特許第6597941号(P6597941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6597941
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】金型装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/12 20060101AFI20191021BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20191021BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   B21D24/12
   B21D24/04 F
   B21D22/26 C
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-531836(P2019-531836)
(86)(22)【出願日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2018045001
【審査請求日】2019年6月13日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/044050
(32)【優先日】2017年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】大岡 数則
(72)【発明者】
【氏名】麻生 敏光
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博司
(72)【発明者】
【氏名】安福 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 忍
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−170482(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046023(WO,A1)
【文献】 特開平08−332522(JP,A)
【文献】 特開2006−043760(JP,A)
【文献】 特開平08−276225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/12
B21D 22/26
B21D 24/04
B21D 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチおよびホルダを有する第1金型ユニットと、前記パンチに対向して配置されるパッドおよび前記ホルダに対向して配置されるダイを有する第2金型ユニットとを備え、前記第1金型ユニットと前記第2金型ユニットとが相対的に接近するようにプレス方向へ移動することによって、前記第1金型ユニットと前記第2金型ユニットとの間に配置された板状の素材をプレス成形する金型装置であって、
前記ホルダに揺動可能に支持されるディスタンスメンバーと、
前記第1金型ユニットに設けられ、かつ前記ディスタンスメンバーを揺動させる揺動装置と、を備え、
前記ホルダは、前記パンチに対して前記プレス方向に移動可能に設けられ、
前記パッドは、前記ダイに対して前記プレス方向に移動可能に設けられ、
前記ディスタンスメンバーは、前記第2金型ユニットに接触しない原位置と、前記パッドと前記ホルダとの前記プレス方向における距離が所定距離以下になることを防止する防止位置との間で揺動可能であり、
前記プレス方向において、前記第2金型ユニットから前記第1金型ユニットに向かう方向を第1方向とし、その反対方向を第2方向とした場合に、
前記揺動装置は、前記ホルダが前記パンチに対して前記第1方向に相対的に移動するのに従って、前記ディスタンスメンバーを前記原位置から前記防止位置へ向かって揺動させ
前記ディスタンスメンバーは、前記防止位置において、前記パッドから前記第1方向の荷重を直接または間接的に受けることによって、前記パッドと前記ホルダとの前記プレス方向における距離が前記所定距離以下になることを防止し、
前記揺動装置は、前記ディスタンスメンバーを揺動させるための力を、前記ディスタンスメンバーが前記パッドから前記荷重を直接または間接的に受ける位置とは異なる位置において、前記ディスタンスメンバーに伝達する、金型装置。
【請求項2】
前記ディスタンスメンバーにおいて、前記荷重を受ける位置と揺動中心との距離は、前記揺動装置から前記力を伝達される位置と前記揺動中心との距離よりも大きい、請求項に記載の金型装置。
【請求項3】
前記ディスタンスメンバーにおいて、前記荷重を受ける位置と揺動中心との距離は、前記揺動装置から前記力を伝達される位置と前記揺動中心との距離以下である、請求項に記載の金型装置。
【請求項4】
前記揺動装置は、反発力生成部を有しかつ前記パンチに直接または間接的に固定され、
前記ディスタンスメンバーは、前記ホルダが前記パンチに対して前記第1方向に相対的に移動するのに従って、前記反発力生成部を前記第1方向に押圧し、
前記反発力生成部は、前記ディスタンスメンバーによって前記第1方向に押圧されることによって前記第2方向の反発力を生成し、
前記ディスタンスメンバーは、前記反発力生成部から前記第2方向の反発力を受けて、前記原位置から前記防止位置へ向かって揺動する、請求項1からのいずれかに記載の金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントサイドメンバ、クロスメンバ、Aピラー、およびBピラー等の自動車用構造部材は、素材(例えば、金属板)を絞り成形することによって製造される。絞り成形には、一般に、ダイからなる上金型と、パンチおよびホルダからなる下金型とを備える金型装置が用いられる。
【0003】
絞り成形では、例えば、素材の外縁部をホルダによってダイに押し付けながら、素材の中央部をパンチによってダイ側へ押し込む。これにより、所望の形状の成形品が製造される。
【0004】
絞り成形の過程では、ホルダのダイへの押し付け力によって、素材の外縁部に流入抵抗が発生する。このため、素材に張力を付加した状態で素材を成形することができ、成形時の材料余りによるしわの発生が抑制される。
【0005】
近年、衝突安全性の向上および車体軽量化を図るため、590MPa以上、さらには980MPa以上の引張強さを有する高張力鋼が、自動車用構造部材の素材として用いられている。
【0006】
しかし、素材の成形性は素材の高強度化に伴って低下する。そのため、高張力鋼からなる素材に絞り成形を行う際に、素材の外縁部に生じる流入抵抗が大き過ぎると、成形品の各部の板厚が減少し、成形品に割れが発生する場合がある。
【0007】
上記のような割れの発生は、ホルダの押し付け力を小さくして素材の外縁部に生じる流入抵抗を小さくすることによって抑制することができる。しかしながら、素材の外縁部に生じる流入抵抗が小さくなると、素材を適切に伸ばすことができず、材料余りによるしわが発生する場合がある。
【0008】
そこで、従来、上記のような割れおよびしわの発生を抑制できる装置が提案されている。例えば、特許文献1には、プレス部品の製造装置が開示されている。特許文献1に開示された製造装置は、プレス機ボルスタに設けられる第1の金型と、プレス機スライドに設けられる第2の金型とを備えている。第1の金型は、プレス機ボルスタに固定されるパンチダイと、パンチダイの外側に配置されるブランクホルダとを備えている。第2の金型は、プレス機スライドに設けられる可動パッドと、可動パッドの外側に配置される曲げ刃と、可動パットに連動して移動するように曲げ刃の外側に配置されるキャッチャーと、キャッチャーの外側に配置されるアウターカムとを備えている。
【0009】
特許文献1の製造装置では、ブランクホルダと曲げ刃とによってブランクの外縁部を狭持しつつ、可動パッドとパンチダイとによってブランクの中心部を狭持した状態で、パンチダイによってブランクの中心部を曲げ刃側に押すことによって、絞り成形が行われる。この場合、可動パッドとパンチダイとによって狭持された部分では、成形過程において厚み方向に変形することが抑制される。このため、ブランクホルダの押し付け力を必要以上に大きくしなくても、可動パッドとパンチダイとによって狭持された部分にしわが発生することを抑制することができる。これにより、成形品において割れおよびしわが発生することを抑制することができる。
【0010】
ところで、上記の製造装置において絞り成形後に成形品を取り出す際には、第1の金型と第2の金型とを離型させる必要がある。しかしながら、プレス成形後も、可動パッドおよびブランクホルダに対しては、互いに近付く方向に力が付与されているため、第1の金型と第2の金型とを単に離型させると、可動パッドおよびブランクホルダからの加圧によって成形品が離型時に変形する。
【0011】
上記のような成形品の変形を防止するために、特許文献1の製造装置には、ブランクホルダに揺動可能に支持されたジョイントリンクが設けられている。具体的には、特許文献1の製造装置では、成形下死点においてジョイントリンクとキャッチャーとを係止させることによって、可動パッドおよびブランクホルダが互いに接近する方向に移動することを防止できる。その結果、離型時に、可動パッドおよびブランクホルダからの加圧によって成形品が変形することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2017−170482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、特許文献1の製造装置では、ジョイントリンクとキャッチャーとを係止させるために、第2の金型のアウターカムを第1の金型に向かって移動させて、アウターカムとジョイントリンクとを接触させて、ジョイントリンクを金型の内側に向かって回動させる必要がある。
【0014】
本発明者らの詳細な検討の結果、特許文献1の製造装置では、ジョイントリンクおよびアウターカムが消耗しやすいことが分かった。具体的には、特許文献1の製造装置では、第1の金型にジョイントリンクが設けられ、第2の金型にアウターカムが設けられるので、ジョイントリンクの重心とアウターカムの重心との距離が大きくなる。このため、ジョイントリンクとアウターカムとの相対的な位置精度を向上させることが難しくなり、ジョイントリンクとアウターカムとが接触する際に、ジョイントリンクおよびアウターカムに対して、設計上考慮していない方向の荷重が負荷される場合がある。これにより、ジョイントリンクおよびアウターカムが損傷しやすくなる。その結果、製造装置のメインテナンスコストの低減が難しくなる。
【0015】
本発明の目的は、耐久性に優れた金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記の金型装置を要旨とする。
【0017】
(1)パンチおよびホルダを有する第1金型ユニットと、前記パンチに対向して配置されるパッドおよび前記ホルダに対向して配置されるダイを有する第2金型ユニットとを備え、前記第1金型ユニットと前記第2金型ユニットとが相対的に接近するようにプレス方向へ移動することによって、前記第1金型ユニットと前記第2金型ユニットとの間に配置された板状の素材をプレス成形する金型装置であって、
前記ホルダに揺動可能に支持されるディスタンスメンバーと、
前記第1金型ユニットに設けられ、かつ前記ディスタンスメンバーを揺動させる揺動装置(moving device)と、を備え、
前記ホルダは、前記パンチに対して前記プレス方向に移動可能に設けられ、
前記パッドは、前記ダイに対して前記プレス方向に移動可能に設けられ、
前記ディスタンスメンバーは、前記第2金型に接触しない原位置と、前記パッドと前記ホルダとの前記プレス方向における距離が所定距離以下になることを防止する防止位置との間で揺動可能であり、
前記プレス方向において、前記第2金型ユニットから前記第1金型ユニットに向かう方向を第1方向とし、その反対方向を第2方向とした場合に、
前記揺動装置は、前記ホルダが前記パンチに対して前記第1方向に相対的に移動するのに従って、前記ディスタンスメンバーを前記原位置から前記防止位置へ向かって揺動させる、金型装置。
【0018】
(2)前記ディスタンスメンバーは、前記防止位置において、前記パッドから前記第1方向の荷重を直接または間接的に受けることによって、前記パッドと前記ホルダとの前記プレス方向における距離が前記所定距離以下になることを防止する、上記(1)に記載の金型装置。
【0019】
(3)前記揺動装置は、前記ディスタンスメンバーを揺動させるための力を、前記ディスタンスメンバーが前記パッドから前記荷重を直接または間接的に受ける位置とは異なる位置において、前記ディスタンスメンバーに伝達する、上記(2)に記載の金型装置。
【0020】
(4)前記ディスタンスメンバーにおいて、前記荷重を受ける位置と揺動中心との距離は、前記揺動装置から前記力を伝達される位置と前記揺動中心との距離よりも大きい、上記(3)に記載の金型装置。
【0021】
(5)前記ディスタンスメンバーにおいて、前記荷重を受ける位置と揺動中心との距離は、前記揺動装置から前記力を伝達される位置と前記揺動中心との距離以下である、上記(3)に記載の金型装置。
【0022】
(6)前記揺動装置は、反発力生成部を有しかつ前記パンチに直接または間接的に固定され、
前記ディスタンスメンバーは、前記ホルダが前記パンチに対して前記第1方向に相対的に移動するのに従って、前記反発力生成部を前記第1方向に押圧し、
前記反発力生成部は、前記ディスタンスメンバーによって前記第1方向に押圧されることによって前記第2方向の反発力を生成し、
前記ディスタンスメンバーは、前記反発力生成部から前記第2方向の反発力を受けて、前記原位置から前記防止位置へ向かって揺動する、上記(1)から(5)のいずれかに記載の金型装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐久性に優れた金型装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る金型装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。
図3図3は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。
図4図4は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。
図5図5は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。
図6図6は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る金型装置の具体的構成を示す斜視図である。
図8図8は、図7の金型装置の内部構造を示す断面図である。
図9図9は、図7の金型装置の動作を説明するための図である。
図10図10は、図7の金型装置の動作を説明するための図である。
図11図11は、図7の金型装置の動作を説明するための図である。
図12図12は、図7の金型装置の動作を説明するための図である。
図13図13は、図7の金型装置の動作を説明するための図である。
図14図14は、揺動部の変形例を説明するための図である。
図15図15は、揺動装置の変形例を説明するための図である。
図16図16は、本発明の他の実施形態に係る金型装置を示す斜視図である。
図17図17は、図16の金型装置の内部構造を示す断面図である。
図18図18は、図16の金型装置の動作を説明するための図である。
図19図19は、図16の金型装置の動作を説明するための図である。
図20図20は、図16の金型装置の動作を説明するための図である。
図21図21は、図16の金型装置の動作を説明するための図である。
図22図22は、図16の金型装置の動作を説明するための図である。
図23図23は、プレス部品の一例を示す図である。
図24図24は、ドーナツ形状部品を示す図である。
図25図25は、円筒部品を示す図である。
図26図26は、球状部品を示す図である。
図27図27は、リング形状部品を示す図である。
図28図28は、リング形状部品を示す図である。
図29図29は、リング形状部品を示す図である。
図30図30は、リング形状部品を示す図である。
図31図31は、Bピラーを示す図である。
図32図32は、Aピラーロアーを示す図である。
図33図33は、フロントサイドメンバを示す図である。
図34図34は、ルーフレールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(金型装置の概略)
以下、本発明の一実施形態に係る金型装置について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る金型装置の概略構成を示す図である。また、図2図6は、図1の金型装置の動作を説明するための図である。図1図6には、互いに直交するX方向およびZ方向を示す矢印を付している。本明細書においては、X方向を金型装置の幅方向とする。Z方向は上下方向である。以下においては、X方向を幅方向Xと記載し、Z方向を上下方向Zと記載する。
【0026】
図1に示すように、金型装置100は、第1金型(下型)ユニット20と、第2金型(上型)ユニット22と、ディスタンスメンバー24と、揺動装置26とを備えている。詳細な説明は省略するが、金型装置100は、例えば、図示しない公知のプレス機に取り付けて利用される。なお、以下においては、板状の素材300から断面ハット形状を有するプレス部品200(後述の図6参照)を製造するための金型装置100について説明するが、本発明に係る金型装置によって製造されるプレス部品は、図6に示すプレス部品200に限定されない。また、本発明に係る金型装置の構成およびその動作も以下の実施形態に限定されず、金型装置の構成および動作は、製造されるプレス部品の形状によって適宜変更される。
【0027】
第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とは、上下方向Zにおいて対向するように配置されている。本実施形態に係る金型装置100は、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とが相対的に接近するようにプレス方向へ移動することによって、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22との間に配置された板状の素材300をプレス成形する装置である。
【0028】
なお、本実施形態においては、上下方向Zがプレス方向に相当する。また、本実施形態では、プレス方向において、第2金型ユニット22から第1金型ユニット20に向かう方向を第1方向Z1とし、第1金型ユニット20から第2金型ユニット22に向かう方向を第2方向Z2とする。
【0029】
第1金型ユニット20は、パンチ32と、ホルダ34とを備えている。第2金型ユニット22は、ダイ36と、パッド38とを備えている。上下方向Zにおいて、ダイ36はホルダ34に対向するように設けられ、パッド38はパンチ32に対向するように設けられている。ホルダ34は、パンチ32に対して上下方向Zに移動可能に設けられ、パッド38は、ダイ36に対して上下方向Zに移動可能に設けられている。
【0030】
ディスタンスメンバー24は、ホルダ34に揺動可能に支持されている。本実施形態では、ディスタンスメンバー24は、第2金型ユニット22に接触しない原位置(図1に示す位置)と、後述する防止位置(図4および図5に示す位置)との間で揺動できるように、ホルダ34に支持されている。詳細は後述するが、原位置では、第2金型ユニット22からディスタンスメンバー24に対して荷重は付与されない。一方、防止位置では、第2金型ユニット22のパッド38からディスタンスメンバー24に対して、第1方向Z1の荷重が付与される。
【0031】
揺動装置26は、ディスタンスメンバー24を揺動させることができるように、第1金型ユニット20に設けられている。本実施形態では、揺動装置26は、ホルダ34がパンチ32に対して第1方向Z1に相対的に移動するのに従って、ディスタンスメンバー24を原位置(図1に示す位置)から防止位置(図4および図5に示す位置)へ向かって揺動させる装置である。なお、図1においては、揺動装置26がパンチ32に接続されているが、揺動装置26は、第1金型ユニット20のいずれかの構成要素に設けられていればよい。
【0032】
以下、素材300にプレス成形を行う場合の金型装置100の動作の一例を簡単に説明する。金型装置100を用いてプレス成形を行う場合には、図1に示すように、まず、パンチ32およびホルダ34上に板状の素材300が配置される。このとき、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とは、上下方向Zにおいて離れている。図1においては、金型装置100の各構成部材は、原位置の状態である。なお、ディスタンスメンバー24は、原位置においては、第2金型ユニット22から離れている。言い換えると、原位置においては、ディスタンスメンバー24は、第2金型ユニット22から荷重を受けない。
【0033】
次に、図2および図3に示すように、第1金型ユニット20および第2金型ユニット22が、上下方向Zにおいて互いに近付く方向へ移動する。具体的には、まず、図2に示すように、第1金型ユニット20に対して第2金型ユニット22のダイ36が第1方向Z1へ相対的に移動する。これにより、パンチ32およびホルダ34と、パッド38およびダイ36とによって素材300が挟まれる。なお、図2においては、ディスタンスメンバー24は、原位置の状態である。
【0034】
図3に示すように、第1金型ユニット20に対してダイ36がさらに第1方向Z1に相対的に移動することによって、パンチ32およびパッド38に対して、ホルダ34およびダイ36が相対的に第1方向Z1に移動する。これにより、素材300に対して成形が開始される。
【0035】
図4に示すように、パンチ32およびパッド38に対して、ホルダ34およびダイ36がさらに第1方向Z1に移動し、成形下死点(成形完了位置)に到達することによって、所定の成形高さのプレス部品200が得られる。また、図3および図4に示すように、パンチ32に対してホルダ34が第1方向Z1に相対的に移動するのに従って、揺動装置26が、ディスタンスメンバー24を原位置から防止位置に向かって揺動させる。
【0036】
なお、図4に示した状態では、パッド38がホルダ34に対して相対的に第1方向Z1に移動することは、ディスタンスメンバー24によって規制される。これにより、ホルダ34とパッド38との上下方向Zにおける距離が、所定の成形高さ以上に保持される。言い換えると、図4に示した状態では、上下方向Zにおけるホルダ34とパッド38との距離が所定距離以下になることが、ディスタンスメンバー24によって防止される。本実施形態では、ホルダ34とパッド38との上下方向Zにおける距離が所定距離以下になることを防止するディスタンスメンバー24の位置(図4に示す位置)を、防止位置という。防止位置では、ディスタンスメンバー24は、パッド38に連結されることによって、パッド38からの第1方向Z1の荷重を受ける。なお、図4においては、ディスタンスメンバー24は、防止位置において、パッド38に接触しているが、他の部材を介してパッド38に間接的に連結されてもよい。すなわち、ディスタンスメンバー24は、パッド38からの第1方向Z1の荷重を、パッド38から直接受けてもよく、他の部材を介して間接的に受けてもよい。
【0037】
次に、図5に示すように、ダイ36とともに、ホルダ34およびパッド38が、パンチ32に対して第2方向Z2に相対的に移動する。その結果、パンチ32が、パッド38に対して第1方向Z1に相対的に移動する。言い換えると、パンチ32が、パッド38から離れる方向に移動する。
【0038】
最後に、図6に示すように、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とが上下方向Zにおいてさらに離れ、プレス部品200が取り出される。ここで、上述したように、ホルダ34とパッド38との上下方向Zにおける距離は、ディスタンスメンバー24によって所定の成形高さ以上に保持される。言い換えると、ホルダ34から第2方向Z2に加えられる圧力およびパッド38から第1方向Z1に加えられる圧力はともに、ディスタンスメンバー24によって受けられる。これにより、ホルダ34およびパッド38からプレス部品200に大きな圧力が加えられることを防止できる。その結果、離型時に、プレス部品200が変形することを防止できる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る金型装置100では、ディスタンスメンバー24およびディスタンスメンバー24を揺動させるための揺動装置26がともに第1金型ユニット20に設けられている。このため、揺動装置26を第2金型ユニット22に設ける場合に比べて、ディスタンスメンバー24の重心と揺動装置26の重心との上下方向Zにおける距離を小さくすることができる。これにより、ディスタンスメンバー24および揺動装置26を第1金型ユニット20に設ける際に、ディスタンスメンバー24と揺動装置26との相対的な位置精度を向上させることができる。このため、揺動装置26からディスタンスメンバー24に力を伝達する際(ディスタンスメンバー24を揺動させる際)に、ディスタンスメンバー24および揺動装置26に対して、設計上考慮していない方向の荷重が負荷されることを十分に抑制することができる。その結果、ディスタンスメンバー24および揺動装置26が損傷することを十分に抑制することができる。すなわち、本実施形態に係る金型装置100は、耐久性に優れている。
【0040】
また、ディスタンスメンバー24の重心と揺動装置26の重心との距離が小さくなることによって、揺動装置26の小さな動作によってディスタンスメンバー24を揺動させることが可能になる。したがって、揺動装置26自体を小型に構成することができる。この場合、揺動装置26の重心と、第1金型ユニット20における揺動装置26の支持位置との距離を小さくできる。これにより、揺動装置26からディスタンスメンバー24に力を伝達する際に、ディスタンスメンバー24から揺動装置26に与えられる力のモーメントを低減することができる。その結果、揺動装置26の損傷を十分に抑制することができる。
【0041】
また、揺動装置26を小さくできることによって、第1金型ユニット20における揺動装置26の組み付け精度を向上させることができる。これにより、ディスタンスメンバー24と揺動装置26とが接触する際に、ミスアライメントに基づく不要な荷重がディスタンスメンバー24および揺動装置26に負荷されることを抑制することができる。その結果、小さな動力でディスタンスメンバー24を円滑に揺動させることができるとともに、ディスタンスメンバー24および揺動装置26の損傷を十分に抑制することができる。
【0042】
また、揺動装置26の動作範囲および構成を小さくできることによって、金型装置100自体の設計自由度が高くなる。これにより、金型装置の外側部分の寸法および構成についての要求が厳しいトランスファー型のプレス機においても、ディスタンスメンバー24および揺動装置26を適切に配置することが可能になる。
【0043】
(金型装置の具体的な構成)
以下、本発明の一実施形態に係る金型装置の具体的な構成について図面を参照しつつ説明する。図7は、本発明の一実施形態に係る金型装置の具体的構成を示す斜視図である。図7には、互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示す矢印を付している。本明細書においては、X方向を金型装置の幅方向とし、Y方向を金型装置の長さ方向とする。また、Z方向は上下方向である。以下においては、X方向を幅方向Xと記載し、Y方向を長さ方向Yと記載し、Z方向を上下方向Zと記載する。後述の図8図13においても、幅方向Xおよび上下方向Zを示す矢印を示している。
【0044】
図8は、図7の金型装置の内部構造を示す断面図である。なお、図8および後述の図9図13においては、金型装置の長さ方向に垂直な断面が示されている。
【0045】
なお、以下においては、一例として、断面ハット形状を有するプレス部品200(後述の図13参照)を製造するための金型装置100aについて説明する。
【0046】
図7および図8に示すように、金型装置100aは、第1金型(下型)ユニット20と、第2金型(上型)ユニット22と、複数のディスタンスメンバー24と、複数の揺動装置26と、複数の戻し装置28と、複数のストッパ装置30とを備えている。
【0047】
第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とは、上下方向Zにおいて対向するように配置されている。本実施形態に係る金型装置100aは、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とが相対的に接近するようにプレス方向へ移動することによって、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22との間に配置された板状の素材300をプレス成形する装置である。
【0048】
なお、本実施形態においては、上下方向Zがプレス方向に相当する。また、本実施形態では、プレス方向において、第2金型ユニット22から第1金型ユニット20に向かう方向を第1方向Z1とし、第1金型ユニット20から第2金型ユニット22に向かう方向を第2方向Z2とする。
【0049】
第1金型ユニット20は、パンチ32と、ホルダ34とを備えている。パンチ32は、図示しないプレス機のボルスタに固定される基部32aと、基部32aから第2方向Z2(上方)に突出するパンチ本体部32bとを有している。なお、本実施形態では、基部32aの中央部に平面視矩形状の凸部32cが形成され、凸部32cから第2方向Z2に突出するようにパンチ本体部32bが設けられている。
【0050】
ホルダ34は、平面視において中空かつ矩形状を有するホルダ本体部34aと、ホルダ本体部34aの両側面から幅方向Xに突出する複数(本実施形態では4つ)の揺動支持部34bとを有している。ホルダ本体部34aは、上下方向Zに延びる複数の支持ピン35によって支持されている。パンチ32のパンチ本体部32bは、ホルダ34のホルダ本体部34aを上下方向Zに貫通するように設けられている。本実施形態では、ホルダ本体部34aは、パンチ本体部32bに対して上下方向Zに移動可能に設けられている。本実施形態では、4つのディスタンスメンバー24に対応するように、4つの揺動支持部34bが設けられている。各揺動支持部34bには、第2方向Z2に向かって開くように、断面略円弧状の凹部34dが形成されている。
【0051】
複数の支持ピン35は、パンチ32の基部32aを上下方向Zに貫通するように、かつパンチ32に対して上下方向Zに移動可能に設けられている。本実施形態では、ホルダ34には、複数の支持ピン35を介して、図示しないプレス機のダイクッション装置から、第1方向Z1の力F1が付与されている。これにより、ホルダ34は、第2金型ユニット22に向かって付勢されている。なお、詳細な説明は省略するが、支持ピン35およびダイクッション装置の代わりに、パンチ32に内蔵したガススプリング装置またはコイルばね等の他の装置を用いて、ホルダ34を付勢してもよい。
【0052】
本実施形態では、ホルダ本体部34aがパンチ本体部32bよりも第2方向Z2に突出しないように、ホルダ本体部34aの移動が規制されている。また、本実施形態では、第2金型ユニット22からホルダ34に第1方向Z1の力が付与されていない状態(パンチ32およびホルダ34の原位置)では、パンチ本体部32bの上面とホルダ本体部34aの上面とが等しい高さとなるように、パンチ32およびホルダ34が設けられている。ただし、パンチとホルダとの位置関係は、製造されるプレス部品の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0053】
ディスタンスメンバー24は、ホルダ34に揺動可能に支持されている。具体的には、ディスタンスメンバー24は、第2金型ユニット22に接触しない原位置(図8に示す位置)と、後述する防止位置(図11および図12に示す位置)との間で揺動できるように、ホルダ34に支持されている。
【0054】
本実施形態では、ディスタンスメンバー24は、棒状の揺動部24aと、一対の板状のアーム部24bと、一対の円柱状の押圧部24cとを有している。揺動部24aの一端部(下端部)は、揺動支持部34bの凹部34dに、幅方向Xに揺動可能に嵌め込まれている。これにより、揺動部24aは、下端部を揺動中心として、幅方向Xに揺動可能に揺動支持部34bに支持されている。なお、詳細な説明は省略するが、揺動部24aは、長さ方向Yに延びる支持軸を介して揺動支持部34bに揺動可能(回動可能)に支持されてもよい。
【0055】
一対のアーム部24bの幅方向Xにおける一端部は、揺動部24aの下端部に固定されている。一対のアーム部24bの幅方向Xにおける他端部にそれぞれ、押圧部24cが固定されている。
【0056】
揺動装置26は、第1金型ユニット20に設けられている。揺動装置26は、詳細は後述するが、ホルダ34がパンチ32に対して第1方向Z1に相対的に移動するのに従って、ディスタンスメンバー24を原位置(図8に示す位置)から防止位置(図11および図12に示す位置)へ向かって揺動させる装置である。本実施形態では、4つのディスタンスメンバー24に対応するように、4つの揺動装置26が設けられている。各揺動装置26は、一対の弾性部材26aと、一対の伝達部材26bとを有している。本実施形態では、弾性部材26aは、コイルばねである。以下、弾性部材26aを、コイルばね26aと記載する。
【0057】
伝達部材26bは、上下方向Zに延びる軸部6aと、軸部6aの上端部に設けられるフランジ部6bと、軸部6aの下端部に設けられるフランジ部6cとを有している。軸部6aの下端側およびフランジ部6cは、上下方向Zに移動可能にパンチ32(基部32a)に挿入されている。フランジ部6bと基部32aとに挟まれるように、軸部6aの外側にコイルばね26aが嵌められている。コイルばね26aは、フランジ部6bを第2方向Z2(上方)に向かって押すように設けられている。なお、本実施形態では、フランジ部6cが基部32aに係止されることによって、伝達部材26bの第2方向Z2への移動が規制される。本実施形態では、ディスタンスメンバー24の原位置において、フランジ部6b上に押圧部24cが位置するように、揺動装置26が設けられている。なお、ディスタンスメンバー24の原位置において、フランジ部6bと押圧部24cとが接触していてもよく、フランジ部6bと押圧部24cとが上下方向Zに離れていてもよい。ただし、フランジ部6bと押圧部24cとが離れている場合でも、フランジ部6bと押圧部24cとの上下方向Zの距離は小さいことが好ましい。
【0058】
本実施形態では、4つのディスタンスメンバー24に対応するように、4つの戻し装置28が設けられている。本実施形態では、各戻し装置28は、ホルダ34の揺動支持部34bに設けられている。詳細な説明は省略するが、戻し装置28は、コイルばねを含み、ディスタンスメンバー24に連結され、かつディスタンスメンバー24を原位置に戻るように付勢している。
【0059】
第2金型ユニット22は、ダイ36と、パッド38とを備えている。ダイ36は、図示しないプレス機のスライドに固定される基部36aと、基部36aから第1方向Z1(下方)に突出するダイ本体部36bとを有している。ダイ本体部36bは、下方から見て、中空かつ矩形状を有している。ダイ本体部36bは、上下方向Zにおいて、ホルダ34のホルダ本体部34aに対向するように設けられている。
【0060】
パッド38は、ダイ本体部36bの内側において長さ方向Yに延びるパッド本体部38aと、ダイ本体部36bを貫通するようにパッド本体部38aから幅方向Xに突出する複数(本実施形態では4つ)の係止部38bと、各係止部38bから下方に延びるキャッチャー部38cとを有している。パッド本体部38aは、上下方向Zにおいて、パンチ32のパンチ本体部32bに対向するように設けられている。係止部38bは、上下方向Zにおいて、ホルダ34の揺動支持部34bに対向するように設けられている。本実施形態では、係止部38bおよびキャッチャー部38cは、ダイ本体部36bの外側に設けられている。
【0061】
図8に示すように、ダイ36の基部36aとパッド38のパッド本体部38aとの間に、複数の付勢装置40が設けられている。本実施形態では、付勢装置40は、例えばガススプリングを含み、パッド本体部38aに対して第2方向Z2の力F2を付与している。これにより、パッド38は、第1金型ユニット20に向かって付勢されている。なお、付勢装置40として、ガススプリングの代わりに、コイルばね等の他の装置を用いてもよい。
【0062】
本実施形態では、ダイ36およびパッド38の原位置では、ダイ本体部36bの下面とパッド本体部38aの下面とが等しい高さとなるように、ダイ36およびパッド38が設けられている。なお、ダイとパッドとの位置関係は、製造されるプレス部品の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0063】
各係止部38bに、ストッパ装置30が設けられている。詳細な説明は省略するが、ストッパ装置30は、ストッパ部材30aと、係止部38bとの間でストッパ部材30aを上下方向Zに移動可能に保持する保持部材30bと、保持部材30bに対してストッパ部材30aを下方に付勢する弾性部材30cとを有している。ストッパ部材30aは、原位置において係止部38bよりも第1方向Z1(下方)に突出するように設けられている。
【0064】
(金型装置の動作)
次に、金型装置100aの動作について説明する。図9図13は、金型装置によるプレス部品の製造方法を説明するための図である。本実施形態では、以下に説明する第1〜第5工程を実施することによって、素材からプレス部品が製造される。
【0065】
(第1工程)
図8に示すように、まず、パンチ32およびホルダ34上に板状の素材300が配置される。このとき、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とは、上下方向Zにおいて離れている。第1工程では、金型装置100aの各構成部材は、原位置の状態である。なお、ディスタンスメンバー24は、原位置においては、第2金型ユニット22から離れている。また、原位置においては、ディスタンスメンバー24の揺動部24aの上端部は、幅方向Xにおいて係止部38bよりも外側に位置している。また、原位置においては、揺動部24aの上端部とストッパ部材30aの下端部とが上下方向Zにおいて対向している。
【0066】
なお、素材300としては、例えば、引張強さが590〜1600MPaの高強度材を用いることができる。
【0067】
(第2工程)
次に、図9および図10に示すように、第1金型ユニット20および第2金型ユニット22が、上下方向Zにおいて互いに近付く方向へ移動する。具体的には、まず、図9に示すように、図示しないプレス機によって、第1金型ユニット20に対して第2金型ユニット22(ダイ36)が第1方向Z1へ相対的に移動する。これにより、パンチ本体部32bおよびホルダ本体部34aと、パッド本体部38aおよびダイ本体部36bとによって素材300が挟まれる。また、各ストッパ装置30のストッパ部材30aは、揺動部24aに押されることによって、係止部38bに対して相対的に第2方向Z2に移動する。なお、図9においては、ディスタンスメンバー24は、原位置の状態である。
【0068】
図10に示すように、第1金型ユニット20に対してダイ36がさらに第1方向Z1に相対的に移動することによって、パンチ32およびパッド38に対して、ホルダ34およびダイ36が相対的に第1方向Z1に移動する。これにより、素材300に対して成形が開始される。具体的には、素材300のうち、幅方向Xにおける両端部(ホルダ本体部34aとダイ本体部36bとによって挟まれた部分)に対して、幅方向Xにおける中央部(パンチ本体部32bとパッド本体部38aとによって挟まれた部分)が第2方向Z2に向かって押し出される。
【0069】
また、パンチ32に対してホルダ34が第1方向Z1に相対的に移動することによって、ホルダ34に設けられたディスタンスメンバー24が、パンチ32に設けられた揺動装置26に対して相対的に第1方向Z1に移動する。これにより、押圧部24cによって伝達部材26bが第1方向Z1に押され、コイルばね26aが圧縮される。その結果、コイルばね26aにおいて、伝達部材26bを第2方向Z2に押す反発力が発生する。すなわち、本実施形態では、コイルばね(弾性部材)26aは、伝達部材26bを介してディスタンスメンバー24によって第1方向にZ1に押圧されることによって第2方向Z2の反発力を発生する反発力生成部として機能する。コイルばね26aにおいて発生した第2方向Z2の反発力は、伝達部材26bを介してディスタンスメンバー24の押圧部24cに伝達される。これにより、揺動部24aの下端部を揺動中心としてディスタンスメンバー24を金型装置100aの内側に向かって揺動(回動)させようとする力が、揺動装置26からディスタンスメンバー24に与えられる。しかし、素材300に対する成形開始直後は、金型装置100aの内側に向かう揺動部24aの移動は、係止部38bによって規制される。すなわち、係止部38bによってディスタンスメンバー24の内側への揺動が規制される。
【0070】
(第3工程)
図11に示すように、パンチ32およびパッド38に対して、ホルダ34およびダイ36がさらに第1方向Z1に移動し、成形下死点(成形完了位置)に到達することによって、所定の成形高さのプレス部品200が得られる。このとき、ホルダ34とともにディスタンスメンバー24が第1方向Z1に移動することによって、揺動装置26において発生する第2方向Z2の反発力が大きくなる。すなわち、ディスタンスメンバー24を金型装置100aの内側へ向かって揺動させようとする力が大きくなる。この状態で、ホルダ34とパッド38との上下方向Zにおける距離が大きくなることによって、揺動部24aの内側への移動が可能になり、ディスタンスメンバー24が金型装置100aの内側に向かって瞬時に揺動する。
【0071】
揺動部24aがキャッチャー部38cに接触する位置まで揺動すると、弾性部材30cに押されることによってストッパ部材30aが第1方向Z1に移動する。これにより、揺動部24aは、キャッチャー部38cとストッパ部材30aとによって挟まれた状態となる。その結果、揺動部24aの揺動が規制される。すなわち、ディスタンスメンバー24の揺動が規制される。
【0072】
また、図11に示した状態では、パッド38がホルダ34に対して相対的に第1方向Z1に移動することは、ディスタンスメンバー24の揺動部24aによって規制される。これにより、ホルダ34のホルダ本体部34aとパッド38のパッド本体部38aとの上下方向Zにおける距離が、所定の成形高さ以上に保持される。言い換えると、図11に示した状態では、上下方向Zにおけるホルダ34とパッド38との距離が所定距離以下になることが、ディスタンスメンバー24によって防止される。本実施形態では、ホルダ34とパッド38との上下方向Zにおける距離が所定距離以下になることを防止するディスタンスメンバー24の位置(図11に示す位置)を、防止位置という。
【0073】
(第4工程)
次に、図12に示すように、ダイ36が第1金型ユニット20に対して第2方向Z2に相対的に移動する。これにより、ダイ36とともに、ホルダ34およびパッド38が、パンチ32に対して第2方向Z2に相対的に移動する。その結果、パンチ32のパンチ本体部32bが、パッド38のパッド本体部38aに対して第1方向Z1に相対的に移動する。言い換えると、パンチ本体部32bは、パッド本体部38aから離れる方向に相対的に移動する。
【0074】
ここで、上述したように、ホルダ本体部34aとパッド本体部38aとの上下方向Zにおける距離は、ディスタンスメンバー24の揺動部24aによって所定の成形高さ以上に保持される。言い換えると、ホルダ34から第2方向Z2に加えられる圧力およびパッド38から第1方向Z1に加えられる圧力はともに、ディスタンスメンバー24の揺動部24aによって受けられる。これにより、ホルダ34およびパッド38からプレス部品200に大きな圧力が加えられることを防止できる。その結果、離型時に、プレス部品200が変形することを防止できる。
【0075】
(第5工程)
最後に、図13に示すように、第1金型ユニット20と第2金型ユニット22とが上下方向Zにおいてさらに離れ、プレス部品200が取り出される。このとき、ディスタンスメンバー24は戻し装置28によって原位置に戻される。
【0076】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態に係る金型装置100aでは、上述の金型装置100と同様に、ディスタンスメンバー24およびディスタンスメンバー24を揺動させるための揺動装置26がともに第1金型ユニット20に設けられている。このため、上述の金型装置100と同様に、金型装置100aにおいても、ディスタンスメンバー24および揺動装置26の損傷を十分に抑制できる。また、上述の金型装置100と同様に、トランスファー型のプレス機において金型装置100aを用いる場合でも、ディスタンスメンバー24および揺動装置26を適切に配置することが可能になる。
【0077】
また、揺動装置を第2金型ユニット22に設ける場合には、ディスタンスメンバー24を外側から覆うことができるような部材(例えば、特許文献1のアウターカム)を設ける必要があった。この点に関して、本実施形態では、揺動装置26によってディスタンスメンバー24を第2方向Z2に押すことによってディスタンスメンバー24を防止位置まで揺動させることができる。この場合、揺動装置26の構成を簡略化できるので、金型装置100aの小型化が可能になる。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る金型装置100aは、耐久性に優れかつ小型化が可能である。
【0079】
また、本実施形態では、揺動装置26は、コイルばね26aによって、ディスタンスメンバー24を揺動させるための力を発生する。この場合、揺動装置26を小型に構成しつつ、十分な力を発生させることができる。また、コイルばね26aを用いることによって、プレス部品200の成形サイクルを短くすることができ、生産性を高めることができる。また、揺動装置26の制御が不要であるので、生産コストを低減できる。
【0080】
また、本実施形態に係る金型装置100aでは、揺動装置26は、ディスタンスメンバー24を揺動させるための力を、ディスタンスメンバー24がパッド38から荷重を受ける位置(本実施形態では、揺動部24aの上端部)とは異なる位置(本実施形態では押圧部24c)において、ディスタンスメンバー24に伝達する。この場合、ディスタンスメンバー24において上記荷重を受ける位置と、上記揺動させるための力が伝達される位置とが同じ位置である場合に比べて、ディスタンスメンバー24の損傷を十分に抑制できる。
【0081】
また、本実施形態に係る金型装置では、例えば、図14に示すように、原位置における揺動部24aの角度を変更してもよい。具体的には、原位置において、揺動部24aの上端の位置を、ホルダ34およびパンチ32の上面と略等しい高さに調整してもよい。この場合、例えば、トランスファー型のプレス機において金型装置を利用する際に、素材300の配置およびプレス部品200の取り出しが容易になり、製造効率を向上させることができる。
【0082】
なお、ディスタンスメンバー24において、上記荷重を受ける位置と揺動中心との距離を、上記揺動させるための力を伝達される位置と揺動中心との距離よりも大きく設定してもよい。この場合、ディスタンスメンバー24を原位置から防止位置に迅速に移動させることができる。一方、ディスタンスメンバー24において、上記荷重を受ける位置と揺動中心との距離を、上記揺動させるための力を伝達される位置と揺動中心との距離以下に設定してもよい。この場合には、小さな力でディスタンスメンバー24を揺動させることができる。
【0083】
上述の実施形態では、揺動装置26がパンチ32に取り付けられる場合について説明したが、揺動装置はパンチ32以外の第1金型ユニットの構成要素に取り付けられていてもよい。例えば、ボルスタに固定された他の構成要素に、揺動装置が取り付けられていてもよい。
【0084】
なお、揺動装置の構成は上述の例に限定されず、揺動装置は、ホルダがパンチに対して第1方向に相対的に移動するのに従って、ディスタンスメンバーを原位置から防止位置へ向かって揺動させるように構成されていればよい。したがって、例えば、揺動装置として、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダまたは電動モータ等のアクチュエータを用いてもよい。揺動装置としてアクチュエータを用いる場合には、例えば、揺動装置を第1金型ユニット20のホルダ34に取り付け、ディスタンスメンバーに連結された回転軸を揺動装置によって回転させることによってディスタンスメンバーを揺動させてもよい。なお、上記のように揺動装置としてアクチュエータを用いる場合には、そのアクチュエータを戻し装置としても機能させることができる。この場合、金型装置の構成をさらに簡略化できる。また、上述の実施形態では、揺動装置の反発力生成部としてコイルばねを用いる場合について説明したが、反発力生成部として、引張ばね、捻りコイルばね、板ばね、ゴム、アキュームレータ、およびガススプリング等を単体または組み合せて用いてもよい。例えば、図15に示す揺動装置26のように、コイルばね26a(図8参照)の代わりに、パンチ32に埋め込まれたガススプリング60を用いてもよい。この場合、ガススプリング60は、伝達部材26bを介してディスタンスメンバー24によって第1方向Z1に押圧されることによって、第2方向Z2の反発力を発生する。これにより、伝達部材26bが第2方向Z2に付勢される。
【0085】
また、上述の実施形態では、4つのディスタンスメンバー24および4つの揺動装置26を設ける場合について説明したが、ディスタンスメンバー24および揺動装置26の数は、3つ以下であってもよく、5つ以上であってもよい。具体的には、プレス荷重および荷重分布等の成形条件を考慮して、ディスタンスメンバー24および揺動装置26の数および配置を適宜変更することができる。
【0086】
また、揺動部24aの形状は上述の例に限定されない。具体的には、揺動部24aが棒状でなくてもよい。
【0087】
また、上述の実施形態では、ディスタンスメンバー24は、防止位置において、パッド38からの荷重を直接受けることによって、パッド38とホルダ34との上下方向Zにおける距離が所定距離以下になることを防止している。しかしながら、ディスタンスメンバー24が、防止位置において、パッド38からの荷重を他の部材を介して間接的に受けることによって、パッド38とホルダ34との上下方向Zにおける距離が所定距離以下になることを防止してもよい。
【0088】
また、上述の金型装置100aでは、ディスタンスメンバー24を原位置に戻すために戻し装置28を用いていたが、例えば、図16および図17に示す金型装置100bのように、戻し装置28の代わりにディスタンスメンバー24に錘部50を取り付け、ディスタンスメンバー24の自重によってディスタンスメンバー24を原位置に戻してもよい。また、詳細な説明は省略するが、戻し装置を、捻りコイルばねを用いて構成してもよく、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダまたは電動モータ等のアクチュエータを用いて構成してもよい。
【0089】
また、上述の金型装置100aでは、防止位置においてディスタンスメンバー24の揺動を確実に規制するために、パッド38にキャッチャー部38cを形成するとともに、パッド38にストッパ装置30を設けていた。しかしながら、防止位置においてホルダ34とパッド38とによってディスタンスメンバー24を挟むことによってディスタンスメンバー24の揺動を防止できる場合には、図16および図17に示す金型装置100bのようにキャッチャー部38cおよびストッパ装置30は設けなくてもよい。
【0090】
なお、詳細な説明は省略するが、図17図22に示すように、金型装置100bを用いる場合も、上述の金型装置100aを用いる場合と同様の工程を実施することによって、素材300からプレス部品200を製造することができる。
【0091】
なお、本発明は、種々の形状のプレス部品、種々のプレス工法、および種々の材質の素材に対応できる。例えば、図23に示すプレス部品10を製造する際にも、本発明を利用できる。図23を参照して、プレス部品10は、ハット形の断面形状を有している。プレス部品10は、天板11、上下方向に延びる縦壁12a,12b、およびフランジ13a,13bを有している。縦壁12a,12bの上端部は、プレス部品10の外側に向かって凸となるように湾曲する稜線部14a,14bを介して天板11に接続されている。また、縦壁12a,12bの下端部は、プレス部品10の内側に向かって凹む稜線部15a,15bを介してフランジ13a,13bに接続されている。プレス部品10は、縦壁12a,12bの法線方向から見た場合に、縦壁12a,12bの高さ方向へ湾曲する湾曲部16,17を有する。このようなプレス部品10を製造する際には、プレス部品10の形状に応じて、第1金型ユニットおよび第2金型ユニットの各部の形状を調整すればよい。
【0092】
また、詳細な説明は省略するが、本発明は、ハット形断面を有する部品以外にも、例えば、図24に示すドーナツ形状部品、図25に示す円筒形状部品、図26に示す球状部品、図27図30に示すリング形状部品、Aピラー、図31に示すBピラー、図32に示すAピラーロアー、図33に示すフロントサイドメンバ、リアサイドメンバ、リアフロアサイドメンバ、および図34に示すルーフレールを製造する際にも利用できる。
【符号の説明】
【0093】
100,100a,100b 金型装置
20 第1金型ユニット
22 第2金型ユニット
24 ディスタンスメンバー
26 揺動装置
28 戻し装置
30 ストッパ装置
32 パンチ
34 ホルダ
36 ダイ
38 パッド
40 付勢装置

【要約】
金型装置は、ホルダに揺動可能に支持されるディスタンスメンバーと、第1金型ユニットに設けられ、かつディスタンスメンバーを揺動させる揺動装置と、を備える。ホルダは、パンチに対してプレス方向に移動可能に設けられ、パッドは、ダイに対してプレス方向に移動可能に設けられる。ディスタンスメンバーは、第2金型に接触しない原位置と、パッドとホルダとのプレス方向における距離が所定距離以下になることを防止する防止位置との間で揺動可能である。プレス方向において、第2金型ユニットから第1金型ユニットに向かう方向を第1方向とし、その反対方向を第2方向とした場合に、揺動装置は、ホルダがパンチに対して第1方向に相対的に移動するのに従って、ディスタンスメンバーを原位置から防止位置へ向かって揺動させる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図34