特許第6597965号(P6597965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597965電磁流量計、電磁流量計の電極の取付処置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597965
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電磁流量計、電磁流量計の電極の取付処置方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/58 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   G01F1/58 C
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-243727(P2015-243727)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-110951(P2017-110951A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 雄一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雅和
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭58−42905(JP,Y2)
【文献】 特開平4−343020(JP,A)
【文献】 実開昭57−44424(JP,U)
【文献】 米国特許第4517846(US,A)
【文献】 特許第2999422(JP,B2)
【文献】 特開2007−139544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定流体が流れる測定管と、前記測定管の内部を覆い、前記測定管の内外を貫く貫通孔が形成されたライニングと、前記貫通孔に挿入された電極と、を備えた電磁流量計であって、
前記電極は、接液側が前記ライニングの内側表面と面一あるいは内側表面より窪んでいる場合は、内側面に多孔質絶縁性物質がコーティングされ、接液側が前記ライニングの内側表面よりも突出している場合は、突出部分に多孔質絶縁性物質がコーティングされ、
前記電極の側面と前記貫通孔との間に前記被測定流体が入り込む隙間が、前記貫通孔の全長にわたって形成されていることを特徴とする電磁流量計。
【請求項2】
前記電極の側面には、前記多孔質絶縁性物質のコーティングが施されていない領域があることを特徴とする請求項1に記載の電磁流量計。
【請求項3】
前記隙間の幅は前記電極の側面全周にわたって不均一であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁流量計。
【請求項4】
前記電極は、尖頭形状で、先端側が前記ライニングの表面よりも内側に突き出していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁流量計。
【請求項5】
被測定流体が流れる測定管の内部を覆い、前記測定管の内外を貫く貫通孔が形成されたライニングに挿入する電磁流量計の電極の取付処置方法であって、
前記電極における前記ライニングの表面よりも内側に配置される面を荒らす工程と、
前記電極の少なくとも荒らした面に不動態皮膜を形成する工程と、
前記電極における前記ライニングの表面よりも内側に配置される面を多孔質絶縁性物質でコーティングする工程と、
前記電極を、前記電極の側面と前記貫通孔との間に前記被測定流体が入り込む隙間が前記貫通孔の全長にわたって形成される状態で、前記貫通孔に挿入する工程と、
を有することを特徴とする電磁流量計の電極の取付処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁流量計の電極構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導を利用して導電性の流体の流量を計測する電磁流量計は、堅牢で高精度であることから工業的用途等に広く用いられている。電磁流量計は、直交方向に磁場がかけられた測定管内に導電性の被測定流体を流し、発生した起電力を一対の電極を用いて計測する。この起電力は、被測定流体の流速に比例するため、計測された起電力に基づいて被測定流体の体積流量を得ることができる。
【0003】
図4は、従来の電磁流量計300の電極部分の断面図である。本図に示すように、測定管310の内部は樹脂、セラミック、ゴム等のライニング320で覆われており、測定管310の外部に励磁コイル340が配置されている。本図の例では、一対の電極330は、接液側面がライニング320の表面と面一になるように長さが加工され、測定管310の外側から挿入されて組み付けられている。電極330は、測定流体に応じた材質の金属が用いられ、一般に、不動態皮膜が形成されており、表面が保護されている。
【0004】
固形物を含んだスラリー流体の測定においては、スラリーノイズと呼ばれるノイズが発生し、測定信号の安定性に影響を及ぼす場合がある。ここで、スラリーノイズは、被測定流体内の固形物が電極330に衝突し、電極330表面の不動態皮膜が破壊されることによって発生するノイズである。固形物は、砂利、砂、泥、金属片、プラスチック等多岐にわたる。
【0005】
スラリーノイズを防止するために、例えば、特許文献1には、電極表面に多孔質セラミックをコーティングすることが記載されている。図5は、内部がライニング320に覆われた測定管310に、多孔質セラミック351をコーティングした電極350を内挿した例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−308582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多孔質セラミック351を電極350の接液面にコーティングした場合、スラリーの衝突から電極350の表面を保護してスラリーノイズを防止することができるが、電極350は、多孔質セラミック351に形成された細かい孔を通じて被測定流体と接液することになる。
【0008】
このため、被測定流体が細かい粒子を含んでいたり付着性流体等であったりすると、多孔質セラミック351が目詰まりを起こしてしまい、電極350が被測定流体と十分に接液できなくなり、起電力測定の精度が低下するおそれがある。多孔質セラミック351に限られず、他の多孔質絶縁性物質を電極の接液面にコーティングした場合も同様の問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、電極に多孔質絶縁性物質をコーティングした電磁流量計において、多孔質絶縁性物質の目詰まりによる測定精度の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様である電磁流量計は、被測定流体が流れる測定管と、前記測定管の内部を覆い、前記測定管の内外を貫く貫通孔が形成されたライニングと、前記貫通孔に挿入された電極と、を備えた電磁流量計であって、前記電極は、接液側が前記ライニングの内側表面と面一あるいは内側表面より窪んでいる場合は、内側面に多孔質絶縁性物質がコーティングされ、接液側が前記ライニングの内側表面よりも突出している場合は、突出部分に多孔質絶縁性物質がコーティングされ、前記電極の側面と前記貫通孔との間に前記被測定流体が入り込む隙間が形成されていることを特徴とする。
ここで、前記電極の側面には、前記多孔質絶縁性物質のコーティングが施されていない領域があることが望ましい。
また、前記隙間の幅は前記電極の側面全周にわたって不均一であってもよい。
また、前記電極は、尖頭形状で、先端側が前記ライニングの表面よりも内側に突き出していてもよい。
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様である電磁流量計の電極の取付処置方法は、被測定流体が流れる測定管の内部を覆い、前記測定管の内外を貫く貫通孔が形成されたライニングに挿入する電磁流量計の電極の加工方法であって、前記電極における前記ライニングの表面よりも内側に配置される面を荒らす工程と、前記電極の少なくとも荒らした面に不動態皮膜を形成する工程と、前記電極における前記ライニングの表面よりも内側に配置される面を多孔質絶縁性物質でコーティングする工程と、前記電極を、前記電極の側面と前記貫通孔との間に前記被測定流体が入り込む隙間が形成される状態で、前記貫通孔に挿入する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明は、電極に多孔質絶縁性物質をコーティングした電磁流量計において、多孔質絶縁性物質の目詰まりによる測定精度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る電磁流量計の電極部分の断面図である。
図2】電極形状の別例を示す図である。
図3】セラミックコーティングの手順を示すフローチャートである。
図4】従来の電磁流量計の電極部分の断面図である。
図5】測定管に、多孔質セラミックをコーティングした電極を内挿した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る電磁流量計100の電極130部分の断面図である。本図に示すように、測定管110の内部はライニング120で覆われており、測定管110の外部に励磁コイル(不図示)が配置されている。電極130は、ステンレス、ハステロイ、チタン等の測定流体に応じた材質の金属が用いられる。
【0014】
電極130は、測定管110の内側に配置される内側面が多孔質セラミック131でコーティングされている。電極130の接液側がライニング120の内側表面と面一あるいはライニング120の内側表面より窪んでいる場合は、少なくとも内側面を多孔質セラミック131でコーティングする。接液側がライニング120の内側表面よりも突出している場合は、少なくとも突出部分を多孔質セラミック131でコーティングする。ただし、他の多孔質絶縁性物質でコーティングしてもよい。例えば、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。
【0015】
本図の例では、電極130は、多孔質セラミック131のコーティング面が、ライニング120の表面と面一になるように長さが加工されている。ライニング120には、測定管110の内外を貫通する貫通孔が形成されている。電極130は、ライニング120に形成された貫通孔に、測定管110の外側から挿入されて組み付けられている。このため、電極130に形成されたフランジを利用して測定管110の外部でシールを行なうことができ、内挿型よりもシール性を容易に向上させることができる。また、電極130の交換や取り外しを外側から容易に行なうことができ、多孔質セラミック131の再コーティングも容易である。
【0016】
本実施形態では、電極130の径よりも、ライニング120に形成された貫通孔の径を大きくし、電極130の側面とライニング120との間に隙間dを形成している。この隙間dは、被測定流体が入り込める程度の幅を確保する。
【0017】
この隙間dにより、電極130は、多孔質セラミック131を介した内側面のみならず、側面でも被測定流体に接液することが可能となる。このため、多孔質セラミック131が目詰まりを生じても、十分に起電力を測定することができ、測定精度に影響を与えることはない。
【0018】
被測定流体に確実に接液するため、電極130の側面には多孔質セラミック131のコーティングを施さないことが望ましい。少なくともコーティングを施さない領域を設けるようにする。多孔質セラミック131をコーティングしなくても、側面にはスラリーが直接衝突することはないため、大きなスラリーノイズは発生しない。ただし、電極130の側面を部分的にコーティングしてもよい。例えば、内側面に近い領域に耐スラリー性を高めるためのコーティングを施してもよい。
【0019】
スラリーが衝突しやすい電極130の内側面には、多孔質セラミック131がコーティングされているため、従来同様にスラリーノイズを防止することができる。このとき、側面でも被測定流体に接液することから、多孔質セラミック131のコーティングの膜厚を従来よりも厚くすることができ、耐スラリー性能をより高めることができる。
【0020】
電磁流量計100では、電極130が側面でも接液することにより、スラリーノイズに加え、流体と電極との摩擦で発生するフローノイズの低減も期待できる。これは、フローノイズの大きさが流速に比例し、電極面積に反比例するところ、本実施形態では側面の接液により電極面積が実質的に増加するためである。
【0021】
なお、電極130とライニング120との隙間dは、電極130の側面全周にわたって均一でなくてもよい。例えば、被測定流体の上流側の隙間dを下流側の隙間dよりも小さくすることで、スラリーの隙間dへの入り込みや電極130の側面への衝突を効果的に防止することができる。あるいは、測定管110に交差する方向の隙間dを測定管110方向の隙間dよりも大きくすることで被測定流体が流れる向きに依存せずに同様の効果を得ることができる。
【0022】
上述の例では、多孔質セラミック131のコーティング面が、ライニング120の表面と面一になるようにしていたが、電極130のコーティング面をライニング面120から窪ませるように電極130の長さを加工してもよい。これにより、スラリーのコーティング面への衝突量を減らすことができる。
【0023】
また、電極の形状は円柱状に限られない。円錐状、角柱状としてもよい。さらには、図2に示すように、円柱と円錐とを組み合わせて、先端側が細くなる尖頭形状の電極140として、ライニング120の表面よりも内側に突き出した配置としてもよい。この場合、ライニング120の表面よりも内側に突き出した面に多孔質セラミック141のコーティングを施すようにする。
【0024】
この形状では、コーティング領域が被測定流体の流れの影響を受けるため、多孔質セラミック141の付着物に対する自己洗浄力を高めることができる。このため、特に付着性スラリーに効果的である。この場合、スラリーが衝突しやすい流れ方向のコーティング膜厚を流れに直交する方向のコーティング膜厚よりも厚くしてもよい。
【0025】
ところで、多孔質セラミックのコーティングを施す場合、アンカー効果を利用するため、コーティングに先立ち、不動態皮膜が形成された電極表面を荒らして凹凸形状を形成することが一般的である。この荒らしの過程で、電極表面に形成された不動態皮膜は不均一になってしまう。不動態皮膜は時間を経ると再生され均一化されるが、その間の測定信号の出力揺動が大きくなり、安定性に欠ける場合がある。
【0026】
そこで、本実施形態では、図3に示すような手順でセラミックコーティングを施すものとする。すなわち、電極130、140のコーティング施工面(内側面あるいは突き出し面)の荒らし加工を行なう(S101)。荒らし加工は、例えば、金属粒子をコーティング施工面にぶつけることで行なうことができる。
【0027】
その後、不動態皮膜を形成し(S102)、多孔質セラミック131、141のコーティングを行なう(S103)。このように、本実施形態では、荒らし加工を行なってから不動態皮膜を形成することで、荒らし加工によって不均一になった不動態皮膜を再生するようにしている。このため、製造直後から出力を安定させることができる。
【0028】
なお、不動態皮膜形成処理は、例えば、120℃で1時間程度の熱処理で行なうことができる。電極130、140全体を水に接液させることで行なってもよい。この場合、静水であっても流水であってもよい。あるいは、荒らし加工を行なった部分に、短時間の電解研磨を施すことで不動態皮膜形成処理を行なってもよい。これにより、凹凸面に付着した微細な異種金属も除去することができる。ただし、電解研磨を長時間行なうと、表面の凹凸が小さくなりアンカー効果が得られにくくなるため、電解研磨の時間は必要最小限とする。
【0029】
もっとも、本実施形態では、電極130、140の側面はコーティングが不要である。このため、側面は荒らし加工が不要で、均一な不動態皮膜が保たれることから、電極130、140の内側面あるいは突き出し面の荒らし加工の後に不動態皮膜形成処理を行なうことなく内側面あるいは突き出し面の多孔質セラミック131、141のコーティングを行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
100…電磁流量計、110…測定管、120…ライニング、130…電極、131…多孔質セラミック、140…電極、141…多孔質セラミック
図1
図2
図3
図4
図5