特許第6597918号(P6597918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597918
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】位置検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20191021BHJP
【FI】
   G01S5/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-563370(P2018-563370)
(86)(22)【出願日】2018年1月17日
(86)【国際出願番号】JP2018001256
(87)【国際公開番号】WO2018135539
(87)【国際公開日】20180726
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-8758(P2017-8758)
(32)【優先日】2017年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲
(72)【発明者】
【氏名】天知 伸充
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−101261(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/092858(WO,A1)
【文献】 特開2009−152660(JP,A)
【文献】 特開2016−223854(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3151068(JP,U)
【文献】 特開2009−243988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00− 5/14
G01S 1/00− 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のビーコン信号を第1の強度かつ第1の頻度で発信するとともに、第2のビーコン信号を前記第1の強度より大きい第2の強度かつ前記第1の頻度より低い第2の頻度で発信する発信器と、
互いに異なる既知の位置に設置され、前記第1のビーコン信号及び前記第2のビーコン信号の信号強度を測定する複数の受信器と、
前記第1のビーコン信号の前記複数の受信器のうちの1つの受信器で測定された信号強度に基づいて前記発信器の位置を検知する第1の処理と、前記第2のビーコン信号の前記複数の受信器のうちの2つ以上の受信器で測定された信号強度に基づいて前記発信器の位置を検知する第2の処理と、を行う計算器と、
を備える位置検知システム。
【請求項2】
前記発信器は、前記第1のビーコン信号及び前記第2のビーコン信号に、ビーコン信号が第1のビーコン信号及び第2のビーコン信号の何れであるかを示す種別情報を含めて発信する、
請求項1に記載の位置検知システム。
【請求項3】
前記発信器は、前記第1のビーコン信号を単一の周波数チャネルで発信し、前記第2のビーコン信号を複数の周波数チャネルで発信する、
請求項1又は2に記載の位置検知システム。
【請求項4】
前記発信器は、第1のビーコン信号を発信した後、第1の待機時間の経過後に、後続の第1のビーコン信号を発信し、第2のビーコン信号を発信した後、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間の経過後に、後続の第1のビーコン信号を発信する、
請求項1から3の何れか1項に記載の位置検知システム。
【請求項5】
前記発信器は、移動体に取り付けられ、
前記複数の受信器のうち少なくとも1つの受信器は、前記移動体の動線上に配置されている、
請求項1から4の何れか1項に記載の位置検知システム。
【請求項6】
前記複数の受信器は、前記第2のビーコン信号の到達範囲の面積あたり3個以上の密度で設置されている、
請求項1から5の何れか1項に記載の位置検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位置検知システムに関し、特には、発信器から発信される信号を用いて当該発信器の位置を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発信器から発信される信号を用いて当該発信器の位置を検知する技術がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示される位置検出システムは、位置検出すべき対象物からの第1の信号と、あらかじめ位置確認がなされた複数の位置からの第2の信号とを受信する受信器と、受信器が受信した第1の信号と第2の信号を用いて、対象物の位置を検出する位置検出手段とを具備している。
【0004】
特許文献1の位置検出システムによれば、同一の電波環境(例えば、同じ障害物の影響下)で、第1の信号の電界強度と第2の信号の電界強度とを比較するので、精度の高い位置検出が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3587448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、発信器から発せられるビーコン信号を用い、かつ位置検知の高速性に優れた位置検知システムを検討している。そのような位置検知システムは、例えば、工場フロア内での半製品に発信器を付し、半製品の各工程での管理点(例えば、投入点及び搬出点)の通過をピンポイントかつ迅速に検知するといった、工程履歴管理への応用が想定される。
【0007】
工程履歴管理への応用では、半製品が管理点を通過したことを迅速に検知する必要から、位置検知の高速化が求められる。これに対し、例えば、単純にビーコン信号の発信頻度を上げることにより位置検知を高速化することはできる。しかしながら、そうすると、発信器の平均消費電力が増大し、電池交換の頻度が増すといった不便が生じる。また、多数の発信器が高頻度でビーコン信号を発信することで、ビーコン信号の輻輳が生じ易くなる懸念もある。
【0008】
そこで、本発明は、位置検知の高速性に優れ、かつ発信器の平均消費電力の増大やビーコン信号の輻輳が生じにくい位置検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る位置検知システムは、第1のビーコン信号を第1の強度かつ第1の頻度で発信するとともに、第2のビーコン信号を前記第1の強度より大きい第2の強度かつ前記第1の頻度より低い第2の頻度で発信する発信器と、互いに異なる既知の位置に設置され、前記第1のビーコン信号及び前記第2のビーコン信号の信号強度を測定する複数の受信器と、前記第1のビーコン信号の前記複数の受信器のうちの1つの受信器で測定された信号強度に基づいて前記発信器の位置を検知する第1の処理と、前記第2のビーコン信号の前記複数の受信器のうちの2つ以上の受信器で測定された信号強度に基づいて前記発信器の位置を検知する第2の処理と、を行う計算器と、を備える。
【0010】
この構成によれば、第1のビーコン信号は小さい発信強度かつ高い発信頻度で発信される。そのため、単純に第1のビーコン信号の発信頻度を上げる場合と比べて、発信器の平均消費電力は抑制される。
【0011】
第1のビーコン信号は、到達範囲が狭く、発信器が受信器に近づいたときにその受信器のみで受信されるので、発信頻度が高くても輻輳が生じにくい。また、第1のビーコン信号は、発信頻度が高いので、発信器が受信器に近づくと直ちに受信される。そのため、第1のビーコン信号を用いることで、発信器が特定の受信器の近傍にあることがピンポイントでかつ迅速に検知される。
【0012】
また、第2のビーコン信号は大きい発信強度で発信されるため、到達範囲が広く、複数の受信器での受信が可能である。そのため、第1のビーコン信号が受信できない場合でも、第2のビーコン信号の2つ以上の受信器での信号強度を用いて発信器の位置を検知できる。また、第2のビーコン信号は、発信頻度が低いので、到達範囲が広くても輻輳が生じにくく、また、発信器の平均消費電力を過度に増大させることもない。
【0013】
これにより、位置検知の高速性に優れ、かつ発信器の平均消費電力の増大やビーコン信号の輻輳が生じにくい位置検知システムが得られる。
【0014】
また、前記発信器は、前記第1のビーコン信号及び前記第2のビーコン信号に、ビーコン信号が第1のビーコン信号及び第2のビーコン信号の何れであるかを示す種別情報を含めて発信してもよい。
【0015】
この構成によれば、受信されたビーコン信号が、第1のビーコン信号および第2のビーコン信号のいずれであるか、種別情報により判別できるので、第1のビーコン信号と第2のビーコン信号とに異なる処理を適用するための制御が容易になる。
【0016】
また、前記発信器は、前記第1のビーコン信号を単一の周波数チャネルで発信し、前記第2のビーコン信号を複数の周波数チャネルで発信してもよい。
【0017】
この構成によれば、検知エリア内に第1のビーコン信号及び第2のビーコン信号と同一の周波数チャネルを使用する他の無線信号がある場合、消費電力の増加を抑えつつ、他の無線信号からの妨害を軽減することができる。
【0018】
具体的に、到達範囲の狭い第1のビーコン信号が受信できる場合、発信器と受信器とは十分に近接していて、第1のビーコン信号と同一の周波数チャネルを使用する他の無線信号があったとしても、実質的な妨害になりにくい。そこで、第1のビーコン信号は単一の周波数チャネルで発信することで、消費電力の増加を回避する。
【0019】
他方、第2のビーコン信号は複数の周波数チャネルで発信することで、受信器において、他の無線信号が使用していない周波数チャネルで発信された第2のビーコン信号を、確実に受信できるようにする。
【0020】
また、前記発信器は、第1のビーコン信号を発信した後、第1の待機時間の経過後に、後続の第1のビーコン信号を発信し、第2のビーコン信号を発信した後、前記第1の待機時間より長い第2の待機時間の経過後に、後続の第1のビーコン信号を発信してもよい。
【0021】
この構成によれば、発信器を電池駆動する場合、大強度の第2のビーコン信号を発信すると電池電圧が一時的に大きく低下するため、長い第2の待機時間を設けて電池電圧の回復を待つことで、後続の第1のビーコン信号がより安定的に発信可能になる。
【0022】
また、前記発信器は、移動体に取り付けられ、前記複数の受信器のうち少なくとも1つの受信器は、前記移動体の動線上に配置されていてもよい。
【0023】
この構成によれば、移動体の位置が、動線上に配置された受信器の位置で、ピンポイントでかつ迅速に検出されるので、例えば、工程履歴管理などに応用できる。
【0024】
また、前記複数の受信器は、前記第2のビーコン信号の到達範囲の面積あたり3個以上の密度で設置されていてもよい。
【0025】
この構成によれば、第2のビーコン信号を用いて3辺測量を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、位置検知の高速性に優れ、かつ発信器の平均消費電力の増大やビーコン信号の輻輳が生じにくい位置検知システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施の形態1に係る位置検知システムの設置例を示す概念図である。
図2図2は、実施の形態1に係る位置検知システムに設けられる通信ネットワークの構成例を示す模式図である。
図3図3は、実施の形態1に係る位置検知システムの機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施の形態1に係るビーコン信号の発信強度及び発信頻度の一例を示す図である。
図5図5は、実施の形態1に係るRSSI測定用パケットのフォーマットの一例を示す図である。
図6図6は、実施の形態1に係るRSSI報告用パケットのフォーマットの一例を示す図である。
図7図7は、実施の形態1に係る発信器位置検知処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施の形態2に係る位置検知システムの設置例を示す平面図である。
図9図9は、実施の形態3に係るビーコン信号の周波数チャネルの一例を示す図である。
図10図10は、実施の形態3に係るビーコン信号の効果を説明する図である。
図11図11は、実施の形態4に係るビーコン信号の発信タイミングの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさ又は大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0029】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る位置検知システムは、互いに異なる既知の位置に設置された複数の受信器で発信器から発せられるビーコン信号の信号強度を測定し、測定された信号強度に基づいて当該発信器の位置を検知するシステムである。
【0030】
図1は、位置検知システム100の設置例を示す概念図である。図1の例では、施設内を移動する移動体10a〜10cに、ビーコン信号を発信する発信器が取り付けられる。また、施設内に、固定局20a〜20g及びサーバ30が設置される。固定局20a〜20gは、移動体10a〜10cから発せられたビーコン信号の信号強度を測定する受信器を有している。信号強度は、典型的には、受信信号強度指標RSSIで表される。
【0031】
図2は、位置検知システム100に設けられる通信ネットワークの構成例を示す模式図である。図2に示されるように、固定局20a〜20gは、無線メッシュネットワーク41を構成しており、固定局20gは、ローカルエリアネットワーク(LAN)やインターネットなどの通信網42と接続するゲートウェイ装置(ルータ)を有する。ゲートウェイ装置は、固定局20a〜20gの何れが有していてもよく、また固定局20a〜20gとは別体に設けられてもよい。固定局20a〜20g及びサーバ30は、無線メッシュネットワーク41及び通信網42を介して、互いに通信可能に接続される。
【0032】
図3は、位置検知システム100の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0033】
移動体10a〜10cには、発信器11が取り付けられている。
【0034】
発信器11は、2種類のビーコン信号B1、B2を発信する。ビーコン信号B1、B2については、後ほど詳しく説明する。発信器11は、例えば、Zigbee(登録商標)やBluetooth(登録商標) low energy(以下、BLEと称する)などの省電力性に優れた近距離無線通信規格に従って動作する無線装置であってもよい。
【0035】
固定局20a〜20gは、受信器21、通信器22、及び制御器23を有する。固定局20gは、ルータ24を、さらに有する。
【0036】
受信器21は、発信器11から発信されたビーコン信号B1、B2のRSSIを測定する。受信器21は、例えば、発信器11と同一の無線通信規格に従って動作する無線装置であってもよい。
【0037】
通信器22は、固定局20a〜20fを相互に接続する無線メッシュネットワーク41を構成する。通信器22は、例えば、Zigbee(登録商標)やBLEなどの省電力性に優れた近距離無線通信規格に従って動作する無線装置であってもよい。通信器22が、ビーコン信号B1、B2用の無線通信規格と同一の無線通信規格で動作する場合、通信器22と受信器21とは、その一部又は全部を兼用してもよい。
【0038】
制御器23は、固定局20a〜20gの動作を制御する。制御器23は、例えば、プロセッサ、メモリ、入出力ポートなどを有するワンチップマイコン(図示せず)であってもよい。制御器23は、メモリに記録されているプログラムをプロセッサが実行することにより果たされるソフトウェア機能により、固定局20a〜20gの動作を制御してもよい。
【0039】
ルータ24は、無線メッシュネットワーク41と通信網42との間で、データを中継する。ルータ24は、通信網42と接続するネットワークアダプタを含んでもよい。
【0040】
サーバ30は、通信器32及び計算器33を有する。
【0041】
通信器32は、サーバ30と固定局20a〜20gとを、通信可能に接続する。通信器32は、例えば、通信網42と接続するネットワークアダプタであってもよい。
【0042】
計算器33は、受信器21で測定されたビーコン信号B1、B2のRSSIを、通信器32を介して取得し、取得したRSSIに基づいて、発信器11の位置を検知する。発信器11の位置を検知することは、ある受信器21の近くに発信器11がいると検知すること、および複数の受信器21で囲まれる範囲内に発信器11がいると検知することを含む。計算器33は、例えば、プロセッサ、メモリなどを、バスで接続してなる汎用のコンピュータ装置(図示せず)であってもよい。計算器33は、メモリに記録されているプログラムをプロセッサが実行することにより果たされるソフトウェア機能により、ビーコン信号B1、B2のRSSIの取得及び発信器11の位置の検知を行ってもよい。
【0043】
次に、発信器11から発信されるビーコン信号B1、B2について説明する。
【0044】
図4は、ビーコン信号B1、B2の発信強度及び発信頻度の一例を示す図である。
【0045】
発信器11は、ビーコン信号B1を、強度p1かつ頻度f1で発信するとともに、ビーコン信号B2を、強度p1より大きい強度p2かつ頻度f1より低い頻度f2で発信する。ここで、ビーコン信号B1及びビーコン信号B2が、それぞれ第1のビーコン信号及び第2のビーコン信号の一例である。図4では、ビーコン信号B1、B2の発信間隔を、発信頻度f1、f2の逆数1/f1、1/f2で概念的に表している。
【0046】
強度p1、p2は、特には限定されないが、一例として、受信器21の配置と関連して次のように設定されてもよい。すなわち、強度p1は、ビーコン信号B1が高々1つの受信器21に到達できる狭い到達範囲を持つ大きさに設定される。また、強度p2は、発信器11が検知エリア内のどこにあっても、ビーコン信号B2が3つ以上の受信器21に到達できる広い到達範囲を持つ大きさに設定される。
【0047】
頻度f1、f2は、位置検知システム100の仕様に応じて、適宜設定されればよい。限定されない一例として、頻度f1は1秒間隔(つまり、1/f1=1秒)、頻度f2は12秒間隔(つまり、1/f2=12秒)としてもよい。また、ビーコン信号B1、B2の発信タイミングが重なった場合、ビーコン信号B1の発信を省略し、ビーコン信号B2のみを発信してもよい。
【0048】
ビーコン信号B1、B2は、無線メッシュネットワーク41の通信規格で規定されるブロードキャストパケットで表された、RSSI測定用パケットであってもよい。
【0049】
図5は、RSSI測定用パケットのフォーマットの一例を示す図である。図5の例では、RSSI測定用パケット(つまり、ビーコン信号B1、B2)は、プリアンブルP、送信元ID、ブロードキャストフラグB、ビーコン種別、及びRSSI測定用データの5つのフィールドを含むブロードキャストパケットである。
【0050】
プリアンブルPは、通信規格で規定されたパケットの開始端を示すビット列である。
【0051】
送信元IDは、ビーコン信号を発信した発信器11のIDを示す情報である。
【0052】
ブロードキャストフラグBは、パケットが特定の宛先IDを含まず、すべてのノードを宛先としていることを示す情報である。
【0053】
ビーコン種別は、パケットがビーコン信号B1、B2の何れであるかを示す種別情報である。ビーコン種別は、一例として、ビーコン信号B1、B2を、それぞれ0、1で表す1ビットの情報であってもよい。
【0054】
RSSI測定用データは、RSSIの測定に用いられる任意のデータである。
【0055】
発信器11は、ビーコン信号B1、B2として、図5に示されるRSSI測定用パケットを、図4に示される発信強度及び発信頻度で発信する。
【0056】
固定局20a〜20gにおいて、受信器21は、ビーコン信号B1、B2のRSSIを測定し、通信器22は、測定結果を含むRSSI報告用パケットを、サーバ30へ送信する。
【0057】
RSSI報告用パケットは、無線メッシュネットワーク41の通信規格で規定されるユニキャストパケットで表されてもよい。
【0058】
図6は、RSSI報告用パケットのフォーマットの一例を示す図である。図6の例では、RSSI報告用パケットは、プリアンブルP、送信元ID、宛先ID、及び測定結果の4つのフィールドを含むユニキャストパケットである。
【0059】
送信元IDは、RSSIを測定した(つまり、RSSI測定用パケットを受信した)受信器21のIDを示す情報である。
【0060】
宛先IDは、ゲートウェイ装置を有する固定局20gの通信器22のIDを示す情報である。
【0061】
測定結果は、RSSI測定用パケットに含まれる発信器ID及びビーコン種別のコピーと、RSSIの測定値とを表すデータである。
【0062】
RSSI報告用パケットは、固定局20a〜20gの通信器22で中継されていき、固定局20gのルータ24から通信網42を介して、サーバ30へ送信される。
【0063】
次に、上記のように構成される位置検知システム100において行われる発信器位置検知処理について説明する。
【0064】
図7は、発信器位置検知処理の一例を示すフローチャートである。図7は、1つの発信器11について位置検知を行う処理の一例であり、例えば、発信器11を付した移動体10a〜10cが検知エリアに進入し、発信器11からのビーコン信号が、固定局20a〜20gのいずれかの受信器21で最初に受信されたときに起動される。図7の処理は、複数の発信器11の各々について並行して行われてもよい。
【0065】
サーバ30は、固定局20a〜20gからRSSI報告用パケットを受信し、ビーコン信号B1、B2のRSSIの測定結果を収集し、収集した測定結果を、ビーコン信号B1の発信頻度f1、及びビーコン信号B2の発信頻度f2で集計する(S101)。
【0066】
ビーコン信号B1の発信頻度f1で集計した測定結果の中に、ビーコン信号B1の1つの受信器21でのRSSIがあれば(S102でYES)、当該RSSIに基づいて発信器11の位置を検知する第1の処理を行う(S103)。
【0067】
第1の処理は、例えば、当該RSSIがしきい値以上であれば、発信器11が受信器21の近傍にいると検知する処理である。
【0068】
また、ビーコン信号B2の発信頻度f2で集計した測定結果の中にビーコン信号B2の2つ以上の受信器21でのRSSIがあれば(S104でYES)、当該RSSIに基づいて発信器11の位置を検知する第2の処理を行う(S105)。
【0069】
第2の処理は、例えば、発信器11が、2つ以上の受信器21のそれぞれからRSSIに応じた距離離れた地点にいると検知する処理である。
【0070】
このような発信器位置検知処理によれば、ビーコン信号B1の到達範囲が狭くかつ発信頻度f1が高いという特徴を活かし、ビーコン信号B1が1つの受信器21で受信されたときに、発信器11がその受信器21の近傍にあることをピンポイントでかつ迅速に検知できる。また、ビーコン信号B2の到達範囲が広いという特徴を活かし、ビーコン信号B2の2つ以上の受信器21での信号強度から、発信器11の推定位置を、広域的に算出できる。
【0071】
なお、ビーコン信号B1を用いて第2の処理と同様の位置検知を行ってもよい。すなわち、ビーコン信号B1の発信頻度f1で集計した測定結果の中に、ビーコン信号B1の2つ以上の受信器21でのRSSIがある場合、発信器11が、2つ以上の受信器21のそれぞれからRSSIに応じた距離離れた地点にいると検知してもよい。
【0072】
以上説明したように、位置検知システム100によれば、ビーコン信号B1は小さい発信強度p1かつ高い発信頻度f1で発信される。そのため、位置検知の高速性を得るために単純にビーコン信号の発信頻度を上げる場合と比べて、発信器11の平均消費電力は抑制される。
【0073】
ビーコン信号B1は、到達範囲が狭く、発信器11が受信器21に近づいたときにその受信器21のみで受信されるので、発信頻度f1が高くても輻輳が生じにくい。また、ビーコン信号B1は、発信頻度f1が高いので、発信器11が受信器21に近づくと直ちに受信される。そのため、ビーコン信号B1を用いることで、発信器11が特定の受信器21の近傍にあることがピンポイントでかつ迅速に検知される。
【0074】
また、ビーコン信号B2は大きい発信強度p2で発信されるため、到達範囲が広く、複数の受信器21での受信が可能である。そのため、ビーコン信号B1が受信できない場合でも、ビーコン信号B2の2つ以上の受信器21での信号強度を用いて発信器11の位置を検知できる。また、ビーコン信号B2は、発信頻度f2が低いので、到達範囲が広くても輻輳が生じにくく、また、発信器11の平均消費電力を過度に増大させることもない。
【0075】
これにより、位置検知の高速性に優れ、かつ発信器の平均消費電力の増大やビーコン信号B1、B2の輻輳が生じにくい位置検知システム100が得られる。
【0076】
(実施の形態2)
実施の形態2では、位置検知システムの工程履歴管理への応用例について説明する。
【0077】
図8は、実施の形態2に係る位置検知システム101の設置例を示す平面図である。位置検知システム101は、工場フロア内に工程ごとの製造設備50a〜50gとともに設置され、製造設備50a〜50gによって順次処理される半製品の工程履歴管理を行う。位置検知システム101では、半製品が移動体の一例である。
【0078】
図8では、移動体10a、10b及び固定局20a〜20sが示され、サーバは省略されている。移動体10a、10b、及び固定局20a〜20sの構成は、図3と同様であるため説明を省略する。
【0079】
移動体10a、10bに取り付けられた発信器11は、実施の形態1での説明と同様、2種類のビーコン信号B1、B2を発信する。図8では、ビーコン信号B1、B2の到達範囲の半径を、それぞれr1、r2とし、移動体10a、10bから、ビーコン信号B1、B2が、それぞれ発信されている様子が示されている。
【0080】
固定局20a〜20gは、移動体10a、10bの動線上、つまり工場フロア内での半製品の動線上に配置されている。より具体的には、半製品の工程ごとの製造設備50a〜50gへの投入点に配置されている。固定局20a〜20gは、製造設備50a〜50gへの投入点には限られず、製造設備50a〜50gからの搬出点に配置されてもよい。つまり、固定局20a〜20gは、各工程での管理点に設置されればよい。
【0081】
また、固定局20a〜20sは、ビーコン信号B2が工場フロア内のどこから発信された場合でも、固定局20a〜20sのうちの3つ以上の固定局の受信器21に到達できる位置に配置されている。言い換えれば、受信器21は、ビーコン信号B2の到達範囲の面積あたり3個以上の密度で設置されている、固定局20h〜20sは、そのような密度を得るために、移動体10a、10bの動線上でない位置に補助的に設置されたものであってもよい。
【0082】
上述の位置検知システム101によれば、位置検知システム100の効果に加えて、次のような効果が得られる。
【0083】
すなわち、ビーコン信号B1は到達範囲が狭いため、発信器11が受信器21の近傍に移動したときにのみ検知可能となる。また、ビーコン信号B1は送信頻度が高いため、発信器11が受信器21の近傍に移動すると直ちに検知される。このような特徴を活かし、工場フロア内で各工程の投入口付近に受信器21を配置することで、半製品の工程管理点の通過を迅速に検知できる、工程履歴管理に適した位置検知システム101が得られる。
【0084】
半製品の工程管理点の通過は、半製品に付したバーコードの読み取りによって検知することもできるが、読み取り作業が非常に煩雑である。この点、位置検知システム101によれば、大幅な省力化が期待できる。
【0085】
また、ビーコン信号B2は到達範囲が広いため、発信器11が工場フロア内のどこにあっても、複数台の受信器21で検出可能である。そのため、例えば、工場フロア内で行方不明になった半製品の所在検知などに有用である。
【0086】
(実施の形態3)
実施の形態3では、ビーコン信号を複数の周波数チャネルで発信する位置検知システムについて説明する。
【0087】
図9は、実施の形態3に係るビーコン信号B1、B2の周波数チャネルの一例を示す図である。ビーコン信号B1、B2を、例えば、BLE規格に従ってブロードキャスト発信する場合を考える。BLEではブロードキャスト用に37ch(2402MHz)、38ch(2426MHz)、39ch(2480MHz)の3つの周波数チャネルが割り当てられている。図9の例では、ビーコン信号B1を単一の周波数チャネル(37ch)で発信し、ビーコン信号B2を3つの周波数チャネル(37ch、38ch、39ch)すべてで発信している。
【0088】
図10は、ビーコン信号B1を単一の周波数チャネルで発信し、ビーコン信号B2を複数の周波数チャネルで発信する効果を説明する図である。
【0089】
図10の上段の平面図には、図8の位置検知システム101とともに、工場フロア内に設置された無線LAN機器60a、60bを示している。無線LAN機器60a、60bは、それぞれ無線信号W1、W2を送信する。無線信号W1、W2は、検知エリア内にあって、ビーコン信号B1、B2と同一の周波数チャネルを使用する他の無線信号の一例である。
【0090】
図10の下段のグラフは、ビーコン信号B1、B2及び無線信号W1、W2の、固定局20mを通る直線X上での電界強度を示している。
【0091】
図10を参照して、固定局20mでビーコン信号B1、B2を受信する場合について説明する。
【0092】
到達範囲の狭いビーコン信号B1が固定局20mで受信できる場合、移動体10aと固定局20mとは十分に近接している。そのため、無線信号W1、W2が、ビーコン信号B1と同じ周波数チャネルであったとしても、ビーコン信号B1に対する実質的な妨害になりにくい(電界強度EB1≫電界強度EW1、EW2)。つまり、ビーコン信号B1は、狭域での位置検知に用いることを想定しているため、無線信号W1、W2との周波数チャネルの衝突を避ける必要性が小さい。
【0093】
そこで、ビーコン信号B1は単一の周波数チャネルで発信すること、すなわち発信回数を削減することで、消費電力の増加を回避する。
【0094】
他方、固定局20mにおいて、ビーコン信号B2は、無線信号W1に対する余裕が小さい(電界強度EB2>電界強度EW1)。つまり、ビーコン信号B2を無線信号W1と同じ周波数チャネルで発信すると、妨害を受けやすい。
【0095】
そこで、ビーコン信号B2は複数の周波数チャネルで発信することで、無線信号が使用していない周波数チャネルで発信されたビーコン信号B2を、固定局20mで確実に受信できるようにする。
【0096】
このようにして、検知エリア内にビーコン信号B1、B2と同一の周波数チャネルを使用する他の無線信号がある場合、消費電力の増加を抑えつつ、他の無線信号からの妨害を軽減することができる。
【0097】
(実施の形態4)
実施の形態4では、ビーコン信号B1、B2の発信後、後続のビーコン信号B1の発信までにそれぞれ異なる待機時間を設ける位置検知システムについて説明する。
【0098】
図11は、ビーコン信号B1、B2の発信タイミングの一例を示すグラフである。図11の上段のグラフには、ビーコン信号B1、B2の発信タイミングを示している。図11の下段のグラフには、ビーコン信号B1、B2の発信に伴う電池電圧の変動の一例を示している。
【0099】
図11の例では、ビーコン信号B1を発信した後は、待機時間t1の経過後に、後続のビーコン信号B1を発信するのに対し、ビーコン信号B2を発信した後は、待機時間t1より長い待機時間t2(すなわちt2>t1)の経過後に、後続のビーコン信号B1を発信している。
【0100】
ビーコン信号B2は消費電力が大きいため、ビーコン信号B2の発信後には一時的に電池電圧が低下する。ビーコン信号B2の発信後に、ビーコン信号B1の発信後と比べて長い待機時間t2を設けることで、電池電圧を回復させることができ、後続のビーコン信号B1を安定的に発信することができる。
【0101】
また、ビーコン信号B2の発信直後は、ビーコン信号B2を受信した多くの受信器がRSSI報告用パケットを発信する。RSSI報告用パケットは無線メッシュネットワーク41内のすべての受信器21で転送されることから、一時的に無線メッシュネットワーク41内のトラフィックが急増することとなる。
【0102】
そこで、ビーコン信号B2の発信後、後続のビーコン信号B1の発信までの間を空けることにより、メッシュネットワーク内のトラフィックが減少するのを待つことができ、これによりパケットの輻輳を回避することができる。
【0103】
以上、本発明の実施の形態に係る位置検知システムについて説明したが、本発明は、個々の実施の形態には限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、例えば、工場フロアにおける半製品の工程履歴管理など、各種施設における物品や人の位置の検知に広く利用できる。
【符号の説明】
【0105】
10a〜10c 移動体
11 発信器
20a〜20s 固定局
21 受信器
22 通信器
23 制御器
24 ルータ
30 サーバ
32 通信器
33 計算器
41 無線メッシュネットワーク
42 通信網
50a〜50g 製造設備
60a、60b 無線LAN機器
100、101 位置検知システム
B1、B2 ビーコン信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11