特許第6597968号(P6597968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597968
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20191021BHJP
【FI】
   B41J2/14 603
   B41J2/14 613
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-16286(P2016-16286)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132212(P2017-132212A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】長沼 陽一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
(72)【発明者】
【氏名】冨松 慎吾
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−063588(JP,A)
【文献】 特開平9−246234(JP,A)
【文献】 特開2009−029011(JP,A)
【文献】 特開2009−255316(JP,A)
【文献】 特開平07−132595(JP,A)
【文献】 特開2006−130742(JP,A)
【文献】 特開2013−184467(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0129798(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、
複数の前記圧力発生室に共通して連通するマニホールドと前記圧力発生室とを連通する供給路を有する連通板と、
を具備し、
前記連通板には、前記マニホールドの少なくとも一部を構成する凹部が、前記流路形成基板とは反対面側に開口して設けられており、
前記凹部は、第1凹部と、該第1凹部よりも深さの深い第2凹部とを具備し、
前記供給路は、前記第1凹部の底面に開口して、第1の方向に並設されており、
前記第1凹部と前記第2凹部との間には、前記第1凹部の底面から前記第2凹部の底面に向けて傾斜した傾斜面が前記第1の方向に沿って設けられており、
前記傾斜面は、角度の異なる第1傾斜面と第2傾斜面とが交互に繰り返し並設されて構成され、
互いに隣り合う前記第2傾斜面のピッチは、互いの隣り合う前記供給路のピッチよりも小さいことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記連通板は、表面の結晶面方位が{110}面となるシリコン基板であり、
前記第1凹部及び前記第2凹部の底面は、結晶面方位が{110}面で形成されており、
前記第1傾斜面は、前記{110}面に対して傾斜した任意の面で形成され、
前記第2傾斜面は、前記{110}面と、当該{110}面に対して垂直な第1の{111}面とに対して傾斜した第3の{111}面で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2傾斜面の前記ピッチが、42.4μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記供給路は、前記ノズル開口から液体を吐出する吐出用圧力発生室に連通する吐出用供給路と、前記ノズル開口から液体を吐出しないダミー圧力発生室に連通するダミー用供給路と、を具備し、
前記ダミー用供給路が、前記第1の方向の端部側に少なくとも1以上設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ダミー用供給路が、前記第1の方向の両端部にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項4記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を吐出する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口と、ノズル開口に連通する圧力発生室と、を具備し、圧力発生手段によって圧力発生室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズル開口からインク滴を吐出させるものがある。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、複数の圧力発生室が形成された圧力室形成基板と、複数の圧力発生室に共通して連通する共通液室(マニホールドとも言う)の少なくとも一部を構成する凹部が形成された連通基板とを積層し、連通基板の圧力室形成基板とは反対側に凹部を設けると共に、連通基板に凹部と各圧力発生室とを連通する供給流路を積層方向に沿って貫通して設けた構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−037133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、供給路は、その流路抵抗がインクの吐出特性に大きな影響を及ぼすため、流路断面積(穴径)や流路長さを適切に設定しなければならないが、流路長さを適切に設定すると、マニホールドの一部を構成する凹部の深さが減少し、凹部における流路抵抗が大きくなってしまうという問題がある。これに対して、凹部を深く形成すると、供給路の流路長が不足し、適切な流路長で供給路を形成することができなくなってしまうという問題がある。
【0006】
また、マニホールド内のインクに含まれる気泡の排出性の向上も望まれている。
【0007】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、凹部の深さ及び供給路の必要な長さを確保することができると共に気泡の排出性を向上した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、複数の前記圧力発生室に共通して連通するマニホールドと前記圧力発生室とを連通する供給路を有する連通板と、を具備し、前記連通板には、前記マニホールドの少なくとも一部を構成する凹部が、前記流路形成基板とは反対面側に開口して設けられており、前記凹部は、第1凹部と、該第1凹部よりも深さの深い第2凹部とを具備し、前記供給路は、前記第1凹部の底面に開口して、第1の方向に並設されており、前記第1凹部と前記第2凹部との間には、前記第1凹部の底面から前記第2凹部の底面に向けて傾斜した傾斜面が前記第1の方向に沿って設けられており、前記傾斜面は、角度の異なる第1傾斜面と第2傾斜面とが交互に繰り返し並設されて構成され、互いに隣り合う前記第2傾斜面のピッチは、互いの隣り合う前記供給路のピッチよりも小さいことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、第2傾斜面のピッチを供給路のピッチよりも小さくすることで、傾斜面に沿って移動する気泡の引っ掛かりを抑制して、傾斜面に沿って気泡を移動させ易くすることができる。また、供給路を第1凹部の底面に開口させることで、供給路の長さを確保して、圧力損失を低減して吐出効率を向上することができる。さらに、第2凹部を設けることで、マニホールドの容積を確保することができると共に小型化することができる。
【0010】
ここで、前記連通板は、表面の結晶面方位が{110}面となるシリコン基板であり、前記第1凹部及び前記第2凹部の底面は、結晶面方位が{110}面で形成されており、前記第1傾斜面は、前記{110}面に対して傾斜した任意の面で形成され、前記第2傾斜面は、前記{110}面と、当該{110}面に対して垂直な第1の{111}面とに対して傾斜した第3の{111}面で形成されていることが好ましい。これによれば、異方性エッチングによって精密加工を行って、高精度な第1凹部、第2凹部および傾斜面を形成することができる。また、傾斜面を設けることで、液体の流れの澱みを抑制してさらに気泡排出性を向上することができる。
【0011】
また、前記第2傾斜面の前記ピッチが、42.4μm以下であることが好ましい。これによれば、傾斜面に沿って移動する気泡の引っ掛かりを抑制することができる。
【0012】
また、前記供給路は、前記ノズル開口から液体を吐出する吐出用圧力発生室に連通する吐出用供給路と、前記ノズル開口から液体を吐出しないダミー圧力発生室に連通するダミー用供給路と、を具備し、前記ダミー用供給路が、前記第1の方向の端部側に少なくとも1以上設けられていることが好ましい。これによれば、マニホールドの気泡が滞留し易い第1の方向の端部の気泡をダミー用供給路から排出させることができ、さらに気泡排出性を向上することができる。
【0013】
また、前記ダミー用供給路が、前記第1の方向の両端部にそれぞれ設けられていることが好ましい。これによれば、マニホールドの気泡が滞留し易い第1の方向の両端部の気泡をダミー用供給路から排出させることができ、さらに気泡排出性を向上することができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、圧力損失を低減して吐出効率を向上することができると共に気泡排出性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態1に係る流路形成基板の平面図である。
図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。
図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。
図6】本発明の実施形態1に係る連通板の平面図である。
図7】本発明の実施形態1に係る連通板の要部を切り欠いた斜視図である。
図8】本発明の実施形態1に係る気泡の流れを示す連通板の平面図である。
図9】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図10】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図11】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図12】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図13】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図14】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図15】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
図16】本発明の実施形態2に係る連通板の平面図である。
図17】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、記録ヘッドの流路形成基板の平面図であり、図3は、図2のA−A′線断面図であり、図4は、図3の要部を拡大した断面図であり、図5は、図2のB−B′線断面図であり、図6は、連通板の平面図であり、図7は、連通板の要部を切り欠いた斜視図である。
【0017】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に記録ヘッド1とも言う)を構成する流路形成基板10には、一方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称する。また、流路形成基板10には、圧力発生室12が第1の方向Xに並設された列が複数列、本実施形態では、2列設けられている。この圧力発生室12の列が複数列設された列設方向を、以降、第2の方向Yと称する。さらに、第1の方向X及び第2の方向Yの両方に直交する方向を第3の方向Zと称し、詳しくは後述するケース部材40側をZ1側、ノズルプレート20側をZ2側と称する。なお、第1の方向X、第2の方向Y及び第3の方向Zは、互いにそれぞれ直交する方向としたが、特にこれに限定されず、直交以外の角度で交差する方向であってもよい。
【0018】
このような流路形成基板10のZ2側の面側には、連通板15と、ノズルプレート20とが順次積層されている。
【0019】
連通板15には、図3及び図4に示すように、圧力発生室12とノズル開口21とを連通するノズル連通路16が設けられている。連通板15は、流路形成基板10よりも大きな面積を有し、ノズルプレート20は流路形成基板10よりも小さい面積を有する。このように連通板15を設けることによってノズルプレート20のノズル開口21と圧力発生室12とを離せるため、圧力発生室12の中にあるインクは、ノズル開口21付近のインクで生じるインク中の水分の蒸発による増粘の影響を受け難くなる。また、ノズルプレート20は圧力発生室12とノズル開口21とを連通するノズル連通路16の開口を覆うだけで良いので、ノズルプレート20の面積を比較的小さくすることができ、コストの削減を図ることができる。なお、本実施形態では、ノズルプレート20のノズル開口21が開口されて、インク滴が吐出される面を液体噴射面20aと称する。
【0020】
また、連通板15には、マニホールド100の一部を構成する第1マニホールド部17と、本実施形態の凹部である第2マニホールド部18とが設けられている。
【0021】
第1マニホールド部17は、連通板15を第3の方向Zに貫通して設けられている。
また、第2マニホールド部18は、連通板15を第3の方向Zに貫通することなく、連通板15のノズルプレート20側に開口して設けられた凹部となっている。
【0022】
ここで第2マニホールド部18は、図4図7に示すように、流路形成基板10とは反対側であるZ2側の面に開口する第1凹部181と、Z2側の面に開口して第1凹部181よりも深い第2凹部182と、を具備する。第1凹部181と第2凹部182とは、第2の方向Yに並んで形成されており、第2凹部182の第1マニホールド部17とは反対側に第1凹部181が配置されている。
【0023】
このような第1凹部181と第2凹部182とは、第3の方向Zの深さの違いによって段差状に形成されている。言い換えると、第2凹部182から見ると、Z2側に盛り上がった台地状の部分に第1凹部181が形成されている。そして、第1凹部181と第2凹部182との間には、第2凹部182の底面から第1凹部181の底面に向かって傾斜する傾斜面183が設けられている。この傾斜面183は、第3の方向Zに対して傾斜して設けられており、傾斜面183の傾斜方向は、第2凹部182の底面から第1凹部181の底面に向かう方向、すなわち、第2凹部182の第2の方向Yの幅が徐々に漸大する方向となっている。なお、第1凹部181の底面及び第2凹部182の底面とは、第1凹部181及び第2凹部182のそれぞれのZ1側の面のことである。本実施形態では、第1凹部181の底面及び第2凹部182の底面は、第1の方向X及び第2の方向Yを含む平坦面としたが、特にこれに限定されず、例えば、第1凹部181の底面及び第2凹部182の底面は、第3の方向Zに直交する方向に対して傾斜した面であってもよい。
【0024】
また、傾斜面183は、互いに角度の異なる第1傾斜面183aと、第2傾斜面183bとを第1の方向Xに交互に並設して形成されている。すなわち、角度の異なる第1傾斜面183aと第2傾斜面183bとを交互に繰り返して並設することで、傾斜面183が形成されている。
【0025】
ここで、連通板15は、本実施形態では、表面の結晶面方位が{110}面のシリコン基板(シリコン単結晶基板)からなる。そして、少なくとも第2マニホールド部18は、連通板15をZ1側の面からKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより形成されている。異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。本実施形態では、連通板15のZ1及びZ2側の面の面方位が{110}のシリコン単結晶基板からなるため、シリコン単結晶基板の{110}面のエッチングレートと比較して{111}面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。すなわち、シリコン単結晶基板をアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に浸食されて{110}面に垂直な第1の{111}面と、この第1の{111}面と約70度の角度をなし且つ上記{110}面に垂直な第2の{111}面と、上記{110}面と約35度の角度をなし且つ第1の{111}面と54.74度の角度をなす第3の{111}面とが出現する。本実施形態では、第1凹部181の底面及び第2凹部182の底面を{110}面で形成した。また、本実施形態では、傾斜面183を構成する第1傾斜面183aは、(エッチングレートの大きい)任意の面で形成され、第2傾斜面183bは、第3の{111}面で形成されている。すなわち、傾斜面183は、互いに角度の異なる第1傾斜面183aと第2傾斜面183bとが第1の方向Xに交互に並設され形成されている。
【0026】
また、連通板15には、圧力発生室12の第2の方向Yの一端部に連通する供給路19が、圧力発生室12の各々に対応して独立して設けられている。この供給路19は、第2マニホールド部18と圧力発生室12とを連通する。すなわち、供給路19は、第1の方向Xに並設されている。
【0027】
ここで、図5及び図6に示すように、本実施形態の圧力発生室12は、連通するノズル開口21からインク滴の吐出に用いられる吐出用圧力発生室12Aと、連通するノズル開口21からインク滴の吐出に用いられないダミー圧力発生室12Bとに分けられる。なお、インク滴の吐出に用いられないダミー圧力発生室12Bとは、紙や記録シート等の被噴射媒体にインク滴を着弾させて文字や画像を形成する、所謂、印刷に用いられないものを言う。すなわち、印刷には吐出用圧力発生室12Aに連通するノズル開口21から吐出されたインク滴が用いられる。ちなみに、印刷に用いなければ、つまり、被噴射媒体にインク滴を着弾させなければ、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21から圧電アクチュエーター300の駆動によりインク滴を吐出させてもよい。なお、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21からは、クリーニング時のインクの排出が行われる。ちなみに、クリーニングとは、インク滴の吐出、所謂、フラッシングや、ノズル開口21をキャップで覆い、キャップ内を吸引ポンプ等で負圧にすることによってノズル開口21からダミー圧力発生室12B及びマニホールド100内のインクを気泡やゴミ等の異物と共に吸引する吸引クリーニング等が挙げられる。
【0028】
本実施形態では、第1の方向Xに並設された圧力発生室12のうち、第1の方向Xの両端部側に設けられた1以上の圧力発生室12をダミー圧力発生室12Bとし、それ以外の圧力発生室12を吐出用圧力発生室12Aとした。また、本実施形態では、ダミー圧力発生室12Bを第1の方向Xの両端部のそれぞれに4個ずつ、合計8個設けるようにした。
【0029】
このような圧力発生室12とマニホールド100とを連通する供給路19は、上述のように第1の方向Xに直線状に並設されている。そして、図4図7に示すように、供給路19は、第1凹部181の底面に開口して設けられている。このように吐出用供給路19Aを第1凹部181の底面に開口させることで、図4及び図5に示すように、マニホールド100と吐出用圧力発生室12Aとを連通する吐出用供給路19Aの流路長を長く確保することができる。このように、吐出用供給路19Aを第1凹部181の底面に開口させることで、吐出用供給路19Aの長さを第2凹部182の深さに左右されることなく、必要な長さを適切に設定することができる。すなわち、吐出用供給路19Aの長さを確保して、吐出用供給路19Aの圧力損失を低減して、吐出効率を向上することができる。ちなみに、吐出用供給路19Aにおける圧力損失は、吐出用供給路19Aの開口径と長さによって決まるものであるが、開口径の小径化は技術的に限界がある。このため、吐出用供給路19Aの開口径によって吐出効率が足りない場合には、長さを確保して吐出効率を向上する必要がある。本実施形態では、吐出用供給路19Aを第2凹部182よりも浅い第1凹部181の底面に開口させることで、吐出用供給路19Aの開口径の小径化が困難であっても、長さを確保して、吐出効率を向上させることができる。また、吐出用供給路19Aが開口する第1凹部181よりも深い第2凹部182を設けることで第2マニホールド部18の容積を確保することができ、第2マニホールド部18における圧力損失を低減して、吐出効率を向上することができる。そして、このような構成を採用することにより、連通板15の第3の方向Zの厚さが薄くなる傾向にあっても、吐出用供給路19Aの長さ及び第2マニホールド部18の深さ(第2凹部182の深さ)の確保を両立させることができるので、インク吐出特性等を低下させることなく、すなわち、吐出特性に影響を及ぼすことなく記録ヘッド1の小型化を図ることができる。
【0030】
そして、本実施形態では、図6に示すように、傾斜面183を構成する第2傾斜面183bの第1の方向Xにおけるピッチdは、供給路19のピッチdよりも小さい(d<d)。ちなみに、傾斜面183における気泡排出性は、第1の方向Xのインク速度、インク物性、第2傾斜面183bのピッチdにより決定される。なお、ピッチdとは、第1の方向Xで互いに隣り合う第2傾斜面183bの中心間の距離のことであり、ピッチdとは、第1の方向Xで互いに隣り合う供給路19の中心間の距離のことである。
【0031】
このように、第2傾斜面183bのピッチdを供給路19のピッチdよりも小さくすることで、図8に示すように、傾斜面183において第1の方向Xに移動する気泡200の引っかかりを抑制して、気泡200を傾斜面183に沿って第1の方向Xに移動し易くすることができる。すなわち、マニホールド100内のインクに含まれる気泡200は、第2凹部182の底面(鉛直方向における天井面)において傾斜面183に沿って第1の方向Xに移動して、ダミー用供給路19Bに到達し易い。したがって、マニホールド100内のインクに含まれる気泡200は、ダミー用供給路19B及びダミー圧力発生室12Bを介してノズル開口21から排出され易く、気泡排出性を向上することができる。また、インクに含まれる気泡200が吐出用供給路19Aから吐出用圧力発生室12Aに侵入するのを抑制することができるため、吐出用圧力発生室12Aに侵入した気泡200が排出されずに滞留することによるインク滴の吐出不良を抑制することができる。
【0032】
ちなみに、供給路19のピッチdは、ノズル開口21のピッチに合わせて形成されたものであり、ノズル開口21が300dpiの場合には、供給路19のピッチdは約84.7μmとなる。これに対して、第2傾斜面183bのピッチdとしては、84.7μmよりも小さなピッチであればよく、例えば、ノズル開口21が600dpiの場合のピッチ、すなわち、約42.4μm以下であるのが好ましく、1200dpiの場合のピッチ、すなわち、約21.3μmが好適である。このように、第2傾斜面183bのピッチdを約42.4μm以下、好ましくは21.3μm以下とすることで、傾斜面183の第2の方向Yへの出っ張りが小さくなるため、傾斜面183において気泡200が引っかかることなく、気泡200を第1の方向Xに移動させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、ダミー用供給路19Bを供給路19の並設方向である第1の方向Xの両端部のそれぞれに設けるようにしたが、特にこれに限定されず、ダミー用供給路19Bの位置は特に限定されるものではない。ダミー用供給路19Bが何れの位置に配置されていても、傾斜面183に沿って気泡200がダミー用供給路19Bに向かって移動し易く、気泡排出性を向上することができる。もちろん、ダミー用供給路19Bの数、すなわち、ダミー圧力発生室12Bの数も特にこれに限定されず、1つであってもよく、2以上の複数であってもよい。
【0034】
なお、吸引クリーニングを全てのノズル開口21に対して行った場合について説明したが、もちろん、吸引クリーニングをダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21のみに対して行うようにしてもよい。つまり、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21のみから吸引動作を行う吸引手段を具備するようにしてもよい。吸引手段としては、液体噴射面20aに当接してノズル開口21を覆うキャップと、キャップ内を吸引して負圧にする吸引ポンプ等の吸引装置とを具備する従来周知のものを用いることができる。ちなみに、吸引手段がダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21のみを吸引する場合には、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21のみを覆うキャップを用いればよい。また、キャップが全てのノズル開口21を覆う場合には、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21以外を閉塞する閉塞手段等をさらに設ければよい。このように、ダミー圧力発生室12Bに連通するノズル開口21のみから吸引クリーニングを行った場合であっても、気泡200を傾斜面183に沿って第1の方向Xに移動させ易くして、ダミー用供給路19Bからインクの気泡の排出を効率よく行うことができる。また、本実施形態では、ダミー用供給路19Bを供給路19の並設方向である第1の方向Xの両端部にそれぞれ設けるようにした。このため、マニホールド100内において気泡の滞留し易い第1の方向Xの両端部の気泡をダミー用供給路19Bから排出することができ、気泡の滞留をさらに抑制することができる。
【0035】
さらに、第1凹部181と第2凹部182との間に傾斜面183を設けるようにしたため、傾斜面183と第2凹部182の底面とがなす角度を鈍角とすることができる。したがって、この傾斜面183と第2凹部182の底面との間の角部のインクの流れを向上して、角部における気泡の滞留を抑制することができる。なお、本実施形態では、第1凹部181も異方性エッチングによって形成したため、第1凹部181と連通板15のノズルプレート20が接合される面との間にも傾斜面183と同様の傾斜面が形成されている。この第1凹部181と連通板15のノズルプレート20が接合される面との間の傾斜面のピッチについては、傾斜面183と同様のピッチであってもよく、供給路19と同様のピッチであってもよい。
【0036】
このような連通板15のZ1側に接合されたノズルプレート20には、各圧力発生室12とノズル連通路16を介して連通するノズル開口21が形成されている。すなわち、ノズル開口21は、同じ種類の液体(インク)を噴射するものが第1の方向Xに並設され、この第1の方向Xに並設されたノズル開口21の列が第2の方向Yに2列形成されている。
【0037】
一方、図3図5に示すように、流路形成基板10のZ1側の面側には、振動板50が形成されている。本実施形態では、振動板50として、流路形成基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51上に設けられた酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜52と、を設けるようにした。なお、圧力発生室12等の液体流路は、流路形成基板10を一方面側(ノズルプレート20が接合された面側)から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力発生室12の他方面は、弾性膜51によって画成されている。
【0038】
また、流路形成基板10の振動板50上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが成膜及びリソグラフィー法によって積層されて圧電アクチュエーター300を構成している。本実施形態では、圧電アクチュエーター300が圧力発生室12内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段となっている。ここで、圧電アクチュエーター300は、圧電素子300ともいい、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。また、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際に、圧電体層70に圧電歪みが生じる部分を能動部310と称する。本実施形態では、詳しくは後述するが、圧力発生室12毎に能動部310が形成されている。つまり、流路形成基板10上には複数の能動部310が形成されていることになる。そして、一般的には、能動部310の何れか一方の電極を複数の能動部310に共通する共通電極とし、他方の電極を能動部310毎に独立する個別電極として構成する。本実施形態では、第1電極60を個別電極とし、第2電極80を共通電極としているが、これを逆にしてもよい。なお、上述した例では、振動板50及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、振動板50を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電アクチュエーター300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0039】
ここで、本実施形態の圧電アクチュエーター300を構成する第1電極60は、圧力発生室12毎に切り分けてあり、圧電アクチュエーター300の実質的な駆動部である能動部310毎に独立する個別電極を構成する。この第1電極60は、圧力発生室12の第1の方向Xにおいては、圧力発生室12の幅よりも狭い幅で形成されている。すなわち、圧力発生室12の第1の方向Xにおいて、第1電極60の端部は、圧力発生室12に対向する領域の内側に位置している。また、第2の方向Yにおいて、第1電極60の両端部は、それぞれ圧力発生室12の外側まで延設されている。
【0040】
圧電体層70は、第2の方向Yが所定の幅となるように、第1の方向Xに亘って連続して設けられている。圧電体層70の第2の方向Yの幅は、圧力発生室12の第2の方向Yの長さよりも広い。このため、圧力発生室12の第2の方向Yでは、圧電体層70は圧力発生室12の外側まで設けられている。
【0041】
圧力発生室12の第2の方向Yにおいて、圧電体層70の供給路19側の端部は、第1電極60の端部よりも外側に位置している。すなわち、第1電極60の端部は圧電体層70によって覆われている。また、圧電体層70のノズル開口21側の端部は、第1電極60の端部よりも内側(圧力発生室12側)に位置しており、第1電極60のノズル開口21側の端部は、圧電体層70に覆われていない。
【0042】
圧電体層70は、第1電極60上に形成される分極構造を有する酸化物の圧電材料からなり、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物からなることができ、鉛を含む鉛系圧電材料や鉛を含まない非鉛系圧電材料などを用いることができる。
【0043】
このような圧電体層70には、各隔壁に対応する凹部71が形成されている。この凹部71の第1の方向Xの幅は、各隔壁の第1の方向Xの幅と略同一、もしくはそれよりも広くなっている。これにより、振動板50の圧力発生室12の第2の方向Yの端部に対向する部分(いわゆる振動板50の腕部)の剛性が押さえられるため、圧電アクチュエーター300を良好に変位させることができる。
【0044】
第2電極80は、圧電体層70の第1電極60とは反対面側に設けられており、複数の能動部310に共通する共通電極を構成する。また、第2電極80は、凹部71の内面、すなわち、圧電体層70の凹部71の側面内に設けるようにしても良く、設けないようにしてもよい。
【0045】
また、圧電アクチュエーター300の第1電極60からは、引き出し配線である個別配線91が引き出されている。また、第2電極80からは、引き出し配線である共通配線92が引き出されている。さらに、個別配線91及び共通配線92の圧電アクチュエーター300に接続された端部とは反対側の延設された端部には、フレキシブルケーブル120が接続されている。フレキシブルケーブル120は、可撓性を有する配線基板であって、本実施形態では、駆動素子である駆動回路121が実装されている。
【0046】
このような流路形成基板10のZ1側の面側には、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、圧電アクチュエーター300を保護するための空間である保持部31を有する。保持部31は、第1の方向Xに並設された圧電アクチュエーター300の列の間に第2の方向Yに2つ並んで形成されている。また、保護基板30には、第2の方向Yで並設された2つの保持部31の間に第3の方向Zに貫通する貫通孔32が設けられている。圧電アクチュエーター300の電極から引き出された個別配線91及び共通配線92の端部は、この貫通孔32内に露出するように延設され、個別配線91及び共通配線92とフレキシブルケーブル120とは、貫通孔32内で電気的に接続されている。なお、個別配線91及び共通配線92と、フレキシブルケーブル120との接続方法は、特に限定されず、例えば、ハンダ付けやろう付けなどのろう接や、共晶接合、溶接、導電性粒子を含む導電性接着剤(ACP、ACF)、非導電性接着剤(NCP、NCF)等が挙げられる。
【0047】
また、保護基板30上には、複数の圧力発生室12に連通するマニホールド100を流路形成基板10と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されると共に、上述した連通板15にも接合されている。具体的には、ケース部材40は、保護基板30側に流路形成基板10及び保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。この凹部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に流路形成基板10等が収容された状態で凹部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。これにより、流路形成基板10の外周部には、ケース部材40と流路形成基板10とによって第3マニホールド部42が画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、ケース部材40と流路形成基板10とによって画成された第3マニホールド部42と、によって本実施形態のマニホールド100が構成されている。マニホールド100は、圧力発生室12の並設方向である第1の方向Xに亘って連続して設けられており、各圧力発生室12とマニホールド100とを連通する供給路19は、第1の方向Xに並設されている。
【0048】
また、連通板15の第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が開口するZ2側の面には、コンプライアンス基板45が設けられている。このコンプライアンス基板45が、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18の液体噴射面20a側の開口を封止している。このようなコンプライアンス基板45は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜46と、金属等の硬質の材料からなる固定基板47と、を具備する。固定基板47のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。
【0049】
なお、ケース部材40には、マニホールド100に連通して各マニホールド100にインクを供給するための導入路44が設けられている。また、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通してフレキシブルケーブル120が挿通される接続口43が設けられている。
【0050】
このような記録ヘッド1では、インクを噴射する際に、インクを導入路44から取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで流路内部をインクで満たす。その後、駆動回路121からの信号に従い、吐出用圧力発生室12Aに対応する各能動部310に電圧を印加することにより、能動部310と共に振動板50をたわみ変形させる。これにより、吐出用圧力発生室12A内の圧力が高まり所定のノズル開口21からインク滴が噴射される。
【0051】
ここで、連通板15における供給路19及び第2マニホールド部18の形成方法について、図9図15を参照して説明する。なお、図9図15は、連通板の製造方法を示す断面図である。
【0052】
まず、図9に示すように、連通板15となるシリコン単結晶基板である基材150の表面に第1マニホールド部17となる部分に開口部152を有するマスク151を形成する。このとき、第2凹部182が形成される領域と、第1凹部181が形成される領域のマスク151をハーフエッチングすることにより段階的に薄くする。これにより、後の工程でマスク151の厚さを減らすことで、第1凹部181が形成される領域及び第2凹部182が形成される領域が段階的に開口するようにする。また、マスク151には、供給路19が形成される領域に開口部155を形成する。
【0053】
次に、供給路19を形成する。本実施形態では、図10に示すように、供給路19となる下穴191を形成した後、後の工程で基材150を異方性エッチングして第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18等を形成する際に同時にエッチングすることで供給路19を形成した。なお、下穴191は、レーザー加工、ドライエッチング、サンドブラスト加工等によって形成することができる。
【0054】
次に、図11に示すように、基材150をKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチングすることにより、第1マニホールド部17の深さの一部を形成する。すなわち、ここでは、第1マニホールド部17の深さを完全に形成することなく、その一部のみを形成する。
【0055】
次に、図12に示すように、マスク151の厚さを薄くする。これにより、第2凹部182が形成される領域に開口部153が形成される。
【0056】
次に、図13に示すように、基材150を異方性エッチングすることにより、第2凹部182の深さの一部を形成する。また、同時に基材が異方性エッチングされることにより、第1マニホールド部17の深さの一部も形成される。
【0057】
次に、図14に示すように、マスク151の厚さを薄くする。これにより、第2凹部182が形成される領域に加えて第1凹部181が形成される領域も開口する開口部154を形成する。
【0058】
次に、図15に示すように、基材150を異方性エッチングすることにより、第1凹部181と第2凹部182とを有する第2マニホールド部18を形成する。すなわち、この工程では、第1凹部181を形成すると同時に第2凹部182の残りを形成する。また、第1マニホールド部17が完全に形成される。
【0059】
以上の工程によって連通板15に供給路19と、第1凹部181及び第2凹部182を有する第2マニホールド部18と、第1マニホールド部17とが形成される。なお、ノズル連通路16は、上述した供給路19を形成する工程で同時に形成するようにしてもよく、他の工程で形成するようにしてもよい。
【0060】
このように、連通板15の基材150は、表面の結晶面方位が{110}面のシリコン単結晶基板からなるため、第1凹部181及び第2凹部182の底面は{110}面で形成される。また、第1凹部181と第2凹部182との間の傾斜面183は、(エッチングレートの大きい)任意の面である第1傾斜面183aと、第3の{111}面である第2傾斜面183bとで形成される(図8参照)。したがって、傾斜面183を別途形成する工程が不要となり、コストを低減することができる。
【0061】
(実施形態2)
図16は、本発明の実施形態2に係る連通板の平面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0062】
図16に示すように、本実施形態の連通板15には、供給路19として、吐出用供給路19Aと、ダミー用供給路19Bとが設けられている。
【0063】
本実施形態のダミー用供給路19Bは、供給路19の第1の方向Xにおいて、両端部のそれぞれに設けられている。また、ダミー用供給路19Bのピッチdは、吐出用供給路19Aのピッチdよりも大きい(d>d)。このため、ダミー用供給路19Bからノズル開口21までの流路の断面積を大きくすることができる。すなわち、隣り合うダミー用供給路19Bのピッチdを大きくすることで、隣り合うダミー用供給路19Bの間にスペースを確保することができる。したがって、ダミー用供給路19Bの開口径を大きくすることができる。また、ダミー用供給路19Bに連通するダミー圧力発生室12Bのピッチもダミー用供給路19Bに合わせて大きくすれば、ダミー用供給路19Bの開口径に関わらずダミー圧力発生室12Bの横断面積を大きくすることができる。同様に、ノズル連通路16の横断面積も大きくすることができると共に、ノズル開口21も大きくすることができる。すなわち、ダミー用供給路19Bのピッチdを大きくすることで、それに連通するダミー圧力発生室12B、ノズル連通路16及びノズル開口21などの流路のピッチも大きくすることができる。つまり、ダミー用供給路19Bのピッチdを大きくすることで、ダミー用供給路19B、ダミー圧力発生室12B、ノズル連通路16及びノズル開口21から選択される少なくとも1つの横断面積を大きくすることができる。これによりダミー用供給路19Bからノズル開口21までの流路抵抗を、吐出用供給路19Aからノズル開口21までの流路抵抗に比べてさらに低減することができ、気泡排出性をさらに向上することができる。
【0064】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0065】
例えば、上述した各実施形態では、ダミー用供給路19Bを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、マニホールド100に開口すると共に、外部に開口する排出路を別途設けるようにしてもよい。また、排出路は、マニホールド100とインクタンク等の液体貯留手段とを循環する循環路の一部を構成するものであってもよい。このような排出路を、傾斜面183の近傍に配置することで、気泡200を傾斜面183に沿って効率よく移動させて排出路から排出させることができ、気泡排出性を向上させることができる。
【0066】
また、上述した各実施形態では、ダミー圧力発生室12B及びダミー用供給路19B等を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、ダミー圧力発生室12B及びダミー用供給路19B等を設けなくてもよい。すなわち、全ての圧力発生室12がノズル開口21からインク滴の吐出に用いられる吐出用圧力発生室12Aとしてもよい。このような場合であっても、マニホールド100内において気泡200を傾斜面183に沿って第1の方向Xに移動させて気泡200を成長させることができ、成長した気泡200をインクによって押し流させて排出し易くすることができる。
【0067】
また、上述した各実施形態では、傾斜面183を互いに角度の異なる第1傾斜面183aと第2傾斜面183bとで構成したが、特にこれに限定されず、例えば、第1傾斜面183a及び第2傾斜面183bと角度の異なる第3傾斜面を有するものであってもよい。すなわち、傾斜面183は、少なくとも第1傾斜面183aと第2傾斜面183bとを有するものであれば、3つ以上の角度の異なる傾斜面を有するものであってもよい。
【0068】
さらに、上述した各実施形態では、連通板15として、表面の結晶面方位が{110}のシリコン基板を用いて、第2マニホールド部18を異方性エッチングによって形成したが、特にこれに限定されず、例えば、連通板15として、結晶面方位が{100}面のシリコン基板であってもよく、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。また、第2マニホールド部18の形成方法も異方性エッチングに限定されず、例えば、ドライエッチング、機械加工等であってもよい。
【0069】
また、上述した各実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電アクチュエーター300を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0070】
このような記録ヘッド1は、インクジェット式記録装置Iに搭載される。図17は、本実施形態のインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0071】
図17に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、記録ヘッド1は、液体供給手段を構成するカートリッジ2が着脱可能に設けられ、この記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
【0072】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車および・BR>^イミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッド1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
【0073】
また、上述した例では、インクジェット式記録装置Iは、インク供給手段であるカートリッジ2がキャリッジ3に搭載された構成であるが、特にこれに限定されず、例えば、インクタンク等の液体供給手段を装置本体4に固定して、液体供給手段と記録ヘッド1とをチューブ等の供給管を介して接続してもよい。また、液体供給手段がインクジェット式記録装置に搭載されていなくてもよい。
【0074】
さらに、上述したインクジェット式記録装置Iでは、記録ヘッド1がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録ヘッド1が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0075】
また、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置Iを挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
I…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、1…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、2…カートリッジ、10…流路形成基板(基板)、11…隔壁、12…圧力発生室、12A…吐出用圧力発生室、12B…ダミー圧力発生室、15…連通板、16…ノズル連通路、17…第1マニホールド部、18…第2マニホールド部(凹部)、19…供給路、19A…吐出用供給路、19B…ダミー用供給路、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、40…ケース部材、45…コンプライアンス基板、50…振動板、60…第1電極、70…圧電体層、71…凹部、80…第2電極、91…個別配線、92…共通配線、100…マニホールド、120…フレキシブルケーブル、121…駆動回路、181…第1凹部、182…第2凹部、183…傾斜面、183a…第1傾斜面、183b…第2傾斜面、300…圧電アクチュエーター(圧電素子)、310…能動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17