(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料として血液を採取し、前記装置本体の基端側から先端側が遠心力の作用する方向になるように遠心分離処理を施したとき、前記抽出部には血漿成分又は血清成分がくるように、前記流路における前記抽出部の位置が設定されている請求項1に記載の試料採取装置。
前記切断部は先端側から基端側に向かう方向に沿って等間隔に3つ以上設けられていることにより、前記抽出部は2つ以上設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の試料採取装置。
前記抽出部を通る2本の流路部分が等しい太さをもち、それらの2本の流路部分は互いに切り離すことができるように切断可能に一体化されている請求項1から4のいずれか一項に記載の試料採取装置。
前記他方の流路部分の前記終端部に、毛細管現象により試料を吸引しない断面積を有する液溜まり空間が設けられている請求項1から8のいずれか一項に記載の試料採取装置。
前記液溜まり空間は、前記他方の流路部分の前記終端よりも前記装置本体の基端側にある前記一方の流路部分の内部容量以上の内部容量を有する請求項9に記載の試料採取装置。
前記抽出部を通る流路部分のうち、前記抽出部が前記装置本体の他の部分から切断される切断部分を通る部分は他の流路部分よりも細くなっている請求項1から11のいずれか一項に記載の試料採取装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一実施形態の試料採取装置では、試料として血液を採取し、装置本体の基端側から先端側が遠心力の作用する方向になるように遠心分離処理を施したとき、抽出部には血漿成分又は血清成分がくるように、流路における抽出部の位置が設定されていることが好ましい。試料が血液の場合、遠心分離により、2つの流路部分において血球部分が先端側、血漿成分又は血清成分が基端側になるように分離する。血漿成分又は血清成分を採取するために、抽出部は流路部分のうち血漿成分又は血清成分がくる位置に位置決めされている。
【0019】
抽出部が血漿成分を採取できるようにするためには、血液試料に抗凝固剤を添加すればよい。この試料採取装置を使用して検体から血液を直接採取して血漿を抽出するようにするために、流路の内面には血液の凝結を防止する抗凝固剤が設けられていることが好ましい。抗凝固剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はヘパリンなどを流路の内面にコーティングしておくことができる。
【0020】
一方の流路部分での空気穴に相当する位置と
試料吸込口の間の流路部分の体積に相当する試料が遠心分離の際に空気穴から排出される。その流路部分の太さが他の部分の流路の太さよりも細くなっている場合には、その流路部分の体積が同じであればその流路部分が他の部分と同じ太さである場合よりも長くすることができ、試料を吸引により採取する際の操作性が向上する。さらに、抽出部を切断部で切断して装置本体の他の部分から分割する際に、その流路部分のある装置本体部分を持ちやすくなるので、抽出部を装置本体の他の部分から分割する際の操作性も向上する。
【0021】
切断部が先端側から基端側に向かう方向に沿って等間隔に3つ以上設けられている場合には、抽出部を2つ以上設けることができるので、同じ試料片を2つ以上作成することができる。また、抽出部を通る2本の流路部分が等しい太さをもち、それらの2本の流路部分が互いに切り離すことができるように切断可能に一体化されている場合にも、同じ試料片を2つ作成することができる。同じ試料片を複数作成しておけば、1回目の分析に不具合が生じた場合にも再分析が可能になる。
【0022】
流路の内面が親水性になっている場合は、試料が血液や水溶液であるときは毛細管現象により試料を流路内に容易に吸引することができる。この試料採取装置は抽出部を装置本体から切り離して試料片とするので、試料ごとの使い捨て方式となる。そのため、コストの面から材質はプラスチックが好ましい。一般にプラスチックは疎水性であるので、流路内面を親水性にするために親水性化処理を施す。親水性化処理としては、プラズマ処理や紫外線照射のほか、親水性ポリマーをコーティングする方法を用いることができる。親水性化処理としては、これら以外にも通常用いられる方法であれば特に限定はされない。
【0023】
装置本体の空気穴が設けられている面には、空気穴の先端側を覆うカバーが設けられていることが好ましい。流路に試料を吸入した後、基端側から先端側に向かう方向に遠心力が働くように遠心分離を施すと、平衡状態になるためいくらかの試料が空気穴から排出される。空気穴の先端側には抽出部が配置されており、遠心力が先端側に作用するので、排出された試料は抽出部側に移動しようとする。そこで、空気穴の先端側を覆うカバーが設けられている場合には、排出された試料が抽出部に付着するのを防ぐことができる。
【0024】
また、遠心分離の際の遠心力によって空気穴から試料が排出されること自体を防止するようにしてもよい。遠心分離の際に試料が平衡状態になることによって空気穴から試料が排出されるのは、遠心分離が施される前の状態では、一方の流路部分における試料の端部の位置と他方の流路部分における試料の端部の位置が異なっており、この状態で遠心分離が施されて試料が平衡状態となることによって余剰な試料が生じてしまい、その余剰試料が空気穴が排出されることとなるからである。
【0025】
そこで、他方の流路部分の終端部に、毛細管現象により試料を吸引しない太さを有する液溜まり空間が設けられていてもよい。他方の流路部分の終端部に毛細管現象により試料を吸引しない太さを有する液溜まり空間を設けると、試料吸入口から吸入される試料は、液溜まり空間の入口部分で止まることとなる。液溜まり空間の入口部分は空気穴よりも先端側にあるため、試料吸入口から吸入された試料を空気穴よりも先端側の位置で止めることができる。この状態で遠心分離を施すと、遠心力によって試料が平衡化されて余剰な試料が生じても、その余剰試料の少なくとも一部は液溜まり空間に貯留されることとなり、空気穴から試料が排出されることが抑制される。
【0026】
遠心分離が施されて試料が平衡状態となることによって余剰となる試料の量は、他方の流路部分の終端部よりも基端側にある一方の流路部分の内部容量に等しい。そこで、他方の流路の終端部に液溜まり空間を設ける場合には、該液溜まり空間は他方の流路の終端よりも基端側にある一方の流路部分の内部容量以上の内部容量を有することが好ましい。そうすれば、遠心分離で試料が平衡状態となることによって余剰となった試料のすべてを液溜まり空間に貯留することができるので、空気穴から試料が排出されることを防止することができる。
【0027】
また、前記液溜まり空間の内面は疎水性になっていてもよい。液溜まり空間の内面を疎水性にすると、液溜まり空間の入口部まできた試料が液溜まり空間内へ入り込みにくくなり、試料の吸引の際に、液溜まり空間の入口部でより確実に試料を止めることができる。
【0028】
また、本発明の試料採取装置は、抽出部を装置本体の他の部分から切断可能であることを特徴としているが、抽出部を装置本体の他の部分から切断した際、抽出部を通る流路部分に収容されている試料が、切断された流路端面から漏れてしまうという懸念もある。そこで、抽出部を通る流路部分のうち、抽出部が装置本体の他の部分から切断される切断部分を通る部分は他の流路部分よりも細くなっていることが好ましい。そうすれば、抽出部を装置本体の他の部分から切断した際に、抽出部を通る流路部分に収容されている試料が切断された流路端面から漏れにくくなる。
【0029】
装置本体は抽出部よりも先端側に抽出部よりも幅が広くなった幅広部をもっていることが好ましい。その幅広部に試料に関する情報を記載したり、情報を記載したラベルを貼りつけたりすることができる。しかし、試料採取装置をより小さくすることが要請される場合には、このような幅広部を設けないで、先端側の装置本体の幅を抽出部の幅と同程度にしてもよい。
【0030】
一実施形態のホルダでは、試料採取装置を保持する凹部は支持部に放射状に複数個が設けられている。これにより、複数個の試料採取装置に対して同時に遠心分離処理を施すことができるようになる。また、試料採取装置を検体毎に保管するなど、効率的な保管にも適するようになる。
【0031】
さらに、好ましい実施形態のホルダでは、ホルダを遠心分離機に装着するための装着部は、支持部の中心に設けられた貫通穴をもち、その貫通穴を介して複数枚のホルダが積層された状態で遠心分離機に装着されるようになっている。複数枚のホルダを積層することにより、最上層以外のホルダに保持された試料採取装置はその上のホルダにより覆われるため、遠心力によって飛び出すことがない。最上層には試料採取装置を保持していない空のホルダ又は試料採取装置が隠れる程度の大きさを持った板材を蓋として積層すればよい。
【0032】
試料前処理方法の一実施形態として、試料が血液である場合、上記のステップ(C)の後、さらに有機溶媒を添加し、遠心分離処理を施すことにより除タンパク処理を行うことが好ましい。
【0033】
試料採取装置の第1の実施例を
図1A−1B、
図2A−2Bに示す。
【0034】
試料採取装置2は装置本体4を備え、装置本体4は下基板6と上基板8から構成されている。下基板6と上基板8は接合により一体化されて装置本体4を構成している。上基板8の接合面には試料採取用の流路10が形成され、下基板6と上基板8が接合されていることにより流路10が装置本体4内に配置されている。
【0035】
装置本体4は基端12と先端14をもっている。この試料採取装置2は試料を吸引した後に遠心分離処理を施すものであり、その際に遠心力が基端12から先端14の方向に作用するように、この試料採取装置2が遠心分離機に装着される。装置本体4の基端、先端という呼び方は、その遠心力の方向を基準に決めている。
【0036】
装置本体4は基端側に試料吸込口16をもっている。試料吸込口16は装置本体4の基端12に設けられた凹部18内に通じる開口として設けられている。その凹部18は、試料採取の際に基端14を試料、例えば血液、に接触させたときに試料が試料吸込口16から吸引されるのを容易にするためのものである。
【0037】
流路10は毛細管現象により試料を吸引できる細さをもっている。流路10は装置本体4内の先端側の連結部20でつながり、先端側から基端側に延びる2本の流路部分10a、10bをもっている。一方の流路部分10aは導入流路10cをもち、その導入流路10cが
試料吸込口16に通じている。他方の流路部分10bは基端12に至らない位置で終端し、その終端位置には毛細管現象により試料を流路10に吸引する際の空気排出口となる空気穴22が設けられている。空気穴22は上基板8を貫通した貫通穴として形成されている。
【0038】
導入流路10cは流路部分10aの他の部分よりも細くなっている。
【0039】
流路部分10aにおける導入流路10cの先端側の端の位置と流路部分10bの基端側の端の位置は、ほぼ一致するように設定されている。流路10に毛細管現象により試料を吸入すると、試料はほぼ流路10の全体にわたって吸入される。その試料に対し遠心分離処理を施すと、先端側から空気穴22の位置までの流路10に試料が残るので、流路部分10aと10bが試料で満たされ、流路部分10cが空になった状態で試料を採取することができる。
【0040】
装置本体4は幅の狭い基端側の採取部24と、採取部24よりも幅の広い幅広部26からなっている。
【0041】
採取部24には、空気穴22よりも先端側の位置に切断部28により切断可能になっている抽出部30が設けられている。切断部28はこの実施例では装置本体4の他の部分よりも薄くなった溝であり、抽出部30は互いに平行な2つの切断部28により画定されている。切断部28は採取部24の長手方向(基端12から先端14に至る方向)に直交する方向に形成され、採取部24の全幅に及んでいる。抽出部30には2本の流路部分10a,10bが含まれる。切断部28はこの実施例のような溝に限らず、その部分の幅が狭くなっているなど、指先で折ることができるように、その部分の強度が弱くなっていればよい。
【0042】
切断部28としての溝は、この実施例のように採取部24の上下、すなわち表面側と裏面側、の両方に形成されているのが好ましい。
【0043】
流路部分10aと10bは全長にわたって太さが均一である必要はなく、例えば幅広部26の流路10を採取部24の流路10よりも太くすることにより幅広部26の長さを短くすることができる。この実施例と次の第2の実施例においては、抽出部30は2つの流路部分10aと10bが存在したままで分析用試料に供されるので、抽出部30における流路部分10aと10bの太さは等しい必要はないが、等しくする方が設計が容易である。ただし、後で示す第3の実施例では抽出部30における流路部分10aと10bが切り離されてそれぞれが分析用試料となるので、その場合には抽出部30における流路部分10aと10bの太さは等しい方が好ましい。
【0044】
採取部24で抽出部30が配置されている位置は基端部側にあるので、採取した試料に遠心分離処理を施したとき、抽出部30には遠心分離された比重の小さい方の成分が位置する。例えば、試料として血液を採取し、この装置本体2の基端側から先端側が遠心力の作用する方向になるように遠心分離処理を施したとき、抽出部30には血漿成分又は血清成分がくるように、流路10における抽出部30の位置が設定されている。
【0045】
抽出部30は少なくとも1つあればよい。この実施例では、切断部28が先端側から基端側に向かう方向に沿って等間隔に3つ設けられていることにより、抽出部30は2つ設けられている。抽出部30が3つ以上になるように切断部28を設けてもよい。抽出部30が複数あれば、同じ試料による分析を複数回実行できるので、1回目の分析が不良であった場合の再分析などに好都合である。得られる複数の抽出部30は、再分析においても定量分析ができるように同じ長さをもち、内部の流路10に収容された試料量が等しくなっている。
【0046】
幅広部26はこの試料採取装置に採取された試料の名称や番号などの識別情報を記入したり、その識別情報を記入したラベルを貼りつけたりできる程度の大きさをもっている。幅広部26はまた、この試料採取装置をもつ際の把持部としても使用できる。
【0047】
この実施例では、幅広部26の厚さは採取部24の厚さよりも厚くなっているので、幅広部26をつかみやすくなる。しかし、幅広部26と採取部24が同じ厚さであってもよい。
【0048】
採取部24において、空気穴22が設けられている面には、空気穴22の先端側部分を覆うカバー32が設けられている。カバー32は空気穴22の先端側の上方を被い、空気穴22の基端側を解放するように、空気穴22の先端側の位置から空気穴22の先端側の上方に至るように構成されている。カバー32を設けることにより、遠心分離処理の際に流路10から空気穴22を経て外部に排出される試料が先端側に飛散するのを防止することができる。空気穴22の先端側の位置には抽出部30が配置されているので、抽出部30の表面に試料が付着するのを防止することができる。
【0049】
試料採取装置2は例えば樹脂材料により構成されている。その樹脂材料は特に限定されるものではないが、例えばCOP(シクロオレフィンポリマー)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PP(ポリプロピレン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、PVA(ポリビニルアルコール)などを用いることができる。
【0050】
下基板6と上基板8の接合方法も特に限定されるものではないが、例えば、下基板6と上基板8を加熱することより貼り合せる方法、又は下基板6と上基板8の互いに接合される面をプラズマ処理により活性化して貼り合せる方法などを採用することができる。
【0051】
流路10は吸入口16から毛細管現象により液体試料を吸入するものであるため、流路10の断面積は毛細管現象を起こす細さであるだけでなく、試料が血液又は水溶液である場合には流路10の内面が親水性である必要がある。上に例示した樹脂材料は疎水性であるので、流路10内面と吸入口16は親水性になるように処理されていることが好ましい。
【0052】
試料が血液である場合、血液を検体から直接吸引し、遠心分離により抽出部30に血漿を採取するために、流路10の内面には血液の凝結を防止する抗凝固剤が設けられていることが好ましい。抗凝固剤は流路10の内面に親水性ポリマーをコーティングした後、その上からコーティングしても良い。
【0053】
この試料採取装置2は、遠心分離後に抽出部30を分析に供するために、抽出部30が装置本体4から切り離される。そのため、
図3A、
図3Bの概略図に示される装置本体4の状態から、
図3Cに示されるように2つの抽出部30がつながった状態でその両端の切断部28で装置本体4から分離される。その後、
図3Cに示されるように2つの抽出部30がその間の切断部28で互いに分離され、個別の2つの抽出部30となる。切断部28で分離するには、装置本体4を切断部28の位置で指先で折る。このようにして、1つの装置本体4から2つの分析用試料を得ることができる。
【0054】
図4A、
図4Bは第2の実施例を表わす。第1の実施例と比較すると、抽出部30の数が1つになっている点で異なる。他の構成は第1の実施例と同じである。この実施例でも空気穴22の先端側から上方を覆うカバー32を設けるのが好ましい。
【0055】
図5A、
図5Bは第3の実施例を表わす。第2の実施例と比較すると、抽出部30が、流路10aが通る部分30aと流路10bが通る部分30bに分離できるようになっている点で異なる。他の構成は第2の実施例と同じである。抽出部30が部分30aと部分30bに分離できるようにするために、抽出部30には流路10a、10bに沿った長穴34,34によって装置本体4の材料の一部が残存した切断部36が設けられている。
【0056】
抽出部30は遠心分離後に分析に供するために、
図5Cに示されるように装置本体4か分離される。抽出部30を装置本体4から分離するために、まず装置本体4を切断部28の位置で指先で折る。さらに、
図5Dに示されるように、抽出部30を切断部36で折ることにより、部分30aと部分30bを相互に分離する。このようにして、1つの抽出部30から2つの分析用試料を得ることができる。
【0057】
この実施例においては、流路部分10aを含む部分30aと流路部分10bを含む部分30bがそれぞれ分析用試料となるので、再分析などにおいて定量性を確保するためには、抽出部30における流路部分10aと10bの長さと太さを等しくしておくのがよい。
【0058】
この実施例でも空気穴22の先端側から上方を覆うカバー32を設けるのが好ましい。
【0059】
これらの実施例において、流路10a、10bは毛細管力により液体を吸引できるように、例えば、幅が0.6mm、深さが1mmである。もちろん、これらの寸法は一例であり、毛細管力により液体を吸引できる寸法であればよい。流路10a、10bの長さは吸引しようとする試料量によって設定すればよいが、例えば流路10aと10bの合計長さは25mmである。流路10cの幅と深さは流路10a、10bよりは小さい。各流路表面は親水化処理が施されている。
【0060】
例えば血液の定量分析を行う場合は、試料量としては例えば10μLが適量とされている。そのため、抽出部30又は30a,30bは、それに含まれる流路10又は10a,10bに採取される血漿又は血清の量が10μLとなるようにサイズを設定しておくのが好ましい。さらに、採取した試料を前処理するために抽出部30又は30a,30bを遠心分離機に装着する遠沈管などの反応容器に投入する場合には、抽出部30又は30a,30bの大きさも使用する反応容器に投入できる大きさに設定しておくのが好ましい。
【0061】
図7A、
図7Bは第4の実施例を表わす。この実施例の特徴は、流路部分10bの終端部に液溜まり空間10dが設けられている点にある。液溜まり空間10dは、毛細管現象によって液を吸引しないような大きさの断面積を少なくともその入口部分(液溜まり空間10dの先端側端部)にもち、空気穴22はこの液溜まり空間10dの基端側端部に通じている。液溜まり空間10dは、流路部分10aの導入流路10cのうち空気穴22よりも基端側(図において上側)にある部分の内部容量以上の内部容量を有する。
【0062】
液溜まり空間10dの入口部の断面積は、例えば流路部分10bの他の部分の断面積の2倍以上である。液溜まり空間10dの入口部の断面寸法の一例は、幅が3mm、深さが1.5mm程度である。
【0063】
流路部分10bの終端部にかかる液溜まり空間10dを設けることの利点として、次のことが挙げられる。
【0064】
まず、液溜まり空間10dは毛細管現象によって試料を吸引しないため、試料吸入口16から吸引された試料は、空気穴22の位置まで達することなく、液溜まり空間10dの入口部分で停止することとなる。これにより、抽出部10内に採取される試料の量を増やすことなく、流路部分10a,10b内への試料採取量を確保することができる。
【0065】
さらに、試料吸入口16から吸引された試料は液溜まり空間10dの入口部分で停止するため、遠心分離が施される前では、液溜まり空間10d内に試料がない状態となる。なお,液溜まり空間10dの内面を疎水性にすることで、液溜まり空間10dの入口部分において、より確実に試料を停止させることができる。この状態で遠心分離が施されると、試料が平衡状態となることによって余剰となった試料は液溜まり空間10d内に貯留される。液溜まり空間10dの内部容量は、流路部分10aの導入流路10cのうち空気穴22よりも基端側(図において上側)にある部分の内部容量以上であるため、余剰となった試料のすべてが液溜まり空間10d内に貯留されることとなる。これにより、余剰となった試料が流路部分10bから溢れ出て空気穴22から排出されることを抑制することができる。
【0066】
なお、この実施例では示されていないが、この実施例においても、
図1Bに示されているような、空気穴22からの試料の飛散を防止するためのカバー32を設けてもよい。また、上記第2の実施例のように、抽出部30の数は1つであってもよい。さらには、上記第3の実施例のように、抽出部30が、流路10aが通る部分30aと流路10bが通る部分30bに分離できるようになっていてもよい。
【0067】
図8は第5の実施例を表わす。この実施例の特徴は、2本の流路部分10a,10bのうち、抽出部30(
図8では30aと30b)を切断するための切断部28を通過する部分10e,10fが、抽出部30(
図8では30aと30b)を通過する他の部分よりも細くなっている点にある。その細くなっている流路部分10e,10fの断面積は、例えば、流路部分10a,10bのうち抽出部30を通過する他の部分の断面積の1/2以下であり、例えば幅が0.4mm、深さが0.6mm程度である。その他の構成は上記第1から第4の実施例のいずれかと同様の構成でよい。
【0068】
2本の流路部分10a,10bのうち、抽出部30(
図8では30aと30b)を切断するための切断部28を通過する部分10e,10fが、抽出部30(
図8では30aと30b)を通過する他の部分よりも細くなっていることにより、抽出部30(
図8では30aと30b)を切断した際に、流路端面から試料が漏れにくくなる。結果として抽出部30の定量性も向上する。
【0069】
本発明の実施形態のホルダ40は、
図6A、
図6Bに示されるように、円盤状の支持部42に試料採取装置2を嵌め込んで保持する複数個の凹部44が放射状に配置されて形成されたものである。
図6A、
図6Bでは1つの凹部44に試料採取装置2が嵌め込まれた状態を示している。このホルダ40を遠心分離処理に使用する際、又は試料採取装置2を保管するために使用する際には、一般には複数個又は全ての凹部44に試料採取装置2を嵌め込んで保持する。凹部44の数は特に限定されるものではなく、この実施例では15個としているが、任意に決めることができる。試料採取装置2をより多く保持できるようにする方が、一度の遠心分離操作で処理できる試料採取装置2の数が多くなり、また、ホルダ40に試料採取装置2を保持した状態で保管する場合には、より少ないスペースに多くの試料採取装置2を保管できるので、好都合である。
【0070】
ホルダ40を遠心分離機に装着するために、中心部に装着部としての穴46が開けられている。穴46の形状は遠心分離機の回転軸の形状に対応しており、回転軸に嵌め込まれることにより回転軸とともに回転できるようになっている。装着部の穴46の形状は遠心分離機に対応して決められる。遠心分離機が支持部42の周辺部に対応する位置に位置決め用のピンを備えたものであれば、ホルダ40は中心部の穴として回転軸を通すための円形の穴をもち、周辺部に位置決め用のピンに対応した位置に切欠きをもつようにすることができる。
【0071】
ホルダ40の凹部44の平面形状は、
図6Aの左部分に示されているように試料採取装置2の形状に対応したものである。凹部44の方位は、保持された試料採取装置2の基端と先端を結ぶ方向がホルダ40の半径方向となり、試料採取装置2の基端側がホルダ40の中心方向を向き、試料採取装置2の先端側がホルダ40の半径方向の外側を向くように設定されている。
【0072】
凹部44の深さは、保持された試料採取装置2が凹部44から脱離しない厚さであれば、試料採取装置2の厚みよりも浅くてもよい。この実施例では、
図6Bに示されるように、凹部44の深さは試料採取装置2の厚みと同じか、それよりも僅かに深くしている。凹部44の深さを試料採取装置2の厚みよりも深くすればするほど、ホルダ40に試料採取装置2を保持して、ホルダ40を厚み方向に積み重ねたとき、試料採取装置2とその上に重ねられたホルダ40の底面との間に無駄な空間が生じる。そのため、凹部44の深さは、この実施例のように、試料採取装置2の厚さに等しいか、それより僅かに深い程度が好ましい。
【0073】
凹部44には、試料採取装置2を保持したときに幅広部26に相当する部位に貫通穴48が形成されている。貫通穴48は、試料採取装置2をホルダ40に保持する際、又は遠心処理の後、ホルダ40から試料採取装置2を取り出す際に利用される。
【0074】
ホルダ40の材質は特に限定されない。試料採取装置2と同じ材質としてもよい。
【0075】
試料採取装置2を保持した状態のホルダ40を複数枚重ね、一番上には試料採取装置2を保持していない空のホルダ40を重ねて、遠心分離機に装着する。遠心分離機を作動させてホルダ40を回転させたとき、試料採取装置2には回転の中心から外向きに遠心力が働くが、凹部44内の試料採取装置2にはその上に重ねられたホルダ40の底面があるので、試料採取装置2がホルダ40から遠心力方向に飛び出すことはない。
【0076】
遠心処理後の試料採取装置2をホルダ40に保持した状態で冷凍保管することができる。ホルダ40に試料採取装置2を保持した状態も円盤状であるので、試料採取装置2を保持したホルダ40を積み重ねて保管することができる。
【0077】
次に本発明の実施形態の試料採取装置を用いて試料を採取し、分析試料とするための試料前処理方法の一実施例について述べる。
【0078】
この試料前処理方法は下記のステップ(A)から(C)を含む。
(A)上述の試料採取装置2を用い、試料吸込口16を試料、例えば血液、に接触させる。試料は毛細管現象により導入流路10cから流路10aから流路10bへと吸引され、空気穴22まで吸入される。
【0079】
(B)その後、試料採取装置2をホルダ40に保持し、そのホルダ40を重ねて遠心分離機に装着して試料に遠心分離処理を施す。この遠心分離処理では、装置本体4の基端12側から先端14側の方向に遠心力が作用し、試料が血液の場合には血球成分が流路10a、10bの先端側に集まり、基端側の抽出部30のある領域に血漿又は血清が集まる。
【0080】
(C)遠心分離処理の後、抽出部30、30a、30bを装置本体4から切り離して前処理液とともに遠沈管などの反応容器に入れて前処理を施す。
【0081】
さらに、試料が血液である場合、タンパク質が分析の障害になる場合には、前処理として、除タンパク処理も行う。除タンパク処理は、上記のステップ(C)の後、さらに反応容器に有機溶媒を添加してタンパク質を有機溶媒に溶解させ、遠心分離処理を施すことにより行うことができる。この処理により、タンパク質を溶解した有機溶媒が血漿又は血清から分離され、血漿又は血清からタンパク質が除かれる。