(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板の表面の少なくとも片面に、厚さ0.02〜2.0μmの化成処理皮膜を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板。
前記溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板の表面の少なくとも片面に、厚さ10〜300μmの塗膜を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明者らは、溶融Sn−Zn系めっき鋼板の母材となる鋼板の成分、およびめっき外観に及ぼす鋼板表面状態、並びにSn−Zn系めっき及び合金層の形成方法について詳細に検討した。そして本発明者らは、良好なめっき外観を得、かつ良好な耐食性、加工性を得るための最適な条件を見出し、本発明に至った。以下にその内容について説明する。
【0020】
本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板は、鋼板と、鋼板の片面又は両面に設けられた拡散性合金層と、拡散性合金層の上に設けられた、質量%で1〜20%のZnと残部Snおよび不純物からなるSn−Znめっき層とを有する。
鋼板は、質量%で、C:0.0005〜0.030%、Si:0.8%以下、Mn:0.10〜2.0%、S:0.010%以下、P:0.005〜0.040%、Cr:4.0〜18.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学成分を有する。鋼板は、さらに所定範囲内で任意元素を含有してもよい。
また、拡散性合金層は、Sn−Fe−Cr−Zn相とSn−Fe−Ni−Zn相とを有し、これらSn−Fe−Cr−Zn相とSn−Fe−Ni−Zn相の面積比率(Sn−Fe−Cr−Zn相/Sn−Fe−Ni−Zn相)が0.01以上2.5未満であり、片面に対する被覆率が98%以上であり、Fe、Sn、Zn、Cr、Niを含有している。
Sn−Znめっき層の付着量は、片面当り10〜80g/m
2である。
拡散性合金層及びSn−Znめっき層は、鋼板の片面のみに配されても、両面に配されてもよい。
【0021】
<鋼板の化学成分>
先ず、本実施形態に係る溶融Sn−Zn系めっき鋼板の母材である鋼板における化学成分の数値限定理由について説明する。なお、以下の説明において、化学成分の濃度単位の%は質量%を表すものとする。
【0022】
C:0.0005〜0.030%
Cは、鋼板の強度に作用する元素であるが、鋼板の延性を低下させプレス成形性などを阻害することからできるだけ少ないほうが好ましい。また、Crを含有する鋼においては、Cは溶接部やろう付け部における粒界腐食の原因となる元素である。そのため、Cはある含有量以下に制限する必要がある。そのため、C含有量の上限を0.030%とする。C含有量の上限は、より好ましくは0.020%、0.010%、又は0.008%である。また、C含有量が0.0005%未満の場合、強度確保が困難になるとともに製錬時のコストが増加する。そのため、C含有量の下限を0.0005%とする。C含有量の下限は、より好ましくは0.0008%、0.0010%、又は0.0020%である。
【0023】
Si:0.8%以下
Siは固溶強化元素として鋼板の強度に作用する。一方、Siは鋼板の延性を低下させ、また溶融めっき性に悪影響を及ぼす。そのため、Siは一定値以下に制限する必要がある。従って、Si含有量の上限を0.8%とする。Si含有量の上限は、好ましくは0.6%、0.5%、又は0.4%である。なお、Si含有量の下限値は特に規定されず、0%でもよい。精錬コストを考慮し、Si含有量の下限値を0.01%、0.05%、又は0.10%としてもよい。
【0024】
Mn:0.10〜2.0%
Mnは、Siと同様に固溶強化により鋼板強度に作用するが、鋼板の延性を低下させ、また溶融めっきに悪影響を及ぼす。そのため、Mnは一定値以下に制限する必要がある。Mn含有量が0.10%未満の場合、含有効果が得られない。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、プレス成形性が損なわれると共に、鋼板の表面にMn酸化物が生成し、めっき性が損なわれる。よって、Mn含有量は0.10%〜2.0%とする。Mn含有量の上限値は、好ましくは1.5%、1.0%、又は0.8%である。Mn含有量の下限値は、好ましくは0.15%、0.2%、又は0.4%である。
【0025】
P:0.005〜0.040%
Pは、固溶強化元素として鋼板の強度に作用する。また、Pは一部の塩害環境での耐食性向上に効果がある元素である。一方、Pは延性を低下させる元素であるとともに、粒界に偏析して耐二次加工脆性を劣化させる元素でもある。そのため、P含有量の上限を0.040%とする。P含有量の上限は、好ましくは0.030%、0.025%、又は0.020%である。また、P含有量が0.005%未満では強度向上、耐食性向上の効果が乏しい。そのため、P含有量の下限を0.005%とする。P含有量の下限は、好ましくは0.010%、0.015%、又は0.018%である。
【0026】
S:0.010%以下
Sは、鋼の精錬時に混入する不純物であり、MnおよびTiと結合して析出物を形成し、加工性を劣化させる。そのため、S含有量は0.010%以下に規制する。S含有量の上限値を0.008%、0.006%、又は0.004%としてもよい。なお、本実施形態に係るSn−Zn系合金めっき鋼板の母材鋼板はSを含む必要がないので、S含有量の下限値は0%である。しかし、S含有量を0.0005%未満に低減するには製造コストが高くなるため、S含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。S含有量の下限値は、より好ましくは0.0007%、0.0008%、又は0.001%である。
【0027】
Cr:4.0〜18.0%
Crは、鋼板の耐食性を確保する重要な成分である。含有量が多いほど耐食性向上に効果がある。そのため、Cr含有量の下限を4.0%とする。Crが4.0%未満では、特に溶接部や切断端面部において、本実施形態に係る溶融Sn−Zn系合金めっきを施しても十分な塩害耐食性が得られない懸念がある。Cr含有量の下限値を5.0%、6.0%、7.0%、8.0%、10.5%、又は12.0%としてもよい。
一方、Crは鋼板の延性を低下させるので、ある一定値以下に制限される必要がある。具体的には、Cr含有量が18.0%を超えると、プレス成形などの冷間加工性が低下するとともに素材コストが上昇するため、Cr含有量を18.0%以下とする。また、特に鞍型タンクなどの複雑な形状を有するプレス成形において、一層高い冷間加工性を確保する必要がある場合、Cr含有量の上限を10.5%未満とすることが好ましい。Cr含有量の上限を15.0%、13.0%、11.0%、10.0%、9.0%、又は8.0%としてもよい。
【0028】
本実施形態に係るSn−Zn系合金めっき鋼板においては、その鋼板の上記成分が更に、Ti:0.010〜0.30%、Nb:0.001〜0.040%、B:0.0002〜0.0030%、Al:0.01〜0.30%、N:0.0010〜0.03%の1種または2種以上含有することができる。ただし、鋼板がこれら成分を含有しなくとも、本実施形態に係る溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板はその課題を解決することができるので、これら元素の下限値は0%である。
【0029】
Ti:0〜0.30%
Tiは、CおよびNとの親和力が強く、炭窒化物を形成して粒界腐食を抑制する。さらにTiには、鋼中に固溶しているCおよびNを低減して、鋼板の加工性を高める効果がある。Ti含有量が0.010%以上である場合は、この効果が得られる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、鋼板の延性が低下するとともに、溶接部の強度および靭性が低下する。よって、Ti含有量の上限は0.30%とする。
【0030】
Nb:0〜0.040%
Nbは、Tiと同様にCおよびNとの親和力が強く、炭窒化物を形成して粒界腐食を抑制する。さらにNbには、鋼中に固溶しているCおよびNを低減して、鋼板の加工性を高める効果がある。Nb含有量が0.001%以上である場合、この効果が得られる。一方、Nb含有量が0.040%を超えると、鋼板の延性が低下するとともに、溶接部の強度および靭性が低下する。よって、Nb含有量の上限は0.040%とする。
【0031】
B:0〜0.0030%
Bは、粒界に偏析することにより、粒界強度を高め、耐二次加工脆性を良好にする元素である。B含有量が0.0002%以上である場合、その効果が得られるので、B含有量の下限を0.0002%としてもよい。より好ましくは、B含有量の下限は0.0003%である。一方、B含有量が0.0030%を超えると、鋼板の延性が低下するとともに、溶接部の強度および靭性が低下する。さらに、Bが過剰である場合、硼化物形成により耐食性が低下する。よって、B含有量の上限を0.0030%とする。B含有量の上限は、より好ましくは0.0020%である。
【0032】
Al:0〜0.30%
Alは、鋼の精錬時に脱酸剤として使用される元素である。Al含有量が0.01%以上である場合、脱酸効果が得られる。しかしながら、Al含有量が0.30%を超えると、溶接部の靭性の低下や加工性の低下を招く。よって、Al含有量の上限は0.30%とする。
【0033】
N:0〜0.03%
Nは、鋼の精錬時に混入する不純物元素である。また、Nは、Ti、AlおよびNbの窒化物を形成するため、加工性に影響を及ぼさないようにするためには一定量以下に規制する必要がある。このため、N含有量は0.03%以下に規制する必要がある。一方、N含有量を0.0010%未満に低減するには、製造コストが高くなる。よって、N含有量の下限値は0.0010%としてもよい。
【0034】
本実施形態に係るSn−Zn系合金めっき鋼板の母材となる鋼板は、Cu:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜3.0%、Mo:0.01〜2.0%、V:0.01〜2.0%の少なくとも1種以上を含有することで、一層好ましい耐食性が得られる。ただし、鋼板がこれら成分を含有しなくとも、本実施形態に係る溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板はその課題を解決することができるので、これら元素の下限値は0%である。
【0035】
Cu:0〜2.0%
Cuは、鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。0.01%以上の含有で効果を発現するため、Cu含有量の下限を0.01%としてもよい。Cu含有量の下限は、より好ましくは0.03%である。また、Cu含有量が多すぎると、熱間圧延時の脆性に悪影響を及ぼす。そのため、Cu含有量の上限を2.0%以下とする。Cu含有量の上限は、より好ましくは1.5%である。
【0036】
Ni:0〜3.0%
Niは、鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。0.01%以上の含有で効果を発現するため、Ni含有量の下限を0.01%としてもよい。Ni含有量の下限は、より好ましくは0.03%である。また、Ni含有量が多すぎると、延性や溶接の靭性に悪影響を及ぼす。そのため、Ni含有量の上限を3.0%とする。Ni含有量の上限は、より好ましくは2.0%である。
【0037】
Mo:0〜2.0%
Moは、鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。0.01%以上の含有で効果を発現するため、Mo含有量の下限を0.01%としてもよい。また、Mo含有量が多すぎると延性が低下するため、Mo含有量の上限を2.0%以下とする。
【0038】
V:0〜2.0%
Vは、Moと同様に、鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。0.01%以上の含有で効果を発現するため、V含有量の下限を0.01%としてもよい。また、V含有量が多すぎると延性に悪影響を及ぼす。そのため、V含有量の上限を2.0%とする。
【0039】
なお、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板を構成する鋼板の化学成分において、上記元素を除く残部は、Feおよび不純物を含む。不純物は、鋼原料から及び/又は製鋼過程で混入する元素であり、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板の特性を阻害しない範囲で許容される元素である。
【0040】
<拡散性合金層>
次に、拡散性合金層について説明する。
本発明者らは、鋼板表面状態及び拡散性合金層がめっき外観に及ぼす影響を種々検討した。その結果、前記成分を有する鋼板について、その表面状態をめっき層形成前に特定の状態にすること、すなわち、めっき層形成前の鋼板表面のCr濃度、Si濃度、Mn濃度をある一定値以下にし、溶融Sn−Zn系めっきの際に特定の組成を有する拡散性合金層を形成させることによって、良好なめっき外観と高い耐食性と優れた加工性を得ることができることを見出した。更に、後述する表面処理方法と合わせることで、より耐食性が向上する。なお、ここでの拡散性合金層とは、鋼板と後述のめっき層との間に金属拡散を伴って形成される合金層を意味する。
【0041】
鋼板とSn−Znめっき層との間に形成させる拡散性合金層は、Sn−Fe−Cr−Znを主体とする相と、Sn−Fe−Ni−Znを主体とする相とを有する。以下、Sn−Fe−Cr−Znを主体とする相をA相と称し、Sn−Fe−Ni−Znを主体とする相をB相と称する場合がある。
拡散性合金層におけるA相とB相との比率(A相/B相)は、鋼板表面における面積比で、0.01以上2.5未満の範囲である。A相/B相が2.5以上である場合、めっき工程時に、溶融めっきのはじきが発生し、めっき層の外観が確保できない。A相/B相は、より好ましくは2.0以下、1.0以下、さらに好ましくは0.2以下である。
また、A相/B相が0.01未満の場合は、鋼板とめっき層との連続性がない場合か、もしくは、Sn−Fe−Cr−Zn(A相)からなる相ではなくCr酸化物相など他の相が形成されている場合になる。このような場合、十分なめっき外観が確保できない。A相/B相は、より好ましくは0.05以上、0.08以上、又は0.1以上である。
なお、Sn−Fe−Cr−Zn相(A相)とは、Sn、Fe、Cr、Znを主体として構成される相を意味し、これら4元素で90%以上の含有量を有する相とする。これらの元素以外に、例えばNiやその他元素を含有することもありうる。また、Sn−Fe−Ni−Zn相(B相)も同様にそれぞれSn、Fe、Ni、Znを主体として構成される相を意味し、これら4元素で90%以上の含有量を有する相とする。これらの元素以外に、例えばCrやその他元素を含有することもありうる。なお、ある領域がA相の定義及びB相の定義の両方に当てはまる場合、Cr量がNi量より多いものをA相と判定し、Ni量がCr量より多いものをB相と判定する。
【0042】
拡散性合金層は、少なくとも鋼板片面を被覆する比率が98%以上であることが好ましい。好ましくは、鋼板の両面において拡散性合金層の被覆率が98%以上である。被覆率が98%未満では、拡散性合金層が被覆されない領域が増大し、その領域におけるめっきの濡れ性が不足し、全体として良好なめっき外観が確保できなくなる。
【0043】
また、拡散性合金層は、Fe、Sn、Zn、Cr、Niを含有する合金層である。これらの元素は、鋼板とSn−Znめっき層との間に拡散性合金層が形成される際に、鋼板、プレめっき層、溶融Sn−Zn合金めっき層から拡散されてきたものである。拡散性合金層には、これらの元素以外に、その特性に悪影響を及ぼさない範囲内で少量の元素があっても構わない。
【0044】
拡散性合金層の厚みは特に限定されない。例えば、拡散性合金層の平均厚さの下限値を0.1μm、又は0.3μmとしてもよい。また、拡散性合金層の平均厚さの上限値を3.0μm、又は2.0μmとしてもよい。拡散性合金層の平均厚さを0.1μm以上とすることにより、拡散性合金層の被覆率を一層向上させ、めっき外観を一層改善することができる。拡散性合金層の厚みを3.0μm以下とすることにより、加工性を一層好ましく保つことができる。
【0045】
前述しためっき前の鋼板表面の元素の濃度分析は、グロー放電発行分光分析(GDS)により、表面から深さ方向への元素濃度を定量的に測定することで行う。表面から深さ50nmまでの積分強度を測定し、板厚中心部側の50nmの積分強度と比較することにより濃度を測定することができる。具体的には、GDSを用いて、表層から深さ50nmまでの任意強度の積分値と、バルクでの50nm深さ幅での任意強度の積分値との割合を求めて、バルクの成分分析値に前記割合をかけることで、めっき前の鋼板表面の元素濃度を測定することができる。測定は、異なる3か所以上の場所において測定し、平均値を計算するか、もしくは平均的な測定箇所1か所を選択して測定値とすることができる。
【0046】
また、拡散性合金層の組成比率及び被覆率の測定は、めっき層をNaOH溶液中で電解剥離した後に、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)もしくはCMA(Computer−aided Micro Anlyzer)等、元素濃度分布を定量的に測定できる装置で行うことができる。A相(Sn−Fe−Cr−Zn相)とB相(Sn−Fe−Ni−Zn相)との比率は、元素濃度分布の画像から判定される、それらの相の面積の比率から求めることができる。また、拡散性合金層の被覆率は、拡散性合金層が形成されていない部分にはSnが検出されず、前述したA相、B相とは明確に区別可能なので、測定範囲全体に占めるA相及びB相の合計面積の比率を求めることで測定できる。尚、EPMAで測定した場合には、拡散性合金層の厚みが薄い場合には、下層の鋼板の成分を併せてカウントする場合も有ると考えらえる。しかし、本発明で測定したA相とB相の比率は、めっき外観、優れた耐食性および加工性を確保する指標として有効であるので、適切な測定方法と指標であると考えられる。測定は、例えば約0.1〜0.3mm
2の測定面積で異なる3か所以上の場所において測定し、平均値を計算するか、もしくは平均的な測定箇所1か所を選択して測定値とすることができる。
更に、拡散性合金層の厚みは、Sn−Zn系合金めっき鋼板の断面を走査型電子顕微鏡で観察して拡散性合金層を確認し、その厚みを測定することで計測できる。拡散性合金層は凹凸があるため、厚み測定は、例えば任意に断面の5か所の厚みを測定し、その平均値をとることで求めることができる。
【0047】
図1及び
図2に拡散性合金層の一例を模式的に示す。
図1に示すように、鋼板1上に拡散性合金層2が形成され、拡散性合金層2の上にめっき層3が形成されている。拡散性合金層2は、Sn−Fe−Cr−Zn相4と、Sn−Fe−Ni−Zn相5とを有している。また、
図2に示すようにSn−Fe−Cr−Zn相4は、平面視形状が略楕円形であったり、不定型な形状であったりする。
図3に、拡散性合金層の一例のCr元素マッピング及びNi元素マッピングを示す。点線で囲まれた濃色領域が、Sn−Fe−Cr−Zn相4であり、それ以外の領域はSn−Fe−Ni−Zn相5である。Sn、Fe、Cr、Znを主体として構成され、これらの合計量が90質量%以上となる領域をA相と判定し、Sn、Fe、Ni、Znを主体として構成され、これらの合計量が90質量%以上となる領域をB相と判定する。なお、EPMAでCr濃度を面分析して、Cr濃度に濃淡が有る場合、A相に含まれるCr濃度はB相に含まれるCr濃度の約1.5〜2.0倍となることが多い。従って、Cr濃度が1.5倍以上有る部分をA相と推定して分析を進めることが効率的である。一方、EPMAでNi濃度を面分析して、Ni濃度に濃淡が有る場合、B相に含まれるNi濃度はA相に含まれるNi濃度の約1.5〜2.0倍となることが多い。従って、Ni濃度が1.5倍以上有る部分をB相と推定して分析を進めることが効率的である。
【0048】
<Sn−Znめっき層>
拡散性合金層の上には、質量%で、1〜20%のZnと、残部Snおよび不純物とからなるSn−Znめっき層を有する。Sn−Znめっき層中のZn量の下限値は、好ましくは1.2%、2.0%、又は3.0%である。Sn−Znめっき層中のZn量の上限値は、好ましくは15%、10%、又は8.8%である。Sn−Znめっき層中のZn量を1〜20%の範囲とすることにより、良好な耐食性が得られる。更に、Sn−Znめっき層中のZn量を8.8%以下とすると、Snの初晶が析出しZnが微細分散するので、より好ましい耐食性が得られる。
【0049】
Sn−Znめっき層の付着量は、片面当り10〜80g/m
2であり、より好ましくは15〜60g/m
2である。付着量が片面10g/m
2未満では、良好な耐食性が確保できず、また、80g/m
2を超えて付着するにはコストが上昇することに加え、厚みがまだらになり模様欠陥となったり、溶接性を低下させたりする。Sn−Znめっき層の付着量の下限値を12g/m
2、15g/m
2、又は20g/m
2としてもよい。Sn−Znめっき層の付着量の上限値を70g/m
2、60g/m
2、又は50g/m
2としてもよい。Sn−Znめっき層の付着量は、例えば蛍光X線分析法、及びめっき溶解前後の重量測定法などにより測定することができる。
なお、付着量は、鋼板の片面ごとに評価する。そのため、鋼板の両面にSn−Znめっき層が設けられている場合、その付着量は蛍光X線分析法で測定することが好ましい。少なくとも片面において、Sn−Znめっき層の付着量が10〜80g/m
2である溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板は、付着量に関する上記要件を満たすものと判断される。
【0050】
本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板は、無塗装で使用することが可能であるが、目的に応じた塗装を施すことにより、更に耐食性や成形性、意匠性を高めることができる。
【0051】
本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板を自動車用の燃料タンクに適用する場合は、燃料タンクの製造時に溶接やろう付けによってSn−Znめっき層が損傷を受けるが、防食塗装を溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板に施すことにより、更に高い防錆性を得ることができる。防食塗装の塗膜厚みは、例えば10〜300μmとすることができる。防食塗装が黒色のシャワーコートや電着塗装の場合には、塗膜厚みは10〜30μmが好ましい。また、燃料タンク下部のチッピングによる塗膜損傷腐食を防止して、更に防錆性を高めるために、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板に耐チッピング塗装を施すことも可能である。この場合、耐チッピング塗装は100〜300μmの塗膜厚みとな る。塗装方法はスプレー法やシャワーコートのほか、電着塗装法なども適用できる。
【0052】
また、黒色塗装の下地として、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板に化成処理を施すことにより、塗膜密着性を向上させることができる。化成処理法としては、6価クロムを含まない3価クロムのクロメート皮膜や、クロムを含まないクロメートフリー皮膜など公知の技術を用いることができる。化成処理皮膜の膜厚は、その効果を発揮する有効な皮膜厚みとして0.02μm以上とすることが好ましい。また、化成処理皮膜の上限膜厚は、抵抗溶接性を阻害しない2.0μmとすることが好ましい。
【0053】
更に、プレス成形など冷間加工時のプレス成形性を確保するため、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板のSn−Znめっき層の直上、もしくは化成処理皮膜の上に、有機系の潤滑皮膜を形成してもよい。この場合、潤滑皮膜の摩擦係数値は0.15以下であることが好ましい。潤滑皮膜の膜厚は、溶接性を考慮して2.0μm以下が好ましい。
【0054】
また、めっき凝固後もしくは皮膜形成後の溶融Sn−Zn系めっき鋼板にスキンパス圧延を施すことにより、溶融Sn−Zn系めっき鋼板の表面の粗度をRaで0.05〜1.0μmと制御することができる。これにより、加工性を保持しつつ、良好な溶接性を得ることができる。溶融Sn−Zn系めっき鋼板の表面粗さRaが0.05μm未満の場合、成形加工時に潤滑油の油膜切れを生じ、加工性が低下する。一方、溶融Sn−Zn系めっき鋼板の表面粗さRaが1.0μm超の場合、鋼板と金型との金属凝着が増加し、加工性が低下する。溶融Sn−Zn系めっき鋼板の表面粗度は、より好ましくは0.1μm以上である。また、溶融Sn−Zn系めっき鋼板は、より好ましくは0.5μm以下である。
【0055】
更に、溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板のSn−Znめっき層の表面、もしくは皮膜の表面に、防錆性及び成形性を高めるために公知の防錆油、潤滑油を塗油することが可能である。
【0056】
<製造方法>
次に、本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を説明する。
本実施形態の溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板の製造方法は、上記の化学成分を有する鋼板を電解酸洗して酸洗鋼板とする酸洗工程と、酸洗鋼板の少なくとも片面に、Niめっき、Ni−FeめっきまたはFe−Niめっきを形成してプレめっき鋼板とするプレめっき工程と、プレめっき鋼板にSn−Zn系溶融めっき処理を施して溶融Sn−Zn系めっき鋼板とするめっき工程と、から構成される。
また、本実施形態の製造方法では、酸洗工程において、酸洗鋼板の表面に形成される酸化皮膜が、鋼板表面から深さ50nmまでの範囲における濃度(質量%)で、Cr:5.5%以下、Si:0.20%以下、Mn:0.60%以下の組成となるように、鋼板を電解酸洗することが好ましい。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0057】
上記の化学成分を有する鋼板は、例えば、次のようにして製造されたものを用いることができる。まず、上記の化学成分を有するスラブを鋳造し、このスラブを熱間圧延することにより熱間圧延板とする。熱間圧延板に対して焼鈍を行ってもよい。次いで、熱間圧延板に対して熱延板酸洗したのち、冷間圧延を行うことによって、所定の厚みの冷延鋼板とする。冷間圧延における鋼板の割れ等を予防するため、冷間圧延の間に中間焼鈍を行ってもよい。更に、得られた冷延鋼板に対して焼鈍を行ってもよい。このようにして、本実施形態の製造方法に供する鋼板を用意する。
【0058】
<酸洗工程>
酸洗工程では、焼鈍後の鋼板に対して、後述する条件で電解酸洗を行うことにより、鋼板表面から50nmの範囲(これは鋼板表面の酸化皮膜にあたる)における元素濃度(質量%)が、Cr:5.5%以下、Si:0.20%以下、Mn:0.60%以下になるように制御する。
【0059】
鋼板の加工性を満足できる材質に整えるため、通常、冷間圧延後の焼鈍工程で熱処理を施すが、その焼鈍工程において、鋼板中に含有される各種成分、特にCr、Si、Mnなどの酸化物が表面に厚く成長して酸化皮膜を形成する。溶融Sn−Zn系めっきを実施する際、この酸化皮膜は、めっき金属のはじきを誘発し、拡散性合金層の形成を妨げる阻害要因となる。
【0060】
すなわち、鋼板表面にCr、Si、Mnの酸化物が濃化した鋼板に、溶融Sn−Znめっきを行なうと、Cr、Si、Mnの酸化物が存在している部分でめっきのはじきが発生し、めっきの大部分が近傍に押しやられた窪みのような部分が発生する。これによりめっき外観不良を引き起こすとともに、耐食性や加工性の低下を誘発するものである。
【0061】
本発明者は、この問題を解決するため、めっき処理前の鋼板表面のCr、Si、Mnの酸化皮膜が、鋼板表面から50nmの範囲における濃度(質量%)で、Cr:5.5%以下、Si:0.20%以下、Mn:0.60%以下である鋼板を使用し、Sn−Znめっき層と鋼板との間に、Sn−Fe−Cr−Zn相(A相)とSn−Fe−Ni−Zn相(B相)との比率が0.01〜2.5未満であるNi、Sn、Cr、Fe、Znを含有する拡散性合金層を設けることにより、良好なめっき外観が得られることを知見した。
【0062】
めっき処理前の鋼板の表面状態は、鋼板表面からのGDSによる深さ方向の分析により求めることができる。GDSによって検出されたすべての元素の合計量を100質量%とし、この値を基準としてCr、Si、Mnの濃度を求めればよい。また表面のEPMAもしくはCMAによる元素分布状態の分析とGDS分析とを併用することにより、部分的な元素濃度を特定することが可能である。
【0063】
熱間圧延後や冷間圧延後の焼鈍中に、鋼中に固溶しているCr、Si、Mnが酸化することで酸化皮膜が生成する。良好なめっき外観を有するSn−Znめっき層を得るためには、めっき前工程である冷間圧延後の焼鈍によって形成した酸化皮膜の除去が重要になる。すなわち、熱延鋼板を冷間圧延して所定の厚さの冷延鋼板とし、この冷延鋼板を再結晶温度以上の温度で焼鈍した後に、特定の条件により電解酸洗することによって、上述の通りCr、Si、Mn酸化物の表面状態を制御することができる。
【0064】
このような鋼板表面のCr、Si、Mn酸化物の表面状態の制御は、例えば、硝酸塩及び硫酸塩の一方又は両方を含み、かつ、フルオロケイ酸塩及びフルオロホウ酸塩の一方又は両方を含む硫酸水溶液である酸洗溶液において、焼鈍後の鋼板を陽極として電解酸洗することにより可能となる。鋼板を陽極として電解することにより、均一に残留部分なく酸化皮膜を溶解でき、目的とする拡散性合金層の形成が可能となる鋼板表面状態となる。その後、溶解により生成した残差付着物をブラシもしくはスプレーで除去した後、水洗、乾燥して、鋼板の表面状態を整えることが肝要である。
【0065】
酸洗溶液に於いて主剤として使用する硫酸は、50g/l〜300g/lの濃度とする。硫酸濃度が50g/l未満では、酸洗効率が悪く、また、300g/l超では過酸洗となりめっき性に悪影響を及ぼす。
【0066】
また、硝酸塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等を用いることができ、濃度を50〜200g/lとする。50g/l未満では効果が得られず、一方200g/l超では効果が飽和してしまう。
【0067】
また、硫酸塩としては、硫酸ナトリウム等を用いることができ、濃度を50〜200g/lとする。50g/l未満では効果が得られず、一方200g/l超では効果が飽和してしまう。
【0068】
硝酸塩及び硫酸塩の両方を使用する場合は、硝酸塩及び硫酸塩の合計濃度を、50〜200g/lとする。
【0069】
更に、フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩としては、フルオロケイ酸ソーダ、フルオロケイ酸カリウムの如きフルオロケイ酸塩や、フルオロホウ酸ソーダ、フルオロホウ酸アンモニウムの如きフルオロホウ酸塩を用いることができる。フルオロケイ酸塩及びフルオロホウ酸塩のいずれか1種以上を合計で5〜100g/l添加するとよい。フルオロケイ酸塩及びフルオロホウ酸塩のいずれか1種以上が5g/l未満の添加量であると酸化膜の除去適度の向上に寄与しなく、100g/l超の添加量では効果が飽和してしまう。フルオロケイ酸塩及びフルオロホウ酸塩のいずれか1種以上の添加量は、好ましくは10g/l以上である。
【0070】
電解酸洗条件は、例えば、酸洗溶液の温度を40〜90℃、より好ましくは50〜80℃の範囲とし、鋼板面積あたりの電流密度を1〜100A/dm
2、より好ましくは5〜80A/dm
2の範囲とし、電解時間を1〜60秒、より好ましくは1〜30秒の範囲とする。電解酸洗条件がこれらの範囲から外れると、鋼板表面のCr、Si、Mn酸化物の表面状態の制御が適切に行うことができなくなる。
【0071】
<プレめっき工程>
次に、プレめっき工程について説明する。
鋼板とSn−Znめっき層との間に、Sn−Fe−Cr−Zn相(A相)とSn−Fe−Ni−Zn相(B相)とを有する拡散性合金層は、鋼板表面のCr、Si、Mnの酸化皮膜が、表面から50nmの表面における濃度が、質量%でCr:5.5%以下、Si:0.20%以下、Mn:0.60%以下である鋼板(酸洗鋼板)に、Niめっき、Ni−FeめっきまたはFe−Niめっきを主体とする金属被覆(プレめっき層)を施した後、浴温度260℃以上のSn−Znめっき浴に、浸入前の鋼板温度が50℃以上で浸入させることにより、得ることができる。
【0072】
なお、Sn−Znめっき層をフラックス法によって形成する場合は、鋼板をSn−Znめっき浴に浸入させる前に鋼板に塗布するフラックスの温度を調製することにより、めっき浴への侵入前の鋼板温度を制御する。また、Sn−Znめっき層をゼンジマー型溶融めっきによって形成する場合は、スナウト内の温度条件を調節することにより、めっき浴への侵入前の鋼板温度を制御する。
【0073】
Niを主体とした金属被覆(即ちNiめっき)は、硫酸Ni、塩化Ni、ホウ酸を主成分とするワット浴を基本とし、硫酸でpH調整をした後に形成する、また、前記成分に硫酸第一鉄を添加することにより、同様にNi−Fe系金属被覆(Ni−Feめっき)を形成する。Ni−Feめっき中のFeの割合は、10〜50質量%未満とすることが好ましい。このとき、電解浴のpHを2.5以下に調整することが肝要である。pHが2.5超の状態だと、鋼板表面におけるエッチング力が低下し、酸化物もしくは水酸化物が界面に形成されるためめっき密着性に問題が生じる懸念がある。Niめっき、又はNi−Feめっきは、片面あたりの金属の付着量で0.1〜3.0g/m
2とすることが好ましい。付着量が0.1g/m
2未満では被覆性が十分でないため十分に合金層が形成されず、めっきはじき抑制効果が小さい。一方、3.0g/m
2 を超えてNiめっき又はNi−Feめっき付着させると、めっきはじき抑制効果が飽和するとともに、めっき層と鋼板界面に合金層が厚く生成し、Sn−Zn系合金めっき鋼板の成形時のめっき密着性が低下する。
【0074】
また、Sn−Znめっきの前に、Feが主成分のFe−Ni系の金属被覆(Fe−Niめっき)を施すことが、Sn−Fe−Cr−Zn相(A相)とSn−Fe−Ni−Zn相(B相)との形成を促進し、Sn−Znめっき層の外観をより向上させるとともに、初晶Snを微細化させて耐食性を向上させるために好ましい。Fe−Niめっきの付着量は、前述したSn−Fe−Cr−Zn相(A相)とSn−Fe−Ni−Zn相(B相)の合金層を得るために0.2g/m
2以上とする。Fe−Niめっき中のNiの割合は、初晶Snを微細化する観点から、10〜50質量%とすることが好ましい。Fe−Niめっきの付着量の上限は、Niめっき又はNi−Feめっきと同様、はじき抑制効果が飽和するので3.0g/m
2以下とする。
【0075】
<めっき工程>
上述の金属被覆を形成した鋼板(プレめっき鋼板)に、Sn−Zn系溶融めっき処理を施して、Sn−Znめっき層を形成する。Sn−Znめっき層は、溶融めっき法により形成する。また、Sn−Znめっき層を形成には、フラックス法、ゼンジマー法の何れの手段を好適に用いることができる。
【0076】
フラックス法では、NiまたはNi−Fe系金属被覆にフラックスを塗布した後に、めっき浴に浸漬することで、溶融めっきを行う。フラックス法では、表面の酸化物皮膜を効率的に除去した後に所定の合金層を形成させることができるため、めっきはじきを抑制する効果が大きい。フラックス法は、ハロゲン換算量で2〜45mass%のフラックス水溶液を鋼板に塗布し、鋼板にめっきする方法である。フラックスとしては、ZnCl
2、NH
4Cl、HCl等の塩化物、ZnBr
2、NH
4Brの臭化物を含むフラックスが効果的である。さらにフラックス塗布前に1〜10%の希塩酸からなる溶液を鋼板に塗布することにより、さらにめっき外観が良好になる。このフラックスの温度は50℃以上とする。50℃以上の温度とすることにより、フラックス塗布後の鋼板温度を上昇させ、鋼板表面での酸化皮膜除去および合金化反応を促進することができる。フラックス温度の上限は特に設けないが、例えば90℃より高く上げると、フラックスの蒸発量が多くなり、処理浴の取り扱いが難しくなるため好ましくない。
【0077】
また、Sn−Zn系めっき浴の浴温度を260℃以上とする。浴温度が260℃未満では、拡散性合金層が十分に形成されず、めっきはじきを生じる恐れがある。また、浴温度の上限はめっき中のZnの含有量によって変動する。例えばめっき浴のZn量が、その上限値である20%の場合には、めっき浴の融点が約275℃であるので、350℃を浴温度の上限とするのが好ましい。
【0078】
ゼンジマー法では、めっき浴に鋼板を浸漬させる前に、スナウト内にて鋼板温度を50℃以上に調整し、浴温度を260℃以上に調整しためっき浴に浸漬させる。
【0079】
めっき後、エアワイピング等の手段により、めっき付着量を片面当り10〜80g/m
2に調整する。
【0080】
以上の各工程を経ることで、Sn−Fe−Cr−Znを主体とする相(A相)とSn−Fe−Ni−Znを主体とする相(B相)の比率が0.01以上2.5未満であるNi、Sn、Cr、Feを含有する拡散性合金層を形成させることができ、併せて、Sn−Znめっき層を形成することができる。A相とB相との比率を0.01以上とした理由は、この比率が0.01未満だとA相が形成されずにCrの酸化皮膜が残留する場合が起こり得るからである。すなわち、上述の場合、 めっき性が不良となる懸念が生じる。またA相とB相との比率の上限値は、操業における浸漬時間によって決まるため、2.5未満、又は2.0以下としている。
【0081】
このようにして、製品として良好なめっき外観を有し、自動車分野、特に燃料タンク用途に好適な高い耐食性、優れた加工性を有する溶融Sn−Zn系めっき鋼板を製造できる。本実施形態の製造方法により、本実施形態の溶融Sn−Zn系めっき鋼板を安定的に供給することが可能になる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
<実施例1>
下記表1に示す組成の鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を経て厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板の焼鈍を行った後、電解酸洗処理浴:硫酸(120g/l)+硫酸ナトリウム(120g/l)+ヘキサフルオロケイ酸(15g/l)、温度50℃、の浴中で、鋼板側を陽極として10A/dm
2で5秒間の電解酸洗を実施した後、表面を水洗・乾燥して、酸洗鋼板を作製した。その後、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行った。Fe−Niめっきの組成は、Niが25質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2―NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成は表2のようにした。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、8秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。
【0083】
こうして作製したSn−Znめっき層の外観を、目視により各めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。具体的には、不めっきの発生がないものをA、不めっきがあるものをXと評価し、A評価の試料を合格とした。さらに、単位面積当たりのピンホール欠陥の発生個数を光学顕微鏡で50倍の視野にて調査し、5個/mm
2以下のものをA、5個/mm
2超〜10個/mm
2以下のものをB、10個/mm
2超のものをXとして評価し、A評価の試料及びB評価の試料を合格とした。
【0084】
また、めっき前の鋼板表面の各成分の構成は、GDSにて測定した結果をもとに、鋼板表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。また形成される拡散性合金層の被覆率を、めっき剥離後のEPMA面分析により求めた。
【0085】
さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、以下に示す耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0086】
<耐食性評価>
耐食性は、以下の複合サイクル試験で評価した。
【0087】
(x1)外面耐食性:
図4の耐食性試験供試材の模式図に示されるように、70×150mmの平板材、及び70×150mmの板に35×100mmの板を3点スポット溶接した供試材を、JASO(自動車技術会による自動車規格)M610−92自動車部品外観腐食試験法により評価した。ここで、70×150mmの平板材においては、その端面及び裏面をシールした。
図4においては、3点スポット溶接をスポット溶接部Yとして示し、端面及び裏面のシールをシール部Zとして示す。なお、35×100mmの板にはシール部Bを設けなかった。評価は、平板部、及び35×100mm板の端面部の錆発生面積率に基づいて実施した。端面部がA評価の試料及びB評価の試料を合格にした。また、C評価のものに関しても、塗装をすれば良好に使用可能であるので、合格と判定した。
【0088】
[評価条件]
試験期間:180サイクル(60日)
[評価基準](錆発生面積率で評価)
A:赤錆発生0.1%未満
B:赤錆発生0.1%以上1%未満または白錆発生有り(白錆20%未満)
C:赤錆発生1%以上、5%未満または白錆目立つ(白錆20%以上90%未満)
X:赤錆発生5%以上または白錆顕著(白錆90%超)
<加工性評価>
加工性は、円筒深絞り試験により評価した。
【0089】
(y1)円筒深絞り加工試験:ポンチ径φ50mmの平底円筒金型を用い、円筒深絞り加工を行った。潤滑油としてNoxrust530−F40(日本パーカライジング製)を用い、しわ押さえ圧は700kgfで行った。その時の絞り加工可能な最大の絞り比(ブランク径÷ポンチ径)、および加工部のめっき外観にて評価した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0090】
[評価基準]
A:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.3以上
B:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.2以上
C:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.0以上
X:成形可能だが、絞り比2.0未満、もしくはめっき層にかじり発生
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示す結果より、合金層がA相/B相の比率および被覆率を満足しない場合、良好なめっき外観が得られない。また、表2の比較例t1〜t8に示されるように、鋼成分が本発明の条件から外れる場合は目的とする良好なめっき外観もしくは耐食性が得られない。本発明の条件を満足することにより、良好なめっき外観と優れた耐食性を兼ね備え、加工性にも優れたSn−Zn系めっき鋼板を得ることができる。
【0094】
<実施例2>
下記表3に示す組成の鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を経て厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板の焼鈍を行った後、電解酸洗処理浴:硫酸(120g/l)+硫酸ナトリウム(120g/l)+ヘキサフルオロケイ酸(15g/l)、温度50℃、の浴中で、鋼板側を陽極として10A/dm
2で5秒間の電解酸洗を実施した後、表面を水洗・乾燥して、酸洗鋼板を作製した。その後、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行った。Fe−Niめっきの組成は、Niが25質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2―NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成は表4のように実施した。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、8秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。
【0095】
こうして作製したSn−Znめっき層の外観を、目視により各めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。具体的には、不めっきの発生がないものをAと評価し、不めっきがあるものをXと評価し、A評価の試料を合格とした。さらに、単位面積当たりのピンホール欠陥の発生個数を光学顕微鏡で50倍の視野にて調査し、5個/mm
2以下のものをA、5個/mm
2超〜10個/mm
2以下のものをB、10個/mm
2超のものをXとして評価し、A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0096】
また、めっき前の鋼板表面の各成分の構成は、GDSにて測定した結果をもとに、鋼板表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。また形成される拡散性合金層の被覆率を、めっき剥離後のEPMA面分析により求めた。
【0097】
さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、以下に示す耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0098】
<耐食性評価>
耐食性は、燃料タンク材の場合の外面耐食性、内面耐食性について評価した。
【0099】
(x1)外面耐食性:実施例1と同様の手法で評価した。
【0100】
(x2)内面耐食性:得られた試験片を用いて、φ50mmポンチでの円筒深絞り加工により、フランジ付きカップを作製した。ガソリン10質量%水溶液であって、ギ酸100ppm、酢酸200ppm、及びNaCl165ppmを含むものを、総量50mlをカップ内に封入して、45℃の恒温槽中で1000時間放置した。試験後にサンプルを目視にて観察して、カップ底面からの赤錆発生有無を確認した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0101】
[評価基準]
A:錆無し
B:白錆発生あり
X:赤錆発生あり
【0102】
<加工性評価>
加工性は、円筒深絞り試験、ドロービード試験、二次加工性試験により評価した。
【0103】
(y1)円筒深絞り加工試験:実施例1と同様の手法で評価した。
【0104】
(y2)ドロービード試験:金型として、ビード部:4R、ダイス肩:2Rのものを用い、潤滑油としてNoxrust530−F40(日本パーカライジング製)を用い、油圧押付け力1000kgでこれを試験片に圧下して試験した。試験片の幅は30mmであり、引き抜いた後のビード通過部のめっき損傷状況を400倍の断面観察により調査した。観察長は20mmとし、めっき層のクラック発生を評価した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0105】
[評価基準]
A:成形可能で、めっき層の欠陥無し
B:成形可能で、わずかに摺動傷あり
C:成形可能で、めっき層にクラックが発生
X:成形可能で、めっき層に局部剥離発生
【0106】
(y3)二次加工性試験:直径95mmのブランク材を作製し、外径50mmのポンチで、絞り比1.9の円筒絞りを行い、絞りカップを作製した。絞りカップを、底角30°の円錐台に逆さまに載せ、−40℃およびー50℃の温度条件の下で、高さ1m位置から重さ5kgの錘を落下させて、絞りカップに割れが発生するかどうかを評価した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0107】
[評価基準]
A:−40℃、−50℃ともに割れ発生無し
B:−40℃で割れ発生無し、−50℃でわずかに割れ発生
X:−40℃で割れ発生
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
表4に示す結果より、合金層がA相/B相の比率および被覆率を満足しない場合、良好なめっき外観が得られない。また、表4の比較例b1、b4〜b6に示されるように、めっき性が得られる水準であっても、鋼成分が本発明の条件から外れる場合は目的とする良好な耐食性、加工性のいずれかもしくは双方が得られない。本発明の条件を満足することにより、良好なめっき外観と優れた耐食性、加工性を兼ね備えたSn−Zn系めっき鋼板を得ることができる。
【0111】
<実施例3>
表3に示す鋼板A1を使用し、実施例1に記載した製造方法と同様の方法でめっき鋼板を作製した後、下記に示す各種皮膜処理を施した後、耐食性、加工性を評価した。評価方法は実施例2と同様である。
【0112】
【表5】
【0113】
[化成処理皮膜]
c1:3価クロメート皮膜:Cr
3+を主体とし、水分散性シリカ及びリン酸を含有した処理液を用い、バーコーターにて鋼板表面に所定の乾燥皮膜厚み、乾燥後皮膜中のCr:Si:Pが質量比で1:3:2となるように付与した後、240℃の雰囲気温度で乾燥することで形成した。
【0114】
c2:クロメートフリー皮膜:酸化Zr、リン酸、硝酸Ce塩、水分散性シリカを含む処理液を用い、バーコーターにて鋼板表面に所定の皮膜厚みになるよう、乾燥後皮膜中のZr:P:Ce:Siが質量比で5:2:1:2となるように付与した後、180℃の雰囲気温度で乾燥することで形成した。
【0115】
c3:ポリエステル−ウレタン樹脂皮膜にコロイダルシリカを20質量%、ポリエチレン樹脂を10質量%含有する潤滑皮膜を、これの材料となる溶液を鋼板表面にバーコーターにて所定の乾燥塗膜厚みになるよう塗布し、240℃の雰囲気温度で到達板温度150℃で乾燥することで形成した。
【0116】
表5に示す結果の通り、No.C1〜C4は、本発明で記載される所定のめっき組成、付着量、合金層被覆率を有するめっき鋼板からなり、全ての性能を満足する。
【0117】
<実施例4>
表3に示す鋼板A1を使用し、実施例2に記載した製造方法と同様の方法でめっき鋼板を作製した後、実施例3で記載した皮膜処理c1を施した後、塗膜を形成し、耐食性を評価した。評価方法は実施例2と同様である。なお、加工性については、鋼板A1について既に良好な結果が得られているので、評価を省略した。
【0118】
【表6】
【0119】
[塗膜]
d1:黒色塗装:寸法70×150mmの試験片に、スチレンブタジエン樹脂を主成分とし黒色顔料を含有する塗料を所定の膜厚になるように塗布し、焼き付け条件140℃×20分で焼き付け乾燥することにより作製した。
【0120】
d2:耐チッピング塗装:寸法70×150mmの試験片に、ウレタン樹脂とスチレンブタジエン樹脂を主成分とし黒色顔料を含有する塗料を所定の膜厚になるように塗布し、焼き付け条件140℃×20分で焼き付け乾燥することにより作製した。
【0121】
表6に示す結果より、No.D1〜D6は、本発明で記載される所定のめっき組成、付着量、合金層被覆率を有するめっき鋼板に加え、本発明で記載される皮膜処理および塗膜からなり、全ての性能を満足すると共に優れた耐食性を発現する。
【0122】
<実施例5>
表3に示すA1、A3、A4、A5、A21、A22の組成の鋼を溶製し、熱間圧延工程にて加熱温度1150℃、仕上げ温度900℃で熱延した後、酸洗熱延工程にて硫酸酸洗を行い、その後冷間圧延工程にて厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板を焼鈍工程にて焼鈍を行って材質を調整した後、酸洗工程にて各種の条件で酸洗処理を行い、酸洗冷延鋼板を作製した。この酸洗冷延鋼板の表面状態を、各成分の表面濃度として、実施例2と同様、GDSにて測定した結果をもとに鋼板表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。
【0123】
これらの酸洗冷延鋼板に対し、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行ってめっき性を評価した。Fe−Niめっきの組成は、Niが25質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2―NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成はZn8質量%とした。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、8秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。こうして作製した溶融Sn−Znめっきの外観を、目視により各溶融めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。めっき外観評価方法は実施例2に記載する内容と同様である。また、形成される合金層の被覆率をめっき剥離後のEPMA面分析により求めた。さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、実施例2に示す方法と同様の方法で耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0124】
【表7】
【0125】
[冷延鋼板の酸洗条件]
F1:硫酸(120g/l)+硫酸ナトリウム(120g/l)+ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム(15g/l)、温度50℃、10A/dm
2、5s電解
F2:硫酸(100g/l)+硝酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸カリウム(5g/l)、温度60℃、30A/dm
2、6s電解
f1:硫酸(100g/l)+硫酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム(10g/l)、温度30℃、10A/dm
2、5s電解
f2:硫酸(100g/l)、温度30℃、1min浸漬
【0126】
表7に示す通り、本発明に記載される成分の鋼を用い、かつ所定の表面元素濃度に制御した酸洗冷延鋼板を作製し、かつ本発明に記載のめっき方法を行うことで、良好なめっき外観を導く拡散性合金層が得られるとともに、その条件で作製しためっき鋼板は、自動車の燃料タンクとして好ましい耐食性と加工性を発現する。一方、比較例に示す結果のように、酸洗冷延鋼板の表面元素濃度が本発明を満たさない場合は、良好なめっき外観を得ることが困難であり、耐食性、加工性の評価が困難であった。
【0127】
<実施例6>
下記表8に示す組成の鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を経て厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板の焼鈍を行った後、電解酸洗処理浴:硫酸(100g/l)+硫酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸(10g/l)、温度50℃、の浴中で、鋼板側を陽極として10A/dm
2で5秒間の電解酸洗を実施した後、表面を水洗・乾燥し酸洗鋼板を作製した。その後、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行った。Fe−Niめっきの組成は、Niが30質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2−NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成は表9のようにした。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、10秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。
【0128】
こうして作製したSn−Znめっき層の外観を、目視により各めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。具体的には、不めっきの発生がないものをAと評価し、不めっきがあるものをXと評価し、A評価の試料を合格とした。さらに、単位面積当たりのピンホール欠陥の発生個数を光学顕微鏡で50倍の視野にて調査し、5個/mm
2以下のものをA、5個/mm
2超〜10個/mm
2以下のものをB、10個/mm
2超のものをXとして評価し、A評価の試料及びB評価の試料を合格とした。
【0129】
また、めっき前の鋼板表面の各成分の構成は、GDSにて測定した結果をもとに、表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。また形成される合金層の被覆率を、めっき剥離後のEPMA面分析により求めた。
【0130】
さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、以下に示す耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0131】
<耐食性評価>
耐食性は、複合サイクル試験による外面耐食性について評価した。
【0132】
(x1)外面耐食性:70×150mmの平板材、及び70×150mmの板に35×100mmの板を3点スポット溶接した供試材を、JASO(自動車技術会による自動車規格)M610−92自動車部品外観腐食試験法により評価した。A及びBを合格にした。
【0133】
[評価条件]
試験期間:180サイクル(60日)
[評価基準]
A:赤錆発生0.1%未満
B:赤錆発生0.1%以上1%未満または白錆発生有り
C:赤錆発生1%以上、5%未満または白錆目立つ
X:赤錆発生5%以上または白錆顕著
【0134】
<加工性評価>
(y1)円筒深絞り加工試験:ポンチ径φ50mmの平底円筒金型を用い、円筒深絞り加工を行った。潤滑油としてNoxrust530−F40(日本パーカライジング製)を用い、しわ押さえ圧は700kgfで行った。その時の絞り加工可能な最大の絞り比(ブランク径÷ポンチ径)、および加工部のめっき外観にて評価した。A及びBを合格にした。
【0135】
[評価基準]
A:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.3以上
B:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.2以上
C:成形可能で、めっき層の欠陥無し、絞り比2.0以上
X:成形可能だが、絞り比2.0未満、もしくはめっき層にかじり発生
【0136】
【表8】
【0137】
【表9】
【0138】
表9に示す結果より、合金層がSn−Fe−Cr−Zn相(A相)/Sn−Fe−Ni−Zn相(B相)の比率および被覆率を満足しない場合、良好なめっき外観が得られない。また、表9の比較例u1’〜u7’に示されるように、めっき性が得られる水準であっても、鋼成分が本発明の条件から外れる場合は目的とする良好な耐食性、加工性のいずれかもしくは双方が得られない。本発明の条件を満足することにより、良好なめっき外観と優れた耐食性、加工性を兼ね、加工性にも優れたSn−Zn系めっき鋼板を得ることができる。
【0139】
<実施例7>
下記表10に示す組成の鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延を経て厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板の焼鈍を行った後、電解酸洗処理浴:硫酸(100g/l)+硫酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸(10g/l)、温度50℃、の浴中で、鋼板側を陽極として10A/dm
2で5秒間の電解酸洗を実施した後、表面を水洗・乾燥し酸洗鋼板を作製した。その後、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行った。Fe−Niめっきの組成は、Niが30質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2―NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成は表11のようにした。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、10秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。
【0140】
こうして作製したSn−Znめっき層の外観を、目視により各めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。具体的には、不めっきの発生がないものをA、不めっきがあるものをXと評価し、A評価の試料を合格とした。さらに単位面積当たりのピンホール欠陥の発生個数を光学顕微鏡で50倍の視野にて調査し、5個/mm
2以下のものをA、5個/mm
2超〜10個/mm
2以下のものをB、10個/mm
2超のものをXとして評価し、A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0141】
また、めっき前の鋼板表面の各成分の構成は、GDSにて測定した結果をもとに、鋼板表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。また形成される合金層の被覆率を、めっき剥離後のEPMA面分析により求めた。
【0142】
さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、以下に示す耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0143】
<耐食性評価>
耐食性は、燃料タンク材の場合の外面耐食性、内面耐食性について評価した。
【0144】
(x1)外面耐食性:実施例6と同様の手法により評価した。
【0145】
(x2)内面耐食性:得られた試験片を用いて、φ50mmポンチでの円筒深絞り加工により、フランジ付きカップを作製した。ガソリン10質量%水溶液であって、ギ酸100ppm、酢酸200ppm、及びNaCl165ppmを含むものを、総量50mlをカップ内に封入して、45℃の恒温槽中で1000時間放置した。試験後にサンプルを目視にて観察して、カップ底面からの赤錆発生有無を確認した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0146】
[評価基準]
A:錆無し
B:白錆発生あり
X:赤錆発生あり
【0147】
<加工性評価>
加工性は、円筒深絞り試験、ドロービード試験、二次加工性試験により評価した。
【0148】
(y1)円筒深絞り加工試験:実施例6と同様の手法で評価した。
【0149】
(y2)ドロービード試験:金型として、ビード部:4R,ダイス肩:2Rのものを用い、潤滑油としてNoxrust530−F40(日本パーカライジング製)を用い、油圧押付け力1000kgでこれを試験片に圧下して試験した。試験片の幅は30mmであり、引き抜いた後のビード通過部のめっき損傷状況を400倍の断面観察により調査した。観察長は20mmとし、めっき層のクラック発生を評価した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0150】
[評価基準]
A:成形可能で、めっき層の欠陥無し
B:成形可能で、わずかに摺動傷あり
C:成形可能で、めっき層にクラックが発生
X:成形可能で、めっき層に局部剥離発生
【0151】
(y3)二次加工性試験:直径95mmのブランク材を作製し、外径50mmのポンチで、絞り比1.9の円筒絞りを行い、絞りカップを作製した。絞りカップを、底角30°の円錐台に逆さまに載せ、−40℃およびー50℃の温度条件の下で、高さ1m位置から重さ5kgの錘を落下させて、絞りカップに割れが発生するかどうかを評価した。A評価の試料及びB評価の試料を合格にした。
【0152】
[評価基準]
A:−40℃、−50℃ともに割れ発生無し
B:−40℃で割れ発生無し、−50℃でわずかに割れ発生
X:−40℃で割れ発生
【0153】
【表10】
【0154】
【表11】
【0155】
表11に示す結果より、合金層がSn−Fe−Cr−Zn相(A相)/Sn−Fe−Ni−Zn相(B相)の比率および被覆率を満足しない場合、良好なめっき外観が得られない。また、表11の比較例b1’〜b9’に示されるように、めっき性が得られる水準であっても、鋼成分が本発明の条件から外れる場合は目的とする良好な耐食性、加工性のいずれかもしくは双方が得られない。本発明の条件を満足することにより、良好なめっき外観と優れた耐食性、加工性を兼ね備えたSn−Zn系めっき鋼板を得ることができる。
【0156】
<実施例8>
表10に示す鋼板A1を使用し、実施例6に記載した製造方法と同様の方法でめっき鋼板を作製した後、下記に示す各種皮膜処理を施した後、耐食性、加工性を評価した。評価方法は実施例7と同様である。
【0157】
【表12】
【0158】
[化成処理皮膜]
c1’:3価クロメート皮膜:Cr
3+を主体とし、水分散性シリカ及びリン酸を含有した処理液を用い、バーコーターにて鋼板表面に所定の乾燥皮膜厚み、乾燥後皮膜中のCr:Si:Pが質量比で1:3:2となるように付与した後、240℃の雰囲気温度で乾燥することで形成した。
【0159】
c2’:クロメートフリー皮膜:酸化Zr、リン酸、硝酸Ce塩、水分散性シリカを含む処理液を用い、バーコーターにて鋼板表面に所定の皮膜厚みになるよう、乾燥後皮膜中のZr:P:Ce:Siが質量比で5:2:1:2となるように付与した後、180℃の雰囲気温度で乾燥することで形成した。
【0160】
c3’:ポリエステル−ウレタン樹脂皮膜にコロイダルシリカを20質量%、ポリエチレン樹脂を10質量%含有する潤滑皮膜を、これの材料となる溶液を鋼板表面にバーコーターにて所定の乾燥塗膜厚みになるよう塗布し、240℃の雰囲気温度で到達板温度150℃で乾燥することで形成した。
【0161】
表12に示す結果より、No.C1’〜C4’は、本発明で記載される所定のめっき組成、付着量、合金層被覆率を有するめっき鋼板からなり、全ての性能を満足する。
【0162】
<実施例9>
表10に示す鋼板A1’を使用し、実施例7に記載した製造方法と同様の方法でめっき鋼板を作製した後、実施例8で記載した皮膜処理c1’を施した後、更に塗膜を形成し、耐食性、加工性を評価した。評価方法は実施例7と同様である。なお、加工性については、鋼板A1’について既に良好な結果が得られているので、評価を省略した。
【0163】
【表13】
【0164】
[塗膜]
d1’:黒色塗装:寸法70×150mmの試験片に、スチレンブタジエン樹脂を主成分とし黒色顔料を含有する塗料を所定の膜厚になるように塗布し、焼き付け条件140℃×20分で焼き付け乾燥することにより作製した。
【0165】
d2’:耐チッピング塗装:寸法70×150mmの試験片に、ウレタン樹脂とスチレンブタジエン樹脂を主成分とし黒色顔料を含有する塗料を所定の膜厚になるように塗布し、焼き付け条件140℃×20分で焼き付け乾燥することにより作製した。
【0166】
表13に示す結果より、No.D1’〜D6’は、本発明で記載される所定のめっき組成、付着量、合金層被覆率を有するめっき鋼板に加え、本発明で記載される皮膜処理および塗膜からなり、全ての性能しつつ優れた耐食性を発現する。
【0167】
<実施例10>
表10に示すA1’、A3’〜A8’、A21’、及びA22’の組成の鋼を溶製し、熱間圧延工程にて加熱温度1150℃、仕上げ温度900℃で熱延した後、酸洗熱延工程にて硫酸酸洗を行い、その後冷間圧延工程にて厚さが0.8mmの冷延鋼板を作製した。この冷延鋼板を焼鈍工程にて焼鈍を行って材質を調整した後、酸洗工程にて各種の条件で酸洗処理を行い、酸洗冷延鋼板を作製した。この酸洗冷延鋼板の表面状態を、各成分の表面濃度として、実施例6と同様、GDSにて測定した結果をもとに表面から50nmまでの深さの積分値から求めた。
【0168】
これらの酸洗冷延鋼板に対し、Fe−Niめっきを1g/m
2施した後、フラックス法で溶融Sn−Znめっきを行ってめっき性を評価した。Fe−Niめっきの組成は、Niが30質量%であり、残部がFe及び不純物であった。フラックスは1%HCl溶液とし、これを塗布した後、ZnCl
2―NH
4Cl水溶液をロール塗布した。めっき浴のZnの組成はZn8質量%とした。浴温は290℃とし、浴浸入時の板温度を60℃として鋼板を浸入させ、10秒間めっきした後、ガスワイピングによりめっき付着量を調整した。こうして作製した溶融Sn−Znめっきの外観を、目視により各溶融めっき鋼板の表面を観察することにより、めっき付着状況に基づいて評価した。めっき外観評価方法は実施例6に記載する内容と同様である。また、形成される合金層の被覆率をめっき剥離後のEPMA面分析により求めた。さらに、めっき外観が良好であり、性能評価が可能な水準について、実施例7に示す方法と同様の方法で耐食性、加工性をそれぞれ評価した。
【0169】
【表14】
【0170】
[冷延鋼板の酸洗条件]
F1’:硫酸(100g/l)+硫酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム(10g/l)、温度50℃、10A/dm
2、5s電解
F2’:硫酸(120g/l)+硝酸ナトリウム(120g/l)+ヘキサフルオロケイ酸カリウム(10g/l)、温度60℃、30A/dm
2、6s電解
f1’:硫酸(100g/l)+硫酸ナトリウム(100g/l)+ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム(10g/l)、温度30℃、10A/dm
2、2s電解
f2’:硫酸(100g/l)、温度30℃、1min浸漬
【0171】
表14に示す結果より、本発明に記載される成分の鋼を用い、かつ所定の表面元素濃度に制御した酸洗冷延鋼板を作製し、かつ本発明に記載のめっき方法を行うことで、良好なめっき外観を導く拡散性合金層が得られるとともに、その条件で作製しためっき鋼板は、自動車の燃料タンクとして好ましい耐食性と加工性を発現する。一方、比較例に示す結果のように、酸洗冷延鋼板の表面元素濃度が本発明を満たさない場合は、良好なめっき外観を得ることが困難であり、耐食性、加工性の評価が困難であった。
本発明の一態様に係る溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板は、所定の化学成分を有する鋼板と、鋼板の片面又は両面に設けられた拡散性合金層と、拡散性合金層の上に設けられたSn−Znめっき層とを備え、拡散性合金層は、Fe、Sn、Zn、Cr、及びNiを含有し、拡散性合金層における、Sn−Fe−Cr−Zn相とSn−Fe−Ni−Zn相との面積比率が0.01以上2.5未満であり、拡散性合金層の、片面に対する被覆率が98%以上であり、Sn−Znめっき層は、質量%で1〜20%のZnと残部Snおよび不純物からなり、Sn−Znめっき層の付着量が片面当り10〜80g/m