(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工ダメージを抑制する方法は、5kVの低電圧で仕上げ加工を行う、Arイオンにより前記加工ダメージを除去する、前記TEM観察前にイオンミリングによって表面をクリーニングする、の少なくともいずれかである、請求項10または11に記載の評価方法。
前記デジタル白黒画像の取得においては、30万倍以上の倍率でフォーカス調整をした後で、10万倍の前記デジタル白黒画像を取得する、請求項10〜14のいずれか1項に記載の評価方法。
前記輝度取得領域において、前記デジタル白黒画像中で最長となるように前記領域縦長さに対して垂直な領域横長さを設定する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の評価方法。
前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから前記複数の前記デジタル白黒画像を取得する際に、前記複数の前記デジタル白黒画像が、前記デジタル白黒画像の前記縦方向に対して垂直な前記横方向において連続するように取得する、請求項10〜17のいずれか1項に記載の評価方法。
倍率40万倍〜200万倍のTEM画像より算出される、前記多結晶セラミックスの平均結晶子サイズが3nm以上50nm以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合構造物。
前記構造物が、希土類元素の酸化物、フッ化物、および酸フッ化物並びにそれらの混合物から選択される、請求項1〜9、21、22のいずれか一項に記載の複合構造物。
前記希土類元素が、Y、Sc、Yb、Ce、Pr、Eu、La、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項23に記載の複合構造物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
複合構造物
本発明による複合構造物の基本構造を、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明による複合構造物100の断面模式図である。構造物10は、基材70の表面70aの上に設けられる。この構造物10は、表面10aを備える。この表面10aは、当該複合構造物に構造物10により付与される物性・特性が求められる環境において、当該環境に晒される面である。したがって、例えば、本発明による複合構造物が、構造物10により耐パーティクル性という物性・特性が付与された複合構造物にあっては、当該複合構造物の表面10は、プラズマなど腐食性ガスに曝される面である。本発明において、構造物10は、多結晶セラミックスを含む。さらに、本発明による複合構造物が備える構造物10は、後記する第1乃至第5の態様における指標において所定の値を示す。
【0020】
本発明による複合構造物が備える構造物10は、いわゆるセラミックコートである。セラミックコートを施すことにより、基材70に種々の物性・特性を付与することが出来る。なお、本明細書にあっては、構造物(またはセラミック構造物)とセラミックコートとは、特に断らない限り、同義に用いる。
【0021】
本発明の一つの態様によれば、構造物10は多結晶セラミックスを主成分する。多結晶セラミックスの含有量は、70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。最も好ましくは、構造物10は、100%の多結晶セラミックスからなる。
【0022】
また、本発明の一つの態様によれば、構造物10が多結晶領域とアモルファス領域とを含むものであってもよいが、構造物10が多結晶のみから構成されることがより好ましい。
【0023】
結晶子サイズの測定方法
本発明において構造物10を構成する多結晶セラミックスの大きさは、下記測定条件により得られる平均結晶子サイズとして3nm以上50nm以下である。さらに好ましくはその上限は30nmであり、より好ましくは20nm、さらに好ましくは15nmである。またその好ましい下限は5nmである。本発明におけるこの「平均結晶子サイズ」は、倍率40万倍以上で透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission electron Microscope)画像を撮影し、この画像において結晶子15個の円形近似による直径の平均値より算出した値である。このとき、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工時のサンプル厚みを30nm程度に十分薄くする。これにより、より明確に結晶子を判別することができる。撮影倍率は、40万倍以上の範囲で適宜選択することができる。
図11は、結晶子サイズ測定のためのTEM画像の例である。具体的には、
図11は倍率200万倍における構造物10のTEM画像である。図中、10cで示される領域が結晶子である。
【0024】
構造物10を構成するセラミックスは、上記のとおり、基材70に付与を望む物性・特性により適宜決定されてよく、金属酸化物、金属フッ化物、金属窒化物、金属炭化物、またはそれらの混合物であってよい。本発明の一つの態様によれば、耐パーティクル性に優れる化合物として、希土類元素の酸化物、フッ化物、酸フッ化物(LnOF)、またはそれらの混合物が材料として挙げられる。より具体的には上記希土類元素Lnとして、Y、Sc、Yb、Ce、Pr、Eu、La、Nd、Pm、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luが挙げられる。
【0025】
また、絶縁性の構造物10の場合には、Al
2O
3、ZrO
2、AlN、SiC、Si
3N
4、コージェライト、フォルステライト、ムライト、シリカ、等の材料を用いることができる。
【0026】
本発明において、構造物10の膜厚は、求められる用途、特性、膜強度等を勘案して適宜決定されてよい。一般的には、0.1〜50μmの範囲であり、上限は例えば20μm、10μm、または5μm、さらに1μm以下であってもよい。ここで、構造物10の膜厚は、例えば構造物10を切断し、その破断面のSEM観察により確認することができる。
【0027】
本発明において、基材70は、構造物10により機能が付与される対象であり、適宜決定されてよい。その材質を例示すれば、セラミックス、金属、および樹脂などが挙げられ、さらにそれらの複合物であってもよい。複合物の例としては、樹脂とセラミックスの複合基材や、繊維強化プラスチックとセラミックスの複合基材などが挙げられる。また、その形状も特に限定されず、平板、凹面、凸面などであってもよい。
【0028】
本発明の一つの態様によれば、構造物10と接合する基材70の表面70aは平滑であることが、良好な構造物10の形成のために好ましい。本発明の一つの態様によれば、基材70の表面70a表面に、例えば、ブラスト、物理的研磨、ケミカルメカニカルポリッシング、ラッピング、化学的研磨、の少なくともいずれかを施し、表面70aの凹凸を除去する。このような凹凸除去は、その後の表面70aが、例えばその2次元の算術平均粗さRaが0.2μm以下より好ましくは0.1μm以下、または2次元の算術平均高さRzが3μm以下となるよう行われることが好ましい。
【0029】
本発明による複合構造物は、半導体製造装置内の各種部材、とりわけ腐食性プラズマ雰囲気に暴露される環境において用いられる部材として好適に用いることが出来る。半導体製造装置内部の部材には、既に述べたように耐パーティクル性が求められる。本発明による複合構造物が備える多結晶セラミックスを含む構造物は、高い耐パーティクル性を有するからである。
【0030】
本発明による複合構造物を、腐食性プラズマ雰囲気に暴露される環境において用いられる部材として用いる場合、構造物10を構成するセラミックの組成としては、Y
2O
3、イットリウムオキシフッ化物(YOF、Y
5O
4F
7,Y
6O
5F
8,Y
7O
6F
9およびY
17O
14F
23)、(YO
0.826F
0.17)F
1.174、YF
3、Er
2O
3、Gd
2O
3、Nd
2O
3、Y
3Al
5O
12、Y
4Al
2O
9、Er
3Al
5O
12、Gd
3Al
5O
12、Er
4Al
2O
9、ErAlO
3、Gd
4Al
2O
9、GdAlO
3、Nd
3Al
5O
12、Nd
4Al
2O
9、NdAlO
3、等が挙げられる。
【0031】
耐プラズマ性
後記する第1から第5の態様による指標により規定される本発明による複合構造物は、耐プラズマ性を備える。その耐プラズマ性は、以下に述べる耐プラズマ性試験を、一つの基準法として評価することができる。以下、本明細書において、この耐プラズマ性試験を「基準耐プラズマ性試験」と呼ぶ。
【0032】
本発明の一つの態様として、「基準耐プラズマ性試験」後の構造物10の表面10aの算術平均高さSaが0.060以下である複合構造物が好ましく、より好ましくは0.030以下のものである。算術平均高さSaについては後述する。
【0033】
「基準耐プラズマ性試験」のための、プラズマエッチング装置として、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング装置(Muc−21 Rv−Aps−Se/住友精密工業製)を使用する。プラズマエッチングの条件は、電源出力としてICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)の出力を1500W、バイアス出力を750W、プロセスガスとしてCHF
3ガス100ccmとO
2ガス10ccmの混合ガス、圧力を0.5Pa、プラズマエッチング時間を1時間とする。
【0034】
プラズマ照射後の構造物10の表面10aの状態をレーザー顕微鏡(例えば、OLS4500/オリンパス製)により撮影する。観察条件等の詳細は後述する。
【0035】
得られたSEM像から、プラズマ照射後の表面の算術平均高さSaを算出する。ここで、算術平均高さSaとは、2次元の算術平均粗さRaを3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。具体的には、算術平均高さSaは、表面形状曲面と平均面とで囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。すなわち、平均面をxy面、縦方向をz軸とし、測定された表面形状曲線をz(x、y)とすると、算術平均高さSaは、次式で定義される。ここで、式(1)の中の「A」は、測定面積である。
【数1】
【0036】
算術平均高さSaは、測定法に基本的には依存しない値であるが、本明細書における「基準耐プラズマ性試験」にあっては、以下の条件下で算出される。算術平均高さSaの算出にはレーザー顕微鏡を用いる。具体的には、レーザー顕微鏡「OLS4500/オリンパス製」を使用する。対物レンズはMPLAPON100xLEXT(開口数0.95、作動距離0.35mm、集光スポット径0.52μm、測定領域128×128μm)を用い、倍率を100倍とする。うねり成分除去のλcフィルターは25μmに設定する。測定は、任意の3箇所で行い、その平均値を算術平均高さSaとする。その他、三次元表面性状国際規格ISO25178を適宜参照する。
【0037】
本発明の第1の態様
本発明の第1の態様の基礎となる知見として、本発明者らは、例えば半導体製造装置等の腐食性プラズマ環境に曝される状況で用いられる多結晶セラミックスを含む構造物を備えた複合構造物において、パーティクルの影響を極めて小さくすることに成功した。そして、二次イオン質量分析法(Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry_D−SIMS法)により測定される、構造物に含まれる水素量を指標として用いることで、極めて高いレベルで耐パーティクル性能を評価できることを見出した。
【0038】
本発明の第1の態様による複合構造物は、基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、前記構造物が多結晶セラミックスを含み、二次イオン質量分析法(Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry_D−SIMS法)により測定される、測定深さ500nmまたは2μmのいずれかにおける、単位体積あたりの水素原子数が、7*10
21atoms/cm
3以下であるものである。
【0039】
図18は、複合構造物の微構造について説明するための模式的断面図である。
図18において、(a)は従来の複合構造物110、(b)は本発明に係る複合構造物100である。図中、80がナノレベルの粗構造を表し、90が水分子(OH基)を表している。
図18では理解を容易にするために、ナノレベルの粗構造80のサイズを大きくしているが、実際には複合構造物100、110のいずれも、SEM等による従来の評価方法での気孔率は0.01〜0.1%である。
【0040】
本発明者らは、気孔率が0.01〜0.1%と低い構造物であっても依然としてパーティクル課題を解決できない場合があることに着目し、より高いレベルでパーティクル課題を解決できる新規な構造物を得ることに成功した。従来の構造物によってパーティクル課題を解決できない原因として、構造物中の微構造として、ナノレベルの粗密ばらつきがあり、この粗構造80におけるプラズマ耐性が密構造と比べて低いと考えた。そして、ナノレベルと僅かな粗構造80には、例えば大気中に含まれる水分子(OH基)が存在していると考え、この定量を行うことで、耐パーティクル性との相関が得られると考えた。つまり水分子(OH基)の水素量を定量することで、より高いレベルでパーティクル課題を解決できる新規な構造物の構成を特定することができることを見出した。
【0041】
具体的には、
図18において、本発明の複合構造物100では、従来の複合構造物110と比べて、粗構造80が少なく、粗構造80に存在する水分子(OH基)も少ないと考えられる。後述する二次イオン質量分析法(D−SIMS法)により、構造物10の水素量(単位体積あたりの水素原子数)を定量することにより、耐パーティクル性と関連付けることができる。
【0042】
本発明の第1の態様における水素量測定用試料作成
本発明の第1の態様において、水素量測定用の試料は、例えば以下の方法で作成することができる。
【0043】
まず、構造物10を備えた複合構造物を予めダイシング加工機などで切り出す。このとき、
図8及び
図9のサンプル取得箇所40に対応する部分を切り出す。その大きさは任意とされてよいが、例えば3mm×3mm〜7mm×7mm、厚み3mm程度とする。なお、サンプルの厚さは用いる測定装置等に従い適宜決定されてよく、基材70において構造物10が形成されていない側の面を削る等により調整する。構造物10の表面10aは、研磨等により、2次元の表面粗さのパラメータである算術平均粗さRaを0.1μm以下、より好ましくは0.01μmとする。構造物10の厚さは少なくとも500nm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上とする。
【0044】
本発明における水素量測定方法であるD−SIMS法では、一般に、標準試料を用いて測定する。標準試料としては、測定対象の試料と同組成、同構造のものを用いることが望ましい。例えば、試料を少なくとも2個作成し、そのうちの1つを標準試料とすることができる。標準試料の詳細については後述する。
【0045】
水素量測定前の試料の状態について説明する。
【0046】
前述のとおり、本発明では、構造物100のナノレベルの粗構造の特定方法に水素量を用いている。そのため、水素量測定前の試料を所定時間、恒温恒湿槽に放置する等の管理が重要となる。具体的には、本発明では、試料を室温20−25℃、湿度60%±10%、大気圧の状態で24時間以上放置した後で水素量を測定するものとする。
【0047】
本発明の第1の態様における水素量の測定
次に、本発明の第1の態様における水素量の測定方法について説明する。
【0048】
本発明において、水素量は、二次イオン質量分析法:Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry(D−SIMS法)により測定する。装置として、例えば、CAMECA製 IMF−7fを用いる。
【0050】
まず、構造物表面に、導電性の白金(Pt)を蒸着する。測定条件として、一次イオン種にはセシウム(Cs)イオンを用いる。一次加速電圧を15.0kV、検出領域を8μmφとする。測定深さは、500nmおよび2μmとする。
【0051】
耐パーティクル性は、プラズマ雰囲気に直接曝露される、構造物表面の性状に大きく依存する。したがって、構造物において、少なくとも表面から深さ500nm程度の領域における水素量を定量することで、水素量と耐パーティクル性とを有効的に結びつけることができる。一方で、構造物の厚さが十分に大きく、かつ表面から測定対象深さまでの微構造が略均質な場合には、2μm程度の領域までを測定対象とすることで、定量結果の信頼性を高めることができる。なお、構造物10が、基材70側の下部領域10bと、表面10a側の上部領域10uと、を有し(
図1参照)、その耐パーティクル性を、例えば上部領域10uにおいて下部領域10bよりも高めるような積層構造としている場合には、上部領域10uの領域のみの水素量を定量可能なように、測定深さを設定することが好ましい。この観点より、測定深さ500nmまたは2μmのいずれかにおいて、本発明において規定される水素量であればよい。好ましくは、測定深さ500nmおよびは2μmのいずれにおいても、本発明の水素量を満たす。
【0052】
水素量の測定には、測定用試料と、標準試料とを用意する。
【0053】
標準試料は、測定条件に関わる因子を打ち消すことを目的として、分析対象イオン種の信号強度を試料のマトリックス元素を含むイオン種の信号強度で規格化する為にSIMS法で一般的に用いられる。より具体的には、評価試料と、評価試料と同等なマトリックス成分をもった試料である評価試料用の標準試料と、Si単結晶と、Si単結晶用の標準試料と、を用いる。評価試料用の標準試料とは、評価試料と同等なマトリックス成分を持った試料に対して、重水素を注入したものである。このとき同時にSi単結晶にも重水素を注入し、評価試料用の標準試料とSi単結晶に同等な重水素が注入されたと仮定する。その後、Si単結晶用の標準試料を用いて上記Si単結晶に注入された重水素量を同定する。評価試料用の標準試料に対して、二次イオン質量分析法(D−SIMS法)を用いて重水素と構成元素の二次イオン強度を算出し、
相対感度係数を算出する。評価試料用の標準試料から算出した
相対感度係数を用いて、評価試料の水素量を算出する。その他については、ISO 18114_“Determining relative sensitivity factors from ion-implanted reference materials”(International Organization for Standardization, Geneva, 2003)を参考にすることができる。
【0054】
本発明では、複合構造物を構成する構造物に含まれる、二次イオン質量分析法(Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry_D−SIMS法)により測定される、測定深さ500nmまたは2μm以下のいずれかにおける、単位体積あたりの水素原子数が7*10
21atoms/cm
3以下である。
【0055】
本発明の構造物では、その表面が、例えばプラズマ雰囲気などに直接曝露される。そのため、特に構造物表面の性状が重要となる。本発明者らは、気孔率が0.01〜0.1%とほとんど気孔を含まない構造物であっても、ナノレベルの微構造の影響でパーティクル課題が依然として解決できていないと考え検討した結果、このナノレベルの微構造を制御することに成功し、より高いレベルでパーティクル課題を解決できる新規な構造物を得た。また、この新規な構造物の構成を表面の水素量(単位体積あたりの水素原子数)を指標として特定できることを新たに見出した。そして構造物表面の水素量と耐パーティクル性との相関を見出し本発明に想到したものである。
【0056】
具体的には、例えば大気中において、水素原子は、例えば水酸基(−OH)などの状態で存在すると考えられる。分子の大きさは、水分子で3Å、水酸基が1Å程度であり、構造物の、前述の粗構造80などにわずかに存在するものと考えられる。この水素量を指標とすることで、ナノレベルの微構造を表すことができる。
【0057】
本発明において、構造物の水素量として、D−SIMSで測定した、測定深さ500nmまたは2μmのいずれかにおける、単位体積あたりの水素原子数が7*10
21atoms/cm
3以下である。単位体積あたりの水素原子数は、好ましくは5*10
21atoms/cm
3以下である。
【0058】
なお、本発明による複合構造物の構造物における水素量は、少なければ少ないほど好ましいと考えられるが、事実上の測定限界も存在することも当業者には明らかである。したがって、本態様における水素量の下限は測定限界とする。この点は、以下の第2の態様にあっても同様である。
【0059】
本発明の第2の態様
本発明の第2の態様にあっては、本発明の第1の態様と同様、水素量を指標とするが、水素前方散乱分析法(HFS)−ラザフォード後方散乱分光法(RBS)(RBS−HFS法)およびプロトン−水素前方散乱分析法(p−RBS法)により測定される水素量を指標にする。すなわち、本発明者らは、例えば半導体製造装置等の腐食性プラズマ環境に曝される状況で用いられるY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む構造物を備えた複合構造物において、パーティクルの影響を極めて小さくすることに成功した。そして、水素前方散乱分析法(HFS)−ラザフォード後方散乱分光法(RBS)(RBS−HFS法)およびプロトン−水素前方散乱分析法(p−RBS法)により測定される、構造物に含まれる水素量を指標として用いることで、極めて高いレベルで耐パーティクル性能を評価できることを見出した。
【0060】
本発明の第2の態様による複合構造物は、基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、前記構造物が多結晶セラミックスを含み、水素前方散乱分析法(HFS)−ラザフォード後方散乱分光法(RBS)(RBS−HFS法)およびプロトン−水素前方散乱分析法(p−RBS法)により測定される水素原子濃度が7原子%以下であるものである。
【0061】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様と水素量の測定方法において相違し、それに基因する変更が加えられた場合を除いては、本明細書における第1の態様の説明は第2の発明の説明となる。
【0062】
本発明の第2の態様における水素量測定用試料作成
本発明の第2の態様において、水素量測定用の試料は、例えば以下の方法で作成することができる。
【0063】
まず、構造物10を備えた複合構造物を予めダイシング加工機などで切り出す。このとき、
図8及び
図9のサンプル取得箇所40に対応する部分を切り出す。その大きさは任意とされてよいが、例えば20mm×20mm、厚み5mm程度とする。なお、サンプルの厚さは用いる測定装置等に従い適宜決定されてよくは、基材70において構造物10が形成されていない側の面を削る等により調整する。構造物10の表面10aは、研磨等により、2次元の表面粗さのパラメータである算術平均粗さRaを0.1μm以下、より好ましくは0.01μmとする。構造物10の厚さは少なくとも500nm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上とする。
【0064】
水素量測定前の試料の状態について説明する。
【0065】
前述のとおり、本発明では、構造物100のナノレベルの粗構造の特定方法に水素量を用いている。そのため、水素量測定前の試料を所定時間、恒温恒湿槽に放置する等の管理が重要となる。具体的には、本発明では、試料を室温20−25℃、湿度60%±10%、大気圧の状態で24時間以上放置した後で水素量を測定するものとする。
【0066】
本発明の第2の態様における水素量の測定
次に、水素量の測定方法について説明する。
【0067】
本発明において、水素量の測定には、Hydrogen Forward scatteringSpectrometry(HFS)/ Rutherford Backscattering Spectorometry(RBS)法(以降、RBS−HFS法と称す)と、プロトン(proton)を用いたRBS法(以降、p−RBSと称す)とを組合せる。装置には、例えば、National Electrostatics Corporation社製 Pelletron 3SDHを用いることができる。
【0068】
水素量の定量方法についてさらに説明する。
【0069】
ヘリウム(He)元素を用いたRBS-HFS法を実施する。構造物にヘリウム(He原子)を照射し、後方散乱されたHe原子、前方散乱されたH原子を検出する。後方散乱されたHe原子のエネルギースペクトルについては、エネルギースペクトルが最も大きい元素から順にフィッティングを行い、散乱強度を算出する、また、前方散乱されたH原子のエネルギースペクトルについてもフィッティングを行い、散乱強度を算出する。算出された各々の散乱強度を基に、構造物中の元素の平均原子数の比率を算出することができる。例えば、構造物がイットリウム酸化物である場合、検出されたHe原子のエネルギースペクトルが最も大きいY元素のフィッティングを行い、散乱強度を算出する、続いて、O元素のフィッティングを行い、散乱強度を算出する。なお、エネルギースペクトルが最も大きい元素の特定には、エネルギー分散型X線分析(EDX)法等の他の手法を組み合わせることが好ましい。
【0070】
上記RBS-HFS法により、構造物中の構造物中の元素の平均原子数の比率が測定されるが、その測定精度を高めるために、本発明ではさらにプロトン(H
+)を用いたp−RBS法により、構造物中の、前記水素以外の平均原子数の比率を再度測定する。算出の際には、RBS-HFS法と同様に測定されるエネルギースペクトルが最も大きい元素から順にフィッティングを行い、散乱強度を算出する。算出された各々の散乱強度を基に、構造物中の元素の平均原子数の比率を算出する。そして、p−RBS法で測定した平均原子数の比率と、RBS−HFS法で測定した検出されたHe原子のエネルギースペクトルが最も大きい元素(例えば、構造物がイットリウム酸化物である場合、検出されたHe原子のエネルギースペクトルが最も大きい元素はY)と水素の平均原子数の比率、とを組み合わせることにより、水素量を水素原子濃度(原子%)として算出する。
【0071】
本発明において、p−RBS法とRBS−HFS法とを行う順番は特に問わない。
【0073】
RBS−HFS法
入射イオンには4He
+を用いる。入射エネルギーは2300KeVとし、入射角75°、散乱角160°、反跳角30°とする。試料電流2nA、ビーム径1.5mmφとし、照射量は8μCとする。面内回転は無とする。
【0074】
p−RBS法
入射イオンには水素イオン(H
+)を用いる。入射エネルギーは1740KeVとし、入射角0°、散乱角160°、反跳角なしとする。試料電流1nA、ビーム径3mmφとして、照射量は19μCとする。面内回転は無とする。
【0075】
RBS−HFS法に加え、p−RBS法を組み合わせることによって、より水素原子濃度の測定精度を高めることができ、水素量(水素原子濃度)をパーティクルと関連付けて定量することが可能となる。
【0076】
本発明の複合構造物を構成する構造物に含まれる水素原子濃度は7原子%以下である。本発明の構造物では、その表面が、例えばプラズマ雰囲気などに直接曝される。そのため、特に構造物表面の性状が重要となる。本発明者らは、気孔率が0.01〜0.1%とほとんど気孔を含まない構造物であっても、ナノレベルの微構造の影響でパーティクル課題が依然として解決できていないと考え検討した結果、このナノレベルの微構造を制御することに成功し、より高いレベルでパーティクル課題を解決できる新規な構造物を得た。また、この新規な構造物の構成は表面の水素量(水素原子濃度)を指標として特定できることを新たに見出した。そして構造物表面の水素量と耐パーティクル性との相関を見出し本発明に想到したものである。
【0077】
具体的には、例えば大気中において、水素原子は、例えば水酸基(−OH)などの状態で存在すると考えられる。分子の大きさは、水分子で3Å、水酸基が1Å程度であり、構造物の、前述の粗構造80などにわずかに存在するものと考えられる。この水素量(水素原子濃度)を指標とすることで、ナノレベルの微構造を表すことができる。
【0078】
本発明では、水素量の特定方法として、p−RBS法とRBS−HFS法とを組み合わせた方法を用いている。これらの方法では、試料表面にヘリウムイオンまたは水素イオンを入射させ、弾性散乱により水素が前方へ、ヘリウムが後方へ散乱され、この水素を検出することで水素量を定量している。このとき、水素量の測定深さは、表面10aから400〜500nmとなる。したがって、構造物10において、耐パーティクルに最も影響する表面10aの微構造を適切に定量化することができる。
【0079】
本発明の第3の態様
本発明の第3の態様の基礎となる知見として、輝度Saという新たな指標が、極めて高いレベルでの耐パーティクル性能と高い相関性を有することを見出した。その上で輝度Saが所定値以下とされた、耐パーティクル性に優れた構造物の作成に成功した。すなわち、極めて高い耐パーティクル性を有する構造物を得、さらに、その耐パーティクル性を輝度Saで定量化できることを見出した。そしてさらに、輝度Saを得る評価方法を確立した。
【0080】
さらに本発明者らは、耐パーティクル性と相関する輝度Saが、セラミックスの構造、とりわけ、気孔率が0.01〜0.1%と評価されるような構造において、更なる微細な構造(微構造)を評価可能な指標であることを見出した。
【0081】
本発明の第3の態様による複合構造物は、
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物が多結晶セラミックスを含んでなり、
以下の方法により算出される輝度Sa値が19以下であることを特徴とする、複合構造物:
前記輝度Saを得る方法が、
(i)前記構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察試料を用意する工程と、
(ii)前記TEM観察試料の明視野像のデジタル白黒画像を用意する工程と、
(iii)前記デジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値を取得する工程と、
(iv)前記輝度値を補正する工程と、
(v)前記補正後の輝度値を用いて輝度Saを算出する工程と
を備えてなり、
前記工程(i)において、
前記TEM観察試料は、前記構造物から、少なくとも3つ用意されるものであり、
前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれは、集束イオンビーム法(FIB法:Focused Ion Beam法)を用い、加工ダメージを抑制して作成されるものであり、
前記FIB加工時に、構造物の表面には帯電防止および試料保護のためのカーボン層およびタングステン層が設けられ、
前記FIB加工方向を縦方向としたときに、前記縦方向に対して垂直な平面における、構造物表面の短軸方向の長さである試料上部厚みは100±30nmであって、
前記工程(ii)において、
前記デジタル白黒画像は前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれについて取得されるものであり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10万倍、加速電圧200kVで、前記構造物、前記カーボン層、及び前記タングステン層を含んでおり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれにおいて、前記構造物の前記表面から前記縦方向に0.5μmを領域縦長さとする輝度取得領域を設定し、
この輝度取得領域の面積の合計が6.9μm
2以上となるように、前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数の前記デジタル白黒画像を取得するものであって、
前記工程(iv)において、
前記輝度値について、前記カーボン層の輝度値を255、前記タングステン層の輝度値を0として相対的に補正して補正後の輝度値を取得し、
前記工程(v)において、
前記輝度取得領域のそれぞれに対して、最小二乗法を用いて前記ピクセル毎の前記補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を輝度Saとする
ことを特徴とするものである。
【0082】
また、本発明の第3の態様による評価方法は、
多結晶セラミックスを含み、表面を有する構造物の微構造の評価方法であって、
(i)前記構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察試料を用意する工程と、
(ii)前記TEM観察試料の明視野像のデジタル白黒画像を用意する工程と、
(iii)前記デジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値を取得する工程と、
(iv)前記輝度値を補正する工程と、
(v)前記補正後の輝度値を用いて輝度Saを算出する工程と
を備えてなり、
前記工程(i)において、
前記TEM観察試料は、前記構造物から、少なくとも3つ用意されるものであり、
前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれは、集束イオンビーム法(FIB法)を用い、加工ダメージを抑制して作成されるものであり、
前記FIB加工時に、構造物の表面には帯電防止および試料保護のためのカーボン層およびタングステン層が設けられ、
前記FIB加工方向を縦方向としたときに、前記縦方向に対して垂直な平面における、構造物表面の短軸方向の長さである試料上部厚みは100±30nmであって、
前記工程(ii)において、
前記デジタル白黒画像は前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれについて取得されるものであり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10万倍、加速電圧200kVで、前記構造物、前記カーボン層、及び前記タングステン層を含んでおり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれにおいて、前記構造物の前記表面から前記縦方向に0.5μmを領域縦長さとする輝度取得領域を設定し、
この輝度取得領域の面積の合計が6.9μm
2以上となるように、前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数の前記デジタル白黒画像を取得するものであって、
前記工程(iv)において、
前記輝度値について、前記カーボン層の輝度値を255、前記タングステン層の輝度値を0として相対的に補正して補正後の輝度値を取得し、
前記工程(v)において、
前記輝度取得領域のそれぞれに対して、最小二乗法を用いて前記ピクセル毎の前記補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を輝度Saとする
ことを特徴とするものである。
【0083】
本発明の第3の態様における輝度Sa
本発明の第3の態様にあって、構造物の微構造は、「輝度Sa」と呼ぶ指標により表される。この「輝度Sa」は、以下に詳細に説明するように、透過型電子顕微鏡(TEM)により得られた当該構造物の明視野像のデジタル白黒画像のピクセル情報を定量化して得た指標である。本発明による複合構造物の構造物は、輝度Saが19以下であることを特徴とするものであり、好ましくは13以下である。
【0084】
本発明者らは、耐パーティクル性と相関する輝度Saが、セラミックスの構造、とりわけ、気孔率が0.01〜0.1%と評価されるような構造において、更なる微細な構造を評価可能な指標であることを見出したことは上述した。したがって、本発明にあって、「微構造」とは、気孔率が0.01〜0.1%と評価されるような構造において、さらに高いレベルでの耐パーティクル性を備え、輝度Saにおいて差異を生じる領域での微細な構造を意味する。
【0085】
本明細書において「輝度値」とは、デジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調(0〜255)の数値で表したものである。ここで、「階調」とは、明るさの段階である。具体的には、白黒画像中の1ピクセル毎の色データを256個の異なる明るさの段階に応じた数値で表したものを輝度値と呼ぶ(「画像処理装置とその使い方」日刊工業新聞社、1989年、初版、227頁参照)。TEM白黒画像中の白黒の濃淡(contrast)が、輝度値として表される。
【0086】
本明細書において、「輝度Sa」とは、三次元表面性状に関する国際規格ISO25178に規定されたSa(算術平均粗さ:Arithmetical mean height of the surface)の概念をデジタルTEM画像の画像処理に応用したものである。デジタルTEM画像の輝度値を3次元表示した
図5を用いて具体的に説明する。
図5(a)は、TEM明視野像である構造物のデジタル白黒画像である。このデジタル白黒画像について、1ピクセル毎の色データを階調(0〜255)の数値で表し、その数値をZ軸方向に表したものが
図5(b)である。つまり、
図5(b)において、Z軸が輝度値であり、X-Y平面におけるピクセル毎の輝度値が3次元で表されている。この輝度値の3次元イメージを、ISO25178に規定される表面性状の3次元イメージ(例えば以下URL参照。https://www.keyence.co.jp/ss/3dprofiler/arasa/surface/)に見立て、評価領域に対して、最小二乗法を用いてピクセル毎の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、「輝度Sa」とする。
【0087】
次に、本明細書における「輝度Sa」は概略以下のとおり算出される。
【0088】
− 本発明における輝度Saの算出において、デジタル白黒画像を取得するためのTEM観察試料は、集束イオンビーム法(FIB法)を用い、加工ダメージを抑制して作成される。FIB加工時に、構造物の表面には帯電防止および試料保護のためのカーボン層およびタングステン層が設けられる。FIB加工方向を縦方向としたときに、縦方向に対して垂直な平面における、構造物表面の短軸方向の長さである試料上部厚みは100±30nmとする。ひとつの構造物から、TEM観察試料を少なくとも3つ用意する。
− 少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれについて、デジタル白黒画像を取得する。デジタル白黒画像は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10万倍、加速電圧200kVで取得する。デジタル白黒画像は、構造物、カーボン層、及びタングステン層を含む。
− デジタル白黒画像において、構造物表面から前記縦方向に0.5μmを領域縦長さとする輝度取得領域を設定する。この輝度取得領域の面積の合計が6.9μm
2以上となるように、少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数の前記デジタル白黒画像を取得する。
− 取得したデジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値について、カーボン層の輝度値を255、タングステン層の輝度値を0として相対的に補正する。
− 補正した輝度値を用い、以下のように輝度Saを算出する。すなわち、輝度取得領域のそれぞれに対して、最小二乗法を用いてピクセル毎の補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を輝度Saとする。
【0089】
以下において
図2〜
図9を参照しながら、上記輝度Saの算出方法をさらに詳細に説明する。
【0090】
図2は、輝度Saの算出方法を示すフローチャートである。このフローチャートに沿って以下説明する。
(i):TEM観察試料の用意
本工程は、TEM観察用の試料を用意する工程である。
図3を参照しながら、本工程を説明する。TEM観察試料は、集束イオンビーム法(FIB法、Focused Ion Beam法)により作成される。FIB法による加工では、観察目的の場所を狙って薄膜化することができる(「表面分析技術選書 透過型電子顕微鏡」日本表面化学会編、丸善株式会社、平成11年3月30日発行)。
【0091】
まず、構造物10を予めダイシング加工機などで切り出す。このとき、後述の
図8及び
図9のサンプル取得箇所40に対応する部分がまず切り出される。そして構造物表面10aに対してFIB加工を行い、
図3に示す形状に加工する。このとき、
図3中の矢印Lを縦方向とする。縦方向Lは、構造物10の厚さ方向と略平行である。なお、縦方向Lは前述のFIB加工方向において定義した縦方向と略同じ方向である。
【0092】
FIB加工について、より詳細に説明する。ダイシング加工後の構造物10の表面10aに、チャージアップの抑制および構造物表面10aの保護のためカーボン層50を蒸着する。カーボン層50の蒸着厚みは300nm程度とする。ここで、カーボン層50を形成する前に、構造物表面10aを研磨などにより平滑にすることが好ましい。
【0093】
カーボン層50が蒸着された構造物10を、次に、集束イオンビーム(FIB、Focused Ion Beam)装置を用いて薄片化する。具体的には、まず、カーボン層50を上にして、薄片化する部位の周辺にGaイオンビームを照射して、カーボン層50とともに構造物10の一部を切り出す。切り出した構造物10を、FIBピックアップ法により、タングステンデポジション機能を利用してFIB用TEM試料台に固定する。次いで、TEM観察試料90を得るために、切り出した構造物10を薄片化する。この薄片化の手順は、まず、構造物10のカーボン層50の上で、かつ、TEM観察用に薄片化する部位に、タングステンデポジション処理によりタングステン層60を形成する。タングステン層60を設けることにより、加工時において、GaイオンビームによるTEM観察試料表面の破壊を抑制することができる。蒸着されるタングステン層60の厚さは、500〜600nmである。そして、構造物をGaイオンで薄片化部位において両面から削り、所定厚み(図中矢印Tに沿う長さ)のTEM観察試料90を作製する。
【0094】
本発明においては、TEM観察試料90の作製時に、加工面の凹凸ダメージ等の加工ダメージを抑制するよう作成される。具体的には、FIB加工時の加速電圧は最大電圧の40kVから始め、最後は構造物加工面のダメージやアモルファス層の形成をできるだけ回避するために、最低電圧の5kVで仕上げ加工を行う。または、最終的にArイオンによってダメージ層を除去する。イオンミリングによって表面をクリーニングしてから観察を行ってもよい。これらFIB加工の詳細については、「FIB装置を用いた微細加工」(室井光裕、筑波大学技術報告24:69-72,2004)、「FIB・イオンミリング技法Q&A」(平坂雅男、朝倉健太郎著、アグネ承風社)を参照する。
【0095】
図3(a)及び
図3(b)は、以上のようにして得られたTEM観察試料90の模式図である。
図3(a)(b)に示すように、TEM観察試料90は、薄い直方体の形状を有する。
図3において、縦方向Lと垂直な2つの方向について、長軸方向を横方向W(図中矢印W)とし、短軸方向を厚み方向T(図中矢印T)とする。
図3(a)に示すように、TEM観察では、厚さ方向Tに電子線が透過する。
【0096】
図3(a)に示すように、Gaイオンによる薄片化は図面上方から行われるため、試料90はその上部厚さ90uよりも下部厚さ90bが大きくなる傾向を有する。ここで、上部厚さ90uとは、表面10a側における試料90の厚み方向Tの長さである。TEM観察試料90の厚みは、電子線の透過能に影響する。具体的には、試料厚さが大き過ぎる場合には、輝度Saの感度が鈍り、耐パーティクル性能との相関が得られない恐れがある。試料厚さが小さすぎる場合には、加工時の厚さ制御が困難であり、TEM観察試料90内で厚さばらつきが生じてしまい、耐パーティクル性能との相関が得られない恐れがある。本発明において、上部厚さ90uは100nm±30nm、より好ましくは100nm±20nmである。
【0097】
また、本発明にあってはTEMデジタル白黒画像を用いた画像解析より輝度Saを算出するため、TEM観察試料90の縦方向Lに沿う厚みの差(上部厚さ90uと下部厚さ90bとの差)がなるべく小さくなるように加工を行う。通常、試料は、
図3(a)に示す形態とされ、その試料高さ90h(縦方向Lの長さ)は10μm程度、試料幅90w(横方向Wの長さ)は十μm〜数十μm程度とする。
【0098】
TEM観察試料90の上部厚さ90uの確認方法は以下のとおりである。TEM観察試料90について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2次電子像(
図3(c)参照)を取得して、該二次電子像より上部厚さ90uを得る。SEMには、例えば、HITACHI製S−5500を用いる。SEM観察条件は、倍率20万倍、加速電圧2kV、スキャン時間40秒、画像数2560*1920ピクセルとする。このとき、該SEM画像が縦方向Lに垂直な平面となるようにする。このSEM画像のスケールバーを用いて、上部厚さ90uを得る。このとき、上部厚さ90uは5回の平均値とする。
【0099】
上部厚さ90uの代替的な確認方法をさらに示せば以下のとおりである。すなわち、2次電子像のデジタル画像について、厚み方向Tに沿って輝度値を測定し、輝度ラインプロファイルを取得する。このとき、ライン幅を11ピクセルとし、ライン幅方向の11ピクセル分の輝度値の平均値を用いる。このように取得される輝度ラインプロファイルの例を
図3(d)に示す。次いで、輝度ラインプロファイルを一次微分し、その一次微分の最大値と最小値を構造物10の端部として、構造物10の上部厚さ90uを得る(
図3(e)参照)。このとき、上部厚さ90uは、5つの輝度ラインプロファイルの平均値とする。
【0100】
本発明における輝度Saの算出においては、上述のTEM観察試料90を一つの複合構造物から少なくとも3つ用意する。少なくとも3つのTEM観察試料の用意について、
図8および9を用いてさらに説明する。
【0101】
図8および
図9は、複合構造物100を半導体製造装置部材301として用いた場合の例を示す模式図である。
図8では、半導体製造装置部材301において、円柱状の基材70の表面70aに構造物10が設けられている。
図9では、半導体製造装置部材302において、中央に孔31が設けられた円柱状の基材70の表面70aに構造物10が設けられている。
【0102】
半導体製造装置部材301および302において、構造物10の表面10aは、腐食性のプラズマに曝される。半導体製造装置部材301および302は、例えば、シャワープレート、フォーカスリング、ウィンドウ、サイトガラスなど、エッチングチャンバーの内壁を構成する部材である。構造物10が、プラズマ照射領域30aと、プラズマに曝されないプラズマ非照射領域30bとを有する場合、輝度Sa測定用サンプル取得箇所40をプラズマ照射領域30aに対応する箇所に設定する。このとき、特に多くのプラズマに照射される領域があれば、その領域に対応する構造物表面10aをサンプル取得箇所40に設定することで、耐パーティクル性と輝度Saとの相関性を高めることができる。
【0103】
本発明にあっては、TEM観察試料90を作成するための輝度Sa測定用サンプル取得箇所40を少なくとも3つとする。このとき、
図8および
図9に示すように、複数のサンプル取得箇所40を、プラズマ照射領域30a内にそれぞれ均等に配置する。それによって、複合構造物100の輝度Saと耐パーティクル性との高い相関性を担保することができる。
【0104】
(ii):TEM画像G(明視野像)の取得
この工程では、(i)で得た少なくとも3つのTEM観察試料90のそれぞれについて、断面を、TEMにより、撮影倍率10万倍、加速電圧200kVで観察して、構造物10、カーボン層50およびタングステン層60を含むTEM画像G(
図4参照)を取得する。TEM観察試料90の断面とは、すなわち、
図1に示す複合構造物100の断面であり、より具体的には構造物10の表面10a近傍を含む断面である。このとき、明視野像を取得する。明視野像とは、対物絞りに透過波のみを通して結像させた像である(「表面分析技術選書 透過型電子顕微鏡」日本表面化学会編、丸善株式会社、平成11年3月30日発行43〜44頁)。
【0105】
TEM画像Gの撮影には、例えば、透過型電子顕微鏡(H−9500/日立ハイテクノロジーズ製)を用いる。加速電圧は200kVとし、デジタルカメラ(OneView Camera Model 1095/Gatan製)によって、撮影画素4096×4096ピクセル、キャプチャースピード6fps、露光時間2secイメージキャプチャモードの設定がエクスポージャータイム、カメラ位置ボトムマウントで撮影する条件と同等の条件で行う。
図4に示すように、この画像Gの取得にあたり、構造物10、構造物表面10a、カーボン層50およびタングステン層60が同一視野内に入るようにする。
【0106】
本発明にあっては、デジタル画像の輝度情報ついての画像解析により輝度Saを算出する。そのため、撮影におけるフォーカス精度は極めて重要となる。したがって、例えば10万倍のTEM画像を取得する場合には、30万倍以上の高倍率でフォーカス調整をした後で、10万倍のTEM画像を取得する。
【0107】
デジタル白黒画像であるTEM画像Gを、
図4を用いてさらに説明する。
図4は、TEM画像G(明視野像)の模式図であり、図中、縦長Gl、横長Gwの四角形の部分がTEM画像Gである。
図4において、構造物10の表面10aの上に、工程(i)で蒸着されたカーボン層50と、タングステン層60に対応する画像がある。表面10aより下部の部分が構造物10に対応する。また、TEM画像Gでは、カーボン層50は白乃至薄い灰色に、タングステン層60は黒となる。
【0108】
なお、本明細書にあっては、TEM画像Gにおいて、構造物10、カーボン層50、タングステン層60が並ぶ方向、すなわち
図4における矢印Lにより示された方向を「縦方向」と、「縦方向」に対して垂直な、図中矢印Wの方向を「横方向」という。この縦方向Lは、
図3の縦方向Lに対応している。
【0109】
本発明による複合構造物が備える物性・特性、例えば耐パーティクル性は、その構造物の表面付近の性状が支配する。本発明者らは、構造物表面10aからの縦方向Lに沿う領域縦長さdLが0.5μmの領域における輝度Saが最も耐パーティクル性等の物性・特性に相関することを見出した。倍率10万倍で取得されるTEM画像の画像縦方向長さGlおよび画像横方向長さGwは、カメラにもよるが、それぞれ、1.5μm〜2.0μm程度であるのが一般的である。したがって、本発明では10万倍のTEM画像を用い、領域縦長さdLを0.5μmとして輝度取得領域Rを設定し、この輝度取得領域Rにおける輝度値から輝度Saを定めている。
【0110】
本発明では、輝度取得領域Rを各画像G毎に設定する。そして、輝度取得領域Rの面積の合計が6.9μm
2以上となるように、少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数のデジタル白黒画像を取得する。このとき、各々のTEM観察試料から得る画像Gの数が同じとなるようにする。輝度取得領域Rの面積の合計の詳細は後述する。
【0111】
(iii):輝度値の取得
次に、本工程では、前記工程(ii)において取得したデジタル白黒画像であるTEM画像Gにおける「縦方向」と「横方向」の座標ごとに、それに対応するピクセル毎の輝度値を取得する。ここには、画像G中のタングステン層の輝度値、カーボン層の輝度値も含まれる。
図5(a)は、取得したTEM画像Gの一例を示す平面図である。
図5(a)の矢印Yが
図3および4の縦方向Lに対応している。
図5(a)の矢印Xが
図3および4の横方向Wに対応している。
図5(b)は、画像Gにおいて、1ピクセルごとの輝度値を矢印Z方向に3次元的に表した図である。
【0112】
(iv):輝度値を補正する工程
次に、本工程では、前記工程(iii)において取得したTEM画像Gの輝度値の補正操作を行う。その具体的内容を
図6を用いて説明する。
図6(a)は、前記工程(iii)において取得したTEM画像Gの輝度値を、構造物10の縦方向と横方向の座標に対応するピクセル毎の輝度値を3次元的に表した図である。ここには、工程(iii)におけるのと同様、画像G中のタングステン層の輝度値、カーボン層の輝度値も含まれる。本工程では、これらピクセル毎の輝度値を、画像G中のタングステン層60の輝度値を0、画像G中のカーボン層50の輝度値を255として、構造物10に対応する輝度値をピクセル毎に相対的に補正する。上記のとおり、TEM画像Gでは、タングステン層60は黒に、カーボン層50は白乃至薄い灰色となる。本工程では、このタングステン層の輝度値0と、カーボン層の輝度値255の間に、構造物10のピクセル毎の輝度値を、相対値として補正して、定める。
図6(b)は、補正後の画像Gの輝度値を3次元的に表した図である。
図5と対比すれば、タングステン層60は黒に、カーボン層50は白乃至薄い灰色を基準に、構造物10における輝度値が、相対的に補正されたことが分かる。
【0113】
TEM画像Gにおいて、カーボン層50/タングステン層60のピクセル毎の輝度値には若干のばらつきがみられることが通常である。このばらつきの影響を無くすため、タングステン層の輝度値0と、カーボン層の輝度値255とする値は次のようにして決定する。タングステン層60の輝度値には、画像Gにおけるタングステン層60中の輝度値の最小値から連続して小さい順に1万ピクセル分の輝度値の平均値を用いる。また、カーボン層50の輝度値には、カーボン層50中の輝度値の最大値から連続して大きい順に10万ピクセル分の輝度値の平均値を用いる。ここで得られたそれぞれの平均値を、補正前のカーボン層50/タングステン層60の輝度値として扱う。複数のTEM画像Gについても同様に輝度値を補正する。
【0114】
(v):輝度Saの算出
本工程では、前記工程(iv)で得た画像Gの輝度値から輝度Saを算出する。具体的には、前述の輝度取得領域Rのそれぞれに対して(以下、それぞれの輝度取得領域をR
nと表現する)、最小二乗法を用いてピクセル毎の補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を領域R
nの輝度Sa
nとする。そして、輝度取得領域R
1+2+・・・+nの面積の合計が6.9μm
2以上となるように設定された複数の輝度取得領域R
nについて算出した輝度Sa
nの平均値を構造物10の輝度Saとする。
【0115】
本発明にあって、輝度Saと構造物が備える物性・特性、例えば耐パーティクル性との相関関係を高めるために、輝度Saを算出するにあたり、輝度取得領域Rの面積を6.9μm
2以上とする。この面積を超える領域を基礎に輝度Saを定めることで、構造物10において、その限定された領域で物性・特性のばらつきが生じる可能性のある場合にも、輝度Saと物性等との相関関係を正確・適正に表すことができる。
【0116】
ひとつのTEM観察試料90の大きさは、構造物10の表面面積、すなわちプラズマ照射面積に対して非常に小さい。一方で、構造物に付与される物性・特性、例えば耐パーティクル性は、原則として構造物表面全体に求められる。この点、本発明にあっては、輝度取得領域Rの合計面積6.9μm
2以上が求められ、かつ構造物10から少なくとも3つのTEM観察試料が作成される。つまり本発明にあっては、構造物表面全体の情報をできる限り網羅するように、複数のTEM観察試料が構造物表面から均等に取得されている。また、少なくとも3つ以上のTEM観察試料の取得にあたっては、構造物表面全体の情報が網羅されるよう、配慮がなされる必要がある。
【0117】
輝度Saは構造物が備える物性・特性、例えば耐パーティクル性と相関する。したがって、本発明によれば、構造物の輝度Saを算出することで、構造物の実際の耐パーティクル性の評価に代えて、その使用前に、構造物の耐パーティクル性等の性能を把握することができる。
【0118】
輝度Saの算出の工程を、輝度取得領域Rの面積に関する説明を中心にさらに詳細に述べる。
【0119】
輝度Saと耐パーティクル性との相関性を高めるために、本発明にあっては、画像Gにおける輝度取得領域Rを、その合計面積が6.9μm
2以上となるように設定する。具体的には、少なくとも3つのTEM観察試料から複数(n個)の画像G
nを取得し、それぞれの画像について領域R
nを設定する。そして、各画像Gnの輝度Sa
nの平均値を、構造物の輝度Saとする。
【0120】
図4、
図6(a)および、
図7(a)〜(b)を参照して、ひとつの画像G
1より輝度Sa
1を算出する方法について説明する。
【0121】
図4および
図6(a)に示すように、ひとつの画像G
1について、領域R
1を設定する。一つの領域R
1において、領域縦長さdLを0.5μmとする。これは、前述のとおり、構造物の表面付近の性状が構造物の物性・特性、例えば耐パーティクル性に最も相関があると考えられるためである。また、領域R
1における横方向Wの領域横長さdWとして、画像Gにおいて最長となるように設定する。一例として、倍率10万倍においては、領域横長さdWは1.5μm〜2.0μm程度である。つまり、倍率10万倍で撮影したひとつのTEM画像G
1について設定可能な領域R
1面積は0.75〜1.0μm
2となる。
【0122】
したがって、この例において、輝度取得領域R
nの合計面積を6.9μm
2とするために必要な画像Gの数は7〜9枚となる。一方、前述のように、本発明では、TEM観察試料90を少なくとも3つ用意し、それぞれのTEM観察試料90から同数のTEM画像Gを取得する。したがって、この例では、ひとつのTEM観察試料90につき3枚の画像Gを取得する。ひとつのTEM観察試料90から複数のTEM画像G
nを取得する場合、
図3(b)に示すとおり、複数の画像G
nが横方向Wにおいて連続するように取得する。また、複数枚の画像G
nの大きさ(画像縦方向長さGl、画像横方向長さGw)は、それぞれ略同じとする。それによって、例えば観察者間の測定ばらつきの影響を小さくすることができ、輝度Saと耐パーティクル性との相関をより高めることができる。
【0123】
本発明者らが、構造物表面10aから0.5μmの領域における輝度Saが最も構造物の物性・特性、例えば耐パーティクル性に相関することを見出したことは上記のとおりである。そのため、輝度Saを算出する際の領域Rにおいて、領域縦長さdLを0.5μmとしている。さらに、工程(i)において、
図3により説明したとおり、構造物10の表面10a方向から加工するため、加工精度を高めた場合でも、TEM観察試料90の試料上部厚さ90uよりも試料下部厚さ90dが大きいテーパー形状になる。したがって、構造物10の表面10aからの深さが大きくなるほど、電子ビームが透過しづらくなり、輝度値の感度が鈍くなる。つまり、画像Gにおいて、表面10a側に対して深さ方向にいくにつれて画像が全体的に暗い、すなわち黒っぽい画像となる。したがって、試料厚さの影響を十分に小さくするためには、領域縦長さdLを0.5μmとする必要がある。
【0124】
輝度取得領域Rを設定する際に、領域縦長さdLは、構造物10の表面10a近傍を基点に設定する。TEM画像Gにおいて、表面10aと、カーボン層50との間に隙間が観察される場合には、これを避けて領域Rを設定する必要がある。「表面10a近傍」とは、表面10aから5〜50nm程度の範囲を指す。具体的な設定の詳細は、後記実施例を参照に行うことができる。
【0125】
以上の工程(iii)〜(iv)における処理は、画像解析ソフトにおいて連続かつ一括して行うことができる。そのようなソフトとしては、WinROOF2015(三谷商事から入手可能)が挙げられる。を用いることができる。
【0126】
なお、本発明による複合構造物の構造物が備える輝度Saは小さければ小さいほど好ましいと考えられるが、事実上の製造における限界値が存在することも当業者には明らかである。このような製造上の限界が本発明にあっては輝度Saの下限値となるから、下限値が具体的に特定されていないことは、第3の態様による本発明を不明瞭にするものではない。この点は、以下の第4の態様にあっても同様である。
【0127】
本発明の第4の態様
本発明の第4の態様にあっては、本発明の第3の態様と同様輝度Saを指標とするが、第1の態様における輝度Saを得る方法における工程(iv)、つまり輝度値を補正する工程において、ノイズ成分を除く工程が付加されたことを特徴とする。したがって、そのノイズ成分を除く工程以外の本明細書における第3の態様の説明は第4の発明の説明となる。
【0128】
そして、本発明の第4の態様による複合構造物は、
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物が多結晶セラミックスを含んでなり、
以下の方法より算出される輝度Sa値が10以下であることを特徴とする、複合構造物:
前記輝度Saを得る方法が、
(i)前記構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察試料を用意する工程と、
(ii)前記TEM観察試料の明視野像のデジタル白黒画像を取得する工程と、
(iii)前記デジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値を取得する工程と、
(iv)前記輝度値を補正する工程と、
(v)前記補正後の輝度値を用いて輝度Saを算出する工程と
を備えてなり、
前記工程(i)において、
前記TEM観察試料は、前記構造物から、少なくとも3つ用意されるものであり、
前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれは、集束イオンビーム法(FIB法)を用い、加工ダメージを抑制して作成されるものであり、
前記FIB加工時に、構造物の表面には帯電防止および試料保護のためのカーボン層およびタングステン層が設けられ、
前記FIB加工方向を縦方向としたときに、前記縦方向に対して垂直な平面における、構造物表面の短軸方向の長さである試料上部厚みは100±30nmであって、
前記工程(ii)において、
前記デジタル白黒画像は前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれについて取得されるものであり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10万倍、加速電圧200kVで、前記構造物、前記カーボン層、及び前記タングステン層を含んでおり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれにおいて、前記構造物の前記表面から前記縦方向に0.5μmを領域縦長さとする輝度取得領域を設定し、
この輝度取得領域の面積の合計が6.9μm
2以上となるように、前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数の前記デジタル白黒画像を取得するものであって、
前記工程(iv)において、
前記輝度値について、前記カーボン層の輝度値を255、前記タングステン層の輝度値を0として相対的に補正して補正後の輝度値を取得し、
前記輝度値を補正した前記デジタル白黒画像について、ローパスフィルタを用いたノイズ除去を行うものであって、前記ローパスフィルタを用いたノイズ除去におけるカットオフ周波数(cut-off frequency)が1/(10ピクセル)であり、
前記工程(v)において、
前記輝度取得領域のそれぞれに対して、最小二乗法を用いて前記ピクセル毎の前記補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を輝度Saとする
ことを特徴とするものである。
【0129】
また、本発明による評価方法は、
多結晶セラミックスを含み、表面を有する構造物の微構造の評価方法であって、
(i)前記構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察試料を用意する工程と、
(ii)前記TEM観察試料の明視野像のデジタル白黒画像を取得する工程と、
(iii)前記デジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値を取得する工程と、
(iv)前記輝度値を補正する工程と、
(v)前記補正後の輝度値を用いて輝度Saを算出する工程と
を備えてなり、
前記工程(i)において、
前記TEM観察試料は、前記構造物から、少なくとも3つ用意されるものであり、
前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれは、集束イオンビーム法(FIB法)を用い、加工ダメージを抑制して作成されるものであり、
前記FIB加工時に、構造物の表面には帯電防止および試料保護のためのカーボン層およびタングステン層が設けられ、
前記FIB加工方向を縦方向としたときに、前記縦方向に対して垂直な平面における、構造物表面の短軸方向の長さである試料上部厚みは100±30nmであって、
前記工程(ii)において、
前記デジタル白黒画像は前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれについて取得されるものであり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率10万倍、加速電圧200kVで、前記構造物、前記カーボン層、及び前記タングステン層を含んでおり、
前記デジタル白黒画像のそれぞれにおいて、前記構造物の前記表面から前記縦方向に0.5μmを領域縦長さとする輝度取得領域を設定し、
この輝度取得領域の面積の合計が6.9μm
2以上となるように、前記少なくとも3つのTEM観察試料のそれぞれから複数の前記デジタル白黒画像を取得するものであって、
前記工程(iv)において、
前記輝度値について、前記カーボン層の輝度値を255、前記タングステン層の輝度値を0として相対的に補正して補正後の輝度値を取得し、
前記輝度値を補正した前記デジタル白黒画像について、ローパスフィルタを用いたノイズ除去を行うものであって、前記ローパスフィルタを用いたノイズ除去におけるカットオフ周波数(cut-off frequency)が1/(10ピクセル)であり、
前記工程(v)において、前記輝度取得領域のそれぞれに対して、最小二乗法を用いて前記ピクセル毎の前記補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出し、それらの平均を輝度Saとする
ことを特徴とするものである。
【0130】
このように、第4の態様による複合構造物は、輝度Saが10以下であることを特徴とするものであり、好ましくは5以下である。
【0131】
本発明の第4の態様においては、本発明の第3の態様におけるのと同様に輝度Saを求めるため、工程(i)、すなわち構造物の透過型電子顕微鏡(TEM)観察試料を用意する工程と、工程(ii)、すなわちTEM観察試料の明視野像のデジタル白黒画像を用意する工程と、そして工程(iii)、すなわちデジタル白黒画像中の1ピクセル毎の色データを階調の数値で表した輝度値を取得する工程が行われる。そしてさらに、工程(iv)において、輝度Saが、より正確・適正に構造物の微構造を表すものとなるよう、必要に応じて画像におけるノイズ成分を除く工程が行われる。TEM画像Gには、高い周波数成分を持つノイズが含まれており、これをこの付加工程において、フィルタにより除去する。本態様では画像Gについて、ローパスフィルタ(LPF, low-pass filter)を用いてノイズ除去を行う。画像処理におけるノイズ除去の詳細については、「画像処理 −その基礎から応用まで第2版」(尾崎弘・谷口慶治著、共立出版株式会社)を参照する。
【0132】
本態様では、ローパスフィルタを用いたノイズ除去におけるカットオフ周波数(cut-off frequency)を1/(10ピクセル)とする。つまり、カットオフ周期を10ピクセルとする。例えば、画像処理ソフトとしてWinROOF2015を用いた場合、ノイズ除去コマンドを用いてカットオフ周波数を設定する。
【0133】
図7(c)(d)は、輝度値補正後の画像Gである
図7(a)(b)に対して、カットオフ周波数1/(10ピクセル)としてローパスフィルタを用いたノイズ除去を行った画像の例である。ノイズ除去を行うことで、TEM画像Gのフォーカス精度などの影響を排除することができ、構造物が備える物性・特性、例えば耐パーティクル性と輝度Saとの相関を高めることができる。
【0134】
本発明の第4の態様にあっては、こうして得られた補正後の輝度値を用いて輝度Saを算出する工程(v)がその後に行われる。この工程(v)も本発明の第3の態様と同様のものとされてよい。
【0135】
本発明の第5の態様
本発明の第5の態様にあっては、本発明の第1乃至第4の態様とは異なり、その対象をY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む構造物に限定しながら、かつ構造物の微構造は屈折率を指標として表される。すなわち、本発明者らは、例えば半導体製造装置等の腐食性プラズマ環境に曝される状況で用いられるY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む構造物を備えた複合構造物において、パーティクルの影響を極めて小さくすることに成功した。そして、屈折率を指標として用いることで、極めて高いレベルで耐パーティクル性能を評価できることを見出した。
【0136】
本発明の第5の態様による複合構造物は、
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物がY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む多結晶セラミックスを含み、
波長400nm〜550nmにおける屈折率が1.92よりも大きく、
前記屈折率は、顕微分光膜厚計を用い、反射分光法により算出されるものであり、
測定条件として、測定スポットサイズ10μm、前記基材表面および前記複合構造物表面の平均表面粗さRa≦0.1μm、前記構造物の厚さ≦1μm、測定波長範囲360〜1100nmであり、
解析条件として、解析波長範囲360〜1100nm、最適化法および最小二乗法を用いるものである。
【0137】
また、本発明の第5のもう一つの態様による複合構造物は、
基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、
前記構造物がY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む多結晶セラミックスを含んでなり、
その屈折率は、波長400nmにおいて1.99以上、波長500nmにおいて1.96以上、波長600nmにおいて1.94以上、波長700nmにおいて1.93以上、波長800nm以上において1.92以上、の少なくともいずれかを満たし
前記屈折率は、顕微分光膜厚計を用い、反射分光法により算出されるものであり、
測定条件として、測定スポットサイズ10μm、前記基材表面および前記複合構造物表面の平均表面粗さRa≦0.1μm、前記構造物の厚さ≦1μm、測定波長範囲360〜1100nmであり、
解析条件として、解析波長範囲360〜1100nm、最適化法および最小二乗法を用いるものである。
【0138】
一般的に、Y
2O
3の平均屈折率は1.92である(日本化学会編「化学便覧」,丸善(1962)、p919、「セラミック化学」p220、表8−24、社団法人日本セラミックス協会平成6年9月30日改訂版など)。また、日本化学会誌1979,(8),p.1106〜1108(非特許文献1)には透明な板状試料である酸化イットリウム焼結体の光学特性として、屈折率と反射率を開示する(
図20参照)。これに対して、本発明の第5の態様による複合構造物は、例えば、波長400〜550nmにおける屈折率が1.92よりも大である。あるいは、波長400nmにおいて1.99以上、波長500nmにおいて1.96以上、波長600nmにおいて1.94以上、波長700nmにおいて1.93以上、波長800nm以上において1.92以上、の少なくともいずれかを満たす。
【0139】
第5の態様において、複合構造物の基本構造は、第1乃至第4の態様による複合構造物と同様であるが、但し、
図1における基本構造において、構造物10は、Y(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む多結晶セラミックス(以後、場合により「Y−O化合物」という)を含んでなる。そして、複合構造物が備える構造物10は、所定の屈折率を示す。
【0140】
したがって、第5の態様による複合構造物が備えるY(イットリウム元素)とO(酸素元素)とを含む構造物10は、いわゆるY−O化合物コートである。Y−O化合物コートを施すことにより、基材70に種々の物性・特性を付与することが出来る。なお、本態様にあっても、セラミック構造物とセラミックコートとは、特に断らない限り、同義に用いる。
【0141】
一つの好ましい態様によれば、構造物10はY−O化合物を含む多結晶セラミックスを主成分とし、Y−O化合物を好ましくは50%超、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、95%以上含む。最も好ましくは、構造物10は、Y−O化合物からなる。
【0142】
本態様において、Y−O化合物とは、例えば、イットリウムの酸化物である。例えば、Y
2O
3、Y
αO
β(非化学両論的組成)、が挙げられる。Y元素、O元素以外に、他の元素を含んでいてもよい。例えば、F元素、Cl元素、Br元素の少なくともいずれかをさらに含むY−O化合物が挙げられる。構造物10は、例えばY
2O
3を主成分とする。Y
2O
3の含有量は、70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。最も好ましくは、構造物10は、100%Y
2O
3からなる。
【0143】
第5の態様における屈折率
屈折率の測定は、顕微分光膜厚計(例えば、大塚電子製OPTM−F2、FE−37S)を用い、反射分光法により算出することにより行われてよい。測定条件として、測定スポットサイズ10μm、測定波長範囲360〜1100nmとする。また、解析条件として、解析波長範囲360〜1100nmとし、最適化法および最小二乗法を用いる。
【0144】
本発明の第5の態様による複合構造物において、波長400nm〜550nmにおける屈折率が1.92よりも大きく、好ましくは400nm〜600nmにおける屈折率が1.92よりも大きく、さらに好ましくは400nm〜800nmにおける屈折率が1.92よりも大である。また、本発明の第5の態様による複合構造物において、屈折率は、波長400nmにおいて1.99以上、波長500nmにおいて1.96以上、波長600nmにおいて1.94以上、波長700nmにおいて1.93以上、波長800nm以上において1.92以上、の少なくともいずれかを満たす。本発明者らは、Y−O化合物を含む複合構造物において、屈折率を上述のように高くする新規の構造物を新たに見出した。そして、意外なことには、屈折率が極めて高いY−O化合物を含む複合構造物では、耐パーティクル性が極めて優れていることを見出し、本発明に想到したものである。本発明の一つの好ましい態様にあっては、屈折率の上限は2.20である。
【0145】
複合構造物の調製方法
本発明による複合構造物は、上記した第1乃至第5の態様の指標を備えるものを実現出来る限り、合目的的な種々の製造方法により製造されてよい。本発明の一つの態様によれば、本発明による複合構造物は、基材上に構造物を、エアロゾルデポジション法(AD法)により形成することにより、好ましく製造することが出来る。本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明による複合構造物の構造物は、AD法により実現することができる。AD法とは、セラミックス等の脆性材料の微粒子とガスとが混合されたエアロゾルを基材の表面に噴射して高速で微粒子を基材に衝突させ、この衝突により微粒子を粉砕または変形させて基材上に構造物(セラミックコート)を形成させる方法である。
【0146】
AD法を実施する装置
本発明の第1乃至第5による複合構造物を製造するAD法に用いる装置は特に限定されないが、
図10に示される基本的構成を備える。すなわち、AD法に用いる装置19は、チャンバー14と、エアロゾル供給部13と、ガス供給部11と、排気部18と、配管12と、により構成される。チャンバー14の内部には、基材70を配置するステージ16と、駆動部17と、ノズル15と、が配置される。駆動部17によりステージ16に配置された基材70とノズル15との位置を相対的に変えることができる。このとき、ノズル15と基材70との間の距離を一定にしてもよいし、可変にしてもよい。この例では、駆動部17はステージ16を駆動させる態様を示しているが、駆動部17がノズル15を駆動させてもよい。駆動方向は例えば、XYZθ方向である。
【0147】
図10の装置において、エアロゾル供給部13は、配管12によりガス供給部11と接続される。エアロゾル供給部13では、原料微粒子とガスとが混合されたエアロゾルを、配管12を介してノズル15に供給する。装置19は、原料微粒子を供給する粉体供給部(図示しない)をさらに備える。粉体供給部はエアロゾル供給部13内に配置されてもよいし、エアロゾル供給部13とは別に配置されてもよい。また、エアロゾル供給部13とは別に、原料微粒子とガスとを混合するエアロゾル形成部を備えていてもよい。ノズル15から噴射される微粒子の量が一定となるように、エアロゾル供給部13からの供給量を制御することで、均質な構造物を得ることができる。
【0148】
ガス供給部11は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、空気などを供給する。供給されるガスが空気の場合、例えば、水分や油分などの不純物が少ない圧縮空気を用いるか、空気から不純物を取り除く空気処理部をさらに設けることが好ましい。
【0149】
次に、AD法に用いる装置19の動作について説明する。チャンバー14内のステージ16に基材を配置した状態で、真空ポンプなどの排気部18により、チャンバー14内を大気圧以下、具体的には数百Pa程度に減圧する。一方、エアロゾル供給部13の内圧をチャンバー14の内圧よりも高く設定する。エアロゾル供給部13の内圧は、例えば、数百〜数万Paである。粉体供給部を大気圧としてもよい。チャンバー14とエアロゾル供給部13との差圧などにより、ノズル15からの原料粒子の噴射速度が亜音速〜超音速(50〜500m/s)の領域となるように、エアロゾル中の微粒子を加速させる。噴射速度は、ガス供給部11から供給されるガスの流速、ガス種、ノズル15の形状、配管12の長さや内径、排気部18の排気量などにより適宜制御される。例えば、ノズル15として、ラバルノズルなどの超音速ノズルを用いることもできる。ノズル15から高速で噴射されたエアロゾル中の微粒子は、基材に衝突し、粉砕または変形して基材上に構造物として堆積される。基材とノズル15との相対的な位置を変えることにより、所定面積を有する構造物を基材上に備えた複合構造物が形成される。チャンバー内圧力、ガス流量等の具体的な製造条件は、個々の装置の組合せによって変化するものであり、これらの条件は本発明の構造物を形成可能な範囲において適宜調整されうる。
【0150】
また、ノズル15から噴射される前に、微粒子の凝集を解くための解砕部(図示しない)を設けてもよい。解砕部における解砕方法は、後述する微粒子の基材への衝突形態を充足する限り、任意の方法を選択することができる。例えば、振動、衝突などの機械的解砕、静電気、プラズマ照射、分級、等公知の方法が挙げられる。
【0151】
本発明による複合構造物は、以上に加え、次の様な用途において好ましく用いられる。すなわち、電気自動車、タッチパネル、LED、太陽電池、歯科インプラント、人工衛星のミラーなどの航空宇宙産業向けコーティング、摺動部材、化学プラントなどにおける耐腐食コーティング、全固体電池、サーマルバリアコーティング、高屈折率用途、例えば光学レンズ、光学ミラー、光学素子、宝飾品などの用途において好ましく用いられる。
【実施例】
【0152】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0153】
1.サンプル作製
1−1 原料粒子
原料粒子として、酸化イットリウム、イットリウムオキシフッ化物、イットリウムフッ化物、酸化アルミニウム粉体および酸化ジルコニウム粉体を用意した。各種粉体の平均粒径及び粒子状態は、表1に示されるとおりであった。
【0154】
1−2 サンプルの製膜
上記原料粒子および表1に示される基材を用いて、サンプルa〜d、f〜nの複合構造物を作成した。サンプルeとしてイオンプレーティング法により作製された市販のサンプルを用い、その他のサンプルについてはエアロゾルデポジション法により作製した。
【0155】
AD法に用いた装置の基本構造は、
図10に示す装置と同様のものとした。各サンプルの原料粒子、基材、ガス種、ガス流量は表1に示されるとおりとし、ノズルからの噴射速度は150m/s以上であった。また、構造物の形成厚さはいずれも5μm前後とした。構造物の形成は室温(20℃前後)にて行った。
【0156】
2.構造物のキャラクタリゼーション(その1)
2−1 平均結晶子サイズ
【0157】
サンプルeおよびサンプルcについて、倍率40万倍で撮影したTEM画像より平均結晶子サイズを算出した。具体的には、倍率40万倍で取得した画像を用い、結晶子15個の円形近似による平均値より平均結晶子サイズを算出した。
【0158】
AD法で作製したサンプルcについて、TEM画像により算出された平均結晶子サイズは9nmであった。
【0159】
イオンプレーティングにより作製したサンプルeでは、TEM画像により算出された平均結晶子サイズは1nmであった。
【0160】
2−2 気孔率測定
サンプルa〜hについて、走査型電子顕微鏡(SEM)により取得した画像を用い、画像解析ソフトWinRoof2015を用いた画像解析より気孔率を算出した。倍率は5千倍〜2万倍とした。この気孔率の測定は、従来より、構造物の緻密度の評価手法として用いられているものである。
【0161】
その結果、サンプルa〜hではいずれも、気孔率は0.01%以下であった。サンプルa、c、e、fおよびgのSEM画像は、それぞれ
図12に示されるとおりであった。後述のとおり、耐パーティクル性が異なるこれらのサンプルについて、従来より実施されている気孔率の測定では、サンプルの構造の違いを特定することはできなかった。
【0162】
3.構造物のキャラクタリゼーション(その2)
3−1.D−SIMS法による水素量測定
水素量測定用の試料として、以下の手法を用いて作成した。まず、サンプルa〜c、f、i〜k、mおよびnをそれぞれ2つ用意した。サンプルサイズは、3mm×3mm、厚み3mmのものとした。サンプルのそれぞれについて、ひとつを標準試料とし、もうひとつを測定用試料とした。それぞれの試料について、構造物10の表面10aを、研磨等により、2次元の平均表面粗さRaを0.01μmとした。次に、それぞれの試料について、室温20−25℃、湿度60%±10%、大気圧の状態で24時間以上放置してからD−SIMSにより水素量を測定した。
【0163】
二次イオン質量分析法:Dynamic−Secondary Ion Mass Spectrometry(D−SIMS法)による水素量の測定は、装置として、CAMECA製 IMF−7fを用いておこなった。
【0164】
標準試料の作製は次の通りとした。評価試料と、評価試料と同等なマトリックス成分をもった試料である評価試料用の標準試料と、Si単結晶と、Si単結晶用の標準試料と、を用意した。2つ用意した各サンプルについて、ひとつを評価用試料、もうひとつを評価試料用の標準試料とした。評価試料用の標準試料とは、評価試料と同等なマトリックス成分を持った試料に対して、重水素を注入したものである。このとき同時にSi単結晶にも重水素を注入し、評価試料用の標準試料とSi単結晶に同等な重水素を注入した。その後、Si単結晶用の標準試料を用いて上記Si単結晶に注入された重水素量を同定した。評価試料用の標準試料に対して、二次イオン質量分析法(D−SIMS法)を用いて重水素と構成元素の二次イオン強度を算出し、相間感度係数を算出した。評価試料用の標準試料から算出した相間感度係数を用いて、評価試料の水素量を算出した。その他についてはISO 18114_“Determining relative sensitivity factors from ion-implanted reference materials”(International Organization for Standardization, Geneva, 2003)を適宜参考とした。
【0165】
測定用試料および標準試料のそれぞれの構造物表面に、導電性の白金(Pt)を蒸着した。D-SIMSの測定条件として、一次イオン種にはセシウム(Cs)イオンを用いた。一次加速電圧を15.0kV、検出領域を8μmφとし、測定深さは、500nm、2μm、5μmの3水準とした。
【0166】
得られた単位体積あたりの水素原子数(atoms/cm
3)は、後記する表2に示されるとおりであった。
【0167】
3−2.RBS−HFS法およびp−RBS法による水素量の測定
まず、サンプルa、c、f、およびjについて、構造物10の表面10aを研磨して、2次元の平均表面粗さRaを0.01μmとした。次に、試料を室温20−25℃、湿度60%±10%、大気圧の状態で24時間以上放置し、その後で水素量(水素原子濃度)を測定した。
【0168】
水素量の測定は、RBS−HFSと、p−RBSとを組合せて行った。装置として、National Electrostatics Corporation社製 Pelletron 3SDHを用いた。
【0169】
RBS−HFS法の測定条件は次のとおりとした。
入射イオン:4He
+
入射エネルギー:2300KeV、入射角:75°、散乱角:160°、反跳角:30°
試料電流:2nA、ビーム径:1.5mmφ、照射量:8μC
面内回転:無し
【0170】
p−RBS法の測定条件は次のとおりとした。
入射イオン:水素イオン(H
+)
入射エネルギー:1740KeV、入射角:0°、散乱角:160°、反跳角:なし
試料電流:1nA、ビーム径:3mmφ、照射量:19μC
面内回転:無し
【0171】
得られた水素原子濃度は後記する表2に示されるとおりであった。
【0172】
3−3−1.TEM観察用サンプルの作成
サンプルa〜nについて、TEM観察試料を集束イオンビーム法(FIB法、Focused Ion Beam)により作製した。まず、各サンプルを切断した。そして各サンプルの構造物表面に対してFIB加工を行った。まず、各サンプルの構造物表面に、カーボン層50を蒸着した。カーボン層の蒸着の狙い厚みを300nm程度とした。
【0173】
カーボン層蒸着後に、FIB装置を用いて各サンプルを薄片化した。まず、カーボン層を上にして、薄片化する部位の周辺にGaイオンビームを照射して、カーボン層とともに各サンプルの構造物の一部を切り出した。切り出した構造物を、FIBピックアップ法により、タングステンデポジション機能を利用してFIB用TEM試料台に固定した。次いで、カーボン層50の上で、かつ、TEM観察用に薄片化する部位に、タングステンデポジション処理によりタングステン層を形成した。タングステン層の狙い厚さは、500〜600nmとした。そして、各サンプルの構造物をGaイオンで薄片化部位において両面から削り、TEM観察試料を作製した。このときのTEM観察試料の狙い厚みを100nmとした。FIB加工時の加速電圧は最大電圧の40kVから始め、最後は最低電圧の5kVで仕上げ加工を行った。こうして各3つのTEM観察試料を得た。
【0174】
次に、TEM観察試料90の上部厚さ90uを確認した。TEM観察試料、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて2次電子像を取得して、該二次電子像より上部厚さ90uを得た。SEMには、HITACHI製S−5500を用いた。SEM観察条件は、倍率20万倍、加速電圧2kV、スキャン時間40秒、画像数2560*1920ピクセルとした。このSEM画像のスケールバーを用いて、5回の平均より各TEM観察試料の上部厚さ90uを得た。各サンプルの上部厚さ90uを表1に示す。サンプル上部厚さ90uが100±30nmを超えて大きい場合には、輝度Saが小さく、サンプル上部厚さ90uが100±30nmを超えて小さい場合には、輝度Saが大きくなる傾向がある。サンプルgについては、サンプル上部厚さが138nmと規定範囲よりも大きい、すなわち輝度Saが本来よりも小さくなっていると思われるが、それでも本発明の範囲外であることが確認された。
【0175】
3−3−2.TEM明視野像の撮影
FIB加工により得たサンプルa〜nについて、TEMによる明視野像の撮影を行った。透過型電子顕微鏡H−9500(日立ハイテクノロジーズ製)を用い、加速電圧は200kV、観察倍率は10万倍、デジタル/カメラ(OneView Camera Model 1095/Gatan製)によって、撮影画素4096×4096ピクセル、キャプチャースピード6fps、露光時間2sec、イメージキャプチャモードの設定がエクスポージャータイム、カメラ位置ボトムマウントで撮影した。サンプル作成時に蒸着したカーボン層およびタングステン層が同一視野内に含まれるようTEMデジタル白黒画像を取得した。
【0176】
図13は、倍率10万倍で撮影したサンプルa〜g、i、j、およびlのそれぞれのTEM画像である。TEM画像は各TEM観察試料について横方向において連続するように3枚取得し、ひとつのサンプルについて、合計9枚のTEM画像を得た。
【0177】
3−3−3.輝度値取得および画像解析による輝度Saの算出
取得したTEM明視野像より、画像解析ソフトWinROOF2015を用いて画像の輝度値を取得した。具体的には、
図13に示す通り、それぞれの画像Gについて、構造物表面10a近傍を基点として、領域縦長さdLを0.5μm、領域横長さdwを画像Gの画像横方向長さGwとほぼ同じとなるようにして輝度取得領域Rを設定した。それぞれの輝度取得領域Rについて、ピクセル毎の輝度値を取得し、領域R中のタングステン層の輝度を0、カーボン層の輝度を255として、輝度値を相対的に補正した。ここで、タングステン層の輝度値には、TEM画像におけるタングステン層中の輝度値の最小値から連続して小さい順に1万ピクセル分の輝度値の平均値を用いた。また、カーボン層の輝度値には、カーボン層中の輝度値の最大値から連続して大きい順に10万ピクセル分の輝度値の平均値を用いた。ここで得られたそれぞれの平均値を、補正前のカーボン層/タングステン層の輝度値として扱った。
【0178】
上記輝度取得領域Rのそれぞれについて、最小二乗法を用いてピクセル毎の補正後の輝度値の差の絶対値の平均を算出した。こうして9枚のTEM画像より得られた値を平均して、輝度Saとした。このときの輝度取得領域Rの面積の合計は、6.9μm
2以上であった。
【0179】
また、
図13(e)、(f)、(g)に示すように、構造物10の表面10aとタングステン層50との界面が直線的でない場合には、その領域を避けて輝度取得領域Rを設定した。また、
図13(e)のように、構造物10の表面10aの凹凸が観察される場合には、表面10aに最も近い地点を起点として、領域縦長さdLを設定した。
【0180】
得られた輝度Sa値は後記する表2に示されるとおりであった。
【0181】
3−4.ノイズ成分を除いての輝度Saの算出
上記3−3−3.輝度値取得および画像解析による輝度Saの算出の工程において、画像解析ソフトWinROOF2015をノイズ成分を除くモードとして、画像の輝度値を取得した。
【0182】
得られた輝度Sa値は後記する表2に示されるとおりであった。
【0183】
3−5.屈折率の算出
サンプルaおよびcについて、構造物10の表面10aを研磨して、2次元の平均表面粗さRaを0.1μm以下、構造物10の厚さを1μm以下とした。
【0184】
屈折率の測定には、顕微分光膜厚計(大塚電子製OPTM−F2 大塚電子製FE−37S)を用い、反射分光法により屈折率を算出した。測定条件として、測定スポットサイズ10μm、測定波長範囲360〜1100nmとした。
【0185】
解析条件は、解析波長範囲360〜1100nmとし、最適化法および最小二乗法を用いた。各サンプルについて、各波長毎の屈折率は後記する表3および
図19に示されるとおりであった。
【0186】
表3および
図19に示されるように、本発明によるY−O化合物を含む構造物の屈折率は、従来知られているY
2O
3の屈折率1.92よりも大きく、高い耐パーティクル性を有していた。
【0187】
4.構造物特性評価
4−1.耐プラズマ性評価
サンプルa〜nについて、「基準耐プラズマ性試験」を実施した。
【0188】
具体的には試験には、プラズマエッチング装置として、誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング装置(Muc−21 Rv−Aps−Se/住友精密工業製)を使用した。プラズマエッチングの条件は、電源出力としてICP出力を1500W、バイアス出力を750W、プロセスガスとしてCHF
3ガス100ccmとO
2ガス10ccmの混合ガス、圧力を0.5Pa、プラズマエッチング時間を1時間とした。
【0189】
プラズマ照射後の構造物10の表面10aの状態をSEMにより撮影した。それらは
図14に示されるとおりであった。SEM観察条件として、倍率5000倍、加速電圧は3kVとした。
【0190】
次に、得られたSEM像から、プラズマ照射後の表面の腐食痕の面積を算出した。その結果は表2に示される通りであった。
【0191】
また、プラズマ照射後の構造物10の表面10aの状態をレーザー顕微鏡により撮影した。具体的には、レーザー顕微鏡「OLS4500/オリンパス製」を使用し、対物レンズはMPLAPON100xLEXT(開口数0.95、作動距離0.35mm、集光スポット径0.52μm、測定領域128×128μm)を用い、倍率を100倍とした。うねり成分除去のλcフィルターは25μmに設定した。測定は、任意の3箇所で行い、その平均値を算術平均高さSaとした。その他、三次元表面性状国際規格ISO25178を適宜参照した。プラズマ照射後の表面10aの算術平均高さSaの値は表4に示されるとおりであった。
【0192】
図15は、各サンプル毎の腐食痕面積(μm
2)のグラフである。
図15に示されるとおり、イオンプレーティングにより形成されたサンプル(e)よりも、エアロゾルデポジション法により形成されたサンプルのほうが、総じて腐食痕面積が小さく良好な結果であった。
【0193】
図16に、エアロゾルデポジション法で形成された各サンプルについて、輝度Saと腐食痕面積(μm
2)との関係を示す。
図16に示すように、輝度Saを所定値以下とすることで、腐食痕面積を顕著に小さくできることがわかる。
【0194】
また、
図17および表2に示されるように、構造物表面の水素量(単位体積あたりの水素原子数/水素原子濃度)を小さくすることで、耐パーティクル性を向上させることができることがわかる。
【0195】
【表1】
【0196】
【表2】
【0197】
【表3】
【0198】
【表4】
【解決手段】 基材と、前記基材上に設けられ、表面を有する構造物とを含む複合構造物であって、構造物が多結晶セラミックスを含んでなり、そのTEM画像解析から算出される輝度Saが所定の値を満たす複合構造物は、耐パーティクル性が求められる半導体製造装置の内部部材として好適に用いることができる。