(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記一対の摺動部材が、摺動面が上記複合メッキ層である摺動部材と、摺動面がアルミニウムである摺動部材との組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の摺動機構。
上記潤滑基油が、ポリオールエステル(POE)及び/又はポリアルキルグリコール(PAG)を含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動機構。
上記複合メッキ層が、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、金(Au)から選択される金属であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の摺動機構。
上記請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の摺動機構の製造方法であって、摺動部材の表面に金属メッキ皮膜を析出させると共に、該金属メッキ皮膜中に上記ダイヤモンド粒子を分散共析させ、上記複合メッキ層を形成することを特徴とする摺動機構の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の摺動機構について詳細に説明する。
本発明の摺動機構は、一対の摺動部材と、該摺動部材との間に介在する潤滑組成物とを備えるものである。そして、上記摺動部材の少なくとも一方が、摺動面に金属皮膜中にダイヤモンド粒子が分散した複合メッキ層を有するものであり、上記潤滑組成物が、エステル結合(-COO-)及び/又はエーテル結合(-O-)を有する潤滑基油を含む。
【0020】
本発明の摺動機構が、大幅に摩擦抵抗を低減できる理由は明らかにされているわけではないが、次のように考えられる。
【0021】
本発明の摺動機構においては、摺動面の圧力または温度上昇等の入力により、エステル結合(-COO-)及び/又はエーテル結合(-O-)を有する潤滑組成物が反応して摩擦反応生成物を形成する。そして、複合メッキ層中の多結晶ダイヤモンド粒子に上記摩擦反応生成物が吸着されて摺動面に留まり摩擦反応生成物膜を形成するため、動圧発生効果が小さい状態であっても摩擦低減効果が得られるためであると考えられる。
【0022】
<潤滑組成物>
本発明の潤滑組成物は、エステル結合(-COO-)及び/又はエーテル結合(-O-)を有する潤滑基油を含むものであり、必要に応じて冷媒や添加剤等を含有して成る。
【0023】
(潤滑基油)
上記潤滑基油は、エステル結合(-COO-)及び/又はエーテル結合(-O-)を有するものであり、ポリオールエステル(POE)やポリアルキルグリコール(PAG)を使用でき、例えば、冷凍空調用圧縮機に用いられる冷凍機油として用いられるものを使用できる。
【0024】
冷凍機油は、冷媒と直接接触するため、鉱物油とは異なる独特な性能を有するものであり、JISK2211等で規格化されている。
すなわち、冷凍機油は、冷媒と共にコンプレッサーから送り出され、システムを循環してコンプレッサーに戻ってコンプレッサーを潤滑するものであり、潤滑性、冷媒溶解性、低温流動性だけでなく、密閉されたシステムでオイル交換を前提しないため、冷凍空調機器の耐用年数と同等の高度な耐久安定性と信頼性が要求される。
【0025】
上記ポリオールエステル(POE)は、水酸基を複数有するポリオールと、脂肪酸とのエステルである。
上記ポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール等を挙げることができ、これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
また、上記脂肪酸としては、摺動機構の使用目的等にもよるが、炭素数5〜12の脂肪酸であることが好ましい。炭素数が少ないと潤滑性が低下することがあり、炭素数が多くなると冷媒との相溶性が低下することがある。
また、上記脂肪酸は、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであってもよいが、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分岐状脂肪酸が好ましい。さらに、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても構わない。
【0027】
上記ポリオールエステル(POE)としては、例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル、又はこれら2種以上の混合物を挙げることができる。
【0028】
上記ポリアルキレングリコール(PAG)は、アルコール類にアルキレンオキサイドを付加重合させたものである。
ポリアルキレングリコール(PAG)としては、例えば、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレン、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールジアセテート、又はこれら2種以上の混合物を挙げることができる。
【0029】
潤滑基油の40℃動粘度は、5mm/s
2以上100mm/s
2以下であることが好まし
い。5mm/s
2以上であることで油膜切れが防止され、100mm/s
2以下であることで、摩擦損失を低減することができる。また、潤
滑基油の粘度指数は、10以上であることが好ましい。
なお、本発明でいう40℃における動粘度及び粘度指数とは、それぞれJIS K2283に準拠して測定した値をいう。
【0030】
また、潤
滑基油の流動点は、−10℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K2269に準拠して測定した値をいう。
【0031】
また、潤
滑基油の引火点は、120℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。なお、本発明でいう引火点とは、JIS K2265に準拠して測定した値をいう。
【0032】
なお、ポリオールエステル(POE)は、概して、R407CやR410A等の混合系の冷媒に対応した冷凍空調用圧縮機に用いられ、また、ポリアルキルグリコール(PAG)は、概して、HFC134a等のフロン系の冷媒に対応した冷凍空調用圧縮機に用いられる。
【0033】
(添加剤)
本発明の潤滑組成物は、摩擦調整剤、清浄剤等の添加剤を含むことができる。
【0034】
上記摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤、脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を挙げることができ、具体的には、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪族アミン化合物、及びこれらの混合物を挙げることができる。
上記無灰摩擦調整剤の炭素数が6〜30であることで、高い摩擦低減効果を得ることができる。
【0035】
上記炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等のアルキル基。
また、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、セキサコセニル着、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基及びトリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0036】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示できる。
具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート及びソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
【0037】
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。
具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及びイミノ基の一方又は双方の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0038】
上記潤滑組成物に含まれる上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、潤滑組成物全量基準で、0.05〜3.0質量%であることが好ましく、0.1〜2.0質量%であることがより好ましい。
上記含有量が0.05質量%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0質量%を超えると潤滑
基油への溶解性や貯蔵安定性が低下して沈殿物が発生することがある。
【0039】
上記清浄剤としては、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含む清浄剤を挙げることができ、ポリブテニルコハク酸イミドとしては、以下の式(1)及び式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化2】
式(1)、式(2)中、PIBはポリブテニル基を示し、nは1〜5の整数を示す。
【0042】
上記ポリブテニル基は、数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られ、該ポリブテンは、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる。
上記ポリブテニル基の数平均分子量が900未満の場合は清浄効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性が低下することがある。
また、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を、吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
また、上記式(1)、式(2)のnは1〜5であり、2〜4の整数であることが好ましい。上記範囲内にあることで清浄性に優れる。
【0043】
上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、ポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。上記ポリブテニルコハク酸は、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られる。
【0044】
また、上記ポリブテニルコハク酸イドミの誘導体としては、上記式(1)、式(2)で表される化合物のホウ素変性又は酸変性化合物を例示でき、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが好ましい。
【0045】
上記ポリブテニルコハク酸イドミのホウ素変性又は酸変性化合物は、上記式(1)、式(2)で表される化合物にホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及びイミノ基の一方又は双方の一部又は全部を中和又はアミド化することで得られる。
【0046】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。
具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。
また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム及び八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。
また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル及びホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。
なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは0.2〜1である。
【0047】
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、ぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸及びエイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイドやヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0048】
なお、本発明に用いる潤滑組成物では、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15質量%であることが好ましく、1.0〜12質量%であることが更に好ましい。0.1質量%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0049】
また、上記潤滑組成物は、次の一般式(3)で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することができる。
【0050】
【化3】
上記式(3)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ個別に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。
【0051】
上記炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等を挙げることができる。上記アルキル基、アルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0052】
上記R
4、R
5、R
6及びR
7としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基等のアルキル基、
プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基及びオレイル基等のオクタデセニル基や、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基及びテトラコセニル基等のアルケニル基や、シクロペンチル基、シクロヘキシル基及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基、
メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、エチルメチルシクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロヘキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基及びプロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、
フェニル基及びナフチル基等のアリール基、
トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デジルフェニル基、ウンデジルフェニル基及びドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、
ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基及びジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基を例示できる。
なお、R
4、R
5、R
6及びR
7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。
また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアルール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0053】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デジルジオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0054】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、潤滑組成物全量基準で、0.06質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。
ジチオリン酸亜鉛の含有量が0.1質量%を超えると、硬質炭素薄膜が被覆された部材の摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害される可能性がある。
【0055】
かかるジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、上記R
4、R
5、R
6及びR
7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五酸化リン(P
2O
5)と反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。
なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
【0056】
本発明においては、上記(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0057】
(冷媒)
上記冷媒としては、地球温暖化係数(GWP)が0又は小さいものを使用することができ、代替フロン(HFC)やノンフロン(HC)を挙げることができる。
【0058】
<摺動部材>
本発明の摺動部材は、上記潤滑組成物を介して互いに摺動するものであり、少なくとも一方は、摺動面に複合メッキ層を有し、該複合メッキ層がダイヤモンド粒子を含有する金属皮膜である。
【0059】
上記複合メッキ層を有する摺動部材と摺動する他の摺動部材は、上記複合メッキ層の他、錫メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ等、従来摺動部材に設けられているメッキ層を有していてもよいが、メッキ層が形成されていないアルミニウム基材であることが好ましい。
【0060】
上記複合メッキ層に含有されるダイヤモンド粒子としては、単結晶タイプ、多結晶タイプ、クラスタータイプのナノダイヤモンドを使用できる。中でも、多結晶ナノダイヤモンドは略球状の構造を有し、相手攻撃性が小さく高い耐摩耗性を有するため摺動部材の摺動面に好ましく使用できる。
【0061】
上記多結晶タイプのナノダイヤモンドは、爆薬(トリニトロトルエンとトリメチレントリニトロアミンの混合物)を密閉した状態で爆発させ、爆薬中の炭素原子を高温高圧下でダイヤモンド構造に変化させるデトネーション法等により人工的に製造される。
【0062】
上記多結晶タイプのナノダイヤモンドは凝集力が強く、一次粒子のままで安定に存在することが困難である。しかし、上記デトネーション法で作製されたナノダイヤモンドは、ダイヤモンド(sp3炭素)の表面にアモルファスカーボン(sp2炭素)を有する構造であり、上記アモルファスカーボンを、親水性ポリマーやイオン性官能基で修飾することで分散性を向上させることができる。
【0063】
上記親水性ポリマーは、高分子鎖による立体反発力を高めてダイヤモンド粒子を安定して分散させるものである。上記親水性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)残基、ポリメチルシロキサン(PDMS)残基等を挙げることができる。
【0064】
上記イオン性官能基は、カチオン性官能基、アニオン性官能基のいずれであってもよい。上記カチオン性官能基としては、酸性条件下で容易にプロトンと結合してオニウムを形成する官能基を挙げることができ、例えば、アミノ基、チオール基、水酸基、ホスフィン基等を挙げることができる。
【0065】
上記ダイヤモンド粒子の平均一次粒径は、3nm以上10nm以下であることが好ましく、4nm以上6nm以下であることがより好ましい。また、ダイヤモンド粒子の平均二次粒径は25nm以上50nm以下であることが好ましい。
上記デトネーション法による平均一次粒子径4〜5nmの超分散性ナノダイヤモンド(Ultradispersed Diamond(UDD))は、分散液の形態で販売されている。
【0066】
上記金属皮膜を形成する金属としては、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、金(Au)を挙げることができ、これらは二種以上を混合して用いてもよい。中でも、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)であることが好ましい。
【0067】
本発明の複合メッキ層は、ダイヤモンド粒子を0.1体積%〜15体積%含有するものであることが好ましい。
【0068】
また、上記複合メッキ層は、フッ素樹脂微粒子を含有することができる。
上記フッ素樹脂微粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を挙げることができる。中でも、PTFEからなる微粒子であることが好ましい。
上記フッ素樹脂粒子は、平均一次粒径が5〜50μmであると、優れた摺動特性を得ることができる。
【0069】
上記摺動部材を構成する基材としては、特に制限はなくアルミニウム、鉄系材料等を挙げることができ、アルミニウムであることが好ましい。
【0070】
(複合メッキ膜の作製)
上記複合メッキ膜は、金属メッキ液中にダイヤモンド微粒子を安定分散させた複合メッキ液を用いて形成できる。具体的には、上記基材(被メッキ体)を上記複合メッキ液に浸漬し、金属メッキ皮膜中にダイヤモンド粒子を分散共析させる無電解メッキ処理により、上記基材表面に、金属マトリックス中にダイヤモンド微粒子がナノオーダーで均一に分散された複合メッキ膜を形成させることができる。
【0071】
上記金属メッキ液としては特に制限はないが、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、金(Au)から選択される金属の金属イオンを含むものが使用できる。
【0072】
上記複合メッキ液は、分散剤として界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を含有することで、ニッケルイオン等の電解質イオンの強いイオン強度の影響により、ダイヤモンド微粒子間に働く静電的反発力が打ち消されることが防止され、凝集・沈殿することを抑制できる。
【0073】
上記界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性等のイオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤が挙げられる。例えば、イオン性界面活性剤の場合、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等であり、これらはダイヤモンド微粒子の表面に導入したイオン性官能基により適宜選択すればよい。
【0074】
また、親水性ポリマーを導入したダイヤモンド微粒子の場合、非イオン系界面活性剤を用いることが好ましく、例えば、親水性ポリマーがポリエチレングリコールの場合ポリエチレングリコールモノ−4−オクチルフェニルエーテルやアルキルフェノール系の界面活性剤が挙げられる。
【0075】
分散剤として用いる界面活性剤は、分子量30,000〜200,000の単独重合体又は共重合体の界面活性剤が好ましい。分子量が200,000よりも大きいと、ダイヤモンド微粒子間架橋を引き起こし、分散剤よりもむしろ凝集剤として作用するようになる。また、分子量が30,000よりも小さいと、吸着速度は速くてもダイヤモンド微粒子からの脱着が起こりやすくなって分散剤としての効果は小さくなる。
【0076】
上述のように作製された分散液を金属メッキ液に添加して複合メッキ液を製造する場合、ダイヤモンド微粒子の添加量は、複合メッキ液中の組成において0.5〜10g/リットルであることが好ましい。
ダイヤモンド微粒子の添加量をこの範囲に調整した複合メッキ液を用いてメッキ処理すれば、メッキ膜中にダイヤモンド微粒子を均一に分散させることができ、さらにダイヤモンド微粒子の含有率を0.1〜30容量%の範囲で調整することもできる。
【0077】
また、複合メッキ液に使用する還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等の次亜リン酸塩やアミンボラン類、またはヒドラジン塩等が挙げられる。複合メッキ液中の還元剤の濃度は、使用する還元剤の種類や析出させる金属により相違するが、複合メッキ液中の組成において20〜50g/リットルであることが好ましい。
【0078】
複合メッキ液の調整にあたっては、ダイヤモンド微粒子の分散状態を妨げない範囲で錯化剤を添加することが好ましい。複合メッキ液に使用できる錯化剤としては、クエン酸、乳酸、コハク酸、マロン酸、プロピオン酸、アジピン酸、リンゴ酸、グリコール酸等の有機酸やこれらの水溶性塩が挙げられ、これらのうち一種又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。添加する錯化剤の濃度は、複合メッキ液中の組成において10〜40g/リットルであることが好ましい。
【0079】
上記本発明の摺動機構は、内燃機関の摺動部材の他、ロータリー型圧縮機、スクロール型圧縮機等の冷媒圧縮機の摺動機構として好適に使用することができ、該冷媒圧縮機は空調機に使用される。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
無電解メッキにより、直径35mm、幅8.74mmのリング状のアルミニウム基材の摺動面に、3質量%のナノダイヤモンド粒子(平均一次粒径4nm、平均二次粒子径40nm)、及び、5質量%のポリテトラフルオロエチレン粒子が、それぞれ均一に分散した厚さ15μmのニッケル・リン複合メッキを形成し、リング状摺動部材を得た。
【0082】
上記リング状摺動部材が摺動する相手部材として、アルミニウム基材表面に厚さ15μmの錫メッキ層を形成した幅10mm、長さ10mmのブロック状摺動部材を用い、ポリオールエステル(VG90)を、潤滑基油とする摺動機構を形成した。
【0083】
[実施例2]
ブロック状摺動部材を、錫メッキ層を形成せずにアルミニウム基材とすること以外は、実施例1と同様にして摺動機構を形成した。
【0084】
[比較例1]
リング状摺動部材を摺動面に無電解ニッケル・リンメッキを形成したものに代える他は、実施例1と同様にして摺動機構を形成した。
【0085】
[比較例2]
リング状摺動部材を、摺動面に、30質量%のポリテトラフルオロエチレン粒子を含有する無電解ニッケル・リンメッキを形成したものに代える他は、実施例1と同様にして摺動機構を形成した。
【0086】
<評価>
図1に示す回転式摩擦摩耗試験機により、下記の条件で耐凝着試験及びフリクション測定試験を行った。
【0087】
(耐凝着試験)
上記リング状摺動部材に上記ブロック状摺動部材を当接させ、
潤滑組成物温度60℃で、上記リング状摺動部材を周速1m/秒で回転させた。
そして、ブロック状摺動部材で1分毎に111Nを負荷(最大890N)するステップ
荷重方式で凝着の有無を測定した。なお、フリクション力が30Nになった時点で凝着したと判断した。
【0088】
(フリクション測定試験)
上記耐凝着試験で凝着が生じなかったものについて、上記耐凝着試験と同様に、上記リング状摺動部材に上記ブロック状摺動部材を当接させ、
潤滑組成物温度60℃で、890Nの荷重をかけて上記リング状摺動部材を周速1m/秒で回転させ、3分毎に周速を1/2に減速してフリクション力の変化を測定した。
なお、比較例2の摺動機構は、330Nで凝着したため、フリクション測定試験を行わなかった。
【0089】
フリクション測定試験の結果を
図2に示す。
図2は、横軸が、粘度(η)・周速(v)/荷重(W)の無次元数、縦軸がフリクション力(N)のストライベック線図である。
なお、
図2は、横軸の左側では油膜が薄く、右側では油膜が厚い状態を示している。
【0090】
ナノダイヤモンド粒子を含む複合メッキ層を摺動面に有する実施例1,2は、ニッケル・リンメッキを形成した比較例1よりもフリクション力が小さく、また、油膜厚さが薄くなる摺動条件においてもフリクションの上昇が抑えられており、幅広い回転域において高効率であることがわかる。
また、複合メッキ層とアルミニウム基材とを組み合わせた実施例2は、複合メッキ層と錫メッキ層とが摺動する実施例1に比してフリクション力が小さかった。
【0091】
また、比較例2の摺動機構では、摺動面のメッキ層が完全に摩滅し、リング状摺動部材及びブロック状摺動部材の両方に強い凝着痕が認められた。
比較例1の摺動機構では、双方の摺動部材にわずかな凝着痕が見られたが、実施例1,2の摺動機構では、ブロック状摺動部材に摺動痕がみられるのみで、リング状摺動部材側の摩耗はほとんどなかった。
【0092】
また、以下の摺動機構を作製し、
図1に示す回転式摩擦摩耗試験機により、摩擦係数を測定した。評価結果を上記実施例2の摩擦係数と合わせて表1に示す。
【0093】
[比較例3]
リング状摺動部材を摺動面に無電解ニッケル・リンメッキを形成したものに代える他は、実施例2と同様にして摺動機構を形成した。
【0094】
[実施例3]
潤滑組成物を、エステル系の添加剤(GMO:Glycerol mono−oleate)を1%含む合成油PAO(Poly alpha olefin)に代える他は、実施例2と同様にして摺動機構を形成した。
【0095】
[比較例4]
リング状摺動部材を、摺動面に無電解ニッケル・リンメッキを形成したものに代える他は、実施例3と同様にして摺動機構を形成した。
【0096】
【表1】
【0097】
潤滑組成物が、エステル結合やエーテル結合を有する潤滑基油を含む場合は、摺動面がナノダイヤを含むNiPめっきである実施例2の摩擦係数が0.011であって、摺動面がナノダイヤを含まないNiPめっきである比較例3の摩擦係数0.123に対して、10分の1以下にまで大幅に摩擦係数が低下している。
【0098】
これに対し、潤滑基油が合成油(PAO)である場合は、エステル結合を含む添加剤を添加しても、摺動面がナノダイヤを含むNiPめっきである比較例4の摩擦係数は0.020であって、摺動面がナノダイヤを含まないNiPめっきである比較例5の摩擦係数0.030に対して摩擦係数が僅か3分の2までしか低下しておらず、充分な摩擦低減効果が得られていない。
【0099】
上記の結果からダイヤモンド粒子を含有する複合メッキ層は、エステル結合やエーテル結合を有する潤滑基油と組み合わせることで、大幅に摩擦係数が低下することがわかる。