスコ中で、N−メチルピロリドン(NMP)280.00gと3,5−ジアミノ安息香酸(東京化成工業(株)製、3,5−DAB)14.44g(95mmol)および1,3−ビス−3−アミノプロピルテトラメチルジシロキサン(東レダウコーニング(株)製、APDS)1.24g(5mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、撹拌しながら、この溶液を冷却し、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製、ODPA)31.00g(100mmol)を50℃以下に保ちながら滴下した。全量を滴下した後、50〜60℃で1時間反応させ、その後、イソキノリン0.10gとトルエン30mLを加え、溶液の温度を180℃に上昇し、留出する水を除去しながら反応させた。反応終了後、溶液温度を室温に下げた後、この溶液を水5Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、黄白色の固体を得た。これを水1Lで3回洗浄した後、50℃の通風オーブンで3日間乾燥し、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの95モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Aを得た。重量平均分子量は22,000であった。
【0097】
合成例2:ポリイミド樹脂Bの合成
3,5−DAB14.44g(95mmol)をメタフェニレンジアミン(東京化成工業(株)製、MDA)9.88g(95mmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、一般式(1)で表される構造を含まないポリイミド樹脂Bを得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0098】
合成例3:ポリイミド樹脂Cの合成
3,5−DAB 14.44g(95mmol)およびAPDS 1.24g(5mmol)を2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製、商品名「AZ 6F−AP」、6FAP)31.10g(85mmol)および3−アミノフェノール(東京化成工業(株)、AMP)3.27g(30mmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの全てが一般式(1)で表されるジアミン残基であり、末端を3−アミノフェノールで封止したポリイミド樹脂Cを得た。重量平均分子量は24,000であった。
【0099】
合成例4:ポリイミド樹脂Dの合成
よく乾燥させた四つ口丸底フラスコ中で、NMP80.00gと6FAP3.66g(10ミリモル)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化工業(株)製、商品名「コウ DA」、4,4’−DAE)2.00g(10mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、この溶液を撹拌しながら、冷却し、特開平11−100503号公報の合成例1記載の方法で合成した構造式(4)で表される酸無水物(TMDA)14.28g(20mmol)を50℃以下に保ちながら滴下した。全量を滴下した後、50〜60℃で1時間反応させ、その後、溶液の温度を180℃に上昇し、留出する水を除去しながら反応させた。反応終了後、溶液温度を室温に下げた後、この溶液を水1Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、黄白色の固体を得た。これを水1Lで3回洗浄した後、50℃の通風オーブンで3日間乾燥し、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの50モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Dを得た。重量平均分子量は25,000であった。
【0100】
【化4】
【0101】
合成例5:ポリイミド樹脂Eの合成
6FAPの添加量を1.83g(5mmol)、4,4’−DAEの添加量を3.00g(15mmol)に変更した以外は合成例4と同様にして、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの25モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Eを得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0102】
合成例6:ポリイミド樹脂Fの合成
ジアミンを3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(和歌山精化工業(株)製、商品名「MBAA」)28.63g(100mmol)に変更し、酸無水物を2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(ダイキン工業(株)製、6FDA)44.40g(100mmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの全てが一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Eを得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0103】
合成例7:ポリアミドイミド樹脂Aの合成
よく乾燥させた四つ口丸底フラスコ中で、NMP480.00g、トリエチルアミン10.10g(100mmol)、4,4’−DAE10.00g(50mmol)および3,5−DAB6.90g(50mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、この溶液を撹拌しながら−20℃に冷却し、無水トリメリット酸クロリド(東京化成工業(株)製、以下、TMC)21.05g(100mmol)をNMP200.00gに溶解した溶液を、0℃以下に保ちながら徐々に滴下した。全量を滴下した後、−20℃で2時間反応させ、その後、溶液温度を室温にして1時間撹拌した。この溶液を水10Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、黄白色の固体を得た。これを水1Lで3回洗浄した後、50℃の通風オーブンで3日間乾燥し、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの50モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミドイミド樹脂Aを得た。重量平均分子量は24,000であった。
【0104】
合成例8:ポリアミドイミド樹脂Bの合成
4,4’−DAEの添加量を20.00g(100mmol)に変更し、3,5−DABを用いない以外は合成例6と同様にして、一般式(1)で表される構造を含まないポリアミドイミド樹脂Bを得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0105】
合成例9:ポリアミド樹脂Aの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、NMP131.79gにMBAA28.63g(100mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら溶解させた。その後、この溶液を撹拌しながら氷冷し、そこにイソフタロイルクロリド(東京化成工業(株)製、IPC)20.30g(100mmol)をNMP15.00gに溶解した溶液を、30℃以下に保ちながら滴下した。全量を滴下した後、30℃で4時間反応させた。この溶液を水3Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、水1.5Lで3回洗浄した。洗浄後の固体を50℃の通風オーブンで3日間乾燥し、一般式(3)で表される構造単位を有し、Rの全てが一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミド樹脂Aの固体を得た。重量平均分子量は21,000であった。
【0106】
合成例10:ポリアミド樹脂Bの合成
ジアミンを3,5−DAB7.61g(50mmol)と4,4’−DAE10.01g(50mmol)に変更し、IPCの添加量を19.90g(98mmol)に変更した以外は合成例9と同様にして、IPC19.90g(98mmol)一般式(3)で表される構造単位を有し、Rの50モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミド樹脂Bの固体を得た。重量平均分子量は21,000であった。
【0107】
合成例11:ポリアミド樹脂Cの合成
ジアミンを6FAP 32.96g(90mmol)と3,5−DAB1.52g(10mmol)に変更し、酸塩化物をテレフタル酸クロリド(東京化成工業(株)製、以下、TPC)20.30g(100mmol)に変更した以外は合成例9と同様にして、一般式(3)で表される構造単位を有し、Rの全てが一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミド樹脂Cの固体を得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0108】
合成例12:ポリアミド樹脂Dの合成
ジアミンをMBAA22.90g(80mmol)と4,4’−DAE3.60g(18mmol)に変更し、酸塩化物を2,6−ナフタレンジカルボン酸クロリド(イハラニッケイ化学工業(株)製、商品名「26NADOC」、NDCC)25.31g(100mmol)に変更した以外は合成例9と同様にして、一般式(3)で表される構造単位を有し、かつRの82モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミド樹脂Dの固体を得た。重量平均分子量は22,000であった。
【0109】
合成例13:ポリアミド樹脂Eの合成
ジアミンを6FAP36.63g(100mmol)に変更し、酸塩化物をNDCC25.18g(99.5mmol)に変更した以外は合成例9と同様にして、一般式(3)で表される構造単位を有し、Rの全てが一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリアミド樹脂Eの固体を得た。重量平均分子量は25,000であった。
【0110】
合成例14:ポリアミド樹脂Fの合成
ジアミンを4,4’−DAE20.02g(100mmol)に変更し、酸塩化物をIPC20.30g(100mmol)に変更した以外は合成例9と同様にして、一般式(1)で表される構造を含まないポリアミド樹脂Fの固体を得た。重量平均分子量は23,000であった。
【0111】
合成例15:ポリイミド樹脂Gの合成
よく乾燥させた四ツ口フラスコの中で、NMP131.79gに3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(和歌山精化工業(株)製、商品名「MBAA」)28.63g(100mmol)を窒素雰囲気下で撹拌しながら室温で溶解させた。その後、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン(新日本理化(株)製、商品名「リカシッド TDA−100」)30.00g(100mmol)およびNMP15.00gを添加し、40℃で1時間反応させ、ついで反応中に発生する水を留去しながら200℃で6時間重合反応させた。反応終了後室温に降温し、この溶液を水3Lに投入し、得られた沈殿を濾別し、水1.5Lで3回洗浄した。洗浄後の固体を50℃の通風オーブンで3日間乾燥させ、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの100モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Gを得た。重量平均分子量は28,000であった。
【0112】
合成例16:ポリイミド樹脂Hの合成
酸無水物をビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物(東京化成工業(株)製、以下、BOE)24.82g(100mmol)に変更した以外は合成例15と同様にして、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの100モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Hを得た。重量平均分子量は30,000であった。
【0113】
合成例17:ポリイミド樹脂Jの合成
酸無水物を3−(カルボキシメチル)−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3−二無水物(東京化成工業(株)製、以下、JPDA)22.42g(100mmolに変更した以外は合成例15と同様にして、一般式(2)で表される構造単位を有し、Rの100モル%が一般式(1)で表されるジアミン残基であるポリイミド樹脂Jを得た。重量平均分子量は31,000であった。
【0114】
合成例1〜17で合成した各樹脂の組成を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
水溶性重合体と塩基性化合物を含む樹脂水溶液の調製方法を以下に示す。なお、水溶性重合体の水への溶解性は作製した水溶液を目視観察し、濁りが認められないものを良とし、濁りが認められるものを不良とした。
【0117】
樹脂水溶液1
合成例1で得たポリイミド樹脂A10.00gと水酸化ナトリウム0.94g(0.02モル)を混合し、ここに水100.00gを加えて、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液1を得た。
【0118】
樹脂水溶液2〜6、9〜12、15、17、18、20、21、23〜31、33〜35
添加量を表2に示すように変更した以外は樹脂水溶液1の調製方法と同様にして樹脂水溶液を得た。なお、表2において、DMAEはジメチルアミノエタノール、DMABはジメチルアミノブタノール、TMAHはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、NEtはトリエチルアミンを示す。
【0119】
樹脂水溶液7
水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は樹脂水溶液1の調製方法と同様にして樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0120】
樹脂水溶液8
合成例1で得たポリイミド樹脂A10.00gを合成例2で得たポリイミド樹脂B10.00gに変更した以外は樹脂水溶液1の調製方法と同様にして樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0121】
樹脂水溶液13
合成例3で得たポリイミド樹脂C10.00gに水1000.00gを加え、塩基性化合物は加えずに、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0122】
樹脂水溶液14
合成例1で得たポリイミド樹脂A10.00gと水酸化カルシウム0.87g(0.01モル)を混合し、ここに水1000.00gを加えて、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、一部のポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0123】
樹脂水溶液16
合成例4で得たポリイミド樹脂D10.00gに水200.00gを加え、塩基性化合物は加えずに、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0124】
樹脂水溶液19
合成例6で得たポリイミド樹脂F10.00gと水酸化カリウム0.30g(0.005モル)を混合し、ここに水500.00gを加えて、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、一部のポリイミド樹脂が溶解しなかった。
【0125】
樹脂水溶液22
合成例8で得たポリアミドイミド樹脂B10.00gと水酸化ナトリウム0.32g(0.008モル)を混合し、ここに水100.00gを加えて、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリアミドイミド樹脂が溶解しなかった。
【0126】
樹脂水溶液32
合成例14で得たポリアミド樹脂F10.00gと水酸化ナトリウム2.45g(0.06モル)を混合し、ここに水49.81gを加えて、50℃に加温して撹拌し、樹脂水溶液の作製を試みたが、ポリアミド樹脂が溶解しなかった。
【0127】
樹脂水溶液36
カルボキシメチルセルロース10.00gに水100.00gを加えて、23℃で撹拌し、樹脂水溶液36を得た。
【0128】
【表2】
【0129】
*固形分濃度は、水溶液中の水溶性重合体と塩基性化合物の合計の含有量。
【0130】
次に、各実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0131】
1.塗膜表面観察
各実施例および比較例により得られた非水電解質電池用セパレータの外観を目視観察し、ムラもスジもない場合は良、ムラまたはスジがある場合は不良と評価した。
【0132】
2.透気増加度評価
テスター産業(株)社製のガーレー式デンソメーターB型を使用して、各実施例および比較例に用いられた多孔質膜(I)およびより得られたセパレータを、それぞれ、クランピングプレートとアダプタープレートの間にシワが入らないように固定し、JIS P−8117:2009に従って透気抵抗度を測定し、下記式から透気増加度を算出した。
【0133】
透気増加度(s/100ccAir)={セパレータの透気抵抗度(s/100ccAir)}−{多孔質膜(I)の透気抵抗度(s/100ccAir)}
+100s/100ccAir未満をA、+100s/100ccAir以上+200s/100ccAir以下をB、+200s/100ccAirより大きい値をCと評価した。
【0134】
3.加熱時の形状安定性評価
各実施例および比較例により得られた非水電解質電池用セパレータを50mm×50mmに切り出した後、機械方向(MD)の辺および幅方向(TD)の辺それぞれの多孔質膜(I)側に、各30mmの長さのマーキングを入れた。マーキングを入れたセパレータを、紙で挟んだ状態で、それぞれ150℃、160℃および200℃の温度に加熱したオーブンに入れて、1時間加熱した。その後、オーブンから非水電解質電池用セパレータを取り出し、室温まで冷却した後、MDおよびTDのマーキングの長さを測定し、短い方のマーキング部分の長さをd(mm)として、下記式から熱収縮率を算出した。
【0135】
熱収縮率(%)={(30−d)/30}×100
150℃、160℃および200℃の各温度について熱収縮率を測定し、3%未満をA、3%以上5%以下をB、5%より大きい値をCと評価した。
【0136】
実施例1
平均粒径が0.5μmのアルミナと前記樹脂水溶液1を、アルミナ100質量部に対して、ポリイミド樹脂Aが2.0質量部になるように、混合し、セラミックスラリーを得た。さらに、該セラミックスラリー中のアルミナの含有量が50質量%になるように水で濃度を調整した。このセラミックスラリーを、高速せん断型撹拌機(DESPA、浅田鉄工(株)製)を用いて混合し、さらに連続型メディア分散機(NANO GRAIN MILL、浅田鉄工(株)製)を用いて分散した。
【0137】
次に2−エチルヘキシルアクリレート78質量部、アクリロニトリル19.8質量部、およびメタクリル酸2質量部およびアリルメタクリレート(AMA)0.2質量部を混合した単量体混合物を作製した。別容器にイオン交換水70質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部、過流酸アンモニウム0.3質量部、並びに、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「エマール(登録商標)D−3−D」)0.82質量部、および、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、「エマルゲン(登録商標)−120」)0.59質量部を混合し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。該容器に前述の単量体混合物を添加して、乳化重合を行い、アクリル樹脂の水分散体を作製した。
【0138】
該アクリル樹脂の水分散体を、前記セラミックスラリーに、アルミナ100質量部に対してアクリル樹脂が2.0質量部になるように添加し、プロペラ羽根付きスリーワンモーターを用いて混合し、多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。
【0139】
次に、多孔質膜(I)として、ポリエチレン多孔質膜(膜厚12μm、透気抵抗度150s/100ccAir、150℃熱収縮率80%)を準備した。多孔質膜(I)の片面に、グラビア塗工機を用いて上記多孔質層(II)形成用塗工液を塗布し、50℃で1分間乾燥することにより、多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成して、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータにおける多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0140】
実施例2〜26
樹脂水溶液を表3、4のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0141】
実施例27
アルミナ100質量部に対して、ポリイミド樹脂Aが5.0質量部になるように、アルミナと前記樹脂水溶液1を混合した以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0142】
実施例28
アルミナ100質量部に対して、ポリイミド樹脂Aが0.4質量部になるように、アルミナと前記樹脂水溶液1を混合した以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0143】
実施例29
アクリル樹脂の添加量を、アルミナ100質量部に対して、5.0質量部とした以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0144】
実施例30
アクリル樹脂の添加量を、アルミナ100質量部に対して、0.5質量部とした以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0145】
実施例31
アルミナ100質量部に対して、ポリイミド樹脂Aが5.5質量部になるように、アルミナと前記樹脂水溶液1を混合した以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0146】
実施例32
アルミナ100質量部に対して、ポリイミド樹脂Aが0.3質量部になるように、アルミナと前記樹脂水溶液1を混合した以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0147】
実施例33
アクリル樹脂の添加量を、アルミナ100質量部に対して、5.5質量部とした以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0148】
実施例34
アクリル樹脂の添加量を、アルミナ100質量部に対して、0.4質量部とした以外は、実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0149】
実施例35〜37
樹脂水溶液を表4のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0150】
比較例1〜6、9
樹脂水溶液を表4のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0151】
比較例7
樹脂水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0152】
比較例8
アクリル樹脂を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして多孔質層(II)形成用の塗工液を得た。得られた塗工液を用いて実施例1と同様に多孔質膜(I)上に多孔質層(II)を形成し、非水電解質電池用セパレータを得た。得られた非水電解質電池用セパレータの多孔質層(II)の膜厚は4.0μmであった。
【0153】
実施例1〜37および比較例1〜9の組成を表3、4に、評価結果を表5、6に示す。
【0154】
【表3】
【0155】
【表4】
【0156】
* 重合体の含有量は、無機フィラー100質量部に対する質量部
【0157】
【表5】
【0158】
【表6】
【0159】
本発明の非水電解質電池用セパレータである実施例1〜37は評価結果が優れていたが、本発明の範囲外である非水電解質電池用セパレータである比較例1〜9は評価結果が劣る結果となった。